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安価・お題で短編小説を書こう!



232 名前:この名無しがすごい! mailto:sage [2017/10/27(金) 09:01:40.94 ID:DcWZVODe.net]
使用したお題『きのこ』『ゲーム』『全否定』『60億(単位は自由)』

【悪魔の神の証明】(1/2)

 彼女の人生はたった15年、僕が過ごしてきた時間の半分にも満たない。
 だというのに、彼女の余命もう残り僅かであった。

「先生、キノコの粘菌実験って知ってますか?」

 白一色に染められた人工的な部屋の中に、より白い顔色の彼女がそう聞いてきた。死の臭いが蔓延する病院の静謐な空気を揺らさないほどか細く儚げな声だった。
 僕は笑顔を無理やり作り、医者なのだから当然知っている、と答えた。

「テレビでやってたんです。こう、胞子が交配相手を求めて自分の粘菌を伸ばしていくんです。すごいんですよ、迷路になってるのにちゃんとゴールまで辿りつけるんです」

 そう彼女は笑いながら元気に動かせる右手だけで自分が見たテレビの光景を表現し始める。彼女の世界はこの白い部屋で閉ざされているからこそ、外の世界の知識を見せてくれるテレビが唯一心の拠り所であった。
 だから、だろう。僕は彼女の話を途中で遮って自分の持つ知識を自慢しまった。ほんの少しだけ得意げに。

 それと同じ現象を利用して、キノコを等間隔に置いて放置すると、最短距離でお互いを結びつけ合うんだよ。

「へー、そうなんですか。先生、すごいですね。何でも知ってる」

 彼女は僕の口頭だけの説明で理解したらしい。頭はとてもいいのだ。僕の自己満足な語りを目を輝かせながら聞いていた。
 ただ彼女の次の言葉に、若干の満足感を覚えていた僕は深く後悔した。

「キノコも生きるためには必死なんですね……」

 彼女のどこか寂しげな笑顔に、僕は自分の愚かさを心の底から悔いた。彼女はとても賢いのだ。自身が最も死に近いのだから、誰もが平等に享受できるはずの『生』というものをどれだけ欲してるかなんて、僕が一番わかっていなければならなかったのに。
 彼女のその悲しい表情なんて見たくない。だから僕はいつもの言葉を返した。もはや何度も繰り返し過ぎて、機械のようにスラスラと口から出てくる慰めの言葉を。

 大丈夫だよ、君の病気は治るから。僕がきっと治してあげるから。

「ありがとう、先生」

 彼女の返事も機械的だった。表情と口調こそ柔らかいが、もはや期待なんてしてないんだろう。細い体でなけなしの元気を振り絞って身ぶり手ぶりをしていたときのような楽しげな雰囲気など全くなかった。
 当たり前だ。ご両親はすでに亡く、親戚に見捨てられた彼女は、文字通り完璧な孤独だ。キノコにすら繋がりがあるというのに、彼女は60億人もいる世界の中で誰とも繋がれていない。

 唯一、幼い時から一緒にいた僕の手すら、彼女は拒もうとしている。






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