1 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 [2007/10/07(日) 18:08:08 ID:605h1ErK] ここはローゼンメイデンの一般向けSS(小説)を投下するスレです。 SSを投下してくれる職人は神様です。文句があってもぐっとこらえ、笑顔でスルーしましょう。 18禁や虐待の要素のあるSSの投下は厳禁です。それらを投下したい場合は、エロパロ板なりの相応のスレに行きましょう。 次スレは>>950 を踏んだ人が、またはスレ容量が500KBに近くなったら立てましょう。 前スレ 【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 6【一般】 anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1184419565/ 【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 5【一般】 anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1178641673/ 【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 4【一般】 anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1171710619/ 【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 3【一般】 anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1156249254/ 【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 2【一般】 anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1146976611/ 【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】 anime.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1143018114/ 関連スレ Rozen Meiden ローゼンメイデン SS総合 8 anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1164813753/ 薔薇乙女(ローゼンメイデン)のエロ小説 題15話 sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1187101726/ 薔薇乙女(ローゼンメイデン)のエロ小説 題14話 sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1178325637/ 薔薇乙女(ローゼンメイデン)のエロ小説 題13話 sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173568505/ 保管庫 保管庫 rozen.s151.xrea.com/ www.geocities.jp/rozenmaiden_hokanko/ rinrin.saiin.net/~library/cgi-bin/1106116340/
196 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/04(日) 14:27:10 ID:PMssr2KY] よし、見切った。 その後段々人形と子供の見分けが付かなくなってきて、 人形と子供が入れ替わるという妄想に憑りつかれて 人形を包丁でメッタ刺ししたら、実は自分の子だった
197 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/04(日) 16:19:53 ID:ZTHnTPAv] >>196 怖えーよw
198 名前:さて、叩かれるか! mailto:sage [2007/11/04(日) 17:08:45 ID:UbFd0IR4] ふっふっふっ♪今日こそローゼンメイデン一の頭脳派金糸雀が 楽してズルして真紅達のローザミスティカをGETかし… 『ぐ〜』 そ、その前に腹拵えかしら… 今日のお弁当はみっちゃん特製のあま〜い卵焼き♪ …って中に入ってるこの紙は何なのかしら? 「カナごめんなさい。私、仕事で転勤になってしまったの その転勤先のマンションってペット不可だからあなたは連れて行けないのよ… 本当にごめんなさい!良い人に拾われてね?それじゃあ、お元気で。」 ……… …グスッ……カナは…グスッ…泣かない…のかし…ら… う、うえ〜ん!え〜ん!! 一体この先どうなるカナリア!? 絶対に続かない
199 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/04(日) 17:15:26 ID:hVagbJmU] ドールはペットじゃないだろwww
200 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/04(日) 20:51:01 ID:Ez9Q4Nda] >>194 ハ〜イ 私は雛苺 一緒に遊びましょう ハイディ〜ホ〜〜 って恐怖映画の「チャイルドプレイ」張りの展開を妄想
201 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/04(日) 21:14:21 ID:hVagbJmU] 暴走雛苺ならやりかねないな・・・ 純粋故に恐ろしい
202 名前:Jun(*^^*) [2007/11/04(日) 22:46:34 ID:RMFbETbc] いっぱい色んな人からプレゼント貰えて幸福そうだなぁ(>.<)y-~ こっちは自分の誕生日誰からもゼロだからな(-.-)Zzz今後は自分を中心に人生を考えることにしたよ☆(´・ω・`)こっちばかり痩せ細るばかりだからな…いつまでも一方的な貢ぐ君では(-.-)Zzz
203 名前:Jun(*^^*) [2007/11/05(月) 00:43:09 ID:x1hJaiJV] もし仕事が原因で待ち合わせできないんだとしたら、そろそろ仕事辞めてくれないかな(-.-)Zzz 今まで待ち合わせ日の待ちぼうけ時間を合計すると100時間超えてるよ?(-.-)Zzz もしきちんと連絡してくれればその時間、有意義に過ごせたはずなんだからさ(>.<)y-~ 次は仕事休んででも来て欲しいな☆ ヽ(´ー`)ノ
204 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 [2007/11/05(月) 01:12:44 ID:x1hJaiJV] …次はクリスマスあたりかな?(*^^*)メールくれればもっと早くてもいいけど☆ 昨日は自転車パンクして家具店の前に一晩起きっぱなし…今日はそれを取りに行って自転車転がしながら帰ってきた☆ 途中でとんこつラーメン食べた☆帰りにドトール寄ったらいつもの習慣からかそのまま徒歩で帰宅してしまい、また自転車取りにいくはめに… 疲れた。おやすみ☆(≧▽≦)/
205 名前:Jun(*^^*) [2007/11/05(月) 02:01:28 ID:PQ/LXw6d] もうこの際だから正直に言うよ☆ お前、前からうざいと思ってたんだ(≧▽≦)/ だから死んでよヽ(´ー`)ノ
206 名前:Jun(*^^*) [2007/11/05(月) 09:19:44 ID:x1hJaiJV] ↑別人です。 まぎらわしいから、違う名前で書き込みしてくれる?(>ε<)
207 名前:(*^^*) [2007/11/05(月) 10:28:51 ID:x1hJaiJV] ここ変な住人がいるのでコチラに移動です(´・ω・`) 姫専用 moon.ap.teacup.com/ginga/
208 名前:(*^^*) [2007/11/05(月) 10:40:04 ID:x1hJaiJV] 以後ここには書かないのでスレ住人さん、お騒がせしました(≧▽≦)/
209 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/05(月) 11:15:58 ID:sqQ9YPKk] ___ ━┓ / ―\ ┏┛ /ノ (●)\ ・ . | (●) ⌒)\ . | (__ノ ̄ | \ / \ _ノ /´ `\ | | | | ___ ━┓ / ― \ ┏┛ / (●) \ヽ ・ / (⌒ (●) / /  ̄ヽ__) / . /´ ___/ | \ | |
210 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/05(月) 17:44:16 ID:nL29wPUm] >>201 蒼星石でやったら、さしずめ「ナイトメア」のフレディと言ったところかw 巨大な鋏を持ったシルエットだけでも結構怖いかも
211 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/07(水) 22:32:26 ID:rZx3UePn] ,_-- 、 , -−…− / i/ `\ /  ̄`¨,' カナのSSが | ! ヽ'  ̄ − __ 〈| l i / 〈` - 、 丶 く:! 少ないかしら…… l! i /'´ ス \ 丶 く! lヽ. !_ /'´ /\ \ 、 \ ム ! \ | , ' / \ 、 丶 込、 :|も l:\,/ __ 丶、 丶L ト..,,__, ィ_! r、 : l: じ !: ∨  ̄´ 丶、 `ヽ |:::| T |:::l__「 ̄ : !: : ,〈! 、_., ` ト、-l:::|/|/|::::l | ,/i イ::;:::rY _ `|:::|、l i::::| − _ :.! r /'、 ', ゞZ::ソ ィr'−'、 ヽ| l ト:l , :i /ゝ|, -ト、! ,,¨´ i::{:::::r'Y /lj/ / :! ハ/` ヽ ,: ゞ='シ / l|'_ / lL/ ' 、 i\ tっ ''' ∠ ィ 丿 / / { _, -‐_>、 __. ィ´ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ハ 〈 r‐i'´_/lcl,〈¨ヽl |∨ | \/ / ヽ二 イ/cl|ヽl l| / 誰か書いて f二ゝ ヽ ハ //ーl|-l| l/ l/| l l_|/| lr: ュl| lL」 ほしいかしら… ¨ −- _くノ| l/ハ」|ヽ/¨| ¨ −- _ \________
212 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/07(水) 22:43:15 ID:xXEGTnkb] 現在、金糸雀信者に荒らされているスレ アニキャラ総合板のSSスレ(金糸雀関連のSSを催促するAA連投) アニメ2板の総合スレ(容量潰しのAA連投) VIPの総合スレ(ID切替えの自演) VIPの絵スレ(金糸雀関連の画像を催促するAA連投) 糞糸雀信者(荒らし)の巣 anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1194433068/ これ以上、各地のローゼンスレを荒らされるのを防ぐためにも、 ここの監視を怠らないようにしましょう
213 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/10(土) 03:59:32 ID:ZxcNgLAY] 112 ジュンは水晶の城の目前に立った。 入り口と思えるアーチの扉の前に立ち、水晶城を改めて見上げる。首を限界まで持ち上げないと頂を視界に収めることが叶わない。 遥かな高さにまで伸びていく水晶城のてっぺんは、鋭くとがっていてまるで剣山のようだ。 これが雪華綺晶の生きている世界だというのだろうか。 ジュンは氷で出来た扉を押してみた。驚くほど軽い。それこそ実体がないかのように。 開け切った扉から水晶城の中に入ると、無数に埋め尽くされたひし形の水晶群がジュンを迎えた。 水晶の四角い面が光を反射してクロス状の模様を床一面に映している。 美しい。素直なジュンの感想だった。これぞ氷でできた"守護の塔(ミナス・ティリス)"だ。 そんなことを心で呟いたジュンの背後で入り口の氷の扉が独りでに閉られた。 帰り道はもうない。この水晶の城のなかで、決着がつけられるのだろうか。 水晶でできた幻想的な階段をジュンは駆け上っていった。シンデレラに出てきたような透明のガラスの階段だ。 それをまさか自分が登る羽目になるとは。 階段は緩やかに曲がりカーブになっていて、水晶城の外側を回っているらしい。 何もかもが透明なものでできている。外の白い世界をこの水晶城の中から透過して見渡すことが出来るし、踏んでいるガラスの階段も 最下層の床が透けて見える。まるで自分が空中に浮いているかのように。少し怖いが、幻想的で綺麗な光景には魅入ってしまう。 エメラレドの光の筋が水晶から差し込んできては床や壁に直線の光のラインを作る。 何処までも水晶城の奥へ奥へと誘われていく気がした。こんな美しく魅惑的な世界見たことも想像したこともない… 突然外側の壁がなくなり、ジュンは危うく水晶城の外にはみ出して下界へと真っ逆さまに落下しそうになった。 おそらく水晶城の中層あたりにまで上り詰めてきたに違いない。 本当にあるのかないのかが判断しにくい透明なガラスの床を踏み外すのではないかびくびくしながら、 ジュンはその水晶城の上から世界を見渡してみた。 遥か遠くまで真っ白だ。彼方の地平線を線霧のような白い靄が覆い、それより先の世界は想像すらつかない。恐らく雪華綺晶で すら知らないだろう。そんな気がした。 ドラッグに溺れて頭がくらくらする程の美しさを持つ、幻のような光景だった。 だれがこのような世界に足を踏み入れることができただろうか。 だが、しばらくしてジュンは自分の目的を思い出した。 下の階にいたときと違って、水晶城を上に昇っていくにつれて自分を取り巻く水晶が四角いものから三角っぽい角ばった攻撃的な形へと 変わってきている。まるで水晶がこれ以上近づくなと主張するかのようだ。誰も知らなかった世界への入り口がジュンを警告している。 その先に、ジュンはついに踏み入った。 そして、ジュンは見つけた。 二手も三手も先のところに、夢をみているかのようにおぼつかない足取りで水晶の洞窟の中を進んでいく真紅の姿を。 ガラス張りの透明な床の上を歩き、いままでの平静の中に燃えるような情熱を持っていた第五ドールの姿とは見違えてしまうほど にその後姿は頼りない。 あれだけのことがあったのだから、仕方ない。ジュンはとにかく駆け出すと真紅を追いかけた。「真紅!」 声が届いてないらしい。彼女はどんどんふらふらと水晶城の奥へと進み、複雑な構造の水晶の反射する入り組んだ光と影の模様 が照らされた床の上を歩いていく。 「真紅!」ジュンはもう一度叫び、追いかけた。真紅の後姿が視界の中で近くなり、大きくなる。もう少しで手が届く。 後ろから抱きかかえ、ジュンは真紅を掴まえた。彼女は掴まえられた状態にも関わらず浮いた足を動かし続ける。 それこそ人形が如きの動きだった。「真紅!何処に行くつもりなんだよ?」 キコキコと首を動かし、ゆっくり真紅が振り返った。うっすら微笑み、瞳は虚ろだ。「水銀燈が…私を呼んでいるわ」
214 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/10(土) 04:01:23 ID:ZxcNgLAY] 113 地面に寝転がったまま、雪華綺晶は目を覆い隠した自分の腕をそっと下にずらした。 スゥーウィーの放った白い閃光が強烈すぎて、自分の目にも悪影響を及ぼしかねた。 見ると、翠星石と雛苺の姿は前から消え去っていた。まるで面影もない。一体自分の人工精霊が2人の姉達に何をしでかしたのか、 どこへ消えたのかは、あまり雪華綺晶は気にならなかった。 翠星石と雛苺は消えたが、自分を縛る世界樹と苺の蔓は依然体に残されたままだ。 雪華綺晶は苛立ちをわずかに覚えながらもその世界樹と蔓をどうにか自力で振りほどき、最後腕に残った一本の蔓を投げ捨てて脱出する と起き上がった。 アリスへの基盤が完成しつつある。 邪魔者は消え、ここに揃えられたのは必要な素材のみだ。第五ドールの真紅に、その契約者。 アリスの幻影が自分に近づいているのが感じられる。nの世界で、失われ思い出せないその姿が。 とはいえ、真紅の契約者の前に少し軽く片付けておくべきことが一つある。そう時間はかからないはずだ。 "彼"にはよく動いてもらった − もうそろそろ休ませてやってもいい頃だと思った。 彼の夢の中では、いま自分は雪華綺晶の姿をしていない。然るべき、誰に見えているかその魂はこの世界に置かれている。 偽物の、作り物の魂が。 「それが偽りだと分かっていても」 「またそれが私の嘘だと知っていても」 「もしあなたにそれを告げたのなら…より至高の夢を見れるというのに」 「さあ 来るのです 私の心を灯して ゲームの夜に明かりを」
215 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/10(土) 04:05:13 ID:ZxcNgLAY] 114 翠星石は、視界一面に青っぽい水晶が広がっているのに気付いた。 一瞬、記憶が飛ぶ。「ここはどこです?」 まるで自分がいるのは異空間だ。時計の針が乱れ狂って激しくいったりきているように安定していない。 とにかく、落ち着かない。胸騒ぎがする。まるで近くに化け物でもいるような… 「出やがったですぅー!」 振り返りざま目の前に現れた雛苺の顔を見て、翠星石は断末魔の叫びを上げた。雛苺の顔が真っ青に染まっていたからだ。 「ぎゃああああああ!!」 一方目の前で悲鳴を上げられた雛苺もつられて驚き叫び声を出した。 時間が一瞬こおりつく。 「な、チビ苺ですか…脅かすなですぅ」翠星石は息を吐いた。どうやらいつの間にやら自分達は大きな水晶の中にいて、 その水晶が外の世界から差し込んでくる光を青色っぽくしているらしい。それに照らされている自分達もまた青っぽい訳だ。 なんでこんな所に? 少し前に振り返れば、あの白薔薇の − あのドイツ語表記の名前が到底予想不可能な − きらきしょう?の出してきた 人口精霊スープ?の発した光に巻き込まれ、視界を奪われたと思ったら、ここにいた。 翠星石は自分達が既に死の世界にいるのではないかと不安になった。 そう、いつか自分が薔薇バラの薔薇水晶に水晶に閉じ込められたときのように − 薔薇の…バラスイショ… 「出やがったですぅー!」 翠星石はもう一度同じ悲鳴を上げた。 あの偽第七ドール薔薇水晶が − ああ − 自分達と同じようにこの水晶の中にいて、外に出ようと青いガラスの壁と格闘している。 素手のまま、両手でグーを作って壁をガンガン叩いている。水晶の壁の面はびくともしない。 翠星石は、どういうわけかバラバラに砕けてしまったはずのあの薔薇水晶が、ずっとここに閉じ込められていたのだと察した。 そして自分達もそこへ同じく来てしまったということも同時に悟った。さしずめやはりあの白薔薇のせいか。 「誰かいるの…?」 壁叩きに夢中になっていた薔薇水晶が翠星石の出した声に気付いてこちらを向いた。「あなた…あなたは…ローゼンメイデンの…」 それから、急に感情を爆発させたように金切り声を上げた。「ここから出して!!」 彼女の耳を劈くようなその声に圧倒されながら、翠星石がどうにかいま理解したことは、ここは9秒前の白に限りなく近いところ あるいはど真ん中 − 本来迷子になった魂が彷徨うところ − しっかりとした自我を持たなければたちまち自分の姿はおろか 名前すら思い出せなくなってしまう − そんなところのなかで、時間を止められたように水晶の中に入れられてしまっているという ことだった。いま自分の前にいるあの薔薇水晶はその魂の姿そのものだ。恐らくこの空間においても、水晶の中に封じ込められる という形で自分を失わずにいられる、いわば無理やり精神だけが生かされているような状態にあるということになる。 いまあのの薔薇水晶に、既に実体はない。 そして所詮実体のない体では到底自分の力ではこの水晶の外には出れない。魂のバリアーを前に、いくら足掻いても無駄という筋だ。 だが翠星石は、一体どうして薔薇水晶がこのように本来迷子となり彷徨うべき魂をここに封じ込められてしまっているのかその目的までは 予想することが出来ないでいた。
216 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/10(土) 04:07:36 ID:ZxcNgLAY] 「ううっ!」薔薇水晶は心底悔しそうに唸ってもう一度水晶の壁を内側から叩いた。「外に − 外に…!お父様のところへ 行かなければならないのに…」 薔薇水晶は、ここから外に出たいと切望しているらしい。そしたら無意識の海に呑まれて自分を失ってもおかしくないというのに。 余程強い自我と意思を持っているのなら別として。「あれは、あの白いドールは、私じゃない!お父様は騙されている…!」 「白いドール?」翠星石が反応した。「白薔薇のことですか?」 すると薔薇水晶は今にも食って掛かりそうな瞳で翠星石をにらみつけた。「ローゼン…メイデン…あなたたちは、弱い!弱い! 私はローゼンメイデンなんかより、美しく、強い人形になったはずだった!私が…私が勝ったはずだった!なぜ…なぜ、取るに足らない ようなあなた達がまだ生きていて、アリスゲームに勝った私がどうして − どうして!?」 薔薇水晶は翠星石に詰め寄ってくる。ローゼンメイデンのドール全てへの憎しみを顔全体に刻んで、紫色の水晶で形作られた剣 を手元に召喚する。 「きゃああ!」 翠星石は、薔薇水晶の水晶の剣が自分の首を通過するのを見た。当時の恐怖が蘇る。 それから数秒後自分が全くの無傷だと分かるまでの間、翠星石はぎゅっと目を閉じていた。「…あ…れ?」 薔薇水晶は翠星石の身体を通り抜け、後ろに立ち尽くしていた。自壊して実体を失った薔薇水晶はもうまともにローゼンメイデン と戦いあえることはない。互いに触れ合うことすらできないからだ。 「うっ…くぅぅ…っ」 薔薇水晶は絶望したように嗚咽を漏らし、身体を震わせながら膝をつくと次に両手を落とすように地についた。 青みがかった髪が垂れ、手からこぼれ落ちた剣が地面をバウンドする。 「倒せない…あんな弱いドールも…戦う資格すら、もう私には奪われてしまった」 嘆き、薔薇水晶はそれ以降もう立ち上がろうとしない。 こうなると、彼女も哀れだ。翠星石は思った。 ローゼンメイデンを超える。その戦いの宿命を与えられ、偽者として − アリスゲームに参加して、戦い続けた薔薇水晶は、 本当は誰の一人として姉妹の居ない、一人っ子だった。たった一人で自分を創った人形師の為に。それはある意味、まだ仲間を 持っていた自分たちよりも辛いものがあったのかもしれない。 「外に…ここから外に出なければならないのに…!」 泣き崩れたように言う薔薇水晶はそれでも尚そとに出ることを望んだ。 翠星石は一考した。もしかしたら薔薇水晶と自分達はもう敵同士ではないのではないか? いま実体のない彼女なら、そんなに恐れる事だってないはず… 若干緊張しながら、翠星石は言った。「な…なんなら、おまえをここから出すのにちょっと…ちょっと手伝ってやってもいいですぅ」 薔薇水晶の顔が持ち上がった。「え…?」 「わわ、私も、どちらにせよこっから出なきゃならんですからね!」 自然と体の動作が喋りに合わせて入りつつ翠星石は言う。「まだ実体を持ったまま気付いたらここに入れられてた私達なら、 この水晶の壁を打ち壊せるはずですぅ」 「…」 いまだ信じられないという訝しげな目つきで薔薇水晶は翠星石を見つめていた。 「そ、そんな怖い目で見るなですぅ!…私達はお父様に作られた人形で、おまえはその弟子に作られた人形です。いわば私たちと あなたは…義姉妹みたいなものじゃないですか…だ、だからちょっと手を貸してやろうって…だけですよ」 薔薇水晶は始めその言葉の意味をあまり意味していないようだった。「義姉妹…あなたが…義姉…あなたが…?」 「そういうことですぅ!もうお互い争ってる暇なんかあったら一緒に力を合わせて解決しやがれってことですぅ!」 水晶の壁に向かって乗り出し、翠星石は如雨露を手元に召喚した。「スィドリーム!」 金色の如雨露の中身が美しく光る若緑の液体に満たされていく。 「どうにも照れくさいですぅ!とっとと終わりにしてやるですぅ!」
217 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/10(土) 04:09:09 ID:ZxcNgLAY] 数秒後、水晶の壁には世界樹が飛び出ると同時に大きな穴が開いた。その瞬間無意識の海の奔流が水晶の中に入り込んでくる。 「チビ苺つかまるですぅ!」翠星石は隣の雛苺を手で捕まえた。「薔薇水晶!おめーも気をつけてちゃんと海面を目指すですぅ!」 「まっ…まって…」薔薇水晶は、一足先に水晶から出て行く翠星石たちを追おうとしたが、直後押し寄せる無意識の海に瞬く間に 呑まれた。「…がっ…」呼吸が出来なくなる。口から空気の泡がもれる。 頭の先の水晶の髪飾りまですっぽり全身が無意識の海に包まれてしまう。 すると、自分の持つ様々な記憶が脳裏に流れてきた… 「偽りの仮面をかぶり、あなたは夜明けの前に目覚める…私の影として」
