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もしカミーユ、Zキャラが種・種死世界に来たら12



1 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/08(木) 02:21:16 ID:???]
新シャアでZガンダムについて語るならここでよろしく
現在SS連載中!

・投下が来たら支援は読感・編集の邪魔になるからやめよう
・気に食わないレスに噛み付かない、噛み付く前に天体観測を
・他のスレに迷惑をかけないようにしよう

前スレ
もしカミーユ、Zキャラが種・種死世界に来たら11
mamono.2ch.net/test/read.cgi/shar/1205021251/

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arte.wikiwiki.jp/
旧まとめサイト(現在も閲覧は可能、移転完了後閉鎖予定)
wiki.livedoor.jp/arte5/d/FrontPage

荒し、粘着すると無駄死にするだけだって、何でわからないんだ!!
分かるはずだ、こういう奴は透明あぼーんしなきゃいけないって、みんなには分かるはずだ!
職人さんは力なんだ、このスレを支える力なんだ、
それをこうも簡単に荒らしで失っていくのは、それは、それは酷いことなんだよ!
荒らしはいつも傍観者でスレを弄ぶだけの人ではないですか
その傲慢はスレの住人を家畜にすることだ
それは一番、人間が人間にやっちゃあいけないことなんだ!

毎週土曜日はage進行でお願いします

2 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/08(木) 03:01:20 ID:???]
        Λ熊Λ
        (´∀` )-、
       ,(mソ)ヽ   i
       / / ヽ ヽ l 
 ̄ ̄ ̄ (_,ノ ̄ ヽ、_ノ ̄ ̄ ̄

3 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/08(木) 03:09:34 ID:???]
>>1乙ではなあッ!!

4 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/08(木) 07:49:00 ID:???]
俺の>>1乙を皆に貸すぞ!

5 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/08(木) 15:31:03 ID:???]
>1乙


6 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/08(木) 22:41:10 ID:???]
>>1
乙ってみるさ!

7 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/09(金) 02:23:51 ID:???]
おーい>>1乙して下さいよ。ねぇ

8 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/09(金) 09:43:43 ID:???]
乙ったな、>>1

9 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/10(土) 00:44:48 ID:???]
>>1さんかい!早い!早いよ!!
でもこうゆう時荒らしたほうが負けなのよね

10 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/11(日) 19:28:05 ID:??? BE:345204162-2BP(0)]
 



11 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/12(月) 20:10:05 ID:???]
1乙だけでは限界か、保守する

12 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/13(火) 18:01:23 ID:???]
>>11
保守などさせるかッ!

13 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/13(火) 23:17:18 ID:???]
のこのこ出て来るから!保守!

14 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/14(水) 18:27:04 ID:???]
ロザミィ、可哀想だが……>>1乙させる!!

15 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 22:51:23 ID:???]
  『戦いの前』


 エターナルとアークエンジェルの護衛としてプラントへ向かうボルテークに入った通信は、突然だった。プラント本国、国防委員会から送られてきた緊急の司令は、ボルテークの地球への帰還を意味していた。

「ジブラルタルへ連合軍の大部隊が集結中だと?」

 ボルテークのブリッジで、ファクシミリから飛び出してきた紙を引き千切って取り上げると、イザークは眉を顰めてその内容に歯噛みした。

「イザーク!」

 ブリッジの入り口から、ディアッカが制服の前を開けたままのラフな格好で慌てたように入ってくる。現在は世界標準時にして深夜の時間帯。殆どの人員は休息に入っており、交代要員として数人が見張りについている状況だ。
イザークは偶々起きていたものの、ディアッカは少し眠たい眼を擦りつつも起こされてブリッジに駆けつけた。イザークが振り向くと、紙を差し出してディアッカに目線で合図を送った。

「ジブラルタルに師団規模って――マジかよ?」

 受け取り、驚愕に表情を歪める。報告の内容は正確ではなかったにしろ、諜報部の見解ではそれに相当する数を確認しているという。司令内容とイザークの顔色を見比べ、ディアッカは多少の狼狽を見せた。

「余程戦力が余っていると見える。まるで獲物に群がるピラニアだな」
「暢気に言うけどよ――」
「ザフトの地上軍を一箇所にまとめ、それを殲滅する事でザフト自体を弱体化させようとしているんだ。もし、地上に居るアスランが負けることになれば、その後は一気呵成に勝負を仕掛けてくるぞ、連合は――ナチュラルの考えそうな事だ」

 戦争が始まって、ブルー・コスモスはロゴスの事もあって基本的には傍観の立場だった。しかし、デュランダルの世界放送が終わって、それから急にその動きが目立つようになってきた。
それは、連合内の獅子心中の芽を刈り取る作業であり、戦争の早期決着の意欲の表れでもある。目的がコーディネイターの殲滅だけあり、やり方は容赦ない。
このままジブラルタル基地に集結して宇宙への脱出を図っているザフトが壊滅すれば、それは即ちザフトそのものの弱体化に繋がり、連合地上軍が現在は拮抗中の宇宙に上がってくるような事態になれば、現行の戦力だけではプラントを守りきることは出来なくなってしまうだろう。

「どうする、イザーク。行くのか?」
「国防委員会からの命令書は、ボルテークに衛星軌道上からの援護を言ってきている。とすると、疲弊の激しい足付きもエターナルも、向かわせられんな」
「プラントの守備はどうなる?」
「緊急としてメサイアが本国の守りに移動を開始した。如何に連合宇宙軍でも、あれの突破は容易ではない」
「だけどよ――」

 そう考えて、いいものだろうか。ディアッカには、懸念がある。それは、2年前のヤキン戦役に於いて、連合軍が宇宙要塞ボアズを突破したときの事だ。あまりにも呆気なく、簡単に最終防衛ラインであるヤキン・ドゥーエにまで迫られたのは、理由がある。

「決着を焦ってなりふり構わなくなったナチュラルは、核を使うぜ。メサイアを盾にしたって、あれを使われちゃあ一溜まりもねえ」
「分かっている」

 ディアッカの懸念も、当事者であったイザークには分かっている。当然、恥も外聞もなく連合軍が核を持ち出してくる可能性は、頭の中にあった。

「一応、対策は整っている。後は、連合がどれだけの量を用意してくるのかだけが問題だ。ジブラルタルから上がってくる部隊が合流するまでが、勝負になるな」
「全く、本国の防衛だ何だっていい具合に暇してたってのによ、何だか急に忙しくなってきやがったぜ」

 ゲスト・シートに腰掛けるイザークの傍ら、ディアッカは指令書を眺めたまま軽い溜息をついた。



16 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 22:52:45 ID:???]
 世界標準時にして深夜の時間帯。ユウナは寝付けなくて、アークエンジェルの艦内を徘徊していた。ウナトの死を知り、何もかもが無気力になってしまった彼は、こうして夢遊病のようにどこかに父の影を探して意味もなくさまようようになってしまった。
普段は冷静な彼も、ショックのあまり頭の中が空っぽになってしまったのだ。所作もどこか落ち着きなく、しかし周囲はそっとしておくしかないと見守る事にしていた。
 特に行き先も決めず、視界には艦内風景が映っているものの、頭の中はウナトの思い出で一杯だった。そんな時、偶然ブリッジの前にやって来たユウナは、ドアの隙間から見張り要員ミリアリアの交信のやり取りを聞いてしまった。

「――では、ボルテークはジブラルタルのザフト地上軍援護のために、地球の低軌道まで戻るんですね?」

 ボルテークが引き返す――連合軍の侵攻が、ジブラルタル基地にまで迫っているのだろうか。それを援護する為に、ボルテークは地球に戻るのだろう。ドアの隙間から聞き耳を立て、ユウナは考える。

「……はい、アークエンジェルとエターナルはプラントへそのまま向かいます。では――」
「待ちなよ」

 ハッとしてミリアリアが振り返った先には、ユウナが立っていた。据わった瞳に、猫背で不気味な雰囲気を醸し出している。時間帯が時間帯なだけあり、ちょっとしたホラーのような光景にミリアリアは一瞬身を竦ませた。
 ユウナは、そのままフラフラとミリアリアの近くまでゆっくりと流れてくると、固まっているミリアリアから無言でインカムを取り上げ、マイクを口元に寄越した。

「…ザフトは、地球に戻るのか?」
『ん? 誰だあんたは。さっきまでの女の子はどうした?』
「いいから僕の質問に応えなよ」

 飄々としたイメージからは想像だにできない妙な迫力を出すユウナに、席の前から押し退けられたミリアリアは何も言えずに困惑するしかなかった。何となく、女としての勘が働き、邪魔をすれば何をされるか分からなかったからだ。

『何だってんだ? ボルテークは、ジブラルタル基地に集結中の地上軍援護のために、地球へ戻る。エターナルとアークエンジェルはそのままプラントへ向かい、無事にVIPを送り届ける事、以上だ』
「デュランダルが、そう言っているんだね?」

 ゆらり、ゆらり――ユウナの背中が、微かに揺れている。少し病的なその仕草に、ミリアリアは固唾を呑んで見ていた。何かが、狂い始めているような気がする。

『はぁ? あんた、さっきから何を言っているんだ? あんたは一体誰なん――』

 ユウナはインカムを外して放り投げると、別の席に腰掛けた。そこは、アークエンジェルの火器管制を司る席である。ミリアリアは数瞬、何がどうなるのか理解しかねて呆然としてしまっていたが、直ぐに事の重大さに気付いた。

「ちょ、ちょっと何をしているんですか!? そこは、ユウナさんのような人が座るところじゃ――」
「うるさい! 乱暴されたくなかったら大人しくしていろ!」

 慌てて制止しようとするミリアリアを雑に手で突き飛ばし、パネルで操作を始めた。

「僕だってなぁ、ちょっとぐらいなら分かっているんだよ……ミサイルの一つ撃つ事ぐらい、僕だって――」
「む、無駄ですよ。セーフティが掛かっていますから」

 勇気を出して声を振り絞るミリアリア。その震える声を聞き、首をもたげるように顔を振り向けるユウナ。おどろおどろしい動きにミリアリアの体が固まっていく。

「なら、解除しろ」
「そんな事できるわけ――」

 言いよどんだミリアリアに向かって、ユウナが流れてくる。しかし、無重力での体の使い方が今一な彼は、床を若干強く蹴りすぎたようで、バランスは目茶目茶だった。ただ、その不安定さが今は余計に怖い。
 ユウナが何とかミリアリアの前に足をつけると、蔑むような目で見下ろしてきた。逆光となり、陰で暗くなったユウナの表情にミリアリアの足が震える。戦争でも物怖じしない彼女だが、今のユウナには悪漢としての恐怖を感じた。
逆らえば何をされるか分からない。

17 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 22:54:05 ID:???]
「君だってブリッジ・クルーなんだ。セーフティの解除方法くらい、一応知っているんだろ……?」
「で、でも――」
「それとも、君を滅茶苦茶にしてやろうか……?」
「きゃあッ!?」

 そう言うと、ユウナはミリアリアの襟を掴み、力いっぱいに引き千切った。露になるミリアリアの白い肩に、不埒な笑みを浮かべる。狂気染みた眼は、本気でミリアリアを犯そうとしていた。
 どうすれば――ミリアリアは恐怖で頭の中が白くなり、恐怖から逃れようとする思考しか働かない。本能が自己防衛を叫んでいる。どうせ、素人のユウナにまともに砲撃などできるわけがないのだ。それならば、いっその事――

「わ、分かりました……」

 なみだ目になりながらも、ミリアリアは何とか気持ちを奮い立たせ、火器管制を行っている席の前までやって来た。そして、セーフティが解除されると徐にユウナはミリアリアを突き飛ばし、満面の笑みで座席に座る。

「ハハハ…許すもんか。オーブを――パパを見殺しにしたくせに、自分達の同胞だけは助けようなんて、そんな虫のいい話……許せるわけないだろぉッ!」

 遂に、ユウナの指がスレッジ・ハマーの発射スイッチを押してしまった。発射管の蓋が開き、一発のミサイルがボルテークに向かって飛び出していった。しかし、照準も碌に合わせずに打ち出されたスレッジ・ハマーは、まるで見当違いの方向に向かって消えていった。

「クソッ!」

 出鱈目にボタンを押しまくるユウナ。最早細かい事は考えず、適当にそこかしこのボタンを連打して、むちゃくちゃに弾薬をバーゲン・セールした。

「どこだぁ、ローエングリンのスイッチはぁ? おい君、艦首をデカブツに向けろよ」

 躍起になって食い入るようにパネルを見つめ、血走る目でローエングリンのボタンを探す。そんな時、交替でやって来たサイがブリッジの騒がしさに気付き、急いでドアを開けて入ってきた。

「な、何をしているんですか!?」

 サイの目に飛び込んできたのは、椅子にすがり付いて狼狽しきっているミリアリアと、一心不乱にパネルの操作をするユウナの狂気染みた姿だった。咄嗟に飛び込んできた光景に、サイも流石に戸惑いを隠せなかったが、直ぐにユウナを取り押さえに掛かった。

「何で火器管制にセーフティが掛かってないんだ――ミリィは艦内に緊急警報を鳴らして! 俺がユウナさんを抑えるから!」
「邪魔するんじゃないよぉッ!」
「グッ!」

 後ろから掴みかかったサイを、力任せに振りほどく。あの華奢な体のどこにそんな力があったのか。同じ男であるサイでも、ユウナの想像以上の力に圧倒され、壁に背中を叩きつけられた。
それと同時にユウナは席を飛び出し、警報を鳴らそうとしているミリアリアを尻目に、ブリッジのドアにロックを掛けた。

「これ以上、邪魔者を増やしたくないからねぇ」
「あなたは……ッ!」
「ハハ……ぶっ潰してやる、あんな奴――これはパパの敵討ちだ……ッ!」

 醜く口の端を歪め、ユウナは苦悶に呻いているサイを一瞥すると、再び元の席に座った。ドアをロックした事により、外からの侵入は容易ではなくなった。サイもミリアリアも、何とか力で制圧できると分かった。
ユウナは邪悪に笑みを浮かべると、気持ちを落ち着けた。

18 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 22:54:31 ID:???]
 アークエンジェルが狂ったように撒き散らす意味不明な弾幕。ボルテークのブリッジでシートに座るイザークには、何が何だか分からない。

「何事だ、足付きは?」

 オペレーターを担当する通信士に、イザークは尋ねる。

「それが――」
「繋がらんのか?」
「いえ、最初は女の子が応対に出ていたんですけど、途中で突然男に変わったと思ったら、妙な事を口走って、それで急に足付きが暴れだしたんです」
「どういうつもりだ、足付きめ。裏切るつもりなのか?」

 アークエンジェルがどういうつもりかが判断できない以上、迂闊に攻撃を仕掛けるわけには行かない。幸い、アークエンジェルの暴走はボルテークに殆ど被害を与えておらず、今のところは唯の傍迷惑に過ぎない。しかし、このまま放っておくわけにも行かない。
 それに、裏切るつもりにしても、どこか妙だ。アークエンジェルの出鱈目な弾幕は何を狙っているのかが判断できず、困り者だ。この不可解な状況に、イザークは居ても立っても居られなくなって席を立った。

 アークエンジェルに響き渡る警報。即座にブリッジ・クルーは跳ね起き、敵襲が来たのかと急いで配置に向かっていった。
 格納庫で本来のカラーリングになったΖガンダムの調整をエリカと続けていたカミーユも、その異常事態にコックピットの中から顔を出した。

「エリカさん!」
「警報ね。敵襲かしら?」

 けたたましく鳴り響く警報。艦内放送のスピーカーから、ミリアリアの声が聞こえてきた。

『ユウナさんが、アークエンジェルの火器管制を乗っ取って暴走中! 誰か、早く止めに――きゃあっ!』
『余計な事をするんじゃないッ!』
『止めてください、ユウナさん!』

 男女の揉める声が、スピーカーを通して伝わってきた。ブリッジでのただ事ではない事態に、MSデッキは騒然とし始める。

「火器管制を乗っ取られたって――じゃあ、さっきから妙にうるさかったのはアークエンジェルの砲撃の音だったの?」
「そんな音、してたんですか?」
「あなたは中に入っていたから聞こえてなかったかもしれないけどね。…でも、それなら一体何のために――」

 こんな時でも冷静に状況を推理しようとするエリカは、顎に手を当てて考え込んでいた。インテリは、頭を使うばかりで身体を動かそうとしない。だからカミーユは、身体を動かす。

「Ζ、出します」
「カミーユ君!?」

 ブリッジは誰かが駆けつけるとして、それまでアークエンジェルの暴発が他の僚艦に被害を加えないかが問題だ。それを防ぐ為に、横になって仰向けになっているΖガンダムに、カミーユは再び潜り込んだ。
 Ζガンダムのカメラ・アイが点灯し、膝を起こして立ち上がり始める。エリカは起動を始めたΖガンダムに踏み潰されまいと、床を蹴って後ろに跳んだ。

「MSを出すの?」
『ザフトに誤解されたら、つまらないでしょ。何とかして、外からブリッジにコンタクトをとってみます』
「そんな事したって――」

「お兄ちゃん!」

 甲高い声にエリカが振り向くと、壁を蹴って流れてくる少女が一人。かなり慣れた様子でΖガンダムに取り付くと、コックピットに回って拳で叩き始めた。

19 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 22:57:01 ID:???]
「何処行くの、お兄ちゃん?」
「あの子は――」

 ボリュームのある薄紫の髪を無重力に弄ばれながら、薄いランジェリーのような寝間着で恥じらいもなく喚いている。彼女は、Ζガンダムを製作している最中にもカミーユにぴったりとくっついて離れなかったロザミアだ。
当時、鬱陶しいものだと思ったことを、エリカは忘れもしない。
 ロザミアは妙な予感を抱いていた。何故か胸騒ぎがして、就寝中だった彼女は警報が鳴る前に目を覚ましていた。そうしたら、この騒ぎである。嫌な予感が的中したと確信したロザミアは、まるで導かれるようにやって来た。
 ロザミアに張り付かれたΖガンダムは少し動きにくそうだ。唯でさえ様々な機材が散在している格納庫である。振りほどかれた勢いでぶつかってしまえば、怪我どころでは済まない可能性だって多分にある。

『エリカさん!』

 Ζガンダムのカメラ・アイが瞬き、カミーユが何かを伝えようと呼びかけてきた。その意図を察し、エリカは壁を蹴ってロザミアのところまで昇っていくと、後ろから羽交い絞めにしてコックピットから引き剥がした。

「何するの! あたしはお兄ちゃんに訊いているのよ、あなたではないわ!」
「カミーユは何処にも行きやしないわよ。いいから、ロザミィは大人しく寝てなさい」
「嘘よ。お兄ちゃんはMSに乗ってるじゃないか!」

 羽交い絞めにしたまま、Ζガンダムを蹴って離れる。暴れるロザミアは、とても少女とは思えない怪力だ。何とか安全圏まで離脱しようと試みるが、あっさりと振りほどかれると、ロザミアは器用にコンテナを利用して体を翻し、今度はガンダムMk-Uに向かい始めた。
 その間に、Ζガンダムはゆっくりとカタパルト・デッキへと向かい、出撃した。

「ロザミィまで出る事はないでしょう!」

 エリカの引き止める声に、体を反転してロザミアは見る。その瞳には深い不信感が入り混じっていた。

「そうやって、あたしとお兄ちゃんを引き離すつもりでしょ! ソラに上がってくる時だって、お兄ちゃんはこの船に乗れなかったじゃないか!」
「あれは不可抗力よ! こんな宇宙のど真ん中で、何処にも行くところなんかありゃしないわよ!」
「ウソおっしゃい! お兄ちゃんが出るんなら、あたしも出るんだ!」
「カミーユは迷惑よ!」
「あたしはお兄ちゃんの妹なの! 迷惑なもんか!」
「ロザミィ!」

 エリカの声を振り切るように再び進行方向へと体を正面に向けると、あっという間にガンダムMk-Uに取り付いてコックピットの中に滑り込んでしまった。
エリカは追いかけようとするも、無情にもガンダムMk-Uのコックピット・ハッチは閉まり、なし崩し的に出て行ってしまった。

「あんな子が出てったら、余計に場が混乱するだけじゃない!」

 呆然としている場合ではない。ブリッジではまだユウナが暴れているのだろうが、ΖガンダムとガンダムMk-Uが出撃した事を報告しなければならない。急いで通信端末に駆け寄り、受話器を片手にミリアリアへの通信を繋げた。

 宇宙へと飛び出し、メカニック・クルーのツナギ姿のままΖガンダムに乗り込んだカミーユは、シートにオプションとして備わっているシートベルトを体に巻いて固定した。
パイロット・スーツのバック・パックが無い分、リニア・シートのアタッチメントに当たる部分が空洞になっていて違和感を覚える。背中の妙な空虚感に多少の煩わしさを抱きながら、カミーユは反転してアークエンジェルを見た。
 無茶苦茶だ。流石に素人が適当に弾幕を張っているだけあって、それがかえって何処に弾が飛んでくるのかわからない分、弾道が読みにくい。ユウナが精神的に参ってしまっているのは分かるが、こんな迷惑を振り撒かれたら溜まったものではない。
どうにかして、誰かがユウナを取り押さえるまでボルテークやエターナルに被害が及ばないようにしなければ――

「ん?」

 苦心して考えを巡らせていると、アークエンジェルから立て続けにガンダムMk-Uが飛び出してきた。その動きが無邪気で、抱きつくようにΖガンダムと接触した。揺れるコックピットで体を踏ん張り、カミーユは直感する。

『何処行くの、お兄ちゃん?』
「ロザミィ!?』

20 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 22:57:56 ID:???]
 果たして、予想通りの声が接触回線から聞こえてきた。彼女まで出てくることは無いと思いつつも、出てきてしまったのなら仕方ない。言ったところで滅多に言う事など訊かない彼女だから、せめて妙な勘違いを起こして、厄介なことにならないようにしてくれよ、と願うばかり。

『そっか、アークエンジェルがうるさいから、それを黙らせるのね』

 そう願ったのも束の間、ロザミアはカミーユから何かを察知したのかビームライフルの銃口を、事もあろうにアークエンジェルへと差し向けた。慌ててカミーユはΖガンダムのマニピュレーターでビームライフルの銃口を降ろさせる。

「駄目じゃない、ロザミィ! そういう事じゃなくて――」
『え? 違うの?』

 ロザミアは、感受性が強すぎる。特に、カミーユの感じていることはより鋭敏に察知しようとする。それを曲解して、頓珍漢な行動に移ることもしばしば。

「とにかく、ブリッジの様子が知りたい。俺はアークエンジェルの真上からブリッジに接触する。ロザミィはここで待機して、変化があったら知らせてくれ」
『分かったわ、お兄ちゃん』

 とりあえずは、ロザミアに何もさせないことが先決だ。カミーユは納得させると、機体をアークエンジェルの真上へと移動させた。艦の真上は、一番砲火が少ない位置。少しの間をおいて、火線が少なくなったところでブリッジへと強襲を掛けた。
 アークエンジェルの砲撃はやはり出鱈目で、簡単にブリッジの正面まで降りてくると、マニピュレーターを伸ばして接触させた。

「サイ、ミリアリア、どうなっている!」
『Ζ――カミーユ、危ない!』
「え?」

 ミリアリアの声が、背後で格闘を続けるサイとユウナの声にかき消されそうになりながらも聞こえる。カメラでブリッジの様子を拡大してみると、ユウナがサイを振り払って何やら操作をしている。
 ふと気付くと、ゴットフリートの砲塔がこちらに向いているのが見えた。慌ててマニピュレーターを放すと、即座にブリッジ正面から離脱する。ニアミスで発射されたゴットフリートの軌跡が、宇宙の彼方へと吸い込まれていった。

「クッ、まだ誰も中に入れて居ないのか?」

 状況を鑑みる限り、ブリッジにはユウナとサイ、ミリアリアの3人だけだ。先程の映像を呼び出して静止画にして拡大すると、奥のドアにロックが掛かっているのが見えた。恐らく外には既に何人かが駆けつけていて、今はロックを外すのに四苦八苦している最中だろう。

「大体、あの人はどういうつもりでこんな事を――」
『おい、貴様。アークエンジェルは何を血迷ってるんだ? これではボルテークの回頭に支障が出るだろうが』

 シールドで無差別攻撃を防ぎつつ後退するΖガンダムに、一機のグフ・イグナイテッドが通信を繋げて来た。ハイネのMSとは違う白いカラーリングのグフ・イグナイテッドだ。それは、アークエンジェルの突然の乱心に業を煮やしたイザークの専用カスタマイズ機。
 カミーユは、イザークの言葉に引っ掛かった。

