- 1 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:05:09.25 ID:SMpkYSYZ0.net]
- カメラに出会ってから、人生が大きく変わった男のお話です。
良ければ聞いてくださいな〜。
- 2 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:20:08.37 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 高校時代に親からカメラを貰ったことが全ての始まり。
そのカメラは、当時はプロからも注目を集めるような本格的なものだった。
- 3 名前:名も無き被検体774号+ mailto:sage [2021/08/19(木) 12:20:17.54 ID:PEyFzFShM.net]
- 聞かせて!
- 4 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:20:34.78 ID:SMpkYSYZ0.net]
- そんな本格的なものを、カメラに興味のない俺に渡しちゃっていいのか、と親に聞く度に
「いつか思い出した時に一枚撮ってみるだけでいい。カメラはいつか不思議な出会いをくれるものなんだよ。」 と親は俺に言い聞かせたんだ。 その言葉の意味が微妙にわからなかった俺は、 やっぱり高校時代にはそのカメラを使う機会がなかったんだ。
- 5 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:21:57.86 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 俺がカメラを初めて使ったのは、
大学で新しい友達も作り、楽しい大学生活を謳歌していた頃のことだった。 高校からの友達と大学からの友達を含めた 7人くらいのグループで東京に旅行へ行った時のことだね。
- 6 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:23:49.26 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 当時秋田県に住んでいた俺たちは皆、東京に行く機会なんてなかったからワクワクしてた。前日に皆で集まって話し合ったりしてさ。
免許を持っているやつが車を運転し、 二両編成で高速道路を乗り継いで東京まで車を走らせた。車内はまるで修学旅行のバスみたいに盛り上がってた。
- 7 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:24:21.10 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 東京に着いた時の衝撃は今も忘れられない。
テレビで見るよりもよっぽど高いビル郡の影が 俺たちを一瞬で飲み込んだんだ。
- 8 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:24:49.81 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 正直不安に思ったな。
地元にあるような田畑や山、海が一切見えないんだから。だけど、強敵を相手にした漫画の主人公のように、俺たちはさらにワクワクしていた。
- 9 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:25:14.14 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 車の窓から見える異国のような世界に
みんなで騒ぎながら、東京駅へ向かった。
- 10 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:25:37.70 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 俺は詳しく無かったのだが、グループの中に
鉄道好きが3人ほどいたんだ。 そいつらの 「東京駅は見ておきたいんだ!」 という頼みで、まずは東京駅近くを観光することにしたんだ。
- 11 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:27:35.83 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 鉄道に詳しくない俺でさえ
いざ東京駅を見てみると、その洋風な造りの 地元では見れないようなお洒落さに圧倒された。 そうした頃、東京駅前の広場に皆が集まったんだ。生の東京駅に興奮した鉄道好き達を宥めながらね。
- 12 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:27:58.90 ID:SMpkYSYZ0.net]
- そこで、東京駅をバックに
写真を撮ることになったんだ。
- 13 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:28:41.54 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 高校時代に親から貰ったカメラ、ものすごく大切にしていたから、この旅行にも持ってきていたんだ。
カメラに興味はなかったが、親から貰ったから ものすごく大切にしていた。いつも持ち歩いていたよ。お守りのようなものだったんだと思う。
- 14 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:29:09.56 ID:SMpkYSYZ0.net]
- カメラを取り出し、
「みんなー!撮るぞー!」と グループのリーダーのようなやつ(名前は智樹) が言いかけた。
- 15 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:29:29.01 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 俺「ちょっとまってくれー!」
俺「カメラ持ってるんだ。そのカメラで撮らせてくれないか?」
- 16 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:29:43.42 ID:SMpkYSYZ0.net]
- と、思い出したかのように言った。
親から貰った大切なものを初めて使うという 勿体なさはあったが、カメラがどんなものなのかも気になっていたからね。
