[表示 : 全て 最新50 1-99 101- 201- 301- 401- 501- 601- 2chのread.cgiへ]
Update time : 05/09 18:38 / Filesize : 492 KB / Number-of Response : 641
[このスレッドの書き込みを削除する]
[+板 最近立ったスレ&熱いスレ一覧 : +板 最近立ったスレ/記者別一覧] [類似スレッド一覧]


↑キャッシュ検索、類似スレ動作を修正しました、ご迷惑をお掛けしました

【小説】ポケモン ドリームワールド



1 名前: ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/11/27(火) 19:22:13 ID:???]
 何年か前、まだ物心もついていなかった頃、ぼくはある本を読んだ。
 その本の中の世界では、人間世界の裏に『犬』が独自に文明を築く世界があった。
 猿ではなく、犬が発達し知恵を持った世界。
 その物語の中で、人間同様知恵を持ったその犬は、こんな発言をしている。

『君達の世界では偶然猿が発達し知恵を持ったに過ぎない』
『そして、偶然犬が発達し知恵を持った世界が、僕達の世界なんだ』

 しょせん物語……作り物の中のセリフでしかないと言えばそれまでだけれど、
 ぼくはこの一節に、幼心ながらひどく感銘を受けた覚えがある。

 人間以外の生き物が知恵を持ち、文明を築いている世界なんて存在するはずがない……
 そうやって考える人は多いしそれが常識だけど、実際の所そんな根拠なんてどこにもありゃしないんだよね。

 ポケモンは、高い知能を持っているものがたくさんいるってよく聞く。
 人間に近いほどの、そしてそれ以上の知能を持っているものだっていると言うけれど……
 だとしら、もしかするとぼく達の誰も知らない遠いところ……いや、もしかしたらすぐ近くにでも……
 ポケモン達が言葉をしゃべり、文明を築いている。そんな世界があるのかもしれない。

301 名前:8/13  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/08(土) 12:15:25 ID:???]

どこか聞き覚えのある声がした次の瞬間、
オレの脇を灼熱色の奔流が走り、目の前の鳥モンスターに直撃した。
「ピギャッ、ピギィーー!!」
鳥モンスターは攻撃に驚き、さっさとその場を逃げ去っていった。
……危機は去った。安堵するよりも先に、オレはまず自分を助けたであろう者を確かめようと、
あの熱の奔流が走ってきた方向へと顔を向ける。
――そこには、またもやアイツがいた。

「だ、大丈夫? 怪我はない?」

『アイツ』がオレの元へ駆け寄ってくる。そう、例の人間様とか言うチビガキだ。
その肩には、見覚えの無いトンボのような生き物が止まっている。いや、あの丸い目はどこかで……?
「首輪の痕……全身にアザ……それに、確かこの子はホウエヌ地方に生息するポケモンだったはず……」
しゃがみこみ、オレの首や体中を撫でながらチビガキはそう呟く。
――触るなっ
そう言いたかったが、なぜだか意思と喉とが繋がっていないかのように声が出ない。
チビガキは大方オレの体を触り終えると、小さい手をギュッと握り締め怒ったような調子で何か言い出した。
「やっぱり噂は本当だったみたいだね! ポケモン屋敷のお坊ちゃまのウラニワくんってやつは、
 気に入らないポケモンはみんな手ひどく虐待したあと、裏山に捨てていくって噂……
 ぼくはああいうやつが一番嫌いさ、年齢や身分にモノを言わせて生意気に振舞うお坊ちゃま……」
チビガキは唇をかみ締めながら、オレに哀れむような視線を落とす。
「ああ、顔色はよくないし頬までこけているね……衰弱しているんだ……
 お腹も空いているでしょ……? こっちへおいで、きみにいい物を上げるっ」
「?」
チビガキは、やたらと小奇麗な服の胸ポケットからどこか見覚えのあるケースを取り出すと、
そのケースから何やら赤色の球体を出して、オレに差し出してきた。

……あれ? この展開少し前に……


302 名前:9/13  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/08(土) 12:18:14 ID:???]

「これ、今日ヨスダシティのお料理教室でぼくが作ってきたポフィン!
 ぼく、お料理だい得意だから出来には自信あるよ! 自信あるけどオ……
 これ辛い奴だから、きみのお口に合うかどうか……合わなかったらゴメンねー。えへへへっ」
 
にひっと苦笑いを浮かべ唇の先からちょっとだけ舌を出しながら、ポフィンを乗せた両手をオレへ差し伸べるチビガキ。
――しつこいっ
そう言おうとするも、やはり言葉が出ない。
……言葉が出ないばかりか、体の自由まで効かない。
惹きつけられるようにオレは、チビガキの手の上のポフィンに食らいついていた。
「あはっ、いっぱい食べてるー♪」
ガキはオレがお菓子を食べる様子を見ながら、頬を染め心底嬉しそうな声を上げた。
……やめろっ、そんな声だされたら、オレまで……っ!

不思議な気分になってくる。
自分の体が自分の体でないようで……自分の意思でないハズなのに自分の意思のようで……
何より、さっきからオレの脳内にうっとうしく絡み付いているこの強烈な既視感はなんだっ!?

「ねぇ、きみ? もうこんな危ない所にいる必要は無いよっ。ぼくのお家へ連れてったげるからね!
 これ自慢じゃないけど、ぼくのお家はでっかいお屋敷で住み心地はバツグンにいいんだっ。
 このビブラーバを始め、きみと友達になれる子もいるよっ。いっぱいよくしたげるから……ねっ? ふふっ」
ガキは二コリとほほえみを浮かべると、オレを抱きかかえた。
抱きかかえてからも、ガキはずっとオレへほほえみを投げ掛け続けている。
オレは、抵抗することが出来ないどころか、不思議と抵抗する気さえ起きなかった。

……それは抵抗しようとしても無駄だと分かっているから……じゃあない。
ガキの腕の中はとても暖かくて……体も心の内もほっと落ち着く暖かさがあって……
胸の奥から、湧き水のように緩やかに溢れてくる暖かさがあって……

「これからよろしくねっ、きみ! ぼくの名前は――……」


303 名前:10/13  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/08(土) 12:25:05 ID:???]

「ジュカイン!!」

突然、ガキの肩に止まっていたトンボ野郎がオレの名前を呼んできた。
うるさく翅をはためかせながら、オレの周りをぐるぐる回りだす。
「もちろん、ボクの名前は覚えているだろう?」
トンボがそう喋ると、突然そのトンボが目を覆うような光に包まれた。
しばらくすると光は晴れ、その下から例の緑色ドラゴンが現れる。

「いいや、覚えていないはずがないな。
 ボクの名前は『フライゴン』。どうだ? 聞き覚えあるだろ?」
フライゴンと名乗る緑色ドラゴンがそう言い終えると、なぜだかオレを抱きかかえているチビガキの方がその話を続けた。

「いま、フライゴンが『フライゴン』と名乗ったのが何よりの証拠だよ。何でかって、ここはきみの夢の中だからだ! 
 今ここにいるこのフライゴンが、きみが知らない筈の名前をああして名乗ったって事は、
 きみがフライゴンという名前を知っていたっていう事なのさ。分かるかい? 分かるだろう?」

?????? 何を言っているのかまったく見当が付かない。なんだ、なんなんだ?
……何を言っているのかは全く見当がつかないが、『ここはきみの夢の中だからだ』という一節に引っかかる。
そうか、ここは夢の中なのだ。
今までは何故だかこれは現実である事を疑っていなかったが、そういえば不可思議な出来事ばかり起きている。


304 名前:11/13  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/08(土) 12:29:35 ID:???]

「!?」

そう理解した瞬間、いきなり背景がぐにゃりと捻じ曲がり、色がぐちゃぐちゃに反転しだした。
いろんな色が混ざり合い、もはや元が何だったか見当もつかない色の塊に辺りは覆われ、
その中に幾つも幾つも……まるで展示物の如く、不気味に顔が浮かんでくる。
顔だ。顔だらけだ。顔、顔、顔。
その中には、あのチビガキの顔やフライゴンの顔もあった。
先ほど会った、あの見知らぬ三匹のモンスターの顔も。
そして……この『オレの顔』までも。

「この顔は、お前が……いや、『オレ』が『今まで』に出会ってきた人間やポケモン達の顔全部だ。
 見覚えのない顔もあるだろう? だが、オレの夢の中であるこの場所に何故オレの見覚えのない顔があるんだ?
 おかしいと思わないかい? え? どう思うんだ? え? おい。分からないのか……?」

そう喋ったのはその『オレの顔』だった。
少なくとも顔はオレと同じだ。……そして、相変わらず言っている意味は理解し難い。
「な、何なんだよ……」
わけが分からない事態に思わず、ため息ついでにオレはそう漏らす。
無数の顔が発する意味の分からない言葉を聞いていると、頭が割れてしまいそうに痛む。
その言葉は、耳に響いているというよりは、頭の中に直接響いているかのようなのだ。
このままここにいたら、狂ってしまいそうだ……どこか逃げ道はないものか。

必死に辺りを見回すと、無数の顔と顔の間、ぐちゃぐちゃの色の混ざり合いを割って一筋の亀裂が空いている場所を見つけた。
あそこが出口なのか。オレは、その亀裂目掛けて一気に走り出し――


305 名前: ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/08(土) 12:32:06 ID:???]
訂正。
>>304の9行目の『三匹』は、『四匹』の間違いです……

306 名前:12/13  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/08(土) 12:34:14 ID:???]