218 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/10(土) 04:10:29 ID:ZxcNgLAY] 115 これは…夢… それとも…幻 ここは… "起きるんだ" 誰かが…呼んでいる。 "私の娘" 私の…娘…? 私は…娘。 …眩しい。 "ああ…やったぞ" なんだろう?光に包まれて…暖かくて。 "私が見えるかい?" 優しい手。 "そうだ、上手だ。薔薇水晶" おとう…さま…
219 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/10(土) 04:12:09 ID:ZxcNgLAY] 116 「違う…これも違う…これも…これも駄目だ…」 「わが師よ、何を作ろうとしているのですか」 「ああ…ラウエフ…わが弟子…私はいま人形師として最後にして究極の目的を果たそうとしている…完璧な少女だ」 「少女?」 「その最初の試作品はもう製作に入っている。…。恐らく私が生まれ人形師となったのが必然であるように、私がその少女を 夢見るようになったことは偶然ではない。私自身を語らずに、その少女を語ることは出来ないだろう。少女は私に語りかける… 私は今後彼女とときを過ごすのだ」 「語る?暮らす?一体なんの話しです?」 「言葉の通りだ。その少女は歩きもする。そしてどんな乙女でも適わない美しさを誇っている…」 「…そんなまさか。生きている人形を作るというのですか。いくらあなたでもそんなこと…」 「最初の試作品はもう製作に入っていると言ったはずだ」 「バカな…冗談だとおっしゃってください」 「ローザミスティカ。それが私のローゼンメイデンシリーズに命を与えた」 「ローゼンメイデン?ローザミスティカ?本当に人形に命を与えることに成功したと?」 「ああ…成功した。私の長年の成果だった」 「本当に?…ならば私にも見せてください!それなら…私も、それなら命のある人形を創りたい!」 「いや…これはお前には不可能なことだ」 「そんな?何故です!?私にも人形に命を与える方法を!私はあなたの教えを全て受けてきました。にもかかわらず、私には その権利がないと言うつもりなのですか!」 「これから私は究極の少女の完成の為に、ローゼンメイデンシリーズの続きを手掛けるだろう。それはお前の面倒を見つつ没頭できる ものでは到底ない。お前は弟子を卒業だ…ラウエフ。もうお前に合うことはないだろう」 「ま、…待て、待て!ローゼン!」 「弟子よ。お前は人形師として私の最高の教えを受けた。これから私のなるものはそれとは違っているのだ」 「待ってくれ!本当に生きた人形なんてものが…!ローゼン!待て!ではせめて、せめて最後に顔を…あなたの顔を私に見せて くれてもいいのではないのか!!ローゼン!!!」
220 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/10(土) 04:14:26 ID:ZxcNgLAY] 117 「…うああああっっ!!」 お父様はまた深夜に魘され、ベッドから飛び起きた。最近…毎日のように。 「ローゼン…」 お父様はまた…独り言のように"ローゼン"と呟いた。私にはローゼンというものが何かまだ知らない。 「ローゼン…命を持つ人形は、私にだって作れるぞ…」 「お父様…」私はお父様に、堪えきれなくなって聞いた。「お父様…毎晩うなされています…一体ローゼンとは何者なのですか…」 「薔薇水晶…」お父様はコップに水をいれ、そを飲み干すと私の顔を見つめた。お父様は汗だくだった…。「お前は私の作った、 命を持つ私の全てを注いだ最高の人形で…娘だ。ローゼンとは人形師、私の師匠だった」 「…ししょう…」 「…やつは…人形に命を与える方法を見つけたとだけいい…私から…」そこでお父様は言うのを突然やめた。「いや、やめよう… 薔薇水晶、いまはお前がいるのだから…」 私は、それだけではお父様の心がまだ欠けていることを分かっていました。「…お父様。それではなぜ、お父様は毎日悪夢を 見られるのですか…?」 「…」 お父様は急に深刻の顔になり、手で頭を深々と抱えました。それは、私の見たことのないお父様の苦悶の表情でした。 「薔薇水晶、ずっとお前に言いたくてもいえなかったことがある…」 私はその言葉を聞いて喜びました。「はい。なんでしょう?お父様。なんでも私に言ってください」 「薔薇水晶…」 お父様はいまにも泣き崩れそうな顔で私を見つめます。一体どんな言葉がかけられるというのでしょうか… 「もう一度お前に言いたい。お前は私の最高傑作なんだ。私の、二つとない、最高の人形だ…」 「お父様。ありごとうございます…でも、ためらわずに、言いたいことを聞かせてください」 「ああ…」お父様はもう一度コップに水を入れて飲むと、私にそれを告げました。「薔薇水晶…私はお前に、ローゼンメイデン シリーズのアリスゲームに参加させたいと思っている」 「ローゼンメイデン…?アリス…ゲーム?」聞いたことのない単語が並び、私はただ聞き返すだけでした。 お父様は答えます。「ローゼンメイデンシリーズとは、私の師が手掛けたローゼンの人形達だ。お前と同じように命を持っている。 だが命を授かった手段は恐らくお前と異なるだろう。アリスゲームとはそのローゼンメイデン達の中で行われる、究極の少女アリス を目指して互いのローザミスティカを奪い合うというものだ。端的にいってしまうと…それは戦いだ」 「戦い…」でも何より、私には惹かれた言葉がありました。「究極の…少女…?」 「アリスゲームを制し、全てのローザミスティカを集めれば、その者は究極の少女アリスとなる。それは紛れもなく世界一、 どんな少女よりも美しい存在となるんだ」 「世界一…どんな少女よりも美しい…」その言葉の持つ魅惑に私は思わず自分の中で想像してしまい、少し気恥ずかしくて 自分の頬を両手で触れました。。 「究極の少女アリスにお前がなれば…」少しためらいがちにお父様は言います。「私は紛れもなくわが師ローゼンをも越える、 最高の人形師になったことになるだろう…同時にお前も、本当の意味で最高の人形になるんだ」 それは私にとってはまるで必然のように投げかけられた、願ってもないような話に思えました。 「はい。お父様。私、アリスゲームに参加します。ローゼンメイデンシリーズからローザミスティカを奪って…アリスゲームを 制してみせます。」 「薔薇水晶…!」お父様は感極まった様子になり、私を抱きしめました。「お前は負けない。絶対に負けない。私が保証しよう。 何度もいうが、お前は私の最高の人形なのだから…」 「はい。私、ローゼンメイデンたちと戦います。必ず勝ちます」 意気揚々と答えた私でしたが、そのとき、左目に違和感を感じました。何かが頬を伝っている…「お父様…?これは…」 「な、涙が…!」お父様は急に心配げな顔になりました。「薔薇水晶、やっぱり…辛いのか!?戦うことが?」 「いいえ…」しかし、私の意志とは裏腹に涙とよばれたそれは止まりません。止められないのです。「お父様、私、辛くなんか ありません。戦わせてください。アリスゲームを」 それからというものの、私の左目の涙はずっと一晩中やみませんでした。 お父様はその場で、戦いで相手に涙を見せてはならない、それは弱みを見せるのと一緒だ、と言って、私に薔薇を象った眼帯を 左目につけ、涙をおさえました。 私はその眼帯を自分でよりきつく結んだ…これから、戦いが始まるのだから。
221 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/10(土) 04:18:01 ID:ZxcNgLAY] 118 「君の勝ちだ、薔薇水晶…僕の人形が、勝ったんだ…」 「これで、ローゼンメイデンより強い人形になったのですね」 私はアリスゲームに勝った。第七ドールを称して、ローゼンメイデンを倒し、お父様がローゼンより人形師として優れて いることを証明した。本当に…本当に嬉しかった。 これで、アリスという、いえきっとそれ以上の…最高の人形になれる。お父様のおっしゃった、どんな少女よりも美しいという 存在に。同時にお父様も最高の人形師となれる。師匠だったローゼンを超えて。 「ああ…この腕は直してあげる」 でも違った…私もお父様も忘れていた。何故かはわからない。 私にはまだ倒していない、もう一体のドールがいたことを。 「胸が…熱いっ…」 顔面にひびが入る。 私の体は崩れていく…究極の少女になるはずだったのに…まるでそれと正反対の事態に私の頭は真っ白になるばかりだった。 そして、もう自分の命が長くないことが分かると、ただお父様のことだけを考えていた。 「お父様…お父様…」 さいごお父様の胸の中に抱きかかえられ、私の意識は闇に落ちた。 でもそれで終わりじゃなかった。 私はそれからあの水晶の中にずっと閉じ込められていた。 恐る恐る...水晶の壁に近づいてみる..壁の先に反射された私の姿が映る..白い..私は白いドレスを纏っていた。 私はこんな、白い人形じゃない.. 白い人形は水晶の向こうから私に微笑みかけ、水晶の向こうへと行った。その先にはお父様がいた。 長年の願いが打ち砕かれ、自分の全てを注いだ私という人形も壊れ、お父様は何もかもに絶望していた。 酒を飲み、店も開かず、裸にも近い状態のまま泥酔する… 私はお父様を呼んだけど、声は届かなかった。水晶の壁が私とお父様を何もかもの繋がりから切り離していた。 水晶に隔たれたまま、私はただお父様を見ていることしか出来ない… 生活部屋の中で酔いつぶれ、ベッドの脇に寄りかかるお父様を。 するとさっきのあの白い人形が…お父様の元へと駆け寄っていき、私の代わりに声を掛けた。 お父様は白い人形に応える。 違う。あれは私じゃない。お父様は騙されている。あの白い人形に、ずっと幻を見せられている。 あの白い人形は…だれ? 白い人形はお父様の心を食い物にし、日を追うごとにお父様は…自身を失っていく…もはや自分が誰なのかすら、記憶からこぼれ 落ちそうになっている… あの白いドールのせいだ… 何もかも終わったのも、あなたのせいだ…そしていう…私は努力をしなかったと…もう元には戻れない… 終わりです、お姉さま…これで終わりです、たった一人のお姉さま。 でも私は、アリスゲームに勝った! いいえそれは幻。窓を覗いて御覧なさい、あなたの倒したはずのドール達は今も動いています あなたはだれなの! あなたはだれ?私はだれ? 私は…ふと行き詰る。私はだれ?突然、名前が思い出せなくなってしまった。 私は…薔薇乙女第七ドール…
222 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/10(土) 04:20:08 ID:ZxcNgLAY] 苦しむお父様の顔が目に入る。お父様の顔が…でも、私は自分がだれなのかがでてこない。どうして!? 物質世界に存在を縛られる事自体がアリスへの枷になってしまう不要の形骸なのか 違う… ふと、さっきであった、別のドールの顔が記憶に浮かんできた… もうお互い争ってる暇なんかあったら一緒に力を合わせて解決しやがれってことですぅ あなたは、どうして… だから薔薇水晶、おめーも気をつけてちゃんと海面を目指すですぅ 私は…私の名は…
223 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/10(土) 04:21:56 ID:ZxcNgLAY] 119 「っふはぁっ!…」 薔薇水晶は、無意識の海の海面から顔が外の世界に出たのを感じた。 陸地が見つからない。視界に映るのは水色がかった異世界の空と白い水晶だけだ。 頭のなかが混乱したままとりあえず漕ぐ。「お父様…!」 と、海面でもがく薔薇水晶の腕を緑色の腕が掴まえた。 引っ張られる… 「けほ…!…けほ…!」 薔薇水晶は陸地についた。一歩先にそこへ到着していた翠星石が引き上げてやったのだった。 「初めて無意識の海に飲まれたやつにしては、上出来ですぅ」 「ここは…どこ?」 陸地に着いた薔薇水晶は地べたに手をついてむせつつ聞いた。 「どうやら」翠星石は後ろに聳え立つ巨大な水晶の城を指差した。「あの白薔薇の世界から遠く離れていないみたいですよ。 むしろ近づいているですぅ」 「白薔薇とは…」その人物名に薔薇水晶は過敏に反応した。「白薔薇とは、何者なの…ですか」 「えっ知らないのですか」翠星石はかなり以外そうな顔をした。「姿似てるからなんか関係あると思ってたですぅ。お前がそのまま 真っ白になって右目に白薔薇つけたような頭の飛んだやつですよ」 「そんなドール知らない!」薔薇水晶は再び翠星石に食って掛かるように睨みつけた。「私は私!他の誰でもありません…!」 「わわわわわ分かったですぅ」翠星石は降参の動作をした。 「その白薔薇というのは一体いまどこに!?」薔薇水晶は語調を荒げてさらに翠星石に迫る。「その者はいま何処にいるの!?」 彼女は翠星石のドレスを掴み上げようとするが、触れることかなわず体が透ける。「何処なの!?」 翠星石は困惑気味に答えた。「え、そんなこと聞かれてもはっきりわからんです…、」しかし自分を見澄ます薔薇水晶の顔が これ以上険悪になるのを恐れるととにかく何処かを挙げなければならないと思った。「多分、…あの水晶の城あたりにいると 思うですぅ」 薔薇水晶の顔の向きが水晶城へと移った。巨大なその姿を見上げる。 それから急に意を決したように飛び上がると、水晶城を目指して猛スピードで飛行しだした。 かつて仮にも真紅を倒し、アリスゲームを制したあの薔薇水晶がかつての力の一端を再び発揮した瞬間にもそれは思えた。 「ああ、」翠星石と雛苺が彼女を追う。「待つですぅ!」 速い。翠星石は思った。薔薇水晶の姿がどんどん遠ざかっていく。 それから、あの似たもの同士の第七ドールと薔薇水晶がこれから衝突するのだろかとも思案した。 最も、それは見た目の話しであって、性格はまるで対極をなしているが。
224 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/10(土) 04:24:52 ID:ZxcNgLAY] 20 雪華綺晶は一人、無意識の海に浮かぶ水晶の舟の上に乗り、ある目的を果たすべく水晶城を目指していた。 彼女の意思に従って、水晶の舟は海の上を進む。スピートばぼちぼちだ。 「クリスタルの舟は、満たされて」その舟の上から独り言を呟く雪華綺晶は、何処かで薔薇水晶の魂が再びここへ舞い戻って きたことにはまだ気付いていない。「千の少女たちと、千の子たち。ときは百万通りあるのだから、戻ってくるときには」 目的地まで舟が辿りついた。雪華綺晶は水晶でできた縁を乗り越える。「すぐに私は列を降りましょう」そして陸地に着地した。 すぐに、目的のものが見つかった。 「あれは…?」 クリスタルで出来た美しい大きな舟の上から飛び降りてきた一体の真っ白いドールの姿を巴は発見した。 その現れた方は夢を見ているかのようにあまりに魅惑的で思わず目を奪われる。 自分を見つめてくる巴を雪華綺晶は見返した。彼女は真紅のマスターをおびき寄せるのに使ったが、もう彼はここに来ているので 用済みだ。少なくとも雛苺のマスターでなくなった今は。 「あなたは…だれなの?」 巴はそう聞いてきた。「ローゼンメイデンの一人…?」 雪華綺晶は巴のような存在には今や全く興味が沸かなかった。 アリスゲーム終焉の場に最も相応しくない者といえば彼女に違いない。 いま用のあるのは槐の方だ。 「ねぇあなた、一体、槐さんに何があったのか、知ってる?」巴は口を開いて再度問い掛けてきた。 そんなことはどうでもいいのです! しかし雪華綺晶はアリスゲームに関わる話しの問いかけになると必ず答えてしまう癖がある。それも、謎めいた台詞で返す癖が。 「影に映る破滅…光すら絶えたとき。マスターは壊れました」 雪華綺晶がマスターと称した槐は、まさに彼女がいったように壊れているという表現が不気味なほど似合っていた。 幻想的な輝きを持つ水晶城を見上げ、散乱した目で薔薇水晶の名を連呼している。まるでその水晶城の中に薔薇水晶が見えている かのように。とうぜん、水晶城の中にはクリスタルが敷き詰められているだけで、何も映ってはいない。少なくとも自分の目には。 「マスターって…」 巴は白いドールの言葉からある事実を導き出そうとしていた。「じゃああなたは…槐さんの契約したドールなの…?」 今度こそ雪華綺晶はそれを無視した。 彼女を尻目に、無機を変えて左手のひらを前に出すと後ろから槐に近づいていく。 「な、何をするの…?」にわかに胸騒ぎを覚えつつ巴を襲った感覚は、突然の電撃だった。 この白いドール…!私は見たことがある。この水晶の城も! ずっと忘れていた。なんで思い出せなかったんだろう。 いつか雛苺のマスターであった頃、雛苺に鏡から彼女の世界に連れられた時に、ふと見たことがあった。 雪華綺晶は槐の背中へと迫っていった。あなたの役目もまたもう終わり。自然と顔が綻ぶ。偽りの夢に抱かれてお休みなさい。 だがその刹那、テレポートしてきたが如く彼女の前に現れた薔薇水晶が、槐への行路を絶った。すでに戦いの構えをとっている。 左目を雪華綺晶は丸くさせた。
225 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/10(土) 04:56:05 ID:jEjQ1OE/] いつも良作を読ませていただきありがとうございます
226 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/10(土) 07:11:10 ID:PrqlU3ko] ,_-- 、 , -−…− / i/ `\ /  ̄`¨,' カナのSSが | ! ヽ'  ̄ − __ 〈| l i / 〈` - 、 丶 く:! 少ないかしら…… l! i /'´ ス \ 丶 く! lヽ. !_ /'´ /\ \ 、 \ ム ! \ | , ' / \ 、 丶 込、 :|も l:\,/ __ 丶、 丶L ト..,,__, ィ_! r、 : l: じ !: ∨  ̄´ 丶、 `ヽ |:::| T |:::l__「 ̄ : !: : ,〈! 、_., ` ト、-l:::|/|/|::::l | ,/i イ::;:::rY _ `|:::|、l i::::| − _ :.! r /'、 ', ゞZ::ソ ィr'−'、 ヽ| l ト:l , :i /ゝ|, -ト、! ,,¨´ i::{:::::r'Y /lj/ / :! ハ/` ヽ ,: ゞ='シ / l|'_ / lL/ ' 、 i\ tっ ''' ∠ ィ 丿 / / { _, -‐_>、 __. ィ´ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ハ 〈 r‐i'´_/lcl,〈¨ヽl |∨ | \/ / ヽ二 イ/cl|ヽl l| / 誰か書いて f二ゝ ヽ ハ //ーl|-l| l/ l/| l l_|/| lr: ュl| lL」 ほしいかしら… ¨ −- _くノ| l/ハ」|ヽ/¨| ¨ −- _ \________
227 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/10(土) 08:08:11 ID:jufcplJT] >>213-224 久々の投下GJ! これから仕事なんで帰ったらじっくり読ませてもらいます。
228 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/10(土) 19:25:02 ID:+zZuBy58] , .-=- ,、 ヽr'._ rノ.' ', //`Y. , '´ ̄`ヽ i | 丿. i ノ '\@ ヽ>,/! ヾ(i.゚ ヮ゚ノ かしらっら `ー -(kOi∞iミフ (,,( ),,) じ'ノ' ぽいんっ 川 ( ( ) )
229 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/10(土) 22:41:10 ID:SsW+hd4B] 久々に来た、荒らされて中止なんてことになってなくて安心した 大詰め?みたいだけど最後まで頑張って しかしすごいな、きらきのキャラ付けとかもまるでオリジナルみたいだ
230 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 [2007/11/11(日) 00:27:42 ID:Vr64cMl2] , -―- 、_ / , -、_ ヽ _厶、_-、 {, r 、こn、i / { /, -  ̄{ L」水j」Y l l lj _ _ゝ|二|イ| _ゝ Yハz=゙ ゙=、y} V ハ l〕 ムヘ. r'┐ 六イ'「l 「l r, ゝー'´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄lソ | l_l !// く:| |〈ヽ.j 'ー_っ {」| 保守かしら |〈ゝー冖L/」 {: | | Y¬イ |: |________.」 l | ヽ_/ , ' r/ \_〕 \__,丿 / 「/!: :: :〈|j \ / r」|┘: : : :|L_ \ /_ _r┘」:|: : : : : :|:L└i_ \ 厶 」_工r‐:┘: : : : : : : : └L. 'ーt.¬r冖Lスヽ
231 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/11(日) 03:42:10 ID:B/OXP36z] 121 「また新しいドールが!?」 新たなドールの出現に、巴は驚きの声を出した。この人形もまたローゼンメイデンの一人だというのだろうか。 紫色のドレスに青みがかった髪を持ったドールだが、さっきの白い人形と顔も形もそっくりだ。一見するとまるで双子のような − それはあの蒼星石と翠星石以上に、いま向き合っているあの2人は服の細部まで似ていた。 薔薇水晶は、右手に紫色の水晶の剣を握りしめ、自分に似た白いドールに敵意むき出しで言った。「あなたにお父様は喰わせない…!」 その薔薇水晶の背後からは、ほどなくして追ってきた翠星石と雛苺がこちらへやってくる。 翠星石は息を切らしながら頭の上に雛苺を乗せていた。 「はぁ…あー…疲れだですぅ…」 「翠星石がんばったなのー!」 頭上の雛苺を翠星石は憎たらしげに見上げる。「人事だと思いやがってですチビ苺…!」 そんな言葉を雛苺は無視した。既に興味が次の対象へと移っていた。「あー!巴!」 「雛苺!」胸元へと飛び込んできた雛苺を、巴はうまくキャッチして抱きかかえた。 初めて見るドールが二体に、翠星石と雛苺までこの水晶城の世界にいる。 するともしかして。巴はふと思った。 ローゼンメイデンの全員がここに集っているとでも? 「ワットザ − どうやってあの水晶から?」 食い掛かるように睨み付ける薔薇水晶を見やりながら、雪華綺晶はひどく混乱した。「いいえ、いいえ、…口を開かないで! たとえばあなたが−そうあなたが−あなたは、だぁれといったら?あなたは口を開かないで。言葉が回転するだけだから − まだ"if"という単語が"life"の真ん中にあることを知っているかとか話していた方がまし…」 「落ち着けです白薔薇」 「スゥーウィー!さっき第三と第六を何処に?邪魔っぽそうだから水晶城の真下の9秒前の白の底に吹き飛ばした?なんて 役立たずな、愚にも付かない人工精霊!」 雪華綺晶はスゥーウィーに向かってそう言い放った。「あなたは取るに足らないイエバトです…私から離れておいき! 遇劣なイエバト…あなたはただ上から西を見つめているだけのイエバトです…絶えて迷子になってしまえ!」 水晶城の下の無意識の海には薔薇水晶の魂を封じ込めていたというのに。そのせいで出てきたのか。 翠星石なら9秒前の白から簡単に抜け出す道筋を知っている。
