- 490 名前:フーリガンの狂騒 mailto:sage [2009/06/26(金) 08:10:13 ID:3Ujka8ye]
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その年に開催されたワールドカップ決勝戦の応援のため、俺たちは海外に飛んでいた。 何としても日本が戦っている現地で応援をしたかったのだ。 何しろそのワールドカップには、あの瞳の弟が選ばれていたのだから。 大会会場にほど近いホテルには、俺たちと同じような日本人客がかなりいた。 そして当然ながら、決勝相手国の人間も。 「あの子……だいじょうぶかな」 祈るように手を合わせる瞳。俺はその細い肩を抱きしめる。 独特の緊張感の中、いよいよ決勝戦は始まった。 試合は接線、どちらも点を入れられないまま膠着が続き、後半7分、ついに日本が待望のゴールを決める。 決めたのはベテランの選手だが、サポートしたのは瞳の弟だ。 「よし!!」 俺と瞳は思わず立ち上がり、そのまま試合の行方を追う。 そして俺たちが目を見開いて見守る中、ついにその僅かな点差は守りきられた。 日本の勝利だ。 「やったー!やったよ、勝ったぁ!!」 瞳が俺に抱きつき、俺も瞳を抱きしめる。その俺たちの声に倣うように、一斉に日本ファンの歓声が沸き起こった。 万歳三唱だ。俺たちは幸せの只中にいた。 …そう、俺たちは全く気がついていなかった。この場には対戦相手の国の者も居たことを。 そしてその者たちが、自国が負けたことと勝利国の歓声を前にして、憤怒の形相を浮かべていた事を。 だが俺たちは悪かったか?そんなことはない。母国が勝って嬉しくない筈がない。 相手の国だって、自分の所が勝ったら何を置いても喜んだだろう。 だからあの行動は横暴だ。 VTR内の弟を労う瞳をいきなり押さえつけ、無理矢理『自分達の部屋に引きずり込んだ』奴らの行動は。 「おい、開けろ!!瞳を返せ!!!」 俺は奴らの泊まっている一室の扉を激しく叩いた。 俺だけではない、日本人全員が瞳が連れ込まれたことの異常性に気付いて集まっている。 だが正直どうしようもなかった。 部屋には内側から鍵がかけられ、マスターキーは暴動のドサクサに紛れて奪われ、持ち込まれた。 テロを想定に入れた頑丈な造りであるため、扉を体当たりで開けることも不可能だ。 「くそっ!どうすりゃあいいんだよ!!!」 俺は床にへたり込んだ。 部屋は完全防音になっており、中からは何の音も聞こえてこない。それがまた不安を煽る。 もしかすると、もうすでに瞳は……。 そんな不吉な予感は、ホテルの支配人が「警察が来るまでの様子見」として見せてきた監視カメラによって、 醜悪な形で再現されることとなる。 続く
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