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ヤンデレの小説を書こう!Part4



1 名前:◆lPjs68q5PU mailto:sage [2007/02/25(日) 00:49:58 ID:S4t41Ekl]
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。

■ヤンデレとは?
 ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
  →(別名:黒化、黒姫化など)
 ・ヒロインは、ライバルがいてもいなくても主人公を思っていくうちに少しずつだが確実に病んでいく。
 ・トラウマ・精神の不安定さから覚醒することもある。

■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫
yandere.web.fc2.com/
■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part3
sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1171290223/

■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。


281 名前:慎@携帯 mailto:sage [2007/03/10(土) 12:46:44 ID:tHytvgxB]
パソ壊れたorzというわけでしばらく消えてました。修理にどれくらい期間かかるかわからないですが、戻ってきたらまた投下します…申し訳ないです。

282 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 12:57:23 ID:OnfItCP2]
>>278>>281
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   ワクワクテカテカ
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +

283 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 15:16:07 ID:0PoQcJ3E]
>>280
それは面白い展開になりそうだ。
つ〜かスゲー読みたいぞ!

よし!書きなさい!次の神は君だ!!

284 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 15:24:42 ID:jTUou5KW]
>>280
それなんてアニメ版SHUFFLE!の楓?
いや、あれは男が別の女を好きになっただけか

どっちにしろかなりその展開は良いな
とことん自分を追い詰めて壊れていって欲しいw

285 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 17:50:18 ID:YFgkeHdD]
>>280
そういうの好き。因果応報ざまぁwって思う。
そして病んでいくなんて素晴らしいね(゚∀゚)

ツン→デレ→ハァ?(゜Д゜)今まで酷いことしておいて何ソレ?→病ん→失せろ(゜Д゜)→重度ヤンデレ→ガクガクブルブル→拉致監禁陵辱等


物分りが良すぎる男が多すぎて、たまにはそんなのも見たい読みたい

286 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 18:38:35 ID:vJvlI5bV]
いやぁ、嫉妬スレの水燈の蒼い空とか転帰予報とか男の人が良すぎるだろって思ってなw

こういうのは、女が強引なアプローチをするまで男も過去を許して仲良くしていたのなら、
突き放した時のギャップで女に強いショックを与えられると思うんよ。

287 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 18:47:26 ID:346tozKB]
>>286
つまり、アニメ版SHUFFLE!の主人公が、
楓から告白された時に拒絶したらそれからどうなるか、と言いたいわけか?

288 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 18:58:48 ID:klYDtKZf]
いや、ここはツンしか見せてないツンデレ女を男が突き放したら
デレを見せるようになったけど「なにをいまさら」というほうが自然じゃないか?

男が女の家に借金あるとかひきとられたでいろいろ(性的な意味はあってもなくてもいいな。虐待はデフォか)されていて
宝くじとか働くとか遺産相続とかで借金を返しきって自由になって
女から男が離れていって
女が焦って「本当はあなたが好きだったけどあんなことでしかすきって表現できなかったの」とかいうけど
男が突き放す感じで「借金オワタ\(^o^)/俺始まったな」的に逃げ出して
女が病んで男を拉致監禁「人生オワタ/(^o^)\」みたいな

思いつきを並べただけなので良くわからんな

289 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 19:14:54 ID:346tozKB]
男に対して不器用な女が虐待(ツン)

男が女から離れていくときに思いを打ち明ける(デレ)

女、男に拒絶される。

「そんな……そんなこと言わないでよ!
 私、あなたのことが好きなの! あなたのためならなんでもするわ!
 そうだ! あなたをいじめてた母様と姉様を殺してあげる!
 だから私のことだけは信じて! お願い!」(ヤン)

ツンヤンデレ……?語呂が悪いな。



290 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 19:15:46 ID:vJvlI5bV]
だが、本当は好きだったのって言えばそれで女を受け入れる理由ができるからな。
いや、そういうのもいいかもしれんが。

そういえば>>286の例は両方とも姉と妹だな。
同じ条件のヒロインが複数だと、お互いに罪を擦り付け合ったりするのもいいかも。
「姉さんがあんな奴追い出そうっていうからいけないのよ!」
「何よ!あなたの方が私よりずっと男くんの事苛めてたじゃないの!!」

291 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 20:55:12 ID:cB3mdQ+B]
>>289
ツャンデレというのはどうだろう
発音は難しいが

292 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 20:56:48 ID:siP/H4Oi]
ツャンデレの誓い

293 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 20:58:40 ID:YFgkeHdD]
ツァンデレ\(^o^)/ハジマタ

294 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 20:59:52 ID:hUF2WUyA]
「ツン → デレ → ヤン」なら、
普通に「デレ → ヤン」の部分を取って

『ヤンデレ』

で良いんじゃないのか?


295 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 21:01:30 ID:LY0T5C1d]
TNDRYN

296 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 21:03:41 ID:346tozKB]
>>295
ツンドリャン?ツンドライン?

297 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 21:26:59 ID:Xj5OvZlj]
なんかチャンドラーみたいだな

298 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 21:30:12 ID:vJvlI5bV]
そういえば、本当は好きなのに意地悪するのがツンデレなら、
元々酷い態度を取っていたのに後に好きになるのもツンデレなんだよな。

299 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 21:51:16 ID:RsCrIV+4]
>>298
不思議だよな。
でも最初にツンツンして最後デレデレになるなら同じでいいんでね?



300 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 22:10:03 ID:vJvlI5bV]
いや、別物だろ。ツンが照れ隠しか本当に悪意が篭っているかで大きく差が出る。

301 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 22:12:31 ID:W+oljIgW]
流れd切るぜ

1週間ぶりにスレと保管庫にいけたんだけどすげー大量投下されてて驚いたぜ
管理人おつかれ!神々まじでGJ!
スレでリアルタイムでGJ言えないけど続きはどれも気になってる!がんがってくれ!
週末に保管庫のぞくのが楽しみで生き甲斐なんだぜ

読み手のお前ら雑談もいいけど作品の感想もな!俺の分まで頼むんだぜ!

302 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 22:20:49 ID:RsCrIV+4]
別物か。まぁ俺としては照れ隠しより本当に悪意があって、って方が好きかなww
>>301任せとけ!!作品書けないからせめて応援ぐらいしたいんだぜ!!

303 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 22:22:53 ID:346tozKB]
>>300
心底嫌いな男を突然好きになる、か……。ありえるのか?そんなこと。
あ、エロパロではあるのか。リアルではないだけで。

でも、ツン→デレ→ヤンは「ストーリー展開」でなるものだな。「属性」ではないか。


304 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 22:29:11 ID:vJvlI5bV]
>>303
水燈の蒼い空、転帰予報を読むべし。こういうときに便利なのがフラグだ。

305 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 22:36:24 ID:346tozKB]
>>304
トラさんのは読んだことがある。なるほど、ああいうのを言っていたわけか。納得納得。


しかし、フラグかあ……
俺の場合、「幼稚園からの幼馴染」っていうフラグがあったのに自分で潰しちまったからな……
いや、泣いてなんかないぞ。別にSSのキャラが羨ましいとか、そんなこと、無いんだからなあ…………

306 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 22:42:43 ID:ufpoBjt6]
>>304
>水燈の蒼い空、転帰予報を読むべし。こういうときに便利なのがフラグだ。

その二作品は面白いんですか?

ってか、皆が何に納得しているのかよくわからないんだけど

307 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 22:59:06 ID:hUF2WUyA]
面白いかどうかは個人個人によって違うし、荒れやすい話題だから省略。
納得したのは『ツン・デレ・ヤン』の三態変化がどういうものかという具体例が示されたからだとオモ。


308 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 23:16:32 ID:jTUou5KW]
>>306
その2作品はどちらも修羅場スレのもの、気になるなら修羅場スレ倉庫で
読める

どっちも未完っぽく 転帰予報はまだ修羅場の予兆しか見えない

共通点は最初、両親を失った主人公が養子に入る
家の姉妹に気に入られなかったところだな
で、なにかの事件を経て姉妹に好かれるようになると

309 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/10(土) 23:16:55 ID:NgPWeyDl]
デレ→軽いヤン→デレデレ→重度のヤン→崩壊

が理想



310 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 00:08:53 ID:GtqOAAXK]
ここはヤンデレスレですよっと

ここであっちの作品のことを延延語ってるのはスレ違いなことにいい加減気付こうや
あっちの作品のことはあっちでやってくれ

311 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 00:11:32 ID:kQkFMdZ9]
そもそも、嫉妬スレの作品を

どうして、ヤンデレスレの住人の人間が知っているのかと問い詰めたいもんだ

312 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 00:21:07 ID:Udv7kmz9]
嫉妬SSスレに浮気してると、ヤンデレスレに本当の意味で「釘」を打たれるぞ。
それはともかく、

ヤンデレスレは!

313 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 00:24:11 ID:IrR26brh]
向こうにもヤンデレは多いからね。単に参考の意でしょ。

314 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 00:27:44 ID:3f2K9cdf]
>>313
エロエロよー!って言ってやれよ…

315 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 01:31:59 ID:IrR26brh]
やなこった

316 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 01:56:45 ID:6VxX9yxI]
単純に住人がかぶりまくってるからでしょ。俺はこのふたつに加えほのぼの純愛も見ている。

317 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 02:14:52 ID:hk7vveW6]
そもそも複数のスレを見るなと言っているような気がしないでもない


……はっ!まさかリアルヤンデレか!