- 17 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:30:06.18 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 俺の取り出したカメラを見て、智樹が
智樹「おい1www カメラ興味あったなら早く言えよwww すげぇじゃんそのカメラ!」 と驚いていた。 やっぱり、プロも使うような本格的なカメラ というのは本当だったらしい。 鉄道好き兼カメラ好きの智樹が言うなら間違いはなかった。
- 18 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:30:27.42 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 俺「興味はないんだけどね。親から貰った物だから大切にしててさ」
智樹「羨ましいよ〜。なぁ1、良ければお前も写真始めてみないか?」 俺「ふ〜ん、写真ってそんなに面白いものなんだな。考えとくよ。じゃあ撮るよー!」
- 19 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:30:46.03 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 智樹がそんなに言うほど面白いんだな、
たまに撮ってみてもいいのかもな、とその時は軽い気持ちでいた。 そう考えながら皆の前に立った。 カメラマンって緊張するんだなぁ。
- 20 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:30:58.55 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 横一列にに並んでポーズを取る皆にカメラを向け、慣れない手つきでシャッターを切った。
- 21 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:31:14.72 ID:SMpkYSYZ0.net]
- カメラの重み、シャッターの重みは
すごく印象的だった。
- 22 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:32:20.63 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 一瞬の風景を切り取るという行為の楽しさも、写真を撮る瞬間だけで伝わったのかもしれない。
おぉ、これは凄い…。 元々俺はカメラに惹き込まれやすいのかもしれない。親は父母とも昔からカメラ好きだったからその遺伝かもね。 だけど、シャッターを切る1秒にも満たない時間で、なにか物事に魅力を感じたのは生まれて初めてだった。
- 23 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:33:40.04 ID:SMpkYSYZ0.net]
- シャッターを切る音、
何かを写真に収めること、 そういうことに魅力を感じたんだと思う。 カメラの魅力は、一瞬で俺を飲み込んだ。 田舎者を飲み込むビル郡の影よりももっと速いスピードで。
- 24 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:34:27.07 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 今撮った写真は、初心者ながらも綺麗に撮れていた。このカメラのおかげだと思うけどね。だけど、俺が撮った初めての写真としては上出来だったと思うよ。
- 25 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:34:50.56 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 智樹「おぉ、やっぱ才能あるんじゃないか?めちゃくちゃ上手く撮れてるじゃんwww」
俺「そうかな、このカメラのおかげだと思うけどねwww」 智樹「いやいや、初めてなのにここまで上手く取れるのは珍しいよ。」
- 26 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:35:10.97 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 初めてシャッターを切った余韻がまだ残りつつも、智樹に褒められてかなり嬉しかった。
- 27 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:35:48.05 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 智樹「なぁ、そんなに上手いんだし、いいカメラも持ってるんだ。俺のいるカメラサークルに入ってくれないか?」
俺「うん。入ってみようかな。」 智樹は唖然としていた。 俺が誘いを断ることを前提にダメ元で言ったんだろう。
- 28 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:44:06.81 ID:SMpkYSYZ0.net]
- だが、カメラに興味を持ち始めた俺は
仲のいい智樹がいるカメラサークルは活動しやすいかな。と本気で考えていた。
- 29 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:44:35.71 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 智樹「えー!ほんとにいいのか? 俺は嬉しいんだけどさ、1が誘いをこんなすぐに受けるなんて珍しいなwww」
俺「初めてカメラで写真を撮ったからかもしれないけどさ、凄く魅力的に感じたんだ」 智樹「それはカメラ好きとして嬉しいなぁ。メンバーは少ないけど、早速連絡しておくよ!」
- 30 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:44:50.03 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 智樹は本当に嬉しそうだった。
驚き混じりで俺の写真をもう一度見て 「やっぱりすげー」とか言ってくれていた。
- 31 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:45:26.17 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 大学に入学する前から、智樹がそのカメラサークルに通っていたことは知っていたが、そこまでカメラ熱心になっていたことは知らなかった。
