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FFの恋する小説スレPart9



1 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/01(木) 18:30:30 ID:c+ypqm/+0]
文章で遊べる小説スレです。
SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
皆様のボケ、ツッコミ、イッパツネタもщ(゚Д゚щ)カモーン
=======================================================================
 ※(*´Д`)ハァハァは有りですが、エロは無しでお願いします。
 ※sage推奨。
 ※己が萌えにかけて、煽り荒らしはスルー。(゚ε゚)キニシナイ!! マターリいきましょう。
 ※職人がここに投稿するのは、読んで下さる「あなた」がいるからなんです。
 ※職人が励みになる書き込みをお願いします。書き手が居なくなったら成り立ちません。
 ※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
=======================================================================
前スレ
FFの恋する小説スレPart8
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1191628286/

記述の資料、関連スレ等は>>2-5にあるんじゃないかと思います。

2 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ [2009/01/01(木) 18:30:53 ID:c+ypqm/+0]
【過去スレ】
初代スレ FFカップルのエロ小説が読みたい
game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1048776793/
*廃スレ利用のため、中身は非エロ
FFの恋する小説スレ
game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1055341944/
FFの恋する小説スレPart2
game5.2ch.net/test/read.cgi/ff/1060778928/
FFの恋する小説スレPart3
game8.2ch.net/test/read.cgi/ff/1073751654/
FFの恋する小説スレPart4
game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1101760588/
FFの恋する小説スレPart5
game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1134799733/
FFの恋する小説スレPart6
game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1150527327/
FFの恋する小説スレPart7
game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162293926/

【FF・DQ板内文章系スレ】
FF・DQ千一夜物語 第五百五十二夜の3
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1182600123/
かなり真面目にFFをノベライズしてみる
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1226243842/
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら13泊目
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1209480163/

3 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/01(木) 18:31:15 ID:c+ypqm/+0]
【お約束】
 ※18禁なシーンに突入したら、エロパロ板に書いてここからリンクを貼るようにしてください。
   その際、向こうに書いた部分は概略を書くなりして見なくても話はわかるようにお願いします。
【推奨】
 ※長篇を書かれる方は、「>>?-?から続きます。」の1文を冒頭に添えた方が読みやすいです。
 ※カップリング・どのシリーズかを冒頭に添えてくれると尚有り難いかも。

 初心者の館別館 m-ragon.cool.ne.jp/2ch/FFDQ/yakata/

◇書き手さん向け(以下2つは千一夜サイト内のコンテンツ)
 FFDQ板の官能小説の取扱い ttp://yotsuba.saiin.net/~1001ya/kijun.html#kannou
 記述の一般的な決まり ttp://yotsuba.saiin.net/~1001ya/guideline.htm
◇関連保管サイト
 FF・DQ千一夜 ttp://www3.to/ffdqss
◇関連スレ
FF・DQ千一夜物語 第五百五十二夜の3
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1182600123/
◇21禁板
 FFシリーズ総合エロパロスレ 5
 yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1227715127/
 FFDQカッコイイ男キャラコンテスト〜小説専用板〜
 jbbs.livedoor.jp/game//3012/
【補足】
 トリップ(#任意の文字列)を付けた創作者が望まない限り、批評はお控えください。
 どうしても議論や研鑽したい方は love6.2ch.net/bun/

 挿し絵をうpしたい方はこちらへどうぞ ttp://ponta.s19.xrea.com/
 ※2008/12/31閉鎖予定。

4 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/01(木) 18:31:53 ID:c+ypqm/+0]
【参考】
 FFDQ板での設定
 schiphol.2ch.net/ff/SETTING.TXT
  1回の書き込み容量上限:3072バイト(=1500文字程度?)
  1回の書き込み行数上限:60行
  名前欄の文字数上限   :24文字
  連続投稿規制       :5回まで※
  (板全体で見た時の同一IPからの書き込みを規制するもの)
   1スレの容量制限    :512kbまで
  (500kbが近付いたら、次スレを準備した方が安全です)

5 名前: 【大吉】 【473円】 mailto:sage [2009/01/01(木) 18:33:31 ID:c+ypqm/+0]
今年もたくさんのSSが読めますように。
テンプレ不備あったらすみません、まさか立てられるとは思ってなかったw

6 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/01(木) 18:47:16 ID:GKrdzpBS0]
前スレが書き込み不可だった…。誘導できんくてすまん。
まだ500kbだったのに何でだろ?
ってことで>>4の容量制限、500kbに訂正しといた方が良いかも。

7 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ [2009/01/01(木) 18:48:30 ID:xdw8cjF8O]
ザックスだ。
changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1230420865/

8 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/01(木) 20:02:03 ID:Y7EEovrSO]
ここのまとめサイトない?

9 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/01(木) 22:38:32 ID:WmFrMLhK0]
>>1乙!

10 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/01(木) 23:20:31 ID:CQlDWXny0]
>>1
乙でしたー。

>>8
前スレのレスから

622 名前: 名前が無い@ただの名無しのようだ 投稿日: 2008/12/23(火) 01:04:38 ID:TH8NJTpd0
>>616
スレとしての保管庫は存在しません。
過去ログは>>39
現在も投下中の長編作品(3つ)に関しては、作者による自主保管という形をとっています。

職人さんの自主保管サイトは探せば見つかる。



11 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/02(金) 05:30:28 ID:o/swgmvl0]
スレ立て乙!
&アケオメ!

12 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/03(土) 00:06:14 ID:APMxYfX00]
>>1
乙!そしてありがとう!!

振り返ってみたら、前々スレで500kb書込み規制食らったと言ってたのに、
次スレ立ってないまま安易に投下しちゃって申し訳なかったです。

13 名前:異能者は眠らない 16  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/03(土) 00:16:12 ID:APMxYfX00]
前話:前スレ640-646
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 この半年間に起きた7件の狙撃事件の発生日と、彼の休暇はすべて一致する。
 狙撃事件最初の被害者である男を唯一見舞っていたのも彼だ。
 これら都合のいい情報だけを鵜呑みにし、結論を急ぐのは短絡的であるかも知れない。しかし、
求めている答えに一番近い位置にいるのは間違いなく彼だった。
 この日、再び都市開発部門のフロアに足を向けたのは、もちろん任務完遂のためである。ただ、
そこに好奇心がまったく無かったとは言い切れなかった。


「また夜勤か?」
 ここへ来る前に、あらかじめ出勤状況を問い合わせておいて正解だったとヴェルドは思う。それでも
エレベーター脇で20分ほど時間を潰すことにはなったが。
「あ、いえ今日は違うんです。近く予定されている八番魔晄炉の運転試験に向けた調整作業で」
 ヴェルドに向けてにこりと微笑むリーブの顔には、僅かだが疲労の色が見て取れる。これから帰って
2時間ほど仮眠を取り、再び出勤するのだと言う。要するに半日以上の残業だったらしい。都市開発
部門の連中は皆、こんな勤務形態で働いているのだろうか? とヴェルドは少しばかり同情したい気分
だった。
 会話に生じた間を埋めるため、本来であれば話の口火を切る役はヴェルドのはずだった。ところが、
切り出したのはリーブの方だった。
「もしかして、以前お渡しした資料の件でここに?」
 この男は、なぜ自分から不利になるような状況を作るのだろうと不思議になった。こちらは狙撃事件
を調査していると既に打ち明けているし、もし仮に彼が犯人だとしたら、関わり合いになろうとは思わな
いはずだ。少なくとも自分ならそうするとヴェルドは考える。
 よほど自信があるか、犯人ではない。という事だろうか?
「少し聞いておきたい事があったんだが、日が悪かったな。出直そう」
「私の方は構いませんよ」
 彼は“逃げる”機会をことごとく見送った。なぜだ? ヴェルドは考える事をやめた。
「では場所を変えても良いか? ここは人目に付く。それと渡したい物もあるのでな」
 その提案に従って、2人はエレベーターに乗り込んだ。

14 名前:異能者は眠らない 17  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/03(土) 00:22:03 ID:APMxYfX00]



 何度かエレベーターを乗り継いだ後、着いたのはごく小さな会議室だった。会議室というには簡素な
作りで、部屋の窓からはミッドガルの東側が一望でき景観は申し分なかった。設置されていた椅子と
テーブル、広さから考えても4人が定員だろう。
 2人は入り口側の席に向かい合う形で座った。ヴェルドがすでに用意していたのだろう、まるでテーブ
ルクロスの様な状態でミッドガルの概略図が広げられていた。
 ここへ来るまでの経緯は今さら説明の必要もないだろう、ヴェルドは単刀直入に尋ねた。
「ここ半年間にミッドガル内で発生した狙撃事件の被害者がいた位置がこの7点だ」概略図に書き込ま
れた赤い×印を指で示しながら続ける「君が狙撃に関して素人だと言うのは百も承知だ、その上で聞き
たい。狙撃地点はどこだと思う?」
 質問を受けたリーブは特に戸惑った様子も見せず、懐からペンを取り出すと概略図に記された7つの
点からそれぞれ2本ずつ線を引いた。
 場所によって細かい図面を求められ、その度にヴェルドは以前にもらい受けた資料を広げる。リーブ
はその上に次々と線を引き交点を取り、最終的には細かな場所まで特定した。1ヶ所に付きおよそ10分。
ものの1時間ほどで作業を終えた。その手際の良さには思わず見とれるほどだ。
 お待たせしましたと言って顔を上げると、リーブは手短に説明した。
「発射された弾丸が被害者に届くまでの弾道がほぼ直線である事を考えれば、比較的簡単に割り出せ
ます。狙撃者が立つ足場を確保する事も念頭に置いて、これら以外の可能性は低いのではないかと」
 こうして示された見解は、7ヶ所ともすべてタークスの調査報告と一致する。
 感心しながら図面を見つめていたヴェルドが、ふと思いついたように顔を上げて尋ねた。
「ところで、狙撃手と被害者との位置関係についてはどう考えた?」
 例にとって赤い×印に人差し指を置くと先を続けた。
「確かに君が割り出してくれた狙撃地点は我々の予測と一致する。しかし、発見状況……つまり“被害
者がどの方向から銃撃を受けたか”。この情報を伏せていたにもかかわらず、方角まで特定できたのは
何故だ?」全方位とは言えないまでも、図面上に記された赤い×印だけでは、両者の位置関係を限定
する事はできないはずだ。
「そうですね。ただ、先程も申し上げた通り『人が立つ足場を確保する』事を考えたとき、場所はある程度
限られてきます。ですから自ずと狙撃者のいた位置が決まってしまうわけです」
 なるほどと頷いてから、ヴェルドはさらに問う。「それともう1つ、距離だ。……狙撃銃を扱った経験は?」
「ありません。そんな物、都市開発部門では使いませんから」リーブが笑って答える。「銃器に関する事
なら兵器開発部門の方に聞くか、あなた方がよっぽど詳しいと思いますが」
 そのときヴェルドは悟った、これは嘘だ。
「被害者に残された弾痕から7件とも同じ銃が使用されている事と、その種類にも見当が付いている。
その銃の有効射程は1500m。そして君が示してくれた場所はどれも範囲内にある」
 ヴェルドはリーブを正面から見据えてこう言った。
「君の言ったとおり、これは都市開発部門の扱う問題ではない」
「たとえば書物で見ていた可能性は?」
「使用する銃の種類によって有効射程には約2倍以上の差がある。その可能性を考慮すれば答えを
1つに絞ることはできないはずだ」

15 名前:異能者は眠らない 18  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/03(土) 00:32:40 ID:APMxYfX00]
「つまり、『実際に撃った人間でなければ分からない』。そう、おっしゃりたいんですよね?」
 それこそがヴェルドの狙いだった。必要な情報を伏せたまま推理をさせ、関係者以外が知り得ない
情報を吐き出せば、それは犯人だという古典的な手法だ。リーブ自身もそれを理解している様だった。
「残念ながら『私が狙撃手だったら』という想像に基づいた予測です。×印の場所に標的がいる、書物
で見た銃を持参しどこから狙撃するか? あくまでも想像の域は出ないんです」タークスは現地で実際
に被害者の状況を確認し、遺体の調査結果などから判断して狙撃地点と目される場所を報告書に記載
した。根拠が調査結果か想像かの違いであるだけで、両者のやっていることは何ら変わりないのだと
リーブは言った。
 確かに、これだけでは決定性に欠ける。ヴェルドは次の質問に移った。
「最初の被害者の見舞いにも行っただろう? あれは何故だ。担当医は『親しい方』と言っていたが、
調べたところ君との接点はまるで無い。ついでに被害者に家族はいない、担当医に話した事は
作り話だな?」
 そう言って、担当医から預かって来たぬいぐるみを差し出した。
「これと同じ物を君のデスクでも見た。君の物で間違いないな?」
 ぬいぐるみを受け取ると、リーブは今までになく柔らかな表情を浮かべて礼を言った。それから、
自分の物であると頷いた。
「様子から察するに、よほど大切な物なんだな。このぬいぐるみが観測手か?」
 その言葉に驚いてリーブは顔を上げる。ヴェルドはその顔に驚いた。ちょっとした冗談のつもりだった。
どう考えたって、ぬいぐるみに観測手が務まるはずがない。
「いや、正確には『監視役』と言うべきだな」ぬいぐるみの中身はすでに調べてある。中にカメラなどが
仕込んであれば別だが、特に変わったところもなく何の変哲も無いぬいぐるみだった。先程の言葉も、
べつに鎌を掛けたつもりではなかった。
 ところがリーブの尋常でない反応を見れば、そこに糸口があるのだと考えたくなる。正直なところ、
根拠は勘だ。
「正確性を要する狙撃は2人で行う、スコープを通して狙撃手に見える範囲はごく限られているからな」
あえて暗殺とは言わずに遠回しな表現を使ったが、どうやらリーブは理解しているようだ。ヴェルドは
さらに話を続けた。
「それと、病院にわざわざぬいぐるみを置いて行った理由だ。次に来る口実にしたいのかとも考えたが、
担当医は『しばらく彼の傍に置いといて』と頼まれたそうだ。集中治療室にいる男の傍に、君の持って
いるぬいぐるみを置こうとする理由が他に思い当たらない」
 手の中に収まったぬいぐるみを見つめながら、リーブはその問いに答えた。
「もしも私が狙撃手なら、撃ち損なった標的の最期を確認したいと考えます」
「俺も同じだ。しかしぬいぐるみを持って行こうとは思わない」
「……そうでしょうね」そういって頷くと、いたずらを思いついた子どものような表情を向けてヴェルドに
こう尋ねた「ここにトランプとかあります?」

16 名前:異能者は眠らない 19  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/03(土) 00:35:22 ID:APMxYfX00]
 唐突な質問だった。さすがにここには無いと告げる。それではと言って、懐から名刺ケースを取り出す
と、ひとまず手に取った20枚の名刺とともに、ぬいぐるみを差し出した。
「ちょっとした手品をお見せします。ヴェルド主任はそのぬいぐるみを膝に乗せて、私に背を向けたうえ
で20枚の名刺から好きな物を1つ選んでください。どれを選んだのか、当てますから」
 半信半疑のまま言われた通りにぬいぐるみを膝に乗せて、リーブに背を向ける。手に持った20枚の
名刺のうち、真ん中あたりの1枚を抜き取った。「これで良いか?」
 しばらくしてもリーブからの返答は無かった。思わず振り返ろうとしたヴェルドの耳に、苦笑がちな声が
聞こえた。
「私への当てつけですか? 一人目の被害者の名刺ですよ、それ」
「なんだって?」
 手に取った名刺をもう一度まじまじと見つめる、確かに彼の言うとおり、狙撃事件一人目の被害者で
あり、ついこの間ヴェルドが最期を看取った人物のものだった。
「もう一度いいか?」
 偶然と言うこともあるだろう? と疑り深いヴェルドの申し出を快く引き受けたリーブは、結局20枚すべ
てを言い当てた。
「そんなことが……」膝の上のぬいぐるみを見下ろしながら、ヴェルドはただただ呆気にとられるばかり
だった。理屈は分からないし、当て推量で口にしただけの話が、しかし現実に起きている。
 求めに応じてぬいぐるみを返すと、リーブはやはり笑顔だった。席を立ってから振り返ると、ヴェルドに
向けてこう告げた。
「タークスの皆さんのお手間を取らせるようなことは、今後もう無いと思いますよ」
「どういう事だ?」
「……私が狙撃手なら、これ以上銃を持つ動機はありません。それに今回の件で、こんな事をするより
ももっと効率の良い方法がある事に気付きましたから」
 まるでヒントですと言わんばかりの口ぶりだった。にこりと笑顔を作ると、リーブは一礼して部屋を出て
行った。



 その後、リーブの言葉どおり狙撃事件は発生していない。
 処分者名簿に名を連ねていた14人のうち、7人だけが死亡した。その後、名簿を見直してようやく気付
いた事だったが、被害者7名はいずれもミッドガルの都市計画、あるいは魔晄エネルギーを巡る贈収賄、
機密漏洩の嫌疑が掛けられていた者達だった。最初の被害者に至っては3年前、あろうことか事故を
装って八番魔晄炉建設の妨害工作を行った首謀者と目されていた。この事件で6名の作業員が死亡、
工期は1年以上遅れた。問責の末に降格させられた後も、社外に対して情報や資材の横流しを続け
私腹を肥やしていた。処分者リストの最優先に名前が挙がるのも無理はない。7人の中でも都市開発
部門の社員を死亡させたのは彼だけだった。
 7名の中で唯一、狙撃され一命を取り留めた者。裏返せばもっとも苦しみ抜いた末に死んだ事になる。
(なるほど、動機か)
 もし推測が当たっているとすれば、彼の行動はもはや生真面目を通り越して狂気の域だ。しかし目的
達成への執念と何より狙撃の腕前、そしてあの不可思議な能力。都市開発部門に置いておくには
もったいない人材だと思えた。

17 名前:異能者は眠らない 20  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/03(土) 00:38:34 ID:APMxYfX00]

 それから数年後、リーブは技師としての実績を認められて都市開発部門統括に就任する。
 この時ヴェルドは「もっと効率の良い方法」の真意を知って苦笑した。なるほど、確かに組織のトップに
立てば何かと融通も利くだろう。思いついて実際にやってのけるのだから、やはり常人ではない。

 つくづく、都市開発部門に置いておくにはもったいない男だ。

                    ***

「……こんな古い資料、よく見つけてきましたね」
 一般には公開されていないはずの、しかも優に15年以上前の未解決案件報告書を持ち込んだ男に
一瞥をくれてから、呆れたような口調でリーブが言った。
「元タークス、という身分はなにかと便利らしい」
 壁に背を預けていたヴィンセントが事も無げに言う。
「それで、気は収まりましたか?」
 室内には先の戦闘で壊された施設の一部や、ディープグラウンドソルジャーの残した武器類などが
無造作に積み上げられていた。本部の復旧作業の邪魔になるからと、ひとまず仮置きしてあったのだ。
その中から使えそうな部材を集めているリーブを見つけて、ヴィンセントがこの資料を渡したところだった。
「どうしてヴェルドに打ち明けたんだ?」
「あそこで私が話したことを、彼には立証できない。その確信があったからですよ」
 ヴィンセントとは対照的にこの話にそれほど興味がないらしく、手にした部材の仕分け作業を続け
ながらリーブは淡々と答える。
「黙っていれば誰にも真相を知られずに済んだものを」律儀な男だなとヴィンセントが小さく笑う。
 もとより返答は期待していなかった。ただ、返ってきたのが不規則に響く金属音だったのは予想して
いなかった。視線の先にいたリーブは、作業を止めて手元の廃材を見つめていた。どうやら持っていた
工具が床に落ちた音らしかったが、まるで動力の切れたおもちゃのように微動だにしなかった。何か
癇に障ったのだろうか? とヴィンセントは自らの発言について暫し考えた。
 静寂の中、ようやくリーブがぽつりと言葉を吐いた。
「もしかしたら、誰かに知ってほしかったんでしょうね」自分が手にすることになった異能力、その存在を。
 それを他者に打ち明けたのは、異能者という孤独を埋め合わせるためであり、7人の命を奪った罪の
重さから少しでも逃れるため。どちらにしても身勝手な理屈ですよとリーブは吐き捨てた。

18 名前:異能者は眠らない 21  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/03(土) 00:45:36 ID:APMxYfX00]
 床に視線を落としたままだったリーブが、今どんな顔をしているのかは分からなかった。彼の感情を
理解することはできないまでも、異能者という孤独に身を置く境遇には、僅かでも酌量の余地がある
のではないかとヴィンセントには思えた。異生命体を身に宿し、人外の能力を持った彼もまた孤独の
中に生きてきた。
 ゆっくりと顔を上げたリーブは、どこか遠くを見つめるようにしてこう言った。
「ジェノバ戦役の“英雄”とは、よく言ったものです」
 しかしその口調がまるで人を嘲るような響きだった事に、ヴィンセントは少なからず不快感を覚えた。
眉を顰めて見つめていると、こちらを向いたリーブと目があった。
「狙撃で7人を殺しただけなら、単なる殺人者で済んだんですけどね。
 壱番魔晄炉、七番街、メテオ災害、オメガ戦役……。
 直接手を下さずとも数千、数万人もの人間が死にました。ここの隊員も含めてね」
 そう語るリーブの表情や口調からは罪悪や後悔、感傷といった一切の情感を読み取ることができな
かった。いや、他からの干渉を拒絶しているような気さえした。
 ヴィンセントが口を差し挟む隙は無い。

「本当に、“英雄”と呼ばれるに相応しい功績ですよ」

 その日以来、彼の笑顔を見た者はいない。
 またこれ以後、WROが各地の復興事業から撤退しあからさまな軍備拡張路線を進んでいった。この
1年後には「軍隊」として、市民に認識されるほどになる。

 彼の言葉が異能者として生きる者の覚悟なのか、それとも単なる詭弁であったのか。本意を知る者は
誰もいない。


                                             ―異能者は眠らない<終>―

----------
・いろいろ頑張ってみたけどやっぱり違和感がwスレにせよ年にせよ初っぱなからこんな話ですみません。
・DCでギガントヒドラ(ライフル)を超至近距離のDGSに向けて撃ってる自分にこのテーマは無理だった。
・21で終わったことに他意はない。

・ということで、今年もどうぞよろしくお願いします。

19 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/03(土) 17:21:33 ID:+EUoe5Cs0]
>・21で終わったことに
www
gj

20 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/05(月) 03:15:03 ID:jr7QzsUIO]
GJ!!!



21 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/05(月) 22:08:36 ID:FzoTtjSZO]
GJです!
ちょうどBCとDCやってて、リーブに萌えました

22 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/06(火) 21:51:40 ID:F7++Ga5f0]
ほんと、貴方の書く話は好きだ・・・FF6のやつからずっとストーキングしてる。ほんと面白い!

23 名前:チビエア [2009/01/08(木) 15:02:54 ID:T2pCJlvF0]
ーまだ未発達のちびエアのあそこ
容赦なくかき乱すレノの雄

くちゅ、ぐっちゅ
レノは後ろからちびエアを犯していた
「・・・いいかっ?」
「ぱぱっ、こんなのやっ、んっ」
確かに、処女だった
痛さは始めだけで、何度か動かすだけでチビエアの口からは甘い艶声がもれてきたのをレノは見逃さなかった
チビエアの両腕をとり、上半身をそらす
「はずかっしいよっ、ぱぱちびえあこんなのやらぁっ、あん、あん、ん」
「今俺たちはひとつになって、るんだぞ、と。ああっ、チビエアいい臭いだよ・・・」
レノはチビエアの首筋に顔を埋め、暴れ馬のように激しく腰を動かした

「ままにっ、みられちゃうっ、ぱぱらめえ!ふうんんっ、きゃうっ」
未発達の小さな胸がふるふると揺れる
「もっと鳴けよ、と!」
レノは花畑に散乱している糞をとり、チビエアの胸とあそこにすりつけた
「やんやんん!ゃあっ!」
「どりゃァッ!」
レノはいきなりチビエアの背中を後ろから突き飛ばした
衝撃でチビエアは糞で荒れた花畑に横たわった
何度か転がったせいか、体には土やゴミやちぎれた花や糞がべったりと柔らかな肌にまとわりついた
レノは逃がすことなくチビエアを組み伏せ、またも雄雄しい棒を突き立てた

「ぱぱっぱぱあぁ・・・」
ぐゅっ、ぱん、ちゅく、ぎっ
突き上げる振動の中でチビエアがつぶやく
「んっ?はぁっ」
レノは顔をちびエアに近づけ、キスをした
「ぱぱあいしてる・・・えあ、ぱぱあいしてるっ」
チビエアはレノの背中に腕をまわし、離れぬようしがみついた
律動はさらに激しさをます
「ゆんゆんゆんゆんっ!ぱぱぁーーーーっいくっ」
「エアリスッチビエアっあいしてるぞ!おおおぅぅーーーーーー!ッッッッン!!!!」

24 名前:ラストダンジョン(283)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/09(金) 02:19:21 ID:C9mRPOsh0]
前話:前スレ623-627
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「……魔晄炉……」
 ぽつりと呟いたエルフェの声に、デンゼルは顔を向ける。しかし彼女はそれ以上何を言うわけでもなく、
ただ黙って何か考え込んでいる様子だった。
 そういえば彼女はW.R.Oの事を知らないと言っていた。でも、魔晄炉のことは知ってるのだろうか? 
デンゼルはそんなことを考えながら、フレッドの話を聞いていた。
「……結果は変わらなかった。
 W.R.Oに来たところで、魔晄炉の何が分かった訳じゃない。俺の両親がいなくなった理由も分からない
ままだった。
 それどころか、俺たちはジュノンで神羅と同じ事をした」
 3年前の集団失踪事件。街全体で1,000人を超す人々が忽然と姿を消した、W.R.Oは情報統制の名の
下に事件を隠蔽した。かつて神羅がそうしたように。
「俺と同じ思いをした奴が、少なからずいたはずだ。でも俺たちは何もできなかった。
 俺はまた、分からなくなった。W.R.Oのやり方はこれでいいのか? 本当にこれが、正しい選択なのか」
そして今回の件に荷担した。語り終えたフレッドは、ひとつ息を吐くと俯いた。
 話を聞き終えたケリー達に言葉はなかった。一概にフレッドを責められる訳じゃない、彼には事情が
あった。けれど、W.R.Oの選択も決して間違いではなかった。原因も何も分からない状態でありのままを
垂れ流せば、必要以上の混乱を生むだけだ。
 皆が黙り込んでしまう中、エルフェが口を開く。
「貴様の様な愚か者を放っておいたのは、首長の責任だ。だが、私には今のお前のやり方も正しいとは
思えない。武力に訴えて何かを成そう、あるいは制そうとする、それもまた、お前の言う神羅の悪行と
同じではないのか?」
 どんなに正しい主張であるにしろ、それを訴える手段を間違えるな。エルフェの物言いに容赦は
なかった。
「過去の事情はどうあれ、自分が今成そうとする事が未来にどう影響するかをしっかり考えろ。それは
誰の責任でもない、自分自身の問題だ」
 そう語るエルフェの姿を、ケリーは黙って見つめていた。フレッドは俯いたままだった。

25 名前:ラストダンジョン(284)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/09(金) 02:26:37 ID:C9mRPOsh0]
 最後まで言い終えると、エルフェは彼らに背を向けて歩き出した。その背中にデンゼルが声をかける。
「エルフェさん、一緒に来てくれないんですか?」
 呼びかけに振り返るとエルフェは言った「もう私の出る幕ではない」、それから視線をケリーの方へ
向ける。
「……もし、アンタさえ良ければ、協力してもらえると心強いんだけどねえ」
 一瞬、なんと言えばいいか悩んだ末にケリーが返すと、エルフェはまぶたを閉じてゆっくりと首を横に
振った。
「すまない。私には今回の件にこれ以上荷担する理由と覚悟が無い。それに」
 デンゼルが言葉の先を促すように首を傾げると、エルフェは言葉を濁した。不審に思ってさらに問え
ば、視線をそらしてようやく答える。
「……そろそろ、家に帰らなければ」
 家はこの辺なんですか? デンゼルの問いにエルフェは違うと首を振る。
「実は……道に迷っていたんだ。自宅から4ブロック先の商店で夕飯の材料を調達しようとしたのだが」
「……え?」
 彼女の家がどこにあるかは知らないが、少なくともこの周辺4ブロックに民家はない。察するにどこか
の街に彼女の家があるのだろうが、そこからどう目指せばここまで来られるのかがデンゼルには分か
らなかった。嘘だとしてももう少し言い様があるんじゃないか? と口に出そうとした。しかしエルフェの
表情は至って真剣だった、とても嘘を吐いているようには見えない。デンゼルは出かかった言葉を飲み
込んだ。
「じゃあ帰りに送ろう。アンタの家は?」
 ケリーの純粋な親切心からの申し出を丁重に、かつ即座にエルフェは断った。
「お前の運転する車にだけは乗りたくない」
 その言葉に、デンゼルは今日いちばんの同意を込めて頷いた。
「それに、ここまで来られたのだから帰途の心配は要らない」
 そう言ってエルフェは再び背を向けて歩き出す。そこでおいおいとケリーが慌てて叫ぶ「そっちはエッジ
だぞ?」。
 すると顔だけを向けたエルフェは、回復薬を手に微笑んだ。
「家路につく前に、先ほどの連中にこれを渡しておこうと思ってな。こんな場所で雨ざらしだと風邪を引く」
 それだけ言うと、今度こそ雨の向こうに消えていった。雨ざらしで風邪を引く事よりもっと問題になる
ことがありそうなのだが、どうやらその辺は気にしていないらしい。
 エルフェの去っていった方向を見つめながら、デンゼルは彼女に対して抱いた率直な感想を口にした。
「不思議な人ですね」
 その原因が世代的な要素なのかは分からない、けれどデンゼルから見るとかなり変わった感性の
持ち主だというのは、この短い時間でも知ることができたような気がする。それは彼女が歩んできた
過去に起因する者なのだろうか?
 そんなデンゼルの疑問を察したかのように、ケリーはこう答えた。
「旧アバランチの女リーダー、エルフェ。俺たち治安維持部門は彼女に泣かされっぱなしだったからなぁ」

26 名前:ラストダンジョン(285)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/09(金) 02:32:22 ID:C9mRPOsh0]
「アバランチ!? ……っていうかケリーさん治安維持部門って、軍にいたんですか?!」神羅の社員
とは聞いていたが、部署の事は初耳だった。
 バレットの創設したそれとは別の組織だとケリーが手短に説明する。デンゼルとしてはもう何が何だか
分からなくなって来た。ひとまず、自分が思っていた以上に世間が狭いと言うことは確かなようだ。
「……やっぱり、みんな事情があるんだ……」
「そうだな。事情もなく暴れる奴なんて滅多にいない。いたらその場で病院送りにしてやるがな」
 さあ時間がないぞとデンゼルの肩をたたくと、ケリーはフレッドに視線を向けた。
「フレッド。送電停止のためには変電所のことを知っているお前の協力も必要だ。……一緒に、来てくれ
るな?」
 顔を上げたフレッドは力なく頷いた。
 こうして隊員1人を車に残し、あとの3人は変電所へ向けて歩き出した。



 出没するモンスター対策として、金網に囲まれた変電所の周囲には有刺鉄線が張り巡らせてあった。
3人は運搬車両の出入りするメインゲート脇にある、職員用の通用口前に立っていた。中からは、今も
稼働を続ける機械類が発している低い音が聞こえてくる。慣れるまでは少し耳障りに感じる音だ。
 フレッドは持っていた鍵で扉を解錠する。しかし、扉は開かなかった。見るからに真新しい別の補助錠
が取り付けられていたからだ。
「……どうやら先を越されたみたいだな?」手の甲で扉を叩きながら、フレッドが苦笑気味に言った。
 取り付けられていた補助錠は符号錠と呼ばれる物で、施錠にも解錠に鍵を必要とせず手軽に利用で
きるため、一般にも広く使われている物だった。解錠方法は、並んでいる4桁の数字を設定したとおり
正しく合わせるだけで良い。
 あらかじめデンゼル達がここへ来ることを知っていた何者かが、彼らの侵入を阻もうとしているのは
明らかだった。
 金網越しに変電所内を覗き込んでいたケリーが、感心したように呟く。これが誰の仕業なのか、見当は
すぐに付いた。
「さすがダナだ、手回しが良い」
「おいケリー、感心してる場合か?」
 ここから見えるだけでも、所内の至る所に同じタイプの補助錠が掛かっていた。施設制御用のコン
ピュータが置かれた小屋や、変圧器や遮断器の収められているボックス類、とにかく施設内で施錠の
できる箇所すべてにだ。

27 名前:ラストダンジョン(286)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/09(金) 02:40:34 ID:C9mRPOsh0]
 会話している二人の後ろで、デンゼルは鞄の中から見取り図を取り出す。細かく記載された注意書き
を読み解きながら、次に自分が目指すべき地点を必死に探していた。
「どうするんだケリー? 鍵を開けない限り遮断器は使えないぞ」
 フレッドの言う『遮断器』は、送電線の点検作業などで一時的に送電を停めるために使うもので、
デンゼルが受け取った見取り図の中にも頻繁に登場する言葉の1つだった。最終的にヴェルドの出した
条件を満たしつつ、一時的にエッジへの送電を停止させるためには、1次〜3次の各送電線の遮断器を
同時に操作する必要があった。通常、どれか1つの線が生きていれば送電が止まることはない。裏を
返せば、3系統が一斉に落ちるという事もまずない。
 そうなると入口を含めて、少なくとも4つの符号錠を開けなければならない。
「鍵、なんとか開かねぇかな?」
 言いながら膝をつくと、ケリーは入口扉に付けられた符号錠をいじりはじめた。どうやら手当たり次第に
番号を揃えていく、総当たり解錠を試みようとしているようだ。単純に考えても4桁の組合せは全部で
10,000通りある。
「おいケリー、万に一つの答えをアテもなく探すなんて、いくら何でも無謀だ」
「んな事ぁ分かってる! でも他に方法が無いなら、やってみるしかねぇだろ!?」
 苛立ちを隠さずケリーが怒鳴った。直後、気まずそうに「すまん」と頭を下げた。
 時間的にも、もう猶予はない。

 ――「施設の破壊は絶対にしない事。」

 それがヴェルドとの1つ目の約束だった。ケリーとてW.R.O隊員、不用意に施設を破壊する訳にはいか
なかった。
 だからこそ焦りばかりが募る。くるくるとダイヤルを回しながら、ケリーは思わず天を仰いだ。分厚い
雲から落ちてくる大量の雨粒が、容赦なく顔面を叩く。
「あ〜あ、都合よく雷でも落ちてくんないかなぁ」
 などと言ってみるが、到底あり得ない事だというのは分かっていた。変電所には避雷器もあるし、
何より今ここに雷が落ちる確率は、10,000通りの符号錠に総当たりで挑むよりも望み薄だった。

28 名前:ラストダンジョン(287)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/09(金) 02:47:12 ID:C9mRPOsh0]
 つられるようにしてデンゼルも顔を上げた。鉄線と金網、鉄塔と送電線の向こう側を分厚い雲が流れ
ていく。途方に暮れる、というのは今みたいな時を言うのだろうと、関係のないことを考えていた。
「……雷か……。なあ、ケリー?」
 扉に語りかけるような格好でフレッドが半ば独り言のように呟く。
「『サンダー』のマテリアを持ってれば、雷を落とせるよな?」
「今時マテリアなんか持ってるヤツいないぞ」かちゃかちゃと懸命にダイヤルを回しながら、ケリーは
話半分にフレッドの言葉を聞いていた。
「マテリアは、魔晄炉の炉心内で生成される事が稀にあるんだ」
「知ってる。だが今は、協約でマテリアの使用や保有も制限されてるしな」言いかけて顔を上げたケリー
の目に、フレッドの手に握られたマテリアが飛び込んできた。
「お前……!」
「親父の形見なんだ。……使ったことはないけど」
 そう言って、フレッドは力なく笑った。こっそり自宅にマテリアを持ち帰って来た父が、自慢げに「珍しい
だろ?」と言う姿が過ぎった。その後、これを装備して戦うことも無かったから成長もしていないし、マテ
リアの力を必要としたこともない。ただ、このマテリアには父との思い出が残っている。だから捨てられず
にいた。
「ぎりぎり、協約違反にはならないはずだ」それでも見つかれば没収だろうが、フレッドはやはり苦笑い
する。
 それを見たケリーが思い出したようにポケットをまさぐり始めた。それから、取り出したのはフレッドと
同じ色のマテリア。
「……そうか。なら俺の“へそくり”も役に立てるって訳だな」
「ケリー? お前……!!」
「違う違う、これは俺の初勝利の記念品なんだ。初めて自分の手で倒したモンスターが落として行った
物でな、記念に取ってあったんだよ。上官に言えば没収されるだろ?」最初は売っ払って小遣いを稼ご
うとしたがロクな金にはならないし、お前が想像するとおり魔法向きじゃないから、結局それ以来使った
ことは無かったがと豪快に笑った。
「こんなに都合良く偶然って重なるもんか?」
「……しかしなあ、サンダー2発じゃ避雷器に吸収されるのが関の山だ」状況は変わってないと、
ぬか喜びした自分を悔やむようにフレッドが俯いた。


----------
・ご都合展開は日常茶飯事です。
・方向音痴の件については今後、補足がありますが、すみません本気でねつ造です。
・実はこれ(の原案)を書いている時に起きたのが、山梨県の大規模停電だった。
 個人的に「こんな偶然があるもんだ」と思ったり思わなかったり。
 (投稿までに費やす時間が長いのは、各パート毎の文章が長ry…)
 だからといって変電所の描写については雰囲気なんですが。
・毎度こんな方向の話ですが、お付き合い下さっている方がいるだけで嬉しいです、
 読んでくださる方、レスくださる方、お前らどうもありがとうございます。
・最重要問題なんですが、9×9×9×9=10,000通り、って計算でいいんだよね?
 (作者は数学1、ここだけ無駄に実話w)

29 名前:◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/09(金) 02:50:00 ID:C9mRPOsh0]
9の4乗じゃなくて10の4乗の間違いですね…。(0〜9の10通り×4桁)?
(どんだけ苦手なんだw)ほんとすみません。

30 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/09(金) 03:03:40 ID:UU87kOMlO]
GJ!

数字の組み合わせは「膨大な数にのぼる」でおkなのではw



31 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/10(土) 14:41:27 ID:Pjs0ubaE0]
GJ!

32 名前:オペラ座の空賊【68】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/01/10(土) 23:34:47 ID:5nUwOkTO0]

※FF12本編終了後ヴァンとパンネロが空賊デビューした後のお話。
※投稿人の書くパンネロはヴァンの事が放っておけないし大好きだけど、
バルフレアの事もちょっとだけ好きなのです。少女漫画風味でスマソ

前スレ>>499-506のつづきです。

あの騒ぎから1週間。
バルフレアとフランはパンネロを連れて帝都アルケイディアスを訪れていた。
隠れ家にして潜んでいるのは旧市街の酒場の屋根裏だ。
屋根裏だが、丸い小窓があり、そこからは大樹の様な建設物が並ぶ帝都が一望出来る。

最初はパンネロの気晴らしになるのではと、フォーン海岸に連れて行ったたのだが、
人と情報の交流が盛んな土地のため、
「ヒュムが多い所の方が見つかりにくいわ。」
というフランの意見に従い、隠れ家を移ったのだ。
「フラン。」
窓から外を眺めていたフランにバルフレアが声を掛ける。
「お嬢ちゃんと出かけて来る。」
バルフレアとしてはあまり帝都をうろつきたくはないのだが、
ふさぎ込んでいるパンネロを放ってはおけない。
「いいの?」
「狭い部屋に閉じ込めてちゃかわいそうだろ。」
なるべく目を合わせない様にして答えたのだが、問いかける様なフランの視線を背中に感じて、
「“いい子”ってのは結構大変なんだ。自分でも気付かない間に、周りの期待に応えようとする。」
「そうして、自分を忘れそうになるのね。」
バルフレアは思わず顔を上げてフランを見つめ返す。
フランはいつもの様に表情を変えず、窓の傍にある小さな椅子に腰掛け、
じっとバルフレアを見つめている。
「……らしいな。」
バルフレアは踵を返すと、奥の部屋に居るパンネロに出かける支度をする様に声を掛けた。
「“上”に出かけるぞ、お嬢ちゃん。」
パンネロがドアから顔を出す。
「何処へ行くの?」
「何処でもいいさ。閉じこもってると身体が錆び付く。」
「フランは?」
「私はいいの。」
パンネロは少し考え、
「うん、すぐ支度する。」

33 名前:オペラ座の空賊【69】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/01/10(土) 23:37:26 ID:5nUwOkTO0]

旧市街から帝都への長い長い橋を渡る間、
パンネロは黙ってバルフレアの後をついて来るだけだった。
バルフレアが贈った白いドレスを着て、
髪も帝国風に緩く結い上げたパンネロはいつもより大人びて見えた。
憂いをおびて、伏せられた瞳も悪くはない。
(悪くはない、が……)
ぼんやりとして、心ここにあらずなパンネロは、萎れてしまった花のようだ。
(さて、どこに連れて行けば元気になるかねぇ。)
その時、家族連れが二人を追い越して行った。その先には、
(博物館か…)
幼い頃、父や兄達に連れられてよく行ったものだ。
(…子供が喜びそうだな…)
気晴らしには良いだろう、とバルフレアが先に立って中に入ると、パンネロも続く。
明るい屋外から石造りの建物の中に入り、一瞬目が眩む。
だが、薄暗がりに慣れ、視界がはっきりしてくると、
「わぁ…!すごい…」
パンネロが小さく声を上げる。
正面には大理石の階段があり、それは踊り場で左右に分かれていて、
その踊り場には歴代皇帝の肖像画が飾られていた。
その中にはもちろん、現皇帝の物があり、
「見て!ラーサー様!」
はしゃぎだしたパンネロに、バルフレアは自分の選択が間違ってなかった事にホッとする。
辺りを見回すと、天井は遥か高い所にあり、帝国の歴史を表した天井画がはめ込まれている。
「アルケイディア帝国博物館だ。あちこちの国から分捕って来た物や
物好きな金持ちが寄贈した収蔵品が展示してある。」
「とても広いのね!」
「イヴァリース最大だろうな。全部観て回るとなると、一日じゃとても無理だな。」
「素敵!何が展示されてるの?」
「イヴァリース中の美術品、遺跡、標本、なんでもござれさ。つまり…」
バルフレア、ここで片目を瞑って見せる。
「お宝の山って事だ。」
パンネロも肩を竦めて一緒に笑う。
「もう!こんな所でそんな冗談…」
「そうだな。だが、こういう場所を狙うのは俺らしくない。」
確かに、とパンネロが頷く。
「西館から行くか。宝石の展示室がある。女の子なら好きだろ?」
先に立って歩くバルフレアの背中にパンネロが元気一杯に答える。
「私、武器の方がいいな。」
「勘弁してくれ。お嬢ちゃんらしく、耳飾りでも眺めててくれ。」


34 名前:オペラ座の空賊【70】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/01/10(土) 23:39:03 ID:5nUwOkTO0]

「私、お嬢ちゃんじゃないわ。」
バルフレアは思わず足を止めて振り返る。
パンネロがぎゅっと唇を噛んで、不満そうにバルフレアを見上げている。
バルフレアは小さく頭を振ると、
「分かった。じゃあ、俺の事も“バルフレア”だ。いいな?“パンネロ”。」
「いいわ、“バルフレア”。」
そして、二人同時に吹き出す。
「まだ少し固いな。」
「お互いにね。」
「すぐ慣れるさ。」
そんな軽口を叩き合いながら、回廊を抜けて展示室に入る。
宝石の展示室は照明を落とされ、壁も黒くて薄暗い。
分厚いガラスの向こう側に展示されている宝石や、宝石の原石にだけ煌煌としたライトが当てられている。
(まるで洞窟の中で色んなクリスタルが光っているみたい…)
パンネロの拳ほどある大きな原石から、色とりどりの宝石が散りばめられた金細工などを見て回る。
さすがイヴァリース最大を謳うだけあって、豪華な展示だ。
「わ、きれい…」
パンネロが足を止めたのは古代の女王の首飾りだ。
背後からバルフレアが覗き込む。
「あぁ、『女王の凍てつく涙』だな。この博物館の中で一番デカいヤツだ。
 細工が変わってるだろ?この時代独特の物だ。」
「詳しいのね。」
幼い頃に同じ様な会話を父としたから、とは言わず。
「お宝の事ならな。気に入ったのか?」
「うん…とてもきれい…ねぇ、空賊なら欲しいって思ったら盗んじゃうの?」
「まぁ…そうだな。」
「どうやって?」
「後学の為か?」
バルフレアは俺の場合なら…と前置きをして手順を話す。
「まず鍵を手に入れる。こう見えて警備が厳重だからな。そう簡単に入らせてはくれないさ。」
「警備兵から?でも、鍵がなくなってたら、すぐにバレちゃわない?」
「そこを上手くやるのさ。うまくかすめ取って、その場で型を取って戻せばバレない。」
「難しそう。」
「息の会った相棒がいれば、どうってことはないさ。」
バルフレアは侵入と逃走路の確保、必要な道具、資材の手配を説明してくれる。
そんな話から、展示品のエピソードや歴史の話をしてくれた。
話題が豊富で、聞いていて飽きない。
(…ヴァンと違うんだな。)
「どうした?」
「ううん…バルフレアって色んな事知ってるのね。空賊には必要なの?」
「どうだろうな…例えばさっきの首飾りだ。あれは帝国に滅ぼされた、
北の小さな国の女王の持ち物だったんだ。あの首飾りが王家の証だから、
女王は必死で渡すまいとしたんだ。それで、高い塔に幽閉されて一生を終えた。」



35 名前:オペラ座の空賊【71】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/01/10(土) 23:41:11 ID:5nUwOkTO0]

「ひどい。」
パンネロが眉を寄せる。
女王と聞いて、寒々しい牢屋の様な部屋に閉じ込められたアーシェが思い浮かんだのだ。
「心配しなくてもいい。俺達の女王様は大人しく幽閉なんかされないさ。」
パンネロは驚いて顔を上げる。
「どうして私が考えている事が分かったの?」
「その顔を見ればな。大丈夫さ、何かあってもお人好しのヒヨッコ空賊がすぐに駆けつけるだろ?」
バルフレアはパンネロの頭に手を載せ、ぽん、と叩いてやる。
「うん…そうだね、そうだよね。」
自分に言い聞かせる様にして、パンネロは何度も頷く。
「ま、それ以来、この首飾りの持ち主は必ず不幸に見舞われるようになったってわけさ。
女王の恨みとか、怨念とか…そういう話を聞くと、手に入れたくなるだろ?」
「“俺はそんな物に負けない”って証明するため?」
「そんな所だ。」
なるほど…とパンネロは納得する。
と、なるとヴァンの欲しい物とはなんだろう?
暁の断片を盗んだ時も、それが何か分からず盗んだ節がある。
「違うわ。」
パンネロは思わず声に出してしまった。
「ヴァンだけじゃないわ…私…私が欲しい物って…」
ヴァンが放っておけないから、ヴァンと一緒に居たいから空賊になった。
「私…私が欲しい物が分からないの。おかしいよね、自分のことなのに。」
バルフレアは黙ってパンネロを見つめる。
漸くフランの言わんとする事が分かった気がした。
(確かに…危なっかしいな。)
泣き出しそうな顔で俯いてしまったパンネロの肩を叩いた。
「その内、見つかるさ。」
「……ありがとう。」
「お嬢ちゃんに礼を言われるとは、空賊風情にはもったいないな。」
健気にも笑おうとするパンネロが痛々しくて、なんとか気持ちを反らせようと、
バルフレアはわざと軽口を叩く。
「“パンネロ”。」
「失礼。パンネロに、だな。」
パンネロが笑う。さっきの様に無理して作った笑顔ではない。
どうやら、企みは成功したようだ。
「イイ顔だ、パンネロ。こんな所で泣かれちゃ、俺がいじめたと思われる。」
「ありがとう。」
いつもの調子で、食って掛かって来ると思っていたバルフレアが
面食らった様な顔をするのを、パンネロはおもしろそうに見つめる。



36 名前:オペラ座の空賊【72】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/01/10(土) 23:44:01 ID:5nUwOkTO0]

「これはね、おまじないなの。」
「からかわれた時に“ありがとう”って言うのがか?」
ううん、とパンネロが小さく首を横に振る。
「幸せになれるおまじないなの。」
パンネロの少女じみた発言に、バルフレアがうんざりした表情を見せる。
「本当だよ。」
「効果はあったのか?」
「とても。」
「どんな風に?」
パンネロはケースの中の女王の首飾りを見る。
「あのね、ラバナスタが戦争に負けた時、私、両親もお兄ちゃんも、みんな死んじゃって、
一人ぼっちになったと思ったの。その時、ミゲロさんに教わったんだ。
“どんな事があっても、誰であっても、何を言われても「ありがとう」って言いなさい”って。
“そうしたら、幸せになれるって。寂しくなんかなくなるよ。”って。
私、最初は信じなかったの。ミゲロさんのお店には帝国の兵隊さんもたくさん来てたけど、
その人たちに“ありがとう”なんて言えない。言えるわけないって。」
複雑にカットされた宝石の表面にいびつにゆがんだ自分の顔が映っている。
あの時の自分も、きっとこんな顔をしていたんだろうな…とパンネロは思い出す。
「でもね、一度だけ試してみたの。だって、誰かを憎んだり、寂しかったりはイヤだもの。
だからお店のお客さんに。帝国の兵隊さんだった。“ありがとう”って。
お客さんだから仕方がないって自分に言い聞かせながら言ったの。
そしたらね、その人、次に日も来てくれたんだよ。」
バルフレアは黙って話を聞いている。
なんでこんな話になっちまったんだ、と自分をのろいながら。
「毎日来てくれたんだ、そのお客さん。私くらいの娘が居るって言ってた。それでね、分かったの。
私が今悲しいのはこの人たちのせいじゃないんだって。ほんの一部の人たちなんだって……
それから色んな人に言うようにしたの。そうしたらね……あれ?」
パンネロが話を止めたのは、バルフレアがあらぬ方向を向いて、しかめ面をしているからだ。
「バルフレアさん?」
バルフレア、慌ててパンネロを見る。
「“バルフレア”、だろ?」
「ごめんなさい。つまらない話だった?」
パンネロは首をすくめ、申し訳なさそうに謝る。
「いや…そうじゃない。」
パンネロの話に打ちのめされて、自分がちっぽけな人物に思えただけだ。
「お嬢ちゃんには敵わない、そう思っただけさ。」
「もう、バルフレアも間違ってる。」
パンネロの笑顔に救われた気持ちになる。
(やれやれ、どっちが面倒を見ているのやら…)
「ねぇ、バルフレア?」
隣の展示室に行こうとするバルフレアの後に続き、
パンネロはその背中に話しかける。

37 名前:オペラ座の空賊【73】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/01/10(土) 23:46:13 ID:5nUwOkTO0]

「バルフレアはアーシェが閉じ込められても助けに行かないの?」
「展示室でお喋りは感心しないな。」
「さっきはヴァンが助けに行く、みたいな事言ってたけど、バルフレアは行かないの?」
「ふさぎ込んでたかと思うとはしゃぎ出して、女の子は忙しいな。」
「オペラ座の抜け出すとき、アーシェにみつかっちゃったけど、いいの?」
「……勘弁してくれ。」
これだから子供は嫌なんだ…とぼやきながら、何故か今、この時間が心地よい。
そして、この健気でやっかいな少女を悩ませるヴァンにおもしろくない気分になる。
ふと、ある考えが浮かび、足を止めた。
振り向き、じっとパンネロを見つめる。
「どうしたの?」
「なんでもない。ほら、パンネロのご要望通り、中世の武器の展示室だ。」
歓声を上げて駆け出すパンネロの後ろ姿を見ながら、
「ただじゃあ、返せないな。」
と、バルフレアは小さく呟いた。


[チラ裏]
遅ればせながら >>1乙 です。

過去ログ見てたら初投下が2007年の2月でした。
完結までの道のりは遠くて、時間もかかりますが、
最後までどうぞお付き合い下さい。

38 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/11(日) 09:17:01 ID:IJ+oYUSj0]
まってたよーGJ !!

39 名前:オペラ座の空賊【74】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/01/12(月) 01:31:01 ID:8osiS2gE0]

>>32-37のつづきです。

アーシェに引っ叩かれた後でヴァンが再び閉じ込められたのは、窓すら無い地下の独房だった。
本来なら重い罪を犯した者…もっとも、ラバナスタではそういった犯罪者は極めて少ないのだが、
そこにヴァンを入れると聞いて、バッシュは猛反対した。
しかし、アーシェはそっけくそれを跳ね除けた。
「甘やかすと、あの子の為になりません。」
ラーさーはその横で思わず吹き出す。
「お二人を見ていると、姉弟のようですね。」
「彼が弟でしたら、あの様な暴言、許しませんわ。」
「許すも何も、すぐに手が出ていたようですが。」
アーシェは深いため息を吐き、
「本当に、あの子ったら。」
アーシェとラーサーの二人が顔を見合わせ、くすくすと笑い出すのに、
バッシュはどう声を掛けて良いのやら分からない。
「ジャッジガブラス…心配しなくとも、陛下はちゃんと分かっておいでです。」
そんなバッシュを見かねてラーサーが声をかける。
アーシェも浮かない顔のバッシュに微笑む。
「あなたも気付いていたでしょう?ヴァンは今、何かにふり回されています。
自分でも気付かない内にね。頭を冷やし、それが何かを見極めなければ。
それに、責任も取らねばなりません。時間と、反省が必要なのです。」
「は。」
バッシュは恭しく頭を下げる。
「しかし、ヴァンをいつまで留めておかれるおつもりですか?」
「その内、誘拐犯が何か言ってくるでしょう。それまでです。」
アーシェは軽やかに言ってのけると、ラーサーに頭を下げる。
「ラーサー様、ご心配でしょうが、ご報告は密に致します。」
ラーサーは思わず苦笑いを浮かべる。
「それは…国でただ知らせを待てという意味でしょうか。」
「お気持ちは分かります。」
「すいません、愚痴でしたね。陛下、顔をお上げ下さい。」
アーシェは言われた通りに顔を上げるが、
無理に笑顔を作る幼い皇帝の顔を真っすぐに見る事が出来ない。
「あなた方と旅が出来て良かった…陛下の言葉を信じる事が出来ます。」
「ラーサー様……」
「一つ、教えて下さい。陛下は…どんな結末をお望みなのですか?」
「あの二人の心のままに。」
ラーサーは目を丸くする。
「良いお姉さん、でしょう?」
ラーサーはアーシェの手を強く握った。
「国に戻ります。今回の騒ぎで元老院が手ぐすねを引いて待っているのでね。」
「お察ししますわ。」
ヴァンとパンネロの処遇を聞いて胸を撫で下ろすバッシュだが、
(だが…)
若い君主二人が痛々しい。
(すぐにでも、飛んで行かれたいだろうに。)
しかし、アーシェもラーサーも、君主故に負う責がある。
(こんな時に…君はどこに居るのだ…)
バッシュは二人に気付かれない様、小さくため息を吐いた。



40 名前:オペラ座の空賊【75】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/01/12(月) 01:45:10 ID:8osiS2gE0]

重罪人用の独房に押し込められて、怒って、喚いて、暴れて…を一通り終えて、
ふて寝していたヴァンの所にアーシェがやって来たのは真夜中だった。
尤も、暗い独居房に居るため、ヴァンにはどれだけの時間が経ったのか分からなくなっていたが。
独居房の鉄製の扉には、中の様子が見られる様に覗き窓が付いている。
アーシェはその窓を開けて、暗闇の中にヴァンを探した。
「ヴァン。」
小声で呼ぶと、暗闇で、何かがごそごそと動いた。動いた方からヴァンとは思えないか細い声がした。
だが、その声はあまりにも小さく、何を言っているのかアーシェには聞き取る事が出来ない。
「なあに?聞こえないわ。」
「…………呼んでも……来なかったくせに……今頃……」
「まだ拗ねてるのね。」
ヴァン、押し黙る。
アーシェは持って来た手紙を取り出し、牢の中のヴァンからでも見える様に窓の所で振って見せる。
「バルフレアから手紙よ。」
言うが早いか、暗がりから獣の様な素早さでヴァンが姿を現し、アーシェの手から手紙をもぎ取った。
「バルフレアから…?」
中身を取り出すのももどかし気なヴァンを見ると、ひどく憔悴している。頬は痩け、目も落窪んでいる。
「ひどい顔してるわよ。」
ヴァンには聞こえていない。乱暴に手紙を開き、目で文字を追う。
「……パンネロ嬢を返して貰いたくばアルケイディア博物館の
『女王の凍てつく涙』を持ってくる事…なんだよ!これ!」
「どうする気なの?」
アーシェは淡々と尋ねる。
「持って行くさ!盗んででも!」
「そんな事が許されると思って?いくら相手がバルフレアとは言え、
パンネロが大人しく捕まっていると思う?戻って来ない理由があるとは思わないの?」
「……っ!」
返す言葉もなく、ヴァンはその場にへたり込んだ。拳で何度も石の床を殴る。
「お止めなさい。」
ヴァン、止めない。拳には血が滲んでいる。
「ヴァン!!」
凛としたアーシェの声が響き、ヴァンは漸く手を止めた。
ぎこちない動きで、振り上げた拳をのろのろと下ろす。
そんなヴァンを、アーシェは黙って見つめた。
長い沈黙の後、ぽつぽつとヴァンが話し始めた。
「アーシェの言った通りだよ…俺…パンネロの歌が聴きたかったんだ…
ヤバそうだけど……俺さえしっかりしてれば大丈夫って思った…
なんでそんな風に思ったのかな…誰の手も借りたくなかった…
でも、パンネロがバルフレアの名前を言ったら、
なんか…頭の線が切れたみたいだった…俺…おかしいよな。」
「やっと話してくれた。」
ヴァンはハッとなって顔を上げる。小さな窓からアーシェの穏やかな顔が見えた。
「やっと、こっち…見た……ね。」





41 名前:オペラ座の空賊【76】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/01/12(月) 01:47:02 ID:8osiS2gE0]

「アーシェ……」
ヴァンはヨロヨロと立ち上がると、覗き窓の鉄格子の向こうに居るアーシェの前に立った。
「ごめん……俺……」
どれだけ心配をかけたのだろう。
言葉もなく、唇を噛むヴァンの額を、アーシェは窓越しに人差し指で軽く突く。
おずおずと顔を上げると、アーシェはやはり、にこにこと笑っていた。
「本当、ばかなんだから。」
ヴァンは泣き出したくなった。
ずっと何かに追い立てられていた。見えない何かはずっとヴァンを縛っていた。
分かっていたけど、自分ではどうしようもなかった。
「アーシェ……」
アーシェはもういいの、とでも言う様に小さく首を振る。
「うん……ありがとう……な。」
ヴァンは照れくさそうに頭を掻くと、いつの間にか強く握りしめて
くしゃくしゃになってしまったバルフレアからの手紙をアーシェに返した。
「それで…ヴァンはどうするの?どうしたいの?」
「パンネロに謝る。バルフレアは分かっていて、パンネロを連れて行ったんだ。
パンネロに会う為に………………え〜………………」
「……『女王の凍てつく涙』。」
「そう!それ!それが必要なら、必ず盗み出して持って行く!」
「どうやってここから出るの?私を倒して?」
「連れて行く!」
間髪入れずに答えたヴァンに、アーシェは言葉を失う。
「盗んで!誘拐して!連れて行く!」
畳み掛ける様に叫ぶヴァンに、アーシェはとうとう笑い出した。
「ヴァン、あなたって本当に…」
「どうせまた“ばか”って言うんだろ?」
「どうして素直に出して下さいって言えないの?」
「………言えば出してくれるのかよ。」
アーシェは牢の鍵を開けてやる。
半信半疑だったヴァン、牢から一歩踏み出して、周りを見渡す。警備兵どころか他の囚人も居ない。
「アーシェ……本当に、いいのかよ?」
「ただし、私も付いて行きます。」
「えーっ!」
叫ぶヴァンの声が牢に反響して、アーシェは思わず顔をしかめた。
「さっき連れて行くって言ったのはヴァンでしょ?あなた一人じゃ心配ですもの。
パンネロが居ないと何も出来ないでしょう?」
「ふざけんなよ!おまえ、女王だろ?女王が城を抜け出して盗みって…」
「おまえはやめて。連れて行かないなら私を倒してからね。」
陸に上げられた魚の様に口をぱくぱくさせているヴァンに、アーシェは婉然と微笑む。



42 名前:オペラ座の空賊【77】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/01/12(月) 01:49:31 ID:8osiS2gE0]

「私に剣が向けられるの?」
「そんな事、出来るわけないだろ!?」
「時間が惜しいわ。さっさと決めなさい。」
アーシェはどこか楽しそうだ。もうヴァンの答えが分かっているのだ。
やっぱりアーシェが…と言いかけて、いい加減学習したヴァンは言葉を飲み込み、
「……分かったよ。」
アーシェは満足げに頷いた。そして、手早く旅支度や武器をヴァンに持たせると、
「さ、行きましょう!」
「なんでそんなにウキウキしてるんだよ。ピクニックじゃねぇんだぞ。
ソーヘン地下宮殿なんか、モンスターがうじゃうじゃ居るのに…」
「なによ、怖いの?」
「誰もそんな事言ってねぇだろ!俺はぁ!おまえを!心配して!」
「“おまえはやめて”。」
「聞き飽きたよ。」
「お互いにね。」
二人は夜陰に乗じて地下道から城外に抜け出すと、ダウンタウンを抜け、東門に向かった。
「チョコボが用意してあるの。この時間だとツイッタ大草原に向かうキャラバン隊が居るはずよ。
彼らに紛れて移動するわ。」
「……手際、良すぎるぞ。」






一昼夜かけての移動で、二人はソーヘン地下宮殿の入り口まで辿り着いた。
同行したキャラバン隊に別れを告げ、
「ここで野宿だけど…大丈夫か?」
「平気よ。」
そうは言っても、アーシェは随分と疲れているようだ。ヴァンは荷物を解き、寝床を作ってやる。
「横になってろよ。後は俺がやる。」
久しぶりの旅に正直身体は悲鳴を上げていた。
アーシェはヴァンの勧めに素直に従い、荷物を枕に横になった。
傍でヴァンが火をおこし、小さな鍋を火にかける。
干し肉や乾燥させた野菜に香辛料を混ぜて鍋に入れ、手早く野外食を作る。
薪がはぜる音、たき火の炎のゆらめき、漂うスープの香り。
(外で食べるなんて、久しぶり…)
「アーシェ。」
不意にヴァンが口を開いた。
「何?」
「付いて来てくれて…ありがとうな。」
「どうしたの?いきなり?」
「俺…一人じゃこんなに早くここまで来られなかった。アーシェ、女王様なのに、国の事放り出してまで…さ…」
「確かに、君主としては失格ね。」
「ごめん…俺のせいだ…」
「そうね…だから、考えてみて。どうして私がここまでするのか…」
「うん。考える。」
ヴァンの答えにアーシェは微笑む。自分のよく知っているヴァンだ。

43 名前:オペラ座の空賊【78】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/01/12(月) 01:52:48 ID:8osiS2gE0]

「そう言えば……」
「うん?」
ヴァンは鍋を見つめながら話し出した。
「小さい頃にパンネロん家が引っ越して来たんだ。あいつさ、女なのに走るの早いし、
男がやる遊びでも、なんでも上手かった。」
「うん。分かるような気がするな。」
「それで……近所のガキどもは、みんなパンネロと遊びたがってた。」
「ヴァンも?」
ヴァンは照れくさそうに、頭を掻く。
「うん…まぁ…。俺ん家、隣だったから。“俺がパンネロと一番仲が良いんだ”ってこっそり思ってた。」
アーシェは黙って話を聞く。
(前の旅ではこんな話をするゆとりなんかなかった…)
でも、またこうして旅に出て、仲間の子供の頃の話を聞けるのがなんだかうれしい。
気怠い身体に、ヴァンの声が心地よい。
「パンネロは習い事をたくさんしてて、毎日一緒に遊べなかった。
パンネロが居ないと、みんなつまらなくて。盛り上がらないんだ。
ある日パンネロが、すごく興奮して帰って来た。“オペラ座で、オペラを観た”って。
女優さんがきれいだったとか、その時聴いた歌を歌ってくれたりして。」
ヴァンは出来上がったスープをカップに注ぎ、アーシェに差し出した。
アーシェは身体を起こし、それを受け取る。
「その時のパンネロが…なんて言うのかな、可愛かったんだ。すごく。
男ん中混じって走り回ってるのに、女の子なんだなーって。
で、俺は舞台に立って歌うパンネロが観たいって思ったんだ。
今まで忘れてた。なんで今頃思い出したんだろうな。」
ヴァンは自分の分をカップに注ぎ、口をつけた。
「それはね、あなたが今、幸せだからよ。」
「え?」
ヴァンは驚いて、炎の向こうに座るアーシェを見る。
アーシェはスプーンでスープをかき混ぜてると、カップの縁に口を付け、一口飲む。
「うん、おいしい。」
しかし、ヴァンは味の評価どころではない。
アーシェが今、とっても大事な事を言ったような気がするからだ。
「なんでそうなるんだ?幸せだと、昔の事を思い出すのか?」
「そうじゃなくて…」
アーシェはスープに息を吹きかける。まだ少し熱いようだ。
「戦争があって、大切な人を亡くして、国を救う為の長い長い旅をして…
そんな時に思い出す余裕なんて、ないでしょ?」
そりゃそうだ、とヴァンは納得する。
「じゃあさ!思い出したって事は、平和になった証拠だろ?アーシェのお陰だな!」
確かにそうかもしれない。だが、戦争を起こしたのも一部の執政者だ。
戦争さえなければ、とアーシェは思う。
ヴァンがパンネロの歌を聴きたいという想いは、もっとスムーズに伝わっていたのではないか。
少なくともこんなにも自分を追い込むような形ではなかったはずだ。
(戦争が残した傷が今頃出て来たんだ……)

44 名前:オペラ座の空賊【79】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/01/12(月) 01:55:30 ID:8osiS2gE0]

ヴァンですら、こうなのだ。
今、イヴァリース中にヴァンの様に心にも傷を負った人々がどれだけ居るのだろう。
そう考えると、飲んでいたスープが急に塩辛くなった様な気がした。
「…ごちそうさま。」
「うん、アーシェ、もう寝ろよ。」
「ヴァンは?」
「俺は…少し考えてみる。さっきアーシェが言ったこと。」
「そう……」
空腹が満たされると、今度は眠気が襲って来た。アーシェは再び身体を横にする。
「…おやすみなさい。」
「うん。あ、アーシェ!」
アーシェは閉じかけた目を開く。
「…なに?」
もう一秒たりとも目を開けていられない程眠い。
「あのさ、戦争とか…色々あったけど、アーシェのせいじゃない。
だから、あんまり自分を責めたりするなよな。」
アーシェは面食らってヴァンを見る。
「…ありがとう。」
(もう大丈夫。)
いつものヴァンだ。アーシェは安心して眠りに落ちた。
(きれいだな…)
ヴァンはたき火に照らされ、穏やかに眠るアーシェの寝顔にしばらく見とれ、
それから“宿題”を思い出し、自分と、パンネロの事を考えた。

つづく

45 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/13(火) 00:27:19 ID:xhGsDipS0]
> オペラ座の空賊 ◆WzxIUYlVKU
待ってました〜!
実は前回までの展開で、アーシェはヴァンの口から真相を語らせるために敢えてトンデモナイ
推理を展開したのだと思ってましたが、まさか戦後復興とその在り方に繋がる伏線だったとは!
今回、良い意味で期待を裏切られました。アーシェ無茶苦茶かっこいい!!
あと、各キャラクター同士が互いを思いやってるっていうのが伝わってくる文章で、読んでると
安心(…妥当な表現が出てこないんですが)できます。
なんというか、書き手の作品・各キャラクターへの愛が伝わってくると言うか。
その分(個人的には)今さらですが12未クリアなのが悔やまれます…。

46 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/15(木) 03:39:18 ID:MFmJNJ7gO]
GJ!

