- 36 名前:人間七七四年 mailto:sage [2016/08/24(水) 04:21:00.00 ID:QmNZSZ0d.net]
- 中川修理太夫秀重(秀成)の家来・赤座七郎兵衛は鉄砲頭である。赤座の妻の
弟に村井津右衛門という浪人がいて、彼は赤座のところにいた。 岡城は険阻な地理で諸士の居宅はここかしこにあって続かず、10町ほど家から 離れたところには墓場があった。いつの頃からかこの墓場で、雨風の夜に物の 羽撃きと鳴く声がするようになった。 そのため化物が出て来たと言い広められ、農商女童はたいへんこれを恐れた。 こうして数日が過ぎた時、村井はある所に行って夜に入り、帰ろうと言った折、 雨風は激しく、夜も更けていた。 その帰路は前述の墓場を過ぎる所だったため、その座中の人々は、「きっと、 最近の化物が出るだろう。とにかく、ここに泊まりなされ」と、村井を止めた。 村井は「何の思慮も無く粗忽な言葉だな。こう言われては泊まるべきだろうか」と、 心中で思ったが、なんでもない体で「赤座に必ず帰ると申したので、寝ずに待って いるでしょうから」と言って、帰った。 ところが、村井が墓場近くに来ると、羽撃いて鳴く音が聞こえた。村井は、「さては 事実だったか!」と思い、その声に従って歩み寄ったが風の絶え間に声が止んだ。 彼がこの辺だろうと声のした所に近づくと風が吹くと同時に“はたはた”“ひょうひょう” と言って、頭の上に何かが掛かった。村井は前もって、「斬らずに捕らえてやる」と、 覚悟していたので、これを捕らえ手探りして見た。 すると、それは竹の子笠で、墓場の竹垣に掛けて置いてあったものだった。これを 外すと風が吹いても声はしなかった。村井はこれを取って帰り、とっくに寝ていた 赤座を起こして、「私は今夜、かの化物を斬り留めました」と言った。 赤座が「それは奇怪なことだな」とその事を問うと、村井は人を退かせて、「こうこうの 首尾です」と、言った。これを聞いた赤座は、「事実は言うな。単に斬り留めたという ことにしろ」と言って、次の日に人に会いこれを語った。 つまり“はたはた”という音は笠が垣根に当たる音である。“ひょうひょう”という声は、 笠にさえぎられた風が、垣根の竹の穴に激しく当たる音である。 その後、羽撃きも鳴く声も無かったので、人は村井が斬り留めたのだと信じた。 世上で妖魔などと言い伝えるものは、その実を正せば皆竹の子笠の類なのだろう。 ――『武将感状記』
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