- 435 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/24(木) 13:59:00 ID:oIZovGzC]
- >>263です。
遅ればせながら続きです。 その日の夕方。 台所では布美枝が夕餉の支度、少し離れた所に敷かれた座布団に座った藍子が静かに遊んでいた。 「お父ちゃん、もう直ぐ帰って来ますからね〜」 時折藍子に話し掛けながら野菜を刻む。 「帰ったぞ」 玄関のドアの音。 「お帰りなさい お疲れ様です」 原稿を出版社に持って行っていた茂が帰って来た。鞄から茶封筒を取り出すと、布美枝に手渡す。 「原稿料入ったぞ。今日は約束通りの金額だ」 「……アッ こんなに♪」 思わず声が出てしまい、口元を抑える。 「オゥ 藍子、帰ったぞ」 積み木で遊んでいる藍子の頬をチョンとつついた。 「お父ちゃんが帰って来るの待ってたのよね、藍子」 「お父ちゃん、お風呂どうぞ」 「お父ちゃん、ご飯ですよ」 「お父ちゃん」 「お父ちゃん」 「お父ちゃん」…… その日の夜。 茂の仕事部屋の襖が開く。 「お茶ですよ…お手伝いしましょうか?お父ちゃん」 「すまんな、それじゃベタを頼む」 「はい♪」 慣れた手つきで墨を塗ってゆく布美枝。茂はペンを休め、布美枝の横顔を眺めていた。 「? どげしましたか?お父ちゃん」 布美枝が気付き、茂を見た。 「あのな…」 「はい お父ちゃん」 「その、なんだ…」 「どげしましたか?お父ちゃん」ひとつ大きく深呼吸した茂は意を決した様に言った。 「ォ…お前のお父ちゃんは安来に居るだろうが」 「……え?」 「ッタク、藍子が生まれてからお父ちゃんお父ちゃん… 」 「でも、お父ちゃんはお父ちゃんですよ?」 「アーッ だから、俺はお前のお父ちゃんじゃない」 少しの沈黙の後。 「…肩を揉みましょうか」 布美枝は茂の後ろにまわり、肩揉みを始めた。 「そげですね…藍子にとってはお父ちゃんでも、私にとっては…茂サン」 布美枝は茂の耳元で呼んだ。 「ツ、続きやらんと朝になるぞ」 茂は原稿に取り掛かる。 「そげですね、茂サン」 「あー、もうええ 仕事にならんぞ ……布美枝」 「…はい♪」 オシマイ
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