47 名前:ラストダンジョン(288)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/15(木) 05:42:30 ID:9Jk4gV1A0]
前話:>>24-28
----------

 万策尽きたと諦め感の漂う大人達を尻目に、デンゼルは見取り図を何度も読み返していた。きっと
何か見落としがあるに違いないと、そう思って施設の周囲も歩いてみたが、どこも有刺鉄線に阻まれて
中へ入る事はできなかった。となると、やはり入口扉の符号錠を開けるしか無い。握りしめていた見取り
図は雨にさらされ、字は滲んで読むことさえも困難になりつつあった。
 結局、自分もケリー達と同じ結論にしかたどり着けなかった事に落胆した。でも絶対に諦めたくは
なかった。その狭間で、デンゼルはどうしようもない焦燥感に駆られていた。
 頭が痛かった。さらに耳の奥の方でキンと不快な音が鳴っている気がした。全力疾走したわけでも
ないのに、いくら吸い込んでも息が楽にならなかった。おかしいと思って顔を上げると、変電所の鉄塔と
送電線がぐにゃりと歪んで見えた。それでようやく、デンゼル自身が体調の異変に気付く。
「……? おい、デンゼル?」
「はっ、はい!」反射的に振り返って、自分でも驚くほど大きな声を張り上げていた。
「大丈夫か?」
 フレッドに名前を呼ばれた途端、それらの症状が嘘のように治まった。自身でも何が起きたのかよく
分からずにいたデンゼルに、フレッドは尚も訝しげな視線を向けている。
「あっ、いえ。ちょっとボーッとしちゃってて。……大丈夫です」
「本当に大丈夫か?」
 錠をいじっていたケリーも手を止めて振り返る、デンゼルは何度も頷いて見せた。
「じゃあ、出てやれ」
 ケリーに言われてようやく、鞄の中で携帯電話が鳴っていることに気がついた。さっきの耳鳴りみたい
な音の正体はこれだったのかも知れないと、デンゼルはホッとしながらも、慌てて携帯を取り出した。
ずいぶん長いこと鳴っていた様だ。
「……もっ、もしもし?」
『状況はどうだ?』
 ヴェルドだった。
 その声を聞いた途端、緊張の糸が解けたデンゼルは思わずその場に座り込んでしまった。意識は
あるのに、足にうまく力が入らなかった。
 その様子を見て驚いたケリーが慌てて駆け寄ると、倒れないようにと彼の背後に回って肩を支えた。
この時ようやく、デンゼルが必死にここまで来たのだと言うことに気付いた。泥だらけのレインコートに
包まれた小さな体を見下ろしながら、よく頑張ったと改めて思った。と同時に、自分の至らなさが込み
上げてくる。治安維持部門での経験を生かしてエッジの自警団に志願した。だが昔も今も、いつも
肝心なときに何もできないじゃないか。

 ――「もう私の出る幕ではない」

 そう言ってケリーを見つめたエルフェの視線が、本当はとても痛かった。『デンゼルを1人にして、お前
はいったい何をしてるんだ?』そう言われている気がしたからだ。事実、エルフェがいなければデンゼル
は怪我をしていたかも知れない。

48 名前:ラストダンジョン(289)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/15(木) 05:46:45 ID:9Jk4gV1A0]
(すまんな……)
 けれどデンゼルに詫びるのは、もう少し後にしようとケリーは思った。今ここで言うべき事じゃないんだ
と自分に言い聞かせ、言葉を呑み込んだ。それともう1つ、彼女にもきちんと礼を言わなければならない。
この件が片付いたらまず、その2つをしようとケリーが決心したところで、電話を手にしていたデンゼルが
声を上げる。
「だっ、大丈夫! って言いたいですけど。……ごめん……なさい」語尾は雨の音にも負けるほどの小さ
な声だった。それから、ここへ来るまでの経緯を掻い摘んで話しだした。
「実はモンスターに襲われそうだった所を、通りすがりの人に助けられたんです」
 そう言ったデンゼルの両肩に手を置いて、身を乗り出した格好でケリーが続けた「しかも聞いて驚け
元主任! そいつ、元アバランチの女リーダーだったんだぜ?」
『……なんだって!?』受話口から聞こえてくる声は、明らかに動揺していた。
 あんなに頼もしく見える人でも、こんなに動揺するんだと内心デンゼルは驚いていた。
(やっぱり、よっぽど大変な事なんだ)
 デンゼルにとって神羅カンパニーとアバランチの抗争は、伝え聞いた話でしか知らない。けれど、こう
して実際に関与した人々にとっては過去の出来事というだけでは済まないのだろうと思った。
「そ、神羅の宿敵だ」どうだこんな偶然ってあるか? と、頭上から聞こえてくるケリーの声はどこか嬉し
そうだった。
『そこにフェリシアが?』
「……フェリシア? ちがう違う、エルフェだろ」
 アバランチのリーダーの名前なら、治安維持部門に所属していたケリーもよく知っている。
 荷役作業車でデンゼルが聞いたのも、確かに『エルフェ』という名前だった。
『エルフェは確かにアバランチのリーダーだった。だが彼女の本名はフェリシアだ』
「さっすが、タークスはそこまで調べ……」
 言いかけたケリーの言葉に、ヴェルドの声が重なる。
『フェリシアは俺の娘だ』
「そうかそうか俺のムス……。?」
 えーと、ちょっと待ってくれ。俺の娘? 「俺」って誰だ? 俺じゃないよな? だって俺ムスメどころか
嫁さんもいないし。ああ、そうか言ってるのはヴェルドのおっさんだからあいつの娘って事なんだよな。
……そうそう、ヴェルドの。ヴェルドのね。へえ、ヴェルドって。あっそう、そうだったんだ。あいつ結婚し
てたんだ。まあ俺よりかなり年上だもんな。ちょっと性格悪いけどまぁ頼りになりそうだし、分かる。うん。
……で? 誰が娘だって?
「? …………」
 言葉を失ったケリーは呆然とするばかりだった。デンゼルが見上げると、呼吸も瞬きも何もかもが
停止している様に見えた。しかし彼の頭の中では普段以上の速さで、ただし無駄な方向に思考が働いて
いた事は、残念ながら端からではさっぱり分からない。
「その……エルフェさんが、おじさんの……娘さん、なんですか?」
 確認するようにデンゼルが尋ねる。返されたのは肯定だった。そこでデンゼルは、エルフェから聞いた
言葉を思い出した。

49 名前:ラストダンジョン(290)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/15(木) 05:51:49 ID:9Jk4gV1A0]

 ――「こうして剣を持つときは、親からもらった名は捨てる。」

 そう、“『エルフェ』という名前は本名ではない”のだ。
「それじゃあ、やっぱり?」
『色々と事情があってな……』
「なんだって!? ちょっと待ってくれ俺たちそんな話ぜんぜん……!」
 ようやく現実に復帰したケリーがその場で立ち上がって興奮気味に問うと、対照的に冷めた口調で
ヴェルドが答えた。
『考えてもみろ、社の汚点を公表すると思うか? お前さんの言うとおり、“神羅の宿敵アバランチの
リーダーが、実はタークス主任の娘でした”なんて。俺がプレジデントの立場でも、同じ事をしただろう』
 確かにもっともだ。だがケリーとしては、理屈で納得できるかどうかと言う問題ではなかった。
「くっそ! 体張って仕事してた俺らを騙しやがって!」
『今さら神羅の体制批判をしても仕方なかろう?』
 電話の向こうにいたヴェルドは思わず苦笑を漏らす。かつて現場にいた身としては、ケリーの気持ち
も分からないでもないからだ。
 そんなヴェルドの心情など知る由もなく、いっこうに落ち着く様子の無かったケリーを、横でフレッドが
必死に宥めていた。
 興奮したケリーのお陰で周囲がやたらと熱気を帯びて賑やかになるのとは反対に、デンゼルは体の
奥の方から湧いてくる冷たい感覚を確かに感じていた。
「もしかしてヴェルドさん、最初から……?」
 今になって振り返ってみれば、実に都合良くエルフェが現れたと思う、まるで待機していたとでも言う
ように。しかも道に迷ったと、にわかには信じがたい――不自然な嘘をついた理由にも。彼女がヴェルド
の娘だとすれば、話の辻褄がすべて合うような気がした。
「……最初から、こう……するって」
 言葉を進めるほど、奥の方にあった冷たい感覚は全身に広がっていった。最後には凍り付いてしまっ
たように、言葉が途切れ口を動かすことさえできなくなってしまった。
 ――やっと、自分もなにかの役に立てると思った。
    でも。結局は……。
 指先まで冷たかった。なのにどうしてか、目の奥だけが熱くて、つんと小さな痛みを感じる。怖くて
まぶたを閉じることができなかった。

50 名前:ラストダンジョン(291)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/15(木) 05:57:08 ID:9Jk4gV1A0]
 少しの間があってから、ヴェルドはゆっくりとした口調で言った。
『デンゼル。タークスはどんな悪条件の中でも必ず任務を成功させる、その為にあらゆる手段を用いて
最善を尽くす。タークスを抜けた今でも、俺はそうしている』
 ぎゅっと唇をかみしめて、ヴェルドの話を黙って聞いている事しかできなかった。
『提案を聞いて、見込みがあると判断して俺は依頼した。……デンゼル、“君に”だ』
 今や電話を持つ手は冷え切って、感覚は無い。ヴェルドの声も遠く聞こえる。
『君は今、どこにいる? まだエッジの街の中か?』
「……ちがいます」
 ようやく出たのは掠れた声だった。
『ではどこだ?』
「変電所の前、です」
『予期せぬトラブルもあっただろう。しかし君は、最善を尽くして今そこに立っている。違うか?』
 その言葉にはっとして顔を上げる。「でも……変電所の中には……」口にしたデンゼルを遮って、
ヴェルドは告げる。
『もし君に見込みがなければ、俺は最初から依頼などしない。……良くやった』
 慰められているような気がした。それでも、その言葉が嬉しかった。
「俺より来るの早かったしな」いつの間にか隣に座っていたケリーが、背中を叩く。
「あの状況でも途中で逃げ出さなかった、それは間違いなくデンゼルの強さなんだ。胸を張っていい」
フレッドが後に続く。
 それが彼らの優しさなのだと分かっていた。でも嬉しかった。デンゼルは少しくすぐったい気持ちに
なった。
 電話の向こうから、ヴェルドの話はさらに続く。
『……ここへフェリシアが現れる事自体、想定していなかった。それどころか、俺が一番驚いている
ぐらいだ』
 最初にこの話を聞いたときも、確かにヴェルドは動揺していた。でもなぜ? デンゼルがさらに問うと、
躊躇いがちにではあるがこう答えた。
『夕食の材料を調達してくると言って家を出たきり、まだ戻ってないんだ。……いなくなって1週間経つ』
「えっ?」思わぬ答えに、今までデンゼルの中に渦巻いていた色んな感情が一気に引っ込んだ気がし
た。エルフェの話と合わせて考えれば、4ブロック先の商店に買い物に出かけてから1週間、彼女は
道に迷っていたという事になる。
「……えー……」
 返答に窮したデンゼルの心情を汲んだように、ヴェルドは続ける。
『信じられないかも知れないが、今回が初めてではないんだ』
 ヴェルド自身と娘のフェリシアは、ある実験の被験体となった。ここで語るには長すぎる様々な経緯が
あって、彼らはいつしか魔晄炉を中心に敵対する勢力の要として、それぞれ部下を従える立場に立った。
年を追う毎に両者の争いは拡大、激化し、その混乱のただ中で親子は再会を果たした。それはメテオ
災害のさらに前の出来事、大衆の知る歴史には登場することの無かった“もう一つの星の危機”だった。
『フェリシアは一命を取り留めた。たくさんの者達の協力と思いによって、俺たち親子は救われたんだ』
 その中には当時都市開発部門の統括だったリーブも含まれていた。タークスを抜け神羅を裏切り、
抹殺命令まで出されていたヴェルドに力を貸し、援助活動を続けるタークスにも秘密裏に協力した。
ヴェルドがここにいるのは、それに報いたいという思いもある。



51 名前:ラストダンジョン(292)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/15(木) 06:11:06 ID:9Jk4gV1A0]
『しかし後遺症がまったく無かった訳ではない。……方向感覚の異常は幼い頃に受けた人体実験と、
その後の環境が影響して現れたものだろうと、医者から言われている』
 成長途上だった彼女の肉体と精神の両面に、負担を強いていたのは間違いない。その後遺症なのだ
と診断した医師の判断は妥当だろうと思う。その一方で、もしかしたら後遺症などではなくフェリシア本人
が意図している行動なのかも知れないと、ヴェルドは考えていた。それが彼女なりの、罪滅ぼしのひとつ
なのだろうかと。しかし、それを確かめることはできなかった。
「……そうだったんですか」
『フェリシアは魔晄炉に対して拒否反応を示す、だから今回の話……特にリーブのことは触れていない
んだ』神羅の権威と魔晄文明の象徴、ミッドガルを作り上げた功労者であり、その意味ではアバランチに
とって最大の仇敵とも言える。生みの母を失い、やがて身を投じた闘争の中で今度は育ての家族を失っ
たエルフェにとって、魔晄炉とは特別な存在であり、自身にとっても星にとっても今なお癒えない傷その
ものだった。『これ以上、フェリシアには……』
 言い淀むヴェルドの声を聞きながら、フレッドは唇をかみしめた。今なら分かる、エルフェが言わんと
した「愚か者」の意味が。そう言った彼女の思いが。本当に、ほんの少しだけだったが。
「……俺の知らないことばかりだ」
 半ば呆然としながらケリーが呟く。
『必要な事実だけを、必要な者にのみ知らせる。……軍であれ何であれ、組織統制の鉄則だ』
「そこに甘んじろと?」苦虫を噛みつぶしたようなケリーの問いを、ヴェルドは否定する。
『いいや、そうじゃない』そうと知った上で、ここにいるんだろう? そう言って笑った。『俺達がこれから
やろうとしてるのは、“局長”からしたら明らかな反逆行為だろうな』
「もとより覚悟の上」
『ならば結構。ではお互い、ひとまず驚くのはこの辺で終いにしよう。もう少し詳しく状況を教えてくれな
いか?』
 その言葉に、3人は我に返ったように顔を見合わせた。
 確かにヴェルドの言うとおり、今ここで感傷に浸っている暇は無かった。


----------
・フェリシアさんねつ造して本当にごめんなさい、でもこの親子そろって大好きです。
・設定を読み間違ってたらご指摘いただけると幸い。(実験後の親子の処遇が分からない…)
・次回、『三人寄れば文殊の知恵大作戦』!(タイトルセンスがアレなのは日常茶ry)
※この物語の主人公は魔晄炉です。(…半分嘘w)今回視点が飛んで読みづらくなってたらすんません。

52 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/16(金) 08:20:01 ID:mR/uhH8eO]
GJ!

53 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/17(土) 20:21:38 ID:UA6M/Dlh0]
おつおつ!

54 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/19(月) 03:50:05 ID:Ep5vjuE30]
乙!

55 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/20(火) 23:31:16 ID:NVnDPUFQO]


56 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/21(水) 23:48:10 ID:XPa0lC0FO]


57 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/22(木) 14:00:56 ID:dr4dLC9/0]


58 名前:ラストダンジョン(293)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/23(金) 02:43:02 ID:CBjTYWgK0]
前話:>>47-51
※システム面さえ個人解釈ねつ造過多ですご注意下さい。
----------


 デンゼル達から一通り話を聞き終えたヴェルドは、この事態を打開する1つの策を思いついた。しかし
それを実現するためには、どうしても彼らの協力が不可欠だった。
『ケリー、フレッド、それからデンゼル。もし万一のことがあっても君たちに咎はない、全責任は俺が取る。
……その上で、協力してもらえるだろうか?』
 当然ここまで来て断る理由は無い。3人に異存はなかった。
「いよいよ実力行使か?!」
 袖を捲りながら「そもそも錠破りなんて細かい事は性に合わないんだ」と、口元を歪めて明らかに声を
弾ませているケリーを、ヴェルドはあっさりと退ける。
『施設の破壊はしないと、最初に言っただろう? わざわざ痕跡を残すようなことはしない』
「しかし、錠を壊さない限り中には入れないし、遮断器も……」
 期待はずれの返答に舌打ちをするケリーの後ろから、懸念を示したのはフレッドだった。しかしヴェルド
はそれも否定する。
『施設内に立ち入る必要はない。それにこの作戦の原案は君がすでに提示している』
 そう言われてみても、当のフレッド本人にはまったく見当が付かなかった。
『ところで。三人寄れば文殊の知恵、という言葉を知っているか?』
 さらに唐突な質問に、フレッドは反応できなかった。
「ええと……『3人が協力すれば素晴らしいアイディアを得られる』みたいな意味ですよね」代わりに答え
ながら、デンゼルは首を傾げた。「それがどうしたんですか?」
『ちょうど俺の手元にも、彼らと同じマテリアがある』つまり、そう言うことだ。そう言ってヴェルドは笑った。
「ま、まさか……」ケリーが自分の持っているマテリアを見つめる。
「俺達がマテリアを?」フレッドも自分の手にしていたそれを見下ろす。同時に、ヴェルドが最初に咎と
前置きしたのは、マテリア使用の協約違反を示していたのだと理解した。確かにW.R.O隊員みずから
積極的に協約に触れる行為に荷担したとなれば、後々問題になるかも知れない。もっとも、今はそれ
よりも優先すべき事がある。この話はひとまず後回しだ。

59 名前:ラストダンジョン(294)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/23(金) 02:46:22 ID:CBjTYWgK0]
『そうだ。俺が援護する、こちらは問題ない』
 さも当然のように言ってのけるヴェルドだったが、ケリー達が戸惑うのも無理はない、なにせマテリア
なんて使ったことがないのだ。そもそもソルジャーではない社員、まして一般市民がマテリアを使う
機会など無い。
『これから順を追って説明する。こちらの指示に従ってくれ』
 まずは弾倉からすべての弾を抜き取れ、と言うのがヴェルドの指示だった。銃から弾を抜き取っては
何もできないと、さらに困惑するふたりを説得するように話は続く。
『お前達はこれまでマテリアを使って魔法を撃った経験は無い、と言ったな? 弾を抜くのは誤射を回避
するための安全策だ』
 さらに弾を抜き取った後、マテリアを装備しろと言った。支給された武器が旧世代――ジェノバ戦役の
終結を境として、協約でマテリアの使用が制限される前――の物であれば、マテリア装備を前提とした
設計がされているが、そうでない場合は武器以外のどこかに身に着ける必要がある。
 ケリーの持っている銃は旧神羅からの流用品、正確には会社破たんの混乱に乗じて彼が持ち出した
物だった。弾倉底面のくぼみにマテリアをはめ込むと、思いの外しっかり収まった。グリップから伝わる
重量感が増したが、撃ち合いにでもならない限り問題はなさそうだ。
 一方フレッドが持っているのはW.R.O正規の支給品で、マテリアを装着できる仕様にはなっていない。
そこで、身に着けている中でマテリアを装備できそうな物を探した。幸い、彼が13歳の誕生日に父から
贈られた腕時計にはマテリアが装備できそうだった。
「……なにか違和感が」手にしたマテリアを時計にはめ込むとき、穴の大きさに合わせてマテリア自体が
伸縮する事を初めて知った。そのことにも驚いたが、それ以上にマテリアをはめ込んだ後、時計を着け
ていた左腕に痺れた様な感覚が残った事がどうしても気になった。
『マテリアを使って魔法を撃つには所有者の精神力を消耗する。装備するのも初めてなら尚更だ。
最初は少し違和感もあるだろうが、じきに慣れる』
 それからマテリアを発動させる――魔法を撃つ――ための方法を手短に説明した。
 ヴェルドの話によれば、マテリアの潜在能力を引き出すためには装備者のイメージが重要なのだと
言う。逆に言えば、明確なイメージを持てなければ、いくらマテリアを持っていても発動はしない。これが
装備と所有の大きな違いだ。
『そのために銃を使う。銃を撃つイメージでサンダーを撃てばいい。慣れないと実際に発砲してしまう
からな』
「なるほど、弾倉を空にしたのはそのためか?」
 言いながらケリーは右腕を伸ばして銃口を鉄塔に向けると、後退しながら照準を頂に合わせた。
『引き金を引く代わりに、サンダーを撃つんだ。銃口から弾を発射するのではなく、放電する様を頭の
中に思い描け』
「でも避雷器に吸収されやしないだろうか?」
 肩幅に開いた両足で泥土に覆われた地面を踏みしめると、グリップを握る右手の下、弾倉底面に
左手を添えた格好で銃を構えたフレッドが心配げに問う。変電所の設備についてなら分かっているが、
彼にとってサンダーの威力は未知数だった。

60 名前:ラストダンジョン(295)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/23(金) 02:49:39 ID:CBjTYWgK0]
『そのために発動のタイミングを合わせる必要がある。次の着信を合図にカウント10だ。少しでもズレが
生じれば避雷器に吸収されて効果は無くなる、気をつけろ』
「了解した」
 その言葉を最後に、フレッドは目を閉じて意識を集中する。治安維持部門にいた経験のあるケリーとは
違い、銃を撃つ事にもそれほど慣れている訳ではなかった。
『デンゼル』
「はい!」
『俺はここから彼らの援護をする。本来であれば援護要請も魔法発動も一人でこなすものだが、彼らは
初心者だ。そこで君に援護の中継をしてもらいたい』
「援護の中継?」
 方法を問うデンゼルの声がしっかりと落ち着いている事に、ヴェルドは内心で安堵する。順応性や
集中力に関しては子どもの方が期待できるが、必要以上に怖がったり、浮き足立ってしまわないかと
心配だった。しかしこの分なら問題はなさそうだ。
『俺がここからサンダーのマテリアをそちらに送る……正確には、発動したエネルギーを転送する』
「そんなことできるんですか?!」
『この端末の特殊仕様だ。言っただろう? 型は古いが機能面では劣らない』
 最初の着信音から数えて10秒。次にこの携帯電話に着信があったら、そのタイミングで応答するよう
にと、彼らと同じく手順を説明した。
『意識を鉄塔に集中しろ、魔法は君の意識が向かう方向に誘導される』つまり中継とはそう言うことだと
ヴェルドは話す。『他に気を取られていると、的を外すことになる』
「分かりました、やってみます」
 話を聞き終えたデンゼルは、返答しながら頷いた。
 時間的な問題もあるが、彼ら3人の消耗の面から見てもチャンスは限られている。しかしヴェルドは
その事については言及しなかった。ここでそれを知らせて、彼らに余計なプレッシャーをかけることは
ない。
 胸の内に言葉をしまい込み、改めてヴェルドは3人に告げる。

『デンゼルの持っている携帯電話が合図だ。最初の着信音からカウント10で一斉に鉄塔に向けて
魔法を撃つ、いいな?』

 互いに顔を見合わせて頷き合った後、彼らが了解の旨を返すと通話は切断された。
 デンゼルは切断ボタンを押してから電話を折りたたむと、雨に濡れないようにと両手で包み込むように
して胸の高さで持ち直した。
 変電所の敷地からもっとも離れた場所に立ったのはケリーで、いったんホルスターに銃をしまうと簡単
な柔軟運動を始めた。逆に入口扉のすぐ脇に立つフレッドは両手で銃を持ち、相変わらず目を閉じた
まま直立不動の姿勢を崩さなかった。デンゼルはごく自然と両者の間に移動する。
 こうして静寂の中に立たされた3人は、それぞれの方法で意識を集中させていた。地面に叩きつける
雨の音も、視界を遮り激しく体を打つ雨粒も、今の彼らにとっては問題にならない。
 ゆっくり深呼吸を繰り返しながら、着信を待った。



61 名前:ラストダンジョン(296)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/23(金) 02:55:31 ID:CBjTYWgK0]
 それから間を置かずに、甲高い着信音が鳴った。デンゼルは再び携帯電話を開くと、通信ボタンに
指を置く。10秒後にこのボタンを押すのだと、自分に確認するように大きく頷いた。
「……10!」
 自然に出たデンゼルの声に合わせて、あとの2人が銃を掲げる。
「9、8、7……」
 同じくカウントを口ずさみながら、左手に残る僅かな痺れがいっそ心地良いとフレッドは思った。
「6、5、4……」
 二人の声と重ねるようにしてカウントダウンに加わる。今までに味わったことのない緊張感の中で、
ケリーは引き金に指をかける。
「3、2、1……」
 顔を上げると鉄塔の頂を見据え、デンゼルは無意識のうちに両腕を伸ばしていた。視線と意識が
まっすぐに鉄塔へと伸びていく。応答ボタンに置いた親指に力を込め、最後のカウントを口にした。
 彼らがゼロと叫んだ声は迸る放電の音に呑み込まれ、地上にいた3人から放たれた霹靂が分厚い
雲の下で大地を明るく照らし出した。鉄塔の直上で収束した3つの稲妻は、網膜に焼き付くような閃光と、
鼓膜を突き破らんとする轟音を放ちながら鉄塔を撃った。
 鉄塔を伝う大量の電流は避雷器の許容量を上回り、遮断器どころか送電線そのものを焼き切る
エネルギーをもたらした。落雷によって放出された熱と雨が混じり合い、辺りは霧に包まれた。霞んだ
視界の中で、ちぎれた送電線や一部の設備からは火花が散っている。
 自分達の引き起こした光景に恍惚と見入っていた3人に、強烈な衝撃が伝わったのは半瞬遅れての
事だった。咄嗟の出来事に体勢が崩れ、中でも小柄だったデンゼルの体は一瞬だけ宙を舞った。
「……うっ!」
 口内に入り込んできた大量の泥と、鼻をつく刺激臭に思わず声を上げたデンゼルは、衝撃が収まると
薄くまぶたを開けて周囲を確認する。体勢を崩していた自分の後ろで、ケリーが背中を支えていた事に
気付いた。
「ありがとう」

62 名前:ラストダンジョン(297)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/01/23(金) 02:56:04 ID:CBjTYWgK0]
「ケガが無くて何よりだ。……にしても、凄まじい威力だな」
 そう言って顎の辺りに付着した泥を袖で拭き取り、鉄塔から視線を下ろした。その先には、すでに立ち
上がっていたフレッドの背中があった。この衝撃で傾いた入口扉に向けて、彼は再び銃口を向けている。
「おいフレッド!」
 放たれた小さな光は、傾いた入口扉にとどめを刺すには充分らしかった。それから体当たりで扉を
破ると、フレッドは施設内に足を踏み入れる。霧の向こうに霞むフレッドの背中に呼びかけるケリーの
横で、デンゼルは自分の手に携帯電話が無いことに気付いた。どうやら先程の衝撃で吹き飛ばされた
折に、電話を落としてしまったらしい。
「どうしよう! これじゃあ……」
 連絡を取る手段がないと焦るデンゼルの耳に、フレッドの声が聞こえてきた。
「本線は死んでるが、予備線が無事だ! 復旧には問題ない」
 そう言ってフレッドは再び背中を向けると、さっそく復帰作業に取りかかった。
 携帯で直に連絡が取れなくとも、電力が復旧した事が何よりの報になるはずだ。ケリーがそう告げると、
デンゼルは大きく溜息を吐いた。
「よかった……」
 それまで張り詰めていた緊張の糸が切れた音を聞いた気がした。途端に全身から力が抜け、ケリーに
凭れたまま目を閉じた。



----------
・DCは魔法で敵を一掃するはずが、L1とR1を押し間違えたせいで敵の集中砲火を浴びた経験がある
 元タークスが、仕方なく世界を救ったとか救わないとか。
・BC(PV)の召喚(マテリア援護?)エフェクトがかっちょよくて興奮した。…文中の再現率は目を瞑って
 くださいwでもあれは本気で格好良いと思いました。さすが制作者側は心のくすぐり方を熟知してる…。
・書き手はFF7で高級腕時計を入手できた試しがありません。時計なのにマテリア装備ってどうなんだろ?

63 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/23(金) 05:24:36 ID:d4ZGOPbdO]
GJ!

64 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/24(土) 22:33:01 ID:IA2zEbNl0]
乙!

65 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/25(日) 20:05:51 ID:hrzhUvzX0]
乙!

66 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/26(月) 23:30:28 ID:4vghJdGEO]
おつおつ

67 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/28(水) 15:36:22 ID:zpCc1AhX0]


68 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/29(木) 23:21:18 ID:xL5Lq+d40]


69 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/30(金) 23:11:13 ID:IVkBkRqfO]


70 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/01(日) 00:47:43 ID:kaBzHKTP0]




71 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/01(日) 12:53:13 ID:TuZM3QXP0]


72 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/02(月) 12:22:43 ID:fScF6vvD0]


73 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/02(月) 20:21:44 ID:ngQ0U7fb0]


74 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/04(水) 09:05:37 ID:+T6SjCEwO]


75 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/05(木) 10:25:20 ID:hqWewFKp0]


76 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/06(金) 19:21:11 ID:TxqDqp4G0]


77 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/06(金) 23:51:52 ID:1n5BjFnk0]


78 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/07(土) 16:14:02 ID:aTkrV2IQ0]
墓だろjk

79 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/09(月) 00:36:38 ID:8+8UELGk0]
基    …と敢えて書いてみるテスト。

80 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/09(月) 19:07:38 ID:p4gicksq0]
ほぼマリア†ダリルーセの基



81 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/09(月) 20:07:49 ID:/tO1znMM0]
なぜ79が採用されるし

82 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/09(月) 22:11:50 ID:Nb8jGOG80]
ダリルと来たらセッツァーじゃないのか

83 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/10(火) 20:58:46 ID:ZrrLTn7Q0]
ダリルと来たらそりゃ…

  _   ∩
( ゚∀゚)彡 おしり!おしり!
 ⊂彡


…すいません。
各作品の続き、新作、おとなしく待ってます。

84 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/11(水) 15:04:51 ID:wblZW1hyO]
ダリルと来たらそりゃ…

かに
すら
とも
よや

85 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/12(木) 02:07:36 ID:1ArYjqRG0]
みんなどれだけ6好きなんだよ
俺も6が一番好きだが

ダリルはなけるからやめてくれ…

86 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sageありゃ詐欺だ [2009/02/13(金) 02:54:35 ID:JXRB2NB+0]
ダリルと来たらそりゃ…

墓に行く直前で一撃のダーツを買ったのは、大きなミステイク。
お前の口癖(を、ダンジョンにまで仕掛けてあったのはさすが)だよな、ダリルよ…。

87 名前:ラストダンジョン(298)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/02/13(金) 03:02:21 ID:JXRB2NB+0]
前話:>>58-62
----------



 目に見える風景の輪郭はかすみ、やがて混じり合った色が滲んで見えた。

 ――SND<センシティブ・ネット・ダイブ>は、
    君の意識をそのままネットワークへ投影し潜行する事ができる能力。

 当時、実験棟の連中は私が初の成功例だと言って喜んでいた。
 私は当初、それをネットワーク上を巡回するプログラムの1つだと考えた。でも、連中が目指していた
のは全く違う物だった。
 ディープグラウンドに隔離されていた身では知る由もなかったが、当時すでに通信網を使ったエネル
ギー転送技術を、神羅はタークスの活動で実用化していた。彼らの間では『マテリア援護』と呼ばれて
いたらしい。SNDはこの技術を応用、さらに進化させようと試みたもの、という事になる。
 実験棟に連れてこられた私の目の前には、ベッドに横たわっている被験体がいた。私と同じ服を着た
彼は、どうやら眠っているらしく身動き一つしなかった。どうして良いのか分からずその場で突っ立って
いる私に、連中は「第二段階だ」と言っていつもの装置を指した。
 これが人に対して直接SNDを実行した初のケースとなる。このとき被験体から得られたのは、こちら
の処理能力を上回る多量の雑念だった。量こそ少ないがフィルタリングに成功し取り出せた情報も、
被験体が直前まで受けていた苦痛と、連中に対する憎悪の念だった。内側から浸食されていく恐怖、
それは言葉でいくら説明しても伝わらないだろう、実際にSNDを行った者にしか分からない感覚だ。
私は必死で回線を切断し外へ逃れようとした。けれど、連中がそれを許さなかった。内側からのコマ
ンドは受け付けないよう、あらかじめプログラムを修正してあったのだ。
 装置に横たわっていた私の耳が、外にいた連中の声を聞いた。

 ――こうなると、肉体は枷でしかないな。

 ベッドに横たわっていた被験体は、この直後に死亡した。私は生きながらにして、彼とともに死の感覚
を味わう事になった。被験体の持っていた記憶の一部、特に死の間際の苦痛や混乱、恐怖や憎悪は接
続を切った後も私の中に蓄積され消えることはなく、それは死ぬこと以上の恐怖を永続的にもたらした。
もう二度とあそこには行きたくないと、最初のうちは必死で抵抗を試みた。

88 名前:ラストダンジョン(299)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/02/13(金) 03:10:49 ID:JXRB2NB+0]
 けれど連中がやめるはずもなく、その後も実験は繰り返された。むしろ抵抗すればするほど、その
姿を面白がっているとでも言うように実験は過酷さを増していった。そのうちに、怒りや恐怖と言った
感情を表に出すことをしなくなった。それが私に出来る唯一の抵抗なのだと経験で知ったからだ。
 けれども数多の死と記憶に触れるうち、自分の中にあるはずの記憶でさえ、もはや誰の物か区別が
付かなくなり始めていた。さらに脳の正常な機能を維持するための投薬と度重なるSNDのお陰で、
ひどい時には意識障害まで出る有様だった。私が昏睡するぎりぎりのところで、連中は魔晄照射を施す。
こうして繰り返される日々は、苦痛から解放されることのない拷問のようだった。ようやく保たれた意識の
中で、正気を手放すのも時間の問題だった。
 けれどそんな中で唯一、辛うじて自分が自分であると認識できる証明があった。
(助……けて……お、姉……ちゃん)
 その思いにしがみついていなければ、私は私でさえいられなかった。

(助けて……)

 私はあの頃からずっと、姉の存在に救われていたのだ。

                    ***

 まぶたを開く。
 ネットワークに意識を投じただけの状態では、何も見えない。視覚としての情報を何も得ていないし、
見ようとしていないからだ。目的の情報にたどり着くまでは、ずっとこの状態を維持しなければならない。
何せネットワーク上には膨大な量の情報が溢れている、不用意に“意識”を解放すれば、許容量を
はるかに上回る情報が流れ込んでハングアップしてしまう。その意味では通常の端末と同じだ。
 座標指定したのはW.R.O新本部施設内の端末だったから、目的の情報はすぐそこにあるはずだった。
けれど“何もない”。偽装か何かで隠れているのだろう、それ自体はよくあることだった。厳重に施された
偽装を解除していくことが、ディープグラウンド時代にシェルクの担っていた主な任務だった。
 肉体は今も端末の前にある、だから視覚だけではなく五感のどれもが中途半端な感覚を残したままだ。
たとえるなら入眠直後の半覚醒状態の感覚に近い、外部から刺激を受ける肉体の感覚と、半覚醒状態の
脳が引き起こす錯覚。それに慣れるのがSND最初の関門だった。
(おまけに意識の混線。……ブランクがあるとは言え、相変わらず不安定ですね)
 やれやれと溜息を吐きながら、巧妙に隠された入口を探し出すためのプロセスを開始しようとしたその時、
シェルクはネットワーク上に起きた波に遭遇した。

89 名前:ラストダンジョン(300)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/02/13(金) 03:18:20 ID:JXRB2NB+0]
 その波の正体が、通信網を経由したエネルギー転送による振幅現象である事はすぐに察しが付いた。
しかし現状から鑑みるに、それは起こり得ないはずだった。
 SNDの実行に専用端末が不可欠であるように、エネルギー転送も特殊な仕様の移動端末を用いなけ
ればならない。転送に利用する帯域も、通常使用されているものとは異なるからだ。
(たしかエネルギー転送に対応した端末の製造は、記録上すでに打ち切られているはずですが)
 それはかつてタークスが利用していた携帯端末に施されたものである。この技術が広く一般に普及し
なかったのは、普及以前に神羅カンパニーの破たんによって、技術開発と設備メンテナンスが行われ
なくなった事。加えてマテリアの使用に関する協約が発効した事があげられる。
(発信者はエッジ。受信者も、そう遠くない場所にいるようです)
 ネット上にいるシェルクが伝送路をたどり、エネルギーの発生源と宛先を割り出すのは比較的簡単
だった。しかし、エッジで何が起きているのかは分からない。すべてはネットワークの“外”で起きている
からだ。



「……聞こえますか?」ヘッドセットを装着していたシェルクは口だけを動かす。
「なにかあった?」
 モニタから目を離したイリーナが答えると、シェルクは問う。
「エッジ付近で発生した強力なエネルギー波を観測しました。心当たりはありますか?」
「エネルギー波?」イリーナが首を傾げると、シェルクはやや事務的に答えた。
「おそらく、通信を経由してのエネルギー転送です」
 その言葉に心当たったツォンが口を挟む。
「マテリア援護の事を言っているなら、ずいぶん前に使用を取りやめた。それに転送に対応できる端末や
回線も、現在では無いはずだが……」
 だからといって可能性が全くない訳ではない。言葉を濁すツォンに向けて、シェルクは問いかける。
「設備さえ整えば実現は可能、ということですね?」
 ツォンの返答は肯定だった。と同時に、この件に関与しているであろう人物の顔が脳裏を過ぎった。
(となると、この件に主任……もしくは元タークスの誰かが関与しているのは間違いない。しかしなぜ?)
 仲違いではないにしろ袂を分かった彼らがメテオ災害以降、活動を共にすることは一度として無かった。
こうして自分達は今回、W.R.Oの出資者としてこの件に関わっていく事になったが、ヴェルドがどの立場
からどのように関与しているのかは一切不明だ。ただ幸いとすべきなのは、少なくとも彼がW.R.Oに加入
したという情報は得ていないという事だ。
 いずれにせよ、この件に関わっていれば形はどうあれ遠からず再会を果たす事になるだろう。
 しかしもっとも懸念すべき点は『マテリア援護』が行われたという事実だ。それはどこかで複数の人物が、
決して穏やかとは言えない事態に直面している事を示している。
(一体、なにが起きているんだ?)
 足を踏み込むほどに混迷の度を増す事態は、まるで見通しがきかない洞窟に迷い込んでしまったような、
そんな得体の知れない不安を抱かずにはいられなかった。


----------
・SND(と、マテリア援護)の仕組みがいまいち分かってないくせに、これ以降はさらに勝手解釈で進行
 します事をご了承下さい。
・次回の投下まで時間が空いたらすみません。

90 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/13(金) 23:20:53 ID:kWaS1M4aO]




91 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/14(土) 04:10:41 ID:x32nrIgp0]


92 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/15(日) 05:45:05 ID:H0XHEteeO]


93 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/15(日) 10:01:03 ID:Le4JDIEe0]


94 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/17(火) 00:03:28 ID:HZyGSWwC0]
オツカフダ付き・・・



95 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/17(火) 01:57:43 ID:zPZoGShd0]


96 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/19(木) 11:55:19 ID:A7SkqQ630]


>ラストダンジョン
GJ!

97 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/20(金) 18:38:25 ID:it+AYaM0O]


98 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/22(日) 22:09:12 ID:uD4HDhmMO]


99 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/23(月) 21:43:12 ID:7DOz7koC0]


100 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/25(水) 16:05:46 ID:FO10xdFQ0]




101 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/26(木) 14:35:14 ID:2OnRJyYZ0]


102 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/26(木) 20:51:24 ID:hshGzwoF0]


103 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/02/28(土) 00:51:36 ID:aW3o/vcDO]


104 名前:オペラ座の空賊【80】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/03/01(日) 23:55:50 ID:VkFmbSCW0]

>>39-44のつづきです。

博物館の後は買い物、食事とお上りさんコースを満喫したバルフレアとパンネロ。
パンネロが、「これはヴァンに。」「これはミゲロさん。」「これは…」
と、大量に買った土産物を両手に抱えて隠れ家に戻るとフランが居ない。
「どうしたのかしら?」
バルフレアはフランが座っていたテーブルに買って来た物を置き、窓から外の様子を伺う。
窓の下でこちらを見上げている男が居た。男は慌てて目を反らし、その場を離れた。
と、その男の動きに合わせて周りに居た男たちが一人去り、二人去り…
バルフレアは、舌打ちをする。
「見つかったの?」
同じ様に小窓から外を覗いていたパンネロが心配そうに尋ねる。
「どうしよう、私のせいだわ…フラン…連れて行かれたのかしら?」
「部屋は荒れていない、大丈夫だ。」
「でも…」
「パンネロのせいじゃない。ここだって上に行きたい連中がリーフ集めに必死だ。
人目につくのは分かっていたし、元々そんなに長く居るつもりはなかった。」
「違うの。」
自分を追い詰め過ぎだと宥めようとするバルフレアだが、
「本当に私のせいなの…でも、まさか…」
バルフレアは眉をひそめた。
「お嬢ちゃん、まさか…」
「ごめんなさい………私、ラーサー様にお手紙を。」
バルフレア、顔を手で覆ってしまう。
「だって、オペラ座ではあんなお別れのしかただったから…
それに場所は書いてないの。“探さないで下さい”って書いたし…」
必死で謝るパンネロに、怒る気力もそがれ、バルフレアはいつもの様に頭の上に手を乗せ、
そして出来るだけ感情を抑えてぽんぽん、と優しく叩いてやる。

105 名前:オペラ座の空賊【81】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/03/01(日) 23:58:00 ID:VkFmbSCW0]

「いい事を教えてやろう、お嬢ちゃん。そういう手紙を“思わせぶり”って言うんだ。」
「どうして?」
パンネロはお嬢ちゃんと呼ばれたのを訂正するのも忘れて、きょとんとして問い返す。
「ああ。よ〜く覚えておくんだな。男に後を追わせたけりゃ、“探さないで”って
書き置きして出て行くんだ。大抵の男は必死になってお嬢ちゃんの尻を追いかけるさ。」
「バルフレアもマリアのお尻を追いかけたの?」
「………俺の話はいい。どうする、お嬢…パンネロ?ラーサーのやつ、必死で追ってくるぞ。」
「まさか。」
「手配の早さがその証拠だ。すぐに一個師団が飛んで来て、ここを包囲だ。」
パンネロはまだ今の事態と、バルフレアの言う事が飲み込めない様だ。しきりに首を傾げている。
「すぐにここを出るぞ。」
「でも、フランが…」
「心配ない。」
バルフレアが窓の外を指差すと、丁度フランが戻って来た所だった。
「すぐに支度するんだ。」
「あの…おみやげ…」
無言で睨むバルフレアに、パンネロは首を竦め、慌てて自分の部屋に戻って行った。
入れ替わりにフランが部屋に入って来た。
「……お早いお帰りで。」
「ここを出るの?」
パンネロの部屋からどたばたと荷造りする音が聞こえる。
「ああ。お嬢ちゃんの悪女っぷりのお陰でな。」
「おかしなミストを感じたから気になったの。」
噛み合ない会話にバルフレアはまたもや顔を手で覆ってしまう。
フランは自分が戻って来た方向を見て、目を細めている。
自慢の相棒は“おかしなミスト”を感じると、どうしても気持ちがそちらに流れてしまうのだ。
「悪いが、今はそれに構っている暇はない。」
「シュトラールはいつでも飛べる様にしているわ。でも…領空は封鎖されているでしょうね。」
「ああ。なるべく穏便に出て行きたいんだがな。」
「バルフレア、地下が嫌なんでしょ?」
いつの間にか二人の会話に割り込んだパンネロがからかう様に言う。

106 名前:オペラ座の空賊【82】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/03/02(月) 00:01:54 ID:VkFmbSCW0]
見ると、パンネロは荷物を小さな革の鞄にまとめ、肩から斜めにかけている。
おみやげで怒られたのが効いたのか、だいぶ身軽にしたようだ。
丈夫そうな帆布で作られた鞄はバルフレアの選んだドレスには不釣り合いだった。
それよりも優雅な帝国風のドレスに不似合いなのは、鞄と反対側の肩に掛けられていた弓矢だ。
「空がだめなら地下しかないでしょ?大丈夫!私、ちゃんと道、覚えてるもの。」
「地下ではバッシュが待ち伏せしている。どうせ大立ち回りをやるなら、空の方がいい。」
「地下がいいわ。」
天からの声に、にらみ合っていたバルフレアとパンネロ、同時にフランを見上げる。
「おかしなミストはソーヘンからだった。」
「だから、それは…」
「誰かの振動と良く似ているミストだったわ。」
パンネロははっと息を飲む。
「…ヴァンなの?」
フランは静かに頭を横に振る。
「いいえ、女性よ。前に一度感じた事があるけど…誰だったか分からないの。」
パンネロは小さく“そう…”と呟いて俯いてしまう。
(ヴァンのバカ野郎が近くまで来てるかもってだけで、あっという間に元通りか。)
しょんぼりと肩を落とし、勇んで掛けてあった弓は肩から滑り落ちそうだ。
さっきまであんなに元気だったのに。
バルフレア、今度は少々乱暴にパンネロの頭に手を置く。
驚いてバルフレアを見上げるパンネロ。
「落ち込んでる暇はないぜ。なにしろ、お客さま扱いってワケにはいかなくなったからな。」
パンネロはバルフレアの言っている意味が分からず、ぱちぱちとまつ毛を瞬かせた。
「地下から行くの。後方はよろしくね。」
フランの言葉で、漸くバルフレアが言わんとしている事を察し、ずり落ちていた弓を肩にかけ直した。
そして、とびきりの笑顔で、
「うん、任せて!」


107 名前:オペラ座の空賊【83】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/03/02(月) 00:03:53 ID:VkFmbSCW0]
一方、ヴァンとアーシェ。
アーシェが自分が寝ていた毛布を畳み、荷物の中に仕舞おうとすると、
モブハントのチラシが突っ込まれているのが目に入った。
「ヴァン、これは何?」
焚き火の残り火に土をかけて念入りに火を消しているヴァンに尋ねる。
「来る時に、キャラバン隊の隊長に貰ったんだ。俺の事覚えてくれててさ、
“ワケ有りみたいだね、金が要るんだろ?”って。女の悪霊だってさ。」
アーシェがチラシを開いてみると、
「ソーヘン地下殿にて、帝都に向かう旅人を襲う女の悪霊
 …変ね。逆に帝都から出ていく者は襲わないって。」
「ついでだから、そいつをやっつけて、帝都での資金にしようと思って。」
「ヴァン、今は時間が惜しいわ。約束の時間がいつか分かっているの?お金なら…」
「それは貰えない。分かるだろ?」
ヴァンは必要な物だけを厳選して、器用に鞄に収めて行く。
「どのみち、そいつを倒さないと帝都には行けない。」
「でも……」
鞄の釦を留め、肩に掛けて立ち上がると、ヴァンはアーシェに笑いかける。
「大丈夫。だって、アーシェも一緒だろ?」
呆気にとられているアーシェの鞄をヴァンは手に取り、自分の鞄と一緒に肩に掛ける。
「置いてくぞ〜!」
アーシェは慌ててヴァンの後を追う。
(殺し文句ね。)
昨日の夜だってそうだ。自分を責めるアーシェをさり気なく気遣う。
(無神経なのか、優しいのか、どちらかしらね?)

つづく。

※すいません、時間の流れが分かりにくくなっています。
[ヴァン、アーシェ]ツィッタ草原で野営
   ↓
[ヴァン、アーシェ]翌朝、帝都侵入のためソーヘンへ。
   ↓
[バルフレア、パンネロ]
ヴァンがアーシェとアーシェがソーヘン入りした時は帝都観光
   ↓
[バルフレア、フラン、パンネロチーム]
帝都観光から戻る。追っ手に気付いて帝都脱出のためソーヘンへ

エピソードを追加したため、話の流れが前後してしまいました。ごめんなさい。

108 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/03(火) 09:21:27 ID:vWD1511eP]
乙!

109 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/05(木) 06:05:45 ID:i4UYUWvDO]


110 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/07(土) 09:40:29 ID:zXM8X15sO]
おつ



111 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/09(月) 23:14:58 ID:dobNr9XCO]


112 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/10(火) 01:39:23 ID:Ja0BuqzV0]
>>104-107
(ヴァンとパンネロに限らず)互いが離れて別の道を歩んでいるように見えて、
実は同じ場所に繋がっているという、こう「仲間だなー」っていうか絆という名の無限ループktkr的な。
そんな展開が大好きです!さらに。
> 逆に帝都から出ていく者は襲わない
という、ちょっとこの辺がどう結末に絡んでくるのか興味津々です。次回も楽しみに待ってます!

113 名前:ラストダンジョン(301)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/03/10(火) 01:49:43 ID:Ja0BuqzV0]
前話:>>87-89
(場面は前スレ601-603の直後。)
----------


 窓から飛び出していったデンゼルを見送った後、マリンは部屋と物置とを慌ただしく往来することに
なった。今し方までエッジを舞台にして立てこもり犯の役を演じた名女優が、今度は演出家兼裏方だ。
次の主演はケット・シー、通信という舞台上で演じる役は『W.R.O局長』である。
「これを茶番と笑われても構わない。でも、それで変えられるものがあるのなら、たとえ茶番劇でも上演
する価値はあると俺は思う」、そう言ったヴェルドの言葉にマリンも同意したからだ。

 ――「お前は、俺達にリーブを殺せって言いたいのか?」

 通信越しに父が語った、あまりにも悲しすぎる結末を変えられるのなら。どんなに小さかったとしても、
変わる可能性があるのなら。今の自分にできる事をやってみたいのだと、マリンは強く思った。だから、
笑顔で部屋から飛び出して行ったデンゼルの気持ちも分かる。自分もできるのなら、きっと同じ事をして
いたに違いない。窓から出て行くデンゼルを、物分かりの良い風を装って窘めてみたりもしたけれど。
(私も、デンゼルと同じなんだ)
 そう考えると苦笑せずにはいられなかった。
『どないしたんや?』
 そんなマリンの顔を覗き込んでケット・シーが尋ねる、はっとしてマリンは首を振り、早口に「なんでも
ない」と応えた。不思議そうに首を傾げるケット・シーに、物置から運んできた荷を差し出した。
 本当は生地の厚い真っ白なカーテンが理想だったが、残念ながら柄や色が合わなかった。シーツも
試してみたが、生地が薄く光を当てると透けてしまう。妥協の末にマリンが選んだのは、白地に薄い
ピンクの花柄があしらわれた厚手のテーブルクロスだった。
『なんや、エライ可愛らしくなってまうで?』
 マリンの手元に視線を向けると、ケット・シーが心配げな声を出す。
「ごめんなさい、これしかなくて……」
『いや、まあごついのよりは可愛い方がエエわ。それにマリンちゃんのチョイスやしな!』そう言って、
肩を落とすマリンを励ますようにして手を振った。そんなケット・シーに、マリンは苦笑のような微笑の
ような小さな笑みを浮かべた。
 さらに物置から脚立を運んできたマリンは、ヴェルドの手を借りてクロスを天井の梁に吊り下げた。
こうしておけば、ケット・シーの後ろ側にある端末や荷物が映らない。クロスはそのための“舞台背景”
だった。
 作業が一段落したかと思えば、今度は家庭用の録画機材を取り出して組み立てを始める。せわしなく
動き回るヴェルドの動きを追いながら、机の上に座っていたケット・シーが声を掛ける。

114 名前:ラストダンジョン(302)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/03/10(火) 01:58:59 ID:Ja0BuqzV0]
『しかしなぁ、こんな茶番すぐバレるやろ?』
 W.R.O局長による空爆声明の直後、“リーブを演じた”ケット・シーによる声明の配信。時機から考え
ても不自然すぎて、すぐに“偽者”だと見破られてしまう可能性は確かに大きかった。しかしそんなことは
問題ではないのだとヴェルドは言う。
「茶番で結構、バレるのは百も承知だ。市民や隊員を欺くことが俺達の最終目的ではないからな」
 むしろ現在進行形で起きている異変を、市民に周知させる必要がある。
 さらにこの異常事態の中で戸惑う隊員達の足止めをするのが、ヴェルドの目指す最初の目標だ。
最終的にはこの事態が「異常」であることに気付かせ、その原因を突き止め是正することにあるが、
当然すべてを自分の手に負えるとは思っていない。今ここにいるヴェルドもまた、自分に出来る事を
やろうとしているだけに過ぎない。
 言ってみれば彼らがこれから行う事は、人々に対する救援要請である。

「これが茶番劇に終わるか否か、決めるのは演者ではなく観衆だ」

 公演とはすなわち情報の発信であり、観衆の中から次の主演を勤める者が現れ、物語の舞台は
各地に移っていく――恐らく、この騒動の発端を作ったW.R.O局長リーブの思惑に、少なからず沿って
いるはずだとヴェルドは考えた。
 英雄統治の終演。それがもたらす未来こそが、魔晄文明という虚栄からの真の復興なのだと。
もしかしたらリーブはそう考えているのかも知れない。それは、W.R.O局長としてではなく、魔晄都市
ミッドガルの開発責任者として全うすべき責務だと。
「しかし納得のいかないシナリオに、最後まで付き合う必要はない」
『ホンマ、アンタのその自信はどっから来とるんやろなあ?』
 わざとらしく首を傾げるケット・シーに、ヴェルドは苦笑しながらも問いかける。
「自信なんてないさ。……それよりケット・シー、回線の方は?」
『こっちの準備はエエで。あとは復旧時に差し替える映像さえ用意できれば』
「では始めよう。時間もない」
 手元の時計に目を落とす。デンゼル達が変電所へ到着する前に、こちらの準備を終えなければ
ならない。
『ちょ、ちょお待ってーな。ボク何しゃべればエエんや?』
「もっともらしいことを、なるべく手短に」
 録画機材を起動させると、レンズをケット・シーに向けてヴェルドは簡単に言った。
『その“もっともらしいこと”って、何やねん……?』
「気負いすることはない、なにせこの劇には台本が無いからな。お前の言葉がそのまま台詞になる」
『そんなん言われたら、余計プレッシャーやないか』
 ケット・シーが演じるW.R.O局長リーブ、という奇妙な偽の声明は、こうして作られる事になる。

----------
・短いですが保守がてら。作者の脳内進行と、文章との間に隔たりが無ければ良いのですが。
 混乱させてたらすみません。

115 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/12(木) 01:16:41 ID:9vm0sM2GO]
おつ

116 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/13(金) 22:18:34 ID:H9fd8e3b0]
GJ!

117 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/15(日) 06:02:17 ID:JVXfIwom0]
おつおつ

118 名前:ラストダンジョン(303)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/03/17(火) 07:52:44 ID:DS3drG+W0]
前話:>>113-114
(場面は>>58-62の直後。)
----------


「おい、しっかりしろデンゼル!」
 突然の出来事に驚いたケリーは、何度もデンゼルに呼びかけてみるが返事は無かった。小さな両肩に
手を置いて激しく揺さぶってみたのだが、デンゼルからの反応はない。ケリーはとっさに脈と呼吸の有無
を確認したが、幸いどちらにも問題はないようだ。
 しかし、安堵する間もなく別の問題に気付く。
「……すごい熱だ」
 ここへ至るまでに、異変の兆候は既に現れていた。
 それによくよく考えてみれば今日、デンゼルが直面してきた事態というのはどれも彼にとっては非日常
だったはずだ。突然もたらされた異常事態、頼れる大人が誰もいない状況で目の前に現れた見知らぬ
訪問者、事態の急変とともに何度も生命の危機に晒され、判断を迫られながら必死で考え次に取るべき
行動を見出す――デンゼルはこの短時間で、極度の緊張状態に置かれていたはずだ。感情が大きく
揺れ動く一方で、精神は昂揚したままだったのだ。特に訓練を受けていたわけでもない、ましてデンゼル
のような子どもには、あまりにも急激な状況変化の連続は過酷すぎた。本人が自覚していた以上の負担
が心身共にかかっていたのは考えるまでもなく明らかだ。こうして体の方が先に悲鳴を上げたとしても、
無理もない。むしろよくここまで来たと思う。
 デンゼルを背負って立ち上がると、ケリーは急いで変電所の入口をくぐった。復旧作業に勤しむフレッド
の背後に呼びかけると、振り返ったフレッドは二人の様子を見ただけで事態を理解し、敷地内にある職員
用の詰め所の位置を教えてくれた。そこに行けば雨露をしのげるし、休憩用に用意された毛布などの
簡単な備品が揃っている。エッジには戻らず、ひとまずはそこでデンゼルを休ませる事にした。
 ケリーは詰め所に入ると、無意識のうちに扉の脇のスイッチに触れた。だが室内照明は点かなかった。
何度かスイッチを弄ってようやく停電中だった事に気付いて舌打ちしようとしたが、これが自分達の引き
起こした事態なのだと言うことに思い至って、とりあえず舌打ちではなく溜息に変えておいた。
 照明スイッチの隣には室温調整のためのリモコンが取り付けられていたが、空調機器を起動しようにも
やはり電力が必要だった。こうして考えると電気がないのは実に不便だ。

119 名前:ラストダンジョン(304)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/03/17(火) 07:55:50 ID:DS3drG+W0]
 ケリーは携行していた携帯用ライトを取り出すと、その明かりを頼りに必要な備品類を探した。初めて
訪れた場所だったが、管理が行き届いているお陰で探すのに手間取ることはなかった。(俺の部屋より
よっぽど片付いてるなぁ)と、感心したほどだった。
 それから背負っていたデンゼルを降ろし泥だらけのコートを脱がせた後、髪などの水気を念入りに拭き
取ってから、毛布を掛けてソファーに横たえさせた。
 こうしてケリーが一息吐いたところで、室内の電源も息を吹き返したらしく照明が点り、僅かな機械音と
共に空調設備が稼働をはじめた。
 その光景を目の当たりにしたケリーは小さく安堵の溜息を吐くと、用の無くなった携帯用ライトを机の
上に置いた。
(明かりがあるのは、やっぱり落ち着くなあ)
 そんなことを考えながら天井の照明を見上げていたところへ、フレッドが詰め所に入って来た。
「おいケリー、ボーッとしてる暇はないんじゃないか?」
「ご苦労さん。さすがフレッド、頼りになる」言葉と共にタオルを投げ渡す。
「……これが俺の本業だからな」
 そう言って照れたように小さく笑うと、フレッドはデンゼルを見つめた。
「デンゼルには本当に申し訳ないことをした。……どうかしてた」
「そうだな。確かにいつものお前らしくなかった」
 銃を持つどころか、それを人に向ける事なんて普段のフレッドなら絶対にしない。ケリーはそれをよく
知っている。今回の暴挙が、3年前のジュノン集団失踪事件を引き金にしている事も分かった。だが、
どうしても残る疑問がある。
「どうやって、こんな事を?」
 問いかけたケリーをじっと見据えて、フレッドが答える。
「……ケリー、ダナを止めてくれ。彼女を止められるのは、あんただけだ」
 自分で問いかけておきながら、フレッドの言葉を聞いたケリーは黙り込んでしまう。薄々は気付いていた、
でもそれを認めたくなかった。だから向き合ってこなかった。けれど、こうなった以上そうも言っていられない。
「そうか」
「やっぱり、気付いてたんだな」
「確信はなかった。でも何故?」
「俺達に共通しているのは、『魔晄炉』だ。彼女は……仇を討ちたかったのかも知れない」
「……仇?」確かめるようにしてその言葉を復唱したケリーに、無言で頷くフレッド。さらにケリーは問う
「誰の?」
「ミッドガル」
 今度こそケリーは言葉を失った。
 肩を落とすケリーの姿を前に、フレッドは頭を拭く手を止めて給湯室に足を向ける。特に何も考えず、
保温器の中に入っていたコーヒーをカップに注ぐと、それを持って再びケリー達のいた部屋に戻った。
「残り物で悪いな」フレッドはカップを差し出しながら、話の続きを始めた。

120 名前:ラストダンジョン(305)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/03/17(火) 08:01:20 ID:DS3drG+W0]
「メテオ災害後に組織されたW.R.Oには、様々な出身や経歴を持つ者が隊員として参加している。ケリー
のように神羅に所属していた人間や、俺のように神羅を目指そうとしたヤツ、あるいは反神羅組織にいた
者まで」言ってみれば巨大な寄り合い所帯だ。
「……だろうな」カップを受け取りながら、ケリーは力なく頷く。編成された分隊の中にさえ、真逆の経歴を
持っている者がいるほどだ。もっとも、全体のバランスを保つための意図的な編成である事は言うまでも
ない。
「いつ内部分裂してもおかしくない、そんな基盤の脆い組織がなぜここまで維持できていると思う?」
 そんなこと、問うまでもないとケリーは即答する。「局長の存在だろうな」
 期待通りの答えを得たフレッドは、満足げに頷くと続ける。
「局長は象徴だ。W.R.Oという組織としてはもちろんだが、何よりも隊員一人一人にとっての象徴なんだ」
 魔晄都市ミッドガルの開発責任者にして、元神羅カンパニーの重役。さらに世界を救った英雄。ある者に
とっては恩人であり、またある者にとっては羨望の対象……。
「そして、局長を憎むべき対象とする者もいる」
「その一人が、ダナだと?」
 フレッドは無言で頷いた。
「どうして!?」反神羅組織の出だとか、魔晄に因縁のある者なら話は分かる。だがよりによって都市開発
部門に在籍していたダナが、なぜ? ケリーは納得できずに声をあげる。
「ミッドガル七番街プレート支柱爆破事件を覚えているか?」
 ケリーは黙って頷く。あれは惨い事件だった。
「社員も含め、一般への神羅の公式発表では『反神羅組織による爆破テロ』とされた。だが、真実はその
逆だ」
「……神羅の自作自演だった?」
 ケリーも噂は耳にしたことがある。だが、まさか事の真相だとは思っていなかった。より正確に言えば、
信じたくはなかった。
「支柱爆破は、重役会議満場一致による決議後、タークスによって実行された。……それが真実だ」
「満場一致、か」
 瞼を閉じてフレッドが頷く。ケリーは唇をかんだ。
「重役……つまり当時の局長は決議に賛成を投じた」
「お前、本気で言ってるのか? あの人のことだ、反対したに決まってるだろ! 結果的に満場一致に
させられただけじゃないのか?! 大体、自分が開発に携わった都市を破壊することに、積極的になる
ヤツなんていない!!」
 胸ぐらにつかみかかりそうな勢いで早口に捲し立てるケリーとは対照的に、フレッドは冷静に話を続けた。
「そうかも知れない。いや、恐らくそうだろう。けど、問題はそこじゃない」
 「え?」ケリーの言葉が詰まる。
「都市開発部門の人々……俺の親父の様に、ミッドガルに直接関わらなかったとしてもそうだ。少なからず
『魔晄エネルギーは生活を豊かにする』と信じ、その仕事に従事することを誇りにしていた。ミッドガルは
そんな人々にとっての象徴であり、希望だった。まして開発に深く携わった人なら、その思いは強かった
はずだ」もしも親父が生きていて、七番街プレート支柱爆破事件を目の当たりにし、その真相を知ったの
なら。きっと今のフレッドと同じ表情でこう言ったに違いない。

「統括は、自分の部下も都市もそこに住んでいる人々も守れなかった。それどころか、俺達を裏切って
いたんだ」

「そんな……!」
 ケリーが口に出しかけた否定の句を遮って、フレッドは問う。



121 名前:ラストダンジョン(306)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/03/17(火) 08:10:32 ID:DS3drG+W0]
「決議により支柱爆破を実行したタークスは、単に支柱を爆破したわけじゃない。特別に性能の良い爆薬
を使ったわけでも、大量の爆弾を使ったわけでもない。……これがどういう意味か分かるか?」
 事を秘密裏のうちに処理したかった、だからタークスが出るというのは分かる。しかし後の方が分から
ないと、ケリーは首を横に振る。
「各プレート支柱には『緊急用プレート解放システム』が備わっていた。タークスは爆弾を用いてそれを
起動したに過ぎない。つまりミッドガルは最初から、プレートを落とす事態を見越して作られていた、と
いう事だ」
 人の暮らしている街を、文字通り根底から覆す破壊システム。なぜそんな物が必要なんだ? なぜ
そんな都市を造り続けたんだ? どれだけの人がこの事実を知っていた? 知らされないまま開発に
従事していた連中はどう思う?
「お前はこれを、単なる逆恨みだと非難できるのか? 少なくとも俺にはそうは思えなかった。事実の
もたらす一面なんじゃないか?」
 たとえやり方を間違えていたのだとしても、ダナの行動すべてを否定することはできない。苦渋に満ちた
表情で語るフレッドは、いちど言葉を切ってから溜息を吐いた。
「……頼むケリー、ダナを止めてくれ」
「なんだって?!」
「あんたならできる。いや、あんたじゃなきゃできない」確信めいたフレッドの言葉に、ケリーは耳を疑う。
「まっすぐ前を見続けてるデンゼルを見ていて思い出したよ。俺にできること、俺がしなきゃならないこと」
 それを成し遂げるために、ここにいる。フレッドはそう言って笑顔を作る。
「あと、エルフェって人にも礼を言わなきゃな。俺の行動が間違ってた事を、真正面から指摘してくれた
んだ」
 きっと今のダナにとって、そう言うヤツが必要なんだと。フレッドは呟くようにして言った。「それがケリー、
お前なんだと思う」


----------
・FF7本編中で、『緊急用─』の件(確かツォンの台詞?)を聞いてから、この印象がどうも拭えなくて。
・プレートを落とした直接的な被害だけじゃなくて、もっと大きな影響があるんじゃないかな? という話。

122 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/18(水) 00:11:11 ID:Y+OG25u+O]
GJ!

123 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/19(木) 00:50:36 ID:qJIuzx5c0]
乙!

124 名前:決意3ー飛空艇団長(1) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/03/20(金) 20:36:07 ID:5TO/sqt90]
GJ!
ハァハァしながら続き待ってます

決意1・2:前スレ>315-317,371-375
話的につながるThe Way We Were前話:前スレ>532-537

----------------------------------------
-決意3、或は歴史に残らなかった小さな出来事-
   飛空艇団長
----------------------------------------


「ロケット村、見えてきました!」
「おう、もうちょっとだ、お前ら踏ん張っとけ!」

「おまえもな、ハイウインド」とシドはつぶやいて、懐かしのロケット村を見下ろした。

 セフィロスを失い、崩れ行く大空洞へと真っ逆さまに落ちていったハイウインドは、
エアリスの願い、ホーリーとともに再び穴の底から現れ、クラウドたちを救った。
しかし237メートルの巨体に「運命の女神」をのせたハイウインドを操ることはもはや出来ず、
かろうじてシドが引いた緊急用レバーによって、今や小さな脱出艇のみとなっていた。

 リーブからの依頼で、 ユフィとヴィンセントは崩れ行くミッドガルでの避難活動を手助けするため、
早々に大空洞を後にした。シドとクルーたちは他の仲間をミッドガル付近でおろし、怒り狂う大蛇の
群れのように地表に刻み付けられた何本ものライフストリームのすじを眺めながら帰途についた。
大空洞での衝撃でほとんどのクルーたちが怪我をしていたが、ひどい怪我をした者も、施した応急処置で
どうにかロケット村まで持つことが出来そうだった。
 長い、長い戦いが終わった。
 少なくともシドはそう思っていた。

「ロケット村西部に回り込んで着陸します」
「時速40ノット、30、20……」

125 名前:決意3ー飛空艇団長(2) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/03/20(金) 20:38:33 ID:5TO/sqt90]
「よし、怪我が重いやつから先につれてけ!」


 シドとクルーたちが村唯一の医院へと駆けつけると、小さな建物の軒先の外は人で溢れかえっていた。
「ちっ、ここでもこんなに怪我人が出たってのか!」
シドはクルーたちの方を短く振り向いて、舌打ちした。幾人かのクルーは、すぐに治療が必要だ。
ロケット村まで辿り着くことができれば万事解決だと思っていただけに、彼は焦りと苛立ちを隠せなかった。
「こっちにも怪我人がいるんだ、やばい奴だけでもいれさせろ!」
「艇長!」
クルーの一人が指差した先には、油にまみれたように真っ黒になった村人たちが横たわっていた。

「おいシエラ、何だこれは!燃料が漏れたのか!何か爆発でもしたのか?」
 ごった返す村人たちの中に見慣れた白衣の後ろ姿を見つけて、シドは怒鳴った。真っ黒に濡れた
老人の肩を取り医院の前まで連れてきたシエラの白衣も、黒く汚れていた。
 なんなんだ?メテオのショックで、機材でも爆発したってのか?村の中に油田がわき出したのか?
全てが終わったはずなのに、なんで村がこんな事になってるんだ?

 真っ黒に汚れ低く呻いている老人を医院の前に寝かせ、シエラは顔を上げた。ああ、変ってない。
シエラだ。俺は帰ってきた。終わったんだ。

 シドの方を見上げ「何でもないんです。大丈夫ですよ」とでも言いたげににこりと微笑んだシエラが
急に彼の視界から消えた。

「シエラ!!!」
どさり、と音がして、シエラが足下に横たわった。


126 名前:決意3ー飛空艇団長(3) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/03/20(金) 20:39:55 ID:5TO/sqt90]
 シドの家の居間にどっかと座り込んだバレットはもう一度ビールをあおった。彼がはじめてここを
訪れたときと同じようにシエラがお茶を用意しようとしたが、バレットのショックはお茶ぐらいでは
収まりそうになかったので、気を利かせた彼女はビールを出した。
「古代の技術???魔晄エネルギーでも燃料でもないってのか???」
「ああ、そうだ」机の上に足を投げ出したシドが満面の笑みをたたえて答えた。
「お前らがあれほど必死にオイル・エネルギーの飛空艇つくってたってのにか!!!俺はそのために
油田まで見つけたんだぞ!!!」

 バレットはジェノバ戦役のあと、可愛いマリンをティファとクラウドに託し、世界中を旅していた。
そこで、魔晄エネルギーが無くなったばかりに人々が苦労していたり、高速の移動手段が無いために
困っている人々を見、そしてこのロケット村でシドと技術者たちがオイルを燃料とした飛空艇の開発を
行っているのを知って、新たな油田の発見をその身に課した。オイル燃料の開発を行っているのに、
肝心の油田が枯渇寸前だったからだ。そして、彼はつい最近、ついに新たな油田の発見に成功した
ばかりだった。

「バレットさん、オイル燃料がいらないのは、あの飛空艇だけですから。ハイウィンドや他の飛空艇には
これまで研究を行ってきた燃料が必要ですし、他の飛行機や車にも、油田は必要です」
シエラが静かに笑いながら答えた。
「バレットさんの油田も、私達の研究も、無駄になる事はありません」
「そうだ。そういうことだ!」
シドもビールを飲んで、満面の笑みをたたえたまま続けた。


127 名前:決意3ー飛空艇団長(4) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/03/20(金) 20:40:40 ID:5TO/sqt90]
「リーブの野郎が、オイル・エネルギーが完全に使えるようになったら、あのシエラ号を中心として、
飛空艇団を作りたいってんだ」
「リーブ?WROでか?」
「ええ。そうみたいです。オイル・エネルギーの完全な実用化まであと一歩です。私達は研究開発を
続けるだけです」
シエラはそう言うと、微笑みながら部屋をあとにした。

「そうか…」
「そうだ、おまえの油田も、俺様の飛空艇もみんな万々歳ってことだ!」
相変わらず上機嫌にビールを飲むシドに、シエラが出て行った扉を見つめながらバレットが彼にしては
小さな声で言った。
「シド…あの…シエラさんは…もう大分具合が悪いんじゃねぇのか?」
シドが急に表情を硬くしてバレットを見つめた。
「おまえ、知ってたのか」
「この暑いのに研究用の白衣脱いでもずっと長袖、それでも見えてるあの黒いのは、この俺だって
気がつくぜ」

 扉の裏でバレットとシドの会話を聞き、シエラは左手の袖口を握りしめた。
 袖口は、黒い油のようなもので汚れていた。
 しかしそれは油ではない。
 星痕症候群だった。


128 名前:決意3ー飛空艇団長(5) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/03/20(金) 20:42:00 ID:5TO/sqt90]
「ええ、今の所、手のうちようがありません」ようやく復旧した電話口の先で、リーブが淡々と
そう告げるのを聞いたのは1年ほど前の事だ。

 シドたちが大空洞から脱出し、ロケット村に帰還した一週間後には、世界中で混乱が起きている
事がロケット村にも伝わってきた。リーブの指揮によって旧ミッドガル地域を中心とする通信手段が
かなり素早く回復されたため、朽ちたミッドガルの状況は世界各地に放映されていた。
 崩れ落ちた都市、行く場所を失って避難生活をする者たち、そして、頭から油をかけられたかの
ように黒く濡れ、力なく倒れる者たち。
 無用な混乱を避けるために多少の報道規制はとられていたものの、「それ」についての見聞は
瞬く間に世界各地に広がっていった。

 あのとき、ライフストリームを浴びたものは体から黒いウミを出して死んだ。

 触るとうつるらしい。

 近づくな。

 ロケット村で被害を受けたものの多くは、数日で死亡した。その多くは、ライフストリームが
吹き出した時に村の外に出ていたり、屋外にいた者達だった。ミッドガルと違い避難勧告など
なかったので、呆然と屋外でメテオの浮かぶ空を見上げていた者達の多くが被害にあった。
シエラは吹き荒れるライフストリームを部屋の窓から眺めていたが、少し収まった頃に裏庭に出た。
そこにあるシドの機械類の無事を確かめに。そしてシドの無事を祈って。


129 名前:決意3ー飛空艇団長(6) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/03/20(金) 20:44:07 ID:5TO/sqt90]
 テレビでミッドガルの状況をみたシドは、通じるようになったばかりの電話を手に取った。
隣室で寝ているシエラに聞こえないよう、裏庭にまわる。俺はロケット村を代表して、あいつに
様子を聞くんだ。一番良く分かってんのはあいつだろうからな。ここでも結構な数のやつらが
被害にあった。あっちも忙しいだろうが、なんてったって仲間だ。話ぐらいは聞いてくれるだろう。

 結局リーブに電話が通じるまでに3時間ほどかかってしまったが、「仲間」は興奮してロケット村の
様子をまくしたてるシドの話を静かに聞いてくれた。ミッドガルの状況はどうなってんだ。
黒いウミを出してるやつらはどうしたらいいんだ。そっちではどうやって治療してるんだ?
まさかただ苦しみあがいて死ぬのを待ってるってだけじゃないだろ?何か薬はないのか?
そっちまでとりにいけば、分けてもらえるか?