そして、一番驚いたことは 何かに熱心になることがあまりない俺が、 カメラの魅力に気付いたことだった。 しかもシャッターを切る一瞬で。
- 32 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:45:47.17 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 旅行から帰ってからは、智樹の招待で
サークルに通い始めた。
- 33 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:46:11.25 ID:SMpkYSYZ0.net]
- やっぱり俺のカメラは本格的な物らしく、
先輩たちにも 「1の親ってカメラマンでもやってるのか?」と聞かれることが多かった。 メンバーは俺と智樹を含めると6人だった。 他の4人は全員先輩。だけど、凄くアットホームな感じで1週間も通えば先輩とも仲良くなっていた。
- 34 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:46:32.67 ID:SMpkYSYZ0.net]
- それからはカメラ初心者の俺に、
智樹と先輩たちがカメラの基本を教えてくれた。 風景を撮る時のコツ、カメラの構え方や種類など、詳しいことまで優しく教えてくれた。
- 35 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:47:15.93 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 智樹に言われた通り俺にはカメラの才能が
あったのか、飲み込みも比較的早く、 教わって数日で先輩たちにも褒められるような写真が撮れるようになっていた。 やっぱり自分で撮った写真を褒められることは嬉しいんだよね。
- 36 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:47:38.46 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 大学の窓からの景色、そこら辺に生えてる花、
などのありふれたものでも、写真に収めることに楽しさと感動を覚えるようになった。
- 37 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:49:09.69 ID:SMpkYSYZ0.net]
- サークルに入ってから一年がたった頃も
相変わらず智樹や先輩たちと写真を撮り続けていた。 すっかりサークルに馴染んだ俺は、休日には 仲のいい先輩と2人で、写真を撮るために少し遠出したこともあった。
- 38 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:50:15.48 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 俺たちのサークルの野外での活動場所は、主に
地元にある「五能線」というローカル線だった。旅行好きや鉄道好きはよく知ってると思う。今でもかなり有名なローカル線だよね。 たまにサークルメンバー全員で 東能代駅から電車に乗り、窓から見える自然を 写真に撮ったりしていた。
- 39 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:50:40.16 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 夏にはセミの鳴き声を聴きながら
日光で白く光る海を撮ったり、途中で降りて 海で遊んだり。 冬には白く染った山々をホームから撮りながら、 コンビニで買った肉まんを雑談しながら食べて温め合う。
- 40 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:51:07.83 ID:SMpkYSYZ0.net]
- そんなのんびりとしたカメラサークルで
過ごす日常が、かけがえのない物となって行った。
- 41 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:51:21.96 ID:SMpkYSYZ0.net]
- そうしてるうちに俺と智樹は大学三年生になった。卒業した先輩たちもOBとしてたまにサークルに顔を出してくれる。
俺たちも勉強や就活のことも考えなければいけない時期だ。
- 42 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:51:38.99 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 前より皆で集まる頻度は少なくなったが、それでも週末には五能線に乗って写真を撮りに行った。
2ヶ月に一度くらいの頻度では 先輩含むかつてのメンバー全員が集まることもあり、相変わらず楽しい時間を過ごしていた。
- 43 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:51:53.23 ID:SMpkYSYZ0.net]
- やっぱりこのサークルは変わらないなぁ。
あの時智樹に誘ってもらって良かったなぁ。 と心から思う。
- 44 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:52:08.34 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 俺が事故を起こしたのは大学三年の夏だった。
- 45 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:52:51.01 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 去年免許を取った俺は、軽のワンボックスに乗りながら高速道路を走っていたんだ。
1泊2日の一人旅。 栃木と群馬の方に写真を撮りに行くためにね。
- 46 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:53:42.09 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 途中でサービスエリアに入ろうと