「待てっ! そっちに行くんじゃねえ!」

突如、制止の一声がオレのすぐ背後から響く。
オレは反射的に動きを止め、声の元へ振り向いた。
オレは思わず飛び上がりそうになる。
振り向くと、すぐそこまで先程の『オレの顔』が迫ってきていたからだ。
その『オレの顔』は、ひどく切迫し焦心に満ちている。なぜ……?
『オレの顔』はその語調にも焦りを色濃く込め、こう叫びだした。

「もうハッキリ言っちまうが、お前の心の隅には見ての通り、まだこうして『記憶』は残っているんだ!
 『外部からの思わぬ干渉』で、こうして何とか『オレ』はここまで出てこれた……奥底に沈んだ『記憶』を何とかここまで持ってこれたんだ。
 この機会を逃したらもう次はない。さぁ、この記憶を思い出すんだオレ! 思い出せ!」

「!」
今までこの『顔達』が言っていた事はわけが分からなかったが……わけが分からなくて当然とすらも思っていたが……
オレは、その今の『オレの顔』の叫びに、ある推測が生まれかける。

この顔は、この『オレの顔』は……心の中の記憶をなくす前のオレ……つまり、『失った記憶』……?

だとすると、この亀裂は……夢から現実への帰り道、ということになるのか……?
オレはためらい、足を止める。しかし、亀裂の中から突如闇が溢れ出し、オレを飲み込まんばかりに広がり始めた。


307 名前:13/13  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/08(土) 12:40:00 ID:???]

「お、おい、闇が広がり始めたぞ」
うろたえ思わずそう問うと、『オレの顔』はすぐさまにその問いに答えた。
「これはお前が目を覚ましかけているって事だ。分かるか? 時間がねーんだよ!
 お前が何も思い出さないでこのままだと、『オレ』が困るんだ……」
「だ、だからどーしろってんだよこのオレに! 思い出せ思い出せって、何を、どうやって!?」
思わず叫び声が口を突いて出てしまう。まさにそれが、今オレの言いたいことの全てだった。
『オレの顔』はその言葉に一瞬迷うように顔をしかめたが、すぐに答えた。

「うるせー、とにかく頑張って思い出せよォ! 『オレ』は出来る限り色々協力してやったんだぜ!
 見ただろ、フライゴン含むオレの五人の仲間っ! 味わっただろ、あの苦くて暖かいポフィンの味!
 感じただろ、オレが生まれてきて始めて感じた人間の温もり……」

「……!」
そうか、なら先ほどの四匹とフライゴンは、オレの元仲間……
ポフィンの味……オレが退化してからのあの謎の一連の出来事……あれは、全部オレが体験したもの。

……言われてみれば、そのような気もしてくる。少なくとも、強く否定する事はできない。
少し前までは絶対の自信を持って否定できたことが、今ではひどく曖昧だ。
これは……なくした記憶を、思い出してきている、っていう……こと、なのか……?
……身を覆い尽くすような不安がやってくる。
あの人間が言っていたことは、全て本当だったっていうのか? まさか、まさかだよな……
……でも、だとしたら、オレは……オレは、どうすれば……
……


際限なく広がり続ける闇は、色も顔も、オレの思考意外全てを覆い尽くし世界を完全に塗り替えた。
真っ暗な世界の中、オレの思考だけが小さく光を灯しているようだった。

308 名前: ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/08(土) 12:47:38 ID:???]
カオスな流れもこれで終わり…
次回は、月曜日か火曜日の6時半からです。
みなさん応援ありがとうございます、とても励みになります。

309 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/08(土) 14:17:34 ID:???]
なんという焦らしぃぃぃいい!!……………GJ



310 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/08(土) 14:25:29 ID:???]
超GJ!

311 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/08(土) 15:28:51 ID:???]
クオリティたかっ

312 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/08(土) 17:15:43 ID:???]
乙~
レディアンとラグラージはネタキャラ要員決定したようなもんだな

313 名前: ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/08(土) 19:12:21 ID:???]
これから、ちょっとした質問があれば、それに答えていきたいと思います。
なにか質問したいことがあれば、遠慮なく質問してください。
でも答えたくない質問、答えられない質問には答えませんので、ご了承ください。ごめんなさい。

>>255
大長編にしたいですし、部隊も全部じっくり書きたいですねえ。
話のネタだけなら、たくさん考え込んでます。

314 名前: ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/08(土) 20:13:16 ID:???]
補足しておきますと、『これから』というのは『以後ずっと』という意味で、
もし何か質問があった場合は、小説を投下した後に一通り答えます。
じゃあ月曜日か火曜日にまた……

315 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/08(土) 20:23:19 ID:???]
とりあえず乙

316 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/09(日) 00:19:33 ID:???]
コウイチくんとちゅっちゅしたいよぉ~

317 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/09(日) 05:57:11 ID:???]
きめえ

318 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/09(日) 06:21:38 ID:???]
dat落ちしろ糞スレ

319 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/09(日) 06:25:52 ID:???]
誤爆乙



320 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/09(日) 10:14:35 ID:???]
>>1がんばれー

321 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/09(日) 10:47:27 ID:???]
なんだかんだでジュカインは仲間に戻らないと見た
ヨルノズクと相打ちになるとかで…

322 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/09(日) 11:04:04 ID:???]
>>321
そうかな…しかし言われるとそんな不安が…

323 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/09(日) 18:36:10 ID:???]
草タイプのジュカインでは飛行タイプのヨルノズクには勝てないよ。

324 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/09(日) 18:37:10 ID:???]
うぇ~い

325 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/09(日) 18:44:32 ID:???]
とりあえず、なにか質問を。

48氏はポケモン暦はどれくらい? メインのシリーズ以外のポケモンもプレイする派?

326 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/10(月) 00:08:45 ID:???]
いまんとこ活躍してるポケモンが見事に金銀ポケモンとルビサファポケモンに集中してるな。

327 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/10(月) 00:16:05 ID:???]
しかし「アネ゛デパミ゛」が登場したってことは間違いなく赤緑世代w

328 名前: ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/10(月) 19:39:50 ID:???]
かなり遅れましたが今から投下します

329 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/10(月) 19:43:58 ID:???]
キタ───(゚∀゚)───!!



330 名前:1/5  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/10(月) 19:44:28 ID:???]
森の夜更け。灯りの元一つなく暗闇が支配しているはずのこの森に、
ただ二つ、淡黄色に不気味に光る円形の何かがあった。
その二つの光に、網の上ですやすやと寝息を立てている小柄な人間の少年が照らされている。

「労せず食らいたくば寝込みを襲え……か」

虫も鳴き止み静寂が充満しているこの空間に、ふとしわがれた老人の声が木霊する。
その声は、あの二つの光のすぐ真下から発生している。
「『寝込みを襲う』……己の誇りに傷がつくと言って敬遠する者も多いが、このわしは違う。
 貫き徹する事が誇りを生むのならば、外道を往く事もまた然り……
 ほっほ、むしろわしにとっては、より外道としての誇りが高まるというものだ」
うわごとのように呟きながら、二つの光……いや、『二つの目』は、鼻先の少年の顔を舐めるように見つめている。
その少年の寝顔は、眉根に皺が寄り、悪夢でも見ているかのように苦しみに満ちていた。

「何度見てもい~~い顔だァ! どんな夢を見ているかは知らぬが、少なくともロクな夢ではなかろうの。
 ここにいる者は全員、このわしの『催眠術』と『夢食い』によって本来見るはずだった夢を食われ、
 ぐちゃぐちゃにぶち壊れた夢……ほとんど悪夢のようなものを見ているはずだからの……ほっほっほ」

甲高くゆっくりとした笑い声が、辺りに響き渡る。
二つの目は更に少年へと近づいていき、そしてまるで微笑んでいるかのようにきゅうっと上下が狭まった。
「さて、そろそろこの人間を我が基地へ連れ帰るとするかの……
 わしの催眠術を食らったこの場にいる全員は、夜が明けるまでは目覚めることはない。目覚めることはないが……
 何事も小さな油断が大事を招き、失敗へ至ってしまうのだ。仕事はすぐにこなさねばの……」
突然、二つの目の真上から青白い輝きが放たれたと思うと、少年の体が吊り上げられたかのように宙に浮き上がった。
二つの目はより一層狭まり、気分を表しているかのように一層光が強まる。
そして……

「ぐあっ!?」

331 名前:2/5  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/10(月) 19:47:57 ID:???]
「ぐぅっ……!」

突如、老人のうめき声と鈍い音が同時に響き渡り、二つの目がグラリと揺れ地に伏した。
同時に、宙に浮き上がっていた少年は糸が切れたように網の上にストンと落ちる。
「なん、だァ……!?」
二つの目の輝きが曇り、苦心に満ちた声が響く。
そして次の瞬間……その老人の声ではない、『もう一種類の声』が森に響き渡った。

「ケケケッ、こんな夜更けに何やってやがんだぁっ!?」

「……!?」
「正面から駄目と見りゃ寝込みを狙うなんて、いい精神していやあがるぜ。
 なぁ、いつぞやの魔王軍の梟の旦那……いいや、『ヨルノズク』さん、だったかな?」

もう一つの声は、ひどく相手を小馬鹿にしたような抑揚の激しい喋り方をしながら、どんどん二つの光のある方へ近づいていく。
二つの目が……『ヨルノズクの二つの目』が、もう一つの声の元である影を照らした。
「きさ、貴様は……!?」
その影の正体を確かめた瞬間、ヨルノズクの顔が驚愕の色に染まった。
いるはずのない者、起きているはずのない者が、今そこに確かに立っていたからだ。

「貴様は、『ジュカイン』……!?」

332 名前:3/6  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/10(月) 19:52:13 ID:???]
「な、なぜだっ! この場にいる全員は、貴様も含めわしの催眠術で
 明日まで眠りっぱなしのはずだ……なぜ、起きている!?」