「今の所、手のうちようがありません」
静かに答えたリーブの言葉は、しかしシドの頭の中には入ってこなかった。
「え……?」
「薬も治療法もまだ分かっていません。症状が比較的軽い人達はとりあえず痛みを抑える薬だけ
飲んでいるようですが……ご存知のようにペストが流行したかのような混乱が広がっていますので、
感染しないようにと避難所には入れず、隔離されているのが現状です」

 シドは、リーブが何を言っているのかさっぱり分からなかった。なんだって?おまえは偉い奴で、
何でも知ってるじゃないか。何言ってるんだ?

「それじゃ、シエラは?シエラはどうなるんだ!!」 

受話器の向こうで静かに息をつく音が聞こえた。
「そうですか、シエラさんが……」


130 名前:決意3ー飛空艇団長(6) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/03/20(金) 20:51:12 ID:5TO/sqt90]
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「あいつはバカだから、ライフストリームが吹き出てんのにのこのこ外に出てったんだ。
ったく、いつまでも迷惑ばっかりかけやがって」
 シドは大きな声で言うと、どっかと両足をテーブルの上に投げ出した。

 バレットはシエラが出て行った扉の方に目を移して、大きく息を吐き出した。
「死んじまったやつもいっぱい見たが、マリンの所にも一人いる。マリンより少し大きな小僧だ。
ひどいわけじゃないからまだ生きてるが、毎日いてえって泣くんだ。1年前にすぐ死んでった奴らと、
どっちが苦しいんだろうってマリンが言ってた」
 言い終わってからバレットははっとしたように顔を上げた。明らかに、星痕症候群で苦しむシエラを
抱えたシドに言うべき事ではなかった。

「あいつは」
シドがビールを口に付けながらのろのろと言った。
「死なねぇよ。死ぬようなタマじゃないだろ」
シドはそう言って笑ったが、心なしか表情は虚ろだった。
バレットはかけるべき言葉が見つからず、ビールの泡をしばらくじっと見つめていた。

------------
もう少し続きます。

・On The Way To A Smileにシド編がないらしいので、あたためておいた話を出してみました。
あたためすぎてグニャグニャになってしまったのは内緒。
・前スレのThe Way We Were前話に続き、こちらもバレット編をもとにしたシドの物語です。




131 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/22(日) 07:36:37 ID:5yQTTwz00]
乙!

132 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/23(月) 20:32:02 ID:lZ9tTpKt0]
GJ!!!!
続き楽しみにしてる

133 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/24(火) 02:13:33 ID:sIv86x/g0]
>>124-130
こっちはグニャグニャどころか、話の続きを待ちわびすぎて長くなりすぎた首が絡まるとこだった!wGJ!
FF7本編の経緯から踏まえて考えると、この辺のシドの心中は察するにあまりある。
何年もかけて、ずいぶん遠回り(宇宙まで出たしw)してようやく落ち着くと思った矢先の出来事だしね…。
それと、星痕症候群の流行しだした辺りってFF7ACでは描かれないけど、そうとう混乱したんだろうね。
(On the Way to a Smileデンゼル編辺りだけでも壮絶さの一端が伝わってくるけど)
そこら辺、FF7EDからの繋げ方うまいなー。

134 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/24(火) 07:37:04 ID:Xe0XBckc0]
>>133
>FF7EDからの
って、EDってゲームか何かあるのかと思った…

これ、前スレ?前回の終わりが「えっ??」って展開だったよね。
バレット編知らないからだと思うけど、シエラさんが?ってびっくりしたの覚えてる。
だから続き楽しみにしてた!GJ!

135 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/25(水) 21:31:29 ID:QisGdp4O0]
乙!

136 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/27(金) 07:37:16 ID:ke5Xk2yu0]
おつおつ

137 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/28(土) 14:18:29 ID:caKLS8PL0]
シエラさんはライフストリームが吹き出しても
外に出かけるし、危ない人を見捨てておけないんだろうな。
GJ!

138 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/28(土) 18:23:14 ID:aIYDFoT50]
8番ボンベの件からも、シエラは身の危険よりも自身の納得を選んでるぐらいだから、
根っからの技術者気質というか、まっすぐな人なんだよね。…エピソードは少ないけど。
(ところで職業的には白衣なのか?と言う疑問がずっとあるんですがw)
FF7の白衣組では珍しく(唯一?)マトモに扱われているというか…。

初プレイの時、お前らとっとと幸せになっちまいやがれ!って言いたかったのは良い思い出。
…スレ違いかもしれないけど、シエラを語るには良い機会だなと便乗しましたw失礼しました。

139 名前:ラストダンジョン(307)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/03/28(土) 18:37:37 ID:aIYDFoT50]
前話:>>118-121
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 それからしばらくの間、ふたりは言葉を交わすでもなく無言のまま時間だけが過ぎていった。叩きつける
雨音を遠くに聞きながら、空調機器の発する僅かなモーター音が室内を満たす。そこにあるのは緊張や
平穏とはまた別の静けさだった。
「ありがとう」やがて俯いていたケリーが顔を上げ、ぽつりと言う。
「今の俺に何ができるのかは分からない。でも、今回もお前の言う事は正しいんだと思う」
 立っていたフレッドを見上げて、ケリーはいつもの笑顔を浮かべた。
「店でお前と顔を合わせると、いつも頼んでもないのに冷静な言葉をくれるだろ?」気晴らしにとセブンス
ヘブンへ来たはずなのに、気がつけば諭されている事も珍しくない。議論が白熱した挙げ句、物別れに
終わって帰途につくこともあった。そんな日は気晴らしどころか余計に疲れたと後悔するが、日が経つと
それが有意義だった事に気付く「正直けっこう助けられてたんだ」。
 ふたりは同じW.R.O隊員とはいえ、所属する部隊や管轄地域、活動内容どれを取っても共通項は
なかった。だから彼らが顔を合わせる機会と言えば、客としてセブンスヘブンを訪れた時ぐらいである。
別に約束をするでもなく、店で顔を合わせれば酒と議論を交わす、そういう常連客は少なくない。そんな
人々が集まるのも、店の魅力だった。
「だから俺も、俺が思うようにやってみるつもりだ。……それしかできないしな」最後は苦笑混じりに言った。
 一つ頷いてから、フレッドは嬉しそうに応じる「それでこそケリーだ」。
「しっかし、考えても俺には分からない事だらけだ」ひときわ大きく溜息を吐いてから、ケリーは両手を
頭の後ろで組んで続けた「お前が言ってた話、どうも引っかかる」。
 どうした? と首を傾げるフレッドにケリーは言った。
「はじめからプレート落下を想定した設計がされていた、って言ったろ? それを都市開発の連中は知ら
されないまま建設を続けた、だから憤る。それは分かるんだ」
 ミッドガル七番街プレート支柱爆破が、神羅による自作自演だと言う噂は確かにあった。もしそれが事実
なら、形はどうあれ少なからず存在する関係者が情報の出所になっている。そうでなかったとしても、
憶測や先入観などが錯綜し様々な経路で話が広がった結果が「噂」だ。信憑性を問わなければ、話の
種類は多かった。

140 名前:ラストダンジョン(308)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/03/28(土) 18:44:39 ID:aIYDFoT50]
 けれど、緊急用プレート解放システムと言う話は一度も聞いた事がない。居住区を支えるプレートを
落とすための仕組みがあったなどとは誰も考えないし、そもそも発想自体が現実性に欠けている。
フレッドの言うように、都市開発部門の人間にさえ知られていなかったとしても不思議ではない。今でさえ
信じがたい話であるのだから、これまで噂としてでも話題に上ることが無かったのは当然と言える。
「……なあ、フレッド。お前さっきの話を誰から聞いた?」
「ダナからだ。プレート支柱爆破のデータと一緒に――」話している途中で、フレッドの表情が変わる「おかしい」。
「だろ? 都市開発部門の連中でさえ『誰も知らなかった』事が、なぜ今になって?」しかも元都市開発
部門のダナがその話を信用した、つまり情報元にかなりの信憑性があったという事だ。
 二人は顔を見合わせる。この事態を引き起こした首謀者として、脳裏に過ぎった人物は一人だけだ。
「……局長?」
「しか考えられない」
「どうして!?」
「分からない、分からない事だらけだ。でもこれだけは言える」

 局長が、事態の混乱を煽動しているのは間違いない。


                    ***


 空爆まで、あと僅かの時間さえ稼げればそれでよかった。
 ダナは自分の行動がもたらす結果と、その先にある現実を思い描いた。今よりも情勢が悪化する事は
容易に想像が付く。今回の件をケリーが知ったら何と言うだろうか? 罵倒され非難を浴びるだけで済む
のなら御の字だと、そんなことを考えている自分に気付くと、ひどく落胆した。
 俯いた視線の先には、電源を切って繋がらなくなっているはずなのに、ずっと握りしめていた携帯電話
があった。
(隊を離れると決めた時から、とっくに覚悟していた……はずなのに)
 いざというところで決心が揺らぐのは、意気地の無さなのか。それとも、まだ覚悟が足りないからなのか。
 まぶたを閉じてダナは首を横に振る。揺らいでいる自身を否定するように。
(違う)
 まとわりつく過去の記憶や、未練を振り払うように。
(……私は……以前から決めていた。そう、あの日から)
 大きく深呼吸をした後、ゆっくりと瞼を開く。
(ミッドガルのために生きる)
 それから手にしていた携帯電話を、静かに置いた。

 ――富と繁栄、そして魔晄文明の象徴、
    しかし今や永遠の未完成都市となったミッドガル。
    そこはあまりにも多くの物を置き去りにしたままの、“故郷”だった。

 ダナがW.R.Oに入隊したのは、組織発足とほぼ時期を同じくしてのことだった。元都市開発部門に在籍
していた同僚の多くがそうだったように、6年前のメテオ接近の際にミッドガルの住民避難にあたっていた
当時――W.R.Oという組織が形を成す前――から、リーブの下で活動を続けていた。



141 名前:ラストダンジョン(309)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/03/28(土) 18:50:04 ID:aIYDFoT50]
 メテオ災害からの復旧も一段落し、世間ではちょうど星痕症候群の脅威が去った頃、ダナはW.R.Oを
離れる事を考えていた。
 各地の復興事業も軌道に乗り始めた頃で、離れるなら頃合いだと判断しての事だった。この後に起きる
オメガ戦役の事など、彼女に予想できたはずはない。知っていれば、この時点で隊を抜けていただろう。
 メテオ災害直後の混乱から成り行きでW.R.Oに籍を置くことになったものの、彼女にはどうしても『神羅』
の影から離れたいという思いがあった。いつの頃からか人々の間で囁かれ始めた噂――「七番街プレー
ト支柱爆破は、神羅による自作自演だった」――は、ミッドガルの都市開発従事者であったダナを苦しめ
た。このことが最も大きな動機であるのは確かだった。ただ、それを口外することはしなかった。彼女と
境遇を同じくする者達も皆、好んでその話題を口にしなかった理由を、彼女自身が一番よく知っていた
からだ。
 周囲の隊員達の多くはダナが去る事を惜しみ、止めようとしてくれる者もいた。彼らの思いは彼女に
とって有り難く、同時に枷でもあった。
 そんな折、偶然にもリーブと顔を合わせる機会があった。たまたまルート上にロケット村があったので、
ダナ達の乗る移動車に同乗したと言う経緯だった。魔晄を廃しエネルギー事情が逼迫していた災害直後
はもちろん、この当時でも珍しい行動ではなかった。
 元都市開発部門の統括にして、現W.R.O局長。昔も今もダナにとっては従うべき上官である。神羅カン
パニーで都市開発部門に在籍していたという共通点はあっても、個人的な面識は無いに等しい。神羅に
いた頃のダナが知るリーブは、「部門の統括責任者」という程度だった。逆にミッドガルだけで数百は下ら
ない部下を抱えたリーブが、ダナの事を知っているとも思えなかった。
 予想通り、リーブはダナのことを知らなかった。しかし彼は今のダナの仕事ぶりを評価し、さらに彼女が
去る事を惜しむばかりではなく、必要だと言った。その上で、ここを去る事にも反対はしなかった。この辺は
いかにも局長らしいとダナは思った。
 ダナから一通り話を聞き終えた後、最後に付け加えるようにして「個人的にはとても残念だと思っている
のは、間違いありませんけどね」と言って微笑を浮かべた。ダナは返すべき言葉を見つけられず、会話は
終わった。
 直接会ってみて改めて驚いたのは、想像していた以上に物腰の柔らかい、とても神羅カンパニーの重役
に名を連ねた人物とは思えない口ぶりだった事だ。経営者も含めて神羅の重役はクセの強い人物ばかり、
というダナの先入観もあったのだろうが、それにしても当たりの柔らかい人だ。しかしながら、リーブにまっ
たくクセが無いか? というと決してそうではない。むしろ物腰が柔らかい分、いっそう厄介とも言える。
 どうあっても、ダナにとってリーブが上官であるという事に変わりはない。そして、彼女がそう認識してい
る事を把握した上で、リーブはそれを上手く利用している。
(話をすればした分だけ、逃げ道を塞がれてる気がするわ)
 さすがに神羅カンパニーの重役に名を連ねていただけあると、ダナが溜め息を吐きたくなったのも無理
はない。

142 名前:ラストダンジョン(310)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/03/28(土) 18:54:59 ID:aIYDFoT50]


 W.R.O局長は多忙を極める。直接会って話す機会というのは隊員であっても滅多にない。このときも、
話ができたのは本部を出てから目的地に到着するまでの間だった。移動中の車内でも通信で方々と
遣り取りをしながら、僅かな空き時間も持参した資料に目を通していた。そうこうするうち車が目的地に
近づき減速し始めたのを知ると、広げていた資料を片付けながら思い出したように切り出した。
「もし、あなたさえ良かったら1つお願いしたい事がありまして」
 それは何かと尋ねるダナに顔を向けると、リーブはやや声を潜めてこう答える。
「ミッドガルと同じ過ちを繰り返さない為に、私を監視するという仕事です」
「……はい?」言葉の意図を汲みかねて、なんですって? と思わず口に出そうになって慌てて手を当て
る。ほぼ同じタイミングで車は停車し、エンジン音の止んだ車内は急に静かになった。お陰で奇妙に裏返
ったダナの声だけが車内に響いた。
 リーブは運転者に礼を告げてから、降車のために開けかけたドアからいったん手を離して振り返る。
「もちろん繰り返したいなんて思っている訳じゃありませんよ。ただ、この役にはある程度の経験と知識を
要しますからね。なり手の心当たりは、そう多くないんです」
 ダナに向けられた言葉も声も眼差しも、どれもが真剣だった。だからこそ反論した。
「失礼を承知で申し上げますが、W.R.O局長はあなたです。あなたさえ道を踏み外さ……」

「本当にそうでしょうか?」

 車から降りようとしたリーブは背を向けたまま、さらにダナの語尾に重ねるようにして言い捨てた。今まで
になく低い声で告げられた言葉は、ひどく耳に残った。
 まるで予言者の語る凶兆とでも言うように。
「えっ?」半ば無意識に出た声に、車を降りて振り返ったリーブは笑顔を向けた。
「何事も、備えあれば憂いなし、と言いますからね」口調も声も表情も、いつもの穏やかなそれだった。
「ここを出てからの行く先が決まるまで、当面の間でも構いません。考えておいてくれませんか?」
 それだけ言い残したリーブは、ダナの返答は聞かずにさっさと歩き出してしまった。ダナの乗った車も、
本来の目的地へ向けて発進する。サイドミラーに映る局長の姿が、あっという間に小さくなっていった。
(一体なんなのかしら?)
 車が発進してすぐ、ダナは座席の下に落ちていた紙切れを見つけた。先程リーブが開いていた資料の
中から落ちたものだろうかと、慌てて拾い上げた。内容によっては急いで局長の所に引き返さなければ
ならない。
 ところがそこに書かれていたのは、ダナ宛てに走り書きされた文字だった。恐らくリーブが書いた物だろ
う。ファイルアドレスらしく、アクセスに必要なパスワードと思しき文字列も記載されている。他にメッセージ
などは添えられておらず、書かれているのはそれだけだった。
(これは?)
 翌日、本部へ戻ったダナはメモに記載されていたファイルを開いていた。ファイルの保存場所、セキュリ
ティの設定から考えても局長の物に間違いない。

143 名前:ラストダンジョン(311)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/03/28(土) 19:01:49 ID:aIYDFoT50]
 開いたファイルの正体は、ミッドガルのプレート構造に関する詳細な資料、当時の部内でも関係者以外
が目にすることは無いものだった。同時にダナを苦しめていた噂の真相を確かめるための数少ない、しか
しながら決定的な証拠だった。
 七番街プレート支柱爆破事件が当時、会社が発表した『反神羅テロ組織アバランチ』による犯行では
なかった事。支柱爆破の決議には、重役会議での全会一致が必須条件であった事。その手続きを踏ん
で引き起こされた神羅の自作自演であった事。そこに都市開発部門統括だったリーブも関与していた事。
なによりも。

 ――『緊急用プレート解放システム』と呼ばれる装置が、支柱の爆破により起動。
    これによってプレート落下を招く事は、設計段階からあらかじめ想定されていた。

 それでは、都市開発部門の人々は何のためにミッドガルの建造に携わったのか?
 壊される想定で建設された街に人を住まわせ、結果として住民の多くが命を落とす惨事を招いた。その
事実をすべて知りながら、リーブはミッドガルの都市開発を進めていた事になる。開発に携わる多くの部
下と、街に暮らす住民を欺き続けながら。
 ダナの家族も、愛する人々や同僚も。その多くが七番街のプレート崩落で命を落とした。何も知らない
まま、知らされないまま。ダナ自身でさえ、今になってようやく真実を知った。
(……なぜ、今さら?)
 指先から一気に熱が引いていく。画面に並ぶ資料を前に、開いた瞼を閉じる事ができなかった。やがて
手が震え、全身に戦慄が走った。
(私、たちは……最初から?)
 裏切られていたと言うのか。ならば、あまりにも滑稽ではないか。
「……分かりました、局長。あなたの言う『ミッドガルと同じ過ち』は繰り返させない」
 ダナにとってそれは、ミッドガルの弔い合戦に他ならなかった。


----------
・人使いの荒さに定評のある局長。
・セブンスヘブンが居酒屋的な扱いですがご愛敬。(FF7の序盤でお酒を注文できた気がするんだ)

144 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/28(土) 21:05:27 ID:YDMj9uQ60]
tesu

145 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/29(日) 21:54:37 ID:PEQJU9tM0]
乙です。

146 名前:オペラ座の空賊【84】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/03/29(日) 21:57:05 ID:PEQJU9tM0]
>>32-37 >>39-44 >>104-107から続きます。
※今回、バトルシーンでちょっとだけグロな表現があります。大した事はありませんが、苦手な方はご注意を。
テキスト数改行を調整しながらの投下なので断言は出来ませんが、大体、【89】辺りかと思います。

カシャカシャと骨と骨が組み合わさる音が不気味に響き、鼻をつく腐臭が漂う。
骸骨に腐った肉片が張り付き、目の部分だけがぽっかりと空いているのが不気味さを増す。
そんなモンスター達がじりじりとアーシェに歩み寄って来る。
その塊の中にヴァンは突っ込み、両手に持った2本のダガーでゾンビ共を切り倒して行く。
アーシェは一本の矢も放つ事なく、手に持ったボウガンを下ろした。
「調子いいみたいね。」
2本のダガーを腰の鞘に収め、ヴァンが振り返る。
「うん、今はいいけど、奥の方に行くとゴツいヤツがいっぱい居るだろ。1本じゃ心もとないし。」
「前はそんな使い方してなかったよね?」
「あぁ、これ?」
ヴァンは収めたダガーを両手に持ち、左足を大きく前に踏み出し、
右手に持った方を前に、左手に持った方を後ろに反らせて構える。
「モブハントしてたら知り合ったヤツに教わったんだ。こうやって低く構えて、相手の胸元に飛び込むんだ。」
一瞬の判断力と、素早さが勝負だそうだ。
「軽い武器でも、手数が倍になるし、狭い所だと便利でさ。でも…」
「なに?」
ヴァンはまたダガーを鞘に納めると、歩き出す。
「ヘンなヤツだった。女好きでさ。最初はパンネロを口説いてたんだ。
俺が居ない隙に。“そこのレディ、今度飛空艇でドライブしない?”とかさ。」
「まぁ。」
「でも、話したらおもしろいヤツだった。同じモブを狙ってたから、一緒に倒して賞金は山分け。
“また一緒に行こうぜ”って誘ったんだけど、“行かなきゃいけない所があるから。”って。」
「また会えるといいわね。」
「うん…でも、すごく遠くに行って、いつ帰れるか分からないって言ってた。
“一緒に行こうぜ”って誘ってくれたんだけど、俺、呼ばれてないからさ。」
二人分の荷物を肩にかけ、前を歩き出したヴァンの背中を見ながら、
(知らない間に、ちゃんと成長しているのね。)
少し背も伸びたようだし、背中も逞しい。
地下牢に閉じ込めていた時のヴァンとは別人だ。

147 名前:オペラ座の空賊【85】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/03/29(日) 22:00:45 ID:PEQJU9tM0]
騎士団の者ですら、地下に潜伏していた時や、帝国の支配下で受けた
屈辱からくる心の傷に未だ悩まされている者が多いと聞く。
それに比べると、ヴァンの回復ぶりは逞しいの一言に尽きる。
(強いんだな……)
ちょっとだけ、その背中に触れてみたい。
つと、手を伸ばし、アーシェは慌てて伸ばしかけた手を引っ込める。
(パンネロなら、平気なんだろうな…)
二人でいつもじゃれあっていたし。
アーシェはそんな自分の考えに呆れてしまい、
いつの間にか先に行って自分を待っているヴァンの元に駆け出した。
やっぱり疲れているんじゃないか、と心配するヴァンを遮り、
「平気よ。それより、モブは何処に居るの?」
ヴァンはチラシを広げ、アーシェに見せる。
「あぁ、魔神竜の居た所ね。」
「そう!ボロボロの鍵を貰ってから倒しに行った…結構、遠いんだよなぁ。」
「じゃあ、雑魚は放って行きましょ。」
「いいけど、俺の後から来いよ。」
言うが早いか、ヴァンは先に立って走り出してしまう。
ヴァンを見直しているアーシェはそれが彼の心遣いだと思い、微笑ましい気持ちで後を追う。
まさかアーシェに目の前を走られると、ヴァンが目のやり場に困るから、とはこれっぽちも思わずに。

     *****

一方、旧市街地側からソーヘン入りしたバルフレア、フラン、パンネロ。
フランは古い管制台を操作しようとして、操作盤のホコリが払われているのに気付いた。
「どうした?」
「先客が居るわ。」
「降りた早々、か。」
フランが躊躇わずに下に降りるスイッチを押したので、
引き返すのかと思っていたパンネロは目を丸くする。
「大丈夫?」
「どこから行っても同じよ。それに、下に居るのは一人だけ。」
下で待つのが誰なのか、パンネロにも分かったようだ。
「…どうしよう。」
パンネロがオロオロしている間に管制台は地下に着いてしまう。
そこで待っていたのはやはり、黒い鎧に身を包んだジャッジマスターだった。

148 名前:オペラ座の空賊【86】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/03/29(日) 22:02:41 ID:PEQJU9tM0]
「お役目、ご苦労さまってとこだな。」
「君もヤキが回ったな。」
言われて、バルフレアは眉をしかめる。
「下でうろついてた連中は、俺達をあぶり出すためか。」
バッシュはその厳めしい鎧に不似合いな微笑みを浮かべた。
そして、バルフレアの背に隠れる様にして立っているパンネロを見る。
「随分と勇ましい格好だな、パンネロ。」
オペラ座で騒ぎを起こした自分を捕らえに来たのだと、パンネロは身を竦めた。
「小父さま、ごめんなさい、私……」
「そんなに恐縮しなくてもいい。君を迎えに来た。」
(迎えに???)
最近、自分の予想外の展開が多くて、パンネロの思考は固まりがちだ。
「あの…あの…私を?」
「ラーサー様が君を保護したいとのことだ。私と一緒に来てくれないか?」
「ラーサー様が……?」
「悪くないんじゃないか?」
肩越しにバルフレアが口を挟む。
「ラーサーなら何があってもパンネロを守る。前にフランもそう言ってた。
ヴァンみたいに無茶はしない。」
「守る……」
パンネロはおうむ返しに呟き、俯く。表情が固い。
「違う……。」
小さな声が震えていた。
「私…守られているだけなんて、嫌…」
前に立つバルフレアのシャツの袖を掴む。
「アーシェだってそうだった…アルシドさんが亡命を勧めても、自分で…って。」
「それでこそお嬢ちゃんだ。」
バルフレアはパンネロの手を握ると、フランと目で合図する。
バッシュが何かを叫ぼうとする前にフランが管制台の上昇のスイッチを拳で叩いた。
上りかけた管制台からフランが飛び降り、続いてパンネロの手を引いたバルフレアが飛び降りた。
振り向き様に管制台の制御台を担いでいた銃で撃ち抜く。
制御台が黒い煙を吹き出し、管制台は一瞬動きを止め、すぐに下に落ちて来た。
バッシュは轟音を上げ落ちて来た塊を避け、3人が駆け出した方を目で追ったが、
その姿はもうとっくに見えなくなっていた。

149 名前:オペラ座の空賊【87】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/03/29(日) 22:04:30 ID:PEQJU9tM0]

地下宮殿の広間を駆け抜け、迷路の様な洞窟まで逃げて来ると、フランはふと足を止めた。
後から追いついてきたバルフレアとパンネロも釣られて立ち止まる。
フランは首を巡らし、何かを感じたのか、その方向をじっと見据えた。
「こっちよ。」
そう言うと、先に立って歩き出す。
バルフレアはパンネロに大げさに肩を竦めてみせ、渋々後に続く。
パンネロも、そんな二人の後に首を傾げながら続く。
「ねぇ、道、そっちじゃないわ。」
「あぁ。よ〜く分かってるさ。」
そこでパンネロは、ここに来る前にフランが“気になるミストを感じた”と話していたのを思い出した。
「寄り道してく余裕はないんだがな。」
文句を言う割に、バルフレアはフランを止めようとしない。
パンネロにはそんな二人が不思議であり、ちょっぴり羨ましかったりするのだが。
「私もバルフレアとフランみたいになりたいな。なれるかな?」
「ヴァンとか?100年かけても無理だな。」
パンネロはそうかしら、と考える。
「ねぇ、バルフレア、私、小父さまとラーサー様に失礼なこと、しちゃった。」
「後でまたお手紙でも書けばいいさ。」
バルフレアは女の子特有の脈絡のない会話にだいぶ慣れたようだ。
「いいの?」
さっきからパンネロの口からヴァンやラーサーの名前が出てくる度に何故だかおもしろくない気分になる。
それならいっそ、
「あぁ。せいぜい、手玉に取ってやるといいさ。」
バルフレアの精一杯の皮肉が通じるわけもなく、パンネロは、
「うん、分かった!」
と、うれしそうに頷くのだった。


     *****


入り口付近から地下宮殿最奥までを一気に駆け抜けて来たヴァンとアーシェ。
緩い下り坂を降りた所にある“修験の扉”にやっと辿り着いた時は、
さすがに二人とも肩で息をして、汗だくだった。
「少し休んでから入ろうぜ。」
ヴァンは鞄の中から回復薬を取り出して、アーシェに手渡した。


150 名前:オペラ座の空賊【88】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/03/29(日) 22:06:28 ID:PEQJU9tM0]

アーシェはそれを受け取り、少しずつ飲む。一口飲む毎に汗が引き、疲労感が薄れていく。
その傍らで、ヴァンは要らない物を鞄から出し、隅に固めて置いた。
それを終えると、今度は身に着けた装備を確認している。
「あなたはいいの?」
「俺、そんなに疲れてないし。これからポーションは貴重だろ?」
「ダメよ、そんなの。」
「アーシェ。」
いつになく強い口調のヴァンに、アーシェは何も言い返せなくなる。
ヴァンは最低限のアイテムだけを入れた鞄を、アーシェの肩に掛ける。
「昨日の夜、考えたんだ。アーシェが俺やパンネロのためにどうしてここまでしてくれるかって。
俺達、仲間だもんな。立場とかそんなの関係ないし。仲間のためって、理屈じゃないだろ?」
ヴァンは床に置いてあったボウガンを手に取り、アーシェの手に持たせる。
「射程内ギリギリで、出来るだけ離れてるんだ。俺に何かあったらすぐに逃げろ。」
「ヴァン、私は…」
「約束してくれないと、扉は開けない。」
アーシェは沈痛な面持ちで、ヴァンを見上げる。
「そんな顔すんなって!もちろんやっつけるさ!」
ヴァンは照れくさそうに頭を掻く。やはりこういう雰囲気は苦手らしい。
「でも、アーシェは女王様だ。」
アーシェは唇を噛む。
「じゃあ、約束して。」
アーシェはヴァンの目の前にそっと手をさし出す。
「必ず倒すって。」
ヴァンはアーシェの手の甲に、自分の手の甲をコツン、と合わせて、
「任せろって!」
騎士ならば、そこは手に口づけるところだろうが、
(ヴァンって、本当に…)
「開けるぞ。」
ヴァンの声に、アーシェはボウガンを構え、頷いた。
重い石の扉をヴァンが開くと、途端に凄まじい冷気が溢れ出て来た。二人は思わず両腕で顔を覆った。
扉が開き、溢れ出た冷気が外に流れ切ったところで漸く顔を上げると、
広間の中央で女が一人、すすり泣いていた。
その様はとても哀れで、その女が冷気の源でなければ、思わず駆け寄っていたところだ。
ヴァンは2本のダガーを抜いた。短剣と鞘が擦れる音で、女がゆっくりと顔を上げた。




151 名前:オペラ座の空賊【89】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/03/29(日) 22:08:00 ID:PEQJU9tM0]

“お前たち……”
羽織ったケープが身じろぎする度にキラキラと光る。目を凝らすと氷の粒子が形を成した物だ。
豊かな髪は高い位置で結い上げ、結い上げた髪を青い宝石のビーズを編み込んで垂らしてある。
光沢のある冷たいブルーの透ける様に薄い生地を、
複雑にカッティングした波打つ様な優雅な曲線のドレスを豊かな肢体に纏っている。
腰には金色の糸で刺繍が施された黒いバックスキンのベルトが巻かれ、
青い宝石が散りばめられた短剣が差してある。
肌すらも青く、その瞳は深い海の様な藍色で、美しいが、氷属性のモンスターに有りがちな容姿だ。
だが、女の顔を見て、アーシェは思わず身震いをした。
(瞳孔が……ないんだわ……)
青い絵の具でべったりと塗りつぶした様な目だ。
“帝都に……行くんだね……”
アーシェは気力を振り絞る。気圧されたら負けだ。ヴァンが肩越しにこちらを見たので、頷いた。
女がゆっくりと立ち上がり、右手を前にかざした。と、同時に姿勢を限界まで低くしたヴァンが飛び出した。
酒樽程もある氷塊が砲弾の様に飛んでくるのを、アーシェも素早く左側にジャンプして避ける。
ヴァンが吠え、両手の短剣で右、左と斬りつける。女は瞬間移動で、広間の端へ移動する。
「アーシェ!足を止めてくれ!」
ヴァンは再び氷の砲弾をかい潜り、女にの胸元に飛び込む。その一瞬にアーシェが炎の魔法で気を反らせる。
隙を見て、ヴァンが再び斬りつける。女は素早く身体を屈め、反らせて避ける。
(こいつ、早い…!)
次の手で斬りつけると、また広間の端へ移動する。
アーシェがすかさずヴァンに時空魔法をかけ、動きを素早くしてくれた。
(これで!)
ヴァンは女目がけてダッシュする。大きく踏み込んでジャンプし、氷の砲弾を飛び越えると、
短剣2本を同時に振りかぶって、左肩目指して振り下ろした。
肉と骨を断ち切る手応えがあり、女の左腕が、ごとり、と音を立てて床に転がった。
休まず斬りつけてくるヴァンの攻撃を必死にかわす内に、女の視界の端にアーシェが映った。
その瞬間、女は姿を消し、アーシェの目の前に立っていた。
「アーシェ、逃げろ!」
ヴァンが叫ぶと同時に、広間に銃声が響き渡った。弾丸は女の左目を撃ち抜いた。
女は悲鳴を上げてうずくまった。恐ろしいうめき声が広間に響くが、ヴァンとアーシェの耳には届いていない。
(嘘………)
広間の入り口を見て、呆然と立ちすくんでいるヴァンを見て、そこに誰が居るのか分かった。
俄に信じられず、後ろを振り返る事が出来ない。何か言いたいのに、唇が震えて言葉が出て来ない。

152 名前:オペラ座の空賊【90】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/03/29(日) 22:11:12 ID:PEQJU9tM0]

「長居は無用のようだな。」
その声にアーシェは慌てて顔を上げる。
(行ってしまう…!)
振り返ったアーシェが見たのは、走り去るバルフレア、フラン、パンネロの後ろ姿だった。
一瞬、バルフレアがこちらを振り返り、目が合った様な気がするのだが、その姿はすぐに見えなくなってしまった。


     *****


(ったく、とんだ所で鉢合わせだ。)
ともすれば立ち止まってしまいそうなパンネロの手を引き、走りながらバルフレアは愚痴る。
「バルフレア……ヴァンが…アーシェが…」
「心配しなくていい。もう勝負はついてた。」
「でも…」
バルフレアはパンネロが泣き声なのに気付いて、足を止めた。
目をまっ赤にしているパンネロに途方に暮れてしまう。
「おい、フラン、なんとか言ってやってくれ。」
そもそもフランが気になるミストを感じたと言い出した事が原因なわけで。
気配を辿って来て、後からついて来てみれば、ヴァンとアーシェが戦っている最中だったのだ。
「アーシェが危ないから、放っておけなかったのはあなたでしょう?」
確かに黙って立ち去れば気付かれなかった。だが、身体が勝手に動いたのだから仕方がない。
「バルフレアも、アーシェが心配だったんでしょ?」
ベソをかきながらも女の子は逞しい。
すん、と鼻を鳴らしながらも、パンネロはこういう所は見逃さない。
「女性陣はマイペースで羨ましいぜ。」
バルフレアはものスゴい疲労感を感じて、精一杯の皮肉を言ってみる。もちろん、通じはしないが。
「誰か来るわ。」
「どぉせ将軍様だろ。」
ガチャガチャの鎧の音を響かせてバッシュが走って来た。
「やっと追いついたな。」
「小父さま…」
バッシュは泣きはらした目のパンネロを見て、驚いて歩み寄る。
「どうした?何があった?」
バッシュは身体を屈め、パンネロに優しく尋ねる。
「俺がいじめたんじゃないぜ。」
横でまたバルフレアが愚痴る。
「この奥で、ヴァンとアーシェが…」
「陛下が?何故このような所へ?」
「お願い…二人を助けて。」


153 名前:オペラ座の空賊【91】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/03/29(日) 22:13:56 ID:PEQJU9tM0]
「分かった。だが、その前に一つ聞きたい。」
バッシュは立ち上がって、バルフレアとフランを睨んだ。
「君たちはヴァンと陛下を置いて来たのか?」
「小父さま、違うの。」
パンネロは慌ててバッシュとバルフレアの間に割って入った。
「違うの!私…今、ヴァンと会いたくないの!バルフレアとフランはそれで…」
バッシュは困った様にパンネロを見る。
「今回の事は、ちゃんと後でご説明します。罰も受けます!だから、お願い…二人を助けて。」
バッシュは大きなため息を吐いた。
「聞きたい事は山ほどあるが、今は君の言う通りにしよう。」
「小父さま…」
パンネロはほっと胸をなで下ろす。
「君の願いはラーサー様の願いでもある。」
「私…落ち着いたら、すぐにお手紙します!」
「それがいいな。」
バッシュはパンネロに笑いかけると、
「どこに行っても、すぐに見つかる事を覚えておくんだな。」
と、バルフレアに釘を刺しておいてから、奥の広間に向かって走り出した。
「仕事熱心なことで。」
「パンネロ、行きましょう。」
頼もし気にバッシュの後ろ姿を見送るパンネロに、フランが声を掛ける。
「うん。」
バッシュが向かった事で安心したのか、パンネロはすっかり明るさを取り戻したようだ。
(ふさぎ込んでたかと思うとはしゃぎ出して、女の子は忙しいな。)
フランにラーサーに書くお手紙の事をお喋りしている。
二人を連れて、今度はどこへ姿を隠すかバルフレアは頭を巡らせる。が、すぐにどこへ行っても同じな事に気付き、
(だったら、旨いもんでも喰いに行くか。)
そして、一度だけ後ろを振り返ったが、
(柄でもないか…)
そして、己の想いを断ち切る様に、また前を向いて歩き出した。


     *****


話を少し戻して。
3人が立ち去った後を呆然と見送るアーシェの傍らで、
“お……の……れぇ……”
うずくまった女の傍に、ヴァンが歩み寄る。とどめを刺そうと、ゆっくりと剣を振り上げた。
「陛下!」
声のした方を見ると、バッシュが広間の入り口に立っていた。
“陛……下……?”
女は絞り出す様な声で言うと、
“貴様がアルケイディアスの皇帝か!”
帝国の鎧を身に纏った騎士がアーシェを陛下と呼んだ事に、何故か激昂したようだ。
女は腰の短剣を抜くと、アーシェに飛びかかり、その胸に深々と短剣を突き刺した。

つづく。

154 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/30(月) 14:29:09 ID:KPNukKZU0]


155 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ [2009/03/30(月) 17:23:28 ID:oGtRQH3N0]
参加していいですか?

156 名前:ew mailto:sage [2009/03/30(月) 17:33:58 ID:oGtRQH3N0]
砂漠を迷ってはや半日
故郷から冒険に出てきたのに・・・・
ポーションはもうないし
だれかたすけて



157 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/30(月) 22:06:01 ID:LO9A1jLPO]
おつ!

158 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/03/31(火) 00:12:17 ID:n8fgQqx00]
ど、どうした
>>156でおわりか!?

とりあえず皆様GJ!

159 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/01(水) 22:27:04 ID:P51hwDJg0]
乙!

160 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/03(金) 18:10:18 ID:NdXySeeG0]




161 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/05(日) 13:24:59 ID:3kQH/OYa0]


162 名前:オペラ座の空賊【92】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/04/05(日) 14:34:20 ID:FHdh7PBp0]

>>32-37 >>39-44 >>104-107 >>146-153から続きます。

「アーシェ!!」
「陛下!」
飛びかかって来た女の蒼い瞳に、アーシェの視線は吸い込まれるように釘付けになった。
その瞬間、女の記憶が一度に流れ込んで来た。
(あれは……)
短剣が突き刺さった所は焼きごてを押し付けられたかの様に熱く、
その熱のせいで身体中の細胞という細胞が混乱し、立っていることも、呼吸することすらも出来ない。
だが、意識はどこか醒めていて、アーシェは呆然と女を見つめ返した。
ヴァンはすぐに女をアーシェから引き剥がして抱え、転がる様にして広間を飛び出した。
「バッシュ!剣を抜く!血を止めてくれ!」
「分かった。」
ヴァンは短剣の柄を掴むと、
「アーシェ、剣を抜く。」
アーシェが微かに頷いたのを見て、ヴァンは剣を一気に引き抜いた。
アーシェの顔が痛みに歪み、大きくのけぞる。
血が噴き出す前に、バッシュが血止めをし、すぐに回復魔法をかけた。
傷口は見る見る内に回復し、呼吸も落ち着いて来たのを見て、ヴァンは胸を撫で下ろす。
ヴァンはアーシェに持たせていた鞄から水を入れた革袋を取り出すと、栓を取り、口に含ませてやった。
アーシェは差し出された水を一口のみ、咳き込んだ。
「アーシェ…」
「大丈夫……これくらいのケガ、今まで何度もしてきたじゃない…私が油断したからよ。それより…」
言いかけて、刺された時の出血が喉に詰まったのか、また激しく咳き込んだ。
落ち着くと、大きく息を吐き、オロオロするヴァンに微笑む。
「ヴァン……あの女と戦ってはいけません…」
「はぁ?何言ってんだよ!アーシェにケガさせたんだぞ!」
「あれは…私と同じ…帝国に国を滅ぼされた…」
ヴァンとバッシュは思わず顔を見合わせた。
「陛下、何故そうのような…」
「刺された時、彼女の記憶と感情を垣間みました。」
ヴァンは思わず後ろを振り返った。
女は部屋を出られないのか、広間の入り口に倒れふしながらもこちらを睨み、凄まじい怨嗟の念を送って来ている。
恐ろしい形相にゾッとする。あれがアーシェと同じとはどうしても思えない。思いたくもない。
もう一度アーシェに視線を戻す。アーシェもヴァンの気持ちを察したのか、
「私と同じ…ということは、あなたと同じでもあるのよ。大切な物を奪われた…可哀想な…」

163 名前:オペラ座の空賊【93】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/04/05(日) 14:37:09 ID:FHdh7PBp0]

「でも…!戦うなって、どうすりゃいいんだよ!このまま放っておくのか!?」
アーシェは身体を起こし、静かに首を横に振る。
「救って……あげて。あなたなら、出来るから。言ったでしょ?
私と同じ物を見て、感じたって。だから分かるはず。」
いくら魔法や回復薬があっても、深手を負った後のダメージはなかなか抜けない。
そんな状態なのに、自分を傷付けた魔物を助けるどころか、救ってやれとは。
「バッシュ、アーシェを頼む。」
そう言いつつも気が乗らないのか、ヴァンはのろのろと立ち上がる。
「どうすればいいんだよ……」
「どうしたいのか、聞いてあげるの。それで…その通りにしてあげるの。」
「話を聞くったって……」
ヴァンはおそるおそる、広間の入り口に近付く。女は恐ろしい形相でヴァンを威嚇する。
思わず剣に手をかけるが、
「ヴァン、相手を攻撃しないという意思を伝えるなら、剣を抜いてはいけない。」
「そんなこと言ったって、あいつ、おっかねーし。」
「君が一番怖いのは、モンスターではないはずだが。」
バッシュの言葉の意味が分からず、きょとんとしていたヴァンだが、
「…………それもそうだな。」
と、抜きかけた剣を鞘に収めた。
アーシェがコホン、と咳払いをし、バッシュは慌てて頭を下げた。
「失言でした。」
「よろしい。」
ヴァンは思い切って広間に足を踏み入れた。女は最後の気力をふり絞り氷弾を放つ。
「うわっ!」
ヴァンはそれを避け、広間を逃げ惑う。
「これでどーやって話を聞くんだよ!」
叫んでみても、逃げる合間に広間の奥に追い込まれてしまい、ヴァンの声はバッシュやアーシェには届かない。
目の前に壁が迫っているのに、四方から氷弾が迫る。もう逃げ場がない。
ヴァンは思わず短剣を抜き、目の前に迫った氷塊を砕いた。
至近距離で砕いたため、砕かれた氷の破片ばヴァンに降り注ぎ、その欠片の一つがヴァンの左目に飛び込んで来た。
「いてっ!」
ヴァンが思わず目を閉じると、兄が居たあの白い部屋が目蓋に浮かんだ。だが、その部屋に居たのは、
(あの女だ……)
残りの氷弾が次々とヴァンを直撃し、ヴァンは吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられて床に崩れ落ちた。
痛みで意識が遠くなりかけた所で、アーシェの言わんとした事を漸く理解した。
(そっか……)
豪奢な部屋に土足で踏み込んで来た兵士達に幽閉された姿が見えた。おそらく、女の記憶だろう。
そして、その姿が亡き兄と重なったのだ。
ヴァンはゆっくりと立ち上がった。痛みで頭がクラクラしたが、歯を食いしばる。
女に歩み寄りながら剣を抜き、それを床に置いた。
女はもう虫の息だった。

164 名前:オペラ座の空賊【94】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/04/05(日) 14:39:28 ID:FHdh7PBp0]

ヴァンは女の傍らに屈み、青い血を流しているその目に手をかざし、回復魔法を唱えた。
「あんたもさ…復讐するつもりでここに来たのか?」
女はじっとヴァンを見据える。ヴァンの行動が理解出来ないようだ。
「俺もアーシェもそうだったから…さ。だからあんたの気持ち、分かるよ。
俺は空賊だけど、大事な物に王様とか、そんなの関係ないだろ。」
“ 復讐…? ”
「違うのか?」
“ 分からない…もうずっとこの場に捕われていた…どうしてここに居たのかも忘れてしまうほど… ”
ヴァンは女を抱き起こし、自らが切り落とした左肩に手をかざし、回復魔法を唱える。
「さっきはごめんな。さすがに腕は……ごめん。」
女は静かに頭を振った。怨嗟の念はいつの間にか消え去っていた。
“ どのみち、もう長くはない…私はここで朽ちる。 ”
(そんな……)
抱いている身体は氷そのもので、硬く冷たかった肌だが、それがどんどんと緩んで溶けて行く。
たとえ悪霊だとしても、ヴァンは自分やアーシェと同じ悲しみを抱いた者の命が
目の前で消えて行こうとするのを黙って見ていられなかった。
「俺と一緒に来いよ!俺が思い出させてやるから!憎しみだけじゃ前に進むことが出来ない!
あんたは死んでるんじゃない、形を変えただけだ。このまま消えちゃだめだ!」
女が静かに笑ったように見えた。
“ ここからは出られない… ”
「どうすれば出られる。俺が出してやるから。」
諦めるかと思っていたヴァンが食い下がるのに、女は面食らったようだが、
“ お前と同化すれば、出られるかもしれぬ… ”
「俺ぇ?」
ヴァンは素っ頓狂な声を上げる。
「お…俺はいいけど、俺、男だぞ?お前、困らないか?」
うろたえるヴァンを横目に、女はヴァンが置いて来た剣を指差し、
“ あの剣で良い…… ”
「そっか!…って、お前、俺をからかっただろ?」
女は静かに目を閉じた。そして、もう一度ゆっくりと目を開く。
アーシェが恐れた、あの恐ろしい瞳ではなくなっていた。
白目にくっきりとしたコントラストの蒼い瞳、その中心には更に深い藍色の瞳孔が優しくヴァンを見上げた。
吸い込まれそうな美しいその瞳に、ヴァンは釘付けになる。
が、その目はすぐに閉じられ、身体はヴァンの腕の中で溶けてなくなってしまった。
ヴァンが驚いて剣を見ると、アーシェの胸を差したあの短剣とよく似た意匠の2本の短剣が暗闇の中で青白く光っていた。
ヴァンは立ち上がり、剣を手に取った。
軽く振ると、剣の軌道にキラキラとした氷の膜がふわりと広がった。
「すげぇ…!」
ヴァンは剣に向かって、“ありがとな”と小さく呟くと、それを鞘に収めた。


165 名前:オペラ座の空賊【95】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/04/05(日) 14:41:54 ID:FHdh7PBp0]

広間を出ると、何故か不機嫌そうなアーシェが出立の支度をしている。
「……何怒ってんだよ。」
さすがのヴァンでも機嫌の悪さが分かる程、その動作は乱暴だ。
「なんだよ、お前が話を聞けって言うから聞いてきたんだろ!」
「聞いてあげても、一緒に連れて行きましょうなんて言ってないでしょ?」
アーシェの剣幕に、ヴァンは目を丸くする。
しかし、ここまで言われて原因が分からないのがヴァンなわけで。
横で見ているバッシュは、
(ヴァンはバルフレアとは別な意味で女泣かせになるかもしれんな。)
「いい?彼女は昔帝国に滅ばされた国の女王で、その証を帝国に奪われたの!
私たちが今から盗みに行く首飾りはその女王の物なのよ。
後でバルフレアに渡さなきゃいけないのに…一体、どうするつもり!?」
“盗みに行く”などと物騒な言葉に、さすがに聞き捨てならないと
アーシェの言葉に口を挟もうとするバッシュだが、
すっかり冠を曲げているアーシェにそれが出来るはずもなく。
「そうなのか?」
「そうよ!」
「だって、アーシェ、そこまで言わなかっただろ?」
「モブハントのチラシをちゃんと見たでしょ?当然分かってると思うけど?」
ヴァン、“へぇ〜”と感心したように剣をまじまじと見つめ、語りかけた。
「盗んだら、後で返すからちょっと貸してくれよな。」
「貸し借りで済む問題なの?」
「バルフレアは女に甘いから大丈夫さ。女王、キレイだったし。な?」
「まぁ。」
さすがのアーシェも呆気にとられ、二の句が継げないようだ。
バルフレアの名を口にし、ヴァンはふとある事に気が付いた。
「アーシェ、バルフレアからの手紙、持ってるか?」
「持ってるけど…今頃、何?」
「見せてくれ。」
渡された手紙はヴァンがくしゃくしゃにしたけど、きれいに伸ばし、折り畳まれていた。
それを広げ、もう一度読む。
「これ、バルフレアの字じゃない。」
「…え?」
「フランだ。」

166 名前:オペラ座の空賊【96】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/04/05(日) 14:46:02 ID:FHdh7PBp0]


さすがにこれ以上黙ってはいられない、とバッシュが問いかける。
「陛下、これは一体……」
ここでヴァンとアーシェは、やっとバッシュの存在と自分たちの状況を思い出した。
「やべっ!アーシェ、逃げるぞ!」
「待つんだ、ヴァン!」
「女王、頼む!」
ヴァンは剣を抜き、それを横に払うと氷の膜が瞬く間に壁となってバッシュを阻んだ。
「陛下!」
叫んだ声は氷壁の向こうを駈けて行くアーシェには届かない。
バッシュはため息を吐き、その姿を見送った。
見ると、逃げる時にヴァンが落としたのだろう手紙が落ちている。
バッシュはそれを拾い上げて目を通し、
「…そういう事か。」
何一つ思うままにならない幼い主君のためとは言え、
「損な役回りだな。」
と、板挟みな自分の立場をぼやき、もう一度大きなため息を吐いた。


     *****



一方、ソーヘンを無事に抜けてツィッタ大草原に辿り着いたバルフレア、フラン、パンネロ。
無事に辿り着いたのは、パンネロの獅子奮迅の活躍のお陰なのだが。
後衛のはずのパンネロの矢で、モンスター達は次々とハリネズミになっていた。
(やっぱりヴァンの事が心配なのかねぇ…)
どうやらヴァンの事を考えまいとして、張り切り過ぎたようだ。
(ま、突然だから動揺もするか…)
まさかあんな所で鉢合わせとはバルフレアも思っていなかったし。
(しかし、あの二人はあんな所で何をしてたんだ?)
しかもヴァンはともかく、何故アーシェまで?
自分たちを追って帝都まで来たのだろうか?
だがそれも一見すると正しい様で、どこかがおかしい。
考え込んでいたバルフレアの思考はパンネロの言葉に遮られた。
「バルフレア!私、おいしいお魚が食べたい。」
空元気なのか、自棄になっているのか、バルフレアにはもう判別がつかない。
「私は魚はちょっと…ナンナのチーズがいいわ。」
と、フラン。
バルフレアもいい加減振り回され過ぎて、考えるのがばかばかしく思えてきて、
(それならいっそ、両手に花を楽しむか。)
そう開き直ると、二人に大げさに肩を竦めて見せ、
「ご馳走しましょう。」
と、うそぶいた。


つづく。


167 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/07(火) 15:50:02 ID:yj/BHQnE0]
乙!

168 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/08(水) 01:13:21 ID:GR41+27R0]
>>162-166
> 俺、呼ばれてないからさ。
それはディシディアのことかーーーー!?w
(そう言えばディシディアはセフィロス倒せなくて早々に詰んだんだ…orz)

氷の女王戦、とてもアクティブで楽しく読ませていただきました。>>107辺りの描写で
彼女の正体(境遇)に他省の見当は付いていたものの、その念を剣に宿して持ち出す
って展開は予想外でした。続き楽しみにしてます。

169 名前:ラストダンジョン(312)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/08(水) 01:21:55 ID:GR41+27R0]
前話:>>139-143
----------
 過去を辿っていたダナの意識は、何の前触れもなく聞こえてきた衝突音によって現在に引き戻された。
音に驚いて顔を上げた直後に車体が大きく揺れ、机に置いた携帯電話が足下に落ちた。それを拾おうと
して前屈みになったところへ、急激な方向転換を試みたらしく車体は大きく傾き、伸ばした手から逃げる
ように携帯電話は床を滑っていった。ダナの手はそのまま床を着き、なんとか自身の体を支えていた。
(な、何?!)
 ダナをはじめ、シャドウ・フォックスに乗り込んでいた隊員達の誰もが、予期せぬ事態の急変を驚きの
表情で迎えていた。それから間もなく、スピーカーから外の状況がもたらされる。
『進路上にモンスターの一群が出現。迂回を試みるも、群れの一部が当車両に向けて攻撃をはじめた。
各員、迎撃に備えよ!』
 ノイズ混じりに昂揚した運転者の声と共に、取り付けられたモニタには車載カメラの映像が映し出され
た。途端に、隊員達の表情は驚きから焦りに変わった。
 夕闇迫る曇天の下、乾ききった大地の向こうで上がる土煙の合間にモンスターの姿を見出した隊員の
一人が叫ぶ。
「ガードハウンド!?」
「しかも群れよ!」
 シャドウ・フォックスのはるか前方、その進路を横切る形で現れたガードハウンドの大群。あんな数と
まともにやり合ったところで多勢に無勢。ならば時間が掛かってでも迂回路を進んだ方が、ムダな犠牲も
時間も費やさずに済む――運転者の判断は正しかった。問題は、そのタイミングが僅かに遅れた事
だった。
「このままだと追いつかれる、まずいわ!」
 大型輸送車両という性質ゆえに機動性は低く、シャドウ・フォックスの走行速度はガードハウンドに劣る。
しかも悪路、単純走行だけで振り切ることは不可能だ。
「機銃用意!」乗り込んでいた別の隊員が叫んだ。弾幕射撃によって追ってくるガードハウンドを足止め
させる狙いだと言うのはダナにも理解できた。けれど体は動かなかった。
 底に格納されていた機銃を手早く組み上げると、叫んだ隊員が自ら台座に座り銃を構えた。それを見た
別の隊員によって、後部の片扉が開かれる。訓練を受けていた彼ら二人の呼吸は合っていた。
「撃ち損じた分は頼んだ」
「了解!」そう言って懐から拳銃を取り出す。「手を貸せる者は私と共に迎撃支援! 後の者は振り落と
されない様しっかり掴まってろ!」
 仕事柄、満足な訓練を受けていなかったダナは銃を扱えなかった。モンスターの追尾を回避するために
蛇行運転を続ける車内で、せめて足手まといにだけはなるまいと、四肢に力を入れて今の姿勢を維持し
ているだけでも精一杯という状態だ。
 こうして銃声とエンジン音が奏でる二重奏、あるいはモンスターと人間の先の見えない遁走曲は、休み
無くダナの耳を打ち続けた。

170 名前:ラストダンジョン(313)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/08(水) 01:27:13 ID:GR41+27R0]
 ところが転調は突然に訪れた。シャドウ・フォックスが何度目かの急激な方向転換を行い、一時的に
進路が反転した。そのとき車載カメラがとらえたのは、ガードハウンドの一群を見下ろすようにして崖の
上に立つ一頭の獣の姿だった。遠目に映った赤みを帯びた輪郭を見て、とっさにクリムゾンハウンドだと
思った。
 特にダナがモンスターの生態について精通しているというわけではなかった。ただ、以前にケリーが
「一頭のクリムゾンハウンドが数頭のガードハウンドを引き連れて現れる事は珍しくない」と話していた
のを思い出したのだ。そう言えばまだミッドガルが建設中だった頃にも、周辺地域に出没しては物資
輸送などを阻まれ悩まされたものだった。ひどい時には、ソルジャー部隊に大規模な掃討作戦を依頼
した事もあった程だ。
 しかし今回のようにガードハウンドの大群を、たった一頭のクリムゾンハウンドが率いているのは珍しい。
と、ダナが考えていると車体が大きく傾いた。集中が途切れた隙を突かれる形で、あっという間にバラ
ンスを崩した体は宙に浮いた。ダナは自分の身に起きた現象をまるで他人事のように感じていた。視界の
端にあったモニタの中を流れる景色が反転し、すれ違いざまに再び崖の上にいる獣の姿を映し出す。
 不思議なことにダナはこの時、すべての光景がスロー再生された映像を見せられているような感覚に
陥った。喧しく響いていたエンジン音や銃声は聞こえない。ただ、その光景だけが目の前をゆっくりと流れ
ていく。
 そのお陰で、モニタを見つめていたダナは自らの誤認を知る事ができた。と同時に、目の当たりにした
現実に驚愕した。
 崖の上に立つ獣、それはクリムゾンハウンドではなかったからだ。
(あれは……!)
 網膜に焼き付くような夕影を思わせる赤い獣毛と、尾の先に揺らめく炎。
 それは古来より星鎮めを司る獣にして、『百獣の長』の異名を持つ稀少な種族。
 それは人ならざる存在であり、今や人々に英雄と称えられた獣。

 ナナキだった。

(どうして?! なぜ彼がモンスターの群を……!)
 ダナは我が目を疑い、視界から遠ざかっていくモニタを凝視した。しかしその姿は既に消えた後だった。


----------
・ナナキ登場が遅い。→なんと言ってもネコ科の重鎮ですから。
・クリムゾンと見間違うなんてねーよw→すいません作者的には見間違いそうになりました(遠目で)
・ようやく本編パーティーメンバー全員が揃った…。
・短くてすみませんが保守がてら。



171 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/08(水) 05:36:37 ID:oKN5krL8O]
乙!

172 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/08(水) 07:17:40 ID:f5yc4H4t0]
乙 de GJ!

173 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/10(金) 01:10:00 ID:Yb1/ryHc0]
GJ!

174 名前:決意3ー飛空艇団長(7) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 18:35:35 ID:jgxgsYy60]
GJです!

前話:>>124-130
----------
  ボクが遂にクルーとして憧れのハイウインドに乗り込んだのは、ハイウインドが最後の活躍をする
【あの日】より数ヶ月前のことでした。子供の頃からの夢、パイロットです。しかも神羅が誇る高速
飛空艇、ハイウインドの。まぁ、勿論最初は見習いからでしたけどね。それでも、初搭乗の前の日には、
両親と電話で話した後しばらく眠れなくて、明日は一番大事な日なのに寝坊したらどうしようかと、
夜中に半ばパニックになったのを覚えています。
 ハイウインドは、その巨体の割にクルーの数が少ないことで知られています。もともと飛空艇長かつ
パイロットだったシドさんが、自分の目の届く範囲で、気に入ったクルーだけを使って動かすことが
出来るように作られたんだそうです。そんなわけで、ボクはその数少ないハイウインドのクルーになる
ことが出来ただけで、もう一生分の運を使い切ってしまったような気分でした。もちろん満足してました
けどね。
 仕事自体は……それまでボクのような下っ端は、割と遠くから見ることしかなかったハイデッカーに、
直接怒鳴られるようになりました。神羅空軍に入ってひたすらパイロットを夢見て、遂にその夢を実現
した結果がこれです。
 でも、先輩クルー達は皆親切でした。ボクが初めてハイデッカーに怒鳴られて蹴飛ばされた時には
「それでもおまえはこのハイウインドのクルーなんだ!俺たちはハイデッカーのために飛んでるんじゃない。
ハイウインドと一緒に空を駆け巡りたいから飛んでるんだろ?」
と言ってくれました。だからどんなことがあっても我慢しよう、頑張ろうって決めました。
ボクだって、せっかく実現したハイウインドのクルーという夢を、ハイデッカーのためなんかに
捨てたくありませんでしたからね。
あ、「先輩」って言ってますが、人数も少ないし、みんな熱くて気のいい人達なので、「先輩!」と
ボクが最初に呼びかけた時にはその先輩クルーは笑いながら言いました。「俺たちゃハイウインドを操る
仲間だ。一緒に空を飛んでやばくなったら死ぬ時も多分一緒だ。先輩も後輩もねえ。おまえももう仲間で
一員だ。しっかりやれよ、相棒!」
 そんなわけで、新入りのボクもすぐに仲間として一緒に働くことが出来るようになりました。
ボクたちは小さなグループというか運命共同体のようでした。


175 名前:決意3ー飛空艇団長(8) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 18:37:26 ID:jgxgsYy60]
 ボクたちはよく(特にハイデッカーにしこたま殴られた日には)、安いお酒を買い込んで、
ハイウインドの勇姿を眺めながら何時間も語り合っていました。空にかける夢、伝説のパイロット、
シドさん。ボクたちは若くて、ハイデッカーに殴られた痕は痛く、夜が更けるまで時間は沢山ありました。
こんな風にいうと何十年も前のことみたいですけどね。ボクは新入りで、ハイウインドに乗るシドさんの
ことは直接は知りませんでしたが、神羅空軍の仲間で、その名前を知らないやつなんて勿論いません。
シドさんと同年代だと言う機関士は、よくシドさんがハイウインドに乗っていた頃のことを熱く語ってくれ、
ボクはいつも夢中になってそれを聞いていました。

 どうも前置きが長くなっちゃいましたが、ここからがちゃんとしたシドさんのお話です。
ついさっき「知らない」って言っちゃいましたが、ボクは一度だけシドさんの勇姿を見たことがありました。
 まだボクが子供の頃、学校が終わってすぐに家に帰る気もなくどうしようかと思っていたら、
村のはずれの方が騒がしいのに気がつきました。友達数人と駆けつけてみると、海岸のあたりに
とてつもなく大きな船みたいなものがあるのが見えました。それが、ボクが初めてみたハイウインドです。
ボクの故郷は観光客が来るだけののんびりとした小さな村で、その時も戦争中でしたが、大きな飛行機や、
ましてや神羅の最新飛空艇が来るような場所ではありません。もちろんボクがそんなものを見たのも、
初めてのことでした。
 まわりはもう村の人達や観光客で人だかりが出来ていて、その人たちが話してくれた所によると、
神羅の新しい飛空艇のテスト飛行中に、少し調子が悪くなって不時着したということでした。


176 名前:決意3ー飛空艇団長(9) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 18:38:55 ID:jgxgsYy60]
 飛空艇からおりてきた人達は、既に中や外の機械の点検を始めていて、そのメカニックの人達の間を
まわって指揮を執っていたのが、他でもない、シドさんでした。
 生まれて初めてみた巨大な空飛ぶ船に圧倒されていた小さなボクは、その大きな船の機械をいじっている
メカニックたちをただただ眺めていました。どうしてこんなに大きな物が空を飛ぶのか、全く分かりません
でした。不時着したと言うけれど、もともとここで組み立てただけで、ほんとは空なんて飛ばないんじゃ
ないかとすら思い始めました。
 で、ここが子供の怖いもの知らずな所なんですが、ボクは人込みをかき分けて、一番えらそうな人の所に
それを聞きにいったんです。子供心にも一番えらそうに見えた人。彼は艇長と呼ばれていて、もちろん
他でもない、シドさんでした。
「おじさん、これ、飛ぶの?」
「ん?なんだ小僧。飛ぶの?とはご挨拶じゃねーか」
「だって、こんな大きなのがどうやって飛ぶんだよ!」
「こんなおっきなのだって、オレ様にかかりゃ飛ぶのさ。調子が悪い所直したら、おまえもこのハイウインド
号が空を駆け巡る様が見れるさ!楽しみにしとけ」
 ボクはうなずくと、友達の所に駆け戻っていきました。
後ろから「あ、オレ様はおじさんって歳じゃねぇぞ!おいこら小僧!」と聞こえたような記憶があります。
 ともかく、ハイウインド号のクルーたちはその日は村で休み、次の日の朝、その巨体はおじさんが
言った通りに優雅に空に浮かび上がると、あっという間に飛び去っていきました。


177 名前:決意3ー飛空艇団長(10) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 18:40:56 ID:jgxgsYy60]
 その日から、ボクの人生が変わりました。
 勉強なんて興味がなかったボクが飛行機や機械の本を集めて読みふける姿に、親や友達はびっくりして
いました。故郷の村はとにかくのんびりしていて、真面目に勉強をしている子供なんてほとんどいません
でしたし、友達だって漠然と、大きくなってもお父さんのやってる温泉旅館をつぐんだぐらいしか考えて
いなかったのだと思います。ミッドガルに出てでっかいことやってやるなんて言ってる若者もほとんど
いませんでした。そんな中でボク一人が「大きくなったら神羅の飛空艇に乗る」と公言していました。

 ただ、それを聞いてボクのじいさんだけは渋い顔をしていました。じいさんは若い頃世界のあちこちを
旅していて、よくボクや友達にその話を聞かせてくれました。村はほとんどが村から出たことのないような
人達ばかりで、大人たちはたまにじいさんの話を聞いて「外の世界にはいろいろあるね」とまるでおとぎ話を
聞いたあとのように笑いながら帰っていくだけでした。子供だったボクにもじいさんの話は現実的なものでは
ありませんでしたが、ボクはテレビでみたファンタジーの物語のような冒険譚が大好きでした。
 じいさんは、旅の途中で知り合った友達と一緒に世界をまわっていました。それがある日旅先で小競り合い
が起こり、そこの人達を助けようとしたその友達は、あっけなく命を落としてしまったのだそうです。その
攻撃をしていたのが神羅の軍隊でした。だから、じいさんは神羅を毛嫌いしていました。
「あのちっちゃな製作所は、所詮兵器製造会社だ。人殺しの機械しか作っとらんのだ。今だってウータイの
奴らを殺すための機械しか作っとらん」
 じいさんは、神羅が「神羅カンパニー」となってからも、「ちっちゃな製作所」と呼んでいました。
実際その頃には神羅が開発した魔晄エネルギーが故郷の村にもはいり、生活がずいぶん便利になっていました
が、じいさんのいうことは変りませんでした。もっとも、村の人達は外のことに興味もなかったので、神羅は
生活が便利になった魔晄エネルギーの会社ぐらいにしか思っていなくて、じいさんのはなしも、聞いて
いませんでした。



178 名前:決意3ー飛空艇団長(11) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 18:46:13 ID:jgxgsYy60]
 だからボクはしょっちゅうじいさんと喧嘩をしていて、学校が終わってもじいさんの顔をみたく
なかったので、家に帰らずに教室に残って飛空艇や飛行機の本を読んでいました。そんなボクを見た
学校の先生はよく放課後に話をしてくれました。ボクの夢のはなしやじいさんのはなし。笑って
流してしまうまわりの大人たちや、ボクが飛空艇に乗れるなんて信じていない友達と違って、先生
だけはきちんと話を聞いて、子供心にもまともな返事をしてくれました。その頃もう初老だった
おばあさん先生は、
「おじいさんのいうことはもっともだわ。でも、それはあなたの夢なんだから。ほんとうに
パイロットになりたいんだったら、頑張りなさい。あなたが立派なパイロットになって、
それが人殺しじゃないってわかったら、きっとおじいさんも喜んでくれるわ」
と言ってくれました。

 そんなこんなで月日が流れていって、ボクは神羅カンパニーに入社し、しばらくしてハイウインド号の
クルーに抜擢されました。夢が叶ったわけです。ボクはこの姿をじいさんにも見てもらいたい、
あのとき励ましてくれた先生にもお礼を言いたいと思っていましたが、訓練も任務も毎日忙しく、
故郷に帰る暇はありませんでした。
それでも毎日が充実していて、ハイデッカーに殴られながらも、ボクはハイウインド号の一員として
空を駆け巡っていました。
 シドさんと再びお会いしたのは、そんな時でした。
星を救う旅をするシドさんとその仲間たちに心打たれ、ボクたちは小さな反乱を起こし……
あとはご存知の通りです。大空洞をあとにし、ボクたちは脱出艇だけになった小さなハイウインドで、
ロケット村に向かいました。

------------
・文字ばっかりですみません。
・シドを差し置いて、ハイウインドのクルーが語り始めたようです。
本編ゲーム中で反乱のはなしをしてくれたクルーではなく、見習いからみるみるレベルを上げていった
パイロット君です。どうやらクルーたちはお話し好きなようです。
・話が全然進んでませんが、まだ続きます。

179 名前:決意3ー飛空艇団長(12) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 21:10:42 ID:jgxgsYy60]
スミマセン、一回区切ってしまいましたが、もう少し投下

------------
 ーー星を救う旅が終わったら、船を降りるんだ。
 シドさんが、ハイウインドのブリッジでそう言っていたのを聞いたことがあります。
ボク自身はこの旅が終わったあとのことなんて考える余裕もありませんでしたが、星中を駆け巡る
光のすじを見ながらロケット村に進路を取った時には、「ああ、終わったんだ」と感じました。
やった、終わったんだ。ボクたちを守ってくれたハイウインドにありがとうといって、ゆっくり
休ませてやりたい、ただただそう思っていました。
 でも、それは間違っていました。
 終わってはいませんでした。
 「ハイウインド」というボクが夢見た船との旅が終わりを告げた、それだけだったんです。
 
 ロケット村についたボクたちが見たのは、診療所を埋め尽くす黒い人達でした。ボクらは空に
いましたから、地上でなにが起こっていたかなんて知らなかったんです。空に浮かんでいた隕石が
消えて、星は救われた、単純にそう思っていました。シドさんも、ボクが担いでいた怪我をした
クルーも、その光景を見て絶句していました。
 ボクは足の骨を折って歩けなくなっていたクルーをおろして、医者を呼びにいきました。
村に一人だけの医者は油にまみれたように黒く汚れた人達を診るのに忙しく、ボクたちの所に
きてくれるまでかなり待たされそうでした。そのとき、シドさんの叫び声が聞こえました。
やはり黒く汚れたシエラさんが、倒れたのでした。

