[表示 : 全て 最新50 1-99 101- 201- 301- 401- 501- 2chのread.cgiへ]
Update time : 12/04 10:18 / Filesize : 500 KB / Number-of Response : 538
[このスレッドの書き込みを削除する]
[+板 最近立ったスレ&熱いスレ一覧 : +板 最近立ったスレ/記者別一覧] [類似スレッド一覧]


↑キャッシュ検索、類似スレ動作を修正しました、ご迷惑をお掛けしました

うら若き女性が改造されるシーン



1 名前:BeeFreak [04/10/26 01:29:23 ID:K4X2E2bn]
容量宣言を受けたので新スレです。

前スレ【女子高校生位の子が改造されるシーン】
tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1043884297/

関連サイト
【女性改造人間物語】 319氏、325氏によるSSが保管されているまとめサイト。
remodeledwoman.myfws.com/
【蜂女の館】 508(BeeFreak)による、蜂女改造SSの保管庫。
artofspirit.hp.infoseek.co.jp/

248 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 00:54:06 ID:cRIe5pGj]
「おはよッ!」「おはよう!」
秋晴れの穏やかな朝。私立英光学園に通う生徒たちでにぎわうこの通りの中、一人の少女
が腕時計をにらみながら誰かを待っている。
「…おはよ、のっぴい! ゴメン、ゴメン…」
「遅いぞッ、ミーシャ! まったくいつもいつもお寝坊さんなんだから!」
親友の落合法子が、肩で大きく息をする香川美紗の背中を、カバンで軽く小突いた。
香川美紗は16歳、高校1年生。笑顔が印象的な、学園きっての輝くばかりの美少女だ。
「昨夜も遅くまで、台本の練習をしてたのよ。もう、なかなか憶えらんなくて…」
「ミーシャ、主役だもんね。まだ1年なのに大変だよ。どう、何とかなりそう?」
「わかんない。あと6日しかないけど、頑張るっきゃないわ。」
親指を立ててガッツポーズをする美紗。親友の法子も笑いながらサムズアップを返す。
「…あれえ? ここ、こんな看板、前からあったっけ?」
古ぼけた洋館の前で、美紗が不意に立ち止まった。
枯れかけた蔦がからまった巨大な門の傍らに、『富良戸ディメンショナル・パワー研究所』
と書かれた真新しい看板が掛けられている。
「ここ…ずいぶん長い間、空き家だったはずだよね?」
「うん。家族がみんな病死して、買い手がなかなか付かないって聞いてたけど。研究所っ
てことは、博士か何かが引っ越してきたのかな?」
「…何だかちょっと、いかがわしい名前だよね。」
美紗が咲き誇る花のような笑みを浮かべた。「わたしたちには関係ないね。行こ行こ!」

249 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 00:55:05 ID:cRIe5pGj]
その日の夕刻のこと。
部活の練習で遅くなった美紗が、家路を目指して歩いていた。英語研究会に所属している
美紗たちは、6日後に控えた文化祭で披露する英語劇「ロミオとジュリエット」の猛特訓
に励んでいるところなのだ。
美紗は1年であったが、その容姿を見込まれて、ヒロイン・ジュリエット役に抜擢された。
ロミオ役は3年の楠本真理子。目下英語研究会は女子ばかりの所帯であり、文化祭を機に
男子部員の新規獲得を目指して、美紗に白羽の矢が立ったというわけだ。ただでさえ難し
いシェイクスピア英語。ましてやまだ1年の美紗にとっては、台詞を覚えるだけで一苦労
なのだ。
「ええと、My only love sprung from my only hate! Too early seen unknown, and
known too late! (たった一つのわたしの愛が、ただ一つの憎しみから生まれるなんて!
知らぬままにお顔を見るのは早すぎて、知った時にはもう遅い。)」
ブツブツと台詞を呟きながら、すっかり暗くなった道を帰宅する美紗。台詞を暗唱するの
に夢中で、その目には何も映ってはいない。
洋館の脇を通り過ぎ、T字路に差しかかった時。彼女は右側から迫ってくる車に気付くの
が遅れた。
キキーッ!! 車が急ブレーキを踏んだが間に合わない。ライトの光に目がくらんで、美紗の身
体は思わず硬直した。「きゃああッ!!」
その時、美紗の身体を抱えて風のように駆け抜け、飛び上がったものがあった。車は激しく
右へ左へと揺れながら、やがて遠ざかっていった。

250 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 00:56:06 ID:cRIe5pGj]
美紗は思わず安堵の息を漏らした。そして、自分の足元を見て再び叫んだ。「キャアッ!」
美紗たちが立っていたのは、身長ほどもあるブロック塀の上だった。思わずふらつく美紗を、
彼女を助けた人影があやうく支えた。美紗は、自分を助けた者の姿を見て、驚いた。
それは、美紗よりも少し背の高い、彼女と同じくらいの年頃の少女だった。きりりとした
眉、長いつややかな髪。顔立ちのはっきりした目のさめるような美少女だ。
少女は、美紗の腰を再び抱えると言った。
「もう一度飛ぶわ。気をつけて。」
ふわり、と宙を舞って地上に着地した二人。少女は美紗を離すと、そのままスタスタと歩
んでゆく。少女は美紗と同じ、英光学園の制服を着ていた。
「ねえ、待って! …あ、ありがとう。」
美紗の声に振り向き、一瞬微笑んだ少女は、再びきびすを返して夜の闇の中に消えていっ
た。
《不思議な子…学校じゃ見たことがない顔だったわ。それにしても、わたしを抱えたまま
こんな高いところまでジャンプするなんて……とても、人間技とは思えないわ……》


翌日、英語研究会の顧問でもある、1年3組担任の大谷みどり先生が、転校生を紹介した。
「このたびカナダから帰国しました、宮野礼莉です。どうかよろしく。」
とびきりの美少女の出現に、クラスは騒然となった。そして美紗も、転校生の顔を見て思
わず息を飲んだ。彼女こそ、昨夜美紗を助けた、あの身軽な少女だったからだ。
「はいはい、騒がない騒がない。それじゃ宮野さん、香川さんの後ろの席があいているか
ら、そっちに座ってくれる?」
少女は美紗の傍らを通りすぎるまぎわ、美紗に向かってニッコリと微笑んだ。

