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【朝ドラ】ゲゲゲの女房でエロパロ【昭和のかほり】



1 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/05/05(水) 12:07:38 ID:wXoQLilw]
なさそうなので立ててみた

251 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 13:40:26 ID:437PY8tg]
シゲさん、娘相手にノロケはいけんわーwwwだがGJw

252 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 14:26:02 ID:stE15gS+]
今日、浦木が本持ってくるシーン>>179思い出してニヤニヤしてしまったww
>>250
GJ!お疲れ様です。
やかんの音ワラタww
茂=犬、ふみちゃん=猫だなw
2人ともカワエエ。でかいけどw

253 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 20:48:49 ID:fC8ZOH+P]
>>252
そして、

和枝「『妻の心得』もいいけど、あんまり神経質になる事ないよ。
   うちなんかオトコ3人、何から何まで全部違ったんだから」
靖代「(フハッ!)はね、参考書どおりにはいかないの。何かあったら
   うちらに聞きなさいよ。大概の事は経験してるんだから」
徳子「靖代さんの(フハッ!)経験じゃ ちょっと古いわよ」

ですね、わかりたくもありません。

254 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 04:29:37 ID:v4m2/6SD]
>>253
(フハッ!)にワロタw

子育ての、人生の先輩達から色々と学んだふみちゃんが
しげぇさんを喜ばせてくれる日は、そう遠くないだろうw

おとうちゃん・おかあちゃんになったけど
まだまだ二人のイチャコラが見たいぞー!щ(゚Д゚щ)クワッ

255 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 20:31:23 ID:DROTS3ul]
今日の放送分
切ないエアお雛様シーンなのに、不覚にもエアあーんに萌えてしまったorz

256 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 20:43:20 ID:SILcyyvC]
>>255
自分も恥ずかしながら夜、エア酔っ払いのおとうちゃんが「酔った酔った〜」とか言いながら
おかあちゃんの布団に潜り込むの想像してもた

257 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 22:20:13 ID:v4m2/6SD]
>>255>>256
ナカーマ達(・∀・)人(・∀・)ハケーン!
ほのぼのと言うにはあまりに切なくて
朝飯が喉を通らなかった…

>>256
おとうちゃんならマジでやりそうwww
てか、ソレすげー読みたい!!!
反対に、おかあちゃんが酔っ払ったフリして
おとうちゃんに甘えるのも良いなぁ…
おかあちゃん、いっつも頑張ってるんだもん…
たまには甘えさせてあげたいよ

258 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 11:12:18 ID:Q9dw2XJt]
179です。
本編の方はなにやら不穏な感じですが、
浦木騒動の続きを書きましたので空気読まず投下します。
糖分増量してみましたが、(フハッ!)には程遠く、
非エロの初初夫婦コントです。
よろしければ。

259 名前:夫の心得1 mailto:sage [2010/06/10(木) 11:13:27 ID:Q9dw2XJt]
ある日茂が外出から戻ると、布美枝が一心不乱に本を読んでいるところだった。
茂が入ってきたのにも気付かない。

「おい」
「はい!」
布美枝はとびあがった。

「か、帰っとられたんですか。
ああ、びっくりした。」
さりげなく後ろに本を隠すようにしている。
「お帰りなさい。」
少し顔を赤らめ、明らかに挙動不審だ。

女房と本、というとり合わせに、嫌な記憶が蘇った。
まさかと思いつつ、
「その本はなんだ。」
「あの、ちょっこし、美智子さんのところでお借りして…。」

―その手があったか!

浦木を追い返して済んだ気になっていたが、こんなところに思わぬ伏兵がいたとは。

「ちょっこし見せてみい。」
「でも…。」
布美枝はしばらく俊巡していたが観念したのか、茂の方に表紙を向けて本を差し出した。

「なんだこれは」
気の抜けた声が出た。
それは、乙女チックな装丁の、どうやら翻訳された小説のようだった。
「何だと思われとったんですか?」
「てっきり…こないだの浦木の本かと」
ほっとするあまり本音が出てしまう。
布美枝は気まずげに、
「実は…浦木さんの本も、美智子さんに仕入れてもらえるようたのんどったんです」

「!」

新たな攻撃に、茂は言葉もない。
「美智子さん、最初はとっても乗り気で、任せといて!と言っとられたんですが…。
でも結局、仕入れはしてもらえんかったんです。」

九死に一生である。



260 名前:夫の心得2 mailto:sage [2010/06/10(木) 11:14:44 ID:Q9dw2XJt]
それが、仕入れのできんかった理由を聞いてみたら、美智子さんものすごく言葉につまっとられて…
夫婦で協力して、とか、まずは水木先生に色々と教えてもらって、
とかよくわからないことをつぶやかれてました。
どげされたんでしょうね?」

「あーそれは、ほれ、あれだ。
あんたが楽しみにしとったから、きっと悪いと思われたんだろう。」
とぼけるしかないのが情けないが、伏兵はどうやらこちらの味方だったようだ。

「そげですね。
私があんまりがっかりしとるんで、美智子さんが代わりにこの本貸してくれたんです。
ふみえちゃんの好きそうな、ロマンチックな本なのよ、って。」
こみち書房の女将もうまく説明できず、さぞ困ったことだろう。
茂は噛み合わない二人のやりとりを想像して、おかしくなった。

「あっ、やっぱりわらっとられる。
ええ年して、恋愛小説で喜んでって。
だから隠れて読んどったのに…。」
「いや、そうでなくて」
また見当違いのことで口をとがらせている女房をごまかすために、
あわてて右手で細い肩を引き寄せた。

「恋愛小説くらい、いくらでも読んだらええ。
わしはそういう本にでてくる男みたいに、気の効いたことはいえんしな。」
布美枝は茂の心臓のあたりに頬をあて、しばらくじっと固まっていたが、やがてぽつりとつぶやいた。

「言うてくださっとりますよ。」
「え?」
「あなたの手が、言うてくださっとります。」
「手?」
布美枝は小さくうなずき、
「口では何も言われんけど、この手に触れられるたびに、
あなたの気持ちが伝わってくるような気がするんです。
ちゃんと大事に思って下さっとるって、わかっとりますから…。」
恥ずかしくなったのか、だんだん声が小さくなる。
押しつけられた顔が熱い。
「そげか」
「はい」
自分の手がそんなお喋りだとは知らなかった。

―しかし触れられるたびって、どんな場面のことをいっとるんだか。

この女房は、無意識に夫を煽っている事にも気付いていないのだろう。
お喋りな右手は、布美枝の背骨を辿っていく。
布美枝はびくりと跳ね上がり、顔を上げた。
「もお…ふざけんとって下さい。」
まっ赤な顔でこちらを見上げ、抗議してくる。
「いや、今もつたわっちょるかと思って」
笑いながら背を支える手に少し力をこめ、こつんと額を合わせた。

布美枝はもう何も言わず、じっとしている。
二人の吐息が混じりあう。

―甘いな。

茂は甘い吐息の源にそっと唇をよせた。


261 名前:夫の心得3 mailto:sage [2010/06/10(木) 11:15:56 ID:Q9dw2XJt]
「こんにちはー!皆様の浦木が参りましたよー!
あれっ?なんだなんだ、二人してこんな狭い部屋でそーんなに離れて座って!
相変わらず淡泊な夫婦だなあ〜!」

「い、いらっしゃい、浦木さん。」
「ん?奥さん顔が赤いですよ?
いけませんな〜、今は悪い風邪がはやっとりますからね〜。」

「…お前何しに来たんだ。二度と来るなと言っただろう。」
いつもの五割増しで茂から立ち上る怒気に、さすがの浦木も後ずさる。
「ええっと…そうそう!こないだの妻の心得!なかなか評判がよくてなー。第二弾を作ったん
だ!」
「第二弾?」
「その名も夫の心得だ!」
じゃーんとばかりに本をだした浦木の腕を、無言で掴んでいつものように放り出す。

「ちょっとまてって!
こんどは前回と趣向をかえて、口下手な夫に救いの手を!
ロマンチックな愛情表現の手法だぞ!」

一度閉められた扉から突然茂が顔を出した。

「この本はもらっとく」
浦木の掲げた本がひょいと取り上げられ、またしても鍵の閉まる無情な音が響く。

「ってええー!本だけ?俺は?
おかしいなー、俺としたことが最近負け続きだ…。
ま、ゲゲがあの本を気に入ったら漫画のページ使って宣伝させてやるからいいか…。」


その夜、閉めきられた仕事部屋では。
「浦木の頭は絶対膿んどるな…。
まず花を贈れ?次に片膝をついて、あ、愛してますと言えだとー!
だらっ!できるかっ!」
夫の心得を開いてみるも、とても自分には出来そうにない事ばかりで、
茂は頭をかきむしるのであった。

その頃襖を隔てた隣では、布美枝の読書も全く進んでいなかった。
「…昼間あげに言われとったけど、
うちの旦那さまは、自分がどんだけ甘いことやっとるか気付いとらんのだわ…。
あー心臓がもたーん!」
いろいろ思い出し、真っ赤な顔を本に伏せじたばたと照れる布美枝の前で、
一反木綿まで恥ずかしそうに身をくねらせていた。

オワリ

262 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 13:16:15 ID:+f6s8+uC]
(*^Д^*)

263 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 15:32:55 ID:+f6s8+uC]

「……ンー いいお天気…」
洗濯竿に並んだ洗濯物が風を抱いて揺れる。
洗濯籠を手に玄関に入ると、茂の仕事部屋から時折話し声が聞こえる。
「……でな、こいつはベトベトサンといって……」
布美枝がそっと仕事部屋を覗くと、茂が胡座の上に藍子を座らせ、自分の描いた絵を見せなが
ら、何やら話し掛けていた。
「でもな、こいつは悪い奴では無いぞ。そっと道を譲ってやると消えてしまうんだ…」
「 …アー、…ンーマ……」
「オー、そうか、わかるかー」
茂の話し掛けに相槌を打つ様に、藍子が声を出す。
“お父ちゃんったら… まだ藍子には分からないわよ …もしかして親バカ?”
そう思いつつも邪魔をしてはいけない気がして、少しの間、2人の掛け合いを静かに聞いていた。

264 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 22:18:07 ID:s34ckjAf]
こんな萌えスレがあったとは…皆様gj
きっと霊園遭難しかけたゲゲを温めるのはフミエさんの人肌

265 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 22:29:12 ID:BcPZfmua]
うp途中?(>>263)に割り込んではいけんと思ったけど
だいぶ時間あいてるし大丈夫かな


>>259-261
GJ!!!!!
セリフの1つ1つがそれぞれの声で完全脳内再生される!
萌えすぎてPCの前でゴロゴロ悶えてる自分キモスw

266 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 22:59:25 ID:E3aynYZd]
>>259
GJ!禿萌えたw
今日「テレビぴあ」で浦木が村井夫婦の前で紫の表紙の本を持ってる写真見て
「もしや妻の心得?」とニヤニヤしたばかりだw

夫の心得はちゃっかり貰う茂ワロスw
あと、主題歌の「♪繋がれた右手が〜まっすぐな思いを〜」の部分を思い出して
ジーンとしました。

267 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 00:02:32 ID:4qsINcZ4]
>>259
萌えた!!GJ
浦木がこんなに役に立つとは思わなかったわー

しかし最近、フミエがちょいちょい茂にくだけた口調になってきてるのが自然でいいなあ

268 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 00:36:25 ID:S9zy867A]
>>259
だんだん!浦木もナイスアシスト!