180 名前:決意3ー飛空艇団長(13) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 21:12:04 ID:jgxgsYy60]
 そんなわけで、ボクが初めてシエラさんを見た時、彼女は床に倒れていました。シエラさんの
ことは聞いたことがありました。昔シドさんと一緒にハイウインドに乗っていたクルーが、
聞かせてくれたんです。シドさんには優秀なメカニックの女性がいて、ハイウインドが出来た時
にはいつも一緒に仕事をしていたって。でも、そのあと神羅の宇宙開発部門がロケットを打ち上げる
計画を立てて、「艇長とシエラさんは、あのうひょうひょ野郎のところに行っちまったのさ」、
彼はそう言っていました。そう、パルマー統括のことです。

 ロケット村の小さな診療所では、お話しした通り医者も一人。それでボクは、足の骨を折った
クルーの看護をすることになりました。人手が足りなかったので、他の元気なクルーも、それぞれ
看護や付き添いをしていました。故郷の両親やじいさんも心配でしたが、ロケット村についてすぐ
には電話も通じませんでしたし、なにより目の前に怪我をした仲間や病人がいましたからね。
 でもしばらくたつと、みんなの怪我が治っても、故郷に帰る足がないことに気がつきました。
テレビでは崩れたミッドガルや原因不明の黒い病気におかされた人達のことを報道しはじめて、
ボクも一度家族の所にと焦り始めたんですが、神羅カンパニーが名実共に崩壊して魔晄エネルギー
の供給がとまってしまったので、ボクたち民間人ーー神羅がなくなってしまったんで、ボクも
民間人でしたーーは車やなんかに使う燃料が無くなってしまったんです。



181 名前:決意3ー飛空艇団長(14) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 21:13:22 ID:jgxgsYy60]
 ロケット村には、ロケット計画の時からのメカニックがまだ結構いましたし、神羅空軍時代の
知り合いのエンジニアも各地に沢山いました。ボクたちは彼らと連絡を取って、いろいろ話を
してみましたが、飛行機は飛ばない、大きな船も、車も走らせることが出来ない、ロケット村
からの移動は絶望的でした。
 星を救う旅を共にし、あ、ボクらはハイウインドを飛ばしただけで、英雄なんかじゃありませんが、
ようやく終わったとおもったら、故郷にも帰れないぐらい、世界はめちゃくちゃになっていました。
車だけじゃありません、晩飯を作るのにだって、魔晄エネルギーが使えなくなって、昔ながらの炭や
なんかを使っていました。星を救うどころか、毎日の生活にも支障がでるほどになっちゃったんです。
 少し落ち着いてきて、まわりのそういったことが全部見えてきたとき、ボクらは呆然としました。
大きなことをやり遂げたのに、あんなに頑張ったのに、こんなことって……
 でも多分、一番ショックを受けていたのは、シドさんです。

 ボクらがロケット村について何日かの間に、黒い病気の人たちはほとんど亡くなりました。
ボクは神羅空軍にいたと言っても飛空艇勤務で前線に出たことはありませんでしたから、大勢の
人が目の前で息絶えて聞く様子を見るのはこれが初めてでした。ボクが付き添って看病をしていた
クルーも、隣のベットで息を引き取る村人をみて、がっくりと肩を落としていました。
「目の前で人が死んでいくのにこうやって見てるだけしか出来ないなんて……俺はこんなことの
ために飛空艇に乗ったんじゃない!俺たちは、星を救う手助けをしたんじゃなかったのか!」
彼は毎日のようにそう言って嘆いていましたが、他のクルーもボクも、何も言うことは
出来ませんでした。




182 名前:決意3ー飛空艇団長(15) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 21:14:43 ID:jgxgsYy60]
 重病の人達が亡くなって落ち着いたあと、病状が比較的軽くて命の危険がなさそうな人達は、家に帰されました。シエラさんもその一人でした。シドさんは、毎日シエラさんにつきっきりだったのだと思います。しばらく姿を見かけませんでした。
 たまにシドさんが怪我をしたクルーの様子をみにきた時には、いつもの通り軽口をたたいて
いました。でもボクらには、シドさんが努めて明るく振る舞っているようにしか見えませんでした。
「お前らのは、怪我だ。しかも死ぬほどじゃねえ。しばらくしたら良くなるから、おとなしく寝てろ」
シドさんはいつもそう言っていました。
 それはボクらもよくわかっていましたし、黒い病気におかされなかったボクらは幸運だと思って
いました。でも、だからこそ、シエラさんを抱えるシドさんがいたたまれませんでした。帰って
きたのに、待っていたのがこれなんて、ひどすぎる。病気や火がすぐにつかないような不自由な
生活をみて、ボクらでさえこんなに打ちのめされているのに、当事者として星を救って帰ってきた
シドさんの心情は察するにあまりあります。

 ーー星を救う旅が終わったら、船を降りるんだ。
 ボクは、ハイウインドで聞いたシドさんの言葉を思い出しました。船を降りるも何も、かつての
ハイウインドの勇姿はいまやなく、それ以前に飛ぶための燃料もありません。そして、彼の目の前
には、痛みをこらえるシエラさんがいました。
 彼だって、戦いが終わったあとにこんなことが待ち受けているとは思わなかったでしょう。
おそらく、誰も。

 そんな風にして、時間だけが過ぎていきました。料理するにも暖をとるにもスイッチ一つで
できないという生活には、だんだん慣れてきました。慣れると人間何でも出来るもんですね。
怪我をしたクルーたちも、1ヶ月もすると完治する者が増えてきました。それでも、展望も
やるべきことも、故郷へ帰るつても無くなってしまったボクたちは、毎日を悶々と過ごして
いました。村にいたメカニックの人達も、同じでした。自分たちが生涯をかけて取り組んで
きたことが、まったく出来なくなってしまったのです。もうエンジニアもメカニックもあり
ません。燃料がない以上、何も出来ないのです。そして、その上に立つシドさんは、生気を
失って幽霊のようになっていました。


183 名前:決意3ー飛空艇団長(16) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 21:16:33 ID:jgxgsYy60]
 仕事も展望もなくなってしまったエンジニアの幾人かは、機械いじりの腕を活かして、
家庭用の電気機器を、魔晄エネルギー以外の燃料と繋いで使えるように改造したりして、
村人たちに重宝がられていました。いくつかの機械で成功すると、暇を持て余した
エンジニアたちは次々にまねをして、ロケット村の家電は、そのときおそらく世界中で
一番便利なんじゃないかってぐらいになりました。
 ボクはパイロットで、機械については知識として勉強はしたものの、実際にいじることは
ほとんど出来なかったので、みんなの手伝いをしてまわっていました。やることもなく、
故郷にも帰れず、だからといってただ飯を食らっているわけにはいきませんでしたからね。
 
 当座の仕事ができてボクたちは少しほっとしていました。
「こうやって魔晄エネルギー用の機械を炭ででも使えるようにできるんだから、飛空艇だって
改造できるかもしれないぜ?」
だれかがこんなことを言いましたが、そこにいた誰も、それが実現できるとはもちろん思って
いませんでした。ボクたちにはそんなお金も資材もありません。なにより、シドさんは夜の飲みに
すらこなくなっていました。ボクらは何も言いませんでしたが、みんな、この先どうなるんだろう、
どうしたらいいんだろうと思っていたと思います。

------------ 

 【移動用を含む機器、機械類の改造・開発計画】が伝わってきたのは、そんな時でした。

 その頃には、神羅にいた仲間たちでかなりの数のやつらがWRO、世界再生機構に入って
何か作ったり、元ミッドガル周辺の復興活動をしていると言うのを風の噂に聞いていたので、
WROからその連絡が来た時には、ボクたちはみんな狂喜乱舞しました。
「飛空艇だって改造できるかもしれないぜ?」
その言葉が、実現するかもしれないのです。
 なにより、ボクたちは、機械や飛空艇やロケットに夢をかける、メカニックやパイロットでした。
明日がどうなるかも分からずただ生きていただけのボクらにとって、またそう言う仕事が出来る、
しかもそれによって人々の生活が大きく変わるのだと言うこの計画は、夢のようでした。



184 名前:決意3ー飛空艇団長(17) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 21:17:48 ID:jgxgsYy60]
 でも、シドさんだけは嬉しそうではありませんでした。
 WROの人がその通知を持ってきた時、もう出歩くようになっていたシエラさんは、
ボクたちの所に来てはしゃぎながらそれを伝えてくれました。ボクたちも夢中になって
子供のように飛び回りました。その時、作業場に駆け込んできたのはシドさんでした。

「シエラ、おめえこんな所で何やってんだ!家に帰って寝てろ!」
「でも、こんないい知らせが届いたんです」
「いい知らせも何もねえ、だいたい病気のおめえには関係ないだろうが!」
そう言ってシドさんはシエラさんの腕を乱暴につかみました。

 作業場は静まり返りました。誰も何も言いませんでした。
 重苦しい沈黙が続いたあと、シエラさんがシドさんの手を静かに振りほどきました。
「はい、私は病気です。でも、こうやって歩き回ることも出来ます。今の所この病気は
うつる様子でもないようですし、私だって、体の具合を見ながら作業することが出来ます」
 シドさんは顔を真っ赤にして怒鳴りました。
「何言ってんだ!おめえみたいな病気のウスノロがふらふらしたって、邪魔になるだけ
だろうが!だいたい、オレ様はリーブのやつにイエスって言ったわけじゃねえんだ。
オレ様は船を降りた。お前は病気だ。世界中こんがらかってめちゃめちゃだ。昔みてえに
空を夢見てなんて言ってる場合じゃねえんだよ!」

 ここまで一気にいうと、シドさんはもう一度シエラさんの腕をつかみました。ボクたちは
ただただ黙って、二人のやり取りを見守るしかありませんでした。
 ボクには、シエラさんのいうことも、シドさんのいうことも両方良く分かりました。
WROという大きな機関の援助によって研究開発をすることが出来、それが人々の役に立つ
のであれば、こんな嬉しいことはありません。シエラさんだって、病状がそれほど悪くない
時には一緒に仕事が出来るでしょう。でも、シドさんのいうことももっともです。ボクが
シドさんの立場でも、おそらく同じことを言ったでしょう。


185 名前:決意3ー飛空艇団長(18) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 21:20:39 ID:jgxgsYy60]
「それで、このまま何もせずに毎日過ごしていくんですか?」
シエラさんが静かに、でも強い口調で言いました。
「私は病気でもなんでも、自分の好きなこの仕事を続けていたいんです。メカニックの皆さん
だって同じだと思います。ロケット計画が打ち切られたって、星が滅びそうになったって
頑張ってきたのに、ここで生きることをやめるんですか?」

 その時のシドさんの顔を、ボクは忘れることが出来ません。

 彼は、しばらく呆気にとられて押し黙っていました。それを見守るボクらも、黙っていました。
シドさんの顔をまっすぐ見つめるシエラさんの顔は、濡れていました。
 
 「……そうだな」
それだけ言って、シドさんは後ろを向きました。
「リーブのやつにはすぐに始めるって言っといてやる。お前らもすぐに始めろ」

ボクたちが固唾をのんで見守る中、彼は作業場のドアに向かって歩き出しましたが、
ふと立ち止まって言いました。
「シエラ、おまえは無理すんなよ」

そうして、ボクらの挑戦がまた始まりました。

-------
・同じような場面ばかりでちっともすすみませんが、それぞれの目から見たその後の戦い、ということで。

186 名前:決意3ー飛空艇団長(19) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 21:53:42 ID:jgxgsYy60]
前レス、区切り場所を間違えましたorz
もう一つありました…馬鹿。

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 その後はご存知の通りです。ボクたちはロケット村の近くの油田を調査して、オイルを
燃料とした移動用エンジンの開発を始めました。
 シエラさんは、ボクらの前では元気そうです。さっきも元気そうに歩いていきましたよね、
いつもあんな感じです。本当は具合が悪いのかもしれませんが、少なくともボクらの前では
そんなそぶりは見せません。
 シドさんは、あれから別人のようにーーというより、本来のシドさんに戻ったようです。
ただ、たまに空中を見つめてぼーっとしていることがあります。彼らしくないですよね。
やっぱり、シエラさんが心配なんだと思います。今は元気に充実した毎日を過ごしていても、
シエラさんが突然死んじゃうことだってありますからね。縁起でもないですが。
 でも、ボクらだって、もちろんシドさんが一番ですが、そんなことを考えたって仕方ないって
分かってるんです。それより、毎日頑張って楽しく過ごした方がいいんだって。あの時、シエラ
さんがボクらみんなに教えてくれたんです。
 ボクらの作ってきたオイル飛空艇も、あそこの新入りの飛空艇も、もうすぐ空を飛ぶんです。
ボクらにとっても、シエラさんにとっても、また艇長になるシドさんにとっても、こんなに
嬉しいことはありませんよ。



187 名前:決意3ー飛空艇団長(20) ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/04/10(金) 21:54:49 ID:jgxgsYy60]
 ところで、ボクは、少し落ち着いた頃、オイル車両のテスト走行で、故郷に帰ったんです。
電話は出来ましたけど、やっぱり家族に会いたかったですからね。試用と称して、他の奴らも
あっちこっち行ったんですよ。あ、これは内緒ですけどね。
 久しぶりの故郷は、すっかり変わっていました。といっても、【あの日】に変ったわけじゃ
ないらしくて、その少し前に、ライフストリームが村のまん中に吹き出して、すっかり
変っちゃったんです。その時に死者も出たし、もちろんそのあと星痕症候群でも死者が出た
そうですが、相変わらずみんなのんびりとしていました。あそこの人達は、悲壮感がありませんよね。

 ボクはまず、じいさんの墓参りをしました。じいさんは、ライフストリームが吹き出た時に
行方不明になったんです。だから、遺体はないけど墓だけたてたらしくて。ボクは、じいさんが
頑固に反対していた神羅に入って、ハイウインドのクルーになったこと、それから、星を救う
旅をする人達に出会ったこと、ロケット村で新しい人生を始めたこと、そしてそれをこれまで
報告できなかったことを、じいさんに伝えてきました。

 もしじいさんが目の前で聞いていたら、なんと言ったでしょうね。また怒鳴りつけられた
でしょうか。そのあと学校時代の先生にも会ったんですが、先生は違うことを言ってました。
「きっと、おじいさんは天国であなたのことを自慢してるわ」
って。
たった数年で、先生はかなり老け込んでしまったようでした。のんびりして朗らかな土地柄
と言っても、沢山人が死んだり、やっぱり大変だったんだと思います。

先生はこうも言っていました。
「私も、教え子の二人もが立派になって、今回の戦役では大活躍をして、こんなに嬉しい
ことはありません」
 先生は、夢を叶えて空を飛んだボクを、そして再び空を目指すボクをそう褒めてくれました。
でも「二人」なんです。もう一人いるんですよ。

 誰だと思います?

 あなたですよ。

「彼はあなたみたいにたくさんの夢を語ってくれたわけじゃないけど、いつも夢と希望を
胸に秘めていて、それを実現したのよ」
 先生はそう言っていました。
 もしお会いすることがあったら、よろしく、と。

 お忙しい所、こんな長話を聞いてくださってありがとうございました。ボクたちは、
あの新しい飛空艇で、また空を駆け巡ることが出来るんです。
 頑張ります!見ててください。

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今度こそこの回終わりです('A`)


188 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/10(金) 22:20:49 ID:0/vSsa1f0]
GJ!

189 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ [2009/04/11(土) 07:15:30 ID:T3pMYETZ0]
>>決意の書き手さん
もちつけw
GJ!!!

190 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/11(土) 07:16:48 ID:T3pMYETZ0]
俺が落ち着けあげんなボケ。
土曜に朝早く起きたらいけない。



191 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/12(日) 17:46:13 ID:GmecuVnt0]
どんまい。
乙!

192 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/13(月) 01:10:20 ID:pA4VzdT30]
>>174-187
(最後の「あなた」=リーブという解釈が前提での感想なので、間違ってたら申し訳ないw)
リーブのミディール出生説を採って、隙間を縫ったいいサイドストーリーだなと。行方不明の
じーさんとか芸が細かいw
便乗なんですが、FF7Disc2ハイウインド奪還作戦(を、手引きしたのが仮にリーブだったら)
「同郷のよしみで」なんて会話があったりしたら面白いかも!なんて連想したりしなかったり。
(都会で同郷(特に遠方の場合)の人を発見すると妙に嬉しくなる心理)
…どんだけ思考がリーブ中心なんだって怒られそうなので、この辺で。
続きも楽しみにしてます。

193 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/13(月) 18:29:52 ID:tITLa+Pi0]
やっぱり最後のあなたはリーブなんですね!
このスレにきてすっかりリーブが好きになったけど、少し確信が持てなかったw

194 名前:7Days (1)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/14(火) 01:42:55 ID:LpJWSVGl0]
時期:FF7Disc2
主題:ハイウインド号奪還(クルー達の反乱)〜ティファとバレット救出作戦までの7日間を、
    リーブ視点で(考察と言うより)妄想してみた話。
----------


Day 1 - Junon

 北の大空洞よりハイウインド号、帰還。
 アバランチ構成員のバレット=ウォーレスおよびティファ=ロックハートの身柄は、治安維持部門にて
支社施設内に拘束。後日宝条博士による聴取を行った後、しかるべき処分を下すとの通達。
 これとほぼ同時刻、ジュノンのエアポート付近で出火との第一報。職員の勤務交代時刻と重なった
事が影響し、発生場所の特定や消火作業が遅れ、あわやエリア職員の待避命令という事態に発展した
ことで支社は一時騒然となるものの、最終的に施設の損壊や負傷者はなく出火は誤報と判明し騒ぎは
収束。現在、エアポートをはじめとするジュノン支社内の各施設は、平常シフトに移行。
 またこの混乱に乗じてシド以下クルーを含め、飛空艇ハイウインドはエアポートより離陸。この事実は
誤報判明から2時間後に報告された。
 3時間後、各地で謎の移動体が観測される。報告を受けて軍は偵察機を派遣するも、未だ報告は無い。



Day 2 - Midgar

 ジュノン支社から送られてきた一連の報告書に目を通していた頃には、既に日付が変わっていた。
リーブは画面から目を離して窓外に視線を転じると、そこには稼働中の魔晄炉と、煙霧の向こうに禍々
しく輝くメテオの姿があった。彼は今、ミッドガル本社ビルの一室にいた。
 ミッドガル壱番魔晄炉爆破テロを皮切りに、プレート落下、都市開発方針の変更、社長刺殺と、神羅
カンパニーを取り巻く情勢は、刻々と目紛しくしかも悪い方向へ変化を見せている。それどころか、今や
惑星存亡の危機にまで陥っているという有様だ。
 こんな状況下でも――リーブをして言わしめれば、こんな状況下「だからこそ」――都市開発部門統括
として取り組むべき問題を大量に抱えながら、それらと並行して別の職務を遂行しなければならなかった。
まさに猫の手も借りたい程の――リーブの場合、実際に猫の手を借りていても尚――多忙さだった。
 そのうちの1つは、俗に言うスパイ活動だ。
 視線を室内に戻すと、机上に置かれた内線電話に手を伸ばす。宇宙開発部門に割り当てられた番号を
押し、辛抱強く応答を待った。18度目のコールでようやく応答した社員に、丁寧な口調でこう告げた。
「ジュノンで小火騒ぎがあったと言う報告を受けました。幸い被害はないそうですが、念の為そちらの作業
報告書もすべて見せていただけますか? 一応、支社全体の機器点検スケジュールも組んでおきたい
ので、整備部のものも併せてお願いします。点検実施日程調整の参考にしますので」

195 名前:7Days (2)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/14(火) 01:47:33 ID:LpJWSVGl0]
 リーブからの要請を疑いもせず二つ返事で引き受けた社員は、すぐさま詳細な報告書を送ってきた。
 迅速に対応してくれた社員に対し、リーブは通話口で丁寧に礼を述べてから受話器を置いた。こうして
自分の思う通りに事が運んでいるにもかかわらず、リーブの口からは思わず大きな溜息が出た。
(いくら私が統括とはいっても、本来なら他部署に公開しない規定だったはずなんですがね……)
 それは社内の指揮系統が、確実に統制を失いつつある事を示していた。
 目に見えて星全体が危機にさらされているこの状況下では、不安になるなと言う方が無理だとも分かっ
ている。しかし、彼の立場上それで納得するわけにはいかなかった。


 届いた報告書には、飛空艇ハイウインドがジュノンを離陸する直前の整備状況も載っている。目当ての
情報を見つけると、リーブは注意深くデータを読み解いた。
 魔晄エネルギーを動力源とする飛空艇ハイウインドは、高出力ゆえに定期的なメンテナンスと動力の
補給が必要だった。報告書の記載によるとジュノン帰還後、まともにメンテナンスが行われた形跡はない。
補給を受けずに飛行可能な日数は3日もないだろう。
「ロケット村に立ち寄るという考えは安易でしょうが」小火騒ぎを起こし、その混乱に乗じて無断で離脱した
彼らが今さらジュノンに戻れば懲罰ものだ。まずその線はないだろうとリーブは結論した「他に選択の余
地はないでしょうね」。

                    ***

Day 2 - Airship : The Highwind

『シドはん、えらい事しよったな〜。ジュノンはエライ大騒ぎやで?』
 場所は飛空艇ハイウインド号。多忙なリーブに手を貸す猫ことケット・シーは、ことさら楽しそうに嘯いた。
「ケッ! なんだかんだ言っててめぇも、ちゃっかり乗っかってるんじゃねぇか」
『せやから、ジュノンは大変やて親切に教えてるやないですか。もうちょい感謝しといてもエエんちゃいます?』
「まったく恩着せがましいヤツだな!」
 操縦桿を握っているクルーの横に立ったシドは、不機嫌を露わに吐き捨てる。「あまり艇長を怒らせない
方が……」と言いたげな視線を背中に浴びている事を知ってか知らずか、ケット・シーは意に介す様子を
見せない。それどころかシドの感情を逆撫でするような事を言い続けた。
『おおきに。スパイなんて敵に恩着せてナンボの仕事やしな』
 この時ブリッジで作業中だったクルー達は、否が応でも両者の遣り取りを聞かされていた。彼らの誰も
が気が気でなかったのは言うまでもないが、だからといって割って入れる様な雰囲気でもなかった。それ
にケット・シーの言っている事は、クルー達が一番よく分かっている。
「お前……!」
 今にも殴りかからん勢いだったシドの右肩に手を置き、ヴィンセントは無言で首を振った。当然に不満の
表情を向けたシドが肩に置かれた手を振り解こうとしたが、びくともしなかった。ヴィンセントは眉一つも
動かさずに涼しげな顔をしているが、実際はもの凄い力でシドの暴挙を阻止していたのだ。
『あらシドはん、今日はエライご機嫌ナナメやなぁ』
「斜めどころか宙返りさせやがったのは、どこのどいつだってんだ!?」

196 名前:7Days (3)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/14(火) 01:56:54 ID:LpJWSVGl0]
 感情任せにシドが振り上げた左手を、目の前に回り込んだヴィンセントが再び掴んだ。俊敏で優雅にも
見える挙動とは裏腹に、掴まれたシドの左手首に鋭い痛みが走る。
 さらに駆け寄ってきたレッド13が、デブモーグリに乗っているケット・シーの前に立ちはだかった。大きく
振った尻尾の炎をケット・シーに向け、彼の暴言について無言で抗議する。
『あわわわ! ボクの髭が火事になってまう』そう言ってケット・シーが慌てて後ずさる。
「おう良いぞナナキ! いっそ燃やしちまえ!」
「……シド」
 まるで発した言葉自体に質量があるような、とても低い声でヴィンセントが短く告げる。シドは舌打ちし
ながら、上げていた左手を下ろした。
「ケット・シーの言っている事ももっともだ、我々にとって状況が有利に動いているとは言い難い」
「そうだよシド! ティファもバレットも、ジュノンに捕まったままだ。早く助けに行かなくちゃ!」
「だーっ! んな事ぁ言われなくったって分かってらぁ! 何ならこのままジュノンに乗り込んでやるさ」
『んな事したら迎撃されて蜂の巣やで?』
「バカ野郎! 冗談に決まってるんだろ」
『その顔、冗談言ってる様には見えんで?』
「うるっせーな! オレ様の顔は生まれつきこれなんだよ!!」
 どこから取り出したのか、シドはついにブリッジ内で槍を振り回し始めた。隣で操縦桿を握っていた
クルーは生きた心地がせず、こめかみから出た脂汗が首筋へと伝い落ちる嫌〜な感覚を味わっていた。
しかしながら操縦桿から手を離そうとはしない辺り、さすがハイウインドのクルーである。もっともここで
手を離していたら、恐らく彼の命はここで尽きていただろう。
 あり得ないほどの反射神経でもって再びヴィンセントがマントを翻すと、シドが振り回していた槍を片手
で押さえ込み、ついでに装備されていたマテリアも瞬時に取り外した。澄んだ音を立てて落ちた数個の
マテリアは、ブリッジ内をごろごろと転がった。
「止めてくれるなヴィンセント!」
 やや芝居がかった口ぶりではあるが、明らかに目は本気である。ヴィンセントはその事を承知の上で、
至極まっとうな意見を返した。
「艇を降りてからならば、止めはせん」
 私のいない所であれば思う存分好きなだけやってくれと言いたかったが、最後の言葉を呑み込んで
今度はケット・シーを振り返る。
「ケット・シー。事を荒立てたいのなら止めはしないが、話を進めたいのならそろそろ本題に入ったら
どうだ?」
 時間もないのだろう、と冷静に指摘するヴィンセントに、ケット・シーは降参したように両手を挙げた。
『恩着せついでや、とことん付き合うたるで。どうせ補給もせなアカンのやろ?』
 思わぬところで核心を突かれて、シドは言葉を詰まらせる。
「お前、なんでそんな事……」

197 名前:7Days (4)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/14(火) 02:02:23 ID:LpJWSVGl0]
『さっき言うたやろ? ボクはスパイやて。敵に恩着せて情報を得る、それでナンボや』
「敵って……そもそもお前、いったい何者だ?」
『そないに聞かれても、スパイやて言うてるのに自分の正体を素直に明かすアホはおらんで? それより
補給と救助の話や――』
 飄々とした言葉とは裏腹に、ケット・シーが語った今後の行動計画は、綿密に練られたものだった。
 補給や整備のためにジュノンへは戻れない。そのための代案として用意されたのはロケット村とミッドガル。
どちらにせよ軍の監視網の隙を見極め、慎重に動く必要がある。ただ幸いと言うべきか、この時ばかりは
各地で暴れ回るウェポンが陽動代わりになるだろう。
 一方ティファとバレットの救出作戦は、補給後ただちに実行する。彼らが留置されている場所の見当は
大凡ついている。補給にしても救出にしても、時間が空くだけこちらが不利になる。事は一刻を争うのだと
言った。
 こうして、彼らはさっそくロケット村に進路をとる。整備と補給の作業は夜を徹して行われ、日の出と共に
ハイウインドは村を飛び立った。二人の救出は、同日正午に決行される予定だった。


----------
・もうちょい続きます。
・性懲りもなくリーブです。さらにケット・シーも大好きなんです。その辺は大目に見てやって下さい。
・◆X1OReeveGoさんのお話に感化された勢いで書いた結果がこれだよorz…と言うことで、変な路線で
 突っ走ってすみません。(変な方向なんでネタがかぶる事は無いと思いますが…。)
・なんだか所々ちょっとキャラが壊れてるのは仕様です。人生そんな日もある。

198 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/15(水) 01:15:04 ID:RlchtPSp0]
乙!
空賊さんから始まって、空に熱いスレになったなww

199 名前:7Days (5)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/16(木) 00:12:44 ID:wA5JLZaW0]
前話:>>194-197
※FF7本編のリーブとは印象が異なっている可能性がありますので、ご注意下さい。
----------


Day 3 - Midgar

 事態の急変を告げたのはこの日の正午前、ふだんなら社員達が今日の昼ご飯について真剣に考え
始める頃だった。
 リーブは手元の時計に目を落とし、時刻が迫っている事を確認する。各地に出現したと言うウェポンの
動向やジュノン支社の警備状態など、今のところ状況に大きな変化はなく、予定していた侵入ルートで
二人を迎えに行けそうだ。
 そのとき唐突に内線が鳴った。コール音で思わず肩を揺らす程、リーブはひどく嫌な予感がした。こう
いった類の予感というのは、残念ながらよく当たるものと相場が決まっている。ディスプレイを見れば
発信元がどこであるかを判断できるのだが、何となく視線を逸らした。というのも、コール音を聞いた
瞬間に相手の顔が脳裏を過ぎったのだ。これは別に占いというわけじゃない。
 まったく気は進まないが出ないわけにも行かず、受話器を取り上げて常の通り応答すると、予感が
見事に的中していた事を思い知らされた。
「……ここへ来て変な気を起こすんじゃないわよ、リーブ」
 声の主はスカーレットだった。いつもなら嫌でも聞かされる高笑いが、すっかり鳴りを潜めていた。
それが逆に不安を煽る要素だった。
「内線なんて珍しいですね、急にどうなさいました?」努めて平静を装って答えたが、スカーレットは
淡々と話を続けた。
「宝条博士の聴取は終了したわ。どうやら期待していたほど有益なものではなかったみたいね」そう語る
スカーレットの口ぶりはおそろしく事務的だった。宝条の研究にも、彼らの存在にも、まったく興味が無い
という事が分かる。しかし、話の先を続けて行くにつれ、スカーレットの声は次第に熱を帯びていく。
「役に立たなかったんだから、せめて最期はエサぐらいにはなるかしら? 北の大空洞で行方不明に
なったソルジャーを釣り上げるためのね。でも、たった1匹を釣るためにエサは2つも要らないのよ」ここ
まで言い終えると、確信めいた声で尋ねる「言ってる意味、分かるわね?」
 言外に含まれた意味と、スカーレットの意図を察したリーブは眉を顰めた。これは明らかな牽制だった。
 まるでリーブの表情の変化を目の前で見ているとでも言うように、スカーレットの口調が弾む。形はどう
であれ、彼女は人をいたぶる事を心の底から楽しんでいるのは間違いない。
「こっちもウェポンのお陰で人手と経費に余裕が無いのよ、今日の午後にでもさっさと――」
 そんなスカーレットの趣味に付き合ってやる義理はない。話が終わる前に、リーブは口を開いた。
「それじゃあ、いくら待っても釣れませんよ」
 常にはない冷淡な口調で語られた予想外の言葉に、思わずスカーレットが言葉を止める。彼女の知る
リーブなら、こんな事は言わないし言えないはずだった。だからこの返答に戸惑うというよりは、電話の
相手が本当にリーブなのかと疑ったほどだった。
 好機を逃すまいと、リーブはすかさず先を続けた。
「エサをちゃんと見せてないんですから、たとえ近くを泳いでいたとしても食いつく訳がありません」
「なんですって?」
「それともう1つ」
 スカーレットがそうであるように、リーブも彼女の性格を熟知している。何としてもここで彼女を説き伏せ
なければ、救出どころか彼ら二人の身に危険が及ぶ。

200 名前:7Days (6)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/16(木) 00:17:05 ID:wA5JLZaW0]
「メテオの出現で兵士の士気や社員の統制どころか、市民にも混乱が出始めています」
「そんなこと、私の知った事じゃないわ」
 スカーレットは切り捨てるように言った。事実、彼女にとって兵士や社員、まして市民などどうでも良かった。
「そうでしょうね。ですが、エサを撒く事において私達の利益は一致するんです。でなければこんな話は
しません。死刑には反対ですからね」
「あんたの意見なんて聞いてないわよ」
 仮想敵の設定――統率を失いかけた組織にとって、それがどれだけ有用な“エサ”であるか、リーブも
また語る気はなかった。
 一方のスカーレットも、聞いてないと言いながらも通話を切らず、しかも口数が明らかに少なくなった。
彼女の興味が既に別のものに移っていた事を、リーブは確信する。
「舞台はこちらで調えておきます。ただし機材と人を用意するのに5日間はかかります」
「公開処刑、ねぇ。あんたにしては考えたじゃない」楽しげに語るスカーレットの口調が豹変する「でも、
一人は今日中に処分するわ」。
 リーブにとってはこの会話で、どれだけスカーレットの興味を引けるかがカギだった。彼女が興味を
失った瞬間に通話は終わり、ふたりの命の保証もなくなる。人を殺すことを躊躇せず、むしろ愉しむ向き
さえあったスカーレットならば言葉どおり直ぐにも処刑を実行するだろう。ルーファウスを説得している暇
はない、そうなれば打つ手が無くなる。それだけは何としても避けなければならない。
「エサを撒く事に意味があるんです。より効果的に誘い出すためには、5日後まで両名を生かしておく
必要があります。せっかく撒くのですから、エサを目立たせなければ意味がありません」目的のためとは
いえ、よくここまで言えたものだと内心で困惑しながらも、それが言葉に反映される事はなかった「この
混乱の誘因となった二人が、人々の目の前で揃って死刑台に送られる――」
 息を吸い込むと同時に、リーブは瞼を閉じた。受話器を握る手には自然と力がこもる。
「それにただ殺すよりも、仲間の死を見せてからの方が、あなたは楽しいんじゃないですか?」
 言い終えたと同時に、背筋を嫌な汗が伝った。もちろん電話では伝わらない。
 スカーレットからの返答を聞くまで、ほんの少し間があった。
「……分かったわ。でも5日は待てないわね。3日でなんとかしなさい」
「専用の中継設備が必要ですから、いくらなんでも3日では短すぎます」そもそも処刑を外部に公開する
ための施設なんて無い。
 スカーレットは無言だった。沈黙の中からリーブの真意を探ろうとでも言うように。しかし根負けしたのは
スカーレットの方だった。
「4日。これ以上は待てないわよ」
「なんとかします」リーブは内心で胸をなで下ろすが、スカーレットはすかさず釘を刺す。
「4日待つ代わりに、こちらも条件を出すわ。……正確には、宝条からの要望よ」
 思いがけず提示された条件にリーブは返答を躊躇ったことで、不自然な間があいた。もしかしたら
スカーレットは既に、こちらの真意を悟っているのかも知れないと、不安が過ぎる。
「試験薬のデータを取りたいそうよ、何の薬かは知らないけど。まあ死ぬことは無いでしょうけど」



201 名前:7Days (7)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/16(木) 00:23:06 ID:wA5JLZaW0]
 宝条博士は間違いなくあのソルジャーに興味を持っている。スカーレットの言う「釣り」も、あながち
的外れではないはずだ。だとすれば、今すぐ二人の生命を奪おうとはしないだろう。その点で言えば
スカーレットより脅威度は低い。
「分かりました」
 スカーレットがリーブの返答を最後まで聞いたかどうかは分からない。ただ、リーブが耳に当てていた
受話器からは既にノイズ音しか聞こえなかった。
 ひとまず急場はしのげたと、受話器を置いた途端とてつもない疲労感に襲われた。
(……すみません……)
 謝ったところで何にもならないと知りながらも、心の中でジュノンに拘束中のふたりに深く詫びた。
 それからすぐさま後ろを振り返った。


Day 3 - Airship : The Highwind

『アカン、今すぐ進路と作戦を変更や!』
 振り返ったケット・シーは半ば叫ぶようにして言った。それだけでは飽きたらず、操縦桿を握っていた
パイロットめがけてデブモーグリごと突進してくるものだから、クルーは飛空艇を操縦中に轢かれると
いう前代未聞の危機にさらされることになった。
「今さら何言ってんだ! 大体これはお前が言い出したんじゃねぇか!!」
『とにかく今ジュノンはアカン!』
 それからケット・シーは、今し方までスカーレットと遣り取りされていた内容を早口で語った。当然の
ことながら、捕まっている二人の生命の危機という要点以外は伏せておく。
『……っちゅう訳で、助け出すチャンスは4日後の公開処刑前しかないんですわ』
「それまでアイツらは無事なんだろうな!?」
『そら保証します。4日後の公開処刑までは生きててもらわんと“処刑”でけへんし』
「いちいち癇に障る言い方しやがって……」舌打ちしながら吐き捨てると、ケット・シーから視線を逸らす。
槍を振り回したりしないだけ、昨日よりはだいぶ落ち着いているが、機嫌が悪いことには変わりなかった。
「スカーレット相手にぎりぎりの交渉と言う訳か。シド、彼の心中も察してやれ」
 手すりに背を預けていたヴィンセントが静かに言った。彼らの会話を受けて、クルーはひとまず進路を
ジュノンから変更する。
「二人を助け出すチャンスはまだある。オイラ達にできること、もう一度考えてみよう」
 ヴィンセントの横に座っていたナナキの発言で、全員がオペレーションルームに移る事になった。
ブリッジの外で船酔い中のユフィにも参加してもらう為だ。
 その場から移動し始めた仲間達の背中を見送って、手すりに預けていた背を離すとヴィンセントも歩き
出す。目の前で飛び跳ねているケット・シーの後ろ姿を見て、ふと呟いた。
「……直接スカーレットと話ができる人間、か」
 誰にも聞かせるつもりのない独り言だった。現に他の仲間や作業中のクルー達は気付いていない。
でも唯一、振り返ったのがケット・シーだった。
『ん? なんや言いましたか?』
「……いや」
『そうでっか〜』言いながら首を傾げ、ヴィンセントの顔を覗き込んだ。
「なにも」
 思うところはあるが、今は口に出すべき言葉ではないとヴィンセントは首を振った。ぬいぐるみの正体が
誰であれ、ティファとバレットを救出するという目的が同じだと言う以上、ここで追及しても意味がない。
 訝しげに顔を向けてくるケット・シーを追い越し、ヴィンセントもブリッジを後にした。
----------
・ひとえにFF7本編と、DCFF7のリーブの印象が違うせいです。(だって胡散臭すぎっわなにをすr)

202 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/16(木) 00:33:50 ID:rL7NnpXa0]
GJ!
DCリーブなら、公開処刑がスカーレットじゃなく彼の作戦だったのかもって思えるね!
書き手の皆さん、続き楽しみにしてます!

203 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/16(木) 17:02:16 ID:DJ8ZvGzQ0]
リーブ大人気だw
このジュノン救出作戦は仲間の行動とか
もっと本編で掘り下げてやって欲しかった所なので超GJ!!
上手に補完しててすごい

204 名前:親不孝は子の不幸(仮題)1  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/18(土) 07:21:19 ID:NqKnTFsZ0]
※FF7ACC収録のOVA「On the Way to a Smileデンゼル編」終了直後。一部ルヴィさん視点。
  アニメーションとはいえ“あの場面”を見たら、こんな事を考えたくもなる。
※とても暗くて、でも前向きな話。そう言う話が苦手な方は読んじゃいけない・見ちゃいけない。
----------


 空に浮かぶ巨大な災厄――メテオを前にしても動じることなく、あの人は少年に言ったという。
「私はここで最後の時を待つつもりだ」と。
 その話を聞かされたとき、私はあの人の決意を始めて知る事になった。あの日から4年も経った、今に
なって。

 ――あの人は、私に代わって星の罰を受ける。
    その覚悟でミッドガルに留まった。

「あなたが代わっても、どうなるものでもないのに……」
 少年と話した後、席を立った私は店を後にする。誰にともなく呟いた言葉は、砂塵と共に風に流され消え
ていった。
 その言葉も、あるいは言葉にして伝え忘れた思いも。あの人にはもう、届かない。
 最後にあの人の手を握ってくれたのが、私ではなく彼で良かったと心の底から感謝した。
 私は、振り返らずにエッジを後にした。二度と振り返ってはいけないと思った。

                    ***

 WRO<世界再生機構>局長リーブ=トゥエスティ。元神羅カンパニー重役という経歴も手伝って、今や
世界中に名を知られた男。メテオ災害やオメガ戦役の痛手から復興し、新たな道を歩み始める世界の
中で、彼は平和を願い今も精力的に活動を続けていた。
 メテオ災害の前――ミッドガル壱番魔晄炉の爆破事件から今日まで、彼は1日たりとも歩みを止める
日は無かった。時にはケット・シーの姿を借りて世界中を飛び回り、何かに取り憑かれたように前だけを
見つめ、その時の自分に出来ることに全力で取り組んだ。
 その姿を見てある者は言った、「まるで感情のない機械のようだ」と。

                    ***

 私には、密かに怖れていた物がある。それが“暇”だった。
 何も考えないでいると、思考が過去に呑み込まれそうになる。だから今、目の前にある事やこの先起こり
得る事に意識を集中していなければならなかった。
 振り返らずに歩いていた、ただ前だけを向いて。この道がどこへ続いているのかも考えずに。歩けるだけ
歩こうとした。過去から逃げるためだったのかも知れない。
 やがてたどり着いたのは線路だった。ミッドガルの中央部、そこはかつてプレートの上下を結ぶ列車が
運行していた物だ。どうやら、ずいぶん歩いてきたようだ。

205 名前:親不孝は子の不幸(仮題)2  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/18(土) 07:25:40 ID:NqKnTFsZ0]
 風にさらされ剥き出しのレールが軋んでいた。何も考えず、何も怖れず、私は線路の上を歩き出した。
ここを歩いてどこへ向かおうというのか、今さら何をしようと言うのか。そんな疑問を持つこともなく、ただ
目の前に続いている線路の上を進んだ。
 4年という歳月は、人や風景を大きく変貌させる。そうでなくてもミッドガルは――メテオの接近、ライフ
ストリームの直撃、ディープグラウンドとの交戦、オメガの顕現――災いの温床として何度も戦いの舞台
となり、たくさんの命がここから星に還った場所。平和だった頃の面影は跡形もなく消えていた。
 まるで夢か幻であったとでも言うように、どこにもその面影は残されていない。


 2日間歩き通した末にたどり着いたのは、名義上は私の家とされていた場所だった。とは言っても、
ここへ帰ってくる事はほとんど無かった。5年ぶりぐらいだろうか。今や意味を失った敷地の境界は瓦礫で
覆われ、その姿さえも失っていた。
 私はここへ来た理由を、ようやく理解した。確かめたかったのだ、あの少年の言葉を。

 ――「私はここで最後の時を待つつもりだ」

 ふだんの私ならば、今の自分を見て正気の沙汰ではないと非難するだろう。
 恐らく、今の私は正気ではない。正気でこんな事ができるほど丈夫な精神は持ち合わせちゃいない。
 家の裏手に回ると、土の上に立てられた簡素な墓標を引き抜いて、そこを素手のまま掘り返し始めた。
中から出て来たのは、ひからびた植物の種子だけだった。
 今となってはそれだけが、あの人の生存を示す痕跡。
 私がここを訪れるずいぶん前に、肉体を構成する有機物は分解され、精神はライフストリームへ還った
のだ。土を掘り起こして、そこにあの人が眠っているとは思わなかった。ただ確かめたかったのだ。
 その場に両手と膝をついて、目の前に広がる乾いた土を見つめた。風に巻き上げられた土埃も気には
ならなかった。私はただじっと地面を見つめていた。
 涙は出なかった。

                    ***


206 名前:親不孝は子の不幸(仮題)3  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/18(土) 07:28:21 ID:NqKnTFsZ0]
 その時は必死だったから、何も感じない。
 でもそれが過ぎてしまえば、まるで体中が沸騰したかのように熱かった。熱さを通り越した激痛に耐え
かねて、細胞の一つ一つが悲鳴を上げている声が聞こえるような気がした。今すぐに意識を手放しさえ
すれば楽になる。でも、私を現実にとどめたのは彼の声だった。
 まだ幼いその声が、必死に私の名前を呼んでいる。
「……デン、ゼル……?」
 ここにいるのは本当の息子じゃない、両親を失ったばかりのデンゼルという少年。帰ってこない息子を
待ち続ける私と同じ。
 小さな手が私の肩を揺する。懸命に私の名前を呼ぶ声が、震えていた。だけどこの子は生きてる。私と
は違う。
「……よかった」
 本当に良かった。あなたはまだ生きている。これからも生き続けるのよ。重い瞼を何とかこじ開けて、
彼の姿を目に焼き付けようとした。でも、視界は暗くてよく見えない。まだ夜が明けていないのかしら?
「手を、握らせて」
 あなた、そこにいるわね? デンゼルは小さな手で私の手を握った。その上に、もう片方の手を添える。
「ありがとう」
 その瞬間、再び体中を貫くような激痛が走った。もうダメね、耐えられそうにないわ。
「デンゼル、外は……? 外はどうなってるの?」
 動けない私の代わりに見てきてちょうだいと、そう言ってデンゼルを部屋から追い出す。戸惑いながらも
彼は外へ出て行ったらしいと、遠ざかっていく足音で知る事ができた。
 もう体を動かすのもままならない。悔しいわね、自分の体なのに言うことを聞かないわ。相変わらず
視界は暗くて見えないけれど、耳や鼻から血が流れ出てるのは分かった。だから体を反転させた。こう
すれば見えないわね? 戻ってきたあの子に、こんな醜態をさらすのは嫌よ。きっとあの子だって見たく
ないはず。
「デ、ン……ゼル……、……っ!」


 デンゼルと、自分の本当の息子の名前を口にしようとしたルヴィは、声を詰まらせた。喉に絡みついた
何かは息を塞ぎ、彼女の呼吸を止めた。
 体中の激痛と共に失われてゆく意識の中、ルヴィの脳裏にふたりの息子の顔が浮かぶ。


「いいかい、リーブ」彼女は口癖のようにいつもこう言い聞かせていた「男やったら泣いたらアカン。どんな
につらくても、悲しくても、人にそれを見せたらアカンで?」。
「ぬいぐるみみたいだよ」
「ぬいぐるみを見ても悲しくならんやろ? 人を悲しませるぬいぐるみなんて無いからや。人を泣かせる
様な事だけは、絶対にしたらアカンからな」
「……わかった。じゃあ、約束する」
 そう言うと彼は小さな手を出して、微笑んだ。
「僕もう泣かんよ。つらくてもガマンする」


 母が息子に言い聞かせた言葉が間違いであったと気付くには、あまりにも遅すぎた。

207 名前:親不孝は子の不幸(仮題)4  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/18(土) 07:39:10 ID:NqKnTFsZ0]

                    ***

 その症状は数え切れないほどの資料でも見たし、当時ミッドガルにいた私は、実際にたくさんの死を目の
当たりにしていた。部下や同僚、知人、避難誘導に参加していた神羅の社員、街の住民。何も出来ない
まま彼らを見送った。
 その正体が何であるか、正確に知られていなかった当初は「患者に触れただけで感染する」という流言も
あったが、自分がそれで死ぬとは全く思わなかった。現に移りも死にもしなかった、だから躊躇することは
無かった。
 それよりもただ、怖かったのだ。
「……母さん……」
 土を握りしめる。心の内に湧き上がって来るのが怒りなのか、それとも悲しみなのかは分からなかった。
肩が震えだし、やがて口から出る言葉も震えていた。
「私、怖いんですよ」
 脳裏によみがえったのは年老いた母親の顔だった。そこに重なる、星痕に冒された患者達の姿。見て
いないはずだったあの日の光景が、さも昨日の出来事を思い出すような鮮明さでもって脳裏に再現される。
皮膚にまとわりつく黒い液体、同じ物が耳や口から垂れ流され、激痛に瞼を閉じることができないまま
絶命した――母の姿だった。
 彼女から何度か着信があった。それに応えることが出来ず、応えようともしなかった。ただ一度だけ、
メールを出しておいた「一刻も早くここを離れるように」と。しかし彼女はここにいた。最後の、最後まで。
あのとき会社を飛び出して、無理やり腕を引っ張ってでも彼女を連れ出すべきだったのか。

 ――「息子さんが神羅の社員だからミッドガルに住んでいたけど、本当は
    ちゃんとした土があって花が育つような――」

 私こそがミッドガルの都市開発責任者だ。全世界の魔晄炉の稼働だって私の管轄下だった。
 ライフストリームの奔流が、星からの罰であると言うならば、本来星は私に罰を下すべきだろう?
 なのになぜ、私ではなく母が死ななければならない?
「どうして……」
 憤りに全身が震えた。過去の自分に対する後悔の念、やり場のない怒り。それらを上回る悲しみ。
 そして、拭い去ることの出来ない恐怖。その恐怖の正体を、ここで知ることが出来た。
「こんなに悲しいのに、涙が出ないんです。まるで、ぬいぐるみみたいに」
 恐怖の正体――それこそが、不確かな存在に対する疑問だった。
 無機物を自在に操り、その能力でこれまで数々の局面を乗り越えてきた。異能者、数こそ少ないものの、
自分のことをそう呼ぶ者もいる。あの人も、私と同じ思いをしたことがあるのだろうか?

「もしかしたら私は、人形だから泣けないのでしょうか?」

 生きているのか、死んでいるのか――ここへ来て確かめたかったのは、そう言うことですら無かった。
ただ自分が、本当に人間であるのかという事だった。自分が人形を操っていると思っているだけで、実は
操られている側なのではないかと。

208 名前:親不孝は子の不幸(仮題)5  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/18(土) 07:46:56 ID:NqKnTFsZ0]
 どれほどの時間をそうして過ごしただろうか。やがて太陽がプレートの上に盛られた土を照らした。
その上に、人の形をした自分の影が伸びている。
 リーブはようやく顔を上げた。服も髪も、体中が砂埃だらけだった。振り返って空を見上げる。朝日を
浴びた廃墟の向こうに広がる、新しい都市の輝きが見えた。
 その光景を見たリーブは口元を歪め、小さく笑みを浮かべた。

「……人を泣かせる様な事だけは、絶対にしません。約束します」

 人間か、それとも人形か。
 どちらであっても構わないと思った。

 なぜならその言葉が、母に伝え忘れた自分の思いである事をようやく確かめることができたからだ。
 私は、振り返らずにミッドガルを後にした。ここにはもう何もない、そして二度と忘れてはいけないと
思った。


                                   ―親不孝は子の不幸(仮題)<終>―



----------
・要するに勢いで書いた、感想代わりの妄想とか言われてしまうと反論の余地はない。お粗末様でした。

209 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/18(土) 12:25:34 ID:qKpCTKs+0]
GJ・・・・!

210 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/18(土) 22:38:46 ID:PeVG2+xwO]
GJ!
今まで読んだ中で一番の良作



211 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/19(日) 00:13:55 ID:IU0fD9Z90]
GJ!
制作者はこの親子嫌いなんだぜ…

212 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/19(日) 01:06:07 ID:KJQigIx80]
>>211
え?マジで?w描写がアレってだけじゃなくて?

213 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/21(火) 22:05:42 ID:fSPIQe3M0]
乙!

214 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/22(水) 22:25:07 ID:hHKVcjCI0]


215 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/24(金) 16:18:32 ID:9+IiHftq0]


216 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/26(日) 00:42:34 ID:84gqBbvp0]


217 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/27(月) 11:52:22 ID:g49jQpqu0]


218 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/28(火) 16:36:21 ID:UhAYBXcd0]


219 名前:CAIT EYE (1)  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/29(水) 18:27:44 ID:tctB2xzN0]
※FF7ACCの追加要素(…伸びた分の尺、とも言う)を口実に、
  戦闘じゃ全く活躍しないケット・シーの用途を補完するのが目的。
※ACCで冒頭にデブモーグリ(!!)持ってこられると、どうしてもこう考えたくなる。
----------


 シドの操縦する新型飛空艇シエラ号は、間もなくエッジ上空に差し掛かろうとしていた。
 2年前に星を救う旅路を共にした仲間達がこうして一堂に会するのは、実に2年ぶりの事だった。
正確にはこれから、エッジにいるクラウドとティファの2人と合流して全員の顔が揃う。
 こうして果たす2年ぶりの再会は、旅を終えてからの歳月を皆がそれぞれの場所で新たな道を歩んで
いた事の裏返しであり、世界は着実に復興へ向かっていた何よりの証拠だった。そうと知るからこそ、
久しぶりに再会した彼らの表情は自然と和らいだ。
 しかし再会を喜んでばかりもいられない。今日の再会は「招集」によって実現したものであり、残念
ながら何かしら穏やかではない事態の発生を意味している。
 そもそも各地で猛威をふるっている星痕症候群によって、世界中が出口の見えない迷路の中を
さまよっている。こうして招集が掛からなかったとしても、情勢は決して楽観できるものではなかった。

                    ***

 エッジ上空から地上へ降下する直前、皆が降下用パラシュートを装着し始めた頃になってナナキは
あることに気づいた。後にナナキ自身が振り返ったところによれば、彼にとって不運の始まりはここから
だったそうだ。
「そう言えばケット・シー、あの大っきなモーグリはどこへ行ったの? それにパラシュートは?」
 たとえこの高さから降下しても、着地にさえ失敗しなければナナキはパラシュートを必要としない。逆に
着脱の手間を考えれば、パラシュートは無用の長物でしかない。これは人間と大きく身体構造が異なる
ナナキの利点だった。けれど自分以外にも、パラシュートをつけていない者がいた。それがケット・シー
だったのだ。
 そう言えばケット・シーも人間とは異なる身体構造の持ち主、と言う点ではナナキと同じだ。それ以前に、
彼が生き物に分類されるかどうかは別として。
 ナナキの声に振り返ったケット・シーは、いつもの大げさなリアクションでうなずくとこう答える。
『実はアレ、降下用パラシュートの耐用量をオーバーしてまうんですわ』困ったなぁ〜、とでも言いたげに
腕を組み首を傾げてからもう一度ナナキを仰ぎ見ると、わざとらしく手を叩いた。

220 名前:CAIT EYE (2)  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/29(水) 18:41:03 ID:tctB2xzN0]
『せや、ナナキはん! 背中貸してくれへんか?』
「えぇっ!? オイラの?」
『ボク、そないに重量ないから安心して下さい。……それに……』
 自分は戦闘向けには出来ていないのだと、片手を口元に添えて小さな声で囁いた。
「だったら飛空艇で待ってればいいと思うんだけど……」
 別に皮肉のつもりで言ったわけではなく、ナナキとしては純粋な提案から出た言葉だった。いくら壊れて
平気なぬいぐるみとは言っても、わざわざ危険を冒して戦いに身を投じる必要はないじゃないか、と言い
たかった。
『ん〜、言うてはる事はよぉ〜く分かります』
 いつものようにケット・シーは、真面目なのか不真面目なのかよく分からない態度で返答する。しかし、
続く言葉はナナキの正面にいたケット・シーからではなく、真後ろから聞こえてきた。

「今回ケット・シーは、我々の“目”になるという重要な役割を担っています。その為にナナキさん、あなた
の力をお借りしたいのです」

 背後から突如として聞こえてきた声に、慌ててナナキが振り返る。しかし声の主はここに居らず、モニタ
の中で微笑んでいた。ケット・シーとは対照的に落ち着いた口調と声音、そして冷静な発言からは想像も
つかないが、誰あろう彼こそケット・シーの操り主だった。確かに2年前、ミッドガルを救って欲しいと訴える
彼の声も聞いていた。
 そのはずなのに、ナナキはぴたりと動作を止めて画面を食い入るように見つめていた。
「え、ええと……。はじめまして」
 考えてみれば、こうしてケット・シーの操り主であるリーブ、つまり“本体”と直に言葉を交わすのは今日が
はじめてだったりする。ケット・シーの姿では見慣れていたし、話していても違和感は無かった。それに
ケット・シーが遠隔地にいるリーブの操っているぬいぐるみだと言うことも頭では分かっているのだが、
直接リーブと話をするのは感覚的にどうしても馴染めなかった。
 モニタの中のリーブも、どうやらナナキの心中を察したようで苦笑を浮かべる。
「こうしてお話しするのは少々、不思議な心地がしますね」
『分かったでナナキはん、ボクの本体がハンサムやてビックリしよったんやろ?』
 ケット・シーが飛び上がってそう詰め寄ってくるものだから、半ば勢いに押されてナナキは一歩後ずさる
と「う、うん」、と言って思わずうなずいた。
(……って、よく考えたら自分でそれ言ってるの?)
 うなずいた後で気づいたものの、少し遅かったようだ。リーブは至って真面目な表情で語り出す。
「私は遠隔地からケット・シーを操作していますが、彼の五感情報をリアルタイムに共有するという方法
なので、一般的なリモコンの類とは少し違うんです。ですからそこにいるケット・シーに見えている物は、
今こうして私にも見えている、という訳なんです」
『せや。けどボクひとりでは戦えへん。このボディは戦闘用と違うからな。ナナキはんの力……まぁ正確には
背中を貸してもらえればエエんやけど、な? この通り、頼んますわ』



221 名前:CAIT EYE (3)  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/29(水) 18:44:01 ID:tctB2xzN0]
 ナナキを拝むように両手を合わせるケット・シーに、明らかに訝しんだ表情を作るナナキ。リーブの
言葉はもっともらしく聞こえるのだが、どうも引っかかる。要するに太っちょモーグリの代わりに、自分が
ケット・シーの手足になってくれと言っているのだ。別にケット・シーが目にならなくても、自分にとっては
何も問題ない。見物がしたいだけなら飛空艇からでもできる、ケット・シーがエッジへ降りる必要は無いと
思った。
 声に出さないナナキの心中をも見透かしていたように、リーブは言葉を続ける。
「今回の交戦は、エッジの一般居住区で発生しています。こうなると戦闘と並行して住民の避難誘導が
必要になります。その為には、正確な戦況をリアルタイムで知る必要があるのです。ケット・シーは
その為の“目”です。被害を最小限に食い止めるためにも、協力して頂けませんか?」
 それを聞いたナナキは照れくさそうにそっぽを向く。それからケット・シーの方を向くと、「そう言うことは
先に言ってよ」とふてくされ気味に呟いた。そう言えば2年前も、リーブ自身はミッドガルで住民の避難
活動にあたっていた事を思い出す。
『ボクも背中に乗っけてもらう代わりに、回復アイテムや多少の援護ぐらいは、役に立つと思うで?』
「避難誘導はこちらに任せてください。エッジ周辺の地理、施設の配置、避難ルート、建造物構造には
詳しいつもりです」
 当然、ナナキに断る理由はない。それでも頷き返すまでに少し間があいたのは、ケット・シーが自分の
背中に乗っている事を想像すると、多少の不安が残ったからだ。これまでに誰かを背中に乗せて戦闘に
臨んだ経験がない、というのもあったが、不安はそれだけではない。
「おぅナナキ。いろいろ言いたいことはあるだろうが、その点だけならコイツは誰よりも信頼できるぜ」
 慣れた手つきで降下用パラシュートの最終点検をしながら、シドが言う。WRO――世界再生機構を
発足したリーブからは、飛空艇開発の資金提供を。シドらが開発した飛空艇でWROの活動に協力する
という形で、両者の協力関係は2年から続いていた。
『なんやシドはん、その点“だけ”はって、ずいぶんな言い方やないですか』
「まぁよ、細けぇ事ぁ気にするな」ケット・シーに言われてようやく失言に気づいたシドは、それを豪快に笑い
飛ばそうとした。ケット・シーならこれで退散してくれるからだ。
 シドの読み通りケット・シーはそれ以上追及してくることも無く、困ったように額に手をやり、何度も首を
横に振っていた。
 けれどもシドは重要な事実を見落としていた。この場に本体がいることを忘れていたのだ。
「生憎と、細かいことを気にするのも私の仕事ですので」
 そう言ったモニタの中のリーブは、相変わらず微笑んだままだったが、シドは気まずそうに視線を逸らす。
「……お、おう」
 悔し紛れに返答しながら、シドは声に出さず口だけを動かして愚痴をこぼす「な〜んか、調子が狂うよ
なぁ」。そんな姿を見ていたナナキは、深くうなずいた。心の底から同意できる言葉だった。

                    ***


222 名前:CAIT EYE (4)  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/29(水) 18:51:15 ID:tctB2xzN0]
 力を失い急速に落下する召喚獣を仰ぎ見てから、さらに誰かの凄まじい叫び声と轟く爆発音を遠くに
聞いた。こうして、結果的には自分達が敵の陽動に振り回されたのと同じだった事を知る。そうと悟った
仲間達はすぐさま戦場となった建設現場を後にして、別に申し合わせたわけでもなくエッジ市街に分散
した。つい先程まで、地上でさんざん暴れ回っていたモンスターの掃討と、負傷者救助のためだ。
カダージュ一味の追跡は、機動力のあるクラウドに任せればいい。それに、まさかナナキにハイウェイを
疾走させるわけにもいかない。
「……良かったよ、オイラも走れって言われるかと思った」
『いくらなんでも、そんな無茶は言わしません』
 ここまで充分コキ使われているナナキが聞いても、その言葉に説得力と信憑性を見出すのは難しい。
とは思いつつもナナキは休むことなく街中を駆け抜け、背中に乗せたケット・シーが人々に声をかけて
回った。こうして負傷者の場所をリーブが把握し、WRO救護班が現地に急行する。
 角を曲がったところで破損した給水栓を見つけた。水しぶきを浴びながら『ライフラインも結構やられ
とるなぁ〜』と、背中でケット・シーが呟いた。
「復旧、やっぱり大変そう?」
『まぁ楽やないけど、どれも直せるモンやからオッケーや!』
 いつもの調子で事も無げに言ってのけたケット・シーの言葉が、自信に裏打ちされたものだと言うのが
ナナキにも分かった。この辺りに、ミッドガル都市開発責任者だった面影を見た気がする。飛空艇で
聞いたシドの言葉を疑っていた訳ではないが、こうしていると不安はまったく感じなかった。それに背中に
いるケット・シーのお陰で、ナナキは迷わず街を走る事ができる。
 給水栓の影に倒れていたモンスターを見つけて、ケット・シーが声を上げる。ちょうどナナキが気配を
察知し、加速したのと同時だった。高く跳躍した後、さらに目の前の建物の壁を蹴って体を捻ると、視界の
中央にモンスターの姿を捕らえる。落下の勢いも利用して爪を振り下ろすと、躊躇なくとどめを刺した。
『ナナキはん、おおきに!』遅れて背中に落ちてきたケット・シーが嬉しそうに言った。その言葉を聞いた
ナナキはくすぐったくなって、首を振る。
「……オイラの方こそ、ありがとう!」
 ナナキは、ケット・シーがエッジに降りた事が正しかったのだと、遅まきながら理解した。見物だなんて
思ってごめん、心の中でそう呟きながら。

 しかし“目”の真価はこれだけではなかった。

                    ***

「ところで、追跡にはタークスが?」
 まさかルーファウスがジェノバの首を持っていたなどと、そんなことを誰が予測し得ただろうか――いや、
彼ならやりかねない。これは自分の浅慮が招いたのだと、ほんの数秒の間に猛省したリーブだったが、
すぐに頭と回線を切り換える。
 カダージュ達がエッジ中央エリアからの逃走を図った場合を想定し、彼らの進路を市街地から遠ざける
よう誘導する策は既に打ってある。その1つがハイウェイの封鎖だった。幸いカダージュを追ってバイクに
乗り込んだクラウドならエッジの地理にも詳しい、彼なら間違いなく市街地から敵を遠ざける様に追い込ん
でくれるという確信があった。環状線の分岐点に設けた“あの看板”の意味も知っているはずだ。こうなれば
彼らの向かう先は、今や完全な廃墟となったミッドガルしか無い。戦いの舞台には打って付けの場所だ。

223 名前:CAIT EYE (5)  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/29(水) 18:59:53 ID:tctB2xzN0]
 しかし問題なのは、ハイウェイを逃走する彼らを追跡する手段が限られているという事だ。飛空艇で
追跡するにしても機動性に欠ける、こうなるとヘリを出すしかないのだが、残念ながらWRO所有のヘリ
はない。この2年間、世界各地に物資と人員、そして情報を行き渡らせるための大型輸送機開発を優先
した結果である。
 そこでリーブが目を付けたのはタークスだった。どうせ彼らのことだ、ルーファウスの下あの混乱の中に
あっても移動手段や燃料、おそらく兵器確保にも手抜かりはないはずだ。彼らの仕事は信頼できる、
リーブもその事をよく知っている。だからこその要請だった。
 しかし表向き反神羅を公言しWROを組織したリーブからの依頼を、彼らがすんなり受け入れるはず
はない。ふつうならそう考えるだろう。
 ところがリーブも、そしてタークスも「ふつう」とは少し違う。気兼ねする要素は少しもなかった。
 あらかじめ、昔なじみから仕入れてあった連絡先にかけてみる。少し時間はかかったものの、相手は
電話口で丁寧な挨拶をしてくれた。こちらが事情を話すまでもなく、彼は協力を確約してくれた。
「……ありがとうございます」互いの立場を理解しているだけあって、多少の後ろめたさ――もちろん人命
優先で、それどころではないのだが――は否めず、リーブは感謝の中に僅かばかりの謝罪を込めてそう
言った。
「あなたに命を救われた事を後悔するほどの労にはなりません、ご安心ください」
 そう応じた彼の口調には、ほんの少しだけ柔らかさを伴っていた。それは彼らがかつて同じ社に勤める
同士だったから、と言うだけではないと思いたい。
 今では反神羅を掲げて活動する者と、一方では神羅再建を目指そうとする者――いつ訪れるか分から
ない将来、彼らが対立する日が来るまでは――この不思議な協力関係を維持できると考えるのは虫が
良すぎるだろうか? そんな不安を抱えながらも、リーブは胸をなで下ろす。



 後はご存知の通り、ヘリ1機を犠牲にしたもののタークスの対地任務は辛くも成功を収めた。
 彼らへの支援を要請したリーブとしては、事態が一段落したところで礼の1つでも述べておくべきだと、
当然ながら本人もそうするつもりだった。しかし今回の一件で周辺数kmにわたってハイウェイが大破。
今のところ復旧の見通しは立っていない。避難命令のお陰で周辺住民に被害が無かった事は不幸中の
幸いだが、支援先が“あの”タークスだった事をすっかり忘れていた。星痕症候群の確実な治癒方法を
発見できた事を考慮すれば安い代価と言えなくもないが、実際に運営する側からすれば安いとは言い
難い。人知れず頭を抱えるWRO局長のことを、時々は思いやってもらいたいものだ。

224 名前:CAIT EYE (6)  ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/04/29(水) 19:01:55 ID:tctB2xzN0]


 いっそ自分に命を救われた事を後悔するほどの労を押しつけてしまおうかと、そんな不穏な考えが
一瞬でも脳裏を過ぎった事は、当人しか知らない。
 その憂さの一部が、ケット・シーを通してナナキの頭上で何度も発散されていたということを、ナナキも
また知る由はなかった。



                                             ─CAIT EYE<終>─

----------
・「Authorized W.R.O. Personnel Only. Extremely Dangerous」看板の意図を妄想してみた結果の話。
・ところで(DVD版BD版共通で)エッジの標識(バイクで追っかける所)にある「HighWay Paytoll」って
 表記は「高速道路料金所」? ま、まさかこれもWROの収入源とか?w
・今回のケットの用途(=タイトル)は、偵察よりも早期警戒管制的な何か。お察しいただけた方は
 笑ってやって下さい。

225 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/04/30(木) 01:23:58 ID:QMjEDgwwO]
乙!








世界がリーブに支配されつつある感がwww

226 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/01(金) 00:08:38 ID:4FRsCK7W0]
乙!

実は影の支配者だったりね。局長なんだから影じゃないか。
本当は真のラスボスはセフィロスでもジェノバでもなくてリーブとか。

227 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/01(金) 14:22:03 ID:G7xULPe70]
GJ!

