- 330 名前:寝坊之進さま1 mailto:sage [2010/06/16(水) 00:19:41 ID:jDFN5fS2]
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「はぁあ…」 時は既に昼下がり。 またも遅くまで仕事に根をつめ、死屍累々といった風情で眠り込んだ夫の姿に、 布美枝は仁王立ちして向き合った。 いくら疲れてはいても、このまま眠らせてしまえば朝夕逆転の生活が続いてしまう。 この寝坊之介、改め、寝坊之進茂左衛門を起こすのは至難の業ではあったが、 今の布美枝にはとっておきの必殺技がある。 折よく、二階の中森は外出中で、驚かせてしまう心配もない。 「……よぅし…っ」 布美枝はスッと息を吸いこんだ。 「シゲーサンッ!」 「!!」 効果覿面とはこのことだろう。義母の口真似は本当によく効く。 茂は上掛けを抱き締めたまま、びくりっと飛び起きた。 「…あー……驚いた。イカルの奇襲かと思うたぞ……」 「ふふっ。もー昼過ぎですよ? 食事にしましょ」 悪戯な布美枝の笑顔を見上げ、茂は安心したようにまた横になってしまった。 「あっ。二度寝はいけんですよ」 「……先に食っとればええだろぉが……」 「もうこげん時間ですよ?」 「うるさい、布団を引っ張るな…っ」 「いけんよっ。ほら、もう目も冴えちょるのでしょう?」 「……」 いくら布美枝が喜んで笑うからといって、 身ぶり口ぶりまで添えて、イカル話をしてやった茂が迂闊だった。 まさかこんなに器用に口真似するほどになるとは…。 「……だらずが…」 「ほら、ほら。えーえ天気ですよ〜」 窓から差し込む陽の光さえも疎ましいと、茂は抱えた布団で顔を覆った。 「ああっ、ほら。もう〜」 「うぅぅ……うるしゃあわ!」
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