232 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/11(日) 03:44:02 ID:B/OXP36z] 薔薇水晶は水晶の剣を握りしめ、言った。「あなたに私のお父様へ手出しはさせません…!」 「あー!やめてください…口を開かないで…それにここまでやってきてまだ暴力の世界に走るつもりなのかしら?」 「ずっとお父様の心を食い物にしていたのですね!」 「それはまだこれから。いま眠らせて差し上げようとしていたのに − あなたには止めることは出来ない。あなたはもう実体を 失くした、かわいそうな偽のゲームを支配して最後に崩れた踊り子。いまのあなたはただの魂の残像。私に触れられることすら 叶わない。ふふ…かわいそうな霊た…!!!」 雪華綺晶の長々しいしゃべりの終わりを待ちきれないといった様子で、薔薇水晶は前に踏み込むと水晶の剣を振るった。 一瞬、本当に雪華綺晶が言ったとおり、その剣身は相手にあたることすらなく透けていってしまうように思えた。 ところが次の瞬間、ガーンと鈍い音がなり、雪華綺晶の頭にそれがあたった。 雪華綺晶は三回ほどふらふらと地面の上を回転し、やがてバタと転んだ。それを薔薇水晶は上から見下ろした。 「…実体のない者どうしならどうやら触れ合えるようですぅ」 翠星石はさっき薔薇水晶の剣が自分の体を透けていったのを思い出しながら、そういった。七体目の白薔薇は元からアストラル体。 「どこか…どこかで糸車の動きが狂いだした気がする」地べたに頬をつけたまま雪華綺晶は呟く。 一方の薔薇水晶は、雪華綺晶を一端放ってその場から離れると槐の元に急いだ。「お父様!」 パンツ一枚しか纏っていない槐を後ろから呼びかけ、太ももにしがみつこうとする。 だが、身体を失って意識の霊魂 − 幻となったいまでは彼に触れられない。「お父様!私…」 「美しい!美しいぞ!」槐はまるで薔薇水晶には気付かず水晶城を見上げたまま叫び続けている。「僕はローゼン以上の存在さ!」 「お父様…ここです!…私はここにいます!」 切り詰められるような恐怖を覚えながら、薔薇水晶は必死に槐を呼んだ。 気付いてもらえない。どうして? 「ふふふ…ふっふふふふ…かわいそうな薔薇水晶…」 すると、薔薇水晶の後ろで雪華綺晶の静かなな笑い声が不快に響いてきた。「あなたがもう彼の目にとまることはない…かわいそうに」 「ど…どういうことです?」背中で聞き返しながら薔薇水晶は平静を装うとしたが、槐に関わることではどうにも動揺してしまう。 「ふふ…」雪華綺晶は寝転んだ状態のまま左手を持ち上げた。「少なくともこれがあるのだから」 雪華綺晶が薔薇水晶に見るように意図したものは、指輪だった。白い光を放っている。 「まさか…!」釣られて槐の左手へと視線を移したのは、薔薇水晶だけではなく翠星石や雛苺まで顔の向きを変えた。 槐の左手に嵌められた指輪。雪華綺晶のと同じく白色の煌きを放っている。 「あの弟子の人形師が白薔薇のマスター!?」 ゆっくりと、雪華綺晶は白い地面から起き上がった。白い髪がふわふわとしながら垂れ下がる。「夢の始まり」
233 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/11(日) 03:45:58 ID:B/OXP36z] 122 雪華綺晶と薔薇水晶。 この2人が似ていることは雪華綺晶本人にとってもあまり本意的とはいえなかった。 そもそも第七ドールの雪華綺晶は、ドールの契約者の心を奪い、その力を以ってアリスになろうとするドールだ。 この日本という国でアリスゲームが始まったとき、既に雪華綺晶は絶望的な状況にあった。 生まれたて未完成品だったあの水銀燈が、どの人間とも契約することなくゲームを戦いだすのだ。 雪華綺晶にとってドールの契約者とい存在は必要不可欠だ。もしドールがどの人間とも契約しないまま壊れたり、 アリスゲームの敗者になったりすれば雪華綺晶は永遠にアリスへの道を絶たれることになる。 そして、事実その事態になってしまった。 第一ドール水銀燈は、どの人間とも契約しないまま真紅の前に破れ、燃やされた。壊された。 このままだと、水銀燈の契約者が以降出ることはない。 雪華綺晶がアリスになる為には、何が何でも水銀燈には復活してもらう必要があった。 お父様が水銀燈を直すか? どうもそうにも見えない。そもそも水銀燈は元から薔薇乙女あらざるべきドールだったのだから。 ということはつまり、お父様以外に水銀燈を直せるような技術を持つ存在を探さなければならないことを意味していた。 そして、いた。 お父様の弟子。槐。 雪華綺晶は彼に目をつけた。幸運にも、槐の方としても19世紀より薔薇乙女を探し続けていて、それを元に自分も薔薇乙女、 いやそれすら超えるような人形を作ることを切望していた。 槐の心につけ込むには、あまりにも簡単だった。 夢の中で雪華綺晶は槐の前ら現れた。あえて何体目かは告げず、私は薔薇乙女とだけ言った。 次の週から、槐は憑かれたように人形創りに励みだした。薔薇乙女をも超える、命を持った人形を求めて。 槐が一日一日寝るたび、雪華綺晶は彼の夢に現れ、少しずつ心を蝕んでいった。 この時点で、雪華綺晶は槐と実質上一方的に契約を結んでいた。契約さえすれば…マスターの心など想いのままのひばりも同然だ。 こうして、マスターの心を薔薇乙女より素晴らしい人形を創ろうというだけでなく、本当に薔薇乙女を倒せるようなドールを作る ように徐々に操作していき、最終的には自分の人形をアリスゲームに参加させるようにマインドコントロールした。
234 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/11(日) 03:47:32 ID:B/OXP36z] 槐本人が知らない内に、心は雪華綺晶に啄ばまれ、作る人形も気付けば雪華綺晶ばかりを参考にした、雪華綺晶そっくりなドールへと 完成していった。槐をそれを薔薇水晶と名づけた。薔薇水晶はローザミスティカのない人形だったが、彼女には雪華綺晶が命を 吹き込んだ。いつか自分が水銀燈にしたように、精神で活動する自分の命の一部を分け与えたのだった。 これはローザミスティカがなくとも生けることのできる、神秘の魂だ。 つまり…かの槐は自分の実力で薔薇水晶に命を与えたと思っているが、その実そうではない。 そこまでくると、雪華綺晶は警戒を恐れ槐の記憶の領海からは姿を消した。槐から自分の作った薔薇水晶が雪華綺晶のコピー品にも 近い状態であるという意識はこれで完全に消えた。 実際…あとは放っておくだけで槐は見事に雪華綺晶の思い通りに動いてくれた。 薔薇水晶をアリスゲームに参加させるためまず彼がしたことは水銀燈の修理だった。 真紅に倒された水銀燈は、ローザミスティカを奪われることなくそこに放置されていたからだ。これではアリスゲームの続行が出来ない。 そう考えた槐はそのローザミスティカを使い、水銀燈を直すと同時に、その水銀燈を薔薇水晶の比べ台にしようとも考えた。 裏で雪華綺晶が思惑通りに動いたと笑っているとも知らずに。 直した水銀燈を鞄に入れ、薔薇水晶に持たせる。そして柿崎めぐの通う教会で待機し、彼女が来たところをタイミングよく鞄を 教会の中に落とし、めぐに気付かせた。あとはめぐが一方的に水銀燈と契約を結ぶ。知っての通りだ。 この瞬間、雪華綺晶がずっと望んでいたこと − 水銀燈を復活させ、かつ人間と契約させる目論見は遂に成功したわけだ。 これでマスターの力を狙える。 第二ドールも目覚め、彼女がアリスゲームに躍り出る条件は既に揃った。 だが、次にどうにでもなるだろうと高をくくっていた薔薇水晶が思ったより他のドールを圧倒した戦闘力を持っていることに 気付くと、まだ雪華綺晶は表に出ることを拒んだ。たかが自分の能力の一部である水晶の能力を与えただけなのに、それだけでも こんなにも他の姉妹達を倒してしまうとは。雪華綺晶は、自分に与えられた能力があまりにも強大すぎてゲームのバランスなど とうに崩壊していたことをただ一人悟った。 薔薇水晶は真紅をも倒し、六つのローザミスティカを集めた瞬間崩れ出した。これは偶然ではない。所詮薔薇水晶の器の命など 最初から雪華綺晶の手の内にあったのだ。自分が与えたのだから。器を失い、魂として無意識の海を彷徨い出した薔薇水晶を 雪華綺晶は捕まえ、水晶の中に封じ込めた。まだこの魂には利用する道がある。 薔薇水晶の魂を自分の世界に取り入れ、かつ槐と契約している状況を利用して、雪華綺晶は槐の夢の中では薔薇水晶の姿をする という幻を造り上げた。槐を操り尽くし、三度目復活した水銀燈に人の命を延ばせる夢の樹の方法をそそのかした。水銀燈は それにのってめぐの父親を殺した。そこから遂に、真紅と水銀燈のあの因縁の決闘が始まったのだった… 雪華綺晶を前にめぐを置いてきぼりにして。
235 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/11(日) 03:49:54 ID:B/OXP36z] 123 「一体どの洋物推理小説の真犯人の回想ですか!」 翠星石はもう聞いてられないとばかりにまくしたてた。「いまどきくんくん探偵の犯人役もそんな回想しませんよ!」 「あなたの人形師は心を壊し、私の知る域をも超えかけている」 雪華綺晶は薔薇水晶を見やりつつ言った。「自分の人形が壊れたことも覚えてはいない。そしてそれは私には丁度いい…」 対面する2人の後ろで、槐は今も変わらず水晶城に向かって吸い込まれるように歩いていく。 追い討ちをかけるように雪華綺晶はさらに言った。「あの水晶の城は私そのもの。あの中に入れば彼の魂は私の養分となる。 眠る彼に根を張り巡らて」 それはまるで死刑宣告のように薔薇水晶の耳へと響いた。「そんな…お父様!」 とっさにまわれ右するように振り返り、槐の後姿を見る。彼はどんどん水晶城へと飲み込まれるが如くに近づいていく。 薔薇水晶は一端顔の向きを直し、雪華綺晶に怒りの視線を一瞬ぶつけると、踵を返して一直線に槐のほうへと飛んだ。 「お父様!」 もはや触れ合えないのも声も届かないのも承知で、槐の横につく。 以前には見受けられなかった彼の左手の指輪を確かに薔薇水晶は見つけた。それが、あの白いドールとの何かの結びつきを築いている ことはほぼ疑いようがない。あの白いドールの話は本当らしい。だとすれば、お父様のかけられた偽りの夢を解く方法はただ一つ。 「少しだけ、あと少しだけ待っていて下さい…お父様。すぐに私が、幻を解いてみせますから…」 もはや以前とは変わり果ててしまった槐の傍で、薔薇水晶は自分という存在を生み出してくれた主にそう言葉を掛けた。 やがてゆっくりと彼から離れる薔薇水晶。 物静かな様子でこちらへ戻ってくるかと思えば、突然酷烈とした目をして雪華綺晶を睨みつける。 思わず翠星石は身震いした。以前見てきた薔薇水晶のどの顔よりもいまの視線は恐ろしい。 水晶の剣の剣先を雪華綺晶へと伸ばし、薔薇水晶は言った。「…あなたを壊す。それは避けて通れない道のようです」 ところが雪華綺晶はあまり薔薇水晶を相手にしようとはしていないようだった。 「実体のないドール同士で戦っても意味なんてないのに。ただ暴力が巡るだけ」 薔薇水晶はそれを無視した。 決意に満ちた戦士の如くまっすぐ雪華綺晶へと近づいていく。そしていきなり歯を食いしばると力を込めて剣を上から振り落とした。 雪華綺晶は飛び上がり、高く地面より離れた。剣は空ぶる。すぐに相手についていくように薔薇水晶も飛び上がり、雪華綺晶の 目の前まで迫って宙で対峙した。 これ以上ないほどに2人の距離が縮まる。 雪華綺晶は左目で薔薇水晶の右目を見つめた。「器を失った迷子の魂と、イデアのアストラル。分かってるのでしょう?勝てないと」 薔薇水晶の右目が雪華綺晶の左目を見返した。「そうは思いません」 先手を仕掛けたのは薔薇水晶だった。左肩を引いてから勢いよく手を前に突き出すと、そこから衝撃派が発生して雪華綺晶を 吹き飛ばした。 雪華綺晶は打ち上げられた砲弾のように空高く舞い上がっていきつつ、手元に氷の長剣を取り出す。 「こんなものもう使わないと思っていたのに。でもこれはきっとアリス誕生という大きな波紋の前の些細な波。七体目は それに身を委ねましょう!」 対する薔薇水晶は、空中で剣を構え持つ雪華綺晶を目にしかと捉えると、戦闘態勢を取った。 「最高の人形師、槐の名にかけて!」 薔薇水晶はそう叫び、飛翔する鷲の如く突っ込んでいった。
236 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/11(日) 03:51:44 ID:B/OXP36z] 124 聳え立つ水晶城の中層ほどのところで、ジュンはさらに奥へ上へと進もうとする真紅を必死に抑えている。 「真紅、それ以上いくな!」 ジュンの声は真紅に恐らく届いていない。「水銀燈が…呼んでいるわ」 「水銀燈はもういない!もういないんだ!もう…!それ以上前にいっちゃだめだ!真紅!」 「彼女ならいるわ。あなたには分からないのよ!私は聞いているわ − 水銀燈、まって…いまいくわ…」 真紅が進もうとする先には、ガラスの床が割れて大きな穴が開いている。 それ以上進むと下へとまっ逆さまに転落してしまう構造だ。 「だめだ!いくな!七体目の罠だよ!真紅!僕はいかせないぞ!お前まで水銀燈のところなんかへ − 僕は力づくでも止めるぞ!」 そして、ジュンは真紅を羽交絞めするように抱きかかえると、力いっぱい後ろへ引き倒した。 2人して地面に転げる。「いかせない!目を覚ませ!」 「いやあああああ!!」 すると彼女はジュンの胸の上で大暴れした。瞬く間にジュンの胸から脱出し、発狂したように奇声を張り上げると、 手に持っていた水銀燈の剣先を握ってジュンの喉元に上から突きつけた。 激しく息を切らしながら、ジュンを殺すような青い瞳を向けている。 ジュンはしばし言葉を失った。真紅のこんな目を見るのも初めてだったし、剣を喉元ぎりぎりのところまで伸ばされれば恐怖心 に身体も硬直してしまう。 「…」慎重に、出来るだけ彼女を刺激しないように、ジュンはゆっくりと両手を上げて口を開いた。「…真紅…?ぼ、僕だよ…」 真紅の瞳に変化はない。ジュンにのしかかって剣を喉に突きたてたままだ。 ジュンはもう一度静かな口調で言った。「…真紅…僕が…分からないのか…?ジュンだよ…お前の契約した…」 真紅の瞳がピクリと動いた。殺気が次第に引いていき、やがて驚いたような顔つきにかわると、次に絶望したようにジュンから 離れ水銀燈の剣を手元から落とした。剣が地面に当たって音を鳴らす。 真紅はその場にへたれ込むように座り、後ろの水晶に寄りかかると呟くように声を出した。「私はもうダメだわ…ジュン」 「ああ…分かってる」ジュンは答え、ゆっくりと水晶城の中を起き上がった。「こんな所まで来てしまって…」 水晶城の上から外の世界を見つめる。 「こんな辛い事ばかりが立て続けに起こるアリスゲームってなんなんだろうと思うよ」 ジュンは言う。「でも不思議だよな。アリスゲームがなければ僕は真紅にも翠星石にも出会わなかった。アリスゲームの辛い運命を みんなと一緒に − 僕もそれに巻き込まれるというか、…脇役でもアリスゲームの一部となることが」 ジュンは自分でも何言っているんだろうと思った。「それが、すごく生きている、って実感するときがあるんだ」 朦朧と座り込んだまま真紅は受け答えした。「アリスゲームは殺しあうものなのに?」 「真紅、」ジュンは真紅の前に再び座り、肩に手を添えるとその青い瞳をまじまじと見つめた。「僕はお前達のアリスゲームに 巻き込んできたことを、とても感謝したい気持ちで思っている」 肩に触れてきたジュンの手の上に真紅は自分の手を乗せた。「…愚かな下僕ね。そこまで成り下がってしまっては私の手に負えないわ」 「手に負えないのはお前の方だろ。らしくないな。さあ、真紅。」 ジュンは真紅の肩を掴み、立ち上がるように促す。「いこう。みんなを助けに。」 「みんなを…助けに?」ジュンにせかされるままに立ち上がった真紅は不思議そうに聞く。 「七体目のドールがみんなのマスターを狙っている」 「そう…」青い瞳を悲しげに落とす。「それで…」 一度ジュンから真紅は離れた。ガラスの床に落ちた水銀燈の剣をもう一度拾い上げる。 「ジュン…」 それからジュンに背を向けたまま、重々しい、深刻な語調で語りだした。 「翠星石や雛苺と一緒に飲んだ紅茶はどこへいってしまったの? − 姉妹で見たくんくん探偵はどこに? − 全ては過ぎ去ったわ。 山に降る雨のように…草原を吹く風のように…」 真紅は恐らく水銀燈の剣を武器にこれからを戦うつもりなのだろう。それが一体何の決意の表れであるか、それは真紅だけが 知る水銀燈の何かだとジュンは思った。「私達の幸せな日々は海の彼方へと過ぎ去っていったのね……扉の後ろ、影の中へ…」 溶岩地帯での水銀燈との死闘を戦いぬいて身も心もボロボロの真紅から放たれるその言葉は、まるで自分の死を予言しているかの ようだった。「…すべてはアリスのために…」 ジュンは真紅の前に座ると、乱れた彼女のドレスを手で直してやった。「いこう、真紅」
237 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/11(日) 03:53:19 ID:B/OXP36z] 125 空中で繰り広げられる雪華綺晶と薔薇水晶の戦いは、奇怪さを極めたものとなっていた。 水晶で出来た剣を振り翳す薔薇水晶に対して、雪華綺晶は全く予想不可能なフォームて氷の剣を扱っている。その彼女の身体 からは白い茨が生き物のように伸びる。 薔薇水晶の顔にはにわかには信じ難いというような困惑が浮かんでいた。自分の剣術がまるでこの白いドールには通用しない。 突きをしてみる。すると相手の白いドールは宙返りしてかわしたかと思うと、次の瞬間思わぬところから相手の剣先が伸びてくる。 「くっ!」 その突きを薔薇水晶は頭を仰け反らせて辛うじで避ける。いや…たとえこの剣先が当たったとしても、霊魂となったいまなら 彼女にダメージはないはずだった。だが、先に攻撃を受けてしまうことは薔薇水晶にとってはドールとしての誇りの面で負けを 意味している。 なぜなら自分はローゼンメイデンに勝ったはずのドールなのだから。例え後に第七ドールが新たな敵として出てきても技で 負けてはならない。 お父様に応えるため。 薔薇水晶は前に出た。白いドールの剣を持つ右手に切りかかる。「ほっ!」すると相手は右手を引っ込めると同時に 氷の剣を左手へとお手玉のように投げ渡し、薔薇水晶の剣は空ぶった。「くっ…」気を取り直して次は左手へ向けて攻撃をする。 すると白いドールは左手からも剣を放り投げ、体を丸くして前回りした。予想できない動き。急に目の前に現れてきた編み上げ のブーツのヒールに薔薇水晶は顔面をけられた。 「あっ…!」 一度手放して宙を舞った氷の剣を、雪華綺晶は逆立ち状態から再びキャッチする。人間にはまず出来ない動きだ。 「憎たらしい曲芸師…!」薔薇水晶は相手をそう皮肉った。 「尖り物の戯れはもう十分でしょう?」 雪華綺晶は逆さのまま剣を持った右手を軸に、一回転して喋る。「少なくとも私のお父様が求めているのはジャンヌダルクの ようなものの再現ではないのだから」 自分の戦いを戯れと称されたことが勘に触ったが、薔薇水晶はそれ以上に槐のことが気がかりで仕方なかった。 もういっぺんだけ下を歩く槐に向き直る。まだ水晶城の側を歩き回っているようだ。 お父様はまだ大丈夫なのだろうか。その心配が薔薇水晶を焦燥に駆り立てる。 急がなければならない。薔薇水晶はもう一度雪華綺晶へと迫り、剣を水平に振った。すると相手の白いドールは倒立状態から 上に飛び上がり、視界から消えた。 「後ろ…!?」 とっさに振り返ろうとする薔薇水晶。 だが、相手を見出すより先に彼女の首に雪華綺晶の白い茨が絡まった。「う!」薔薇水晶は反射的に首もとの茨を掴んで解こうとする。 「だから…」彼女の背後からぬっと寄ってきた雪華綺晶が薔薇水晶の顎を後ろから撫で上げた。「私達にしかできない、もっと 楽しいことをしましょうか?さあ…私の魂を火に灯して」
238 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/11(日) 03:55:23 ID:B/OXP36z] 126 「薔薇水晶と白薔薇が戦ってるです…」 翠星石は上空で戦いを繰り広げる2人を見上げた。雪華綺晶と薔薇水晶。 薔薇水晶の方がローゼンメイデンでないと分かったいまでは、その2人の戦いはアリスゲームを超えた何かの戦いに思えた。 「…いや!」 そんなことは余計な考えだとばかりに翠星石はそれを頭から掻き消すと、巴と雛苺の方に向き直った。 「いまです!薔薇水晶には悪いですが、あいつには白薔薇のひきつけ役をやってもらうこととするです!いまがチャンスです! ジュン達と合流しにいくです!」 「え…!?」もしかしてとは思っていたが、巴にはやはり一驚を隠しきれなかった。「やっぱり桜田君もここにいるんだ…」 「急ぐです!ジュンならきっとあの水晶の城を登っていったはずです!真紅が見えていましたから!」 翠星石がせかす。時間はそう多くないことを、その場では翠星石だけが知っていた。「こっちです!」 彼女に導かれるまま、巴は雛苺を抱えたまま水晶城の中へと入った。その時水晶によって作られたお城の内部のあまりの美しさに しばし目を奪われたが、再び翠星石の呼ぶ声にわれを取り戻すと階段を登る。 ジュンと真紅とは早く合流しなければならない。翠星石は思った。いまあの白薔薇の気を薔薇水晶が引いているが、長く持たない。 翠星石はそれを知っていた。一度器を失い、本来迷子となるべき霊体は、たとえ例外的に自我を取り戻して無意識の海から抜けだせ ても、もって30分で再び魂は迷子になってしまうだろう。薔薇水晶…気の毒に。だから哀しいかな時間はあまりない。 水晶城の上へ上へと目指してゆきながら、翠星石は果たして今日という日を生き延びられるかどうかを考えた。
239 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/11(日) 07:35:20 ID:ne2rSA8s] ,_-- 、 , -−…− / i/ `\ /  ̄`¨,' カナのSSが | ! ヽ'  ̄ − __ 〈| l i / 〈` - 、 丶 く:! 少ないかしら…… l! i /'´ ス \ 丶 く! lヽ. !_ /'´ /\ \ 、 \ ム ! \ | , ' / \ 、 丶 込、 :|も l:\,/ __ 丶、 丶L ト..,,__, ィ_! r、 : l: じ !: ∨  ̄´ 丶、 `ヽ |:::| T |:::l__「 ̄ : !: : ,〈! 、_., ` ト、-l:::|/|/|::::l | ,/i イ::;:::rY _ `|:::|、l i::::| − _ :.! r /'、 ', ゞZ::ソ ィr'−'、 ヽ| l ト:l , :i /ゝ|, -ト、! ,,¨´ i::{:::::r'Y /lj/ / :! ハ/` ヽ ,: ゞ='シ / l|'_ / lL/ ' 、 i\ tっ ''' ∠ ィ 丿 / / { _, -‐_>、 __. ィ´ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ハ 〈 r‐i'´_/lcl,〈¨ヽl |∨ | \/ / ヽ二 イ/cl|ヽl l| / 誰か書いて f二ゝ ヽ ハ //ーl|-l| l/ l/| l l_|/| lr: ュl| lL」 ほしいかしら… ¨ −- _くノ| l/ハ」|ヽ/¨| ¨ −- _ \________
240 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/11(日) 12:28:40 ID:u0MeG/hk] , .-=- ,、 ヽr'._ rノ.' ', //`Y. , '´ ̄`ヽ i | 丿. i ノ '\@ ヽ>,/! ヾ(i.゚ ヮ゚ノ かしらっら `ー -(kOi∞iミフ (,,( ),,) じ'ノ' ぽいんっ 川 ( ( ) )
241 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/11(日) 16:32:04 ID:KzIft8Tt] >>213-224 >>231-238 GJ! 連続で投下お疲れ様です。
242 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/11(日) 20:59:29 ID:0aZJM3L4] 現在、金糸雀信者に荒らされているスレ アニキャラ総合板のSSスレ(金糸雀関連のSSを催促するAA連投) アニメ2板の総合スレ(容量潰しのAA連投) 懐漫板の原作スレ(金糸雀関連の話題を催促するAA連投) VIPの総合スレ(ID切替えの自演) VIPの絵スレ(金糸雀関連の画像を催促するAA連投) VIPの陰陽師スレ(金糸雀の出番を催促するAA連投) 各地のローゼンスレへの荒らしをもう放置してはおけません。 皆で協力して↓のスレを潰し、ローゼンスレに平和を取り戻しましょう。 糞糸雀信者(荒らし)の巣 anime2.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1194433068/
243 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/11(日) 22:07:13 ID:3T+g15DB] >>213-224 >>231-238 ___ く/',二二ヽ> |l |ノノイハ)) |l |.リ゚ ー゚ノl| リサーチの合間に執筆お疲れ様ですぅ、そこの人間。 ノl_|(l_介」).| 翠星石もじきに迷子にされそうですが、とりあえず感謝するですよ。 ≦ノ`ヽノヘ≧ .ミく二二二〉ミ
244 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/12(月) 00:11:48 ID:dVtX7J8v] 書くテンションをここまで維持し続けてるのは凄い 大抵の奴はある程度進むと筆が止まってしまうことが殆どだ はじめはガンガン書けるんだけどいきなり書けなくなるんだよ
245 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/12(月) 17:35:25 ID:CY5YtnXj] 実装石のSSはどこに投下したら良いんだ?
