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FFの恋する小説スレPart9



1 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [2009/01/01(木) 18:30:30 ID:c+ypqm/+0]
文章で遊べる小説スレです。
SS職人さん、名無しさんの御感想・ネタ振り・リクエスト歓迎!
皆様のボケ、ツッコミ、イッパツネタもщ(゚Д゚щ)カモーン
=======================================================================
 ※(*´Д`)ハァハァは有りですが、エロは無しでお願いします。
 ※sage推奨。
 ※己が萌えにかけて、煽り荒らしはスルー。(゚ε゚)キニシナイ!! マターリいきましょう。
 ※職人がここに投稿するのは、読んで下さる「あなた」がいるからなんです。
 ※職人が励みになる書き込みをお願いします。書き手が居なくなったら成り立ちません。
 ※ちなみに、萌ゲージが満タンになったヤシから書き込みがあるATMシステム採用のスレです。
=======================================================================
前スレ
FFの恋する小説スレPart8
schiphol.2ch.net/test/read.cgi/ff/1191628286/

記述の資料、関連スレ等は>>2-5にあるんじゃないかと思います。

443 名前:ラストダンジョン (334)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 01:59:02 ID:oFoMQyTf0]
前話:>>402-406(場面は>>87-89の続き)
※SNDの勝手解釈+ねつ造を通り越して好き勝手し放題です。ご容赦を。
----------


 エネルギーの振幅現象が発生した直後、周辺エリアの電力供給が一時的にストップしたことは通信
ログを調べてようやく分かったことだった。どうやら“外”では、予想以上に大きな動きがある様だ。さらに
数分もしないうちに、伝送路の一部に生じた異変を検知した。
 シェルクはこのことを“外”にいたイリーナに伝え、彼女たちに事実関係を調査してもらう事にした。
内側から外観を見る事は難しい、だから外のことは外にいる者に任せた方が効率が良い。その代わり、
外側からは見えづらい内部の異変について探る事にした。最終的に両者は同じ場所に行き着くはずだ。
 一時的であるにしろ電力供給が断たれたことで、周辺のネットワークを支えるシステムが不安定な
状態に置かれていたのは間違いない。しかしその要素を除いても尚、不審な点――具体的に言って
しまうと何者かの作為――を感じずにはいられなかった。この混乱に乗じてよからぬ事を企てている
輩がいる、もしかしたら混乱それ自体が、既に計略の一端であるのかも知れない。リスクが伴うことを
承知の上で、シェルクはより強く振幅の影響を受けているエリアを目指す事にした。
 シェルクの行動を例えるなら、深い霧に包まれた山奥の古道に足を踏み入れる様なものだ。しかし
周囲に立ちこめる濃い霧も、生い茂る草木によって隠された道も、ここを訪れた者の視界を奪い惑わす
目的で人為的に作り出されたものである。この先、目印になる道標どころか道そのものも曖昧な中を
進んでいくことになる。そんな場所へ立ち入るのだから当然、遭難の危険性だってある。そして万一
ここで遭難しても、救助は期待できない。
 そもそも、何故そんな細工をする必要があるのだろうか? シェルクは考える。外部からの進入を
阻もうとするのは、逆に言えばその先に都合の悪い何かがあるという証だ。
 問題は、その“都合の悪い何か”が誰にとって、どう都合が悪いものなのかという事だ。

                    ***

 一方、シェルクから依頼を受けたイリーナが振り返ると、既にツォンが端末の操作を始めていた。使わ
れなくなって久しいが、これでマテリア援護要請者の端末番号と現在地を特定できる。しばらくして検索
結果が画面に表示された。
「……支給リストに登録の無い番号だ」
「じゃあ、非正規品って事ですか?!」
 イリーナの問いをツォンは即座に否定した。技術的に考えてもそれはあり得ないからだ。マテリア関連
の技術は、膨大な財力と魔晄炉というマテリア量産の基盤を有する神羅の専売特許であり、世界中の
魔晄炉が停止したメテオ災害以降はマテリアの流通も無くなり、研究さえままならない筈だ。こんな状況
で非正規品が出回るとは考えられない。
 ツォンは表示された端末の位置情報を読み上げる。イリーナが手元のパネルで数値を入力すると、
画面の地図上、エッジ郊外に光点が現れた。すぐさまエッジ周辺の施設データを呼び出し、その地図に
重ね合わせる。
「ここは……変電所です」