251 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 00:57:12 ID:cRIe5pGj]
「あ、あの、宮野さん。」
「レリ、でいいわ。」
「あ、じゃあ、レリさん。昨夜は…どうも、どうもありがとう!」
「えっ、なになに!? ミーシャ、もうこの子と知り合いなの?」
休み時間。少女に話しかけた美紗を、級友たちが一斉に取り巻いた。
「…う、うん。昨夜、ちょっとね。」
レリが、美紗に向かって問いかけた。
「あなたのお名前は、何ていうのかしら?」
「あ、美紗よ。香川美紗。」
「美紗さん、わたしはまだこの国についてわからないことがいっぱいなの。教えて下さる?」
「あ、わたしでよければ、喜んで。」美紗は、思わずペコリと頭を下げた。
級友たちがどよめいた。学園一の美少女と、それを上回る転校生の美少女のコンビだ。注
目を集めないわけがない。
だが級友たちはその後で、転校生・宮野レリにもっともっと驚かされることになった。3
時間目の世界史Bの時間。アメリカ独立宣言の全文を日本語でスラスラと暗唱してみせた
レリは、驚いた教師に乞われるまま、63か条からなるイギリスの大憲章をも完璧に暗唱し
た。
「すごい! すごいね、レリさん!」
「…まあね、ここに来る前に、この世界のことは勉強してきたから。」
“この世界”という言い回しに、美紗はちょっと引っかかった。帰国子女だから、日本の
ことを指しているのかな? でもイギリスもアメリカも日本じゃないよ。
そして4時間目、体育の時間。体操服を持ってなかったので、レリは体操部に借りた予備
のレオタードを着て現れた。ふくよかな胸に蜂のようにくびれたウェスト、抜群のプロポ
ーション。校庭の反対側でハンドボールをしていた男子たちの手が止まり、がぜん彼女に
皆の視線が集中した。
高鉄棒に飛びついたレリは、いきなり大回転を披露してみせた。しかも、ムーンサルトの
着地付き。
「すっごォーい! 宮野さん! 体操やってたの!?」
「うん。少しね…」あれだけ身体を動かしても、レリは汗ひとつかいていない。
成績優秀、スポーツ万能。レリはまさに完璧な美少女だった。

252 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 00:58:05 ID:cRIe5pGj]
そして昼休み、美紗と親友の法子は、レリを食事の席に誘った。
レリは弁当を持っていなかったので、購買部ではちみつクッキーを買ってきた。
「え? それだけでいいの?」「うん。蜂蜜があればいいの。」
クッキーの袋を開けようとしたレリの手が、ふと止まった。手が細かく震えたかと思うと、
いきなり袋を放り出した。
「どうしたの!? レリさん!」
「…これよ。ここを読んで。」レリの声は震えている。
袋を手に取った法子が、レリの指差した箇所に書かれた文章を読んだ。
「え…なになに。この商品には、遺伝子組み替えを行った小麦粉を使用しています。…こ
れが何だって言うの?」
「これが何、って一体どういうこと!? この世界でも、遺伝子操作が普通に行われているっ
て言うの!?」
レリの声は、怒ったような調子になった。
「そうよ。もちろん反対している人もいるけれど、これからはこういう作物が増えてくる
だろうって、生物の先生も言ってたわ。」
「…恐ろしい…何て、恐ろしい…」レリは気分が悪くなったかのようにうずくまった。
「大丈夫? レリさん。気分が悪いのなら、保健室に行こうか?」
レリは気を持ち直し、心配そうに顔を覗き込んでいる美紗に向かって微笑んだ。
「…いえ、もう大丈夫よ。心配いらないわ。ちょっとショックだっただけ。」
だが6時間目の理科総合Bの授業で、再びショッキングな出来事が起こった。遺伝子の働
きについての説明で、教師が“わざと遺伝子を欠損させたマウス”の話におよんだ時、い
きなりレリが立ち上がって抗議を始めたのだ。
「先生! 人間が自分たちの都合で生き物の遺伝子を操作するなんて、自然の摂理に反した
ことだと思います!」
理科の教師は困った様子でレリを見つめた。「しかしね君。こういう実験動物たちの尊い
犠牲があってこそ、我々の今の生活は成り立っているんじゃないか。まさか君は、医学や
生命科学の発展を否定するわけじゃないだろう?」
レリは悔しそうに着席し、授業の間ずっと指を組んで考え込んでいた。

253 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 00:59:05 ID:cRIe5pGj]
放課後になった。美紗は不機嫌そうなレリの気分を変えようと、部活に彼女を誘うことに
した。
「ねえレリさん。わたしたち英語研究会で英語劇やってるんだけど、よかったら遊びに来
ない?」
レリは力なく笑って言った。「ありがとう美紗さん。でも今日は初日だから、早く帰るわ。」
部室に向かって移動する美紗と法子は、レリが校庭で2人の男子生徒と落ち合い、校門を
出てゆこうとするのを見た。
「え? あれは誰なの? レリさんと一緒の二人。」
「なんだミーシャ、知らなかったの? 今日宮野さんと一緒に転校してきた人たちよ。1組
の竹下健一くんと、2組の山沢六郎くん。お父さんの仕事が一緒で、カナダから一緒に帰
国したんだって。二人とも成績優秀、スポーツ万能、しかもそろって美形だというんで、
どのクラスも今日一日大騒ぎだったんだよ。」
「…ふうん。」美紗は遠目で二人の姿を見た。竹下健一は線の細い、クールな印象の少年。
山沢六郎は眉の太い、精悍な少年だった。確かに法子の言うとおり、二人ともたいした美
形だ。
「ねえミーシャ。カナダに行ったら、みんなあんなふうになれるのかな?」
「のっぴいにはムリよ。日本を離れたら大好きな琢哉くんが生放送で見れなくなるって言
って、家族みんなが海外旅行に行ったのに、ひとり留守番してたのは一体誰だったかなぁ?」
美紗と法子はキャラキャラと明るく笑い、部室に入っていった。

254 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:00:05 ID:cRIe5pGj]
翌日、レリが美紗たちの部活を見たいと言い出した。美紗たちは喜んでレリを部室に招待
した。
文化祭まであと4日。英語劇披露への最後の大詰めに向けて、部室の中はてんやわんやだ
った。
「シェイクスピアをするわけ?」
「そう。といっても30分のダイジェストだけどね。でも、台詞はオリジナルをそのまま使
うのよ。」
主役の美紗は、さっそくロミオ役の楠本真理子とともに、台詞合わせを始めた。法子は台
詞の少ないロミオの母親役なので、もっぱら衣裳縫いを担当している。
「Lady, by yonder blessed moon I swear That tips with silver all these fruit-
tree tops-(ジュリエット、ぼくは誓おう。見渡すかぎり木々の梢を銀色に染める、あの
月の光にかけて)」
「O, swear not by the moon, the inconstant moon, That monthly changes in her
circled orb, Lest that thy love prove likewise variable.(いけないわ、月に誓うな
んて。ひと月ごとに形を変えてゆく不実な月、あんなふうにあなたの愛が変わっては大変
だもの。)」
美紗の演技も、だんだんさまになってきた。レリは微笑みながら、そんな美紗の演技をじ
っと眺めていた。
5時。校門が閉まる時刻ギリギリに、美紗たちは学校を離れた。
「ねえ、レリさんのおうちって、どこにあるの?」
「わたし? わたしの家は、ここよ。」
そう言ってレリが指差したのは、なんとあの、富良戸研究所という看板を掲げた古い洋館
だった。
「父と母がまだ帰国できないので、ひと足先に伯父の家にやっかいになってるのよ。」
そう言ってレリはあっけに取られる美紗たちを尻目に、錆びた巨大な門を開け、扉の中へ
と消えていった。