246 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/12(月) 20:21:28 ID:o6EZFTA/] ,_-- 、 , -−…− / i/ `\ /  ̄`¨,' もうカナのSSは | ! ヽ'  ̄ − __ 〈| l i / 〈` - 、 丶 く:! 書いてくれなくていいかしら…… l! i /'´ ス \ 丶 く! lヽ. !_ /'´ /\ \ 、 \ ム ! \ | , ' / \ 、 丶 込、 :|も l:\,/ __ 丶、 丶L ト..,,__, ィ_! r、 : l: じ !: ∨  ̄´ 丶、 `ヽ |:::| T |:::l__「 ̄ : !: : ,〈! 、_., ` ト、-l:::|/|/|::::l | ,/i イ::;:::rY _ `|:::|、l i::::| − _ :.! r /'、 ', ゞZ::ソ ィr'−'、 ヽ| l ト:l , :i /ゝ|, -ト、! ,,¨´ i::{:::::r'Y /lj/ / :! ハ/` ヽ ,: ゞ='シ / l|'_ / lL/ ' 、 i\ tっ ''' ∠ ィ 丿 / / { _, -‐_>、 __. ィ´ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ハ 〈 r‐i'´_/lcl,〈¨ヽl |∨ | \/ / ヽ二 イ/cl|ヽl l| / どうせカナは f二ゝ ヽ ハ //ーl|-l| l/ l/| l l_|/| lr: ュl| lL」 嫌われ者かしら… ¨ −- _くノ| l/ハ」|ヽ/¨| ¨ −- _ \________
247 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/16(金) 19:50:17 ID:+kr6mqF4] 今投稿されてる大作が終わったらここも終わりだな
248 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 [2007/11/17(土) 19:37:28 ID:2giGF7d8] 保守
249 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/18(日) 12:49:12 ID:ReUnCSDq] / ヽ ヽ \、 _ / /\ \ 、 ノr、L, . / _ ´ .::ノ`ヽ、.... \..フ ハュ、 ∧. / ./::;;- ´ `丶、.. ゝヘ」八} カナのSSが少ない糞スレなんてなくなっちゃえばいいのかしら!!! {::i::::. / .:::/"´ - 、 \「 「ヽ「 '、:、:::/. .::::/ 、、、.._\__, トV「 /〉 .ヘ::V::::r'⌒i{ ´r弋い -‐ v:::コ/V . \::::ゝr/__ 弋フ ,rぃ//ヒソ _.>‐i{ _>┐`` , ヒ/´ __ . ヽ_ ‐ "´ `ヽ , ‐、_ ´ "ハ \ 〈V'´ ` ― ___ . / 、 ヽ ゝ_ノ .∠. `ヽj} _/_ └─┘ ̄ ̄ / ┴- ∠て三>┴ … ―――ッッ-zて__  ̄ ─ ___ . :  ̄ ̄ , ', ' ∠`´ 、_`丶、__└── : . . : : : : : . . /:/ -、__ゝ 、`rr、 ̄て」」 、: -‐、: : : : : : :/て> ‐、: i:\ : . . . . . j i 、 ヽ ゝ 、>ヘ. ̄ ̄ ..〉_/ ` ---‐'ヽヽ:`='o_ヘ:、: : : . : : : : // \下 `  ̄jヽノ\i j : : : : : :` ミ 、__ノヘ: : : : : : . // 、 └、 \/不 、i __ : /:::::水`ヽ\: : : : : : . . . l:l ゝ/ 下.i / 、 | -‐ . ._. -― .ゝ::::::/人ヽ::::> \: : : : : : : .i:i 、 | ト、i ∧、jヽノ : -‐: . : / `彡'__」 _弋_ \ 丶、: : : : i:| ト、i\| }ノ、 ノ
250 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/19(月) 21:07:21 ID:HPQhh23M] おとさせはしない!
251 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/19(月) 22:14:29 ID:TZ20hbsP] , .-=- ,、 , .-=- ,、 , .-=- ,、 ヽr'._ rノ.' ', ヽr'._ rノ.' ', ヽr'._ rノ.' ', //`Y. , '´ ̄`ヽ //`Y. , '´ ̄`ヽ //`Y. , '´ ̄`ヽ i | 丿. i ノ '\@ i | 丿. i ノ '\@ i | 丿. i ノ '\@ ヽ>,/! ヾ(i.゚ ヮ゚ノ かしらっら ヽ>,/! ヾ(i.゚ ヮ゚ノ かしらっら ヽ>,/! ヾ(i.゚ ヮ゚ノ かしらっら `ー -(kOi∞iミフ `ー -(kOi∞iミフ `ー -(kOi∞iミフ (,,( ),,) (,,( ),,) (,,( ),,) じ'ノ' じ'ノ' じ'ノ' ぽいんっ ぽいんっ ぽいんっ 川 川 川 ( ( ) ) ( ( ) ) ( ( ) ) , .-=- ,、 , .-=- ,、 , .-=- ,、 ヽr'._ rノ.' ', ヽr'._ rノ.' ', ヽr'._ rノ.' ', //`Y. , '´ ̄`ヽ //`Y. , '´ ̄`ヽ //`Y. , '´ ̄`ヽ i | 丿. i ノ '\@ i | 丿. i ノ '\@ i | 丿. i ノ '\@ ヽ>,/! ヾ(i.゚ ヮ゚ノ かしらっら ヽ>,/! ヾ(i.゚ ヮ゚ノ かしらっら ヽ>,/! ヾ(i.゚ ヮ゚ノ かしらっら `ー -(kOi∞iミフ `ー -(kOi∞iミフ `ー -(kOi∞iミフ (,,( ),,) (,,( ),,) (,,( ),,) じ'ノ' じ'ノ' じ'ノ' ぽいんっ ぽいんっ ぽいんっ 川 川 川 ( ( ) ) ( ( ) ) ( ( ) ) , .-=- ,、 , .-=- ,、 , .-=- ,、 ヽr'._ rノ.' ', ヽr'._ rノ.' ', ヽr'._ rノ.' ', //`Y. , '´ ̄`ヽ //`Y. , '´ ̄`ヽ //`Y. , '´ ̄`ヽ i | 丿. i ノ '\@ i | 丿. i ノ '\@ i | 丿. i ノ '\@ ヽ>,/! ヾ(i.゚ ヮ゚ノ かしらっら ヽ>,/! ヾ(i.゚ ヮ゚ノ かしらっら ヽ>,/! ヾ(i.゚ ヮ゚ノ かしらっら `ー -(kOi∞iミフ `ー -(kOi∞iミフ `ー -(kOi∞iミフ (,,( ),,) (,,( ),,) (,,( ),,) じ'ノ' じ'ノ' じ'ノ'
252 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/19(月) 22:27:16 ID:JW/Mpdym] シコシコッ・・・ ウッ
253 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/20(火) 01:13:15 ID:TuU5GYkV] 127 雪華綺晶の世界である、水晶の城の階段を駆け上る翠星石に続く巴と雛苺の三人。 ある階に辿り着いたところで、ばったりと向こうから階段を下ってきたジュンと真紅に出くわした。「ジュン!」「翠星石!」 「真紅、無事だったですか!」 「ええ、なんとか。」 再会を喜ぶ彼女達の合間、さらにそこへ、外の世界から水晶の壁を突き破ってぶっ飛んできた雪華綺晶が、ガラス張りの床を派手に転げた。 その左手にはどういう訳か薔薇水晶の眼帯が握られいる。 「これを取ろうとしたら薔薇水晶がすごく怒った」雪華綺晶は頭いっぱいに水晶の破片をかぶっている。「蹴っ飛ばされました…」 「薔薇水晶…?」その言葉の中に異様な単語が含まれていることに気付く真紅が口を開いた。「なぜ薔薇水晶の名前が…?」 「実体を離れた霊魂がこのフィールドに戻ってきてるですぅ」翠星石が説明する。「幽霊同士白薔薇と喧嘩してるですよ」 「そんなことが…?」 真紅は顔を上げ、雪華綺晶が突き破ってきた穴を見つめた。 その穴から、宙に浮いた薔薇水晶がゆっくりと雪華綺晶を追うように下へ降りてきている。 眼帯を取られ、両目の瞳でこちらを覗いている。今まで隠されていたその左目から涙が止めどめなく出ていることにまだ薔薇乙女は 気付いていない。 実際の第七ドールの偽の第七ドールが改めて似ていることが分かると、真紅は事態が最悪になりつつあるのではと危惧した。 「薔薇水晶と雪華綺晶は、やはり何か関係が?」 もしこの2人が手を組んだりしたら私達の力ではもはや到底適わない。 以前水銀燈のフィールドで戦ったときも、ただでさえ雪華綺晶一人相手に大敗したばかりだ。 「いえ、大丈夫ですよ、真紅」翠星石がなだめる。「むしろ敵対してますから。この2人。どうも白薔薇の方が薔薇水晶を怒らせてる みたいですよ」 「七体目がドールのマスター達を狙っていると聞いたわ」改めて真紅は問い掛ける。「マスター達はどこに…?」 「それが、見当たらないのですぅ。どうにも」翠星石はかぶりを振った。「私たちがこっちに来る前、ジュンの機会の箱の画面に 水晶の中に閉じ込められたマスター達が見えたのですが…」翠星石は自分たちがここまでやってきた経緯を真紅に話した。 いきなりジュンのPC画面に出てきたことから、槐が雪華綺晶のマスターに一方的にされてしまっている状況、そして七体目が 正確にはマスターの心を奪うことでアリスになろうとしていることなど。 それから、七体目があひる座りをしたまま白い長髪に纏わりつく水晶の破片を地道に手で取り除いているのを翠星石は見やった。 「マスター達を見つけるには、もうあいつに自分から口を割らせるしかないですぅ」 「どうやって?」 「白薔薇のやつの身動きを完全に封じて拷問しちまうですよ!」翠星石の口調が強まる。生意気で迷惑な妹をとっとと払いたい というような気持ちが滲み出てきているかのようだ。「拷問台にかけるです!泣いて許しを請いたってもう許さんですぅ!!」 「果たしてそんことができるかしら」一方、真紅の言動は慎重だ。 「そうですね…」翠星石も負けじと考える。「相手が幻なのですから、私の世界樹や雛苺の蔓で拘束してもまるで無駄ですぅ。 見た目では縛れていても、所詮はやっぱり幻なのですから。手ごたえがないですぅ」 「霊体同士なら触れ合えるのよね?」 真紅が念を押すように聞いてくる。「みたいですぅ。そんなSFのちゃちー辻褄が本当に私たちの世界でも通じるとは思っても みませんでしたが!」 さらに真紅は一考した。どうやらこの状況の打開法を導きつつあるらしい。「なら、薔薇水晶の協力が得られれば…あの子の水晶 の力で七体目を封じ込めてしまえばいいのではないかしら。喋ることだけはできるように顔だけは出しておいて」 翠星石は、顔から下が完全に水晶に埋まった雪華綺晶を想像して思わず噴出しそうになった。「名案ですぅ真紅。でも、薔薇水晶 はきっと私たちをまだ敵視するでしょうね…」 真紅と翠星石が2人が議論しているさなか、薔薇水晶は剣で再び雪華綺晶に襲い掛かっていた。 雪華綺晶は床を転げながら自分の氷の剣を振るって相手の攻撃を弾き返す。若干歯を食いしばりながら氷の剣を扱っており、 余裕がやや失われているようにも見える。
254 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/20(火) 01:15:06 ID:TuU5GYkV] 「雪華綺晶が薔薇水晶におされてる…?」戦い続ける二人を見つつ真紅がそう口にする。 だが、翠星石は確信に満ちているように首を横に振った。「いえ、あの白薔薇のことです…どうせ演技ですよ。 このままじゃ薔薇水晶が危ないですぅ!」 そう翠星石が言ったつぎの瞬間、薔薇水晶の紫の剣が力強く振り落とされた。雪華綺晶は床を転がってそれをよける。 的を外した薔薇水晶の剣が地面を叩くと、その剣に白の茨が伸びては絡まった。 「…!」しまったと薔薇水晶の表情に一瞬変化がでたかでないかのうちに、雪華綺晶が脚を持ち上げて薔薇水晶に蹴りを 入れた。薔薇水晶は後ろへとよろめき、一方茨に捕らえられたままの剣を手から落としてしまう。 雪華綺晶はその落ちた剣を左手に持った。右手に氷の剣、左手に紫の剣を突きたてて、薔薇水晶に迫る。 形勢が一瞬で逆転した。 薔薇水晶に恐れの暗い表情が入り、後ずさる。対して二本の剣を突きたてながら相手に迫り続ける雪華綺晶。 「翠星石、念のためもう一度確認するわ」離れたところで、真紅が再度翠星石に耳打ちする。「薔薇水晶と雪華綺晶は本当に 味方同士という訳でもなく、むしろ敵対しているのね。あれは芝居ではなくて」 「ですぅ。そもそも戦いバカの薔薇水晶に芝居なんかできっこないですよ」 「それはもしかして、薔薇水晶は私達と同じ敵を持ったと考えてもいいのかしら」 「そうですね。最悪それ以上はあるですぅ」 追い詰められた薔薇水晶の背中が水晶の壁にあたった。もう後が無い。 雪華綺晶はにじり寄る。 二本の剣の先端が接近してくる。 と、突然薔薇水晶は青みがかった髪から水晶の髪飾りを手に取った。形が変化して槍のように尖り、目にも留まらぬ速さで雪華綺晶に 迫る。が、予期していたように雪華綺晶はそれを水晶と氷の剣ではじいた。 秘密の武器まで軽くあしなわれ、いよいよ頬に冷や汗を流す薔薇水晶。 次の瞬間、彼女は顔面を膝でけられた。「うあ…っ!」壁際にしりもちをついて倒れる。 「もう終わりです」雪華綺晶は言う。悔し紛れに、薔薇水晶は下から相手を睨みあげる。だが左目からは止められない涙が流れ 暴力を振られて弱々しく泣く女の子のように見えてしまう。「かわいそうに。でもあなたはとうに踊り役を降ろされたの」 「薔薇水晶が泣いている…?」 真紅は、いままで眼帯に隠されていた彼女の左目から流れるそれに遂に気付いたのだった。「いままで左目を隠していた理由は、 それにあったというの?」 「思えばかわいそうなやつですぅ。ローゼンメイデンでもないのに私達のアリスゲームに巻き込まれ…」翠星石も口を揃える。 「本当は彼女だって、戦うことは辛く悲しい。その気持ちを、あの眼帯と一緒にきつく自分の中に封じて押し殺していたのかも しれないわね」 雪華綺晶が両腕を持ち上げて上で二本の剣を交差させた。一気に薔薇水晶を切り刻もうとしているのだろう。 だがその表情は無感量で、楽しくも嬉しくも悲しくもないといった様子に見える。 薔薇水晶は逃げようとした。だが、恐怖が体から自由を奪っていた…こんな体験は生まれて初めてだった。 彼女は固く目を瞑る。せめて自分が切られる瞬間の光景から逃げるために − 目の当たりにしないために。 そして、まさか私がこんな自分に似たような姿の訳のわからないドールに負けるなんてことが未だに信じられない気持ちでいた。 金属の衝突音が高鳴る。 自分はあの白いドールに切られたのだろうか?薔薇水晶は目開ける。 まず一番そば見えたものは、水晶の剣でも氷の剣でもない、鉄の剣だった。混乱が頭を駆け巡る。なぜここに"水銀燈の剣"が あって、それがまるで自分を護るように雪華綺晶に二本の剣と拮抗しているのだろうと。 その剣の持ち主へ薔薇水晶はゆっくり視線をずらした。剣の持ち主は第一ドールではなく、真っ赤なドレスの第五ドール、 真紅だった。薔薇水晶の目が見開かれる。「「これは一体どういうことなの…」なのです?」 薔薇水晶の台詞が雪華綺晶とはもった。
255 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/20(火) 01:16:32 ID:TuU5GYkV] 真紅は、水銀燈の剣を伸ばして薔薇水晶を切りつけようとする二本の剣から彼女を庇っていた。 その第一ドールの形見である剣は、まだ以前人間を殺したときの返り血の色をまだ少し残している。 一見剣同士がせめぎあっているように見えるのも、これは七体目の幻だ。真紅はそれを理解していた。 雪華綺晶の背後から延びてきた翠星石の世界樹が、彼女の肩と首に絡まりつく。 「…真紅…」薔薇水晶があまり優しいとはいえない目でその真紅を見ると言った。「これはどういうつもりなのですか」 「薔薇水晶、」依然水銀燈の剣を握りしめて雪華綺晶と対抗しつつ真紅がそれに答えた。「あなたの力を借りたいの。お願いするわ… いまあなたと私達は、敵同士ではないわ。私達はいまあなたと同様にこの雪華綺晶に用がある。そのはずよ」 「何をいってるの?」あまりの予想外の言葉に、薔薇水晶は笑い出しそうになった。「ローゼンメイデンは全て私の敵。あなた達なんて みんな壊して差し上げることが、お父様のお望みにも応える、私の宿命」 そう言い返す彼女の左目から滴る涙が頬を伝って、紫のドレスまで濡らしつつある。金色の瞳からどうしようもなく流れ出る涙と、 真紅を睨み上げるその顔の表情がどうにも倒錯的だ。 「少なくとも、あなたのそのお父様は、このドールに心を奪われそうになっている。そうなのしょう?」真紅は説得を続ける。「私達も 同じような理由でこのドールには用事があるの。私達をもう一度壊したいならば、まずはこのドールから奪われた人たちの心を 取り戻すのが先では?」 「そんなこと…私一人でもできます…」バカにしないでというような目をする薔薇水晶。 すると、真紅は不適にもふっと笑って見せた。「そう。なら、私達も勝手それに参加させてもらうわ。ただし、思うに、 いまあの七体目を壊したりしたら、あなたののマスター達の心も勿論、あなたの人形師の心も一緒に吹き飛んでしまうわよ。 まずは動きを封じることね」 明らかに自分たちの作戦への参入を誘っているかのような真紅の言葉に甚だ薔薇水晶は憎たらしさを覚えたが、言っていることは あながち間違っていないと思った。真紅達ならあとで壊してまえばいい。今はあの雪華綺晶という者を第一にどうにかしなければ ならない。 あのドールの手からお父様を救うために。 「ああうっ!」一方、雪華綺晶は世界樹によって後ろ向きに強く引っ張られ、体を仰け反らせながらまたしても床に転げた。 甲高い奇声をあげながら。しかもそのときわざとらしく両手から剣を手から落とす。 床に伏した雪華綺晶へ、すかさず薔薇水晶が自分の剣を取り戻すと前に乗り出た。その横に真紅も乗り出す。 さらに後ろに翠星石、その翠星石の隣に雛苺が並んだ。全員して雪華綺晶を囲み、睨みつける。 「柴崎のしじいとみっちゃんをどこへやったですか!!」 「みんなを返してなのお!!」 「あなたをこれ以上ジュンには近づけさせないわ」 姉たちの降り注ぐ非難と要求を浴びるなかで雪華綺晶は起き上がり、壊れがちな笑顔を作ると口を開いた。 「4対1ですか?ふふ、1対1でも、何対何でも、私とあなたのアリスゲームは違っているのに」 「いいえ、5対1よ。雪華綺晶」真紅はそれに修正を加えた。「これを見なさい。これは水銀燈の剣。第一ドールもあなたには怒って いるわ。"マスターを返しなさい"、とね」 すると雪華綺晶は床の上をくるっと一回転廻ると自分を取り囲むドール達を見返した。「全てがここに集ったのですね。 歌と劇の終わるとき(ラスト・アリスゲーム)に − well come to the party,pal!」