444 名前:ラストダンジョン (335)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 02:05:40 ID:oFoMQyTf0]
 ツォンが無言のままで頷く。変電所周辺から援護要請が発信されているのは間違いなさそうだ。ネット
ワーク上で観測された値も、マテリア援護が実際に行われていたことを示している。となれば旧タークス
の誰かが、今回の騒ぎに関与しているのは確定的だ。援護要請を発信した端末番号から所有者を特定
しようとしたのだが、それは叶わなかった。
「使用されたのは恐らく正規品、ただしメンバーに支給されていない予備用の端末だ」支給リストに登録
のない番号の端末が存在する理由を語ったツォンに、イリーナは疑問をぶつける。
「そんな物、どうやって手に入れるんです?」
「まだ旧体制だった頃……」つまりイリーナがタークスに加入する前の話だった。「我々タークスに支給
される端末の管理は、すべて当時の主任が行っていた。端末番号と所有者のIDを登録、それを元に
行動を把握するためだ」
 最も大きな目的は、各地で任務に就いているメンバーからのマテリア援護の要請と発動の管理に
あった。性質上、援護の要請者は少なからず危機的な状況に置かれている。タークス本部は独自に
その人物と、関わっていた任務について――万が一の際の救助や後処理の為に――常に把握しておく
必要があった。イリーナ加入後の新制タークスでは、それまでと比べ大幅に人員が減ってしまったため
マテリア援護のシステム自体が機能しなくなってしまったのに加え、取り組める任務の総量が減った事
で人員の行動管理が容易になったという事情が重なり、システムは廃止された。
「って言うことは……」
 ツォンは頷いて、イリーナの推測を肯定する「ヴェルド主任。他に該当者はいない」

                    ***

 深い霧に包まれた古道を慎重に進んでいたシェルクは突然、開けた場所に出た。そこはまるで、人里
離れた山奥にひっそりと暮らす人々の小さな集落だった。
 どうやらここは、ネットワーク上に誰かが作ったフィールドらしい。
 シェルクはしばらくその場から動かずに、注意深く周囲を観察した。立ち並ぶのはどれも低層の木造
建築物ばかりで、規模は小さいながらも商店や宿屋もある様だ。周囲を走り回っている子ども達の格好
を真似て、シェルクは自身に偽装を施す。言ってみれば、踏み入れたフィールドという名の郷に従って
変装したのだ。そうしなければ、すぐに自分が部外者だとフィールドの主に知れてしまい、ここを追い出さ
れることになるからだ。
 それからシェルクは村の中心と思しき方向へ向けて歩き出した。自分のすぐ横を、ボールを追いかけ
て数人の子ども達が走り抜けていく。彼らの背後に目を転じれば、民家の屋根の上で羽を休める色とり
どりの鳥たちが、まるで世間話でもしているようにさえずっている。その家の軒先で日向ぼっこをしながら
寝ている親猫と、その周りをくるくると走り回る子猫の姿があった。民家の並びの商店では、別の子ども
達が商品棚の前であれこれと談笑している。どこを見てものどかな風景が広がっていた。