茂さん、左腕がないハンデを全く感じさせない人なんだ
夜のお喋りな右手の話もよろしくおながします

>>264
「いかん、お父ちゃん身体が冷えきっとる…」ですね分かります

269 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 01:14:48 ID:HBe82FOk]
クエスタで布枝さんにヒゲ剃られてる水木先生がちょっと映ってたね。いやーんいやーん、ううーっみたいな顔が可愛かったw
爪切りに続いて、あれもドラマでやらないかな。



270 名前:263 mailto:sage [2010/06/11(金) 06:53:16 ID:Ulqzw3/6]
近所で火事があって、停電しちょりました…orz

途中のデータも吹っ飛びましたorz またあとで投下します………

271 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 07:01:09 ID:oem//3Oa]
それは残念な!

投下待っちょります!!




272 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 09:32:50 ID:akbeBh0B]
ナ・ナンダッテー(AA略
まあ…お体ご無事で何より…データは勿体ないけど(´Д⊂)
でも>>263の作風、すごい好きだから
楽しみに待ってます!

273 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 20:17:00 ID:5FlBna6N]
このスレの見すぎなせいか
今日の放送分でローソクが消えてフミちゃんが星空眺めてる時
次の瞬間、ゲゲがフミちゃんを押し倒すシーンが脳内再生されたw

274 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 21:40:44 ID:GeEp6BPl]
ナカーマw
おお、ゲゲが押し倒す展開がくるのか!とちょっとwktkしちゃったぜ
あれはもう絶対に

ゲゲ押し倒す
「な、何するんです?お父ちゃん」
「ろうそくの火も消えてしまったけん、今日はもうオシマイだ」
「…ッあ、ちょ、ま、待って。ま、窓あいちょるんですよ!」
「どうせ隣は墓場だし、誰もきいちょらんだろ、いいから素直に横になっとけ」
「もうッお父ちゃんたら」

みたいな展開だとばっかり……


275 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 00:35:18 ID:/TXJYvXs]
おおおおお
ぴったりですなあw
出来たら続きなんかもよろしくおねがいしますだwww

276 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 01:08:19 ID:1WQ7YuMc]
いい感じになったところで、窓から
「私、大蔵省の者ですが…」

277 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 01:46:04 ID:UHUZvbs9]
邪魔するな大蔵省wしかし普段も貧乏神は部屋にいるし、じーっと見てそうだな。

278 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 03:03:52 ID:hVtNyP10]
しかし呼び名がお父ちゃんになったのがつくづく残念だ
二人の時だけはあなたに戻ってくれんかのぅ

279 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 05:15:25 ID:fHLDEfo7]
極貧でもアレだけ仲むつまじくいられるのは
夜の仕事が充実してるお陰だ。
金も無い娯楽と言えば、SEX以外ないでしょ。
39歳で絶倫ですな水木先生。
まあ腕っ節も強いみたいだし、漫画にはエロスを感じるし大人漫画では
露骨に勃起描写まである。
健全ですな。



280 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 09:23:23 ID:1U+qM67p]
>>278
ドウイ。
名前で呼び合うのは無理だとしても、
2人っきりのときは「あなた」「お前」って呼び合ってほしい。

281 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/13(日) 04:02:10 ID:Z9/dMDSd]
ゲゲゲ好きが高じて?初めて書きました。
藍子ちゃんも生まれて半年経っとるというのに、
今さらナンですが、初夜編を・・・。

282 名前:1 mailto:sage [2010/06/13(日) 04:04:17 ID:Z9/dMDSd]
今日、なのだろうと布美枝は思っていた。

戌井が帰ったあと、間借り人の中森も賄いに礼を言って二階へ戻っていった。
茂が風呂に入っている間に、布美枝は布団の準備をしていたが
その手は小刻みに震え、心ここに在らず、
心臓が喉から出てきそうなほどぎゅうぎゅう胸が高鳴った。

茂と結婚、東京に出てきて約半月。
締め切り締め切りと日々まともに話しさえできなかった。
布団を敷いておいても、朝起きると茂は仕事部屋で机に突っ伏しているか、
そのままごろりと横になって寝ているかのどちらかだった。
そんな中で、床を共にするなど当然なかった。
そういえば覚悟して臨んだ新婚初夜でさえ、
少しの間話はできたものの、
結局酔いつぶれた茂が眠ってしまって何事もなかったのだ。


しかし、今日、と布美枝は改めて思った。

よかれと思ってやった仕事部屋の掃除から、
茂の思わぬ不興を買ってしまい、布美枝はひどく落ち込んだ。
帰って来ない茂を待つ間、本当に不安で仕方がなかった。
が、戻ってきた茂から自転車をプレゼントされ、
二人で出かけ、初めて色々な話ができた。
布美枝は、茂という夫に少し近づけた気がしていた。

茂を追い立てていた原稿は上がり、
夫婦につかの間のやすらぎの時間ができたのである。


「あんたも入ってきたらええですよ」
「えっ!」

いつの間にか風呂から上がった茂が立っていて、布美枝は飛び上がった。

283 名前:2 mailto:sage [2010/06/13(日) 04:05:51 ID:Z9/dMDSd]
「あ、は、はいっ」

そそくさと出て行く布美枝を見送りながら、
茂は頭をぽりぽり掻いて、ちらりと布団に目を落とした。
やはり、今日、なのだろうと茂も思っていた。

親に強引に進められた結婚だったが、
結婚した以上はそれなりの生活があって然るべきなのだろう。
布美枝の「ここで暮らしていくんですけん・・・」の言葉が思い出される。

独りで居たこの家が、中森の同居はともかく、
少し賑やかになったのは間違いなく布美枝という存在の所業だ。
今日の深大寺の散策も、墓めぐりも
全部独りで楽しんでいたことなのだが、
二人で、というのも存外悪くないものだと思った。

締め切りも何とか乗り越えた。
明日からは富田のオヤジに頼まれた戦記物の漫画に取り掛からなければならない。
今夜くらいはゆっくり・・・
とまた、布団に目をやる。

「・・・」

また頭をぽりぽり掻きながら、茂は布団ではなく仕事机に向かった。
とりあえず布美枝が戻ってくるまで、次回作の案を練っておこうと思った。
そうしなければ、他の想像力にかきたてられ、
居ても立ってもいられなかった。

284 名前:3 mailto:sage [2010/06/13(日) 04:07:29 ID:Z9/dMDSd]
布美枝が緊張した足取りで風呂から戻ったとき、
茂は仕事机に向かって何やらブツブツ言いながら鉛筆を走らせていた。

ああ・・・。
この人はやはり仕事のことしか頭にないのだ・・・。
布美枝は少しがっかりした。
壊れるくらいに高鳴ってどうしようもない心臓を抱えて、
ひとり緊張していた自分に脱力していた。

小さくため息をついて、布美枝が長い髪から落ちる雫を丁寧にふき取っていると
茂が大きくクシャミをした。

「大丈夫ですか?半纏、着たらどげですか?」
「ああ、えっと」
「あ、こっちに」

居間に投げ出されてあった茂の大きな半纏を持って、
布美枝は茂の机に近づく。
机上のスケッチブックには飛行機や戦艦のラフスケッチがあった。

「・・・すごい!何も見んでもこげにキレイに描けるんですね!」

身を乗り出した布美枝に、茂もまんざらでもない風で
「まあ、描き慣れとりますけん」
「次に描く漫画ですか?」
「そげです。戦記物を頼まれました」
「戦記物・・・」
布美枝にはあまり漫画のことはよくわからなかったが、
引き続きスケッチブックに絵を生み出していく茂に、
心底感心して、しばらくその様子を見ていた。

すると茂がそのままの体勢で「・・・今日はすまんでしたね」とつぶやいた。

「怒鳴ったりして」
「そんな、あたしこそ、余計なことして」
「・・・」
「・・・」

会話が、途切れてしまった。

布美枝の心臓がまた、早鐘を鳴らし始める。

285 名前:4 mailto:sage [2010/06/13(日) 04:08:54 ID:Z9/dMDSd]
仕事机から布美枝に向き直った茂は、
ぎゅっと口を一文字に引き締めて俯いている布美枝に、
どう声をかけようか、しばし戸惑った。

どう考えても、この女房は29年間男を知ることがなかったわけで。
そして、やはり自分と同じように、
今日がその日なのだろうと思っていて、自分なりに覚悟を決めているようで。

「緊張」を全身で物語っていて、少し可笑しくなった。

「ははっ」
「・・・えっ?」
「や、ずいぶん肩に力が入っとると思って」
「え・・・え、や、えっと」

真っ赤になった布美枝の左腕を軽く掴んで、
茂はそっと、唇を近づけた。

とたんに布美枝ははっとして、急いで俯いた。

茂の唇は目的地ではなく、布美枝の額に、落ちた。

「・・・」
「あっ、す、すんません!」

さっきよりさらに真っ赤になって額を押さえる布美枝を見ながら
茂ははははっと笑った。
それから、少し、また沈黙があった。

沈黙を破ったのは、意を決したかのような布美枝の声だった。


286 名前:5 mailto:sage [2010/06/13(日) 04:10:02 ID:Z9/dMDSd]
「あ、あの、あたし!・・・その、なんも、わからんのです。どげしたらええのか・・・」
「・・・」
「女房ですけん、その、コトは、ちゃんとせんと、と思うんですけど、
 いざ、となると・・・どげな顔して、どげしたらええのか・・・」