256 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/20(火) 01:19:03 ID:TuU5GYkV] 128 well come to the party , pal! さあおいで。 ドール達に取り囲まれた中心で、雪華綺晶は左目の瞳を閉じた。首を垂らし、白い髪もそれに伴って降り下がる。 まるで自分の世界にどっぷり浸って夢見ているかのように、頭を揺れ動かしている。 これだけ沢山のドールにいっせいに狙われておきながら、なんて余裕なんだ。ジュンは思った。 「歌と劇の終わりに」彼女は目を閉じたまま言う。「さあ運命の糸車が速くなる。廻る廻る。速くなっていく…」 雪華綺晶の横に位置していた真紅の顔が強張る。後ろに位置するは翠星石、雛苺。そして正面には薔薇水晶。 その位置合いを目を瞑ったままで、雪華綺晶は完全に把握しているように思えた。そんな異質な気配を七体目は漂わせている。 と、そのとき薔薇水晶の足が動いた。彼女は右手に持つ剣とは別に、左手に数個水晶の髪飾りを取り出す。 次の刹那それに呼応したかのように真紅が動き出した。ほぼ同時にそれに続いて翠星石と雛苺が動ずる。 金色の左目がぱっと開かれた。もろとも片足で飛び跳ねる雪華綺晶。白い茨が体から伸びる。いってしまったような瞳で 遠く彼方を見つめながら、両手を別方向に挙げて歓呼する。「切れる、糸が切れる!」 その雪華綺晶の片足がガラス張りの床に強く着地すると、ガシャンと大きな音をたてて床が割れ、真紅達や薔薇水晶、ジュンの立つ ところにまで蜘蛛の巣状のヒビが広まった。 その場の全員が瞬く間にそのヒビに巻き込まれる。そして、床がバラバラに砕け散って落ちた。 「うわぁ…!」「きゃあ!」 薔薇水晶も、真紅も、だれ一人雪華綺晶に触れる前に足場を失い、下へと落下していった。雪華綺晶本人もろとも、ジュンや巴までも。 雨あられと降るガラスの木っ端微塵の破片のなかにまみれる姉妹たち。 水晶城の内部を、落ちていく。底へと。
257 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/20(火) 01:21:44 ID:TuU5GYkV] 129 ズシンと、落下音が鳴る。 「いたた…」 最初に体を起こしたのは、翠星石だった。 茶色の長髪が視界を覆って邪魔しているので、それを手でどける。すると地面が見えた。 はじめ落ちてきたとき、地面が意外にも柔らかいと思ったが、その謎が解けた。いま自分たちが立っている所は地面ではない。 植物。 そこらじゅう隙間なく埋め尽くされた白い茨の上に立っているのだ。言い換えれば、自分たちは茨同士が大量に絡まりあって できた足場のようなところに立っていて、歩くにも立っているにも常に茨を踏み続けざるを得ないということだ。 はっきりいって、かなり気味が悪い。 空間そのもの自体は丸っぽい円柱のような形をしている。床は茨まみれだが、壁については分厚い冷たそうな水晶でできていた。 その壁際には四方それぞれに一つずつ、大きな縦長の絵画の額が計4つ飾られている。 だが、その絵画には何も映っていない。 ジュンは真紅に駆け寄っていた。 「真紅、大丈夫か?」 「ええ平気よ」彼女は応えつつ起き上がる。「それより、あなたは自分の心配をしなさい…!七体目はあなたを狙っているのよ」 ジュンは息を呑んだ。いままでただ彼女達のアリスゲームを端から力を分け与えるだけだったが、いまは違う。本格的に自分も いまアリスゲームの犠牲者として有力な候補となっている。「その七体目はいまどこに…?」 「あそこよ!」真紅は指差した。だが、自分でも驚いているように若干その眼が見開かれている。「あれを見て!」 空間のど真ん中には丘のように突然盛り上がってる所があり、そこに人間サイズの数倍はあるであろう大きさの巨大な白い薔薇 が咲いていた。 その薔薇の花びらの上に雪華綺晶が立っていて、しかもその隣、白薔薇の中心には茨に縛られたまま眠っている柿崎めぐがいる。 「水銀燈のマスターが!あんなところに!」 すると雪華綺晶は真紅に視線を送りながら眠っている柿崎めぐの頬を軽く持つように触ると、ふっと笑みを浮かべた。 「このような子が第一ドールのお姉さまのマスターになることは少し私に遠まわしをさせた。でもそれももう終わり。この子は いま夢を見ている。永遠に眠り続ける眠り姫の夢を。死ばかりを望んでいた頃は私にとってその心は毒気でした。でもいまはそれも 偽りと嘘によって綺麗になり、私を補うのに相応しい養分となるのです」 彼女がそう言い終えると、ふと遥か上の天井からにょっともう一つの巨大な白い薔薇が下に伸びてきた。それはいま雪華綺晶の 乗っている白薔薇と相するように、上下に向き合う形で止まる。さながら接合部位を向き合わせる二つの脳神経のシナプスだ。 「その子に何をするつもり!?」 「"浄化"です紅薔薇のお姉さま」彼女は横向きになりつつそれに応える。「この子は綺麗になるの。するとそれに適った、 美しい薔薇の花が咲くのです」 上の方からしゅるっと下ってきた数本の蔓が柿崎めぐを絡めとり、吊り上げた。しっかりと強靭に巻きついて、それから彼女を 徐々に持ち上げていく。 直後に、真紅は雪華綺晶のいった浄化というものがろくでもないことを瞬時に理解した。 「いけない!やめなさい!」 なす術もなく柿崎めぐはどんどん上へと蔓に引っ張り上げられ、下向きに構える白い薔薇の中に吸い上げられた。 その薔薇はごっくんとめぐを飲み込んだとばかりに不気味な音を鳴らす。 人間が巨大な薔薇の中に呑まれた。 その恐ろしく気味の悪い光景にジュン、巴、真紅、翠星石、薔薇水晶が息を殺しながら果たしてその柿崎めぐがどこにいって しまったのか目で追った。 天井に咲く巨大な薔薇より上にのびる、巨大な茎。いまごろ肉食動物に食われた生き物が食管を通っていくように、柿崎めぐも あの茎の中を昇り詰めていっているに違いない。 その図太いホースのような茎は天井まで伸び…水晶にぶち当たると… と、天井部に開いた小さな穴の先からメグが現れた。天井に付いていた小さな水晶の容器の中にすっぽり身体が収まってしまう。 さながら天井に吊るされた人間用のカプセルだ。 それを見上げているうち、その水晶のカプセルが他に幾つも天井にあることにジュンは気付いた。 そして、ついに見つけた。 草笛みつ、柴崎元治、…薔薇乙女のマスター達の姿を。一人残らず天井の水晶カプセルの中に収められて眠っている。
258 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/20(火) 01:24:24 ID:TuU5GYkV] その人間の扱いにジュンはX−ファイルや宇宙戦争などに登場するエイリアンの装置を思い出した。 恐らくここが雪華綺晶の持つ世界での心臓部ともいえるところなのだろう。 水晶城は外見は幻想的で美しいが、奥に潜む中身はえげつない。まさに雪華綺晶そのものだ。 真紅はわが目を疑っている様子だった。「マスター達になんてことを…!」 残るは僕と槐だけという訳か。ジュンは心の中で唸った。 その槐を助けるために、薔薇水晶もまた雪華綺晶と戦っている。 とはいえ、彼らを見つけられた以上、他のマスター達だって救う手段はゼロではないのかもしれない。ジュンは思った。 「私から…決して離れないで、ジュン」真紅は言い、手に持った水銀燈の剣をしかと構えなおす。 床は柔らかな茨の集合体のみでできているので、足場が安定しない。その床の茨は恐らく全て上向きに咲く方の白薔薇に繋がっている。 一方柿崎めぐを収めて、また一歩アリスへと近づいた雪華綺晶は次の獲物とばかりの瞳でジュンを見据えた。 それから急にびっくりするような金色の目に変わる。 「起きたままの人間がここへやって来るなんて、それは私の最も願ったことの逆だったのに!」 それはこの実態を目の当たりにした人間がどう考えても七体目に敬遠になるからに違いない。 「ふふ…まあよいでして!」そして彼女は右腕を挙げ、薔薇の花びらの上でまた狂ったように飛び上がった。「だってあなたはもう ここから逃げられないのですもの!」 ぞっとする戦慄が稲妻のように背筋貫くのをジュンは痛いほどに感じ取った。 逃げられないだって?あたりを見回してみる。確かにそうだ。壁に囲まれて、何処にも逃げる所なんかない。 僕はこのまま水銀燈のマスターと同じように薔薇に呑まれ、あの水晶の中に収められるのか。 「ジュン!怖がらないで。七体目にそんなことさせはしないわ」 足のすくみそうなジュンを見た真紅が勇気付ける。それは真紅自身の勇気付けでもあった。「翠星石や雛苺もついているんですもの。 それに…」 みんなを助けるために意気込んでここまで来たのに自分が情けないが、自分を護ろうとしてくれるドールがいることが今ではジュンは あまりにも頼もしく、ありがたさを感じた。同時に自分も最悪足を引っ張らないくらいの、出来ることをすべきだとも思った。 一方、雪華綺晶はひとしきりその場で踊り狂ったあとに大きな薔薇の花ひらの上に腰掛けた。真紅を − ジュンを庇うように側に ついている真紅を上から見つめ、にっこり笑ってみせる。 それから両脚を振り子のようにブランコさせながら、挑発するように投げキスにも近い右手の動作をした。 続いて気付かれないように − それは雪華綺晶の得技でもあるが − 真紅達へと瞳を向けつつその実視線を壁際四方に 各々置かれた四つの絵画へと走らせた。それからこの場の素材たちを数える。真紅翠星石雛苺薔薇水晶それに自身に人間。 場違いなのは一人だけだ。 雪華綺晶は薔薇の花びらから飛び降りた。「紅薔薇に全てのお姉さま、今こそ迎えがやって来ました!もう一つの意識に目覚める境界に − 見えること触れるもの全てが − 新しくなるのです!」 それから軽快な足取りのステップで馴れ馴れしくも雛苺に駆け寄りだす。 そのときの横向きの状態が、顔からはみ出る右目の白薔薇をいやに目立せた。 「いけない、雛苺…!」危険を予感する真紅。 「偽と知っていても、嘘と分かっていても」雪華綺晶は言いながら雛苺の金髪を触る。「迎えに告げられたのなら、もっと素敵な 夢を見れるのに」彼女の身体から伸びる白い茨が、雛苺の目の前を蛇のように通過する。ぎょっと雛苺は目を血走らせた。 そこへ、急遽間に割ってきた真紅が遮った。「雛苺から離れなさい…!そしてみんなのマスター達を開放しなさい!」 驚きの反射神経で、雪華綺晶は真紅の胸倉を手に掴んだ。そのまま真紅に倒れ込むようにして寄りかかる。 真紅の顔に雪華綺晶の顔がぐっと接近する。 その彼女の丸っこい瞳はやはりいってしまっていた。真紅は気圧され、一瞬訳が分からず一緒になって後ろへ数歩ふらついた。 「そう、もっと私に触れて。見つけるのです。ふふ… − いまその手に真に望んだ終わりを!」 白の茨が伸びる。そのまま雪華綺晶は真紅を押し倒してしまうが如くだ。気味の悪くなった真紅は思いっ切り金髪のツインテールを 鞭のようにしならせて彼女を追い払った。「は、はなしなさい!」 金髪にぶたれた雪華綺晶はバランスを崩し、真紅から離れた。そのまま体をよろめきさせながら、今度は翠星石に近寄り始める
259 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/20(火) 01:25:59 ID:TuU5GYkV] 雪華綺晶がどんどん狂ったようにこっちに迫ってくる。翠星石はあまりの薄気味悪さに身の毛をよだらせそこから逃げ出した。 「きゃぁぁぁ!来るなです白薔薇くるなですぅ!」 だが、いざ走ろうとすると茨だらけの足場ということもあり、その内一本の茨に足をとられて翠星石はずっこけた。「いぃゃぁっ!」 とそのとき、その雪華綺晶を蹴り出した横から飛んできた影があった。薔薇水晶だ。 「助かった…?」と翠星石。 「翠星石、無事なの…?」真紅と雛苺がすかさず駆け寄ってきた。「ええ…どうも薔薇水晶のおかげで…なんか喰われるかと 思ったほど怖かったですぅ…」 真紅は顔の向きを変えて薔薇水晶を見つめた。転げた雪華綺晶の喉元に自分の剣の先を突きつけている。 どうも七体目には踊ったり、逆さになったり、転げてのたうち廻ったりと奇矯な挙動が多い。 「さっきあの子にマスター達を解放しなさいと説得したのだけれど」真紅は口を開いて仲間の2人に話しだした。「それの返答が まるで理解不能だったわ。触れて−とか、見つけて−とか…人の話しをまるで聞いてないわ。困ったものね!」 「あんなのとまともに意思伝達できるのはきっとE.Tかダークマター知性体でもない限り不可能ですぅ」 真紅は大きなため息をついた。天井を見上げる。ローゼンメイデンのマスター達ががっちりと閉じ込められてしまった天井の水晶を。 こんなことになってしまうなんて。 「薔薇水晶に続いて…雪華綺晶…七体目が現れたことで、私たちのアリスゲームのルールはもう完全に狂ってしまったのだわ。 いまのこのアリスゲームに、お父様はなにを望んでおられるのというのでしょう…?お父様…」
260 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/20(火) 01:29:22 ID:TuU5GYkV] 130 喉元に剣を突きつけられた雪華綺晶は動きを止めはしたが、顔に浮かべる笑みを止めはしなかった。 「ふふ…いいのですか?私をここで壊してしまって?」 薔薇水晶はきついで雪華綺晶を見下し、目剣を握る手に力を込める。「私のお父様から手を引きなさい。そうでなければ どの道あなたを壊すしかないのですから」 「かわいそうな薔薇水晶…」 そう静かに呟き、雪華綺晶は茨まみれの地面に一瞬だけ目を移すとすぐに薔薇水晶の目を見上げなおした。 「かわいそうな薔薇水晶…」もう一度繰り返す。 「手を引くの!?引かないの!?」薔薇水晶は苛立ち始め、口調を突然荒げた。呼吸が乱れ始める。 剣先が動き雪華綺晶の喉元にヒタと触れた。薔薇水晶は続ける。「これが最後です!!さあどうするの!?」 ほどなくして雪華綺晶に出した答えは、きしくも薔薇水晶の言葉を真似たものだった。「これが最後です」顔が残酷に笑う。 突然、薔薇水晶の足元がガクンと沈んだ。「な…っ!!」床の白い茨が動き出して彼女の脚を絡めとリ、下へ引きずり込もうとしている。 驚いている間もなく付近一帯から無数の茨が取り巻くように伸び、薔薇水晶の両手にも首にも腰にも、これ以上ないほど 絡め取られてたちどころに全身を拘束された。必死にもがいたが、右手から剣もこぼれ落としてしまう。「ああ…いや!」 再び身体がガクンと落ち、腰の辺りまで体が茨の中に沈む。彼女はすると床の茨にしがみついて懸命に抵抗する。「あっ…!」 この茨の床全てが罠だったのか! その恐るべき光景を目の当たりにして、ジュンは昔に読んだ"ハリー・ポッターと賢者の石"の後半にでてきた、 "悪魔の罠" − 人を絡めとる植物に満たされた落とし穴を思い出した。三面犬を潜り抜けたあとのあの罠だ。 その雪華綺晶バージョンにいま自分が直面しているのか。あの小説と違って、今回は大人しく白い茨に絡められていれば無事で 済むようには無論、思えない。 薔薇乙女たちも自分の立たされた危険すぎる状況に気付いたのか、足元の茨を気にしながら慌てふためいた。 だが床は一面全て白い茨に満たされており、避難できそうなところは何処にもない。 「いやあああああ!!」幼い雛苺は恐怖のあまり絶叫しながら茨の床を走り抜け、水晶の壁にぶち当たると死に物狂いでよじ登ろう と壁を引っ掻き始めた。当然登れるはずもない。壁は90度で、しかももっと上になるとねずみ返しの構造になっている。 むなしく罠のなかであがく雛苺その姿は、アリ地獄にはまったアリが必死に這い出そうとする姿に似ている、とジュンは思って しまった。もう僕達は誰一人雪華綺晶のこの罠から逃れられない。 「"For the music is your special friend! Dance on fire as it intends!"」 沈んでいく薔薇水晶を放置して雪華綺晶は立ち上がり、奇妙な英語を口走りながら茨の床の上をスキップする。 床の茨は彼女に従って動くので、やはり雪華綺晶自身を絡めとることはない。 「薔薇水晶…!」自分まで茨に絡められてしまう前に、真紅は下へ引きずり込まれつつある薔薇水晶の元へと駆け寄った。 もう肩近くまで下に沈んでいる。「う…真紅…」薔薇水晶は真紅を睨みつける。「私を笑いにきたの…!」 「私たちもいずれ同じ運命にあるのかもしれない。だから笑えないわ」答え、真紅は薔薇水晶の前に座り込む。「残念だわ。仲間を 一人失ってしまって」ぐいぐい薔薇水晶は下へと引っ張られていく。いまや顔と手だけが茨の外にでている。「あなたは…私の仲間 なんかじゃ…な…い…!」自由の効く顔だけ動かして真紅を噛み付こうとする。「あなたは弱い!お父様はローゼンより、最高の 人形師…!」だが、その槐も雪華綺晶によって心を吸収されつつある。薔薇水晶は泣いた。初めて、左目ではなく右目から も涙が出た。もう本当にこれでおしまいだ。私も、お父様も。
261 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/20(火) 01:30:51 ID:TuU5GYkV] 真紅はしばしなくなった薔薇水晶を想うように目を閉じ、両手を胸の前で組み合わせていた。 ほどなくしてぱっと決意に満ちた青い瞳を開き、立ち上がる。後ろに振り返る。姉妹たちを罠にまんまと嵌めたことを 喜んだに雪華綺晶が茨の床の上を片足で踊りまわっている。 ついに薔薇水晶に引き続き、真紅達も狙って床の茨が動き出した。 「いやぁぁ!」翠星石は、狂乱したようにそこらじゅうから伸びてくる茨を如雨露で追っ払っていた。だが、どう考えても数が 多すぎる。「くるなですぅ!触るなですぅ!」相手は無量大数だ。 茨の床の上を、真紅は襲ってくる蔓を水銀燈の剣で次々に断ち切りながら駆け抜けた。出来るだけ床の茨を避けるために、 ときどき大きくジャンプしながら走る。 「翠星石、こっちに!」彼女は姉妹たちに呼びかけた。「雛苺も!はやく!」 「真紅、これから私たちどうすればいいのですか!?」翠星石の足首は既に絡め取られている。 雛苺ももう身動きできそうにない。顔を真っ赤にして泣いている。「真紅ぅー!いやなの死にたくないのぉォオ」 その場ではジュンだけが、この罠に掛けられず自由なままでいられた。雪華綺晶にとってジュンはまだ特別扱いなのだろう。 だが、その"特別扱い"がはっきりいってこの罠の下に沈むよりもっとひどい扱いである気がしてならなかった。 とにかく、自由なのは自分だけなのだから、僕が真紅達を助けなれば。 真紅と翠星石は2人で背中を合わせ、のびてくる白の茨や蔓を協力しあって跳ね除けていた。 だがそれが長持ちするはずもなく、次第に彼女たちは茨みまれとなってきた。 このままでは手の動きまで封じられてしまうことは目に見えている。 「翠星石、沈められてしまう前にこれだけ確認したいわ」真紅の死を目前にしたその声には、何か恐ろしい覚悟に満ちたような 響きがあった。「もう率直に言うけれど、私たちはもう助からないわ。けれど、雪華綺晶にこれ以上マスターを狙わせない方法なら、 たった一つだけある」 「それはたとえ成功しても私たちは助からない方法ですか…!」翠星石もまた察しつつあった。「ジュンは助かっても?」 「ええ、そう。ジュンも薔薇水晶の人形師も助かる。それだけは絶対に保障する。"それだけ"はね…」 「一体どのような方法ですか?」 「それは…」突如、真紅の顔が暗さを増して目が髪に隠れ、怪しく口元だけ動くのが翠星石には見えた。「…翠星石、これから 何があっても、あなたは私を信じてくれていると…そう願うわ」 ありもしないはずの、嫌な予感を翠星石は覚える。「何を、何を言ってるです?真紅、時間がないです。何かするなら、急いだ方が いいですよ」 場違いであまりにも重過ぎる真紅の口調が轟いた。「そうね…そうするわ。…ごめんなさい。ホーリエ」 真紅の手元が赤色に輝き、その手が動き出したかと思うと翠星石の胸元をタッチした。ゆっくり、優しく。 「…え…?」何が起こったのか一番わからなかったのは、もちろん翠星石本人だった。そして結局それが本当に何なのか理解する よりも先に、ローザミスティカが彼女の身体から出た。 「な…!!」ジュンはわが目を疑った。 「え…?」一方雪華綺晶も体の動きをピタと止めて真紅達を見つめる。 翠星石の身体から出てきたローザミスティカを手に持つ真紅の瞳はまるで死んでいるようだった。 それでも体の動きはしっかりと意思をもって、翠星石のそれを飲み込む。真紅の身体が暖かな光に包まれる。 完全にジュンは言葉を失った。真紅、何を考えているんだ!この場に来て気がおかしくなってしまったのか? 抜け殻となった翠星石の体がずり落ちる。真紅はそれをしかと抱きかかえ、緑色のドレスに自分の額をしばらく当て続けると、 やがて放した。茨の床に翠星石の体が寝かされ、あっという間に茨に体が何重巻きにもされて下へと沈んでいく。 「雪華綺晶…これで終わりよ」 真紅はなんと唯一の武器であるはずの水銀燈の剣まで丁寧に床に置き捨てた。「あなたはアリスになれない!私は私のやり方で、 アリスゲームを終わらせるのだから!」
262 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/20(火) 02:03:28 ID:2ToFwWfW] ここでお預けか・・・っ!何時に無くwktkさせやがる・・・!
