- 43 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 mailto:sage [2010/06/13(日) 12:29:26 ID:XffHh0XL0]
- 【十年後の囲炉裏ともふえ】
ジリリリリリ けたたましい目覚まし時計の音が部屋中に響く。 ―もう、朝か。 その男は開ききらない目をこすりながら無理やり体を起こした。 目覚まし時計が鳴ってもまだ隣で眠っている女は彼の妻である。 昔はまるで声優のような声の持ち主で、それでずいぶん癒されたことを彼は昨日のように思い出す。 ―それがいまじゃ。 目覚まし時計を止め、ふとパソコンのほうに目をやると、スナック菓子の袋がキーボードのうえに置かれていた。 また、徹夜で動画サイトを見ていたらしい。袋はきっと空だろう。 毎晩のことだ、彼はもはや驚きもせずにただ空になった袋をゴミ箱に入れた。 昔は細かった彼女の体も今やまるで毒舌なコメンテーターのような体型になり、その姿は見るに耐えなかった。 彼は朝から不愉快なきもちになりながらも、自分で焼いたトーストを無理やり牛乳で流し込み、着替を済ませ家をでた。 まだ寝ている妻が送りに出てくることは当然なかった。 ―なんのために俺は働いているのだろうか。 そう考えたのは一体何度目だろうか。 交際中は彼女こそが世界で最も可愛らしいと信じて疑わなかった彼も結婚後、しばらくしてから妻への気持ちが変わった。 毎晩のようにスナック菓子片手に動画サイトを見続ける妻の姿に交際当時の面影は無かった。 いや、自分のなかで勝手に美化されていたのかも知れない。 俺には妻がいる。それこそが幸せ。そして俺はそのために働いているのだ。 そう言い聞かせることが彼の日課になっていた。 通勤中、ふと彼は考える。 ―女は惚れさせてなんぼ 彼はあてのない不安を胸に、ただ青空を眺めた。 その青空だけはあの日と全く変わっていなかった。
|

|