だんだん小さくなる声と、だんだん小さくなっていく身体、を
茂はそっと近づいて、右腕で抱き寄せた。
電信柱の面影もすっかりなく、布美枝はすっぽり茂の腕に収まった。
どき、どき、どき、どき
声はもう、出ない。
すると茂の落ち着いた声が、布美枝の背中から聞こえた。

「まだ半月ですけん、嫌なら嫌、と言うてくれたらええです」
「え・・・」

そして、抱き寄せる手を離し、体勢を元に戻すと、布美枝をじっと見つめた。
布美枝はそんな茂をしばらく見ていたが、慌てて俯いてしばらく黙っていた。
が、やがてかすれた小さな声で

「いや・・・じゃ・・・ない、で、す」

その言葉に押されるように、茂の右手が布美枝の長い髪を撫で、
ゆっくり、顔を近づけてきた。
布美枝はもう俯くことなく、茂の唇を自分のそれで受け止めた。

触れる。一度。
二度目。
角度を変えて、三度目。

少し離れたあと、今度は頬に。
そしてまぶた、鼻、反対の頬。そして、四度目の唇。

鼓動が尋常でないほど音を鳴らすので、
布美枝は息苦しくなって「はっ」と喘息した。
その瞬間を、茂は待っていたかのように逃さなかった。

開いた口のわずかな隙間から、舌を割り込ませる。
布美枝はびっくりして思わず茂から身体を離そうとしたが、
茂の腕ががっちりとそれを止めて、深い口づけを続けた。

287 名前:6 mailto:sage [2010/06/13(日) 04:11:40 ID:Z9/dMDSd]
やがて唇は離れたが、布美枝はぼーっとしてしまっていた。
絡まった舌の感触がまだ残っている。
そんな布美枝を見て、茂はぽりぽり頭を掻いて、
居間に敷いてあった布団を一組、ずるずると仕事部屋に引っ張ってきた。

襖を閉めると、後ろから布美枝を抱きしめた。

はっとした布美枝はまた肩に力をこめたが、
今度はその肩あたりに茂の唇が降りてきて、また脱力する。

長い髪をよけ、首筋からゆっくり肩にかけて舌を這わした。
布美枝はぞくっと身震いをする。
その間、茂の右手は布美枝の寝巻きの帯をゆるめ、
合わせ目からそっと寝巻きの中へ進んでいく。

ふたつの丘陵のうちひとつを揺さぶると、布美枝の口から息がもれる。
その先端をすこし弄んでみると、また恥ずかしそうに嘆息した。

二人はゆっくり身体を布団に沈めていった。
茂は左肩で身体を支え、右手は布美枝の左胸を、口で右胸を愛撫した。
布美枝は初めての感触に緊張もしたが、やがてその快感に酔いしれていく。

布美枝が閉じていた目をそっと開けると、自分の胸に吸い付く茂の顔が見えた。
また鼓動が一段と大きく跳ねた。
するとその茂と目が合い、まるで「見るな」とでも言う風に、
また深い口づけをされた。
息が、できないほどの。

「はっ、は・・・ぁ」

絡む舌、揉みしだかれる胸、
ふと、腿のあたりに当たる硬い感触。
布美枝の心臓はまた何度目かの跳躍をした。

288 名前:7 mailto:sage [2010/06/13(日) 04:12:25 ID:Z9/dMDSd]
まるで邪魔者のように、茂は自らの寝巻きを脱ぎ捨てた。
実家の兄や弟の裸でさえまともに見たことがなかったけれど、
こうも男の身体とは美しいものなのか、と布美枝は思った。

残念ながら、左肩のすこし先からはぽっかりと空間になっていたけれど、
分厚い胸板と、太い右腕、くっきり浮かぶ鎖骨。
このままうっとり見ていたかったが、またしても「見るな」という口づけ。

何度も受けていると慣れてくるもので、布美枝もその口づけに応戦していると、
今度は茂の手が布美枝の内腿をなで上げ、そして秘所へと向かっていく。

恥ずかしさにあせる布美枝は、茂の肩を全力で押し上げてみたがびくともしない。
茂の中指が下着の上から布美枝の割れ目を確認し、
そして次の瞬間には下着の中に手を入れ、直に攻めてきた。

「やっ・・・!」

さすがに抵抗した布美枝だったが、茂の指は入り口を探し当て、そっと入り込んでくる。
中を確かめるように蠢く指に、布美枝は背中をのけぞらせた。
「あっ・・・ぃや・・・」
遮るように茂の唇に布美枝の声が吸収された。

鼻からもれる、布美枝の声にならない声と、
布美枝の泉から聞こえてくるクチュ、クチュ、という音。
時折、茂がもらす息苦しそうな喘息。

しんとした冷たい部屋に、それだけの音がしばらく続いた。

289 名前:8 mailto:sage [2010/06/13(日) 04:29:35 ID:Z9/dMDSd]
どのくらいそうしていたか、やおら茂が上体を起こし、
布美枝の脚に手をおいてそっと開かせた。
布美枝はどきりとして、ぱっと脚を閉じたが、
それを見た茂が、今度はそっと、一度目のときのような口づけをしてきた。

唇を離した茂は、少し困ったような表情をしていた。
布美枝は伺うように茂を見つめる。

「・・・ええか?」

小さくうなずいた。布美枝は目を閉じて、茂に任せるしかなかった。

やがて、ぎゅっ・・・と。

布美枝の茂みを分け入って、茂自身が入ってきた。

「いっ・・・!」

先ほどまで遊ばれていた指とは比較にならないほどの大きさのものが、
布美枝の中に入ってこようとする。痛みが、走る。

茂の背中に必死にしがみついて、布美枝は痛みに耐えた。
ゆっくり、確実に進んでくる茂自身を感じながら。
その間も、茂は布美枝のまぶたや耳に、口づけをくれた。
まるで労うように・・・。


やがて、ぴたり、と茂の動きが止まり、ふう、と息を吐いたのがわかった。

「全部、入ったけん」
「・・・あぁ・・・は、い」
「ちょっこし、動く」

言うなり、ゆっくり腰を動かし自身を抜き差しし始める。
また痛みのあまりに茂の肩を掴んで、涙目になった布美枝だったが
茂は優しくその涙を吸い取ってくれた。

「はっ・・・はっ、はあっ」
「あ・・・っ、あ・・・あ・・・」

動きに合わせて、二人の呼吸が重なっていく。
部屋には、火鉢の暖しかなかったが、二人はすでに熱に乱されていた。



290 名前:9 mailto:sage [2010/06/13(日) 04:55:30 ID:Z9/dMDSd]
やっと布美枝の痛みがやわらいできたころ、
「もう・・・終わる・・・」
茂が苦しそうにつぶやいた。

やがて、どくっと布美枝の中で茂が脈打ったのが分かった。

「はあ、はあ・・・」
「あぁ・・・はぁ・・・」

しばらく二人は折り重なって息を整えていたが、
茂が布美枝に軽く口づけると、そっとその身体を離した。

照れくさそうに、そそくさと寝巻きを回収する。
布美枝も脱がされて行方不明になっている寝巻きを探した。

「ああっ」
思わず、布美枝が叫んだ。

「え?」
茂がびっくりして振り返る。

「シーツが・・・」
見ると、うっすらシーツに血がにじんでおり、
二人の愛液がまざってびしゃびしゃになってもいた。
この様子だと、敷布団も被害にあっているであろうことは想像できた。


「どげしよう・・・換えがない・・・」
シーツも布団も、二組しかない。
寝巻きも羽織っただけの布美枝が呆然としていると
「ちっと狭いが、一組で寝たらええでなーですか」
「え・・・」
「寒いし、ちょうどええ」

にっこり笑う茂を見て、今さらながら布美枝はまた、
顔を真っ赤にして俯いてしまった。

その日の夜は、二人一組の布団で狭いながらも一緒に寝た。
布美枝は茂の右腕を枕に、幸せの中で眠りについた。

おわり


失礼しました・・・。

291 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/13(日) 09:12:31 ID:KeVO0vKd]
>>18
きゃぁぁ!最高に上手ですけん!ドキドキしちょ〜けん。またいろんなパターンで書いてごしない。だんだん!!

292 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/13(日) 12:55:23 ID:XGuOaT28]
>>290
実はリアルタイムで拝見していたのですが
PCの調子が悪く、すぐにレス出来ず失礼しました

やっぱり初夜編は萌えますねーw
読み応えがあり、すっごく良かったです!!
フミちゃんは勿論ですが、ゲゲもいっぱいいっぱいな所が素敵です♪♪

293 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/13(日) 15:27:28 ID:kOpw4w9W]
>>282-290 (*´Д`)乙!!

294 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/13(日) 15:55:12 ID:U5z1tIaB]
>>282
「今日は17:45まで退屈だ〜」と思いきや、職人様ktkr!
Sゲゲも良いが優しいゲゲもいいな〜
緊張しまくりのフミちゃんもカワユス
禿萌えました・・だんだん!

295 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/13(日) 22:16:48 ID:qnWbuYxi]
>>281
だんだん&GJ!
このクォリティで初めての小説?!凄いよマジで!

この頃はまだ茂が敬語なんだよなー懐かしス
やっぱり初夜は堪らん〜フミちゃんかわゆすぐる

296 名前:281 mailto:sage [2010/06/14(月) 00:13:00 ID:t0QfGmhb]

レス、ありがとうございます。
なんかすごい嬉しい。

調子のって、次回作を書いています。
もう少しなんですが、眠い。。。

完成したら、うpしますので、お目汚しください。



297 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/14(月) 01:03:05 ID:+F09kK1d]
はーい

まっちょります!