445 名前:ラストダンジョン (336)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 02:14:31 ID:oFoMQyTf0]
『シェルク、聞こえる?』
 唐突にイリーナの声がした。シェルクは慌てて周囲を見回す。子ども達がボール遊びをしている広場
の隅、古めかしい街灯の横に公衆電話機があった。それを目指して駆け出すと、受話器を取り上げる。
誰かが作り出したフィールド内で外部との“会話”を行えば、侵入を察知されてしまう危険性がある。
だから彼女はここに存在するオブジェクトを使って偽装する必要があった。
 要するに、場にそぐわない不自然な行動は避けなければならなかった。誰もいない場所で話しかけて
も、「その方向には誰もいない」とメッセージが出る。そのメッセージは、システムが検知した“異常行動”
に対する反応であり、ここでは致命的なミスとなる。ネットワークに潜行中のシェルクの行動要領は、
ゲームと似ていた。
 公衆電話の受話器を取り上げて、耳を当てる。
『シェルクどうしたの?』
 だからといってイリーナの声は受話口から聞こえる訳ではない。
「……問題ありません、続けてください」
 送話口に片方の手を添えて、この場では電話で話すフリをしながらシェルクが頷く。実際は“外”にいる
シェルクの耳と口によってイリーナとの会話が成り立っているので、このフィールド内にいる他の
オブジェクトには影響がない。ただしそれには、シェルクの侵入が発覚していないという条件を満たして
いなければならない。
『エッジの変電所が何者かに襲われた事が、一時的に電力供給がストップした原因だったわ。あなたの
言っていたエネルギー波の正体は、通信を介したマテリア援護によるもので間違いない』
「関与した者の特定は、可能ですか?」
 シェルクの問いに答えたのは、遠くの方から聞こえてくるツォンの声だった。
『おおよその見当はついているが、もう少し時間がほしい』
「分かりました。こちらも“振源”に近い所まで来ていますが、少し厄介な物にぶつかりました」
 この時、受話器を持っていたシェルクの後ろ姿をじっと見つめている子どもの存在に、彼女はまだ
気付いていない。

                    ***

『こちらも少し時間が掛かりそうです。ここを突破したら連絡――』
 明らかに不自然なところで言葉が途切れた。驚いたイリーナが呼びかけるが、横たわるシェルクから
の返答はなかった。
「どうしたのシェルク?」
 肩を揺すっても頬を叩いても反応はない。触れれば人肌の温もりは感じるものの、外部からの刺激に
はまったく反応しない。
「ちょっと、大丈夫!?」
 イリーナの様子を見かねた様に、ツォンが声をかける。見上げたツォンが手にしていたのは、ヘッド
セットだった。
「彼女は今ネットワーク内に潜行中だ、直接話しかけるよりはこの方が適切かも知れない」
 そう言ってプラグを端末に差し込む。ヘッドセットを装着した状態でイリーナが席に着くと、目の前には
モニタリング用の画面があった。その様相はさながらオペレーターだ。
 ひとつ深呼吸をするとイリーナはもう一度、名前を呼んだ。
「シェルク、聞こえる? 聞こえたら返事をして!」

446 名前:ラストダンジョン (337)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 02:23:05 ID:oFoMQyTf0]

                    ***

「ここを突破したら連絡を入れますので……」
 そう言ったシェルクの足にぶつかって、ボールが止まった。どうやら広場で遊んでいた子ども達の物の
ようだった。
ゆっくりと視線を落とし、シェルクは足下に転がっているボールを見つめた。それから、広場にいる子ども
達の方へ視線を向ける。彼らは皆、シェルクを見つめて立っていた。
「おねえちゃん、そのボールこっちに投げて」と、そんなことを頼まれそうな状況なのだが、子ども達は
じっとシェルクを見つめたまま微動だにしなかった。全ての動作が停止し、この場に流れる時間が止まった
ように感じた。
 シェルクは事態が急変したことを悟ったが、一足遅かった。
「……ねえ」
 シェルクの背後で小さな声が聞こえたのとほぼ同時に振り返ると、公衆電話機の後ろに少年が立って
いた。彼がこのフィールドを巡回する監視者だったのだ。
「キミ、誰?」
 少年が口にした言葉は、システムがシェルクを異物と認め、排除のためのプログラム実行を意味する
合い言葉だった。足下にあったボールが破裂し、噴出した煙があっという間にシェルクの視界を覆う。
周囲にあったのどかな風景は一瞬にして消え失せ、集落を構成していたオブジェクトはたちまち塀の
ような防壁へと姿を変えて行く手を阻む。先程までいた子ども達はシェルクを追跡する役を担った
プログラムのようだ。
 彼ら同様に、シェルクも自身に施していた偽装を解く。こうなってはどんな偽装も意味を成さない、強行
突破しか方法はない。
 走り出したシェルクは、背後からの追撃を避けながらこのフィールドの出口を探さなければならない。
この場合「出口」は、このフィールド内のどこかに存在する特別なオブジェクト――作成者に繋がる
「入口」の事を指す。
 ネットワーク上に構築されたフィールドには、必ず作成者が存在する。作成者によって作られた物には
、多少の差はあるもののその個性がクセとして反映している。潜行中のシェルクがまず最初にしたのは、
フィールド上のオブジェクトから作成者の“クセ”を見極めることだった。
 のどかな集落に見立てたフィールド――先程までシェルクが見ていた風景の中に、必ず答えに繋がる
ヒントがあるはずだった。
 しかし出口探しに考えを巡らせようとすると、自身の操作がうまく行かなかった。そもそも人の肉体は
ネットワークに最適化された物ではない。だからSNDで潜行中は、運動と思考を並行処理するための
プロセスがほぼ同じ経路で行われるせいで動作効率が低下する、それはSNDがディープグランドで研究
されていた頃からの欠点だったが、けっきょく解決策が見つからなかった為、SNDは実戦向きでないとされた。

