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うら若き女性が改造されるシーン



1 名前:BeeFreak [04/10/26 01:29:23 ID:K4X2E2bn]
容量宣言を受けたので新スレです。

前スレ【女子高校生位の子が改造されるシーン】
tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1043884297/

関連サイト
【女性改造人間物語】 319氏、325氏によるSSが保管されているまとめサイト。
remodeledwoman.myfws.com/
【蜂女の館】 508(BeeFreak)による、蜂女改造SSの保管庫。
artofspirit.hp.infoseek.co.jp/

77 名前:PRIME mailto:age [04/11/01 02:12:04 ID:EdzPM3Ty]
長い間筆を休めていましたが、明日以降随時SSの続きを貼り付けたいと思います。
この休んでいる間色々考えました。今のSSは改造シーンとかに萌えが少ないというのは私も認めます。
しかし今回は改造される人間の悲劇性には余り重点を置かず、ひたすら明るい勧善懲悪を目指しその過程の中で改造シーンが組み込まれているという風にご理解いただきたいと思います。
つまり勧善懲悪が第1のテーマで女性改造は第2のテーマということです。ここのスレの皆さんにはご不満のことと思いますが今回はそういうことでどうぞお許しください。
なお、>>68さんが改造素体となる悪女のモデルを希望されましたが、他の方にも改造して欲しい悪女をリクエストして欲しいです。
全部できるとは限りませんが、こんな悪女を改造して欲しいという案がございましたらどんどんリクエストしてください。

78 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/01 02:30:05 ID:bpJtjO5W]
サイバー団地妻
ttp://www2.gol.com/users/madori/bunge/saiba_01.htm
ttp://www2.gol.com/users/madori/bunge/saiba_02.htm

79 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/02 05:05:28 ID:/UCiJJqg]
前スレ「女子高校生位の子が改造されるシーン」、DAT落ちしたね。

80 名前:名無しより愛をこめて [04/11/02 14:29:56 ID:4W9jcn01]
乳改造!
股改造!
尻改造!

81 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/02 22:31:19 ID:4mvOR+v8]
>80
お前ショッ〇ー婦人部荒してるキチガイだろ。


82 名前:前スレ325 mailto:sage [04/11/02 23:22:04 ID:R60wQNLC]
>>77
えー、確かに小生「イナズマンF」や「仮面ライダー」最初期を念頭に駄作を描き込みさせて
いただきましたが、319さんがより洗練された形で「後期ライダー」風にまとめて
下さいましたので、今更あの雰囲気持ち込むのもどうかと思うところです

83 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/02 23:34:43 ID:fvhq4ptr]
>>82
325さんは325さん、319さんは319さんの雰囲気があっていいと思うので、
「今更あの雰囲気を・・・」などと悩まれず、ぜひ新作のUPをお願いします!
私、325さんのあの作風のファンです!

84 名前:PRIME mailto:age [04/11/03 01:06:35 ID:pUXe/+se]
>>前スレの325さん
私の前のSSはそんなに洗練されているとは思えません。
私はただ単に自分の妄想を貼り付けているだけですのでそのような過分なお褒めの言葉をいただき恐悦至極です。
ただあのSSはあれでよかったのかなという思いもあります。なんか私のわがままで325さんの重厚な雰囲気を壊してしまったような気がするのです。
例えば009号の最期。あれにしても325さんの考えられた結末からは大分外れたように思うのです。その点がかなり気になっています。
まあ私も私のポリシーに基づいたSSを貼り付けます。325さんも気が向かれた時にお好きなSSを貼り付けられることをおすすめします。
お互い頑張りましょう。


85 名前:PRIME mailto:age [04/11/03 01:46:26 ID:pUXe/+se]
それでは久しぶりに続きを行きますか。

女性だけの暴走族「紅蜥蜴」のメンバーを戦闘員に改造したローズジャマーは首領に新たに誕生した戦闘員を見せる。
「首領、ご覧下さい。新たな女性戦闘員が手に入りました」ローズジャマーは得意げに首領に報告する。
暴走族を改造しただけあって女性戦闘員たちは皆凶悪な面構えである。
「うむ、なかなか我がジャマーにふさわしい者たちだ。我がジャマーはこれまで女性戦闘員が少なかった。お前の働きは我がジャマーに多大な貢献をしている」首領は上機嫌で言う。
「だが、まだまだ足らぬ。もっと女性戦闘員が必要だ。お前は白百合女学園の生徒だったな」首領が言う。
「はい。栄光あるジャマーに入る前はそこの生徒でございました」ローズジャマーは答える。
「白百合女学園には大量の女性生徒がいるな。こやつらを我がジャマーの改造人間にするのだ」新たな指令である。
「はっ、私の昔のクラスメートも我が栄光あるジャマーの一員になれると知れば大喜びするでしょう」すでに魂までジャマーに洗脳されたひなのであった。
「よしいけ。ローズジャマー」「かしこまりました。バ〜ラ〜」ローズジャマーは姿を消す。
「今回はお前はなかなか優秀な改造人間を作ったな。だが、また新しい素材が大量に入ってくるぞ」科学者をねぎらう首領。
「光栄にございます。首領様。新しい素材はどんなものか今から期待しております」嬉しそうに笑う科学者。その目からは邪悪な光が放たれていた。




86 名前:PRIME mailto:age [04/11/03 02:13:09 ID:pUXe/+se]
所変わって喫茶店「ブラッカー」。

「はあ、闇に消えた暴走族か」新聞の見出しを読みながらおやっさんが言う。
その記事はあの紅蜥蜴の失踪記事だった。転倒し放置されたままのバイクが転がっている写真が掲載されている。
「それにしてもこれは一体どういうことですかね。神隠し?」羽村啓介は記事を読みながら言う。
「案外ジャマーの仕業かもな」啓介の友人でともにジャマーと戦っている川島貴司の言葉だ。彼はICPOの秘密捜査官である。
「まあジャマーも暴走族も社会にとってはマイナスな存在ですから消えてくれるのは大いにありがたいことですけどね」啓介が言葉を返す。
「そういうことだな。あれ、ウエハースがない。啓介、ちょっと買ってきてくれないか。」おやっさんが啓介に言う。
「わかりました。じゃあちょっと言ってきます」啓介はバイクに乗ると朝の町に飛び出していった。

87 名前:名無しより愛をこめて [04/11/03 12:17:05 ID:6sHczBAj]
  _  ∩ おっぱい改造!
( ゚∀゚)彡  おっぱい改造!
 ⊂彡

88 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/04 08:16:42 ID:Iey6krB+]
「新怪談残虐非道 女刑事と裸体解剖鬼」(2003)って映画はどうよ?
ttp://office-yurika.web.infoseek.co.jp/
マッドサイエンティストが美女を誘拐して次々と改造してしまう。
改造シーン(↓)
ttp://office-yurika.web.infoseek.co.jp/zan-g/17.jpg

ま、改造された結果がゾンビメイドだったり箱女だったりするので何だが。

89 名前:PRIME mailto:age [04/11/05 00:57:49 ID:S6fq8CB5]
前スレの325さんはファイターFのモデルをイナズマンFに求めていたんですね。
ちなみに自分はファイターFのモデルは「トランスフォーマー 超神マスターフォース」のゴッドジンライのイメージで描きました。
ゴッドジンライは日本人の青年ですが、結構熱いキャラでした。だから私はファイターFを熱血漢というイメージで描いたんです。
それは「改造人間の力、そして人間の心を見くびったな」というファイターFのセリフでもおわかりいただけると思います。
でもゴッドジンライって言っても10数年前のキャラだからどのくらいの人が覚えているかな。

90 名前:PRIME mailto:age [04/11/05 01:12:23 ID:S6fq8CB5]
では続きを。

「早苗、急ぎなさい!」「お姉ちゃん、何で早く起こしてくれなかったのよ」朝の天野家では朝早くから大騒ぎである。
天野早苗は高校生だが、今日は寝坊をしてしまったのだ。姉の千鶴に急き立てられながら慌てて支度をする早苗。
早苗は朝食もそこそこに家を飛び出した。とその時。「キィーッ!」早苗は出会い頭にバイクとぶつかりそうになった。
「キャア!」「あ、危ないな」バイクの声の主は啓介だった。
「あっ、啓介さん」「何だ、早苗ちゃんじゃないか。どうしたんだい、そんなに慌てて」
「寝坊しちゃって遅刻しそうなの。ねえ啓介さん、バイクで送って」虫のいい頼みごとをする早苗。
「困ったなあ。俺はおやっさんに言われてウエハースを買いに行く途中なんだ」
「そんなのお姉ちゃんに頼めば良いじゃない。どうせお姉ちゃんブラッカーに行くんでしょう?」
「まあ、今日はバイトでブラッカーにいくからね」女子大生の千鶴はそう答える。
「じゃあ千鶴さん、早苗ちゃんを送っていくよ。ウエハースのこと頼んでいい?」申し訳なさそうに言う啓介。
「まあ、啓介さんの頼みなら仕方ないわ…」不承不承ながら頼みを聞き入れる千鶴。
「話はまとまったわね。じゃあ啓介さん、お願いね」早苗はちゃっかりバイクの後部座席に乗り込む。
「早苗ったらもう。じゃあ啓介さん、悪いけど早苗のことお願いします」千鶴は妹のことを啓介に頼む。
「じゃあ早苗ちゃんいくよ」啓介はエンジンの回転数を上げてバイクを飛ばす。
千鶴は半ば不満そうに二人を見送る。
「私だって啓介さんのバイクの後部座席に乗りたいのに…」

91 名前:PRIME mailto:age [04/11/05 01:54:51 ID:S6fq8CB5]
「おはよう」「おはよう」白百合女学園高校では生徒たちが朝の挨拶をお互いに交わしている。
晴れ渡った青空に乙女たちの明るい声。清々しい光景だ。
そこに啓介のバイクが学園前に着く。ぎりぎり10分前セーフだった。
「啓介さん、ありがとう」校門前で早苗は啓介に御礼を言う。
「早苗ちゃん、今度からちゃんと早起きしないとダメだぞ」啓介は幼い子供にいうように早苗を諭す。
「もう、そういう事はお姉ちゃんからいつも言われているわ。啓介さんまで私を子ども扱いしないで欲しいわ」少しむくれる早苗。
啓介は苦笑いをして顔をそらす。だが次の瞬間啓介の顔から苦笑いが消えた。(あの子は…)
そこにやってきたのは石川ひなのだった。啓介は彼女の顔を見て思い出した。あの親父狩りの少女たちを。
(あの子は確か不良少女グループのリーダー。ここの生徒だったのか)
啓介の思いとは裏腹に早苗はひなのに声をかける。「石川さん、おはよう。ここ最近休んでいたけどどうしたの?」
しかし、ひなのはチラリと二人を見てそっけなく言う。「あら天野さん、おはよう」
ひなのは啓介のほうもチラリと見てそのままその場を去っていった。
「早苗ちゃん、あの子は?」啓介は早苗に聞いてみる。
「クラスメートの石川ひなのさん。なんかお高くとまっている感じで私は生理的に好きになれないの。さっきだってこっちから声かけたのに。」
早苗は不満そうに言う。どうやら彼女とはそりが合わないみたいだ。
「それに彼女、色々悪い噂もあるし。後彼女のお父さんって闇金融の帝王なんだって」早苗は啓介にそう話す。
「なんか色々裏のありそうな子だなあ」啓介はそういうが真意は別にあった。
(さっきすれ違った時彼女からジャマーのにおいがした。彼女はひょっとしてジャマーの手先か?)
羽村啓介もまたジャマーに改造された人間である。だが彼は脳改造直前に脱出し正義の戦士として戦っているのだ。そんな彼は本能的に彼女をジャマーではと疑ったのだ。
しかし、早苗は特に何も考えていないようだ。「じゃあね、啓介さん」早苗は走り出す。
啓介は漠然とした不安を抱えながら早苗を見送った。

92 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:37:10 ID:6st48GJv]
皆さまお久しぶりです。最近仕事が忙しくて、思うようにSSが書けません。
書きたい話はいっぱいあるのですが。
構想中のものはどれも長い話になりそうなので、今日はとりあえず、短めの話をUPするこ
とにいたします。
(PRIMEさんの今日のSSのUPは、もうおしまいですよね? もしも重なってしまったらご免
 なさい)

今回“ズゥ”Zooという組織によって蜂女に改造されてしまうのは、桂木美緒ちゃん15歳と
桂木梨緒ちゃん18歳の美人姉妹です。
そして、最後にもうひとつお楽しみが…。

93 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:37:50 ID:6st48GJv]
午前1時の港の倉庫。人気の途絶えた鉄とコンクリートの山のその上を、月光に照らされ
ながら二つの影が何度も激しく激突していた。
ひとつの影は、銀色に輝く仮面とアーマーをまとった戦士。やや小柄なその姿は、アーマ
ーの中身がどうやら少年であることを感じさせる。
もうひとつの影は、女性のシルエットを持った異形の者。背中から4枚の透明な羽根を生
やし、蜂を摸したマスクを被っている。しなやかな女性のラインもあらわなそのボディは
濃いブルーに包まれ、ふくよかな双つの乳房は黄色と黒の同心円模様で彩られている。宙
を華麗に舞うその動きは、そのボディが衣装やアーマーではなく、彼女自身の皮膚である
ことを示している。
「死ねぇッ!! カイゼリオン!」
蜂のような女が、空中に停止したアーマーの少年に向かって突進する。
「スティンガー・ニードル!!」
蜂女は伸ばした手のひらから、鋭い針を撃ち出した。アーマー少年は巧みにそれをかわし、
蜂女に接近するとパンチをふるった。「カイザー・ナックル!!」
間一髪でパンチをかわした蜂女は、少年の後ろに回り込み、自らの乳房を両手で掴んで少
年の方に向き直った。
「ポイゾナス・シャワー!!」蜂女の乳房から、無数の細かい毒針が発射された。アーマー少
年は身体を猛スピードで回転させてそれをはね返す。「カイザー・スピン!」
回転を続けながらアーマー少年はジャンプし、ドリルのように宙を舞って蜂女に肉迫する。
蜂女はまたも間一髪でそれをかわし、少年から間合いを取った。
「おのれ、カイゼリオン! このままではすまさない!!」息を切らせながら蜂女が叫ぶ。
「もう諦めるんだな、“ズゥ”の獣人兵士! お前たちの悪事は、この俺が必ず打ち砕く!!」
「うるさい!! “ズゥ”なんか関係ないわ! わたしはただ、妹の仇を討ちたいだけよ!!」
「…妹だって!?」カイゼリオンと呼ばれたアーマー少年は、驚いて構えを解いた。
「そうよ! 2日前にお前が倒した蜂女を覚えているでしょう!? あれはわたしの妹、ミオ!
そしてわたしは、ミオの仇を討つために蜂女になった、姉のリオ!!」
蜂女は、マスクの内側で明らかに号泣していた。そして彼女の脳裏に、それまでの想い出
が走馬灯のように駆け巡った。