298 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/14(月) 16:00:29 ID:AIHWzZFj]
まだかなぁ

299 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/14(月) 21:13:56 ID:6dmUdXx8]
本スレ落ちてるからこっちに書く

祝☆20パーセント越えヽ(´ー`)ノ♪



300 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/14(月) 22:39:11 ID:x6iQbIOA]
祝20%越え!
沢山の人がゲゲとフミちゃんに萌えるといいよw

281さんまだだろうか?
ようやく規制解除したっぽいんで暇潰しがてら投下します

301 名前:寝坊之介さん1 mailto:sage [2010/06/14(月) 22:39:50 ID:x6iQbIOA]

「…もう…」
仕事部屋の戸口に仁王立ちした一反…、いや布美枝は口を尖らせていた。
ゆうべは何時まで起きていたのだろうか。
子守歌代わりにカリカリッとペン先の走る音が聞こえていた。
せめても戦士の休息を与えてやりたい、とは、思うのだが……
もうとっくに陽は天高く上がり、朝の洗濯物まで乾いた昼過ぎだ。

「このままではカラスが鳴くまで起きんわ…」
義母からも重々、茂は寝坊介だと聞いてはいた。
けれどそれは、安来の兄弟達が少年時代もそうだったから、
子供時代の昔話なのだろうと思っていた。が、
四十路近い大男が、酒で酔ったわけでもないのにこんな時間までぐーすかしているのは
如何にも体裁が悪い。

「うん。これではいけん」
ひとつ大きく頷いて気合いを込めると、大口開けて寝息を立てる茂の元にお膝した。

「あの…っ」
遠慮がちに肩を揺すったぐらいではびくともしない。
義母より手紙で直伝されたように声を張ろうとも思ったが、
「や…ご近所さんに聞こえたら…恥ずかしいわ…」と、うまくできない。
上掛けにした布団を一度巻くってはみたが、
大きな背を丸めて背を震わせるのが不憫で、またそっと掛け直してしまう。

「……はあ。うまくいかんことばかりだわ…」
新婚早々間借り人もいる奇妙な新生活。
慣れないことばかりの胸の内を話そうにも、旦那はいつも忙しくて……。
「……うぅん。きっと、私には…私のやり方がありますけん」
胸元に拳を握りしめて、内気さを掻き消すためもう一度気合いを入れた。

「起きて…、起きてごしない?」
いくら呼びかけても聞こえている様子もない。返ってくるのは盛大ないびきばかり。
聞こえていないのならば遠慮はいらないと、布美枝は布美枝なりに大胆に、
その耳元に唇を寄せた。

302 名前:寝坊之介さん2 mailto:sage [2010/06/14(月) 22:40:50 ID:x6iQbIOA]

「ほーら…昨夜から何も食べてませんけん、お腹も鳴いちょる頃でしょう?」
頭よりも先に腹が反応して、茂はぐぅと腹を鳴らした。
「美味しい美味し〜いすいとんが冷めますよー? 香ばしい焼き魚も身が硬うなってしまいます」
「…うーん…」
食欲への呼びかけが成功したのか、茂は寝返り打って眉をしかめた。

「あは。ほら、ちゃーんと顔洗って、それで……、え?」
急に視界が横倒しになり、布美枝は素っ頓狂に声を裏返らせた。
長い右腕に絡め取られるように引き倒されて、気付けば茂の腕の中。
遅れて事態を飲み込んだ途端、布美枝の頬は朱に染まった。

「……あ…あの……」
不意にいびきが途切れ、胸高鳴らせた布美枝の鼓動が聞こえてしまわないか心配になる。
しかし……
抱き枕でも抱えたように安定すれば、すぐにまた大いびきが上がった。

「……はぁ。ひと筋縄ではいかん人だ…。ね、もうほんとに起き…」
身を起そうとしても茂の腕に抱き寄せられたまま、身動きがとれない。
「あの…っ、あっ…痛たたた……」
無理に身をよじってみても、しっかと抱き包まれた腕の力が枷となり、
振りほどけそうにはなかった。

「ほんに…力の強い人なんだな…。もう、いい加減に起きてっ、起きてー!」
布美枝の願いもどこ吹く風。閉じた目蓋は一向に開く気配がない。
起こすことも、その腕から逃れることもできず、
ただじっと並んで横になっているしかなかった。

303 名前:寝坊之介さん3 mailto:sage [2010/06/14(月) 22:41:22 ID:x6iQbIOA]

「……。こんな間近でこん人の顔見たこと…なかったわ…」
大柄なのに丸顔で、こうして眠っている顔はどこかあどけなく映る。
だらしなく開いたままの口は無防備で、厚みのある唇を見上げた。
ちょっこし男前ではないか? と思うのは、女房の欲目だろうか。
「…何思うとるんだろ…私」
思わずくすくすと肩を揺らすと、ふと肩越しに視線を感じてた。

恐る恐る襖の戸口に目を向けると……
「! あ…っ」
「……あ…いや、そのぉ……お水を…。いや、いや…いいんです。スミマセン」
「な…中森さんっ。や、違うんですよ、あの…すんません…っ」
こんな恰好をしていたら誤解されてしまう。いや、すでに誤解はばく進中だ。
見られた布美枝も、見てしまった中森も真っ赤で、ただ茂だけが澄ました寝顔を晒している。
こんな時にばかりは、誤解を解く証拠のいびきが止んでしまった。

「あのっ…、お水でしたら…」
起き上がろうとしても茂の強固な腕から逃れることはできない。
「いえ、いえ! こ…これから出かける用事が…できました。
いや! 用事がありました、んで……夕方過ぎになりますので…では」
まるで「ごゆっくり」とでも気遣われたようで、布美枝は頭を抱えた。

パタパタと大慌てで玄関口を出ていく足音が遠のくまで、顔も上げられなかった。
「あちゃー……もぉっ」
こんな(布美枝にとっては)一大事だというのに、茂は今も夢の中。
「ほんっとに…こん人は大人物だわぁ…っ」
恨めしく睨み上げても効果はなく、布美枝は深く息をついた。

304 名前:寝坊之介さん4 mailto:sage [2010/06/14(月) 22:42:02 ID:x6iQbIOA]

「……一体…どげな夢の中におるんだろ…?」
普段から穏やかで大らかな人なのに、精根込めた作品は重厚で不思議な物語ばかりだ。
まだまだ知らないことばかりだと思うと、こんなにそばにいるというのに、
二人の間はどれだけ遠いのだろうかと、不安になる。

「……ぇ…」
「?」
むにゃむにゃと歪めた唇の端から、聞きなれた名前が毀れ落ちる。
「…ふみえ……」

寝息に掠れた声。
布美枝がびくりっと肩を上げて硬直すると、茂の腕がその輪郭を確かめるように動いた。

「な、な…」
なんて声を出すのだろう。
優しく響く茂の声に胸がきゅっと軋んだ。
面と向かってそんな風に呼びかけられたこともまだなくて、
不意打ちの呼びかけに耳まで熱くなる。

「…ん……、んん…?」
恐る恐る見上げると、屈強に閉じていた目蓋が薄く開いていた。
腕の中の布美枝をその手で、その目で確認すると、茂の口元が穏やかに笑む。
「……もう…そんな恰好…しとってか…」
「は…はい?」
軽笑いまで浮かべて、茂はうわ言のように途切れ途切れに呟いていた。
「あんた…着替えるん……早……て…、また脱が……大変…だ……な」

305 名前:寝坊之介さん5 mailto:sage [2010/06/14(月) 22:42:45 ID:x6iQbIOA]

「??? あの…起きて、ます? よね…?」
徐々に腕の力が弱まり、堅い枷からは解放されたが。
代わりにその腕が布美枝の身をなぞるように上下して、布美枝はどうしていいのか分からず、
不思議そうに茂の再び閉じた目蓋を見つめていた。
「……まだ…寝とぼけとるんだろうか…??」

感極まったかのように茂の深い吐息が漏れ、己の吐息に驚いたように、
その目蓋がゆっくりと開いた。
「……ん?」
口端の笑みが消え、茂はぱちくりと瞬きを繰り返す。

「ようやっと、お目覚めですか…?」
見開いた目は、さっきの寝ぼけた薄目とははっきりと違う。
目の前の布美枝、抱き寄せている自分の腕、そして煌々と陽の差す窓辺に視線を走らせて、
茂は言葉を失って「こ、こ、こ…」と言葉にならない驚きに喉を詰まらせた。

「おはようございます。朝ごは…いえ、もう、昼ごはんですね。冷めますよ?」
「お…おぉ、はい。すまんです」
慌てて腕を引っ込めると、起き上がりざまに横向いてしまった。
「私もお腹と背中がくっつきそうですよ。顔を洗ってきてごしない」
「あ…あぁ…はい。か、構わんと先に食べててくれていいですけん…」

ああ。もういつもの茂に戻ってしまった。
二人で過ごす日が浅いせいか、いつまでも「飯田家の娘さん」としか
思っていないのかと思うほど、よそよそしい口調。
「そうもいきません。旦那さんが寝とられるのに、先に食事なんて…」
「気遣うことはありません。夜も遅い稼業ですけん…」
夜、という言葉に何か夢の中でも思い出したのか。
茂は所在なさげに頭をぼりぼりと掻いてごまかした。
「? どげしました…か?」

306 名前:寝坊之介さん6 mailto:sage [2010/06/14(月) 22:43:29 ID:x6iQbIOA]

「あっ、いや。心配には及びません。……おかしな時間に寝ついたせいか…
ミョーな夢を見た…」
ブツブツと独りごちたのを、布美枝は聞き逃さない。
「どけな夢、見とったんですか?」
「え……。そ、れは……」
茂はブルブルとかぶりを振って、そんなこと、女子供には言えんとばかりに口を閉じた。

「なんだか、いーい夢やったんですよね? そげな寝顔しとりました」
そんな楽しげな夢に、自分も出ていたのかと思えば気になって仕方ない。
「は、はあ……、それはそれは極楽…で…。いや! 夢は、夢ですけん」
「気になりますー」
「あまり、覚えてなぁです…よ。さ、早くごちそうにありつきましょう」
そそくさと洗面に向かう茂の背で、布美枝は首を傾げていた。



卓袱台に向かい合って遅い朝食をとる間も、茂は物問いたげな布美枝の視線をちらり見て、
目を戻してはまたちらり見て……
そんな奇妙な沈黙に耐え切れず、肩で息をついた。

「……寝ぼけて、おかしなことしちょったようで…すまんでした」
「は? あ…いえ…。それは…ええんです」
今度は布美枝が目を俯かせて、肩腕にまだ残る茂の腕の感触に頬を染めた。
「へ? えぇのですか?」
「はい? あ、いえ…そー…いうわけじゃなくて…」

怒らせてしまったのかと思えば、すぐに朗らかな笑顔を見せる。
ころころ変わる布美枝の百面相に、茂は口元を緩ませた。

307 名前:寝坊之介さん7 mailto:sage [2010/06/14(月) 22:44:07 ID:x6iQbIOA]
「……いずれ、ちゃんと教えます…けん」
「はい?」
不意に贈り物の時計が時を告げて鳴り響く。もう三時になっていた。
「もうこんな時間か…。では、戦線復帰しますけん。そういうことで」
「あ…、あの……っ」
さっさと食事を済ませて仕事部屋に戻る背中は、すぐに襖の向こうに消えた。


布美枝はまだ半分も減っていない茶碗の中に目を落とし、ため息をもらす。
「…忙しい…人なんだな……」
寂しげに呟いた布美枝の声は、襖に閉ざされて掻き消えるほど心もとないものだった。


終わり   ヽ(◎)/ <次回、数ヵ月後「寝坊之進さま」に続く!