318 名前:伊南屋 ◆WsILX6i4pM mailto:sage [2007/03/11(日) 04:46:28 ID:oNY2AiJ+]
一枚だけ置いときますね。
imepita.jp/20070311/169540
ラフ絵ばっかりですまぬ。

319 名前: ◆kNPkZ2h.ro mailto:sage [2007/03/11(日) 05:36:43 ID:+Tw/UoDg]
お久しぶりです。

>>318
戦巫女といい、着物は見ていて飽きないです、GJ!

それでは上書き10話投下します。



320 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro mailto:sage [2007/03/11(日) 05:37:33 ID:+Tw/UoDg]
「今日一晩、加奈を俺ん家に泊めていいですか?」
 左隣にいる加奈の肩に左腕を回しながら、ほとんど有無を言わせない口調で訊いた俺と視線を合わせた君代さんは、
 一旦俺から自分の視線を加奈の方へと移し、加奈と数秒見つめ合った後僅かに口元を緩めながら静かに頷いた。
「ありがとうございます。明日の朝には帰しますんで、何か心配事あったらいつでも連絡下さい」
「ありがとう、お母さん。我侭言ってごめんなさい」
 俺と加奈は深々と頭を下げる、そんな俺たちを君代さんはただ笑顔で見送ってくれた。
 そんな気遣いに心から感謝した、正直今平常心でいられるだけでも凄いと思うのに。

 加奈の奇行を間一髪で止めた後俺は加奈を抱き締めていた、
 その光景は何秒か遅れて部屋までやってきた君代さんにしっかり見られていた。
 自分の娘が全裸で男に抱き締められているという見様によっては卒倒してしまう程の光景を目撃し、更にその後
 「一晩を共にさせてくれ」と追い討ちをかけられたにも拘らず憤慨しないのはかなりデキる人の証だと思う。
 それは勿論何年も自分の娘の幼馴染として接している俺を信用しての事だとは理解していたが、
 その『信用』というのが果たして”真の”了承の証なのかという事に強く疑問を抱いた。
 君代さんは俺と加奈の関係を知ってはいるが、実際の付き合いとしては高校生になってもキス止まりだった。
 だからそんな俺が”娘に『手』を出す訳がない”と解釈した上での了承であったとすれば、
 今夜俺が加奈にしようとしている事は君代さんに対する裏切りに為り得てしまう訳だ。

 確認したかったが、「”して”いいですか」なんてストレートに訊ける程俺の肝は据わっていない。
 この歳で尚且つ夜に娘を預けるんだからそれが”了承の証”じゃないかと勝手に話を進めようともしたが、
 今まで何度も世話を掛けてきて多大な感謝をしている君代さんに俺がそんな傲慢な態度を取れる筈もない。
 さっきから”『する』事しか考えてないんじゃ”と男が一度は抱く自己嫌悪に陥る中、
 顔を上げた俺と加奈に向かって君代さんが固い口を開いた。
「加奈を、よろしくね」
 一切屈折のない微笑を浮かべながら、君代さんは俺に向かってウィンクを投げ掛けてくる。
 少々刻まれている皺がいい具合に朗らかな印象を醸し出し、年齢よりも若く君代さんの顔を彩った。
 その表情が、俺にとっては”了承”という『”許可”の信頼』の何よりの証明だと理解してホッと胸を撫で下ろす。
 俺は「はい」と頷くと、傍らに置かれた加奈の荷物を持ち上げた後踵を返してドアを開ける。
「あっ、いいよ誠人くん、あたしが持つから!重たいでしょ?」
「すぐ向かい側までなんだから、気にすんなって」
 慌てた様子で荷物に手を掛けようとする加奈の手を軽く避けてみせ、包帯の巻かれた右腕で加奈の頭を軽く叩く。
 頬を膨らまして俺を睨む加奈を見て思わず笑いそうになるのを何とか堪えながら、俺はそのまま右腕を加奈の背中へと下ろす。
「失礼しました、君代さん」
「行って来ます、お母さん!」
 一旦君代さんの方を向いて一礼した後、再び踵を返し加奈は俺の後についていった。
 心の中で、もう一度君代さんにお礼を言った。

321 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro mailto:sage [2007/03/11(日) 05:38:14 ID:+Tw/UoDg]
「誠人くんの家って、久しぶりで何かドキドキするなぁ!」
「確かに加奈の家に行く事がほとんどだったからな」
 先陣を切って自分の家のドアを開けた途端、加奈は俺とドアの間の隙間を縫うようにして家へと入り込んできた。
 辺りを見渡し驚嘆したような声を漏らしながら目を輝かせている加奈は、”初めて”ここに来たような感じだった。
 その様子を見て、幼き頃の懐かしい日々にタイムスリップしたような微笑ましさに満ち足りる一方で、
 加奈のその態度に俺との間の微妙な溝を感じ、荷物を下ろしながら項垂れてしまう。
 その初々しい仕草は、同時に『余所余所しさ』に繋がるようで、
 今までの俺と加奈で積み上げてきた年月や思い出を全否定されたような心地がしたから。
 そんな意気消沈中の俺とは対照的に、加奈は靴を脱いだ俺を手招きする。
「ねぇねぇ、誠人くんの部屋に行ってもいい?」
 ”部屋”という単語で思い切り卑猥な妄想が脳裏に過ぎったのは男の性だよなと先走りそうな自分を自制する。
 男ってのは『そういう事』に関しては一度決断すると頑なになるものなんだなと新たな自分を発見する。
「その前に飯食おう。こんな時間だし加奈も腹空いているだろ?」
 僅かに距離が置かれている加奈に左腕についた腕時計を見せつけ、現在時刻を確認させる。
「それもそうだね!」
 時計で時刻を確認すると、加奈は腹を擦りながら「えへへ」とはにかんだ。
 その動作が妊婦のように見え、慌てて頭の中でその像を払拭する。
 さっきから俺は自分の中で勝手に話を飛躍させ過ぎだな、自粛しないと嫌われるぞと肝に銘じながら加奈の下へと歩み寄る。
「そんじゃリビングで………あっ」
「ん?どうしたの誠人くん?」
 思わず情けない声を漏らした俺に加奈が下から覗き込むように問い掛けてきた。
 その顔が笑顔だからかなり罪悪感を感じてしまう、これからその笑顔を崩してしまうかもしれないから。
 言うのが引けたが、冷汗流し続けて突っ立っているだけでは事態は前に進まないので仕方なく加奈の目を見る。
「あのな、加奈………今日母さんいないじゃん?」
「そうだね」
「だからって訳じゃないんだが、その…なんだ………」
 言い渋っている俺を見つめる瞳に徐々に暗雲が垂れ込めているのが僅かに下がった眉毛から読み取れる。
 こんな不安そうな表情を向けられると余計に罪悪感が増す
 これ以上こんな表情を見るのは精神的に辛いので、思い切りをつけて真実を伝える。
「今日は俺一人の予定だったから、飯は”簡単な物”にしようとした訳であって…」
「家にカップ麺だけしかないとか?」
 先に結論を言われるとその悲惨な事実が生々しく突きつけられた気分になって黙り込むしかなかった。
 俺は後先考えない男だなと自分を責める事しか出来なかった…そもそも俺料理出来ないのによく女の子を家に誘えたな。
 頭の中で自虐的な発言を自らにぶつけている最中、加奈が俺の肩を掴んできた。
 その表情は妙に活気付いているというか非常に楽しそうなものだった。
「大丈夫だよ、あたしが作ってあげるから!」

322 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro mailto:sage [2007/03/11(日) 05:38:58 ID:+Tw/UoDg]
「いやいや!俺から誘っといて飯作らすのはかなり気が引けるんだが…」
「でも作れないんでしょ?」
「うっ………」
 さらりと加奈に自尊心をズタボロにされた気がした。
 事実だから仕方ないとはいえ、これでは何だか母親の役割を加奈に押し付けているような感じがした。
 どうすればいいのかと思案している内に、加奈は鼻歌を歌いながら台所へと突き進もうとする。
「多分冷蔵庫に余り物位はあると思うから大丈夫だよ」
 軽くスキップ歩調の加奈の背中を見ながら、必死に俺にでも出来る事を探した。
 親がいなければ万年カップラーメン生活になるであろう男が料理で出来る事を考えながら早急に加奈に追いつく。
 俺とて男だ、いくら料理とはいえやはりそれを仮にも宿泊人である加奈に全てやらせるのは駄目だ、
 その一心でとりあえず今出来る最高の誠意を言葉に込める。
「そんじゃせめて、何か手伝わせて。俺が出来る範囲で何でもコキ使ってくれていいから」
 言った後自分でその言葉の意味を確認し、我ながら情けない譲歩案しか出せない事を嘆いた。
 沈んだ面持ちで加奈の表情を伺うと、先程から変わらない笑顔のままで応えてくれた。
「分かった、何でもコキ使ってあげるからっ!」
 どこにも捻くれたところのない真っ直ぐな視線を向けてくる加奈、だからかもしれないが、
 今の加奈の発言にまたもや脳内妄想が駆け巡りそうになった自分に酷く自己嫌悪した。
 加奈すまんな、君の彼氏は今現在どんな言動行動も自動的にエロに変換する中年親父みたいになってしまっている、
 加奈を横目で流し見ながらそう心の中で謝罪した。

