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佐々木「キョン、2010年度日本シリーズ第七戦が始まるよ」★おまけ



1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/07(日) 23:12:16.45 ID:1zgtWUV30]
5スレ目
yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1289137118/

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 01:50:27.65 ID:tIbLm4l60]
応援はするけど多分見ないなwww
しかしここで普通は燃え尽きるだろうに
なんだかんだで毎年日本が勝ってるのはすごいと思うわ

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 01:55:17.08 ID:y3L2pZvyP BE:496588853-2BP(930)]
sssp://img.2ch.net/ico/u_papi.gif
俺の誇り千葉ロッテマリーンズ

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 02:21:16.43 ID:MgsensXaO]
きゅんきゅん!

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 03:06:42.20 ID:MgsensXaO]
きゅん!

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 03:39:34.48 ID:qhV/0vjI0]
寝落ちして起きたら中日負けてた
何だよ…3回まで勝ってたのに

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 03:39:53.78 ID:IRJ5vP7E0]
お待たせしております。
〆SSについて、経過報告致します。

現在2/3まで、清書が済んでおります。
残すところ、最終パートの清書となりました。

最終的な確認がありますので、投下予定は夜明け頃になるかと思われます。

***

このような遅い時間まで保守頂き、感謝の言葉もございません。
なるべく早期にお目通し頂けるよう努めることで、ご返礼とさせて頂きたく思っております。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 04:06:41.54 ID:qhV/0vjI0]
1寝てないのかよwwwwwwwwwwどんだけwwwwwwwwwwwwwww

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 04:38:19.31 ID:3PMOEyVCO]
いちかわいいよいち

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 04:40:14.60 ID:SzgeGGqSO]
>>1本当に体調大丈夫か?wwwww



141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 04:42:36.21 ID:MgsensXaO]
ちょっとの間だけど保守しててよかった(・ω・)
>>1無理しないでね!

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 05:23:00.93 ID:VBf96JrjP]
眠れないわ、続きを見るまでは…

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:35:36.51 ID:IRJ5vP7E0]

「やったー! ロッテが勝っちゃった!」

 こんな遅い時間だってのに、妹がはしゃいでやがる。長かった今シーズンも、とうとう終わっちまったか。

 今年の日本シリーズは、シーズン三位ながらもしぶとくCSを勝ち上がってきたロッテが、第七戦目にしてようやく優勝を決めた。

 つまり、俺の身柄などというケッタイな賞品を賭けて、約半年間も続いたバカ騒ぎも、妹の勝利によって終わったということだ。

 しかし、こいつが賭けに参加してただなど、未だに信じられんぞ。勝ったところで一体何を願うってんだ? 

 ああ、そういや冗談で勝った時にどうするか白状してたな。確か、俺の嫁さんになりたいとか言ってたか。

 どこまで本気なのかは知らないが、お前の旦那だろうと奴隷だろうと、何だってなってやるさ。

「日本シリーズ優勝おめでとよ。さて、お前は賭けに勝ったわけだが、何を望むんだ?」

 ロッテ応援団が乗り移ったかのようにはしゃぎまわる妹が羨ましかったのか、半ばヤケクソ気味に話しかけちまった。我ながら大人気ない。

 最初こそキョトンとこちらを見ていた妹ではあったが、

「うん、それは明日でいいかな。今日はもうねむいし」

 試合が決着したのも午後11時を過ぎてたからだろう。小学生のこいつにとってはもう辛い時間帯だ。まあ、急ぐ話でもない。俺はいつだっていいからな。

「ありがとキョンくん。それじゃ、ハルにゃんたちもまた明日ここに来てね」

 なぜハルヒたちまで呼ばねばならんのだと、妹にツッコミを入れようとしたが、当の本人は橘に耳打ちをしていた。やれやれ、なんで橘まで呼ぶんだよ。

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:36:46.46 ID:IRJ5vP7E0]

