- 98 名前:名無シネマ@上映中 mailto:sage [2010/12/10(金) 18:47:47 ID:wpJkElu+]
- 毎日新聞評
村上春樹の小説の映画化。ワタナベと2人の女性を軸にしたラブストーリーであり、青春映画である。 といっても、葛藤や野心、溺れるほどの恋愛という類型的な若者らしさはほとんどない。ワタナベが周囲との間に置いている 距離感のようなものが、そのまま観客と映画とのすき間になって物語は進んでいく。 気持ちの不安定さが深まっていく直子にしても同様で、どこか遠くの人物にしか見えてこない。 緑だけは、良くも悪くも女性の大胆さとずるさ、弱さを所々に見せる点で親近感を覚える。それ以外は、 感情移入はおろか、共感さえできないのである。恋愛映画では感情を委ねる人物や場面が印象を深くするだけに、 それがないのは正直、苦痛でもあった。 トラン・アン・ユン監督はこれまで、生のなまなましさや官能美を静謐(せいひつ)な画面で描いてきたが、 本作では完璧なまでにそれを封印している。撮影のリー・ピンビンによる美しい映像も効果的とは言い難い。 ワタナベや直子の心象風景とは異なるように思えてならない。 だが、この異様な恋愛映画に最後まで引きつけられたことは確かだ。違和感や不安定さ、とらえどころのなさこそが この作品の世界観なのだろうか。だとしたら、まんまと罠(わな)にはまってしまったことになるのだが。2時間13分。 TOHOシネマズスカラ座ほかで11日から。(鈴) ◆もう一言 トラン監督とリーのカメラが生み出す、湿度を感じるアジアの官能性が小説の世界観を豊かなものにしている。 愛する者を失った主人公を光あふれる場所へと導く、水原のみずみずしく鮮烈な存在感が胸に残った。 (毎日新聞)
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