そのヨルノズクの声は、驚きと焦りに塗れ震えている。
ジュカインはそれとは対照的に、愉快といった風に喉を震わせながらこう言った。
「クック、簡単なことさ。理由は二つ。
 まず、お前が森全体に『催眠術』をかけた頃には、オレは既に眠っていたんだ。
 そしてもう一つ。オレは、お前のように寝込みを狙ってくる卑怯なやつに対応するために、
 わずかな物音がしただけでも起きれるように鍛えてあるのさっ。ケケケッ」
「ぐっ……」
ヨルノズクはそれを聞くと、悔しそうに歯をむき出しにし、
また納得した風に少し笑みを浮かべながら、数度頷いた。
「ほ、ほほっ、なるほど……だ、だが聞け、ジュカインとやら」
ヨルノズクは数歩進んだ後、ジュカインにしがみつくようにしながら、こう懇願し出した。

「手を出さないでくれ。誤解しているようだが、わしは何もこの森を荒らすつもりは微塵も無い。
 あの人間を連れて帰れればそれでいいのだ! 
 頼む、手を出さないでもらえるか。手を出さねば、わしは以後この森には関わらぬと約束するぞっ」

「……」

333 名前:4/6  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/10(月) 19:55:05 ID:???]
ジュカインはそのヨルノズクを見下ろしながら、考え込むようにしばらく黙り込んでしまう。
そしてしばらく経った後クックッと愉快そうにほくそえみ出したと思うと、
一言、ゆっくりとヨルノズクに向けてこう告げた。

「いいぜ」

「!」
ヨルノズクはその答えに一瞬だけ意外と言った風に目を見開いたが、すぐに元の意地悪い笑みに戻る。
ジュカインはそれを見てまた喉をククッと鳴らすと、続けて口を開いた。
「カハッ、……その人間は俺にとっても心底迷惑な存在でな、早いトコこの森から出てって欲しかったんだ。
 はっきし言って全く好都合さ、ヨルノズクさん。アンタのやろうとしていることはよ……ケケッ」
そのジュカインの言葉に、ヨルノズクの笑みがどんどん深い物になっていく。
そして、ついには口に出して高く笑い出した。
「ほっほっほ!! ……そうかそうか、それはありがたいのう。では……」
ヨルノズクは身を翻し、再び少年の元へと近づこうと歩を進める。
その瞬間、ふとジュカインがこう呟いた。
 

「……と、以前なら言っていただろうがなっ」

334 名前:5/6  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/10(月) 19:59:36 ID:???]
「?」

ジュカインの言葉に、ぴたりとヨルノズクの足が止まる。
間髪入らずジュカインの声がまた響いた。

「残念ながら、だいぶ事情が変わっちまったんだよな。
 オレがさっき寝てから今起きるまでのほんのたった数時間の間に……ね」

「なにィ?」
振り向き、ジュカインを見つめるヨルノズク。その顔にはそれまで浮かべていた笑みが消え、若干の不安の色が浮かんでいる。
ジュカインはそのヨルノズクの不安げな表情を見て、嘲るように半笑いを浮かべる。
「たぶん、お前の『夢食い』って技のせいだろーが、ちょいと奇妙な夢を見てね」
彼はそう言ってから、まだ半笑いを浮かべたままヨルノズクの目を貫くように見つめ出した。
「なっ、何を言っているのだ。そっ、そんなどうでもいい話は……」
ヨルノズクはどこか曰くありげなジュカインの言葉と貫かれるような視線に、思わず声を吃らせる。
「カハハッ、どうでもいい? 
 いいや、テメーにとっては『どうでもいい』筈がない話さ……つまりだなっ」
ジュカインはそこで一旦言葉を止めると、すうっと息を吸いヨルノズク目掛けてこう叫んだ。

「そこの人間には、このオレが絶対に手を出させねぇってことだ!!」

「な……!」 
ヨルノズクは驚くよりも、怒り屈辱に震えるように歯を食いしばり、ジュカインを睨み付け出した。
「カハハッ! 喜びも束の間……だなっ!」
ジュカインはそれを見ると、 まるで一つ望みでも叶ったかのように心底満足げに顔を愉悦に歪めた。
いや、事実一つ望みが叶ったのだろう。
彼にとっては、自分のことを気に入らない者が屈辱に震えて、
自分に対し怒りを露わにする所を見るのは、この上ない快感の一つでもあるのだ。

335 名前:6/6  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/10(月) 20:03:36 ID:???]
「要するに、こうとも言う。『テメーは今ここで再起不能になる』。
 もう二度とあの人間に手を出せないってようにな……」

ジュカインは一転して挑戦的な笑みを浮かべると、ヨルノズクを睨み付けた。
「貴様……このわしに戦いを挑むというのか!?」
「だからそう言ってんだろバーカ。夕べみっともなく逃げ出したような奴がよく言うぜ」
「貴様ァ……!!」
一時は歓喜の色に染まっていたヨルノズクの目は、いまや溢れんばかりの怒気をはらんでいる。
ここまで己を嘲り虚仮にするような態度を取られては、自尊心の高いヨルノズクにとっては当然の事だろう。
しかしヨルノズクはその表情とは裏腹に、落ち着きはらった口調で喋り始めた。
「……夕べわしが逃げたのは……怖気づいたからでも自信が無かったからでもない。
 ……『疲れるから』だ。貴様らを葬れる力はわしには存分にあるが、そんなことで無駄に疲労して句を考える余力が無くなっては困るからだ」
「へぇ? あんま面白くない言い訳だな」
またもジュカインが挑発するように言うが、ヨルノズクはそれを無視し話を続ける。
「……ところが、『今は事情が違う』! 
 相手は貴様一人、句も十分に足りている。
 そして何より……何より何より何よりィ~~~」

「わしをここまで虚仮にした貴様は、このわし直々に懲らしめねば気が済まぬからなァッ!!」

「!」
ついに、ヨルノズクの表情と語調が一致する。
「へぇ、本性を現したのか……? それとも、精一杯の強がりか……?」
ヨルノズクの叫びにもジュカインは些かも動揺せず、どこか余裕のある好戦的な笑みを浮かばせたまま、ヨルノズクを睨み続ける。
水を打ったような静寂と、二匹の間に充満するプレッシャーが、夜闇の緊張をより深めていた。


つづく

336 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/10(月) 20:07:51 ID:???]
乙ー

337 名前: ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/10(月) 20:15:23 ID:???]
>>325
いちおう初代が発売された頃からずっと順番にやってってますけど、
初代だけはやり込んだ覚えがありません。
バグ遊びなら結構やり込んだ覚えありますけどw
メイン以外のポケモンは一つもやったことないですね……ポケダンとかやってみたいんだけどなー

次回は明後日ごろになると思います。

338 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/10(月) 21:04:33 ID:???]
GJ!

339 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/10(月) 22:12:15 ID:???]
ジュカインかっこいいけど、何か挑発とか笑い方とか悪役っぽいなw



340 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/11(火) 00:38:51 ID:???]
GJ

なんだろう……何故だか、ミュウツーの逆襲を思い出す。

是非、>>1も含めてミュウツーの逆襲を見てほしい……。ただ、それだけだ――。

341 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/11(火) 00:42:53 ID:???]
ミュウツーの逆襲見たことない俺にkwsk
・・・別に詳しくじゃなくてもいいけど端的に。

342 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/11(火) 01:04:17 ID:???]
>>341
アイツー「わたしはアイツー。アイを元に作られたの」
ミュウツー「幼女テラモエスwww」

ミュウツー「私は誰だ! 誰が生んでくれと頼んだ!」
フジ「わしが育てた」

カイリュー「怪しいもんじゃなから、ちょっとあの島まできてくれや」
サトシ「イエス・ユア・ハイネス」

ミュウツー「いったれや! コピーポケモンたち!」
サトシ一行「テラツヨス」

ミュウツー「貴様と私、最強はどちらなのか決めるときが来たようだな!」
ミュウ「そんなことより、おはスタの収録が――もう、強引だなぁ」

サトシ「オレの体が石にィィッ!」
ピカチュウ「涙涙涙」
サトシ「も、戻った!」

ミュウツーとコピーポケモンたち「ぶーん」
コバヤシ「あ~る~き~つ~づ~け~て~♪」

343 名前:340 mailto:sage [2007/12/11(火) 02:37:44 ID:???]
>>341

これは内緒だが、笑ってる動画でミュ○ツーと検索すれば、映画が見れるらしいな……

べ、別にあんたのためn(ry

344 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/11(火) 09:50:25 ID:???]
>>342
なにを言っちょるんだお前は

>>343
ツンデレ乙

345 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/11(火) 11:51:44 ID:???]
端的に言うとこんな感じだべ

346 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/11(火) 14:43:03 ID:???]
>>342

我ハココニアリの影響受けすぎワロタ

要は、めっちゃ感動できる>>342だと思え。見て損は無い。

347 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/11(火) 22:11:42 ID:???]
アジール=ピジョット
サーゲス=ヨルノズク
バイオレン=ムクホーク

348 名前:1/8  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/12(水) 18:34:17 ID:???]
静寂が支配する深夜の森。その中で相対する二匹のポケモンがいた。
片やニヤニヤと挑戦的な笑みを浮かべ、片や顔つきに怒りをむき出しにさせ、お互いを睨みつけ合っている。

……数秒の沈黙を経て、ふと挑戦的な笑みを浮かべていたジュカインがゆっくりと膝を折り足に力を込め始める。
次の瞬間、地を蹴りつける音と共にジュカインの姿がその場から消えた。
「!」
怒りの表情を浮かべているヨルノズクは、その表情のまま、ジュカインが姿を消したのに合わせて顔を上に向ける。
ヨルノズクの視線の先にある無数の木々の枝と枝の間を、ジュカインらしき影が不規則に縦横無尽に飛び交っている。
影の飛び交う速度はどんどんと速くなり、常人の目では到底捉え切れぬ程の速さに達しても、まだ衰えることなく加速していく。
『カッハハーッ! 昨晩の戦いで、お前相手に正面からぶつかるのは危ないのは分かったからなっ!
 どうだ、オレが飛んでいる軌道が見えるか!? 見えねぇだろっ、カハハッ!!』
ジュカインは目まぐるしく加速を続けながらも、ヨルノズク目掛けて挑発めいた言葉を投げつける。
ヨルノズクはその挑発に、一層表情の怒りの色を強くしていく。
「さぁ、いくぜっ!!」
不規則に飛び交いひたすら加速を続けていたジュカインの影が、遂にヨルノズク目掛けて飛びかかっていった。

ガキィン!!