「ボルテークの回頭って――コースを変えるんですか?」
『聞いてないのか? ボルテークはジブラルタルの援護のために、これから地球へ引き返す。それを足付きに言ったら、これだ。貴様はアークエンジェルのクルーだと思うが、何がどうなっているのか説明してもらおうか』
「ボルテークが地球へ引き返す?」

 頭の中で、点と点が結びつく感じがした。カミーユの鋭い勘が、どうしてユウナがこんな行為に出たのか、その答を導き出した。いや、寧ろ彼が暴走するのは、これしか考えられない。
 ユウナは、悔しかったのだ。ウナトを失うどころか死に目にも会えず、事実を知らされたのはキラからの口伝のみ。遺言も、果たして本当なのかすら分からないのに、父の最期の声を聞けなかったユウナはさぞや無念だっただろう。
そして、そのウナトの死が直接的ではないにしろ、デュランダルの所業にあるとすれば、ザフトが同胞を助ける為にエターナルやアークエンジェルの護衛を放棄し、離れていくのが許せない。同胞は助けに行くくせに、どうしてウナトは助けてくれなかったのか――
悲しみに暮れるユウナは、それがどうしても納得できなかったのだろう。



21 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 23:00:05 ID:???]
「だからって、こんな事をしたって――」

 心の中が痺れる。やるせないのは、当事者であったカミーユの感傷に過ぎないのかもしれない。周りから見れば、ただ単にユウナが癇癪を起こして我侭に暴れているだけに見えるだろう。
しかし、大切な人を失うという喪失感を痛いほどに知っているカミーユは、そんなユウナに同情してしまうのだ。なまじ強すぎるニュータイプだからこそ、悲哀の感情はおろか、死の波動まで無差別に受信してしまう。
それが、ニュータイプとして目覚めたカミーユの背負った業なのだと言ってしまえば身も蓋も無いが――

『おい、この始末はどう着けるつもりなんだ? 事と次第に拠っちゃ、足付きは黙らせるしかないぞ』
「待ってください! もう少しで、誰かが止めてくれると思いますから――」

 アークエンジェルの暴走は、留まる所を知らない。オーブ脱出の際の補給が十分すぎた為か、いくら吐き出しても弾薬が尽きない。しかし、いつ果てるとも知れないアークエンジェルが、何と移動を始めた。メイン・スラスターに火が灯り、全速力で加速を開始したのだ。

「な、何だ!?」

 度肝を抜かれ、カミーユは呆然となってしまった。弾薬をばら撒きながら、アークエンジェルはプラントへの道のりを走り始めたのだ。エターナルが、巻き込まれない程度に間隔を開けて後に続いていく。
 呆然と佇むΖガンダムの横で、イザークの元にボルテークからの通信が入る。イザークは通信スイッチを入れ、オペレーターからの報告に耳を傾けた。

「――そうか、分かった。なら、足付きに置いてきぼりを食った2体のGはこちらで使わせてもらうと伝えておけ」

 サイは、結局ユウナを取り押さえる事が出来なかった。しかし、彼は機転を利かし、アークエンジェルをボルテークから遠ざけるという非常手段に打って出たのだ。カミーユとロザミアが出撃している事は知っていたが、ユウナを止められない以上はこれが最善の手だと判断した。
 彼は工業カレッジの元生徒という事もあり、更に運用が簡潔になったアークエンジェルのお陰で、何とか動かす事が出来た。エターナルは、そんなサイの判断に従い、ミリアリアからの報告を受けて続いていった。
 イザークはそんな旨の報告を聞き、通信を切った。そしてグフ・イグナイテッドのマニピュレーターをΖガンダムの肩に接触させると、カミーユに告げる。

「貴様も、ジブラルタル援護作戦に加わってもらうぞ、カミーユ=ビダン」
『えっ?』

 正に青天の霹靂。急に降って湧いたような話に、思わず素っ頓狂な声で返答してしまった。



 地上――ジブラルタル基地では、ザフトの地球駐屯軍が集結していた。連合地上軍に比べればささやかな規模かもしれないが、それなりに立派な規模にはなったと思う。
 ヘブンズ・ベース攻略から、まだ10日も経っていない。ザフトの一部では士気の上がっている者も居たが、オーブが陥落し、カーペンタリア基地までも失うことになった今、遠征に於ける補給線の確保が難しくなったザフトの地上での作戦行動は、殆ど無意味になってしまった。
折角ヘブンズ・ベースでブルー・コスモスの大半を拘束できても、結局は首謀者であるジブリールには逃げられ、悪戯に戦力を消耗させられただけだったのかもしれない。

 オーブ陥落――その報告を聞いたとき、アスランの顔から血の気が引いたのを、シンは見ていた。普段は落ち着いていて、隊長として頼りになる彼も、この時ばかりは小さな人間に見えてしまった。
それもそうだろう、彼にとってザフトへの復隊はオーブを守るという意味があったからだ。この無情な知らせを聞いて、誰が気丈に振舞えるのだろう。自らの無力さを思い知る以外に感じることがあるのなら、誰かに教えて欲しいものだとシンは思った。
 一方で、シンの気持ちも複雑だった。確かに、数ヶ月前までならオーブは嫌いだった。しかし、彼が本当に嫌っているのはアスハなのだ。オーブは、両親や妹と過ごした思い出の場所――だから、国それ自体にシンは悪意を抱いていない。
彼の最も嫌悪する相手は、あくまで本国を戦場にし、家族を巻き込んで死亡させたアスハそのものなのである。以前、アスランはそう告白するシンに向かって、カガリはそんな人ではないと言っていたが、未だに彼はカガリを信用する事が出来ない。
彼女は、父親であるウズミを信じ、そのせいで死んだ人の事を忘れてしまっていると思っているからだ。

22 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 23:01:28 ID:???]
 そんな折に追加で報告されたのが、カガリの生存の報告である。オーブは連合軍の侵攻を予測し、その前に国民の避難を開始させ、国それ自体を空き家にする事で逃亡を図ったのである。現在、カガリはラクスと一緒にプラント本国へと亡命中ということだ。
 少しは、2年前の教訓を活かしたと言えるだろうか――しかし、難民として国を追われたオーブ国民が、何の苦労も無く亡命先で暮らしていけるわけが無い。こんな事態をまたも引き起こしておいて、アスハという家系の何と愚かな事か。
オーブに国としての欠陥があるとすれば、アスハを国家元首に戴いた事だとシンは思う。

「このバランスが、扱いにくいのよね〜」

 狭いコックピットの中、パイロット・シートに座るルナマリアの横で、シンはふと我に返った。シンがデスティニーを使うようになって、余ったインパルスはルナマリアが担当する事になったのだ。
その引継ぎのような形で、怪我から復帰したルナマリアに色々と教えているところだ。

「ルナは、スロットルの入れ方が雑なんだよ」

 そう言って、シンはレバーを握るルナマリアの手の上から自分の手を添え、ゆっくりと押し込んでいく。ルナマリアが振り向き、顔を突き合わせた。

「インパルスはシンに合わせて調整してあったんでしょ? あたしの勝手じゃないわ」
「だから、ルナのためにセッティングに付き合ってやってるんじゃないか」
「当然でしょ? あんたの癖が染み付いちゃってて、使い難いったらありゃしないんだから」
「じゃあ、何で自分からインパルスの後継パイロットに志願したんだよ? 嫌なら他のMSにすりゃあ良かったんじゃないか」
「何言ってんのよ。あんたの癖が染み付いたインパルスになんか、誰も乗りたがらないわ。それじゃあ、インパルスがもったいないでしょ。あたしが犠牲になってあげてるんだから、感謝しなさいよね」
「あのなぁ――」

「よっ、お2人さん。仲いいところ悪いんだけど、ちょっとシンを貸してくれよ。デスティニーの整備が仕上がったんだけどさ、シンに確認してもらいたいんだ」

 コア・スプレンダーの縁から顔をひょっこりと覗かせたヨウランが、言い合いをする2人のやり取りを遮って割り込んできた。妙にニヤニヤした、いけ好かない態度。邪魔をしにきたと言わんばかりに、シンを急かす。

「確認が必要なほど難しかったか?」
「お前の扱い方は荒っぽいからなぁ。妥協して、下手こきたくないからな」

 ひらりと飛び降りたシンの背中を押して、ヨウランは言う。

「ほら、御覧なさい」
「うるせっ」

 そんなヨウランの言葉に同調するルナマリアに、シンは不貞腐れてデスティニーの元へ向かっていった。

 ヨウランの運転で移動者に乗り込み、デスティニーの足元までやってきた。そして昇降機に乗ってコックピット付近まで上がってくると、中に入り込んだ。下では、ヨウランがマイクを片手に通信を繋げてきている。

『よし、先ずは右腕を動かしてみてくれ』
「分かった」

 言われたとおりに、シンはデスティニーの右腕を動かした。ゆっくり、慎重にその動きを確かめるように操作する。そして、マニピュレーターの指先を細かく動かし、調整が正常である事を確認する。
 MSにとって、武器を携行するマニピュレーターは生命線である。これが器用に動かないようでは致命傷だし、特にアロンダイトや高エネルギー長射程ビーム砲、更にはパルマ・フィオキーナを備えるデスティニーにとっては、特に重大な部分を占めていた。

「異常なし、ヨウラン?」
『じゃ、次は左な』

 同じ様にシンはデスティニーの左腕を動かした。こちらも異常なし、シンは次の確認事項を待った。

23 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 23:02:26 ID:???]
「次は?」
『特に問題は無さそうだな。それじゃ、ちょっと待ってろよ』
「ん?」

 確認とは、これだけなのだろうか。シンが不思議がっていると、目の前の昇降機が降りて行った。怪訝に思って身を乗り出してみると、下からヨウランがその昇降機に乗って上がって来るのが見えた。

「狭いけど、ちょっとお邪魔しますよぉ」
「お、おい――」

 むさい男2人で狭いコックピットの中なんて、ヨウランは何を考えているのか。有無を言わせず乱入してくるヨウランに迷惑しながら、シンは益々意味が分からなくなった。

「もうちょい詰められねーか?」
「お前なぁ、MSは一人乗りだぞ」
「気にするなって。そんなことより、ハッチ閉めろよ」

 妙な悪寒が背筋を奔った。滅多に働く事の無いシンの勘が、無駄に無意味に働いたのである。
 まさか、これはもしかして貞操の危機なのか――ヨウランは、自らのモテなさぶりに嫌気が差し、遂にあっち側の世界に逝ってしまったのだろうか。冗談ではない、こっちはそんな気は微塵も無いのに、無理矢理あっちの世界に連れて行かれてたまるものか。

「じょ、冗談は止せよ!」
「何だよ? ハッチのスイッチ、これだろ?」

 ヨウランを制止しようとするシンの肘が、何かのスイッチを入れてしまった。シンはそれに気付くことなく、一方でヒョイと腕を伸ばし、ヨウランがコックピット・ハッチの開閉スイッチを押した。シンが阻止する前に、無情にも閉まるコックピット・ハッチ。
 どうする――力では純粋な兵士である自分が有利だが、この狭い中では状況がどう転ぶか分からない。

「モニターは――っと、これだな」

 緊張に身を強張らせるシンを余所に、ヨウランはデスティニーのモニター・ディスプレイに光を灯した。カメラが周辺の景色を映し出し、それぞれに整備や調整に勤しむ人々の姿が見える。

「こうやって見ると、分かりやすいな」
「はぁ?」
「で、お前とルナは何処まで行ったんだ?」

 目を丸くして、シンはにやけるヨウランの顔を見た。どうも、シンの覚悟は無駄な労力だったようだ。緊張して身構えていた自分が、少し恥ずかしくなった。

「別に――」
「別にって事は無いだろ? 正直に言えよ、最近仲良いの、みんな知ってんだぜ」

 つまり、そういうことか。シンの機体の整備を担当しているヨウランが、代表してシンに真相を聞きにきたのだろう。まったく、こんな非常時だというのに、考えている事は幼稚だ。呆れて溜息をつく。

「ルナの事、好きなんだろ?」
「そりゃあ――」
「だったら、もうする事はしちまってるって事だよな? ったく、お前ばっかりいい思いしやがって――」
「馬鹿! ルナはついこの間まで怪我してたんだぞ! そんな事…出来るわけないじゃないか!」

 くわん、くわんと響くコックピットの中。ヨウランは両手で耳をふさいで顔を顰めている。

24 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 23:03:53 ID:???]
「急に大声を出すなよ! 耳が潰れちまうだろうが!」
「へ、変な事言うからだろ!」
「ったく、分かったよ。初心(うぶ)なお前が、こんな短期間に蓮っ葉なルナとの関係を進展させられるわけがねーんだ。生暖かく見守っていてやるよ」
「余計なお世話だ」
「それでよ――」

 ヨウランが身を乗り出し、カメラを操作し始めた。映像が移動していき、ある地点でスクロールを止めると、画像を拡大していく。そこに映っているのは、アスランとエマの姿だった。

「問題はこの2人だよ。いつの間に――ってのはどうでもいいんだけどさ、ザラ隊長って、ラクス様とオーブのお姫様と二股掛けてるって話じゃなかったっけ?」

 二股かどうかはさておき、確かに、モニターの中の2人は仲が良さそうに並んでこちらを見ていた。とはいえ、それまでの様子からはエマはアスランにとっての良き相談相手といった感じで、ヨウランが邪推しているような関係には到底見えなかったのだが――

「さぁ。ザラ隊長も、ミネルバ暮らしが長くて、2人の事を諦めちまったんじゃないのか。戦争だっていつ終わるのか分かんないんだしさ」

 そうなってくれれば、どれだけいいだろう。シンにとって、アスランに対して唯一ネックと思っているのは、カガリの存在だった。アスハにさえ関わっていなければ、もっと尊敬できるんだけどな――そう思ってしまうのは、自分の我侭かもしれない。
しかし、そう思わなければアスランを心の底から尊敬することは出来ないし、ここまで面倒を看てくれたアスランをもっと身近な存在に感じたいという気持ちもある。
 正直に言えば、カガリの存在さえ関わらなくなれば、シンは満足なのである。それは、アスラン本人にとっては酷な事なのかもしれないが――

「俺としちゃあ、隊長はこのままエマさんと一緒になってくれたほうが助かるんだけどな」

 ガルナハンでの修正が強烈に効いているせいで、未だにシンはエマが苦手だった。あれが無ければ、今でもエマの事を唯のオーブからの転向者として侮っていたかもしれない。しかし、カガリとアスランがくっ付いているくらいなら、エマの方が何百倍もマシだと思えた。
 実際に、エマはアスランの師匠的な立場にあった。補佐役といった方がこの場合は適切かもしれないが――ともかく、アスランは作戦の決定を下す際にも、必ずエマの意見を伺う。
そのやり取りが重なって、2人の感情に恋が芽生えたというヨウランの考えも分からない話ではない。犬猿の仲だと思っていた自分とルナマリアですら、そういった感情を抱けるようになれたのだから――

「何でだよ?」
「隊長はエマさんの方が似合ってるだろ。隊長って、意外と内気で悩み事とか多いみたいだからさ、年上のエマさんは丁度いい組み合わせだと思わないか?」
「それは正直友達思いの俺としては歓迎したくない事態だな。ヴィーノの恋が、砕け散っちまう」
「ヴィーノ、そうだったのか?」
「一目惚れだとさ。理知的だけど少し世間知らずなところがいいんだと」

 いつの間にやら、デスティニーのコックピットの中は合宿の消灯後のような会話で少年二人が盛り上がっていた。どうせ、コックピットの中の会話は外に洩れやしない。ある種、今のデスティニーのコックピット内は治外法権である。
誰に咎められるわけでもなく、ヒート・アップする馬鹿少年2人組みは、会話を続ける。
 しかし、その油断が2人を奈落の底へと突き落とした。

『何やってんのよ、あんた達ぃッ!』

 耳に突き刺さってくる怒号。誰かがマイクを片手に、デスティニーに呼びかけを行っているようだ。鼓膜が破れんばかりの大声の主は、カメラが直ぐにキャッチした。まるで刃物のように鋭い“アホ毛”をいきり立たせている、ルナマリアだ。
 そこへ、エマが駆け寄ってきて珍しく乱暴な手つきでルナマリアからマイクを奪い取った。

『貸しなさい――そこの2人、とっととコックピットの中から出てきなさい! 勤務時間中にサボって猥談なんて――』

 何故、デスティニーのコックピットの中の様子が外に洩れてしまっているのだろうか。ハッチを閉め切っていて、外から中の様子を確認する事など出来ないはずなのに――モニターで怒りの声を上げるエマに釘付けになっているヨウランに対し、シンは周囲を見回した。

25 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 23:04:36 ID:???]
「あっ――」

 すると、どういう事か、外部スピーカーのスイッチが、オンになっていた。つまりは今までのヨウランとの会話は、全て筒抜け。格納庫に居る全員が、2人のやり取りを聞いていたのであった。

 強制的にデスティニーから排出された2人は、エマからのキツイ修正を受ける事となった。黙々と作業を再開した2人の頬には、鮮やかな紅葉が。

「ったく、シンのせいでよ――」
「お前がいけないんじゃないか!」

 パソコンで確認作業を続けるシンを尻目に、ヨウランはデスティニーの脚底に潜り込んで、スパナを片手に作業をしていた。叩かれた左頬が、痺れを残していて違和感を感じる。
 そういえば、ヨウランはシンに聞きたい事がもう一つあったような気がする。若年性痴呆症ではないと思うが、たまに思いついたことを直ぐに忘れてしまうのは何故だろう。

(誰の事を聞きたいんだったっけ?)

 どうしても思い出せない。答えは喉元まで出掛かっているのにも関わらず、あと一歩がどうしても思い出せないのである。確か、シンの周囲の人間の事を聞こうと思って――

(カツ――じゃないな。アイツは俺達と同じモテない組だしな。と、なると……)


 病院の一室。ネオは、ヘブンズ・ベースで再びザフトの捕虜になって以来、一歩たりともベッドから動けない状態に陥っていた。それでも怪我のほうは快方に向かっているらしく、とても普通のナチュラルの回復力ではないと医師を驚かせたほどである。
 そんな彼を、毎日訪れてくる人物が2人居た。一人は、あどけなさを面影に残す少女・ステラ=ルーシェ。ネオと共にザフトへと身を寄せる事になった彼女は、保護観察の身ではあるが、自室とネオの病室への移動は監視付きの条件で許されていた。
 そんなステラの監視員を自ら買って出たのが、レイだった。

 今日もレジェンドの整備を終えたレイがステラを部屋に呼びに行き、ネオの病室までの短い散歩をする。無邪気にはしゃいで先を行くステラの後ろ姿を、レイは不思議な心地で見ていた。
 自分は、どうしてステラの監視役など買って出てしまったのだろうか――面倒な事は、他のクルーにやらせて置けばいい事。パイロットであるレイは、緊急時に代わりが利かない貴重な人員である。事情を考えれば、わざわざレイがやるような事ではない。
 しかし、ステラの無邪気にはしゃぐ後ろ姿が、誰かの影と重なる。背丈はそれ程高くなく、ステラと同じブロンドの髪を風に弄ばれながら駆けて行く少年の後ろ姿――

(あぁ、そうか――ラウに会いに行くときの俺だったのか)

 振り向くステラの仕草に、幻の少年の姿も同じ仕草を重ねた。振り向いた少年時代の自分は、何と穢れなく無垢な表情をしているのだろう。この時は、まだあの幸せが永遠に続くかと思っていて、自分の心がこんなに荒むとは夢にも思ってなかった頃だ。
 あの頃に戻って、もし自分の運命を知らないまま時を過ごしていたならば、果たして今の自分はどうなっていただろう。少なくとも、戦争なんかしていなかったかもしれない。

「どうしたの、レイ?」
「あ……?」

 ふと我に返ると、そこは目的地であるネオの病室の前だった。そのドアは、いつもレイがロックを解除していた。呆然と立ち尽くすレイをステラが急かしているようだった。レイは視線を泳がせて景色を見渡すも、少年時代の自分は既に見えなくなっていた。
 気を取り直し、レイはポケットの中から預かっていたスペアの電子キーを取り出し、それを鍵穴に差し込んでドアのロックを解除した。ドアは静かに開き、病室の中の薬の匂いが鼻腔をくすぐった。
 薬の匂い――レイにとっては嗅ぎ慣れた匂いなのかもしれない。

 扉が開ききると、ステラが真っ先に病室へと入っていった。頭に包帯を巻き、リクライニング式のベッドで上半身を軽く起こして読書に耽るネオに駆け寄っていった。ステラの嬉しそうな仕草が、堪らなく羨ましく思える。
 少し遠慮がちに、レイは遠目から2人を見守っていた。ステラの訪問に表情を緩めるネオ、同じく笑顔満開のステラ。昔の記憶の中に埋もれていった、過去の自分とラウを見ているような気分になる。

26 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 23:06:21 ID:???]
「どうだ、連合は、ジブラルタルの攻略に乗り出したか?」

 適当にステラの相手をした後、ネオはレイに話しかけた。すこし眉間に皺を寄せ、他人事なネオに対して不満を露にするレイ。

「そうだな。諜報部からの報告によると、明日明後日にでも連合軍の総攻撃が始まる見通しだ。イベリア半島の周辺は、ジブラルタル攻略部隊が展開されている。今のここの戦力と互角かそれ以上の戦力がな」
「そうか。それはご愁傷様だな。で、ザフトは何か策を練っているのか?」

 ザフトは、宇宙への脱出を図っている。それはつまり地上での作戦行動を放棄し、プラントの防衛に徹するという事だ。
連合軍がその強大な軍事力を武器に、世界を武力によって統一しようとしている昨今に於いて、地上で不利な作戦行動を繰り返しても益は少ないと判断したのだ。
 そこで、各地の連合軍の圧力によってジブラルタル基地へと流れてきたザフト地上軍は、そこから宇宙に上がる、地上での最終作戦を展開中だった。既に第一陣の先発艦隊は宇宙へと旅立って行き、今日明日にも第二陣と第三陣の打上が完了する予定だ。
 しかし、問題なのは艦隊の全てを打上げる前に侵攻が予想されている連合軍である。交戦は止むを得ないが故に、確実に連合軍の第一波攻撃は食い止めなければならない。
とりあえず周辺海域には機雷を、陸地にはトーチカが備えられているが、それもどれ程の意味を持つのかは分からない。とにかく、一説には連合軍の規模は師団クラスだと出ているのだ。数の暴力で攻め立てられれば、策も何もあったものではない。
 そんなザフトの苦しい裏事情を、連合軍大佐であるネオに話す気になどなれない。表情には出さないように口を噤んでいると、そんなレイの思惑が分かったのか、ネオはフッと一つ鼻で笑った。

「まぁいいや。それよりも、そんなところに突っ立てないで、お前もこっち来いよ。監視っつったって、見てるだけじゃつまんないだろ?」

 ドアをくぐって入ってきてから、微動だにしない佇まいを怪訝に思った。ネオの呼びかけにレイは呻くように一言応えた後、視線を床に落として何事か考えてから、ベッドのネオのところに歩み寄った。

「何故、俺を近くに呼んだ?」

 問いかけるレイに、ネオは眉を顰めて含み笑いする。

「何となく――な。何か知らないが、お前が私に話したいことがあるんじゃないかと思ってな」
「俺が、お前に?」

 煩わしいと思っている感覚は、相変わらず続いている。レイがその感覚に疑問を抱いている事は、直接ネオの本質に触れるきっかけになるような気がした。それは、極めて危険で不自然な事。何せ、死んだ人間を引き合いに出そうというのである。
リアリストのレイとしては、あまり褒められた考察ではない。しかし、ネオが唯の人間ではないと判明してしまっている以上、可能性として考えられる論理は、それしか残されていないのだ。
 目線をチラチラとステラに向ける。ネオは何かを納得したかのように頷くと――

「あぁ、もう一人欲しいな。誰か呼べないか?」
「レコア=ロンドが空いているはずだ」

 ジブラルタル基地の病院を退院し、久方ぶりに復帰したレコア。レイが備え付けの通信端末でレコアの部屋へと直通回線を開いた。

 5分後、レコアがネオの病室へとやってくる。包帯もすっかり取れ、以前のような艶のある健康的な姿を見せた。

「少しの間、ステラの監視をお願いします」
「男同士で内緒話? 私は、感心しませんけどね」

 そう言われても、大事な話だけに途中で腰を折られても困るし、だからと言ってステラの監視を怠るわけにも行かない。適当に応えてレコアにステラを任せると、静かな病室にレイとネオの2人きりになった。
 レイは監視カメラのレコーダーを切り、椅子を手繰り寄せてその上に腰を下ろした。

