- 717 名前:ヒゲの人(いずみの場合)1 mailto:sage [2010/07/26(月) 16:03:33 ID:UBV2ruGd]
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「お茶ですよ〜」 盆に冷えた麦茶と茶菓子を用意して仕事部屋に入ったのはいずみ。 途端、扇風機の風よりもずっと爽やかな風が吹き抜けたように思えて、 倉田はふとペンを止めたが、それを悟られぬよう咳払いひとつしてまた原稿に向かう。 「あ…れ? そっか…菅ちゃんは藍子と散歩か……」 先ほど玄関を出て行ったことを忘れるほど、東京の夏は暑い。 「でも……小峯さんも、いない」 編集者から逃げて出て行った兄の茂同様、小峯の席も空いていた。 この、第一印象最悪の関西人だけが、事情を知るのだろうが…… いずみ物問いたげに立ち尽くす。口を聞けばまた怒鳴られるかもしれない。 「……お茶、ここに置いときますね」 別のテーブルにお茶とお菓子をひとつひとつ並べると、くすりと笑い声が聞こえた。 「俺一人でそんなにもいらんわ」 「え…? あ、それも…そっか」 「あんたもおやつにしたらええ。一人で食ってもつまらんさかいな」 実家でも看板描きの仕事場でも大所帯でいたせいか、 意外と寂しがりなのかな? と、いずみは笑ってイスに掛けた。
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