- 259 名前:夫の心得1 mailto:sage [2010/06/10(木) 11:13:27 ID:Q9dw2XJt]
- ある日茂が外出から戻ると、布美枝が一心不乱に本を読んでいるところだった。
茂が入ってきたのにも気付かない。 「おい」 「はい!」 布美枝はとびあがった。 「か、帰っとられたんですか。 ああ、びっくりした。」 さりげなく後ろに本を隠すようにしている。 「お帰りなさい。」 少し顔を赤らめ、明らかに挙動不審だ。 女房と本、というとり合わせに、嫌な記憶が蘇った。 まさかと思いつつ、 「その本はなんだ。」 「あの、ちょっこし、美智子さんのところでお借りして…。」 ―その手があったか! 浦木を追い返して済んだ気になっていたが、こんなところに思わぬ伏兵がいたとは。 「ちょっこし見せてみい。」 「でも…。」 布美枝はしばらく俊巡していたが観念したのか、茂の方に表紙を向けて本を差し出した。 「なんだこれは」 気の抜けた声が出た。 それは、乙女チックな装丁の、どうやら翻訳された小説のようだった。 「何だと思われとったんですか?」 「てっきり…こないだの浦木の本かと」 ほっとするあまり本音が出てしまう。 布美枝は気まずげに、 「実は…浦木さんの本も、美智子さんに仕入れてもらえるようたのんどったんです」 「!」 新たな攻撃に、茂は言葉もない。 「美智子さん、最初はとっても乗り気で、任せといて!と言っとられたんですが…。 でも結局、仕入れはしてもらえんかったんです。」 九死に一生である。
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