 翌日の月曜は、土日に開催された文化祭の振替休日となっていて、俺たち北高生は休みだった。

 俺は、久しぶりの休日をひたすらベッドで満喫していた。ハルヒあたりからどっかに誘拐されるかとも思っていたが、それもなかった。

 あいつもさすがに疲れたのかね。まあ、文化祭があんなことになりゃハルヒだって疲れるわな。



 平日の家は静かだった。遠く微かに聞こえる車の走行音や、たまに通りかかるチャリンコのブレーキだとかが聞こえたが、あとはまったくの無音だった。

 普段は学校なんて騒々しいところに居る時間だからな。こんなにも静かな時間は久しぶりかもしれん。

 まるで世界に俺一人取り残されたようだった。俺の他には誰も居ない寂しい世界。だが、そんな想像も今は悪くないと思ってしまう。

 俺はただひたすら惰眠を貪った。昨年同様駆け込みで完成を見た『長門ユキの逆襲 Episode 00』の編集やら何やらで疲れてたのかもな。

 蒲団は暖かく気持ちいい。寝入り端のぼんやりとした状態では、誰かに抱きしめられているような錯覚さえ感じてしまった。

「―――」

 朦朧とした意識の中、寝言ともつかないような呻き声をあげてしまった。その内容が指すものに気付き、また気分が沈む。

 全てはもう終わったのだ。あいつはこうなることをわかっていて、賭けを提案したんだ。もう俺のできることはないんだ。

 だからもう眠ろう。起きて目が覚めたら悪い夢が終わっているかもしれないなどという、淡い期待など捨て去って。

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:38:24.66 ID:IRJ5vP7E0]

 夕方なんぞあっという間だった。睡眠が贅沢な時間の使い方なんて意見にも頷きたくなっちまうな。

 妹は帰ってくるなり、部屋に入ってしまった。これでは俺をどうするのかリークさせることもできやしない。

 俺は諦めて、リビングでぼんやりしていた。まばらに集まってくるメンツと、文化祭のあれやこれやについて語りながら運命の時を待った。



 集まった面子は日本シリーズ第一戦に居合わせた奴らと一緒だった。

 リビングには八人、優勝者の妹に始まり、俺ハルヒ長門朝比奈さん古泉のSOS団メンバー、加えて橘と――佐々木がいた。

 第五戦以降、この家に姿を見せなかった佐々木がどうしてここに居るのか気になったが、きっと橘あたりが連れてきたんだろう。この賭けの主催はあいつなのだからな。

 しかし、少し見ない間にやせちまったな。ずっと心配してたんだぜ? あんな手紙を渡した直後だから電話に出られないのは許してやる。だがメールくらい返してくれてもいいじゃねえか。

 四日ぶりに見た佐々木は、どこか無理をしているようだった。橘に話しかけられれば、普段のように明るく振舞うのだが、ふとした瞬間その表情が暗くなるのだ。

 一方的に俺の前から消えやがって、佐々木には文句の一つでも言ってやりたかったんだが、それさえも躊躇っちまう。あいつは今、責められてるんだ。誰よりも自分自身に。

「みんな集まったみたいだね。じゃあ、あたしからお願いがあります」

 頃合と見たのか、妹が立ち上がった。

 メンバーにはにわかに緊張が走る。こんなケッタイな賭けだってのに、大げさなリアクションだよまったく。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:39:44.00 ID:IRJ5vP7E0]

 俺は自分の耳を疑った。

 妹の発した言葉が聞こえていたからこそ、こんなにも衝撃を受けているのだろうが、やはり聞き直さずにはいられなかった。

「すまん、もう一度言ってくれないか?」

「うん、いいよ。キョンくん、今度はちゃんと聞いててね」

 妹はふっと息を吐き出すと、その願い事を口にした。

「キョンくんは、佐々木ちゃんと幸せになってください。佐々木ちゃんは、キョンくんを幸せにしてあげてね」

 どういうことだ? 一週間ほど前に言ってた願いとは全然違うじゃねえか。

 戸惑うメンバーを前に、再び妹が口を開く。

「あたし、キョンくんのお嫁さんになりたかったけど、あたしじゃキョンくん元気になってくれないし、えへへ」

 妹の笑顔は、どこか強張っているようだった。



 妹がどうしてこんな願いをしたのか、彼女の弁を借りると、こういうことであるらしい。

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:44:13.80 ID:IRJ5vP7E0]