「頂きますっ!」
 加奈は手を合わせながら意気揚々と叫んだ、しかし机に置かれているスプーンに手を伸ばそうとせず俺の表情を伺っている。
 どうやら目の前でいい匂いを漂わせている根源のオムライス、その味の評価を気にしているようだ。
 固い表情ではないが真剣味溢れる視線、これは失礼な事言えないなと思いながら俺も小さく「頂きます」を言った。
 結局このオムライスだってほとんど加奈が作った物だ、俺がした事といえば冷蔵庫から残り物の食材を取り出して、
 後は少々溜まっていた汚れ物の皿洗いをしただけだった。
 将来色々と料理出来ないと不便だなと今更気付き、これは明日以降母に料理を習わないといけないなと本気で思った。
 俺の決意はともかくとして…目の前の加奈と目線を合わせながら、加奈の成長ぶりに改めて感心させられた。
 小さい頃は二人共君代さんが料理を作る後姿を眺めていたのに、加奈の方はすっかりエプロン姿が様になっている。
 家庭的な事に関しては男はとことん女に置いていかれるなと女という存在の偉大さを噛み締めつつ、
 料理をしていた為長い黒髪を後ろで縛っている加奈に笑顔を向ける。
 さっきから料理に手をつけない俺を不審に思ったのか、「どうしたの?」と心配そうに尋ねてきた加奈をよそに俺はスプーンを取り
 恥ずかし気もなくケチャップで『MAKOTO』という文字を書きそれをハートマークで囲んでいるオムライスにスプーンを添える。
 割れた半熟卵の中から湯気の立つオムライスの欠片を意識的にではないが焦らすようにゆっくりと口に運んだ。
「美味っ」
 口に広がる絶妙な甘辛の風味に、加奈の顔を呆然と見つめながら思わず本音がそのまま漏れた。

323 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro mailto:sage [2007/03/11(日) 05:39:34 ID:+Tw/UoDg]
「本当!?本当においしい?お世辞とかじゃなくて?」
「とんでもない!本当に美味いよ」
 加奈を称えながら俺は夢中でオムライスに食らいつく、そんな俺の様子を見ながら加奈は楽しそうに笑っている。
 そして俺の本音を聞いて満足したのか、加奈もようやくスプーンを手に取った。
「あっ、我ながら美味しい!」
 俺に笑顔を向けたまま”口に注ぎ込む”という表現がぴったりな汚い食べ方の俺と違って丁寧にスプーンを口に持っていった。
 そんな加奈を見ながら久しぶりに食べる彼女の手料理に俺は舌鼓を打った。
 しばらく夢中で食べる俺を加奈が嬉しそうに眺めるという奇妙な図式が静かなリビングの中で繰り広げられた。

「加奈、本当に悪いな」
 食事を終えた後、そう言いながら俺は二人分の食器を台所へと運んでいく。
 せめて自分に出来る事だけは加奈に迷惑をかけたくなかったので、食器に関しては俺の専売特許状態となった。
 食器を流し台に置き、蛇口を捻りながらどこか遠くの方を呆けるように見つめている加奈を盗み見する。
「結局自分の家で食うのと変わんなかっただろ?俺は本当の意味で美味しい思いしたけど、何か迷惑かけっぱなしだな」
「そんな事ないよ」
 ボーっとしていた加奈がいきなり表情を引き締めながらこちらを見てきたので少々驚いた。
 加奈はいつも抜けたような態度なのに妙なところでしっかりしているなと感心しながら、皿洗いを続ける。
「でも、いつもの味って何だか新鮮さに欠けたりしなかったか?」
「誠人くん平凡な味だなぁって思ったの…?」
「そんな訳ないだろ!」
 急に沈みそうになる加奈に慌ててフォローを入れる、事実本当に美味かったし、
 言葉では言えないが…”加奈と一緒に”食べれたんだから何でも美味いに決まっている。
 少々焦ったが俺の発言を受けすぐに元の笑顔に戻る加奈を見て一安心する。
「あたしはね…”誠人くんと一緒に”食べれるならずっと同じご飯でも飽きないよ」
 その言葉を聞いて思わず皿を落としそうになった、俺の心中でも読み取ったかのようなタイミングだったから。
 玄関先で感じた僅かな溝が静かに埋まっていく情景が自然と心の中で浮かんだ。
 言葉に表さずとも意思疎通の出来た感動を一杯に噛み締めつつ、加奈の方を向きほとんど勢いで伝える。
「お、俺もだよ!」
 言った後加奈の顔を見ると、その顔は沸騰するんじゃないかと思う位頬から耳まで真っ赤に染まっていた。
 つられて俺まで赤くなってしまう、そんな俺の顔を俺の言葉を受けた加奈が見てきて、お互いに可笑しく思った。
「あたしたち、客観的に見て、かなりバカップル…?」
「それでいいんじゃね?」
 そう言ってやると堰が切れたように加奈と一緒に笑ってしまった。
 スポンジでケチャップの痕を落としながらこの状況に多大な幸せを感じた。
 このまま今日何事もなかった事にしたかった、そんな俺を現実へ引き戻すように加奈が口を開いた。
「それじゃ…誠人くんの部屋、行っていい?」

324 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro mailto:sage [2007/03/11(日) 05:41:01 ID:+Tw/UoDg]
 さっきまでの笑い声は突然途絶える、それは多分今神妙な面持ちであろう俺の表情が作り出した空気だ。
「あぁ…先行っててくれ。俺も食器片付けたらすぐ行くから」
「分かった」
 椅子から立ち上がった加奈が、静かにリビングから出て行った、途中俺の方を向いた気もするが今は顔を合わせたくない。
 水の流し音だけが響く台所内で、昨日から今日までの体験を頭の中で事細かに振り返る。
 『非日常』に更に『非日常』が食い込みかなり濃厚な二日間だった気がする。
 今は思い出したくない”あの女”との出会い、それによって加奈を泣かせてしまった事、
 加奈のあまりの変貌ぶりに驚いた事、そして先程危うく大切なものを失いかけた事………全て清算しなくてはならない。
 いつの間にか汚れが綺麗に落ちていた皿を乾燥機に入れながら、俺は決意を胸に加奈のいる部屋へと向かう。
 予行練習なしの恋人とのコミュニケーション、久しぶりの緊迫感に冷汗が流れながらも高鳴る心臓を何とか抑えつける。
 自分の部屋までの階段を一歩一歩上って行く、気のせいかやけに短く感じるのは、心の隅にある甘えが原因だろう。
 現状に甘んじていればいいじゃないかという俺の心の弱さ、意気地なさを露骨に感じ、それを払拭する。
 そして俺は部屋の扉の前に立つ、一つ間違えればまた加奈を悲しませるかもしれない、それでも開けなければならない。
 このままの関係ではいけないのだ、俺と加奈の二人にとって今のままでは今日のような事を繰り返しかねない。
 一度ここで積み上げてきた『互いの理解』というものを無視する覚悟がなければ常に崖っぷちにい続けなければならなくなる。
 そんな不安定な関係は御免だ、俺にとってもだが加奈に常時不安を感じさせるような事をするのは俺自身を許せなくなる。
 大丈夫だ、そう何度も言い聞かせながら俺は部屋の扉を開けた。
「お待たせ、加奈」
 俺が扉を開けた先、俺は部屋の中を見渡すがそこに加奈の姿は見当たらない………と思ったがすぐに見つかった。
 俺の部屋の中央に横たわっている皺だらけでくたくたの敷布団が変な形に盛り上がっている。
 しかも僅かに上下もしている、その幼稚且つ可愛らしい行動を見て本当に自分と加奈が同い年なのかと疑った。
 とりあえず、俺は敷布団のところまで歩み寄り、勢い良くそれを引っ剥がした。
「あっ!」
「何してるんだよ、加奈?」
 布団の中には加奈が猫のように丸まりながら横たわっていた。
 加奈は予想外だったのか一瞬驚きながらも、すぐに不機嫌そうな表情になった。
「見つけるの早過ぎだよ、誠人くん。もう少し慈悲の心というものはないの?」
「生憎、今はそれどころではないんでな」
 俺が少々鬼気迫る表情で加奈と顔を合わせると、自然と加奈の顔も引き締まった。
 俺の表情から何となくだが俺の真意を読み取ったようにも見えた。
 もう引き下がれない、覚悟を決めなければならない。
「加奈、話がある。何も言わず、聞いてくれ…」
 目線は外さない、外したら甘えが肥大化してこれ以上先の事を言えなくなると根拠のない確信を感じていたから。
 だが、加奈と目を合わせていれば無理矢理にでも言わなければならなくなる気がする、それは結局加奈に
 甘えているのかもしれない、それでもどうしても言いたいから、そこら辺の事は速やかに割り切った。
 そんな俺に、加奈は無言でただ頷いた。