「いいのか?」
「これは尋問ではない。それに、あまり他人に知られたくない事もしゃべってしまうかもしれない」

 レイは、覚悟を決めたように鋭い眼差しをネオに投げかけた。まるで心を突き刺すような視線は、対するネオに迫力を与えていた。
 病室は、完全なる密室と化した。突然の来訪者が入ってこないようにロックが掛けられ、部屋の窓はブラインドで完全に閉まっている状態だ。カメラと通信端末も先程レイが電源を落とし、外部からの覗きは一切不可能。
ともすれば、レイがネオを殺そうと手を振り上げようとも、誰も助けには入って来れない。レイの鋭利な眼差しは、一体何を意味しているのか、ネオは身構えて言葉を待った。

27 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 23:08:27 ID:???]
 ステラと部屋の外に出て、レコアが2人でやってきたのは食堂だった。時間帯にして午後3時を廻っている。席に着く人間もまばらで、これから夕食までの時間は食堂のちょっとしたブレイク・タイムのようなものだ。閑古鳥が鳴いているとは、間違っても言ってはいけない。
カウンターで飲み物を注文すると、ステラにはホット・ミルクを、レコアは自分用にコーヒーをそれぞれ手に持って、席に着いた。カップから香り立つ湯気が、仄かな甘みを鼻に運んでくる。

 ステラがレコアの正面の席にちょこんと座っている。あどけなさの残るその少女は、どう考えても戦争をするような少女ではなく、奇抜に肩から二の腕を露出させた連合の制服は、余りにもステラには似つかわしくないものだった。
 ステラの事は、レコアも知っている。エクステンデッドという、一種の強化処理を施された戦闘兵士。主に精神的な強化を施されているらしいが、それはレコアの居た世界の強化人間も同じだった。思い起こせば、ロザミアの不安定さに何処と無く近いものがある。

「どうしたの?」

 ステラに見入っているレコアに気付いたのか、両手でカップを支えるステラが怪訝そうに尋ねてきた。レコアがハッとして気付くと、ステラは手にしたカップを口につけてホット・ミルクを少しだけ口に含んだ。

「いえ――」

 ロザミアのカミーユを求める様、ステラのネオを求める様。彼女達の依存の仕方は、果たして同じなのだろうか。2人の起こした行動は、どちらも依存主を求めるがゆえの脱走。
自然に見えるのは寧ろステラの方だが、ロザミアは強化人間として過度に強化されすぎている印象が否めない。彼女達を比べるのは違うかもしれないが――

「あなた、ネオを追ってきたのでしょう? どうしてそんなに彼の事が好きなのかしら」
「ネオは、ステラに優しくしてくれるから。ステラがピンチの時、いつだって守ってくれるもの」

 レコアの問い掛けにあっさりと即答するステラ。エクステンデッドにはブロック・ワードというものがあり、ロドニアのラボで得た資料からステラのそれが“死”である事は分かっている。
なるほど、確かにその様な爆弾が深層心理に仕掛けられていたのなら、頼りになる青年に強く依存するステラの性格は良く分かる。死に対する脅迫観念から自らの自我を保つ為に、ネオを絶対の存在としてステラの中で成り立たせているのだろう。
 しかし、レコアにはそれが危険に思えた。何の疑いも無くネオを信用しきるステラは、レコアの持論上、幸せな結末を迎える事が出来ないと感じた。

「無条件でネオの事を信用しているのね。でも、それで本当にいいのかしら?」
「なんで?」

 それは、ネオを失ったときの可能性としてのステラではない。その可能性は、既にデストロイの件で証明されている。ステラは、ネオを失えば生きていけない。
 しかし、ネオが居たとしても、ステラは幸せにはなれない。ステラの純粋で一本気質な純情は、それは可愛らしいものとしてレコアも感じ取っている。ネオも、それに心動かされる事もあるだろう。それでも、ステラの一方通行な純情では、危険なのだ。
 ステラの様子や話を見聞きしている限り、彼女は裏切りというものを知らない。だから、ここまで純真な姿で居られるのだ。汚れや裏切りといったものを知ってしまえば、如何に純粋なステラでも、きっと今のままの姿ではいられなくなってしまう。
 何故なら、男という生き物は女を道具にする事しか頭に無いからだ。
 そのレコアの実感は、地球連邦政府に対するゲリラ活動をしてからエゥーゴに参加し、ティターンズに移籍してからも感じていたことだ。基本的にエマとも和解して、昔の仲間と行動を共にしてはいるが、その考え方だけは変わる事が無かった。
甲斐性無しのクワトロに業を煮やし、フェミニストであるシロッコの本質を分かっていながらも、その見かけの優しさに傾倒していったレコアは、ステラの純潔が眩しく見えたのかもしれない。その眩しい彼女の前で、ジャブローで受けた汚れを晒す事は出来ない。
 レコアはテーブルの上に腕を乗せ、少し前のめり気味にステラに凄んだ。

「ネオだって、あなただけをずっと好きで居られないかもしれない」
「え……っ」
「男の人ってね、自分を中心に物事を考える生き物なの。だから、必要なものは手に入れるし、必要がなくなれば捨てるわ。女の扱いだって同じよ。男って、そういう生き物――危険なのよ」

28 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 23:09:05 ID:???]
 妙な迫力と説得力を感じさせる。ステラの眉尻が下がり、表情に不安が表れた。果たして、今の自分は人に見せられる顔をしているのだろうか、レコアは少しだけ不安に思った。しかし、気を取り直し――

「それでも、ステラはネオという男を信用できるの? ずっと好きで居られるの?」

 ステラは泣きそうな顔で、若干怯えている。それは、単純にレコアの顔が怖かったからとは、思いたくない。レコアとて、それなりの容姿を気取っているつもりだ。
 暫くの間を挟み、2人は対面に座って見詰め合ったままになった。空調の一定の単調な音と、カウンターの奥の厨房から食器洗いをする水の音と食器の重なる音がしている。
 やがて、ステラの震える唇が言葉を紡ぎ出した。

「だ、大丈夫だもん……ステラは、ずっとネオと一緒に居るんだもん……」
「彼は、そうは思わないかもしれない。ステラを邪魔に思うかもしれない」
「そ、それでも、ステラは大丈夫……」

 瞳に溜まっていた涙が、遂に堪えきれなくなって溢れ出してしまった。透き通るようなステラの白い肌、それを仄かに赤く染め上げる頬を、幾重もの涙の筋が駆け下りる。ぽろぽろと流すステラの涙は、テーブルの上で水溜りを作っていた。
 目を閉じ、全身に力を入れて涙を堪えるように体を振るわせるステラ。レコアはそんな彼女に、ポケットから取り出したハンカチで涙を拭いた。

「意地悪なこと言って、ごめんなさいね……」

 レコアの表情が柔らかみを帯び、優しくハンカチでステラの頬を撫でる。少し言い過ぎたと、レコア自身も反省していた。
 ステラは、何があってもネオを信じると言った。レコアにとっては、それは汚れを知らないがゆえの無知だと断定する事も出来るが、本当は羨ましいのかもしれない。もう、二度と戻る事の出来ない純白の少女時代。
いや、一年戦争後からゲリラ活動に明け暮れていたレコアに、果たして青春時代と呼べるものが存在したかどうかは定かではない。勿論、ステラはエクステンデッドで、彼女自身も戦争という理不尽に青春を奪われた犠牲者なのかもしれない。
しかし、ステラのネオを慕う姿勢は、レコアが知らぬ内に失っていた純粋さを垣間見たような気がしてならなかった。その純粋さが、少しでも自分の中に残っていたならば、裏切りを知られたときのカミーユに対しても、もう少し対応の仕方もあったのかもしれない。
 涙を拭き終わり、それから軽く頭を撫でた。繊細でボリュームのある髪の毛が、掌に柔らかな弾力を与えている。

「あなたは、私みたいな女になっては駄目よ」

 それは、ファにも言った台詞。ある種、ティターンズへの移籍を決定付けた一言だったのかもしれない。ファは、それに対して“はい”と応えた。駄目押しだった。目の前のステラも、頷いた。

「う、うん……」
「いい子ね」

 しかし、今回は違う。ファにもステラにも純粋さを感じたが、それに嫉妬して仲間を裏切る行為は人としてもっとも残酷な事だと知ってしまっているからだ。
 オーブでサラに痛烈に批判されたとおり、レコアは自らの女としての性の充足のためにシロッコの元に走った。エゥーゴのメンバー達には、単なる個人の我侭にしか見えなかっただろう。
そのせいで何人の人間が傷つき、悩もうともレコアは既に戻れないところまで来てしまっていた。
 だが、今度も同じ事をするわけにはいかない。若い人員が多いミネルバに於いて、レコアは大人の対応を取らなければならないのだ。子供のように個人の我侭を振り回していては、レコアは単なるお荷物になってしまう。

 レコアは席に腰を落ち着かせた。ステラは、気持ちを落ち着けてからホット・ミルクを飲み始めた。蛍光灯の下、いつの間にか食堂に居るのは2人だけになっていた。ステラの、鼻を啜る音がした。




29 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 23:09:48 ID:???]
 ネオの病室、レイと2人だけの空間。離れていてもお互いを感知できる不思議な間柄にある2人は、この狭い病室の中でお互いの距離の間隔がつかめなくなってしまっているのかも知れない。視覚は相手を近くに認識しているのに、頭の中は遠い存在として意識しているのだ。
この奇妙な矛盾が、しかし逆にお互いの言葉をより鮮明にさせているような気がした。
 この、シンクロするような感覚は、一体なんだ――考えるネオに投げかけられた名は、またしても“ムウ”という知らない男の名前だった。

「お前も、俺を“ムウ”と呼ぶか」
「違うのか?」
「違うな――と言いたい所だが、正直なところ、私にも良く分からん」

 閉め切られた病室の中は、薄暗かった。電気は灯さず、ブラインドの隙間から洩れてくる光だけが部屋の中の明るさを保っている。その部屋に、時計は無い。しかし、ブラインドから洩れる光は仄かな黄土色を宿していた。
時間帯にして、そろそろ日が傾き始める頃だろうか。ネオは、そんな時間の変化を感じながら、ブロンドの髪の少年を見た。相変わらずの鋭い眼光。彼のような少年が決して出来るわけが無い、修羅の瞳だ。彼は、一体世界に何を求めているのだろうか。

「分からないだと?」

 決して、ネオはレイを馬鹿にしているわけではない。本当に、ネオには分からないのである。前のめりに激しい剣幕を向けてくるレイに対し、ネオは少し落ち着けとばかりに軽い溜息をついた。

「お前のせいでな。クレタ島海域で私が捕虜にされた時の事を覚えているか? 変に私と繋がるその能力のせいで、私は自分の記憶に疑問を持った。それからかな、私が本当は“ネオ=ロアノーク”ではないのかもしれないと、心の片隅で考え始めたのは」

 何故か、アークエンジェルで出会った女艦長や少年は、自分を見知っている風だった。そればかりか、“ムウ”という別人の名前で呼んできたのである。記憶の片隅で引っ掛かるその名前は、果たして誰のものなのか。
或いは自分にそっくりな誰かと勘違いしているのか。世界中には、同じ顔をした人間が大体3人はいると言う噂話もある。あながち可能性の無い話ではない。
 しかし、実際にネオ=ムウなのだろうか。その場合、ネオとしての記憶は全てまやかしとなる。
 そんな事は、認めるわけにはいかない。そうでなければ、ステラやスティング、アウルと過ごした日々は、本来なら存在しない人間の、でっち上げられた過去になってしまう。それは、余りにも酷すぎる。もし、記憶が戻ったとしても、二度と立ち直れないかもしれない。
 ネオは少し、視線を下に向けた。その仕草が、酷く気の毒に思えたレイ。自己の存在を確立できない苦しみは、既にレイが通った道。自分が誰か分からなくなったら、誰かに縋って行くしか道は残されていないのだ。
 縋れる相手が居なくては生きられないのは、エクステンデッドだけではなかった。ネオ本人も、エクステンデッドという支えが居てくれなければ生きていけないのだ。彼等は、互いに支え合って生きていた。

「やっぱり、私は“ムウ”なのだろうか……っつっても、お前なんかに分かるわけないか」

 俯き、自嘲気味に呟くネオ。しかし、本心ではまだ冗談のつもりだ。

「いや、可能性はある」

 そんなネオを、即座にレイが否定した。驚いて顔を上げた先で見たレイの表情は、何か確信めいた表情をしていた。知らない何かを知っている――ネオの直感が、閃いた。
 ゆっくりと開かれるレイの口元に、ネオの視線は自然とそこに吸い寄せられた。この少年、何を言うつもりなのか。ネオの心臓の鼓動が、加速を始めた。

「私は嫌だぞ。私は実は記憶を失っていただけで、本当は“ムウ=ラ=フラガ”でしたなんていうベタな落ちなんて、冗談ではない。お前の言う可能性が何なのかは知らないが、ちゃんとした確証があって言っているんだろうな?」

 眼光を鋭くして、レイを睨み付けた。落ち着き払った佇まいを見せるこの少年が、邪推だけで悪戯に人を惑わせるような事を口にするとは思えないが、彼の自分に対する嫌悪感というものは酷かった記憶がある。
だから、意地の悪い冗談を言っている可能性だって考えなければならない。
 レイは、表情を崩さない。ただ、真っ直ぐにネオを見ているだけだ

「フラガの血筋に連なる人間には、同族との交感ができる不思議な能力が備わっている。お前が俺を感じられるのも――」
「ムウは死んだのだろう? 死人を持ち出してくるなんて、どうかしてるぜ」

30 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 23:10:12 ID:???]
 認められない。そんな安っぽいドラマの主役になど、なりたくは無い。ネオは、例えムウだったとしても、昔の自分には戻りたくなかった。そうでなければ、ステラ達との記憶はどうなってしまう、マリュー=ラミアスという女艦長の事はどうなってしまう――
失くしたくない過去と、償えない罪をどうすればいいのか。ネオがこれから都合よく生きていく為には、ネオ=ロアノークとしての方が遥かに良い。
 レイは、そんな苦笑いをするネオに対し、“残念ながら”と続け――

「お前は、ムウ=ラ=フラガとしか考えられない。何故なら、お前は俺と交感できる能力を持っているからだ。今だって、感じているだろう」
「じゃあ、お前は――」
「俺は、ムウの父親、アル=ダ=フラガのクローンだ」

 笑うネオの肩の揺れが、止まった。まるで、時が止まったかのように表情を固まらせ、ネオは微動だにしなくなった。頭の中が、少しの間を開けて今のレイの言葉の検証に入った。

 それから、暫くの時が流れた。2人は微動だにすることなく、病室の中に洩れてくる太陽の光だけが、少しずつその色を茜色に染めていった。
 やがて、空の色が茜色から群青色に変わり始めた頃、ネオの口が陸に揚げられた魚のようにぱくぱくと動き始めた。

「それは、本当なのか……?」
「医学的根拠もとれている。間違いない」
「じゃあ、私は――俺の正体は“ムウ=ラ=フラガ”でなければいけないのか……?」

 つうっと、ネオの目から涙が零れた。信じられないといった表情をしながら、一粒溢れると立て続けに次々と涙が流れ出た。涙はベッドのシーツを濡らし、外気に冷やされてほんのり冷たい。
 こんな事、聞きたくは無かった。出来ればずっと、ネオのままで居たかった。しかし、疑問が全て線で繋がってしまった今、記憶が戻らないとはいえ、認めざるを得ない。
レイと感覚を共有する意味、ラミアスやキラが自分をムウと呼んだ意味、定かでない記憶があった意味――全て、自分がムウで記憶を失っていたとすれば片付いてしまう。寧ろ、それ以外に謎を解く理由が見つからないのだ。
 愕然とし、ネオは痛みもそっちのけでブラインドの紐に手を伸ばした。その紐を引っ張り、ブラインドが窓の景色を覗かせると、そこには沈みかけの壮大な夕日が雲の切れ間から宝石のような真っ赤な光を放っていた。一日の終わりだ。

「は…ははは……俺は、とんだ間抜けなピエロだったようだな……。おかしいと思わんか? 実感も湧かない、記憶も戻らない――なのに、俺は別人の振りをしているだけだって? 笑うしかねぇよ、もう……」

 顔を窓に向け、レイからはネオの表情を窺い知ることは出来ない。レイは無言のまま、監視カメラと通信端末の電源を入れると、そのまま退室していった。

 イベリア半島は、連合軍の大部隊に囲まれている。明日は、晴れるだろうか。



31 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/14(水) 23:17:32 ID:???]
お勉強ができて>>1乙な奴っているんだよね

久しぶりの投下は以上です。
最近思うように筆が進まなくてかつて無いほど間隔が空いてしまいました。

次回は久々にミネルバ組の戦闘です。
もしかしたら、カミーユを残したのには意味がつかないかも……

32 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/14(水) 23:59:10 ID:???]
久しぶりのGJ!
ステラ可愛いよステラw

33 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/15(木) 00:53:40 ID:???]
GJ!
前半がいつにも増してZぽかった
カツはモテない組かw
次回は大きな戦闘だね
期待!

34 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/15(木) 01:53:06 ID:???]
GJ!!
氏の書くステラとネオ大好きだ
ロザミィかわいいよロザミィ

35 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/15(木) 03:23:28 ID:???]
GJ!
シンとヨウランはなにやってんのよww
本気でオクレたち三人を大切に思ってるネオが切ないな……

36 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/15(木) 05:16:38 ID:???]
>>15


×司令
○指令

ファクシミリ?
違和感が・・・

×獅子心中
○獅子身中
虫は身の内にいます

文章が荒れているような・・・

37 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/15(木) 10:04:38 ID:???]
そんな日もあるさ
次回もwktk

38 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/15(木) 18:33:04 ID:???]
GJ!
二次創作だと悲劇や挫折から立ち直って有能かつ聡明になる例が多いだけに
今回のユウナはなんだか新鮮だな。
(もちろんTVでの扱いに比べればはるかに『気持ちはわかる』範囲内だけど)

39 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/15(木) 18:54:43 ID:???]
>>31
貴方にだってやることがあるハズです!
保守と>>1乙は僕がやります!

40 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/15(木) 22:13:28 ID:???]
>>31
乙です
一つ気になったのですが
なまじというのは使い方がおかしくないでしょうか?
なまじは中途半端という意味で
NTとしても最も優れた力を持つカミーユには合わないというか



41 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/15(木) 22:17:02 ID:???]
>>40
俺も少し気になった
でもまあいいんじゃね?
なまじ強すぎるっていうのは
NT能力が強すぎるって意図だし

42 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/15(木) 23:23:12 ID:???]
変かなぁ…
そんな違和感は感じなかったが

43 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/15(木) 23:43:07 ID:???]
使い方自体はおかしいといえばおかしい
まあどうでもいいが

44 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/16(金) 01:32:03 ID:???]
なまじ人の意思が感知できたばかりに……
とかだと中途半端の意だよね

>なまじ強すぎるニュータイプだからこそ
この場合は強すぎるニュータイプだから、かえって
って意味でいいんじゃないかな
とgoo辞書を見た程度で言ってみる

45 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/16(金) 10:11:25 ID:???]
英語もそうなんだけど
ひとつの単語にも言い回しによっては
色々意味が変わるのに杓子定規でしか図れない人が増えたよね。
美しいなんちゃらが流行ってにわか言語通が増えた。
芥川があえて間違った意味で使った言葉の言い回しが大流行して
今に定着してたりするし。

46 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/16(金) 23:24:54 ID:???]
そんな大げさな話かどうかは知らんw

47 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/16(金) 23:59:14 ID:???]
>>45
お前アホだろw

48 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/17(土) 15:22:33 ID:???]
>>47
人のことをアホと言ったら
自分もアホになるとヤザンに教えられた

49 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/17(土) 15:29:37 ID:???]
3の倍数だけアホになる

50 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/17(土) 21:54:58 ID:???]
5の倍数だけ犬になる



51 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/17(土) 23:25:38 ID:???]
涙の数だけ強くなる

52 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/18(日) 00:25:18 ID:???]
なんだこの流れw

53 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/18(日) 12:16:55 ID:???]
まさにオモロ

54 名前:286 mailto:sage [2008/05/18(日) 21:58:07 ID:???]
前スレの286です。「ハマーン様が種・種死世界に来たら」これでプロローグが終わりです
投下します。

55 名前:286 mailto:sage [2008/05/18(日) 21:59:05 ID:???]
目の男―ギルバートは奴ではない。彼女がそう気がついたのはたっぷり睨み付けたあとだった。彼女が聞き間違ってしまうほどよく似た声色だった。
ギルバートに気をとられていて忘れていたがとても大きな疑問が首をもたげた。目の前にある水を一口含んで問うた。
「なぜ、私は生きているんだ?」
それにさっきから感じている違和感はなんなのだろう。負傷しているせいで感覚が鈍っているのだろうか
「デブリ帯で半壊したMSとアンタを俺の隊が回収したんだよ」
と見覚えのない軍服を着た仕官―ハイネは言った。半壊?あのときモウサの壁面にぶつかって爆散したはずでは…。それにここはどこなのだろうか。
ネオジオンの艦ではないのはすぐ理解できたが、この対応はエゥーゴではない。ましてや連邦軍でもない。サイド3からどこかの中立地帯にまで流れた
のだろうか。それほどの長時間漂流していられるほどの酸素は積まれていない。とりあえず相手から断片的でも情報を得るべきだろう。
「それで、私をどうするんだ?」
「そうだな、プラントに着くまで少し尋問を受けてもらう」
「プラント?」
「正確にはL5宙域のアプリリウスだな」
「?その宙域にプラントなんてコロニーがあるなど初耳だな」
「聞いたことがないって本気で言ってんの?それとも言い逃れでもしようって腹か」
「ほう、では私がふざけている様に見えるか?」
「うっ」
軽く睨んで一言返しただけで黙ってしまった。まさかこんなに膠着状態に陥るのが早いとは。黙っていた『睨みつけてしまった男』が
おもむろに口をひらいた。黒髪で長髪と見た目は似てないがどうしても奴を思い出す。
「すまないがドクター席を外して頂けるかな。まずはキミの知っていることを話してくれないかね」ヒヨッコらしい仕官に助け舟をだしたようだ。
やはり不快感を覚える声だと彼女は思った。
尋問?終了後
医務室からでたハイネは先ほどの彼女―ハマーン・カーンの話を思い返していた。なかなか突飛な話だ。柔軟な思考を持っているほうだと
自負していたがそうでもないらしい。しかし突飛ではあるが「未知の技術が使われているMS」という証拠がある。信じることのほうが懸命だろう。
「キミもなかなか薄情だね」
ハイネが自分を置いていったことにギルバートはお怒りのようだ。やはり初対面であそこまで睨まれたら苦手意識を持つのは仕方ないことだろう。
「これから彼女とあのMSはどうするんです?」
旗色が悪くなる前に話題を変えた。ギルバートは少し眉をしかめるとわからないとしれっと答えた。それはそうだろう。想定外もいいところだ。
「カナーバ議員にお伺いをたてる、それからだな」
そう言って自室へとギルバートは自室にもどるようだ。妖しく輝く双眸とは裏腹に足取りをみるに相当疲れているようだ。
なかなか濃い一日だったと思う。おかげで戦争中であることを少し忘れられた。
ふと時計に目をむけるといつのまにか日付が変わっていた。ハイネは部下への指示を終えて自室に引き上げるとベッドに倒れこんだ。