228 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/02(土) 23:13:36 ID:C1J7WzcTO]
おつおつ

229 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/03(日) 23:55:57 ID:19AfT2QK0]


230 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/04(月) 13:25:34 ID:3qS1onnF0]




231 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/06(水) 02:18:48 ID:f/Lszjl60]


232 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/06(水) 12:56:14 ID:f/Lszjl60]
書き手さん達個人の保管庫?というのが見つかりません。
どなたか教えてください・・・

233 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/06(水) 22:48:37 ID:RIWQLpGD0]
◆Lv.1/MrrYwは過去スレにサイトのアドレスがある。
◆WzxIUYlVKU氏はFF関連のサーチに登録してる。
後は自分で探してくれ。

234 名前:233 mailto:sage [2009/05/07(木) 07:07:04 ID:1FSmo5WZ0]
×◆Lv.1/MrrYw
○◆Lv.1/MrrYw氏
ですた。(´・ω・)スマソ

235 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/09(土) 00:03:54 ID:1ndXLJClO]


236 名前:7Days (8)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/05/09(土) 01:33:36 ID:EpOC/14A0]
前話:>>199-201
※ジュノンの半分以上は妄想でできています。
----------


Day 4 - Midgar

 翌日、スカーレットによって公開処刑の案は正式にルーファウスに提出された。案を見た彼は、リーブの
目論んだとおりの理由からこれを承認。あっさりと実施が決定した。ただし、各地に出現したウェポン対策
に追われているルーファウスは、処刑実施をスカーレットに一任した。
 彼女は今後、救出作戦を阻む一番の障害となるだろう。ミッドガル本社ビルでこの件に関する通達を
受け取ったリーブの眉間に、深いしわが刻まれたのは言うまでもない。
 しかし救出成功の前に立ちはだかる問題は他にもある。その1つが処刑の方法だった。


Day 4 - Junon

 大陸の西端に位置するジュノン支社――社屋だけではなく街全体――は、もともと西部方面隊の司令
部を置く目的で戦時中に建造された大陸防衛の要である。このためミッドガルとは異なり、ここは要塞
都市としての機能を重視した設計がされている。たとえば道幅が狭く建物も密集し入り組んだ構造をして
いるミッドガルとは対照的に、ジュノンは直線状に伸びた各道路の道幅は広く作られている。これは頻繁
に往来する大型輸送車両の運行を考慮しているだけではなく、非常時には小型機の滑走路として転用
させる意図がある。また、今は社屋として使用されている建物には巨大なキャノン砲だけでなく、至る所に
対空砲を隠し持っている。ミッドガル本社ビルには、そこまで物騒な設備は施されていない。
 このようにジュノン支社が軍事作戦に特化しているとは言っても、処刑の様子を見せるための悪趣味な
構造はしていない。だから今回、中継設備を新たに設ける必要があった。それもたったの3日間で。
 この無理な注文を引き受けるのは都市開発部門だった。ジュノンに勤務する彼らの管轄は本来、文字
通りにジュノンを支えている支柱や社屋をはじめ塩害に晒される各施設の維持。また軍とは別にコンドル
フォート魔晄炉の監視にも当たっている。
 そして統括という立場上、この無理な注文を部下に出すのはリーブの役だった。処刑実施が確定した
直後ジュノン支社長へ指示を伝えると、拒絶の句こそ出なかったが通話口からは明らかに困惑した声が
返された。それが3日間という工期についてではなく、処刑の中継という目的に対する反応であることを
会話の中で理解したリーブは、内心で安堵する。彼のように正気を保っている者がいる限り、都市開発
部門ジュノン支社の指揮系統は大丈夫だ。

237 名前:7Days (9)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/05/09(土) 01:39:19 ID:EpOC/14A0]
 そうと知れば余計、自分が信頼している部下達を公開処刑に荷担させる訳にはいかないし、そのつもり
も毛頭無かった。出した指示を撤回する気はない。かと言って事の全容を語るわけにも行かず、支社長に
は「私に任せてください」とだけ告げた。
 上司に対する信望と部下としての義務から、支社長は承諾の意思を口にする。しかしその一方で、良心
の呵責と事態への不安もあり困惑を隠せずにいた。そんな彼から社屋構造の大まかな話を聞き出し、
さらに図面を取り寄せたリーブは工期短縮を最優先に思案を巡らせた。しばらく図面を見ていると、支社の
一角に現在は使用されていない『ガス室』の存在がある事を知らされた。話を聞いたリーブは図面をもう
一度確認する、支社長の言う部屋は、ちょうどキャノン砲の砲身部分の直上に当たり、他の施設から少し
離れた場所にあった。そのため、この周辺には社員達もほとんど近寄らない。
 救出作戦にとって、これは好都合だ。
 リーブはこのガス室の隣に機材を持ち込んで、そこを中継場所にする事を提案した。これで新設に3日
というスケジュールでもクリアできそうかと尋ねるリーブに、現場をもっとも良く知る支社長は問題ないと
回答した。


 ここまでの経緯を踏まえて、リーブは今回の処刑実施責任者スカーレットに、ガスでの処刑を提案した。
 しかしリーブの本意はまったく別の所にあった。銃殺や斬首などよりも、時間を稼げるというのがそれだ。
当日は支社の警備網をかいくぐり侵入する事になるであろう自分達の作戦を有利に進めるためには、刑の
執行を可能な限り長引かせる必要があった。銃殺や斬首では刑の執行役が手心を加えたことが発覚して
しまう恐れがあるが、ガスの場合は致死量に至るまでに時間を要する。
 当然、本意を悟られては元も子もない。リーブはあくまでも工事を請け負う側であるという姿勢を崩さな
かった。しかし少なからずリーブの言動を不審に思っていたスカーレットは、警戒心からかこの提案に
応じようとはしなかった。
 膠着していた議論を動かしたのは、宝条博士のつぶやきめいた意見だった。
「不要になったサンプルの処理なんてとっとと済ませてしまえば良いものを。ガスは致死まで時間が掛か
るから効率が悪い、私は好まないがねぇ」

238 名前:7Days (10)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/05/09(土) 01:55:22 ID:EpOC/14A0]
 君たちが何を揉めているのか理解に苦しむとでも言いたげに、続けてため息を吐いた。バレットとティファ
の生死にさして興味の無かった宝条の口添えに、スカーレットは疑いを持たなかった。こうしてガス室での
処刑が確定した。過程を楽しみたいスカーレットにとっては、あっけなく死なれるよりも時間が掛かる方が
良いという訳だ。一方、宝条を隠れ蓑にすることでリーブも思惑通りに話を進めることができた。
 これでジュノン側の態勢は整った、後は具体的な侵入経路の確認だ。


Day 5 - Airship : The Highwind

 オペレーションルームでのミーティングは3日目を迎えた。スクリーン上に投影したジュノン支社の見取り
図を見ながら、ケット・シーが説明をはじめる。
『当日はガス室の隣に中継基地が作られる予定や。せやから、ボクらは報道員に紛れて潜り込むんが
エエと思う』ここで語られることはないが、こうしている間にもジュノン支社長との打ち合わせを続けながら、
工事は着々と進んでいる。
「んだよ、まだるっこしいな」
 いっそミサイルの一発でも撃ち込んで、ガス室の壁を壊せば手っ取り早いとシドが言い出す。バレットが
この場にいれば即座に賛同しそうな案だったが、残念ながら彼は今ジュノンに囚われの身だった。
『んな事したら2人救出する前にこっちが蜂の巣や! 物量で言うたらボクらに勝ち目は無いで?』それに
下手すると、ジュノン勤務者まで巻き添えになりかねない。その提案を呑むことは絶対に出来なかった。
「でも始まっちまったら、ガス室だって閉められちまうだろ? なら短時間でケリを付けた方が良いんじゃ
ねぇのか?」
 その口調からは、シドの苛立ちが伺えた。
 そもそも飛空艇に搭載するミサイルが、建物の一部を限定的に破壊する用途に向かない事は、シド自身
が一番よく分かっている事だった。にもかかわらず言葉が口をついて出たのは、明らかに焦りからだった。
飛空艇ハイウインドとクルー達を取り戻した代わりに、2人がジュノンに囚われてしまった。その責任を
少なからずシドは感じていた。そんな彼の心情に思い当たったケット・シーは、反論はせずに首を横に
振るだけだった。
「物量で劣る我々が奇襲という策をとるのは納得できるが、ミサイルは得策とはいえない。私もケット・シー
の意見に賛成だ。幸いこれだけ詳細な見取り図があれば、侵入も容易だろう」
 ヴィンセントの言葉に対する異存は出ず、こうして救出方法が決まった。すると話題は、実際にジュノン
支社に侵入するメンバーの選定に移る。

239 名前:7Days (11)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/05/09(土) 02:18:35 ID:EpOC/14A0]
「アタシ行くよ! ……艇を降りられるなら……っ!」
 左手で口元を覆いながらも、真っ先に名乗り出たユフィを見て一同はほんの一瞬考えた。救出作戦の
主眼は交戦ではない。現地では慎重な行動と冷静な判断、そのうえで迅速さを求められる。迅速という
面でユフィは適任だが、冷静さと慎重さについて一抹の不安が残る。
 だからといって、飛空艇基地では顔も知れているシドは、騒ぎを起こした張本人と言う事もあって潜入は
厳しいだろう。ナナキが完璧に報道員に扮するのは身体的な特徴もあって困難だ。ヴィンセントは身体的
に問題はないが雰囲気的に報道員というのは無理がある。
 こうしてユフィ以外の全員が同じ結論に到達し、消去法で残ってしまったケット・シーに自然と視線が
集まった。
『ほな、ボクが行きますわ』
「って、お前も社員だろ?」
 シドの言うのももっともだった。さらにヴィンセントが後を続ける。
「ジュノン勤務者や軍関係者ならば変装せず現地に入れる可能性もあるが、逆にそれ以外の所属となる
と、ジュノンに入るのは我々よりも困難なのではないか?」
 ケット・シーを操っている人物が本来いるべき席を空けて、ジュノンに行くというのは容易ではないだろう。
それに、神羅から送り込まれたスパイだと言う以上、彼の行動は常に会社の監視下に置かれている
可能性が高い。
『確かに、ボクの本体で支社をうろつくのは無理やけど、方法が無いわけやないし』
 まぁ任せてください。と、いつもの口調で言い終えた後、ケット・シーはヴィンセントに顔を向け短く告げた。
『ヴィンセントはん、それ以上の詮索は無用や』
「そのつもりはなかった、すまない」言ったとおり、ヴィンセントに詮索の意図はなかった。しかし結果的には
同じだと自らの失言を認めた。
 場に漂う緊張の空気を嫌ったナナキは、意識的に口調を明るくしてこう言った。
「向こうでティファとバレットと合流した後は、脱出に苦労する事もないんじゃないかな?」だから潜入
メンバーは少数でも問題ない、と言うのがナナキの意見だ。
「んじゃ決まりだ」
 記者に扮したユフィはジュノン市街地で待機。万一の場合の退路確保と、外の状況と情報収集を担い
潜入メンバーと飛空艇の中間地点に立つ。救出が成功した後はジュノンを離れ外で合流。
 ケット・シーがジュノン支社内でティファとバレットと合流した後、指定時刻にエアポート上空から
ハイウインドが3名を回収。ユフィとの合流地点に向かう。
 シドは飛空艇の舵を握り、ナナキとヴィンセントは上空待機。各地で観測されている謎の移動体――
ウェポンという不安要素に対する備えは、現時点ではどうしようもない。
 作戦の決行は明後日の中継開始時刻、失敗は許されない。

----------
・飛空艇は滑走路必要なさそうなので、タイニーブロンコ的な飛行物体を飛ばすとか。(きっと戦時中の話)
 …もう一回見直してみて思ったんですが、ジュノンの対空火器多すぎやしませんか? と言いたかった。
・拙作のまとめ(と、休むに似たりな考察)→www5f.biglobe.ne.jp/~AreaM/PiAftSt/top.html
・◆WzxIUYlVKUさんと◆X1OReeveGoさんのお二方については、>>233さんのヒントを参考に検索を。
 (作者本人ではないので、こちらからのURL公開は差し控えさせていただきます、ご了承下さい)

240 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/09(土) 02:38:03 ID:NU2pBOOIO]
GJ!



241 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/10(日) 14:56:56 ID:I5T5ChSA0]
GJ!!

242 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/11(月) 22:20:52 ID:Nl24J07B0]
乙!

243 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/12(火) 19:43:45 ID:5+5YVwq70]
乙ううう!

244 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/13(水) 19:17:10 ID:AHiNS9u50]


245 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/14(木) 18:20:04 ID:pu3jNn9F0]
おつおつお!

246 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/15(金) 21:29:00 ID:wWxf4bIk0]


247 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/16(土) 17:44:00 ID:QY5cF7vS0]
おおわくわくしてきた!

248 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/18(月) 02:37:00 ID:J7h7wWgZO]


249 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/18(月) 22:40:37 ID:9NUh7QHQ0]
◆X1OReeveGoさんの保管庫だけどうしても分からない…
誰かもう少しヒントプリーズ。

250 名前: ◆X1OReeveGo mailto:sage [2009/05/19(火) 09:10:29 ID:tulUwYEF0]
lasouvenancedelawro.web.fc2.com/
ぐぐっても出ないことにかけては定評のある(ry



251 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/20(水) 00:03:47 ID:FK4+Ts/d0]
うおおおお、ご本人、ありがとうございます!

252 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/21(木) 07:58:56 ID:+05S5j2C0]
sし

253 名前:7Days (12)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/05/22(金) 02:19:49 ID:1NjgsY7x0]
前話:>>236-239
※PHSって…なんだろう?
----------

Day 6 - Airship : The Highwind

 公開処刑を明日に控えたこの日、飛空艇ハイウインド搭乗者達の動きは朝から慌ただしかった。
艇長シドとクルー達はジュノン防空網を抜けるための航路と、航行スケジュールの検討作業に。
ケット・シーは神羅側で活動している本体の影響もあってか頻繁に動作を停止させながらも、
支社内への侵入および脱出経路の最終調整を入念に行っていた。ジュノン潜入要員のユフィは、
前日までに調達しておいた変装用の衣装選定に余念がなかった。
 こうしてそれぞれが明日の作戦決行に向け着々と準備を進めている中、彼らの邪魔をしないようにと
足音を忍ばせて、ナナキが所在なげにブリッジを歩き回っていた。今回は飛空艇待機になるナナキは、
自分に出来ることが分からずに時間を持て余していた。
 やがて、いつもの場所にヴィンセントの姿が無いことに気づいた。ナナキと同様、彼も待機組だ。なのに
どこへ行ったのだろう? ここにいてもやる事が無かったナナキは、ヴィンセントを探すためにブリッジを
後にした。
 通路に出た途端、ナナキはホッとして歩くペースを落とした。本当は、あそこに居た堪れなくなって
外へ出る理由を探していただけなのだ。
 ブリッジを出て探すと言っても、場所は飛空艇内に限られている。ナナキは程なくしてオペレーション
ルームにヴィンセントの姿を見つけた。しかし他のメンバー同様に彼もまた、自分のやるべき事を
見つけて取り組んでいた。
「なにしてるの?」
 手元の小さな機械を注視しているヴィンセントに、ナナキは問いかけたが返答は無かった。この時
ナナキは、なんだか自分だけが取り残されているような気がした。
 ヴィンセントに代わって答えたのは、オペレーションルーム脇に立っていたクルーだった。
「実はこれで、各地の状況を知ることも出来るんです」まだ試験段階ですが、と付け加えたあと
ヴィンセントの方へちらりと視線を向けてから、ナナキに小声で言った「操作には慣れが必要みたい
ですが……」。
 彼が指していたのは、ふだん仲間達が連絡用に使っている携帯端末だった。音声通信の他には、
主に文字として各メディアから発信されていた情報を受け取る事が可能だという。
「そんなに熱心に、何を見てるの?」
 そう言ってヴィンセントの足下まで歩み寄ると、ようやくナナキの存在に気づいたらしくヴィンセントは
膝を折ると、画面を差し出した。

254 名前:7Days (13)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/05/22(金) 02:26:51 ID:1NjgsY7x0]
 小さな画面に映し出されていたのは、見出しに各地域名が書かれた略図だった。気象情報を表す
記号の横に、見慣れない表記を見つけた。
「これは?」
「先日から各地で被害報告が出始めた未確認移動体、……ウェポンと呼ばれている怪物に関する
情報だ」
 ヴィンセントはこの端末を使い、各地に出現したウェポンと、それに対する神羅の迎撃態勢についての
情報を集めていた。その行動はタークスとして身についた周到さと言うよりも、生物として備わる第六感
とでも言うべき何かに従ったものである。
「ウェポンの行動予測はほぼ不可能。さらに記録を見る限り、ウェポンは一体だけではなく性質の異なる
複数が存在する様だ」
 陸海空それぞれに出現した巨大モンスター。それは大空の彼方に浮かんだメテオよりも身近に迫る、
人々にとってはまさに脅威だ。これに対抗できる手段を持っているのは、唯一神羅だけだった。神羅は
各地に駐留する部隊を展開するも、ウェポンを前にそのほとんどは防戦にすらならない一方的な敗走を
繰り返していた。
 今のところは人口の密集する都市部に襲来していない事だけが、不幸中の幸いだった。しかしいつ、
どこに現れてもおかしくはない。事態を楽観視できる要素は何一つ無かった。
「万一のことがあれば、動けるのは我々しかいないからな」
 のんびりしている暇はないぞ、そう言ってヴィンセントは再び画面に目を落とした。
「そうか! そうなったらオイラ達の出番だね」
 自分にもやれる事が見つかって、ナナキは少し嬉しくなった。ヴィンセントは表情を変えず、ぽつりと
呟いた。
「これが杞憂に終わるなら、それに越したことはないんだが」


Day 6 - Midgar

 北の大空洞からジュノンへ帰還した後、ルーファウスはウェポンへの迎撃態勢を整えるべく各地を
飛び回っていた。これには軍の統括であるハイデッカーも随行、このため両名ともミッドガルへ戻る
めどは立っていない。宝条は今日もジュノンで“釣り”に明け暮れていると言う。処刑実施責任者と
なったスカーレットも、ジュノンからは離れていなかった。また、先日ロケット村で交通事故に遭った
パルマーは順調な回復を見せているそうだが、本社業務への復帰は未だ果たせていない。

255 名前:7Days (14)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/05/22(金) 02:35:51 ID:1NjgsY7x0]
 つまりこの6日間、ミッドガル本社に在席している重役はリーブのみだった。ルーファウスは自身の
不在中の業務を、リーブに委任した。それは社長不在中の暫定的な決裁権を与える代わりに、定時
連絡を義務づけるという方法だった。
(体面を保ちながらも、しっかりこちらの行動を制約している辺りはさすがと言うべきでしょうね)
 いっそ強硬な態度に出てくれた方が、大義名分が立ってやりやすいものを。とリーブは思う。しかし
その一方で、この非常時に社長をはじめ重役全員が本社を空けるという事態が、社員にもたらす
悪影響を危惧していたルーファウスの考えには同意できた。ルーファウスの意図がどちらにせよ、
結果的にリーブはミッドガルを離れられなかった。
 ハイウインドにいたケット・シーに対して、ヴィンセントが口にした懸念は実に的確だった。さすがは
元タークスと言ったところか。この先、果たして彼らの目をどこまで欺けるだろうか? 不安は残るが、
ここまで来てしまった以上そろそろ腹をくくらなければならない。

 神羅に所属する同僚や部下達と、飛空艇に乗り込んでいる仲間達――この先、自分以外のすべてを
欺き通す覚悟で臨まなければ、ジュノンのふたりを助け出すという目的は成し得ない。
 手を伸ばした先に設置されたディスプレイに映った自分を見つめ、言い聞かせるようにして頷く。そうだ、
今さら覚悟もなにも無い。
 それから通信ボタンを押すと、数秒もしないうちに相手先と繋がった。
「こちらは都市開発部門のリーブです――」
 躊躇いはなかった。


 ジュノン支社から作業報告を受け取り、工程が問題なく順調に進んでいる事を確認する一方で、飛空艇
内に置いてあるケット・シーを操作して侵入と脱出経路の擦り合わせを行う。さらには都市開発部門統括
という職権を最大限に利用して、ジュノン防空網や支社内の警備状況の資料を取り寄せ、ケット・シー
経由で航行スケジュールを検討するシド達に情報を提供した。
 そんな中、ほぼ時を同じくしてジュノン支社長とヴィンセントの両名がウェポンに対する懸念を口にした。
作業に従事する社員達から不安の声が上がっていると言う支社長と、独自にウェポンの行動・戦力分析
を行ったヴィンセント。それぞれの話を聞いたリーブは思案した。彼らの指摘する通り、各地から本社に
寄せられる被害報告件数は日を追う毎に増えていた。しかし得ている情報も少ないうえに時間も無い
現状、結論を出す事はできなかった。
 結論は出ないまでも、指示を出すことは出来る。それが統括として果たすべきリーブの役割だった。
「ただでさえメテオ接近で混乱していますから、こちらから不用意に社員や住民の不安を煽るわけには
いきません」社員の事前避難という方法は選べない。だからといって、このまま何もしない訳にもいかない。
「緊急時の連絡系統、避難経路、誘導手順。各班ごとに再度、マニュアルを確認させて下さい。
とにかく有事の際に各人が混乱しない体制を整えておく事が大きな備えになります」その為には指揮
系統がしっかり保たれていなければならない。通話先の支社長も、その事はよく分かっていた。少なくとも、
部下達の様子に目を配れている支社長がいれば、ジュノンで大きな混乱は起こらないと確信できた。
「こちらに新しい情報が入り次第、すぐそちらに連絡を入れます。……迎撃のことは、軍に任せましょう」

256 名前:7Days (15)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/05/22(金) 02:41:34 ID:1NjgsY7x0]
 あとはジュノンの戦力を信じるより他に無い。
 支社長との通話を終え、神羅側でさしあたっての行動方針がまとまると、今度はケット・シーを通して
こう提案した。
「万が一、救出作戦中にウェポンが出現した場合は――」


Day 6 - Airship : The Highwind

『――防空・警備網に大きな穴ができるっちゅー事ですわ。そん時はいっそウェポンに便乗しましょ』
 やや慎重さを欠いている様なケット・シーの発言に、ヴィンセントは僅かながら不安を覚えた。
「ジュノン支社の一般勤務者、市街地の住民はどうする?」
『その辺はこっちで何とかしますわ、本体の仕事やさかい』
「3時間ぐらいなら、軍の奴らも頑張ってくれるだろうぜ」
 話に割って入ったのはシドだった。航空戦力はもとより、地上・海上に展開する部隊の規模が最も
大きいのもジュノンだ。その事を踏まえての見通しであり、事態を楽観しているのでも、神羅軍を過大
評価しているわけでもなかった。それでも避難誘導の手配に与えられた猶予としては、決して充分とは
言えない。
『もし作戦中に不測の事態が発生してもうたとしても、合流地点と時刻に変更は絶対あれへん』飛空艇の
最優先任務は、ジュノンからティファとバレットを連れ出す事。改めてそれを確認すると、ケット・シーは
続ける。
『ホンマにマズくなったら、ボクが社内で暴れて注意を逸らしますさかい。その場合はユフィさんが二人を
連れて、合流地点のエアポートへ向かってください』
 任せといて! と威勢のいい返事をした直後、ふとユフィが尋ねる。「でもさ、それじゃあケット・シーが
危ないんじゃない?」
『こういう時こそ、替えのきくボディの利点を発揮せな』
「そうじゃなくてさ……」ユフィが最後まで言い終わらないうちに、ケット・シーが言った。
『ボクの心配よりユフィさん、自分の心配した方がエエんと違います? どうせジュノン歩き慣れとらん
やろ?』
「ちょーっと、ナニよそれ? アタシのこと『田舎者』って言いたいワケ?!」そこからユフィの猛然たる
口撃が始まると、他のメンバーは申し合わせたように黙って後ずさると、ふたりから距離を置いた。
「……もう少しスムーズに話を進められないものだろうか」
 シドといい、ユフィといい。溜息を吐く気も失せて、ヴィンセントは壁にもたれかかった。この話を切り
出したのが、そもそもの間違いだっただろうか? と内心で自問する。
「ケット・シーってさ、素直じゃないよね」二人の様子を見ながら、ナナキが愚痴をこぼす「ユフィが心配
してるの、分かってるくせにさ」。
 その言葉に顔を上げたヴィンセントは、視界に映るぬいぐるみを見つめながらこう言った。
「素直かどうかは分からんが、少なくともスパイに適した性格でないことは確かだ」
 え? と問い返してくるナナキの声が聞こえないふりをして、ヴィンセントは彼らに背を向けた。


-----------
・ミッドガル宝条戦後、「……神羅は、終わりました」とケット・シーが言った背景には、きっとこんな経緯が
 あったんじゃなかろうかと。
・それと、バレットと行動してたケットの「作戦チェンジですわ」を試行錯誤してみた結果。
・この頃のパルマーには、労災が適用されていたものと信じて疑わない。
・拙作中、PHSの扱い方が定まりませんでした。携帯との区別がつかないです、はい。

257 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/22(金) 06:34:54 ID:15RMLVu8O]
乙!毎度GJ!!!

258 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/24(日) 13:25:10 ID:MOYN6Jdn0]
GJ!

259 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/26(火) 03:25:36 ID:E5Mdx9ZM0]
乙!

260 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/26(火) 23:50:47 ID:nQSvVw2IO]
乙!



261 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/28(木) 01:47:19 ID:9AAPF3IC0]


262 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/29(金) 13:01:06 ID:ugfmIPUP0]


263 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/30(土) 21:29:24 ID:YBwP76E+0]


264 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/05/31(日) 19:31:50 ID:kpDXgnmo0]


265 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/01(月) 03:02:18 ID:5AYna84j0]
お?

266 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/02(火) 01:08:51 ID:cmAEd7xO0]


267 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/02(火) 04:11:29 ID:1CxAVpbM0]


268 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/03(水) 07:00:45 ID:EgRphdHj0]


269 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/04(木) 20:03:49 ID:2W9tbDDE0]


270 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/05(金) 01:51:54 ID:x3WkrjMK0]




271 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/07(日) 01:09:09 ID:IRV76fRH0]


272 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/08(月) 04:29:24 ID:QVINeiEP0]


273 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ [2009/06/09(火) 02:53:22 ID:LIrRobXMO]
マンボッ

274 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/12(金) 01:43:14 ID:0Stm5Z7Q0]


275 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/13(土) 20:56:08 ID:T/dDM6jo0]


276 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/14(日) 00:54:56 ID:O+tAmcHn0]
マンボッ

277 名前:7Days (16)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/06/14(日) 19:45:47 ID:QoJP8o5o0]
前話:>>253-256
※ジュノン支社の7割以上は妄想でできています。
----------


Day 7 - Midgar
About 6:00 A.M.

 まだ夜も明けきらぬ早朝。リーブは本社屋上のヘリポートから、彼方にあるはずの地平線を眺めてい
た。今や昼夜を問わずスモッグに覆われたミッドガルの空は、刻々と移ろう微細な色彩変化を反映する
事も難しく、この時間ではまだ地平線も見えない。ちらりと腕時計に目を落とす、煙霧の向こうに広がる
空はそろそろ白み始める頃だった。
 本来ここの使用には社長の許可を取り付ける必要があったが、不在なのを良いことに無断借用させて
もらっている。
 やがて遠くから轟音と共に一機の輸送ヘリが近づいて来る、定刻通りだ。やがてヘリポート上空で
ホバリングするヘリから下ろされたロープに持参した荷物を固定すると、リーブは引き上げの合図と
共に、取り出した携帯電話を通して乗組員に告げた。
「こんな時間にすみません。これを、着時指定で宛先に届けてください」
 箱には『われもの・取扱注意』のシールが貼付されていた。そのままヘリは高度を上げると、本社ビルを
後にした。
 輸送ヘリの向かう先は、ジュノンだった。今日の公開処刑実施のために、2日前から急きょ始まった
広報室増設工事の総仕上げに必要な機材、という名目で手配したものだが、中身はまったく別の物
だった。部門の統括責任者であるリーブの指示を疑う者はおらず、運搬される荷の確認も行われない。
トラブルでも起きない限り、荷物は定刻通りに指定先へ届けられるだろう。
 今のところ、状況はすべて順調に進行している。しかし逆にその事が、リーブにとって最も大きな不安
要素だった。
 リーブの行動に対して、明らかに不信感を抱いていたスカーレットが動きを見せていないのである。
4日前の出来事が脳裏を過ぎった、直前になって事態が急転する可能性は否定できない。無事に助け
出すまで楽観はできなかった。

 公開処刑の実施まで、あと約13時間。

278 名前:7Days (17)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/06/14(日) 20:04:58 ID:QoJP8o5o0]
Day 7 - Junon
About 2:30 P.M.

 輸送機がジュノンへ到着したのは日もすっかり昇った頃だった。エアポートで下ろされた荷は、宛先――
都市開発部門ジュノン支社――に届くよう、支社内を循環するコンベヤーに乗せられた。港湾と空港施設
を備えた街の性質と、対空火器をあちこちに備えた支社の構造上、1日の荷役・物流量はミッドガル本社
を凌ぐほどだった。そのため、搬入された大量の弾薬や資材などを必要な部署に適切かつ迅速に運搬
するためのシステムとして、コンベヤーが支社内に導入されている。
 宛先のコンベヤーに載せてしまえば、後は勝手に荷物を運んでくれる。荷役作業車を使うよりも効率的
で、時間と人員の節約にもなる。
 記載された宛先である都市開発部門ジュノン支社、支社長を勤めていた彼のデスクに荷が届いたのは、
昼過ぎだった。今日の夕刻に予定されていた公開処刑に向け、増設作業も大詰めを迎えていたこの日、
支社長室に人の出入りはほとんど無かった。
 そんな経緯もあって、支社長が自分宛に覚えのない荷物の到着を知ったのは、遅めの昼食を取ろうと
部屋へ戻った時の事だった。
 ここ数日の広報室増設作業にともなって、都市開発部門ジュノン支社宛に届く資材類は少なくなかった。
忙しさにかまけて差出人の確認を怠っている事も忘れ、支社長は箱の封を開けた。ところが、たいそう
立派な箱とは裏腹に中には衣類が入っているだけだった。しかも相当おおきなサイズだ。
(……こんなサイズ、いくらなんでもパルマー統括だって着ないぞ)
 箱から取り出して広げてみると、支社長はすっぽり隠れてしまう程の大きさだった。腹回りだけなら、
自分が優に2人ぐらいは入れそうだと思えた。なによりも気になったのは、この服の色が少し派手な事だ。
これは明らかに自分の趣味ではない。
(ちょっと派手すぎやしないか?)
 荷物の受け取り主、あるいは送り主の感性を疑いつつも服を手にしたまま、箱の底を覗いてみると、
中で布をかぶっていた物と思わず目が合った。
「……これは失礼」
 支社長はそう言うと持っていた服をそっと箱に戻し、これまたそっと箱の蓋を閉じた後で素早く引き出し
からテープを取り出すと、丁寧に封をした。しかも二重に。
(きっと悪い夢だな、そうに違いない。ここ数日は特に忙しかったからな)
 自分を説得するために頭の中で語りかけ、納得したのだと自己暗示をかけるべく頷いた。
 大きく深呼吸をしてから再度、箱に視線を落とす。荷札は確かに『ジュノン支社長宛』となっている。が、
本人はこの荷物に心当たりが全くない。それ以前に、箱の中にマネキン人形の首を入れて送ってくると
言うのは、どう好意的に解釈しても嫌がらせの類以外には考えられなかった。ここへ来てようやく、荷札に
差出人名が記載されていなかった事に気づく。自らの行動を軽率だったと反省するのもそこそこに、
手近にあったペンで箱に『誤配』と記すと、内線を取り上げた。
「荷の差し戻しだ。こっちは忙しいってのに、勘弁してくれ……」
 手短に誤配されている旨を伝え再びコンベヤーに荷を戻した。もっとも、荷札だけを見れば誤配では
ないのだが。
 ジュノン支社内で誤配が起きた場合、コンベヤーは集荷場に向かう。と言っても、ほとんどは荷の載せ
違いなので、正しい宛先へ再配送の手続きが取られるだけだった。宛先不明の荷物は一定期間保管の
後、差出人へ戻されるか廃棄となる。支社長の希望は後者だった。

279 名前:7Days (18)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/06/14(日) 20:13:57 ID:QoJP8o5o0]
「こんな嫌がらせ、いったい誰が……」
 言いかけたところで、たったいま受話器を置いたばかりの内線が鳴り出した。通話ボタンを押すと、
受話口からは広報室増設工事にあたっていた部下の声が、事態の急変を告げた。
『たっ、大変です支社長!』


Day 7 - Midgar
In about 45 minutes

「……軍が広報室を占拠した、ですって?」
 動揺を隠しきれない支社長から報告を受けたリーブは、対照的に落ち着いた声で応じた。
(スカーレットの手配でしょうね)
 広報室の増設工事にあたっていた都市開発部門ジュノン支社の社員達は、作業現場から閉め出された
のだと言う。部下から報告を受け、すぐさま現場へ駆けつけた支社長も取り合ってもらえなかった。状況を
語る支社長の口ぶりには、動揺と言うよりも憤りの方が強く表れていた。
『連中は我々の作業を妨害しているだけです!』
 支社長が声を荒げるのも無理はない。3日という無茶な工期に応えた末の仕打ちに、現場が憤る気持ち
はよく分かる。形は違うものの、リーブにも似たような経験があったからだ。それに今回は、軍の横暴は
目に見えて明らかだ。
 しかしリーブは支社長の言葉に同意を示す事はせずに、状況把握に徹しようと静かに問いかけた。
「工程は?」
『設置した機材の最終チェックがまだですが、午前中のテストでは概ね問題ありません』
「そうですか」
 それだけを言うと、リーブは暫しの間考えを巡らせた。支社長は、辛抱強く次の言葉を待った。言外に
含まれた憤りや混乱を「統括なら分かってくれる」という確信があった、だからこそ彼は次の言葉に期待を
していた。
 ところが、返ってきた言葉は支社長の期待をあっさりと裏切る指示だった。
「……ご苦労様でした。皆さん、今日はもう帰宅してください」
『統括!?』
 思わず問い返した支社長に、リーブは労うように続けた。
「皆さんこの3日間、働き詰めだったでしょう?」
『しかし!』
 3日間という突貫工事の仕上がりを見ないまま、しかも本格稼働を数時間後に控えている現状、そんな
悠長なことを言っている場合ではないのだ。支社長からすれば、いくら部門統括の指示といえども、素直
に受け入れることが出来なかった。不測の事態への備えは? それに、軍の占拠という形で現場を追い
出されたまま終わる事にも納得がいかない。
 支社長の心中を充分に察していたリーブは、静かにこう告げた。
「私に任せて下さい」それは3日前と同じ言葉であり、支社長の抗議に対する唯一の答えだった。
 もちろん、リーブの指示にはこれからジュノンで行われる救出作戦と、それに伴い発生する混乱から
なるべく一般社員を遠ざけたいとする意図があった。しかし今はまだ、全容を語るわけにはいかない。
現時点で口に出せる言葉はそれ以上なかった。
 それから長い沈黙の後、ようやく支社長は口を開いた。
『……分かりました、確かに統括の仰るとおりです』
「今後、さらに事態は混迷の度を深めるでしょう」電話で話しながら、視線は窓外に見えるメテオを見つめ
ていた「後はこちらに任せて、休めるときに休んで下さい」。
 こうして結論を告げ、受話器を耳から離そうとしたリーブに支社長は言った。

280 名前:7Days (19)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/06/14(日) 20:24:02 ID:QoJP8o5o0]
『でも、私は残りますよ。現場責任者が現場を離れていては、ね』
 そのかわり、他の社員達は退社させる事を確約する。彼の言葉を聞いたリーブは、耳から離していた
受話器を見つめた。
 ふだんは気さくな人柄の支社長だったが、一度こうと言い出すと絶対に曲げない事をリーブはよく理解
していた。彼は頭が固いのではなく、仕事において妥協を許さない気質――だからこそ、信頼もできる
人物――だった。こうなると、言葉での説得は意味がない。
「それは心強い。では申し訳ありませんが、バックアップをお願いできますか?」
 当初は予定していなかったが、支社長の協力を得られれば何かとやりやすくなるのは確かだった。
『ここで断られたとしても、そのつもりでしたよ。統括は、いつも私の求めている答えをお持ちですからね』
 その声を聞いて、電話口で微笑む支社長の顔が浮かんだ。自信に満ちた支社長の声に、リーブは
まさかと身構えた。
『私らは、人殺しに手を貸すために仕事をした覚えはありません』
「…………」
 どうやら支社長の方が一枚上手だったようだと、リーブは肩を落としつつも口元をほころばせた。
『さあ、連中に一泡吹かせてやりましょう! 嫌がらせに趣味の悪いモノ送りつけて来た詫びも、キッチリ
させますよ。まずは――』
 こうして勢いづいた支社長を前に、リーブは謝罪と弁明のタイミングを逸してしまった。しかし謝るのは、
救出作戦が無事に成功した後でも遅くはない。


Day 7 - Junon
About 6:15 P.M.

 うずたかく積み上げられた大量の箱の隙間から、コンベヤーの稼働音に混じって聞こえてきたのは、
堪えきれずに漏れ出したらしい人の笑い声だった。
『し〜っ! バレたら面倒やで』
「だっ……だってさ……!」
 飛空艇に乗っている時と同じように、口元に手を当てたユフィは込み上げてくるモノを必死に抑えようと
していた。
『じ、じっくり選んどる時間なんて無かったんや!』
「時間っていうか、たぶんセンス無……っははは!」
 服を着せたデブモーグリと、ケット・シーを指さして好き放題言った挙げ句、ついに腹を抱えてユフィは
笑い声を上げた。慌てた様子でケット・シーはかぶり掛けていた“首”を持ち上げて、なんども首を振る。
『せやから、静かに!』
「だ……だって!」まだ収まらないらしく、肩を揺らしながらユフィが言う。「言ってくれれば服、アタシが
選んであげたのに」
『だ〜っもうエエわ、黙っとき!』



281 名前:7Days (20)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/06/14(日) 20:26:55 ID:QoJP8o5o0]
 言い捨ててから、ケット・シーは持っていた“首”をかぶり直すと変装は完了だ。
 これが驚くほどよくできていて、振り返った首の動きなどまるで人形とは思えない。強いて言えば、
問題があるのは服の趣味だけだ。その事を思い出してユフィはまた口元に手を当てた。
『こっから先は別行動ですよ?』
「こっ、声まで変わってる!? なんで!?」
『ここで兵士に見つかると厄介です、くれぐれも慎重に』
 質問は無視して忠告だけすると、ケット・シーはユフィに背を向けて歩き出した。
「ふ〜んだ、言われなくても分かってますよーっだ! アタシを誰だと思ってるんだ」
 歩き去るケット・シーの背中に向けて悪たれ口を叩いてみるが、やっぱりその格好がおかしくて最後には
堪えきれずに笑ってしまうユフィだった。

 都市開発部門ジュノン支社長には「趣味が悪い」と言われ、ユフィにさんざん笑われながらも、
ケット・シーはそれを着て集荷場を後にした。

 公開処刑実施まで、1時間を切った。



----------
・お久しぶりです。話を進める毎にジュノンの妄想が激しくなってる様に思いますが、たぶん気のせい。
・時刻表記は、一応FF7Disc2ウェポン迎撃のムービー(薄明)を基点に、逆算して考えてみた(各地の
 緯度や時差の設定も込みで、基準は2009/1/7の日出没時刻)けど、要するに適当。つっこんじゃダメw
・あからさまに怪しいケット・シーの変装を言い訳してみたかった。(ポリゴンだからごり押しできたけどさw)
・ギャグなのかシリアスなのか、本編の補完なのか妄想なのか。いずれにせよ、どっちつかずな話ですみません。

282 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/15(月) 23:10:54 ID:T1SJx8Hn0]
GJ!

283 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/16(火) 18:39:14 ID:z9KNg41E0]
乙!

284 名前:自治スレにてローカルルール変更審議中 mailto:sage [2009/06/18(木) 20:14:21 ID:vO3HIWT10]
GJ!

285 名前:自治スレにてローカルルール変更審議中 mailto:sage [2009/06/20(土) 10:52:44 ID:OzNXHsCo0]
ユフィ酔ってるwリーブがんばれ!

286 名前:自治スレにてローカルルール変更審議中 mailto:sage [2009/06/21(日) 10:13:50 ID:8MCwDbRUO]
おお、来てた!いつも乙です
リーブ大好きや

287 名前:自治スレにてローカルルール変更審議中 mailto:sage [2009/06/22(月) 23:48:57 ID:xLTKrw1k0]


288 名前:自治スレにてローカルルール変更審議中 mailto:sage [2009/06/25(木) 07:29:45 ID:I1XzDDER0]


289 名前:自治スレにてローカルルール変更審議中 mailto:sage [2009/06/26(金) 16:54:07 ID:IJGJaEC90]


290 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/28(日) 10:13:15 ID:xqhvGFIo0]




291 名前:オペラ座の空賊【97】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/06/28(日) 21:02:03 ID:XHd2BLzA0]

>>32-37 >>39-44 >>104-107 >>146-153 >> >>162-166
からつづきます。

暗がりから外に出ると眩しさに目が眩んだ。
ヴァンはぎゅっと目蓋を閉じては開き、何度かそれを繰り返した。
漸く明るさに慣れると、欠けた路石の隙間から生える雑草、
ひびわれた壁、そして暗い目をした住人達が訝し気にこちらを見ている。
「兄ちゃん達、“氷の女王”を倒して来たの!?」
気が付くと周りに子供達が集まって来ていて、ヴァンとアーシェを取り囲んでいる。
「まぁな!」
ヴァンが得意げに人差し指で鼻を擦ると、歓声が上がった。
「だったら賞金を貰いに行くんだろ?」
「俺達も一緒に行っていい?」
「いいけど、橋には見張りが居るだろ?」
「皇帝が新しく変わってから、行き来出来るようになったんだ。」
「それでも、6時になると閉められちゃうけどさ。」
新皇帝はなかなか革新的なようだ。
「でも、やっぱ“上”ってめったに行けないから。」
「“氷の女王”を倒したハンターと一緒だったら大丈夫!」
「夕方には門が閉まるから急いだ方がいいよ。」
口々にそう言うと子供達はヴァンやアーシェの手を引いて走り出すそうとする。
「よし!案内してくれよな。」
アーシェは慌てた。あちこちに情報屋の目が光っている。
目立ってはいけないのにとアーシェは咎める様にヴァンを見るが、当のヴァンは気にする風でもない。
(仕方ないわね…)
アーシェはため息を吐くと、露店で売っている大きな布を買い、ヴァンに被せた。
「ないよりマシでしょ?」
「そっか、ありがとな。」
笑顔で言われると、アーシェも弱い。
(すぐに“ありがとう”とか“ごめん”って言うのね。)
こういう性格をどう言い表すんだっけ…とアーシェは頭を巡らせる。
(屈託ない…かな?)
ほんの一瞬で子供達と打ち解けてしまったヴァンが微笑ましく思えて、
アーシェは仕方ないなぁと小さく呟いた。

292 名前:オペラ座の空賊【98】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/06/28(日) 21:04:00 ID:XHd2BLzA0]

帝都のクラン支部に足を踏み入れると、そこに居るハンター達が一斉にヴァンに声を掛けてきた。
「今日はパンネロはどうした?一緒じゃないのか?」
「“ 氷の女王 ”を倒したんだって?お前ならやると思っていたよ。」
布なんか被っていても、気心の知れたハンター仲間達には一目で分かるらしく、
(なんだ…こんな変装、意味がなかったのね。)
だったらこんな暑苦しいもの、さっさと脱ぎ捨てようとしたが、
「よお!ヴァン!今日の連れはワケ有りか?」
という声が聞こえてきて、慌てて布を被り直す。
ヴァンはハンター達と言葉を交わしながら賞金を受け取ると、
「悪い。今日は急ぐんだ。」
とハント仲間達に手短に別れを告げると、アーシェの手を引き、子供達を伴ってクランを後にした。
外に出た途端、子供達が騒ぎ出した。
「兄ちゃん、有名人だったんだな!」
「すげぇ!」
「まぁな。俺くらいになると、あんなの楽勝だからさ。」
ヴァンが答えると、子供達はますます大騒ぎだ。
子供のあしらいがうまいなぁと思いながら、と思いながら、
ヴァンと子供達より少し下がった所でアーシェはその様子を眺めている。
(でも、いつまで連れて行くるもりなのかしら。)
すると、ヴァンは一軒の店の前で立ち止まると、子供達を連れて中に入って行ってしまった。
アーシェは慌ててその後を追って店に入る。
(……洋服屋?)
ヴァンは店の店員と何やら話している。
「ヴァン、何をしているの?」
「今から俺達は学校の先生だ。で、コイツらが生徒。」
店員達は子供達に着せるための揃いの服を出して来たり、子供達に着せたりと大忙しだ。
「ダルマスカの服で帝都の博物館に言ったら目立つだろ?だから変装するんだ。」
「それを先に言ってよ。」
「アーシェがそれ、被ってるの見て思い付いたんだ。」
行き当たりばったりなのか、考えて行動しているのか、ヴァンはつかみ所がない。
でも、言っている事に一理あるので、アーシェも大人しくヴァンに従って着替えた。
アーシェが着ているのは、白いオフショルダーのブラウスに
紺のシルクサテンに細かいキルティングが施されたベスト。
同じシルクサテンに花柄のキルティングが施された足首まであるタイトスカート、
スカートの裾と、深いスリットからはスカートのラインに沿ったペティコートが覗いている。
「アーシェ、青も似合うな!」
「ありがとう。」
まんざらでもない、とアーシェは微笑む。
「先生って感じがする。いつもより上品そうに見える。」
(褒めてくれたと思ったらこれなんだから。)
良くも悪くもそれがヴァンなのだ。いちいち腹を立てていたらきりがない。
「でも、コルセットなんて初めて。パンネロはよくこんな物を着けて歌えたわね。」
アーシェはふぅ、と大きく息を吐く。
「本当にな。なんでこんな窮屈な服、着んのかな。」
ヴァンは丈の短いジャケットに細いストライプの入ったシャツにぴったりとしたパンツとブーツ。
「ヴァン、あなたもなかなかよ。」
「そうかぁ?暑苦しくてしょうがないよ。早く脱ぎたい。」
「じゃあ、さっさと済ませて帰りましょう。」
「そうだな!」

293 名前:オペラ座の空賊【99】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/06/28(日) 21:05:50 ID:XHd2BLzA0]

ヴァンは手早く子供達をまとめると、外に連れ出す。
博物館に向かう道中も、自分たちの事を「先生」と呼ぶように指導したりして、
「本当に先生みたいね。」
「そうか?」
「お勉強の方はどうだか分からないけど。」
さっきのお返しとばかりにアーシェはチクリと針を刺すが、
「あー、俺、全然だめ。アーシェは?」
「え?」
言われて頭に浮かんだのは、チョビ髭の年老いた教育係。
教科書をただ読み聴かされるだけの授業にうんざりして、逃げ出したのは一度や二度ではない。
「私も…かな。」
二人は顔を見合わせて笑う。
こんなのどかな会話をしていると、今から盗みの下見に行くなんて思えない。
(だめだめ。私がしっかりしないと。)
アーシェは気持ちを引き締めようと、博物館の建物を見据える。が、
「お〜い、早く来いよ!“アマリア”先生!」
というヴァンの緊張感のない声にがっくりと肩を落とした。
玄関のホールに足を踏み入れると、ヴァンはあんぐりと大きな口を開け、高い天井を見上げている。
「何やってるの、お上りさん。」
アーシェの声にヴァンは照れくさそうに笑う。
「学校の先生はこんな所で大きな口を開けっ放しにしないわよ。」
「ごめん。なんか、すげぇ建物だなって。」
「そうね。ここの博物館の規模はイヴァリース1だから。」
「へぇ〜。すげぇな!今度、パンネロも連れて来てやろう!」
「そうね、きっと喜ぶわ。」
ヴァンと同じように、建物の規模に驚いている子供達を連れて宝石の展示室に向かう。
「狙うならやっぱり夜だな。」
周りに聴こえない様に小声で話す。
「そうね。どうやって盗むか、考えてる?」
ヴァンは頭を横に振る。
「本当に、行き当たりばったりなんだから。」
「しょうがねぇだろ、急だったし。見取り図も何も手に入れる暇、なかったし。だからこうやって見に来てるんだろ。」
ヴァンの愚痴にアーシェは耳を貸さない。
「まず鍵を手に入れましょう。」
「え?」
「こう見えて、結構警備が厳重よ。そう簡単に入らせてはくれないわ。」
「警備兵から?でも、鍵がなくなってたらすぐにバレちまうだろ?」
「そこを上手くやるのよ。うまくかすめ取って、その場で型を取って戻せばバレないでしょ?」
「難しそうだな。」
「息の合った相棒がいればどうってことはないわ。」
アーシェはバッグの口を小さく開いて、型取りをする為の粘土が入ったケースをヴァンに渡した。
「…いつの間に用意したんだよ。」
「今から泥棒に入ろうとしているよの。持っていて当然でしょ。ほら、あれがそうよ。」
アーシェが指差した先にガラスケースがあった。

294 名前:オペラ座の空賊【100】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/06/28(日) 21:07:08 ID:XHd2BLzA0]

この博物館の目玉らしく、周りには幾重にも人だかりが出来ていた。
ヴァンが肩越しに覗き込むと、ライトの光を受けて目映く光る首飾りがあった。
ハート型にカットされた青い石の表面は複雑なカッティングがされており、その周りを透明の石が何重にも縁取られている。
チェーンの部分までが青い石のビーズで出来ており、レースのように華やかに編み上げられている。
不意にヴァンの鞄の中でカタカタという音がした。ヴァンは慌てて鞄を押さえる。
「何の音?」
アーシェが小声で尋ねる。
「分かんねぇ!多分…」
アーシェは慌てて大きな柱の影にヴァンを引っ張って行く。その間もカタカタという音は止まらない。
鞄を開けて、中を覗き込むと、女王を宿した剣の鍔が鳴っている。
「どうして…?」
ヴァンはじっと剣を見つめる。
「……偽物だって言ってる。」
「なんですって!?」
二人は驚いてケースの方を見る。
「…どうして偽物なんか…だって、ここは…」
「バッシュだ。」
「え?」
「ごめん。ソーヘンから逃げる時、手紙落とした。」
「あ…。」
伝えたい事がヴァンに通じたと分かったのか、剣の鍔はいつの間にか鳴り止んでいた。
(せっかくここまで来たのに…)
沈黙が重苦しい。
「心配すんなって!」
ヴァンはアーシェを励ます。
「簡単な話さ。持ってるのはバッシュだ。バッシュの所へ行けばいい。」
「どうやって?」
ヴァンはアーシェに耳打ちをする。
「でも!それは…」
「時間がないんだ。バッシュの居場所を探すより連れて行ってもらうんだ。」
「でも、バッシュの所に連れて行かれるかどうかは分からないわ。」
「大丈夫だって。バッシュは俺達がここに居る理由を知っている。騒ぎを大きくしないために俺を呼び寄せる。」
アーシェは納得がいかないのか、返事もせず俯いてしまう。
「アーシェ、怖がらなくてもいい。俺達は首飾りを手に入れて、ラバナスタに帰る。二人一緒だ。」
「……本当に?」
漸く顔を上げたアーシェの目を真っ直ぐに見て、ヴァンは頷いた。
アーシェはまだ躊躇っていたが、
「約束だよ?」
と言って、手の甲を差し出す。
ヴァンはアーシェの手の甲に、自分の手の甲をコツンと合わせる。
二人の間で、これは約束の印になっていた。
「約束、な?」

つづきます。


295 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/06/30(火) 02:47:38 ID:lwdA8vxK0]
乙!

296 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/01(水) 10:36:39 ID:Fd491dgB0]
GJ!

297 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/02(木) 04:07:28 ID:GLJuvijM0]
>>291-294
ヴァンが良い意味で「食えないヤツ」なのが格好良い!◆WzxIUYlVKUさんの描くヴァンって
とても魅力的。
それにしても読み進める毎に思うんですが、アーシェとヴァンは絶妙なコンビですね。
反目したり歩み寄ったり、という距離感の変化(揺るぎない信頼と呼ぶには、まだ今ひとつ落ち着かない)が
たまりません。彼らを取り巻く状況もですが、そんなところにもワクワクしてみたり。

298 名前:7Days (21)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/07/02(木) 04:22:39 ID:GLJuvijM0]
前話:>>277-281
※飛空艇がフィールド上でしか着陸できない理由とか。
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Day 7 - Airship : The Highwind
6:40 P.M.

 ハイウインドは当初の予定通り、ジュノンの空中監視網を避けるようにして西に広がる洋上を航行中
だった。艇内ではシドをはじめクルー達が皆、自分の持ち場について作業に当たっていた。
 ブリッジにいたナナキは、作戦の開始に向けて時計を気にしながらも、前方の窓から見える夕景を
眺めていた。空と海がオレンジ色に染まる中でも、緋色の衣を纏ったメテオの姿がひときわ目を引いた。
 この時、ナナキの後ろ――ブリッジ内のいつもの場所で常の通り静かに佇んでいたヴィンセントが
唐突に顔を上げた事には、まだ誰も気づいていなかった。
 ヴィンセントは何かを探すようにして周囲を見回すと、目にとまった計器類に向けて歩き出す。いくつも
並んだパネルの前では、レーダー要員らしいクルーが忙しなく作業を続けていた。ヴィンセントはクルー
のすぐ横に立つと、黙って画面を見つめた。
 作業に集中するあまり、操作のために伸ばした腕がぶつかった事でようやく横に立つヴィンセントの
存在に気づいたクルーは、頭を下げつつも早口に尋ねた。
「どうされましたか?」
「レーダーはこれか?」
「ええ、そうですけど」
 答えながらパネルを指す。経線と緯線が画面中央で交わり、その中心点から等間隔に描かれた円が
あるだけの簡単な構成で、その中に距離と方位を示す数値がいくつか並んでいた。どうやら画面の中心
点は自分達の現在位置を、画面の真上が進行方向を示しているらしい事は一目で理解できた。
「何もない?」
「今は海の上ですから……」
 短い疑問の言葉に答えようとするクルーの言葉を遮って、ヴィンセントは何もない画面上――中心の
交点から右斜め上――の1点を指し示した。
「この辺りだ」それだけ言い終えるとパネルに背を向けて歩き出す。言葉の意図を掴みかねてクルーが
問い返す間もなく、レーダー画面には小さな光点が現れた。
「……え!?」
 クルーは我が目を疑い、何度も目をこすってパネルを見直した。この下は見渡す限りの大海原、周辺
一帯には何もないはずだ。防空網に引っかかったのでもない。にもかかわらず、レーダー上に突如とし
て現れた光点はその存在を主張する。
「ま、まさかこれって!」
 振り返ったクルーは、ヴィンセントの背中にぶつけるようにして声を上げた。ふたりの様子に気づいて、
シドとナナキは顔を見合わせた。
 しかしヴィンセントが振り返ることはなく、そのままブリッジを後にした。扉が閉まるのと同時に、操縦席
の方に向き直ってクルーが叫んだ。
「にっ……2時の方角に、未確認移動体です!」
 声を聞いたシドとナナキはブリッジ前方を、甲板に上がったヴィンセントも同じ方角を見つめていた。
しかし彼らの目には、夕陽を反射してきらきらと輝く海原が広がるだけだった。

299 名前:7Days (22)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/07/02(木) 04:30:20 ID:GLJuvijM0]
 こうしている間にもレーダー上の光点は音もなく、けれど確実にジュノンを目指して移動していた。
速度から、ジュノン到達予想時刻を割り出したクルーが告げたのは、予告されていた公開処刑開始と
ほぼ同じ時刻だった。
「進路変更だ! こっから一直線にジュノンを目指すぞ!」
「しかし艇長!?」
 操縦担当のクルーが思わず問い返す。いくら何でも防空網に真正面から突っ込むなんて無謀もいい
ところだ。そんなことをすれば、ジュノン自慢の対空火器によって蜂の巣にされるのは目に見えている。
「そうだな、ヘタに高度も取れねえ」クルーの訴えに耳を傾け、シドは頷きながら呟くものの、方針を変え
ることは無かった「んじゃ、オレ様の模範飛行をよーっく見とけよ!」。
 海面すれすれを飛ぶことで監視網をかいくぐるというシドの意図はクルーにも理解できた。とは言え
ジュノンに接近できたとしても、レーダーに補足されれば結末は同じだ。たとえシドが操縦桿を握ったと
しても、対空砲火の中を無傷で飛ぶなんて出来るわけがない。
 口に出される事の無かったクルーの抗弁に答えるようにして、シドは宣言した。
「こっから先は全速で飛ばすぞ、とにかくヤツより先にジュノンへ乗り込む!」
「その前に、オイラ達が見つかっちゃうよ?!」クルーに代わって反論したのはナナキだった。
「んなもん構いやしねぇ! 連中だってバカじゃねえんだ、すぐ気づく」
 前にケット・シーが言っていた通りに、ウェポンの混乱に乗じてしまえば問題ないと、シドの主張は変わ
らなかった。上空のハイウインドがレーダーに捉えられたとしても、その後すぐに海中から接近する
ウェポンにも気がつくはずだ。艇が集中砲火を浴びるとしても、それはごく僅かの間だとシドは踏んだ。
「出力最大、進路をジュノンに向けます」
「防空レーダー網到達まで、およそ10分」
 にわかに緊張が高まったブリッジを走り出て、ナナキはオペレーションルームに向かった。この異変を
ユフィに伝える為だった。


Day 7 - Junon
6:50 P.M.

 ユフィのPHSが鳴ったのは、作戦開始の10分前だった。ナナキから状況を聞いたユフィは、さっそく
建物の中にいたケット・シーに連絡を試みたが通話はできなくなっていた。
「……ちょ、ちょっと! どーして繋がんないの!?」
 すでに公開処刑開始まで残り10分を切っていた。このまま留まるべきか、ジュノン支社内に向かうべき
か。ユフィは次に取るべき行動を迷った。さっきケット・シーと別れた集荷場までの道は覚えているし、
あそこから建物にも入れそうだった。
 とにかく今は時間がない事だけはハッキリしている。迷ってるだけなら行動するべきだと、結論に至った
ユフィが走り出そうとした時、再びPHSが鳴った。
『ユフィ、持ち場を離れるな』
 声はヴィンセントだった。まるで彼女の姿を見ていたとでも言うような、的確な助言だった。
「でもどうしよう! ケット・シーに繋がらない!」
『落ち着けユフィ。社員の彼なら大丈夫だ、必ずふたりを連れて出てくる』
「でも!」
『それよりもユフィ、エアポートまでのルートは頭に入っているな?』

300 名前:7Days (23)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/07/02(木) 04:38:15 ID:GLJuvijM0]
「もちろん! それは大丈夫だけど……」
『神羅軍がウェポンの急襲を察知できても、迎撃態勢に移行するまで時間的な余裕はほとんど無い。
となれば、そちらは極度の混乱に陥るはずだ。こうなると逃走の障害は警備兵だけではなくなる。気を
つけろ』珍しく口数の多いヴィンセントだったが、彼の言葉には無駄がなかった『3人を頼んだぞ』。
「……わかった」
『では、エアポートで』
 頷いて返事をしたユフィがPHSを切った直後、ジュノン支社中に警報が響き渡った。奇しくもそれが、
救出作戦開始の合図となった。


Day 7 - Airship : The Highwind
6:55 P.M.

 ハイウインドがジュノンのレーダー圏内に進入してから5分が経過した。ジュノンからの攻撃に備え、
急激に高度を上げたハイウインドは雲の上を飛んでいる。しかしジュノンの航空管制から警告を受ける
こともなく、今のところ飛行は順調だった。
「ウェポン、レーダー網到達まであと5分」
 画面上に表示されるアラートと共に、レーダー要員が声を上げる。隣にいた通信担当のクルーは、
請うような視線をシドに向けた。
「もうとっくに気付かれちまってるんだ」頷いてからシドは言う「連中に教えてやれ」。
 彼が何をしようとしていたのか、シドには見当がついていた。
 許可を得たクルーはすぐさま周波数を合わせると、かつての同僚に向けて呼びかけた。
「こちらハイウインド。方位315よりジュノンへ接近する移動体を確認、間もなくそちらのレーダー圏内。
繰り返す……」
 スピーカーから聞こえてくるのはノイズだけで、ジュノン管制塔からの返答はなかった。予想はして
いたが、クルーの表情が曇る。
「まあ、仕方ねぇさ。かといって翻した反旗を今さらしまう訳にもいかねぇしな」こっちに大砲を向けて
こないだけ、まだマシじゃないか。シドはそう言って笑った。
 許可もなく母港を飛び立ったあの日から、二度と帰還できない事は分かっていた。ハイウインドに
乗り込んだクルー達は神羅を捨て、覚悟を背負って飛び立ったのだ。
「ここにいること、後悔してるか?」隣で作業中だったレーダー要員に問われて、クルーは首を横に振る。
「じゃあ、そんな顔するな」と、肩を叩かれたので見返してみれば、彼もまた苦笑を浮かべていた。
 しかし唐突に、スピーカーからノイズ音が消えた。
『方位270、高度40,000……どうして戻って来ちまったんだ?』
 聞こえてきたのは管制塔に勤務する管制官――ハイウインドの搭乗員達と同様に、これまで
ハイデッカーの下で苦楽を共にしてきた同僚――の声だった。7日ぶりだと言うのに、ひどく懐かしく
感じる。



301 名前:7Days (24)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/07/02(木) 04:57:13 ID:GLJuvijM0]
『こっちはレーダーに入ってるお前らに気付かないフリしてるってのに!』管制官は声を潜め早口で
捲し立てる。彼が飛空艇「ハイウインド」の名前を口にできない理由は、説明するまでもない。事情はどう
あれ管制塔の許可無しに飛び立った飛空艇は以後、“敵性”という扱いになる。当然だが敵の接近を
捉えれば攻撃を指示しなければならない。今もジュノンにいる管制官としては、7日前ハイウインドが
離陸した事を認めるわけにはいかず、離陸していない飛空艇が空にいる事はあり得なかった。だから今、
「ハイウインド」は空にはいない。たとえレーダーの識別反応が明らかだったとしても、それを読み上げる
訳にはいかなかった。
 ハイウインドのクルー達がそうであったように、地上に残った彼らもまた覚悟をもって飛び立つ
ハイウインドを見送ったのだ。
「恩に着るよ。でも、下のレーダーを見ていて欲しい。ウェポンが来る! もう4分も無いんだ」ここで言う
「下」とは、ジュノンの海洋監視班のことを指している。
『了解。“下”だな? 警告に感謝する』それから一方的に通信は切断された。
 しかしクルーは、両者の通信が完全に切断される直前にジュノンから送られてきた信号を解読して、
元同僚の本心を知った。それはとても短い単語で、彼らの身を案じる内容だった。
 これがハイウインドの母港――ジュノン管制塔との最後の交信になった。

 この直後、管制塔はジュノンに警報を発令した。それは海洋監視班が実際に海中のウェポンを捕捉
する2分前の事である。
 こうしてジュノンにいるユフィ達が耳にする事になった警報は、街中の人々に迫る危機を知らせるべく
鳴り渡った。


Day 7 - Midgar
7:08 P.M.

 耳に当てた受話器の向こう、支社長の声の背後では休むことなく警報音が鳴り続けていた。ウェポン
接近に伴う警報の発令を、バレットと共に広報室で知ったリーブだったが、支社内の他のエリアの様子
は分からなかった。
『各部署とも、夜間勤務者以外の退社は既に完了しています』
 加えて、昼過ぎから広報室を軍が占拠していたお陰で、周辺には一般社員が近寄ることは出来なく
なっていた。皮肉にもその事が、社員達の退避を迅速に終えられた一因となっていた。
 ジュノン支社長からの報告を受け、安堵してリーブは頷いた。
「ありがとうござ」不自然に言葉が途切れたのは、操作しているケット・シーの方に問題が起きたから
だったが、経緯を知らない支社長は慌てて呼びかける。
『どうされましたか? 統括?! ……統括!』

302 名前:7Days (25)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/07/02(木) 04:59:52 ID:GLJuvijM0]


Day 7 - Junon
7:08 P.M.

 目の前で閉ざされた鉄扉の向こうから、鳴り響く警報音よりもさらに甲高い笑い声が響いていた。
「しまった! ここのカギも閉められた!」
 広報室として機材を搬入した部屋を内側から施錠され、バレットとケット・シーは締め出しを食らった
のだ。しかし当初の計画では、ここに施錠装置は取り付けられていなかったはずだ。
(そんなアホな!)
 この時になって、昼から広報室を占拠していた軍の意図を知った。万一の場合の逃走阻止――やはり
スカーレットは、手を回していたのである。
「おバカさんたちね。これでもう、この娘は助けられないわよ」
「チクショウ!」
 バレットが扉を叩きながら叫ぶ。残念ながらこの扉は、簡単に壊せるような代物ではない。
『しゃあない、エアポートまで走るで!』
「ちょっと待て! このままティファを放っとくのか!?」
『ええから走れ! こないなったら、イチかバチかや!!』

 ――「でも始まっちまったら、ガス室だって閉められちまうだろ?
    なら短時間でケリを付けた方が良いんじゃねぇのか?」

 社屋内からが無理なら、外側から助け出す。イチかバチかどころではなく、かなりの危険を伴う方法
ではあるが、選択肢は他に残されていなかった。


----------
・神羅の技術は世界一。…飛行機に積んだ魚群探知機でも機能するんです、きっと。
・でもヴィンセントの方がレーダーよりも早いのは、カオスがいるからなんです、たぶん。

303 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/03(金) 19:03:15 ID:xs1wH2V80]
GJ!

304 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/05(日) 13:58:30 ID:PIvgXS9F0]
乙!

305 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/07(火) 01:57:02 ID:YLA76YaS0]


306 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/09(木) 02:34:32 ID:OidJfkh+0]


307 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/09(木) 18:40:27 ID:eIH81P+uO]
気付いたら二作品も続きが来てた!
いつも乙です

308 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/11(土) 09:13:52 ID:9m0dQBsw0]
おつ!

309 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/12(日) 01:36:54 ID:eXHuGQN50]


310 名前:7Days (26)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/07/13(月) 02:07:37 ID:jyQVhZMp0]
前話:>>298-302
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Day 7 - Midgar
7:15 P.M.

 リーブはジュノンから取り寄せた図面をもう一度見直した。『イチかバチか』ではなく、より高い可能性を
見つけるためだ。
 処刑に使用するガスは、ガス室の真上に設けられた保管庫からパイプを伝って室内に送られてくる。
安全面の問題から、普段は毒性のない物質として個々に保管されているものを、ガスが通る管内部の
弁を別室から操作し、混合してからガス室内に排出する仕組みになっていた。その為、ガス室の天井は
他の部屋と比べるとかなり高さがあった。
 ここまでの遣り取りでリーブの内心を悟ったらしい支社長が、冷静に言った。
『ガス室の壁、しかもそれを外から破壊するなんて、いくらなんでも無茶です』
 とは言っても、唯一ガス室に隣接する部屋から追い出されてしまった今、密閉性を高めるために分厚く、
さらに何層にも補強されたガス室の壁を内側から破壊する方法が他に無いことも分かっていた。こうして
内側からの道を断たれた以上、外からの救出を試みるしか無いという考えの方向性は理解できたものの、
ミッドガルとは違い元が要塞として設計されたジュノン支社の外壁には装甲があった。だから無理だと
支社長は進言した。
 それでも支社長は諦めきれず、首を傾け肩の上に受話器を置くようにして話しを続けながら、手にした
設計図面から突破口を見つけ出そうと必死だった。
『確かに、キャノン砲ぐらいの高出力兵器があれば可能かも知れま……』
 何とはなしに図面から視線を上げたところで、支社長は言葉を失った。肩の上から滑り落ちた受話器の
コードを腕にぶら下げた状態で、しばし呆然と立ち尽くしていた。
「どうしました?」不自然に途切れた言葉に、今度はリーブが問いかける。
『……』
 鳴っていた警報がウェポンの接近を告げていた事は知っていた。しかしレーダーを見ていなかった彼ら
は、その距離までは知らなかった。
「支社長?」
 ジュノン支社に迫るウェポンが、この時すぐ目前まで迫っていた事を。
『……ウェポン……です』
 我に返った支社長は腕に引っかかっていたコードをたぐり寄せて再び受話器を持ち直すと、ようやく
呟き声を出した。文字通り目の前、窓のすぐ外にウェポンがいた。想像を絶する光景とはまさにこの事で、
悪い冗談だとしか思えなかった。
 このあと支社長は、キャノン砲が放つ爆音と共に崩れ落ちるウェポンの姿と、上がった水しぶきを目に
することになる。ガス室に閉じこめられたティファを救うきっかけは、皮肉にもウェポンの放った一撃だった。



311 名前:7Days (27)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/07/13(月) 02:15:28 ID:jyQVhZMp0]
Day 7 - Airship : The Highwind
7:41 P.M.

「それよりもこれ、どういうこと?」
 心なしか腫れた頬を押さえながら、ティファは尋ねた。彼女が状況を把握しきれないのも無理はない。
『まぁ、詳しい話はあとで適当に聞いといてくださいな』
 この飛空艇が神羅の管理下を離れ、今後は自由に使えるという旨だけを告げるとケット・シーは言葉を
濁した。それから、何か言いたげな表情のティファとバレットに背を向けると甲板を後にする。
 意図した結果を得られた今となっては、ここに至る経緯は語るほどの価値を持たない。だからこれ以上
を語る必要はないと思った。
 しかし階段を下りた先、ブリッジに続く廊下で遂にバレットに呼び止められた。彼の機嫌は、ケット・シー
に向けられた声によく現れている。
「てめえ、飛空艇が使えるんなら最初っから言えよな!」
 さすがに無視するわけにも行かずケット・シーが振り返ると、今にも殴りかからんとする勢いで詰め寄ら
れ、思わず後ずさった。
 確かにバレットと共に支社内で暴れ回ったのも作戦の1つで、兵士達の注意を引きつける狙いがあった。
まして救出という目的があるにしろ、ふたりの公開処刑を発案したのは自分なのだ。もしその事をバレット
が知ったら、このぬいぐるみがバラバラにされかねない。いくら替えのきく物だと言っても、壊されることを
好ましいとは思わない。身の危険を感じてさらに後退しようとしたが、すぐ後ろはブリッジの入口で逃げ場
は無かった。
 バレットが伸ばした左腕に掴まれ、ケット・シーは覚悟して身構えた。しかし幸いなことにこの予想は
外れた。
「オレはよ……ティファともサヨナラかと思ったぜ」
 ケット・シーの腕を掴んだまま、バレットはがっくりと肩を落として溜息混じりに呟いた。そんな彼の姿を
前にして、ケット・シーとそれを操っていたリーブもホッと胸をなで下ろす。
(陽動作戦に利用していたことが知れたわけでは無いんですね)
『すんませんな〜。でも“敵を欺くにはなんとやら”、ですわ』
 本意を隠すために、いつもより大げさな動作で戯けてみせると、バレットは呆れたように両手を広げ、
こう言った。
「だいたい“敵”ってお前、神羅の社員だろ?」バレットはにやりと口元を歪め、言葉の先を続けた「なんだ、
いよいよ会社を敵に回すってのか」
 そう話すバレットの声が、どことなく嬉しそうに聞こえた。
『んなアホな。それに今は神羅が敵っちゅー事も無いで? 現に、お二人さんを助けるために協力して
くれた社員もおるぐらいや』
 メテオが発動された今となっては、神羅対アバランチという小さな対立構図では無いのだから。と諭す
ようにして言った。
「じゃあ、お前の敵って誰なんだよ?」
 尚も呆れたような口調で尋ねてくるバレットに、ケット・シーが答えることは無かった。


In several days - Midgar

「……敵?」
 あの日、ケット・シーに向けられたバレットの問いを反復するようにして呟いた。本社の窓に映った自身
の姿と、背景の薄闇に沈んだミッドガルを見つめながら、もう一度それを繰り返す。
「私の敵……」
 都市開発部門の携わった最大級の突貫工事、それも今や無惨な醜態をさらすだけだった。発射時の
反動で一部が失われたものの、今もって巨大な砲身を支えている土台部分を、ぼんやりと眺めていた。

312 名前:7Days (28)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/07/13(月) 02:27:18 ID:jyQVhZMp0]
 重役会議室でリーブを拘束しここへ連行してきた兵士達の姿は既に無く、今は人気の無くなった本社の
1フロアに立っていた。ウェポンの攻撃を受けたビルの上層部と、自分を除く組織の上層部を失った神羅は、
今や混乱の極みにあった。
 こうして事実上、神羅カンパニーは終焉を迎えた。
 リーブはしばらくの間、その場に佇んでいた。感傷に浸っていたという訳ではないのだが、本当に少しの
間、なにも考えられずにただ半壊した砲台と砲身を見ていただけだった。その頭上には、禍々しい輝きを
放つメテオの姿があった。あれが落ちてくれば、ミッドガルどころか星そのものが無くなる。言わば星の
公開処刑だ。残された猶予はあと7日。
 この間で仮にセフィロスを倒す事に成功し、メテオの衝突を回避できたとしても、この混乱をどう収めろ
と言うのだ? そもそもの元凶は神羅、その中枢の一画を担っていたのは他でもない自分だ。考えること
が多すぎて、どれから手を付ければいいのかが分からなかった。なによりも、自分はこの先どうしたい
のか――そんな簡単な事すら見えなくなっていた。
 そんなリーブを現実に引き戻したのは、机の上から彼を呼ぶ電子音だった。日頃の習慣から、反射的に
受話器を取った。
『繋がった! ……大丈夫ですか!?』
 聞こえてきたのはジュノン支社長の声だった。喜びを隠さない彼の声を、リーブはどこか他人事のように
聞いていた。
「大丈夫とは言えませんね、本社はひどい有様です」
『でも統括がご無事で何よりです!』
「……私の身が無事でも、もう……」
 神羅はお終いだと、リーブが告げようとした時だった。
『会社は破たんしましたけど、それは以前から分かっていた事じゃないですか』
 ジュノン支社を舞台にした救出作戦の時から、この事態を見越していた。互いに口に出していないだけ
で、確かにその認識は一致していた。
『統括。さっそくですが今後の方針について――』
「神羅という組織も無くなりましたし、私はもう統括でも何でもありません」
 その言葉の後、ほんの少し間があった。
『私は、あなたが"統括"だから従っていた訳じゃありません』それから、電話口で笑顔を作った支社長は
さらに続けた『さあ、ここからが我々の本領です。違いますか?』。
 リーブは無言だった。
『要はジュノンの時と同じです、今度はちょっとばかり規模が大きくなるだけですよ』

313 名前:7Days (29)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/07/13(月) 02:29:18 ID:jyQVhZMp0]
「……7日しかありません」
『7日もあるじゃないですか』
 その言葉にはっとした。一筋の光明が、進むべき道を照らしていた。
 あの7日間で2人を救い出せたのだから、今度もそうすればいい。世界……とはいかないまでも。
「……そうですね」
 せめてこの都市の人々を。
「7日間、残されていますからね」
 救いたいと思った。
 自分の思いに気がつけば、もう迷うことはない。リーブは目を細めて礼を言った。
「これから、忙しくなりそうです」
『そう来なくては!』

 こうして、次の7日間が幕を開けた。



                                                  ―7Days<終>―


----------
・ティファが目覚めたときにバレットが語った事(メテオ発動からの日数)と、
 宝条戦後、飛空艇でのナナキの発言(メテオ衝突までの日数)がタイトルの所以。
・書きたい事は全部書いたつもりですが、詰め込みすぎたり詰めが甘かったりと不安定さが否めません。
・末筆になりますが、改めて今回の着想の元になった◆X1OReeveGoさん(>>174-187)と、
 ここまで拙文にお付き合い下さいました皆さんに心の底から感謝。ありがとうございました。

314 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/14(火) 00:40:45 ID:1hgc45dW0]
GJ!!!