325 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro mailto:sage [2007/03/11(日) 05:41:47 ID:+Tw/UoDg]
「加奈、ごめん」
 まずどうしても改まってもう一度言いたかった事、この言葉なしにこれからを語るのは今の俺には無理だ。
 何も言わずただ俺を見つめ続ける加奈に、俺は話を続ける。
「今まで俺と加奈は上手くやってきていると思っていた。事実特に変な事もなかったし、このままでもいいと思った。
 でも、昨日今日の事を考えてやっぱ”このまま”じゃ駄目なんだと思った。俺たちは生まれた時からずっと一緒で、
 付き合いの長さで言えばお互い自分の親と同じ位だ。だからだったんと思う…俺いつの間にか加奈の事、
 全部分かり切った気でいた。加奈の為に今何をすべきなのかだとか勝手に解釈して自分の考えを押し付けてた。
 学校内では会わないようにしようだとか言ったのも、加奈の将来の事を考えての事だと言い聞かせて”分かった気でいる”
 自分に自己満足してたんじゃないかと思う。自分にとっての大切な事を加奈にとっても同じなんだってすり替えてしまって…。
 本当はどんなに付き合いの時間が長くたって、俺たちはまだまだ未熟なんだ。お互いを分かり切った気でいても、
 まだまだ言葉で意思を伝え合わなきゃやっていけない関係なんだ、離れちゃいけないんだと思う。こんな事言うのは
 俺たちの関係の程度を認めてしまうから本当に心苦しい…でも、俺は『妥協した幸せ』はいらない。手探りでも構わない、
 お互いに言いたい事を言い合って、嫌なら嫌ってはっきり言って、そういう高め合う関係を築いていきたい…。
 俺はこんな独り善がり甚だしい男だけど、それでも加奈を誰よりも好きだって自信を持って言える、お願いだ加奈。
 こんな俺でも、これからも付き合い続けて下さい」
 俺は一語一語噛み締めるように確認しながらその全てを加奈に伝え、頭を下げた。
 俺の話中、加奈は本当にただ黙って聞いてくれた、その心遣いに心に感動の波紋が広がる。
 いつだって加奈は俺の事を一番に考えてくれた、馬鹿な俺とは違い、常に俺の立場に立って尽くしてくれた。
 そんな掛け替えのない存在、失いたくない………俺には加奈しかいない、俺は加奈しか欲しくないんだ。
 必死に祈る中、耳に鼻を啜るような音が聞こえたので顔を見上げてみる、そして驚いた。
「加奈ッ!?どうしたんだよ!」
「だ、だって…まこ、誠人くんがそんな…そんな事言うから………嬉過ぎ、て………」
 加奈は顔を涙に濡らしていた、スカートの裾を握りながら必死に我慢するように下を俯きながら。
 また加奈の涙を見た、でも罪悪感は感じない、だって加奈は今”嬉しい”って言ってくれたから。
「な、何も泣く事…」
「誠人くん」
 不意に加奈は立ち上がり俺の首元に両手を巻き付けて抱きついてきた。
 いきなりの出来事に顔が赤くなりそうになるのを堪えるので精一杯だった。
 そんな俺の胸に顔を押し当てるようにしながら、嗚咽が漏れる口を必死に開く加奈。
「あたしだって…あたしだって誠人くんに………。誠人くんがあたしを好きだって分かってるのに、他の人に傷つけられた
 って分かると我慢が出来なくなって傷付けちゃった…。あたしの欲深さが、意地汚い独占欲で誠人くんを何度も…。
 本当なら嫌われて当然なのに、なのに誠人くんはこんなあたしでも受け入れてくれて…誠人くん…誠人くん………。
 こんな、こんなあたしでも、これからも付き合ってくれますか?」
 最後の方は聞き取るのがやっとな程小声だった、でも、想いは反比例するかのように俺の心に大きく響いた。
 俺は何も言わず、加奈のその体を強く抱き締めた。
 たとえ壊れてしまうと分かっていても離せなかったと思う、加奈が愛し過ぎたかたら…。

326 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro mailto:sage [2007/03/11(日) 05:42:34 ID:+Tw/UoDg]
 俺は泣き止むまでずっと加奈を抱き締め続けていた、本当は泣き止んでも続けていたかったけど。
 俺の上着の胸の辺りが加奈の涙でびちょびちょになるまで濡れ切ったところでようやく加奈は泣き止んだ。
 泣き止んだ後は、床に座り込み加奈の黒髪を何度も何度も撫でてやった。
 そうしてやると加奈はくすぐったそうに笑う、やっと見れた加奈の笑顔に心中穏やかになる。
 いつの間にかずっと抱いていた不謹慎な感情は消え去っていた。
 加奈の笑顔さえ見れれば”そんな事”は取るに足らない事、俺は加奈に微笑みかけながら静かに問い掛ける。
「加奈、そろそろ風呂入って来いよ。もうこんな時間だし」
 机の上にある時計を指差す、すると加奈は何故か急に顔を真っ赤にした。
 自分の発言に何か変なところはなかったかを確認し、妙にもじもじしている加奈の顔色を伺う。
「加奈…?どうしたんだ、顔赤いぞ?」
「ひぇっ!?」
 すると突然素っ頓狂な奇声を発した。
 何だか瞳も妙に濡れていて、さっきまで泣き続けた子供のような姿とは違ってかなり大人びて見えた。
「ま、まま、誠人くん先に入ってきて!?」
「え?俺の後でいいのか?」
「だ、だだだ大丈夫だから!」
 全然大丈夫じゃないだろと言おうとしたが、何だか只ならぬ雰囲気なので突付くのは止める事にした。
 俺は立ち上がって箪笥の中から下着類を取り出すと、そのまま部屋の扉へと向かう。
「なるべく早めにあがるから、加奈も準備しといていいぞ」
「う、うん…分かったよ………」
 何故か俺と目線を合わせてくれない加奈、まぁその真意は風呂の後に聞こうと思い俺は部屋から出て行った。

     ―――――――――――――――――――――――――――――     

「ふぅ…」
 誠人くんの部屋に一人残されたあたし、とりあえず何考えてるのか読まれなくて良かった。
 それにしても、誠人くんがあそこまであたしを気遣ってくれていた事が本当に嬉しい。
 誠人くんは自分の事”どうしようもない男”だって言ってたけど全然そんな事ないよ。
 あたしを好きでいてくれないとあそこまで言えない、あそこまで想えないよ。
 やっぱりあたしと誠人くんの間には誰も割って入るなんて出来っこない、あたしたちは結ばれるべき二人なんだ。
 メルヘンチックな事を本気で信じながら、誠人くんが風呂からあがってきたらどうしようかと考えた。
 だって、この時間にお風呂って事は………”そういう事”があるって思っていいんだよね?
 誠人くんってキスまではしてくれるけどいつも”その先の事”はしてくれない、いいムードになった事も何度かあるけど、
 大抵はそこで終わってしまう。
 それはあたしを想っての事だって思う、友達に聞いたら男の人って”そういう事”に関してはかなり慎重なみたいだから。
 少し残念には思うけど、それがあたしを想っての事だとは分かってるから嬉しかったりもするんだよね。

327 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro mailto:sage [2007/03/11(日) 05:55:00 ID:+Tw/UoDg]
 でも今のこの感じなら絶対………誠人くんだって”したい”って思ってると思う。
 こういう時になると自分の貧相な体に落胆する。
 牛乳飲んだりエクササイズしたりして色々と試したりはしたんだけど成長はほとんどしなくて、自分の体が恨めしくなる。
 そんなあたしでも誠人くんは愛してくれるだろう、だから見栄えのない分誠人くんの為に少しでも尽くさないと。
 あたしは頭の中で脳内イメージを膨らまそうとした、その瞬間突然何か音がした。
 それがバイブ音だと分かるのに数秒かかった。
 雰囲気が雰囲気なだけに一瞬その音に不埒な妄想をしてしまったのは誠人くんには内緒ね。
 それは置いといて、あたしはバイブ音の発信源である誠人くんの机の上に置かれている携帯電話を手に取る。
 ボタンを押しとりあえずバイブ音を止める、そして見てみるとメールが一通来ていた。
 誠人くんには悪いなとは思いながら、好奇心という小悪魔に勝てなかったあたしは携帯を操作する。
 ロックもかけていないところに自分への信頼を感じつつ、メールボックスを開き、そのメールの内容を確認した…。

     ―――――――――――――――――――――――――――――     

「加奈、もういいぞ」
 俺が部屋の扉を開けると、加奈は体育座りをしながら黙り込んでいた。
 その傍らには何故か俺の携帯電話が置かれている、何があったのか確認しようとした瞬間、加奈がすくっと立ち上がった。
 下を向き俺と目線を合わせないまま俺に近付いてくる。
 そして静かに口を開いた。
「誠人くん…”ちょっと”外行って来ていい?」
 下を向いたままだから表情は読み取れない、しかし、声色からして何となく嫌な予感がした。
 昨日の夕方、加奈に保健室での事を訊かれた時のような緊迫感を全身全霊で感じる。
 こんな加奈の様子を前にして、俺は………


 1・すぐに携帯電話を確認する
 2・そのまま行かせる
 3・止める



328 名前:上書き ◆kNPkZ2h.ro mailto:sage [2007/03/11(日) 05:57:33 ID:+Tw/UoDg]
投下終了です。最後の最後で連続投稿にひっかかって…orz
そして予告通りもう一回だけ選択肢をつけました。
後前の投下で次が最後と言いましたが、本ルートだけはもう少しだけ続けます。

329 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 09:04:40 ID:whD8sD7W]
>>328
いよいよクライマックスですかGJ!
加奈タンと誠人には幸せになってほしい
……と言いつつ島村さんとの決戦にもwktkしている俺w
( ´∀`)σ1



330 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 09:56:25 ID:IrR26brh]
今まで暴走していた二人の愛も、紆余曲折を経て幸せへと向かう。
これ、普通の純愛小説としても意外といけそうなところがいい。

331 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 11:02:42 ID:RkX+whuf]
GJ!
この後もっとグチャグチャになる展開を
予想して2で



332 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 11:45:42 ID:slVcKCdO]
いよいよクライマックスですか!
楽しみでもあり、寂しくもあり。何にしてもGJ!

情報が命。1で。

333 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 12:27:17 ID:4Nvtt4ck]
もちろん 2・そのまま行かせる 以外に選択肢はなーい!

334 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 12:52:54 ID:TXAO3X6Q]
>>327
3・止める

止めたらどうなるかなー?

335 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 17:00:28 ID:3f2K9cdf]
メールの内容が気になってしょうがない!!
だから1で!!

336 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 19:34:00 ID:ymj/Q6Tj]
2だろ!そして最終決戦。

337 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 19:48:43 ID:c6GNu5Dn]
みんなよく考えろ。ここは1.2.3の票数を同率一位にして3つ書いていただくべきだ!
それとも票数関係なしに3つとも書いてもらえるのかな?