56 名前:286 mailto:sage [2008/05/18(日) 22:02:04 ID:???]
2月6日 医務室
ハマーンはハイネに用意してもらった世界史の資料を読みふけっていた。どこの世界でも人は争わずにはいられないらしい。そして皮肉にもこの世界には
MSまで存在しているようだ。
デュランダルはどうするつもりなのだろうか。
「失礼するよ。資料を読んでくているようだね。この『世界』にきた感想はなにかあるかね?」
「宇宙にでることで人間が進化できるという話を思い出した」
「ほぅ?面白そうだね」
「回りくどいな。世間話をしに来たのではあるまい?」
デュランダルは目を閉じ一呼吸置いてから話しはじめた。
「プラントに来ないかね?君の話は実に興味深い、もっと詳しく聞きたい。それにあのMSにも興味があるのだよ、何しろ未知の技術の塊だからね」
「つまり私に利用価値を見出したということか」
――まあ、そういうことだね。デュランダルは苦笑しながら答えた。
「まあいい。今のままでは私の選択肢は何もないからな」
キュベレイはプラントに運び込んで解析を行う際の協力を行うことと、プラントの市民IDを発行するまでデュランダルの私邸に居候をすることが決まった。
おそらくデュランダルの独断だろう。そんな感じがする。どうやらこの男『も』単独での行動を好むらしい。
異邦人と元科学者という妙な組み合わせの二人は手を互いの握った。ハマーンはフッと微笑した。  
2月6日 深夜ギルバート私室
やはり疲れた。しかし彼女の協力を得ることができるのは大きい。その対価に自分の疲労など安いものだ、この程度。溜息をつきながらカナーバへの報告書をテキパキと
作成していく。歌姫の捜索は失敗だったがあまり気にしていない。ラウにそそのかされただけでやる気はあまりなかった。しかし戸惑いがなかった
わけではない。観客で満足なのに「お前も役者にならないか」とむりやり誘われているようなものだったのだ。
――いい加減引き摺っているのも惨めすぎるからちょうどいいのかもしれない。開き直るきっかけなのかもしれない。自分の配役を想像してみる。
突如現れる役というのは面白いものが多い。物語の変化のきっかけになったり、或いは変化は与えられなくとも物語の進行に貢献することは可能だ。
自分にも役が回ってきたのだろう。ギルバートは立ち上がり体を伸ばすと作業を再開した。
2月9日 
捜索部隊が帰還して2日後、クルーゼ隊に保護された歌姫が帰還した。生還した歌姫にプラントは沸き立ち、小規模のパレードまで行われた。
そのどさくさにキュベレイの運搬やハマーンのIDの作成などが行われ、デュランダルの抜け目がない行動で迅速かつ秘密裏にことは片付いた。
そしてハマーンはデュランダル邸に住むことを提案された。流石に右も左もわからない場所な上に外傷も完治していないのであっさり承諾した。
ギルバートは断るだろうと思っていたため目を丸くしていた。ハマーン曰く「これ以上世話になり過ぎるのも悪い」らしい。考えてみれば客を招くようなことも
殆どなく、仕事漬けで帰っても寝るだけで『彼』も寂しい思いをしているだろうから悪い案ではないとギルバートは納得した。






57 名前:286 mailto:sage [2008/05/18(日) 22:02:49 ID:???]
デュランダル邸にて
「貴女はなぜギルに協力することを決めたのですか?」
長めの金髪に中性的な顔立ちをした美少年――レイ・ザ・バレルは尋ねてきた。助けられた義理があると答えたが納得はできなかったようだ。
「貴女なら『半壊したMS」を使った駆け引きだって出来たはずです。この戦争に関わらない選択もできたのではないですか?」
「人は役目を得た時、それに従って生きなくてはならない。その役が大きなものであるほど責任が重くなり個人として生きるのは困難だ。そして気がついた時には
下ろすことが出来なくなるほどのモノを背負ってしまう。その過程で復讐も果せたが虚しいものだったよ。思えばその代償に見合うほどの収穫は私自身にはなかった」
「――」
「だから私は自分の目線で世界を見て私として生きてみようとおもったのだ。せっかく因縁やしがらみから開放されたのだからな」
レイの瞳が揺れている。レイの心にある闇が少しだが見えてしまった。
「誰もがあなたのように完全に開放されることを許されるわけじゃない!」
―お前は何に囚われている?―レイの心にも語りかけるように言葉をつづる。
「ッ!この感覚はいったい?これは何なのか知っているのか?」
「それはお前の力だ、まだ完全には目覚めていないようだがな」
「俺の力・・・?」
「そうだ。ニュータイプ能力、お前たちのいう『空間認識能力』の一端だな」
「俺は貴女のように強くなれるのか」
――或いは私以上かもなと彼女は微笑んだ。
遠い街の喧騒と人工の夕日にゆれるカーテンがすれる音が微かに響いている。この日、少年は「力」を得るきっかけを掴む。
少年より大きな「力」に引きずられるようにして。
彼らはまだ知る由もないが、時を同じくして一人の少女が歴史の表舞台に立つ準備が着々と進んでいく。女王という役を降りた者には新たな役を見つけようと
動き出し、歌姫は女王になるための階段を上りはじめて行く。彼女達が同じ舞台にあがるのはまだ先の話になる

58 名前:286 mailto:sage [2008/05/18(日) 22:04:28 ID:???]
プロローグ二人の女王はこれでおわります。

59 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/18(日) 23:39:41 ID:???]
なんとも読みづらい

60 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/19(月) 02:44:39 ID:???]
投下乙

次回も楽しみにしてますよ



61 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/19(月) 13:02:43 ID:???]

心成しか一つ一つの会話文が長いと思う
心理描写やちょっとした動作を文中に挟んでみたら如何か

と素人が言ってみる

62 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/20(火) 08:44:59 ID:???]
wzy.up.seesaa.net/image/002.JPG

63 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/20(火) 20:01:58 ID:???]
乙。
続きを期待して待ってます。
ところで、ハマーンって子供に優しいよな。いいお母さんになりそうだ。

64 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/20(火) 23:17:54 ID:???]
wzy.up.seesaa.net/image/0520_01.jpg
wzy.up.seesaa.net/image/0520_02_2.jpg
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wzy.up.seesaa.net/image/0520_05.jpg

65 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/21(水) 16:13:21 ID:???]
>>63
つまり俺の嫁ってことですね

66 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/21(水) 20:50:36 ID:???]
>>65
俗物がぁっ!調子に乗るな!!

67 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/21(水) 22:27:00 ID:???]
(▼Д▼)<例え若くとも取り返しのつかない過ちもある…

68 名前:286 mailto:sage [2008/05/22(木) 17:29:12 ID:???]
59 60 61 63
リアクションをありがとうございます。ど素人の処女作なんでスルーされない
だけでもありがたすぎてマジでうれしいです。
少しづつでも成長をできるようにがんばります。構想は結構できているのですが
遅筆なうえに平凡な自分では形にうまくできないですが
完結目指したいです。次の投下は来月を予定してます。

69 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/22(木) 21:00:06 ID:???]
>>68
とりあえずアンカーの仕方覚えれ

70 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/22(木) 22:46:49 ID:???]
保守



71 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/23(金) 14:33:19 ID:???]
うちに住まないか?→これ以上世話になるのは悪いから、住む

もっと世話になってる気がするのは俺だけだろうか?

72 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/23(金) 14:50:28 ID:???]
>>71
「うちに住まないか?」を断ろうとしたら
「なら別に家を用意しよう」とでも言われたんだと脳内補完してたぜ。

73 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/23(金) 23:32:56 ID:???]
保守が降りしきるペントハウスで
空のオルゴール一人聴いてた


74 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/24(土) 01:16:30 ID:???]
>>73
ハマーン様の哀しさを謳った素晴らしい歌ですね。
グラサンロリコンは氏ねとw

75 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/24(土) 19:57:11 ID:???]
>>73
なんだっけ?それ

76 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/24(土) 20:03:14 ID:???]
うぉうぉうぉ さーぃれーぼーぃす さーぃれーぼーぃす 

77 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/24(土) 21:26:32 ID:???]
>>75
ググレカ…げふんげふん。ZZのウタダヨ

78 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/25(日) 01:12:40 ID:???]
アニメじゃない!

79 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/25(日) 06:19:38 ID:???]
ほんとのこ〜とさぁ〜

80 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/25(日) 13:18:59 ID:???]
まとめの更新はどういうこっちゃ?



81 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/25(日) 14:12:50 ID:???]
ファがメインキャラで登場する作品を読んでみたい。

82 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/25(日) 18:15:23 ID:???]
サイレントヴォイスは本多知恵子が歌ったやつのほうがオリジナルより好きだぜ

83 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/25(日) 22:42:38 ID:???]
プルがハマーンの歌を歌う…何て皮肉な

84 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/26(月) 00:37:01 ID:???]
アニメじゃないって結構カッコイイ曲だと思うんだが
すごい不評なんだよなぁ。歌詞だけで拒否反応かな・・
某動画のアニメージュ年度別アニソングランプリでの
叩かれぶりにワロタ

85 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/27(火) 00:10:49 ID:???]
ほす

86 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/27(火) 13:09:34 ID:???]
>>84
「アニメじゃない」は俺も好き。
歌詞だって通して聞けば良い詩だと思う。

87 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/27(火) 13:16:03 ID:???]
ガンダムソング的にねーよwって感じる人が多いんじゃない
>アニメじゃない

88 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/27(火) 18:25:20 ID:???]
当時は
アニメだ、冷静になれ
と言いたくなるヲタがここまで増えるとは予想できなかったなぁ




世間から見れば俺も大差ないか…

89 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/27(火) 21:04:09 ID:???]
>>87
常識と言う眼鏡で見ているんだな

90 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/28(水) 12:09:01 ID:???]
夢を忘れた古い地球人ですね わかります



91 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/30(金) 01:28:36 ID:???]
ほしゅ

92 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:43:16 ID:???]
  『少年達の戦い』


 朝日が昇る。東の空から、眩い光を放って一日の始まりを告げていた。
 暁の空。それがザフトの地上での最後の戦いが始まる合図とは、なんとも皮肉なものだろう。昇る太陽は、連合軍の隆盛の始まりを象徴しているかのようで、ザフトの誰もがそれを疎ましく思った。

 輝きで霞む水平線の向こう――細かいゴマ粒程度の黒点が、ジブラルタル基地を目指していくつもの集団を形成している。それはジブラルタル基地を取り囲むように接近を続け、やがてMSの姿形が浮かび上がってきた。
連合軍の一団が、ザフトを駆逐するべく大挙して押し寄せてくる。それは、地球上に於けるザフトが既にジブラルタル基地にしか存在しない事を証明するものだった。

 夜通しの打上げ作業は、ザフト地上軍の50%弱の戦力を宇宙に帰還させることに成功した。それは、当初の計画よりも遥かに時間的な短縮が行われた作業だった。加えて、予想以上に機雷の撤去に時間を掛けてくれた連合海軍のお陰でもある。
敵の侵攻に遅れが出ている分、ザフトは着々と宇宙への脱出を続けていたのだ。
 しかし、その反面で手放しで喜べない事情もある。連合軍の侵攻がある以上、敵の第一波攻撃は確実に防がなければ残りの部隊の脱出は厳しいだろう。一度撃退し、連合軍が態勢の立て直しを図っている間に打上を行うのが、今考えられる最も現実的な見解だった。
だが、大部分の戦力を宇宙に放り上げてしまった今、ジブラルタル基地の戦力は大幅にダウンしている状況なのだ。師団規模の大部隊で押し寄せてくる連合軍に対し、ザフトは苦しい展開を強いられることになるだろう。
 そこで、その戦力差をカバーする為に、地球低軌道上からザフト宇宙軍の援護が入ることになっていた。旗艦ボルテークを中心に、ジブラルタル基地援護のために集ったザフト宇宙軍が低軌道上から対地ミサイルで連合軍を牽制する。

 ジブラルタル基地周辺に於いて、遂にザフトと連合軍の戦闘が開始された。プラント本国からの報告どおり、侵攻を続ける連合軍に対して注がれる宇宙からの援護射撃。そのお陰で、連合軍の侵攻速度は大幅なダウンを余儀なくされていた。
 ところが、白みかけの、消えかかりの月がまだ顔を覗かせている空で、光芒が瞬いていた。地上からでも目視できるその光は、低軌道上でザフト宇宙軍が交戦している証だった。
ジブラルタル基地の援護に駆けつけるザフトの行動を見越して、連合宇宙軍も低軌道上へ艦隊を派兵していたのだ。

 ジブラルタル基地上空、その低軌道上では、ゴンドワナ級超ド級戦艦ボルテークを中心としたザフト艦隊が援護射撃を続けていた。そこへ攻撃を仕掛けてくる連合宇宙軍。双方共にMS隊を出撃させ、ジブラルタルに負けず劣らずの艦隊戦に突入していた。
 出撃するMSの中には、ジブラルタル基地から上がってきて回収された兵士の操るものもあった。この戦いは、ジブラルタル基地から上がってくるザフトの数が大きなポイントなのだ。
残されたミネルバを筆頭とした残り部隊が宇宙に上がれるかどうかが、これからの戦争の行く末を左右する。そういう戦いだった。

 奇妙な偶然に巻き込まれ、運悪くこの作戦に駆り出される事になったカミーユ。先行したアークエンジェルは今頃、プラントに辿り着けている頃だろう。
どこで歯車が狂ったのか、本当はそれに随行するはずだったカミーユは何故かこうして低軌道上で戦いをする羽目になっている。
 それでも、ほんの少しの救いとはいえ、Ζガンダムはエリカと調整の見直しを行ったせいか、随分と扱い易くはなった。そもそもムラサメを基準に考えて調整を行っていたのだ。無理があって当然というのは過言ではないはず。

『各機、聞こえているな。低軌道上だ、間違っても地球の引力には引っ張られるなよ』

 イザークが全周波通信で注意を促してきた。その懸念も当然。ほんの少しでも高度を見誤って下げすぎてしまえば、それは一貫の終わり。地球の重力に引っ張られて、大気との摩擦でMSは粉々に砕け散ってしまうのだ。
それ故に、イザークは総員に警告する。普段どおりに戦っていては、その点を失念する恐れがあるからだ。

「とは言っても――」

 勿論、不測の事態も予測できる。どんなに気を配っていても、敵との交戦中に間違って高度を下げすぎてしまう事だって十分に考えられる事だ。
あの赤い彗星のシャア=アズナブルですら、カミーユを庇ったとはいえ、百式を行動不能に陥らされて危うく焼け死ぬところだったのだ。注意を払っていても、過信は良くないということだ。

93 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:44:18 ID:???]
 ザフトと連合軍の艦隊戦は続く。いくつものビームの煌きが輝き、爆発の火球が光っては消えるを繰り返す。その度に、人の命は失われていく。
 戦闘宙域はミノフスキー粒子に覆われ、先程のイザークの通信を最後に電波の感度が著しく低下している。戦艦はひたすらに砲撃戦を繰り広げ、MSは白兵戦に突入していた。
 カミーユの駆るΖガンダムは、ロザミアのガンダムMk-Uと共に敵MS部隊と交戦する。ウインダム、ダガー、ユークリッド――並居る敵の群れを、2人のコンビネーションが悉く蹴散らしていく。

「ロザミィ、高度には気をつけるんだ。Mk-Uに、大気圏を突破する能力は無い」

 ロザミアは、その辺の事情が分かっているのだろうか。カミーユと共に戦える事に、ある種の興奮状態に入っている彼女は、無邪気にはしゃいでいるようにも見える。細かく注意を促してあげないと、いつの間にか引力に引っ張られていそうで怖い。

『ウフフ! 大丈夫よ、お兄ちゃん。こいつらが来るお陰で戦わなくちゃいけないって事、あたし、分かるんだ』
「ロザミィ……そういう事を言う!」

 ビームサーベルで切り掛かってくるウインダムの斬撃をひらりとかわし、背中を踏みつけて後方のダガーLをビームライフルで狙撃する。コックピットへの直撃を受けたダガーLは爆散し、踏み飛ばされたウインダムは地球へと流れていった。
そして、引力に引かれてコントロールを失い、そのまま大気圏へと突入していく。まるで青い宝石の中に吸い込まれていくようにその姿はぐんぐんと小さくなっていき、赤い火の玉となって燃え尽きて行った。
 ほんの少しの高度の誤りが、生死の分かれ目になる。それが、地球低軌道上の戦いだ。しかし、危険な場所であるにも拘らず、ロザミアはウインダムの最期に見向きもせずにビームサーベルでダガーLを突き刺していた。
 そんなガンダムMk-Uの背後から、ザムザザーが高速で襲い掛かってくる。カミーユはΖガンダムを突っ込ませ、ロング・ビームサーベルでザムザザーを両断した。

「前に出すぎだ、ロザミィ! そんなんじゃ、地球の重力に引っ張られる!」
『平気よ、このくらい』
「燃えちゃうんだって!」

 気分が高揚して気が大きくなっているロザミアは、カミーユの忠告も無視して敵MSへの攻撃を続ける。慎重にならなくては危ない低軌道上での戦いでも、ロザミアは関係ないとばかりに、まるで戦いを楽しんでいるかのように突っ込んでいった。
 この無邪気さは、どうにも出来ない。ロザミアは、コロニー落としのトラウマを利用されて強化された。強迫観念による強化を受けた彼女の情緒は著しく不安定なもので、そのせいで幾重もの精神操作を施され、遂には本来の自我を崩壊させられるまでに至った。
人工的な施しでニュータイプを造ろうとした研究員のエゴに振り回され、ロザミアはロザミアである事を維持できなくなってしまったのだ。
 今のロザミアの記憶は、全て偽りで固められている。凶暴さと幼さを同居させる複雑な性格を併せ持つロザミアは、戦う事が兄のカミーユを手助けする手段と思い込んでいた。その行為を、当のカミーユは諌める事が出来なかった。

 敵の攻撃が厳しくなる。ロザミアのガンダムMk-Uが見せる鬼人の如き活躍を脅威に感じた連合軍が、被害拡大を恐れて2機を取り囲んできた。周囲をMS隊に囲まれ、四方八方からの砲撃が串刺しにせんとばかりに浴びせられる。
 カミーユとロザミアは背中合わせになり、互いに背後をカバーして砲撃の中を耐えていた。通信は繋がらない。味方からの援護は、まず期待できないだろう。ロザミアが突出しすぎたお陰で、味方部隊とも離れてしまっている。

「ひょいひょい襲ってきたって、あたしとお兄ちゃんなら――落ちちゃいなよ!」

 文句を言いながら、ビームライフルで牽制を繰り返すロザミアのガンダムMk-U。しかし、取り囲まれてしまっている状況で反撃を見舞っても、敵は簡単に散開してまるで突破口を開けない。カミーユも応戦しているが、如何せん立場的に不利過ぎる。
 何とかビームライフルでウインダムの一機を撃墜する事が出来たが、如何せん数が多くて焼け石に水だ。Ζガンダムの背後でビームの一発がガンダムMk-Uの頭部を掠めてバルカン・ポッドを吹き飛ばした。

「生意気やってくれちゃってぇ! こんなの――うぅっ!」

 圧殺を狙ったような圧倒的な火線の多さに、流石の2人でもいずれは撃墜されてしまいそうだ。ロザミアの不安が表に出たように、ガンダムMk-Uが頭をキョロキョロと振り回していた。

『何処見てもMSばかり! どうしよう、お兄ちゃん!』
「言わんこっちゃ無い! 敵のテリトリーに食い込みすぎたんだ。こう数が多いと、まともな手段じゃ突破できないぞ……」

94 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:44:58 ID:???]
 ロザミアの過失を責めても仕方ない。カミーユは割り切り、ロザミアの不安を打ち消すように冷静に対処方法を探っていた。
 やがて、敵の砲撃にも慣れてきた頃、反対にこちらからの反撃が当たるようになってきた。カミーユとロザミアはまるで互いがシンクロしているかのようにMSを操って見せ、並居る敵MSとビームの応酬を繰り返していた。
突破する機会が巡ってきた――そう思いたかったが、しかしそれが良くなかった。驚異的な戦闘力を見せられた連合軍は、更に多くの兵力をカミーユ達にぶつけてきたのだ。
 せめて、キラのストライク・フリーダムの様なMSであれば何とかなったかもしれない。しかし、ビームライフルで1機2機と地道に撃墜していく事しか出来ないΖガンダムとガンダムMk-Uでは、次々と増援で現れる敵MSの群れに対して突破口を開くまでには至らなかった。

「クッ! どうする……? こうなりゃ――」

 チラリと、足元の地球を見た。流石に、重力に引っ張られる恐れのある地球方面から狙ってくるような敵は居なかった。そして、今乗っているのはΖガンダムである。そうとなれば、この窮地を脱する方法は一つしかあり得ない。
 意を決し、カミーユはロザミアに告げる。

「――ロザミィもう限界だ、地球へ降りる! 僕が合図したら、Mk-Uを地球へ!」
『えっ? でも――』
「このままじゃ埒が明かない。ウェイブライダーでMk-Uを乗せて、大気圏突破を試みる!」
『わ、分かったわ』

 設計上、Ζガンダムには大気圏突入能力が備えられている。エリカと協議を重ねた結果、出来るだけオリジナルに近い機体に仕上げようと結論付けたからだ。しかし、そのテストをする機会は遂に得られぬまま、Ζガンダムはロール・アウトすることとなってしまった。
正直、カミーユでもどうなるのかが分からない。万が一の事態として、フライング・アーマーが予定していた機能を発揮できずに燃え尽きる事になってしまうかもしれない。その反面で、今の状況では地球に降下するしかないという焦りもあった。
 流石のロザミアも、大気圏の恐怖は分かっているようだ。コロニー落としを思い出したわけではないが、大気圏を突破してきたボロボロのコロニーが地上に突き刺さる光景が潜在的にトラウマとなって残っている彼女にとって、大気圏突入はちょっとした勇気の要る行為だった。
 タイミングを見計らうカミーユの瞳が、絶え間なく敵の動きを監視している。Ζガンダムがバルカンとビームライフルで牽制すると、敵の砲撃が一瞬だけ緩くなった。

「ここだ――地球へダイブ!」
『あっ、は……ッ!』

 カミーユが叫ぶと同時に、ロザミアはその言葉を信じ、ガンダムMk-Uのバーニア・スラスターを全開にして地球へと向かった。そして、その後をウェイブライダーに変形したΖガンダムがガンダムMk-Uに追走する。

「くっ、うぅ……ッ!」

 低軌道上だけあり、地球の重力に引かれるのは直ぐだった。力いっぱいに地球へと駆け出したガンダムMk-Uは、あっという間に引力に捕まり、コントロールが効かなくなる。コックピットの温度も上昇していき、全天のモニターが警告のサインをひっきりなしに表示した。
ロザミアはその中でコンソール・モニターにしがみ付くように震え、瞳をギュッと閉じて耐えていた。宇宙から感じる地球の重力とは、こういうものなのか――確実に引力に引っ張られている感覚を抱き、唇を噛んだ。
 それは、現実時間にしてほんの十数秒の間だっただろう。果てしなく続くかと思われた不安の時間は、しかし唐突な浮遊感と共に終わりを告げた。コックピットの全面に表示されていたアラートは消え、温度上昇も和らいだような気がする。
ロザミアが閉じていた目を開くと、いつの間にかガンダムMk-Uはウェイブライダーの背に乗って大気圏内を滑空している状態だった。

『機体各部チェック――行けるぞ……! 機体をウェイブライダーの外に出すと、ショック・ウェーブで吹き飛ばされる。そのままの姿勢でじっとしているんだぞ、ロザミィ』
「お兄ちゃん――分かったわ」

 上方を仰ぎ見る。先程まで交戦していた敵MS部隊は、既に点になるほど離れていて、流石に大気圏内まで追ってくるような猛者は居なかった。単独で大気圏を突破できるΖガンダムだからこそ出来た、逃走方法。とりあえずは上手くいったようだ。

「これからどうするの?」
『このままジブラルタルに降りよう。そこでザフトと合流すれば、もう一度ソラに上がれるはずだ』
「でも、そこも敵に攻撃されているんでしょ? 大丈夫かしら」
『エマ中尉やシンが居る。大丈夫さ』

95 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:46:44 ID:???]
 キラと同様に、ミネルバにも新型のMSが数体配置されたと聞いている。ヘブンズ・ベースでは、その圧倒的性能を以って多大なる戦果を挙げたとなれば、そう簡単にはやられないだろうとカミーユは思っていた。
 そんなカミーユの言葉を聞き、幾分か不安の治まってきたロザミアは真っ赤に染まる全天モニターの景色を見つめていた。こんな風に燃え盛る景色は、滅多にお目にかかれるものではないだろう。
一歩間違えば、ガンダムMk-Uといえども一瞬にして燃え尽きてしまうその景色も、ロザミアの瞳には魔性の光景として映っていた。赤いフィルター越しに見る青い地球の美しい魔力が、ロザミアの感性を掴んで放さないかのようだ。
 しかし、そんな考えも、カミーユに守られていると感じることで不思議と怖くなくなった。これがカミーユの与えてくれる温もりと知っているロザミアは、やはりカミーユが兄で間違いないと改めて確信しながら、眼前に迫る大きな青い星を好奇の目で見据えていた。