「キョンくんね、ずっと苦しんでたの」

「二年生になってから、ずっとわるい夢を見てたみたいで、あたしが起こしにいくと、いっつもキョンくんうなされてた」

「夏になっても、秋になっても、キョンくんは苦しそうで……だからね、あたしがキョンくんのこと元気にしてあげたいって、ずっと思ってたの」

「キョンくん彼女いないから、あたしがお嫁さんになったら、キョンくん元気になってくれるかなって」

「でもあたしがどれだけがんばっても、キョンくん元気になってくれなかった。いっつも指輪を見て寂しそうにしてた」

「あの指輪って有希ちゃんがキョンくんにあげたから、有希ちゃんを想って寂しそうにしてたのかなって思ってたの」

「でも、そうじゃなかったんだよね?」

「ハロウィンで仮装した日、キョンくんが指輪見ながら寂しそうにしてたよね。そのとき、佐々木ちゃんがキョンくんの制服を返しに、部屋に入って……」

「その指輪見た佐々木ちゃん、すごくびっくりしてたよね。それで、この指輪の持ち主って佐々木ちゃんかなって思ったんだ」

「佐々木ちゃんは、この指輪を渡した人が有希ちゃんだって知ってたし、どうしてそのこと知ってるんだろうって考えたら、佐々木ちゃんが持ち主だったんだって気づいたの」

「キョンくんは佐々木ちゃんに逢いたくて、寂しそうにしてたんだって、あたし気づいたの」

「たぶん、それはまちがってないと思う。だって第四戦のとき、キョンくんすっごく幸せそうだったもん」

「試合が始まる前からそわそわしてて、佐々木ちゃんまだかなってずっと気にしてたし」

「試合もキョンくんの部屋で佐々木ちゃんと二人で見ちゃってるし……。でもね、あの日のキョンくん本当に楽しそうだった」

「あの日の朝起こしに行っても、いつもみたいに苦しそうじゃなかったし、キョンくんは佐々木ちゃんだけが幸せにできるんだなって、あたしそう思ったんだ」

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:44:44.65 ID:IRJ5vP7E0]

「だからね、佐々木ちゃん。キョンくんを幸せにしてあげてください。あたしじゃ、キョンくんのことあんな風に笑わせてあげられないし」

 俺も佐々木も、声を上げることができなかった。

 妹は言葉を続ける。

「キョンくん、元気になってね。……それがあたしのお願いです」

 途中途中で喉を詰まらせながらも、妹は懸命に自身の言葉を伝えようとしていた。

「でもね、キョンくん」

 そして、しゃくり上げながらも、妹は最後の言葉を口にした。

「彼女ができても、あたしと遊んでね……。それが、キョンくんへの……お願いです……」

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:45:58.65 ID:IRJ5vP7E0]

 宵闇に包まれた北高文芸部室には三つの人影があった。俺、佐々木、長門の三人である。

 今まで重ねてきてしまった全ての過ちを清算し、いびつに改変してしまった世界を正常化させるために集まったのだ。

「いったい僕は何をしていたのだろうか……」

 佐々木が重い溜息を吐く。

 俺も同じ気分だった。

 俺や佐々木のしてきたことは、周囲の人間を引っ掻き回した挙句、その人たちの思いやりによって元の鞘に戻されるという、なんとも惨めな結末に終わった。

 佐々木が賭けを決意したのも、俺の周囲を慮ってということだったのだから、その気持ちはより強く感じていることだろう。



 俺も佐々木も、どうしようもなくガキだった。

 佐々木は周囲を気にするあまり、自分のことに気が回らなくなっていた。

 去年の日本シリーズで行った二人の賭けだって、今まで佐々木が振ってきた人間を気にして、自分の幸せを破棄しようとしていた。

 今シーズンに提案された賭けも、幸せを手に入れてしまった偶然に悩み、それが正当なものであるのかと思い悩んだ結果、発案されたものだ。

 半年前の改変に至っては、参加者全員を等しい立場をするために、(佐々木曰く、人生最大の)幸せを放棄してしまった。

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:46:57.36 ID:IRJ5vP7E0]