まぁ、とゆーわけで3で

338 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/11(日) 23:21:10 ID:Ttj8iv5s]
まて、ただ止めるだけでは「面白くない」。
というわけで1だ。

339 名前:51 ◆dD8jXK7lpE mailto:sage [2007/03/11(日) 23:35:22 ID:3EkMifA6]
トリップつけますた。
間あきましたが第2話。


鬼葬譚 第二章 『篭女の社』

にばんめのおはなし
======================================

「そういえば、昼間儀介君が来ていた様だね」

夕餉を終えた父が、御膳を下げに来たあたしに不意にそんなことを言い出した。

「ええ。あいもかわらずのその日暮らしのようです。
 もう…もう少ししっかりして欲しいと常々思っているんですが…」

はぁ、とあたしは大きく嘆息する。
結局、あの後あたしはいくばくかの小遣いを儀介に包んでやった。
こういった甘やかしが良くないのだとはわかっているのだが…。

「はっはっは、確かにそこはいけないところでは在るけれど…儀介君は好人物だ。
 なかなか好感の持てる青年だよ」

苦笑しながらも儀介の肩を持つ父に、あたしは少しだけむすっとした顔をしてみせる。

「そんな事ありません。くだらない悪戯はするし、屁理屈ばかりいいますし、まるで子供です!」

思わず声を荒げるあたし。だが、父は小さく苦笑するだけだ。

「いやいや、男というのはいくつになっても子供のようなものだからねえ」

そして、そう言っておどけて見せる。




340 名前:51 ◆dD8jXK7lpE mailto:sage [2007/03/11(日) 23:35:53 ID:3EkMifA6]
「…随分とあいつの肩を持つんですね」

あたしは、そんな父の言葉にむすっとしながら、呟いた。
けれどそんなあたしを見て、父は優しく微笑むと優しく諭すような口調で続ける。

「彼は決して悪行には手を貸さない。
 天道に背を向けるような行動をしないということは、今の世の中なかなかできることじゃあないさ。

確かにここのところ、どこそこに盗人が入っただの、刃傷騒ぎがあっただのと、良くない話を聞く機会が増えた。
何かに、追い立てられるかのように生きていく人。それに押しつぶされてしまう人。
――あるいは、人という生き物は平穏に耐えられないのかもしれない。
だから、長く平穏が続くとそれを壊したくなるのかもしれない。

「…彼を信用してあげなさい。
 たとえ全ての人が彼を見捨てても、お前だけでも、彼を信じてやりなさい。…いいね?」

父は、最後の言葉は笑わずに、真面目な顔であたしに向かって諭す。
そんな父の姿に毒気を抜かれたあたしは、思わずはい、と答えていた。

======================================

341 名前:51 ◆dD8jXK7lpE mailto:sage [2007/03/11(日) 23:37:03 ID:3EkMifA6]
あたしは、小さく欠伸をしながら寝所へ続く廊下を歩いていた。
初夏の夜風が、青い草木の香をかすかに運んでくる。
つ、と見上げた空には、新円の月。
雲もなく、きっと明日もいい天気になるだろう。

「儀介…か」

父とあんな会話をした後のせいだろうか。
何故か儀介の顔が、声が思い返される。
月を見あげながら、あたしはあいつと始めて出会った日の事を思い返していた。

それは、昔まだあたしが小さかった頃の話だ。
小さい頃のあたしは、人見知りが激しいほうだった。
いつもいつも、人が来ると父の陰に隠れていた記憶がある。
そんなあたしにとって、祭事の日は、とても嫌なものだったのだ。

小さな神社ゆえ、父一人で祭事の全てをこなす事はどうしてもできない。
今でこそあたしという人手があるが、当時は知人や友人の手を借りて切り盛りをしていた。
祭事の日が近づけば近づくほど、普段はあたしと父しかいない神社に、人があふれてくる。
見知らぬ大人。
知らない顔、顔、顔、顔。
…その頃のあたしにとって、祭事の日ほど恐ろしいものはなかった。

ある時の事。
とうとう私はその環境に耐えられず、神社から泣きながら逃げ出した事があった。
怖くて泣いていたのか、一人ぼっちである事が寂しくて泣いていたのか…。
今となっては、良く思い出せない。
逃げだしたあたしは、社の近くの大樹の下で一人泣いていた。
泣いても泣いても、いや、泣けば泣くだけ悲しくなってしまう。
まるで、体中の全ての水を出し切ってしまうかのように、あたしは泣いていた。
そんな時の事。

『何泣いてんだよ、お前』

突然木の上から声がして、あたしは思わず泣き止んだ。

342 名前:51 ◆dD8jXK7lpE mailto:sage [2007/03/11(日) 23:38:30 ID:3EkMifA6]
顔をあげると、そこには木にぶら下がっている健康的に肌の焼けたやんちゃそうな男の子。
その男の子が、むすっとしながらあたしの顔を見下ろしていた。
あたしが、突然の出来事に泣く事も止め目を白黒させていると、その男の子はぴょいっと
あたしの隣へと飛び降りてきた。

『お前、ここは俺の隠れ家なんだぞ、みんなにばれたらどうするんだ』

詰め寄られ、どうしたものだろうかとおどおどしているあたしに向かって、
男の子はずいと手ぬぐいに包んだ飴をいくつか突き出した。

『一人で食べようと思ってたけど、お前が泣いてると美味くない。
 だから半分やる。その代わりにここの隠れ家の事、秘密にしろよ』

―――その時食べた飴が、甘く美味しかった事だけは、良く覚えている。


それが、あたしと儀介の出会い。
一人っ子で引っ込み思案だったあたしの手をとって、儀介はいろんな所へ連れて行ってくれた。
川で釣りを教えてもらった。
…暴れる魚に驚いて、思わず泣いてしまった。
木登りを教えてもらった。
…登ったきり降りれなくなって父に迷惑をかけた。
あたしが風邪をこじらした時、お見舞いといって花を持って来た。
…毒花で父が気付かなければ酷いことになるところだった。

儀介やその友達と遊ぶうちに、人見知りな性格も少しずつ良くなってきた。
…生来のおっちょこちょいの儀介と付き合ううちに、かわりにしっかりせねばと思い、
引っ込み思案だったあたしの性格も大分矯正された。

「…まったく、助けてもらってるのか、迷惑かけられてるんだか…」

苦笑しながらも、何故だか心の中があったかくなって頬が緩む。
その日あたしは、子供の頃儀介と遊んでいた頃の事を夢に見た。

======================================
あいも変わらずデレ描写が長いのは申し訳ないッス…


343 名前:しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA mailto:sage [2007/03/12(月) 00:02:18 ID:jXgGt8Oy]
ここはやはり2を期待します

投下します 注意 フタナリものです

否命はその少女の笑顔に、鼓動の高鳴りを覚えていた。その少女の笑顔は深山に咲いた一輪の華の如き幽玄の美を持って、否命の心臓にまで迫る。
しかし少女の顔は圧倒的美を誇りながらも、瞳がその美を何処か歪なものに変えていた。まるで悠久の自然が作り上げた光景を、愚かな神が手を加えてしまったが故に、その無為の輝きを壊してしまったかのような…一言で言えば「不自然さ」があった。
「聞こえなかったの?財布よ」
その声に否命は現実に引き戻され、慌てて自分が手に持っているものを確認する。
「財布って……これのことだよね?」
少女は頷いた。
「そう、それよ。返して頂戴」
「返すって……あの男の人達に返すんだよね?」
「面白い子ね…」
言って、少女はスッと否命と顔が触れ合いそうな位置まで足を進めた。
「なッ、何?」
戸惑う否命に、少女は更に自分の顔を近づけるとニィーっと笑った。否命もつられて、口元がニィーっと歪む。
次の瞬間、少女は否命の額を指で弾いた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
声にならぬ悲鳴をあげ、否命は地面に蹲った。
少女のした行為は所謂デコピンというやつであった。それは単純に指で額を弾くという、暴行とは言えぬ、ある種の「戯れ」であるが、否命はそれによって額が爆発したような痛みに襲われていた。


344 名前:しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA mailto:sage [2007/03/12(月) 00:03:31 ID:jXgGt8Oy]
「いい、良く聞きなさい!それは私が身体を張って、汗水流して、神経をすり減らして手に入れたもの。いうならば、私の努力の報酬なのよ!だから、私のもの…分かる?」
分かる筈ない。否命は地面に蹲ったまま、首を横に振った。
「さぁ、私に財布を…」
「駄目・・・だよ。それは、あの男の人のだから…、ちゃんと…返さないと」
「もう、返して済む問題じゃないんだよ、お嬢さん方」
その声に二人が振り向いた先には例の男二人組みと、その二人組みの仲間と思われる、これまた堅気の風体とは思えない一人の男が立っていた。
少女は咄嗟に逃げようとしたが、いつのまにかもう二人別の男が少女の前に回りこんでいた。
「チッ!」
計5人の男に囲まれ、少女は思わず舌打ちをする。しかし、それでいながら少女の顔はあくまで涼しげなままであった。
「さっ、俺の金を返して貰おうか。お嬢さん」
先ほどの事件がよほど金を盗まれた男にとって屈辱だったらしい。少女を追い詰めた男は嬉しくて、嬉しくてたまらない様である。
「もう、返して済む問題じゃないのでしょう?貴方の頭には、実は真っ赤なトサカが生えているようね」
「相変わらずの減らず口で…」
「貴方も相変わらずの臭い口で…」
少女の態度に男は苦笑を漏らす。余裕の笑みであった。
「で、そっちのお嬢さんは?」
「そう、私の「仲間」よ」
「ほぅ…」
「貴方たちは、運がいいわね。丁度今、「仲間」割れを起こしていたところよ」
「それは、それは」
そう言って、男は否命のほうに顔を向ける。
「成るほど。そいつが俺から盗んだ財布を、あんたが預かるっていう寸法だったんだな」
否命はしばらく、自分が何を言われているのか分からなかった。この状況に頭が追いついていないのだ。否命はこの男が自分に向けてくるプレッシャーに、ただ怯えていた。
「どうなんだ!えっ、そこの餓鬼とグルなんだろ!?」
「えっ?」
「その餓鬼と二人して、俺を嵌めやがったな!」