「!」
金属音によく似た硬い音が辺りに鳴り響き、それと同時にジュカインは吃驚し目を見開いた。
そして、それとは対照的に、ヨルノズクはニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべる。
ジュカインのリーフブレードでの一撃は、ヨルノズクには届いていなかった。
ヨルノズクとジュカインの間にある壁……リフレクターによって、ジュカインの攻撃は防がれていたのだ。
「……はて、余裕の笑みが消えたの? ほっほっほ」
「…………!」
ジュカインは一筋の冷や汗を流し、驚きに目を見開いた――が、すぐに先ほどの挑戦的な笑みを取り戻す。

「偶然だっ」

349 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/12(水) 18:35:38 ID:???]
キター



350 名前:2/8  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/12(水) 18:37:31 ID:???]
「偶然に決まっているっ!! 
 森の中でのオレのあの動きが、見切られるハズがねぇ!!」

 ジュカインは飛び上がり、再び高速で無数の木々の間を飛び交い始めた。
 ヨルノズクはその様子を見ると愉悦めいた笑みを一層強め、高笑いを始める。

「ほっほっほ!! 貴様、その戦法に大した自信があるようだのォ!!
 だがなっ……このヨルノズクにとってはっ! その戦法は全くの無駄よっ!! 」

 ヨルノズクの目はジュカインの不規則な動きを完全に捉え、それに合わせてギュロギュロと滑っている。

「わしの動体視力を甘く見るなっ。貴様はすばやく動き回りこのわしを上手く撹乱しているつもりだろうが、
 この目には貴様がどこをどう飛び交っているのかよく見える! 蛍光ペンで書き標していくかのように、軌跡すらもハッキリとな……」

 ヨルノズクのその発言は、決して嘘偽りではなかった。
 そしてそれを証明するかのごとく、ジュカインの次の一撃をも……

 ガキィン!!

 ……完璧に防いでしまったのだ。

351 名前:3/8  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/12(水) 18:44:17 ID:???]
「ほっほっほ……さて、『二度目』だのォッ!? 
 『二度目』だが、さァ果たしてこれは偶然かァッ!? ヒャハハッ!!」

ヨルノズクは、今まで受けた挑発をそのまま返すかの如く勝ち誇ったような笑みを浮かべ、ジュカインを睨み付ける。
ジュカインの表情からは笑みが消え、屈辱といった風に歯を噛み顔を歪めている。
「……ちくしょうっ、ちくしょうっ!!」
しかしそれでもジュカインは諦める事なく、三度飛び上がり高速移動を始めた。
それを見たヨルノズクは嘴を思い切り開き舌を曝け出しながら、狂ったように爆笑を始めた。
「ヒャッハハハハハァッ!! ひょっとして『大マヌケ』か貴様ァ~~ッ!?
 わし相手にはそんな『カス』戦法、何回やっても何回やっても通用するわきゃないんだよォッ!!
 まさに馬鹿の一つ覚えだなっ、著しく学習能力が欠如した小汚い緑猿めっ!! ヒャハハハハァッ!!!」
『うるせぇ……うるせぇっ!! 見ていろっ、『三度目の正直』だっ!!』
「……ヒャハハッ!! 三度目の正直だぁ~~?? 二度あることは三度あるんだよクソボケェッ!!」
『黙れっ!!』
十分加速した後、ジュカインは三度目の攻撃をヨルノズクへ浴びせかける。
……しかし、それももはや当然の如く、ヨルノズクのリフレクターによって防がれてしまった。
ヨルノズクはリフレクターの奥からジュカインを見下しながら、再び爆笑を始めた。
「ほほっ、三度目ッ、三度目ェッ!! 洗剤で顔をゴシゴシこすって出直してこ……うっ?」
ふと、ヨルノズクの笑みが止まる。
ジュカインの表情が、不自然なことに喜色に染まっていたからだ。

「貴様、いったい……ぐぎゃっ!?」

352 名前:4/8  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/12(水) 18:50:46 ID:???]
鈍い音が響き渡り、ヨルノズクは頭を押さえながら地面に突っ伏した。

「ぐがっ……な、なぜ……!?」
「クククッ、バーカ」
吐き捨てるように言いながら倒れたヨルノズクに近づき、その傍らから何かを拾い上げる。
野球ボール大の緑色の球体……ジュカインはそれを口元に持っていくと、それに勢いよくかぶりついた。
「なっ……それは……!?」
首だけを上げ、ジュカインの手の中の物体を見つめそれに驚くヨルノズク。
ジュカインはシャクシャクと口の中から小気味よい音を立てながら、説明を始めた。

「これは、『ラムの実』……殻は硬くて重いが、中身はシャクシャクホワホワってな。
 あんまオレの好みな味じゃねーが、自分で落としたんだから食ってあげなきゃいかんよな」

その言葉に、ヨルノズクは驚いたように目を見開く。
「木の実……それをわしの頭上に……?」
「そう。ここら一帯の木は、ラムの実がたくさん生っているからな。
 ちょうどお前の頭上付近にも生っていたから、すれ違いざまにそれを切り落としたんだ。
 しかしそれに気づかなかったってこた、お前はオレの移動のみに気をとられすぎていたってワケだ」
「ぐぅ……ならば、絶望したような言動は全て演技……
 高速移動からの攻撃は、その木の実をわしに落とすための囮だったというのか……!?」
それを聞いたジュカインは見下すような笑みをより一層深くし、挑発するようにヨルノズクへ顔をずいと近づけた。
「クケケッ! 『だったというのか……!?』じゃねーよバーーーカッ!! ケケッ、警戒心が無さ過ぎるぜオマエ……」

「『大マヌケ』ってのは、まさしくテメーのような奴の事を言うんだろうな。カッハハハーッ!!!」

己を散々虚仮にした者が、自身の自慢の戦法をあっさりと破られ驚愕し絶望する。
その光景のあまりの愉快さとカタルシスにヨルノズクは勝ち誇り、『まだ何かあるかもしれない』という警戒心をすっかり忘れてしまっていたのだ。

「貴様……貴様ァ!!」
ヨルノズクはガバリと立ち上がり、その屈辱と怒りに塗れた顔をジュカインに向ける。
瞬間、ヨルノズクの白い眉が青白く発光し、ジュカインを眩く照らした。
「!!」

353 名前:5/8  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/12(水) 18:55:54 ID:???]
「しまっ……!」

焦り、思わずそう口から漏らしたのは、『ヨルノズクの方だった』。
そのヨルノズクの眼前からは、ジュカインの姿は消えていた。ジュカインは咄嗟に飛び上がり念力攻撃を回避したのだ。
そして……

「隙だらけだぜっ」

その声……ジュカインの声が響いたのは、ヨルノズクの背後からだった。
ヨルノズクは振り返る間もなく、その背をジュカインのリーフブレードによって切り裂かれた。
「ぐぁっ!!」
ヨルノズクは、再び前のめりに床に突っ伏した。
ジュカインは余裕の笑みを浮かべ、うつ伏せに倒れているヨルノズクを見下す。
「その念力攻撃をやっている間は、リフレクターを発動しておくことが出来ない……そうだろう?
 昨晩の戦いでオマエがその念力攻撃をやった瞬間、フライゴンを乗せていたリフレクターが消えたのをオレは見てたんだぜ……」
「ぐっ……クソ、がァ……!!」

背中の痛みに足をふらつかせながらもヨルノズクは立ち上がり、鋭い目つきでジュカインを睨み付ける。
ジュカインは、ヨルノズクの睨みを余裕の目つきで受け止めている。
「まだやんのかよ、地味にタフな奴だなぁ……だが立ち上がってどうする?
 リフレクター……念力……オマエのたった二つの手札はこのオレに跡形も無く破られた。
 はてさて、これ以上どうするつもりだい? 悪あがきでもしてみるか? カカッ」
「ハッ、ほざくな」
ヨルノズクは目つきを鋭くさせたまま、口を笑みの形に歪ませた。
その表情にジュカインは、相手の奥底にまだ残されている余裕に気づく。
「まだ何かありそうな顔しやがって」
「ほほっ、そうさ。今までのわしの戦い方は、体が衰えてしまった老い故の戦法……わしの、全盛期の戦い方とは違うのだ!
 本来の戦い方はこの老いた体では疲れるが、この際仕方ない……見せてやろう、このわしの本当の戦い方をなっ!!」
ヨルノズクの目と翼が、勢いよく同時に開かれた。
そして次の瞬間、ヨルノズクの姿が一瞬の内にわずかな残影のみを残し、その場から消え去ったのだ。

「これは……!?」

354 名前:6/8  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/12(水) 19:00:28 ID:???]
ヨルノズクが突如消え去り、きりきりとした緊張感と沈黙のみがその場に残される。
さすがのジュカインも、その状況に緊張の念を感じずにはいられなかった。
「どこへ……?」
ジュカインが思わずそう呟いた次の瞬間。

ピシッ!