447 名前:ラストダンジョン (338)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 02:31:09 ID:oFoMQyTf0]
『シェルク、聞こえる? 聞こえたら返事をして』
 イリーナの声が聞こえた時、シェルクは目の前の壁に阻まれ足を止めたところだった。振り返ったとこ
ろで、煙幕の向こうから自分めがけて飛んで来た石を避ける為に屈んだ後、いま来た道を戻った。
 まるで迷路だった。
『大丈夫なの?』
 再びイリーナの声がする。相変わらず飛んでくる石を避けようと、細い路地に駆け込んだシェルクは、
壁を背に背後を伺った。
「聞こえます。……あまり大丈夫とは言えませんが……」
『どういう事?』
 シェルクは手短に状況を説明した後、イリーナに尋ねた「そちらのモニタに何か映っていますか?」。
『……ええと……。あなたの今いる位置ね、たぶん』目の前のモニタに現れた幾何学模様と、中心に
現れた光点を見つめながら、それが膨大な迷路のようだとイリーナは感想を漏らした。
 彼女の言葉で確信を得たシェルクが申し出る。
「出口までの誘導をお願いできますか?」
『出口!?』少しの間が空いてから、イリーナが言った。『……そんな物、一体どこに?』
 そのまま進んでもこの迷路に出口は無い、それは分かっている。
「出口になる仕掛けは、ここにいる私が自力で見つけるしか方法はありません。ただ、追い詰められると
圧倒的にこちらが不利なので、それを避けたいんです」
『分かったわ。それじゃあ早速だけどシェルク、その道を進むなら2ブロック先で右よ。他は全部行き
止まり』
 イリーナの誘導で、シェルクは迷路のように入り組んだ道を走り出した。




----------
・もし目が覚めたらそこがDC世界の宿屋って事はありませんがw
 このパートが一番ゲームに準えた内容になります。
・むしろイリーナ管制s(ry
・いったんパートが変わります。