 それに振り回されちまった俺は、こいつに文句を言ってやりたい気分でもあるんだが、そうする権利もないのだろう。

 俺は、佐々木の罪悪感に気づいてやれなかった。こいつがどんなことに苦しんでいるのか、わかってやれなかったんだ。

 最も傍に居ながら、心を寄せる人物の悩みに気づかず、ただ幸せを貪っていただけの間抜けなのだ。

 それに佐々木は、自分自身から過分なほどに責められていたと思う。今日、四日ぶりに会った佐々木は、こちらが心配になるほど憔悴していたのだから。

 俺がするべきことは決まっている。どうしようもなく馬鹿正直で、とんでもない暴走しちまうこいつを制御してやることだ。

 また何か馬鹿げたことをしでかそうとしていたら、今度こそ手遅れになる前に気づいてやるつもりだ。

 そして、これからは佐々木を全力で護ってやる。もう二度と、あんな事を思いつかせないようにするためにも。



 俺も佐々木も、まだまだガキだ。正しい道と信じて進んでも、それが間違いだったりするんだろう。

 ガキだから下らないことに思い悩むし、とんでもない結論を導き出しちまう。今回の賭けは、その最たるものだと思う。

 だが、悩んで、苦しんで、失敗に気づいて、俺たちは成長できたのだと信じている。ガキなりに行動して、ガキなりの教訓を得たのだ。

 だから、もう二度と同じ過ちは繰り返さない。そしてそれが、迷惑をかけてしまった人たちへのせめてもの償いになってくれることを祈っている。



151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:47:53.37 ID:IRJ5vP7E0]

 不意に佐々木が沈黙を破った。

「キョン、世界を正常化させる前に少し時間をもらえないだろうか」

 俺が断る理由もない。気になることがあるのなら、今のうちに済ませちまえよ。

 佐々木は律儀にも俺に礼を述べ、長門へと振り向いた。

「長門さん、最後まで迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい」

「わたしがあなたに協力したのは、わたしの意志」

「ありがとう、長門さん」

 佐々木は少し躊躇いがちに顔を俯けていたが、やがて決意したように言葉を発した。

「少し質問があるんだけど、いいかな?」

 長門はミリ単位で首肯する。

「あの指輪なんだけど、どうしてキョンが持っていたのかな。あれは捨ててもらうよう長門さんに依頼を……」

「捨てるべきではないと判断したから」

 そして長門はもう一言付け加えた。

「捨てて欲しいと依頼したあなたの顔がとても寂しそうだったから」

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:49:34.19 ID:IRJ5vP7E0]

「もう一つ質問があるの。どうしてわたしの記憶は消えなかったのかな」

 長門の答えは簡潔だった。

「あなたを記憶改変の対象から除外したから」

 それはどうしてと再び問うた佐々木に、長門は淀みなく回答する。

「この判断があなたを苦しめることになるかもしれないと予想された。しかし、記憶の封鎖はできなかった」

「わたしはあなたが忘れるべきではないと思った。彼と過ごした幸福が、あなたにとって重要な意味を成すと感じたから」

「そうだったんだね……。ありがとう、本当にありがとう、長門さん」

 封じられるはずだった記憶は、佐々木を成長させたのだと思う。過去の過ちを省みて、未来の糧へと昇華させるために。



 この間違いによって生み出された世界の記憶が、俺と佐々木にも残るよう長門に依頼したのもそのためだ。

 俺たちは色んな失敗をした。だから成長しなければならないのだ。そのためには、忘れてはいけないのだ。

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:50:23.41 ID:IRJ5vP7E0]

 そしてもう一人、この改変された世界での記憶を残される人物がいる。

 その対象者は、三人で話し合って決めた。

 過ちによって発生してしまった世界ではあるが、そこで生み出された感情をこちらの都合で消し去ることなどできなかった。

 あいつは自分で見つけ出したのだ。だから、そのことを尊重したい。

 全会一致での決定だった。



「キョン、待たせてしまったね。それでは始めるとしよう」

 世界が柔らかな白によって満たされる。佐々木の能力が発動したのだろう。

 今回の世界改変はシンプルなルールに則って行われる。全世界の時間を一年分、遡行させるのだ。

 こうして、この間違った世界は全ての人間から消去される。 

 俺と佐々木と長門と――今回の勝利者を除いて。

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:51:07.32 ID:IRJ5vP7E0]