94 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:39:35 ID:6st48GJv]
…そう、わたしの名前は桂木梨緒。18歳。3歳年下の妹、美緒と二人、下町のアパートで
ひっそりと暮らしていた。
地方都市で両親と4人、幸せに暮らしていた私たちの一家を不幸が襲ったのは、今から3
年前のことだった。突然の交通事故が両親の命を奪い、他に身寄りのなかったわたしたち
姉妹は、世間の荒波の中に突然投げ出されてしまった。
わたしは高校を中退し、中学生の妹を養うために働かなければならなかった。といっても
地方都市では、中卒の娘にできる仕事など限られている。わたしたちは残されたわずかな
保険金を元に東京に出、安アパートで二人暮しを始めた。
都会の真ん中で、二人ぼっちになったわたしたち姉妹。妹の美緒は、わたしにとってかけ
がえのない肉親であり、自慢の妹だった。わたしはなんとしても、妹の夢だけはかなえて
やりたかった。
妹の夢は、ヘアデザイナーになること。それには、高校と専門学校をどうしても卒業させ
てやらねばならない。
わたしは幸運にも、あるフリーのカメラマンのアシスタントとして雇ってもらうことがで
きた。カメラマンといっても人が考えるような派手な仕事ではない。博物館や考古学研究
所に雇われて、土器や埋蔵史料をひたすら撮り続ける地道な仕事だ。体力が必要だし、休
みはほとんどない。撮影が終わった後もフィルムの整理やラボへの発注などに追われ、家
に帰るのは連日0時を回ってからだった。だがその分、給料は良かった。交通遺児奨学金
と合わせれば、妹を高校に進学させるのに充分な稼ぎを得ることができた。
わたしたち姉妹はそうやって、都会の片隅でひっそりと暮らしていた。そう、あの忌まわ
しい日までは。

95 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:41:10 ID:6st48GJv]
妹の理緒が、下校途中に突然失踪したのは、今から10日前のことだった。
蒸発? 心当たりなどまるでない。事故? 事件? 目撃者は誰もいない。
わたしは狂ったようになって、連日妹の行方を捜し回った。妹がいない世界など、わたし
には考えられない。妹が死んでしまうようなことがあったら、この世にわたしが生きてゆ
く意味などない。わたしにとって妹は、自分の存在のすべてであり、生きる意味のすべて
だった。
捜し回ること一週間。妹の行方は、ようとして知れなかった。相変わらず警察も何ひとつ、
手がかりを掴めてはいないようだ。その日も足を棒のようにして歩き回り、疲れ切ったわ
たしは布団に身を投げ出し、泣きながら眠りについた。


ふと、気配を感じてわたしは飛び起きた。部屋の中に誰かがいる。
「キャッ!」聞き慣れた声を耳にし、わたしは反射的に声のした方に腕を伸ばした。細い
腕を掴んだわたしは、急いで電灯のコードを引っ張った。とたんにあたりが明るくなった。
「いやぁ、見ないで!! お姉ちゃん!」「み、美緒っ!?」
わたしが掴んでいたのは、妹・美緒の腕だった。だが、その妹の身体は…
「見ないで!! お願い!! わたしの身体を見ないで!! お願い、お姉ちゃん…!!」
「美緒、その身体…いったい…!?」
妹の姿は、実に奇妙なものだった。顔こそ愛らしい美緒のものだったが、全身はなめし皮
のような質感の濃いブルーの皮膚で覆われ、手は白い手袋、脚は白いブーツ状になってい
た。それは明らかに衣服ではない、妹自身の皮膚であった。妹の乳房は、蜂の腹部のよう
な、黄色と黒の同心円状の模様で覆われていた。その乳房はまるで別の生き物ででもある
かのように、絶えず艶めかしい蠕動を繰り返していた。そして妹の背中からは、薄黄色の
透明な羽根が4枚、生えていた。



96 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:41:48 ID:6st48GJv]
美緒は唖然としたわたしの手を振りほどき、両手で胸を押え、うずくまってすすり泣きを
始めた。
「…お願い…お姉ちゃん…わたしを、美緒を許して…!!」
わたしは我に返り、妹に寄り添って肩を抱きしめた。どんな姿になっていても、美緒は美
緒だ。わたしの可愛い妹だ。
「美緒、何があったの? 辛い目に遭ったの? 良かったら、お姉ちゃんに話して。あなたが
どんな目に逢っても、お姉ちゃんは美緒の味方だから…」
美緒は堰を切ったようにワッ!と泣き出し、わたしの胸に顔をうずめた。わたしはしっか
りと、美緒の身体を抱きしめた。こんなに小さい、細い身体だったんだ。泣きじゃくる美
緒の身体を抱きしめ、わたしは美緒の背中を愛撫した。背中から生えた4枚の羽根が、細
かく震えている。
「…お姉ちゃん、ごめんなさい。わたし、もう人間じゃないの。」
美緒は泣き濡れた真っ赤な目でわたしを見つめ、震える小さな声でそうつぶやいた。
「わたし、改造されたの。一週間前、“ズゥ”にさらわれて、ベスティオイド(獣人兵士)に
改造されてしまったの。わたしはもう、人間じゃない! 蜂なの!! 蜂女なのよ!!」
美緒はそう言って、再び泣きじゃくった。わたしは呆然となっていた。美緒が何を言ってい
るのか、よくわからなかった。いや、理解したくなかったのだ。妹が、あの可愛い美緒が、
まさか蜂女に改造されてしまったなんて!
ポロポロと、わたしの目からも涙が溢れて止まらなくなった。わたしには、美緒の身体を
きつく抱きしめてやることしかできなかった。
「美緒、可哀想に。辛かったのね。でももう、お姉ちゃんが一緒よ。お前がどんな姿にな
っても、お姉ちゃんが一緒にいてあげる。お姉ちゃんが守ってあげる。お前はお姉ちゃん
の、たった一人の妹なんだもの。」

97 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:42:32 ID:6st48GJv]
美緒は、腕を伸ばしてわたしの身体を引き離した。「ダメ! ダメなのよお姉ちゃん!」
美緒は床に転がっていた、ヘルメット状のマスクを拾い上げた。
「わたしは今から、闘わなければならないの。カイゼリオンと。」
「…え? 何、闘うって? …カイゼリオンって、誰?」
「わたしたち“ズゥ”の企みを潰して回っている、正義のヒーローなの。そしてわたしは
悪の改造人間なの。今からわたしたちは、港の第3倉庫でカイゼリオンを迎え撃つことに
なってるの。でも…きっと勝てない! カイゼリオンはとても強いの! わたしじゃ、カイゼ
リオンには勝てない!! わたしはもうすぐ、悪の改造人間としてカイゼリオンに殺されること
になるの。だから…最後に…お姉ちゃんの顔を見ておきたかったの! わたしの最後の…想
い出に。」
美緒は、マスクを装着した。口の周囲を除いて頭部全体を覆うヘルメット状のマスクで、
それを着けた美緒は、巨大な蜂そのままの姿になった。
「どうして! どうして闘わなきゃいけないの! 美緒、逃げて! 逃げなさい!!」
「だめ。わたしは“ズゥ”の命令には逆らえないの。さよなら…お姉ちゃん。いつまでも
幸せに…。」
そう言って美緒は、羽根を広げて開いた窓から飛び出して行った。

「美緒ッ!!」わたしは窓に駆け寄った。月光の中、飛んでゆく美緒の姿が見える。
わたしはパジャマのまま、部屋を飛び出した。アパートの自転車置き場には、仕事のため
に買った原付が停めてある。わたしは原付に飛び乗り、急いで美緒の後を追った。港の第
3倉庫。美緒は確かにそう言っていた。早く! 早く! 早く行かないと美緒が殺されてしま
う!

98 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:43:07 ID:6st48GJv]
わたしは信号を次々と無視し、港へと急いだ。原付の速度は呪わしいくらいに遅かった。
早く! 早く! 心ばかりがあせる。冷汗が頬を伝って流れる。早く、急がないと!
やがて港の倉庫群が目に入った。その上空で、激しくぶつかり合う2つの影がある。
わたしは原付を乗り捨て、その真下へと駆け寄った。地面には、黒づくめの男たちの死体
が幾つも転がっている。おそらく戦闘員だったのだろう。わたしは上空の影に向かって叫
んだ。「美緒ぉーーーッツ!!」
銀色の影が、急に激しい光を放ち始めた。「カイザァーッ!グラヴィトーーン!!」
光り輝く影が、もうひとつのブルーの影目がけて突進した。ふたつの影が重なったとたん、
凄まじい閃光がひらめいた。
「キャアァァーーーーッツ!!」悲鳴とともに、ブルーの影が地表めがけて落下した。地面に
叩きつけられた影は、プスプスと音を立てて焦げている。
「美緒っ!!」わたしは地面に落ちた妹に駆け寄った。美緒はわたしの姿を認め、一瞬、微
笑んだ。そして……。美緒の姿が明るく輝いたかと思うと、もうその場から蒸発して消え
てしまった。
「美緒ォォーーーッ!!」
わたしはその場にへなへなと座り込み、顔を覆って泣いた。闘いに勝った銀色の影は、倉
庫の上に立って勝ちどきを上げた。「灼光戦士!カイゼリオン!!」
その姿を、わたしは涙にくもった目でにらみつけた。許さない。わたしは決して許さない!
妹を、可愛い美緒を殺したあの銀色の影を!
わたしのすぐそばに、動く影が目に入った。わたしは反射的にその影に駆け寄り、そいつ
を押えつけた。後手に締め上げたそいつは、傷ついた、黒ずくめの戦闘員だった。
「お前は“ズゥ”の戦闘員ね。わたしを、お前たちのアジトに連れてゆきなさい!!」

99 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:43:53 ID:6st48GJv]
「何物だ貴様! いったい何の用だ。」
“ズゥ”のアジトは、何と動物園のある総合公園の地下にあった。地下道の黒い扉の前で、
門番の戦闘員たちがわたしたちを呼び止めた。
「わたしは、さっきカイゼリオンに殺された蜂女の姉よ。わたしはカイゼリオンが憎い。
わたしに、カイゼリオンを倒す力を与えて!」
戦闘員たちはヒソヒソと話し込み、ひとりが扉の奥に消えた。しばらくすると、燕尾服に
シルクハット、目にはモノクル(片眼鏡)をはめたうさん臭い風体の陰気な男が現れた。
「私は“ズゥ”のテイマー(調教師)、ミスターQだ。君かね、カイゼリオンと闘いたいとい
う勇敢な少女は?」
「そうよ。私の妹はカイゼリオンに殺された。わたしは妹の仇を討ちたい! お願い!! わた
しを妹と同じ姿に改造して! わたしは蜂女になって、この手でカイゼリオンを倒したい!」
ミスターQはじろじろと私の身体を見つめ、フフッと笑った。
「なるほど、妹さん同様、実に美しい娘さんだ。しかも勇敢ときている。いいだろう。君
を“ズゥ”のベスティオイド(獣人兵士)、蜂女の第2号として改造してあげよう。さあ、こ
ちらに来なさい。」
わたしは、ミスターQの後についてアジトに足を踏み入れた。

「…さあ、着ているものを全て脱いで、この手術台の上に横たわりなさい。」
科学者らしい、白い戦闘員がわたしを促した。今さら何を迷うことがある? 妹のいない世
界に、未練など何もない。今の私がするべきことはただ一つ、妹の復讐だ。そのためには
人間の身体を捨てることなど惜しくもない。わたしは震える手で衣服を脱ぎ捨て、手術台
の上に乗った。心臓がバクバクと音を立てる。戦闘員が、冷たい手でわたしの両手両脚を
手術台に固定した。
ミスターQが現れて、手術台のわたしを上から覗き込んだ。
「ほう、君はまだ処女のようだな。実に美しく可憐な肉体だ。だがこれから、君はもっと
美しい身体へと生まれ変わる。蜂の遺伝子を全身の細胞に組み込んで、蜂の能力を備えた
ベスティオイドに改造されるのだ。」

100 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:44:47 ID:6st48GJv]
戦闘員が、わたしの両腕に注射針のようなものを突き立てた。そこから、得体の知れない
液体がわたしの体内へと注ぎ込まれる。むず痒いような不快感がわたしの全身を襲った。
「う…ああっ…あ、あ、ああ…」
「遺伝子活性化光線、照射!」
わたしの身体に覆いかぶさるように、手術台の無影灯のようなものが降りてきた。色とり
どりの明かりが明滅し、わたしの身体を包んでゆく。キラキラしたものがわたしの周囲を
舞っているかのように感じられ、目の前がかすんで何も見えなくなった。全身を襲う不快
感は、次第に充実した幸福感へと変わっていった。
「あ…あ…ああ…気持ち…いい…」
そして、わたしの意識はそこで途切れた。

「さあ、目覚めるがいい、蜂女第2号よ。」ミスターQの声に、わたしは目を覚ました。
わたしは急いで自分の身体を確かめた。濃いブルーの皮膚、蜂の腹部のような蠕動する乳
房。美緒と同じ姿だ。「これが…わたし…?」
「お前は工作要員だった蜂女第1号よりも、より戦闘向けにチューニングしてある。カイ
ゼリオンと比べても、戦闘能力に遜色はないはずだ。」
「…ありがとう。必ず、この身体でカイゼリオンを倒してみせるわ。」
「それは頼もしい。だが忘れてはいかんよ。君はもう、“ズゥ”の改造人間ベスティオイ
ドだ。“ズゥ”に逆らうことはできん。カイゼリオンを倒した後は、一生我々のために働
いてもらうよ。」
「いいわ。妹の仇を討ったら、あとはどうなろうと構わないから…」
「結構、結構。それじゃあ、君に憎っくきカイゼリオンのことを教えてあげよう。灼光戦
士カイゼリオンの正体は、矢作(やはぎ)瞬、16歳の高校生だ。半年前、未来から送られて
きたカイザーディスクに偶然触れ、カイゼリオンに変身する力を身につけた。それと同時
に、未来社会を支配する我々“ズゥ”を壊滅させて歴史を変えるという、馬鹿げた使命を
与えられたというわけだ。フン。未来の愚かなエンジニアたちの、悪あがきというわけだ
よ。」
「…わかった。じゃあ、その矢作瞬とやらは、どこにいるの?」