448 名前:ラストダンジョン (339)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 02:39:24 ID:oFoMQyTf0]
 ちょうど同じ頃、エッジの一角にあるセブンスヘブンの2階は、ちょっとした口論の舞台となっていた。
「……頼むから、もう少し真面目にやってくれ」
『ちょお待って〜な、こっちは最初っから真剣や!』両手を振って講義するケット・シーは、ついにその
場で立ち上がるとこう続ける『そんじゃ聞くけどな、オッサンの言う“もっともらしいこと”って何やねん?!』
 どうやら“ケット・シーが演じるWRO局長リーブ”を実現するのは、本人達が想像している以上に困難
な演目だったようだ。
「あいつなら何と言う?」
『そんなモン知らんわ!』
「想像するんだ」
『できたらこんな苦労してへんで!』
 まぁまぁ、と間に入ったマリンに窘められたケット・シーはその場に座り直す。それからマリンは、振り
仰いだ先に立っているヴェルドにこう言った。
「おじさん、ケンカをしたって良い案は浮かばないと思います」
「……そうだな。悪かった」
 それから再びケット・シーに顔を向けると、同じ口調のままで言う。
「ケット・シーも、あんまり暴れないで? さっきせっかく直したのに、リボンが曲がっちゃう」
 マリンは言いながら、ケット・シーの左手に結ばれたリボンの形を整える。
『……すんません』
 ふたりの様子を見下ろしていたヴェルドが、何の気無しに疑問を口にする。
「先程から少し気になっていたんだが、手に巻いているそれは?」
「おねえちゃんのリボン」
『エアリスはんの形見や』
 耳にした名前からヴェルドは遠い記憶をたぐり寄せ、それがミッドガル伍番街スラムの教会にいた少女
である事に思い至る「……古代種の娘?」。
 ヴェルドの言葉を聞いたマリンは、あまりいい顔をしなかった。その様子に気付いたケット・シーが場を
繕うようにして言った。
『これな、4年前にみんなでここ集まった時に付けとったんや。マリンちゃんの髪を結うてるのとも同じ。
みんなお揃いなんやで! エエやろ〜』見せびらかすように、つとめて明るく振る舞うケット・シーだった
が、最後の言葉はそうもいかなかった『……エアリスはんは、ボクらと一緒に旅をした“仲間”やさかい』。
言い終えると、しょんぼりと俯いて肩を落とす。
「なるほど」ヴェルドは先ほどの言葉が失言だった事を知った「仲間を結ぶ絆のリボン、と言うわけか」。
 彼らにとってエアリスは“古代種の末裔”ではなく、“仲間”という意味で特別な存在なのだ。
 マリンは満足げな表情で頷くと、話し出す。
「クラウドやティファも付けているんですが、大切な物だからと普段は外しているんです。でもケット・シーは、
あの日からずっとここにいたから……」
『ま、ボクの場合は元がぬいぐるみやから、このまま付けとっても手入れ楽なんですわ〜』
 一通り彼らの話を聞き終えたヴェルドが、ずっと引っ掛かっている事を尋ねる。

「ところでそのリボン、リーブ自身は付けていたのか?」

 ふたりは無言のままヴェルドを見つめ返すだけだった。
「あ、いや……」また何か失言してしまったのかと勘違いしたヴェルドは、気まずそうに続ける。

449 名前:ラストダンジョン (340)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 03:01:33 ID:oFoMQyTf0]
「それほど大切な物なら、何故あいつは手元に置かなかったのだろう?」
 ケット・シーの話によれば4年前、エッジを襲ったカダージュ一味と対決するために集まった時以来、
彼はここにいると言う。事態が収束すれば当然、リーブの操作していたぬいぐるみなのだから、いかよう
にも回収できたはずだ。にもかかわらず、わざわざここに置いておく必要性を思いつかない。
『そう言われてみたら、そうやなぁ……』
 自身の左手に結ばれたリボンを見つめながら、ケット・シーがしみじみと呟いた。
「実はあの日……」沈黙の中、マリンの口からぽつりぽつりと零れる言葉が、彼女しか知らない4年前の
光景を描き出した「リーブさんもミッドガルにいたんです」。
 その日、マリンはひとりで――当時も危険区域とされ立入の制限されている――ミッドガル伍番街スラ
ムの一角を訪れた。そこでモンスターに襲われそうになったところを、通りがかったリーブに助けてもら
った。何よりその場所が、6年前に二人が初めて出会った場所――エアリスの育った家の跡地――だっ
た事を話した。
 ケット・シーは黙ってマリンの話を聞いていた。
「その後、みんながいる教会の近くまで一緒に歩きました。でも、教会の手前で別れました。教会には
みんながいました、だから『ここまで来ればもう安全だから』と言って」
 自分が教会に行かなくても、そこにはケット・シーがいるから大丈夫。そう言って教会まで一緒に行こう
とはしなかった。そうだと、マリンは思い出す。
「別れる直前に、リーブさんは『ありがとう』って言いました」
 笑顔で口にした『ありがとう』の言葉が、一緒に教会へ行こうと言うマリンの申し出に対する拒否を示す
為のものだったのではないか? 薄々だがその事に気付いていたマリンは、ただそれを確かめる事が
怖かった。
「その意味、ケット・シーと一緒にいれば……いつか分かるかなと思ったんです」
 結果的にマリンの目論見は今日、最も悪い形で達成されたことになる。
『すんません、ボクには何やサッパリ分からへんのです。……でも』僅かに声色を変えて続ける。『どうも、
お招きしてないお客さんが来たみたいや』
 そう言ったきり、ケット・シーは借りてきた猫の置物のように黙り込んでしまった。
「どういう……」ケット・シーへの問いかけを中断させたのは、ヴェルドの携帯の着信音だった。それを
デンゼルからのものだと思い込んでいたヴェルドは、何の疑いもなく通話ボタンを押した。このとき画面
に表示されていた『非通知着信』の文字を見落としていた事に気付いたのは、電話の向こうにいた元部下
の指摘を受けてからだった。