308 名前:281 mailto:sage [2010/06/14(月) 22:44:32 ID:t0QfGmhb]

281です。

本スレ本当に落ちてますね、なんでだろう。

ところで、次を投下しようと思ってます。
ちょっと事情があって日をまたぐ頃になりそうですが。

時系列に添っていってるので、
初夜編から約1ヶ月くらいは経っていると思われます。
浦木が「少年戦記の会」の看板を持ってきた日になります。

個人的にエロいのも好きなんですが、
ドラマ中の話をあれこれ広げるのが好きなので
エロの割合がエロパロ板にしては少ないのかな。
でもがんばって書きました。


309 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/14(月) 23:09:03 ID:HbGXw2H0]
>>300
おお初期の2人だ!GJ
掛け合いが初々しくて可愛くていいわー
茂、マニアックな夢見てそうだw



310 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/14(月) 23:09:25 ID:ybtufHZG]
>>301>>307 GJ!
新たな作品に今日も萌えさせて頂きました。

>>281さん

エロの割合が少なくても大丈夫ですよ〜
新たな作品の投下お待ちしちょります。

311 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/14(月) 23:47:54 ID:DV97JS5L]
>>301
だんだん
時系列的に言うと、深大寺(初夜)の前でつか?
生真面目なフミちゃん可愛い・・・

281タン
新作、超たのしみー!!!
夕べからずっとワクワク
頑張って起きてますです♪♪♪

312 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/15(火) 00:01:44 ID:mLf3EKn+]
>>301
職神様が降臨されとるー!だんだんです!
しげぇさんに振り回されちゃうふみちゃん可愛いー!
もう…可愛ゆすぎて胸が苦しいw
二人に対する職神様の愛情がヒシヒシと伝わってきますけん
次回作・続きも心底楽しみに待っちょります!

さて、もう一回読み直そうっとw

313 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/15(火) 00:04:32 ID:QkTqnYI5]
>>308
エロがなくても大歓迎ですけん!
二人がいれば、それだけで幸せ…
投下楽しみにしちょりますー頑張ってごしない!

314 名前:281 mailto:sage [2010/06/15(火) 01:15:15 ID:VctfIvgX]

281です。
やっとサッカー終わった。
では投下します。

>>301さん
寝言かわいくて萌え。。。
数ヶ月といわず、すぐに続き読みたいです!



315 名前:見えないけどあるもの1 mailto:sage [2010/06/15(火) 01:18:53 ID:VctfIvgX]

喧嘩、というわけではないけれど、
布美枝はその日一方的に茂と口を利かなかった。

その日の昼すぎ、茂が「金出してくれ」
と言って、さっさと財布ごと持って行ったかと思うと、
どっさり古本を抱えて戻ってきた。

戦記物の漫画を描くのに、もっとリアリティを追求すべく
資料用にと戦艦やら戦闘機やらの本を買ってきたのだという。
浦木から「少年戦記の会」の発足を促され、
その際に「お前の漫画は暗い」と言われたことに端を発していた。

それにしてもどうだ、
戻ってきた財布を開けてみればスッカラカン!
その日暮らしでやっと食べているというのに、
日々の節約の努力をどうしてくれるのだ、と布美枝は憤った。

「夕食です」
「お風呂です」

それだけであとは無言を貫き通した。
風呂から出た茂と入れ替わって、急いで布美枝は風呂に閉じこもった。

316 名前:見えないけどあるもの2 mailto:sage [2010/06/15(火) 01:19:58 ID:VctfIvgX]

仕事の資料なのだから、仕方がないという思いもあった。
それに…。

初めて聞いた戦地でのこと。
左腕を失い、多くの戦友を失ったこと。
どうしても格好のいい戦争漫画は描けないと言った茂の横顔…。

でも!!

日々の糧は何と言っても必要なのだ。
むやみやたらに、相談もなく使ってもらっては困る!
家計を預かったのは自分なのだから、そこはちゃんとしてもらわんと!
布美枝はキリっと顔を引き締めて、ゴシゴシと身体を洗いはじめた。

…が、やっぱり、と手が止まる。

「あげな都合のいい戦争があるか!」
と怒鳴った茂の顔は、苦悩と悲哀を複雑に絡めた表情だった。
その言葉に詰まった本物の叫びを、布美枝はその時ほんの少し心の耳で聞いた気がした。

風呂を出る頃には、すっかり今日の自分に嫌気がさしていて、
茂にどういう態度で接しようか、戸惑ってしまっていた。

317 名前:見えないけどあるもの3 mailto:sage [2010/06/15(火) 01:20:43 ID:VctfIvgX]

茂は、布美枝が敷いた布団の上で腹ばいになって
今日買ってきた資料の本を眺めていた。
投げ出された足を左右に揺らしてどこかのんきな風だ。
布美枝が口を利かないのを特に気にする様子もなく
夕飯をたいらげ、悠々と風呂に浸かった。
そして今も、風呂から上がった女房を振り返ることもなく
パラパラとページをめくっている。
その態度に布美枝は少しむっときたが、
すぐにやっぱり申し訳ない気持ちになってしまう。
自分の負けだ、と思った。小さなため息をつく。

もうすぐ4月になろうとしていた。
夜はまだ肌寒いが、昼間はずいぶん過ごしやすくなった。
ふたりの生活もだいぶ夫婦らしくなり、
二階の中森のこともさほど気兼ねすることもなくなった。

が、あれ以来夜の営みはとんと間が空いていた。

茂が仕事モードに突入すると、夜が不規則になる。
加えて、布美枝の月の周期が一度、その営みを邪魔したときがあった。
そのときは、布美枝は申し訳ないと謝ったが、茂は仕方ないと笑った。
そうするとずるずると何だかタイミングを逃し続けていて…。

しかし、今日は何だか言葉をかけづらい。
独りで勝手に怒っていたことを、布美枝は今さら後悔していた。
肩を落として櫛をとかす布美枝の背中から茂の声がした。

318 名前:見えないけどあるもの4 mailto:sage [2010/06/15(火) 01:21:32 ID:VctfIvgX]

「やっぱり長門はええ。うん」

思わず布美枝は振り返ったが、茂は戦艦の本とにらめっこしている。
ああ、独り言か…。
それにしても、ずいぶんと熱心に見入っているものだ。
本当に資料として見ているのだろうか?
何だか、漫画に熱中する子どものようでもある。
布美枝は可笑しくなって、くすっと笑った。
茂が顔を上げる。

「どげした」
「え?いや、ふふっ、子どもみたいと思って」
「だら」

少し、緊張がとけた。
布美枝はほっとした。
また茂は顔を本に戻し、うんうんと戦艦の詳細を見ては頷いている。
布美枝は、茂の左腕を見た。
いや、正確に言うと左腕があったであろうあたりを、見た。
その視線に茂も気づく。

「ん?」
「あ…すんません。…ちょっと気になって」
「なにが」
「…あなたの、左腕は…今どこにあるんだろうと思って」
「ええ?さあ…切ったあとの腕のことは聞かんかったなあ」
衛生兵がどっかに片付けたんだろう、と茂は言った。
「今頃土に戻って、ラバウルの果物の肥料になっとるわ」
はははっと笑う茂だったが、布美枝は笑わなかった。
真面目な顔の布美枝を、茂は不思議そうに見た。

319 名前:見えないけどあるもの5 mailto:sage [2010/06/15(火) 01:22:21 ID:VctfIvgX]

「あたしは…うちの家族は、戦中特に危ない目にも遭わんと過ごせました」
「うん」
「もしかしたら、あなたの左腕が守ってくれたからかも知れませんねぇ」

茂は遠くを見つめるような布美枝の表情に、
寝転んでいた身体を起こし、布団の上に座った。

布美枝はおばばの言葉を思い出していた。
『いずれ一緒になる人とは、ご縁の糸でちゃあーんとつながっとる』

「あなたの腕が、守ってくれたから、あたしはこうして居れるんだと思います」

「だんだん…」頭を下げた女房に、
茂は自身の左側がぐっと反応したような、くすぐったい感覚を覚えた。

いつものように、茂はぽりぽりと頭を掻き、少し鼻をすすると、
やがてそっと布美枝に近寄ってきて、その唇に軽く、口づけた。

布美枝は少し照れて、唇が離れたあとに俯いたが、
茂の寝巻きの左袖をきゅっと掴んで、もう一度、と無言で訴えた。

茂の右手が布美枝の頬を撫で、ゆっくりと口づけをくれた。
唇だけを触れて、お互いの柔らかなそれの感触を確かめたあと、
深い、甘い、濃い、口づけへ。
絡み合う舌が、少し淫らな音をたてて、二人の中心に火をともした。



320 名前:見えないけどあるもの6 mailto:sage [2010/06/15(火) 01:23:18 ID:VctfIvgX]

布美枝は、まだかけたままだった茂の眼鏡をそっとはずした。
この男は、眼鏡をとるとあっという間に少年のような顔になる。
10歳も年上なのに、可愛いとすら思えてしまう。
しかしその顔をゆっくり愛でることもさせてもらえずに、
すぐにまた唇を奪われた。
茂の手が、布美枝と寝巻きを縛っている帯を解きはじめた。
布美枝は数日ぶりの胸の高鳴りに息を呑んだ。

しかし今日は前回より冷静に対応できた。
布美枝も茂の寝巻きの帯に手をかけると、ゆっくりほどいた。
適当に着こんでいたのか、簡単にはらりとはだけた。
現れた硬い骨と肉の肌にそっと触れると、胸の向こうの鼓動を感じることができた。
少し早い。
布美枝は嬉しくなった。
相手を求めて胸を熱くしているのは、自分だけではなかった。

今度は茂が布美枝の寝巻きを脱がせていった。
露わになった二つの山の山間に、その顔を埋めた。
柔らかな胸を優しく、強く揉みこむと、布美枝が小さく喘いだ。
一方で敏感な先端を舌で転がすと、また布美枝は熱い息を漏らすのだった。

