- 580 名前:まんじゅうこわい1 mailto:sage [2010/07/09(金) 00:31:49 ID:LsbAiknk]
- 「村井さん、お届け物です」
よく晴れた日の朝、布美枝が洗濯物を干していると、 安来の実家から荷物が届いた。 実家で採れた蜂蜜、 姉のユキエの嫁ぎ先からの野菜、 そして母ミヤコからの達筆な手紙など、 布美枝にとってはどれも心に染みるありがたい贈り物ばかり。 その中に…。 「あーっ!にしきやのお饅頭!」 「饅頭?」 仕事をしていたはずの茂が、「饅頭」の言葉に反応して、いそいそと寄って来る。 「安来では老舗の和菓子屋さんなんですよ」 「そげか」 そんなことはどうでもいいとでも言いたそうに、茂は饅頭の包みに手をかけた。 そんな茂を見ながら、布美枝は呆れたようなため息をついて、 お茶を淹れようと立ち上がった。 懐かしいな、「にしきや」か…。 ふふっと、昔を思い出して笑った。 それに気づいた茂が 「ん?」 びりびり、子どものように包みを乱暴に破きながら布美枝を見上げた。 湯呑みを差出しながら 「あたし、今頃この和菓子屋さんの女将さんだったかも知れんのですよ」 にこにこしながら言った。 「え?」 「あなたとお見合いするずーっと前、このにしきやの若旦那さんとの お見合いの話があったんです」 「…」 ぴたり、茂の手が止まる。 「初めての縁談の話だったけん、すごくドキドキして。 洋裁学校の帰りに友達と相手の顔、見に行ったりして。ふふふ…」 茂の周りに怪しげな雲がかかってきたのに、布美枝は気づかずに話し続けた。 「客商売の家の方だけん、すごくにこやかで、親切で、優しそうな方だったな」 「布美ちゃん」そう呼ばれてにっこり振り返る自分の姿。 想像してワクワクしていたっけな。
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