255 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:01:06 ID:cRIe5pGj]
それからの数日は、比較的平穏に過ぎていった。レリは時々物思いに沈み込んで美紗たち
を戸惑わせることもあったが、表面的には美紗たちと楽しい毎日を過ごしていた。

そして待ちに待った文化祭当日。美紗たちが緊張して出番を待つ楽屋裏で、ひとつのアク
シデントが起こった。
ロミオ役の3年生、楠本真理子が急に腹痛に襲われたのだ。どうやら食あたりらしい。
「ゴメン…みんな…ゴメン…」真理子は青い顔で、医務室に運ばれていった。
肝心の主役が欠けてしまい、残された部員たちは途方に暮れてしまった。顧問の大谷先生
が心配して駆けつけた。
「みんな、気を落とさないで。こうなったらヘタでも何でもいいわ。この中に、ロミオの
台詞を全部憶えている人はいない?」
部員たちは顔を見合わせた。さすがに一番台詞の多いロミオ役をこなせる者はいない。
その時、傍らで見守っていたレリが手を挙げた。
「先生。わたし、できます。英語は母国語みたいなものですから。」
大谷先生は、思わずレリに駆け寄って手を握った。「ホント? 宮野さん!?」
レリは、ロミオの台詞の幾つかをそらんじてみせた。
「ふむ! いけるわ、これなら! 宮野さん、あなたはホントに救世主よ! さあみんな、早
く衣裳を用意して!」
本番の幕が開いた。観客は、代役に立った絶世の美少女を見てどぎもを抜かれた。
学園きっての美少女二人の共演だ。噂を聞いた生徒たちが、続々と講堂に詰めかけた。
レリの演技は完璧だった。台詞だけでなく、演技、立ち居振る舞いのひとつひとつに強い
存在感がこもっていた。

256 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:02:22 ID:cRIe5pGj]
「Romeo, doff thy name, And for that name which is no part of thee Take all
myself.(ロミオさま、そのお名前をお捨てになって。そしてあなたの血肉でもないその
お名前の代わりに、わたしのすべてをもらって下さい。)」
「I take thee at thy word: Call me but love, and I'll be new baptized; Henceforth
I never will be Romeo. (お言葉通り、あなたを頂戴いたしましょう。ただ一言、ぼくを
恋人と呼んで下さい。そうすれば新しく洗礼を受けたかのように、ぼくはもうロミオでは
なくなります。)」
ジュリエットの部屋での逢い引き場面。レリはこう言うと、ジュリエット役の美紗の唇を
強引に奪い、ベッドに押し倒した。
「キャー♥!!」観客は思わず立ち上がり、会場は騒然となった。
美紗も突然の出来事に驚いた。何しろそれは、彼女にとってのファースト・キスだったか
らだ。だが、本当のところは彼女自身もまんざらではなかった。「ま、いいか…」
美紗はレリに身を預け、彼女のなすがままに従った。心臓はドキドキと高鳴ったが、この
キスで逆に、舞台に臨んだ緊張の糸が解けてしまったらしい。その後の美紗の演技はリラ
ックスしたものとなり、美紗本来の持ち味が発揮できるようになった。
英語研究会による英語劇「ロミオとジュリエット」は、万雷の拍手の中、幕を降ろした。
「わーん。ミーシャ!」感激のあまり泣きながら法子が抱きついてきた。
「おめでとう!」「よかったよ、レリ!」
二人の男子生徒が、舞台裏でレリに駆け寄り、さっき華道部から買った花を手渡した。転
校生の竹下健一と、山沢六郎の二人だ。
「ケン! ロック!」レリも顔をほころばせて、二人に抱きついた。
「紹介するわ、美紗。こちらはケンとロック。わたしの仲間よ。こちらは美紗。わたしの
大切なお友達。」
「はじめまして。」「よろしく、美紗さん。」健一と六郎は笑いながら美紗に会釈した。
「素晴らしかったわ! もう最高よ、あなたたち!!」
大谷先生が大喜びで駆けつけ、美紗とレリの手を握りブンブンと激しく振った。
「キスはちょっと余計だったけど、ウケてたから結果オーライね。さあ、これでもう、わ
がクラブも安泰よ! 男子部員の獲得間違い無し!」
「どっちかと言うと、女子にウケてましたけどね。」法子がさらりと返した。



257 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:03:15 ID:cRIe5pGj]
文化祭が終わり、ジュースでのささやかな祝賀会の後、美紗たちは連れ立って帰宅した。
「それにしても、びっくりしたわ。まさかキスされるなんて、思ってもみなかった。」
「…イヤ…だった?」
「…ううん。そんなことない。怒ってなんかいないよ。ただ、いきなりだったから…」
「ヨッヨッ、ご両人?! お邪魔虫はここで消えるね?!」
法子がそうはやし立てて、二人を残して走り去っていった。後に残された美紗の顔は真っ
赤だ。レリの顔をまともに見ることができない。
「ねえ、美紗?」「…え、なに?」「ほんとに怒ってない?」
「ううん、全然。結果的に劇は大成功だったんだし、わたしも、まあ、レリだったら、い
いかな…なんて。」
「嬉しい!! ねえ美紗? わたしたち、これからもずっと親友よね?」
「ええ。ずっと。」「…約束よ。」「うん。」
二人は、レリが住んでいるという研究所の前に差しかかった。
「ねえ、美紗。一度、うちに寄ってかない?」
美紗は一瞬、躊躇した。どうしてだかわからない。この古い洋館のたたずまいに、ちょっ
と馴染めないものを感じたからかも知れない。
「うん。いいよ。じゃあ、今度はわたしの家にも招待するからね。」
美紗はレリにうながされるまま、洋館の門をくぐった。塀の中はあまり手入れは行き届い
ていない庭園で、枯れかけた植物が繁茂していた。
その時。前方を黒い影のようなものが素早く横切るのが見えた。
「!」
レリは顔色を変え、美紗にこう言い残して走り出した。「そこで動かずに待ってて!」
あっけにとられる美紗。レリの姿は影を追って、建物の向こうに消えた。美紗はその場に
突っ立ったまま、しばらく庭園を眺めていた。「…いったい何だったのかしら?」