布美枝が自分の胸の中で遊ぶ茂の額に唇を落とすと、
それに気づいた茂が頭を上げて、口づけを返してくれた。
ふふっと布美枝が微笑むと、茂もにこっとしてまた胸の中に戻る。
「あ…っ」
茂の愛撫が、布美枝の身体の中心をじん、と貫いて、血流を掻き乱す。
下半身に熱が移動して、じわっと泉があふれ出すのを感じた。

321 名前:見えないけどあるもの7 mailto:sage [2010/06/15(火) 01:24:21 ID:VctfIvgX]

やっと布団に横たわった二人は、
じゃれあうように唇をついばんだり、
舌を絡めた深い口づけをしたり、
くすくすと笑いながらお互いの唇で遊んでいた。
すると。

ミシッ…トタトタトタ…

天井から音がした。

瞬間、はっとして二人は顔を見合わせた。

中森だ。

もう深夜だったが、中森も漫画家。
起きて仕事をしていても当たり前の職業である。
ずいぶんその存在が気にならなくなってきたとはいえ、
万が一この睦みごとの最中に降りてこられては困る。

布美枝はこれ以上の続きを望めないと思いがっかりして肩を落としたが、
茂は少しの間、視線を空に漂わせたあと、布美枝の下着に手をかけた。

「ちょっ…、だ、だめです!中森さんが起きとる!」
「気にするな、新婚の家でも構わんと言ったのは向こうだ」
「あたしは気にしますっ!」
「あずきはかりか何かだと思っとけ」

そんなことを言われても…。
布美枝は別の意味で胸がハラハラして苦しくなった。
が、そんなことはおかまいなしで茂は布美枝の熱くなった茂みの向こうを探りだした。

「やっ…あ…だめ」
「声を出すと聞こえるぞ」
「だ、だって…」

ずるい。
でも、布美枝もこの熱がこのまま冷めるのは嫌だった。
茂の指が、一本、二本、溢れる水の源泉へと出入りを繰り返す。
その度に布美枝はどうにも抑えられない嬌声を
手の甲を押し付けて何とか耐えしのいだ。
茂はもだえる布美枝を、まるで悦んでいるかのように見ていた。

(意地悪っ…!)

322 名前:見えないけどあるもの8 mailto:sage [2010/06/15(火) 01:25:15 ID:VctfIvgX]

ミシ、ミシ…
二階ではやはり中森がウロウロとしている気配。
下の情事に気づいたのだろうか。
しかし布美枝はそれを気にする理性を失いつつあった。

やがて茂は布美枝に覆いかぶさり、力の抜けた布美枝の脚を開かせた。
侵入してくる茂の熱いものに、布美枝は思わずのけぞった。

初めてのときは、指だけでも痛かったのに、
今日はどうだろう、布美枝は経験したことのない快感の中に居た。
さらに茂自身が布美枝の中を掻き乱し始めた。
思わず、

「ああっ!」

声をあげてしまう。
茂がすぐに唇をふさいでくれた。

押し寄せる快感の波。引いてはまた、押し寄せる。
源泉からどんどん水が湧き出てきて、尻を伝っていくのがわかった。

布美枝は脱ぎ捨ててあった茂の寝巻きを掴んで口にあて、
身をよじって必死に理性にしがみついた。
それなのに、茂は攻撃の手をゆるめてくれない。
打ち付ける腰に加えて、舌で布美枝の耳を舐めあげる。

「あっあっ…!」

我慢できない布美枝の喉から、喘ぐ声がもれ出す。
茂ももう、布美枝の声を押しとどめることはしなかった。
自分自身も限界が来ていた、というのもある。
布美枝の中の一番深い所に達したとき、茂はそこに全てを吐き出した。


323 名前:見えないけどあるもの9 mailto:sage [2010/06/15(火) 01:26:01 ID:VctfIvgX]

またしてもぐちゃぐちゃになってしまった布団を避けて、
二人はひとつの布団にぎゅっと収まった。
しかし布美枝は茂に背を向けて寝ていた。

「明日どげな顔して挨拶すればええんですか…!」
「普通にしといたらええだろ」
「無茶言わんで!」
「声が大きかったのはあんただ」
「だって!」
「だって?」
「…」

ふふん、と茂が笑ったのが、後ろを向いていてもわかった。
布美枝は真っ赤になった顔を急いで覆った。

拗ねる女房を後ろからぎゅっと抱きしめ、
長い髪の香りを嗅ぎながら、茂は目を瞑った。

「もぅ…知らん…」

布美枝も、自分の腹のあたりにまわってきた茂の右腕を
すこしつねって、それからぎゅっと両手で抱きしめた。


324 名前:見えないけどあるもの10 mailto:sage [2010/06/15(火) 01:26:51 ID:VctfIvgX]

翌日、早速二人は「少年戦記の会」の会報作りに取り掛かった。
布美枝は浦木が持ってきた謄写版を準備し、茂は会報用の原稿を描いていた。

すると玄関の戸が開く音がして、ほどなく中森がにこにこと廊下を通りかかる。
おやっと二人はお互いの顔を見た。

「あ、おはようございます」
中森が何事もなかったように挨拶をしてきた。

「中森さん、あんた…朝早くから散歩にでも出とったんですか?」
「あ、いえ。昨日は大阪に居た頃の知り合いと会っておりまして、
 その知り合いの家に泊まらせてもらっていました」
「ええっ?!」

つまり、今帰ってきたところ、というわけだ。

こわばった顔を見合わせる二人を、中森は不思議そうに見ていたが、
すぐにいそいそと二階へ消えていった。

「…でも、昨日…確かに…」
音はしていた、人の気配はあったはずだ、と布美枝は思った。

「うーん、やっぱりあずきはかりだったんかな」
「ええっ!」

茂はにんまりとしたが、布美枝はぞっとして恐る恐る天井を見上げた。


おわり


325 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/15(火) 01:50:27 ID:jvU9Etre]
281タソ

頑張って起きてた甲斐がありますたw
どうもありがd〜
最後のまとめ方とか、さすがだなあwww

326 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/15(火) 12:46:27 ID:rl5Z0GFp]
>>315
素晴らしい作品ですね!!
題名といい、オチといい見事な方ですね!!
ドラマ見て、このスレ見て毎日萌えまくってますw
次回作も是非是非お願いします

327 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/15(火) 20:55:08 ID:sXXDJY2A]
>>301
初々しい二人がカワエエ
茂が見た夢が現実になってる話も読みたいw

>>315
たまに余裕のあるフミちゃんもいいなw
ドラマ内の時系列に沿った続き、期待しちょりますけん!

328 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/15(火) 22:53:05 ID:mLf3EKn+]
>>315
GJだんだん!
フミちゃんの気持ちが丁寧に綴られてて良かったよ〜
あずきはかり(?)と中森さんもGJ!www
次回作もがっつり楽しみにしちょります!

このスレは本当にレベル高いねぇ
エロがなくても作品として素晴らしいし…
小ネタとかアホっぽいやつも大歓迎ですけんw

329 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 00:18:53 ID:jDFN5fS2]
レスだんだん〜
個別レスは流石に控えますが
萌え走り余っての妄想投下にスルーせず感想頂けて嬉しかったです

>312
あの頃(河童話〜深大寺まで)はやはし「フミエさん」「シゲルさん」と
互いを呼び合っていたかと思うと激萌えですなw
いずれは現在の、御大の左膝に手を置いて朗らかに笑うお二人がいるわけで
それまでのン十年の経緯を推し量れば、
こげなふたり、愛さずにはいられませんけんw

>327
きっと御大のこと。それはそれはエログロナンセンスなる酒池肉林で
たわわに実ったフミエさんが……ハァハァ

おっと、こんな夜更けに梅雨の中、来客が…?

取り急ぎ数ヵ月後設定を投下しときます
萌え話もネタフリも投下も心から応援しとります!



330 名前:寝坊之進さま1 mailto:sage [2010/06/16(水) 00:19:41 ID:jDFN5fS2]

「はぁあ…」
時は既に昼下がり。
またも遅くまで仕事に根をつめ、死屍累々といった風情で眠り込んだ夫の姿に、
布美枝は仁王立ちして向き合った。
いくら疲れてはいても、このまま眠らせてしまえば朝夕逆転の生活が続いてしまう。
この寝坊之介、改め、寝坊之進茂左衛門を起こすのは至難の業ではあったが、
今の布美枝にはとっておきの必殺技がある。
折よく、二階の中森は外出中で、驚かせてしまう心配もない。

「……よぅし…っ」
布美枝はスッと息を吸いこんだ。
「シゲーサンッ!」
「!!」
効果覿面とはこのことだろう。義母の口真似は本当によく効く。
茂は上掛けを抱き締めたまま、びくりっと飛び起きた。

「…あー……驚いた。イカルの奇襲かと思うたぞ……」
「ふふっ。もー昼過ぎですよ? 食事にしましょ」
悪戯な布美枝の笑顔を見上げ、茂は安心したようにまた横になってしまった。

「あっ。二度寝はいけんですよ」
「……先に食っとればええだろぉが……」
「もうこげん時間ですよ?」
「うるさい、布団を引っ張るな…っ」
「いけんよっ。ほら、もう目も冴えちょるのでしょう?」
「……」

いくら布美枝が喜んで笑うからといって、
身ぶり口ぶりまで添えて、イカル話をしてやった茂が迂闊だった。
まさかこんなに器用に口真似するほどになるとは…。
「……だらずが…」
「ほら、ほら。えーえ天気ですよ〜」

窓から差し込む陽の光さえも疎ましいと、茂は抱えた布団で顔を覆った。
「ああっ、ほら。もう〜」
「うぅぅ……うるしゃあわ!」

331 名前:寝坊之進さま2 mailto:sage [2010/06/16(水) 00:20:48 ID:jDFN5fS2]
引っ張り負けて奪われた布団の代わりに、布美枝の腕を引く。
「やっ…」
布団の取り合いには負けたが、その腕で抱きすくめれば布美枝も打つ手がない。
「ふふっ…一勝一敗の五分だ」
「は、離してくださいっ。もぉお…起きんといけんですよ」
「あんたも昼寝したらええが…」
「そげにのんびりともしとられませんっ。私は私で、忙し…い……?」