315 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/15(水) 23:43:47 ID:gfnlqWyxO]
乙!

316 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/16(木) 00:55:46 ID:qDjFgeptO]
乙です
そういやVIIは、なにかと7がキーワードになってたのかな
アーカイブスもあるし、久々にやりたくなってきたわ

317 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/18(土) 02:15:05 ID:g5kjxNB30]
GJ!

318 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/20(月) 05:00:14 ID:QwLwgXTg0]
おつおつ

319 名前:オペラ座の空賊【101】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/07/20(月) 12:15:27 ID:5S5ZfLhL0]
>>291->>294

ヴァンは落ち着きを取り戻したアーシェに笑いかけると、
「よし。じゃあ、鍵を盗むか。」
「え?」
「アーシェが準備してくれただろ?それを使って夜、ここに忍び込む。」
さっき耳打ちされたヴァンの計画だと、もう鍵は必要ないはずだが。
ヴァンはアーシェの考えている事を察したのか、
「いくら自分から捕まるって言ったって、入り口で捕まったらチンピラ扱いで下手したらその場で釈放だろ?」
“捕まる”という言葉にアーシェは眉を顰める。
「そんな顔すんなよ。アーシェだって、俺を牢に放り込んだろ?」
「今と状況が違うでしょ?」
「大丈夫。抜け出す方法ならちゃんと考えてるさ。」
アーシェは半信半疑だが、他に首飾りを手に入れる方法を思い付かない。時間がないのだ。
「…私が鍵を持った警備兵の気を惹くから、その隙に。」
「分かった。」
アーシェは手順を説明すると、
「うまくやるのよ。うっかり名前を呼んだりしたら承知しないから。」
「そっちこそ。」
アーシェが先に立って展示室に入る。
あちこちに散らばっていた子供達を纏めながら注意深く周りを見回した。
さすがに博物館だけあって、厳めしい鎧姿の帝国兵は居らず、軽装の兵士がちらほらと見えるだけだ。
しかし目を凝らすと、軽装のようでいて兵士達は物陰にさりげなく剣を隠しているようだし、
胸元には短銃も忍ばせているようだ。
自ら捕まると宣言したヴァンが撃たれたりしないか心配だったが、そう決めたのはヴァン自身だ。
アーシェも覚悟を決め、改めて兵士達の様子を伺う。
見ると、丁度交代の時間なのか、一人の兵士が敬礼をし、もう一人の兵士に何かを渡している。
(…あれね。)
アーシェは少し離れた所に居るヴァンに目配せをし、子供達を誘導しながらその兵士に近付く。
一方ヴァンは、固唾を呑んで見守る。
不意にアーシェが膝をつき、そのまま床に倒れ伏した。
子供達が口々に“アマリア”の名を呼び、倒れた周りに集まる。
傍に立っていた兵士も驚き、アーシェを助け起こそうとするが子供達が邪魔で近付けない。
「アー…マリア!」
ヴァンが叫んで駆け寄ると、子供達が一斉に道を開き、その輪の中にヴァンを招き入れる。
ヴァンはアーシェを助け起こし、
「悪い!手を貸してくれないか?」
傍で呆然としている兵士は慌てて屈んでアーシェの顔を覗きこんだ。
その隙にヴァンは素早く兵士の腰の小さなポーチの釦を外し、鍵を抜き取った。
「いつもの貧血なんだ…薬を…悪い、支えてやってくれないか?」
「分かった。」


320 名前:オペラ座の空賊【102】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/07/20(月) 12:16:34 ID:5S5ZfLhL0]
兵士は気さくに頷くと、アーシェの背に手を回して支えてやる。
まだ若く、人の良い兵士のようで、心配そうにアーシェの顔を見つめている。
その隙にヴァンは薬を探すフリをしてアーシェに渡された型に鍵を押し付けて型取りをした。
そして、水の入った瓶を取り出し、
「アー…〜〜〜マリア、薬だ。」
と、アーシェの口元に運ぶ。
アーシェは大人しくそれを一口飲み、気怠そうに目を開き、そして目の合った兵士ににっこりと微笑んだ。
兵士がその笑顔に惚けている間にヴァンは鍵を元に戻す。
「ありがとうございました、人が多くて気分が少し…」
「医務室に行かれますか?」
兵士はアーシェの手を取って立たせてくれた。
騙した事に罪悪感を覚えつつもアーシェはは大丈夫です、と微笑みを返す。
「ご親切にありがとうございました。」
兵士はアーシェに軽く敬礼をすると、持ち場に戻って行った。
アーシェも会釈をし、ヴァンも一緒に頭を下げた。が、背を向けた途端、
「おい、ちょっと待ってくれないか?」
二人はぎくり、と足と止める。兵士が二人に歩み寄る。
「な…何か?」
アーシェはぎこちない笑顔で尋ねる。
「いや…あんた、ダルマスカの女王によく似てると思ってね。」
驚いて何かを口走ろうとするヴァンをアーシェは慌てて制して、
「光栄ですわ!陛下は救国の名君であらせられますもの。」
「女王もきれいな方だが、あんたも美人だ。そこを出た階段を降りた所にベンチがある。
そこで少し休んで行くと良い。」
二人は礼を言うと、子供達を連れてそそくさと展示室を後にした。
展示室を出た途端、ヴァンが吹き出した。
「…うるさいわね。」
「だって…アーシェ…自分のこと…」
ヴァンは笑いを堪えるのに必死なようだ。
「なによ、ヴァンだって。」
「なんだよ。」
「何度も名前、呼び間違えそうになってたでしょ。それで怪しまれたかと思ったのよ。」
「あれくらいで分かりっこないって。とにかく…」
ヴァンは満足げに鞄をぽん、と叩く。
「後は夜を待つだけだな。」



321 名前:オペラ座の空賊【103】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/07/20(月) 12:17:25 ID:5S5ZfLhL0]

バルフレア、フラン、パンネロの3人はバーフォンハイムで海の幸を堪能していた。
ただ、レストランに居ても、街中を歩いていてもどうも監視されているようで。
最初はこれ見よがしに両手に花でグルメ三昧を楽しんでいたバルフレアだったが、
行く先々で目を光らせている無表情な男達にいい加減うんざりし、
二人を誘って小さなヨットを借りて、沖へ漕ぎ出した。
水平線に沈もうとしている太陽がきれいで、パンネロはそれを眺めて歓声を上げた。
帝都を脱出してからバルフレアとフランに連れられて、遊んでばかりだし、
朝昼晩とご馳走尽くしでとても楽しいのだが、
「でも、少し太っちゃった。」
「パンネロは痩せ過ぎだ。もう少しぽっちゃりした方がいい。」
「そうかな?」
「でも、踊り子としては失格ね。」
「大変!帰って練習しなくちゃ。」
一頻り笑うと三人の間に沈黙が訪れ、後は波の音だけが聴こえた。
パンネロは舟の縁から身を乗り出し、指先を波に落とし、ぼんやりと海面を眺めた。
「ねぇ、バルフレア…」
「今度はなんのおねだりだ?デザートならもう喰っただろ?」
「もう!デザートの話じゃないの!」
パンネロは頬を膨らませ、バルフレアに正面に座り直す。
勢い良く座ったため、小さなヨットが激しく揺れた。
「…っと、こんな所で海水浴はごめんだぜ。」
「ちゃかさないで。まだ聞いてもいないのに。」
「そういう“前振り”の時の質問はどぉせロクでもない話に決まってんだ。」
「違うわ。真面目な話。」
「お聞きしましょう?」
バルフレアはぞんざいに答えると、寝そべってしまう。
話を聞く態度じゃないじゃないわ、と思いつつも、ここで引き下がれないとパンネロは頑張る。
「あのね、アーシェのこと。」
「女王様がどうかしたのか?」
「アーシェはバルフレアのこと、好きなんでしょ?バルフレアはどうなの?」
「やっぱりその話か。」
またもや女学生のノリでバルフレアはうんざりして海に飛び込みたくなる。

322 名前:オペラ座の空賊【104】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/07/20(月) 12:17:56 ID:5S5ZfLhL0]

「おいフラン、なんとかしてくれ。」
「そうやって、あなたがいつもはぐらかすからでしょう?」
「バカバカしい質問に答える必要があるのか?」
フランはそうねと頷き、艶やかに微笑んだ。
「ただ、今答えないと次に答えるまで質問され続ける、とは思うわね。」
パンネロはほらね!とうれしそうにバルフレアを見下ろす。
「ソーヘンでアーシェが危なかった時も真っ先に助けてたでしょ?
でも、バルフレアはちゃんと言葉にした事ないし、女の子の方から告白しておいて知らんぷりって失礼だと思うの。アーシェもきっと不安なんじゃないかな?もちろん、アーシェは女王様になっちゃったんだし、
気軽にそんな事を言えないかもしれないけど、でもね…」
どうしてこういう話になると、女の子という生き物はぺちゃくちゃと口の回転数が上がるんだ?
大体、帝国軍と反乱軍の大艦隊が集結した場所で大々的に告白とやら(なのか!?)をされた俺はどうなる、とバルフレアが心の中でぼやいていると、
「ねぇバルフレア、聞いてる?」
焦れたパンネロの声で、なんでこんな気恥ずかしい話に付き合わなければならないんだと我が身を呪っていたバルフレアは遂に切れた。
いい加減にしろとでも怒鳴ってやろうかと起き上がり、正面からパンネロを見据える。
が、当のパンネロはバルフレアの怒気を含んだ視線を意にも介さず、目をキラキラさせてバルフレアの返事を待っている。
さすがに毒気を抜かれ、バルフレアは頭を抱えて大きくため息を吐いた。
「バルフレア?どうしたの?」
パンネロは跪いてバルフレアの顔を覗き込もうとする。
バルフレアはやれやれと頭を上げ、パンネロの頭にぽん、と掌を乗せる。
「…お嬢ちゃんには敵わないな。」
「“パンネロ”。」
「そうだったな。」
バルフレアは空を見上げ、そして覚悟を決めて話し始めた。
「…俺とアーシェは何も始まっていないし、これからも始めるつもりはない。」
「それは…アーシェに迷惑になっちゃうから?重荷になるから?」
「少し違うな。アーシェは“自分らしくいたい”って言ってただろ?」
パンネロは大人しく頷く。

323 名前:オペラ座の空賊【105】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/07/20(月) 12:18:16 ID:5S5ZfLhL0]

「俺もそうさ。」
パンネロは首を傾げ、何やら考えている。どうやら納得がいかないようだ。
「それじゃあよく分からないわ。バルフレアがアーシェの事を大事に思っているのは分かったけど、
なんだかはぐらかされたみたい。私、バルフレアの気持ちが知りたいのに。」
バルフレアはフランを見る。フランが“教えてあげて”と瞳で答えたのでやむを得ず、
「いいか、パンネロ。」
パンネロはいよいよ答えが聞けると、膝を乗り出して聞く体制だ。
「たとえ俺がシュトラールを奪われてフランとも引き離されて、身体一つで放り出されたとしても、
それは俺の中に残る物だ。誰にも触らせない。分かるか?」
パンネロは最初はぽかん、とバルフレアを見つめていたが、顔が見る見る赤くなる。
「これで安心した?」
フランに声を掛けられてパンネロは我に返り、慌てて立ち上がると、その背後に隠れてしまった。
「聞いた方が照れてどうする?」
「ごめんなさい…」
「フランなら口に出さなくても分かる。相棒ってのはそういうもんだ。
俺達みたいになりたいなら、もう少し大人になることだな。」
バルフレアのキツい言い方にパンネロはすっかり意気消沈してしまう。
フランから咎める様な視線を向けたが、バルフレアはそれを真っ向から見つめ返し、
「ついでだから聞くが、何を考えている?」
フラン、答えない。
「あそこにヴァンとアーシェが居たのは偶然じゃない。誰かが手引きしないとな。」
パンネロは驚いてフランを見上げる。
「相棒なら、分かるんじゃないの?」
ぴん、とした空気が漂った。パンネロはオロオロと二人を交互に見るしか出来ない。
不意に、バルフレアがふっと笑った。
「……おせっかいなことで。」
フランは表情を変えないが、彼女が纏う空気が緩んだ。
「パンネロ。」
バルフレアに呼ばれて、パンネロはおずおずとフランの背中から顔を出す。
「言い過ぎた。悪かったな。」
パンネロは驚いて顔をぶんぶんと横に振る。
「ううん、私…聞いちゃいけないこと、聞いちゃったから…」
「良い子だな、パンネロは。」
さっきは怒られていたのが突然そんなこと言われても、と戸惑うパンネロがおかしいのか、
バルフレアはくっくと笑う。



324 名前:オペラ座の空賊【106】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/07/20(月) 12:18:48 ID:5S5ZfLhL0]

「アーシェの事が心配で心配で仕方がなかったんだな、そうだろ?」
“そうだろ?”という言葉はフランに向けられたもののようだ。フランが静かに頷いた。
二人の会話の意図が分からず、パンネロは途方に暮れてしまう。
バルフレアとフランはそんなパンネロの様子を楽しそうに眺めながら、
「そろそろ帰るか。」
「そうね。」
いつの間にか辺りは暗くなっていて、港の灯りが星の様に瞬いている。
(きれいだな…)
バルフレアが帆の向きを変え、舵を切ると、ヨットは港に向かって滑り出した。
バルフレアもフランもとても優しくしてくれるのに、
(どうして寂しいんだろう…)
答えは分かっているのに、パンネロはそれを夜の海のせいにした。





深夜を過ぎると、帝都の灯りも徐々に減っていき、人通りも途絶えて来た。
窓から博物館が見える宿から街の様子を伺っていたヴァンは腰に下げていた剣を外し、アーシェに渡した。
「捕まった後で取り上げられたら、女王が可哀想だからさ。」
「丸腰で行くの?」
「アーシェのボウガン、借りてく。使う事はないと思うけど。」
アーシェは昼間の武装していた兵士達を思い出して暗い表情になる。
アルケィディアは法律の整った国家だ。泥棒をいきなり射殺するような事はないと思う。
それでも心配する気持ちを抑える事は出来ない。でも、行くなと言ってもヴァンは行くだろう。
「アーシェ、心配しなくていいって。何かあったら女王が守ってくれる。」
ヴァンがまた見当違いな事を言う。
「一人が不安じゃないの。あなたが心配なのよ。」
ヴァンはきょとん、とアーシェの顔を見つめる。
「なによ?」
「うん…ごめん。気を付ける。無茶はしない。」
「今からする事が、もう無茶でしょう?」
「そうだな…でもさ、頼むから俺と、ラーサーが治めるこの国の人を信じてくれよ。」
ヴァンはボウガンを方に担ぐと、
「心配すんなって!俺、捕まるの結構慣れてるから。」
ヴァンは自慢にもならない自慢を一つして、部屋を出て行った。

325 名前:オペラ座の空賊【107】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/07/20(月) 12:19:03 ID:5S5ZfLhL0]

ヴァンが置いて行った剣が鍔をカタカタと鳴らすのを、アーシェはため息を吐いて見つめた。
「置いてかれて、泣きたいのはこっちよ…」
アーシェはやりきれない想いで窓の外の博物館を眺めた。
警報が鳴り響き、博物館の窓が一斉に灯りを点した。
アーシェは思わず窓際に駆け寄った。
ヴァンが出て行ってから1時間も経っていなかった。
(計画通りなのに、ちっともうれしくない…)
剣は相変わらずその身を奮わせ、カタカタと音を立てている。
「…少しは黙ってよね。」
アーシェは剣をベッドの中に突っ込み、更にその上から部屋にあるだけの枕を乗せた。
が、静まった部屋は余計に寂しくて、アーシェは慌てて枕をどけて、ベッドの中から剣を取り出した。
再び鳴り出した剣に、
「出してあげたんだから怒らないでよ。文句があるならヴァンに言って。」
尚もやかましく鳴り続ける剣。
「…そんな事ないわよ。…心配だから怒ってるの。分からない?
それに、あなたの首飾りのためでもあるんだから。」
ここでアーシェは我に返り、まじまじと見つめた。
「やだ…いつの間に私まであなたと話せるようになってるのよ!」
しかも、剣を相手に真剣に口喧嘩して。
アーシェはげんなりしてしまい、ベッドに潜り込んだ。
そして、鳴り響く警報の音と、鳴り止まない剣の音を聞きたくなくて、頭から枕を被ってしまった。

326 名前: ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/07/20(月) 16:51:47 ID:5S5ZfLhL0]
すいません、つづきます。(´・ω・)

327 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/21(火) 11:08:13 ID:xQ+2/Akq0]
乙!

328 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/23(木) 01:45:38 ID:hCcW175Z0]
GJ!

329 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/23(木) 23:51:14 ID:hP+lB35EO]
乙!

330 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/25(土) 20:15:31 ID:lCStwpqu0]
おつ



331 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/27(月) 18:20:24 ID:G6WKmhGK0]


332 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/28(火) 20:57:56 ID:Hhgmo4jI0]


333 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/07/31(金) 00:49:46 ID:C7lE8rx30]
>>319-325
> 「そうだな…でもさ、頼むから俺と、ラーサーが治めるこの国の人を信じてくれよ。」
…ここ感動した。
「あれ、ヴァンってこんなに良いヤツだったっけ?」と、◆WzxIUYlVKUさんの話を読むといつも思います。
氷の女王(剣)は、アーシェの心中を反映してる様にも読めますね。
国を治める者としての自覚から、本音を口に出せない部分の象徴というか。この辺は境遇が同じだから
かも知れませんが。続き楽しみにしてます。

334 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/02(日) 04:01:35 ID:mebtQwav0]


335 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/04(火) 19:00:38 ID:OBOxFY570]


336 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/05(水) 05:31:13 ID:tb4gzHWX0]


337 名前:105 ◆F.hvLY.PDA mailto:sage [2009/08/05(水) 14:14:05 ID:cf2HfTsp0]


338 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/06(木) 16:12:08 ID:8UvVBmp60]


339 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/08(土) 02:03:17 ID:lubvNuf20]


340 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ [2009/08/08(土) 08:38:05 ID:wA09etHNO]
ガールネクストドア



341 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/09(日) 12:40:13 ID:ihZng3iwO]
トナリのカノジョがどうした

342 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/10(月) 19:20:43 ID:4OdyCbwY0]


343 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/12(水) 07:22:52 ID:5gV8Vqh60]


344 名前:ラストダンジョン (314)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/08/14(金) 02:47:38 ID:RNEfeONN0]
前話:>>169-170
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 切り立った岩山に囲まれた峡谷が夕暮れ色に染まり始める頃、ナナキはいつものように家路に就く
ため岩場を歩いていた。この頃まだ体の小さかったナナキは、跳び越えられない大きな岩山を迂回
するために、途中から村人達と同じ道を使っていた。コスモキャニオンへ向かう人が通れるほどの道は
ここしか無く、頻繁ではないにしろ人の往来のある場所だ。だから先程も後ろの方で人の気配を感じた
が気にすることはしなかった。そんなことより減ったお腹に急かされて足を速めた。
 その直後、物音がして振り返った時には誰もいなかった。道端には、誰か分からない人が持っていた
らしい本が落ちていた。

 ――「モンスターと出会ったらすぐに逃げましょう。そして大人に知らせましょう。」

 落ちたときに開いたページには、ナナキもよく知るモンスターのイラストが描かれていた。添えられた
説明文の最後の行を読んで、ナナキは事のあらましを理解した。きっと自分はモンスターに間違えられた
んだ。本の持ち主はナナキの姿を見て逃げ出し、この本を落としていった。だとしたらこの本の持ち主は
谷の人ではない、谷のみんなはモンスターと間違えたりしないからだ。
 モンスターと間違えられて良い気分はしなかった。だけど、仕方がないことだと思った。自分と谷の
みんなは、確かに違うから。
 道端に落ちていた本を拾おうとするが、前脚だけでは上手く持ち上げることが出来なかった。持ち上げ
ようとする度にぱらぱらと捲られるページには、ナナキが知らないモンスターも載っていた。

345 名前:ラストダンジョン (315)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/08/14(金) 02:50:46 ID:RNEfeONN0]
 そうするうちにナナキは本を拾うことを忘れ、その場に腰を下ろすと前脚でページをめくり続けていた
――もしかしたら、他のページに自分が載っているかも知れない。この本の持ち主は、それで逃げ出し
たのかも――心の中に湧き出した小さな不安は、やがて大きな焦燥となってナナキを呑み込んだ。


 結局この日、ナナキがコスモキャニオンに帰り着いたのはすっかり夜になってからだった。
 いつもより帰りの遅いナナキを心配していた谷の住人達に、帰途でのいきさつを話すと盛大に笑われた。
「なんだよ、笑うことないじゃん!」
「すまんすまん」そう言いながらも込み上げてくる笑いを噛み殺しているのが分かった。ナナキはムッと
した声になる。
「オイラは真剣に考えてるのに……」
「でもナナキをモンスターと間違えるなんてね」今度は別の住人が穏やかに言う。
「ホント、失礼しちゃうわよね。ナナキってこんなに可愛いのに」
 通りがかった住人に頭をなでられて、ナナキは嬉しくも悔しい複雑な気持ちになった。みんながそう
言ってくれるのは嬉しいけれど、母のように谷を守る勇敢な戦士にはほど遠く、ちょっと格好悪い。
 ナナキの様子から心中を察したのか、頭をなでていた女性は屈んで視線を合わせると続けてこう
言った。
「でも、谷の外の人はナナキの事を知らないものね。だからきっと、ビックリしちゃったのよ」
 『星命学』を求めて、この谷には他の地域からもたくさんの人々が訪れる。その中にはナナキのことを
知らない者もいるだろう。初めて遭遇した事態に驚いてしまうのは無理もない。だからナナキも気にする
ことは無いのだと言って、彼女は尚もナナキの頭をなでていた。
「……うん。オイラもあの本の中に知らないモンスターがいたよ」
「モンスターにもたくさん種類がいるからなあ。もしかしてナナキが見た本ってこれかい?」
 そう言って住人が取り出したのは『モンスター図鑑』と銘打たれた本だった。中を開いて見せてもらうと、
確かに落ちていたのと同じ物のようだった。
 彼によるとこの本は地域を問わず広く出回っている物で、彼自身も遠出する際に目的地周辺のモンス
ター対策にと購入したのだと言う。各ページにはカラーイラストで描かれたモンスターの外形に、生態に
ついての詳細で分かり易い説明が添えられている。当初は子ども向けにと製作されたが、売り出されて
からは旅支度を進める大人の需要も高かった。
「モンスターは生息地域によっても特徴が異なるから、遠出前の準備は大切なんだ」彼はそう言った。
それは、余所からここを訪れる人々も同じだ。
 それを聞いたナナキは、ふと疑問に思って顔を上げた。
「ねえ、オイラとモンスターの違いってなんだろう?」
「ん?」

346 名前:ラストダンジョン (316)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/08/14(金) 02:54:21 ID:RNEfeONN0]
 唐突な質問に、その場にいた住人達は互いに顔を見合わせた。ナナキはモンスターじゃない、この
認識は一致している。だが、改めてその根拠を説明するとなると、相応しい言葉が見つからなかった。
いつの間にかわいわいと住民同士で議論が交わされる中で、ナナキも思うことを口にする。
「オイラが人の言葉を理解しているから?」違う。野生の動植物は人の言葉を理解してないけど、
モンスターじゃない。
「じゃあ、人を襲うからモンスターなの?」それも少し違う。モンスターが襲うのは人ばかりではないし、
野生の獣も時には人を襲う事だってある。
「モンスターかどうかは、人が決めるの?」
 この言葉に、今度こそ住民達は返す言葉に詰まって無言になってしまう。確かに『モンスター図鑑』を
作っているのは人だけど、人がモンスターと決めつけているのとも違う。それはどこか感覚的なもので
あり、こうして問われてみると、どれも不確かな答えに思えてくる。
 静まりかえった輪の中で、ナナキの腹が“ぐう”と小さく鳴った。
「おいおい、俺は真剣に考えてるってのに……」手を額に当てながら、芝居がかった口調でひとりが
言うと、住民の間に笑いが起きた。話に夢中になるあまり今まで気付かなかったが、もうすっかり夜も
更けている。
 ナナキもその音でようやく、自分が腹を減らして帰途を急いでいた事を思い出す。
「……お腹、すいたな……」
 思い出してしまうと急に襲ってきた空腹に耐えきれなくなって、ナナキはその場にへたり込む。食べ物を
持ってくると慌てて駆け出した住民の一人が、階段の上に佇む人影を見つけて立ち止まる。それを見て
いた皆が、視線を階段の上に向けた。
「ホーホーホウ。なんじゃ、皆で楽しそうな話をしておるの?」
「……じっちゃん!」
 のほほんと佇むブーゲンハーゲンの手には、大皿に載ったナナキの晩ご飯。帰りが遅いのを心配して
いたのは彼も同じだったようだ。
 それから階段を下りたブーゲンハーゲンは、その場にいたナナキや住民達からこれまでの話を聞くと、
笑顔で大皿を差し出した。
「皆、難しく考えすぎておるようじゃの。ちょうど良い、わしが今持って来たこれが答えじゃよ」
 ナナキをはじめ住民達の視線が、一斉にブーゲンハーゲンの差し出す大皿に向けられる。大きな葉物
の上には、簡単な調理が施された数種類の豆や肉、果物が載っていた。それでもとっさには理解できず、
皆が顔を見合わせる。
「わしらは皆、他の命を糧にしておる。それは種を問わず共通している命の営み、ひいては星を巡る循環
の一部なんじゃ」
 植物にせよ動物にせよ、生物は皆なんらかの形で他の命を糧に生存を維持し、また自らの生命も他の
命の糧になる。そこに善悪という概念は存在せず、この連鎖こそが星命学の基礎にも繋がる星の生命
循環システム――ライフストリーム概論――である。
「モンスターはただ無意味に他の命を奪う。それは自らの生命を維持するためではなく、彼らの殺戮行為
は何かの糧になるわけではないのじゃ」
 ブーゲンハーゲンの差し出す皿の上に盛られた食材に、改めて目をやった。ナナキの生存――成長に
は、他の命が必要だった。ナナキや人がそうであるように、野生に暮らす獣もまた、この循環の中で生き
ている。
 そう考えると納得だ。住民達もおお! と声を上げる。

347 名前:ラストダンジョン (317)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/08/14(金) 03:02:40 ID:RNEfeONN0]
「やっぱじっちゃんは何でも知ってるんだね!」
「こらナナキ! 食べながら喋らないの!!」そう言って女性が大皿を取り上げると、彼女の後をナナキ
が追いかける。
 まるで親子のような遣り取りを交わす住民達を微笑ましく思いながら、しばらく彼らを見つめていたが、
やがて輪に背を向けるとブーゲンハーゲンは夜空を見上げた。頭上でまたたく星々もまた、この星と
同じく生と死を繰り返す循環の中にある。
 他と違い、モンスターが殺戮本能のみで他者の命を奪っていても、その生命エネルギーはライフ
ストリームへ還元される事には変わりない。人やその他の生物が生存本能に従い、モンスターの脅威に
対抗すべく知恵を発達させ進化を遂げて来たのも、言ってみればモンスターという脅威があってこその
結果だ。こうして互いが影響し合っている点を考慮すれば、モンスターでさえ星を巡る生命循環システム
の一部として正常に機能しているとも言える。
「自然の流れの中でこそ、本来の役割を果たす。その循環から外れるものはない」
 視線を下ろすと、夜陰にひときわ黒く浮かび上がる岩場を見つめた。
 すると今日、ここを訪れた者達の後ろ姿が脳裏に浮かんだ。
「循環から逸脱した存在など、あってはならないのじゃ」
 彼らの言う“無機物に生命を吹き込む異能力”と、その力を自在に操れる“異能者”。そんな物が本当に
あるのだとすれば――

「その者こそが、真の意味でモンスターなのじゃろう」
 谷を去る彼らを送り出した時と同じ言葉を、もう一度つぶやいた。

----------
・唐突に再開。それにしてもナナキはよくモンスターに間違えられています(作者の主観と経験のせいで)。
・“星命学とインスパイア”というのは、実はこの話の根幹だったりして。

348 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/14(金) 03:15:04 ID:iLEX2RQb0]
GJ!

349 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/14(金) 18:34:12 ID:evXJcqW8O]
投下乙です
なるほどそういう考察もあるのか!とリアルに感嘆してしまった
あんまり深く考えなかったが、確かに星命学とリーブって矛盾してるんだなぁ…

350 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/16(日) 16:10:18 ID:iuT7rtrg0]
GJ!



351 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/18(火) 05:26:32 ID:XQ+TBqzp0]
乙!

352 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/20(木) 01:35:15 ID:Kq/GiIl90]
乙乙

353 名前:ラストダンジョン (318)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/08/20(木) 04:37:09 ID:K9iO7p8W0]
前話:>>344-347
(場面は前々(Part7)スレ578-583の続き)
----------


 再び乗り込んだエレベーターの中は、耳を澄ませば辛うじて聞こえる程の機械音を除けば、後は
静寂に満たされていた。
 日頃から喧噪を好まないヴィンセントにとって、ここは居心地が良いとまでは言わないが都合は
良かった。しかし静寂は、時として迷走する思考を悪い方向へ加速させる事がある。
 壁に背を預け、黙って腕を組んでいたヴィンセントの脳裏には、つい今し方まで見ていた光景が
断続的に再生されていた。
 記憶によって忠実に再現された銃声の後、瞼の裏に現れたのは無表情に佇むリーブの姿だった。


 ――「私がインスパイアの制御下から外れるためにはこの方法しかない」
 抑揚もなく告げた後それは床に倒れ鈍い音を立てるも、痛みや苦痛に表情を歪める事なく真っ直ぐに
ヴィンセントを見据えていた。
 やがて壊れかけた人形は、願いと共に最後の言葉を託す。
 ――「彼を救ってください」


 思い起こされた言葉に息を呑み、柄にもなく肩が震えた。とっさに瞼を開けて顔を上げると、閉ざされた
エレベーターの扉だけが見えた。ここにいるのはヴィンセントだけで、彼の他には誰もいないし何もない。
その事実を再確認すると安堵した。それから誰に聞かせるというわけでもなく、ヴィンセントは自嘲気味に
つぶやいた。
「……今さらだな」
 銃を撃つ事なんてこれまでにも散々やってきた筈なのに、たとえ精巧に出来た人形だったのだとしても、
それでも人を撃つのはいい気がしない。ましてそれが仲間であるなら尚更だ。しかしそんな感情を持つこと
さえ、自分にとっては「今さら」なのだとヴィンセントは思う。カオスを身に宿すよりも前、タークスとして
神羅に籍を置く頃から命の遣り取りに関わってきたのだから。

354 名前:ラストダンジョン (319)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/08/20(木) 04:47:19 ID:K9iO7p8W0]
 このとき瞬間的に脳裏に浮かんだのは、フロアを去る直前に向けられたリーブの声だった。

 ――「私の目的は他でもない、みなさんの力をお借りする事です。」

 彼の言葉を思い出して、ヴィンセントは今度こそ自嘲せずにはいられなかった。
「お前の評価は適正だな。……なるほど、そう言うことか」
 あのときリーブが言わんとしていたこと、言外に含まれた恐ろしい彼の真意を、ようやく理解したからだ。
「所詮、私の持つ力は戦いでしか役に立たない」悪であれ善であれ、力を向けた先にあるものの命を奪う
か、破壊することしかできない「確かに適任だ」。
 いつしか周囲から『ジェノバ戦役の英雄』と呼ばれていた事を気に留めたことは無かったが、この先たと
え留めたとしても、ヴィンセントがそれを誇らしく思う事は一度として無いだろう。
 彼らの言う『英雄』が実際にやっていた事と言えば、自分に害を及ぼそうとする敵性体の殲滅でしかない。
そうして結果的に星が存続しただけの事。ブーゲンハーゲンがこの世にいれば、恐らく同じ様に言った
だろう。我々は英雄でもなんでもない、そこまで自惚れていられるほど、楽観的な思考は持ち合わせて
いなかった。
 それは他の仲間達も同じだった。旅を通して、あるいは旅を終えた後も各々がそれぞれの現実と向き
合い、少なからず苦しんできた。もちろんリーブも例外ではない。むしろ彼の場合は魔晄都市開発という
形で、自分が元凶の一端を成していたと考える向きがある様に思えた。しかしリーブ本人がそれを口に
した事はない。ただ彼は『英雄』という肩書きさえも利用して、自分の起こした不始末を清算しようとさえ
する。その1つの形がWROだ。
 逞しくもまた強かに生き、仲間達の誰よりも先んじて世界の復興に力を注いできた。それは彼の贖罪
行為なのか、それとも果たすべき役割であると己に課した義務なのか。いずれにしても楽な道で無いのは
想像に難くない。そうする動機を本人に尋ねたところで、本意が聞ける事も無いとは分かっているし、この
先も聞く機会はないだろう。ただヴィンセントの目には時折――覚悟と呼ぶにはひどく機械的で無機質な
――本人の意思ではない、まるで何かのシステム、歯車の一部として動いている様に映った。私欲がな
い、と言った方が妥当なのだろうか。
 人の能力・適性を見極め、適所に配置する。配置するだけではなく、その人自らが能力を発揮するよう
鼓舞する――それを常に念頭に置いてリーブは振る舞っている。局長の言動としては正解だが、同時に
無機質さを感じる所以だろうとも思う。
「だが今回に限って言えば、お前の言う“依頼”を受ける我々の感情は、お構いなしという訳か? それと
も――」
 それほど事態は急を要するという事なのか? いずれにしても、この先へ進むには今まで以上の覚悟
が必要だと言うことは分かった。

355 名前:ラストダンジョン (320)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/08/20(木) 04:50:59 ID:K9iO7p8W0]
 仕向けられた無人兵器も、中途半端に仕掛けられた戦闘も、その覚悟を試すためであったと考えれば
得心が行く。脳裏には再びリーブの言葉が蘇る。

 ――「それも“全力”をお借りしたいのです。その為に、もう少しだけ本気になって頂く必要がありました」

(引き受ける以上、こちらも手抜きをするつもりはない)
 エレベーターが減速を始めたことを音と体感で知ったヴィンセントは、再びホルスターから銃を取り出す
と、操作盤を背にして扉の横に並び立つ。
(だが――)
 ポン、という機械音がフロア到着を告げる。ヴィンセントは身体を反転させ、ゆっくりと開き始めた扉の
先に銃口を向けた。

(こんな役を引き受けるのは、私一人で充分だ)

 決意と銃口を向けた先には、エレベーターの到着を待っていたもう一つの決意と銃口がヴィンセントを
出迎えた。



----------
・まとめページの連番で言うと13-3の続きです。
・投下に丸2年以上かかってますが、話中の時間は10分も経過していないという…。
 ここまで長らくお付き合い頂けてるだけでも、有り難くも申し訳ない思いです。
・でも書く速さはこれが限界なんだ! …短くてすんません。ああこんな時インスパイア能力あれば仕事中でも(ry

356 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/21(金) 14:04:15 ID:9pqbjja30]
GJ!

357 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/23(日) 18:42:09 ID:yfnHkwqk0]
乙!

358 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/26(水) 18:41:40 ID:/SCxetIk0]
GJ!

359 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/28(金) 11:09:56 ID:JmqqdjUq0]
おっつー

360 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/30(日) 01:01:04 ID:WY3seQYB0]
乙です
リーブガンガレ!ヴィンセントガンガレ!



361 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/08/31(月) 22:22:07 ID:/LJtKeBB0]


362 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/02(水) 11:56:03 ID:Aar6eGpB0]


363 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/03(木) 01:14:12 ID:haN/suRr0]
さん?

364 名前:ラストダンジョン (321)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/09/03(木) 22:17:17 ID:jB7sz2aG0]
前話:>>353->>355
----------

 ヴィンセントの肩が揺れる。
 それは正面から至近距離に突きつけられた銃口への恐怖ではなく、その持ち主の姿を見た困惑と、
なにより驚きだった。それでもヴィンセントが躊躇わずに銃を下ろしたのは、向き合った人物に覚えと
信用があったからだ。
「……シャルア、か?」
 呼びかけてみたものの返答はなく、目の前に立ちはだかった女性からは依然として鋭い視線と
銃口を向けられたままだった。
 この時ヴィンセントの脳裏には彼女と初めて出会った3年前の光景が重なった。霧雨の降りしきる
無人のエッジで、今と同じようにして銃を向け合った。それが彼女との最初の出会いだった。白衣の
下は黒いスラックスに袖無しのブラウスという、以前と比べてだいぶ慎ましい服装になった事を除けば、
当時と何も変わっていない。
「本当にシャルアなのか?」銃を下ろしても尚、ヴィンセントは訊かずにいられなかった。3年前、彼女は
WRO本部に侵攻したディープグラウンドとの交戦において重傷を負い、医療班から「奇跡でも起き
なければ目覚めない」と宣告された事を知っていた。さらにWRO本部が陥落した後、延命装置ごと
移動した飛空艇シエラ号も墜落して以降は、消息不明となったままだった。シャルアの生存に肯定的な
要素が限りなくゼロに近い状況では、再会の喜びよりも先に、疑問が口をつくのはごく当然の事だった。
この再会はまさに“奇跡”であり、人が“奇跡”と呼ばれる現象に遭遇したとき誰もが最初にする反応
だった。
 問われたシャルアは苦笑混じりに銃を下ろすと、こう返した「私が人形だとでも?」。
 うっすらと汗の滲む額を見れば、彼女が人形でないことはすぐに察しがついた。ヴィンセントは首を
振るとこう返す「ここでは笑えない冗談だな」。
 やれやれと溜め息を吐くヴィンセントに、シャルアは苦笑したままで尋ねた。
「……本物の局長には、まだ?」
「その言い草からすると、我々よりもここの事情に詳しいようだな」
「それはない」そう言ってシャルアは片手をあげる。「まして、あんた達の様に呼ばれて来ている訳では
ないしな」

365 名前:ラストダンジョン (322)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/09/03(木) 22:21:16 ID:jB7sz2aG0]
「呼ばれた?」
「ああ。あんたの事だ、もう気付いてるんじゃないのか?」
 問われたヴィンセントの表情が僅かに曇る。まだ憶測の域を出ていない、それでも自分達がここへ「呼ば
れた」事実とその理由に、おおよその見当がついたばかりだった。
「……では、やはり?」
「舞台となるこの建物を設計、建造した張本人が、この難解なシナリオの作者だろうな。あんた達は出演
者、それも主演として選ばれたってわけだ。私はエキストラに過ぎない」
 そして、エキストラは台本を持たない。シャルアはそう言って笑った。
「てっきり、このシナリオの結末を知っているものと思ったが?」
 ヴィンセントの問いにシャルアは首を振った。
「言ったろう? 私はエキストラだ。シナリオの結末どころか、全容すら知らされる事はない」
 シャルアの言葉を受けて、ヴィンセントは反論する。
「もし君の言うとおりならば、我々こそエキストラだ」
 確かにここへ呼ばれてはいるものの、台本どころか詳しい状況を聞かされていないのだ。これまでに
起きた出来事から結末を推し量っても尚、そこに必然性は見出せないし納得のいく結末でもない。こんな
シナリオを書いた脚本家がいるのなら、直に会って文句の一つも言いたくなる。
「では……」シャルアは頭上に視線を向けながら呟いた。「出演者に渡されているのは、すべてシナリオ
の断片でしかないと?」
「およそ科学者らしい発想とは思えないが、今のところ私の見解も同じだ」
 一連の事態がシナリオに沿って引き起こされたと言うのであれば、この舞台の主役はいったい誰なの
だろう? ふとそんな疑問が頭に浮かんだ。


 エレベーターを降りてシャルアの横に立つと、ヴィンセントは周囲に目をやった。先ほど降りた階と代わ
り映えの無い薄暗いフロアが広がっている。ただ幸いにも、ここには物騒な出迎えは無さそうだった。
「ところでシャルア、君はなぜここへ? それにシェルクはどうした?」
 “建造中の施設に閉じこめられた”と最初にもたらされた報の真偽は別として、ヴィンセント達は確かに
ここへ招集された。しかしシャルアの口ぶりからすると、彼女は別の経緯があってここにいるらしい。
それに3年前の当時、自らの命とまで言っていた妹について触れていない事を少し不自然に感じた。
確かユフィに聞かされた話では、シェルクは消息を絶った姉を捜しに行くと2年前にWROを出て行った
筈だった。その事をシャルアが知らないと言うのも妙だ。
 何か事情でもあるのかと尋ねると、シャルアはここへ至る経緯を語り始めた。

366 名前:ラストダンジョン (323)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/09/03(木) 22:29:19 ID:jB7sz2aG0]
 飛空艇の墜落現場で目覚めてから、シャルアは真っ先にWRO本部を目指そうとした。程なくしてWRO
の捜索隊と合流し、その目的は達せられた。ところがシャルアが到着した頃、一足違いでシェルクが既に
機構の施設を出た後だったと知らされる。
「どうやら私はあの場所で、1年ほど過ごしていたらしい」
 局長の話によると、魔晄依存症の治療を終えたシェルクは行方不明のままだった姉を捜すためにWRO
の捜索隊には加わらず、機構を出る事を申し出たのだと言う。恐らくそれはシェルク自身で自立を目指そう
とする意識の表れであり、リーブとしては影ながらその支援をしたい。と、シェルクを送り出した意図と
今後の方針を聞かされた。
 療養も兼ねて半月ほど本部に滞在した後、シャルアは機構を出た妹の後を追う事にした。シェルクの時
と同様に、局長はその申し出を快諾した。
 そこまで話し終えたシャルアはしばらく黙り込んでいた。その姿を無言で見つめていたヴィンセントに顔
を向けると、やがて重い口を開く。
「……WROには、3年前の戦役に関するあらゆるデータが残されている」言葉を選んでいる様にも聞こえ
たが、シャルアにしては珍しく歯切れの悪い話しぶりだとヴィンセントは思った。しかし続く言葉を聞いて、
その理由を理解した。
「保護したディープグラウンドソルジャーの治療経過だけではなく、3年前の交戦記録や、ツヴィエートの
個体データ。……カオスの覚醒とオメガ顕現についての記録も、すべて」
「ああ、知っている」
 ヴィンセントは努めて穏やかな口調で返した。「私への気遣いは不要だ」と、言外に含まれた意図を察し
たシャルアは顔を上げると、頷いて見せた。
「私が異変に気付いたのは、本部に滞在してしばらく経ってからの事だ」
「と言うと?」
「データベースには、兵士の治療に利用するためディープグラウンドから引き上げた各種のデータも含ま
れていた。1日に照射する魔晄の量や時間、施された実験の内容や頻度。そう言った物が細かく分類され
ライブラリに保管されていたんだ。しかし、その中からSNDに関する記録だけがそっくり消えていた」
「SNDの?」
「ああ。それに……」
 シャルアは取り出した自身の携帯電話の画面をヴィンセントに示しながら、こう告げる。
「シェルクの行方について、局長は私に知らせなかった。そればかりか、シェルクにも私のことを一切
告げていない」
 画面には、シェルクが姉宛てに出し続けていたメールが表示されていた。姉を捜しに機構を出たという
シェルクは、実際には姉が保護された後しばらく本部に滞在していた事実を知らされておらず、今なお
姉を捜し続けている事が文面から分かった。
「私がこうして生きていると言うことは、メールを受信している事からも察しがついているだろう。ただ、
シェルクが妙なことに巻き込まれている様な気がして、返信を出すことが憚られてな」
 そこへ追い打ちをかけたのが、シェルクからのメールに記された『システムの星還』という言葉だった。
それはシェルクがWROのデータベース内で見つけた残滓から唯一読み取れた単語だと書いてあった。
「実は3年前、WROの調査団と共にディープグラウンドに関する資料調達のために神羅ビルへ出向いた
ときの事だ。あのとき私は、恐らくシェルクが見たものと同じ物を目にしていた。それは『星還論』と名付け
られた未完成の研究論文だ」
「星還論?」

367 名前:ラストダンジョン (324)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/09/03(木) 22:39:57 ID:jB7sz2aG0]
 そんな言葉、今までに一度も聞いたことがない。話の先を促すようにヴィンセントは頷く。
「著者も時期も不明。手がかりになるのは年代順に保管された様子からルクレツィア・レポートと同じ頃か、
フォーマットからすると作成はその少し前の物だろう。扱っている題材からして実在するかも分からない
ものだし、内容はどれも仮説を元にした推論だけで検証が一切されていなかった。それらが原因で論文
としては価値のないものと判断され、データ化もされないまま書庫に眠っていたのだろう」
「内容は分かるのか?」
 ヴィンセントの問い答えるべく、シャルアは論文の一節を口にした。

 ――『インスパイア』とは、
    ライフストリームによる生命循環システムから逸脱した存在であると同時に、
    この星の内部を巡る生命循環システムを超越した存在であると仮説する。
    また、インスパイア因子を持つ変異体を『インスパイヤ』と呼称する。

「インスパイア……?!」
「そう、局長の持つ異能力。それに関する論文が、既に40年以上前に出されていた事になる」
 星還、それがキーワードだった。
「WROのデータベースから消えたSNDの実験データ。残滓としてのみ確認された『星還』という言葉。
未完成の論文……。確証はない。だが、何らかの形でこれらに関係性があるのではないか? だとしたら」
 ヴィンセントが頷く。
「この件にはシェルクも関わっているのかも知れない。彼女も知らないうちに、な」




----------
※それぞれは以下から続いてる話です。長くなったのでまとめました。
・シェルクの近況……(ユフィに聞かされた話としてPart7:188辺り。まとめ6)
・姉宛のメール………(Part7:157-158辺り。まとめ5-2)
・『星還』……………(Part7:360 / Part8:72。まとめ10-1/18-3)

・シャルアの服装……作者の好み。
・「いやーさがしましたよ」とは、書いててふと過ぎった台詞。

368 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/04(金) 23:08:46 ID:IDhoXB7TO]
GJ!

369 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/05(土) 16:04:58 ID:5xFh84q70]
乙!

370 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/06(日) 23:39:18 ID:htMXbdcqO]
乙!



371 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/08(火) 16:49:24 ID:Vh2qZ4D50]
乙!

372 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/10(木) 21:49:21 ID:abAIQCgl0]


373 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/11(金) 23:52:48 ID:2ruoQ8MuO]


374 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/13(日) 01:45:55 ID:WxgYly6x0]


375 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/14(月) 19:36:13 ID:u2M5M/2N0]
ri

376 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/15(火) 20:58:45 ID:0ARdpOb50]


377 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/17(木) 10:05:54 ID:Fj9/oLVS0]


378 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/17(木) 16:57:21 ID:VWQTynNuO]
前々スレあたりからずっと、◆Lv.1/MrrYwさんのまとめサイトを探しているんだが、未だ発見ならずorz
どなたか探すヒントをいただけまいか……

379 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/19(土) 19:19:52 ID:3feNgoEN0]


380 名前:オペラ座の空賊【107】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/09/19(土) 23:52:37 ID:vd/1paTH0]

>>319->>325から続きます。

そんなアーシェの心配を他所に、ヴァンは予定通り博物館に忍び込み、
予定通り捕らえられ、予定通り牢に放り込まれていた。
ヴァン自身が言った通り、捕獲された時は床に引き倒されたが、概ね紳士的に扱われていた。
もっとも、ヴァン自身が暴れたり、挑発的な態度を取ったりしなかった事もあるのだが。
「牢も広いし、明るいし。」
アーシェにお仕置きで放り込まれた所と比べて、暢気にそんな感想を漏らし、牢の端にあるベッドに横になった。
そして、パンネロの事を考えようと思った。
ソーヘンで見たのは走り去る後ろ姿だけだった。
ヴァンの好きな踊り子の服ではなく、見た事のない白いドレスを着ていた。
パンネロの事を考えないようにしていたのは、パンネロがバルフレアの名前を口にした時の、
あのわけの分からない感情に支配されるのが怖かったからだ。
あの感情は、自分を自分ではないものにして、ヴァンを操っていた。
自分でも理解出来ない心の動きはヴァンにとっては未知の物で、とても恐ろしいものだった。
でも、今は考えなくてはいけない。深呼吸をして思い出してみる。
(そう言えば…)
似た様な苛立を感じた事があったような。
魔石鉱でパンネロの手を取ったラーサー、ビュエルバでバルフレアにハンカチを返した時とか。
もっと遡れば、子供の頃、友人達にだし抜かれてパンネロと遊べなかった時とか。
(待てよ、これじゃあ俺がパンネロにヤキモチ妬いてるみたいじゃないか…)
ヴァンは赤くなり、頭を抱えた。
(待てよ…)
確かにパンネロがヴァン以外の男と仲良くしているのを見るのはおもしろくなかった。
でも、あの時の感情の昂りは我ながら常軌を逸していた。
(アーシェは平和になったから…って言ってたっけ…)
考える事が苦手なヴァンだが、必死で考える。
(ガキの頃に戦争が始まる前…と、旅をしていた時とその後…)
自分の中で何が変わったのだろう?
(さっぱり分かんねーや………でも。)
ヴァンは天井を眺め、ふぅ、と大きく息を吐いた。
「パンネロに、会いたいな。」
いつも一緒に居たのが、離れると身体の半分を持っていかれたかのようだ。
ヴァンは起き上がると膝を抱えた。そうでもしないと、寂しくて心細くて。
今のヴァンに分かった事はそれだけだ。
(でも、それじゃあ答えになんねーし…)
これではアーシェとの約束を果たせそうにも無い。



381 名前:オペラ座の空賊【108】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/09/19(土) 23:53:11 ID:vd/1paTH0]

もやもやした気持ちを持て余し、ヴァンはゴロリと寝返りを打った。
と、通路の方からガチャガチャと鎧兵が走って来る音が聞こえてきた。
「のんびり考える時間もないな。」
ヴァンは立ち上がると、牢の扉のすぐ横にぴったりと身体を寄せた。
鎧兵が扉の前で立ち止まり、乱暴に鍵を差し入れられる。
すぐに乱暴に扉を開き、「おい、小僧!」と鎧兵が叫んで足を踏み入れた所で、
ヴァンは素早くその前に回り込み、「探し物は、コレだろ?」
と、牢に放り込まれる前に鎧兵からくすねた鍵を目の前でちらつかせる。
「貴様!」
鎧兵が殴り掛かるのを素早く屈んで身を躱すと、
ヴァンは伸び上がる反動で鎧兵のマスクをひょい、と左手で持ち上げ、
現れた顔ににやりと笑いかけると同時に、眉間に強烈なパンチを食らわせた。
鎧兵がぎゃっ!と叫んで仰向けに倒れると、その両足を抱えて牢の中に引きずり込んだ。
「気付くのが遅過ぎんだよ。」と嘯くと、鎧兵から鎧を脱がせ、自分の身に着ける。
「どうせ遅いなら、俺がもう少し考えてからにしろよな。」
最後に手甲を着け、通路に出て鍵を閉める。
「ま、俺の事だから考えても分かるかどうかは怪しいけどな。」
そう言い捨てると、意気揚々と通路に足を踏み出した。
さて、どうやって9局の“ジャッジ・ガブラス”の所に行くか。
(バッシュのことだ。もうこの中に来ているに決まってる。)
ヴァンはそうアタリを付けると、自分がここに閉じ込められるまでに辿った通路を思い出す。
確か入り口のホールの左右に緩やかなアーチを描きながら2階へと続く階段があり、
その階段を上った所に豪華なステンドガラスがはめ込まれた扉があった。
「あそこだな。」
ヴァンはずらりと並んだ牢の扉の前を通り抜けて入り口へ向かう廊下に出た。
と、反対側から別の鎧兵がやって来た。
「おい、鍵は見つかったのか?」
ヴァンは無言で鍵を取り出して見せる。
「罪人はどうした?」
ヴァンは焦った。どう答えたものかと考えていると、
「急げよ。ジャッジ・ガブラスがお待ちだ。くれぐれも他の奴に見られるなよ。」
それだけ言い残すと、鎧兵は元来た方に戻って行った。
ヴァンは元来た道を戻る振りをし、鎧兵の姿が見えなくなったのを確認し、
「…驚かせるなよな。」
と、大きく息を吐いた。が、お陰で情報を得る事が出来た。
(やっぱバッシュのやつ、俺に会いに来たな…)
だったら大人しく待っていてもバッシュに会えたのだろうが、
「ま、せっかく出て来たし、こっちから会いに行くか。」
と、バッシュの待つであろう部屋に向かって歩き出した。

382 名前:オペラ座の空賊【109】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/09/19(土) 23:53:37 ID:vd/1paTH0]

バッシュは局長室の奥にある来客用の部屋でヴァンを待っていた。
留置所の所長は何故ここに9局のジャッジ・マスターがと驚いた。
確かに国立博物館の国宝を盗みに入った泥棒だが、
警報に引っかかってあっさり捕まったし、何より若造だったし。
そんなコソ泥にどうしてと疑問は尽きないのだが、それを聞くのは何故か憚られた。
バッシュの前に座った所長は落ち着かない様子で扉を見たりと視線が定まらない。
こんな時にジャッジ・マスターの鎧は大いに役立つ。相手を思う様に威圧出来るからだ。
本来ならそういうった事は好まないのだが、今のバッシュは手段を選んでいられなかった。
「遅いですな…」
局長は緊張すればするほど饒舌になった。が、バッシュが何も答えないので首を竦めて黙る。
僅かな沈黙の時間も所長にはとてつもなく長く、重く感じられ、
どうしてさっさとあの若造を連れて来ないのかと部下達を心の中で罵り。
いたたまれず「様子を見て参ります。」と立ち上がって、局長室への扉を開くと、そこには鎧兵が立っていた。
「おい、何をしている?連れて来たのか?」
と言った途端、鳩尾に一撃を喰らい、その場に崩れ落ちた。
バッシュは鎧兵をじっと見つめ、
「サイズが合っていないようだな。窮屈だろう。」
言われて鎧兵は頭の甲冑を取った。現れたヴァンの顔を見て、バッシュも甲冑を取った。
劇場で会った時の険のある表情ではない。
「…誰かに聞かれては困る。鍵を閉めてくれないか。」
ヴァンは後ろ手で鍵を閉めた。
「…本物はどこにある?」
バッシュはおや?という表情で、おもしろそうにヴァンを見つめた。
「やけにあっさり捕まったと思ったら、そういう事か。」
バッシュはヴァンが落とした手紙を取り出すと、ヴァンに差し出した。
「返しておこう。君の物だな。」
ヴァンは黙って受け取った。
首飾りの行方を聞きたいのだが、ヴァンにそれを言い出させない雰囲気がバッシュにはあった。
「首飾りはここにはない。」
「…どこにある。」
「その前に、説明してもらおうか。」
バッシュはヴァンに座る様に促したが、ヴァンが黙って首を横に振ったので、そのまま話し出した。
「オペラ座での騒ぎの後、私はラーサー様とアルケイディアスに戻った。
しばらくしてパンネロから手紙が来た。ラーサー様の命でパンネロを保護に向かったら
バルフレアとフランが一緒だった。そして、ソーヘンでのあの騒ぎだ。」
バッシュは淡々と話す。
「…交換条件かよ。」
「聞いてから決める。」


383 名前:オペラ座の空賊【110】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/09/19(土) 23:54:03 ID:vd/1paTH0]

ヴァンは視線を床に落とした。
「きっかけは、バッガモナンの脅迫状だな?オペラ座のダンチョ―に頼まれて、パンネロを身替わりに立てた。」
バッシュの優しい問いかけに、何故だかヴァンは苛立った。
それは、依頼を受けた直後にパンネロの口からバルフレアの名前が出た時の感情と良く似ていた。
「何を苛立っている?」
見透かされて、ヴァンの苛立は更に募る。
「答えたくないなら答えなくても良い。だが、首飾りが必要ではないのか?」
鉛を飲み込んだかの様に息苦しくなる。
ヴァンは大きく息を吸い込み、顔を上げた。
「…そうだ。」
「パンネロを身替わりに立てた理由はなんだ?」
ヴァン、答えられない。
長い長い沈黙の末「…分からない……。」と、ポツリと漏らした。
バッシュはアーシェの言葉を思い出す。
(陛下は何かに操られてると仰っていたが…)
その時、バッシュはヴァンが魔法か何かによって誰かに操られていたのだと思っていたのだが、
(どうも違う様だな。)
一方ヴァンは、バッシュから首飾りを取り返すつもりで意気揚々とやって来たのに、
(なんで何も話せなくなるんだ…)
目の前のバッシュからとてつもないプレッシャーを感じて立っているのがやっとだ。
バッシュはゆっくりと立ち上がった。
歩み寄るバッシュに、ヴァンは思わず後退さるが、バッシュはその肩に優しく手を置いた。
「座りなさい。」
そして、ヴァンをソファの傍まで連れて来ると、そこに座らせた。
ヴァンは居心地が悪そうに大人しくしている。
「ヴァン。」
バッシュはヴァンの傍らに跪き、その顔をじっと見つめる。
「陛下が仰った。我々は同じ道を進む事は出来ないが、同じ物を見て、感じて来たと。」
ヴァンは小さく頷いた。
「私も同じ様に思っている。なのにどうして私に辛く当たるのか聞かせてくれないか?」
「そんな……つもりじゃ……」
口ごもるヴァンがバッシュには微笑ましく思えてその肩を叩いてやる。
「安心した。」
そう言って立ち上がると、向かい側のソファに座った。
「単刀直入に言おう。ヴァン、アーシェ陛下は明後日、施政方針演説のためラバナスタに戻らなければならない。」
ヴァンは驚いて顔を上げ、バッシュを見た。


384 名前:オペラ座の空賊【111】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/09/19(土) 23:54:46 ID:vd/1paTH0]

「陛下があの様に城を空ける時は影武者が代役を勤める。だが、明後日は王宮のバルコニーから全国民に対しての演説だ。
影武者に勤まるとは思えん。何より、陛下が自身がその様な大事を影武者に任せる様な事はされない。」
「…なのに、俺に付いて来たのか……?」
「陛下がご自身の意思でされた事だ。」
ヴァンは立ち上がって何かを言おうとし、バッシュの鋭い眼差しに何も言えなくなる。
「座りなさい。」
ヴァンはノロノロとソファに座り直した。
「陛下がどうしてここまでされるのか、分かるか?」
ヴァンは首を横に振る。
「アーシェにも聞かれた。それで、考えろって。それで…仲間だからだろって…答えた。」
バッシュが苦笑いを浮かべた。ヴァンはそれに敏感に反応する。
「…違うのかよ。」
「いや、間違っていない。ヴァン、よく聞いて欲しい。」
ヴァンは不思議そうにバッシュを見つめる。
「陛下のお心は常に君達と共にある。共に旅をし、空を駆け巡る。だからこそ陛下は陛下らしく、自由で居られるのだ。
城の中で臣下に取り囲まれている時も、騎士団を率いている時もな。」
ヴァンは呆然とバッシュを見、そして俯いて奥歯を噛み締めた。
「バッシュ……」
ヴァンは今までの事を全て話した。俯いたまま、訥々と。バッシュは口を挟まず、黙って耳を傾けた。
「俺…ガキだったんだ。パンネロがあんたやバルフレアの名前を口にすると…頭の中が真っ白になった。
パンネロに、誰にも頼って欲しくなかったんだ…。俺以外の誰にも。追いつきたく……て……」
そう口にして、ヴァンは自分で自分の言葉に驚いて顔を上げた。
自分でも意外だったのだろう、言葉が続けられず、ただただ正面のバッシュを見つめる。
「よく言えたな、ヴァン。」
バッシュは穏やかに答える。
「言えなければ、また牢に放り込む所だった。」
「…バッシュ、俺……」
「ヴァン、コンプレックスは成長したい気持ちの裏返しだ。あの旅で君自身が学んだ事だ。」
バッシュは立ち上がると、扉を開けた。
「行きなさい。首飾りはラーサー様がお持ちだ。明日、17時に帝都とダウンタウンを繋ぐ橋に来るように、との事だ。」

つづきます。


385 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/21(月) 00:51:59 ID:QUtcnm9d0]
GJ!

386 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/22(火) 10:11:35 ID:85vr3VFq0]
乙!

387 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/24(木) 01:33:37 ID:1713hNE80]
GJ!

388 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/26(土) 00:16:26 ID:s510CPk80]
>>380-384
バッシュ格好良い!!もうね、ひたすら格好良いとしか言えない。
(12未クリアですがバッシュ加入時の応答場面(盾〜云々)が大好きなので、こういうバッシュいいよ!と)
にしても、登場する全員の持ち味を活かしてさらに格好良く描かれてるのが素敵です。

>>378
遅ればせながら、>>239の最後辺りをご覧になると良いことがあるかも。

389 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/28(月) 10:20:10 ID:jNnaLzG3O]
乙乙!

390 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/09/30(水) 04:31:17 ID:Ct+yn89X0]
おつー



391 名前:ラストダンジョン (325)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/10/04(日) 00:10:11 ID:ccGOi3Qw0]
前話:>>364-367
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 乗る人もないまま待機していたエレベーターは、まるで彼らの会話の邪魔をしないようにと静かに扉を
閉めた。同時にフロア内はエレベーター到着前と同じ薄闇に戻る。
「どんな形でシェルクが関わっているかは分からない。ただ……」一つ息をつくと、シャルアはエレベーター
横の壁に凭れてこう続けた「今さらだが、私は方法を間違えていたのかも知れない」。そう言うと、目を
伏せて顔を俯けてしまったシャルアからは、その心中を読み取ることはできなかった。
 それにしても些か不可解だとヴィンセントは首を傾げる。そもそもシャルアはなぜ「ここ」へ来たのだろ
うか? もしも話の通り、シェルクが何事かに巻き込まれていると言う懸念があるなら、すぐさま連絡を
取ってでも妹の所へ向かう方が早い。にもかかわらず、シャルアはそうしなかった。それどころか、妹か
ら届いたメールに返信すら書かずにいたと言う。3年前、身を挺して妹の命を救ったシャルアらしからぬ
行動だと思えた。
 シャルアの真意は別のところにある――現時点でヴィンセントの出した結論だった。彼女の語ったこと
がすべて嘘だとまでは言わないが、すべてが真実ではないだろう。
 俯いたままだったシャルアに視線を合わせ、その事を尋ねようとヴィンセントが口を開こうとした時、
彼女の身に起きる異変に気がついた。
「シャルア?」
 薄闇の中でも、シャルアの頬を伝い落ちる一筋の滴がはっきりと見えた。声をかけても反応のない
シャルアの両肩を掴んで顔を上げさせれば、蒼白になった肌の上に大量の汗が浮かんでいた。
「おいシャルア、大丈夫か?」
「心配ない。……いつもの事だ」
 口にする気丈な言葉とは裏腹に、平衡感覚を失った挙げ句、自身を支えきれなくなったシャルアの
身体はずるずると壁伝いに落ちていく。
 ヴィンセントは無理に立ち上がらせようとはせずに、壁に背を凭れさせその場に座らせると、シャルアの
顔を覗き込んだ。しかしポケットを漁っても出てくるのは弾倉ぐらいで、汗を拭ってやる気の利いた持ち
合わせが無い事を、この時ばかりは悔やんだ。

392 名前:ラストダンジョン (326)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/10/04(日) 00:13:33 ID:ccGOi3Qw0]
「……気にするな。行くなら先に行け」
「そんな状態で言われても説得力がない」
 その言葉に顔を伏せ、シャルアは抗弁する「どのみち道案内を頼まれたところで役に立てん」。
 頼むつもりもないと言い捨てると、ヴィンセントは立ち上がってエレベーター扉上の表示に目をやった。
乗ってきたエレベーターがすぐ傍にあった事は不幸中の幸いだった。しかも、どうやらまだエレベーター
はこの階に止まったままの様だ。ヴィンセントは迷わず乗降ボタンに手を伸ばす、ボタンを押せばすぐに
扉が開くはずだった。
 しかし扉は閉ざされたまま、いっこうに開く気配を見せなかった。もう一度上の表示を見上げる、確かに
この階を示す数字だけが点灯していた。
「よく故障するエレベーターだな」
 地下7階で勝手に止まったり、こちらの操作を受け付けなかったりと、先程から気まぐれな挙動ばかりの
エレベーターを見上げてヴィンセントは呆れたように言った。
「いつもの拒絶反応だ、薬を飲めばじき治まる。いいから行け」
 肝心の薬を置き忘れてきた事は言わずにシャルアが告げた。そんな彼女の姿を見下ろすと、ヴィンセント
は大きく溜息をついてから切り出した「もし仮に、私がリーブと同じ立場だったら」。
 膝をついてシャルアの顔を覗き込めば、物言いたげな視線にぶつかる。その顔を見てさらにヴィンセントは
先を続けた「シェルクの行方について、やはり君には知らせなかっただろうな」。
 驚いた表情になるシャルアを横目に、ヴィンセントはシャルアの右腕を自分の肩に回すと、それを支えて
起き上がらせる。
「これなら歩けるか?」
 シャルアは頷いてから、先ほどの言葉について小さな声で問う「どういう意味だ?」。
「字面通りだ」素っ気なく答えると、ヴィンセントはもう一度ボタンを押した。どうにかして地上に出たかった。
本人がなんと言おうが、このまま彼女をここに置いて行くわけにはいかない。
 その意図にようやく気付いたシャルアは、自分を支えてくれているヴィンセントを振り解こうとしたが、今の
彼女にそんな力があるはずもなく、あっけなくバランスを崩した身体を後ろから支えられる形で、結局は
肩に縋ってしまうのだった。
「大人しくしていろ、少しは懲りたらどうだ?」
「世話してくれと頼んだ覚えはない。いいから手を離せ」
 気丈も度を超すと駄々と変わらないなと、吐きたくなった愚痴を呑み込んでヴィンセントは閉ざされた
エレベーターの扉を見つめた。相変わらず頼みを受け入れてくれない気まぐれなエレベーターとの根比べ
になるのだろうか? 駄々っ子と気まぐれに挟まれている今の立場を思うと、途方に暮れそうになった。
 しかしこの直後、ヴィンセントの心配は杞憂に終わることになった。何の前触れもなく、文字通り道は
唐突に開かれたからだ。
 異変を察知したヴィンセントが、とっさにシャルアを庇いながら横に飛び退き地面に伏せた瞬間、
エレベーターの扉が開き彼らの頭上を何かが勢い良く通過した。直前に伏せていなければ、衝突は
避けられなかっただろう。

393 名前:ラストダンジョン (327)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/10/04(日) 00:19:21 ID:ccGOi3Qw0]
 シャルアをその場に残し、瞬時に起き上がると同時に振り返って、ホルスターから引き抜いた銃口と
視線とを向けた。その先には、体勢を崩しながらも着地したティファがいた。銃口が向けられるのとほぼ
同時に、ティファは顔を上げる。
「……ヴィンセント!?」
「ティファ、無事で何よりだ」
 とんでもなく活気に溢れたティファとの再会を喜ぶよりも、状況を把握する事に意識が向いていた
ヴィンセントは、常よりもさらに淡々と言葉を紡いだ。着地した彼女の体勢から察するに、跳び蹴りでも
したのだろう。あの時ほんの一瞬でも気付くのが遅れていれば、危うくこちらが――顔面にティファの
跳び蹴りという深刻な――ダメージを食らうところだったのだ。そもそもティファがここから出てくる事
自体がおかしい。どう考えてもこの扉の先にはエレベーターしか無く、しかもそのエレベーターには
つい今し方まで自分以外には誰も乗っていなかったし、扉が閉まってからは階を移動した様子も見られ
なかった。
「もう! ここは一体どうなってるのよ!」
 軽やかな動作で立ち上がったティファは、まるでヴィンセントの代わりとでも言うように不服を露わに
しながらも周囲をぐるりと見回した。当面の脅威がないと分かると、床に倒れているシャルアに駆け寄った。
「シャルアさん! 分かりますか?」
 跪いたティファは横たわるシャルアに声をかけながら、彼女の両腕を自分の首に回させると、肩と背中を
支えながら抱き起こす。シャルアの身に何が起きているのか、大凡だが察しは付いた。反対側から
ヴィンセントにも背中を支えて貰うように頼むと、ティファはポケットをまさぐった。
「持ってきました、これで足りますか?」
 そう言って取り出したのは医務室に散らばっていた薬の数々だった。台の上に置かれてあった物を
一通り持ち出したのだが、どれを飲めばどんな薬効があるのかティファには分からなかった。ただ、
今のシャルアにはこれが必要なのだと言うことは分かる。
 それを聞いていたヴィンセントが咎めるような視線をシャルアに向けると、ばつが悪そうに顔を背ける。
ティファの手にある薬のうち数種類を手に取ると、片手で器用にシートから取り出して、それらを口に放り
込んだ。
「これで飲んでください」様子を見て慌てたティファが、自宅から持ってきたらしい小瓶の蓋を開けて
差し出した。それは飲料を携帯する際に広く用いられている容器で、特に装飾も施されていない簡単な
作りの物だった。
 シャルアはその容器に見覚えがあった。ティファから小瓶を受け取ると、中の水を一口含んで薬を飲み
下した。
 手にした容器の中にはまだ半分以上の水が残っていた。まじまじと瓶を見つめてから顔を上げた
シャルアは、ティファに視線を向けた。
「……そっか、WROにいるシャルアさんはご存知なんですね」ティファは小さな笑みを浮かべて頷いた。
「そうなんです。これ、配給用の水だったんですよ。クラウド、各地への配送作業のお手伝いもしましたし」
 ティファの話は4年前にさかのぼる。

394 名前:ラストダンジョン (328)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/10/04(日) 00:22:21 ID:ccGOi3Qw0]
 メテオ災害の直後から、原因不明の不治の病と恐れられ世界各地に蔓延していた星痕症候群。しかし
その特効薬は、思いがけない形で発見された。それが、ミッドガル伍番街スラム教会跡地に湧き出た――
後に人々から「福音の泉」と呼ばれた――水だった。
 遠方地域からの患者をミッドガルへ搬送するのに飛空艇師団が活躍したことはもちろんだが、飛空艇の
入れない僻地や、重篤な症状を一時的に緩和させ長距離の移動に耐えられる体力を確保するための
手段として、泉の水の配給が提案された。WROを中心とした各地域のボランティアの協力もあって、
短期間のうちに各地の患者へ水を届けることが出来た。空路を担ったシドだけではなく、陸路ではユフィ
やクラウドなど仲間達の多くもこの配給活動に貢献した。
「……すまないな、ありがとう」
 ティファはにっこりと微笑むとこう言った。
「どういたしまして。でも」それから少し困惑した表情になって言葉の先を続ける。「謝らなきゃいけないの
は私の方です。あの時、シャルアさんがあそこにいた理由は、これを飲むためだったんですよね?」
 棚から出された薬はどれも開封されていなかった。つまりシャルアは薬を飲む前に、負傷したティファを
見つけて応急処置を施したのだろう。ティファが迷わずシャルアの後を追った理由だった。
 目を閉じたシャルアは何も答えなかった。



----------
・On the Way to a Smile(バレット編とユフィ編)読んだ後にAC(C)見ると、
 遠隔地の重症患者が気になった次第。(患者搬送について触れているバレット編とは逆の発想です)
・内容は真剣ですが、場面的にはちょっとコミカルを目指してみたんですが…難しい!
・ずいぶん以前にご指摘を頂いた様に、タイトルは「不思議のダンジョン」の方が妥当かもw
・間が空いたわりに読み苦しい文ですみません、なんだか勘(感覚?)が戻らない…。

395 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/10/05(月) 21:22:56 ID:tbS4bIBK0]
乙!