258 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:04:51 ID:SP5hwYbw]
突然、美紗の口が、後ろから黒い手で覆われた。「…ん! ん!」
何者かに腰を掴まれ引き寄せられた。美紗は必死に首を振り、相手を振りほどこうとした
が、すさまじい力で押さえつけられているため、身動きが取れない。
目を開けた美紗は、自分の顔のかたわらに、自分を拘束している者の姿を認めた。
「…!!」
それは、人間ではなかった。真っ黒な頭部には、巨大な複眼と、触角、それにギチギチと
音を立てる無気味な大顎。巨大な蟻のような生き物が、美紗の身体を押さえつけていたの
だ。
あまりの恐怖とおぞましさに、美紗は声にならない悲鳴を上げた。
《なんで!? どうして!? どうしてこんな化け物がいるの!?》
蟻のような怪物は美紗を捉えたまま、後方に引きずってゆく。いくら抵抗しても、振り払
うことができない。美紗は恐怖と絶望で目の前が真っ暗になった。
その時だった。
「美紗!! じっとしてて!!」
レリの声が聞こえた。そして美紗のかたわらを、空を飛ぶ何物かが猛スピードで駆け抜け
た。
ブス。ブス。鈍い音が響き、美紗を掴んでいる怪物の力がゆるんだ。美紗はあわてて怪物
の腕を振り払い、その場を逃れた。
「グォ…アガガガ…グヘッ!」
怪物は頭部を抱えて苦しみ始めたかと思うと、身体からブクブクと黒い泡を吹き出し、や
がてグズグズに崩れて溶けていった。
「あれは…ANTタイプ。まさか、もう見つかっただなんて…」
大きくあえぎながら、美紗は声のする方を振り返った。レリだった。レリが、地表から高
く突き出た門灯の上に、ふわりと着地しようとしていた。そして、レリの身体を見た美紗
は、思わず息を飲んだ。

259 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:06:06 ID:SP5hwYbw]
レリの背中には、制服を突き破って、輝くような4枚の羽根が生えていた。両の胸にあた
る部分も、制服に破けたような穴があいていた。
レリは、美紗の視線に気がつくと、悲しそうな顔をした。そして、羽根を広げて美紗の近
くにふわりと飛び降りた。
「美紗、怪我はなかった?」
「…う、うん。」
美紗の頭の中はパニックになっていた。黒い無気味な怪物、羽根を広げたレリ。突然色々
なことが起こったため、美紗には何がなんだか、わけがわからなくなっていた。
「…とうとう、見られちゃったね。」レリが悲しそうにつぶやいた。
「…レリ、あなたその身体、いったい…?」
「美紗。」レリは美紗の瞳を、真顔で覗き込んだ。
「わたしたち、親友よね。いつまでも、何があっても、親友でいてくれるよね?」
美紗は激しく動揺していたが、レリの悲しそうな瞳を見ていると、たまらなくなった。彼
女の口はこう答えていた。
「…ええ。親友よ。何があっても。」
レリは、美紗の手を取って、涙を流した。
「ありがとう、美紗。ありがとう。」
そしてレリは、美紗の手を離し、彼女から少し離れた位置に立った。
「美紗。あなたに今から、わたしの本当の姿を見せるわ。…本当は、あなたにだけは、見
られたくなかったけど…」
そう言ってレリは、いきなり制服を脱ぎ始めた。背中の羽根をうまくたたみながらセーラ
ー服の上衣を脱ぎ、スカートを脱ぎ捨てた。レリは、下着を着けていなかった。ふくよか
な胸が、そして陶器のような肌があらわになった。美紗は奇妙なことに気がついた。レリ
の身体には、脇の下にも、股間にも、毛がまったく生えていなかったのだ。
レリは、腕を胸の前でクロスした後、高く掲げてこう叫んだ。
「サイバーッ! 変・身!!」
とたんに、レリの身体がまばゆい光で包まれた。思わず目をそらした美紗が再び目を開け
た時、目の前のレリの姿は、大きく変貌していた。

260 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:07:06 ID:SP5hwYbw]
それは、人間の身体ではなかった。全身が濃いブルーの、なめし革のような皮膚で覆われ、
ウェストの周りだけが体節状に変色していた。手首は白い長手袋状、脚は白いハイヒール
のロングヴーツ状に変化していた。そしてふくよかな両の乳房は、蜂の腹部を思わせる黄
色と黒の同心円状の模様で覆われていた。その乳房は、まるで別の生き物でもあるかのご
とく、絶えず艶めかしく蠕動していた。頭部はレリの愛くるしい顔立ちのままだったが、
頭部の両側面には巨大な昆虫の複眼が現れ、額からは二本の真っ赤な触角が生えていた。
その姿は、巨大な蜂を連想させた。
「美紗。これが、わたしの本当の姿。わたしは人間ではないの。蜂の能力を持った改造人
間BEEタイプ。蜂女《レリbee0158》なの。あいつらに捕まって、無理やり改造されたの
よ。」
美紗は驚きのあまり、再び頭の中が混乱していた。
「…え? …え? …改造人間って? 蜂女って? どういうこと??」
「美紗。わたしがどんな姿でも、親友でいてくれるよね?」
レリは、再び悲しげな瞳で美紗を見つめた。
「…え、ええ。どんな姿でも、レリは、レリはレリだもん!」
「ありがとう、美紗。それじゃあ、あなたに全て話すわ。わたしたちのこと。わたしたち
の世界のことを。」
「え…わたしたちの“世界”って?」
「さあ、こっちに来て。」蜂女の姿をしたレリは、美紗を館の中へと手招きした。

261 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:08:05 ID:SP5hwYbw]
洋館の中の応接室らしき部屋に通された美紗は、どこかに報告に行ったらしいレリが帰っ
てくるのを待った。アンティークな趣味の良い調度で飾られた、感じの良い部屋であった。
蜂女の姿のレリが現れた。その後ろから、白くなりかけた長い髪を後ろで束ねた、痩せた
初老の紳士が現れた。陰気な雰囲気の男だったが、どうやら悪い人間ではなさそうだ。男
の後ろからは、レリと一緒に転校してきた竹下健一と山沢六郎の二人が入って来た。
初老の紳士は、ソファに腰かけた美紗の真正面にある椅子に腰をおろした。レリと、2人
の少年はその両側に立って控えた。
「美紗。紹介するわ。こちらがわたしたちのリーダー、ブラド博士。向こうにいるのはあ
なたも知ってるでしょう? わたしの仲間、《ケンcml4346》と《ロックscr7915》。二
人ともわたしと同じ、改造人間なの。」
「え…あの、改造人間って、いったい…?」
初老の紳士は、しゃがれた声で美紗に話しかけた。
「お嬢さん、儂らは実は、この世界の人間ではない。サイバーヴィルという世界からこの
世界に逃げて来た、逃亡者なんじゃよ。」
「…サイバー…ヴィル?」
「あなたは、平行世界(パラレルワールド)というものを、知っておいでかな? 無限に拡が
る時間軸の、今この瞬間の世界の隣に、1秒後の世界、2秒後の世界、というふうに少し
ずつ違う時間の世界が存在していると仮定してごらん? 1秒後の世界は、今この瞬間の世
界と、ほとんど変わりがないはずじゃ。だが1時間後の世界、1日後の世界、1年後の世
界となると、この瞬間の世界とは次第に大きくかけ離れてゆくじゃろう。それと同じよう
に、この3次元空間の中には、無数の世界が平行して存在しておる。もちろんすぐ隣にあ
る世界は、今あなたがいるこの世界と、たいして変わりはないじゃろて。だが10個離れた
世界、100個離れた世界、1万個離れた世界になると、この世界とは似ても似つかないも
のになっているはずじゃ。その中には、第二次世界大戦で日本が勝った世界もある。ナポ
レオンがワーテルローで負けなかった世界もある。イエス・キリストが救世主にならず、
ただの大工の息子で終わった世界もあるじゃろう。儂らは、そうしたパラレルワールドの
ひとつ、サイバーヴィルと呼ばれる世界からこの世界にやって来たんじゃ。」