 ウェイブライダーが大気圏突入に成功していた頃、地上のジブラルタル基地に於ける主戦場では、並居る敵MSから防衛線を張り、必死に抵抗を続けるザフトの姿があった。連合軍の部隊編成は、大西洋連邦軍やユーラシア連邦軍からの派兵部隊が大多数を占めている。
しかし、その中にも大洋州連合などのかつてプラントと友好的関係にあった国の部隊も存在していた。ロゴスからブルー・コスモスを経由し、大西洋連邦を経て掛けられたジブリールの圧力が、戦争に消極的姿勢を見せる国々を動かしたのだ。
オーブ陥落の影響は、穏健思考を持つ国の世論を跳ね飛ばし、強制的に従属を強いられる結果となってしまった。
 最早、今のジブリールは強権を手にした独裁者に近く、核融合炉の技術を手にしたプラントと本格的な抗争に入ることで戦時特需を喚起させ、戦後の主導権を握ろうと暗躍していた。

 海と陸――両側を挟まれたジブラルタル基地の陥落は、ほぼ間違いない。大西洋方面からの侵攻軍の対応に出たアスラン率いるミネルバ隊は、押し寄せる敵MSの群れの中で必死に抵抗を繰り返していた。
 何度目かの補給を終え、朝日が昇ると同時に開戦したこの戦いも既に昼の12時を廻っていた。連合軍は物量を利用して波状攻撃を仕掛け、ザフトに対して休む暇も与えない。ベルリンともヘブンズ・ベースとも違う、地球軍の本気を感じた。
 アスランのインフィニット・ジャスティスが、ビームライフルを連射して2機3機と敵MSを撃墜する。

「この敵の仕掛け方は――」

 ファントム・ペインが見当たらないが、想像以上の激しさを感じた。9割以上がナチュラルで構成されている連合軍のパイロットの中で、ファントム・ペイン以外のパイロットがザフトのトップ・エースであるアスランと比肩し得る者は居ない。
しかし、飲み込まんばかりに襲い掛かってくる連合軍の波状攻撃は、タフなコーディネイターであるはずのアスランの体力すら奪っていく。
 止め処なく攻撃を続けてくる敵MS隊に辟易し始めた頃、そんなアスランの疲れを見越したウインダムの一団が、新型エース機であるインフィニット・ジャスティスを仕留めて星を挙げようと襲い掛かってきた。
集団で撃ってくるビームライフルは、数が多く体捌きだけではかわしきれない。ビームシールドを展開し、動きを封じられたインフィニット・ジャスティスに対して格闘戦を挑んでくる。

「――いい気になるなッ!」

 インフィニット・ジャスティスの本領は、接近戦にこそある。砲撃戦に特化したストライク・フリーダムと対を成すような特性を持つインフィニット・ジャスティスは、全身にビーム刃が内蔵されているようなものだ。
 爪先からビームブレイドが発生し、両マニピュレーターにビームサーベルを握らせて二刀流の構えを取る。アスランは向かってくるウインダムの一団に対して突撃を敢行し、その中で踊るように剣を振って一瞬の内に切り刻んだ。

「ハァ――ッ!」

 大きく息を吐き出し、アスランは一瞬気を緩める。体力の消耗が、徐々に無視できないものに変わってきた。その隙を突くように、今度は背後からザムザザーがクローでインフィニット・ジャスティスを掴みかかる。
 足元を掬われる様にザムザザーのクローがインフィニット・ジャスティスの脚部を捕獲した。ゴツンという振動と共に、コックピットの中のアスランも大きく体を揺さぶられた。疲れている時に受ける衝撃は、思った以上に体に堪える。

96 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:48:52 ID:???]
「コイツ――ッ!」

 背中に装備されているファトゥム01が、パージされる。ファトゥム01からビームブレイドが発生し、ビームスパイクとなってザムザザーを脳天から突き破った。
そして、クローの握力が弱まってそこから逃れると、苛立ちをぶつけるようにビームサーベルをコックピットに突き立てる。
 煙を噴いて墜落していくザムザザーは、海面に衝突する前に爆散した。アスランは再びファトゥム01と合体し、周囲の索敵を怠らない。

「まだ来る――シューティング・ゲームじゃないんだぞ、これは!」

 驚きに目を丸くし、溜息混じりに言葉を漏らす。一時的に侵攻を防いだと思っていた矢先に、今度はウインダムとダガーLの混成部隊が飛来してくるのが見えた。数は、少なく見積もっても中隊規模はある。
 他のザフト部隊はどうしているんだ――アスランはいつもの癖でレーダーを確認するが、ミノフスキー粒子のばら撒かれた状態では乱れるばかりで意味を成さない。仕方なく、アスランは目視で周囲の状況を確認するしかなかった。
 連合軍の呆れるほどの物量攻撃。敵MS隊の群れが近付いてくるその側面からビーム攻撃を仕掛けるMSが居た。ハッとしてカメラで画像を拡大する。エマの乗るセイバーだ。

『――ランは一度後退――い』
「エマさん――」

 電波妨害で通信状態が芳しくない。アスランはヘルメットを手で押さえて、反芻するようにエマの声に耳を傾けた。

「エマさんこそ、大丈夫なんですか? 補給は十分ではないでしょう」
『直ぐに交替で――が来るわ。あなたは少しでも休める時に――』

 ノイズが混じり、それ以上は聞き取れなかった。

「全く、ミノフスキー粒子って奴はよくもここまで不便にしてくれたもんだよ!」

 セイバーがMA状態のまま、ロール回転して敵MS隊に攻撃を仕掛けている。エマは流石に飲み込みの早い女性で、アスランが伝授したようにセイバーを扱って見せていた。連射性の高いフォルティス砲を取っ掛かりに、威力の大きいアムフォルタスを巧みに使い分けている。
 しかし、純粋なナチュラルであるエマがこの短いインターバルで体が保つのだろうか。彼女が補給に戻って、ほんの2、30分程度しか経っていない。恐らく、エネルギーの補給だけをして、直ぐに戦線に出てきたのだろうが――
一方のアスランも、既に2時間弱この空域で粘っている。その疲労度を心配してくれるのは嬉しいが、根本的に体の耐久力の違うコーディネイターである自分に、もう少し任せてくれてもいいのにと思った。
 エマにだけこの戦線を任せておくわけには行かない。アスランがエマの労わりを裏切るようにインフィニット・ジャスティスを機動させようとした時、一発の高エネルギービームが敵MS隊の集団を切り裂いた。

「――あれは!」

 そこに飛び込んできたのは、光の翼を見事に広げたMS――デスティニーだった。残像で敵MS隊をかく乱するように機動し、手にしたビームサーベルでバッタバッタと立て続けに切り刻んでいく。
 そして、インフィニット・ジャスティスの背後からも高エネルギービームが通り過ぎていった。振り向くと、長い砲身を両脇に抱えたブラスト・インパルスが構えていた。
インパルスは左のマニピュレーターをケルベロスのトリガーから放すと、ワイヤーを伸ばしてインフィニット・ジャスティスに接触してくる。

『ザラ隊長は一度お戻りください。レイもカツも、補給を兼ねてミネルバに帰還しています』
「ルナマリア――そうは言うが、ジャスティスはまだ余裕がある。もう少し行けるさ」

 実際にインフィニット・ジャスティスは余力を残していた。それは、少しでも長く戦場に留まれるようにというアスランの隊長としての気骨だったわけだが、そんなアスランに対して接触回線越しのルナマリアから溜息が聞こえてきた。

『――格好つける人って、格好悪いですよ。ここはあたし達に任せて、隊長は一度休憩を挟んでください。いいですね!』

 そう言うと、ワイヤーを引き戻してインパルスはインフィニット・ジャスティスの脇を素通りし、交戦空域に向けて加速して行った。アスランはポンと軽くヘルメットを叩き、仄かにバイザーが湿る程度の溜息を吐いた。

「邪険にされた――というよりは気を遣ってくれていると思いたい。しかし――」

97 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:49:36 ID:???]
 ミネルバの仲間は、信頼していいと思う。配属された当初は、アスラン一人の技量が飛びぬけて高かった。しかし、今では新たにMSも支給され、それに底上げされるように全員の力が上がっている。
特にシンやレイは、元々高かったポテンシャルが新型MSの性能に引っ張られて急速にその才能を開花させていた。とてもザフト・レッドとは思えなかったルナマリアも、その後の人知れずに行っていた努力が報われたのか、苦手としていた射撃の腕が向上していた。
 それにしても、オーブ陥落からこのジブラルタル基地の危機と、一時はヘブンズ・ベースで盛り上がったザフトの反撃の狼煙が下火になりつつあることを感じざるを得ない。この結果が、全てデュランダルの演説の責任にあるとは思わないが、その一端は確実に彼にあると思える。
連合軍――突き詰めればジブリールの感情に火が点いた事であるが、どういうつもりで居るのかが、アスランには図りかねていた。これでは、ザフトは追い詰められるだけで反撃の糸口すら見えないのではないか。

「ジブリールを逃がしておきながら、あの時にオーブを危険に晒してまで世界放送を展開する意味はあったのか? 議長は、一体何を――」

 信頼をしていないわけではない。ただ、先見性のないデュランダルの思惑が、いまいちアスランには理解できなかった。コーディネイターとナチュラルの未来を夢見ている事は分かるが、結局は対立の溝を深める結果になってしまっているのではないだろうか。
 ジブラルタル基地周辺の空は、ビームの軌跡と爆発の閃光で彩られている。周囲を見渡し、アスランは疲労で痛めつけられた肉体的、精神的な苦痛を癒す為に、ミネルバへの進路を取った。

 ジブラルタル基地の最終防衛ラインで、ミネルバは前線への援護で砲撃を繰り返していた。開戦直後にタンホイザーで敵艦隊に奇襲を仕掛けた後、ミネルバはジブラルタル基地の砲台と呼吸を合わせて敵MSの侵入を防いでいる。
 そのミネルバへ、レジェンドが帰還した。甲板では、まるで番犬のように位置取るガイアが、前線を抜けてきた敵MSへの牽制を繰り返し、レジェンドの収容を援護していた。
 ステラがガイアを返還した事により、ようやくガイアを本来のザフトMSとして使う事が出来るようになり、それにはカツが乗ることとなっていた。ムラサメとの操縦性の違いから扱い勝手が違うガイアでも、カツはそれなりに運用する事が出来ている。
戦争博物館の館長であった養父・ハヤト=コバヤシのお陰か、カツの様々なMSに対する適応性は高い。グリプス戦役に於いても、ガンダムMk-U、ネモ、メタス、そしてG・ディフェンサーと、様々なタイプの機体を経験したがゆえだろう。
本人も、ガイアの運用にはそれなりの手応えを感じているようだった。
 ベルリン以来、カツの出撃はこれが復帰戦となる。大規模な戦闘はグリプスを戦ったカツには慣れっこだが、世界を変えて一番の大規模戦闘に、カツの疲労も重なっていた。

「敵の仕掛けが早すぎるんじゃないのか? ブリッジ――」

 連合軍の侵攻は、予想以上に手厳しいものだった。カツがブリッジに戦況を確認しようとした時、危険な予感が頭の中を迸った。これは、ベルリンで感じたものと同じだ。驚異的な破壊力を持った巨人が、陸地の向こう側から迫ってきているのを感じる。
 首を振り回してそわそわするカツの元へ、レジェンドが接触してきた。

『どうした、カツ。ミネルバへ入れ』
「レイは感じないのか? 向こうから、デストロイが来ているかもしれないって――」
『何?』

 考えられない話ではない。連合軍がジブラルタル基地を落とそうと考えているなら、デストロイ投入はあって然るべきだ。移動速度の遅さから今までに出てこなかった方が自然と考えるが、端から出し惜しみしていたとしても不自然。
しかし、確認を取ろうにもジブラルタル基地周辺は既にミノフスキー・テリトリーに変質しており、陸上部隊への連絡は遮断されている状態だ。
 その時、陸戦部隊が前線を張っているであろう方向で、大きな爆発が起こった。連鎖的に起こる爆発は、一瞬にして緑地を火の海に変えていく。カツの言葉が真実とすれば、デストロイの砲撃である事は疑いようのない光景だ。
 レジェンドはそのままミネルバに入らず、ワイヤーを飛ばしてブリッジに直通回線を繋げた。

「タリア艦長、今の爆発は見えていますか?」
『確認しているわ。どうやら、敵の本命がミネルバの反対側から迫ってきているようね。こちらの疲弊の隙を突かれたのよ』
「そう思います。自分としては、陸戦部隊の様子が気がかりです。そちらへの援護の必要性を認めますが――」
『そうね……』

98 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:50:10 ID:???]
 レイの提言に少し考え、タリアは続ける。

『あなた達の補給は大丈夫なの?』
「レジェンドは大丈夫ですが、ガイアは――」
『僕も、レイの案に賛成です。デュートリオン・ビームの照射をしてもらえれば、ガイアはまだ戦えます。それに、ミネルバは旗艦の役割を果たさなくちゃいけないんですよね? なら、このままじゃ、ミネルバも背後を突かれちゃいますよ!』

 口では強がっているが、疲労は想像以上に蓄積されているはずである。それを考えると、貴重な戦力である彼等にはあまり無理をさせたくないのが、艦長としてのタリアの心の内だった。
 しかし、陸戦部隊への援護をしなければ、ジブラルタル基地の陥落は早まる。2人の言う事にも一理あるだけに、タリアは少しの間思案を重ねた。そんな時、ウインダムをビームサーベルで切り裂きつつ帰還してきたインフィニット・ジャスティスが見えた。

『アスランの意見も聞きたいところね』
「分かりました」

 タリアの意見に頷き、レイはレジェンドのデュアル・アイで光信号を送った。人の行為に例えるならば、“目配せ”である。勿論、ある程度の取り決めは定まっているのだが、同じ部隊で長くやってきた彼等の一種のチームプレイと言えるだろう。
 アスランはそのレジェンドからの信号を受け取り、“了解”の返事を送るとレジェンドと同様にワイヤーを飛ばしてブリッジに通信を繋げた。

「どうしたんです?」
『陸戦部隊の方に、デストロイが出たらしいのよ。そちらへの援護を出したいところだけど、あなた達の疲労の具合も気になるわ。あなたの意見を聞かせて頂戴』
「そういうことなら――」

 ちらりとレジェンドとガイアを見た。レイはワイヤーを繋げたまま、こちらの話を傍受できているのだろう。一方で、ガイアはミネルバからのデュートリオン・ビームの照射を受け、エネルギーの回復を行っていた。

「2人は何て言っているんです?」
『援護に出たがっているわ。私としては疲労度が気がかりだけど、そういう場合でもないしね』
「なら、俺も賛成です。デストロイに背後を突かれるのは面白くありません。直ちに、小隊を組んで陸戦部隊の援護に向かいます」
『ごめんなさいね』
「しかし、独立小隊として指揮権はこちらに移譲してもらいます。フェイス権限として、そうさせてもらいます」
『分かりました。頼みます』
「了解」

 ブリッジに繋がるワイヤーを引き戻し、今度はレジェンドにワイヤーを繋げた。呼応するように、レジェンドはガイアにワイヤーを放り投げて接触する。

「2人とも、聞いての通りだ。疲れているかもしれないが、陸戦部隊援護のために、インターバルをカットしてイベリア半島側の前線へ向かう。しかし、無理だと判断したら直ぐに引き返してくれて構わない」
『自分は大丈夫です。大西洋側はシン達が上手くやってくれるでしょう』
『僕も平気ですよ。ヘブンズ・ベースをサボったんだから、これくらいはやって見せます!』
「すまない――ここからの指揮は、俺が直接執る。俺とレイ、そしてカツの3人で独立小隊を組む」
『了解』

 インフィニット・ジャスティスを先頭に、レジェンドが続き、MA形態に変形したガイアは地を駆ける。
 ひっきりなしに掛け声が飛び交うミネルバのブリッジの中、タリアは手元の専用モニターで3機の後ろ姿を見た。ザフト最強の部隊として彼等を酷使しなければならないのは、非常に申し訳ないと思う。
まだ少年の彼らにとって、戦いは自らの青春や感性を削ぎ落としていく行為にしかならない事も、タリアは分かっていた。そして、それが昔の男の所業にあるとすれば、関係を持っていた彼女も責任を感じざるを得なかった。
 プラントに於いての成人年齢は、それまでの人類の歴史の中でも早い方だ。しかし、成人でも彼等がまだ少年である事には変わりない。子供を死地に向かわせなければならないこの戦争は、どこまで深い業を背負っているのだろうか。
タリアは不謹慎にも戦闘中にそんな事を考えてしまった。



99 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:51:42 ID:???]
 成層圏に入り、大空を滑空するカミーユの目に、雲の合間から大陸の影が視界に入ってきた。ΖガンダムとガンダムMk-Uはウェーブ・コースを通り、イベリア半島の上空まで来ている。やがて大地が大きくなってくると、戦闘の光が視認できるまでに至った。
 想像以上の激戦だ。イベリア半島の南端だけ、まるで花火大会をしているかのような輝きを放っている。しかし、その美しさとは裏腹に、爆発が起こる度に何かしらの悲劇が起こっている光景だった。

「ザフトが押されている……」

 カミーユの思惟の中に、懐かしい感覚が流れ込んできた。エマ、シン、ルナマリア――それからカツ、アスラン、レイ。ミネルバの存在も感知できる。まだ、誰もが存命している証拠だ。
 しかし、戦況は芳しくない。ジブラルタル基地周辺を見渡せる高度にあるから分かる事だが、戦火の光はジブラルタル基地本体に向かって徐々に圧迫しつつある。
低軌道上から降り注がれるザフト宇宙軍の援護射撃も効果がないわけではないが、連合宇宙軍に阻害されている為数が多くない。
 見たところ、大西洋方面とユーラシア方面からの挟撃に遭っている様だ。どちらか一方でも撃退することが出来れば、活路は開けると思うのだが――カミーユは滑空しながら、膠着状態と見える大西洋側に向かってコントロール・レバーを押し込んだ。


 たくさんのMSが、戦場を駆けていた。空から襲い来るのは主力のウインダムであったり、換装によって様々なストライカー・パックを装備したストライク・ダガー、そしてMA。海からは少量であるが、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを装備したディープ・フォビドゥン。
実に様々だ。対するザフトは、空中戦力に最新型のグフ・イグナイテッドを中心に、バビ、ディン等を配置し、猛威を振るう海中のディープ・フォビドゥンに対しては、グーンやアッシュを数多く配置してそれに当たらせていた。
 遠慮無しに閃光を瞬かせる戦場で、両軍の意地がぶつかっているようだった。連合軍はザフトの弱体化それ自体を目論んでおり、ザフトはそれをさせまいと耐えに耐える。お互い、この会戦がそもそもの決着をつける場である事を了承しているだけに、一歩も引かない。
 それは、ザフトにあってエース部隊としてこの前線で戦っているルナマリアも同じだった。瞳の中に飛び込んでくる戦争の光――しかし、今更それに慄くような彼女ではなかった。

 エマのセイバーが敵の密集隊に向けてフォルティス砲を散射し、変形を解いてビームサーベルで切り掛かる。急襲に遭ったエール・ストライカー装備のストライク・ダガーは、何も出来ずに胴を貫かれた。
引き抜いてランチャー・ストライカー装備のストライク・ダガーにバルカンで牽制をかけ、ビームライフルで狙撃して撃墜する。
 流石だと思った。同じ女性でありながら、ナチュラルでもあるエマがこれだけ戦いに慣れていることに、ルナマリアは素直な尊敬の念を抱いた。
 そのセイバーが、こちらにワイヤーを飛ばして通信を繋げて来た。決して鮮明ではないが、モニターにコックピットの中のエマの様子が映し出される。

「エマさん?」
『混戦で、シンが何処にいるか見えなくなったのよ。あの子の事だから、多分、気付かない内に前に出すぎちゃってると思うけど――だから、呼び戻して欲しい。よろしい?』
「そうは仰られても、エスパーじゃないんです。そう簡単にシンの居場所なんか分かるわけありませんよ」

 エマの戦いぶりに注目するあまり、シンの行方にはほとほと無頓着だった。それというのも、デスティニーの戦いぶりを見れば心配するのが馬鹿らしくなる程の活躍ぶりで、ルナマリアはそんな活躍を見せるシンにパイロットとして嫉妬したのかもしれない。
エマに言われてみて、初めてデスティニーの姿が見えなくなっていることに気付いた。

『デスティニーの戦力はこのラインの壁になっていた。それが消えた事で、敵を勢い付かせてしまっているわ。戻ってきてもらわなきゃ困るのよ』
「そういう事情は分かりますけど――」
『大丈夫、あなたになら出来るわ』

 何かを分かっているかのように言うエマ。ルナマリアは少し照れくさそうに鼻を啜った。
 それにしても、この混戦の中にあって、エマはしっかりと状況の判断が出来ていた事が凄い。だから、デスティニーが居なくなって防衛線が弱体化した事を忌まわしげに思っているわけだが、しかしただ必死に戦っていただけの自分とは偉い違いだ。
アスランか、それ以上に指揮を執り慣れていると感じた。

100 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:52:22 ID:???]
「分かりました。やってみます」
『頼むわね』

 そう言ってワイヤーを引っ張って収納すると、セイバーはすぐさま味方の援護に駆け寄っていく。セイバーはある種、旗艦としてのミネルバから出てきた、前線指揮機でもある。前線を崩壊させないようなナーバスな気配りが、セイバーの動きに表れていた。
 ルナマリアの瞳が、戦闘空域の空気を読む。混戦に突入しているだけあり、印象としては双方とも、とっ散らかっている感じだ。互いの総力がぶつかっているのだから、それも当然だと思う。ケルベロスを反転させ、ファイアフライ・誘導ミサイルを吐き出して敵を散開させる。
 ルナマリアは、シンのデスティニーを探した。派手な翼を背に持っているデスティニーはミノフスキー粒子の濃い戦場でも、目視で容易に視認できる。果たして、残像をいくつも生み出しながら機動しているデスティニーを発見した。

「あんなところまで出ちゃって――囲まれちゃってるじゃない、シンのバカッ!」

 両腕のビームシールドを展開させ、ボクシングのピーカブー・スタイルのように身を固めて敵からの集中砲火に遭っているデスティニーが見えた。時折ガード・スタイルを解いてはビームライフルで迎撃しているが、不利であることは火を見るより明らか。
戦いにのめり込むあまり、自分が突出していた事に気付いていなかったのだ。頼りになるようになったと思えてきた矢先にこれでは、永遠のガキ大将の称号を与えてやりたくもなる。
 ブラスト・インパルスを加速させ、肩部のレール・ガンでデスティニー周辺の敵部隊に牽制を放つ。上下左右に展開した敵MS部隊。そこへ、左右に散開した一団に向けて、それぞれに2門のケルベロスを差し向けて何機かを撃墜した。

「イエスッ! あたしだって、やりゃあ出来る子!」

 苦手としていた射撃。ガナー・ザク・ウォーリアに乗っていた頃から感じていたジレンマは、いまいち当たらなかったオルトロス。しかし、同じ砲撃戦用装備のブラスト・インパルスで、ルナマリアは自分でも驚くほど攻撃を当てていた。

「シンに貸しを作っておくのも、悪くないってものよ!」

 人間、苦手なうちはつまらなく感じるもの。だが、一旦上手く行くようになれば、それは快感に変わるものである。コックピットの中で珍しくガッツ・ポーズをとるルナマリアは、射撃の快感に酔いしれていた。
 一方で、逃げるように後ろ向きで後退するデスティニー。高エネルギー砲を左小脇に抱え、薙ぎ払うように強烈な一撃を見舞って追撃を遅らせる。シンはチラリと後方を確認し、ブラスト・インパルスの姿を確認した。

「迂闊だった――インパルス、ルナが助けてくれたのか?」

 高エネルギー砲のビームの奔流を掻い潜って、ドダイに乗った一機のソード・ストライカーのストライク・ダガーが突っ込んでくる。後退するデスティニーと入れ替わるようにブラスト・インパルスが前に出て、胸部のCIWSで迎撃した。
 しかし、流石は接近戦用の装備である。バルカン程度の攻撃ではダメージが殆ど通らず、尚も加速を続ける。その両の腕には、しっかりと対艦刀シュベルト・ゲベールが握られていた。
 ブラスト・インパルスに振り上げられたシュベルト・ゲベールは、少しの遠心力を加えて、重量級の一撃を振り下ろしてきた。しかし、ブラスト・インパルスはそれをかわし、迂回するように背後に廻ると、対装甲ナイフを引き抜き、突き刺して離脱した。
 そこへ、間髪いれずに容赦なくデスティニーが腕を伸ばす。下から突き上げるようにして繰り出される掌底が腹部に突き刺さり、そのままパルマ・フィオキーナでストライク・ダガーを上下に分断した。
 爆散するストライク・ダガーから離れ、ブラスト・インパルスと肩を合わせて落ち合う。シンにもコツンという衝撃が伝わり、接触した事を確認してから口を開いた。