263 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/20(火) 02:51:48 ID:RNO/dHkG] >>253-261 乙乙乙!
264 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/20(火) 07:17:38 ID:BXODGdfT] 朝から凄いものを読ませてもらった 乙!
265 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/20(火) 21:05:20 ID:hjxWJYgV] /i _ ___ _ l lト、,ィ.:´:::::::::::::::::::.:.`ィニ心ニヽ | |/7:.:.::.::::::::::::::::::::ノ^ヽV仁ニント、 ,イ ,イ::::::::::::::::::::::::::.:フ ,イ7⌒ト、イ / //(´ ̄`ヽ、::::::::.:.> 〈 j f 薇゙i 〉! 〈, イ/ `丶 `ヽ、[ _ノヽミ二ソ.」 / V ヽ,, _,, `ミヽ 二 イ´ / ij ,r‐-、 ,r‐-、 j介:: |イ ',〈 ト云'} 〈ト以ノ〈jj」::|_」〈 ハ ゝ==' ゝ- '′Nト、ト、i \/ <^ヽ:',' ' ' ' /⌒ヽ ' 'ノ ̄ リj i l| 、/ そんなことより、 ,rく久,ィ'^ゝ、 ゝ, ィ<´ ̄`ヽ / | 」|_/ カナのSSを書くかしらー! r‐-、 _>ュ// / _>< `二ニニヽ! ヌノ )<ー><ー><ー-ュ'^ヽ‐ュ`\  ̄`ヽ.ノ_ ノに7 `Y´ ̄``^´ ``y'^ヽ ト、 ト、に孑′ | i .:| V.:.:.::.:.`ト、 j \ /厂 〈^ヽ ヾ:! /.:.::::::::::.:.ヾト、 l/ i /.:.::::::::::::.:.:.:.:ヾト、 | ト、 ノ.:.::::::::::::::::::::.:.:.:.ヽト、 ト、 ヽ! 〈.:.::::::::::::::::::::::::::::::.:.:..`ト、 ト、\‐、
266 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/20(火) 21:09:00 ID:VsxN8Eh4] wktk
267 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/20(火) 23:25:24 ID:JpOGOdSF] >>253-261 乙乙乙乙乙乙乙! い、いよいよなのか?いよいよなのか?
268 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/11/20(火) 23:57:39 ID:TuU5GYkV] omg ... 一部抜けている >>260 >>261 の間 「薔薇水晶…!」自分まで茨に絡められてしまう前に、真紅は下へ引きずり込まれつつある薔薇水晶の元へと駆け寄った。 もう肩近くまで下に沈んでいる。「う…真紅…」薔薇水晶は真紅を睨みつける。「私を笑いにきたの…!」 「私たちもいずれ同じ運命にあるのかもしれない。だから笑えないわ」答え、真紅は薔薇水晶の前に座り込む。「残念だわ。仲間を 一人失ってしまって」ぐいぐい薔薇水晶は下へと引っ張られていく。いまや顔と手だけが茨の外にでている。「あなたは…私の仲間 なんかじゃ…な…い…!」自由の効く顔だけ動かして真紅を噛み付こうとする。「あなたは弱い!お父様はローゼンより、最高の 人形師…!」だが、その槐も雪華綺晶によって心を吸収されつつある。薔薇水晶は泣いた。初めて、左目ではなく右目から も涙が出た。もう本当にこれでおしまいだ。私も、お父様も。 「薔薇水晶」 すると、真紅はゆっくりと自分の手を差し出した。「あなたを創った人形師を、あなたに代わって私が救って見せるわ。誓って」 「…!」薔薇水晶の金色の目が見開いた。敵意のない、それこそ純粋に姉を見るような瞳で見上げる。 「私を信じて」真紅は続ける。「自分を創った存在を慕うあなた気持ちは、私にもよく分かる。だって私たちもまた人形師によって 創られた、同じドールですもの…」悲しそうに目を閉じる。「アリスゲームがなければ、私たちとあなたは憎しみ合わずに、 そう、同じドールとして、楽しく色々話せたかもしれなかったわね…ごめんなさい。薔薇水晶。あなたをこんな戦いに巻き込んで しまって…それを謝りたかったの。せめてもの侘びに、私は誓ってあなたの人形師をあの雪華綺晶から護ってみせる」 薔薇水晶の右手が、ぎこちなく、ゆっくりと持ち上がった。茨の罠の下に沈む最期の瞬間、薔薇水晶と真紅の手が − 繋がった。 「お父様を…私のお父様を…助けて…」 茨に引き摺られ、彼女は完全に中へと沈んだ。その姿はもう、見えなくなった。 真紅はしばしなくなった薔薇水晶を想うように目を閉じ、両手を胸の前で組み合わせていた。 ほどなくしてぱっと決意に満ちた青い瞳を開き、立ち上がる。後ろに振り返る。姉妹たちを罠にまんまと嵌めたことを 喜んだに雪華綺晶が茨の床の上を片足で踊りまわっている。
269 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/21(水) 00:07:17 ID:7xLXLUvK] 消え去った・・・!俺のよく解らなかった蟠りが一気に消え去った!!
270 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/21(水) 00:59:01 ID:5z5gg/9I] /i _ ___ _ l lト、,ィ.:´:::::::::::::::::::.:.`ィニ心ニヽ | |/7:.:.::.::::::::::::::::::::ノ^ヽV仁ニント、 ,イ ,イ::::::::::::::::::::::::::.:フ ,イ7⌒ト、イ / //(´ ̄`ヽ、::::::::.:.> 〈 j f 薇゙i 〉! 〈, イ/ `丶 `ヽ、[ _ノヽミ二ソ.」 / V ヽ,, _,, `ミヽ 二 イ´ / ij ,r‐-、 ,r‐-、 j介:: |イ ',〈 ト云'} 〈ト以ノ〈jj」::|_」〈 ハ ゝ==' ゝ- '′Nト、ト、i \/ <^ヽ:',' ' ' ' /⌒ヽ ' 'ノ ̄ リj i l| 、/ そんなことより、 ,rく久,ィ'^ゝ、 ゝ, ィ<´ ̄`ヽ / | 」|_/ カナのSSを書くかしらー! r‐-、 _>ュ// / _>< `二ニニヽ! ヌノ )<ー><ー><ー-ュ'^ヽ‐ュ`\  ̄`ヽ.ノ_ ノに7 `Y´ ̄``^´ ``y'^ヽ ト、 ト、に孑′ | i .:| V.:.:.::.:.`ト、 j \ /厂 〈^ヽ ヾ:! /.:.::::::::::.:.ヾト、 l/ i /.:.::::::::::::.:.:.:.:ヾト、 | ト、 ノ.:.::::::::::::::::::::.:.:.:.ヽト、 ト、 ヽ! 〈.:.::::::::::::::::::::::::::::::.:.:..`ト、 ト、\‐、
271 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/22(木) 01:03:40 ID:rzoQ/Aeq] 以前光の螺旋律の絵コンテがうPされてたって聞いたんだけど だれか再うPしてくんね?
272 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/22(木) 23:07:01 ID:FxsC0dCo] /i _ ___ _ l lト、,ィ.:´:::::::::::::::::::.:.`ィニ心ニヽ | |/7:.:.::.::::::::::::::::::::ノ^ヽV仁ニント、 ,イ ,イ::::::::::::::::::::::::::.:フ ,イ7⌒ト、イ / //(´ ̄`ヽ、::::::::.:.> 〈 j f 薇゙i 〉! 〈, イ/ `丶 `ヽ、[ _ノヽミ二ソ.」 / V ヽ,, _,, `ミヽ 二 イ´ / ij ,r‐-、 ,r‐-、 j介:: |イ ',〈 ト云'} 〈ト以ノ〈jj」::|_」〈 ハ ゝ==' ゝ- '′Nト、ト、i \/ >271 <^ヽ:',' ' ' ' /⌒ヽ ' 'ノ ̄ リj i l| 、/ そんなことより、 ,rく久,ィ'^ゝ、 ゝ, ィ<´ ̄`ヽ / | 」|_/ カナのSSを書くかしらー! r‐-、 _>ュ// / _>< `二ニニヽ! ヌノ )<ー><ー><ー-ュ'^ヽ‐ュ`\  ̄`ヽ.ノ_ ノに7 `Y´ ̄``^´ ``y'^ヽ ト、 ト、に孑′ | i .:| V.:.:.::.:.`ト、 j \ /厂 〈^ヽ ヾ:! /.:.::::::::::.:.ヾト、 l/ i /.:.::::::::::::.:.:.:.:ヾト、 | ト、 ノ.:.::::::::::::::::::::.:.:.:.ヽト、 ト、 ヽ! 〈.:.::::::::::::::::::::::::::::::.:.:..`ト、 ト、\‐、
273 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 [2007/11/22(木) 23:49:32 ID:4vhE6CV9] /:::、::::::、::::::、::::/::::jL、 /:::/::/\:::\:::辻-く仁、 i::::i::/__ ` ー ミ _∧ ニ/{ l::::レ.ァニ、ヽ ィニ、ヘ_ノレ' ゙:」 ´込ソ . 込ソ i::/ /∧  ̄ r==┐ ̄ ∧ヽ , --、 {!`ーヽ. 、___ノ メー' i}、 / ̄>-、」::_:_:_-:i>┬<!:-:_:_:_:」i / / / ト、7∠イ::i⌒i:::iヽ:ニ:ニ:ノ\ _ヽ ´/、 __ニ」:::! ゚ i:::l〉=:、. .ヽ \ \___\ ノ/r=_ _「i::! ゚ i:/{!三:`ー' i ,, l /z{::::\ /::Y <<. 、ニr=_ノ .::i.:/ / 【ゴールデンレス】 このレスを見た人はコピペでもいいので 10分以内に3つのスレへ貼り付けてください。 そうしないと14日後屋根から転げ落ちるわ火事に巻き込まれるわ 名前を間違えられるわたまご焼きをカラスに奪われるわでえらい事です
274 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/25(日) 00:26:57 ID:/gq1akRX] ほす
275 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/26(月) 01:49:48 ID:8ob73W/g] せっかくだから俺はこのスレをほしゅるぜ!
276 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/27(火) 02:24:04 ID:pJMEIuDI] これはwktkせざるをえない。GJ!
277 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/27(火) 22:00:50 ID:HktUtay0] 金糸雀信者規制されたらしいな ざまぁwwwwwwww
278 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/28(水) 12:14:58 ID:5+ml1eSa] ほしゅ!
279 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/11/29(木) 18:56:44 ID:KisV1tTO] 誰が保守なんてしてやるもんかよwwwwwwwwwww
280 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2007/12/01(土) 22:04:41 ID:d6RLqoep] 捕手
281 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 04:06:31 ID:gX6lhtC4] 131 真紅が翠星石のローザミスティカを取った。 雪華綺晶も全く予想のしなかったそれは真紅の奇想天外な行動だった。 そうなるといま真紅には六つのローザミスティカを持つことになる。 というのも、元々蒼星石を始めとした雪華綺晶のものや金糸雀などのローザミスティカを所持していた水銀燈を真紅はあの火山地帯 での死闘で倒してしまった為、その時点で彼女の持つローザミスティカは五つになっていた。 つまりいま翠星石からとったものを加えれば、六つになる。 残るは雛苺のただ一つのローザミスティカだけという訳だ。 七番目がジュンや槐を捕えてしまう前に、自分が七つのローザミスティカを集めてアリスになることで、雪華綺晶の手から人間 たちを救おうという魂胆なのか。 だがそれは成功したとはいえない。雪華綺晶は、真紅から遠く離れたところの壁際でもがいている雛苺を目に収めた。 すでに全身を茨に絡まれ、腰の辺りまで沈み始めている。この状況と距離で雛苺が真紅にローザミスティカを差し与えるなんて ことは出来そうにない。 どう考えても真紅の行動は空虚で見栄だけの失策だ。雪華綺晶は顔ににこっと笑みを作った。 「あっ!…」 真紅の身体が茨に絡まれ下に引き込まれ、足先から茨の中へ沈んでいく。既に腕も腰も何重にも茨にしめつけられている。 「かわいそうな紅薔薇のお姉さま」 雪華綺晶は真紅に言う。「なんてかわいそう…あなたはこんなにも…強かったのに」 「あああいやぁ!真紅、シーンクゥ!助けてー!真紅、助けてー!」 雛苺の下の茨がクニャと湾曲するように下へ沈み込むのと一緒に、彼女の身体もまた茨の中へと引き込まれては消えた。 その数秒後のことだった。 雛苺が沈み消えたところの近く、壁際に意味ありげに立たされていた絵画の中の額に、ピシィと音をたてていきなりなにかが 映し出された。白い茨と一緒になった、それは雛苺の姿だった。 続いて再度何処かでピシィと音が鳴る。別の絵画からだ。やはり茨と一緒に捕らわれた翠星石の姿がそこには映し出されている。 彼女達を絵の中に閉じ込めたのか? 絵画に映された二体のドールに目を配らせる雪華綺晶はしてやったような笑みをニィっと浮かべ、続いて拘束状態の真紅に 話し掛けた。 「黒薔薇(おねえ)さまとあなたの戦いは圧巻でしたわ、紅薔薇のお姉さま?あのような所でもまだ戦い続けるなんて、私はしない。 だってこうしてここでお姉さま方を捕まえてしまえるのですもの…永久(いつわり)の幸に。でもゲームは終わる。 あなたの望んだことは叶えられるのです。私が至高の少女と咲くことによって…」 「いいえそれは違っているわ」 真紅はびくとも体を動かせない状態のままで、苦し紛れの笑みを雪華綺晶に返して見せた。「もう一度言うけれど、あなたは アリスになれはしないのだわ。それから…かわいそうなのは貴女の方よ。なぜお父様はあなたを、人間の心を騙し奪い取ってしまうような 行為に走らせるように作ったと思う?」 雪華綺晶は何も答えない。ただ真紅の前につっ立っているままだ。
282 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 04:08:45 ID:gX6lhtC4] 真紅は続けた。「それはあなたが薔薇乙女最後のドールだからよ。お父様はアリスを求めて私達を創り続けているうちで、 恐らく数え切れないほど…私達の想像などはるかに絶する、努力に苦渋と絶望を味わっていたのかもしれない。そして雛苺を 創り終え、それでもアリスに届かなかったお父様は、七体目であるあなたを創り始めた…」 一端言葉を切り、真紅は辛そうに茨と格闘しながら首を持ち上げた。「うっく…」 天井に吊るされた水晶と、その中に閉じ込められたドールのマスター達を視線で雪華綺晶に示す。 「確かにあなたに捉えられてしまったマスター達は、いま幸せな夢をみているのかもしれない。それはたとえ心を奪うという行為 であっても、"薔薇乙女は人を傷つけたり不幸にするような存在ではない"というお父様の言葉と一応は矛盾していないわ。 みっちゃんさんはあの中で金糸雀とずっと一緒に幸せな夢を見ているのかもしれないし、水銀燈のマスターは水銀燈のマスター で彼女自身が望んだ何かをその通りにあなたは幻を見せて彼女を幸せにしているのかもしれない。もしつぎジュンをあなたは捉えたら… さてどんな偽りの夢を創り上げるのでしょうね。学校にいかなくて一生通販だけして暮らせる夢かしら、はたまたありもしない 偽りの私達とずっと一緒にいつづける夢かしら。いずれにしても、それは確かに幸せでありあなたなりの方法なのでしょうけれど、 その中に真実は何一つ含まれてはいない。全ては偽りで幻。なぜならあなた自身もまた、幻なのだから」 そして真紅は、まるで勝ち誇ったように挑発的な口調になって言い出した。「こうは考えられないかしら?第六ドールの雛苺を 創り終えたその時点で、お父様はもう現実的にアリスを完成させることは無理だと悟った。アリスという存在は幻であり、人の 偽りの想像と、空想によって踊らされ生み出されるものなのかもしれないと。アリスは現実物体として存在しえないのだと。 アリスは偽りのなかにこそ見出せるものなのだと。お父様がそう思い心を曲げて、雪華綺晶 − あなたというドールを創った ならば、七体目…あなたはお父様によって"挫折されて創られたドール"ということになるわ」 突然、雪華綺晶の目の色が変わった。丸っこい瞳に細みが入る。 臆する様子を見せることもなく、真紅は引き続き喋った。「いま、私には想像できる − あなたがここで全てのマスター達 を眠らせて − "偽りのアリス"となるあなたが。あなたはこのゲームを制しても、偽りのしがらみからは抜け出せない。そして お父様はそのつもりである。七体目、もしあなたがお父様に会ったときには、あなたの行為はとどまることを知らず、お父様の心をも 奪おうとしてしまうのではなくて?あるいはあなたの意思とは別にお父様がそれを望む。お父様は、あなたのマスター達の心を 奪うことによって完成させられた偽りの夢のなかで、アリスを見つけようとする。"挫折"だわ」 「真紅…よせ!!それ以上なにもいうな!」ジュンは真紅の行動がいっこうに理解できないでいた。 ただでさえこんな絶望的な状況なのに、雪華綺晶を触発するようなことを言ってどうするんだ!? ところが、真紅はジュンの忠告をふりきって無視した。 「それに比べ、私たちは本当にアリスを目指して創られた!私たちはアリスゲームを生きて、戦い、全てのローザミスティカを 集めれば、それは本当のアリスとなることが出来るのだわ。それがあなたと私たちの違いよ!器を持たない貴女は、生きてはいない のだから。生命の糸も必要としてはいないのだから。絆という繋がりを…」 "偽りだと分かっていても" "私が嘘をつくと知っていても" "もしあなたにそれを告げたのなら" "より至高の夢が見れるのに"
283 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 04:10:05 ID:gX6lhtC4] 「あぁ…っ!」ガクンと、真紅の身体が強靭な力で下に引っ張られる。 腰の辺りまで一挙に沈む。必死に腕をのばして持ちこたえる。だが、こうなれば完全に沈められるまでもう遠くない。 「やめろぉ!!」ジュンは叫び、真紅と雪華綺晶のところへ駆け込もうとしたが、そのとき思いがけず足を茨に絡め取られた。 体がつんのめって前に転び、手が茨の床に着くと同時に手も茨に絡まれ、床に固定されてしまう。さらに容赦なく何本も何本も 茨がジュンに巻きつき抑え付けられて完全に床と融合してしまった。 さっきまで自分には手をだしてこなかったのに、いきなり。間違いなく雪華綺晶の気が立っている。 それでも、ジュンは床に縛られたまま懸命に頭を持ち上げて再度叫んだ。「真紅!!もう七体目に何もいうな!」 "さあ来るのです" 「…くっ…」茨の中に沈んだ足をさらにぐいぐい下に引き込もうとする力があるのが分かる。真紅は必死に抵抗しつつ、 いよいよそれを実行するときがきたと思った。ジュン、みんな、…私を − 「本当に想いが繋がれば契などいらないのだわ。 指輪がなくなっても繋がっていられる…信じていられる…だから、私は」 "私の魂に火を点して" 真紅は茨まみれの左腕を持ち上げた。「薔薇の誓いを解く…!!」 スパァンという強烈な破裂音が轟き、その直後目も眩む閃光が四方に迸った。