262 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:09:05 ID:SP5hwYbw]
「サイバーヴィルは、少数の改造人間が、大多数の普通の人間を家畜のように支配する、
恐ろしい世界なんだ。」山沢六郎が吐き捨てるように言った。
「やつらは元々は人間なんだが、人の心は持っていない。狂ったケダモノさ。遺伝子操作
によって様々な生物の能力を取り入れ、その力で、普通の人間たちを虫ケラのように扱っ
ているんだ。」
「…待って!」美紗は混乱して叫んだ。「でも、あなたたちも、改造人間なんでしょう?」
「そうじゃ。」ブラド博士が答えた。「だが儂らは、人の心をまだ捨ててはいない。いい
かね、改造人間は普通の人間よりもずっと永い寿命を持っているが、不死身ではない。し
かも、遺伝子を操作しているので、子孫を残すこともできない。だから連中は、普通の人
間を改造して、仲間を増やしているんじゃ。サイバーヴィルでは、16歳になった人間は集
められて、頭脳・体力・容姿等に優れた者がコンピュータに選別され、改造手術を施され
て連中の仲間入りをするわけなんじゃ。」
「わたしも、一か月前に選ばれて改造されたの。」レリが怒りに満ちた声で叫んだ。「パ
パやママは、必死にわたしをかくまったわ。あいつらに見つからないよう、逃げて逃げて
逃げまくった。でも、見つかって手術台に運ばれたの。そして…こんな身体にされてしま
った。わたし…この身体が、大ッキライ!!」
ああそうか。美紗は合点がいった。だからレリは、遺伝子操作や生体実験に対して、あん
なにもナーバスだったんだ。

263 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:10:05 ID:SP5hwYbw]
「あいつらは、蜂女に改造されたわたしを洗脳して、あいつらに逆らったパパやママを殺
すよう命じたわ。わたしは何のためらいもなく、この胸の毒針を、パパとママに打ち込ん
だ。パパとママは、わたしの目の前で、わたしの名を叫びながら…溶けてしまったのよ!!」
レリは、顔を覆って激しく泣き始めた。ケンがレリの肩を抱きしめ、しきりに慰めている。
ブラド博士が、後を続けた。
「儂は、苦しむ人々をこんな世界から、救いたいと思った。儂は科学者として優遇されて
おったから、ある程度自由に動ける立場にあった。そこで連中に気付かれないよう、彼ら
若い改造人間を何人か、洗脳を解いて正気に戻し、密かにレジスタンスを組織したんじゃ。」
「博士は本当は、すべての改造人間を正気に戻したいと考えていたんだ。でも、俺たちの
ように改造されてから3日以内の者でなければ、正気には戻らなかった。かと言って正面
から普通の人間が革命を挑んでも、力の差がありすぎて歯がたたない。だから博士は、普
通の人間をこっそりと、他の平行世界に大量に逃亡させようと考えたんだ。」
ブラド博士は頷いた。「儂らレジスタンスの科学者たちは、超次元貫通理論を利用したワ
ープゲートを開発し、パラレルワールドのうち、サイバーヴィルの支配が届いていない世
界に向けてトンネルを築いたんじゃ。一度に大量に脱出させることはできんので、一回に
つき二千名。今までに既に三回、別の世界へのエクソダスを成功させてきた。この世界は、
4回目の挑戦なんじゃ。」
「…ええと、それはつまり…」美紗が、頭を整理しながら言った。「あなたたちはこの世
界に、サイバーヴィルという世界から二千人もの人間を脱走させようと考えているわけね。」
「その通りじゃ。」ブラド博士は、美紗の目を真顔でじっと見つめた。

264 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:12:04 ID:EIQkKNpe]
「お嬢さん。あなたに折り入って頼みがある。どうか彼らを、手伝ってやってはくれんだ
ろうか。我々はこの世界がどういうところなのか、よく知らぬ。彼ら3人にはこの世界の
百科全書をまるごと暗記させてあるので、歴史的な知識はあるんじゃが、この世界の一般
的な常識というのがまだまだ身についておらん。ましてや、逃亡してくる二千人の普通の
人間たちは、この世界ではまるで赤子同然じゃ。この世界で無用なトラブルを起こしては、
全ての努力が水の泡になってしまう。そこで彼ら三人には、エクソダスに先立ってこの世
界の調査を行い、脱出者たちがこの世界に適応できる最善の手段を見つけるよう、指示を
出してあるんじゃ。お嬢さん、どうか彼らに手を貸して、この世界のことを色々教えてや
ってはもらえんだろうか。」
「俺たちからもお願いします。香川さん!」
「美紗。わたしからもお願い。どうか力になって!」
真剣な4人のまなざしに取り巻かれて、美紗は戸惑ったが、やがてはっきりと答えた。
「ええ、喜んで。あなたたちの立派な行為に、わたしも全力で協力させていただきます!」
レリが、美紗に抱きついてきた。
「美紗! 美紗! ありがとう…」

ケンが不安そうに、ブラド博士に囁いた。
「ところで、さっきレリが倒したっていう、ANTタイプ改造人間なんですが…」
「うむ。おそらく哨戒中に、偶然ゲートに入り込んだんだろう。ANTタイプは遠隔通信能
力を持っておらんから、こちらの計画がバレたとは考えにくいが、念のため警戒しておい
た方がよさそうじゃな。よし! 儂はひとまず、レジスタンス本部に戻る。エクソダスの決
行は2週間後。それまでに君たちも、準備を整えておいてくれたまえ!」