101 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:45:46 ID:6st48GJv]
カイゼリオン=矢作瞬は、都内のアパートで妹と二人暮しだった。私たち姉妹と同様、両
親を幼い頃に亡くしていたからだ。親の資産が充分あったのか、親戚の援助があるのか、
働くこともなく1つ年下の妹とともに高校に通っている。
わたしは正攻法でゆくことにした。妹を拉致し、人質にしてカイゼリオンをおびき寄せる。
下校する妹=矢作恭子を確認すると、わたしは彼女の前に歩み出た。目の大きい、小柄で
可愛らしい少女だった。
「矢作…恭子さんね?」「そうですけど…何か?」
恭子は明らかに不審そうにしている。それはそうだろう。季節は夏だったが、わたしは大
きなコートを羽織っていた。何しろわたしの身体は蜂女なのだ。人目にさらすわけにはい
かない。
「ちょっと、わたしと一緒に来てもらうわ。」
わたしはそう言って、乳首から麻酔針を素早く打ち出した。恭子はハッ! と一瞬目を見開
いたが、そのまま力なく倒れていった。わたしは彼女の身体を抱き留め、そばに待ち構え
ていた戦闘員の車に運び入れた。事はあっけないほどうまく運んだ。“ズゥ”がなぜ今ま
でこれをしなかったのか、不思議になるくらいだ。
戦闘員のひとりに、矢作瞬のアパートに伝言を残してくるよう命じると、わたしと他の戦
闘員はかつて美緒がカイゼリオンと闘って破れた、港第3倉庫へと車を走らせた。決戦の
地として、そこ以外の場所は考えられなかった。
矢作恭子の身体を倉庫の屋上に立てられた十字架に縛り上げ、目隠しをさせ、その身体に
超振動フォノン爆弾をくくり付けた。これは、わたしが破れそうになった時の最後の手段
だ。
戦闘員たちを配置し、準備をすべて整えた。時刻は午後10時。カイゼリオンに指定した時
刻は午前0時だ。
十字架に縛られていた恭子が、息を吹き返した。「ここは…どこ!?」キョロキョロと首を
振る。目隠しされているので不安なのだろう。
「安心なさい。カイゼリオンを無事倒せたら、あなたは解放してあげるわ。」
「え…お兄ちゃん? …お兄ちゃん! 来ちゃだめ!! 来ちゃだめよ!!」

102 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:46:46 ID:6st48GJv]
約束の午前0時に、矢作瞬は現れた。思ったよりも小柄な少年だ。「妹を…返せ!」
「返してあげるわ。あなたが、わたしと闘うならば!」
わたしはコートを脱ぎ捨てて、蜂女の姿をさらした。ヘルメットを被り、戦闘態勢を取る。
「かかれ、戦闘員たち!」
矢作瞬は、小さなディスクをかかげて腕を大きく回しながら叫んだ。
「カイザーッ!アクセス!!」
閃光がきらめき、瞬の姿は銀色の戦士・カイゼリオンへと変貌した。
わたしは羽根を広げてジャンプし、カイゼリオン目がけて針を撃ち出した。
「スティンガー・ニードル!!」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「…妹だって!?」カイゼリオンが驚いたように叫んだ。
「そうよ。わたしの妹は、わたしの可愛い美緒は、2日前あなたに殺された。いい子だっ
たのに! 何もしていないのに! あなたが、あなたが殺したのよ!!」
わたしはカイゼリオンに飛びかかり、背中に回って首を絞め上げた。
「違う! 俺は“ズゥ”のベスティオイドを倒しただけだ! 悪の手先を倒しただけなんだ!」
「わたしの妹が悪だっていうの!? 操られていただけなのよ! ほんとは、優しいいい子だっ
たのよ。なのにどうして! 殺されなければならなかったの!! 命で償わなければならないよ
うなことを、あの子がしたって言うの!?」
「だから、悪いのは“ズゥ”なんだ。“ズゥ”の手先なら、俺は闘わなけりゃいけないん
だ!」
「そう? それであなたは正義の味方ってわけ? 正義の味方なら、何もしてない者を殺して
もいいって言うわけ!? そんな正義の味方、わたしは認めない! 妹を殺して守れる正義なん
か、わたしは欲しくない!!」
カイゼリオンは明らかに動揺していた。わたしはカイゼリオンの首を閉めながら、カイゼ
リオンの脇腹に手を当てた。アーマーの継ぎ目を狙って、スティンガー・ニードルを撃ち
出した。
「ぐわあああああッ!!」

103 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:48:55 ID:lC3F3Rlp]
「妹が味わった苦痛は、こんなものではないわ。さあ、もっと苦しみなさい。」
わたしはスティンガー・ニードルを二発、三発とカイゼリオンの身体に撃ち込んだ。
カイゼリオンは激痛に身をよじらせたが、急に大声で叫んだ。「カイザーッ!シャイン!!」
とたんにカイゼリオンの身体がまばゆい光で覆われた。不意をつかれて、一瞬、わたしの
腕の力が緩んだ。その隙を見逃さず、カイゼリオンは背負い投げの要領でわたしを投げ飛
ばした。「キャアアッ!」
「カイザーッ! ブレイド!」カイゼリオンが右手を高く掲げると、光の剣が出現した。
「蜂女! 確かに俺はお前の妹を殺してしまったかも知れない。お前たち姉妹を不幸にして
しまったかも知れない。だけど、そうしなきゃもっと沢山の人間が不幸になったに違いない
んだ! 未来世界では、“ズゥ”の支配下に置かれて多くの人々が苦しんでいるんだ! だか
ら俺は、闘い続けなきゃならない! 俺にはすべての人が幸せになれるベストの選択肢を選
ぶことはできないけど、俺にできる限りのベターな道を選ぶしかないんだ。わかってくれ!!」
「わからない!! そんなこと!!」
「この…わからずやァッツ!!」カイゼリオンは剣を振りかざし、わたし目がけて突進してき
た。わたしは反射的に両手を前に突き出し、ステインガー・ニードルを連続で撃ち出した。
カイゼリオンは、12発のスティンガー・ニードルをすべて剣でなぎ払い、わたしの前で剣
を一閃した。
「ギャアアアアアアッツ!!」わたしの脇腹が裂け、青い血が吹き出した。
わたしは傷を押さえながら、力を振り絞って倉庫の屋上の十字架まで飛んだ。矢作恭子の
目隠しを取り、カイゼリオンに向かって叫んだ。
「聞け! カイゼリオン! お前の妹には、フォノン爆弾をくくりつけてある。これ以上抵
抗したら、妹の命は保証できないわ!」
カイゼリオンの動きが止まった。わたしは後を続けた。「そのままおとなしく、わたしの
スティンガー・ニードルを受けなさい。あなたが死んだら、妹は逃がしてあげる。約束す
るわ。でもあなたがちょっとでも妙なそぶりを見せたら、妹の命は保証できない!」

104 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:49:46 ID:lC3F3Rlp]
カイゼリオンの右手の剣が消えた。両手を横に広げ、わたしの攻撃をおとなしく受ける姿
勢を取った。「…お、お兄ちゃん!?」
「覚悟ができたようね。さあ、食らいなさい! これがわたしの妹の受けた痛みよ!!」
わたしは、スティンガー・ニードルを次々とカイゼリオンの関節目がけて撃ち込んだ。
ブスッ! ブスッ! 「グワッ!!」「お兄ちゃんッ!!」
カイゼリオンのアーマーの継ぎ目から、赤い血がにじみ出た。まだだ。まだまだだ。美緒
の受けた苦しみは、こんなものではない。
その時、十字架に縛られた矢作恭子が、大声で叫んだ。
「お兄ちゃん! 闘って! お兄ちゃんが闘わないと、みんなが不幸になるのよ! わたしの
ことなら構わないで! もう、これ以上足手まといにはならないから。さよなら…お兄ちゃ
ん。みんなを幸せにしてね…。」
わたしはハッとなった。舌を噛み切るつもりなのだ。わたしは急いで恭子の頬に平手打ち
した。「キャッ!」恭子は気を失った。
わたしは、恭子の身体からフォノン爆弾を外し、自分の身体にくくりつけた。
…なんということだろう。さっきの恭子の言葉に、憎い仇の妹の言葉に、わたしは美緒の
面影を感じていたのだ。
わたしは、満身創痍のカイゼリオンに向かって叫んだ。
「カイゼリオン! お前の妹を殺すことは、わたしにはできない! だから、わたしはお前と
心中する!!」
わたしはフォノン爆弾を抱き、信管を外すとカイゼリオン目がけて突進した。
「カイザーッツ!! スピィーーーンンッッ!!」
最後の力を振り絞り、カイゼリオンは自分の身体を高速回転させた。わたしの身体はその
回転に弾かれ、宙に舞った。
フォノン爆弾が炸裂する瞬間、わたしは、美緒の幻を見た。
《…お姉ちゃん。わたしがヘアデザイナーになったら、お姉ちゃんがお客さま第1号だよ。》
《…お姉ちゃん。いつもわたしのために遅くまでお仕事ありがとう。》
《…お姉ちゃん。わたしは世界でいちばん、お姉ちゃんのことが大好きだよ。》
わたしの頬を涙が伝った。そして、わたしの身体はまばゆい光に包まれた。

105 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/05 02:50:46 ID:lC3F3Rlp]
空高くフォノン爆弾が炸裂し、悲しき蜂女の復讐は終わりを告げた。
だが、蜂女の言葉は身体の傷以上に、矢作瞬の心に大きな傷跡を残した。
《俺の闘いは、本当に正義だと言えるんだろうか? 犠牲者の上にしか成り立たない正義な
んて、
“ズゥ”の連中がやってることと大差ないんじゃないか? 誰か教えてくれ! 正義っていっ
たい、何なんだ!? 俺の闘いの意味は、いったい何なんだ!?》
いくら逡巡を続けても、答は出てこなかった。ふと我に返った瞬は、妹・恭子をすっかり
忘れていたことに気付いた。「すまん恭子ッ! 今縄をほどいてやるぞ!」
だが十字架の上に、矢作恭子の姿はなかった。あわてて周囲を見回したが、恭子の姿はど
こにも無い。
「恭子!? どこだ!? どこにいったんだ! 恭子ォーーーッ!!」

“ズゥ”の地下アジトにある改造手術台。その上に、矢作恭子の身体は固定されていた。
「…やめて! 放して!! お願い!!」
ミスターQが、無気味な笑みを浮かべた。
「蜂女は役に立たなかったか。まあいいだろう。おかげでカイゼリオンの思わぬ弱点を知
ることができた。この妹こそ、カイゼリオンにとってのアキレス腱だ。今から役に立って
もらうことにしよう。科学者たちよ! この娘を蜂女第3号に改造せよ。対カイゼリオンの
秘密兵器に仕立てあげるのだ!!」
「いや、いやよ、改造人間なんていや! 助けて! お願い!」
「改造手術、開始!」
手術台に縛られてガタガタ震えている恭子に、遺伝子活性化光線が照射される。
「いやだ! いやッ! やめて! やめてェーーッ! イヤだァーーーーッッッツ!!」
                                 (おわり)



106 名前:名無しより愛をこめて [04/11/05 07:26:02 ID:RKM6CXFs]
      ☆ チン        マチクタビレタ-

☆ チン  〃 ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ヽ ___\(\・∀・)< PRIMEさん、朝寝坊悪女、天野早苗タンの改造 マダー?
    \_/⊂ ⊂_)_ \_________________________
  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/|
  |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄:|  |
  |  改造手術台   .|/

107 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/05 11:29:41 ID:vSkbZXI1]
す、凄い文字数だ。

108 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/05 11:33:24 ID:g4BZjONL]
>>107
前スレ読んでみ。もっと驚くからw
artofspirit.hp.infoseek.co.jp/threadlog.html

109 名前:名無しより愛をこめて mailto:age [04/11/06 01:41:34 ID:MpfEZ9tB]
>>106
早苗ちゃんって悪女かなあ。啓介や千鶴ちゃんをだしに使うちょっとちゃっかりした女の子程度の認識しか俺にはないけどね。

110 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/06 15:56:48 ID:qRFpjdIi]
>>109
女はみんな魔物なのだよ。

111 名前:PRIME mailto:age [04/11/07 01:48:37 ID:rOS5TR5Q]
>>BeeFreakさん
新しいSS読ませていただきました。コミック版仮面ライダーXの「サソリジェロニモの逆襲」に話が似ているなって言うのが読んだ直後の感想です。
さて今回のヒロイン梨緒ですが、個人的には感情移入できませんでした。妹を殺された悲しみはわかるとしてその妹を殺したヒーローを逆恨みして妹を改造した悪の組織に自ら魂を売るとは…。
妹を改造した悪の組織に殴り込みをかけたところを捕まって洗脳されて改造されたのならまだわかりますが、自ら悪魔に魂を売った時点で彼女の運命はもう決まっていたのですね。
ただヒーローの妹を殺さなかった(殺せなかった)ということはわずかに彼女に良心が残っていたのでしょうか?
そしてヒロインの妹の改造シーンでの物語の終了。この後どうなるのかと色々想像してしまいます。
個人的にはこの後の続きが見たい一作です。
色々生意気言ってすみません。

112 名前:PRIME mailto:age [04/11/07 01:50:00 ID:rOS5TR5Q]
>ヒロインの妹の改造シーンでの物語の終了。

あれはヒーローの妹の改造シーンでの幕切れの間違いです。すみません。


113 名前:名無しより愛をこめて [04/11/07 02:34:18 ID:HPyT/mCd]
=======================================
       ★コテハンの皆様へ★

まだ<ex7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1099759026/
に書き込んでいないコテハンさんは、いますぐカキコしてください。