                    ***

 モニタ内でシェルクの居場所を示す光点は移動を止め、一箇所で点滅を繰り返していた。
「どうしたの?」
 画面の表示では特に目立った障害もなく、このまま直進しても問題は無さそうだと付け加えたイリーナ
に、シェルクはこう返した。
『先程までとは様子が違っています、どうやらフィールドが作り替えられている様です』気がつけば、
いつの間にか辺りはしんと静まりかえっている。
「どういう事?」
 イリーナが目にしていたモニタには相変わらず模様とも見て取れそうな“迷路”が表示されているだけ
で、特にこれと言った変化は現れていない。

450 名前:ラストダンジョン (341)   ◆Lv.1/MrrYw mailto:sage [2009/12/04(金) 03:02:55 ID:oFoMQyTf0]
『そちらのモニタに表示されている情報は、あくまでも端末側で処理可能な容量や範囲に収まるよう変更
された結果、映し出されている物です』
 シェルクはこの状況を写真に例えて説明する。一軒の家が写っている写真を見れば、家の造りや屋根
の色は分かっても、その家の窓から見た風景を知ることができない。写真を見ている者は、そこに写って
いる物体について視覚的に把握することはできても、それ以外の――匂いや質感といった他の感覚――
情報を得る事はできない。シェルクの能力は、写真の中の物を視覚以外の感覚でも捉えることができる
――誤解を恐れずに言えば、写真の中にある物に実際に触れる事ができる――能力であり、今イリーナ
が見ているモニタは、まさに外観を映し出した写真だった。
『このフィールドは何かを模して作られている様です。それが何なのかが分かれば、作り主の意図を突き
止める手がかりにもなるのですが……』
「シェルクには今、どんな物が見えているの?」
 モニタには表示されない風景の中に手がかりがあるのだとすれば、なるべく多くの情報を得たいと
イリーナは考えた。
『……私の目の前には石造りの階段があります。とても古い物、史跡などを模っていると思いますが、
私の知る限り該当するものがありません』
 その言葉を聞きながら、モニタの中で再び動き出した光点を見つめていたイリーナは、シェルクがその
石段を登っているのだと知った。
 しかし、しばらく行くとそこは行き止まりだった。三方を壁に囲まれ戻ることしかできない。光点は再び
動きを止める。
『階段を登った先は……祠のようになっています。中央に、台座のような物がある場所です』この
オブジェクトに仕掛けがあるのだろうとは予測できたが、それが何なのか、シェルクには見当がつかなかった。
「……もしかして」沈黙の後、イリーナがゆっくりと口を開く「たぶんそこ、鍵石を置く場所よ」
 それからもう一度、モニタを見つめる――映し出された幾何学模様のような迷路、設けられた石段、
祠と台座――それらの要素を満たす場所に、心当たりがあった。
「以前に私、そこへ行ったことがあるかも知れない。……シェルク、そこは……」


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・1ヶ月以上も空いたうえ、さらに色々と無茶な展開ですみません。






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