「ぐっ!」
何かが掠めた音が高く響くと同時に、ジュカインはうめき声を上げ腕を手で押さえた。
押さえた手の隙間から鮮血が漏れ、腕を伝い滴り落ちる。
ジクジクと焼け付くような痛みが、押さえた手の下に張り付いていた。
「攻撃された……のか?」
ジュカインの表情が一転して引き締まり、警戒するように目を凝らし辺りを見回し始めた。
視界には、森の夜景のみが映されている。変化一つない、いつもの通り木々と葉っぱがあるだけだ。
「!」 

――その風景に微かな変化を感じ、ピクリとジュカインは反応する。
目をじっと凝らさなければ分からないだろう。眼前に広がる無数の木々の合間を、夜闇に紛れ凄まじいスピードで掠めていく影があったのだ。

その影のあまりのスピードに、ジュカインはすぐに影を見逃してしまう。そして、その矢先……
「ぐあっ!」
再び、掠める音と、己のうめき声とが同時に響き渡る。
ジュカインは理解する。また攻撃されたのだ……それも、あのヨルノズクに。
あの影は、ヨルノズクの影なのだろう。ヨルノズクが、並外れたスピードで森中を飛び回っているのだ。
それでいて、暗殺者やなにかの如く羽音も、葉擦れの音すらもほとんど立てず。
「……!」
そこまで思考が行き着いてから、ジュカインはふとある事実に気がつく。

「これは……オレの戦法とほとんど同じじゃあねぇか……!」

355 名前:7/8  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/12(水) 19:04:36 ID:???]
『はぁ、はぁ……ほっほっほ、そうさ、皮肉にも貴様と同じような戦法だのォ!!』
「!」

不意に、ヨルノズクの声が夜空から鳴り響いた。

『ふふっ……わしは貴様のこの戦法を、夜に適したこの目とリフレクターで防いだ。
 だが貴様はどうだ? 『どちらも無い』。『何も無い』。『どちらも無い』。『何も無い』。
 はぁ、はぁ……ほほっ、文字通り、成す術があるまい? 手も足も出せまい? ほっほっ……!』

ヨルノズクの声は疲労困憊といった風に所々に肩息が混じっているが、それでも勝ち誇った風な語気に満ちている。
興奮したようなヨルノズクの言葉が夜空を飛び回り、やがて急速な勢いでジュカインへ迫っていく。
『はぁ、はぁ……わしは、暗殺者と呼ばれていた。
 わずかな光すら集めるこの目、そして羽音を一切立てぬ、この柔らかい翼……
 夜の森で獲物を逃したことは、わしには未だかつて一度も無いのだ!』
言葉が途切れた瞬間、またもジュカインの体に一閃が走った。
「ぐぅっ!」
ジュカインのわき腹が薄く切り裂かれ、鮮血がどくどくと漏れ始める。
傷みに顔を歪め俯くジュカインを嘲るように、再びヨルノズクの声が鳴り響く。
『ほほっ……正直同じ戦法とは言えども、わしは貴様よりもスピードは遅い。
 だが、貴様のその夜に適していない目で見切れる速さでもあるまい! 
 言っておくが、今のわしに油断は無いと思え。貴様は確実にここで朽ちるのだ! はぁ、はぁ……ハヒヒヒッ!!』
「……朽ちる……? ククッ……ケケケッ」
『?』
ジュカインは曰くありげな笑い声を上げながら、まだ俯いたまま独り言のように何か喋り始める。

「オレは生きている内の大半は、アイツのために費やしてきたんだ。
 親すらも知らず幼少時を虐待されて過ごしたオレに……アイツは初めて、温もりを与えてくれた……
 そんなアイツに、オレは……オレは……」

356 名前:8/8  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/12(水) 19:10:55 ID:???]
『? ……ほほっ、ボソボソ言ってちゃあ聞こえぬのォ! 
 命乞いは聞こえるように言わねば意味が無いぞっ……はぁ、はぁっはははは……ハハッ!!』

ヨルノズクの声の飛行が止まり、一点に留まる。どこかの木の枝に止まり羽休めをし出したのだろう。
ジュカインは、ふと呟くのをやめしばらく呼吸を整え出したと思うと、
不意に顔を上げ、ヨルノズクのいるであろう方向へ顔を向けニッと笑みを浮かべた。
「はぁ……はぁ……ククッ」
次の瞬間、ジュカインは笑みを浮かべたまま、姿の見えないヨルノズクへ向けて言葉を投げつけた。

「オレがここで朽ちるという事は、負けるという事は、アイツを守れないって事だ。
 そして、オレはいつだってアイツを守ってきたし、この後アイツに『償わなきゃいけない事』もある……
 だからオレは負けない……無様に負けんのはテメーの方だってことだよっ!! カハハハーッ!!」

そう叫ぶジュカインの目つきは、恐怖や諦めなどの念はまだ一片も感じられない挑戦的な目つきだった。

その言葉にヨルノズクもいささか動揺したのか、反応が返ってきたのはしばらくの沈黙を挟んでからのことだった。

『ほう……この期に及んで精神論か? だがそんな物では、勝つ可能性は1%たりとも上がらんぞ、ほっほ……』
「……確かにお前の言う通り、今は『精神論』や『根性論』なんかじゃあどうにもならない状況さ……
 だがなっ。オレはたった今、その戦法を破る方法を思いついた所だぜ」
『なに?』
ジュカインはまだ笑みを浮かべながら、己の尻尾へ手を伸ばしガサガサとまさぐり始める。
数秒後、ジュカインは尻尾から手を離す。離れたジュカインの手は、握りこぶしを形作っていた。
「見えるか、ヨルノズク? オレは『これ』を使って、お前のその戦法を破るぜ」
ジュカインは拳を握っている方の手を真っ直ぐ突き出し、ゆっくりと指を開いていく。
そうして晒された手の平の上には、幾つもの小さい植物の種が散らばっていた。

「この、『宿木の種』でっ!!  この『宿木の種』を使って、お前のその戦法を破ってやるよっ!! カハハハーッ!!」


つづく

357 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/12(水) 19:15:02 ID:???]
乙ー(´・ω・b

358 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/12(水) 19:19:30 ID:???]
意外と頑張るねヨルノズクさんw

359 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/12(水) 20:29:13 ID:???]
GJ
宿り木の種で何をどうするんだろう?



360 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/12(水) 23:27:38 ID:???]
この小説に足りないのは紅一点だと思うのだがどうだろう

361 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/12(水) 23:33:26 ID:???]
男気が溢れておk
無理に登場する必要もないだろう

362 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/12(水) 23:48:56 ID:???]
乙女チックなフライゴン君がいれば今は大丈夫だと思うよ。

さて、次回も>>1に期待しつつ就寝、と……。

363 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/12(水) 23:49:24 ID:???]
ユキメノコいたじゃん

364 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/13(木) 00:18:39 ID:???]
メノコはあんまタイプじゃ(ry

365 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/13(木) 00:37:39 ID:???]
そもそも、モンスターだもんね。

366 名前:1/7  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/13(木) 18:25:00 ID:???]
『それは植物の種……かの? そんなモノで何をするつもりだ?』

遥か遠くから響いてくるヨルノズクの声。
ジュカインはその問いを無言の笑みで返すとふと膝を折り、土を見つめだした。
そしておもむろに指を使い己の周りの土に浅い穴を開け、手の中の『宿木の種』をそこに植え始めたのだ。

『な……何をしているのだ……?』
何をしているか自体は見れば明らかだが、
今までの流れからのその行動のあまりの脈絡の無さに、思わずヨルノズクは疑問符を投げかけてしまう。
ジュカインは二度目の問いを受けるとまたもニッと笑みを浮かべる。
しかし今度はそれだけではなく、言葉も添えてヨルノズクへと返した。

「見て分からないか? 木を植えているんだ……」

言いながら、ジュカインは立ち上がる。ひとしきり種を自らの周りに植え終わった後のことだった。
当然のようなその答えに、ヨルノズクは徐々に苛立ちを募らせていく。
『その理由を聞いているのだ。まさか貴様、この期に及んでまだこのわしをおちょくっているつもりなのか!?』
怒りを押し殺したような震えた声で、ヨルノズクはそう叫ぶ。
その問いに対してジュカインは……『勿論さ』とでも言わんばかりに、満面の笑顔で返した。
 
『貴様っ!!』
およそ身の程をわきまえず挑発を続けるジュカインに対して、ヨルノズクの堪忍袋の緒が引きちぎられる。
ヨルノズクは羽休めを終え、木の間をスラロームしながらジュカイン目掛けて突っかけた。
「!」
ヨルノズクの飛来を感じ取り、ジュカインは避けようと身を捻る。
しかし目にも留まらぬ敵の攻撃を避けられるはずも無く、ジュカインの体はまたもヨルノズクによって薄く切り裂かれた。
うめき声を後に、ヨルノズクは勢いのままにジュカインの傍らを通り過ぎていく。
勢いの落ちた数十メートル先でヨルノズクはUターンをし、再びジュカイン目掛けて突っかけた。
『ほほっ、ジワジワいたぶってやるぞォ!! 今宵は貴様の苦しむ顔を肴に句三昧といくかのっ!! ……む?』

ヨルノズクは、ジュカインがその両の手にまた何かを持っているのに気がついた。

367 名前:2/7  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/13(木) 18:34:16 ID:???]
ジュカインが持っているのは、木の実ほどの大きさの黄色い種。それを両手いっぱいに持っている。
おそらく、先程まで彼自身の背中についていたものであろう。
……この戦法を破るために使うのか、それとも、また挑発を仕掛けるためだけに使うのか?
ヨルノズクの脳内にふと浮かぶ二択。彼が結論付けたのは後者だった。