曲がった時だったかな。 後ろから猛スピードで車が突っ込んできた。
- 47 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:53:59.21 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 追突だったらまだしも、俺の車が曲がりかけて
ほぼ横になっていた時だったから、 運転席の真横から大きな衝撃をくらった。 それが良くなかったんだろう。俺の車も相手の車も大破し、頭から血がダラダラと流れる感覚がはっきりと分かったところで、意識が無くなった。
- 48 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:55:06.19 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 病院で目覚めたのは事故から一週間とちょっと経った頃だった。
本当に、死ぬかもしれないような大きな事故だったらしい。 全身の至る所の外傷も酷く、目を覆いたくなる程の数の骨折や打撲もしていた。一時期は集中治療室に入って生と死をさまよっていた。
- 49 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:55:27.00 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 意識が戻ったと聞いて駆け付けた
親とサークルの先輩たち、そして智樹も 大泣きしていた。本当に良かった、と。 俺は、こんなに自分のために泣いてくれる 親と友人を残して死ななくて良かった、と ひとまずは安心していたんだ。
- 50 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:56:11.16 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 医者から話を聞いたのは、
何とか痛みも治まってきて、落ち着いて話ができるようになった、事故から二ヶ月経った頃だった。
- 51 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:56:36.55 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 大怪我だったものの、このまま回復して
リハビリも進めればこれからの生活にも支障が出ないらしい。本当に奇跡だった。 右腕の麻痺を除けば。
- 52 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:56:50.35 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 普通の生活を送るには気にならないほどだが、
後遺症として少しの麻痺が残ると医者は言っていた。 重いものが少しだけ持ちにくくなったり、手が たまにほんの少し震えるだけ、らしい。
- 53 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:58:33.34 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 一緒に話を聞いていた
俺がカメラ好きだと知っていた親も、 智樹も、先輩たちも、絶句していた。 この場にいる全員が、写真を撮るためには 腕がどれだけ大切な物かを知っていたからね。 カメラは少しの震えも失敗に繋がるんだ。 俺も、カメラで写真を撮ることくらいは何とかできるだろうが、以前のように他者に褒められるような美しい写真はもう撮れないんだと察した。
- 54 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:58:56.63 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 医者も、俺が写真を撮るということは
知らなかったんだろう。俺たちを安心させようとして言ったのだろうが、その言葉に深く傷つく俺たちに申し訳なさそうにしていた。 その話を聞いた頃には秋になっていた。 窓から見える紅葉も、前は綺麗に撮れたんだろうな、と思うと涙が止められなかったんだ。
- 55 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 12:59:26.50 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 俺に突っ込んできた車の運転手は、
アルコールが入っていて居眠りをしていたんだって。 山のように入ってきた慰謝料も、今の俺には ただの紙くずにしか見えなかった。
- 56 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 13:03:59.15 ID:SMpkYSYZ0.net]
- これから話すのは、
事故で写真が撮れなくなった俺が 再び乗った五能線で不思議な出会いをした話。 良ければ付き合ってください(笑) ゆったりとした文になると思いますが。
- 57 名前:名も無き被検体774号+ mailto:sage [2021/08/19(木) 13:16:59.20 ID:M9+ghVmS0.net]
- なろうでやれ
- 58 名前:フシアナ [2021/08/19(木) 13:37:16.65 ID:oqUhgavAd.net]
- 支援
続きよろしく
- 59 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:34:05.23 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 事故から3年が経った。
俺は大学を卒業し、気づけば24歳になっていた。 事故当時は、必死にリハビリをして 少しでも後遺症を抑えようとしたけど、 腕の麻痺はやっぱり残ってしまったんだ。
- 60 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:34:28.99 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 医者の言う通り生活に支障は出なかった。
バイト先や大学で俺の後遺症を知っている人が多かったため、重いものを持つ時などは人が手伝ってくれることが多かったから不便はしなかった。 だけど、もう一度写真を撮ることは叶わなかった。少しの腕の震えで、以前のように美しい写真を撮ることは出来なくなった。