・いつもいる板
・自己紹介
・そのほかなにかあれば

2chのすべてのコテハンを集める壮大なプロジェクトです。ご協力お願い致します。
※なお、これを機にVIPに棲みつくのはご遠慮いただきたく思います。
=======================================

114 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/07 04:07:34 ID:CbrlXlFx]
>>111
PRIME 様
SSの感想、さっそくありがとうございました。
感想をいただけるとは思っていなかっただけに、嬉しいです。
サソリジェロニモに限らず、怪人の家族がヒーローに復讐する話ってよくありますよね。
あれの女の子バージョンを書いてみたわけです。

さて、自ら悪魔に魂を売ったヒロインに共感できないとのことですが、私は梨緒ちゃんに
はこの選択肢しか無かったと思っています。
と言うのは、第一に、梨緒と美緒の姉妹は自分たちの力だけで苦労して生きてきたので、
梨緒ちゃんの性格は口先だけの甘言や理想論を信じない、本当に自分たちの力になってく
れるものだけを信じる、自分の目で見たものしか信じないという、極めて現実主義的なも
のになっています。
その梨緒ちゃんが、妹が改造されたところは自分の目では見ておらず、ヒーローに殺され
るところは実際にその目で見てしまったわけです。もともと正義と悪の闘いなどの認識が
無かった梨緒ちゃんにとっては、妹が改造されてしまったことはいわば「天災」みたいな
もので、妹を殺したヒーローこそ、自分たちの敵であるという認識になっているのです。

それに、蜂女に改造された時点で、妹の美緒ちゃんの意識は完全に“ズゥ”側のものにな
っています。美緒ちゃんは、お姉ちゃんと一緒に生きられない身体になってしまったこと
は姉に対しすまないし恥ずかしいことだと思っていますが、蜂女に改造されたこと自体は
別に恨んでいないし、むしろ改造してもらえたことを“ズゥ”に感謝しています。
私の文章力が無いので、そのあたりはうまく伝わっていないのだと思いますが。
ですから、妹と強いシンパシーの関係にあった梨緒ちゃんにとっては、妹に出会った時点
で『“ズゥ”=妹の仲間、“カイゼリオン”=妹と自分を引き裂く悪魔』という認識が出
来上がってしまっているのです。
だから「悪魔に魂を売った」という表現は、梨緒ちゃんにとっては心外なものでしょう。

115 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/07 04:09:03 ID:CbrlXlFx]
梨緒ちゃんがヒーローの妹を殺さなかったことですが、もともと梨緒ちゃんは恭子ちゃん
を殺すつもりは毛頭ありませんでしたよ。ヒーローを苦しめるために利用しようとは思っ
ていましたが、彼女を苦しめるつもりはありませんでした。
だから、ヒーローを苦しめることが彼女を苦しめることになるのだと気付いて、彼女は恭
子ちゃんを利用することはやめ、ヒーローとの心中を選んだわけです。
だから、別に「彼女の心の中に一片の良心が残っていた」とかそんなじゃなくて、蜂女に
改造されても梨緒ちゃんは、ずっといい子だったわけです。

ラスト、ヒーローの妹が蜂女に改造されてしまったわけですが、この恭子ちゃんも美緒ち
ゃんと同様、改造されると同時に洗脳され、“ズゥ”側の人間になってしまいます。
つまり、兄=ヒーローを愛しているし大事に思っていることに変わりはないのですが、兄
のしていることは間違っている、何とかして兄の考えを変え、“ズゥ”の邪魔をさせない
ように仕向けなければならない、という価値観に、骨の髄まで染められてしまっています。
彼女は改造されたことを隠して、兄の元に返されますが、その後はヒーローの活動を邪魔
するために暗躍します。そして正体が兄にバレた後は、命に代えても兄の行動を止めよう
と積極的にヒーローの妨害をするようになります。
もちろん、ヒーローはいくら改造されてしまったとはいえ、健気な妹を殺してしまうこと
ができず、苦悩することになります。
しかし、一度改造されてしまった者は、もう二度と元には戻れません。たぶん恭子ちゃん
はシャドームーンのように、兄に殺されるラストを迎えることになるのでしょう。恭子ち
ゃんは兄の行動を止められなかった自分の不甲斐なさを呪いつつ、“ズゥ”万歳!と叫ん
で死ぬのでしょうね。

PRIMEさんには、どうしようもなく不条理に感じられるかも知れませんが、私は正義のヒ
ーローの闘いとは、それくらい悲痛で孤独なものなのだと思います。

自分の作品について言い訳をするのは恥ずかしいことですね。
スレ汚しになって申し訳ありませんでした。
PRIMEさんの「ローズジャマー」編、いよいよ盛り上がりですね。期待いたしております。



116 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/07 07:56:41 ID:/Li7/rYG]
「萌える改造シーンとかありますか?」
salami.2ch.net/sfx/kako/988/988109260.html

117 名前:名無しより愛をこめて mailto:age [04/11/07 23:41:46 ID:ogzHCSZy]
コミック版仮面ライダーXの「サソリジェロニモの逆襲」って何?

118 名前:PRIME mailto:age [04/11/08 02:21:15 ID:NX3UDX4/]
>>BeeFreakさん
自分のくだらない書き込みに真摯なレスをしてくださりありがとうございます。
同時に私の書き込みでもし気分を害されたのなら申し訳ございません。あなたのSSを一読した後直感的に感じたことを書き込んだものなのであまり深く考えないで下さい。
こうやって見ると私のSSなんて奇麗事ばかり並べた上滑りなものですね。現実の戦いは明るくかっこいいものではありません。戦いにあるのは残酷な現実とそしてあらゆるものの破壊。
どうやら私はもっと修行すべきですね。今のSSを書き終えたら少し修行しようと思います。

後前スレの母親改造ですが、自分はモデルとして新潟地震で車に閉じ込められた母親と男の子を推薦します。
不謹慎な話で恐縮ですが、あのニュースを聞いたとき直感的にモデルにふさわしいと思ったもので…。

119 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/08 13:09:58 ID:6GJDTSYd]
文体は丁寧だが最低のサイコ野朗だ
ヘドが出る

120 名前:名無しより愛をこめて [04/11/08 18:11:28 ID:YsPwEi7K]
>>118
最後の2行は余計だったな。
あんたのこと大嫌いになったよ。

121 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/08 23:06:05 ID:wSomSPZL]
>>118
“ああいう”命がけの母性を発揮した親を改造するというシチュエーションは考えただけでドキドキしますが、
事件の印象からしてまだ日が浅すぎます、もうちょい待ってから使ったほうがいいネタかと。

122 名前:PRIME mailto:age [04/11/08 23:13:31 ID:LLwToC+V]
>>119さん
>>120さん

不愉快な思いをさせて申し訳ございません。確かに死んだ人をネタにするなんて軽率でした。
死んだ女性やその坊やにも、そしてこのスレを見ておられるすべての人々にも申し訳ないことをしたと思います。
何の罪もなく死んだ人を冒涜することは決して許されないことです。
自分はそんなつもりはなくても結果的に死者を冒涜した私がどう罵られようと返す言葉がありません。
この件に関しては自分も何らかのけじめをつけないといけません。
丸投げと批判される事覚悟で言わせてもらえば、まずは謹慎して皆さんからの沙汰を待ちます。そしてどんな処分も甘んじて受けるつもりです。
謝ってすむ問題ではありませんが重ねてお詫びします。どうもすみませんでした。


123 名前:名無しより愛をこめて mailto:age [04/11/09 11:56:35 ID:oOeEQR2i]
まあPRIME氏の処分はここのスレ主であるBeeFreak氏に決めてもらうのが一番じゃないかな?
俺はBeeFreak氏に全部任せる。

124 名前:名無しより愛をこめて [04/11/09 13:02:02 ID:wcxzmTuT]
123=PRIMEなことがバレバレなわけだが


125 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/09 13:03:17 ID:BlQspRIa]
>>123
ここってBeeFreak氏マンセースレだったの?
じゃあ情報交換したいだけの俺は去るわ。



126 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/09 13:15:20 ID:Y6IP5xS/]
>>125
お前、何か情報持ってたっけ?

127 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/09 13:50:54 ID:BlQspRIa]
>>126
お前みたいにクレクレいってるだけの人生も楽しそうだな。
うらやましい。

128 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/10 00:27:32 ID:heSoR+YZ]
うーん。漏れはただスレが新たに必要になったので立てただけで、スレ主なんてことは
ないと思っているのですが…。
スレ主無しに、みんなでスレを盛り上げてゆくのがベストだと思います。

で、PRIMEさんなのですが、このスレのような妄想の世界に、現実の悲劇を持ち込んで
しまったのは確かに軽率で思慮が足りなかったと思うのですが、別に悪気があってした
わけじゃないし、本人も反省しておられるようなので、漏れとしてはしばらく謹慎され
て(ひと月くらい?)、ROMに徹されれればよろしいのではないかと思います。
それでも許せない、という方もおられるかも知れませんが、PRIMEさんがいなければこ
のスレがこんなに続くことはなかったと思うので、その功績に免じて勘弁してあげてい
ただけないかとお願いいたします。

PRIMEさんも謹慎されている間に、どうかSSの続きを書き溜めておいて下さい。
小出しにされて他のレスにまぎれてしまうより、一気に吐き出された方が読む方も楽だ
し、スレもすっきりすると思います。
で、もうこのスレには書き込みたくない、でもSSの続きだけは発表したい、ということ
であれば、漏れのところ(wild_fire@infoseek.jp)にメールしていただければ、ま
とめサイトの方に転載させていただきます。

とりあえず、後で角が立たないように皆でうまく融通し合って、このスレを維持しまし
ょう。
甘いことを言ってるようですが、あくまで個人的意見です。
他の方のご意見も聴かせていただければと思います。

129 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/10 07:34:19 ID:z01C2kqA]
過去ログ発掘。下の過去ログの223と244に、悪の組織に誘拐されて
凄まじい性の快楽のなかで改造されてゆく処女のSSがあるよん。

「女仮面ライダーは実現不可ですか」
salami.2ch.net/sfx/kako/990/990672891.html

130 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/10 16:33:40 ID:tEAxz7J5]
改造人間ものじゃないけど、美少女強制機械化改造ものの基本サイト貼っとくね。

人形姫
ttp://dollprinses.at.infoseek.co.jp/
機械化淑女プロジェクト
ttp://cool.nasite.net/~mlp/
妄想ドカン
ttp://cone.sakuratan.com/dokan/

131 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/10 16:39:41 ID:XeTT7Z1m]
節操の無い奴がいるな。蜂娘祭に書いてたかと思うと今度は蜂女の館か・・・

132 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/10 17:34:21 ID:MeUZd88q]
この場合の節操って何?

133 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/10 19:29:37 ID:w9xeXj7U]
また蜂娘祭関係者か
どこに投稿しようが勝手だろうが
バカジャネーノ


134 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/11 00:11:46 ID:Py8OUJrZ]
>>PRIME 様。
まる一日経ちましたが、異論が出ないようなので、PRIME様の沙汰につきましては
スレ民の皆さまも「しばらくのご謹慎」ということで納得されたものと存じます。
しばらく寂しくなりますが、充分に英気を養って、再び復活されますことを期待
しております。

>>131-133
今回「蜂女の館」に、「蜂娘祭」ほかでもご活躍の舞方雅人氏のSSを掲載させて
いただきましたが、別に舞方さんは「蜂娘祭」の専属でも何でもないので、どこに
作品を発表されても構わないと思いますよ。
今回「蜂女の館」での掲載となったのは、人妻が主人公なので「蜂娘祭」での掲載
が難しいものと判断なされたからです。2ちゃん本スレから生まれた「蜂女の館」は、
前スレが“母親改造”で盛り上がったのを見てもわかる通り、改造されるのにの年齢
制限を設けていませんからw。「蜂娘祭」よりも受け入れやすかったのです。
なお「蜂女の館」でのSS掲載は、広く募集することにしましたので、どなたでも
ご参加いただければと思います。よろしくお願いいたします。

135 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/11 01:01:51 ID:gXAwDGTw]
>>119
>サイコ野朗

どうやったら「野郎」を「野朗」に変換できるのかい(笑)



136 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/11 10:05:42 ID:UwDnoxfg]
揚げ足取り乙

137 名前:名無しより愛をこめて [04/11/11 12:12:40 ID:1x/eldBZ]
age

138 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/11 15:47:36 ID:UJKpbAD6]
名無しで書き込む事を謹慎とはいわない。

139 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/12 09:58:08 ID:hj93DE/B]
オニャノコ改造の、上限年齢と下限年齢について、おまいらの意見を聞かせていただきたい。

140 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/12 10:03:54 ID:CGff0a2K]
>>135
野朗でぐぐると結構出るね
PRIMEさん

141 名前:名無しより愛をこめて [04/11/12 17:31:21 ID:1rW46ptr]
下限22歳上限28歳。もちろん素体によって違うが。

142 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/12 17:59:52 ID:z4Nd1L5V]
上限39歳下限10歳(ただし10〜18歳までは戦闘員のみ可)


職人様方、戦闘員化処理(あえて改造でなくて)もっと書いて〜書いて〜。

143 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/12 18:04:51 ID:KmyZtthS]
3〜40

144 名前:名無しより愛をこめて mailto:sage [04/11/12 19:31:30 ID:Sog44fiv]
提案なんだけど、皆で理想の改造素体と、女怪人のアイデアを出しあって、
それで職人さんにSS書いてもらうってのはどう?