『性懲りも無くまた無駄な挑発をするつもりかッ!!』
気にせずヨルノズクはジュカインに突っ込み、すれ違いざまに翼で肩の肉を抉り取る。
「ぐぁっ!!」
鋭い痛みに顔を歪め、呻き声を上げるジュカイン。
同時に、攻撃された反動からか、彼の手の中にあった複数の黄色い種が高く宙を舞った。
『ほほっ、早くも手放してしまったか……何に使おうとしていたかは分からぬが、残念だったのォッ……!』
首だけを後ろに向けジュカインの様子を見ながら、勝ち誇り皮肉めいた言葉を投げつけるヨルノズク。

……その皮肉めいた言葉を投げつけた瞬間、ヨルノズクはふとつい先程のことを思い出す。
勝ち誇り油断したことにより警戒心をなくし、不意を打たれ一撃を浴びてしまったことを。
そうだ、油断は禁物。警戒は常に怠ってはならない。

ヨルノズクは数十メートル先でUターンすると同時に、今度は真っ直ぐにジュカインを見据えながら勝ちを確信した言葉を投げつけた。

『もはや貴様に打つ手はないだろうが、これ以上遊んでいては足元を掬われかねん……次で終わりだッ!!』

ヨルノズクは嘴を真っ直ぐに突き出し、体自身を一本の槍のようにさせてジュカインへ突っ込んでいく。
狙いはジュカインの体の中心。言葉通り、次の一撃で終わらせる気なのだ。
「くっ……はぁ、はぁ……!」
ジュカインは未だ顔を痛みに歪めたまま、顔を上げ……
――全てを見透かしていたかのように、笑みを浮かべた。

「違うねッ! その『逆』だッ!!」

368 名前:3/7  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/13(木) 18:37:53 ID:???]
(全てが――)

ジュカインは両腕を、『リーフブレード』を、頭上で交差させる。

(筋書き通り――)

宙を舞っていた幾つもの黄色い種が全て切り裂かれ、
その中から漏れ出た淡黄色の液体が、ジュカイン及びその周辺にシャワーのように降り注いだ。
地面に落ちたその液体は、地中へじわじわと染み込んでいく。

『何をしている……!?』
ヨルノズクはその光景に多少の動揺を見せるが、それでもスピードを落とす事は無い。
もっとも、もはや容易にスピードを落とすことは出来ない程に体に勢いがついてしまっていたから、というのもあるが。
『さァ死ねッ!!』
最後の一撃が、音もなく急速なスピードでジュカインへ迫っていく。
常人の目では、間近まで来るまで反応も出来ぬ程の驚異的なスピードで――
 
ジュカインがその最後の一撃に体を反応させたのは、ヨルノズクがまさしく目の前まで迫ってきてからのことだった。
無論、迎え撃つことも避けることも出来るわけもなく……
そう、ジュカイン自身は、全く何もすることは出来なかったが……

ヨルノズクの最後の一撃はジュカインには届かず、彼の僅か手前でその動きを止めていた。 

「げ……げぼァァーーっ!?」

そして同時に、ヨルノズクの呻き声が森中に響き渡った。

369 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/13(木) 18:38:47 ID:???]
勝ったか?



370 名前:4/7  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/13(木) 18:41:14 ID:???]
「な……なぜだァッ!! この痛み……なぜ……『下』から……!?」
口から血を撒き散らしながら、驚愕の表情で己の体を見つめるヨルノズク。

細長く、先端が鋭く尖っている何本もの『棒』が、下からヨルノズクの体を貫いていた。

その『棒』は根元で幾つか枝分かれしており、そしてジュカインの周辺の地中から満遍なく……生えている。
ヨルノズクの脳内に、理解と同時に衝撃が走った。

「まさかこの棒は……ガボッ、『枝』ッ!? ということは、これは先ほど貴様が植えていた『宿木』かッ!? 」

「カッハハ、いかにも……だぜっ」
宿木の林の中心に立つジュカインは、少し苦しそうにしながらも勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「バ、バカなァッ!! 木が……木が、一瞬でこれだけ成長するわけがァッ、ガボッ、ゲホォッ!! あるッ、あるワケッ、ボゲボゲボゲゲ」
ヨルノズクは今の事態に到底納得出来ず、口から血が漏れ出るのもまるでお構いなしに叫び続ける。
そしてジュカインは、『それが聞きたかった』とでも言う風に、声を弾ませながら応えた。
「ケケケッ、耄碌過ぎてる割に視野が狭いヤツめっ!! 見ての通り、有り得るんだよ。条件さえ揃えばなっ!!」

「これ以上ないという程に良質な、この森の土!!
 栄養を無尽蔵に吸収し、急激なスピードで成長する宿木の種!!
 そして、植物を成長させる栄養が超高密度に濃縮された、このオレの種!!
 この三つが揃えば、有り得るわけさ。この『宿木』の超急激な成長もなっ!!」

「まっ、本当はこの『宿木のバリケード』にお前が頭から突っ込んで引っかかってくれればいい、程度に思ってたが……
 こんなピッタリぶっ刺さってくれるとは、なかなかの悪運の持ち主だねヨルノズクさんっ! クケケッ」
「ぐ、ぐう~~~ぐうう~~~~!!」

371 名前:5/7  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/13(木) 18:44:30 ID:???]
「ぐっ……まだ、まだだ……!」
「!」
瞬間ヨルノズクの眉が青白く光ったと思うと、彼の体が徐々に浮き上がっていった。
己を貫いていた枝から体が離れるまで浮き上がると、眉の発光が収まり、糸が切れたように横なりに地面に落ちた。
「がはっ! げほっ、げほぉっ……」
体が地面に叩きつけられた衝撃で嗚咽を漏らし血を吐きながらも、ヨルノズクは強い目つきでジュカインを睨み付ける。
ジュカインは木の枝を掻き分け、倒れているヨルノズクの前に立った。
「カハハッ、いくらお前がタフとはいえ、そのダメージじゃもはや立ち上がるのも無理だぜ!」
ジュカインは文字通りヨルノズクを見下しながら、勝ちを確信した発言を繰り出した。
「ぐぅ……ぐぅ~~~」
顔をしわくちゃに歪め、隙間風のような唸り声を上げるヨルノズク。
彼の脳内には、痛みと屈辱と焦りがぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。

(バカな……バカなっ!! このわしが、こんなヤツに、こんなァ……!!
 ちくしょう、句をっ、句をっ……! もっと句がっ、もっと句があれば……
 なぜだっ、句がっ、句が思い浮かばぬゥ~~~~句がっ、句がっ、句句句句句句句)

「そういえば、お前……句を作るのが好きだったっけか?」
ふと、ヨルノズクのぐちゃぐちゃの思考の中に、ジュカインの声が割り込んでくる。
「な……なに?」
一瞬呆けた顔を浮かべるヨルノズクに、ジュカインは不敵な笑みで返すと同時にこう言った。

「作ってみせろよ。『辞世の句』とやらをよ……ククッ」

なおも相手の怒りと屈辱を煽るようなジュカインの発言。 
「ぐぅ……ぐうぅ~~~~~ッ!!(だからその『句』が思い浮かばねェんだよクソがァ~~~~~ッ!!)」
ヨルノズクはこれ以上ないという程に顔に皺を寄せ、獣のような唸り声を一層強めた。

372 名前:6/7  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/13(木) 18:48:02 ID:???]
「いやァ……作れるわけがないかっ」
ジュカインがふと、呟くようにそう漏らす。
一つ小さいため息をはさんでから、彼は嘲笑を交えた口調でヨルノズクへ向けてこう言った。
「相手の苦しむ顔を見るとか……絶望する顔を見るとか……
 『そんなモノ』に頼らなきゃロクな句を作れない、いや、作ろうともしないようなお前が、
 こんな土壇場で句なんか作れるわきゃないよな……カハハッ」
ヨルノズクは大きく目を見開いた。
「き、きさ……きさ……!!」
自分自身認めようとしていなかった己の本質を見透かされた発言。
それはヨルノズクにとって、今までのどの挑発よりも屈辱的であった事は彼の表情と口調からも歴然である。
そしてそれをジュカインは察し、更にダメ押しの如くこう言い放った。 
「ジャジャ~ン、これぞまさに予感的中っ! カハハハッ!」
「……!」
勝ちを確信した余裕なのか、これまでに受けた傷や危機の仕返しとばかりに、
ジュカインは重ね重ね相手を虚仮にし、相手の怒りと屈辱を煽る発言を繰り返していく。
そして、遂にヨルノズクの怒りは頂点を迎え、全身の痛みすらも超越するに至った。
「貴様……ガボッ、貴様ァ……殺すっ、殺すッ!!」
ヨルノズクが、全身の傷口から血を漏れ出させよろめきながらも、立ち上がったのだ。
それにはさすがのジュカインも驚き、表情を引き締め構えを取る。
ヨルノズクの赤く光る眼ははっきりとジュカインを捕らえ、そして一層強く光りだした。
 
「ぶち殺す……殺してやるぞっ、このクサレがァーーッ!!!」

ヨルノズクは、血でガラガラの喉を震わせ怒号を上げながら、最後の力を振り絞りジュカイン目掛けて突っかけた。
しかしそのスピードは、ダメージのためか先程と比べると遥かに遅く……
……次の瞬間にはジュカインのリーフブレードに切り裂かれ、悲鳴と共に床に突っ伏していた。

「残念、字余りっ」

倒れたヨルノズクへ向けて吐き捨てるようにそう呟き、舌を出すジュカイン。
如何にタフなヨルノズクと言えど、もはや立ち上がることはなかった。

373 名前:7/7  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/13(木) 18:50:34 ID:???]
「はぁ、はぁ……」
細かく肩息をつきながら、ジュカインは倒れたヨルノズクを見下ろす。
もはや立ち上がらないことを確認すると、細かい肩息は大きい一つのため息と変わり、
それと同時に勢いよく地面に座り込んだ。