- 61 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:34:46.30 ID:SMpkYSYZ0.net]
- だから、事故をしてから写真を撮ることは少なくなった。正確に言えば写真を撮ることを辞めたという方が正しいかな。もちろん、サークルに顔を出すことも無くなった。
とは言っても、写真を撮る目的ではサークルに行ってないと言うだけで、智樹や先輩たちとはよく飲みに行く。交流はまだ続いていたんだけどね。
- 62 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:35:19.16 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 事故のあとも智樹や先輩は写真を撮ることをを続けていたのは知っている。だけど、俺の事を気遣ってか、皆で飲んでる間もカメラの話題はあまり出なかった。
かつてカメラについてを教わり、一緒に写真を撮るために各地を駆け回った人たちと、カメラのことを話せないのは辛かった。
- 63 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:35:40.13 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 「もうお前は写真を撮れないんだ」って
誰かに言われてるような感覚に常に襲われていた。本当に、写真を撮れないことは辛かったんだ。
- 64 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:36:36.98 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 大学卒業後は実家に戻った。
父と母、そして俺を支えてくれる弟と生活するのは楽しかった。 だけど、俺は大学を卒業してから一年は経つものの未だに仕事を見つけられずにバイトだけをしていたんだ。 だけど、俺を怒るような人は誰もいなかった。 俺の仕事探しをサポートしてくれるような優しい家族だった。
- 65 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:36:57.94 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 写真を撮ることを辞めても、以前のように
カメラはお守りとして持ち続けた。 バイトに行く時に持ち歩くリュックの中にも必ずカメラは入っていた。 だから、不安なことや辛いことがあればカメラを触るようにしていた。 カメラを触っているだけで、カメラが「写真を撮れなくなったことに比べればそんな悩みどうってことないだろ?」と俺に教えてくれるような気分になるからね。
- 66 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:37:20.73 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 事故から3年は経ったが、それでも
俺に払われた慰謝料はまだ尽きなかった。 だけど、俺の怪我と引き換えに貰ったような金で家族と一緒に生活するのはあまりいい気持ちではなかった。 だから、金には困っていないものの 俺と弟はバイトをしていた。 弟はまだ大学生だったからバイトをするのは当然なんだけどね。
- 67 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:37:51.71 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 俺がバイトをするのは、慰謝料だけで生活をするという気分の悪さと、いい歳して職も見つけられない申し訳なさが理由だった。
だから、職が見つかるまではバイトだとしても全力で働こうと心に決めていたんだ。
- 68 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:40:35.50 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 俺のバイト先は駅近くの大通りにある
カフェだった。コーヒーが美味しいと地元では結構人気なカフェで、客もそこそこ多かった。 そのカフェのマスターがものすごくいい人でね。 いい歳した俺にもかなりの額の給料をくれたし、賄いにしては高そうなものも快く作ってくれた
- 69 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:41:05.18 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 職探しの合間にバイトをしてるだけの俺が言うのもアレだけど、そんなマスターとカフェが俺の自慢のバイト先だったんだ。
- 70 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:41:24.05 ID:SMpkYSYZ0.net]
- そうして職を探しながらバイトもしていると、
今年もあっという間に夏が来る。夏が来ると カメラサークルで五能線に乗り、海を撮ったことを思い出してしまい少し辛いんだけどね。 そんな24歳の夏にいつも通りバイトをしていた時の事だった。バイトを終え帰ろうとしている俺をマスターが引き止めた。
- 71 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:41:41.57 ID:SMpkYSYZ0.net]
- マスター「ちょっと、1くん、話があるんだ」
俺「はーい、なんでしょうか?」 マスターは、何か良い事を伝えるような笑みを浮かべながら俺を手招きした。
- 72 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:42:40.97 ID:SMpkYSYZ0.net]
- マスター「1くんに夏休みをあげようと思うんだ」
俺「夏休み?去年はなかったですよね」 俺はここで去年からバイトをしているが、 去年の夏はバイト三昧で休みも少なかったから驚いた。
- 73 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:43:18.38 ID:SMpkYSYZ0.net]
- マスター「今年から店員が増えただろ?だから、人数に余裕があるんだ。」
