- 594 名前:人間七七四年 mailto:sage [2017/02/11(土) 22:23:11.24 ID:6M6UdOVU.net]
- 松平上総之助忠輝卿は大神君の九男であり、越後高田六十万石の領主である。
あるとき忠輝卿は自領の名生村へ出かけ、漁を見物することにした。 集められた千人の漁師たちは「殿様が見てるなら」と秘術を尽くして網を引いたため、 魚が浜を埋め尽くすほどの大漁。 忠輝卿もおおいに機嫌が良くなり、魚を料理させた上で家臣と漁師に酒をぞんぶんにふるまった。 おかげで一同、大騒ぎした上で酔い潰れてしまったのだが、 村の住人である庄左衛門、異名を“今猩々”という男だけが素面である。 これを見て奉行、「お前は下戸なのか、なぜ飲まないのだ」と問うと、 男「酒は大好きなのですが、いくら飲んでも酔わないのです。 今日もせっかくの心遣い、存分に飲もうと思って何杯かいただいたのですが(酔えず)、 酒が尽きたのか持ってくる人もいなくなってしまいました」という答。 これを聞いて奉行、せっかくみんな楽しんでいるのにこの男だけ酔えないとは気の毒だと思い、 残りの酒を三、四斗ほどをかき集めて飲ませた。 奉行「満足しましたか…(小声 男「もうちょっと飲めば酔えたんですけどね」 奉行「えぇ…」 しかし酒も尽き、忠輝卿も帰城することになったので、話はここまでとなった。 後日この話が評判となり、聞きつけた忠輝卿が 「さてさて不思議なことだ、こやつがどれだけ飲めるのか調べてみよ」と仰せになったので、 男を城へ呼び寄せて饗応することになった。 次の間に通された男、次々に運ばれてくる酒を飲むわ飲むわ、 六斗まで飲み干したところで「ありがたき幸せ、私は生まれてこのかた酔ったことはありませんでしたが、 お殿様のおかげで今日こそは満足しましたぞ」と言い、遂に酔った様子を見せる。 役人が「そりゃ良かった、では少し酔いをさまして帰りなさい」と伝えると、 小唄などうたってご機嫌の男、「かしこまった」などと言い、床の間の縁を枕にグーグー寝てしまった。 これを障子の隙間から見ていた忠輝卿、 「あのような小男がいくら酒を飲んでも酔わないとは不審なことだ。気の毒だが殺せ」 「えっ」 「殺して腹を割き、酒があるか確認せよ」 お殿様の言うことなので誰も逆らえず、哀れ男は殺されてしまった。 家臣たちは男の腹を割き、ついでに手足もバラバラにしてみたが、酒の痕跡は一滴もない。 これはおかしいとよく調べると、男の両脇の下に一寸ばかりの瓶が見つかり、そこから酒の匂いがただよってくる。 忠輝卿、これを打ち砕いてみよと命じるも鉄石のごとき固さで歯が立たず、そのうち口から酒がこぼれてきた。 その酒をあけてみると、一瓶につき三斗、併せて六斗が入っており、 逆に出てきた六斗ぶんの酒を瓶に戻すこともできた。 これを見た忠輝卿、この世にふたつとない宝を得たといって喜び、猩々瓶と名付け、 その後は身から離さず持っていたという。 〜掃聚雑談 捨て童子さんのちょっと悪い話
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