284 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 04:45:51 ID:gX6lhtC4] 132 あまりの眩しさに、ジュンは真紅と雪華綺晶の間に何が起こったのかはっきり見ることが出来なかった。 少しずつ視界が回復してくる。雪華綺晶がそこに一人立っていた…真紅の姿はない。 そしてそのとき、ガラスにヒビが入る感じにも近い、ピシィという物音がきこえ、ジュンはそっちに首を動かして見た。 三つ目の絵画の額の中に…真紅がそこにはいた。 「真紅…っ」ジュンはうろたえて気が遠くなった。真紅も、翠星石も雛苺も、みんな絵画の中に捕らわれてしまった。 取り残された自分はすでに茨に捕らわれ、どうすることもできない。 このさき、ジュンは雪華綺晶によって水晶の中に押し込められるという危機感を本能的に覚え、その白い人形である相手を見つめた。 まさにそれは人間の本能意外の何ものでもない行為だった。 特に意味はない。人間は自分を死や危機に陥れようとする存在を最期ただ目に収めようとする。 雪華綺晶はただその場に立ち尽くし続けていた。真紅がさいご伝説と消えた所をずっと見下ろし続けている。 何か様子がおかしい。 僕を捉えれば七体目はアリスになれるんじゃなかったのか。 さらに奇妙なことに、体を拘束する茨の力が萎びたように随分と弱まってきたので、ジュンは自力で脱出した。 「これは…」 そのとき俄然とひらめいた。 そういうことだったのか!薔薇の棘の鞭に体をぶたれた気分だ。 自分はいま真紅のマスターじゃない。絵画に閉じ込められる直前、真紅がしたことは指輪の契約の解除だったに違いない。 ジュンの左手からいま指輪は消えている。 続けざま次々と、真紅の行動をジュンはたちまちに理解できた。 真紅が翠星石のローザミスティカをとったこと。僕は真紅だけでなく、翠星石とも契約していた。僕が完全に薔薇乙女のマスター としてではなく、普通の人間の状態になる為には、真紅一人だけ契約を解除しても意味がない。翠星石と真紅2人分の契約を同時に 解除する必要があったのだ。その狙いを雪華綺晶に察せらずに実行するためには、真紅が一方的にいきなり翠星石のローザミスティカを 取ってしまう他なかった。翠星石がローザミスティカを失えば自動的にその契約の分も人知れず解除されてしまう。 あまりのことにジュンは言葉が出せなくなった。 確かなことはもはや自分は雪華綺晶に狙われる身ではなくなったということだ。そしてそこまでして自分を護ろうとしてくれた真紅 はもちろん、翠星石や雛苺のことがどうしようもなく心に染みて感じられた。なんといったらいいのか分からない、胸の痛くなる ような感覚を。 雪華綺晶は、ひたすらそこに立ち尽くし黙りこくっていた。 時が止まってしまったように微動だにしていない。白い髪だけがふわふわとなびいている。彼女はやがてついに独り言を呟いた。 「止まった。運命の糸車が…いま止まった。アリスゲームに歯止めが掛かった。糸の切れるその前に…」 アリスゲームに歯止めがかかった?ジュンは一瞬その意味が分からなかった。 ジュンのみているその視界の中で、雪華綺晶はまるで糸の切れた操り人形のようにバタと床に転がり、仰向けになった。 天を見つめながら、再び独り言をいう。「強情で意地っ張り…それでいてなんて罪深い紅薔薇。取り返しのつかないお父様への罪…。 マスターを持たないまま絵に凍り付けば、永久にアリスが誕生しないのに…私はずっと私のままになってしまうのに…」 「…そ、そうか…」 雪華綺晶の言葉の断片から、ジュンはいまのアリスゲームの絶望的な状況を悟った。「これ以上アリスゲームは、進みようがないんだ…」 七体目がアリスになる為には真紅の契約者となる存在が必要だ。だが真紅は最後ジュンと契約を解除し、誰も契約者に持っていない 状態のままで絵画の中に閉じ込められた。それはもう動けない真紅が以降永久に誰も契約者に持たないということだ…そして雪華綺晶 が永遠にアリスになれないことも同時に示していた…七体目にはそれが必要なのだから。
285 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 04:48:05 ID:gX6lhtC4] だが、それだけに事態の険悪さは収まっていない。 六つのローザミスティカ。それすらも真紅と一緒に絵画の中に入ってしまっている。つまりローザミスティカもまた動かしようが なく、七つが一つに集まることは永遠にない。絵画の中で、ずっと真紅と共に六つのままであり続けるだろう。 しかも残された一つのローザミスティカもまた雛苺と共に別の絵画の中に封じられているので、どうしようもない。 "七つのローザミスティカを集めてアリスになる"方法にしろ、"ドールズ全員の契約者の力を以ってアリスになる"方法にしろ、 この状況では完全に手詰まりだ。 アリスは永遠に誕生しない。人形師ローゼンは一生アリスをおあずけになった…。少なくとも彼女達を…真紅だけでも絵画の中から解放 しない限りは。 することを失った雪華綺晶は身体を起こしたが、さっきまでの活発な動きとは打って変わって体育座りしたまま顔を腕に埋めている。 最悪な意味で、真紅は仲間達と交わした長年の約束を果たして見せたのだ − "私は私のやり方でアリスゲームを終わらせる"。 良しも悪しくも事実そうなった。彼女の願いは自分から絵画に入ることで叶えられた。アリスゲームは動かしざるものとなり、 事実上終わった。アリスというものを永久に葬ることで。 その捨て身の行動を思えば、ジュンは…改めて真紅の行動を一応筋の通ったものと考えることはできた。受け入れたくはなかったが… 自分の忠告も無視して真紅があんなにも雪華綺晶を"挫折されたドール"と挑発し呼んだのはそうやって自ら雪華綺晶に自分を罠に かけるように誘っていたのだった。気の触れた雪華綺晶がまさに真紅を沈めようというタイミングをずっと狙い、その直前で 契約を解いた。際どく投げ身で、しかもアリスすら捨てるという彼女の恐るべき決意と行動は成功を収めたのだ。 恐る恐る、ジュンは雪華綺晶に歩きよって話をしてみた。「お、おい…、おまえ…」 雪華綺晶の身体からは茨があらゆる所より伸び、それが自分の体を縛りつけはじめている。自虐的な行為だ。 ジュンの声に気付いた様子はない。 「おい…」ジュンはもう一度声をかけ、彼女の肩に触れてみる。 その瞬間彼女の顔がぱっと跳ね上げられた。機敏すぎる反応にジュンまで飛び上がりそうになった。 「罪深き紅薔薇と、そのマスター!」 大きく見開かれた雪華綺晶の金色の瞳には絶望と驚愕、不信と非難…あらゆる破滅的感情が混在していた。 「お父様は…紅薔薇とあなたを決してお許しにならない…いいえ薔薇乙女全てに、いまに裁きが下される!」 雪華綺晶は恐れている。何かを。「あなたたちはアリスゲームで最もしてはいけないことをしたのです!それもこの私を介して!」 体育座りのまま糾弾を続ける彼女の白い髪の後ろあたりに、真っ白な人工精霊スゥーウィーが飛び寄って来た。「私は…私は還る ところを失くした…アリスは誕生しえない…知覚の扉は浄化されなかったのです…」 ジュンにも十分すぎるほど彼女のやるせなさが伝わってきた。 雪華綺晶は永遠にアストラル体の人形であり続ける。実体のない霊体は朽ちて消えることすらない。たとえ本人が死を望んだとしても。 「ゲームは凍てつく夜のなかに投げ出されたのです…私の水面下で囁く言葉には、もう意味がない…」 そこまで言ってしまうと雪華綺晶は再び顔を腕に埋めた。 どうすればいい?真紅は僕の為に…僕を七体目の手から護る為にアリスすら失う道を選んだ。 その強烈な罪悪感といいようのないもどかしさ。人形師ローゼンはいま僕のことをどう思っているのだろう? 究極の少女アリスすらよりも優先されて選ばれた、こんな僕のことを。 ジュンは考えて見た…いまの自分にできることを…考えるんだ…"真紅達を救うんだ"… 真紅達を救え。それしかない。
286 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 04:49:56 ID:gX6lhtC4] ジュンは意を決し、思い切って雪華綺晶の正面に移動してしゃがむと言ってみた。「おい…、し、真紅達を元に戻せないのかよ? 真紅達を絵画の外に出してやれよ…もういいだろ…」 「そんなことできっこない」雪華綺晶は顔を埋めたままで答えた。「凍った子たちはこれからも凍り続けるか溶けて消えてしまうかだけ」 「そんな!!」 ジュンは悲痛な叫びを上げ、顔を上げて天井の水晶に閉じ込められたマスター達を見た。それから周囲の壁際に飾られた絵画の ドール達も見る。 ここまでたくさんのみんながひどい目にあっているというのに、いきなりそこでストップなんてあってたまるか。 「何か方法を考えないと!みんなお前がやったことなんだろ!どうにかしろよ!」 雪華綺晶は反応しない。それこそ氷ってしまったかのように。 ジュンは彼女の両肩を持って揺すった。「おい!!どうにかしなきゃお前だって困るんだろ!!アリスゲームが進まないんだろう!」 丁度そのとき、軋むような轟音がして地面が揺れ、ジュンと雪華綺晶は同時に顔を上げた。「なんだ!?」 地揺れの影響で水晶の破片がパラパラと天井より舞い落ちてくる。 「言ったでしょう」遠く右の方角を見上げながら雪華綺晶は口を開いた。「これはお父様の裁き。凍てつく夜が時期…私達を 捕えるのです」 はっとジュンも釣られるように右の方角へ顔の向きを変えて見た。遥か先、水晶城より透けて先に見える白っぽい世界… その地平線に、何か黒っぽいラインが現れてきている。見てて分かるほど、その黒っぽいものは大きさを増した。 いや…猛烈な勢いでこちらにあれが近づいてきているのだ。まるで世界の全てをを食い尽くす黒い魔物のように、或いは太陽 の日食によって急激に昼が夜へと大地が変貌していくように、全てが闇に飲まれていく。 いずれこの水晶の城もあの闇に捉われてしまう。 「おい!?僕達は死ぬのか?みんな死ぬのか!?」ジュンは叫んだ。 「死ぬのではなく…止まるのです」答える雪華綺晶はまるで自分に言い聞かせているかのようだった。「無限の闇に落ちた身を 閉じ込める檻は動きを止めた時計の刻。ゲームの歯車は光と共に動力を失った。私は彷徨い続ける…還る先もない闇を。永遠に…」 ジュンは目を剥いて迫り来る巨大な闇を見た。「死ぬことも許されないってことか?永遠にここに取り残されるのか!?」 「あなたは罪深い。裁きを受けるのです」 「くっ…」闇が迫ってくれるつれ、地響きが次第に大きくなってくるかのようだ。あの闇に呑まれたら?真紅は?みんなは? 「まだ時間はある!真紅達を外に出せればいいんだろう?そうすればアリスゲームはまた動き出すんだろ?」ジュンは彼女をせかした。 「私はもう休まなければならない。お父様がそう考えているのだから」 歯をジュンは噛みしめた。七体目に強い憤りを感じたのだ。「どうして…どうして無責任なこと言えるんだ!?いつでもなんでも お父様お父様って…!お前には自分の意思ってものがないのかよ!お父様の言うこと全部にただ言う通りに動いてれば、お前はそれで いいのか!」ジュンは爆発したように次々と言葉を放出する。「真紅は違った − おまえなんかとは全然違った!お父様のことを慕い、 考えつつも…自分なりにアリスゲームを終わらす方法を − 大切なみんなを失わなずにゲームを終わらす方法をいつも考えて いて…みんなを大事に思って…ちゃんと自分の意思を持っていた!真紅だけじゃない、翠星石も雛苺も…水銀燈だってあいつ なりに自分のマスターのことを思って戦ったというのに!みんなみんな自分達の想いがあったのに…お前はそんなみんなをこんな 風に閉じ込めたりして、なんとも思わないのか?休むだの止まるだのそんなことがいえるのか?」
287 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 04:51:23 ID:gX6lhtC4] 闇が迫る。 「…強気…」雪華綺晶は静かな口調で言った。「でも、あなたは真紅がいなければ何もできない…」さらに多くの茨が彼女自身 に巻きつきはじめる。 それだけではない。あたりそこらじゅうの茨の床からも多量の棘が伸びだし、壁や天井あらりとあらゆるところを貫き、互いを 絡めあったりしだした。空間一面まるで蜘蛛の糸にまみれたように白い棘だらけとなり、天井を埋め尽くさんとしている。 そして雪華綺晶はいきなり飛び上がった。張り巡らされた棘のうち一本にぶら下がると、背を垂らし顔を逆さにして ジュンを見据える。 その顔は、恐らくジュンがいままで見てきた全ての雪華綺晶の顔の中でも一番恐ろしく不気味な表情だった。 「あなたがどれほど薔薇乙女のアリスゲームというものを理解しているのか…」雪華綺晶はいう。「あなたがどれほど数多く の目に見られてきたのか…それら全ての目の正体をあなた自身に反映できるのか…明かすことができるのか」 「なぁ…頼む」ジュンはおどろおどろしつつも顔を渋らせて懇願した。「時間がないんだ。もっと分かりやすい話をしてくれ… お前は何をいいたいんだ?」 「あなたは見えますか?」だが雪華綺晶は逆さのままその話を続けた。「この天才性と完全無比さを。アリスゲームという盤の、 完璧で透明でクリスタルのように美しい愛に満ちて完成されたこの盤を」 「アリスゲームか天才性で愛に満ちているだって?」雪華綺晶の話はジュンの想像を絶した。 「盤に立った薔薇乙女は全て戦わなければならない…薔薇乙女の姉妹を…マスターを…人間を…貶めなければならない。 必要なのは純粋で穢れのない意思。そこにためらいと慈悲はない。完全で完璧な至高の美しさがそこにはある…天才で究極の所思が… 見えますか?薔薇乙女にその神聖的ともいえる透明な殺生の儀式を課す、…殺しを課すことの出来る…お父様の深い愛を。深くて… とても深い本当の愛を」 雪華綺晶はアリスゲームを崇拝し、賛美している。そんなこと言うドールは初めてだった。聞こえる言葉全てが狂気を物語っている ようにしか思えなかった…ジュンの知る限りドールの多くはアリスゲームを恐れ嫌っていた。蒼星石や水銀燈さえ、それはアリス になる為に仕方のない運命だと踏み切っていても、雪華綺晶のようにアリスゲームそのものを、殺し合いそのものを賞賛するドールは かつていなかった。 「なぜお父様が薔薇乙女に殺しあうように命じたのか。なぜ私に人の心を凍りつけるようにしたのか…」 雪華綺晶は自分の手のひらを見つめ、穏やかに言った。「なぜならそうすれば至高の少女へとなりえるから…アリスゲーム そのもの全てが自身を補う為の行為だから…誰かを殺生することで私はより綺麗になり誰かに残酷な死を与えれば与えるほど 私は壮麗な存在になれる。…愛しいお姉さまたちを…すればするほど…遡っていくよう…美しいお姉さまたち…」 彼女は自分で自分を畏れるように手のひらを見つめ続けていたが、唐突にその手を握りしめた。ぱっとそれをまた開く とジュンに見せ付ける。 「でもそのゲームの盤は動きを止めた。だれかを騙し、殺し、それによって私を綺麗にすることも"これまで"です…」 彼女の手のひらに釘付けになりつつ、ジュンは唸った。ああ、いまこそ雪華綺晶の狂気というものの核が見た気がした。 七体目はドールを…姉妹を殺すこと平然と思っていたのではない…楽しんでいた訳でもない。殺生を賛美し、崇高なものと思い込んで いた。ローゼンに天与されたアリスゲームの宿命を奥底から崇拝し、殺生をすることで自分を美しくしようとしていた。 また姉妹のことを大体美しいものと認めていた。だからこそ末の妹は上の姉たちを食らい、殺すことで自分を補おうとしていた。 それらをためらう心は最初から持たされていないのだ。必要な"養分"となる心を持っている人間ですらそういう対象にみなしている。 人間を罠にはめ、心を閉じ込めてしまうことが至高の行為だと無垢に信じ込んでいる。 「お前はやっぱり…狂ってるんだ…いや、かわいそうだよ…」ジュンに目には哀しみが篭っていた。「ドールの姉妹や人間を そんな風にしか見られないお前が…そんなお前は誰にも好意を返されず、きっと愛されないんだろうな…その辛さに気付くことすら ないんだ。ひょっとするとその辛さに気付けないことはある意味幸せなのかもしれない…でもそれは偽りだから…だからもっと お前はかわいそうだ」
288 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 04:51:57 ID:gX6lhtC4] 散々人間やドールをかわいそうと称し散らしてきた雪華綺晶が自分をかわいそうと言われるのは今回これで二度目だった。 「あなたは紅薔薇に似てしまっているだけ」雪華綺晶は逆さのまま指先をジュンに伸ばした。「逃げて、あらゆるものから逃げて、 やがて迷路の行き止まりにあうことを恐れて最後に目を瞑る。見栄ばかり強情に張る。自分で糸を引っ張っては切らしてしまう あなたが私には見えてくるよう」 「ああ…そうかもしれない」いよいよ闇が巨大な水晶城を取り込み始め、ガタガタと城全体が大きく振動し始めた。さらに多くの 水晶の破片が降り注いでくる。 「僕は自らお前の罠に飛び込んできた。真紅達とお前に捕まったマスター達を助けるためにな…思えば本当に自殺行為だよ。 けど誰も予想もしなかったことがいまここで起きた。まさかこんな形でアリスゲームが止まるなんてお前にも予想できなかった んだろう?逃げるにしろ、飛び込むにしろ、何かに動きだせば、そこから未来に起こることなんて本当に分かる奴はいないのかも しれない。だから」ジュンは4つの絵画のうち、まだ何も映されていない残った一つの絵画へ目を走らせた。「どこまでも僕は真紅達 を追って、罠に飛び込んでいってみようと思う。なにかが動けば、それで全てが変わることもある」 時間制限されているこの状況がそうさせているのか、目の前の七体目に影響されて自分まで性格が狂ってしまったのか、ジュンは さらに次の言葉を口走った。「だから雪華綺晶…!もしお前にまだ少しでもアリスゲームを復活させたい気持ちがあるのなら、 僕もあの絵画の中に閉じ込めろ!」 逆さのまま雪華綺晶はなにか奇怪なものを見つけたときのように目を瞠った。「ドールならまだしも人間が絵画に凍りつけば どうなるかわかりませんよ」 全身を痙攣させつつジュンは鼻で息を吐いた。確信があるのか恐れているのか自分でも分からない。「…それが狙いさ」 闇が侵食し、水晶城か全体がついに崩れ始める。 落ちる水晶の破片はいよいよ大きいものへと変わり、岩サイズといっていい程の大きさの断片が地面に落下してきては叩く。 「どうした、急げ!」ジュンは両手の拳を握り緊めて構えるポーズをした。 「あなたが絵画になったら…」雪華綺晶の伸ばした両腕から棘がのび、それがジュンに纏わりつき出した。「せめて紅薔薇の隣 に飾って差し上げましょう。お父様が見てもすぐに分かるように。"これは愚かで罪深き五番目と、そのマスターだ"と」 ジュンは答えた。「それはありがたいね」 ピシィという音がしたその刹那、視界が暗転した。 全身にサランラップがきつくぴっちり密着するような圧迫感を覚え、ジュンは身体が全く動かせない状態になったことを悟った。
289 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 04:53:31 ID:gX6lhtC4] 133 せっかくそこらじゅう蜘蛛の巣さながら張り巡らせた雪華綺晶の白い棘を、雨あられと降り注ぐ水晶の断片群があちこちぶち破る。 ついに雪華綺晶自身のぶら下がる棘をも断ち切られ、彼女は顔面から床に突っ伏した。 やはり蜘蛛のようにべったり床の上に伏してしまう。顔を上げるも今度は髪が邪魔をする。 掻き分けてみれば、真紅のマスターが、棘に絡まれた状態で絵画に後姿が映っている。 「罪深く…蒙昧で…強情で…」雪華綺晶は独り言を呟いた。「それでいて…不思議な紅薔薇のマスター…」 それを聞く者は誰もいないはずだったが、思いよらず突然ラプラスの魔の声がした。 「はてさて、これは一体どういう幕回しでしょうか」声に気付いた雪華綺晶は一瞬ラプラスを睨みつけ、身体を起こすと再び その場に座った。「か弱き薔薇乙女達の運命は?あの少年は?そして白薔薇は?」 「私とあなたが"同じでない"ことが決められましたね」いきなり雪華綺晶はラプラスにそう告げた。 「おや」ラプラスがひどく演技っぽい驚きの仕草をした。「いずこのどなたがそんなことを?」 それ以上雪華綺晶はラプラスを相手にしようとはしなかった。顔を上げ天を見つめる。ついに闇が彼女を包みこみ、夜が訪れた。 冷たく長い夜が。 「箱の中の猫が生きているのか死んでいるのかそれは夜が明けてのお楽しみ」 誰かが聞くか聞かないかに構わずラプラスは自己満足でそんなことを口に出していた。 闇が空間を包み込んだが、全く何も見えないという訳でもない。うっすらおぼろげに、かすかな月明かりが照らしているように あたりの光景を見ることはできる。だがこれが永遠に私を凍らせる光景になる。 凍てつく死のゲームに訪れた無限の夜だ。 「舞台裏の暗がりと言ったところでしょうか」ラプラスはふりかかってきた闇に対しそう感想を述べた。 それから手にグラスを持ち出し、指に挟んで持つと、闇の中心に一人たたずむ雪華綺晶に向かって差し出す。「死すら叶わぬ愁哀。 ウィスキーはいかが?」確信犯なのかグラスは空だ。雪華綺晶は全く反応を起こさなかった。 「ああ、アラバマの月よ。昔のような良きママを失った」ラプラスは言い降参したように両手を挙げてグラスを落とした。 「そうここはいま舞台裏。メインの劇はいま別のところで起こっているのかもしれません…」