145 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:13:02 ID:UQWXELTN]
BeeFreakです。また新たなSSを書いてしまいました。
今回は何と、ゴシックホラー仕立てです。謎の館に迷いこんだ8人の男女が、次々と罠に
かけられてゆきます。でもなかなか思うように怖くなってくれませんでした。
今回、秘密結社メギドによって蜂女に改造されるのは、朝倉咲也ちゃん19歳、葉月るみち
ゃん19歳、川瀬綾奈ちゃん18歳、それに西澤裕美子ちゃん21歳の、女子大生4人です。
なお、登場する館の構造がわからないと楽しみが減ると思いますので、間取り図を作って
おきました。(↓)をご参照下さい。
artofspirit.hp.infoseek.co.jp/madori.gif

またも長文のSSで申し訳ありません。しかも、なかなか改造手術が始まらないのでやきも
きされる方もいらっしゃるかも知れませんが、どうかお許し下さい。
漏れは特にリクエストがないと、こういうふうに毛色の変わったものを書き始めてしまい
ます。正統派の美少女改造ものがお好みの方は、リクエストを下さるとありがたいです。
それでは。ゆっくりお楽しみ下さい。



146 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:14:03 ID:UQWXELTN]
突然の嵐だった。
それまで雲ひとつなかった空が、何の前ぶれもなく闇に包まれた。そして轟雷とともに、
激しい驟雨が襲ってきた。
海水浴を楽しんでいた8人の男女は追われるようにして、高台にある館めがけて必死で駆
け上がった。激しい水しぶきで、足元すら見えないような凄まじい雨だ。ほうほうのてい
で館の玄関に辿りつき、玄関前に張り出した幌の下に非難した8人は、肩で息をしながら
もようやく人心地をつけることができた。
「全員そろってるか!?」アロハシャツを着た石倉翔吾が、素早くメンバーの数を確認した。
大学ではヨット部に所属する体格のいいスポーツマンで、“大将”とあだ名される、この
メンバーのリーダー格である。「とりあえず、ここで雨宿りさせてもらおう。」
「畜生! 何が《雨の確率10%》だよ。」大きなビーチパラソルで女の子たちをかくまいな
がら走ってきた、長身の元木夏彦が悪態をつく。ワイルドで大ざっぱな性格だが責任感の
強い男だ。さすがのビーチパラソルもこの豪雨の中全力で走ったため、骨が何箇所か折れ
てひしゃげてしまっている。
「咲也ちゃん、これありがと。」パーカーをはおる暇もなくビキニのままで走ってきた西
澤裕美子が、被ってきたビーチマットを朝倉咲也に手渡した。裕美子ははちきれそうなボ
ディの大人びた美女で、面倒見のいい性格のためみんなから“ママちゃん”と呼ばれてい
る。元木夏彦とは恋人同士だ。一方の朝倉咲也は“姫”とあだ名される、一流国立大に通
う知的美人。ドラえもんのごとく、彼女のバッグに入っていないものはおよそ無いと言わ
れるほど、何事にも用意が良くそつがないのが彼女の長所だ。赤いサマードレスをぐっし
ょりと濡らした咲也は、日傘の水を切りながら裕美子に向かって答えた。「ね、ゆみちゃ
ん、みんなの荷物を一箇所に固めて、そのマットで守ってくれない?」
荷物といっても大したものはない。みんな軽装だった。男女別に2台の車に便乗してきた
彼らは、着替えやほとんどの荷物を車に残したまま海岸に出てきたからだ。

147 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:15:03 ID:UQWXELTN]
クシュン! 最年少の大学1年コンビのひとり、葉月るみがくしゃみをした。裕美子と同じ
く上衣を取り出す暇がなく、ワンピースの水着にタオルのみの姿だ。くったくの無い明る
い性格で、みんなの妹分として可愛がられている存在である。コンビのもう一方、水着の
上から花柄のペアワンピースを着た川瀬綾奈が心配そうに彼女の背中をさする。大人しい
眼鏡の少女で、幼なじみのるみにいつもくっついて行動している。内向的な彼女がこのグ
ループの中にいるのも、るみに強引に引っ張られたためだ。
「…このままじゃみんな風邪をひいてしまうな。早く身体を乾かさないと。」身体を拭い
たタオルを絞りながら、藤原和樹が心配そうにつぶやいた。彼は咲也に負けないインテリ
で頭も切れるが、人当たりのいい男だ。名前の“和樹”が“わき”と読めるため、子供の
ころから“ワッキー”や“ワッケイン”とあだ名されているが、今は“ワクさん”と皆に
呼ばれている。
「…もう少し小やみになったら、俺が走って車を取ってくるよ。こんなとこに連れて来た
責任があるからな。」相良遼一が皆に向かってすまなさそうに言った。口数は少ないが、
時折り鋭いことを言い、また突拍子も無いことをしでかす男だ。夏彦や和樹が荷物からT
シャツを取り出してはおろうとしているのに、彼は海パン一枚で荷物すら持っていない。
遼一はこのグループ旅行の企画人であり、一同が現在滞在しているのは、彼の母方の祖父
の家だった。極度のおばあちゃんっ子であることが昨夜みんなにバレてしまい、それ以来
皆からずっとからかわれている。
「別にお前のせいじゃない。無理するな。」翔吾がフォローを入れた。雨はますます強く
なる一方だ。500メートルほど離れた場所に停めた車になど、とてもたどり着ける状態で
はない。浜辺を自由に使えるのをいいことに、車からあまりにも離れ過ぎたのだ。

148 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:16:04 ID:UQWXELTN]
大学も学部もバラバラのこの8人は、彼らの住む市が昨年秋に主催した、国際文化交流フ
ェスティバルのボランティアで知り合った仲だ。海外から招かれた芸術家と共に合宿しな
がら、地域住民とともに巨大な作品を作るというこのイベントは、参加ボランティアたち
の距離を一気に縮めてくれた。すっかり意気投合した8人はそれからも時々、こうして休
日を一緒に楽しんでいる。
今年の夏、彼らは遼一の母方の実家近くにあるという穴場海水浴場を目指して、2泊3日
の日程で遊びにやって来た。この「舞ヶ浜海水浴場」は、バブル時代には周囲にペンショ
ンが幾つも建ち並ぶほどに繁盛したらしいが、都会からの交通が不便なため現在は寂れて
しまった場所だ。追い打ちをかけるように、今年6月の豪雨災害で途中の県道が通行不能
となり、観光客はすっかり途絶えてしまった。それでも設備が整った隣の海水浴場にはま
だ客の姿もあるのだが、シャワーや更衣室の設備がないこの浜辺は、彼ら8人のプライベ
ートビーチと言っても良い状態だった。
そのプライベートビーチで、彼らは真夏のひとときを満喫していた。突然の豪雨が彼らを
襲った、つい数分前までは。
グワーン!! バリバリッ!耳をつんざく轟音が周囲に響いた。「キャアッ!!」るみと綾奈が耳
を押さえてうずくまった。すぐ近くに雷が落ちたらしい。
「やべぇ。どんどん暗くなってきやがった。」夏彦がいまいましそうに言った。
「ちょっと!? いくら何でも暗過ぎやしない? まだ4時前なのに、まるで日が暮れた後みた
いじゃない!?」
咲也の指摘通り、周囲は5メートル先も見えないくらい真っ暗だ。雷はひっきり無しに鳴
り響き、8人はますます心細くなってきた。

149 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:17:04 ID:UQWXELTN]
館の入り口にもたれていた綾奈が、急に叫んだ。「あの、この扉、開いてますよ!」
皆は一斉に彼女の方を見た。綾奈がドアの取っ手をひねると、ギギーと音がして、重い扉
が内側に向かって開いてゆく。だが、中は真っ暗で何も見えない。
「…ねえ。中でちょっと休ませてもらわない? このままじゃみんな風邪ひいちゃうわ。」
裕美子が提案した。一同は、思わず顔を見合わせた。
彼らが雨宿りしているのは、海水浴場を見下ろす高台の上に立つ、瀟洒な洋館だ。どうや
らバブル時代に建てられその後廃業した、ペンションのひとつであるらしい。かなりがっ
しりと作られた本格的な洋館で、扉の造作ひとつとっても物々しい。その荘重な雰囲気と、
内部の暗さのために、彼らには中に入ることが躊躇われたのだ。だがこのままでは、らち
があかないことも事実だ。
「とりあえず、身体が乾くまで中に入りましょうよ。」裕美子が皆をせっつく。
「勝手に中に入ったら、家宅侵入罪になるんじゃないのか?」夏彦が不安そうに訊ねる。
「厳密に言えばそうなんだが、俺たちもこんな状態だからな。緊急避難で大目に見てもら
えると思うよ。」和樹が自身無さそうに答えた。
「悩んでいても仕方が無い。しばらく休ませてもらおう。」翔吾が結論を下した。
「ごめん下さーい! ちょっと失礼しまーす!」
こうして、彼ら8人はこの洋館の中へと、足を踏み入れた。それが、巧妙に仕組まれた悪
魔の罠であることに気付かないまま。

150 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:18:03 ID:UQWXELTN]
全員が館の中に入ったとたん、ギーッ、バタン! という音とともに、扉が勢いよく閉まっ
た。周囲は完全な闇に包まれた。
「キャッ!」るみと綾奈が悲鳴を上げた。他の者も、驚きのあまり思わず息を飲んだ。裕
美子は綾奈たちの方に駆け寄った。「大丈夫よ。ドアが閉まっただけだから。」
咲也が急いで携帯を取り出し、バックライトでドアノブを照らした。夏彦が取っ手を掴ん
で押し下げようとした。だが取っ手は堅く、びくともしない。
「おい! 開かないぞ! どうやら閉じ込められたらしい!」
「古い建物で、鍵が錆びてるんじゃないか?」
「わからん。ともかく出られそうにないんだ!」
夏彦は必死でドアを蹴り、取っ手を渾身の力で押し下げる。一同は心の中に不安が這い上
がってくるのを感じた。ドアの向こう側ではまだ嵐が荒れ狂っているらしく、窓をガタガ
タ鳴らす音だけが響いてくる。
と。突然、周囲が明るくなった。
「!」不意を突かれて、一同は目を丸くした。見ると遼一が、電灯のスイッチをひねった
らしい。
「電灯、生きてるぜ。」
「…どういうことだ? このペンション、廃屋じゃなかったのか?」和樹が首をひねった。
「ねえ! 見てこのシャンデリア!」
咲也が目を輝かせて、ホールの中央目がけて駆け出した。
「ドーム工房のデザインよ。それにこの、アール・ヌーヴォー風の階段の手すり。純ヴィ
クトリア調の仕上げじゃない! このラダーバックの椅子はマッキントッシュよ。すごい
わ!」デザイン学を志している咲也は、喜びを押さえられないといった表情でホールの中
をくるくると回った。

151 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:19:40 ID:BFUHMBnm]
一同の前には、2階まで吹き抜けになった、巨大なホールが広がっていた。壁も床も、重
厚な茶褐色の木で造られている。彼らの正面には、2階へ昇る幅の広い階段があり、昇り
切った場所から手前に向かって、幾つもの円柱に支えられるかたちで2階の廊下が「門」
の字形に延びている。円柱のひとつひとつに取りつけられた照明も、凝った造りだ。ホー
ルの両脇には幾つも木の扉が並んでいるが、どれも荘重な造りで、重々しい雰囲気をかも
し出している。
「すごいわ。確かにこれはお金かかってる!」裕美子もしきりに関心した様子だ。
正面階段の右端に、西洋の甲冑が置かれている。金色に輝く、かなり豪華なつくりの鎧だ。
「…何だか、薄気味が悪いね。」るみが綾奈に同意を求めた。話しかけられた綾奈の顔も
何だか引きつっている。
その会話を小耳にはさんだ夏彦がスタスタと歩み寄り、鎧を小突いた。「なんだるみちゃ
ん、鎧が怖いのか?」そして鎧の顔面を覆う、面頬を押し下げて中を覗き込んだ。
「おーい。誰かいませんかー? …ほらね、中はカラッポだよ。」そう言って笑った。
和樹はしゃがみこんで、床を指でなぞった。そして翔吾に話しかける。
「ほら。チリひとつ指につかない。ここはやっぱり廃屋じゃないぞ。」
「人がいるかも知れない、ってわけか。」翔吾は大声で、奥に向かって叫んだ。「すみま
せーん!! どなたか、いらっしゃいませんかー!! 」だが、一向に返事は返って来ない。
翔吾はとりあえず、ホールの中央に一同を集めた。
「どうやら誰もいないみたいだが、いつ人が戻ってくるかわからない。叱られないよう、
軽はずみな行動はするなよ。まず身体を乾かし、休む場所を見つけよう。2人一組で行動
するんだ。パートナーとは決して離れないこと。そしてお互いの声が聞こえるよう、部屋
の中に入るときは、必ずドアを開けっぱなしにすること。」
一同は頷いた。
「それじゃあ、2階の左側は姫さんとワクさん、右側は遼ちゃんとるみちゃんで調べてく
れ。1階の左側は夏やんとママちゃん。右側は俺と綾ちゃんだ。何かあったらすぐに大声
で知らせること。じゃあ調査開始だ。」

152 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:21:04 ID:BFUHMBnm]
皆が散り散りに去った後、翔吾は綾奈を連れて、1階右側の扉を開けて中に入った。照明
を点けると、中は丸いテーブルが幾つも並んだ広い空間だった。どうやら食堂らしい。丸
いテーブルの上にはクロスが掛けられ、皿が並べられている。まるで宿泊客がいるかのよ
うに。
翔吾たちはゆっくりと中に歩み入った。食堂の右側、館の入り口に近い側には大きなグラ
ンドピアノが置かれている。ピアノのさらに奥は、椅子が円形に配置された、8角形のサ
ンルームになっているらしい。左側の奥には、巨大な暖炉がしつらえられていた。彼らの
正面、扉が並ぶ壁の反対側は、庭に面しているらしく大きなガラスサッシが並んでいる。
外はどうやらテラスになっているようだ。
綾奈が、ふと大変なことに気付いた。
「石倉さん…ねえ石倉さん。雨、降ってないですよ!」
「何ッ!?」翔吾はあわててガラスに駆け寄った。さっきまであれほど荒れ狂っていた嵐が、
何事も無かったかのように治まっている。ガラス扉のロックを外して開け放った。何と、
テラスには雨に濡れた痕跡すら無いではないか。2人は狐につままれたように呆然と空を
見上げた。空は星ひとつ見えない暗黒の空間だった。そして彼らの前方に拡がる空間も、
やはり漆黒の闇であった。
「…どういうことだ。まだ午後4時前のはずだぞ!?」
綾奈が、急に腕を抱えてガタガタと震え出した。「どうした綾奈ちゃん?」
「…石倉さん…ここ…何かいます…」
石倉の顔は蒼白になった。「何だ? 何がいるんだって?」
綾奈は首を振った。「わかりません。…でも、何かいるんです。」綾奈はそういうのがや
っとだった。
翔吾はガラス扉を閉じ、綾奈の肩を抱いて椅子に座らせた。「いいか綾奈ちゃん、気をし
っかり持て。不安がそんなふうに錯覚させてるんだ。何もいやしない。何もいやしないよ。」
翔吾は、綾奈に何度も念を押した。まるで、自分自身に言い聞かせるように。