 次の土曜日のことだ。

 俺は緊張した面持ちで、玄関の扉を開けようとしていた。

「キョンくん、どっか行くの?」

 やれやれ、見つかっちまったか。こいつの目を盗んで出かけるはずだったんだがな。



 佐々木の世界正常化は成功した。しかし、成功したがために俺はまたあの憂鬱な報告会に出席せねばならなかった。

 佐々木がぴったり一年間、一秒の狂いもなく時間を巻き戻してしまったせいで、俺は再び佐々木の交際を報告しなければならないのだ。

 対象はSOS団とSOS団佐々木支部のメンバーだ。ハルヒのつりあがった目を二度も見るはめになるとはな……、やれやれ。

 そんな後ろめたさも手伝って、こいつには何も言っていなかったのだが、妹は無邪気にも、

「あたしも行くー!」

 喜色満面で言われてしまっては、断る気力すら残っていなかった。

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:52:01.64 ID:IRJ5vP7E0]

「えへへ、キョンくんとおでかけなんて久しぶりだね」

 何も知らない妹は、楽しそうにスキップなんぞに興じてやがる。俺にもその気楽さを分けて欲しいものだ。



 本来の同行者である佐々木は、母校の校門前に立っていた。

 同行してきた妹にも驚かなかったところを見ると、この展開を予想していたのかもしれない。

「やあ、妹くん。ずいぶんおめかししているね」

「うん! だってキョンくんとデートだもん」

 おかげで二十分も待たされちまったがな。

「ふふ、僕もキョンの彼女として負けてはいられないね」

「佐々木ちゃんには負けないんだから! あたしだってキョンくんの彼女なんだもん」

 ああ、そこ。今の発言で引かないでもらいたい。俺だって頭を抱えたいくらいなんだ。

 どこをどう間違っちまったか未だにわからないが、今の俺には二人の彼女がいる。

 佐々木と妹だ。

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:53:34.18 ID:IRJ5vP7E0]

 元に戻った世界で、俺と佐々木は再び付き合うこととなった。あの日、妹が涙ならがに願ってくれた事を無碍にできるはずもなかったからな。

 これで全てがまるく治まったと思った俺だったのだが、佐々木から思いもよらない提案がなされた。

 その提案とは、妹に対しても佐々木と同様の扱いをする、というとんでもないものだったのだ。

 俺はもちろん断ったさ。妹と付き合う兄なんて、この世に存在していいはずがないだろ? ……まあ、結局はその提案に乗っちまったがな。

 あの賭けを通して、こいつがずっと俺の幸せを願っていてくれた義理もある。

 賭けに勝利した人物であるにもかかわらず、そいつには何のメリットもなかったって不公平感もあった。

「キョンくん、はやくはやくー!」

 だが、一番の理由は、こいつが幸せになって欲しいと願ったからだ。

 妹は、あの賭けで俺の嫁さんになりたいとかぬかしてやがった。

 それは法律上無理であるために、叶えられないとして(佐々木の奴が法律を改変しようかなどと言っていた気もするがそれは忘れることにする)、

 せめてそれに近しい形でも、こいつの願いをかなえてやりたかった。

 いつかこいつは、俺ではなく別の誰かを好きになるだろう。

 肉親としてそれは寂しいと思う。だが、それがあるべき姿なのだ。

 だから、こいつが本当の恋をするまでは、恋人のまねごとをしてやろうと思う。

 いつまで続けるのかはわからないが、せめてこいつが飽きるまではと思い、今は観念している状態だ。

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:54:38.86 ID:IRJ5vP7E0]