345 名前:しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA mailto:sage [2007/03/12(月) 00:05:05 ID:MpTr3WJD]
そう言われてようやく否命は自分がこの男達に、少女と共謀したと思われていることを理解した。
「………、ちっ、違ッ、違いまっ、わッ、わッ、私は…そッ、その…あのの…」
緊張からか、否命の口調は滑稽な程たどたどしい。ここで動揺したり、焦ったりしたら、この男達に怪しまれるのではないか…そんな思いが逆に否命の口を不自由にしていた。
「私は…ポポポ、ポケッ、ケトに、その…さっ、財布を、いいい、入れられただけで…」
「哀しいわ。所詮、悪党同士の結びつきなんてこんなものだったのね」
否命とは違い、少女は声も顔も平常そのものであった。
少女はたとえ、否命のようなひ弱な女の子であっても、利用できるものは全て利用するつもりらしい。
しかし、その少女に目を付けられた否命は…。
「小便ちびりそうな顔しているぜ、嬢さん」
「漏らしちまいな。嬢ちゃんのなら、呑んでやるぜ」
口々に勝手な事をいいながら、前方の男は懐からナイフを取り出した。それは刃を折りたためば掌に収まるほどの大きさであった。不必要に殺さずに、相手を傷つけることを目的
としたものである。
少女は咄嗟に後方を振り向く。たとえ相手が三人でも、ナイフを持っていないのならば、逃げ道は後方にしようという魂胆である。
だが、後方の二人も懐から同様にナイフを取り出した。前方の三人と同じく、ナイフそのものは小さい。
「使うよ…、お嬢さん方」
最後に、少女に金を盗まれた男は懐から大きな登山ナイフを取り出した。
「最後通告だ。俺達にさんざんいたぶられた末に財布を渡すのと、財布を渡した後にいたぶられるのと、どっちがいい」
否命は力の限り首を横に振った。
哺乳類は刃物の光沢を見ると、本能的に恐怖する。それは本能的な故に例外のない事実である。しかし、少女の顔には未だに怯えの色はなかった。
恐らく、胆力で恐怖を顔に出さないようにしているのだろう…と男達は、少女の胆力に意外にも感心してしまった。
「なかなか、立派な面構えしてるな。だが、虚勢を張るだけで…」
「警察…」
少女がボソッと呟く。
「あっ?」
「集団で囲み、脅迫し、挙句に刃物…、もう警察は呼べないわね」
「ほぅ…」
前方の三人の内の一人が小さなナイフをちらつかせながら、少女に掴みかかる。
「触らないで頂戴」
っと、少女はその男の手をバシッと払いのけた。


346 名前:しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA mailto:sage [2007/03/12(月) 00:20:09 ID:bHNY5Ni5]
「この餓鬼ッ!!」
叫ぶと同時に、男は少女の腹部を殴る。恐らく男は殴りなれているのだろう…男の拳はものの見事に少女の鳩尾に入っていた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
少女は腹部を押さえ、息を吸おうと口を死に掛けの金魚の如くパクパクと動かす。だが、激痛のあまり少女は息を吸えず、苦悶の表情を浮かべながら倒れるほうに男に近づいていった。遠目でも分かるほど、足元がふらついている。
「もう一発だ」
再び、少女の鳩尾に男の拳が抉りこまれた。少女の瞳の焦点が合わなくなっていく。少女は自分を殴った男に何かを求めるように、男の裾を掴んだ。
「さっきまでの威勢はどうしたのかな?」
と、男の口から嗜虐の笑みがこぼれた。同時に、周りで事の成り行きを見守っていた男達が一斉にその少女の無様な姿を見て笑い声を上げる。
っと、次の瞬間であった。
少女を殴った男の顔にベチャッと、何かが張り付いた。男はその物体に視界を遮られて、慌ててその物体を両手で払い落とそうとする。だが、ナイフを持った右手の手首は少女に捕まれ止まってしまった。
男の力ならば、少女の手を振り払うことは十分可能である。だが、視界を塞がれた男にとって自分の右手が動かない事態は、実際以上の脅威を持って男に迫った。咄嗟の事態で、男は軽く混乱しているのだ。
「こいつ…ゲロ吐きやがった」
誰かが呆然と呟いた。
その言葉が合図であったように、男の鼻孔に甘酸っぱいゲロ独特の匂いが広がる。そして、ようやく男は自分が顔にゲロを吐きかけられた事を理解した。
「こいつッ!!」
怒りに駆られ、男は全霊で持って少女を殴ろうとする。しかし、男は少女に右手首を掴まれているせいか、視界がゲロによって遮られているせいか、勢い余って体勢を崩しそのまま地面に倒れてしまった。
ぺきん!
という、枯れ枝を折るような音がした。
その音に、周りの全ての人間が呼吸を止める。男の顔はゲロにまみれても尚分かるほど、苦悶に顔を歪ませていた。
男の手首から先が消えていた。
切れたのではない。
男の右手は綺麗なアーチを描くように内側に折れ曲がっていた。掌が腕の腹にピッタリと張り付いている。何処か、冗談じみた奇妙な光景であった。


347 名前:しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA mailto:sage [2007/03/12(月) 00:21:47 ID:bHNY5Ni5]
「ゴッ・・・・・・・・・アアアアアアアアアアアアァァァァァ〜〜〜〜!!」
男は倒れたまま、地面を転がる。
視界の遮られていた男には分からなかったが、男が少女を殴ろうとした時、少女は男の足
を払っていたのである。そして男が倒れるのと合わせるように、握っていた男の右手首を
内側に折り曲げたのだ。結果、男の手首は自分の体重分の衝撃を受け、ありえないぐらいに曲がってしまっていた。
確信犯であった。
少女は倒れた男の手からナイフを捥ぎ取ると、それを持って財布を盗すまれた男のほうへ近づいていく。
「おぃおぃ、俺達とやろうっていうのかい?」
男達は心臓が飛び出るほど驚いたものの、戦闘意欲を失うような人種ではなかった。既に、
咄嗟の事態に頭が追いついているらしく、ナイフを片手に少女を威嚇する。
しかし、少女はそれでも顔色一つ変えることなく無言で財布を盗まれた男に迫った。
「そんなチッポケなもので、これとやりあうってか?」
男は自分の大きな登山ナイフを振り回しながら、少女の持っている小さいナイフを笑う。
「………」
少女は既に財布を盗まれた男の眼前まで来ていた。その少女の首筋に財布を盗まれた男は、
登山ナイフをあてる。ツゥーっと、少女の首筋から赤い血が細く流れた。少女はそこで動きを止める。
「餓鬼、もう歩いて帰れな…」
次の瞬間、なんの躊躇いもなく、少女は財布を盗まれた男の顔をナイフで切りつけた。
周りが水を打ったように静かになる。それから、一拍おいて男の顔から血が噴出した。
「これで、トサカの生えている貴方の汚い顔も大分マシになったわ」
いつも変わらない調子で、いつもと変わらない顔で少女は言った。


348 名前:しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA mailto:sage [2007/03/12(月) 00:22:58 ID:bHNY5Ni5]
「やってくれたな!もはや生きて帰さんぞ!!」
それでも、この男は戦意を失うことも、取り乱すことも無く、少女に登山ナイフを振るおうとする。
だが、財布を盗まれた男が少女にナ登山イフを振るうよりも早く、少女は男の登山ナイフを持っている右手の甲をナイフで突き刺していた。
「〜〜〜ッ!」
思わず、財布を盗まれた男は登山ナイフを取り落としてしまう。その登山ナイフを少女は驚くほどの素早さで拾い上げた。
「お前ッ、アアアアアアアアアアア!!」
男の顔が驚愕で見開かれる。少女は、まるでマウンドに立つピッチャーの如くその大きな登山ナイフを大きく振りかぶっていた。
脳天から顎まで一直線。まさか…と思う財布を盗まれた男の脳裏に、自分の頭が西瓜の如
く真っ二つになっている光景と、直前の何の躊躇いもなく自分の顔を切りつけた少女の顔が浮かんだ。
「ヒィッ…」
流石の男も限界であった。恥も外聞も無く、財布を盗まれた男は両手で頭をガードした。
少女の登山ナイフが半円を描いて男に迫る。
「―――――――――!!!!」
少女の登山ナイフは男の両手ギリギリのところで止まっていた。
目を閉じていた男は、自分が無事なのを確認すると安堵のあまり地面にヘナヘナと座り込
んだ。その男の股間を少女は蹴飛した。「ウッ」と短い呻き声を発して財布を盗んだ男はとうとう気絶する。
あまりの事に、少女の回りで声を発するものは誰もいなかった。


349 名前:しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA mailto:sage [2007/03/12(月) 00:24:04 ID:bHNY5Ni5]
「クリーニング代……」
静寂を破るように少女が呟く。
「聞こえなかったの?クリーニング代よ」
「えっ?」
前方の三人組の残った一人に少女は声を掛けた。男はあまりの事に目を白黒させている。
「貴方達が汚したのよ。クリーニング代出してくれるわよね?」
そういって、少女は自分のシャツを摘んでみせる。
「あっ…ああ、はい」
男は少女の上着が返り血で紅くなっているのを見ると、これまた分厚い財布から一万円札を一枚取り出し少女に渡した。
「………」
少女は無言で男の手から財布をかっぱらうと、その中に入っていた札束を無造作に掴
み取る。その札束をポケットにしまうと、少女は半ば放心している男に薄くなった財布を投げて返した。
「それと、上着も貸して頂戴。このままじゃ、家に帰れないわ」
後ろで呆然としていた二人組みと、前方の残った一人が無言で目を交わす。そして、後方の男の一人が自分の上着を脱いで少女に渡した。
否命はもはや気が動転して歩くこともままなかなかったが、それでもフラフラと帰路を急ぐ。しばらくは何も考えられそうになかった。
「ありがとう。じゃあ私はこれで失礼するわ。あと、救急車ぐらい呼んであげなさい」
そういって、少女は否命の後を追った。
少女はまだ、否命に財布を渡したままであった。

投下終わります




350 名前:しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA mailto:sage [2007/03/12(月) 00:26:25 ID:bHNY5Ni5]
>>51 ごめんなさい!!
書き込み、気付きませんでした。これからは、新着レスを確認してから
書き込むようにします。
本当に失礼しました!