153 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:22:03 ID:BFUHMBnm]
夏彦と裕美子が足を踏み入れた、いちばん左側奥の部屋は、何と浴場の更衣室だった。や
はりこの建物はペンションであるらしい。
「ほぉっ。ここは女風呂だぞ。俺、女風呂に入るのは初めてだぜ。」
夏彦は笑いながら浴室に足を踏み入れた。さすがに湯船には湯は満ちておらず、からっぽ
だった。「へえ、本格的なサウナまでついてやがる。」
「夏彦! キョロキョロしてないで、タオルか何か探すのを手伝ってよ! 更衣室なら何かあ
るはずよ。」
そう言って裕美子は、洗面台の下に並んだ扉をひとつひとつ、開けて内部を確かめて回った。
「変ね。なんでこんなものがあるのかしら?」
そう言って裕美子が取り出したものは、蜂蜜のガラス瓶だった。どういうわけか扉の中に
は、蜂蜜の瓶がギッシリと詰め込まれている。
「なぁ裕美子! 今度どこかの温泉で、家族風呂を借りないか? 露天風呂がいいな。青空の
下で、一度お前とヤリたいんだ。」
「もう! 何言ってるのよこんな時に!」裕美子は顔を赤らめて抗議した。彼女が夏彦の方
に振り向いたその時、外壁の高い位置に付けられた小さな窓が目に入った。そして彼女は、
窓の向こうにいた“そいつ”と、目が合ってしまった。
「キャッ!」裕美子は短い悲鳴を上げた。あわてて浴室から夏彦が飛び出してきた。
「どうした! 何があった!?」
裕美子はガタガタと震えながら、窓の方を指差した。
「あ…あれ…あれ…」
「何もいないじゃないか。」
「…いたのよ! あれが…あれが!」
「あれって何だよ? さっぱりわからないぞ。」
「目よ! ギラギラとした目。こっちを覗いてたのよ!」
「覗きか? 近所の出歯亀か何かか?」
「違うの! あれは…人間じゃない! 人間の目じゃなかったわ!」
「じゃあ、タヌキか野良猫だろう。お前、言ってることが支離滅裂だぞ。」
裕美子はへなへなとその場に座り込み、首を何度も横に振った。
「違うの…あれは…あれは!」

154 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:23:04 ID:BFUHMBnm]
2階には、客室が幾つも並んでいた。咲也と和樹の二人は、左側の客室をひとつひとつ調
べて回ることにした。幸い、どの扉にも鍵はかかっていないようだった。
「ステキ! 部屋の調度もビクトリア調だわ。ほら、暖炉まである!」咲也は本来の目的を
忘れて、調度品を調べるのに夢中だ。和樹は部屋に設えられたユニットバスをのぞき込み、
ハンガーにタオルがかかっているのを発見した。
「こりゃありがたい。姫さん、タオルを集めるのを手伝ってよ。」
ランプシェードを調べていた咲也は残念そうに立ち上がったが、それでも手際よく次々と
部屋を回ってタオルを集め、和樹に手渡していった。
階段から見て一番奥、入り口側に近い部屋に入った時、 咲也は奇妙なものを見つけた。
ツインベッドの片方、布団の中央が、やけに盛り上がっているのだ。
「ちょっと藤原君、これ見て。」急いで和樹を呼び寄せた。
「…布団の中に、誰か隠れてるんじゃないか?」
「やめてよ。そんなはずないじゃない。」そう言って、咲也は掛布団をさらりとめくった。
そこに…現れたものは…
黒い、得体の知れない塊りだった。
その塊りはザワザワと蠢き、波が引くように崩れて、周囲に広がっていった。塊りの一部
は、黒い粒々となって布団を手にした咲也の腕にまで這い昇ってきた。
「ヒイッ!!」咲也は声にならない悲鳴を上げ、狂ったように激しく腕を降ってそいつを振り
払った。そして絶叫しながら部屋から飛び出していった。「イャアアアアアアッ!!!」
それは、黒い蟻の群れだった。そして蟻の群れがいずこともなく散らばっていった後には、
黒い、ひからびたミイラがベッドの中央に残されていた。

155 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:24:03 ID:BFUHMBnm]
あまりの光景に和樹は一瞬硬直したが、ふと我に返り、咲也の後を追って部屋の外に出た。
咲也は廊下の手すりを掴んだまましゃがみ込んで、激しく嗚咽していた。
ようやく呼吸を整えた和樹は、咲也の顔を覗き込んで慰めた。
「大丈夫だ、姫さん。死体に蟻がたかっていただけだ。何もしやしない。大丈夫だよ。」
咲也はしゃくり上げながら、力なく立ち上がった。
「わたし、虫だけはダメなの。虫だけは、勘弁して…お願い…」
向かい側の廊下から、悲鳴を聞きつけた遼一が走って駆けつけてきた。
「おい! 一体何があった!?」
「…死体だよ。死体に蟻が群がってたんだ。」「…死体? アリ?」
二人は咲也にそこで待っているよう言い残して、死体を調べに部屋に戻った。あれほど沢
山いた蟻の群れはどこに消えたのか、その痕跡すら見つけることができなかった。
二人とも、変死体を目の前で見るのは初めてだ。喉の奥に酸っぱいものが逆流してくるの
を堪えながら、彼らは死体をまじまじと観察した。
死体は、口を開け、白目を剥き出して何かを叫んでいるような表情をしていた。指先を奇
妙に曲げ、まるであがいているかのようなポーズである。最初はミイラのよう見えたのだ
が、よく観ると、単なる干からびた死体とはまったく異なる状態であることがわかった。
「…何なんだろう、これ? カチコチに固まって、まるで昆虫みたいだ。」
「それに、こいつ男なのか、女なのか? アソコに何もねぇじゃねぇか?」



156 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:25:03 ID:BFUHMBnm]
「ねぇねぇ! 咲也ちゃん、大丈夫?」廊下にるみの声が聞こえる。
「やばい! 遼ちゃん、るみちゃんには死体を見せるな!」
「オッケイ!」遼一は外に出ていった。
「遼ちゃん、一体何があったの?」るみは好奇心で一杯の様子だ。
「20歳未満お断りのものだよ。さあ子供は帰った帰った。」
「わかったあ。殺人事件の死体でも見つけたんでしょう!」
「ん!? 何で知ってる?」遼一は狼狽して、うっかり白状してしまった。
「ああーやっぱりィ? 死体、見たい! 見たい!」
「バカ! すっごく、グロテスクなんだぞ。失神したらどうする?」
「大丈夫よ。おじいちゃんの見たことあるし。」
「お前のじいさんは安らかに大往生したんだろうが。一緒にするな! こっちの死体は恨み
骨髄という顔をしてるんだ。さあ、帰った帰った!」
「もう! どうしてみんな、そうやっていつも子供扱いするのォ!?」
その時、息を切らせて石倉翔吾が駆け上がってきた。
「何だ、今の悲鳴は! 何があった!?」

157 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:26:05 ID:BFUHMBnm]
気を持ち直した咲也とるみを廊下に残したまま、翔吾、和樹、遼一の3人は死体を調べて
いた。
「死因がさっぱりわからないな。身体が真っ黒に固まって、まるで蟻のような姿になって
死ぬ。そんな死に方、今まで聞いたことがない。」和樹が何度も首をひねった。
「…それよりお二人さん。さっき向こうの部屋で面白いものを見つけたんだ。聞いてみる
かい?」
そう言って遼一が取り出したのは、ボイスレコーダーだった。
「誰のだ、一体?」「さあな。クローゼットの中に落ちてたのさ。ここの宿泊客のものだ
と思うけどね。」
遼一が再生スイッチを入れた。
………。………。
レコーダーから聞こえてきたのは、ひどくあわてているらしい若い男の声だった。バック
には激しい怒号、ドンドンと何かを叩いているらしい物音も聞こえる。
遼一たち3人は、困惑して顔を見合わせた。
「…何て言ってた? “みんな、化け物に…襲われてしまった”か?」
「いや、“みんな、化け物に…なってしまった”って聞こえた。」
「俺にもそう聞こえたよ。で、その後は“あの…蜂のような女に…吸い取られてしまう!”
だったと思う。」
「“蜂のような女”って一体何だよ? それに、何を吸い取るんだ?」
「知らねえよ。とにかく、先客からの、あまりありがたくない伝言だな。何かのいたずら
だと思うが、縁起でもねぇ!」

158 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:27:38 ID:bQXvoHye]
3人は気分を落ち着けるために廊下に出た。
「それはそうと大将、綾奈ちゃんはどうした?」
「食堂にいたんだが、悲鳴が聞こえたんで、ホールに出て待っているように言ってある。
食堂の扉は開けたままだから大丈夫だろう。」
「…扉、閉まってるぜ。」
「何ッ!」翔吾は手すりから身を乗り出した。確かに、ホールから食堂に通じる3つの扉
はすべて閉まっている。ホールにいるはずの川瀬綾奈の姿も、どこにも見当たらない。
「食堂に閉じ込められたんだ。行ってくる!」
その時、咲也がホールの一角を指差して、キャアッ!と叫んだ。
「どうした!?」
「…鎧が、鎧が無くなっているわ…」
見ると、階段の脇にあったはずの西洋甲冑が、どこかに消えている。咲也はまたも、へな
へなとその場にしゃがみ込んだ。
「まさか…勝手に歩き出したのか?」
「馬鹿なこと言うな。だがこの館、やはりどうかしてやがる! 早くここから逃げ出そう!」

159 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:28:08 ID:bQXvoHye]
無気味な目を見たショックで錯乱気味の裕美子を抱きしめ、夏彦は彼女の背中を優しく撫
でさすった。
「今日は色々あったからな。疲れてるんだよ。お前は何もしなくていい。探し物なら俺が
代わりにしてやるから。」
夏彦は立ち上がり、再び浴室に入った。「電気が通ってるんなら、湯も使えるかも知れな
い。みんなで風呂に入って暖まろうぜ。」
そう言って、蛇口をひねった。
その途端、脱衣場と浴場を隔てるガラス扉がバタン!と音を立てて閉じた。
そして蛇口から、湯の代わりに白いガスが、シュウシュウと吹き出してきた。
夏彦はあわててガラス扉に駆け寄った。力いっぱいドアを引く。だが、扉はびくともしな
い。
「夏彦! ねえ夏彦!」裕美子は驚いてガラスを叩いた。
夏彦は「どいてろ!」と叫んで、浴用チェアをガラス目がけて投げつけた。だが激しい音
とともにチェアが跳ね返っただけだった。
白いガスは、浴室内に充満してゆく。それを吸った夏彦は、胸を押さえて苦しみ始めた。
「逃げろ! 裕美子! 早くここから逃げろ!」
「キャア! 夏彦! 夏彦ってば!!」裕美子は半狂乱でガラスを叩く。
ガスを吸い込んだ夏彦は、浴場の床に倒れ伏し、身体を折り曲げて激しくもだえた。そし
て、彼の身体には徐々に恐ろしい変化が現れていった。
「い、いやぁ! 夏彦! 夏彦ってば! 誰か、誰か助けてェ!!」

160 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:29:04 ID:bQXvoHye]
夏彦の身体がドス黒く染まり始め、堅い殻のように変質していった。手の先、足の先は昆
虫の爪のように伸び、関節もカニの足のように変化した。髪の毛はすっかり抜け落ち、真
っ黒に染まった額からは、二本の触角が生えてきた。そして、人間の口を突き破って、昆
虫の大顎のような口器が現れた。
数分の後、夏彦の身体は、巨大な蟻のような姿に変貌していた。
あまりの恐ろしい出来事に、裕美子はもはや声を出すこともできず、床に這いつくばって
ガタガタと震えていた。
さっきまで夏彦だった怪物が、二本の足でフラリと立ち上がった。そして着ていたTシャ
ツと海水パンツを、ベリベリと引きちぎった。
浴場と更衣室を隔てていたガラス扉が、音もなく開いた。怪物は、四つん這いになっての
っそりと更衣室に上がり込み、ガクガク震える裕美子の方に近づいてきた。
怪物の目は昆虫のような複眼ではなく、人間に酷似していた。黒い顔面に白い眼球だけが
ギョロギョロと動いているのが無気味だ。裕美子は気付いた。さっき窓の外に見たのも、
これと同じ怪物の目だったことに。
「…な、夏彦なの? …嘘、嘘よね。こんなの嘘よね。…い、いやあ!」
怪物は、裕美子の顔に触角を近づけ、ギョロギョロした目で彼女の顔を凝視した。それは
もはや、夏彦の優しい、涼しげな目ではなかった。裕美子は必死で目を閉じ、顔じゅうを
まさぐる触角を避けようと必死で顔をそむけた。
やがて、興味を失ったのか怪物は立ち上がった。怪物の首に掛けられた、裕美子とお揃い
のネックレスがキラリと光った。かつて夏彦だった怪物は、さっき裕美子が無気味な目を
見た窓をガラリと開け放ち、外に飛び出して行った。
「あ…あ…あ…!」
怪物の姿が見えなくなると、裕美子は息を切らせ、声にならない声を上げた。そして満足
に動かない身体を必死に動かして、更衣室の外へと這い出して行った。

161 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:30:03 ID:bQXvoHye]
その頃、綾奈はたった一人で、食堂の中に閉じ込められていた。
「ホールに出て待ってろ! 扉は開けておけ!」悲鳴を聞いた翔吾が、そう言い残して食堂
を飛び出していったのは、ついさっきのことだ。綾奈も彼の後を追って外に出ようとした。
だが彼女の目の前で、扉はバターン! という音を立てて閉じてしまった。綾奈がいくら引
っ張っても、頑丈な扉はびくともしなかった。
綾奈は、他に脱出口がないか探すことにした。こんなところには一人でいたくない。最初、
暖炉の裏側にある厨房に飛び込んだが、電気の場所がわからず、暗闇のままだったので引
き返した。仕方がないのでホールへと続く他の扉が開かないかどうか、ひとつひとつ確か
めてみることにした。
テラスに面したガラス扉の向こうは、相変わらず漆黒の闇だ。できるだけそちらを見ない
ようにしながら、綾奈は食堂の中を移動した。だが、彼女は見てしまった。
ガラスの向こう側に、白いドレスを着た女がいたのだ。長い髪に蒼ざめた肌の、美しい女
だ。
女は暗闇の向こうから、まるで宙を浮いているかのように、ススー、と近づいてきた。そ
してガラスに手を当て、綾奈を見て妖しく笑った。
「キャアッ!!」綾奈は叫び、駆け出した。女の姿は再びガラスから遠ざかり、闇の中へと消
えていった。
綾奈は必死で、ホールに通じる扉を引っ張った。もう嫌だ。こんなところにはもういたく
ない。だが相変わらず、綾奈の力では扉はびくともしない。
ダーン! 不意に、そばのピアノが大きな音で鳴った。