 いつもの待ち合わせ場所へはバスで移動することにした。いくら妹が小柄とはいえ、自転車に三人も乗せられないからな。

 ようやくやってきた公共交通機関に乗り込むと、最後部の広いシートに三人で身を寄せた。

 車内はガラガラで、果たしてこれで採算が取れているのかと余計な心配をしていたところ、右隣に座る妹が話しかけてきた。

「ねえねえ、キョンくん」

「どうした? 車にでも酔ったのか?」

「ううん、違うの」

 なんだよ? 俺にできることなら何でもしてやるぞ。

「キョンくん、ちゅーして」

 恋人として接していれば、時にはこういう拷問も科せられるのだと、今さらながらようやく悟った。

 頭を抱えたくなる事態ではあるが、躊躇っていると妹が騒ぎ出す恐れもある。

 幸いにも乗客はほとんど居らず、小柄な妹は前方のシートの陰に隠れていた。周囲の注目を集める前に、依頼を満足させるべきなのだろう。

 乗客の目がこちらに向いていないことを確認すると、俺は瑞々しい白桃のような頬に唇をつけた。

 しかし、妹は不満顔だ。

「キョンくん、彼女にはほっぺたじゃないでしょ?」

 拷問はエスカレートするばかりだ……。

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:56:18.99 ID:IRJ5vP7E0]

「どこにしろってんだよ……」

「くちがいい」

 俺は抗議した。妹のファーストキスを奪う兄貴なんて、この世の中に居るわけねえだろ? どんな鬼畜だよそれは。

「それは本当に好きになったやつのためにとっとけ」

「あたしが本当に好きなのはキョンくんだもん!」

 騒ぎ出した兄妹をさすがに見咎めたのか、佐々木が口を割ってきた。

「キョン、キミは妹くんの彼氏なのだろう? 女性に恥をかかせるものではないよ」

 おい、お前までボケ役に回るな。さすがにツッコミきれねえぞ……。

「キミは僕のファーストキスを奪ったではないか。ならば恋人として、妹くんにもする責務があるだろう」

 佐々木、だったらそんなに怖い顔するんじゃねえよ……。

「僕は少しばかりあちらを向いているよ。その間のことについて、僕は関知しないつもりだ」

 お前な、自分の彼氏が他の奴とキスしてもいいのか? 俺だったら許さないぞ。

「あとで僕にも同じことをすれば許すさ。ただし回数は三倍だが」

 これ以上議論を重ねても、佐々木の気分を害するだけだとようやく悟った俺は、全てに観念することにした……。

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 05:58:28.22 ID:O+RWO/hSO]
しっかり見てるぞ

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 05:58:54.21 ID:IRJ5vP7E0]

「こういうときは目を瞑るもんだぞ」

「あ、うん……」

 妹の顔が赤く染まっていく。
 
 こいつが生まれてきてから、ずっと面倒を見てきた。

 ヒヨコのように俺の後ろを着いてきた姿だって、小学校への入学を控え緊張していた姿だって、生まれてすぐの赤子の姿だって見てきたんだ。

 そんな奴のファーストキスを奪うなんて、我ながら本当に最低の人間だと思う。

 だが、こいつが喜んでくれるなら、俺はどんな泥だってかぶってやるさ。それが兄として生まれた俺の役目なのだろう。

 緊張する妹に軽く口づける。ほんの触れるだけのキスだったが、妹の唇は官能的なまでに柔らかかった。

「もう目を開けてもいいんだぞ」

 促されるままに妹は目を開ける。惚けたように視線を泳がせているのは、やはり恥ずかしさのせいなのだろうか。

「……キョンくんとキスしちゃった」

「そうだな」

 そして、妹の顔に満面の笑みが浮かぶ。まあ、そうじゃなきゃ困るんだ。俺はこのために犯罪スレスレのことをやったんだからな。

「キョンくん、だーいすき!」 

 俺に飛び込んできた小さな体を、胸の中で抱きとめる。それは温かく懐かしい匂いがした。



161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 06:00:09.60 ID:IRJ5vP7E0]

 様々なすれ違いによって引き起こされた長い長い騒動は、こうして終わりを遂げた。

 周囲を巻き込み、その挙句元の鞘に戻るという、なんとも情けない結末に終わったのだから、頭も抱えたくなるというものだ。

 だが、無駄ではなかったと思う。

 こうして、他者の幸せを願えるようになったのだから――



 バスはようやく目的地へと到着したようだ。

 彼女二人を侍らせた俺を、あいつらはどんな顔で迎えるのだろうか。

 暗澹たる気持ちが胸中を支配するが、俺は逃げる気などさらさらなかった。

 だってそうだろ? 俺はこの一件で成長したのだ。

 だからこそ、どんな困難だって乗り切ってやるさ。それが自分自身に対して課された永遠の目標なのだ。

                   <佐々木「キョン、ファイターズの試合が始まるよ」 2010年シーズン おわり>

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 06:00:46.45 ID:MgsensXaO]
( ゚∀゚)あらまぁ