265 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:13:05 ID:EIQkKNpe]
それから、美紗は毎日放課後になると富良戸研究所で、レリたちと行動を共にするように
なった。脱出してきた人々に配るため、この世界の常識、即ち文字や通貨や交通ルール、
社会の仕組みなどをわかりやすくまとめる作業を、毎日遅くまで行った。親友の法子には
「文化祭が終わったら途端によそよそしくなるなんて、どうかしてるよ!」と怒られたが、
気にしなかった。この作業は単純に正義感から行っているというより、美紗にとっては、
社会の中での自分の立ち位置を確認するような、大切な作業だと思われたからだ。
一般常識を文字にまとめるのと平行して、脱出してきた人々をどこへどう逃がすかについ
ても、4人は熱い議論を闘わせた。というより、レリたち3人が出す途方も無いアイディ
アを、美紗がひとつひとつチェックし、添削していったといった方が良いだろう。一番の
問題は、二千人もの人間をどこにどう収容するか、ということであった。
「やはり都会よりも田舎の方が、目立たないと思うの。いったん田舎に逃れて、そこで職
業訓練を行うべきよ。でも問題なのは、どうやって田舎まで二千人もの人間を運ぶかとい
うこと。ねえケン? いっそのこと、ゲートをこの館じゃなく、田舎のどこかに開くわけに
はいかないの?」
「…それが、駄目なんだよ、香川くん。この館に開いたのは、ほんとに偶然なんだ。一度
ゲートを閉じて、別の場所に開くことはできないんだよ。」
「え? どうして?」
「ゲートが、無限に存在するパラレルワールドのどこに開くかは、まったくランダムに決
められるんだ。今回はたまたま、この世界のこの館の中に開いた。けどもう一度同じこと
をしても、再びこの世界にゲートが開く確率は、限りなくゼロに近いんだよ。」
「そう、だからこそ、二千人の脱出が終わった後でゲートを閉じれば、もうサイバーヴィ
ルの追手はやって来れないってわけさ。ゲートが不安定なことは、むしろ感謝すべきなん
だ。」

266 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:14:06 ID:EIQkKNpe]
「…なるほどね。じゃあやっぱり、うまい移動方法を考えなければならないわけね。徒歩
で二千人もの人間がゾロゾロ歩いていたら、ゼッタイ不審な目で見られるし、だからとい
って電車やばすcに乗るお金はないし…!」
「ねえ美紗、この世界には“巡礼”って習慣があるんじゃないの?」
「…そうか。お遍路さんみたいに装えば、二千人が並んで歩いても不自然じゃないわね。
…あ! でも駄目よ。この辺には巡礼するようなお寺はないもの。」
4人は再び、考え込んだ。しばらくの後、美紗が急に何かをひらめいた。
「そうだ、みんな! “健康ウォーキング大会”を装えばいいのよ。みんなにゼッケンを
渡して、いかにも大会に参加中です、って感じにすれば、多少汚い格好でも、疲れてフラ
フラ歩いていても、誰も不自然には思わないはずだわ。」
4人はうなずき、さっそく二千人分のゼッケンを用意する作業が始まった。
「ねえレリ?」ゼッケンを縫いながら美紗が訊ねた。「あなたたち3人は、脱走が完了し
た後はどうするの?」
「…ゲートが閉じる前にサイバーヴィルに戻って、今度は別の世界への脱出を手伝うこと
になってるわ。」
「え!? それじゃあ、ゲートが閉じたらもう、二度と会えないってこと?」
「うん…」レリは寂しそうに言った。
「わたしも、この世界に残りたい。美紗とずっと一緒にいたい。でも、でも、私は人間じ
ゃないから…こんな身体だから。」
「レリ!」美紗は手を停めて叫んだ。
「身体なんて関係ない。改造人間だっていい。ずっと一緒にいよう! この世界で暮らそう!
だってわたしたち……親友だもの!」
「…美紗…嬉しい…!」レリは、涙をいっぱい溜めた目で美紗に抱きついた。



267 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:15:05 ID:EIQkKNpe]
「あと3日ね。」「後は俺たちがやるよ。最後は突貫工事になりそうだけど、頑張ろう!」
日がだんだんと短くなり、7時前ともなるとあたりは真っ暗である。ケンたちに見送られ
て、美紗は研究所を後にした。その姿を、館の屋上からこっそり見つめている奇妙な影が
あった。
「…ギギギ。なるほど、協力者がいたのか。こいつは、利用のしがいがありそうだ…」


翌日、担任の大谷先生にヤボ用を言いつけられて遅くなった美紗は、一人で研究所の門を
くぐった。庭に足を踏み入れたとたん、彼女は何物かに足を取られてころんでしまった。
「何? これ!?」自分の足にからみついている、白い糸のようなものに気をとられた美紗は、
上空からネットのようなものが自分めがけて落下してくるのに気付かなかった。
「キャアッ!!」白い糸でできたネットの中で、美紗は激しくもがいた。奇妙な人影が、彼女
の方に近づいて来た。六角形の目が3つ並び、巨大な大顎を備えた毛むくじゃらの顔。蜘
蛛男だった。
「ギギ。はじめましてお嬢さん。私はサイバーヴィルの治安管理局のものです。このたび、
この世界に向けて3級市民たちの脱走計画が目論まれていると聞いて、やって参りました。
つきましてはあなたに、首謀者の逮捕にご協力いただきたい。」
美紗はハッとした。サイバーヴィルの追っ手だ。早くレリたちに、このことを知らさない
と大変なことになる。美紗は大声で叫ぼうとした。だが…糸が喉にからみ付き、声が出ない。
「いけませんねぇ。そんなに暴れると、糸がどんどんからみつきますよ。なぁに、あなた
は何も考える必要はないんです。この毒針を身体に受けてくれれば、それでいい。」
蜘蛛男は美紗に向けて、口から何かをプッ! と発射した。首筋に鋭い痛みを感じ、美紗は
目をつぶった。針が刺さったとたん、身体がけだるく感じられ、感覚が次第に薄らいできた。

268 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:16:05 ID:EIQkKNpe]
蜘蛛男は、毛むくじゃらの手で美紗にからみついた糸をほどいていった。蜘蛛男の手で触
れられると、糸は次第に細くなり、消えていった。あとには、呆然とした表情で地べたに
座っている、美紗だけが残された。
「お嬢さん、質問に答えてください。脱走計画の首謀者は、全部で何人ですか?」
美紗の唇が、勝手に動いて答えた。
「…ブラド博士のほか、レリ、ケン、ロックの4人です。」
ダメよ! そんなこと喋っちゃダメ! 美紗の意識は必死に抵抗するが、身体の自由を奪い
命令通りに操る「催眠毒」を注射された美紗の身体は、蜘蛛男のなすがままになっている。
「で、博士はいまどこに? 残りの3名は?」
「博士はサイバーヴィルに戻っています。後の3人は館の中で、脱走の準備をしています。」
「よろしい。ではあなたには、この指輪をはめてもらいましょう。」
蜘蛛男は美紗の右手を取り、中指に針のついた指輪をはめた。
「この指輪の針には、改造人間の身体を麻痺させ、動きを鈍くする毒が塗られています。
あなたはこのまま反逆者3名に接近し、気付かれぬよう身体に針を刺しなさい。」
「…かしこまりました。」
ダメよ! ダメだったら! 美紗の意識は必死に抵抗したが、身体は蜘蛛男の命令通りに動き、
フラフラと立ち上がって館の方に歩み始めた。