「ルナ!」
『もう、夢中になると周りが見えなくなっちゃうんだから! 貸しだからね、これ!』
「ごめん――でも、エマさんを一人にしてきたのか?」
『敵の数が多くて、あんたが居ないと前線を支えきれないのよ。だから、分かったらさっさと戻る!』

 急かすルナマリア。味方の部隊が居るとしても、前線が崩れ始めているようであれば、エマ一人だけでは危険だ。デスティニーとブラスト・インパルスはそれぞれ砲撃を放ち、残った敵を牽制した後、反転して飛翔して行った。



101 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:54:38 ID:???]
 エマの目に、ザフトの防衛線が崩れていくのが見える。要所要所では持ち堪えているように見えるが、それが決壊するのも時間の問題だろう。加えて、エマ自身も疲労で頭の中が少し白んできたように感じる。
集中しているのに、何故か眠気が襲ってくるのだ。頭の中が沸騰するような熱を帯びているような気がする。この辺りが、ナチュラルとしての自分の限界だろうか。頭を振り、自分に正気を戻させる。

「疲れてるって、思いたくは無いけど――」

 目が充血していると思う。自分では確認できないが、目の周りが妙に乾いているように感じるのだ。その証拠に、次第に景色が霞んで視界が悪くなってきた。瞬きで目を潤そうとするが、それも付け焼刃。
エメラルド・グリーンの瞳を細めて、何とか一定上の視界を確保しようとする。自然と眉間に皺が寄り、如何に不細工な顔になってしまっているかも、本人には分からないだろう。それだけ必死で、エマは疲れていた。
 だからこそ、隙が生まれたのかもしれない。視界を確保しようと細めた目が、逆に視界を狭めていた事に気付いたのは、背後から忍び寄ったランチャー・ストライク・ダガーがアグニの照準をセイバーに合わせた後だった。

「しまった!?」

 危険を告げるアラートが鳴り響く中、エマは自らの不覚を悟る。しかし、その時高空から降り注がれた数発のビームが、ランチャー・ストライク・ダガーを直撃し、ドダイの上から撃ち落した。
急に仰向けに落とされたストライク・ダガーのパイロットは焦ったのか、虚しくアグニの光が空に向かって伸びる。

「何なの――援護攻撃?」

 上空からの援護は、ミサイルによる攻撃だけだったはずである。ビーム攻撃などは聞いていない。エマが上空を仰ぎ見ると、そこからMSを背に乗せた航空機がやってくるのが見えた。
航空機の背に乗ったMSは飛び上がり、先程のストライク・ダガーが使っていたドダイの上に舞い降りる。
 そして、航空機は変形した。トリコロールに彩られたシャープなシルエットのMSは、ビームライフルを構えると速射して次々と連合軍のMS部隊を撃退して行った。ブレード・アンテナ中央基部に刻まれる“Ζ”の文字――

「Ζが空から降ってきた!?」

 ドダイに降り立ったガンダムMk-Uは、腰のウェポン・ラックからハイパー・バズーカを取り回し、装填されているだけの弾頭を撃ち放つ。一定以上の距離で拡散する散弾の礫が、構造上弱い頭部やバーニアを破壊していく。
 突如現れた宇宙からの増援に、連合軍は慌てたのか信号弾が数珠繋ぎ的に炸裂した。それと同時に反転して引き上げていく連合軍は、撤退命令が下ったのだろう。長い長い、連合軍の第一波攻撃が、大西洋側だけは終わった。
 ドッと疲れが津波のように押し寄せてきたのか、エマは大きな深呼吸をすると、ぐったりとシートの背もたれに体を預けた。
 他方、ΖガンダムはガンダムMk-Uが乗るドダイの上に降り立ち、揺れるドダイのバランスを取っている。
 どれだけの激戦がこの空域で行われたのか、カミーユの目にはそれが何と無しに分かる光景だった。海に浮かぶMSの残骸は、焦げていたりバラバラになっていたりで連合軍のものなのかザフトのものなかの区別がつかない。
こんなに海を汚しちゃって、どうするんだよ――そう考えたが、必死に戦うものにそんな価値観は皆無に等しいだろう。誰もが死にたくなくて戦っている。自分の事だけで、手一杯だったはずだ。
 そんな時、コックピットのモニターに他機からの接触を告げるマーカーが表示された。接触してきたのは、空中で制止してワイヤーを伸ばしているセイバー。

『その機体、カミーユなの?』
「セイバーは、エマさんだったんですか」

 声を聞き、モニターに移る小さな画像から久しぶりのエマの表情を見つけた。カミーユの声に応え、ヘルメットを脱いで素顔を晒した。汗で濡れた額に張り付く前髪が、妙な色気を醸し出しているような気がする。

『Ζ、出来たのね』
「大気圏の突入も問題なく出来ました。バランスはまだいまいちですけど、完成度は高いですよ、これ」
『そうでしょうね――』

 ふと気付くと、連合軍が撤退して行った方面からデスティニーとインパルスが戻ってきた。インパルスはエネルギーが切れてしまっているのか、灰銀に戻ってしまっていて、腹を抱かれるようにしてデスティニーに抱えられていた。
稼働時間が長いデスティニーに比べ、電力を消費して稼動しているインパルス、その上最も消費量の激しいブラスト・シルエットを装備しただけに、力尽きるのも早かった様子だ。

102 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:56:51 ID:???]
 それにしても、デスティニーに抱きかかえられるインパルスが可愛らしく見えた。何となく、乗っているパイロットの2人の関係に思える。
 デスティニーがワイヤーを伸ばし、セイバーに接触した。

『すみません、エマさん。ルナに助けられました』

 セイバーを介して伝わってくるシンの声に、随分素直な物言いになったものだとカミーユは思った。数ヶ月前に別れる時は、まだつっけんどんな尖がった言い方しか出来なかった彼が、様々な出来事を経験して変わった証拠だと思う。

『それと、偶然に傍受した敵の通信によると、陸戦部隊の方が劣勢みたいなんです。やつら、デストロイを投入するとか何とか――』
『本当なの!?』

 感慨深げに感心している場合ではない。デストロイといえば、カミーユはまだ見たことは無いが、都市を一つ簡単に壊滅させられるだけの威力を持った驚異的戦略兵器だと認識している。
そんなものに突破されたのでは、ジブラルタル基地はあっという間に甚大な損害を被る事になるだろう。それでは宇宙への脱出は絶望的になってしまう。

「エマ中尉、Ζで先行します!」
『カミーユ!?』

 言うが早いか、Ζガンダムはウェイブライダー形態に変形して空を駆けていった。高速機動形態だけあり、あっという間に空の彼方に消えていく。

『カミーユって、あのカミーユさんですか? なら、俺も行きます!』
「シン!?」

 デスティニーはガンダムMk-Uの乗るドダイにインパルスを乗せた。

「Mk-U、ルナをミネルバまで送り届けてください。頼みますよ」
『えっ、あたし? でも、お兄ちゃんが――』
「それじゃっ!」

 声が揺れるロザミアの言も聞かず、デスティニーは凄まじい速度でΖガンダムを追っていった。あれに追いつけるのは、MAくらいなものだろう。ドダイ――しかもインパルスを乗せて重量の増しているドダイでは、追い縋れない。

『すみません、よろしくお願いします……』
「もうっ! あたしとお兄ちゃんだけに任せておけばいいのよ!」

 遠慮がちに声を掛けてくるルナマリアの声は、ロザミアに聞こえているのだろうか。対照的に不平をぶちまけるロザミアは、忌々しげにインパルスを睨むと、セイバーに先行されてミネルバへの進路を取った。


 ヨーロッパ側から現れたデストロイは、ミネルバ隊が大西洋側に陣取ると読んだ連合軍の作戦だった。ミネルバの戦力は、須(すべか)らく空中戦能力を有している機体ばかりである。
そして、唯一のエース部隊となれば、その戦力は激戦区に投入したくなるのが素直な人間の考える事。そういった点で考えれば、起伏が激しく守りやすい陸上よりも見晴らしのいい海上からの侵攻に備えて神経を尖らせるのは、想定どおりだった。
だから、大西洋側の連合軍の部隊数は多かったし、実際にミネルバを疲弊させる事が出来た。
 そしてデストロイが出撃し、イベリア半島側から攻める連合軍は優勢に事を進めていた。ここまでは、作戦通りといったところだろう。並居るザフトの一般機など、デストロイの強大な攻撃力と防御力の前では有象無象の如き雑魚に過ぎない。
 しかし、状況が変わったのは、あと少しでジブラルタル基地本営に入れるというところだった。
 ザフトのMSは相変わらずバビやディン、そしてガズウートやバクゥ・ハウンドといったものが中心だったが、紛れ込んできた3機のMSが増援として現れた辺りから状況が一変したのである。
見れば、それはミネルバのMS――深紅のインフィニット・ジャスティスと鈍いグレイのレジェンド、それにファントム・ペインのMSであったはずの黒い番犬、ガイアだった。
 その、たった3機がザフトに加わっただけで、戦況はがらっとその様相を変質させた。すでにデストロイが2機、インフィニット・ジャスティスの凄まじい剣撃で沈んでいるのである。

103 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:58:16 ID:???]
 奴らはやはり化け物――ファントム・ペインから借り受けた陸上戦艦ボナパルトを指揮している連合軍の士官は、苦虫を噛み潰したような表情で戦況を見つめていた。
 そんな時であった。

「なっ――!?」

 ボナパルトの正面に、唐突に姿を現したインフィニット・ジャスティス。その頭部が、艦橋窓一杯にデュアル・アイを瞬かせた。そして、ビームサーベルの一突きでブリッジを貫くと、あっという間にボナパルトから離脱した。
その後に、ボナパルトは最後の咆哮を上げるかのように砲撃を乱射し、やがて誘爆によって艦の全体が爆発を始めた。
 容赦ないアスランの一撃。しかし、この戦場にあって余裕など持てるはずもなかった。情けを持って敵と当たっていれば、やられるのは自分である。そんな事を、疲れた身体から本能的に言われているような気がしていた。

「これで、敵の指揮系統は死んだはずだが――」

 空中に躍り上がり、アスランは上空から戦場を見つめた。命令系統を潰せば、後は混乱する敵を掃討するのみである。デストロイを見れば、レジェンドとガイアがそれに当たっていた。

 レジェンドのレイは、カツに比べて体力的な余裕が多かった。それというのも、レイはこの戦いが長期戦になる事を想定して、最初から体力の温存を図っていたのである。尤も、それが出来たのもレジェンドの高性能ゆえであるが――

「グ……ッ!」

 相も変わらずデストロイはその巨体を見せ付けているかのようだ。黒光りする装甲に、巨大なレドームのようなバック・パックを頭から被っているMA形態のそれは、あたかも歩く巨大キノコのようだ。
しかし、その一種間抜けな威容から放たれる砲撃は、シャレでは済まされない威力を誇っている。
 それでも、レジェンドを得たレイならば、大した脅威になる敵ではなかったはずだ。全てが、彼の思うように進んでいれば――

「もう、薬の効果が切れたのか……? また早くなった――」

 レイを襲う苦しみは、クローンであるがゆえの定めだった。特殊な薬を服用しなければ寿命を引き伸ばすことが出来ないレイは、それでも薬の効能が付け焼刃に過ぎない事も理解していた。それは、こうして薬の持続時間が徐々に短くなっていっている事が証明している。
 自分は、後何年――何ヶ月生きられるのだろうか。レイは、既に自らの体の衰えを実感し始めていた。若干16歳にして感じる、自らの老い――それは、少年のレイにとっては余りにも残酷な現実だった。
 最近、食が細くなっているような気がする。それは、薬の服用による副作用かもしれない。最近、夜更かしをするのが辛くなってきた。それは忙しいせいかもしれない。最近、鏡に映る自分の顔が、老けてきたように見える。それは、単に自分が老け顔なだけなのかもしれない――
 虚しすぎる。いくら他に理由を求めようとも、テロメアの短さを宣告され、事実を知っているレイにはそのどれもが言い訳に過ぎなかった。自分は今、確実に老い、そして近い将来の死へ向かって歩いている。
既に、自らの死期を予感するまでに年老いた自らの精神が、それを象徴している。
 レイは僅かに咳き込み、顔を俯けた。その正面には、レジェンドを見下すデストロイ。

 ガスンッ――横から襲う衝撃に、レイは驚いた。何事かと霞む目でモニターを確認すると、黒いMAがレジェンドを庇うように立ち塞がっていた。ガイアはMS形態に戻ると、シールドを構えてデストロイからの砲撃を受けていた。
自らの周囲を掃除するかのように、ネフェルテムの光が幾つものビームの軌跡を大地に突き刺している。

『レイ、大丈夫か!』
「カツ…か?」
『デストロイの“傘の骨”だ。迂闊に動きを止めたら、やられちゃうだけじゃないか!』

 デストロイがMA形態のときのみ使用するネフェルテム。円盤状のバック・パックの円周上から放たれるビームの光景が、あたかも傘の基部から伸びる骨組みのように見えることから、ザフトではその様子を揶揄してそう呼んでいた。

「す、すまない……」
『えっ?』

 弱気な声を、カツに気付かれてしまっただろうか。何かに反応したように、MAに変形したガイアはうずくまるレジェンドを下から掬い上げ、その背に乗せてデストロイの前から離脱した。


104 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/30(金) 23:59:59 ID:???]
『何処か具合でも悪いのか?』
「いや、何でもない……」
『何でもないって――凄い汗を掻いているじゃないか!』

 通信回線でこちらの様子を見られている。レイは慌てて表情を取り繕った。
 レイにとって、自分がクローンで寿命が残り少ないという事実は、可能な限り仲間には知られたくなかった。そのせいで、せっかく打倒ブルー・コスモスに向けて上がっているミネルバの気運が、下がってしまう事を恐れているのだ。
 下手をすれば、ミネルバから降ろされる事になってしまうかもしれない。ミネルバを降ろされれば、レイがエース部隊の一員として活躍する場が無くなってしまう。それだけは、避けたかった。
 そうまでしてレイが戦いに拘るのは、勿論デュランダルのためである。エース部隊であるミネルバで戦い、ブルー・コスモスを討ってデュランダルの理想とする世界を築く――その為に、自らの残りの命を全て注ぐ事に、レイは全力を傾けている。
 しかし、ミネルバの人間はそんなレイの覚悟を理解できないだろう。きっと、少しでも長生きできるようにする為に、ミネルバから自分を降ろすに決まっているのだ。よしんば粘ってミネルバに所属し続ける事になっても、艦内の空気は確実に澱む。
それでは、ミネルバはエース部隊として機能しなくなるだろう。だからこそ、レイは自らの秘密を打ち明ける事が出来ない。ジョージ=グレンの例を挙げるまでもなく、レイにとって告白は危険を伴う行為だからだ。

「大丈夫だ。少し、眩暈がしただけだ」

 そう言うと、レジェンドをガイアの背から飛び上がらせた。そして、デストロイから更に距離を開けて付近の森の中に身を隠した。たったそれだけの移動だったが、レイの呼吸は著しく乱れ、ヘルメットを外して全身で深呼吸を繰り返していた。
 こんな時のために、レイは緊急用の薬を常時パイロット・スーツに忍び込ませていた。チャックを開け、手を入れて数錠の薬を取り出すと、一気に口の中に放り込んだ。粘つく口の中は、乾いていて喉の通りも良くない。
戦闘中の水分補給のために用意されているボトルを取り出し、一刻も早く体内に薬を取り込もうと天を仰いで一気に流し込んだ。そうして、レイは少しの間シートに身体を預けて目蓋を下ろす。こうして、薬の効能が出てくるまでの間、待っているのだ。

 こんな不自由な身体でなければ――何度そう思い、打ちひしがれてきただろう。レイにとって、ナチュラルだコーディネイターだのという価値観は、無意味に等しかった。彼は、ただ単に普通の身体が欲しかった。
 薬などに頼らず、長い人生を自由に選択できる、自由な身体を――もし、そんな普通の身体を手に出来るならば、普通の男女がするような青春を満喫しようとしたかもしれない。しかし、この短い命では、出来る事は極端に限られてくる。
そして、先が短いとなれば選択肢はなるべく一つであった方が都合がいい。人間、2つのことは容易に出来たりはしないものだからだ。
 そこで、レイが選んだのはデュランダルの為に生きるという選択だった。普通の男女がする青春よりも、レイは恩人であるデュランダルの為に命を燃やす事を決めたのだ。純粋な親子愛というには少し違うかもしれないが、レイにとってデュランダルは残された全てだった。

 ラウ=ル=クルーゼ――彼もまた、自分と同じクローン人間で、不完全体として短い寿命を悪戯に突きつけられた哀れむべき人間である。
 世の中は彼を戦争犯罪者として悪く言うが、それは間違いだと思っている。何故なら、レイとデュランダルだけはクルーゼの優しいところを知っているからだ。彼は同じ境遇であるレイを拾い、デュランダルとも引き合わせてくれた。
 結果的にクルーゼは世界を滅ぼそうと悪意を拡げたが、その原因は別にある。全ては、人の命を造れると勘違いした愚かな妄執の所業にあるのだ。
 だからこそ、その遺伝子を継ぐキラ=ヤマトが許せない。自分だけはのうのうと、しかも完璧なコーディネイターとして自由な人生を歩んでいるのである。レイにしてみれば、正に羨望の的。羨望どころじゃない、嫉妬や憎悪に繋がる。

105 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/31(土) 00:00:53 ID:???]
 暫くの間、そんな無意味な空想に耽っていたレイは、ふと目蓋を上げた。薬の効き目が、出てきたようだ。先程までの苦しみは空気中に拡散し、溶けて消えていったかのように気分が落ち着いてきた。
 時間的には、どのぐらい経ったのだろう。チラリと時計に目をやる。休み始めた時間は正確に覚えていないが、恐らく5分と経っていないはず。しかし、デストロイの火力を考えれば、被害の拡大は直ぐにでも抑えたい。
 レジェンドが森の中から飛び上がり、進軍を続けるデストロイに向けて背部のドラグーンとビームライフルを一斉に放った。当然、陽電子リフレクターに全て弾かれてしまったが、目をこちらに向けてくれるだけでいい。後は、レジェンドの高性能がものを言うからだ。

 そんな時、見慣れない航空機のシルエットがデストロイに向かっていくのを見た。カラーリング的には、シンのデスティニーに近いだろうか。トリコロールの派手な外見に、美しいシャープな線を描いている。
その航空機は、デストロイの正面にまで接近すると、急制動を掛けてMSへと変形を始めた。

 Ζガンダムが到着すると、いよいよ連合軍は慌て始めた。唯でさえ、ミネルバからの3機の乱入者のお陰で旗艦が撃沈させられているのだ。撤退か継戦かの選択に迷っている時に姿を現したΖガンダムの登場は、駄目押しだったのかもしれない。
 カミーユの瞳に飛び込んできたデストロイのシルエットは、昔グリーン・オアシスのアングラの出版物でチラリと見たことがあるような気がした。一年戦争の特集で、確かその記事は星一号作戦によるコンペイトウ攻略戦の項だったと思う。
そこに掲載されていた写真に、色こそ違えどMA形態のデストロイに似た巨大MAが居たのだ。確か、その掲載されていたMAは“ビグザム”という非常に濁点の多い名前だったような気がする。
ホワイトベースに乗っていたカツなら、もしかしたらもっと詳しく知っているかもしれないが――

「何ッ!? コイツ、変形するのか!?」

 駆動部に負担を掛けまいと、ゆっくりとデストロイは変形を始めた。脚部が180度回転し、円盤型のバック・パックが上がって背中にマウントされていくと、そこから覗かせた頭部の形状は、まさしくガンダムの顔だった。

「こりゃ、サイコ・ガンダムじゃないか! そうか、デストロイって、こういう奴だったのか……ッ!」

 初めて見るデストロイの生の姿に、カミーユは驚愕の声を上げた。黒光りする装甲に、巨大な機体。そして全身にビーム砲を散りばめてある悪魔のようなシルエット。まるで、フォウやロザミアを戦いに縛り付けたサイコ・ガンダムそのものだ。
 デストロイの頭部で、人間の口にあたる部分が光を放つ。広域に扇状に広げられたツォーンが、Ζガンダムを襲った。その前にデストロイの攻撃を察知したカミーユは、悠々とツォーンを回避していたが、その表情には何とも言えない憤りが滲み出ていた。

「こんなものを造るから、いつまで経っても話し合おうとしないんだ! 余計なものを造るんじゃないよ!」

 一気に伸び上がったΖガンダムは、ビームサーベルを引き抜いてデストロイを切り付けた。しかし、堅牢な装甲を持つデストロイは、Ζガンダムのビームサーベルの一太刀だけでは思ったようにダメージが通らない。
逆に、暴れ狂ったデストロイの呆れるほどの砲撃が、味方に被害を及ぼしてしまっている。
 Ζガンダム一機だけでは、味方を庇いながらデストロイを攻略する事は出来ない。カミーユは念じ、周囲の状況を頭の中に立体的なスケール図として思い浮かべた。カミーユの感じる、様々な人間の思念――それであらかたの位置を把握し、手立てを考えるのだ。
極端に感度の優れたカミーユのニュータイプ能力だからこそ出来る芸当。交錯する人間の思いを、カミーユは頭の中で処理できる。

「ノイズが気になるけど、アスランとカツはMS隊の迎撃、レイは――」

 おかしい。明らかに、レイの思念だけ消耗が激しい。それは、戦闘の疲れから来る様な感じではない。疲労度的に言えば、カツの方がよっぽど疲れている。では、カミーユが感じたレイの不調さは何なのか。流石のカミーユでも、それは分からなかった。
 ならば、慎重を期してレイに無理はさせられない。彼には出来るだけ前に出ないようにしてもらって――

「この感覚――ついて来ていたのか!」

 頼りになる、強い感覚を受信した。彼が来てくれるならば、心強い。カミーユは、その人物に向けて思惟を飛ばした。

106 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/31(土) 00:01:14 ID:???]
 戦火の一等激しい区域の様子が、シンの目にも見えている。デスティニーはビームサーベルを片手に、進路上の石を跳ね飛ばすように敵MSを駆逐しながら進んできた。
 あれが、連合軍の最後の抵抗か――シンがそう睨み、更にデスティニーを加速させようとしたとき、不意に頭の中に不思議な感覚が混じりこんできた。自分の意識の中に入り込んだ、他人の意識とでも言えばいいか、それは余計なものの筈なのに、何故か拒否反応が出なかった。

「何……?」

 まるで、時間が自分を残して止まってしまったかのような錯覚に陥る。こんな不思議な体験は、今まで経験したことがない。誰かに見られているようなのに、誰が見ているか分からない。しかし、その呼び声は、自分の進むべき道を指し示しているかのように訴えてくる。
自然と、シンの目がデストロイへと誘導させられた。殆ど無意識に動いた眼球が、倒すべき敵としてのデストロイを一直線に捉える。
 途端に、時間が動き出した。シンの身体が殆ど反射的にブースト・ペダルを踏み、アロンダイトを構えていた。頭で理論的に考えるよりも先に、本能が身体を突き動かしているような感覚――なのに、それが正しい行動として納得できてしまうのだ。
 そして、少し遅れてシンの理性的な部分が、状況を把握した。連合軍の動きは足並みが乱れていて、まともな指揮系統が既に死んでいることが見て取れる。混乱する連合軍の状態について、今、最も何とかしなければならないのが、猛威を振るっているデストロイだった。
 時間差的に、シンの頭と身体の矛盾が解消される。疑問が払拭されたシンは、先程の不思議な感覚も既に忘れてしまったかのようにデスティニーを機動させた。

「そこのデストロイ! これ以上はやらせるかッ!」

 凄まじい数の残像を生み出し、まるでイリュージョンのように美しい軌跡を残してデスティニーはアロンダイトでデストロイに切り掛かった。大きく振りかぶったアロンダイトの一閃が、デストロイの右腕を切り落とす。
 デスティニーの強力な一撃に慄いたデストロイは少し機体を仰け反らせ、一歩二歩と後ずさりした。その下で、ホバリングで駆け寄ってきたΖガンダムが、手にしたビームサーベルで立て続けにデストロイの脚関節を切り刻む。
脚部をショートさせ、倒壊するビルのように機体を傾けたデストロイに、続けてデスティニーのビームブーメランが頭部を吹き飛ばした。そして飛び上がったΖガンダムが倒れかけのデストロイのコックピットに向け、ビームサーベルを突き立てる。

 黒い巨人が、煙を噴き上げて爆発を始めた。大きな地響きと共に崩れ落ちるデストロイは、抵抗を続けていた連合軍の全軍撤退を促すのには十分な成果を挙げていた。連合軍は戦力の建て直しを図るべく、引き揚げていく。
それは、ザフトの勝利を証明していた。

 それから数十分後、全ての機体が帰還すると、ザフトの宇宙への脱出がすぐさま再開された。連合軍の侵攻を撃退できたとはいえ、もたついて第二波侵攻を受けては目も当てられない。勝利に酔いしれたいところだが、そんな暇はないのだ。

 宇宙では、ジブラルタル基地での戦闘に決着がつくと同時に連合宇宙軍も撤退を開始していた。ミネルバを始めとするザフト地上戦力は、その力を蓄えたまま、遂にボルテークと合流を果たした。
 一行は、やっとの思いでプラントへと向かう。戦いは、宇宙へと移行しようとしていた。

107 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 00:05:25 ID:???]
C

108 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/05/31(土) 00:08:29 ID:???]
今回は以上です。
前回でカミーユを残したのはつまりΖで大気圏突入をやりたかったからで
前作でやり残した事でもあります。
ここから先は全て宇宙での進行になるので、この機会しかなかったというのが実情です。
なので、ちょっと無理矢理な展開だったかもしれませんが、基本的にその場のノリで書いていく
ど素人なんで、勘弁して欲しいところでもあります。


ってとっこっかな〜w(´・ω・`)

109 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 00:51:24 ID:???]
乙!
なんだかんだいってZの話をなぞることは良いと思う
微妙にシンクロしてるのが味みたいな所もあるし
今回も凄く面白かった

110 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 01:04:17 ID:???]