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 06:05:35.89 ID:MgsensXaO]
>>1乙でした!
本当にお疲れ様!また次のシーズンで( ・ω・)ノシ

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 06:05:51.52 ID:VBf96JrjP]
あ、甘ェ…

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 06:08:34.38 ID:pApScJfWO]
うは
>>1

166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 06:10:26.39 ID:2mHbO+whO]
な…なんと

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 06:12:19.29 ID:3PMOEyVCO]
激乙!

こんなに愛されてる>>1を見たのは初めてだ

168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 06:14:22.11 ID:IRJ5vP7E0]
お疲れ様でした。

以上でSSパートも終わりとなります。
長時間保守いただきまして、本当にありがとうございました。

昨年の佐々木さんENDで、うっかりと来シーズンのことを書いてしまったために、
プロ野球一シーズンを通して、SSの設定を保持させるという自業自得にも程がある事態になってしまいました。

これについては、VIPという不特定多数の方々が利用する板において、
楽しみを阻害する方向に働いてしまったと反省しています。

しかしながら、自分の作り出してしまった世界で、佐々木さんという存在が不幸なままで放置されるということは、
書き手の端くれとしても耐え難いことであったため、自己満足という免罪符を盾に最後まで続けました。

自分の文章を省みるような時間もなかったというのが正直なところですが、
読み手の皆様に満足いただけるような文章になったかどうか、正直わかりません。
しかしながら、この世界をのぞき見て、少しでも楽しみを得られた方がいらっしゃれば、わたしにとって大きな幸いです。

長期間に亘り、お付き合いいただきまして本当にありがとうございました。
来シーズンですが、一話完結形式で気軽に楽しめるようなスレッドにできればと思っております。

またお逢いできる日を楽しみにしております。

169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 06:18:01.51 ID:O+RWO/hSO]
>>1乙!超楽しかった乙!

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 06:35:17.46 ID:K63xGXPB0]
>>1は何ファンだったんだろう




171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 06:39:19.14 ID:mrYLkOKbO]
激しく乙!妹ちゃんええ子や〜と思ってたら、ちゃっかり美味しいところも持ってったかwww
いつか妹ちゃんが独り立ちする日まで、三人で幸せにな〜

>>1も幸せになーれー

172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 07:25:29.50 ID:m8bkIt/pO]
俺も巨人ファンなのになぜ彼女ができないんだあああああああああああああ


>>1
やっぱハッピーエンドはいい
佐々木と妹ちゃんお幸せに!

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 07:34:35.28 ID:ilUnkHMnO]
>>1




佐々木さんと妹ちゃんマジ天使

174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 07:47:37.51 ID:2RIDkDPl0]
>>1乙!
佐々木さんマジ女神妹ちゃんマジ天使!

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 08:11:05.61 ID:W3L9fa4d0]
乙!
朝から悶絶したww

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしない [2010/11/08(月) 09:49:16.75 ID:CLWOSdmRO]
今北

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 10:00:14.38 ID:uuzA7RGiP]
<佐々木「キョン、ファイターズの試合が始まるよ」 2010年シーズン おかわり>

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 10:22:54.44 ID:r1bO3RTi0]
天地神明に誓って>>1

なんつー神タイミングで合いの手入れてやがるんだ>>159www

>>177
やめて!>>1のHPはもうマイナスよ!?

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします mailto:sage [2010/11/08(月) 11:30:25.40 ID:MCWddWH30]
>>1乙!

来年こそ阪神が・・・
短期決戦弱い阪神が



・・・無理か

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 12:05:29.86 ID:B+QIU0XaO]
>>1

今年も終わっちゃったな



181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [2010/11/08(月) 13:06:23.28 ID:tIbLm4l60]
乙!
おもしろかったよ、是非来シーズンもやってくれ
ただあんまり自分に負担のかからん範囲でな!
そして来年こそファイターズが日本一になますように・・・






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