269 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:17:49 ID:qevMHeuz]
「今日は遅かったんだね、香川くん。」
サイバーヴィルの言葉で書かれた手引書を手際よくホチキスでとめながら、ケンが話しか
けたが、美紗は無言で3人を見つめ、それから再び部屋を出てゆこうとした。
「わたし…お茶を入れてきます。」
「美紗! わたし、蜂蜜入り紅茶をお願いね。」
レリは美紗の態度に釈然としないものを感じながらも、明るい声でオーダーした。
しばらくの後、カップと紅茶のポットが乗ったトレーを持ち、美紗が部屋に戻って来た。
テーブルの上にトレーを置き、カップに紅茶を注いだ美紗は、ロックにカップを手渡しま
ぎわ、彼の指先に指輪の針を刺した。
「ウッ!」
ガシャン! ロックが思わず、カップを取り落とした。
「あーあ、何やってるんだよロック。」ケンとレリが思わず駆け寄った。
割れたカップを片づけようとするレリの手に、美紗の指輪が触れた。「痛ッ!」
「美紗ッ! 何だ、その指輪は!?」
指先を押さえながら、ロックが叫んだ。美紗はケンの身
体目がけて反射的に身を乗り出し、彼の脇腹に指輪を押しつけた。「うわッ!」
うずくまって苦しむ3人の中央に、呆然とした表情で立ち尽くす美紗。そこへ、4名の蟻
型改造人間を連れた蜘蛛男が入って来た。
「これはこれは、反逆者の皆さん。いい格好ですな。私からのプレゼント、気に入っても
らえましたかな? 」
「畜生ッ! 貴様ぁッ!!」
「あなたたちは今からサイバーヴィル本部に連行し、再び脳改造を受けてもらいます。そ
の後は、他の反逆者たちを捕らえるためのスパイとして活躍してもらいましょうか。」
「誰があなたたちの、言いなりになんかなるもんですか!」
「いけませんねえ。そんな態度では、五体満足のまま強制送還できそうにないですよ。」
蜘蛛男の命令で、4体の蟻型改造人間が3人に飛びかかった。

270 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:19:06 ID:qevMHeuz]
3人がその時、一斉に叫んだ。
「サイバーッ! 変・身!!」
3人の衣服がけし飛び、その身体が光に包まれた。蜘蛛男が毛むくじゃらの手で顔を覆っ
たとたん、光の中から蜂女になったレリが飛び出してきた。
レリは乳房をプルン、と震わせて、溶解毒の針を放った。1体、2体。蟻型改造人間がそ
の場でズブズブと溶けていった。
レリはさらに蜘蛛男に迫った。だが麻痺毒によって動きの鈍ったレリよりも、蜘蛛男の反
応の方が早かった。
ブシャアアアァァア!! 蜘蛛男は口から大量の糸を吐き、レリの身体をからめ取った。その
まま、レリごと糸を大きく振り回して、床に叩きつけた。
「キャアアッ!!」
レリが床に叩きつけられたショックで、テーブルがはね飛び、美紗を襲った。テーブルの
直撃を受けて勢いよく倒れた拍子に、美紗の首筋に刺さっていた蜘蛛男の毒針が抜けた。
蜘蛛男の背後に、緑色の人影が突然現れ、蜘蛛男をはがい締めにした。
「野郎ッ!」
「ほう、あなたはカメレオン男だったんですか。私の背後を取るとは、なかなかのもんで
すな。だが、背後に注意すべきなのはあなたの方です! 目に見えない罠も、あなただけの
専売特許ではない!」
カメレオン男の背後に張られていた、クモの網が彼めがけてからみついた。
「うわッ!」
たちまち身体の自由を奪われ、カメレオン男はもがいた。蜘蛛男はカメレオン男を振りほ
どき、その顔を足で踏んずけた。
「ケン! 大丈夫か!?」
ムチのように長く伸びた尻尾を振り回し、2体の蟻型戦闘員を毒針で倒した真っ赤な影が、
今度は蜘蛛男に向かって突進した。
「今度はサソリ男ですか。普通ならパワー負けしているところですが、今はそうはいかな
い!」

271 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:20:05 ID:qevMHeuz]
蜘蛛男はサソリ男=ロックの尻尾をやすやすとかわし、口から吐いた糸でその尻尾をから
め取った。
ロックの振り上げた腕を掴んだ蜘蛛男は、そのままロックとの力比べに入った。
「畜生ッ! 身体さえまともに動けば…!」
ロックの方が、徐々に押されてゆく。
美紗は、ようやく自由になった身体を鞭打つように動かして、糸でぐるぐる巻きにされた
レリに近づいた。
「レリ、レリ! ごめん! わたしがドジなばっかりに…」
「美紗ッ! 正気に返ったか!」ロックが叫んだ。
「いいか、俺たちはこいつには勝てない! お前に頼みがある! ゲートコントローラーの中
央にある赤いレバーを左にひねって、ゲートを閉じてくれ!!」
閉じる!? 美紗は、ロックの言っていることが信じられなかった。
「ダメよ! ゲートを閉じたら、脱出計画が無駄になっちゃう!」
「馬鹿ッ! サイバーヴィルに気付かれたんだ。ゲートを開けておけば、いつ奴らがこの世
界を侵略するかわからないんだぞ! ゲートを閉じれば、もう奴らはこの世界には来れなく
なる。早く! 早く、ゲートを閉じるんだ!!」
「させませんよ、そんなことは!」
蜘蛛男が美紗めがけて、糸を吐こうとした。その時、蜘蛛男の足元にいたカメレオン男=
ケンが、長い舌を伸ばして蜘蛛男の顔を覆い尽くした。
「早く! 早く行くんだ!!」
糸に撒かれたレリも、うめきながら美紗に向かって言った。
「美紗…早く…行って!」
美紗は、裏庭に開いているゲート目がけて駆け出した。