そろそろカミーユのハイパー化がみたいな



111 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 01:04:44 ID:???]
GJ、今回も面白く読ませて頂きましたが、何かとっ散らかってる印象でした。
乱戦だから仕方ないでしょうがOTの哀しさ
状況が分かり難かったかな


112 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 01:07:55 ID:???]
GJです
カミーユの思念を送ってシンの中に入ったりしてるという演出?
そういえばジュドーにもやってたなカミーユは

113 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 01:16:24 ID:???]
カミーユの最強NTっぷりにしびれたぜ

114 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 01:17:29 ID:???]
ぶっちゃけユニコーンよりはるかに面白い
文章はプロじゃないから稚拙なとこあるけど
てか小説家目指して欲しい

115 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 02:44:52 ID:???]
GJ!
SSのアスランやルナマリアを見ていると本編のミネルバに
エマさんの様な人がいれば彼らも心強かっただろうに。
ハイネがすぐ死んだのは非常に惜しかった

116 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 08:24:12 ID:???]
てす

117 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 15:48:34 ID:???]
GJでした。迫力のある戦闘シーンの連続で、お腹いっぱいです。

118 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 16:01:06 ID:???]
UC最高NTのカミーユはいいな

119 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 17:16:01 ID:???]

ZかっこいいよZ
誰かレイに手を差し伸べてやれorz

120 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 19:02:27 ID:???]
笑えばいいと思うよ



121 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 21:06:12 ID:???]
そのレイじゃねえよ。
お前の血は何色だー!の方だよな。

122 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/05/31(土) 21:57:00 ID:???]
>「イエスッ!あたしだって、やりゃあ出来る子!」



このルナに激しく萌えたのは俺だけですか?

123 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/01(日) 08:58:07 ID:???]
さすがに圧倒的な物量の前には、カミーユでも無双は出来んかw
生の感情が多そうな戦場がいいなあ。GJ
しかしどんだけ圧倒的物量だったかが、ミノ粉の影響のせいってのもあるけど、描写し切れてないようにも感じます
あと、前に出すぎだ! の使いすぎに注意。


124 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/01(日) 22:43:14 ID:???]
しかし実際前に出すぎるタイプのキャラが多いのも事実だからなァw

125 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/02(月) 23:27:15 ID:???]


126 名前:通常の名無しさんの3倍 [2008/06/02(月) 23:27:32 ID:cpPyJk2e]


127 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/03(火) 20:48:04 ID:???]
はいはい、しゅっしゅ

128 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/04(水) 12:54:17 ID:???]
もーお〜泣かな~いで♪
今〜、あ〜なたを保守してる〜♪

129 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:age [2008/06/05(木) 13:09:41 ID:???]
>>115
アスランがルナやシンを導いてやらないと

130 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/07(土) 00:13:09 ID:???]
人がいる〜から〜お前に逢いたいよと




131 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/08(日) 20:52:09 ID:???]
君は保守の涙を見る

132 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/09(月) 22:23:05 ID:???]
>>131
誰がうまい保守をしろと(ry

133 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/10(火) 20:13:38 ID:???]
x/lz6TqR1w氏の書いてた「カミーユ In C.E. 73」の
赤服カミーユを描いてみたんだけど、このスレに投下してもいい?

134 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/10(火) 20:19:07 ID:???]
>>133
俺的にはおk
テラwktk

135 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/10(火) 20:25:33 ID:???]
元ssがどうとか関係無く、
赤服カミーユなり連合服ファなり投下してくれる人がいるなら狂喜乱舞しますよ。

136 名前:133 mailto:sage [2008/06/10(火) 20:42:33 ID:???]
わかった、投下する!
カミーユの顔はSEED仕様となっております

ttp://i-bbs.sijex.net/imageDisp.jsp?id=zseed&file=1213097293461o.jpg

おまけ
種割れカミーユ
ttp://i-bbs.sijex.net/imageDisp.jsp?id=zseed&file=1213098001165o.jpg

137 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/10(火) 20:44:04 ID:???]
カミーユが種顔化しとるwwww
微妙にキメェwwww
GJ!

138 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/10(火) 20:52:10 ID:???]
種割れまでw
GJ!

139 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/10(火) 22:08:15 ID:???]
うひゃあああああああwwww

140 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/10(火) 22:41:08 ID:???]
クソ吹いたwwwww
だがこれはGJ



141 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/10(火) 23:06:13 ID:???]
みれね…

142 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/10(火) 23:12:47 ID:???]
じっ…次元間転移は肉体まで改変するのか……ッッ
やっぱりCEは人類の進化の過程のどっかである種の両生類が混ざってんのか…

143 名前:133 mailto:sage [2008/06/11(水) 00:26:39 ID:???]
GJサンクス

それで>>135が連邦服ファなんていうから、
思わず描いてしまった
描いたけど、連邦服ってこれであってる?
i-bbs.sijex.net/imageDisp.jsp?id=zseed&file=1213111022775o.jpg

そしてやっぱり種割れファ
i-bbs.sijex.net/imageDisp.jsp?id=zseed&file=1213111097744o.jpg

144 名前:133 mailto:sage [2008/06/11(水) 00:31:34 ID:???]
>>143
違う、連合だ…orz

145 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/11(水) 01:26:51 ID:???]
>>133
夜なのに声出してワロタ
俺の中では新訳顔に赤服のイメージだったから斜め上過ぎて困惑したw

146 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/11(水) 02:20:22 ID:???]
なんか色違いのニコルみたいだw

147 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/11(水) 13:27:48 ID:???]
慣れないことはするもんじゃないなw

Z仕様のキラとアスランを見たくなってきた。

148 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/11(水) 18:40:27 ID:???]
ヤザンの顔したディアッカ思い出したwww

149 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/13(金) 02:32:22 ID:???]
>>148
> ヤザンの顔したディアッカ思い出したwww

つまり僕たちが求めた残忍で狡猾な真ディアッカですね、わかります

150 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/15(日) 01:06:24 ID:???]
とどのつまりヤザン厨復活希望ですね



151 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/15(日) 09:15:51 ID:???]
あの人は実務でそれどころじゃないだろう、今は

152 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:27:53 ID:???]
  『流れた時の重さに』


 決着を着けたかった連合軍、抵抗の力を確保できたザフト――ジブラルタル基地での戦いは、情勢を落ち着ける結果となった。ザフトはプラントの守備を固め、連合軍はその攻略に乗り出す準備を始めた。今、地球圏は一時の平穏を取り戻している。
しかし、それも嵐の前の静けさ。次の戦いの前哨に過ぎない事は、地球圏を取り囲む緊張感が明確に示していた。

 無事にプラントへの帰還を果たしたミネルバは、プラント守備要塞、メサイアに入っていた。機動要塞としても機能するこの宇宙要塞は、巨大なアーモンド形のアステロイドの岩塊を刳り貫いて造られたものである。
その中は広く、戦艦の格納庫や兵器製造工廠、果ては兵士の宿舎なども完備されている。迎撃装備としての砲台も多数配備されており、その外周を取り囲む巨大なリングはバリア機能をも備えていて、正に鉄壁の要塞と呼ぶに相応しい造りだった。

 時間は、ミネルバが帰還する前に遡る。プラントへの亡命を果たしたカガリは、プラントの首都コロニー・アプリリウスへと招かれ、その議会堂でデュランダルとの会談に臨んでいた。
 流石に、オーブとは国の規模が違うだけあって圧倒的な建築物の数々がカガリを逐一感心させていた。まるで出稼ぎに出てきた田舎者の様にだらしなく口を開けて眺めるカガリに、キサカの注意が耳に痛い。

「仕方ないだろ? 油臭い軍事コロニーのアーモリー・ワンじゃないんだ。プラントは、オーブとは違いすぎる。これを見て感心するなと言う方がおかしい」

 議会堂の前で車を降りると、カガリに対して声援を投げかけてくる群衆が居た。振り向けば、彼等はオーブの文字――旧世紀でいう“日本語”で、“オーブ万歳”とペイントされた横断幕を持っていた。2年前にプラントへと移住してきた元オーブの民達だ。
 カガリは元気に手を振り、彼等の声援に応えた。あんな事になったのに、まだ彼等は自分を応援してくれているのだ。それが、カガリには堪らなく嬉しかった。

 議会堂の中に入り、出迎えられたカガリが通されたのは、絢爛豪華な会談室だった。道中、マスコミのシャッターを切る音がひっきりなしに鳴っていたが、会談室は一切のマスコミの入室を遮断された、静かな部屋だった。
そこでは、デュランダルがカガリの到着を立って出迎えていた。その表情には笑みを湛えていたが、カガリに随伴する人物がキサカであることに気付くと、怪訝に表情を変化させた。

「今日は、ユウナ殿はご一緒でいらっしゃらないので?」
「入用です。今回は私だけで我慢してもらいたい」
「いえ、肝心なのは代表ご本人ですので――」

 ユウナは、ウナトの一件以来自室に篭りきりになってしまった。余程ショックだったのだろう。食事も殆ど採らず、何度か部屋を訪れて説得しようと試みても、一向に出てくる気配を見せない。いい加減、カガリも業を煮やし始めていたが、無茶をする気にはなれなかった。
 デュランダルが、スッと手を椅子に差し出す。カガリは薦められるままにその椅子に座った。


 メサイアの内部は、兵士の憩いの場としてのレクリエーション施設も備えられている。さながら小都市の佇まいを見せるレクリエーション区画には、歓楽施設も存在していた。そこで、久しぶりに再会を果たした元・クルーゼ隊の面々はバーで会話に花を咲かせていた。
 カウンターの席に3人して並ぶ。アスランを挟むように、右にイザーク、左にディアッカといった感じだ。イザークがカクテルを流し込むと、赤く染まった顔を向けてアスランに絡んできた。

「貴様は、オーブに行ったと思ったら今更ザフトに復隊するなど、一体どういう頭の構造をしているんだ? 一度決めた道を逆戻りするなど、きょし抜けのする事だ! アスラン貴様、男ではないだろう!」
「今更そういう事を言うのか?」

 下から突き上げるように見上げてくるイザークの目は、据わっている。酔ったイザークを見たことは無かったが、酒が入るとこんな風になってしまうのか。酒癖は、かなり悪いと見た。

「あ〜あ、イザークの奴、始まっちまったよ。こうなると、やたらと説教くさくなっちまうんだぜ? っつっても――」

 イザークの迫力に押されるようにして身体を仰け反らせるアスランの横で、ディアッカが茶化すように言った。そうなのか――アスランは一言応えてイザークに目を戻す。ところが、イザークの目は段々と眠そうにとろけてきていた。

「黙ってろ、ディアッカ!」
「おぉ、こわっ」

153 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:28:46 ID:???]
 急に跳ね起きるイザークに少し驚いて、体が無意識に反応した。しかし、イザークはディアッカを怒鳴って黙らせると、定位置であるかのように再び下からアスランを見上げた。

「――大体きしゃまはらな…ラクスしゃまという婚約者が居ながら、オーブの女と懇(ねんご)ろに……浮気癖はきしゃまの悪いところら。これからはきしゃまのころを“すけこまし”と呼んれやろう。それに、ディアッカ、きしゃまも昔の女に……」

 まるで呂律も回っていない。ところどころ聞き取りにくい箇所があって、相当酔っている事を覗わせる。
 そしてイザークはゆっくりと顔をカウンターにうつ伏せにしていき、遂に言葉が聞き取れなくなった。腕を枕代わりに、背中を揺らして寝息を立て始める。

「いっつもこうなんだぜ。酒が弱いくせに飲みたがるんだ、こいつは」

 そう言ってディアッカは、イザークを指差して笑った。

「人によっては、酒はそういうものになるさ。まぁ、イザークの言いたい事も、俺には良く分かるんだけどな」

 やや自嘲気味に言葉を漏らすアスラン。手に持ったウイスキーを片手に、一口呷ってからコースターの上にグラスを降ろした。カラン、と音を立てて崩れる氷が、雰囲気のあるバーの照明の光を受けて妖しく輝いている。

「一般的、世間的に見れば、俺は婚約者を捨ててオーブに降ったプラントの裏切り者だというのが正しいものの見方だ。ディアッカ、君は今のラクスが本物で無い事を知っているんだろう?」

 隣に座るディアッカに、アスランは視線を投げかけた。ディアッカはその手に持ったグラスを片手で抓むように持ち、手首をこねくり回して氷を遊ばせていた。少し俯き加減の横顔が、薄暗いライトの光で陰影を強調している。口元は、少し笑っていた。

「俺も、ヤキンじゃお前達と一緒に戦ってたからな。ラクス=クラインとお前の関係が、とっくに終わっているって事も知っているから、今のラクスが議長のでっち上げた偽者だって事くらい分かっているさ」

 そこまで話して、ディアッカは残りのウイスキーを一気に呷り、バーテンダーにおかわりを要求した。すぐさま下げられるグラスと、入れ替わりに差し出される新しいウイスキー。ディアッカはアルコールが足りないとばかりに即座に一口含むと、続けた。

「でもよ、それを言う必要はねぇし、言うつもりもねぇ。正直、今のラクス=クラインは頑張っているよ。一頃には地球とプラントを何度も往復して、プラントやザフトの為にコンサートばかりを繰り返していた。お前も、地球で一度くらいは見たことあるんじゃねぇのか?」
「いや、俺は――」

 ディオキアで、その機会はあった。しかし、アスランはラクス――ミーアのコンサートには結局行かずじまいだった。何故、行こうと思えなかったのか。それは、今思い出せば単なる自意識過剰だったのかもしれない。
世間一般的に婚約者であると認識されている自分が、恋人の為にコンサート会場に赴く様がアスランには恥ずかしかったのだ。
 そんな自分を笑うように、アスランも残りのウイスキーを喉に流し込んだ。そして、ディアッカと同じ様にもう一杯頼む。ディアッカは、アスランの余所余所しい態度に声を殺して笑っていた。

「お前らしいっちゃ、お前らしいかもな。そう言う俺も、ミリィとは顔を合わせ辛かったから、人の事は笑えないんだけどよ」

 ディアッカとミリアリアとの関係は、何となく匂う程度の事しか知らない。それなのにこうして自ら話すということは、ディアッカもそれなりに酔っている証拠だろう。
褐色の肌と薄暗い照明のせいでディアッカの酩酊状態を窺い知る事は出来ないが、それとなくアスランには伝わってきた。
 2人が、どうして別れなければならなかったのか、アスランは単純な好奇心で本人の言葉を聞いてみたいと思った。

「ディアッカは、どうして彼女と別れることになったんだ?」
「いいじゃねぇか、そんな事――」
「イザークも気にしている。俺だって朴念仁なわけじゃないから、聞いてみたいというのもあるさ」
「意外とやぶ蛇な事で――」

 身から出た錆とはいえ、ディアッカは不用意に口を滑らせた事を少し後悔する様に首を横に振った。そりゃあ、失恋の話をする事になってしまったのだから、話す本人としては面白くない話題だろう。聞く方としては、これ程面白みのある話はないのかもしれないが。
 アスランの顔は、若干の期待を込めてディアッカの次の言葉を待っている。ディアッカは軽く溜息をつきと、静かに語り始めた。

154 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:30:57 ID:???]
「戦後の事でな。俺は見て分かるとおり、緑への降格処分を受けてザフトに復帰させてもらった。それでも、白に昇格したイザークに拾ってもらえたのは感謝しているよ。でも、アイツは地球でフリーのジャーナリストをしたかったんだ」
「それでなんだよな。オーブに大西洋連邦が攻撃を仕掛けたときに、彼女は戦場カメラマンとして取材に訪れていた。そこで、偶然にバルトフェルドさんと再会して、そのままアークエンジェルに乗り込むことになった」

 アスランの捕捉にディアッカは俯けていた顔を少し上げ、ふうっともう一度軽い溜息をついた。

「知らなかったんだよ、アイツが足付きに復帰したって事をさ。俺とアイツは、離れることになっちまったんだけど、プラントと地球では遠すぎる。連絡便があるとはいえ、人にとって宇宙旅行って奴はまだまだ大変なものでよ、とてもではないけど会う時間が無かったのさ。
お互いの仕事も抱えちまっているわけだからな」
「何となく、分かる話だ……」

 ディアッカの話に、自分を照らし合わせてみると、アスランとカガリの関係は今のディアッカの話に通じるところがあるような気がした。アスランはザフトに復帰し、カガリとはここ数ヶ月会っていない。

「女ってのはよ、ハッキリした答を欲しがるもんだぜ。だけど、俺たち男は気持ちの強さだけで関係を続けたいと思える生き物じゃないか。だから、結局アイツの方から別れを切り出して、それで“おじゃん”――ってわけさ」

 アスランは無言のままディアッカの話を聞き、グラスに口を付けた。果たして、ディアッカとミリアリアのように、カガリと自分の関係もなし崩し的に自然消滅を迎えてしまうのだろうか。
ディアッカの言うとおり、それでもアスランはカガリとの繋がりを保って行きたいと思う気持ちがある。
男とはしょうも無いもので、曖昧にでも続けられるものなら続けたいと思ってしまう、どこか優柔不断な性根を持つものである。カガリも、ミリアリアと同じ様に確固とした答を求めたがるのだろうか。アスランには、それが怖かった。
 考え込むアスランの横顔を見て、ディアッカは僅かに呆れていた。自分から話を振っておいて、勝手に塞ぎこんでしまうアスランは、時に自分勝手な面を見せる。今のように、本当に傷ついているのはディアッカ本人なのに、少しくらい慰めの言葉があってもいいものではないか。
 ただ、不満を口にしたところでアスランの優柔不断な性格が直るとも思えず、別の話題を探そうとディアッカは思案を重ねた。

「――おっ、そうだ!」

 急に何かを思いついたディアッカが、ハッとした様に顔を上げた。グラスに口を付けようとしていたアスランは、腕を止めて顔をディアッカに振り向ける。

「イザークの奴、アスランに説教かましてたけどよ、コイツも人のこと言えねぇんだぜ」
「どういう事だ? まさか、イザークが二股を――」
「バカ言え。コイツにそんな立派な甲斐性はねぇよ。寧ろ逆、他人の好意に全く気付きやがらねぇんだ。同じ隊の女の子なんだけどさ、健気で、それを見てるとこっちまで不憫に思えてきて――」

 冗談とばかりに、ディアッカは服の袖で目元を擦った。

「イザークを好きになる子なら、いい子なんだろ?」
「そりゃそうさ。けど、本人もそれを知られまいと必死に繕ってよ、いじらしいじゃないか。隊のみんなはイザークに気があるって分かってるのに、当の本人だけは、何故か気付かないんだな」
「へぇ、イザークも、結構罪作りな奴なんだな……」

 右となりで気持ち良さそうに寝息を立てるイザークを見て、アスランは微笑ましい笑顔を浮かべた。

 それから、もう暫くの間ディアッカと2人で話し込んだ。バーの閉店の時間が近付き、徐にディアッカが席を立ってイザークを担ぎ上げた。

「久しぶりで、楽しかったぜ。――てなわけで、お会計、よろしく」
「お、おいっ?」
「緑の俺に、カンパなんてセコイこと言うなよ? エルスマン機はジュール機を回収後、この戦域を離脱するぜ。ここは、ザフト赤服のフェイス、英雄アスラン=ザラに任せた」

 すちゃっと指を伸ばした掌を掲げると、引き摺るようにしてイザークを抱え、ディアッカは逃げるようにバーを出て行った。立ち上がろうとして中途半端に振り向いたアスランは、その場で固まっていた。

155 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:31:47 ID:???]
「お連れ様の会計もご一緒でよろしいですね」
「――ったく……」

 ふと、我に返るとバーテンダーが磨いていたグラスを棚に戻し、レシートを差し出してきた。その金額に、アスランの眉間に寄る皺が、交通渋滞を起こしている。納得がいかない。
イザークは早々に潰れたから良しとしても、ディアッカは何杯もおかわりをし、一番料金がかさんでいた。
しかし、先に出て行ってしまったのではどうしようもない。しぶしぶアスランは胸ポケットから電子マネーのカードを取り出し、更に財布から紙幣を取り出してバーテンダーに渡した。それはチップ兼、口止め料のようなものだ。
出来れば、ラクスの偽者の話は極秘にしておきたいがための、アスランの配慮だった。


 格納庫に、ぽつんと佇む少女一人。見つめる先には、適当な応急処置を施したと見える深緑色のMSが一体、転がっている。それは、ヘブンズ・ベースでネオが乗っていたギャプランだった。

「それ、まだ使えないっすよ」

 手に木箱を抱えたヴィーノが、通りすがりに少女――ロザミアに告げた。一寸見やるも、ヴィーノはそのまま無重力を流れて行き、ロザミアは視線を元に戻した。

「何やってるんだ、ロザミィ?」

 今度は、別の少年の声。ロザミアは期待に振り向くと、Ζガンダムのコックピットから顔を覗かせたカミーユが怪訝そうにこちらを見ていた。

「お兄ちゃん……あたし、このMSに乗ってみたい」
「ティターンズの、変形アーマーに?」
「何か、あたしこのMSならもっと戦えるような気がするんだ」

 ヘブンズ・ベースで損傷を受けたギャプランは、ジブラルタル基地で中途半端に修復されたまま放置されている状態だった。流石のジブラルタル基地工廠でもギャプランの再生は難しく、先の連合軍侵攻のお陰で修復作業は滞っていた。
それが、ここメサイアに運ばれてくる事で、元オーブの技術者達の協力を得て修復が再会される見通しだが、地球から上がってきた部隊の整備が優先されている状態で、ギャプランは中途半端な姿で沈黙を続けていた。
 そんなギャプランを、ロザミアは気になって仕方ない。元々、この機体はロザミアの様な強化人間が使うように設計されていたもので、実際に再強化を受ける前のロザミアはそれに乗ってカミーユとも戦いを繰り広げた事もあった。
だが、確実に言える事は、ロザミアはギャプランを完璧に操って見せるということである。情緒こそ不安定であるが、精神的、肉体的に強化されているロザミアの身体は、ギャプランの真価を発揮するに値する能力値を秘めている。

「早く使えるようにならないかしら」

 期待を込めてギャプランを見るロザミアの眼差しが、好奇に震えている。何故、彼女はこんなにもギャプランに乗りたがるのか――しかし、カミーユはそんなロザミアの好奇は歓迎したいとは思わない。戦うために強化された彼女は、もう戦うべきではないと思うからだ。
 無邪気な笑顔を、カミーユに向けてくる。彼女の心の内は踊っているのだろうが、嗜めるように軽く溜息をついた。