351 名前:しまっちゃうメイドさん ◆HrLD.UhKwA mailto:sage [2007/03/12(月) 00:28:36 ID:bHNY5Ni5]
って、冷静になって見てみれば重なってないか…。
ビックリした。
早とちり失礼しましたorz

352 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 12:55:57 ID:Dgpov0tf]
投下キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
二作品ともGJ! 
デレが長ければ後の病みが強調されるし気にしませんとも

353 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 17:53:41 ID:gcuACKeR]
>>342
なんという平穏な日々……
二人には幸せになってもらいたいが、そうはいかんのだろうなあ。

>>350
なんだかダークな展開になってきましたな。
三人組の男たち、カワイソス

354 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 20:27:07 ID:2YMSMgN8]
皆がヤンデレに目覚めた切欠は何?
俺はムヒョロジのパンジャ。

355 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 20:45:16 ID:IG/VrY4O]
ねーちん

356 名前:51 ◆dD8jXK7lpE mailto:sage [2007/03/12(月) 20:58:53 ID:hCnzUgw2]
>>355
同士よ…

357 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 20:59:54 ID:Dgpov0tf]
月島美夏

358 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 21:06:57 ID:E5F0wvDU]
言葉様

359 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 21:25:12 ID:WfnP6HgM]
我妻由乃



360 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 21:29:21 ID:SZzpJ4eZ]
心の奥底に眠ってて自然と・・・

361 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 21:34:18 ID:en5DgO3x]
黒楓

362 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 21:42:28 ID:IHbl50uK]
垣原

363 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 21:47:42 ID:bcfkV9ey]
新井素子の『ひとめあなたに』
小学生の頃にこれを読んで衝撃を受けた。


うろ覚えだが、作者はあとがきで
「追い詰められて追い詰められて狂う女の子の話を書くのが大好きだ!狂ってる女は皆きれいだ!!」
みたいな事を書いてたすごいひと。

364 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 22:05:52 ID:/jrXqHSw]
ヤマネ

365 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 22:12:45 ID:BxKK6zlp]
サロメ
聖書じゃなくて戯曲があるんだけどそれのあらすじをとある漫画で読んだ

366 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 22:20:34 ID:7eRA2nbk]
僕は、櫃内夜月ちゃん!

367 名前: ◆6PgigpU576 mailto:sage [2007/03/12(月) 22:21:56 ID:LtE7q71J]

>>354元々好きだった様で、このスレに辿り着いて覚醒しました。

流れ切ってすいませんが、投下します。
第七話目になります。

368 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 mailto:sage [2007/03/12(月) 22:23:03 ID:LtE7q71J]

カラ――ン…
「ィあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁッ!!」

ナイフの落ちる音と、伊藤さんの悲鳴。
それらが聞こえてきてから、何か頭上を掠めていった事に思い当たった。

伊藤さんが振り翳していたナイフは僕の足元に転がっていて、伊藤さんの右手には、
小刀が深々と刺さっていた。

そこで解ったのは、頭上を掠めていったのは伊藤さんの右手に刺さっている小刀で、
それによって僕は助かった、という事だけだった。

「危なかったですわね」

投げた人物は恐らく隣にいる男性の方だろうが、リビングの方から現れた二人組の
女性の方が、そう声を掛けてきたので、どうやら僕らの味方らしい事が解った。
男の方はそのまま無言で近付くと、顔色一つ変えずに、のたうち回る伊藤さんのお腹を
二・三度蹴り上げ、ぐったりした所で右腕に片足を乗せると、刺さった小刀を躊いもなく
引き抜く。と、その激痛に耐えられなかったのか、伊藤さんは気絶してしまった。

「夏月さんのお兄様ですわね?
 私は湖杜、こちらが射蔵。親類に当るもので、本家から来ましたの。
 そちらの倒れている女、どうなさいます?」
湖杜さんと名乗った女性は、射蔵さんという男性の傍まで行くとそう僕に言った。
「え? 伊藤さんを? どう、とは?」
「お見受けしたところ、その伊藤という女を、このまま帰す訳にもいきませんわよね?
 宜しければ本家で、この女を預かりますけれど、どう致します?」

確かに伊藤さんをどうするかが、一番の悩み所だ。
このまま帰しても、また何をするか解らないし、警察に届けるにしても、色々と
厄介な事には変わりがない。
何より東尉を傷付け、更に夏月を殺そうとした。

――――許せない。

伊藤さんは未成年だし、精神鑑定などで罪には問われないかもしれない。
でもそんな事は、到底許せる事じゃない。だから、

「お願いします。僕は伊藤さんを、許せない」

湖杜さんと射蔵さんに、本家の人間に任せる事にした。
どうやら一連の流れを見る限りでは、二人はやはり只者では無いようだ。
何せ、曰く付きの本家の人間なのだから。

369 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 mailto:sage [2007/03/12(月) 22:23:52 ID:LtE7q71J]

「解りました。その様に手配しますわね」
にっこりと湖杜さんは綺麗に微笑み、展開を見守っていた射蔵さんが携帯を取り出し、
手短にどこかへ連絡を取った。きっと本家にだろう。
伊藤さんの事はそれでいいとして、漸く僕は夏月の様子を落ち付いて見る事が出来る。

蒼褪めた夏月はがたがたと震えながらも、目を見開いて虚空を見つめている。
「夏月、怖かったよね。 でも大丈夫だよ。もう大丈夫だから」
当り前だ。殺意を向けられ、ナイフを振り翳されれば、誰だって怖いに決まってる。


どうして、こんな事になってしまったんだろう。

伊藤さんが僕を好きらしい、と東尉は言っていた。
でも伊藤さんの口からはっきり聞いた訳でもないし、もしそうだとしても、何故
夏月や東尉を敵視するのかも理解出来ない。
そもそも伊藤さんが僕を好きになった、という事自体が理解出来ない。
夏月のクラスメイトで友人。その位の認識しか僕には無いし、伊藤さんにしたって
同じ様なものだろう。まともに話しをした事だって、僕の記憶には無いんだから。


「……………ぃ…」
つい物思いに耽っていると、聞き逃してしまった。
「…え?」
夏月が何かを言ったようだった。
もう一度、と言おうとした所で、夏月はまた何かを言った。
しかし耳を澄ましても、夏月が何か言ったのか、声が小さすぎて聞き取れない。

「……め…さ…………わ…………せ」

「何? どうしたの、夏月?」
震える唇が痛々しくも、何かを呟いている。
ぐっと耳を夏月の口元に近付け、その微かな声を拾う。

「ご…め……さ…い……わ……しが………ごめ……」

まさか… 謝ってる?
「夏月、夏月。夏月の所為じゃないから。夏月は何も悪くないから」

夏月は被害者なのに。
何で何で、何でこんな事になってしまったんだ?


思わず夏月の肩を両手で掴み、正面から夏月と向き合った。
「夏月、もう大丈夫だから。夏月の所為じゃないから」

「兄…さ……ごめ…ごめん…さい……わた…わたし……ごめ…」
「夏月…」

見ているようで見ていないような、そんな夏月の視線がゆっくりと動く。
そして緩慢な動きで首を巡らした夏月の視線の先は、僕の左手だった。




370 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 mailto:sage [2007/03/12(月) 22:24:46 ID:LtE7q71J]

じっと左手を見られ、そういえば怪我をしていたなと思い出す。
夏月の所為では決してないけれど、庇ったという事から気にしているのだと思った。

「大丈夫だよ。血は出てるけど、そんなに深く切った訳じゃないし。
 もうそんなに痛く無いし、夏月が気にしなくていいんだから」
心配させないように、この場にはあまりそぐわない気もしたが、にっこりと夏月に
微笑んでみせた。
「それより、さっき突き飛ばしちゃったけど、どこか怪我しなかった?
 痛い所とかない? 顔色も悪いし、大丈夫?」
だけど夏月は全く反応せず、ぼんやりと僕の左手だけを見続けている。

「あの、夏月さんのお兄様?」
「あ、はい!」
存在自体もすっかり忘れていた湖杜さんに声を掛けられ、そういえばこの場には
僕と夏月以外にも人がいた事を思い出して、慌てて返事をした。

「迎えの車が参りましたので、射蔵とこの女を運んできますわ」
「お願いします。色々とすいません、迷惑かけてしまって…」
「いいえ、お気になさらないで。今日のところは、これで失礼しますわね。
 これは射蔵の携帯電話の番号ですわ。落ち付いたら、連絡頂けるかしら?」
「あ、はい。落ち付いたら、必ず連絡します。
 今日はホントに、ありがとうございます。
 湖杜さんと射蔵さんが居てくれなかったら、大変な事になっていました」
深々とお辞儀をしながら、僕はホントに感謝の気持ちで一杯だった。

「いいんですのよ。それでは、私達はこれで失礼しますわね。ご機嫌よう」
そう言うと湖杜さんは、まさしく優雅と言う言葉がぴったりな一礼をして、
これまた優雅に踵を返した。隣に居た射蔵さんも、僕に黙礼をすると
まだ気絶したままの伊藤さんを荷物の様に抱え、次いで出ていった。

射蔵さんの携帯の番号が書かれたメモをポケットにしまうと、僕は改めて夏月に
向き直った。

「夏月、立てる? 部屋に戻ろうか」
しかし夏月は無反応で、じっと、ただじっと、僕の左手を見ていた。
「夏月?」
いくら何でもこう無反応だと、心配が不安に変わってくる。
どうしようか?

