- 307 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 [2011/01/09(日) 03:40:57 ]
- 五年前のある日、ある病院から火災発生の通報を受けた。
湿度が低い日だったせいか現場に着いてみると既に燃え広がっていた。 救助のため中に入ると一階はまだ何とか形を保っていたので そこを同僚に任せて先輩と二人で階段を上った。 二階は見渡す限り火の海になっており、煙が廊下を覆っていた。 先輩は西病棟を、俺は東病棟の病室を回り要救助者を探した。 出火場所は二階のようでフラッシュオーバーの可能性も考えられたので 時間との戦いだった。 東病棟を回っていくと一番奥の病室にだけ女性が一人いた。 声をかけたが気を失っていて反応がなく危険な状態だったため、 急いで抱きかかえて救助した。 数日後、俺は不意にあの女性がどうしているのかが気になり、 病院に連絡をとってお見舞いに行くことにした。 看護師に連れられて病室へ行くと彼女はベッドの上で会釈した。 改めて会ってみるととても可愛らしい人だった。 「お体は大丈夫ですか?」と聞いたが彼女は首を傾げるだけだった。 看護師が少し困ったような顔をしながら紙に何かを書いて渡すと 彼女は笑顔になって、「ありがとうございました。大丈夫です!」 と書いて俺に見せた。 彼女はろうあ者だった。 しばらく二人きりで筆談し、趣味のことや小さいころのことなど 色々なことを話した。 耳が聞こえないということを感じさせないくらい前向きな人で 本当に楽しいひと時を過ごすことができた。 彼女は「もしよかったらまた来てくださいますか?」 と少し心配そうに聞いてきたので「では、またお邪魔します。」 と答えて病室を後にした。 彼女と話すために手話を勉強し始めたり、好物のお菓子を持っていったり… そんな関係が続いて二ヶ月ほど経った非番の日。 俺はやっとどうしようもなく彼女に惹かれていることに気づいた。 彼女のことを考えない時がない。 俺はこの気持ちを告白することを決意した。
|
|