272 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:21:05 ID:qevMHeuz]
サイバーヴィルへと通じるゲートは、裏庭の納屋の脇に開いていた。6つの機械が立ち並
ぶ中央に、周囲の風景が溶けたかのように渦巻き流れている奇妙な空間があった。ぶおん
ぶおんと、奇妙な音が空間から聞こえてくる。その傍らにある納屋の中に、ゲートをコン
トロールする機械が納められていた。美紗は扉を開けて薄暗い納屋の中に入り、ロックが
言っていたレバーを探した。中央にある巨大な赤いレバーはすぐに見つかった。
美紗は、渾身の力を込めて、レバーを左にひねろうとした。だが、固くてなかなか動かな
い。
館の方から、鋭い悲鳴が聞こえた。急がないと、蜘蛛男が現れる! 美紗は全身の体重を掛
け、必死にレバーを倒そうとする。
納屋の扉をガタガタ揺する音が聞こえる。扉を開け放ち、蜘蛛男が入って来た。
「さあ、お嬢さん。こっちに来なさい。」
「いやあ!!」
蜘蛛男の手が美紗の腕を掴み、引き寄せた。その瞬間。レバーはぐぐッ、と動いて左側い
っぱいに倒れた。
ゲートから流れていた、奇妙な音がやんだ。
ゲートが完全に閉じたらしい…。

273 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:22:05 ID:qevMHeuz]
… … …

美紗は、しばらく気を失っていたらしい。気がつくと、目の前には蜂女の姿をしたレリ、
カメレオン男ケン、サソリ男ロック、それに蜘蛛男の4人が並んで立ち、美紗に対して拍
手を贈っていた。
「よくやったよ、美紗。」「おめでとう!」「おめでとう!」
起き上がった美紗は、わけがわからないといった風に首を何度も振った。
「え?…え?…一体、どういうこと?」
「それは、儂が説明しよう。」蜘蛛男が顔の前で手をクロスさせた。そこに現れた顔は…
…何と! ブラド博士のものであった。
「博士!? 博士が…蜘蛛男? それじゃあ、今のはみんな、芝居だったんですか!?」
「さよう。すべては君にゲートを閉じてみらうための、茶番劇だったわけじゃ。」
「…いったい…なぜ? …どうして!?」
「まず第一に、儂は博士などではない。サイバーヴィルの、異世界侵略先遣隊の隊長、
《ブラドspd8029+》じゃ。」
「えっ!?」侵略先遣隊? 美紗の背筋に、冷たいものが走った。
「君にこのゲートを閉じてもらったのは、こういうわけじゃよ。2種類のパラレルワール
ド間に偶然開いたゲートは、一箇所きりで、しかも不安定なものじゃ。だが2つの世界が
干渉した場合はその限りではない。一方の世界の住民が、開けようという意思を持ってゲ
ートを開け、もう一方の世界の住民が、閉じようという意思を持ってそのゲートを閉じる。
これで2つの世界は干渉し合い、以後、2つの世界は互いに隣り合う密接な関係に置かれ
る。いつでも、どこでも、自由にゲートを開けられる状態になるというわけじゃ。」

274 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:23:44 ID:LqoHmuOQ]
「あと数日後に、この世界のあちこちにゲートを開けて、サイバーヴィルの侵略部隊がや
って来るわけさ。」ロックが冷たく笑いながら言った。
「君はじゅうぶん、我々の期待に応えてくれたよ。君がいなければ、こうも早く侵略が開
始できるとは思わなんだ。まったく、たいした娘さんじゃわい。ワッハッハッハ!!」
「…非道い! 非道いわ! わたしを…だましてたのね!!」
美紗は怒りと絶望と悲しみで、胸が張り裂けそうになっていた。
「レリ!! あなたも、わたしをだましてたのね! わたしに言ったこと、みんな嘘だったのね!!」
「…嘘じゃないわ、美紗。」レリは妖しい笑みを浮かべながら、美紗に近づいた。
「嘘つき! 近寄らないで! この大嘘付き!!」
レリは美紗に顔を近づけ、こう言った。
「少なくとも、わたしがあなたのことを親友だと思ってるのは、本当のことよ。」
「何が親友よ! 嘘つき! 嘘つきィッ!!」
レリは、ブラドに何か耳打ちした。「よかろう。」ブラドが言った。
「美紗くん。君の活躍のおかげで、我がサイバーヴィルはこの世界の侵略に着手すること
ができる。お礼と言っては何だが、君を我々改造人間の仲間に加えてあげよう。君のその
美貌と行動力。じゅうぶんに改造人間になる資格があるよ。」
ロックとケンの二人が、ミサの腕を掴んで身体を拘束した。
「さあ、美紗くんを改造手術室に運びたまえ。」

275 名前:BeeF mailto:sage [04/11/21 01:24:32 ID:LqoHmuOQ]
美紗は目の前が真っ暗になった。必死で泣き叫び、足をジタバタさせて抵抗した。
「嫌よ! 改造人間なんて嫌ッ! やめて! お願い! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だァッ!!」
手術室と書かれた部屋に運ばれた美紗は、ハサミを手にしたレリによって衣服をすべて脱
がされ、その美しい肢体を円形の改造手術台に固定された。
レリが、美紗の脇腹を撫でながらつぶやいた。
「美紗、好きよ。…最初から目をつけてたの。わたしの恋人にするのは、この子だって。」
「えっ!?」その言葉に美紗は驚いた。
「改造人間は子孫を残せないって言ったでしょう? あれはウソ。同じタイプの改造人間の
間なら、子供を作ることができるのよ。あなたは、わたしの恋人になってわたしの卵を産
む。そして、わたしはあなたの卵を産むの。どう? 素敵でしょう!」
美紗の頭の中は、早鐘をつくように何かがガンガンと鳴っていた。もう、すべてが混乱し
て何が何だかわからない。
「それでは今から、改造手術を執り行おう。君はこの世界における、記念すべき最初の改
造人間になれるんだ。光栄に思うがいい。レリの頼みで、君にはBEEタイプの改造人間にな
ってもらうことにする。これからは香川美紗ではなく、《ミサbee0001tr》と名乗るがい
い。ワッハッハッハ!!」
「イヤっ!! やめてェッ! 改造人間なんてイヤだぁッ!! お願い! 助けて! ママ! ママ!」
美紗の身体の両側に、遺伝子活性化光線を照射するライトが幾つも現れた。色とりどりの
ライトが明滅し、美紗の意識はだんだん薄らいでいった。彼女が人間として最後に見たも
のは、蜂女の姿をしたレリの、小悪魔のような笑みであった。
                                  (おわり)






[ 続きを読む ] / [ 携帯版 ]

前100 次100 最新50 [ このスレをブックマーク! 携帯に送る ] 2chのread.cgiへ
[+板 最近立ったスレ&熱いスレ一覧 : +板 最近立ったスレ/記者別一覧](;´∀`)<500KB

read.cgi ver5.27 [feat.BBS2 +1.6] / e.0.2 (02/09/03) / eucaly.net products.
担当:undef