290 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 04:55:24 ID:gX6lhtC4] 134 何も見えない。 だがジュンは、"何も見えない"と分かること自体が恐らく絵画に封じ込められた自分の意識が、まだ働くことを示してくれる ものだと思った。 "真紅!"叫んでみる。当然ながら声はでない。恐らく自分の頭に響いているだけだ。"翠星石!雛苺!いないのか!?" このまま永久に意識だけ生かされたままで時を過ごすのかと、一瞬怖くなる。"みんないないのか!?真紅!!" "そんなに喚き散らさなくても聞こえているわよ…" よく知っている声が聞こえてきた。 "真紅!?" 真紅と意思が通じるとわかったジュンはかつてないほどの喜びを感じた。 "いるんだな!?" "まったく…" その声は呆れ気味に呟く。 "あなたってなんて恩知らずな下僕なの?愚劣にもほどがあるのだわ" "ど、どういうことだよ!" せっかくここまできてやったというのに。 "あなたを七体目から護るために私がどれだけの犠牲を払ったと思っているの?" 真紅の声が答える。 "いいえ…もういいわ。 あなたは来てしまった。七体目の罠の綱に。あなたは逃げ切れなかったのね" "いやそうじゃない" ジュンは否定した。 "僕から進んで七体目にお願いして絵画に入れてもらった" "なんですって!?" 真紅の声がとびきりに上ずった。 "あなた、えっ、何を考えているの!?あなたまさか七…" "お前らを追ってここまできたんだよ!" ジュンはすかさず反論する。 "そのお前に犠牲を払ってでも護ってくれた僕の身の 使い道は…やっぱり真紅達をこの手で救う他あるわけないじゃないか" " …… " むこうはしばし黙す。それから諦めたような声が帰ってきた。 "…仕方ないわ…。でもどうやって私達を救うつもりなの?" "聞いてくれるなよ…" 思わずジュンは答えた。姿形は全くみえなくとも、相手が即効失望したのが手に取るように分かった。 "ねぇジュン、ねぇジュン" ふいに雛苺が聞こえ、ジュンは心を驚かせた。 "私達どうなっちゃったの?ここはどこなの?" "ああ…そうか…お前は最初に茨に沈んだから自分がいまどうなっているのかわからないんだな" 少し迷ったが、ジュンはそのまま言うことにした。 "僕たちはいまみんな絵の中に閉じ込められてしまっているみたいだ。なんとかしないと永遠にこのままだよ" "ほー…それは…" 雛苺の声はジュンの予想に反して楽しげだった。 "ずっとずっとジュン達と一緒ってこと?アリスゲーもなしに?" "バカね!「ずっと」が一番考えてはいけない七体目の罠なのよ!!" 間髪入れず真紅の鋭い叱責が聞こえた。 "そんなこと思っていたら本当にあなた永遠にこのままよ!" "なにか決定的な「動き」が必要なのかもしれない。「ずっと」じゃなくて" そう言い、ジュンは考えた。何か動きが…つっても全く身動きできやしない…どうみたって絶望的な状況だ…
291 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 04:56:33 ID:gX6lhtC4] と突然、ジュンの脳裏にある言葉が蘇ってきた。あの雪華綺晶がPC画面に現れたときの言葉が。 「nのフィールドへの入り口は鏡だけとは限られません。知っていましたか?そこへいけるかどうかは、向こう側に突き抜け られるかどうかだけなのです」… 向こう側に突き抜ける…向こう側に…鏡だけじゃない… まさか?奇妙な考えが浮かんだ。 この絵画の罠のトリックというか、その正体は実は絵に閉じ込められているとか"そういうのじゃないのかもしれない"。大体いくら 実体のないアストラル体なんてものが出てきても、巨大な白い薔薇が人間を吸い上げるなんてことがあったとしても、果たして 本当にそれまで三次元に生きていた人間が突然二次元の絵の中にぴったり入るなんて話しがあるのか。 自分達の姿を映したあの絵画そのものがその実"偽り"の光景で、自分達はまんまとそれに騙され絵画の中に封じ込められたと "思い込んでいるだけ"じゃないのか。本当は絵画の中にいるのではなく、もっと別のところにいたとしたら?雪華綺晶のやりそうな ことじゃないか… "おい……真紅" ジュンは試してみた。 "僕の声はいまどっちから聞こえる?" "え?何?前からも後ろからも右からも左からも…方向なんて分かるわけないでしょ" "よくきいてみろよ!" "何をいっいるのか…えっ?" 信じられないというような真紅の声がこだました。 "まさか右から?" "ボクは左から聞こえる。雛苺は?" "わからないの…ジュンもう一回いってみて" "後ろからきこえたような…雛苺、僕の声は前から聞こえるんじゃないのか?" "ジュン、あなた一体何を考えているの?" "僕たちが触れ合えるほどに近いところにいるんじゃないかってことさ" "無理よ。私達はそれぞれ別々の絵画の中に…" "いや違う。真紅。僕たちは絵の中に閉じ込められてなんかいないと思う。たぶん…それは七体目の作った「嘘」さ" "どういうことよ?" "自分達がもし絵画の中に閉じ込められていると「思い込んで」いるのなら、脱出なんて到底不可能だと思って諦めるだろう? そういうきっと「思い込み詐術」みたいなものだよ。例えるなら…マジックショーなんかで箱に入った人が分断されたりするけど、 あれは「箱の中にひとりの人間がすっぽり収まっている」と思い込んでいるから箱が真っ二つに割れたときに驚く仕掛けなんだ。 実際には人の足や手に似せたよくできた模型の方が離れているだけなのに" "もしそれが本当だとすれば…" 真紅が考えを編み出す。 "恐らくここは絵画の中ではなく、あの茨の中に沈められたその下とでも?" "そんなところじゃないのかな。そう思ったほうが気楽だろう"
292 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 06:03:28 ID:gX6lhtC4] "でも…" 真紅は身動きを試しているようだった。 "動けないわ" "茨まみれになっているんだろ。お前の馬鹿力でどうにかならないのかよ" " … " 一瞬、恐ろしげな沈黙が流れた。 "あのね、ジュン、まさか忘れたとは思わないでしょうけど、私は薔薇の誓いを 解いたのよ。指輪を持たぬか弱き乙女なのよ。力なんてないのよ" "僕も真紅も割と近いところから茨に捉われたと思うから、位置がずれてさえいなければ、もう触りあえるくらい近いと思うんだけど…" "手をのばして…" やはり体は動かない。とはいえ絵画が嘘だと疑い始めてきたあたり、一寸の隙間なくなにかに体が敷き詰められているような 違和感を感じることが出来た。ようはコンクリートの中にでも埋め込まれた感覚に近い。 「感じるか?僕達やっぱり何かに埋め込まれているだけみたいだぞ」 「…そう考えるとしましょうか…」真紅もジュンに持論を譲ったらしい。「ホーリエー…いるの?」彼女が人工精霊を呼ぶ。 反応はない。「全く…こんなときに主人をおいてどこにいるというの」 真紅は毒づいたが、そのしばらくののちに、なにか闇と闇の細かい隙間をかきわけるようにして近づこうとしている赤い仄かな 光が彼女の目に入った。ホーリエが姿を現したのだ。「ホーリエ!私達がいまどこにいるかわかる?」彼女は人工精霊に聞く。 「え?…白い薔薇の根の下ですって…?」 やはりか。あの巨大な薔薇の下の根のところに自分達は入れられているらしい。 「七体目の持つ趣味の素晴らしさがまたしても証明されたな!」ジュンは皮肉っぽく言った。「人と人形を根っこの中に入れて バラの花の養分にしてくれる発想はハリウッドが総力あげても思いつかないよ」 「でもどうすれば…」と、人工精霊のホーリエがその持ち前の光で真紅の視界を照らした。「ありがとう…見えるわ」 明るみにでた自分の身体を見下ろし、真紅は改めて全身を茨に拘束されていることを悟った。同時に絵画はやはり偽りであった ことも分かった。ここはあの茨の罠に沈められたあとの地下だ。 「ジュン…あなたはすごいわ。よくこんなことに気づけたわ」ジュンが言ってこなければ自分はここで一生絵画に閉じ込められたのだ と思い込み、永久にここで白薔薇の養分となり続けていただろう。 「明るささえあればある程度体を動かせるな。茨と茨の間を見極めて掻きわければ。ホーリエのおかげだよ」ジュンはいい、身動きした。 茨と茨の隙間から手を伸ばし、真紅に触れる。「ここまですれば絵画は完全に嘘で決定だ」 触れてきたジュンの手に真紅は自分の指先をあてた。「そうね…でもこれから何をすれば?問題はまだ山済みよ」 「なんとかして力だせないのかよ。力があったころの真紅なら花弁で壁に穴を開けるくらいざらだったろうに」 「今は無理よ」 「契約なしで僕の力を真紅に分け与えることとか、できないのか?」 「想いが繋がっていれば…信じあっていられれば…て、なんて恥ずかしいこと私に言わせるの」 ジュンは顔を赤くした。いままで真紅と過ごしてきたこの一ヶ月ほどのうちで、最も最悪なことを考えてしまったからだ。 だが他に方法があろうか。そうするしかない。ここまで来ておいて何を躊躇する必要がある。絵画の中に入れろと自分から宣言 までしてこんな不様なところにいるんじゃないのか。 もうとっくに僕の"人間としての尊厳なんて失われてしまっているではないか"。
293 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 06:04:39 ID:gX6lhtC4] 生唾を飲み込み、これが人生最期の賭けになると覚悟しつつ、もう一度だけ真紅の言葉を思い出した。 "想いが繋がっていれば"。それを証明できる行為がただ一つだけある。 そして決断した。 信じがたい選択を… 茨の中より身を乗り出し、ジュンは真紅の唇に自分の唇を重ねた。チクチクと刺さる茨のトゲをものともせずに顔を近づけて。 白薔薇の茨のトゲに取り巻かれ、二人は痛みをも乗り越えてキスをする。 「なっ…なん/・t;p]っ…」沸騰するように真紅の顔が赤くなった。 「なん…なに??」 「こ…これで力が出るだろ」ジュンは口を離したあと、ぎこちなく言った。 彼女の青色の瞳があちこちに走る。全身を震わせ、羞恥心を溜め込んでいる。「やだ…やだ…あなた…」 そして、何かが彼女の中で噴火した。「なんてことをするの!!!!!!?」 我を忘れた真紅が叫ぶ。 「ふご!」 正気を失った真紅によってジュンは強大なアッパーを顎に食らわせられた。首が仰け反り上がる。 身体が勢いよく茨の中より打ち上げられていく。次から次へとしがらみを突き破り、衝撃によって上へと昇り詰めていった。
294 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 06:05:48 ID:gX6lhtC4] 135 雪華綺晶と巨大な白い薔薇。白薔薇は二つあり、正しく上向きに咲いているもの。そしてもう一つ向き合うように逆さになって 下向きに咲いているもの。 そのうち上向きに正しく咲いているほうの白薔薇の中から、突然吐き出されたようにジュンと真紅や翠星石、雛苺が白い茨によって 一つに繋がれたまま躍り出てきた。 四人は茨で絡めあったまま宙を飛び、やがて重力にまけては落下する。 ふわっと、真紅達を吐き出した白薔薇が花弁をゆれ動かし、それと同時にあたりを覆っていた闇が突然やんだ。 世界が再び昼の明かりを取り戻す。 歯車が一つ動く。それが次の歯車へと影響を及ぼし、連動してそれが動力となり軸を動かし出す。ゲームの盤に活力が戻る。 運命の糸車が再び糸を巻き始めた…雪華綺晶は自分でも限界と感じるほどに金色の目を見開いた。夜が終わりを告げた? 茨の根の下よりなんとか脱出を果たし、茨と棘まみれでボロボロのジュンは傷ついて床に転びつつ、雪華綺晶を見つけると いきなり声を出した。 「おいっ七体目、おまえ!よくもさっき"ドールならまだしも人間が絵画に入ったらどうなるか"なんて大嘘ついてくれたな! 絵画なんて最初から嘘っぱちじゃないか!あのなぁ…!もう少し他人ってものを信用してくれても」 雪華綺晶はよく分からなそうにかぶりを振った。しゃがんだまま半立ちの状態だ。「私は本当に − 」白の髪が揺れる。 「ブラボォ!」 彼女の言葉を横切り、ラプラスの魔が突然手を叩くと大声を出した。「エッシャーの技巧はなされました。種明かしの時間です」 ジュン達を映すあの四つの絵画が、まるでラプラスの意思に従うかのように独りでに動かし出し、彼の両隣に並んだ。 「はてさて夢は現。現は夢…」 「ラプラス、まさかこれはお前の…」猛烈に認めたくない予感を覚えつつジュンは唸った。踵を返して雪華綺晶を一瞬見やる。 彼女は自分の右手を見つめながら平を返したり表にしたりしている。「…絵画は七体目のものじゃなかったのか?」 「さあ、それはえほんの主人公となったあなた方がよくご存知のはずでは?」ラプラスはステッキを取り出し、それを使って まずは右隣、つぎに左隣の絵画をトンと叩くとたちまち空気に溶けていくようにして消えた。「しばしの休憩の末に思いついた、 これは兎の次なる悪戯だったのかも、しれません」 戦慄の寒気がジュンの背筋を貫いた。二週間ほどまえ、実体をまだ持っていた薔薇水晶が自壊したときの、ラプラスの"次のおもちゃ が見つかるまで、しばし休憩を"という言葉を思い出したからだ。 ラプラスは薔薇水晶に引き続き、雪華綺晶まで欺いたのか?この雪華綺晶までおもちゃにして? にわかには信じがたい話だ。「どうしてそんなことを…」 「然れども私はアリスゲームの案内役。アリスゲームが永久に止まることなど、あってはならないことなのです」 「お前はまさか…僕にヒントを与えていたのか?」ジュンは放心状態になりかけた。 ただひとつ余ったように残され何も映していないあの絵画を見つけなければ、ジュンは真紅達を追ってあそこまで行こうとは 思いつかなかっただろう。いやそれでけではない…この絵画の偽りをラプラスが雪華綺晶に予め"買い与えておく"ことによって… 姉妹を殺して美しくなるという七体目独特の狂気と衝動の抑制にも役立っていた。 真紅がジュンとの契約を解除したとき、もし"絵画に閉じ込めたという偽り"がなければ、雪華綺晶は予想外のことが起きたことへの 意思違反とその美的衝動によって真紅にこの上なく残酷な死を与えていただろう。真紅だけでなく自分に触れる者見れる者全てに 究極の死を…翠星石を茨に絡めて全身をバラバラにしたかもしれないし、雛苺に至っては直接喰らっていたかもしれない。 姉妹全員を殺した雪華綺晶は全てのローザミステティカを集めることは可能だが、アストラルの七体目はそれでアリスになることが できない。ドールの契約者を全て集めていない段階の七体目が姉妹全員を殺してしまったときこそが、本当にアリスゲームが 完全停止するときだ。 姉妹を絵に封じ込めたという偽りによる歯止めがあったからこそ雪華綺晶はそれを諦め抑えることが出来たのだった。 結果としてアリスゲームは動力が死ぬそのぎりぎりの境界線の上を保ち続け、ジュンによってそれが再び最前線へと戻され、 ゲームは復活したのだ。 ラプラスはそこまでアリスゲームのことを、そしてドールの内情を知り尽くして考えていたのか。 伊達にアリスゲームの案内役を名乗ってはいない。
295 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 06:07:30 ID:gX6lhtC4] 136 真紅は大きな白い薔薇の花弁の上に立ち、雪華綺晶を見下ろした。腕の先を彼女へ向けて伸ばして言う。 「ジュンを私の契約者として奪えなくなったあなたはもう永久にアリスになれはしない。観念して、閉じ込めた他のマスター達 も開放しなさい」 ゆっくりと雪華綺晶は立ち上がりゆっくりと顔を振り向いた。「あなたこそ薔薇の指輪を放棄したのなら、永久にアリスになれない」 「あなたはやはり人の話しを聞かない子のようね。私の願いはさっきも言った通り、私の方法でアリスゲームを終わらせること」 「それはもう水泡に返しました」 「どうかしら?」真紅は天井の水晶に閉じ込められたマスター達を見上げた。「もしかしたら白薔薇、私はこれから、あなたに とても感謝することになるのかもしれないわ」不穏に笑顔を作ってみせる。 「あなたはなぜ…」 きょう雪華綺晶はあらゆることに欺かれ裏切られすぎ、挙動と言動には更なる混沌が目立ちはじめている。「薔薇の誓いを解き もはや薔薇乙女でなくなったのに、未だ力を出せるのです」 白薔薇の上に立ち乗ったまま、真紅はそれに答えた。「いまからそれを見せてあげるのだわ」目を閉じ、胸に両手を抱えるように置く。 「私はいま私の持っている五つのローザミスティカを、それぞれ本来のあるべきところへ返す」言い、体が暖かな光に包まれ始めると、 真紅自身のを除く、計五つのローザミスティカが胸より宙へ浮き出てきた。それらは空中で輪を作っている。 「さあ、帰りなさい。あなた達の本当の居場所へ」真紅はローザミスティカへ向けてそう囁きかけた。 ローザミスティカたちは応えるように、それぞれどこかバラバラな方向へ独りでに飛んでゆく。 雪華綺晶の目にはそれが真紅のただの意味もない虚しい徒為のようにしか映っていないようだった。「それらの多くはもう持ち主 を失っているのに」 「いいえみんな持っているわ。帰るところを」ふっと確信満ちたように微笑みかけ真紅は続ける。「ローザミスティカは彼女たちの マスターの心へと帰っていくのよ。心を通じ合わせた、マスターのところにね」 宙を飛び回るローザミスティカのうち一つが美しい光を放ちながら天井へと上り詰めていくと、吊るされた水晶の中へと溶け込み、 内に閉じ込められていた草笛みつの胸元へと収まった。 また別のローザミスティカも、同じように天井の水晶の中に溶け込んでゆき、眠り続けたままの芝崎元治の胸元にそれが収まる。 「蒼星石のローザミスティカは蒼星石のマスターの元へ、金糸雀のローザミスティカは金糸雀のマスターの元へ」 真紅は言う。「ローザミスティカは薔薇乙女の魂であり心。その心がマスター達をあなたの偽りの夢の檻から助け出すのよ」 "みっちゃん。目を覚ましてなのかしら。いまみっちゃんが抱えているのは私ではないのかしら。七体目に騙されないで" 「え…カナ?」水晶の中で草笛蜜が目をさます。彼女を閉じ込めていた水晶にひびが入る。 "マスター。起きてください。起きてください。あなたはいま、薔薇乙女の姉妹のうち一人の創り出した偽りの夢に騙されています。 あなたの心を奪い取ろうとしているのです。目を開けてください" 「そ、蒼星石?」柴崎元治が目をあけ、閉じ込めていた水晶にひびが入る。 また別のローザミスティカも一つ天井へと上り詰め、柿崎めぐが眠る水晶の中へ溶け込むとその胸元に収まった。 "めぐ。目を開けなさい。あなたはまだ死んでなんかいないわ。目覚めなさい。ホントの正真正銘のお空とやらを望むのならね" 「え?て…天使さん?」めぐが目覚め、やはり閉じ込めている水晶がひび割れる。 真紅のもとを離れた翠星石のローザミスティカは、本来の持ち主である第三ドールの横たわった身体の中へと溶け込んでいった。 彼女の身体が光に包まれる。ローザミスティカが戻った翠星石は再び目を開ける。「…私は…」 最後残された雪華綺晶のローザミスティカが宙をふわふわ浮遊し、遠慮がちに雪華綺晶自身の前へと戻ってきた。雪華綺晶は それを手に握りしめた。だが身体に入れようとはしない。もはやそれは必要ないものだ…
296 名前:Rozen Maiden Latzt Regieren Z:The Civilization mailto:sage [2007/12/02(日) 06:08:51 ID:gX6lhtC4] 137 マスター達三人を閉じ込めていた水晶は全てついに砕け、開放されたみつ達がそれぞれゆっくりと浮遊するように地面に降り立ってきた。 三人ともそれぞれ契約していたドールのローザミスティカを胸に抱えている。 「カナの声が聞こえたわ…」みつは呆然と呟き、あたりを見回した。まだ頭が回っていないらしい。「ここはどこ…?」 ジュン、真紅、翠星石…みんないる。そして、いつしか金糸雀を探していたときに出会ったあの白いドールが目に入った。 あの白いドールが金糸雀の居場所を知っているといって…案内してもらって…それから… 「カナは…」みつは仇敵によって隅に追い詰められたときのような危機感を覚えていた。「カナはどこ…?」 だが白い人形は黙ったままで何も言わない。 つぎに口を開いたのは柿崎めぐだった。 「私…」胸元に収まるローザミスティカを抱え不思議そうに見つめている。「眠り姫になった夢をみてた…」 翠星石もまた、何が起こったのかを思い出そうとしていた。記憶のなかで一番最後に残っていること。真紅がマスター達を救う方法が ただ一つあるといい、それをするように勧めたら…そこで真紅の手が自分へ伸びてくると同時に意識が闇に落ちたのだった。 彼女は一瞬真紅に対して恐怖心を覚えたが、まわりに柴崎を初めとする草笛みつやその他人間がいることを見てみると、本当に 真紅はマスター達を第七ドールから救ってのけたらしいことを認知した。改めて翠星石は真紅という第五ドールには敬服してしまった。 「翠星石、ごめんなさい。他に方法はなかったの…」 すぐに真紅が駆け寄ってくる。 「い、いえ…、真紅、…真紅はやっぱすげーやつですよ」やっとの思いで翠星石は答えた。「マスター達を救ったのですね。 白薔薇は?」 「私にもいえることかもしれないけれど、彼女は気の毒に、永久にアリスへの道を絶たれた」 遠く壁際の雪華綺晶を見つめながらこれまでの経緯をごく簡潔に話した。「私は指輪を放棄し誓いを解いたわ…ジュンはもう私の マスターではなくなった」 「そ…そうしてジュンやマスター達を護ったのですか…」彼女はどうにか真紅の行動を理解することが出来たが、何より驚いた のはそれを実際に行動に移す真紅の勇気と度胸だった。マスターを護るためにそこまで出来るものなのか。 一方、せっかくここまで集め閉じ込めたマスター達を解き放たれてしまった雪華綺晶はそうした真紅に敵意を剥き出しにした。 丸い瞳を細めて睨む。 その刹那、床の茨の罠が再び力を取り戻したように活発になり、真紅の身体を何重にも縛り付けた。「う…!」 「真紅!」 「ふふ…ふふふ…」 雪華綺晶は壊れたようにしかし静かに笑いながら茨の床の上を一歩一歩進み、真紅ににじり寄りだす。「ふふふふ…お姉さま… 紅薔薇の…美しいお姉さま…私のたった一人のお姉さま…」 まずい…! 絵画の偽りが消えたいま、雪華綺晶の殺しの本能欲と衝動に歯止めをかけるものがない。 一瞬どうするべきなのか分からなくなり、ジュンはもう一度助けを求めるかのように顔の向きを変えてラプラスに視線を送った。 だがラプラスはただ凛とそこに起立しているだけで今度は何もしようとしない。まるでこの先どうなるかを既に知っているかの ようだ。彼はもうあてにできない。