- 147 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 [2008/05/06(火) 16:36:20 ID:c5KPck+V0]
- 著者・金城一紀 『GO』より
彼女、桜井と一線を超える前に、自分が在日であるということを告白するが、 「在日」ということを拒絶される。 以下抜粋 「お父さんに…、子供の頃からずっとお父さんに、韓国とか中国の男とつきあっちゃダメ だ、って言われてたの・・・・・・」 僕はその言葉をどうにか体の中に取り込んだあと、訊いた。 「そのことに、なんか理由があるのかな?」 桜井が黙ってしまったので、僕は続けた。 「むかし、お父さんが韓国とか中国の人にひどい目に遭ったとか、そういうこと?でも、 もしそうだとしても、ひどいことをしたのは、僕じゃないよ。ドイツ人のすべてがユダヤ人 を殺したわけではなかったようにね」 「そういうことじゃないの」と桜井はか細い声で、言った。 「それじゃ?」 「お父さんは、韓国とか中国の人は血がきたないんだ、って言ってた」 ショックはなかった。それはただ単に無知と無教養と偏見と差別によって吐かれた言葉だ ったからだ。そのでたらめな言葉を否定することはひどくたやすかった。僕は言った。 「君は――、桜井は、どういう風に、この人は日本人、この人は韓国人、この人は中国人、 て区別するの?」 「どういう風にって……、」 「国籍? さっきも言ったように、国籍なんてすぐに変えられるよ」 「生まれた場所とか、喋ってる言葉とか・・・・・・」 「それじゃ、両親の仕事の関係で外国で生まれ育って、外国の国籍を持つ帰国子女は?彼 らは日本人じゃないの?」 「両親が日本人だったら、日本人だと思うけど」 「要するに、何人ていうのはルーツの問題なんだね。それじゃ訊くけど、ルーツはどこまで 遡って考えるの? もしかして君のひいおじいちゃんに中国人の血が入っていたとしたら、 君は日本人じゃなくなる?」 「………」 「それでもやっぱり、日本人? 日本で生まれ育って、日本語を喋るから? それじゃ、僕 も日本人ていうことになるね」 「……私のひいおじいちゃんに中国人の血が入ってるなんて、ありえないもの」と桜井 は少し不服そうに言った。 「君は間違ってるよ」と僕は少し強い口調で言った。「君の『桜井』っていう苗字はね、 元々は中国から日本に渡来した人につけられた名前なんだ。そのことは、平安時代に編まれ た『新撰姓氏録』っていうのにちゃんと載ってるよ」 「……むかしの人には苗字なんてなくて、あとから適当につけたって話を聞いたことがある けど。だから、わたしの先祖が中国の人だなんて分からないじゃない。」 「その通り。君の先祖が桜井家に養子に入った可能性もあるしね。それじゃ、もっと遡ろ う。君の家族はお酒が飲めなかったよね?」 桜井はかすかに頷いた。僕は続けた。 「いまの日本人の直接の先祖と思われてる縄文人にはね、お酒が飲めない人は一人もいなか ったんだ。これはDNAの調査で明らかになっている。というか、むかしのモンゴロイドたち は全員お酒が飲めたんだ。ところが、約二万五千年前の中国の北部で突然変異の遺伝子を持 った人間が生まれた。その人は生まれつきお酒が飲めない体質の持ち主だった。そして、い つ頃かは分からないけど、その人の子孫が弥生人として日本に渡来して、お酒が飲めない遺 伝子を広めたんだ。君はその遺伝子を受け継いでいる。その中国で生まれた遺伝子が交じって る君の血は汚いの?」
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