「はぁーっ! 危なかったぜ……やられるかとも思ったが……」
ジュカインはヨルノズクと対峙していた時にはおくびも出さなかった弱気な発言をしながら、
目を横にやり、倒れ込みピクリとも動かないヨルノズクを覗き込んだ。
「みんなが起きてこれ見たら、ビックリするな……森の奥にでも埋めてくっかな。ケケケッ……」
満足げではあるがどこか力ない笑い声を上げながらジュカインは立ち上がり、
そのまま先程ヨルノズクが捕らえようとしていた人間の少年の元へ歩み寄っていった。
「……」
少年の寝ている網の前に立つジュカイン。
ジュカインは少年の顔へ手を伸ばし、眉の下ほどまで伸びている彼の前髪をかき上げ、その寝顔を覗き見た。
少年の寝顔は、ヨルノズクの夢食いの支配から逃れたにも関わらず、依然として苦渋に満ちている。

「……『コウイチ』……」

淋しげな目つきで少年の寝顔を見つめながら、その少年の名を呟くジュカイン。
ジュカインはそのまましばらくコウイチの顔をじっと見つめ続けていたと思うと、ふと空を見上げた。
枝葉の隙間から覗く空は、未だに深いねずみ色に染まっている。
「こりゃあもう一眠り、だな……」
ジュカインはため息混じりにそう呟き、再び視線をコウイチの顔へと戻した。
次第にジュカインの淋しげな目つきは、ある種の何かの決意の色に染まっていく。
「大丈夫だぞ、コウイチ。明日の朝、オレは必ずお前に精一杯の謝罪をし、そしてお前の元に戻るっ。
 そうさ、何事もなかったかのように……『何事もなかったかのように』……ごめん、ごめんな、コウイチっ」
拳を握り締め、己にも言い聞かせるようにジュカインは言葉を震わせそう呟く。
早く目の前の少年を苦しみから解放させてやりたいのに、彼が目覚めるまでは有り余るほどの時間がある。
胸の内がもどかしく、歯がゆい。それを誤魔化すように、ジュカインはひたすら呟き続けた。
「必ず……必ずだっ」
 
「『必ず』……」

374 名前: ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/13(木) 18:54:11 ID:???]
ジュカイン対ヨルノズクに時間かけすぎたかも……
次回は、二日後のいつもの時間からです。ではでは。

375 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/13(木) 20:41:51 ID:???]
面白くなってきたな
乙です

376 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/13(木) 22:13:54 ID:???]
ジュカインの背中のアレを利用するとは…

377 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:age [2007/12/14(金) 00:13:16 ID:???]

ついでに落ちてきたからいっちょ上げとくわ

378 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/14(金) 00:30:33 ID:???]
>>377が上げたせいで俺が来ました

379 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/14(金) 00:32:07 ID:???]
いらっしゃい



380 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/14(金) 08:00:48 ID:???]
>>373
まさかジュカインの死亡フラグ?

381 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/14(金) 08:05:32 ID:???]
何かまだ一波乱ありそうな含み持たせてるな

382 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/14(金) 15:59:26 ID:???]
だれか絵を描く人とかいないんかな

383 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/14(金) 23:25:29 ID:???]
GJ!
次回からやっとコウイチくん視点に戻るかな?

384 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/15(土) 11:04:33 ID:???]
まあ絵はイメージを固定化するからな
作者のイメージを絵にできるのは基本作者だけ

385 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/15(土) 12:29:46 ID:???]
これの場合は主人公くん以外はポケモンだし、場面を再現して描くくらいなら何とか……

386 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/15(土) 16:30:28 ID:???]
とりあえず、>>1の一番好きなポケモンは確実にフライゴン
で、一番嫌いなポケモンはハスブレロ。
どうだ、正解だろう。

387 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/15(土) 18:05:58 ID:???]
いや、意外に逆かもしれん
でもドラゴンタイプはそれなりに好きなのかもな
特別嫌いってこともないだろうし…自分で使う分には

388 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/15(土) 23:00:47 ID:???]
というか、本気で嫌いだったら自分の作品に出したりしないだろうな。

389 名前: ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/16(日) 19:32:26 ID:???]
予定外の用事が入って今日は投下出来なくなりました。
明日投下しますね。ゴメンナサイ……

>>386
ハスブレロは別に嫌いじゃあないですけど、
フライゴンが一番好きってのは合ってますよ。大好きです。
他にはガーメイルとかオニゴーリとか、微妙にマイナーなポケモンが好きですかね。





390 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/16(日) 20:58:25 ID:???]
頑張れ

391 名前:1/13  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/17(月) 19:38:44 ID:???]
葉擦れの音と小鳥のさえずりにつられ、ぼくは無意識のままうっすらと目を開けた。 

まずぼくの視界に漠然と入ってきた物は、空を塗りつぶしている新緑色のまだら模様と、
それに幾つもの亀裂を入れている木々。そして、それらの隙間から漏れる暖かい木漏れ日だった。

「ん……んふ……ふぁ?」

一テンポ遅れて、ようやくぼくは眠りから覚めたことを理解する。
何だか、とても長い間別の次元に飛んでいたような、そんな感覚がする。
まだ何か靄がかかったかのように薄ぼんやりとした意識の中、
とりあえずうっとうしく目を射し続ける木漏れ日から逃れるように、ぼくは薄目を開けたまま寝返りをうった。
そこには、木と木の間に張られた網のベッドと、そこに横たわる緑色の生き物……フライゴンの寝顔が見える。
「……ふらいごん……」
ゼリーのドームのような二つの赤い膜。その中にある目は、うっとりと閉じられている。
こちらに向けられている赤ちゃんのように小さな口は、微かに聞こえる吐息の音と同じタイミングで開いたり閉じたりを繰り返している。
いとおしいぼくの、ぼくだけのフライゴンの寝顔だア……

……なぜだろう。全く和む気になれないのは。

大自然の真っ只中で穏やかに迎える早朝。隣には自分のポケモンの可愛い寝顔。
なぜだろう。こんな……おそらく誰もが羨むような贅沢な状況で、『全く晴々とした気分になれない』のは。 
 
そうだ。目覚めてからずっとぼくの胸の内に、ずしりと『黒く重いもの』が渦巻いているからだ。
ある種の絶望?とでも呼んでいいのかもしれない。
ゆっくりと、頭を覆う靄が晴れていく。そしてそれにつれ、胸のうちの黒く重いものは何か、ぼくは思い出していく。
……そうだ、思い出したぞ、この『黒くて重いもの』は何か。そして、全く晴々とした気持ちになれないこの奇妙な朝の正体は何なのか、分かったぞ。

『別れの朝』だ。

392 名前:2/13  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/17(月) 19:41:30 ID:???]
「ん……ふあぁぁぁ~~~!! よく寝たぁぁ~~~~!!」
「森よ、今日も晴れやかな朝を頂き感謝します……」
「今日はよく寝たなぁ! ほんっとよく寝たっ! ほんっと、ほんっとよく寝たねマジで!」

やがて辺りから。キモリたち森の住民達のざわめきが聞こえてきた。みんなも目を覚まし始めたんだ。
そんな中、ぼくは構わず目を開け寝転がったままでいる。
こんな美しい自然の中に目覚めて、起き上がって大欠伸の一つもする気になれない子供なんて多分ぼくくらいの物だろう。

「人間様、朝ですぞ」
老人と中年のちょうど真ん中くらいの声……族長さんの声が背後から聞こえる。族長さんがぼくを起こしに来たんだ。
ぼくはその体勢のままころりと寝返りを打ち、族長さんの方を向く。
「……もう、起きてますよっ」
言葉と同時に手をつき上体を起こし、少し笑みを浮かべる。
「お、おお、失礼したな」
族長さんはそう言いながら、まるで一つ罪でも犯したかのように狼狽したような表情を浮かべる。
……ぼくに気を使っているのが目に見えて分かる。『機嫌を損ねると何をされるか分からない』とでも思っているんだろうか?
地面に足をつき立ち上がり、怒っているような印象を与えないようあくまで笑顔は崩さず、ぼくは族長さんへこう言った。

「お心遣い感謝します……だけど、『もう』その必要はありませんよ、族長さん」

「え?」
呆けたような声を上げる族長さん。
「一晩も立てば、さすがに気持ちの整理もつきますよ。
 これ以上ぼくがここにいる理由もないし、いていい理由もありません……そうでしょ?」
ぼくは一度だけため息をつき、族長さんの顔を軽く見据えながらこう言った。

「一晩泊めていただいて本当にありがとうございました。ぼくはもうこの森を出ます」

393 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/17(月) 19:42:29 ID:???]
ktkr

394 名前:3/13  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/17(月) 19:44:43 ID:???]
「なっ」
まるで恐れていた事が起きたかのように、族長さんは目を見開きおろおろと唇を震わせる。
……ジュカインの件について、族長さんは自分自身に負い目を持っているつもりでいるんだろう。
でも、結果的にこうなってしまったのはいわば運命のいたずらのようなもの。族長さんが負い目をもつ必要がどこにあるだろうか。

「族長さん……何も気にする必要は無いですよ。あなたは何も悪くないんだから」
再び笑顔を作り族長さんをなだめる様にそう言うと、族長さんは眉尻を下げ、
ぼくの言ったことを全く無視して、罪悪感に満ちた声で、こう答えた。
「……すまぬ。わしにはどうする事も出来なかったのだ……」
「……!!」
……まだ罪悪感が抜け切れていないような族長さんの態度に、腹が立ってくる。
あなたがどう負い目に持とうが、何も変わらないっていうのに。
あなた自身は何の損もないどころか、得してばっかの癖に。
族長さんは、自分は何ともないという余裕を持て余してぼくを憐れんでいるんだ。
ある意味、ぼくは族長さんに『見下されている』んだ。
ぼくは気がつけば笑顔が消えていた。

『だから……言ったでしょ。族長さんは何も気にする必要はないって。
 そうやって変に負い目に持たれるとね……後味が悪くって、胸クソ悪くって、ホント困るんですよねっ!』