マスター「だから今年の夏はAチームとBチームに別れて、片方のチームが働いている時には片方のチームに夏休みを楽しんでもらおうと思ってね」 俺「なるほど、俺もう学生じゃないのにそんな休み頂いちゃっていいんですかwww」 マスター「だからこそだよ。もう経験できない夏休みを楽しんでみるのもいいんじゃないか?」 マスター「それに、働いてくれる時はいつもより給料もアップするつもりだよ」
- 74 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:43:46.19 ID:SMpkYSYZ0.net]
- マスターはそう言うと、都合のいい日を聞いて
俺をAとBのどちらのチームに配属するかを決めてくれた。俺は先に働くAチームになった。 マスターの言う通り、働いてばかりではなく 休みも必要だ。職探しも捗るだろうしね。
- 75 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:44:12.29 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 店員の数が増えた今、そういう工夫で休みをくれるマスターに感謝した。
もちろん、夏休みのその前に2週間みっちりと働かなければならないのだけど。
- 76 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:44:36.31 ID:SMpkYSYZ0.net]
- それから2週間必死に働いた。
写真のことも忘れるほど忙しい日々も今の俺には必要だった。 二週間を必死に働いたおかげか いつもの二倍にも近い給料を貰って、 念願の夏休みが始まろうとしていた。
- 77 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:45:19.84 ID:SMpkYSYZ0.net]
- この夏休みを利用して職探しを進めようと
思ったんだが、それまでにこんなに働くことになるとは思っていなかった。 少しは休んでもバチは当たらないだろうと思った俺は、職探しも視野に入れつつ、2週間の夏休みを存分に楽しむことにした。
- 78 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:47:03.28 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 夏を迎えると、やっぱりカメラのことや
サークルのことを思い出してしまう。 今目の前に広がる大きい入道雲とか、 緑の葉の隙間から差し込む陽の光を 写真に収めたらいい物が取れるんだろうな、とかね。色んなことを思い出してしまうんだ。
- 79 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:47:34.12 ID:SMpkYSYZ0.net]
- だけどもう写真を撮れなくなった俺には
そんな思い出なんか必要なかった。 何をするにも思い出してしまうことが辛くて、職探しにも力が入ってなかったのかもしれない。 だからその時の俺は、 どうせならこの夏休みを写真を忘れるために 使おうかな。と思ったんだ。
- 80 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:48:03.91 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 後遺症の残る腕でまたカメラを握れば、
さぞ酷い写真になるだろう。 そんな酷い写真を見れば、「もう俺に写真を撮ることは許されていないんだ」とキッパリと忘れられると思った。失恋した学生がその気持ちを捨てるために告白するような感じかな。
- 81 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:48:31.02 ID:SMpkYSYZ0.net]
- カメラのことやかつての思い出のことを忘れて諦めを付ければ、きっと職も見つかるし何事も上手くいく。本気でそう信じていたんだ。馬鹿だよね。
だけどそんな馬鹿な考えが 俺の24歳の夏休みを彩るフィルターとなった。
- 82 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:48:57.49 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 気付けば俺はカメラを首からぶら下げながら
また五能線に乗っていたんだ。かつてサークルメンバーで乗った時のように、隣には誰もいないけど。 今のカメラはお守りでも写真を撮るための道具でもなく、「写真を撮ることを諦めるためのカメラ」だった。
- 83 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:49:18.86 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 窓から見える景色は3年前から変わっていなかった。
白い巨人のようにさえ見えるほどの立派な入道雲が空一面に広がっていた。 海も陽の光を反射して白く光っていたしね。 電車に乗っているはずなのに聞こえてくるセミの鳴き声がやけにうるさかったな。
- 84 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:51:38.44 ID:SMpkYSYZ0.net]
- むせ返るほどの夏の匂いを感じつつ
電車に乗った瞬間から、俺の夏休みも未来も全て決まっていたんだと思う。 今でもそう思うほどの夏休みだった。 人生最高の夏休みが24歳の夏休み。 おかしな話だけどね。青春が遅すぎたのかもしれないな。
- 85 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 14:51:58.73 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 続きは夜から書きます。
支援ありがとうございます。
- 86 名前:フシアナ [2021/08/19(木) 14:53:27.66 ID:oqUhgavAd.net]
- おつー
- 87 名前:名も無き被検体774号+ mailto:sage [2021/08/19(木) 20:44:13.07 ID:4IKpnWK20.net]
- とりあえず写真うぷして
- 88 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:26:49.08 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 夜になったので書こうかな、と思います。