396 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/10/07(水) 05:24:33 ID:MKda7ybI0]
乙!

397 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/10/09(金) 18:39:00 ID:5bZXNIaf0]
GJ!

398 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/10/12(月) 01:42:54 ID:/2na9hEA0]
乙!

399 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/10/14(水) 08:09:10 ID:hk0tdjac0]


400 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/10/16(金) 07:35:04 ID:pA6VeI+z0]
乙!



401 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/10/20(火) 02:20:51 ID:2VlgZzNK0]


402 名前:ラストダンジョン (329)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/10/22(木) 22:24:57 ID:yciNjFCt0]
前話:>>391-394
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 後方で何かが動く気配に振り返ったヴィンセントの目には、再び閉ざされたエレベーターの扉が映った。
扉上に目をやれば、先ほどと変わらずこの階だけが点灯表示されていた。ヴィンセントは立ち上がって
もう一度ボタンを押すと、今度は何事もなかったかのようにエレベーターの扉が開いた。こうして薄暗かっ
たフロアは、エレベーター内の照明によって再び淡く照らし出された。
「本当に気まぐれだな」。誰にともなく呟いてからヴィンセントは視線を戻し、今のところは何の変哲もない
エレベーターを注意深く見つめていたが、どこにも異状を認めることは出来なかった。
 ところが、しばらくして何かに気付いたらしいヴィンセントは視線を動かさないままでティファに呼びかけ
る。そして、声に応じて顔を上げたティファに告げた「シャルアを連れて、上へ戻れ」。
「ヴィンセント?」
 唐突な提案に、少なからぬ不満と戸惑いの表情を浮かべるティファを一瞥すると、ヴィンセントは再び
エレベーターを見つめながら言った。
「そう言っているのは私ではない、この……建物だ」
 時折ヴィンセントが詩的な言い回しを用いる事は知っていたし、何より人をからかうような性格でない
ことも分かっていた。それでもティファは言われている言葉の意味を計りかねて首を傾げた。どう見たって
冗談を言っている様子ではないし、事実ヴィンセントは本気だった。ティファは唖然とした表情でヴィンセントを
見上げていたが、彼からそれ以上の返答は得られなかった。
 目の前で黙ったまま佇んでいるヴィンセントの視線の先には、扉の開いたエレベーターがあった。
ティファはそれが返答だと悟って、改めてここへ至るまでの道のりを振り返った。
 都合良く医務室の前に放り出された負傷者。
 偶然そこに居合わせた者。
「医務室を出てから私……シャルアさんを追いかけた。そしたら突然、床から湧き出たみたいに目の前を
壁が塞いで、それを壊して先へ進もうとしたら、壁が開いてここへ……」
 不自然を通り越して不可思議な現象だった。つい今し方の事なのに、夢のように不確かでともすると
曖昧になりがちな記憶。だからこそティファは、この場所にたどり着くまでの間に遭遇した出来事を口に
出して、ひとつずつ経緯を確認するように振り返る。なぜ? どうして? 疑問は尽きない。
 いくら考えても疑問への答えは出なかったが、現実としてもたらされた結果は明らかだった。
「そのお陰でシャルアも助かった」
 ヴィンセントの言葉にティファははっと顔を上げる。偶然と呼ぶにはどれも不自然すぎる現象は、一方で
すべてに一貫した筋書き――まるで意思のような――に沿って起きている。
「やっぱり、できすぎた作り話」言いかけて首を振ると、ティファはヴィンセントに問いかける「このシナリオ
の作者はリーブさんね?」。ヴィンセントは無言のままで頷いた。

403 名前:ラストダンジョン (330)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/10/22(木) 22:34:51 ID:yciNjFCt0]
 搭乗者の操作を受け付けないエレベーター。
 殺意どころか戦意すらない地下7階の交戦。
「どうやら我々を傷つけるつもりは最初から無い様だ」
「じゃあ、どうして……」
「試しているのだろうな」
 そう答えたヴィンセントの口調には――それが怒りなのか、悔いなのかは分からない――何らかの
感情によって僅かな揺れがある様に思われた。
「試す? 試すって一体なにを? 何のために? それに、どうして私達が?」シナリオどころか、わざわざ
巨大な舞台まで作ったと言うことになる。そうまでして実現しようとするこの筋書きの結末、それは何なのか?
 ティファの問いに対する答えは持っていた。しかし答えるべきなのかと、ヴィンセントは返答に窮して
言葉を詰まらせた。その様子から心中を察したティファは、畳み掛けるように先を続ける「あのあと一体
なにがあったの? クラウド……クラウドはどうしたの?」。
「クラウドなら心配はない。彼と合流したら二人の後を追うように言っておく。だからシャルアを連れて――」
「ヴィンセント!」言葉を遮るように強い口調でティファが言う。視線が合うと、ヴィンセントから目をそらさず
に頷いた「……教えて。あの後あそこで何があったの?」。
 それはここから一歩も退くつもりはないという、彼女の覚悟の表れだった。
 しばらくの沈黙の後、ヴィンセントは重い口を開いた。あの時なぜ“人形”はティファを真っ先に標的とした
のか。剣を取ったクラウドとの交戦とその結末。そして、ヴィンセントが最後に聞いた言葉。それらすべてを
語った後、ヴィンセントはティファを見つめてこう言った。

「いっさい抵抗はしない、今ここで私を殺せ」

 真っ直ぐに向けられる視線と低い声で語られた言葉に、ティファは息を呑む。まるで鋭い刃を喉元に突き
つけられたような錯覚さえ覚えた。
「……そう言われたら、どうする?」
「そんな事できない!」
 頭を振って予想通りに即答したティファの反応に同意を示すと、ヴィンセントはさらに低い声で言う「それ
がリーブの言っている事に他ならない」、つまりこのシナリオの結末だ。
「えっ?」
 呆然とするティファに、俯いたままだったシャルアが呟くような声で言った。
「こうなる前に引き返せと、さっきそう言ったはずだ」なのに何故ここへ来たと、咎めるような言い草に思わ
ずティファは視線を落とす。
「そんな言い方……」
 そこまで口にしたティファは、医務室で聞いたシャルアの話を思い出すと言葉を呑み込んだ。

 ――「だから私がこれからやろうとする事は、単なる破壊ではなくなる」

 あの時シャルアはそうと知った上で、忠告していたのだ。
「局長は」顔を上げたシャルアは、ティファを見上げると小さく微笑んでから先を続けた「あんた達の事を
とても大切に思っている。手の込んだ演出は、その裏返しなんじゃないか?」
 たとえどんな理由があるにせよ、誰だって仲間と争うことを望みはしない、まして手に掛けるなどあり
得ない、あってはならなかった。
 生き残った者はその事実を“過去”として、この先も背負っていかなければならない。
 6年前、星を救う旅路を共にした仲間達は各々が“過去”を背負うことになった。仲間と分かち合える
過去と、そうではない過去。どちらも軽い物ではないし、時として苦痛を伴い生きる枷にさえなる。

404 名前:ラストダンジョン (331)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/10/22(木) 22:38:16 ID:yciNjFCt0]
「それなら、どうして……」問わずにはいられなかった。たとえシャルアがその答えを知らないのだとしても、
言葉に出さずにはいられなかった。
 それらを分かっていても尚、そうしなければならない理由とは何なのか?
 問われてティファから視線を逸らすと、シャルアの横顔に浮かぶ微笑が苦笑に変わった。この些細な
変化を目にしたティファの脳裏には、ある1つの仮説が浮かんだ。しかし現時点では何の根拠もない憶測
に過ぎず、それを確かめる方法もなかった。
 重苦しい沈黙を破ってティファの問いに答えたのは、シャルアではなくヴィンセントだった。

「相手への絶対的な信頼は、時として非情な決断を下させる」

 そう言ったヴィンセントは、ふと小さく笑ったような気がした。ティファにはその意図が分からなかった。
「決断を下さなければならない理由。つまりリーブは感情よりも理由を優先したと言うことだ」
「私達の気持ちにはお構いなしって事? そんなの……勝手よ」
 この場にいないリーブに対する非難を込めて、言葉を噛み締るようにしてティファは反論する。ヴィンセント
の言う「理由」を理解はできなかったし、納得もできそうになかった。それでも、言い終わるまで顔を見てい
られずに目を伏せた。
「……もっともな意見だ」ヴィンセントの口調は思いのほか穏やかだった。それから、もう一度ティファを
促した「だからシャルアを連れて、戻るんだ」。
 それでもティファは首を横に振る。ヴィンセントから見れば、その姿がまるで駄々っ子の様に映るだろう
とも思ったが、ティファは頑としてその場から動こうとはしなかった。そんなことをしても問題の解決には
ならない、どうしようもないと分かっていても、どうにかしたいと思った。
「ティファ」
 自分の名を呼ぶヴィンセントの声音はいつにも増して優しい響きだった。おずおずと顔を上げたティファ
に、膝をついてヴィンセントは微笑を向ける。
「確かにこちらの感情に配慮のない勝手な話だ。しかし、それはリーブも承知していたはずだ」自分達が
考えているのと同じように、リーブも心からそれを望んでなどいない。シャルアの言う「手の込んだ演出」
は、言い換えればリーブの葛藤なのではないか? 少なくとも今は、そう信じたいとヴィンセントは思った。
「……ならば、私も信頼を裏切るわけにはいかない」

 ――「彼を救、てやってほしい。それ、ガ……ワタシの、ノ」

 機能を停止する間際、人形がヴィンセントに託そうとした望み。それが相手を信頼しているからこその
決断であったのだとすれば、その申し出を引き受けることがリーブからの信頼に応える唯一の方法であり、
ひいては「彼を救う」ことに繋がるのかも知れない。
 ここで退くわけにはいかなかった。しかし、ここから先を他の仲間達と共に歩む気にもなれなかった。
ヴィンセントはその意思を伝えるために、言葉の先をこう続けた。

「だからこの役は私が引き受けよう」

 他の仲間達の誰よりも、この先多くの死と向き合うことになるのだから――それは決して口に出される
ことのない、諦念とはまた別の覚悟だった。

405 名前:ラストダンジョン (332)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/10/22(木) 22:51:25 ID:yciNjFCt0]
※バレット編/場面はPart8 512-515の続き
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 長らく戦いの日々に身を置いていると、勝敗――生死を分かつ要素はほんの僅かな隙である事を
バレットは心得ていた。より正確に言えば、それを教えてくれたのも親友のダインだった。
 たとえ同じ過去を持っていても、現在に至るまでの経緯が違えば思想や立場も変わる。まして銃を
向け合えば親友でさえ敵になる。互いが望む未来の形がどうであろうと、それは生き残った者にしか
訪れない。対峙した両者の力が互角なら、最終的に雌雄を決する要因は生きたいと望む意志の強さ
であり、未来を勝ち取ろうとする貪欲さだった。それこそがダインに勝てた理由だと、バレットは今でも
信じて疑わない。
 その意味において、この勝負は最初から結果が見えていた。にもかかわらず、未だに決着がつかずに
いたのは、バレットがギミックアームを使わなかったせいだった。
 それでも壁際まで追い詰めたリーブの襟元を掴み上げると同時に、バレットは空いた左手で拳銃を
持っていた右肘を壁に押さえつけて動きを封じた。
 こうして反撃の機会を奪われ、圧倒的な劣勢に立たされているはずのリーブだったが、バレットを見上げ
ると彼は呆れたような口調で問いかける。
「バレットさん、あまり時間が無い事は分かっていますか?」
 彼の言う通り、飛空艇師団による空爆開始が迫っている。しかしバレットは言い捨てた。
「本気になってないヤツを相手に武器を使うほど腐っちゃいねぇ!」お前など素手で充分だと、確かに
バレットの見当は間違っていなかった。
 まるで他人事の話を聞かされているとでも言いたげな様子のリーブは、すっかり呆れて溜息を吐いた。
そんな振る舞いを目の当たりにしたバレットは怒りを露わにする。襟元を掴んでいたアームが軋み、乾い
た音を立てた。
「……よし決めた! ここでお前を殴り倒したら、次は本体のところまで行ってやるから覚悟しやがれ!」
「こんな所でもたついている様では、難しいと思いますが」
 こうしてリーブの見せる余裕の根拠は、それが生身の人ではない人形であるからだとバレットは思い
込んでいた。だから尚更、その態度が気に食わなかった。
「そうやって言ってられるのも今のうちだ! バンパイアだかアンパイアだか知らねぇが……」
「インスパイアです」
 その言葉が焼け石にかけた水ではなく、火に注いだ油になると知りながらもリーブは口を挟む。案の定、
バレットはさらに声を張り上げて叱咤した。
「んな事はどうでもいいんだよ! 命を粗末にするような事を平気なツラして言いやがって……」
 バレットが言葉を続けるよりも先に、リーブは口元を歪めた。それが嘲笑を意味していた事にバレットは
気付いたが、遅かった。
 リーブは右の手首だけを動かすと持っていた拳銃を宙に放って、まだ自由に動かせる左手でそれを受け
取ると、そのまま腕を伸ばして躊躇わずに銃を撃った。
 バレットの横で発射された弾丸は、頭上に向けて一直線に飛んで行った。鼓膜の奥に残る残響と、
鼻腔にこびりつく様な火薬のにおいは、バレットを黙らせるには充分すぎるものだった。
 あっけなく形勢を逆転され、バレットは己の迂闊さをようやく思い知った。さらにもう一度、今度はバレットの
耳のすぐ横で発砲音がした。銃口が自分に向けられていれば、リーブの勝利で幕を閉じていただろう。

406 名前:ラストダンジョン (333)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/10/22(木) 22:58:40 ID:yciNjFCt0]

「これまでの話を冗談で言っているように聞こえますか? 私は本気ですよ」

 相変わらずバレットを見上げながら冷めた口調で淡々と、しかし一方では明らかな非難を込めて語られ
る言葉に、バレットは反論する事ができなかった。
「確かに仰るとおり、バレットさんを殺す事が私の本意ではありません」言いながら、リーブは3発目を発射
する。耳元で立て続けに響く銃声に、バレットの鼓膜がついに悲鳴を上げた。それからしばらくの間、キンと
いう金属音にも似たような残響以外には、一切の音が聞こえなくなった。
 やがて徐々に音を取り戻し始めた頃になって、リーブは左手に持っていた拳銃を床に投げ捨てた。
バレットは思わず視線を動かして、床に落ちた拳銃を確認した。
「お前、どうして……」
 再び顔を向けると、相変わらずバレットを見上げていたリーブは無表情で言う。
「油断すれば命を落としかねません。この先へ進むのでしたら、その事をくれぐれもお忘れ無く」
 その直後、背後で何かが軋むような重々しい音がしてバレットが振り仰いだのと同時に、上層階の底部
を支えていた梁の一部が、表面を覆っていた化粧板もろとも落下した。リーブが発砲した意図を理解する
までもなく、バレットはとっさに頭を庇い床を転がるようにしてその場から離れた。
 しばらくして落下音と衝撃が収まると、バレットは頭を上げて様子をうかがった。頭上には一部が剥き
出しになった建物の骨格が見えた。それから視線を下ろすと、さっきまで自分が立っていた壁際には
亀裂と、大小の鉄骨や化粧板の残骸が山になっていた。あのままあそこにいれば、今頃は落ちてくる
建材の下敷きになっていただろう。「油断をすれば命を落としかねない」と、忠告された通りの光景だった。
「お、おい!!」
 その時になってリーブの姿が見あたらないことに気付く。バレットは周囲を見回したがどこにも気配は
ない。積み上がった残骸に駆け寄ってみれば、その下に横たわっていたリーブの腕が見えた。
「お前、どうして!?」言いながら、覆い被さった残骸をどかしはじめた。積み重なった建材の間から辛う
じて覗くリーブの手が僅かに動くと、人差し指が進むべき方角を示した。と同時に、途切れながらも小さな
声が聞こえてきた。
「時間が……ありません、早く。本体、を」
「この奥って事だな? 分かった」
 もはやバレットの問いかけにも反応はなかった。どうやら本当に終わった様だ。頷いて立ち上がると、
最後にその人形が指し示した方に顔を向ける。その先には、奥へと続く通路が見えた。
「待ってろよ……」
 こうしてバレットはフロアを後にした。


----------
・ボスを倒して先へ進む、というダンジョン攻略の基本には忠実な作りのようです。
・リーブはDCFF7・4章のお陰で、すっかり静物限定で射撃の名手になりましたw(でも利き手が違う…)
 インスパイア能力にはきっと弾道補正の効果もあるんじゃないかなーと都合良く解釈してみるwすんませんw
・瓦礫=Disc1のプレート崩壊の再現=Part7,602-605の悲願成就、そんな脈絡もあったり無かったり。

407 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/10/24(土) 16:52:12 ID:/NpbUnfr0]
GJ!

408 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/10/25(日) 19:09:42 ID:IIaiv7Ap0]
乙!

409 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/10/28(水) 00:46:05 ID:eei/R9hJ0]
GJ!

410 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/10/30(金) 00:14:53 ID:iaOQKqRSO]
乙!



411 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/02(月) 00:57:25 ID:CiiGNqe8O]
乙!

412 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/05(木) 19:48:44 ID:rsb3G34AO]


413 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/06(金) 00:31:17 ID:GL+g8MkE0]
カキコミテスツ

414 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/07(土) 07:01:31 ID:Wr+63dbG0]
ds

415 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/08(日) 05:55:26 ID:QXI3DD4L0]
v

416 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/10(火) 20:42:36 ID:XpYeVMai0]


417 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/12(木) 17:27:35 ID:68uBxMMF0]


418 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/15(日) 01:48:54 ID:U6VmP/bI0]


419 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/17(火) 03:15:39 ID:s/4h8Y6P0]


420 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/18(水) 17:56:31 ID:02c8dm3R0]
そろそろageないと落ちるぞ?



421 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/20(金) 13:44:30 ID:ZVfHS1yr0]
a

422 名前:オペラ座の空賊【112】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/11/22(日) 22:02:58 ID:nMtmsW9W0]
※今回で完結します。一気に投下するので連投規制に引っかかったら投下一旦中断します。

>>380-384から続きます

アーシェが待つ部屋に戻るヴァンの足取りは重かった。
パンネロへの仕打ちやアーシェの話とバッシュの話を何度も思い返し、自分がひどく幼く思えて。
誰にも頼らず自由に生きていけると思っていたが、
気が付けば、それらはパンネロや仲間が支えてくれていたから
成り立っていたのだと思い知らされた。
宿屋に着いて階上を見上げると、窓からア
ーシェが外を眺めているのが見えた。
戻ってきたヴァンに気付くと顔を輝かせて手を振り、
すぐに部屋の中に見えなくなった。
宿屋の階段を上がり、部屋のドアノブに手を掛けた途端、
扉が開いてアーシェが飛びついてきた。
「…アーシェ?」
「ばか…心配したのよ。」
アーシェはヴァンの首にきゅとしがみ付いて離れようとしない。
ヴァンはぼんやりと、目の下にあるアーシェの小さな頭を見下ろした。
今までのヴァンなら心配し過ぎだと笑い飛ばしていただろう。
だが、今はアーシェがどれほど自分の身を心配をしてくれていたのかが痛いほど分かった。
ヴァンはそんな自分の変化に驚きつつ、
心配を掛けたことをどう詫びたものかと頭を巡らせた。
抱きしめて、ごめんと言えば良いのだろうか?
そもそも、そんな資格が自分にはあるのだろうか?
首飾りを手に入れても、パンネロに会いに行くなんて許されるのだろうか?
「…ヴァン?」
アーシェの声に、ヴァンは我に返った。
怪訝そうに自分を見上げるアーシェの目のふちが赤い。
(泣いてたのか…)
そう思うと、胸が締め付けられた。
ヴァンは思わずアーシェの目元に唇を寄せた。
「ごめん。」
それだけやっと言うと、アーシェをそっと抱きしめた。
思いがけないヴァンの行動に反射的に身体を離そうとしたアーシェだが、
頭の上で、すん、と鼻の鳴る音がして、
ヴァンの身体が小さく震えているのに気付いた。


423 名前:オペラ座の空賊【113】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/11/22(日) 22:04:27 ID:nMtmsW9W0]

「ヴァン…」
アーシェは優しく腕を回し、逞しい背中を撫でてやる。
アーシェは末っ子だが、
(…弟がいたら、こんな感じ…?)
厚い胸板と裏腹に、子供のように声を殺してしゃくりを上げるヴァンが愛おしい。
そして、アーシェも改めて気付く。
不安な旅の間、ヴァンの明るさと、パンネロの優しさにどれだけ救われただろう。
だからこそ、手助けになりたいと思ったのだ。
(私、間違ってなかったんだ…)
その時、短剣の鍔がカタカタと鳴り出し、二人は慌てて身体を離した。
ベソをかいていたヴァンだが、気まずそうに笑い、アーシェも笑う。
「まずはシャワーを浴びて。話はそれから聞くわ。」
「うん、ありがとうな。アーシェ。」
そうしてシャワーを浴び、髪がびしょ濡れのまま出てきたヴァンに
アーシェはさんざんお小言を言い、いつもの調子が戻った所で
ヴァンはバッシュに会った事を話し始めた。
「首飾りはラーサー殿が?」
「うん。バッシュの事だからラーサーには言わないで、
こっそりカタを付けようとするだろうと思っていたから、俺も驚いた。」
「でも、バッシュらしいわ。隠密にすませようとして失敗すると、
却って面倒が起きたりするもの。」
「うん。」
ベッドに腰掛けたヴァンはそう言ったきり、黙って足下を見ている。
「…ラーサー殿は首飾りを渡してくれるかな…?」
「タダでは渡してくれないさ。」
アーシェはやっぱりと、ため息を吐いた。
「俺がラーサーなら絶対に渡さない。」
「じゃあ、どうするの…?」
考えに沈み、組んだ手をじっと見つめるヴァンはいつもより大人びて見えた。
それが何故だかアーシェを不安にさせた。
「…橋の上で待ってるなんて、まるで決闘じゃない。」
ヴァンは黙ったままだ。
「そんなの、バカげてるわ。だって、パンネロの気持ちはどうなるの?」
「アーシェ、落ち着けよ。」
アーシェはヴァンの隣に腰掛ける。
「さっきから考えてた。俺、パンネロにひどい事したって。」
「……うん。」
「皆にも迷惑掛けて…さ。だから…受け止めなきゃ、次に行けない。」
アーシェは呆然とヴァンを見つめる。
さっきまで子供みたいに泣いてたのに。
失敗して落ち込んでも、前に進もうとするそのエネルギーはどこから来るのだろう?
「…ヴァン。」
ヴァンは顔を上げてアーシェを見る。
「あなたと、ラーサー殿を信じるわ。」
アーシェはヴァンに右手を差し出す。
ヴァンはいつものように、アーシェの手の甲に自分のを合わせ、うれしそうに頷いた。


424 名前:オペラ座の空賊【114】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/11/22(日) 22:06:44 ID:nMtmsW9W0]

港町バーフォンハイムの朝は早い。
まだ暗いうちから船の汽笛が聞こえ、窓の下を行き交う人々の気配がする。
浅い眠りを漂っていたパンネロはすぐに目を覚ました。
もう一度眠ろうをしたが、目がさえて出来ず、諦めてベッドから出た。
窓から港の様子を眺め、どうせ眠れないのなら散歩にでも出ようと服を着替え、
横で眠っているフランを起こさないようにそっとドアを開けた。
「どこに行くの?」
ドアを開けた所で背後からフランに声を掛けられ、パンネロは驚いて振り返った。
「フラン…?」
「一人で出かけちゃだめよ。」
「うん…でも…」
口ごもるパンネロを、フランはベッドの上で手招く。
パンネロは渋々とベッドの傍らの椅子に腰掛けた。
「見張られてるから一人はだめって言われたでしょ?」
「うん…」
「ヴァンに会いに行こうとしたの?」
思いがけない事を言われて、パンネロは驚いて顔を上げた。
「フラン、ヴァンがどこに居るのか知っているの?」
フランは静かに顔を横に振る。
「でも、昨日の夜、バルフレアが言ってたわ。
“誰かが手引きをしないとあそこに二人が居るのはおかしい”って。
手引きしたのはフランなの?」
「違うわ。あそこに二人が居たのは偶然ね。でも…」
フランはパンネロの目をまっすぐに見つめると、
「ヴァンに明日の夕暮れまでに砂段の丘に来るように手紙を書いたわ。」
フランの告白にパンネロは激しく混乱する。
「…どうして?東ダルマスカ砂漠で待ち合わせるのに、ヴァンがソーヘンに居たの?
どうしてアーシェが一緒だったの?私を…」
パンネロはこくん、と息を飲み込んだ。
「私を、探しに来たんじゃないの…?」
パンネロの目にみるみる涙が溢れる。
「パンネロ。」
フランは泣き出しそうなパンネロをベッドの上から手招くと、優しく引き寄せた。
そして、自分の腕の中で小さくしゃくりを上げるパンネロに、
ヴァンに“凍てつく女王の涙”を盗みに行かせ、それと引き換えにパンネロを渡すと、
バルフレアの名を騙って手紙をアーシェに送った事を明かした。
偶然の再会の理由は分かったが、自分のためにヴァンや何故かアーシェまでが
危険を犯していると知り、パンネロはますます混乱する。
フランの意図が分からない。
「どうして…?」
「必要だと思ったからよ。」
短く答えるフランを、パンネロは目を丸くして見上げる。
フランはベッドサイドからタオルを取り、パンネロの涙と、ついでに鼻も拭ってやる。
「…ヴァンに?」
「パンネロ、あなたにもね。」
「私…?」
「あなた達二人、お互いがお互いを守り得るかどうか知りたかったの。」


425 名前:オペラ座の空賊【115】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/11/22(日) 22:09:08 ID:nMtmsW9W0]

「でも…でも!じゃあ、どうしてヴァンは危ないことで、私は…」
「ヴァンには試練、あなたには優しい時間が必要だったからよ。
“寂しい”を知って、人は大人になるわ。ヴァンはあなたが居なくて
“寂しい”という事を知らなければならない。
あなたは“寂しい”を知って早く大人になりすぎたの。
だから、子供の時のような優しい時間が必要だったのよ。」
パンネロは呆然とフランを見つめる。
フランも黙って見つめ返す。
長い沈黙の間に太陽が昇り、部屋に朝日が差し込む。
フランは立ち上がると、身支度を始めた。
それを眺めながらパンネロはぽつりと呟く。
「フランってすごいね。私達のこと、すごくよく分かってる。」
「あなた達二人が好きだからよ。」
「うん。」
頷いたパンネロだが、まだ表情は晴れない。
「もう一つ、聞いても良い?」
「なにかしら?」
「フラン、私、自分が欲しい物が分からないの。」
「そう?」
「ヴァンと一緒に居たくて空賊になったけど、私、空賊になりたかったのかな。」
「その答えならもう見つけたでしょ?」
フランはサラリと答える。
「何?私、いつ見つけたの?」
着替えを終え、鏡に向かって髪を梳かすフランの傍にパンネロは思わず走り寄る。
「バッシュの元から逃げるとき、“守られるのは嫌”って言ってたじゃない。」
鏡越しに優しく諭され、パンネロは思わずその場にへたり込んでしまった。
(…なぁんだ。)
ずっと悩んでいた答えは、とっくに自分の中にあったのだ。
驚くやら、おかしいやら。
フランは茫然自失のパンネロを立たせると、鏡台の前に座らせ、髪を梳かしてやる。
「…私がヴァンを守るの?守ってもらうんじゃなくて?」
「守る、という事は何も敵からばかりではないでしょ?」
パンネロは意味が分からず首を傾げる。
「歌と踊り。私達の中でそれが出来るのはあなただけよ。」
パンネロは思わず振り返ってフランを見る。
フランは優しくパンネロの顔を鏡の方に向き直させると、
「自信を持ちなさい。あなたはそれでヴァンの心を守るの。」
フランはパンネロの髪を結い上げてしまうと、
「バルフレアを起こして来てちょうだい。朝食にしましょう。」
何やら考えながら鏡に映った自分の顔をぼんやり見ていたパンネロは、
フランの言葉に我に返り、弾かれた様に立ち上がった。
「フランってやっぱりすごい。」
「そう?」
「ありがとう。元気になった!」
パンネロはうれしそうに頷くと、バルフレアを起こす為に部屋を飛び出して行った。


426 名前:オペラ座の空賊【116】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/11/22(日) 22:10:38 ID:nMtmsW9W0]

陽が暮れる前に橋までやって来たヴァンとアーシェは
河の対岸にあるアルケィディアス市街の高層群をぼんやりと眺めていた。
ヴァンはいつもの様にくだらない話をしてアーシェを笑わせたりしていたのだが、
時折ふと黙り込んで遠くを見て大人びた表情を見せた。
(何を考えてるのかしら…?)
アーシェの視線に気付いて、ヴァンはアーシェを見やる。
アーシェは“なんでもない”という風に小さく首を横に振る。
王宮の戻るのは嫌ではない。
だが、気の許せる仲間との旅はやはり楽しかった。
(でも、それももうお終い…)
「なんかさ、色々話したよな。」
不意にヴァンが言い、アーシェも頷いた。
「アーシェのお陰で色々分かった。一緒に来てくれて、ありがとうな。」
ヴァンの言葉に、不安と寂しさが過ぎる。
「やだ…そんな言い方しないで。」
「聞くんだ、アーシェ。」
ヴァンはアーシェの肩に手を置く。
「心配しなくて良い。帰るのは一緒だ。約束する。」
「…本当に?」
「アーシェ一人で帰したりしない。ちゃんと送ってく。でも…」
「ヴァン、待って。」
アーシェはヴァンの言葉を遮り、肩越しを指差す。
振り返ると、ラーサーが歩いて来るのが見えた。
アーシェが周りを見回すと橋の上には誰も居なくなっていた。
(いつの間に…)
ラーサーの手際の良さがアーシェの不安を煽る。
ラーサーは手にふた振りの片手剣を持っていた。
「盾は、必要ないですよね。」
小首を傾げてヴァンに剣を差し出すその表情は固い。
ヴァンは黙って受け取ると、腰に差していた短剣をアーシェに渡した。
ラーサーは懐から光沢のある生地を貼ったケースを取り出し、
ヴァンの目の前で開き、中身を見せた。
途端にアーシェが手に持った短剣の鍔がカタカタと激しく鳴り出した。
「本物、だな。」
ラーサーはケースを閉じると、それを再び懐に仕舞った。
ヴァンとラーサーの間に流れる嫌な空気がアーシェを落ち着かせない。
「どうか冷静になって下さい…こんな事…あり得ません。」
「陛下。」
ラーサーはアーシェと目を合わせようとはしない。
目の前のヴァンを鋭い目で睨みながら、
「僕は、蚊帳の外、ですか。」
アーシェは“そんな訳では…”と小さく呟き、目を伏せた。
「心配しないで下さい。こんな事であの人の気持ちを
どうにかしようなんて思っていませんから。」
ラーサーは鞘を抜くと、それを足下に置き、柄に両手を添えて構えた。
「僕の名誉の問題です。彼女に誓いましたからね。」
ヴァンは何も言わず、腰をぐっと落とし、低い位置で剣を両手で持つ。
最近はダガーの二刀流ばかり使っていたので、バランスがとり辛い。
低く構えるヴァンにはラーサーの様に突いてくるタイプは戦いにくい相手だ。
(いや…)
いい加減な立会いで茶を濁すつもりは毛頭ないが、
(全力で戦って勝てるかどうか…ってとこか。)


427 名前:オペラ座の空賊【117】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/11/22(日) 22:13:12 ID:nMtmsW9W0]

それに、時間もない。6時になると門は閉じられる。簡単には出られない。
(そうなると、アーシェが間に合わない…)
ヴァンは大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。5時の時報の鐘が鳴った。
0分にはその時間の数だけ、30分には一度だけ鳴るのだ。
(次の鐘までに終わらせる…)
鐘が鳴り終わると同時に、ヴァンは飛び出した。
下方から打ち込まれた剣を、ラーサーも腰を屈めて受け止める。
その状態で押し合うが、力が拮抗しているのか動けない。
(いつの間に…)
ヴァンは、ぎり、と奥歯を噛み締め、剣を引き抜き後退する。
ラーサーの腕は良く知っているつもりだったが、
(でかくなったもんな…)
まだヴァンの身長を追い越す程ではないが、ラーサーは随分と背が伸びていた。
当然、腕力もついているはずだ。
一方、ラーサーも手が痺れたのを悟られまいと平静を装う。ヴァンの剣は重い。
(長引くと、こちらが不利…ですね。)
お互い、動けなくなった。
最初のつばぜり合いから微動だにしなくなった二人を、アーシェは見守るしか出来ない。
ヴァンから預かった2本の短剣をぎゅっと握り締めた。
どれだけ時間が経っただろう。
ヴァンは内心焦っていた。さっき、鐘が一つ鳴ったのだ。
だが、ここで隙を見せれば、ラーサーは確実にそこを突いてくるだろう。
(待てよ…)
焦った結果の思考が閃きとなり、ヴァンは一つの戦略を思い付いた。
その戦略で得るもの、失うものの事を思い、心を決める。
(パンネロ、ごめん…)
心の中でそう詫びると、ヴァンはラーサーめがけて突っ込んでいく。
ラーサーはそれを受け止めるべくヴァンの剣筋を読んだところで、
ヴァンの身体が小さく左に傾いだ。
「そこ!」
ラーサーはすかさずそこを攻める。
と、傾いだヴァンの身体から何かが伸びて来て、ラーサーは思わず後ずさる。
「あ!」
立ち上がったヴァンの手にはラーサーの胸元にあるはずのケースが握られていた。
「アーシェ!」
ヴァンは持ったケースをアーシェに向かって投げた。
アーシェは落とさないようになんとかそれを受け止める。
「それを持って先に行け!」
アーシェは目を見開いてヴァンを見る。
ラーサーも同様だが、すぐにさせまいとして攻撃に転じる。
ヴァンのはラーサーが喉を狙って突いて来るのを紙一重で交わす。
「早く!間に合わないだろ!」
アーシェには最初ヴァンが何を言っているのか分からなかった。
(明日の施政方針演説の事…?どうしてそれをヴァンがそれを…?)
話した覚えはないのに。
「門が閉まっちまうだろ!いいから行けって!」
いやだ、と反射的にアーシェは思った。
「いやよ!一人でなんて!約束したじゃない!」
防戦一方のヴァンは敷石の割れた所に躓き、転んでしまう。
頭の上から振り下ろされた剣を辛うじて受け止め、またアーシェに叫ぶ。
「それを持って行けって!俺の代わりに、渡してくれ!」
頭上で受け止めた剣を力任せに押し返し、
ラーサーがひるんだ隙に素早く立ち上がって次の攻撃に備える。
「女王が、俺の代わりにアーシェを守るから!」
6時の鐘の一つ目が鳴った。
「行けーっ!」
ヴァンの声に押されて、アーシェは旧市街の方へと駆け出した。


428 名前:オペラ座の空賊【118】 ◆heW8b.RIp7cI mailto:sage [2009/11/22(日) 22:15:44 ID:nMtmsW9W0]

遠ざかる足音を背後に聞いてから、ヴァンは大きく息を吐き、そして、正面のラーサーを睨みすえた。
6時の鐘が鳴り終わり、橋の上に静寂が戻った。
「…どうして、陛下だけ行かせたのですか?」
「仕方ないだろ、明日、大事な何かがあるらしいし。」
「じゃあパンネロさんは?」
その問いには答えず、ヴァンは雄叫びを上げてラーサーに切りかかった。
しかし、ラーサーが剣を下ろしたので、慌てて踏みとどまり、よろける。
「…なんだよ、急に?」
ラーサーはため息を一つ吐くと、
「気が削がれました。」
ラーサーは転がっていた鞘を拾って剣を収めると、敷石にぺたん、と座り込んだ。
「ラーサー…?」
「ずるいですよ。」
「何がだよ。」
「どうして、あの場であんな事を言うんですか?パンネロさんは待っているのではないのですか?」
ラーサーはさっきと同じ問いかけをする。
ヴァンはラーサーの隣に同じように座ると、
「アーシェが守りたい物はたくさんの人のための物だろ。
俺もそれは守りたいし、おまえも同じじゃないかと思ったからさ。パンネロは…」
ヴァンは一旦言葉を切って、傍らで膝を抱え、
そこに顔を埋める様にしているラーサーの横顔を見る。
「なぁ、ラーサー、もしお前が俺なら、“首飾り盗んだぞ!パンネロを返せ!”って、
バルフレアとフランの前にノコノコ顔を出せるか?
それに…さ、あれはフランが書いた手紙だ。パンネロじゃない。」
「最初から、こうするつもりだったんですか?」
ラーサーが呆れて尋ねる。
「それで、どうするんですか?」
「まだ、分からない。パンネロが怒っているのか、俺に会いたいと思ってくれているのか、それも。」
ラーサーは、また深いため息を吐いた。
「もう…どうしてパンネロさんは…」
「怖じ気づいてるんじゃないんだ…分かってるのは俺がバカだって事。
パンネロに甘えて…さ…。最低だよ。このまま一緒に居るのは良くない。だから、アーシェに託した。」
ラーサーは顔を上げ、じっとヴァンを見つめる。
「でも…分かる気もしますね。」
「さっきからなんだよ?」
「分からなくてもいいんですよ。」
ラーサーはゆっくりと立ち上がると、
「パンネロさんは空賊よりも、歌姫の方がお似合いだと思いませんか?」
「どうだろう。でも、ゴテゴテ着飾るのはパンネロらしくないって思った。」
キレイだったけどさ、とヴァンは小さな声で付け足す。
ラーサーがくすりと笑う。
ラーサーの笑顔が、何故だかヴァンを切なくさせた。
思わず“ごめん”と言いそうになったが、
なんとなく言ってはいけないような気がして黙っていた。


429 名前:オペラ座の空賊【119】 ◆heW8b.RIp7cI mailto:sage [2009/11/22(日) 22:17:44 ID:nMtmsW9W0]

「僕も、彼女は広い広い青空の下が似合うと思います。」
そう言って、背を向けて帝都に向かって歩き出したラーサーの背を見て、
ヴァンは昨夜のバッシュの言葉を思い出した。
『陛下のお心は常に君達と共にある。共に旅をし、空を駆け巡る。
だからこそ陛下は陛下らしく、自由で居られるのだ。』
「ラーサー!」
ラーサーがゆっくり振り返る。
「ちょっとずつ、良くなってるから!」
ヴァンが何を言い出したのかとラーサーはどこか疲れた表情でヴァンを見る。
「お前とアーシェのお陰だ!もうすぐ女王も皇帝も要らなくなる。そしたら…」
「連れて行って、くれますか?」
「当たり前だろ!」
ラーサーに漸く笑顔が戻った。
「首飾り。」
「え?」
「僕から奪って、それを持って行こうとしたら、問答無用でパンネロさんを奪いに行ってましたよ。」
ヴァンはぽかん、とラーサーを見る。
「だからずるいって言ったんですよ。」
さっき見せていた疲れた表情が一転して、ラーサーは清々しい笑顔を見せた。
ヴァンは返す言葉を失う。
「今日は門は閉鎖していませんよ。陛下が大事な式典い遅れては困りますからね。」
「え?」
さっきから驚きっぱなしのヴァンを尻目に、ラーサーはまたゆっくりと歩き出す。
が、ふと足を止め、
「そうそう!パンネロさんに、またお手紙書きますって伝えて下さいね。」
「手紙ぃ!?」
ラーサーとパンネロの文通は、ヴァンには初耳だったらしい。
取り乱したヴァンにラーサーは軽く手を振ると、ゆっくりまた歩き出した。
(これくらいは、許されますよね…)
自分はまだ幼いけど、すぐに大人になる。
その頃のイヴァリースは、そして自分達はどうなっているのだろう。
なんとなく自分達を待つ未来が楽しいものに思えてきて、ラーサーは足取りも軽く、
バッシュが待つ橋の向こう側に向かって駆け出した。





暗い地下宮殿を抜けて広々とした大草原に出た所で、アーシェは思わず空を見上げて歓声を上げた。
陰鬱とした地下から出た途端に広がる星空。
(きれい…!)
が、その表情はすぐ曇る。
(…ヴァンの嘘吐き…)
大事な式典に遅れない配慮をしたヴァンの成長ぶりはうれしいが、
このやり切れなさは理屈ではどうしても割り切れない。
それに、この時間だともうチョコボ屋だって閉まっているだろうし、
どうやってラバナスタに戻れって言うのよ、と思いを巡らせる。
不意に、短剣の鍔がカタカタと鳴り出した。
ヴァンの願い通り女王の剣はアーシェを守り、
アーシェは次々と襲い掛かるモンスター達を片っ端から氷柱にして来たのだ。
「なぁに?」
女王の剣との会話にすっかり慣れたアーシェが応じる。


430 名前:オペラ座の空賊【120】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/11/22(日) 22:19:57 ID:nMtmsW9W0]

てっきり首飾りに移るのだろうと思い、ケースを取り出し、蓋を開ける。
短剣から、女王が姿を現した。
しかし、女王は首飾りを一瞥いただけで一向に移る気配を見せない。
それどころか、今通過して来たソーヘンの方を名残惜しげに振り返る。
「なぁに?あなた、まさかあそこに戻る気?」
女王は静かに頭を振る。
「だって、この首飾り…これの為にここまで来たんでしょ?だったら…」
言いかけて、アーシェは気付いた。
「まさか…ヴァンを待つ気!?」
女王の瞳はアーシェが恐れた不気味な瞳ではなくなっていた。
が、アーシェをライバル視しているのか、つんとすましている。
ヴァンの頼みでアーシェを守ってここまで来たが、
もう用はないだろう、と言わんばかりだ。
(もう、ヴァンったら…誰彼構わず優しくするの、なんとかして欲しいわ。)
でも、気持ちは分かる。
「…大事なのは、象徴なんかじゃないもの…ね。」
しかし、ヴァンにはパンネロがいるのだ。女王に付きまとわれては困る。
「ねぇ、剣に戻って私と一緒に行かない?」
女王はムッとした表情でアーシェを見下ろす。
「だって、しょうがないでしょ?ヴァンにはパンネロがいるんですもの。」
アーシェの言葉に、女王の表情に動揺が走る。
「ヴァンがこの世で一番大切にしている女の子よ。優しくて良い子。
だから、邪魔しちゃ悪いでしょ?」
しかし、女王は頑固で決して首を縦に振らない。
「あなたがこの剣と一緒に私と来てくれたなら、
あなたを宝物殿に仕舞い込んだりしないわ。約束する。
式典の時も、騎士団を率いる時は必ずあなたと一緒よ。」
まだ女王の心を動かす事は出来ない。
「…私の所に来たら、時々ヴァンが会いに来るわよ。」
もちろんパンネロも一緒だけど、という言葉は飲み込んで。
女王はその言葉に初めて躊躇いをみせ、それから再び剣に戻って行った。
「…現金なんだから。」
そう言いつつ、アーシェは女王が憎めなくなっていた。
女同士、うまくやれそうだ。
女王の剣は片が付いた所で、問題は最初に戻る。
(さて、どうやって戻ろうかしら…)
そこに草を踏みしめる足音が聞こえた。
アーシェは思わず剣を抜いて構えて足音の方を見据えると、
見知らぬ老人と一頭のチョコボがそこに居た。
こんあ時間にどうしてと、アーシェがいぶかしげにその男を眺めていると、
「驚いたな、本当に居た。」
男はチョコボの手綱をアーシェに手渡した。
「この時間にここに居たらソーヘンから出て来る女がいるから
そいつに渡してくれって頼まれたんだよ。」
「…誰に?」
「さぁね。わしは金を貰って引き受けただけだ。」
きっとラーサーの手引きだろう。
アーシェはありがたく受け取る事にして手綱を引き、チョコボにひらりと跨った。
このまま夜通し走れば、約束の場所に時間通りに着く。
「ありがとう!」
アーシェはチョコボに鞭をやり、ラバナスタ目指して走り出した。




431 名前:オペラ座の空賊【121】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/11/22(日) 22:21:41 ID:nMtmsW9W0]

東ダルマスカ砂漠の砂段の丘。
ヴァンが初めてモブを倒した場所にバルフレアとフラン、パンネロは来ていた。
朝食の席でここに連れて行って欲しいと二人に言われた時、
バルフレアは文句も言わず、大人しくそれに従った。
居候が加わった3人所帯もいよいよ終わりなのだろうと漠然と感じていた。
パンネロは砂漠の熱で陽炎の様に揺らめく王宮を眺めると、
隣のバルフレアに声を掛けた。
「ねぇ、バルフレア?」
「なんだ?」
「私…バルフレアといると、自分がお姫様になった気がするの。」
「そりゃ…光栄の至り、だな。」
なんとなく続きの言葉が読めてしまい、それがバルフレアを少しだけ憂鬱にした。
「でもね、ヴァンと一緒だと…本当の自分で居られるの。」
「なるほど。」
「ねぇ…どっちが幸せなのかな?」
「さぁな。そして俺は本当のお嬢ちゃんとやらと一緒に居られるヴァンに嫉妬するだけさ。」
パンネロは驚いてバルフレアを見上げる。
「置いていかれるのは俺の方なのに、どうしてお嬢ちゃんがそんな顔をするんだ?」
バルフレアはいつもの様にパンネロの頭にぽん、と手を置く。
「バルフレアはきっと、私がお婆ちゃんになっても“お嬢ちゃん”って呼ぶのね。」
「多分…な。」
それはそれで良いかもしれない。
パンネロもバルフレアには“お嬢ちゃん”と呼ばれる方がしっくりするのだ。
「ねぇ、バルフレアさん?」
パンネロもいつもの呼び方に戻す。
「なんだ?お姫様。」
「もし…私がマリアみたいに困っていたら、助けに来てくれる?」
「イヴァリースの端っこに居たとしても、すぐに駆けつけるさ。」
パンネロはホッとする。
「ありがとう。」
ヴァンの元に戻っても、バルフレアはバルフレアのままだ。
「来たわ。」
フランの声に、パンネロは思わず駆け出そうとして、
砂塵を巻き上げて走って来るチョコボに乗っているのが
ヴァンでない事にすぐ気付きその場に立ち竦む。
バルフレアもフランとパンネロの様子を見て、おそらくヴァンが迎えに来るのだろうと
予想していたが、やって来たのはチョコボに乗ったアーシェだった。
アーシェは3人の姿を見つけると、チョコボを降りた。
フランが気を利かせて、興味津々で目をキラキラさせているパンネロを誘って少し離れた所に移動する。
「どうして女王様がここに来たんだ?」
アーシェは黙って“凍てつく女王の涙”を差し出した。
バルフレアはケースを受け取り、中身を確認する。
「こいつはどうも。…で、ヴァンはどうした?」
大して興味もないのか、すぐにケースを閉じてしまう。
「私ね…ヴァンと一緒にこれを盗んで来たの。」
「…だろうな。」
パンネロと博物館で見た首飾りが何故ここにあるのか、なんとなく察したバルフレアが適当に相槌を打つ。
「楽しかったわ。私、空賊に向いてるらしいの。」

432 名前:オペラ座の空賊【122】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/11/22(日) 22:23:34 ID:nMtmsW9W0]

話したい事は別にあるのに、二人はそれを上手く言えなくて。
「前に旅をしている間、時々不思議に思ったの…
どうしてパンネロはヴァンの世話を焼きたがるのかしらって…。」
アーシェはヴァンの話ばかりをして、
バルフレアはおもしろくない気持ちでそれを黙って聞いている。
「ヴァンは魅力的よ。構いたくなるの。」
「…それはそれは。」
「でも、何が起ころうと私の道が、あなたやヴァンと交わる事はないわ。
 だからあの二人に幸せになってもらいたいって思ったの。」
「…弟達のために、お姉さんは大変だな。」
「お母さんって言ったら、怒るところだったわ。」
アーシェは可笑しそうに言う。
「俺はヴァンじゃないさ。」
「そうね。」
アーシェの軽やかな面持ちに、バルフレアはアーシェと一緒に旅をしたヴァンを羨ましく思う。
アーシェは様子を伺うフランとパンネロに歩み寄り、
「合格よ、フラン。」
バルフレアはぎょっとして相棒を見た。
「ヴァンはもう大丈夫。」
フランはアーシェの腰の女王の宿った剣を見る。
「女王の魂を鎮めたの?」
「私じゃないわ。ヴァンよ。」
フランは満足げに頷いた。
「あなたには酷な頼みだったわね。」
「ううん、楽しかった。」
バルフレアはバツが悪そうに肩をすくめる。
「女同士のネットワークってのは怖いねぇ。」
フランとアーシェは艶然とバルフレアに微笑む。
「参考までに教えてくれないか?一体どうやって連絡を取ってたんだ?」
「モグネットよ、知らない?」
「なんだって?ありゃ女子供のおもちゃじゃないか?」
「そこが狙いよ。」
アーシェは得意そうに笑う。
「モグネットで行き交う女の子同士のお喋りに、
まさか女王と空賊が混じっているなんて誰も思わないでしょ?」
バルフレアは降参だ、とばかりにふざけて両手を上げてみせる。
「もう戻らないと。」
「送って行こうか?」
「影武者が居るのよ。だからこっそり戻らないと。」
「それは残念だな。」
アーシェは背伸びをしてフランにきゅっと抱きつく。
「元気でね、フラン。」
「また会えるわ。」
「そうね。」
アーシェはパンネロに手を差し出す。
「帰りましょう、パンネロ。」
パンネロは頷くと、アーシェの手を取った。
二人はアーシェが乗って来たチョコボに跨ると、一路ラバナスタを目指して走り出した。
それを見送りながら、フランがバルフレアに尋ねる。
「引き止めないの?」
「お嬢ちゃんが帰りたがってた。」
「フラれた?」
「まさか。」
「ガリフの里でみんなパンネロに恋してたって、前にあなた、言ったわね。」
「そうだったか?」
「その“みんな”の中に、あなたは居たの?」
バルフレは相棒の問いには答えず、唇を歪めて笑うだけだった。


433 名前:オペラ座の空賊【123】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/11/22(日) 22:25:26 ID:nMtmsW9W0]

ヴァンに早く会いたいパンネロの気持ちと一緒に
二人を乗せたチョコボはラバナスタを目指してひた走る。
「ねぇ、アーシェ、!」
肩越しにパンネロが叫ぶ。
そうしないとチョコボが砂を蹴る音のせいで声が届かないのだ。
「私ね、オペラの主人公みたいだったの。ドレスを着て大きな舞台で歌って、
最速の空賊にさらわれて、とても優しくしてもらって。」
「素敵ね。」
「でもね、明日から空賊に戻るの。アーシェは…?」
アーシェは肩越しに妹分を見やる。
「私…?出来の悪い弟みたいな相棒と二人帝国で一番大きな宝石を盗んだわ。」
「ステキ!かっこいいな。」
「でもね、明日からはまた女王様に戻るの。」
二人は顔を見合わせてうふふ、と笑い、やがて弾けた様に大声で笑う。
アーシェがチョコボに鞭をくれ、加速する。
背後からグロセアエンジンの音がして、上空をシュトラールが霞めて飛ぶ。
パンネロが手を振るとそれに応える様に大きく旋回して、
そのままどこかへと飛び去って行った。
東門から王都に入り、パンネロは近くに居た子供達に声を掛け、
ヴァンを見なかったか尋ねてみると、
「戻って来たのに、またどこかへ行っちゃたの…?」
戻ってすぐに旅支度を整えると、そのままどこかへふらりと出かけてしまったそうだ。
「どうするの、パンネロ?」
「探しに行く。」
パンネロはいつもの踊り子の服に着替えていた。
やっと本来の自分に戻った様な気がする。もう迷いはない。
「このコ、使ってちょうだい。」
アーシェは乗っていたチョコボの手綱をパンネロに渡す。
「アーシェ…」
パンネロはアーシェにぎゅっとしがみついた。
「色々ありがとう…大好き。」
「気を付けてね。」
パンネロは、今度は一人でチョコボに乗る。
「そうそう!ヴァンはああ見えてもてるわよ。気を付けてね。」
アーシェの腰の短剣の鍔がカタカタと鳴り出し、
パンネロはチョコボの上から不思議そうにそれを眺める。
「剣が…鳴ってる……?」
「気にしなくて良いのよ。さ、行きなさい。」
パンネロはうれしそうに頷き、チョコボに鞭をやると元来た道を引き返す。
母性本能全開のパンネロには、はぐれ鳥を追いかける事など容易い事だ。
何度も振り返ってアーシェに手を振り、その姿は門の外に消えて行った。


434 名前:オペラ座の空賊【124】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/11/22(日) 22:27:42 ID:nMtmsW9W0]

ギーザ平原を越え、オズモーネ平原までやって来たところで、
パンネロは水場を見つけ、チョコボに水をやった。
自分も手綱を持ったまま、隣に跪いて泉で水を掬おうとした時、
何かが上空を横切り、空が暗くなった。
振り返ると、巨大な鳥のモンスターがパンネロとチョコボを狙って急降下して来た所だった。
パンネロは慌てて身を翻して攻撃を避ける。
その時に手綱を手放してしまい、怯えたチョコボは興奮してパンネロを置いて逃げ出してしまった。
「ああ…!」
パンネロが気が付いた時にはチョコボの姿は見えなくなっていた。
パンネロの武器は小さな短剣だけだ。これでは攻撃は届かない。
突然の事で攻撃魔法の呪文が口から出て来ない。
何度か攻撃を避けたが、モンスターは諦めない。
立ち上がって走ろうとして、勢いが余って前につんのめって転んでしまう。
「ヴァン…!」
背後に鋭い爪がすぐそこまで迫って来た。
パンネロは頭を抱え、もうだめだと目をぎゅっと閉じた。
その時、つがえられた矢が、ぶん、と放たれる音がして、頭上でモンスターがすさまじい悲鳴を上げた。
パンネロがおそるおそる顔を上げると、更に何本もの矢が頭上を飛んで行き、モンスターを貫いた。
絶命して、羽ばたくの止めたモンスターがパンネロの上に落ちて来る。
突然の事に何が起こったのか分からないパンネロは動けず、
落ちてくる巨体が迫って来るをぼんやり眺めていると、誰かが腕を強く引っ張った。
どう、と地響きを立てて落ちて来たモンスターの下から引っ張られ、
間一髪でパンネロは下敷きにならずに済んだ。
「パンネロ!」
懐かしい声に顔を上げる。
「大丈夫か?」
パンネロはこくん、と頷いた。混乱した頭の中を整理する。
(危なくなって、“ヴァン”って呼んだらヴァンが居て……)
試しに名前を呼んでみる。
「…ヴァン?」
もし、会いたいと逸る気持ちが見せた幻だったどうしよう。
「怪我はないか?どうしてここに…?」
ヴァンは消える事なく、心配そうにパンネロの腕や肩に怪我がないか調べている。
触れられた腕や肩にヴァンの体温を感じる。
目の前に居るのは間違いなくヴァンだとパンネロは認識した途端、
パンネロは気持ちを抑えきられず、感情が一気に弾けた。
パンネロはヴァンの首にしがみ付くと、自分の唇を勢い良くヴァンのに合わせた。
勢いが良すぎて歯と歯がぶつかって、痛くて目に火花が散る。
痛いと叫ぼうとしたら鼻と鼻がぶつかる距離にパンネロの顔があって、
ヴァンは伏せられた睫毛に釘付けになり、そのまま勢い余って
パンネロを抱えたまま後ろ向きに倒れてしまった。
しかも、間の悪いことに、倒れた所に拳大の石が転がっており、
ヴァンはそれに後頭部を思い切り打ち付けた。
頭は痛いし歯は痛いしで、ヴァンは目を回してしまう。
驚いたパンネロが慌てて水場で手のひらに水を掬って、ヴァンの額に少しずつ垂らした。
「ヴァン…ごめん!私…うれしくってつい…」
パンネロはオロオロとハンカチを出してヴァンの顔をそっと拭いてやる。
ヴァンはうぅ〜ん、と呻いて目を開いた。
ぼやけていた視界が徐々にピントが合って来て、心配そうな顔のパンネロが見えた。
(今…うれしくってって言ったよな…)
頭を打ったせいだろうか、パンネロの後ろに虹が見えるのは。
頭を打ったせいだろうか、パンネロの後ろに広がる風景が急に生き生きと息衝いて見え始めたのは。
(違う…)



435 名前:オペラ座の空賊【125】 ◆WzxIUYlVKU mailto:sage [2009/11/22(日) 22:29:10 ID:nMtmsW9W0]

「パンネロに会えたからだ…」
ヴァンは跳ね起きると、パンネロを強く抱きしめた。
「俺に会えて、うれしいって……」
腕の中で身じろぎせずに居たパンネロが驚いてヴァンを見上げる。
ヴァンもパンネロを見下ろす。
「パンネロがそう言ったらさ、そしたら!俺!世界がカラーになった!」
熱弁を振るうヴァンがおかしくて、パンネロが吹き出した。
釣られてヴァンも笑い出す。
ひとしきり笑った後で、ヴァンはパンネロを抱く腕に力をこめた。
「…ごめんな。」
パンネロがすぐに答える。
「もういいよ。」
穏やかに微笑み、小首を傾げるパンネロのなんと可愛らしいことか。
ヴァンはおずおずと顔を近づける。パンネロは大人しく目を閉じた。
今度は歯がぶつからないように、そっとキスをした。
パンネロの唇は柔らかくて、触れただけで溶けてしまいそうだ。
唇が離れると、ヴァンは立ち上がり、パンネロに手を差し伸べた。
「行こう。」
「うん。」
パンネロもヴァンに手を引かれて立ち上がる。
陽が傾きかけ、空がラベンダー色に変わっていく。
その中を、二人は穏やかで誇り高い仮面の一族の集落に向かって歩き出した。
このままずっと手を離さないで、
そうして、二人で一緒に大人にろうとヴァンは心に決める。
ずっとパンネロの名前を呼んでいたいと強く思う。
パンネロも同じ事を考えているのであろう、
ヴァンの気持ちに応えるかのように繋いだ手にぎゅっと力を込めた。

おわり。

---------------------------------------------------
長らくのお付き合いありがとうございました。

※物語冒頭のヴァンの豹変について※
ヴァンが急にパンネロに素っ気なくなった要因は、投稿人自身の体験なのですが、自分ですら忘れていた事がちょとした他人の言葉でが起爆剤になって、感情が爆発するって本当にあるんですよ。
ヴァンもその状態だったのですが、投稿人の力量不足でちゃんと表現しきれていなかったように思うので、ここで補足させてください。

FF6のGBAの移植版をプレイしていて閃いたお話でしたが、途中でDFFの発売があって、ヴァンの冷遇っぷりに悲しくなって、DFF2にはヴァンを出して下さいこんちくしょうキャンペーンで、ヴァンがやたらと活躍するお話になりました。
原作のヴァンは、空気読めてないけど、ガリフの人たちやレダスにかわいがられたり、ビエラの心を動かしたりと、とても良い子だと思います。もし、DFF続編が出たら、ヴァンが出演できますように。(コスモスって何歳とか聞いて欲しい。)

長いお話で、書くのはしんどかったけど、とてもとても楽しかったです。
読んでくださって本当にありがとう。幸い、ネタだけはたくさんあるので、また来たいと思います。ノシ

436 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/24(火) 04:34:49 ID:sC7zzTLc0]
GJGJ!!!

437 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/24(火) 22:01:24 ID:oLWhbShJO]
楽しい話、ありがとうございます。芯の強い女性達、結局、手のひらの上の男性達、皆さん好きになりました。

438 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/25(水) 02:00:30 ID:NbS9FBOF0]
>>オペラ座の空賊
長編完結、まずはお疲れ様でした。
今回は紳士ラーサーに惚れざるを得ない。「ずるい」の言葉が彼の葛藤とかを良く表してるなーと。
全編通して登場する全員が生き生きと、それでいて格好良く描かれているので、いつも読んでいて
うっとりするんですが、「世界がカラーになった!」の台詞で、もうなんて言ったらいいか分からない
全てを吹っ飛ばすほどの感動(と言うか衝撃)を味わいました。ヴァン か わ い い な !!w
楽しい時間をありがとう!新作も待ってますノシ

439 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ [2009/11/26(木) 16:57:21 ID:gfYf6Ib4O]
パンネロたんの黄ばんだパンティーでペニスを包み込み射精したいの

440 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/11/29(日) 21:04:17 ID:V4RWQAKV0]
>>422
乙!



441 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/01(火) 19:59:18 ID:o4July5f0]
GJ!

442 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/02(水) 00:06:33 ID:wyCbr8J6O]
こんなステキなSSがあったとは…今日初めて知ったわ。FF12好きとして不覚だったぜ。GJ!!