「汚れ… ちゃった…」

「え? 汚れた?」
僕の左手を見たまま、夏月はぼんやりとそう言った。
「何が?」
何が汚れたんだろう?

「汚れちゃった、から… 綺麗に、しな、くちゃ…」

酷く、緩慢な動きだった。
僕の左手をそっと両手で包み込み持ち上げると、緩やかに顔を近付け、
舐めたのだった。


371 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 mailto:sage [2007/03/12(月) 22:25:32 ID:LtE7q71J]

夏月の小さな唇が開き白い歯がちらりと見え、赤い小さな舌が差出され、そして、
僕の左手の血を、真っ赤な血を、その舌で、舐めた。
丁寧に丁寧に、乾いた血も乾きかけた血も、全て舐め取っていく。
生温かい息が掛かり、滑った舌が何度もなぞり上げる左手に、全神経が集中する。

そして、真っ赤に染まった舌が、傷口をなぞった、その時、
背筋を駆け上がる、初めての感覚に、僕は―――

「…兄 …さん?」

夏月を、押し退けてしまった。

「ご、ごめん! 夏月、これは…」

「そ、だよ、ね… きた、汚い… わ、わた、わたしに…
 わたし、わたしが、触… たら、にい、に、兄さんが… 汚れ、汚れる… ね…」

「違う! 夏月は汚れてなんかない!」
違うんだ。そんな事ない。違うんだ、違うんだよ、夏月。
どうしたらいい? 夏月を拒絶したんじゃない。どうしたら解ってくれる?
「夏月、違う、そうじゃない。そうじゃないんだ!」

「わた、わた、わたし… きた、きた、きた、な…」
「夏月っ!」
治まりつつあった夏月の身体の震えは、また大きくなり、目で見て解るほどに
なってしまった。

「わ、わた、わわ、わた、し… せ、い… ごめ、ごめん、ごご、ごめ…」
「違う… 違う…」
首を振って否定した所で、夏月が納得するとも思えなかったが、それしか出来なかった。

頭を撫でてあげれば、いいのかもしれない。
抱き締めてあげれば、いいのかもしれない。
でも、出来ない。
今、夏月に触れる事は、出来ない。

「わわわ、わた、わたし… に、にい、に、さん… 好き… す、す…
 なった、か… ごご、ごめ、ごめ、ごめ」

夏月を押し退けてしまった事を、今更後悔しても遅い。
しかし悔やみきれない僕は、ぎゅっと目を瞑ってしまった。
今の夏月から、一瞬たりとも目を離すべきではなかったのに。

「わ、わたし、が、ぜん… ぜ、全部… 悪い、わ、わる… わ、わ」

目を開けた一瞬後には、夏月は落ちていたナイフを逆手に持ち、高く掲げていた。

「わ、わた… に、にい、さん… み、見た… 好き… み、す、き…」

「―――っ!!」

そして振り下ろすナイフが、夏月の綺麗な瞳を、適確に捕らえ、やけにゆっくりと、
ゆっくりと、吸い込まれていくのを、僕はただ呆然と見ていた。

−続−

372 名前:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576 mailto:sage [2007/03/12(月) 22:26:12 ID:LtE7q71J]

以上、続きます。

373 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 22:39:38 ID:Dgpov0tf]
>>372
GJであります!
「伊藤さん退場?」とおもったら夏月の病みがとうとう…!
もはや完全壊れてしまったとしか見えないけどどうなるのかwkwktktk


374 名前:名無しさん@ピンキー [2007/03/12(月) 22:41:01 ID:fn6dVVI5]
ストーカー・誘う女ってドラマ

375 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 22:41:54 ID:gcuACKeR]
>>372
動け! 動いてよ! お兄ちゃん!
今動かないと、夏月が死んじゃうんだ!

376 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 22:57:02 ID:2YMSMgN8]
>>372
GJ!!

何とかしろ兄貴!!何ボサッとしてるんだ!!
ヒロインが病んでいいとは言ったが、ヒロインが壊れていいと入ってないぞ!!

377 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 23:20:54 ID:3fewbcw8]
GJ!
兄貴……もう夏月に手をだしてもいいから(もちろん性的な意味で

378 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/12(月) 23:23:48 ID:WfnP6HgM]
>>372
GJ!!
兄貴なんとかしろよ…

379 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2007/03/13(火) 16:43:01 ID:IfBwlTsy]
なぁに、概して世の中とは理不尽なものさ。
だが、俺は作者を信じてる!
だから、兄貴を何とかさせるんだ!



380 名前: ◆dkVeUrgrhA mailto:sage [2007/03/13(火) 21:09:57 ID:C03APs4A]
予告してだいぶ遅くなったな・・・やっと中盤戦突入だし。

>>277
貴殿の想像よりさらに変態です。多分。

>>354
俺はキモウト。あの壊れっぷりがたまらん。

では新店長でG.O.第3話です。

381 名前:新店長でG.O. ◆dkVeUrgrhA mailto:sage [2007/03/13(火) 21:10:51 ID:C03APs4A]
「薫ちゃん、これでいい?」
「もつこちみぎでつ・・・あい、『どあ』みえまつ」
深夜のテュルパン事務所内。耕治とあずさは事務所のパソコンをいじっていた。

店長達が事務所を去ったあと、薫は事務所のパソコンに細工を施した。
標準でWEBカメラがついているのに目をつけ、事務所のパソコンをカメラサーバー化したのだ。
といっても、別にパソコンをハッキングしてデータをライバル店に売りつけるなんて理由ではない。
そもそもの発端はテュルパンの社内規則にあった。問題の文章は、こう。
『理由の如何を問わず、制服を店外に持ち出してはならない』
テュルパンの制服は人気があり、店員が持ち出してネットオークションにかけるのが
多発したためこんな規則が生まれたのであるが、このおかげで(主に耕治の希望だったのだが)
『制服着たままH』をやろうとすれば店内でするしかないのである。
しかし、薫は「自分の見てない所でのH禁止」を3人に言い渡しており、制服Hは出来ずにいた。
閉店後に薫連れでやればいい気はするが、考えてみりゃそんな夜中に幼女を店の中に連れてくるのは不審極まりない。
で、苦肉の策が「事務所のカメラから実況生中継」だった・・・アホだ。

で、現在の状況。薫ととき子は禾森邸、あずさと耕治が事務所の状態・・・美衣奈は行方不明。
薫は禾森邸側のパソコンを操作しており、とき子は傍観(笑)。耕治は事務所側のパソコンをいじっている。
禾森邸には巨大なテレビ(50インチぐらい)があり、現在事務所を映している。つまりパソコンと接続。
薫は頭につけたインカムから事務所の二人にパソコンの操作を指示していた。当然事務所の二人もインカム装備。
「あい、ぴんともあいまちたち、はぢめていいでつよ」
「ん・・・んじゃはじめようか」
「うん・・・」
薫の言葉に二人はHを始める。
耕治はパソコンのほうにあずさを向かせ、パソコン側の壁に手をつかせる。
耕治はあずさの後ろに回り、制服のブラウスのボタンをはずし始める。
徐々にあらわになってくるあずさのブラジャー。フリルがついた少女趣味っぽい。
「こういうブラはアレだな・・・ミナちゃんのほうが似合うな」
「なによ・・・あたしは何が似合うって言うのよ?」
「スポーツブラとか、装飾のない系」
「どうせあたしは色気ないですよーだ!」
「あづさおねえたんは、いろけありまつでつよ?おにいたんがりかいできないだけでつ♪」
「うう・・・分かってくれるのは薫ちゃんだけだ・・・」
「いや・・・その・・・あれだ。シンプルな良さって奴もあるぞ?」
「ちょっとおにいたんは『ふぉろー』がおとかったでつ」
「ぐっ・・・」
「耕治、手を止めない!」
「あいよ!」
耕治はブラの上からあずさの胸をもむ。手にちょうどいい大きさの胸は非常に揉みやすいようだ。
「耕治・・・そろそろ直に・・・」
耕治はフロントホックを外し乳房に直接愛撫を始める。
乳房をボールをつかんで転がすように揉む。強すぎず、弱すぎず。
中指と薬指で乳首を愛撫することも忘れない。ただ、
「ちょっと・・・優しくしてよ・・・痛いんだから」
相手がいるなら分かるだろうが(風俗による経験でも可)、中指と薬指では力の加減が難しい。
耕治は薬指だけで乳首の周りをなぞるように愛撫をする。
「うん、そう・・・あ・・・」






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