……ふと、そんな言葉が咄嗟に喉から出掛かるが、ぼくは何とかそれを喉の内にとどめる。
……ぼくは何を怒っているんだ。
怒って八つ当たりなんて、浅ましくて、みっともない。ぼくは軽い自己嫌悪に陥った。

395 名前:4/13  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/17(月) 19:48:50 ID:???]
「ふああ~~あぁぁ……朝だぁァ~~……」
ふと、間延びしたフライゴンの声が聞こえてくる。フライゴンが目を覚ましたんだ。
ぼくはフライゴンの方へ視線を移し、歩み寄り声をかけた。
「おはよう、フライゴン」
「ふにゃ……んあ、おはようございまぁ~~す……」
まだ半分眠りについているかのような、ボケた返事の仕方だ。
フライゴンはそのまましばらく、むにゃむにゃとまどろんだ顔のままホケーっとぼくを見つめていたが、
いきなり目が覚めたかのように目を見開くと、声を荒げてぼくに突っかかって来た、
「コ、コウイチくん!! きょっ、今日はそのっ、あのっ、ジュカインのっ、そのォっ……!」
フライゴンは寝起きで頭が上手く回らないのか、しどろもどろになっている。
……何を言いたいかは大体察しがつく。ぼくはゆっくりと答えた。
「ジュカインの事はもう諦めることに決めたよ。さぁ、森を出ようかフライゴン」
「えっ」
フライゴンの顔が一瞬固まる――が、すぐにハッと目を見開き、大声でぼくに突っかかってきた。
「ちょちょっ、ちょっと待ってくださいよォっ!! 昨日の晩……まだ諦めないって言ってませんでしたっ!?」
確かに言った。言ったけれど……
ぼくは下を向き、そのままフライゴンに向けて言う。
「昨日は昨日、一晩たって考えが変わったのさ
 ぼくがこのまま執着していたら、ジュカインは迷惑だろうし、それに……
 ジュカインから非難されるのが辛いんだ。彼に記憶が無いことは分かっていても、
 あの声とあの姿で非難されるのは……辛いんだ」
「ええっ、そんな……」
昨晩、寝る直前の時のぼくは何かおかしかったんだ。
衝撃ばかりで頭が対応できなくて、自分のことしか考えられなかった。
でも、一晩経った今は違う。人間は寝てる間に頭の中が整理されるっていうしね。
今のぼくは冷静だ。辛いことだって……冷静に受け止められる。

「……ん……」
フライゴンは、少し悲しそうに俯く。
ぼくは、慰めるようにフライゴンの緑色の頭をゆっくりと撫でてあげた。

……ふと顔を上げると、ぼくの視線の先に彼が……ジュカインがいた。

396 名前:5/14  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/17(月) 19:51:31 ID:???]
「おい、ちょっと待ってくれっ」
ジュカインは何故だか少し焦ったような顔つきで、ぼく達の元へ駆け寄ってくる。
そして、全く予想外な言葉をぼくに投げかけてきた。

「お前ら、帰るのか? この森から出るのか?」

「……?」
思わず、ぼくはキョトンと顔を困惑に呆けさせてしまう。
……何のつもりだろう? 
『このジュカイン』はこの期に及んで、何を言いたいっていうのか。

またぼくを、虚仮にするつもりなんだろうか……?

ぼくはジュカインの顔を見据えながら、静かにこう言った。

「……ねぇ、森から出ろって言ったのは誰……? きみでしょ……?
 今さら何のつもりかなぁ……また、ぼく達を虚仮にするつもり……?」

……図らずも、冷静な口調の中に若干苛立ちや怒りが入り混じってしまう。
「…………!」
ジュカインは何故だかそのぼくの発言に、唇を結び黙りこくってしまう。
……まるでショックを受けているよう……だけど、どうせぼくの気のせいだ。


397 名前:名無しさん、君に決めた! mailto:sage [2007/12/17(月) 19:53:00 ID:???]
コウイチくんが何か荒みかけてきてる…

398 名前:6/14  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/17(月) 19:56:47 ID:???]
「オ、オレは……」
それだけ言うと、ジュカインは何か言いたげに口元をモゴモゴさせながら俯いてしまう。
昨晩の威勢がまるで感じられない。まさに一晩の内に別人になってしまったかのように……
……別人?

――まさかっ

ある一つの推測が浮かぶと同時に、鼓動が波打ち、景色が変わったかのような錯覚を覚える。

この一晩に何かがあって……ジュカインの記憶が戻ったっ……?

そこまで都合のいい事があるものか――とは思っても、ジュカインのこの態度の急変には期待せずにはいられない。
……そうだ。もしかしたら……もしかしたらだ……!
風の音がよく聞こえる。期待感の入り混じった緊張感が、ぼくの胸のうちに充満し始める。

……沈黙。何とも言い難い、『妙な沈黙』。『変な沈黙』。
……何だ、この沈黙は? なんで黙っている。なんで何も喋ろうとしないんだよ、ジュカイン……!

数分後苛付くような沈黙を経て、ようやくジュカインが顔を上げた。
……次の瞬間ジュカインがぼくに言った言葉で、ぼくの期待は粉みじんに打ち砕かれた。 


「……じゃあな、コウイチ」



399 名前:7/14  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/17(月) 20:01:34 ID:???]
「!?」

ジュカインのその一言を聞いた時、ぼくは『耳を疑った』。
理解は遅れてやってきて、その瞬間先ほどまであった胸の内の期待感は一瞬にして虚無感へと変わった。
音が、匂いが、その瞬間だけぼくだけから消え去る。
時が止まったかのような沈黙が、ぼくだけを包み込んだ。

……この感情……これは、ただ『期待を裏切られたから』……だけではない。
こんな結果……『考えてもいなかった』。

『コウイチ』。 
ジュカインはぼくのことをそう呼んだ。ぼくを名前で呼んだんだ。
……昨晩、ぼくは一度も『自分の名前をジュカインに教えてない』……
そう、ぼくの名前を『このジュカイン』は『知らないはず』なのに……ぼくの名前を呼んだっ!!
そして『そのうえで』っ! そのうえで……ジュカインは『じゃあな』とっ!! 『じゃあな』と言ったっ!!

崖っぷちに立たされていた気分が、いまや崖の下に思い切り突き落とされた気分だ。
これ以上ないというぐらいに、思いっきり……

「……くくくっ、はは、あははは」
ある意味スガスガしい気分に、ぼくは思わず乾いた笑い声を上げてしまう。
何て馬鹿だったんだ、ぼくは。
……『記憶喪失』? 『記憶が戻れば』?
昨晩ぼくが喋った言葉の一つ一つ、考えた事柄の一つ一つ、全てが『恥』に変わる。

まるで『ピエロ』じゃないか、これじゃあ。ぼくは、『自惚れもいいとこ』なピエロだったんじゃないか。

木々が、ぼくを見下している。微かに漏れる木漏れ日が、嘲るようにぼくを照らし続けている。
頭が麻痺してゆく。何だか、もうこの件については何もかもがどうでもよくなってきた。

……ふと、フライゴンがぼくの肩を叩き呼び止めた。



400 名前:8/14  ◆8z/U87HgHc mailto:sage [2007/12/17(月) 20:05:09 ID:???]
「あのっ、コウイチくん……ボク、その、トイレに行きたいんですけど……ちょっと、いいですか?」
「へ?」

フライゴンの少々間抜けな発言に、思わずぼくはつい呆けた声を上げてしまう。
「ああ、うん……いいけど……でも、する場所とかは、ちゃんと族長さんに聞いてから行ってね」
「はい、ありがとうございます」
平静を取り戻し返事を返すと、フライゴンはぼくにそう一礼しからすぐ近くの族長さんの元へ駆け寄っていった。
「あのう、ここってトイレしていい場所ありますかねー、族長さん……」
「ああ、あるが……ここからは少し遠い場所だから、わしが案内するぞ」
「案内……あ、いや、別にいいですよー、族長さんは案内してくれなくても……」
族長さんは、フライゴンのその一言に疑問めいた表情を浮かべた。
「ん? でも、案内しないと場所分からないだろう。そこら辺にされちゃあ困るぞっ」
「あいや、そういう意味じゃなくてですねー……」
フライゴンはどこか曰くありげに目を細めニッと笑みを浮かべると、不意にジュカインの方を指差し元気にこう言った。

「ジュカインが案内してくれるらしいですからっ!」

「え、オレ?」
「そう、お前っ」
フライゴンはニコ~っと芝居めいた笑みを浮かべながらジュカインに近づき、その腕をギュッと掴む。
「ま、待てよォ、オレ案内するなんて言った覚えないぞ!」
「るっさいなー、そんな細かいこと気にしないで、さぁ行くよ!!」
「おい、ちょ……」
半ば強引に、フライゴンはジュカインの腕を引っ張って森の奥へ消えてしまった。
ぼくも、族長さん達も、唖然とした表情のまま固まってしまう。

……トイレなんて、嘘だろう。フライゴンは、ジュカインと二人きりで何かを話すために、遠くに離れたんだ。
それで、何を話すつもりだって言うんだろう? 何を言っても、恐らく無駄だというのに。

そう、『記憶』なんてそもそも関係なかったのだから。そう、ジュカインは『はじめから』……『はじめから』……






[ 続きを読む ] / [ 携帯版 ]

前100 次100 最新50 [ このスレをブックマーク! 携帯に送る ] 2chのread.cgiへ
[+板 最近立ったスレ&熱いスレ一覧 : +板 最近立ったスレ/記者別一覧](;´∀`)<492KB

read.cgi ver5.27 [feat.BBS2 +1.6] / e.0.2 (02/09/03) / eucaly.net products.
担当:undef