162 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:31:05 ID:bQXvoHye]
綾奈の背中は、稲妻が走ったかのように硬直した。心臓がバクバクと鳴り響く。
タ、ターンタ、ターン、タン!!
ピアノは、悲壮感に満ちた曲を奏ではじめた。おそるおそるピアノの方を覗き見て、綾奈
はさらに驚いた。演奏を続けるピアノの前には、誰も座ってはいなかったのだ。
綾奈の足はもう、いうことをきかなかった。綾奈は床にくずれ落ち、背中伝いに這いながら、
必死でピアノから逃れようとした。
ピアノが奏でる力強く悲痛な曲は、ますます盛り上がり、耳を聾せんばかりに激しさを増
していった。そして、ピアノの開いた共鳴板の中から、無数の蜂が飛び出してきた。
「いやああ!!」
蜂は、曲に合わせて狂ったように綾奈の周りを舞った。蜂の数はますます多くなり、ブン
ブンと音を立てて彼女を追い回す。何匹かは彼女の身体にとまり、綾奈の肌の上を這いま
わる。
「…助けて! 誰か助けて!! お願い!」
蜂の群れに覆いつくされながら、綾奈は意識を失った。気を失う前に一瞬、彼女の目にピ
アノが映った。ピアノの前にはいつの間にか、さっきの白いドレスの女が座っていた。ピ
アノを奏でながら、女はチラリと綾奈の方を見て、またも妖しく微笑んだ。

163 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:32:03 ID:bQXvoHye]
突然どこからともなく、ピアノの音が聞こえてきた。2階にいた若者たちは驚いて顔を見
合わせた。
「ベートーヴェンの悲愴ソナタよ!」咲也が叫んだ。
「どこからだ!?」「食堂みたいだ!」
翔吾はハッとなって、一番に駆け出した。残りのメンバーも、階段をバタバタと駆け降り
る。
翔吾が食堂の扉を、渾身の力で押した。だが、びくともしない。翔吾は扉から離れ、勢い
よく扉にタックルをかませた。和樹と遼一も、何度も飛び蹴りをくらわせたが、扉はまっ
たく動く気配がない。
「綾奈ちゃん! 綾奈ちゃん!!」るみが、泣きそうな顔で必死に扉を叩く。
悲愴ソナタは、ますます激しさを増し、狂おしく奏でられてゆく。
「食堂に続くドアは、他にないのか!?」
「そうだ! 確か厨房があった。扉もあるはずだ!」
翔吾は階段の裏側へと走った。一番右にある、厨房の扉は開かなかった。だが隣の扉があ
っさりと開いた。だが中は真っ暗だった。電灯のスイッチの位置がわからない。
「しめた。懐中電灯だ!」遼一が扉のすぐ脇にあった懐中電灯を見つけ、明かりを点けた。
扉の中は倉庫らしく、ロッカーが立ち並び、ビールのカートンや大きな箱が幾つも積み重
ねてある。地下室へと通じる階段もあった。
「こっちだ!」懐中電灯を持った翔吾が、隣の部屋へと飛び込んだ。
「遼さん! 扉が閉じないよう、突っかえをしておこう! 手を貸してくれ!」
和樹と遼一は、扉が完全に閉じないよう、扉と壁の間に箱を幾つかはさみ込んだ。そして、
翔吾や咲也の後を追った。
悲愴ソナタの演奏が、ようやく終わった。館の中は、再び沈黙に包まれた。
厨房伝いに食堂に飛び込んだ一同は、しかし綾奈の姿を、どこにも見つけることができな
かった。
「おーい! 綾奈ちゃーん!! どこだぁーッ! どこにいるんだぁーッ!!」

164 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:33:37 ID:7DMx1AW3]
翔吾の叫びに対する返事は、どこからも返っては来なかった。
咲也がピアノの方に走り寄った。「おい! 危ない! 近寄るな!」和樹が叫んだ。
「…思った通りよ。スタインウェイの、プレイヤーピアノだわ。」
「プレイヤーピアノ?」
「自動演奏ピアノよ。曲をプログラムしたテープをセットしておけば、自動的にその曲を
演奏してくれるの。巨大なオルゴールみたいなものね。」
「…でも、誰かが曲をセットしたことは間違いない。そいつが綾奈ちゃんをさらったんだ。
畜生! いったい誰が、こんな手の込んだいたずらを企てやがったんだ!」和樹は歯がみした。
翔吾はうつ向いて、悔しそうに手を握り締めていた。遼一がなぐさめるように、彼の肩を
ポン、と叩いた。
その時、るみが叫んだ。「あ、あれ! あれ見て!!」
一同は、テラスに通じるガラス扉の方を見た。ガラスの向こう側には、白いドレスを着た
長い髪の女の姿があった。振り返って一同をちらりと見た後、ススー、と闇の中に消えて
ゆく。
「野郎! 逃がすかよ!」遼一がガラス扉を開けて、テラスに飛び出し、女の後を追った。
「やめろ、遼ちゃん! 引き返せ!! 」翔吾が驚いて大声で叫んだ。
「え? どうして追いかけちゃ駄目なの?」咲也が訊ねた。
「よく見ろ! 雨が全然降ってないだろう! ここは普通の空間じゃないんだ!」
その時初めて、咲也たちは事の異常さに気がついた。一同は、必死に遼一を呼び戻そうと
口々に叫んだ。
「遼ちゃん! ダメだッ! 戻れぇッ!」「相良さぁーん!! 戻って下さぁーい!!」
だが遼一の姿は、暗い闇の中へと消えていった。

165 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:35:04 ID:7DMx1AW3]
白いドレスの女は、遼一を待ち構えるかのように立ち止まり、振り返ったかと思うと、再
びすべるように動きだした。
女の前に、ガラス張りの建物が現れた。どうやら、温室らしい。女が温室に近づくと、扉
がひとりでに開いた。女の姿は、その中へと消えていった。
「畜生! なんでこんなに足が早いんだ!?」遼一はブツクサつぶやきながら、女の後を追っ
て温室へと飛び込んだ。
入った途端、ムッとする草いきれが、遼一を包み込んだ。温室の中は背の高い、見たこと
も無い植物が繁茂していた。中を動き回るには、植物の中をかき分けて移動しなければな
らない。
「おいおい。こんな温室ってアリかよ。これじゃあジャングルじゃねぇか。」
女の姿は、どこにも見当たらなかった。その代わり、ピチャ、ピチャという不思議な音が、
遼一の耳に聞こえてきた。
遼一は、女を追いかけて来たことを後悔し始めていた。前方に聞こえるピチャ、ピチャと
いう音が、何だか不吉な響きであるように感じられたからだ。
遼一は歩みを緩めて、おそるおそる草を掻き分けた。前方に急に、開けた場所が現れた。
ピチャ、ピチャという音は、その中央から聞こえてきた。
開けた場所の中央に、黒い人影が4つ、背中を向けて座り込み、しきりに何かをむさぼっ
ていた。ピチャピチャという音は、彼らの食事の音らしい。
遼一はその姿を見て、思わず背筋に冷たいものが走るのを感じた。なぜなら彼らの黒い姿
は、さっき館の2階で見た、干からびた死体にそっくりだったからだ。
4つの影が、ふと食事の手を休め、遼一の方を振り返った。
その顔は、人間のものではなかった。触角と大顎を持つ黒い巨大な蟻が、何かの生肉をむ
さぼっていたのだ。
「う、うわああッ!!」遼一はその場を逃げ出した。無我夢中で温室の入り口にたどりつき、
ふらつきながらそこから這い出した。



166 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:36:03 ID:7DMx1AW3]
だが、館に戻る道を見つけることはできなかった。周囲は、完全な闇に包まれていた。
遼一は、ガクガクと膝が震えるのを感じた。歯もガタガタと震えて噛み合わない。早くこ
こから離れなければ。だが、一体どちらへ行けばいい?
その時、遼一の視界に再び白いドレスが飛び込んできた。「おい、あんた!」遼一は彼女
の後を追った。
白い女は、宙に浮いているかのようにススー、と遼一の前を遠ざかってゆく。遼一は必死
で後を追いかけ、あとひと息で追いつこうという場所で、女の肩に向かって手を伸ばした。
だが、遼一の手は女には届かなかった。彼の足元の地面が、不意に消えうせたからだ。
「うわあああああああ!!!」
断崖から足を踏み外し、遼一の身体は海を目がけて真っ逆さまに落下した。宙に浮いた女
は、妖しく笑いながら遼一の方を振り返った。
女の顔は、人間のものではなかった。


「うわあああああああ!!!」
遼一の凄まじい絶叫が、食堂で待つ翔吾たちの耳にも聞こえてきた。
「イヤっ。遼ちゃん!!」咲也が手で顔を覆った。一同は強いショックに打ちのめされ、しば
らく動くことができなかった。
「あ、あれを見ろよ!」和樹が、食堂の壁を指差した。
そこには、無数の蜂の群れが蠢いていた。蜂の群れの動きは、やがて壁の上に、ひとつの
言葉を描き出した。
「 あ と 5 人 」
一同は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。蜂の群れが作った文字はやがて崩れ去り、
蜂たちはいずこともなく飛び去って行った。
食堂とホールを隔てていた扉が、ギィーッ、と音を立てて開いた。
その向こうから、髪を振り乱した裕美子が這うようにして現れた。
「…夏彦が! 夏彦が! 化け物にされてしまった!!」

167 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:37:03 ID:7DMx1AW3]
綾奈は、自分の顔に何かが触れる奇妙な感触に、目を覚ました。目を開けると、ギョロギ
ョロと目を輝かせた奇怪な顔が、すぐ目の前にあった。
「キャアアアアッツ!!!」
その悲鳴に驚いたのか、黒い奇怪な怪物は、綾奈から飛びのいた。
綾奈の身体は、全裸で冷たい台の上に固定されていた。手足を縛られているので、身動き
することができない。
「ここは…どこなの!?」ガタガタ震えながら、綾奈は周囲を見渡した。薄暗い、湿った石
造りの部屋の中だ。そこかの地下室らしい。周囲には奇妙な機械が並び、自分の頭上には
底の無いカマボコ型のガラスケースが宙吊りになっている。
綾奈が縛られている台の周囲には、黒い奇怪な生き物が4体いた。離れた場所から四つん
這いの姿勢で、綾奈をじっと見つめている。
「イヤっ! ここから出して! ここから帰して!!」
綾奈の前に、白いドレスの女が現れた。さっき、ガラスの向こう側に見たのと同じ顔だ。
「…あなた、誰? わたしを…どうするの?」
女は、綾奈の美しい肢体をそっと愛撫した。
「可愛らしい子。まだ、男も知らないのね。でも、この身体とも今日でお別れよ。」

168 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:38:03 ID:7DMx1AW3]
「え…何…どういうこと!?」
「あなたは今から、わたしと同じ身体に生まれ変わるの。蜂女にね。」
そう言った女の額が、急にベリッ! と二つに割れた。
「キャアッ!!」
額の割れた部分から、黄色の肉質組織が現れた。肉質組織はみるみる膨らむと、黄色と黒
の縞模様の、蜂を思わせる組織へと変化した。女の閉じたまぶたもムクムクと盛り上がり、
その表面に網目状の模様が浮き出した。みるみるうちに女の頭部は、口の周囲だけを残し
て、巨大な蜂の頭部に変貌した。
綾奈は、恐怖のあまり声も出なかった。
女は、ドレスを脱ぎ捨てた。濃いブルーの身体、黄色と黒の同心円模様で彩られた、蠕動
する乳房。それは、まさに蜂女だった。
蜂女は、妖しく微笑むと綾奈の頬を押さえて、こう告げた。
「今から、あなたは蜂女になるのよ。」
綾奈の頭上に吊り下げられていた、カマボコ状のガラスケースが、綾奈目がけて降りてき
た。綾奈をすっかり包み込んだガラスケースの中に、白いガスが吹き出し、綾奈の身体を
覆っていった。
「イヤああ! やめて! お願い!」
ガスを吸った綾奈の身体は、みるみるうちに人間ではないものに変化していった。

169 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:39:05 ID:7DMx1AW3]
翔吾たち一同は、安全な場所を求めて2階の客室のうち、階段にいちばん近い広い部屋に
避難した。
この館の主が、彼ら一同に対して悪意を持っているのは間違いない。全員の情報を総合し、
何とか脱出の機会を見つけなければならない。
和樹が、遼一が見つけたボイスレコーダーの音声を、皆に聞かせた。
「“みんな、化け物に、なってしまった”、この「化け物」というのが、夏彦さんが変え
られてしまったという、蟻みたいな怪物のことね?」
咲也がノートとボールペンを取り出し、情報を整理する。まったく、彼女のバッグには何
だって入っている。
「そして“蜂のような女に、吸い取られてしまう”、この「蜂のような女」が、さっき蜂
を操って壁に文字を書いた、あの白いドレスの女の人なのかしら?」
「しかし、「蜂のような」という言い方が気になるな。あの女も、化け物の仲間なんじゃ
ないか? そしたら、出会っても相手にせず、ひたすら逃げなきゃいけないわけだ。」
「とにかく! 一刻も早くここから脱出しよう。」翔吾が膝を叩いた。
「ちょっと! 夏彦を置いて、逃げろっていうの!? そんなこと、できるわけないじゃない!!」
裕美子がヒステリックに叫んだ。
「そうじゃないよ、ママちゃん。まずここから逃げて、それから警察を呼ぶんだ。」
「…警察で対処できるような相手には、とうてい思えないわ。これを見て!」
咲也が携帯電話を開いて、皆に画面を見せた。
「わたしたちがこの館に入ったのは、午後3時42分。そして今は、午後3時46分。まだ5
分も経っていないのよ。」