- 89 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:27:29.75 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 五能線に乗ったのは3年ぶりだった。
写真を撮ることを辞めてからは乗ることを避けていた。それはもちろん、写真のことやサークルのことを思い出してしまうから。 だけど今、その思い出を忘れるために 再び五能線に乗っている。 大切にしていたものを手放すために覚悟を決めたから、再び乗ることも怖くはなかった。
- 90 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:27:54.55 ID:SMpkYSYZ0.net]
- この夏休みの間に撮る写真は
手の震えでブレるだろうし、まず3年もカメラを構えていない。まるで素人のような写真になるだろう。 以前までは、そんな変わり果てた自分の写真なんて見たくなかっただろうけど、本当の意味で写真を辞めるためには必要なことだったんだ。
- 91 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:28:33.11 ID:SMpkYSYZ0.net]
- サークルメンバーで五能線に乗った日のことを思い出した。東能代駅から数駅分乗った所から見える海を撮り、先輩たちによく褒められたな。
確かあの写真は先頭車両から撮ったんだっけ。 俺が撮った写真をまとめてあるアルバムを 数ページめくり、先輩に褒められた海の写真を見つけると、その写真の隣の枠に入れてあった写真を抜いた。 きっとそこに今から撮る写真を入れれば、 ビフォーアフターとして見比べることができるだろう。アフターの方が酷いことなんて普通はないんだろうけどね。
- 92 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:28:52.97 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 今の俺がすべきことは、俺の心を徹底的に折ることだ。今の俺が撮る酷い写真を再起不能になるまで見続けてやろう。
そう思いながらアルバムとカメラを手にして先頭車両へ歩き出した時だった。 誰かが、俺に向かって 「おい、そこの兄ちゃん、あんた写真撮るのか?」と話しかけた。
- 93 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:30:51.92 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 振り返ると、後ろの方に座っていた中年くらいのオッサンが俺のカメラを見ていたんだ。
髭を生やしつつも不潔感はなく、切りそろえられた白髪が印象的だった。50歳くらいかな? ちょっと中井貴一に似ててダンディー。
- 94 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:31:16.23 ID:SMpkYSYZ0.net]
- オッサン「そのカメラ、すげえ高いだろう? あんたが買ったんか?」
俺「いや、前に親から貰ったんですよ。」 オッサン「ほ〜、すげえなぁ。俺もカメラが好きなんだよ。ちょっと見せてくれねぇか?」
- 95 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:31:37.38 ID:SMpkYSYZ0.net]
- そのオッサン、俺のカメラに夢中だった。
写真を撮り続けているうちにこのカメラの価値を知ったため、少しオッサンに自慢してやろうかな、とか考えていた。 俺「どうぞ、あなたも写真撮られるんですか?」 オッサン「まぁな、俺のカメラも結構いいもんだぞ〜www」
- 96 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:31:58.87 ID:SMpkYSYZ0.net]
- とか言って俺にカメラを見せてきた。
なんだなんだ?ちょっと見てやるかぁ、 と思ってオッサンの席の隣に腰をかけたんだ。 すると、おっさんが大きなリュックを漁り出して 何個かカメラを取り出したんだ。 それ見て凄いびっくりしたんだよ。 俺のカメラに匹敵するほどの価値の物や、 高く値段がつくようなレトロなものまで揃えていた。
- 97 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:32:43.99 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 俺「えー!こんなレトロな物まで持ってるんですか、これなんかもう買えないようなやつじゃないですか!」
オッサン「あんた、見る目あるなぁwww 全部俺のコレクションだよ」 次は逆に俺が夢中になって見ていたんだ。 サークルの先輩たちには色々なカメラを見せてもらったが、このオッサンが持っていたカメラは一つも見たことが無かった。
- 98 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:33:02.41 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 俺「これ、生で見てみたかったんですよね!ちょっとだけ触ってみてもいいですか?」
オッサン「おう、好きなだけ見ろwww 俺の自慢だからな」 それからも、最新式のやつから大昔のやつまで 色々な貴重なカメラを見せてもらった。
- 99 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:33:21.70 ID:SMpkYSYZ0.net]
- 夏休みを使ってまで五能線に乗ったのにカメラに夢中になるなんて、本当の目的とは違うってことは分かっていた。
だけど、オッサンのコレクションからは目が離せなかったんだ。それほど俺を惹き付ける何かを感じていた。
- 100 名前:1 mailto:sage [2021/08/19(木) 21:33:57.86 ID:SMpkYSYZ0.net]
- オッサン 「あんた、どこから来たんだ?」
俺「ここ、地元なんですよ。」 オッサン「そうなのか!でも五能線は初めてだろ?ここの景色が本当に綺麗なんだよ」 オッサン 「俺もここで写真を撮り始めてまだ2年くらいだけどなwww」 俺「初めてじゃないんです。3年前までは大学のサークルでよく写真撮りに来てたんですよ」
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