…過去ログの途中が見られないのが残念すぐる(´;ω;`)

443 名前:ラストダンジョン (334)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 01:59:02 ID:oFoMQyTf0]
前話:>>402-406(場面は>>87-89の続き)
※SNDの勝手解釈+ねつ造を通り越して好き勝手し放題です。ご容赦を。
----------


 エネルギーの振幅現象が発生した直後、周辺エリアの電力供給が一時的にストップしたことは通信
ログを調べてようやく分かったことだった。どうやら“外”では、予想以上に大きな動きがある様だ。さらに
数分もしないうちに、伝送路の一部に生じた異変を検知した。
 シェルクはこのことを“外”にいたイリーナに伝え、彼女たちに事実関係を調査してもらう事にした。
内側から外観を見る事は難しい、だから外のことは外にいる者に任せた方が効率が良い。その代わり、
外側からは見えづらい内部の異変について探る事にした。最終的に両者は同じ場所に行き着くはずだ。
 一時的であるにしろ電力供給が断たれたことで、周辺のネットワークを支えるシステムが不安定な
状態に置かれていたのは間違いない。しかしその要素を除いても尚、不審な点――具体的に言って
しまうと何者かの作為――を感じずにはいられなかった。この混乱に乗じてよからぬ事を企てている
輩がいる、もしかしたら混乱それ自体が、既に計略の一端であるのかも知れない。リスクが伴うことを
承知の上で、シェルクはより強く振幅の影響を受けているエリアを目指す事にした。
 シェルクの行動を例えるなら、深い霧に包まれた山奥の古道に足を踏み入れる様なものだ。しかし
周囲に立ちこめる濃い霧も、生い茂る草木によって隠された道も、ここを訪れた者の視界を奪い惑わす
目的で人為的に作り出されたものである。この先、目印になる道標どころか道そのものも曖昧な中を
進んでいくことになる。そんな場所へ立ち入るのだから当然、遭難の危険性だってある。そして万一
ここで遭難しても、救助は期待できない。
 そもそも、何故そんな細工をする必要があるのだろうか? シェルクは考える。外部からの進入を
阻もうとするのは、逆に言えばその先に都合の悪い何かがあるという証だ。
 問題は、その“都合の悪い何か”が誰にとって、どう都合が悪いものなのかという事だ。

                    ***

 一方、シェルクから依頼を受けたイリーナが振り返ると、既にツォンが端末の操作を始めていた。使わ
れなくなって久しいが、これでマテリア援護要請者の端末番号と現在地を特定できる。しばらくして検索
結果が画面に表示された。
「……支給リストに登録の無い番号だ」
「じゃあ、非正規品って事ですか?!」
 イリーナの問いをツォンは即座に否定した。技術的に考えてもそれはあり得ないからだ。マテリア関連
の技術は、膨大な財力と魔晄炉というマテリア量産の基盤を有する神羅の専売特許であり、世界中の
魔晄炉が停止したメテオ災害以降はマテリアの流通も無くなり、研究さえままならない筈だ。こんな状況
で非正規品が出回るとは考えられない。
 ツォンは表示された端末の位置情報を読み上げる。イリーナが手元のパネルで数値を入力すると、
画面の地図上、エッジ郊外に光点が現れた。すぐさまエッジ周辺の施設データを呼び出し、その地図に
重ね合わせる。
「ここは……変電所です」

444 名前:ラストダンジョン (335)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 02:05:40 ID:oFoMQyTf0]
 ツォンが無言のままで頷く。変電所周辺から援護要請が発信されているのは間違いなさそうだ。ネット
ワーク上で観測された値も、マテリア援護が実際に行われていたことを示している。となれば旧タークス
の誰かが、今回の騒ぎに関与しているのは確定的だ。援護要請を発信した端末番号から所有者を特定
しようとしたのだが、それは叶わなかった。
「使用されたのは恐らく正規品、ただしメンバーに支給されていない予備用の端末だ」支給リストに登録
のない番号の端末が存在する理由を語ったツォンに、イリーナは疑問をぶつける。
「そんな物、どうやって手に入れるんです?」
「まだ旧体制だった頃……」つまりイリーナがタークスに加入する前の話だった。「我々タークスに支給
される端末の管理は、すべて当時の主任が行っていた。端末番号と所有者のIDを登録、それを元に
行動を把握するためだ」
 最も大きな目的は、各地で任務に就いているメンバーからのマテリア援護の要請と発動の管理に
あった。性質上、援護の要請者は少なからず危機的な状況に置かれている。タークス本部は独自に
その人物と、関わっていた任務について――万が一の際の救助や後処理の為に――常に把握しておく
必要があった。イリーナ加入後の新制タークスでは、それまでと比べ大幅に人員が減ってしまったため
マテリア援護のシステム自体が機能しなくなってしまったのに加え、取り組める任務の総量が減った事
で人員の行動管理が容易になったという事情が重なり、システムは廃止された。
「って言うことは……」
 ツォンは頷いて、イリーナの推測を肯定する「ヴェルド主任。他に該当者はいない」

                    ***

 深い霧に包まれた古道を慎重に進んでいたシェルクは突然、開けた場所に出た。そこはまるで、人里
離れた山奥にひっそりと暮らす人々の小さな集落だった。
 どうやらここは、ネットワーク上に誰かが作ったフィールドらしい。
 シェルクはしばらくその場から動かずに、注意深く周囲を観察した。立ち並ぶのはどれも低層の木造
建築物ばかりで、規模は小さいながらも商店や宿屋もある様だ。周囲を走り回っている子ども達の格好
を真似て、シェルクは自身に偽装を施す。言ってみれば、踏み入れたフィールドという名の郷に従って
変装したのだ。そうしなければ、すぐに自分が部外者だとフィールドの主に知れてしまい、ここを追い出さ
れることになるからだ。
 それからシェルクは村の中心と思しき方向へ向けて歩き出した。自分のすぐ横を、ボールを追いかけ
て数人の子ども達が走り抜けていく。彼らの背後に目を転じれば、民家の屋根の上で羽を休める色とり
どりの鳥たちが、まるで世間話でもしているようにさえずっている。その家の軒先で日向ぼっこをしながら
寝ている親猫と、その周りをくるくると走り回る子猫の姿があった。民家の並びの商店では、別の子ども
達が商品棚の前であれこれと談笑している。どこを見てものどかな風景が広がっていた。

445 名前:ラストダンジョン (336)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 02:14:31 ID:oFoMQyTf0]
『シェルク、聞こえる?』
 唐突にイリーナの声がした。シェルクは慌てて周囲を見回す。子ども達がボール遊びをしている広場
の隅、古めかしい街灯の横に公衆電話機があった。それを目指して駆け出すと、受話器を取り上げる。
誰かが作り出したフィールド内で外部との“会話”を行えば、侵入を察知されてしまう危険性がある。
だから彼女はここに存在するオブジェクトを使って偽装する必要があった。
 要するに、場にそぐわない不自然な行動は避けなければならなかった。誰もいない場所で話しかけて
も、「その方向には誰もいない」とメッセージが出る。そのメッセージは、システムが検知した“異常行動”
に対する反応であり、ここでは致命的なミスとなる。ネットワークに潜行中のシェルクの行動要領は、
ゲームと似ていた。
 公衆電話の受話器を取り上げて、耳を当てる。
『シェルクどうしたの?』
 だからといってイリーナの声は受話口から聞こえる訳ではない。
「……問題ありません、続けてください」
 送話口に片方の手を添えて、この場では電話で話すフリをしながらシェルクが頷く。実際は“外”にいる
シェルクの耳と口によってイリーナとの会話が成り立っているので、このフィールド内にいる他の
オブジェクトには影響がない。ただしそれには、シェルクの侵入が発覚していないという条件を満たして
いなければならない。
『エッジの変電所が何者かに襲われた事が、一時的に電力供給がストップした原因だったわ。あなたの
言っていたエネルギー波の正体は、通信を介したマテリア援護によるもので間違いない』
「関与した者の特定は、可能ですか?」
 シェルクの問いに答えたのは、遠くの方から聞こえてくるツォンの声だった。
『おおよその見当はついているが、もう少し時間がほしい』
「分かりました。こちらも“振源”に近い所まで来ていますが、少し厄介な物にぶつかりました」
 この時、受話器を持っていたシェルクの後ろ姿をじっと見つめている子どもの存在に、彼女はまだ
気付いていない。

                    ***

『こちらも少し時間が掛かりそうです。ここを突破したら連絡――』
 明らかに不自然なところで言葉が途切れた。驚いたイリーナが呼びかけるが、横たわるシェルクから
の返答はなかった。
「どうしたのシェルク?」
 肩を揺すっても頬を叩いても反応はない。触れれば人肌の温もりは感じるものの、外部からの刺激に
はまったく反応しない。
「ちょっと、大丈夫!?」
 イリーナの様子を見かねた様に、ツォンが声をかける。見上げたツォンが手にしていたのは、ヘッド
セットだった。
「彼女は今ネットワーク内に潜行中だ、直接話しかけるよりはこの方が適切かも知れない」
 そう言ってプラグを端末に差し込む。ヘッドセットを装着した状態でイリーナが席に着くと、目の前には
モニタリング用の画面があった。その様相はさながらオペレーターだ。
 ひとつ深呼吸をするとイリーナはもう一度、名前を呼んだ。
「シェルク、聞こえる? 聞こえたら返事をして!」

446 名前:ラストダンジョン (337)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 02:23:05 ID:oFoMQyTf0]

                    ***

「ここを突破したら連絡を入れますので……」
 そう言ったシェルクの足にぶつかって、ボールが止まった。どうやら広場で遊んでいた子ども達の物の
ようだった。
ゆっくりと視線を落とし、シェルクは足下に転がっているボールを見つめた。それから、広場にいる子ども
達の方へ視線を向ける。彼らは皆、シェルクを見つめて立っていた。
「おねえちゃん、そのボールこっちに投げて」と、そんなことを頼まれそうな状況なのだが、子ども達は
じっとシェルクを見つめたまま微動だにしなかった。全ての動作が停止し、この場に流れる時間が止まった
ように感じた。
 シェルクは事態が急変したことを悟ったが、一足遅かった。
「……ねえ」
 シェルクの背後で小さな声が聞こえたのとほぼ同時に振り返ると、公衆電話機の後ろに少年が立って
いた。彼がこのフィールドを巡回する監視者だったのだ。
「キミ、誰?」
 少年が口にした言葉は、システムがシェルクを異物と認め、排除のためのプログラム実行を意味する
合い言葉だった。足下にあったボールが破裂し、噴出した煙があっという間にシェルクの視界を覆う。
周囲にあったのどかな風景は一瞬にして消え失せ、集落を構成していたオブジェクトはたちまち塀の
ような防壁へと姿を変えて行く手を阻む。先程までいた子ども達はシェルクを追跡する役を担った
プログラムのようだ。
 彼ら同様に、シェルクも自身に施していた偽装を解く。こうなってはどんな偽装も意味を成さない、強行
突破しか方法はない。
 走り出したシェルクは、背後からの追撃を避けながらこのフィールドの出口を探さなければならない。
この場合「出口」は、このフィールド内のどこかに存在する特別なオブジェクト――作成者に繋がる
「入口」の事を指す。
 ネットワーク上に構築されたフィールドには、必ず作成者が存在する。作成者によって作られた物には
、多少の差はあるもののその個性がクセとして反映している。潜行中のシェルクがまず最初にしたのは、
フィールド上のオブジェクトから作成者の“クセ”を見極めることだった。
 のどかな集落に見立てたフィールド――先程までシェルクが見ていた風景の中に、必ず答えに繋がる
ヒントがあるはずだった。
 しかし出口探しに考えを巡らせようとすると、自身の操作がうまく行かなかった。そもそも人の肉体は
ネットワークに最適化された物ではない。だからSNDで潜行中は、運動と思考を並行処理するための
プロセスがほぼ同じ経路で行われるせいで動作効率が低下する、それはSNDがディープグランドで研究
されていた頃からの欠点だったが、けっきょく解決策が見つからなかった為、SNDは実戦向きでないとされた。

447 名前:ラストダンジョン (338)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 02:31:09 ID:oFoMQyTf0]
『シェルク、聞こえる? 聞こえたら返事をして』
 イリーナの声が聞こえた時、シェルクは目の前の壁に阻まれ足を止めたところだった。振り返ったとこ
ろで、煙幕の向こうから自分めがけて飛んで来た石を避ける為に屈んだ後、いま来た道を戻った。
 まるで迷路だった。
『大丈夫なの?』
 再びイリーナの声がする。相変わらず飛んでくる石を避けようと、細い路地に駆け込んだシェルクは、
壁を背に背後を伺った。
「聞こえます。……あまり大丈夫とは言えませんが……」
『どういう事?』
 シェルクは手短に状況を説明した後、イリーナに尋ねた「そちらのモニタに何か映っていますか?」。
『……ええと……。あなたの今いる位置ね、たぶん』目の前のモニタに現れた幾何学模様と、中心に
現れた光点を見つめながら、それが膨大な迷路のようだとイリーナは感想を漏らした。
 彼女の言葉で確信を得たシェルクが申し出る。
「出口までの誘導をお願いできますか?」
『出口!?』少しの間が空いてから、イリーナが言った。『……そんな物、一体どこに?』
 そのまま進んでもこの迷路に出口は無い、それは分かっている。
「出口になる仕掛けは、ここにいる私が自力で見つけるしか方法はありません。ただ、追い詰められると
圧倒的にこちらが不利なので、それを避けたいんです」
『分かったわ。それじゃあ早速だけどシェルク、その道を進むなら2ブロック先で右よ。他は全部行き
止まり』
 イリーナの誘導で、シェルクは迷路のように入り組んだ道を走り出した。




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・もし目が覚めたらそこがDC世界の宿屋って事はありませんがw
 このパートが一番ゲームに準えた内容になります。
・むしろイリーナ管制s(ry
・いったんパートが変わります。

448 名前:ラストダンジョン (339)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 02:39:24 ID:oFoMQyTf0]
 ちょうど同じ頃、エッジの一角にあるセブンスヘブンの2階は、ちょっとした口論の舞台となっていた。
「……頼むから、もう少し真面目にやってくれ」
『ちょお待って〜な、こっちは最初っから真剣や!』両手を振って講義するケット・シーは、ついにその
場で立ち上がるとこう続ける『そんじゃ聞くけどな、オッサンの言う“もっともらしいこと”って何やねん?!』
 どうやら“ケット・シーが演じるWRO局長リーブ”を実現するのは、本人達が想像している以上に困難
な演目だったようだ。
「あいつなら何と言う?」
『そんなモン知らんわ!』
「想像するんだ」
『できたらこんな苦労してへんで!』
 まぁまぁ、と間に入ったマリンに窘められたケット・シーはその場に座り直す。それからマリンは、振り
仰いだ先に立っているヴェルドにこう言った。
「おじさん、ケンカをしたって良い案は浮かばないと思います」
「……そうだな。悪かった」
 それから再びケット・シーに顔を向けると、同じ口調のままで言う。
「ケット・シーも、あんまり暴れないで? さっきせっかく直したのに、リボンが曲がっちゃう」
 マリンは言いながら、ケット・シーの左手に結ばれたリボンの形を整える。
『……すんません』
 ふたりの様子を見下ろしていたヴェルドが、何の気無しに疑問を口にする。
「先程から少し気になっていたんだが、手に巻いているそれは?」
「おねえちゃんのリボン」
『エアリスはんの形見や』
 耳にした名前からヴェルドは遠い記憶をたぐり寄せ、それがミッドガル伍番街スラムの教会にいた少女
である事に思い至る「……古代種の娘?」。
 ヴェルドの言葉を聞いたマリンは、あまりいい顔をしなかった。その様子に気付いたケット・シーが場を
繕うようにして言った。
『これな、4年前にみんなでここ集まった時に付けとったんや。マリンちゃんの髪を結うてるのとも同じ。
みんなお揃いなんやで! エエやろ〜』見せびらかすように、つとめて明るく振る舞うケット・シーだった
が、最後の言葉はそうもいかなかった『……エアリスはんは、ボクらと一緒に旅をした“仲間”やさかい』。
言い終えると、しょんぼりと俯いて肩を落とす。
「なるほど」ヴェルドは先ほどの言葉が失言だった事を知った「仲間を結ぶ絆のリボン、と言うわけか」。
 彼らにとってエアリスは“古代種の末裔”ではなく、“仲間”という意味で特別な存在なのだ。
 マリンは満足げな表情で頷くと、話し出す。
「クラウドやティファも付けているんですが、大切な物だからと普段は外しているんです。でもケット・シーは、
あの日からずっとここにいたから……」
『ま、ボクの場合は元がぬいぐるみやから、このまま付けとっても手入れ楽なんですわ〜』
 一通り彼らの話を聞き終えたヴェルドが、ずっと引っ掛かっている事を尋ねる。

「ところでそのリボン、リーブ自身は付けていたのか?」

 ふたりは無言のままヴェルドを見つめ返すだけだった。
「あ、いや……」また何か失言してしまったのかと勘違いしたヴェルドは、気まずそうに続ける。

449 名前:ラストダンジョン (340)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 03:01:33 ID:oFoMQyTf0]
「それほど大切な物なら、何故あいつは手元に置かなかったのだろう?」
 ケット・シーの話によれば4年前、エッジを襲ったカダージュ一味と対決するために集まった時以来、
彼はここにいると言う。事態が収束すれば当然、リーブの操作していたぬいぐるみなのだから、いかよう
にも回収できたはずだ。にもかかわらず、わざわざここに置いておく必要性を思いつかない。
『そう言われてみたら、そうやなぁ……』
 自身の左手に結ばれたリボンを見つめながら、ケット・シーがしみじみと呟いた。
「実はあの日……」沈黙の中、マリンの口からぽつりぽつりと零れる言葉が、彼女しか知らない4年前の
光景を描き出した「リーブさんもミッドガルにいたんです」。
 その日、マリンはひとりで――当時も危険区域とされ立入の制限されている――ミッドガル伍番街スラ
ムの一角を訪れた。そこでモンスターに襲われそうになったところを、通りがかったリーブに助けてもら
った。何よりその場所が、6年前に二人が初めて出会った場所――エアリスの育った家の跡地――だっ
た事を話した。
 ケット・シーは黙ってマリンの話を聞いていた。
「その後、みんながいる教会の近くまで一緒に歩きました。でも、教会の手前で別れました。教会には
みんながいました、だから『ここまで来ればもう安全だから』と言って」
 自分が教会に行かなくても、そこにはケット・シーがいるから大丈夫。そう言って教会まで一緒に行こう
とはしなかった。そうだと、マリンは思い出す。
「別れる直前に、リーブさんは『ありがとう』って言いました」
 笑顔で口にした『ありがとう』の言葉が、一緒に教会へ行こうと言うマリンの申し出に対する拒否を示す
為のものだったのではないか? 薄々だがその事に気付いていたマリンは、ただそれを確かめる事が
怖かった。
「その意味、ケット・シーと一緒にいれば……いつか分かるかなと思ったんです」
 結果的にマリンの目論見は今日、最も悪い形で達成されたことになる。
『すんません、ボクには何やサッパリ分からへんのです。……でも』僅かに声色を変えて続ける。『どうも、
お招きしてないお客さんが来たみたいや』
 そう言ったきり、ケット・シーは借りてきた猫の置物のように黙り込んでしまった。
「どういう……」ケット・シーへの問いかけを中断させたのは、ヴェルドの携帯の着信音だった。それを
デンゼルからのものだと思い込んでいたヴェルドは、何の疑いもなく通話ボタンを押した。このとき画面
に表示されていた『非通知着信』の文字を見落としていた事に気付いたのは、電話の向こうにいた元部下
の指摘を受けてからだった。

                    ***

 モニタ内でシェルクの居場所を示す光点は移動を止め、一箇所で点滅を繰り返していた。
「どうしたの?」
 画面の表示では特に目立った障害もなく、このまま直進しても問題は無さそうだと付け加えたイリーナ
に、シェルクはこう返した。
『先程までとは様子が違っています、どうやらフィールドが作り替えられている様です』気がつけば、
いつの間にか辺りはしんと静まりかえっている。
「どういう事?」
 イリーナが目にしていたモニタには相変わらず模様とも見て取れそうな“迷路”が表示されているだけ
で、特にこれと言った変化は現れていない。

450 名前:ラストダンジョン (341)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 03:02:55 ID:oFoMQyTf0]
『そちらのモニタに表示されている情報は、あくまでも端末側で処理可能な容量や範囲に収まるよう変更
された結果、映し出されている物です』
 シェルクはこの状況を写真に例えて説明する。一軒の家が写っている写真を見れば、家の造りや屋根
の色は分かっても、その家の窓から見た風景を知ることができない。写真を見ている者は、そこに写って
いる物体について視覚的に把握することはできても、それ以外の――匂いや質感といった他の感覚――
情報を得る事はできない。シェルクの能力は、写真の中の物を視覚以外の感覚でも捉えることができる
――誤解を恐れずに言えば、写真の中にある物に実際に触れる事ができる――能力であり、今イリーナ
が見ているモニタは、まさに外観を映し出した写真だった。
『このフィールドは何かを模して作られている様です。それが何なのかが分かれば、作り主の意図を突き
止める手がかりにもなるのですが……』
「シェルクには今、どんな物が見えているの?」
 モニタには表示されない風景の中に手がかりがあるのだとすれば、なるべく多くの情報を得たいと
イリーナは考えた。
『……私の目の前には石造りの階段があります。とても古い物、史跡などを模っていると思いますが、
私の知る限り該当するものがありません』
 その言葉を聞きながら、モニタの中で再び動き出した光点を見つめていたイリーナは、シェルクがその
石段を登っているのだと知った。
 しかし、しばらく行くとそこは行き止まりだった。三方を壁に囲まれ戻ることしかできない。光点は再び
動きを止める。
『階段を登った先は……祠のようになっています。中央に、台座のような物がある場所です』この
オブジェクトに仕掛けがあるのだろうとは予測できたが、それが何なのか、シェルクには見当がつかなかった。
「……もしかして」沈黙の後、イリーナがゆっくりと口を開く「たぶんそこ、鍵石を置く場所よ」
 それからもう一度、モニタを見つめる――映し出された幾何学模様のような迷路、設けられた石段、
祠と台座――それらの要素を満たす場所に、心当たりがあった。
「以前に私、そこへ行ったことがあるかも知れない。……シェルク、そこは……」


----------
・1ヶ月以上も空いたうえ、さらに色々と無茶な展開ですみません。



451 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/04(金) 22:47:23 ID:vKKD3Vcd0]
GJ !

452 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/06(日) 22:15:58 ID:fMStONRC0]
乙です!
>>442  → >>233

453 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/07(月) 06:05:05 ID:EJ+J2+EDO]
投下乙です!
別パート同士がリンクした時の感動は異常

454 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/09(水) 20:01:55 ID:Hel0tzrM0]
GJ!

455 名前:ラストダンジョン (342)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/11(金) 23:07:19 ID:z3soBZDh0]
前話:>>443-450
※好き勝手し放題というか、もはや妄想の暴走です。先に謝っておきます、すみません。
----------

 イリーナの声は肝心なところで途切れてしまった。途切れたと言うよりも、わざと途中で切断された
様な感じがした。シェルクはそれを、フィールド作成者による妨害行為だと考えた。もしそうだとすれば、
この迷路の出口は近いのかも知れない。気を取り直してもう一度、周囲を観察する。
 入口以外の三方を壁に囲まれた狭い部屋は、かつて6本の石柱によって支えられていたらしい。
しかしそのうちの1本は既に折れ、本来の役割を果たせなくなっていた。柱身にはさらに幾筋も溝が
掘られ、柱頭にも植物の葉を模して細かな彫刻が施されている。
 また、正面の壁には得体の知れない怪物――あるいはこの祭壇で祀られている獣なのか――の
彫刻が、両側に立つ2本の松明に照らされてゆらゆらと浮かび上がっている。揺れる炎のせいで変化
する陰影が、動かないはずの石像にも、僅かだがまるで表情があるように見せていた。
 その手前には台座――イリーナの言うところによれば『鍵石』を置く祭壇――があった。この狭い部屋
の中で、仕掛けがあるとすればここだけだ。
 建物はどこも石材でできている、つまり今ほど技術が進歩していない時代に建てられた物であろうとは
簡単に推測できる。しかし、この建物の正体にまったく思い当たらなかった。
 物心ついた頃にはディープグラウンドに閉じこめられていたシェルクではあるが、その代わりにこの
能力で得た厖大な量の情報があった。しかしその中のどれにも、一致する情報は見あたらない。
 一方でイリーナはこの場所に心当たりがあると言った。そうなるとここは、実在するものの一般的には
広く知られていない場所という結論に至った。
(それにしても)
 シェルクは周囲に視線を巡らして大きな溜息を漏らす。この場所について考えることに夢中になる
あまり忘れていたが、仮にここが何かを模しているのだとしても、細部まで精巧に再現されたフィールド
である事には変わらない。ここまで造り上げるのに、一体どれほどの労力を費やしたのだろうと思う。
そんなことを考えながら、入口近くに立つ石柱に触れようとしたとき、不意に“歪み”が見えた。

456 名前:ラストダンジョン (343)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/11(金) 23:11:30 ID:z3soBZDh0]
 それをフィールドに生じたノイズだと察知したシェルクはとっさに振り返る。ノイズはフィールドの作成者
がそこに何かしらの変更を加え、情報を更新した際の一瞬だけ発生する。これを見逃すとフィールドが
作り替えられた事に気付かないまま、永遠にさまよい続けることになる。
 些細な変化も見逃さぬようにと注意深く観察しようとするシェルクの目には、そうしなくても明らかな
変化が見て取れた。
(……女?)
 入口を挟んで反対側にある石柱の傍、柱に隠れるようにして俯いている女性がいた。近寄ってみると、
栗色の髪を束ねる大きなリボンが小さく揺れている。どうやら彼女は泣いている様だ。
「どうかしましたか?」
 何度か呼びかけてみるが、その女性には聞こえていないのか反応は返ってこない。彼女は何故泣い
ているのだろう? そう思って視線を横へ向けると、奥の柱に力無くもたれ掛かっている男の姿があった。
彼が右手で押さえていた腹部の辺りには大量の血が滲んでいる、一目見て重傷を負っていると分かった。
それ以上にシェルクの注意を引いたのは、その男に見覚えがあるという事実だった。
「この男、タークスの……」
 今は“外”にいるはずのツォンがなぜここにいるのか。突然の出来事に混乱しそうになったシェルクを
救ったのは、途切れる直前に聞いたイリーナの言葉だった。

 ――「以前に私、そこへ行ったことがあるかも知れない。」

 もし彼女の言うことが事実だとすれば、彼らは以前にここを訪れた事があるのだろう。そして、この
フィールドは誰かの過去の記憶を元に再現、構成されている事になる。
 つまりこのフィールドの作成者は、イリーナやツォンと同じ様にしてこの場所を訪れ、この出来事を
目撃した人物に限られる――作成者に関する手がかりが、徐々に集まってきた。
 その時、石柱の影で泣いていた女性が口を開いた。
「ツォンは、タークスで敵だけど……。子どもの頃から知ってる」
 その言葉に振り返ったシェルクにではなく、彼女はどこかにいる他の誰かに向けて話を続けた。
「わたし、そう言う人……少ないから。世界中、ほんの少ししかいない。わたしのこと、知ってる人……」
 時折声を詰まらせながら話す女性は、目にいっぱいの涙を溜めていた。
 彼女が誰だかは知らない。それでもシェルクは、彼女の言葉に共感することができた。幼い頃からの
自分を知る存在、それを失うことの悲しさ。
 ……痛いほどに伝わってくる女性の思いと、それを見ていた者の記憶。
 それ以上先に踏み込んではいけないと分かっていても、ここで引き返すわけにはいかなかった。

457 名前:ラストダンジョン (344)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/11(金) 23:16:44 ID:z3soBZDh0]

                    ***

「シェルク、そこは……古代種の神殿よ!」
 最後まで言い終える前に、モニタの電源が独りでに落ちてしまった。それからしばらくの間パネルを
操作しても復旧せず、耳に当てたイヤホンからはノイズしか聞こえてこない。完全に回線が切断されて
しまった様だ。
「一体どういう事……?」あの模様、真っ直ぐ伸びた石造りの階段、祭壇のある祠。シェルクの語った
特徴は、イリーナが6年前にツォンと共に訪れた古代種の神殿と一致する。
 しかし、公には存在すら知られていない古代種の神殿に関するデータはそれほど多くない。シェルク
の言う「フィールド作成者」は、少なくとも6年前までに古代種の神殿を訪れ、祭壇の間まで足を踏み
入れた経験と、さらにそれをネットワーク上に構築することができる技術を持った人物である。
 古代種の神殿を実際に見た可能性があるのはあの日、自分達タークスと同じく神殿を訪れたセフィロス
と、彼を追いかけて神殿へやって来たクラウド達だけだ。それよりも以前に――神羅の古代種研究に
おいて、神殿の存在がどれほど認識されていたのかは未知数だが――訪れた者があるとすれば、
研究者達だろう。しかしガスト博士によって残されたイファルナの記録にさえ、神殿の存在は語られて
いない。となると、研究者達がここの存在を知っていたとは考えにくい。
 残された可能性はクラウド達だったが、彼らの中でコンピューターに精通している者がいただろうか? 
思案を巡らすイリーナに答えを示すかのように、電話を手にしたツォンが有力者の名を口にした。
「……ケット・シー、ですか?」

                    ***

 電話の向こうでは相変わらず仕事熱心な元部下が、ここに至るまでの経緯を詳細に報告してくれた。
要領の良さも変わっておらず、お陰でヴェルドはこの短時間で正確に状況を把握する事ができた。彼も
また同じようにして、今日に至るまでの経過を手短に述べた。
 こうして両者は、現状の混乱を収束させるという点で互いの目的が一致している事を知った。双方に
とって協力で得られるメリットは大きい、手を組まない理由は無かった。
「まずは空爆の阻止が優先だ。これが実施されれば収拾はつかなくなるだろう、混乱がもたらす影響は
深刻だ。その為に今、ケット・シーに協力してもらっている」
『ケット・シー、ですか?』ツォンが怪訝そうに問うのも無理はない。ケット・シーと言えば、リーブの操作
しているぬいぐるみであり、その言動を同一視するのは間違いではない。現にヴェルド自身さえ、先程
までそうだったのだから。
「私にも理屈はよく分からんが、どうやら今のケット・シーはリーブの制御下にはないらしい。何よりも
ケット・シー自身がいちばん驚いている」
 先ほど検知したマテリア援護が、エッジ周辺地域の通信システム掌握の為の手段である事を告げると、
ツォンが納得したように頷いた。
『とすると、そろそろ彼女たちも合流する頃でしょう』ちょうど我々のように。
 通信を介したマテリア援護を、伝送路に生じたエネルギーの振幅現象として捉えたシェルクが、
ネットワークを通じて振源に向かっている事をツォンの話で知ったヴェルドは、先ほどケット・シーの
言った『お招きしてないお客さん』の正体がシェルクである事を理解した。

458 名前:ラストダンジョン (345)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/11(金) 23:25:30 ID:z3soBZDh0]
 そうなれば、いよいよ空爆阻止の成功も現実味を帯びてくる。シェルクの能力で全帯域を確保できれば、
飛空艇師団にもこの異変を直接伝えられる。
 しかし頼みのケット・シーに視線を向けるが、先程からこちらの呼びかけに反応してくれない。彼の身に
何か異状でもあったのだろうか?

                    ***

「あなたたち、勘違いしてる。『約束の地』、あなたたちが考えてるのと違うもの」
 重傷を負ったツォンに向ける言葉は辛辣だった。その事からも、彼女が神羅を快く思っていなかったと
言う事が分かる。
「どっちにしても、神羅に勝ち目はなかったのよ」
 話を続けながらも視線を逸らした女性の横顔は、語る言葉とは裏腹に複雑な表情を浮かべていた。
神羅を憎んでさえいてもおかしくはない、しかし神羅に属していたこの男にも同じ感情を向けられずに
いた。シェルクには彼女の心情を理解することはできなかったが、伝わってくる戸惑いや葛藤を知ること
はできた。
 その直後、フィールド内の輪郭さえ歪むほどのノイズが現れた。しかも今回は一瞬ではない。シェルクは
初めて言いしれぬ不安を覚えた。それがフィールド作成者による更新ではなく、余所からの干渉だと察した
からである。ノイズの強さは、フィールドに掛かる負担の大きさを知る1つの目安にもなるからだ。最悪の
場合フィールド自体が壊れ、中にあるオブジェクトもろとも跡形もなく消えてしまう。そうなれば復旧は
極めて困難だ。
 同時に、“振源”に近ければ近いほどこの現象は強く出る。つまり進む方向は正しかったと言うことだ。
 ようやく落ち着いたところで目を開いたシェルクの前には、あの女性が立っていた。一瞬驚いたような
表情を浮かべたが、彼女の視線はしっかりとシェルクに向けられている。
 僅かの沈黙があってから、女性は口を開いた。
「言葉や……思いが、たくさん、“ここ”にある」
 視線ばかりか、言葉もシェルクに向けたものだった。女性はシェルクがいることを確実に認識している。
つまり、これは過去の記憶ではない。
 自分に向けられた言葉の意味を計りかねて、シェルクは首を傾げた。女性は小さく笑顔を作るとこう
言った。
「私は、古代種。最後に残った一人。だから神羅に追われていたの。神羅の目的は、『約束の地』」
「約束の地……?」
「そう。神羅が求めていた場所。魔晄の豊富な土地。でも、本当は違う」
「それが、あなたの言う『勘違い』?」
 古代種と名乗った女性は頷く。それから彼女は悲しそうな表情で告げた。

459 名前:ラストダンジョン (346)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/11(金) 23:26:18 ID:z3soBZDh0]
「神羅が探してた『約束の地』、それは、とても身近にあった。でも、彼らは最後まで気付けなかった」
 魔晄の豊富な土地。彼らの身近な場所。女性の語る謎かけめいた言葉に、シェルクは思うところを
答えた「ミッドガルですか?」。
 しかし女性は首を横に振った。
「神羅の言う『約束の地』、それは場所じゃない」
「えっ?」
「そして、古代種の役を担うのは――」そう言って、無言のままシェルクを指さす。
「……私?」
 女性は頷いた。
「星の命、知の奔流、ライフストリーム。神羅は、それを人工的に作り出した。“ここ”には、たくさんの
言葉や、思いがある。そうでしょう?」
 それがネットワークの事を指しているのだとシェルクが理解した時、必然的に「古代種の役」の意味が
何であるかを知った。
「この先、いろいろ大変だと思うけど、投げ出さないで! がんばろう、ね?」
 あなたなら大丈夫、きっとできるから。そう言って微笑んだ。


----------
・エアリスの台詞はデモンズゲイト戦フラグとかではありませんので悪しからずw
・DCFF7の終盤(11章ラスト〜12章冒頭)で、シェルクがやった事を逆手に取ってるというのが拙文。
・星命学とインスパイア、そしてライフストリームとネットワーク。
 ここまで来てようやくキーワードが出揃った感じです。
 一応、インスパイア能力についての考察(のつもり)をメインに据えていますが、
 結局のところ「みんなが活躍すればいいな!」って思ってるだけですね、はいw

460 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/12(土) 23:10:52 ID:w+Qpjju40]
GJ!



461 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/14(月) 17:33:20 ID:g2udJScpO]


462 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/14(月) 22:36:48 ID:BQdYkNsB0]
ふぅ……結構一気に読んじまったぜ……

読んでて思いだしたんだが、10年くらい前FFMIX小説流行ったよな。
今でも個人サイトでやってるところあるんだろうか。

N.Pの人とか、ナンバー12.5の人とか、MIXじゃないがStepOverの人とか、今何やってるんだろう……

463 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/16(水) 13:56:54 ID:rlu1baJ/0]
GJ!

464 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/18(金) 12:05:03 ID:QVODFYYx0]
乙!

465 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/19(土) 17:04:40 ID:YShqw6KT0]


466 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/21(月) 10:41:45 ID:GyVhLsW00]


467 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/22(火) 23:15:26 ID:gTC1Mxti0]


468 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/24(木) 10:15:52 ID:Z4UYNrqD0]


469 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/25(金) 09:56:28 ID:b5ogqpml0]


470 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/26(土) 12:21:21 ID:E0BimpPj0]




471 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/27(日) 11:23:07 ID:1dZhkT/B0]


472 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ [2009/12/27(日) 17:15:48 ID:Ci1DdvMxO]


473 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/28(月) 19:10:50 ID:kR4blpeS0]


474 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/30(水) 17:08:45 ID:hfybAENf0]


475 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/12/31(木) 14:15:19 ID:dd7Gqytv0]


476 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/01(金) 09:00:18 ID:hed5ejNN0]
賀正

477 名前:『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 mailto:sage [2010/01/01(金) 16:17:44 ID:2czqwAhk0]
FFTA2のアデル視点で進む、クリア後外伝(+パラレル展開)なお話です。
ジャンル自体がマイナーな上にFF5や6のキャラと絡むため
色々知ってる人向けになりますが…これでも楽しんで頂ければ幸いです。

『Trois Grimoire』 -トリア・グリモア(三つめの魔道書)その1-

第一話 アデル、旅立つ
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「あーあ…」
青空の下、アデルは幾度となく溜息を漏らした。
「なンだ、アデル。まーたボーッとしてンのか?」
シドはその様子を見て、やれやれと肩をすくめた。
「"あいつ"がいなくなってから、もう1年も経つってのによ。
 お前、見た目より案外ナーバスなンだな」
アデルはいつもの憎まれ口を叩くシドに、いつもの調子で答える。
「お生憎様。あたしは、ルッソのことなんて考えてませんから!」
シドはそれを聞いて、ニヤリと笑った。
「あぁン?誰が"ルッソ"って言ったよ?」
アデルはハッとなって、赤面した。
(しまった…シドってば、結構人の気持ちに鋭いんだから、嫌んなっちゃうわ…)
だがすぐに元のアデルに戻る。
「はいはい、誰も言ってませんでしたわね。でも、1年前にいなくなった
 "あいつ"って言えばルッソ以外に誰がいるのよ?」
「はは、違ぇねえ。こいつは一本取られたな」
「っとに、もう」
アデルはまた、フゥと溜息をついた。
その目は今日も、青々と広がる空を見ていた。
ここはイヴァリース。
剣と魔法の支配する、ファンタジーの世界。
その世界の、とある小さな町で。
一人の少女は、異世界…普通の人間にしてみれば『現実』と呼ばれる世界からやってきた
一人の少年の事を思い出していた。

478 名前:『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 mailto:sage [2010/01/01(金) 16:19:58 ID:2czqwAhk0]
「しかし、なンだな。ルッソがいねえと、このクランもなんだか火が消えたみてぇに
 さびしくなっちまったな」
シドが感慨深げに言う。
「そうね。あいつは随分張り切ってガリークランを盛り立ててたもんね。
 人生半分投げやりな、隠居気味のおじさんと違ってさ」
「ははっ、手厳しいな。だがまあその通りだ。
 …それに、オレはそもそも、そういう役目を担うような器じゃねぇンだよ」
「な〜んか、言い訳がましい」
「どうとでも言えよ。それより、あいつはどうしてんだかな。おばさんに迷惑かけてねぇだろうな」
「さぁねえ。あいつのことだから、イタズラばっかやって、でも何だかんだ言って周りを楽しませてるんじゃない?」
「オレ達も随分、楽しませてもらったしな」
「そうね」
あいつはいつもそうだった。
自分が楽しむ事が第一で。
そのくせ、他人も一緒に楽しく遊べたらいいなって思ってるヤツで。
不思議なくらい、人を巻き込んじゃう魅力があった。
…少なくとも、あたしは。
あいつのお陰で、独りぼっちだった人生から、抜け出せた。
「…会いたいンじゃ、ねぇのか?」

479 名前:『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 mailto:sage [2010/01/01(金) 16:21:27 ID:2czqwAhk0]
シドが薮から棒にそんな事を言い出した。
「なによ、突然。あたしは別に…」
アデルはシドに向き直り、いつもの軽口に対するいつもの返しをしようとした…。
そして、いつものからかい口調じゃない事に気づく。
「実はな、会えるかも知れねえンだ。…真剣な話だぜ?」
シドは嘘を言ってるような顔じゃなかった。
大体、このおじさんは嘘をつくのが下手糞だ。
あたしのほうが、まだ上手に嘘をつける。
「へぇ?もしかして、あいつをこっちの世界に呼び戻せたりするの?」
あたしは半信半疑で尋ねてみた。
まったくの嘘じゃないだろうけど、今更そんな事が出来るとも思えなかったからだ。
「いや、その逆だ」
だが、シドの答えは意外なものだった。
随分、具体的な話らしい。
「逆っていうと…」
あたしは喉まで出かかった言葉を、シドが引き継いでくれるのを待った。
シドはたっぷりと間を置いて、もったいぶって答える。
「アデル、お前が"あいつの世界"に行ける方法があるんだ」
「!」
実を言うと、ほんの少し…ほんの少しだけ、予想はしていた。
…期待もあった。
だが、本当にそんな方法があるんだろうか?
まだ、話半分に聞いておいたほうが良さそうだ。
ぬか喜びは、したくないから。

480 名前:『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 mailto:sage [2010/01/01(金) 16:22:31 ID:2czqwAhk0]
そんなあたしの葛藤を知ってか知らずか、シドは構わずに続ける。
「ラザフォードさんの事は覚えてるよな?」
「そりゃあね。随分お世話になったもの」
シドが口にしたのは、やはりというか、
あの『大魔導師』ラザフォードの名だった。
話の信憑性が、少しずつ高まっていく。
「この間、アルダナ山へクエストで向かった時にな。ついでだから、
 挨拶に行ったのさ。その時にお前の話もしててよ」
「ちょっと、何話したのよ?」
あたしは狼狽した。
自分のいないところで自分の噂話をされるのは、あんまり気分が良くない。
「何、お前が毎日、ルッソに会いたがっててしょうがねえってな話さ」
「適当な事吹いて回らないでよ!?」
全力でツッコんだ。
そんな目に見えて会いたがってる素振りは見せた覚えがない。
…ハーディの前では、見せちゃった事あるけど。
「そしたら、やっこさんが一冊の本を見せてくれた」
「さらっとスルーしないでくれる!?あたしのツッコミ、超カラ回りしてんだけど!」
「で、その本ってのがよ…グリモアらしいンだ」

「ちょっと!人の話………………………………え?」

そこで空気が張り詰める。
「だから、グリモアだよ。ルッソがこっちの世界に来る時に持ってた手帳そっくりなンだ」
あたしはツッコミも忘れて、呆けた。
…まさか。
あいつが持ってた、この世界の『穴』を封じるための魔道具。
そして、こっちの世界に来たきっかけでもある、あの『グリモア』が。
今、ラザフォードの手に、ある?



481 名前:『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 mailto:sage [2010/01/01(金) 16:24:10 ID:2czqwAhk0]
「それじゃあ…」
あたしは全てを理解した。
シドは、言っているのだ。
「お前が望むなら、行ってきたらどうだ?」
そう。
確実ではないかもしれないにせよ、ルッソの世界へ行く手段がある。
シドもそれを止めない。むしろ、背中を押してくれているのだ。
「…いいの?」
あたしは思わず、躊躇してしまった。
あたしの居場所。
あいつが作ってくれた、心地よい居場所。
あいつに会いたいという一心だけで、捨ててしまっていいのだろうか。
「いいも悪いも、お前が決めるこった」
シドはそう言って、ニカッと笑った。
「会いたいんだろ?あいつに」
…余計な一言を付け加えて。
「ああ!もう!」
あたしは覚悟した。
そうよ。会いたい、会いたい、会いたい!
「…会いたい!会いたいわよ!あいつに会いたい!だから、クラン抜けるわ!悪い!?」
我ながら、なんか逆ギレっぽかった。今、絶対真っ赤な顔してる、あたし。
ああ、恥ずかしい。
でも、これはデリカシーのないシドが悪いと思う。
「悪かねえよ。素直になるのは、全然何にも悪いことじゃねえ」
シドは急に真顔で、そんな恥ずかしい事を言った。
「…はぁ。ホント、空気読めないところがあいつに似てきたわね、シド」
「おかげさまでな」
あたしは呆れつつも、何かが吹っ切れた気分になった。
…ありがとう、シド。
あたし、行ってくる。
そして、きっと、戻ってくる。
あたしは口に出せない気持ちを飲み込み、ただ一言だけこう言って別れの言葉にした。

「さよならは言わないわよ。だって、また戻ってくるんだから!」

あいつとの別れの言葉。
今度はそれを、シドに言う事になるとは思わなかったけれど。

…あたしには、帰るべき居場所がある。

大丈夫。
もう、あたしは独りじゃないんだ。

そう思うと、異世界へ旅立つという決意が…まるで、ピクニックへ行くときのように軽

482 名前:『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 mailto:sage [2010/01/01(金) 16:25:22 ID:2czqwAhk0]
そう思うと、異世界へ旅立つという決意が…まるで、ピクニックへ行くときのように軽く感じられた―――――

483 名前:『Trois Grimoire』  ◆NNtQXWJ.56 mailto:sage [2010/01/01(金) 16:26:44 ID:2czqwAhk0]
ごめんなさい、最後コピペミスりました、台無しだぁ;;

一応HTML形式のがあるので、そっちで読んで頂くというテもあります。

484 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/02(土) 17:12:15 ID:RfpR4thT0]
乙!

485 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/04(月) 19:11:58 ID:ZC9ZvrgN0]
乙!

486 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/06(水) 05:12:26 ID:wquZTinA0]
GJ!

487 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/07(木) 09:45:18 ID:Gdfkzu3f0]


488 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/08(金) 17:20:47 ID:+Q88Po490]


489 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/10(日) 13:37:56 ID:ahx/fjx60]
>>477-481
乙!
FFTA2はやったことがないんですが、(本繋がりで)5は古代図書館とかあるから絡ませ易いかな〜
などと予想しつつ、今後の展開を楽しみにしてます。


ところで、現時点でスレの容量が471kbなので、そろそろ次スレのテンプレを準備してみた。
500kb容量制限があるので、レス数が1000未満でも書き込み不可になりますので、
スレ立て可能な方、頃合いを見計らってよろしくお願いします。

490 名前:Part10 >>1 mailto:sage [2010/01/10(日) 13:39:24 ID:ahx/fjx60]
文章で遊べる小説スレです。
SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
皆様のボケ、ツッコミ、イッパツネタもщ(゚Д゚щ)カモーン
=======================================================================
 ※(*´Д`)ハァハァは有りですが、エロは無しでお願いします。
 ※sage推奨。
 ※己が萌えにかけて、煽り荒らしはスルー。(゚ε゚)キニシナイ!! マターリいきましょう。
 ※職人がここに投稿するのは、読んで下さる「あなた」がいるからなんです。
 ※職人が励みになる書き込みをお願いします。書き手が居なくなったら成り立ちません。
 ※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
=======================================================================
前スレ
FFの恋する小説スレPart9
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1230802230/
記述の資料、関連スレ等は>>2-5にあるんじゃないかと思います。



491 名前:Part10 >>2 mailto:sage [2010/01/10(日) 13:41:24 ID:ahx/fjx60]
【過去スレ】
初代スレ FFカップルのエロ小説が読みたい
game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1048776793/
*廃スレ利用のため、中身は非エロ
FFの恋する小説スレ
game2.2ch.net/test/read.cgi/ff/1055341944/
FFの恋する小説スレPart2
game5.2ch.net/test/read.cgi/ff/1060778928/
FFの恋する小説スレPart3
game8.2ch.net/test/read.cgi/ff/1073751654/
FFの恋する小説スレPart4
game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1101760588/
FFの恋する小説スレPart5
game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1134799733/
FFの恋する小説スレPart6
game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1150527327/
FFの恋する小説スレPart7
game11.2ch.net/test/read.cgi/ff/1162293926/
FFの恋する小説スレPart8
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1191628286/


【FF・DQ板内文章系スレ】
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら15泊目
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1251966357/

492 名前:Part10 >>3 mailto:sage [2010/01/10(日) 13:43:23 ID:ahx/fjx60]
【お約束】
 ※18禁なシーンに突入したら、エロパロ板に書いてここからリンクを貼るようにしてください。
   その際、向こうに書いた部分は概略を書くなりして見なくても話はわかるようにお願いします。
【推奨】
 ※長篇を書かれる方は、「>>?-?から続きます。」の1文を冒頭に添えた方が読みやすいです。
 ※カップリング・どのシリーズかを冒頭に添えてくれると尚有り難いかも。

 初心者の館別館 m-ragon.cool.ne.jp/2ch/FFDQ/yakata/

◇書き手さん向け(以下2つは千一夜サイト内のコンテンツ)
 FFDQ板の官能小説の取扱い ttp://yotsuba.saiin.net/~1001ya/kijun.html#kannou
 記述の一般的な決まり ttp://yotsuba.saiin.net/~1001ya/guideline.htm
◇関連保管サイト
 FF・DQ千一夜 ttp://www3.to/ffdqss
◇関連スレ
FF・DQ千一夜物語 第五百五十二夜の3
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1182600123/
◇21禁板
 FFシリーズ総合エロパロスレ 6
 yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1258013531/
 FFDQカッコイイ男キャラコンテスト〜小説専用板〜
 jbbs.livedoor.jp/game//3012/
【補足】
 トリップ(#任意の文字列)を付けた創作者が望まない限り、批評はお控えください。
 どうしても議論や研鑽したい方は love6.2ch.net/bun/

 挿し絵をうpしたい方はこちらへどうぞ ttp://ponta.s19.xrea.com/

493 名前:Part10 >>4 mailto:sage [2010/01/10(日) 13:46:19 ID:ahx/fjx60]
【参考】
 FFDQ板での設定
 schiphol.2ch.net/ff/SETTING.TXT
  1回の書き込み容量上限:3072バイト(=1500文字程度?)
  1回の書き込み行数上限:60行
  名前欄の文字数上限   :24文字
  書き込み間隔       :20秒以上※
  (書き込み後、次の投稿が可能になるまでの時間)
  連続投稿規制       :5回まで※
  (板全体で見た時の同一IPからの書き込みを規制するもの)
   1スレの容量制限    :512kbまで※
  (500kbが近付いたら、次スレを準備した方が安全です)



            //--テンプレここまで--//



見落としや誤記があったら追加訂正希望です。
もしかして千一夜スレって落ちてますか?

494 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/11(月) 01:43:50 ID:OYXbovA10]
FFの恋する小説スレPart10
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1263141359/

495 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/13(水) 02:33:39 ID:td8knYoC0]
>>494
乙!

496 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/16(土) 21:15:09 ID:RvB+7qTf0]


497 名前:ラストダンジョン (347)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2010/01/19(火) 02:27:55 ID:Ij0L1OfV0]
前話:>>455-459
----------
「ここはどこで、あなたが何者なのか。ご説明いただけませんか?」
 年の頃は自分と同じか少し上、とても落ち着いた雰囲気にそぐわない髪結いの大きなリボン――
もっとも、幼少期以降をディープグラウンドで過ごしたシェルクにとって、リボンなどの装飾品には
縁がないという背景もある――が強くシェルクの印象に残った。彼女から悪意などは感じられない
ものの、先程からここの事や、この先の事を予見しているような物言いに対する不信感は拭えない。
「ここ、古代種の神殿。でも、今はもう無い。だから、記憶を元に再現された場所」
「その記憶は、あなたの?」
 首を振ってシェルクの問いを否定すると、女性は無言のまま祠の奥へと歩き出す。祭壇の前まで
来ると、振り返ってからこう告げた。
「鍵、開けるね。あなたの探してる人、この先にいるから」
 女性が取り出した石を祭壇に置くと、先ほどと同じようにしてフィールドには強いノイズが現れた。
「私にできるのは、ここまで」歪み始める周囲の風景と共に、女性の輪郭が徐々にその形を失っていく。
最後にもう一度「がんばって」と言い残すと、女性はシェルクに背を向けて歩き出した。
「待って! あなたは……?」
 シェルクの声に答える代わりに、振り向きざまに笑顔を浮かべた。その笑顔はやがて静かに消え、
周囲のノイズも収まった。目の前には先程までと変わらない風景、三度シェルクは周囲に目をやる。
祠の中に変化はなかった。さっきまで女性の立っていた祭壇の前まで来てみたが、やはりどこも
変わっていない。
 結局のところ、「古代種最後の一人」だと語った彼女が本当は何者だったのかを知ることはできな
かった。前後に現れた強いノイズから推測するに、“彼女”はこのフィールド作成者の作り出したオブ
ジェクトではないのだろう。すると、外部からこのフィールドに――シェルクと同じようにして――干渉
する者がいるのかも知れない。
「……干渉?」
 自分で立てた予測に、強烈な違和感を覚えてシェルクは立ち止まる。何か、何かとても重要なことを
見落としている様な気がする。
「そもそも、私以外にこんな事ができる人間が?」
 その可能性について考えてみたが、いるとは思えなかった。SND実施に必要な環境を揃えるだけでも
困難だが、そもそもSNDの技術自体が神羅によって秘匿されていたのだから、環境を揃えたところで
実施は不可能だ。
 たとえばルクレツィア・データと同様に、このフィールドを含めたオブジェクトが過去にあらかじめ用意
されていた物という可能性を疑う方が現実的ではあるが、“彼女”の言動は明らかに今ここにいる
シェルクを認識したものだった。
 あるいは、これ自体も同じフィールド作成者の作り出したオブジェクトであるという可能性だが、
そうするとフィールドに多大な負荷が掛かっていた事を示すあの強いノイズが現れた理由の説明が
付かない。
 思いつく限りの可能性を検討してみるが、正解にたどり着く気配はなかった。

498 名前:ラストダンジョン (348)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2010/01/19(火) 02:38:11 ID:Ij0L1OfV0]
 目の前には祠と外を結ぶ唯一の出入り口があった。彼女の言葉に従うなら、この先にこのフィールド
の作成者がいるらしい。考えることに行き詰まった現状、動いて新たな情報を集めるしかない。踏み出す
シェルクに躊躇いはなかった。
 こうして祠から外へ出た途端、周囲にあった風景のすべてが消えてしまった。後ろにあった祠の入口も、
目の前にあるはずの石段も、何もかもがあっという間もなく消えてしまった。戸惑うシェルクが耳にした
のは、遠くの方で自分の名を呼ぶどこか暢気な声だった。
 その正体が、3年前に顔を合わせている猫のぬいぐるみだと知ると、シェルクもまた彼の名を呼んだ。
 どうやらフィールド作成者の正体は、ケット・シーらしい。そうと分かったシェルクの顔には、安堵感から
穏やかな笑みが浮かんでいた。

                    ***

『んあ〜っ!』
 突如としてケット・シーが表現に困るような奇声を発したかと思えば、急にそわそわし出したものだから、
横にいたマリンは何事が起きたのかと身構える。
『ああ、すんません』
 驚かせるつもりは無かったのだと慌てて謝るケット・シーに、マリンはどうしたのと優しい声で尋ねる。
『……いや、なんて言うたらエエんか分からんのですが……』そこで言葉を切ったケット・シーは、照れ
隠しなのか頭をかく仕草をしながら言った『思わぬ場所でばったり再会したもんで、なんや感動して
もうたんですわ』。
 その言葉を聞いたヴェルドは頷いて、彼の身に何が起きたのかを察し、携帯電話の向こうにいる
元部下にそれを告げた「どうやら彼らも合流した様だ」。

                    ***

 ネットワーク上で再会した両者が、互いの経緯や状況について共有するのに多くの時間は必要な
かった。こういった分野においてシェルクの能力は絶大な力を発揮する。一方ケット・シーは元々それ
自体がコンピューターであるからこそ、こういう芸当ができるのだ。それぞれ実現のためのプロセスは
真逆と言えるが、それでも彼らは自身の記憶を記録として収めたライブラリを持ち、さらにそれを他と
共有することができた。その事は3年前、すでに飛空艇シエラ号の設備で実証済みであったにも
かかわらず、シェルクはそれをすっかり失念していた。
 互いの中で散らばっていた情報が繋がり合って大きな輪を作る。散在していた一音一音が集まって
和声となり、それらが連なって拍子を刻みやがて旋律を成すように。
「……そちらの事情は分かりました」ゆっくりとした口調でシェルクが言う「1つ提案があります」
『おっ? さーっすがシェルクはん!』
「現状、こちらから飛空艇師団へのアクセスは不可能です。ですので、全周波数帯を一時的に借用
します」
 手順はこうだ。エッジを起点として各地でほぼ同時に起こす基地局リセットの作業を、ネットワーク側
からシェルクが補佐する。ネットワークの掌握後は、ここが一時的な制御中枢の役割を果たす。
『そないな事、簡単にできるんかいな?』

499 名前:ラストダンジョン (349)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2010/01/19(火) 02:39:58 ID:Ij0L1OfV0]
「さすがに簡単とは言えませんが、3年前すでに実施済みです」
 ディープグラウンドによるエッジ襲撃の直後、ヴァイスの演説を世界中に配信できたのはシェルクの
能力を利用したからである。この方法なら、飛空艇師団の使用している周波数帯が判明してなくても、
一方的とは言えこちらの意思を伝えることができた。
『シェルクはんって、可愛い顔して意外と荒っぽいことするんやねー』
 自分達のしている事を棚に上げて、ケット・シーは感心したように呟いた。
「手段を選ぶ余裕はありません、違いますか?」
『ま、それもそうやな! そんじゃ早速、外の皆さんにも知らせんとな』
 最初は無茶な試みと思っていた事が、もしかしたら何とかなるのかも知れない、ケット・シーの声は
弾んだ。




----------
・次はいよいよ問題の飛空艇師団編。一緒に投下するには量が多いので、パートが変わる事ですし
いったん切らせて貰います。(今度はすぐ来れると思います)
・相変わらず色々分かりづらい&読みづらくてすみません。
・遅くなってすみません。とっくに明けてますが今年もよろしくお願いします。

500 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/20(水) 18:20:43 ID:yvUSEwnP0]
乙ううう!



501 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/22(金) 09:31:01 ID:PncVGUYd0]
あけおめ

>477
今さらですけど規制でレスできなかったんで…投下乙です
TA2好きなんで、全力で続き待ってます

>497
投下乙です。相変わらず続きが気になる引きでいらっしゃる


んで、そろそろスレ立てた方が良いのか…もうちょい待ってても問題ないかな

502 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/22(金) 11:09:10 ID:9mCprhCN0]
>>501

>>494
FFの恋する小説スレPart10
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1263141359/

503 名前:ラストダンジョン (350)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2010/01/24(日) 01:47:41 ID:YLTk+Ux20]
前話:>>497-499(場面はPart7 682-683)
飛空艇師団編
----------


「こりゃどういう事だ!!」
 コントロールルームに戻るなりシドは叫んだ。彼自身が地上から見上げた光景、飛空艇の可視モニタ、
レーダーのどれも全て同じ状況――残念ながら見間違いや計器類の故障では無く――ありのままの
現実を正確に映し出していた。
「この付近一帯を包囲しているのはすべて我々の……、WROの飛空艇部隊です」
 最初に応じたのは航法担当のクルーだった。
「ちくしょう! 交信は!?」
 シドが勢いよく向き直り、通信担当のクルーに問いかける。
「通信状態は良好。ですが今のところどの艇からも応答ありません」そう答えながら、内心でそれも仕方
がないとクルーは思う。かく言う彼自身さえ、問われたところでどうすれば良いのか分からない。応答の
ない他の艇のクルー達も同じ様に戸惑っている事は容易に想像できた。しかしここに立つ勇ましい艦長
からの問いには、何が何でも応じなければならない。
 シドが飛空艇へ戻ってくるまでの間に、要請を受けて当該エリアに集結しつつあった飛空艇はどれも
重装備だ。各機が搭載している兵装情報を手元のパネル上で確認すると、シドは舌打ちしてからこう言った。
「おいおい、どいつもこいつも随分と喧嘩腰じゃねぇか」
 本部空爆――ユフィが嘘を吐いていたとは思わなかったが、実際にこの目で見るまでは信じられな
かったと言うのがシドの本音だった。3年前のミッドガル会戦では地上と上空に展開していたディープ
グラウンドの軍勢に対抗する手段として、彼らは飛空艇に満載した兵器を用いた。しかし今は違う。どこ
に抵抗する部隊がいる? シドの見てきた限り、満足な迎撃態勢も無い本部施設への空爆をこのまま
実施すれば、それは喧嘩にもならない一方的な破壊行為でしかない。しかも建物の中にはまだ
仲間達がいるのだ。
 たとえどんな事情があろうと師団長としてそんな命令を下すつもりはないし、頼まれたところでできる
はずがない。自分だけではなく飛空艇師団の誰もがそうであるはずだ――少なくともシドはそう信じて
いる。だとすれば、この状況を認識した上で彼らは今ここへ集まっているという事になる。
「お前ら、一体誰の命令で……」
 マイクに向かって叫ぶシドの声を遮り、問いに応じたのは通信担当のクルーだった。
「局長、ご自身です」
「なんだって!?」シドの発した声は驚きにではなく、怒りに震えていた。
 飛空艇師団への出資者はWROだった。それは師団に所属する誰もが知っている。そして、シド以外に
飛空艇師団全体への出動要請を行える人物は、局長リーブの他にはいない。だから驚くことはなかった。
逆にそうと知らされたシドは内心どこかで安堵していた。命じられたのならば彼らは従うしかない、仕方なく
皆はここへ来たのだと。たくさんの武器を積んで来たのは、彼らの本意ではないのだと。
 安堵の一方で、リーブに対する落胆や憤りを感じずにはいられなかった。

504 名前:ラストダンジョン (351)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2010/01/24(日) 01:50:36 ID:YLTk+Ux20]
 そもそも空を飛ぶには元手が要る。だからといって、それを得るために破壊活動や戦争をしたいのでは
ない。大空に描くのは飛行機雲と夢だけで充分だ、ミサイルの弾道なんて描きたいとは思わない。でも、
飛ぶ理由が無ければ飛空艇師団も存続できない。夢や理想だけで空は飛べない、鳥の翼が多くの羽で
できているように、人間が翼を得るためには羽以外にも多くの物が必要だった。
 それらをシドに与えてくれたのはかつての神羅であり、今はWROだった。一人で空を飛び続けることは
できない。何よりそれはシド自身が一番よく知っている。

                    ***

 6年前。
 メテオを退け星の滅亡こそ辛うじて免れたものの、不治の病とされた星痕症候群の蔓延と、魔晄依存
型の体制が根底から覆された世界は、未曾有の混乱に陥っていた。
 一方で地上を覆った混乱は、人々が飛空艇――翼を求める動機にもなった。
 こうして北の大空洞から故郷へ帰還したシド達は、休まる暇もなく復興作業と並行して新しい飛空艇の
開発に取り掛かることとなった。
 飛空艇技術と原材料は、大地が育む過去からの恵みとシド達の尽力によって揃える事ができた。燃料
調達についてはバレットが探索を引き受けてくれた。しかし人が空を飛ぶ翼を得るには、一朝一夕とは
行かなかった。
 やがて開発が長期化するにつれて別の問題が持ち上がった。それが開発費と生活費の工面――特に
飛空艇開発に従事する者達の生活を維持するための費用を、どう捻出するか――だった。空を飛べない
飛空艇はただの鉄屑同然だ。知識と材料を集めたところで彼らの生活、大げさに言えば生命を維持する
事はできない。また星痕に冒された者にとって、与えられた猶予は決して多いとは言えなかった。そうな
れば開発どころではなくなる。思うように進まない作業に苛立ちを覚えながらも、これまで自分達が魔晄
エネルギーだけではなく、神羅の庇護の元にあった事を思い知らされた。
 そんな折、村を訪れたのがリーブだった。彼はシドに会うなり、挨拶もそこそこに飛空艇の開発を組織化
して維持する為に必要な物を補いたいと申し出た。それは言うまでもなく、シドにとって渡りに船だった。
 開発援助と引き替えに提示された条件は“星の危機には協力する”という物だった。さして難しい条件
でも無い、それどころか自分達の目的だって似た様なものだ。リーブの申し出は確かに有り難いし、
二つ返事で引き受けて作業を進める他の連中にも報告したかった。けれど、どうしても釈然としない。
この時シドは、返答まで一晩待って欲しいとリーブを村に滞在させた。
 その晩シドがこの話を持ちかけたところ、シエラをはじめ開発に関わる者達から反対の声は出なかった。
反対する要素がない、聞くまでもなく答えは決まり切っている。
 それでもシドの心は晴れなかった。なぜだろう? 皆の言うとおり、断る理由も躊躇う要素も無いはず
なのだ。一刻も早い飛空艇の完成と、組織としての活動を始めたい――無意識に向けた視線の先には
シエラの姿があった。
(……オレ様は、なんで迷ってるんだ?)
 心の中で舌打ちすると、意図的にシエラから視線を逸らした。

505 名前:ラストダンジョン (352)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2010/01/24(日) 01:55:23 ID:YLTk+Ux20]


 旅の間ずっとケット・シー――ぬいぐるみとして接してきたせいか、そうと感じることは無かった。けれど
この日、実際にリーブと対面したときの印象は息苦しささえ感じる程だった。それはかつてパイロット時代
に“背広組”――本社にいる事務方連中を指す仲間内での俗語――と称した類の人間に対する印象
そのものである。はっきり言えば、良くなかった。
 リーブが信用できない人間ではないと分かっているはずなのに、彼の申し出を受け入れられなかった。
自身の中にある不可解な感情の正体を、シドは何か分からずにいた。
 きっと疲れているんだ、だから考えがまとまらないのだ。今日はとっとと寝てしまって、とにかく明日
もう一度話してみよう。この日シドは逃げるようにして床についたのだった。


 明くる日、飛空艇師団発足への支援について話の口火を切ったのはリーブだった。
「私には、どう努力しても翼を持つことはできそうにありません。ですから、翼を持てる人に協力……
率直に申し上げれば、その力をお借りしたいとも考えています」
 何とも事務的な話しぶりだとシドは思った。そんなリーブの姿は、かつて宇宙開発に力を入れていた
頃の神羅を彷彿とさせた。その事に気付いてようやく不可解な感情に納得がいった。シドの目に映る
リーブの姿が、かつての神羅と重なって見えていたのだ。
「で、必要なくなったら翼ごと切り捨てるってか?」あいつらと同じように。
 シドが言外に含んだ意図を汲んだらしいリーブは、何も言わずに苦笑を返した。宇宙開発事業の規模
縮小は、魔晄エネルギー開発事業の拡大によるものだと言う過去の経緯は、都市開発部門の責任者
だったリーブも知るところだ。否定すれば嘘になるし、シドの言わんとしている事も理解できる。
 しばらくの沈黙の後、リーブは真剣な表情でこう言った。
「残念ながら翼を得ただけでは、人は空を飛べません。どうです? 煩わしい枷と思わず羽と思って
みませんか? 鳥の翼も、一枚一枚の羽が集まっているものです」
 リーブから返って来た言葉は、シドの期待していた物とはかけ離れていた。テーブルゲーム以外では
仲間と駆け引きじみたことはしたくない、そう考えていたシドは少しばかり呆れていた。
「なんだよ、『一緒に旅した仲間なんだから信じろ』ぐらい言わねぇのかよ?」
 要するに、そう言って欲しかったのだ。
 ところがリーブはまったく別のことを言う。
「……『信じろ』と言っても無駄でしょう? 誰がなんと言おうと、あなたは自分が信じようと思った事しか
信じない」
 リーブはにこやかに指摘すると、対照的にシドは不愉快を露わに舌打ちをした、指摘は間違っていな
かったが、どうも気に食わない。これならまだ、思ったことを軽々しく口に出すケット・シーの方がずいぶん
マシに思えた。
 苛つく様子のシドを見て、リーブはさらに目を細めた。
「一応こう見えて私も元は技術屋だったので、似たような気質があるんですよ。よく、頑固だと言われます」
「お前と一緒にするな!」オレ様はもっと素直だ、とでも言いたげにシドは反論する。
 ははは、とリーブは声を立てて笑った「管理職経験が長いと、どうしても」。

506 名前:ラストダンジョン (353)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2010/01/24(日) 01:59:35 ID:YLTk+Ux20]
 それを見ていたシドは観念したとばかりに両手を挙げた。
「あーオレ様が間違ってた、認める。確かに本社の事務方連中と違って、ひとクセもふたクセもありやがる」
「自分でこう言うのも何ですが、本社の一般勤務の皆さんと違って副業でスパイもしていたぐらいですから」
「言われてみれば確かにお前、タークスよりタチが悪そうだ」スパイなんて適任じゃないかと冗談を返した
つもりだったが、実のところ大部分はシドの本音でもある。
 本来であれば「クソッタレ」とでも言ってやりたいところなのだが、そう言わせぬ何かがリーブにはあった。
だから余計に気に食わないのだとシドは思う。
「それ、褒め言葉として受け取っておきますね」リーブは相変わらず笑みをたたえている。
「クソッ! 勝手にしやがれ」
 根負けした――というよりは、元々リーブの申し出を断る理由がないのだから最初から負けていた――
格好でシドが投げやりに答えると、リーブはその言葉を待っていたと言わんばかりに書面を差し出した。
「では、勝手にさせて頂きます」
 書面には具体的なスケジュールと送金、受取の方法が記載されている。なんだかんだとご託を並べて
いたが、既に決定事項じゃないか。そう文句を言おうとしたが、どうせぐだぐだ言われるのだからと諦めて
シドは言葉を呑み込んだ。そうするのが利口だ。
 それにしても随分と手回しが良いなと呆れ半分に眺めていると、最終的な受取額を見て驚いたシドが
思わず顔を上げて問い詰める。
「おい、こんな額どっから……!?」
「本来であればそちらに回るはずだった分の予算……とまでは行きませんがね。差益分の還元とでも
お考え下さい」
 まるで予想したとおりの反応だとでも言わんばかりに、リーブの返答は淡々としていた。
「つまり神羅の金って事か!?」
「まさか!」今度はリーブの方が驚いた表情を作った後、顔の前で手を振ってそれを否定した「さすがに
それはありません。幸い、公私ともに不自由はしていませんでしたしね」さらに誤解の無いようにと、
あくまでも臨時の予算編成で削られた宇宙開発費が都市開発に回された分という意味です、と言い添えた。
 捉え方によっては自慢なのかとも思うような言葉をさらりと口にしておきながら、けれどもシドに付け入る
隙を与えずにリーブは話を続ける。
「ですから、遠慮は要りません」
「つまりお前の金って事か?」
 リーブはにっこりと微笑むと、耳打ちをするような仕草で口元に片手を添えて、少しいたずらっぽい口調で
応じた。
「……魔晄で随分と稼がせて頂きましたからね」
 それを目の当たりにしたシドは額に手を当て思わず溜息を吐いた。どこまでが冗談でどこまでが本気
なのか、いまいちよく分からない男だ。少なからず、冗談の塊みたいな元上司――パルマーよりはるかに
扱いづらい事だけは確実だ。
 それから二人は新しい飛空艇の開発状況、魔晄に代わる新エネルギー模索や蔓延する星痕症候群の
影響など、互いの知る情報を交換し合った。

507 名前:ラストダンジョン (354)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2010/01/24(日) 02:14:55 ID:YLTk+Ux20]
 特に各地の復興作業に話が及ぶと、大きな機材の運搬には飛空艇など大型輸送手段が必要なのだと
リーブは訴えた。
「これまでは何とか急場をしのいできましたが、すでに限界は見えています。まずは一刻も早く各地の
生活基盤を安定させなければならないんです」星痕の病理研究にしたって、基盤が整わなければ本腰を
入れられない。設備制度を整えなければ、災害以前の秩序を取り戻すことは極めて困難なのだと。
リーブの口から語られる情勢は、この村と同じだった。
「それが、お前が翼を求める理由か?」
 ええ、とリーブは頷く。この時期、ミッドガルやジュノンを中心に各地の復興ボランティア同士を繋ぐ
ネットワークが徐々に形になりつつあった。リーブは都市開発事業で得たノウハウを、復興事業に活かし
たいと考えていた。しかし、建材は現地調達が可能だとしても、大型の機材や大量の人員・資材の運搬
には限度があった。この話を聞いてシドはようやく真意を理解した。
「この野郎、それを先に言え!」紛らわしい言い方しやがってと、文句を交えつつもシドは言う「飛空艇が
完成した時にゃ、喜んで協力するぜ」
「ありがとうございます」そう言ってリーブは深々と頭を下げる。それから「こんな情勢ですから、できる
だけ急いで頂けると助かります」と、注文を付けることも忘れない。
「んな事は言われなくても分かってらぁ!」だからオレ様の所へ来たんだろう? とシドは胸を叩く。
 助かりますと、リーブは再び頭を下げた。


 まだ次に向かう先があるのだと言うリーブと別れ際、見送りに外まで出たシドはふと疑問に思って
尋ねた。
「なあ、なんでお前そこまで?」自分の金つぎ込んで、世界中を飛び回って。しかも迷ってる様子なんざ
ちっとも見えねぇ。なんでそんなに自信たっぷりなんだ? 少なくともシドの目にリーブはそう見えていた。
 問われて振り返ると、リーブは少し困ったような表情を浮かべた。
「自信があると言う訳ではないんですが。そうですね……」
 言葉に詰まったのはほんの僅かの間だった。リーブは控えめな笑みと共にこう答える。

「私の夢の続きだから。……そう言ったら、呆れますか?」

 シドは首を大きく横に振った。
「そいつはいい!」
 そう言ってリーブの背中を見送るシドの表情には、頼もしくも爽やかな笑みが浮かんでいた。
(なるほど、確かにコイツはとんでもない頑固者だ)
 親近感とは違う、どちらかと言えば対抗意識にも似た――飛空艇は絶対に完成させてみせるという――
高揚感だった。それは金銭的な援助を得たという以上の力で、シドの心を揺さぶった。
 湧き上がる感情任せにシドは声を張り上げる。

508 名前:ラストダンジョン (355)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2010/01/24(日) 02:18:24 ID:YLTk+Ux20]
「おいリーブ! お前、まだオレ様の飛空艇に乗ったこと無かったよな? 近いうち必ず乗せてやるから
楽しみに待ってろよ!」
 その声にリーブは振り返ると、穏やかな笑顔を向けた。

 それから数ヶ月後、リーブを局長とするWROが発足。各地の復興事業の中心を担う活動を開始した。
そのあと少し遅れて、シドを中心とする飛空艇師団が発足し、オメガ戦役を経た今日に至るまで、その
協力関係は確かに続いていたのだ。




----------
・金銭の絡む話になると途端にファンタジーっぽくなくなる気がするのは、某政治家のせい?
 (いいえ単に作者のせいですw)
・以前に書いたパルマー統括主人公の話とは別視点…という感じでシドさんの心中を妄想。
 本編でもロケット整備中にシドは「神羅はすっかり魔晄屋」なんて言ってますしね。
 この2部門の相反する様相が好き。表向き華やかな宇宙開発って結局は長距離兵(ry
・On the Way to a Smile(バレット、ユフィ、ナナキ編)とは微妙に時間のズレがあるかも知れません。
・「あいつあんなに金持ちだっけ?」(DC7章シド)が元になってる話。
・こんな路線にお付き合い下さる皆さん本当にありがとう!!

509 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/24(日) 02:20:28 ID:YLTk+Ux20]
次スレ誘導。

FFの恋する小説スレPart10
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1263141359/

510 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/25(月) 14:03:49 ID:izzes9yi0]
GJ!!



511 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/01/30(土) 11:27:28 ID:Xh6w20Mj0]
乙!

512 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2010/02/02(火) 19:09:19 ID:c9SKVGrQ0]
GJです!埋められるか微妙ですが、ちょこっとだけ。

513 名前:読書尚友 1/2 白 ◆SIRO/4.i8M mailto:sage [2010/02/02(火) 19:10:17 ID:c9SKVGrQ0]
 ダゲレオの水が、静かに本を守っている。
決して本を腐らせず、痛めることもない不思議な水。
書架に眠る数々の本。あるものは精緻な装丁に彩られ、
またあるものは冒険の炎に炙られた跡を残す。
肉筆による写本もあれば、細やかな銅版や石版画に満ちた本もある。
一葉一葉の版画は、それ自体がたっぷりと物語を綴り、紐解く。

 クリスタルの伝承。失われた技術の足跡。町の人々の歌声。
様々な事柄が、ダゲレオに記録されていた。
それは世界の記憶であり、知恵であった。

 ダゲレオの重厚な本棚に、優しい灯りが照り返す。
その元に立つ、じたばたした二つの人影。
「また呼び出されたクポ! ぷふぇっ!」
「モグオは大変クポ」
「アレクサンドリアが大騒ぎで、何度も何度も呼び出されるクポー」
「即位は大切な事クポ。またここに、新しい歴史書が増えるクポ」
「モゲレオはモゲレオで、仕事があるクポね……」
モゲレオは本当に嬉しそうに、本の甘い香りを吸い込む。
そして顎に手を当て、フフフって感じで呟いた。
「ジタンがずっとお城にいたから、もしやと思ったクポ」
「また色々戦ってるクポよ。だから呼び出されるクポ!!」
モグオはまた、じたばたクポクポしていた。全力でしていた。
「ジタンなら大丈夫クポ。きっと無事にアレクサンドリアに新女王が立つクポ」






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