じたばたと身を捩る布美枝を逃さぬよう組み込んでいるうちに、
肩腕、両足ではさみ技に持ち込んだ茂の、奇妙な感触が腿を擦る。
「!!!」
硬直した布美枝を見て、茂は勝ち取ったりとばかりに満足げだった。

「……ふふっ…ようやく諦めたか…。ふわぁあ。あんたも寝たらええ…」
「寝…っ。そ、そげなこと…、こげん真っ昼間に…」
「うん?」
おかしな様子に気付いて覗き込めば、布美枝の真っ赤な顔。
「??」
最初は、まだこんなことに照れとるのか…と不思議に思ったが、
もぞもぞと身を引こうとする様子を見て、茂も下半身の違和感に気付く。

「おぉ…。そういうことか」
「…っ」
「いや、いや。コレはそういうコトではなぁぞ」
「……はい?」
「直に治まる」
男とはそうしたものだ、と頷かれても、布美枝にはそんな生理現象は分からない。
言えば、茂がどれほど疲労困憊で眠りに落ちたかも知られてしまうから、
心配をかけぬようじっと口を噤んだ。

「……ぁ…。前も、こんなこと……ありました、ね?」
「…んー…?」
黙ったままでいてはまたすぐ眠りついてしまう。布美枝は慌てて話しかけた。
「まだここへ来たばかりの頃…。ふふっ、あなた、寝とぼけてて…」
「おー…。そんなこともあった…、ような? なかった…ような……」
覚えとらん、と一蹴しようとした途端、急激に思い出した。
鮮明に夢の記憶が降ってくる。
(あんなこと…まだ、覚えとったのかぁ)

332 名前:寝坊之進さま3 mailto:sage [2010/06/16(水) 00:21:31 ID:jDFN5fS2]

締切に追われて忙しくて……というのは今も変わらないが、
急に生活を変えることもうまくできず、構ってやれず寂しい想いをさせてしまった頃。
「あの時は食事で釣れましたけど、今日は…そげに奮発してないですし…」
「……」
襖の向こうで、慣れぬ土地での生活に途惑う新妻に何もしてやれなかった。
正直、夫婦として生活していくことの意味など、考えてもいなかった頃のことだ。

「私…びっくりしたんですよ? ほんまに凄い力で…振りほどけないし。
中森さんには…見られるし……」
「……ん? そういやぁ…今日も静かにしとるな」
ちらり目を上げて二階の様子をうかがうと、
「今日は朝から出版社まわりに出られましたよ」
「お…おぉ……。そげ…か」
布美枝にとっては単なる状況説明だったが、迂闊な言葉に茂の眠気が覚めていく。

「中森さんも頑張っとってですよ。ね、あなたも腹ごしらえして……」
「ほうだ……。約束を果たさんといけんな?」
「? 今日、何か約束があったんですか?」
それなら尚更早く起きないと…、と身を起こしたものの、すぐにその右腕に絡め取られてしまう


「あん時はあげに聞きたがっとったのに、もう忘れたのか? ……忘れっぽいんじゃの」

茂に言われたくはないと、布美枝は頬を膨らました。
「忘れてなぁですよ…っ。えーっと…えっと…」
初めてしっかりと間近で見た茂の寝顔、名指しで呼ばれた寝言……
そんなことばかりにひとつひとつ引っかかって、
なかなか核心の「約束」というものが思い出せない。
懸命に思い出そうとする隙をみて、茂はそっと腰に手を回した。


333 名前:寝坊之進さま4 mailto:sage [2010/06/16(水) 00:22:09 ID:jDFN5fS2]

「ん…っと……」
「思い出せんのだろう?」
耳元で囁くふりをして首筋に唇を寄せる。
布美枝はまだ暢気に約束事が何かを考えていて、茂の豹変に気付かない。
「うーん…。ヒント! ヒントをください。必ず思い出しますけん」
「時間切れじゃ」
「ええー…厳しいなぁ……。って、……えっ!?」
気付けばスカートのホックが外されて、緩んだ腰元に茂の手が伸びていた。

「あっ…な……何しとるんですかっ。……いつの間に…っ」
「おかしなことを思い出させるからだ」
「おかしな…こと? あっ! 分かりました、おかしな夢、見たって言うちょってでしたよね?」
より深く探る手から逃れるよう、左右に身を捩じって交わしながら、
布美枝は勝ち誇ったようににんまりと微笑んだ。

「どんな夢だったか……。もう、知りたくはなぁか?」
「知りたい。教えてごしない」
茂は上機嫌でふふんと笑い、間を開けて逃れようとした布美枝を近付けるため、
チョイチョイと小さく手招いた。
布美枝が耳を傾けると、内緒話でもするようにそっと耳元で囁く。

「あれはな?」
茂がごしょごしょと夢の内容を語るうちに、
最初はうんうんと頷いていた布美枝の顔色が変わっていく。
「はぁあ?」
「…それで……な?」
愉快そうに語り続ける茂とは裏腹に、布美枝は愕然と口を開いたまま、
その頬はみるみるうちに真っ赤に染まっていった。

「ああっ、も…もう、ええですっ」
「……何じゃ。こっからが面白いのに」
「何が面白いのですか…っ。そげな……」
あんな無邪気な寝顔をして、そんな淫らな夢の中にいたとは。
本当にこの人の頭の中は計り知れない。

334 名前:寝坊之進さま5 mailto:sage [2010/06/16(水) 00:23:22 ID:jDFN5fS2]

「まあええわ。夢より現実の方がずっとええ…」
「ひゃっ…な、何し……」
咎める言葉は重なった唇に掻き消される。
寝起きの胸板は酷く熱くて、布美枝は蕩けるように力を失った。
充分に潤った唇が離れると、思わず熱い吐息がもれる。

「……そういうコトではないと…言うちょったのにぃ……」
「今はもうそういうコトになったのだ。世は日進月歩だ。仕方がない」
服越しに当たる、仕方のない状況に陥ったソレの感触に、
布美枝は閉じた唇を歪ませる。
旦那が求めるのであれば、抗うすべはない。

組み敷かれて覆いかぶさってきて、真昼の明るさの中、
布美枝は欲情した表情をはっきりと目の当たりにした。
この人のことをもっと知りたいと、どんな顔も見つめていきたいと、
そう思ってはいたけれど…

「……やっ…」
熱っぽい視線を受ければ恥じらいに耐えきれず、布美枝は身を強張らせていた。
頑なに顔を手で覆ったまま委縮した布美枝を見降ろして、
これではあまりに不憫だと思い、頭まですっぽりと布団を掛けた……が。
互いに長身な二人の足は布団の裾から出てしまっていた。

「……これなら、ちぃっとはええだろう?」
茂の気遣いに、布美枝の硬直は少しづつ緩和していく。
「あ…。でも……」
「何だ」
まだ何か不満なのかと、不機嫌に問いかけると、
「ん?」
「……しわに…なりますけん……」
布美枝は自ら身を捩って服を脱ぎ下ろした。

「…おぉ……。あの夢ん中でも、そうしてあんたから誘……」
「もう…っ、その話は……よしてごしない…」
大胆にも茂の服まで手を掛けて、脱がすように促すと、
茂は思わず笑いを漏らして「そげだな」と、布美枝の首筋に顔を埋めた。

狭い仕事部屋の中。
炬燵でも置いたようにこんもり盛りあがった布団がもぞもぞと蠢く。
噛み殺しきれぬくぐもった甘い声が毀れれば、蠢きは激しさを増した。
覆い切れぬ四本の足は重なり合い、絡み合い、やがて白い足の爪先が捩れる。
ぴたりと止まった布団が崩れ落ち、膨らみは大きく呼吸するように上下した。

「……はぁ…」
ばさりと布団を捲りあげて顔を出した茂は、眩しい日差しに眉を顰める。
「さすがにこれは……息苦しいわ…。おい、大丈夫か?」
布団からこっそり顔半分だけ出した布美枝と目が合ったが、
「…知りません…」
と、弱々しく呟いて、またその顔は布団の中に消えてしまった。
茂はぽりぽりと汗ばんだ鎖骨を掻き、潜り込んだままの布団を優しく叩いた。

「腹が減った。昼寝なら後にしてくれ」
「……っ」
豪快に笑いながら、茂は漸く起き上がって行った。


終わり

335 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 00:59:30 ID:pMuwONBV]
>>330
職人様、乙です。
だんだん!
寝る前に覗きにきてよかった…

336 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 01:25:08 ID:yb1nVKHE]

281です。レスありがとうございました。

ああ〜それにしても>>330サマかなり萌えです。
こういうノリのが書きたいのだけど、
なんか違う方向に逝ってしまう。

というわけで、今日も深夜に投下。
今回はキスのみ。
ゲゲ視点からの話になります。

337 名前:白昼夢1 mailto:sage [2010/06/16(水) 01:28:02 ID:yb1nVKHE]

「…自転車には乗れますか?自転車です、ペダルをこぐ」
「ああ、乗れます、お店の配達で使ってますけん…」

茂は夢を見ていた。
窮屈な義手、両側にはイトツとイカル。
出された美味そうな御膳のその向こうには、一反木綿の女。
これは…見合い、の場面だろうか?


