- 737 名前:【妄想、破綻、どうにでもなーれ。】 mailto:sage [2010/08/12(木) 21:28:05 ID:1OP7WD/q]
- >>734
桂馬は絶句した。 「聞いてる?」 歩美は身体を桂馬に近づけ、言い寄る。攻略時以外で、こんなに女子と身体を・・・、顔を近づけることがなかった桂馬は、 甲斐もなく、予想できるはずもなかった展開に、心拍数が上げざるを得なかった。 「今、何と言った。いや、ちゃんと聞いていたが、あまりにも意味不明かつ突拍子もない質問だったような。」 歩美はそのままの体勢で、桂馬の腕をつねってやった。 「っ!何をする!」 「いいから、答えてよ!」 歩美の表情は真剣そのものだった。その眼には、戸惑いと恐れとが交わったものがみて取れた。 が、桂馬には、歩美が『深層心理』で抱いている感情には気づけはしなかった。 「ふ、ふふふははははは!」 桂馬はわざとらしく笑う。とりあえず、今の自分の精神を何とか安定させたかったからだ。 とりあえず桂馬は、肯定でも否定でもなく、『三次元の女という低次元極まりない存在を、笑って見下す』を選んだのだ。 「何よ。いきなり変な笑い方して。」 「変なのは自分のほうだろ。僕とお前がキスだと?笑止!そんなことある筈がない!」 そう、まくしたてる。相手をなるべく煽ったつもりだったが、歩美は怪訝そうな顔をした。 「じゃあ、桂馬。あんた、何でさっきあんな質問したの?私とキスするって、あり得ないんでしょ?どうして?」 「ぬぐぐ・・・」 あっさり論破されてしまう。 「いいから、答えてよ。YESかNO。それ以外はいらないから。」 「それは・・・」 「もう一度聞くね、桂馬。桂馬、私と、キス、したことある?」 忘れたくとも忘れられない。醜悪な記憶が、桂馬の脳裏で再生される。 自分の思考のうち9割9分9厘以上、即ち限りなく10割近くが、『醜悪』と認識する。認識したがっている。 だが、ヒトとしての性も捨てきれていないことに気づき、そんな自分こそ、とても醜悪に思えてくる。 ━僕は、三次元に、欲情しているのか。いや、あり得ない。だが・・・━ 「バカバカしい。そんな質問に意味はない。僕がYESと答えたらどうする。NOと答えたらどうする。どうにもならないだろ。」 桂馬は、精神不安定になりつつも、愚問からの脱出を図る。 歩美は押し黙ったまま、桂馬をじっくりと見つめていた。 「質問に、意味はない。まさに愚問だ。だが。」 こちらの質問にも答えてもらわねばならない。YES、即ち女神か。NO、すなわち否か。 もう、三次元との関係を絶ちたい。一刻も、一刻も早くだ。嫌われるのは簡単だ。だから。 「歩美!」 「へっ!?」 桂馬は歩美を抱き寄せた。抱きしめた。 何も言うまい。桂馬は、歩美の反応するのを待っていた。 歩美の心臓の鼓動が、よく伝わる。僕の鼓動も、伝わっているのだろうか。 ふと、そんなロマンチックなことを考えたが、すぐに振り捨てた。 「け、桂馬?」 振り絞ったような声が、耳元で聴こえた。違う、僕が求めているのは、そんな台詞、反応じゃない! 普段、お前がバカにしている男に、こんなことをされている女の反応がそれか!? 違うだろ、お前は超体育会系女子だろ!もっと、叫ぶなり、突き放すなり、殴り飛ばすなり、あるじゃないか! けれども、桂馬の考えとは裏腹に、歩美の様子は、ただただ可笑しいばかりだった。 「桂馬、私、変、だよね。好きでもない男子に、桂馬に、『こんな風』にされてるのに、なんでだろ・・・」 歩美は身体を震わせながら一言、呟いた。 「嬉しい。」 桂馬は、苛立ちを抱えながらも、何故か優しく囁いた。 「いい加減にしろよ。僕は迷惑極まりない。そんな見え透いた嘘を、よくも言えたもんだな。」 歩美は、何もいえなかった。そう思われても、仕方ないよね。そう思った。 「それとも、本気なのか。本気で、嬉しい、だなんて思ってるのか。歩美。」 歩美は、静かに頷いた。 「桂馬、私、怖い。私が、私じゃないみたい。だって、だって、おかしいよ。」 「ああ、そうだ。僕に抱きしめられて、嬉しい、だもんな。」 すると、歩美は、大きく首を横に振った。 歩美は少し僕から身を離して、顔を上げた。泣いていた。 「違うの、私、私!・・・桂馬のことが!」 聞きたくない。いや、言わせるものか。確証はないが、だが、攻略対象でもない女に『告白』されるくらいなら、その口を! ・・・桂馬は、自らの唇で塞いだ。
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