170 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:40:03 ID:7DMx1AW3]
「…そんなバカな!!」夏彦と裕美子が、バッグから携帯を取り出して確認した。
「嘘だろ…おい。それじゃあこの館の中だけ、時間の流れが違うとでも言うのか?」
「それだけじゃないわ。さっきから携帯がどこにも通じないのよ。海岸では通じたという
のに。きっとこの館だけが、周囲の空間から切り離されているのよ。」
一同は、言いようのない不安に包まれた。自分たちの相手が、人智を絶する存在だという
ことを思い知らされたからだ。
「…だが、入った以上、出口も必ずあるはずだ。その出口はきっと、俺たちが入って来た
あの場所に違いない。」翔吾が自分に言い聞かせるように言った。
「正面玄関か。強行突破しかないだろうな。」
「…きっと、鍵がかかっているわよ。」
「なら、近くの窓を割って飛び出すまでさ。」
「…ちょっと、みんな! 聞いて!!」るみの声に、一同は耳を凝らした。
ガシャン。ガシャン。ガシャン。金属を打ち合わせるような音を立てて、何物かがこの部
屋に近づいてくる。
「甲冑よ! あの甲冑が襲ってくるんだわ!」咲也が悲鳴を上げた。
「シッ! 静かに!!」和樹が皆を制した。
息を殺した一同の方に向かって、甲冑は少しずつ近づいてくる。翔吾と和樹は、椅子を振
り被って臨戦態勢を取った。裕美子は、おびえるるみをしっかりと抱きしめる。
ガタ! ガタガタ! ガタッ! ドアノブを乱暴に回す音が響く。だは鍵が掛かっているので、
ドアは開かない。
やがて、甲冑はあきらめたのか、再びガシャン、ガシャンという音を立てて去っていった。
一同はホッ、と胸をなでおろした。その時。
「…るみちゃん、わたしよ。ここを開けて…」
聞き慣れた声が、ドアのすぐ外から響いてきた。

171 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:42:09 ID:tsbFyJxN]
「綾奈ちゃん!?」るみが思わず叫んだ。裕美子があわてて、るみの口を塞ぐ。
「…るみちゃん? いるんでしょう? わたし、ひとりで心細いの。早く開けて。お願い…」
るみは、裕美子の腕を振りほどいて叫んだ。「綾奈ちゃんだ。綾奈ちゃんだ。早く開けて
あげて! 怪物に襲われちゃうわ。早く! お願い!」
「絶対開けちゃだめよッ!!」咲也がるみの身体を押さえながら叫んだ。
「大将! 鍵を開けてもまだチェーンロックがある。少しだけドアを開けて、確認してみた
い。いいか!?」和樹が確認を求めた。
「…わかった。本当に綾奈ちゃんだったら大変だ。じゅうぶん警戒して、少しだけ開けて
みよう。」
翔吾と和樹が椅子を振り被り、ドアが開く方向に陣取った。咲也がロックを外し、おそる
おそるドアノブを回した。ドアが少しずつ、開いてゆく…。
ドアのすき間から、か細い少女の腕が、少しずつ伸びてきた。身体は見えない。
「るみちゃん。早くここを開けて。わたしを中に入れて。お願い。」
「違う! 綾奈ちゃんじゃない!!」るみが叫んだ。
「閉めて!! 早くッ!!」裕美子も叫んだ。咲也は渾身の力を込めて、ドアを勢いよく閉じた。
「ギャアッ!!」ドアのすき間に挟まれた腕が、激しくもがき痙攣した。
「閉めて!! ねじ切って!!」翔吾と和樹も加勢して、3人で力いっぱいドアを押した。挟まれ
た腕は激しくあがき、木の壁をガリガリと掻きむしった。「うおおおおッ!!」渾身の力で3
人はドアを押し込み、腕はブチッ! という嫌な音を立ててちぎれて、床に転がった。咲也
が急いで、ドアにロックを掛けた。
床に転がり落ちた細い腕は、ジタバタと痙攣するように暴れ回り、次第に黒い、蟻の肢に
変わっていった。やがて動かなくなった肢の切断面から、緑色の血がとぷとぷと漏れ出し
た。

172 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:43:05 ID:tsbFyJxN]
だが突然、漏れ出た血は蟻の群れに姿を変えた。無数の蟻が肢から這い出し、部屋の中に
ザワザワと広がっていった。
「キャアアア!!」咲也が絶叫した。翔吾と和樹は急いで蟻の群れを踏み潰そうとするが、数
が多くてらちがあかない。
「姫ッ、殺虫剤は持ってないのか!?」「…虫除けスプレーならあるわ!」
咲也はかばんの中をまさぐり、和樹にスプレーをトスする。急いで蟻の群れに吹き掛ける
が、ただの忌避剤では群れが拡がるばかりで効果が無い。
「そうだ、火だ。火はないのか!?」翔吾が叫んだ。咲也はライターを取り出し、翔吾にト
スした。
「はい、雑誌!」裕美子がファッション雑誌を翔吾に手渡した。翔吾は雑誌を丸め、ライ
ターで火を点けた。雑誌が燃え上がると、蟻の群れが次々と這い出てくる黒い肢に押しつ
け、切断面を煙でいぶしながら焼いた。これが効果があったのか、蟻の群れはそれ以上は
這い出てこなくなった。
和樹はバスタオルを水で濡らし、壁や椅子に這い登った蟻の群れを拭き取った。しばらく
奮闘した結果、蟻の群れはなんとか根絶することができた。一同は疲れ果てて、ベッドに
倒れ込んだ。
ふと、聞き慣れた声がまた聞こえて来た。今度は、窓の外からだ。
「…るみちゃん。わたしよ。綾奈よ。ここを開けて。お願い…」

173 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:44:04 ID:tsbFyJxN]
「キャアッ!!」るみは絶叫した。ここは2階だ。それなのに窓の外側には、川瀬綾奈が宙に
浮かんで窓に貼りついているではないか。綾奈は眼鏡をかけていなかった。そして先程の
女と同じ、白いドレスをまとっていた。
プーーーン。蜂が数匹、どこからともなく部屋に入って来た。驚く一同を尻目に、部屋の
中を舞う蜂の数はどんどん増えてゆく。
「暖炉だッ!! 暖炉を封鎖しろ!!」翔吾と和樹がベッドを持ち上げ、暖炉を塞いだ。裕美子は
先程の火の点いた雑誌を振り回して、蜂を追い回す。るみは水に濡らしたバスタオルをヌ
ンチャクのように振り回して、蜂を叩き落とす。虫が苦手な咲也は、部屋の隅で震えるば
かりだ。
数分間の格闘の後、ようやく蜂の脅威が去った。窓の外には綾奈の姿ももうない。
「もう、イヤっ!! 早くここから脱出しましょう!!」咲也がヒステリックに叫んだ。一同は頷
いた。
「正面を強硬突破するしかない。じゅうぶんな武器を用意しておこう。」
「蟻の化け物が相手なら、松明が欲しいな。姫! 燃えるオイルは持ってないか?」
「サンオイルならあるわ。」「難燃性だな。こいつはダメだ。」
「そうだわ。洗面台にヘアトニックがあった!」「よし。まだそっちがいい!」
和樹はタオルハンガーを壁からもぎ取り、その一端にタオルをぐるぐる巻きにした。液体
整髪料をたっぷり含ませ、ライターで火を点けると、勢いよく燃え始めた。
「よし。それじゃあ、一気に脱出するぞ。遅れるな!」

174 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:45:03 ID:tsbFyJxN]
翔吾がおそるおそるドアを開けた。その途端! 1階のプレイヤーピアノが待ち構えていた
かのように、再び悲愴ソナタを奏で始めた。
ダーン! タ、ターンタ、ターン、タン!!
その響きに一瞬気おくれしたが、翔吾は意を決してドアを開け放ち、左右を確認して廊下
に出た。誰もいない。翔吾の合図で、残りの4人も廊下に出た。
急いで階段を降りようとした途端、彼らがいた客室の隣にある倉庫から、人間蟻が4体、
四つん這いでゾロゾロと現れ、彼らと階段の間に立ちふさがった。そのうちの一体は肢を
一本失っていたが、再生が始まったのか、切り口から小さな肢が今にも生えようとしてい
た。
和樹は松明を、翔吾は椅子を振りかざして人間蟻たちに迫った。「ここは俺たちに任せて、
早く降りるんだ!」
人間蟻の一体が、フラフラと立ち上がり、彼らの前に立った。その人間蟻の首には、裕美
子とお揃いのネックレスがかかっている。
「…夏彦? 夏彦なの!?」「ママちゃん! 危ない! 近寄るな!」
ネックレスを掛けた人間蟻は、裕美子に向かって手を伸ばした。どこからともなく、聞き
慣れた夏彦の声が聞こえてきた。
「…裕美子。俺だよ、裕美子。何も怖がることはない。さあ、こっちにおいで。」
「…夏彦? 夏彦ね。夏彦なのね!?」「ダメよ、ゆみちゃん! 罠よ!」
裕美子は咲也とるみの手を振りほどき、人間蟻たちの方に向かって駆け出した。
「夏彦ぉーっ!!」
翔吾たちが止める暇もなかった。裕美子の姿はたちまち人間蟻の群れに取り囲まれ、その
中に埋ずもれて見えなくなった。「ゆみちゃーーーんッ!!」

175 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:46:04 ID:tsbFyJxN]
「くそオッ!!」和樹が松明を振り回して人間蟻に迫った。人間蟻たちが一瞬ひるんだ隙に、
階段へ降りる道が開けた。
「今だ! 一気に駆け降りろ!!」悲愴ソナタが鳴り響く中、翔吾の合図で、咲也とるみが急い
で階段を駆け降りる。だが1階に降り立った彼女たちの前に、不意に例の甲冑が現れ、立ち
ふさがった。「キャアアアア!!!」
「姫ェッ!!」和樹と翔吾が急いで駆け降りる。翔吾が椅子を振りかざし、甲冑目がけて振り
降ろした。ガシャンッ!! だが、甲冑は片手でそれを受け止め、軽々と横に払い流した。
「うわあッ!」
甲冑は倒れた翔吾の首根っこを掴み、宙吊りにした。翔吾はじたばたと足を動かすが、ど
うすることもできない。「…俺に、俺に構わず逃げろ!!」振り絞るように翔吾が叫んだ。
「い、石倉くんッ!!」「ダメだ、早く、早く逃げろッ!!」和樹たちは翔吾から目をそむけて、
玄関目がけて駆け出した。
翔吾は必死の形相で、甲冑の胸を蹴り飛ばした。その反動で甲冑がふらつき、兜の面頬が
パカッ! と開いた。
「うわああああああ!!」兜の内側には、何も無かった。



176 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:47:03 ID:tsbFyJxN]
和樹たちはようやく、玄関にたどり着いた。ドアの取っ手を渾身の力で降ろそうとしたが、
びくともしない。
「くそッ!! やはりだめかッ!」「…サンルームよ!! サンルームの窓を割って逃げましょう!」
咲也が食堂の扉に駆け寄り、勢いよく開け放った。和樹は迫り来る人間蟻たち目がけて松
明を投げつけ、彼らがひるんだ隙にるみを連れて食堂に飛び込んだ。悲愴ソナタのクライ
マックスを奏でる自動ピアノの脇をすり抜け、3人はサンルームへと辿りついた。
「うおおおおおおッ!!」和樹が椅子のひとつを持ち上げ、ガラス窓目がけて投げつける。ガ
シャーン!! 窓が砕け散り、外への道が開ける。
人間蟻たちが、和樹の後を追ってサンルームに現れた。「ここは俺に任せて、早く逃げろ!!」
和樹は椅子を振りかざして、人間蟻の群れに立ち向かった。
「早く! るみちゃん!!」咲也がるみの手を引っ張って、窓をくぐり抜けた。外は相変わらず
漆黒の闇だ。雨が降った気配すらない。
「この野郎!!」和樹は狂ったように椅子を振り回した。人間蟻たちはその勢いに一瞬ひるん
だが、和樹めがけてプッ! と何かを吐き出した。
ブシュウウウ…ウウウ。和樹の持った椅子が、煙を上げて溶けていった。
「う、うわあああッ!!」

177 名前:BeeFreak mailto:sage [04/11/13 03:48:34 ID:hk0b+0EH]
咲也とるみは、植え込みの中を縫って必死に玄関前の道路を目指した。
「ギャアアアアアアッ!!!」背後から、和樹の凄まじい絶叫が聞こえた。「藤原くんッ!!」
だが後ろを振り向いてはいけない。咲也は泣きながら懸命に走った。
ふと、何かに足を取られて咲也は転倒した。「咲也ちゃん!?」
つまづいたのではない。何者かが、咲也の足を掴んでいるのだ。後ろを振り向いた咲也は、
声にならない悲鳴を上げた。地面に空いた穴から人間蟻が顔を出し、咲也の足を掴んで中
に引きずりこもうとしている。
「いやあああ!!」咲也は死に物狂いで、人間蟻の顔を自由な方の足で蹴った。だが人間蟻は
動じることなく、咲也を少しずつ、少しずつ、穴の中へと引き寄せてゆく。
「さ、咲也ちゃん!!」「いいから! わたしに構わず逃げて!!」るみは目をつぶり、大声で叫
びながら駆け出した。
人間蟻が、咲也の腰を掴んで引き寄せた。「い、い、イヤああ!! 」人間蟻は咲也の後ろから
押し被さり、彼女を抱きしめたまま穴の中へ引きずり込む。咲也の顔のすぐ隣に、人間蟻の
醜悪な顔が現れた。シュウシュウという奇怪な呼吸音。ギッ!ギッ!という鳴き声。その
どれもが、気の狂いそうなほどにおぞましい。そしていつの間にか、咲也の身体を小さな
蟻の群れが這い昇ってきた。蟻の群れは咲也の服の中に入り込み、太股を、背中を、そし
て乳房の上を這い回る。「あ…あ…あ…!!」あまりのおぞましさに、咲也はもう、声を上げ
ることすらできない。やがて蟻の群れが咲也の顔を覆いつくし、彼女の姿は穴の中へと消
えていった。






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