ミーーン、ミンミンミン…


五月蝿い蝉の声に茂はふっと目を覚まして頭を上げた。
その拍子にちゃぶ台に頭をぶつけた。「あいたっ」
真夏の昼さがり、茂は居間で汗びっしょりになって寝ていたようだった。
頭をぶつけたものだから、夢のことはもう忘れた。

やおら起き上がって、自らの汗にうへえ、と唸った。
洗面台に立って、顔を洗った。
こうも暑いと、水道をひねっても出てくる水さえ湯のようだ。
居間に戻って時計を見てみると、4時を少し過ぎた頃だった。
ああ…と、やっと今日のことをうっすら思い出し始めた。


338 名前:白昼夢2 mailto:sage [2010/06/16(水) 01:28:53 ID:yb1nVKHE]

朝、起きたのは仕事机の上だった。
珍しく先に目が覚めたのは茂のほうだった。
茂の左側に覆いかぶさるように、布美枝が机に突っ伏して寝ていた。
二人は昨日、夜を徹して「墓場鬼太郎」の原稿に向かっていた。
作業は夜更け、もう朝方と言ってもいい頃まで続いた。

「おい、起きろ」
「ん…」

妙な体勢で寝ていたものだから、布美枝は「イタタ…」と呟きながら目を覚ました。

「原稿を届けてくる」
「あっ、はい。あ、朝ごはんを」
「握り飯でもしてくれ、食いながら行く」
「わかりました」

仕度を始めた布美枝の後ろ姿を、茂は眩しい目で見つめた。

昨夜、締め切りを明日に控えて一心不乱に机に向かう茂に、
布美枝は何か手伝えることはないかと言ってきた。
初めは何を言うかと相手にしなかった茂だったが、
肩こりをやわらげるために、布美枝が生姜をすりおろしたタオルを巻いてくれた。
何か役に立ちたい、そう言いながら夜中にもかかわらず
一心に生姜をすりおろす布美枝の後ろ姿に、茂の心中は波立った。
茂は布美枝に、ベタ塗りと点描を任せた。
もとより器用な布美枝は、さっさとコツを掴んで見事にこなした。
集中して原稿に向かう布美枝の横顔を、茂は頼もしく見つめた。

339 名前:白昼夢3 mailto:sage [2010/06/16(水) 01:29:34 ID:yb1nVKHE]

布美枝に渡された握り飯を、歩きながら食べたのは覚えている。
汗をかきかき、富田書房まで出向いたが、
原稿料はその場でもらえなかった。
本の出来上がりが二週間後くらいなので、そのときに渡すということになった。
しかし暑さと徹夜によっぽどやられたのか、
茂には富田書房から家までの道中の記憶が全く抜け落ちていた。
よくたどり着いたものだと思った。

「おかえりなさい」
と、笑顔の布美枝が迎えてくれたような残像だけが残っている。
そのまま茂はばたん、と倒れて深い眠りに落ちた。

そして、つい先ほど蝉の声に起こされたのである。

ちゃぶ台の上にはふかし芋が置いてあった。
昼飯も食べずに眠っていたから、ちょうど良かった。
芋をほおばりながら、そういえば…と茂は思った。
先ほどから布美枝の姿が見えない。
外で洗濯物でも取り込んでいるのかと、窓をあけてみたが居ない。
風呂場にも便所にも居ないようだった。
ちらっと棚に目をやると、買い物籠がない。
ということは「買い物か…」



340 名前:白昼夢4 mailto:sage [2010/06/16(水) 01:30:20 ID:yb1nVKHE]

部屋にぽつんと独り、蝉の声だけを聞いて座っていると、
何だか妙に尻の居心地が悪くなった。
部屋に布美枝が居ないことに、なんだか強烈な違和感を覚える。
いつも襖を開ければそこに布美枝が縫い物や料理をしている姿があった。
自分の顔を見ると、にっこり笑って「お茶淹れましょうか」と言う。

茂はやけにこみ上げてくる妙な「感じ」を覚えて、
それを打ち消すかのように芋をくわえたまま仕事部屋へ戻り、
本棚から自分の著書を何冊か引っ張り出し、読み始めた。
そしてふっとアイデアを思いつくと、スケッチブックになぐり描きをする。
茂は長い間、そんな日々を普通に過ごしていた。
漫画のことだけで頭がいっぱいで、
次々に浮かんでくるアイデアを、取りこぼさないようにスケッチブックに描きとめる。
そんな日々が、そんな日々だけが当たり前だったのだ。
布美枝がこの家に来るまでは…。

居間の置時計が、5時を報せた。

5時?買い物に行っただけにしてはずいぶんかかっているな。
茂はそわそわしはじめた。

すると二階から中森がやかんを持って降りてきた。

「あ、村井さん、申し訳ありませんが水をいただけますか」
「ああ、どうぞ」

茂はそう返事だけすると、いったん玄関から外を覗いた。
そこまで布美枝が帰ってきているかも、と思ったからだ。
しかし、玄関先に布美枝の姿はなかった。
その代わり、布美枝の自転車が置いてあった。


341 名前:白昼夢5 mailto:sage [2010/06/16(水) 01:31:04 ID:yb1nVKHE]

…おかしいぞ。
布美枝が買い物に行くときはいつも、自分のプレゼントした自転車で行っていた。
どうして今日に限って自転車が家にある?

玄関の戸を閉めると、茂は二階に戻ろうとする中森に声をかけた。

「中森さん、うちの…どこかに行くと言うとったですか」
「奥さんですか?いや、朝は私も出かけましたが、出掛けには会いませんでした。
 昼過ぎに戻ったときには、村井さんが横になっていたのは見ましたが、奥さんは見ませんでした」

ぺこりと頭を下げて中森は二階へ戻っていった。

同居人の中森が、今日一日布美枝を見ていない。
そういえば茂もろくに布美枝を見ていないのではないか。
朝、握り飯を渡された、昼、おかえりなさいと出迎えてくれた。
あれは、確かだったか?

茂は言い知れぬ感情を抱えたまま、また仕事部屋に戻った。
ゲーテを手に取ったり、スケッチブックを見直したり、
雑記帳に、思い浮かんだ漫画のストーリーを書いてみたり…。
汗が、奇妙な汗が流れてきた。
夏の暑さのせいではない、背中にヒヤリと流れる汗だ。

そんなことをしているうちに、居間の時計が6時を報せた。

その瞬間、茂は下駄をつっかけて勢いよく玄関を飛び出した。

342 名前:白昼夢6 mailto:sage [2010/06/16(水) 01:31:42 ID:yb1nVKHE]

帰ってこない女房。
いや、そもそもそんな女があの家に居たのだろうか?
自分はずっと独りだったではないか。
見合いからたった5日で結婚して、などと。本当に自分の身に起こっていたのだろうか?
夏の暑さにやられたのではないか。
夏の昼間にみせられた、白昼夢に過ぎないのではないか?

色白の、ひょろっと背の高い一反木綿のような女。
大人しくて、朗らかなあの笑顔の女。
結婚式の夜に、膝をかかえて白い息で外を眺めていたあの後姿。
東京に出てきたときに、鼻歌を歌っていたあの横顔。
自転車を買ってきたときに、大粒の涙を零して微笑んだ顔。
初めての夜に、恥ずかしそうに俯いて口づけを受けてくれた顔。
自分の下に組み敷かれて、快感に悶える官能的な表情。

あれは全部、夢、だったのではないか?

茂は走り出した。
思考を停止させたかった。
それ以上考えると、もう…。

すると。

商店街へと向かう田んぼ道の向こうから
夢の中の女がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。
茂は思わず足を止める。

夢の女は茂を認めると、ぱっと笑顔になって手を振りながら走ってきた。
あがった息を整えて、布美枝はにっこりと茂を見上げた。

「遅くなりました。ちょっと色々あって。お腹すいたでしょう?」
「…か、買い物に行っとったんか?」
「はい、実はこみち書房に寄ったら、そこに居た学生さんが急に倒れて!
 救急車まで呼んだんですよ!美智子さんがつきそいで行かれたんですが、
 おばあちゃんのリウマチの調子も良くなくて、私が店番しとったんです。
 さっき美智子さんが戻られたんで、私もやっと帰れたんですけど。
 あ、学生さんは大丈夫らしくてすぐに…んっ!」

343 名前:白昼夢7 mailto:sage [2010/06/16(水) 01:32:17 ID:yb1nVKHE]

ざわっと、夏の夕方の風がそよいだ。

茂は布美枝の背中に右手をまわして、布美枝の話も最後まで聞かずに、
唇をふさいだ。

しばらくして離れると、布美枝は信じられないというような顔で固まっていた。
茂は思い切り、布美枝を抱きしめた。

「…っ、ちょっ。あ、あのっ!人が…通ったら見られます!」

じたばたする布美枝にはおかまいなしに、茂はただ黙って布美枝を抱きしめた。

「自転車…」
「え?」
「自転車では行かんかったのか」
「ああ、あとで見てください、タイヤ、パンクしとるようで」
「ははっ、そうか、そうか…」
「あの…は、離して…」

やっと茂は布美枝を開放した。
布美枝は真っ赤になって胸を押さえた。

「ど、どげしたんですか、急に…こんな…」
「うん、…まあ、あれだ。帰ろう」

そう言って、茂は布美枝が思わず落とした買い物籠を拾って、
すたすたと先に歩き始めた。

自分の後ろをついてくる布美枝を、時折振り返りながら、
夢じゃない、茂は布美枝の存在を強くかみしめた。

おわり



344 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 01:45:06 ID:xa04Qqel]
>>329
だんだん!だんだん!
続き有り難う!
めちゃくちゃ萌えた!
数ヵ月後設定までだんだん!

345 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 04:55:57 ID:CLIopenb]
>>300
フハーッ続き投下だんだん!

職人様のフミちゃんは感情豊かで、ほんに可愛ゆいよ〜
ゲゲでなくても構いたくなる…堪らんなぁ
ゲゲと言えば寝坊之進茂左衛門にワロタwww
そんでもって、もっと夢の内容をkwsk!!

346 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 05:00:54 ID:CLIopenb]
>>336
文学的作品GJだんだん!
ゲゲがフミちゃんを必死に探す描写に泣きそうになったげな(´Д⊂)
この後キスだけじゃ治まらんかった夫婦は
勿論夜は布団で運動会したんだろうね?…ねっ?!

毎日素晴らしい作品が読めて幸せだ…
自分はアホな感想しか書けないけど
職人様を心底応援しちょります!

次は行水がてらのお風呂プレイとか…
はたまた墓場でけしからん野外プレイとか…どげですか?

347 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 09:53:42 ID:qDHWQFH1]
>>343
281タソ
GJ&だんだん
ゲゲ目線なのがイイ!!!
焦るゲゲに萌えです

348 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 16:55:33 ID:znfYVigb]
寝坊之進さまも白昼夢も最高でした!職人様がた、ありがとうございます!本当に情景が目に浮かぶし、台詞が声付きで聞こえそう。
あんな夢を見ちゃったり、布美枝の姿を探したりしちゃう茂に萌えますなあ。

349 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 18:39:14 ID:bOpLWp1w]
GJ!
職人様方、続々と新作読めて幸せです




350 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 19:52:21 ID:udyxnOsG]
今日は2人っきりのシーンが多くて良かった!

個人的に「あんた」よりも「お前」の方が萌えるw

351 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 20:16:24 ID:udyxnOsG]
>>330
日進月歩ワラタwフミちゃんがかわええ(*´д`*)

>>343
そのエピソードも「ヤッタ♪ヤッタ♪」に繋がる一つになる訳ですね

毎日素晴らしいネ申作品を読むことが出来て幸せですけん!
職人様、だんだん!






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