「ロザミィってさ――」

『地球圏に住む、全ての人々に告げる。私は、オーブ連合首長国国家元首、カガリ=ユラ=アスハです』

 言いかけたカミーユの言葉をかき消すように、突然スピーカーから大きな音声が飛び出してきた。

「な、何だ!?」

 直ぐ脇にあるモニターに、画面が映し出された。そこに映っているのは、紛れもなくカガリその人で、会見場にデュランダルと2人、並んで座っていた。

156 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:33:10 ID:???]
 突然の放送は、全世界へと飛び火した。プラントのみならず、電波に乗せたカガリの言葉は、地球へも届けられていた。以前、デュランダルがオーブで世界放送をした時と同じだ。
カガリの目は、真っ直ぐと正面を見据え、まるで画面の先の誰かを睨んでいるかのような鬼気迫るものがあった。

『過日、我がオーブ連合首長国は、大西洋連邦軍を中心とした地球連合軍の侵攻によって制圧されるという憂き目に遭いました。連合軍の戦力は圧倒的で抵抗する間すら与えられず、その結果、私は同盟国であるプラントへと亡命いたしました』

 チラリと、横に居るデュランダルを見る。カガリの視線に気付き、デュランダルが軽く咳払いをして喉の調子を整える。

『争いを増大させるだけのブルー・コスモスの思想とは、何と嘆かわしいものでしょう。ブルー・コスモスは本来、地球環境保全団体でした。地球を大切にする、その精神は素晴らしい。私も地球は好きですから、その気持ちは理解できます。
だが、それもやがてコーディネイターの排斥へと思想を過激的に変革させ、そして最悪の戦争が起こってしまったのです。それが、2年前です。ブルー・コスモスはその過激な思想で、コーディネイターを根絶しようとしたのです。
――ただ、それも過剰な防衛本能と思えば、ナチュラルの方々も安心されるのかもしれません。しかし今回、ナチュラルも住むオーブが攻撃されたことで、最早その様な理屈も通らなくなった。
端的に言えば、彼等は逆らう者を断罪し、それが例え同じナチュラルであっても刑を執行するのです。私は、地球市民の方々に警告いたします。ブルー・コスモスは、やがて守るべき筈である、あなた方にも刃を向ける。
オーブの制圧は、その始まりに過ぎないでしょう。――しかし、我々は違う。コーディネイターは、ナチュラルを滅ぼす為に存在する人種ではありません。助け合ってこれからの宇宙時代を切り開いていこうという、あなた方のパートナーなのです。
確かに、過去に不幸な出来事は多々ありました。それはジョージ=グレンの暗殺に始まり、様々な経済的軋轢、そして血のバレンタインにエイプリルフール・クライシス、ヤキン戦役と今大戦の引鉄となったユニウス落下事件――実に様々なことが起こりました。
――思い出していただきたい。これまで、どれだけの多くの尊い命が失われてきたのかを。想像していただきたい。戦争を続ける事で、これからどれだけの新しい犠牲者が生み出されるのかを。コーディネイターとかナチュラルとかを言っている場合ではないのです。
このままでは、人類全て――いえ、地球圏全てが疲れきってしまう。平和を望んでいる全ての人々は、考えてみてください。戦うだけでは、いつまで経っても平和な時代などやってくるわけがありません。
怨嗟や憎しみといった負の概念を超越したその先にこそ、真の平和が待っているのです。ですが、未だ私達は争ってばかり――そして、それを煽っているのがブルー・コスモスとなれば、全人類の共通する敵は、彼等なのです。
これから先は、コーディネイターもナチュラルも力を合わせていかなければ解決しない問題なのです。ですが、プラントは協力を要請するような事は致しません。何故なら、地球に居るあなた方は、ブルー・コスモスに人質にされているようなもの。
もし、プラントに協力するような事があれば、先日のオーブと同じ目に遭わされることになるでしょうから。
ですから、この戦争の行く末を、ただ黙って見ていていただきたい。我々がブルー・コスモスを倒し、戦争の終わった世界で、今度こそ本当の友好を築きましょう。
――さて、その第一歩として、我がプラントはカガリ代表の要望を受け入れ、代表と共に連合の圧力から逃れてきた盟友を全て、受け入れました。そして、プラント最高評議会はオーブがその地位を取り戻せるまでの間、暫定的に亡命政府を樹立させる事を許諾いたしました。
故に、全世界でオーブが滅びたと思っている地球諸国諸君! オーブは、まだ死んでおりません。この強いカガリ代表が御健在な限り、オーブは不滅なる不死鳥の如く、再び舞い上がり、必ずや復活することでしょう』
『私、カガリ=ユラ=アスハ・オーブ連合首長国代表は、ここにオーブ亡命政府の樹立を宣言します!』

 ナチュラルとコーディネイターの2人が立ち上がり、がっしりと握手を交わした。そこには、ナチュラルとコーディネイターの友情を示す演出的な意図が含まれている。
世界の意識をブルー・コスモスの殲滅に向けるに当たって、先ずはコーディネイターが味方である事をナチュラルに示さねばならないとデュランダルは思っていたからだ。

157 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:33:40 ID:???]
 地球も、2年前の大戦からの傷が癒えていなかったり、ユニウス・セブンの落下で被った損害で迷走を続ける国が大半を占めている。それらの国々は、戦わなくていいならそれに越した事はないだろう。戦争は、国庫に多大な負担を強いるからだ。
 しかし、当然、地球側の反応は薄い事は分かっている。いくらプラントが友好を訴えたところで、既にオーブのような例が出てしまっているのだ。迂闊にプラント支援を打ち出せば、同じ目に遭うかもしれないという恐怖は常に内在している。
その反面、国力が窮している国々は、連合軍の作戦に難色を示すパターンが増えてくるだろう。ブルー・コスモスに溺れている大西洋連邦やユーラシア連邦は置いておくとしても、戦争に参加しない理由などいくらでもでっち上げられるのだ。
経済的な理由、世論の反発など、極端な話、作戦参加に伴う審議決議を半永久的に引き延ばせば良いのである。よしんば、それに業を煮やした連合軍が圧力を強めようものなら、内部抗争へと発展する恐れがあるし、当然世論の反発は凄まじいものが予想されるだろう。
 つまり、これでこの戦争の構図はザフト・オーブ同盟軍対大西洋連邦・ユーラシア連邦連合軍という規模にまで矮小化されていくことになる。デュランダルの懐柔的な物言いが、地球連合の足並みを乱した結果となった。

 クルーが一同に会してその会見の模様を見ていたブリーフィング・ルームで、壁に背をもたれて腕を組んで訝しげにしているシンは、スクリーンの中のカガリに厳しい視線をぶつけていた。
 こんな事で、本当にオーブを再建する気があるのかよ――全てが予定調和に陥っているように見えるシンは、カガリが最初からプラント頼みで居たように思えてならない。自らの無能を隠すかのように、プラントを当てにしている。
カガリはやはり、オーブの国家元首として相応しくないと改めて思った。

「そういう目、止めなさいよ」

 傍らで溜息をつくルナマリアが、注意を促してくる。肩眉を上げて不機嫌そうに壁から背を離すと、片手を腰に当てて同じ様に溜息をついた。

「したくなくても、なっちゃうものなんだよ」
「面白くないのは、分かりますけどね。シンだって、本当はオーブの事が嫌いなわけではないんでしょ?」

 絡んでくるルナマリアの言葉が、妙に煩わしい。それは、シン自身も自分の態度に疑問を抱いている証拠だったのかもしれないが――シンは一寸目を閉じると、ルナマリアの視線から逃げるように顔を横に向けた。

「オーブは、嫌いじゃないさ。でも、アスハは嫌いだ」
「意地張っちゃって。あの人だって、結構頑張ってるじゃない。あたし達とそんなに歳も違うわけでもないしさ。あんた、あの人と同じ事やれって言われたら、出来る?」
「そんなにがっつくなよ」

 食い下がるルナマリアを避けるように、シンは歩き出した。それを追って、ルナマリアも歩き出す。
 ルナマリアの心境としては、シンに早く素直になって欲しいと思う気持ちがある。いつまでも故郷に燻りを持っているシンは、まだ心の中に棘を持っている。それをなるべく取り除きたかった。誰しも、故郷に対しては穏やかな感情を持っていてもらいたい。
ルナマリアはプラントに誇りを持っているし、シンも今はプラント国民であるわけだが、何よりも本来の故郷であるオーブに素直になってもらいたい。戦争で傷ついてきたシンだから、ルナマリアは余計に心配だったのかもしれない。

 デュランダルとカガリの会見は、コンパクトに纏められた尺で終わりを迎えた。クルーがまばらに散っていく中、エマの元にヴィーノが駆け寄ってきた。ジブラルタル基地でヨウランに心中を暴露されてから、彼も開き直ったようだ。
少し照れくさそうに、しかしその表情は引き締まっていた。

「Mk-Uのバランス、エマさんに合うようにやっておきましたよ」
「もう出来たの? 勝手が違うMSなのに――昨日の今日じゃない」
「徹夜で頑張りました!」

 前髪にケチャップをたらしたようなメッシュを入れた茶髪の少年が、張り切って声を張っているその様を、カツは少し面白く無さそうな目線で見ていた。
 結局、エマもカミーユもサラの存在を知っている面々はカツに彼女の事を伝えていなかった。カツは、サラの事になると途端に融通が利かなくなってしまう聞かん坊の一面を有しているからだ。
普段は真面目なカツも、若さゆえに情熱が空回りして周りに迷惑を掛ける事もしばしばあった。その度に修正を受けていたが、結局最後まで彼の空回りは直ることはなかった。

158 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:34:11 ID:???]
「あ、ありがとう。でも、あたしの為にそんなに無理してくれなくていいのよ? 身体を壊してしまったら、MSを直してくれる人、居なくなってしまうでしょ」

 少し戸惑い気味にヴィーノに言うエマ。好意全開で迫るヴィーノに対し、エマの方はそれ程乗り気ではないようだ。カツは陰ながらにヴィーノの空回りっぷりにほくそ笑んでいた。
 しかし、そこで諦めない少年ヴィーノ。戸惑うエマに対し、更に攻勢を掛けようと切り出した。

「いえ、エマさんのためなら、こんなのへっちゃらですって。それで、今日はもう仕事上がったんで、もしエマさんがお暇でしたら、その……これから俺と一緒にお茶でもしませんかッ!」
「え、えぇッ? ――その……」

 年下の少年からのアプローチに、エマは狼狽を見せた。目が明らかに泳いで、動揺している。そんなエマの様子に、ヴィーノは感じるものがあったのか、身を乗り出して詰め寄ってきた。
 全く、だらしないんだから――隣で聞いてやきもきしているカツは、ヴィーノの妙に高いテンションとエマのしどろもどろな態度が気に入らないのか、顔を顰めてやり取りを聞いていた。エマは、普段は凛としているのに、変に押しに弱いところがある。

「やっぱり、エマさんはザラ隊長とお付き合いなさっているんですか!?」
「な、何でそこでアスランの名前が出てくるの」
「けど、エマさん、ザラ隊長はいけません! あの人は、プラントのアイドル、ラクス=クラインと婚約を結んでいるんです! そんなのに手を出したら、この国ではやっていけませんよ!」
「だから、それは誤解だって――」
「デュランダル議長が言っていたじゃないですか! コーディネイターとナチュラルの友好が、これからの世界のスタンダードになっていくんです! その先駆けとして――」

 エマの話なんて、てんで聞いちゃ居ない。ヴィーノは迸る若さに勢いを任せて、畳み掛けるようにエマに猛アプローチを仕掛けている。エマはすっかり狼狽してしまっていて、ヴィーノのペースに巻き込まれてしまっていた。
 大袈裟に腕を広げて力説するヴィーノなど、見てはいられない。気付けば、カツは自然と口を開いていた。

「そんな事より、中尉。フォーメーションの事で相談があるのですが」
「カツ?」
「ヴィーノ、悪いけど中尉を誘うのは又にしてくれないか」
「又って――おいッ!」

 カツはヴィーノの叫びも聞かず、エマを無理矢理にブリーフィング・ルームの外に連れ出した。後で恨まれるかもしれないが、仕方ない。
 通路に出ると、カツはエマに振り向き、不満を臆面もなく表情に出していた。

「しっかりしてくださいよ、中尉。ヴィーノはああ言ってますけど、もしかしたらヘンケン艦長がどこかで見ているかもしれないって、どうして考えないんです? 今の中尉を見たら、きっとがっかりしますよ」
「そんな事、あなたに言われなくても分かっているわよ」
「全然分かってないから、ヴィーノにつけ込まれる隙を与えてたんじゃないですか。とにかく、あまり情けない姿を見せないで下さい。ただでさえ、アスランさんとの変な噂だって立っているんですから」
「そういう風に見えていたの?」
「そうですよ。少なくとも、アスランさんは中尉に好意を持っていると僕には見えましたけどね」

 正直、エマは周囲からアスランとの関係がそういう風に見られていることに対して、殆ど無頓着だった。本人としては、アスランに対して特別な感情は皆無に等しい。ただ、同じMSのパイロット同士、共に戦う仲間としての目線しか持って居なかった。
 だからこそ、エマは浮ついた現状に慣れてないのかもしれない。どうにも、激戦からの解放で艦内の空気が気合抜けしているように感じられた。最近、妙に気の抜けた話の多いミネルバにあって、エマはそんな事を肌で感じていた。
 しかし、それでもカツにそんな事を言われたのが正直ショックだった。酷い言い方をすれば空気の読めない彼なのだから、そんなカツに窘められたのはエマにとっては屈辱だったのかもしれない。それも、自らの不甲斐なさなのかもしれないが――

「分かりました。カツの言うとおり、もっと気をつければいいんでしょ?」
「頼みましたよ」

159 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:35:09 ID:???]
 偉そうに――不機嫌な顔で高圧的に言を放り投げてくるカツを疎ましく思いつつ、エマは去り行くカツの背中を睨んでいた。本当は、カツが恋愛だ何だと浮かれている周囲に嫉妬していただけではないのだろうか。
 サラの存在を考えれば、今のカツは良くも悪くも一人身。とりあえず、真面目で居てくれる分には、エマとしても助かるのだ。出来れば、このままサラと交わることなく戦争が終わってくれれば良いと思うのだが――
サラへの未練を捨てきれないカツには、それも些か可哀想だと思うのは、エマの良心的な心の内だった。
 しかし、エマはこの時点でカツが何かを感じ取っている事など、露ほどにも思っていなかったのである。


 とあるプラント・コロニーの街並みの中の一幕――人ごみに紛れて、街頭テレビのデュランダルとカガリの共同演説に注目している2人の男女が居た。一人は、アークエンジェルのエース・パイロットのキラ。そして、もう一人は見たことも無い少女だった。
ジャケットにジーンズというラフな格好に、黒髪のショートカットとサングラスが地味に見せている。
 やがて、中継が終わると、そぞろに歩き出した民衆と同じ様に2人は歩き出した。

 街の中央広場に訪れると、そこにはトレーラーの荷室を改造したステージが設置されており、熱狂的に声援を送るファンに囲まれて歌うアイドルの姿が見えた。健康的な色気を振り撒いて元気に歌う、“ラクス=クライン”だ。
 勿論、キラにはそのラクスが偽者だという事は分かっている。本物を知っているキラは、一目見てラクスとは別人だという事が判別できた。本人とは似ても似つかないプロポーションに、キラは隣に居る少女の胸の膨らみをチラリと見比べた。

「何を見比べていらっしゃるのですか?」
「えっ!? い、いやぁ……」

 心臓を抉り取られるかのような鋭く重い言葉に、キラは思わず跳び上がりそうなほどびっくりした。隣の少女は、視線も合わせずにほんのりと口元に微笑を浮かべている。目が笑っていない様が、余計に怖い。
キラは口元に拳を当て、軽く咳払いをして誤魔化した。

「ど、どうする? どこか、他のところに行こうか」
「いえ、少し観ていきましょう。わたくし、まだミーアさんのステージを生で観た事がありませんから」
「で、でも――」
「キラは、今日はわたくしの気晴らしにお付き合いなさってくださるのでしょう?」

 今度は振り向き、にっこりと微笑んでいる。やばいよ――キラは言い知れぬ恐怖を感じた。何となく、その笑顔が途方も無い怒りに満ちているような気がしたからだ。尤も、当の本人は全く怒ってなど居ないわけだが――
 小規模なステージの前には、既に数百人規模の観衆が出来上がっていた。トレーラーの荷室をステージとして使うライブは、告知無しのゲリラ・ライブだったのだろう。しかし、絶大な人気を誇るラクスのライブは、通りすがりの人々の足を悉く止めている。
 キラの目に、元気一杯に身体を弾ませて歌うミーアの姿が見える。リズム良く合いの手が入るファンの熱い声援に応えて、ミーアのテンションも加速度的に上がっているようだ。

(でも、こんなのはラクスの歌じゃないんじゃないのかな?)

 少しラクスを侮辱されたような気になる。ラクスの歌は、こういうテンションを上げるような歌ではなく、反対に気持ちを落ち着けるような癒しの歌だ。テンションの高い歌い方は、全然違うのではないかとキラは首を傾げる。
 チラリと、隣の少女を見やる。彼女も、自分と同じ様に感じて、不満を抱いているのではないかと思った。ところが、隣の少女は満面に笑みを浮かべ、ミーアの歌のハイ・テンションに合わせる様に身体を揺すっていた。それどころではない、時には要所で跳ねていたりするのだ。
意外な姿に、キラは熱狂する観衆の中で一人、呆然と立ち尽くしてしまった。

 ステージの上から見る、ファンの躍動する姿というモノは、いつ見ても爽快なものだ。ファンは、いつでも自分を見てくれている。人に見られる行為というモノは、初めこそ気恥ずかしさに戸惑うものだが、一度味を覚えてしまえば快感に変わる。
ミーアも、最初はそうだった。なまじ、それまでの自分の外見にコンプレックスを抱いていたばかりに、例えラクスと寸分違わぬ顔になったとしても、中々自信を持つに至れなかった。

160 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:36:14 ID:???]
 しかし、それも今となっては何処吹く風。ラクスの人気に便乗した形で、成り行き同然にデビューしたミーアであったが、自分を見て元気になってくれるファンに囲まれている内に、自信がついてきた。今では、ステージに立つことが最上の喜びに変わっている。
どんなに辛いスケジュールでも、不眠のせいで肌の手入れがどれだけ大変でも、ステージに立てる喜びを糧に出来るのなら、そんな苦労は寧ろ進んで背負おうという気概さえ持つに至っていた。
 今日も、緊急ゲリラ・ライブだというのに、これだけの多くのファンが集まってくれた。今は、ミーア=キャンベルが“ラクス=クライン”――印象の違う歌い方かもしれないけど、それでも継続的に人を集められるという事は自分の歌い方がファンに受け入れられている証拠だ。
 見渡す限りの、人の山。遠くの方でも、足を止めてこちらに振り向いてくれている人が居る。携帯電話を片手に歩いている人も、態々ゆっくりと歩いているのだ。これ程、幸せな事は無い。

 ふと、観衆の後ろの方に居る一組の男女が目に留まった。正直、男の方はどうでも良かったが、隣に居るサングラスを掛けた少女が気になった。まさか――ミーアには、即座に分かった。変装をしていようとも、世界で一番のファンを自称するミーアには分かる。

「ありがとぉーっ!」

 アンコールの最後の曲を歌い終え、ゲリラ・ライブは終幕を迎えた。トレーラーのハッチが閉まると、観衆たちはそれぞれに散っていく。ミーアはハッチが閉まりきるのと同時に、撤収作業に追われるスタッフの“お疲れ”の言葉も聞かずに駆け出していた。
 急がなければ、見失ってしまう――ミーアは焦り、ステージ衣装のままトレーラーを飛び出し、まだ少し混雑している中央広場を駆け抜けていった。

 中央広場のベンチに腰掛け、人待ち顔に景観を眺めている少女。飲み物を買いに行ったキラを待っていた。
 プラントは、今のところ平和そのものだ。主戦場であった地球とは違い、戦火が及んでいないプラントの暮らしは平時と変わらぬ穏やかさが醸し出されていた。忙しげに鞄を持って歩くスーツ姿の青年は、営業周りだろうか。
休日だというのに、ご苦労様、と言ってあげたくなる。反面、手を繋いで歩いている男女は、恋人同士だろうか。その向こうには、両手を繋いだ子供が、両親に挟まれて嬉しそうに歩いている。
 いつか、こんな平和が地球圏全域で見られる日が来るのだろうか――いや、それを目指して戦っているのだ。来るのだろうか、ではなく、来ると言い切らねばなるまい。少女は、そんな事を考えて、腕時計に目をやった。

「何処まで買いに行ってしまったのでしょうか……」

 キラが飲み物を買いに離れて、既に10分は経過している。自動販売機自体は何処にでも置いてあるとは思うが、どうしたのだろうか。少女はキョロキョロと辺りを見回し、キラの姿を探した。

「あ、あのッ!」

 唐突に声を掛けられ、少女は振り向いた。振り向いた先には、息を切らせて手を膝につくラクスの姿があった。ライブの時の格好のままで、全身に汗をじっとりと浮かべている様子が覗える。つうっと流れる汗が、セクシーな衣装と相俟ってエロティシズムを感じさせた。
 少女は、一瞬だけ羨望の眼差しを向け、しかし直ぐに呆気に取られた様に自然な表情を演じた。

「ラ、ラクス=クライン!? どう――」

 極めて自然に、問う。対し、ラクスの方は確信めいたように、しゃべりかけのベンチに座る少女に歩み寄ってきた。

「よかったぁ、見つかって……」
「はい?」
「ラクス様……でいらっしゃいますよね?」

 ラクスの一言に、少女はハッとして周囲を見回し、今の言葉が誰にも聞こえていないかどうかを確認した。周囲に人影は、それ程多くない。勿論、ラクスに注目が集まってはいるが、天下の大アイドルを前に、遠慮がちに遠くから眺めているだけだった。
 少女は一先ずの安全を確信すると、そっと人差し指を口元に当て――

「しっ、今はミーアさんがラクスなのですから、不用意にその様な事は仰らないで下さい」
「あっ、すみません!」

 慌てて口元を両手で覆い隠し、続けて頭突き、もとい、謝罪のお辞儀をした。ゴチン、とぶつかる頭と頭――2人は痛みに頭を抱えてうずくまった。

「――ったた……相変わらずでいらっしゃるのですね」
「も、申し訳ありません……」

 もう一度頭を下げようとした時、少女――本物のラクスは、スッと手を差し出してミーアのおでこを押さえた。お約束とはいえ、そう何度も頭突きを食らっては堪ったものではない。



161 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:37:18 ID:???]
「飲み物、買ってきた……よ?」

 その時、やっとキラが両手にジュースを持ち、帰ってきた。その場に居たミーアを見て、不思議な光景に固まってしまった。

「ど、どういう事、これ?」

 サングラスを外せば、その顔は同じ。同じ顔の少女が2人居る状況に、キラは頭の中が混乱していた。

 それから、3人で人気の無い場所までやってきた。そこで事情を聞き、ラクスが既にミーアと顔見知りである事をキラは知った。

「そうだったんだ」
「ごめんなさい……」
「いえ、ミーアさんが謝る道理ではないのです。それよりも、わたくしとの約束を守ってずっと歌い続けて下さっていたことを、感謝いたします」

 丁寧にお辞儀するラクスにミーアは慌てて畏まって姿勢を正した。

「そ、そんな事なさらないで下さい! 私も、音楽活動は楽しくてやっているのですから!」
「でも、わたくしの代わりだけではお嫌ではないですか?」
「そんな事はありません!」

 力一杯に首を横に振り、ミーアの長い髪がぴしぴしとキラの顔面を擦った。

「ラクス様は、私の憧れの人なのです! 本当は、神様に喧嘩を売るに等しい事なんですけど、ラクス様がお認めになってくれたお陰で、私は何の気兼ねも無くラクス様を演じられて、本当に人生を満喫できているんです! 私にとって、こんなにハッピーなことはありません!」
「そこまで言われると、流石に照れますね」

 ラクスの頬が少し赤らんで、顔を俯けた。ミーアは、ラクスに対して絶大な憧れを抱いている。その一方で、ラクスもミーアに少なからずの好意を抱いていた。
同じ女性として嫉妬するプロポーションも含めて、奔放な性格のミーアが自分とはまるで正反対で、羨ましさを覚えていた。
 それに、ミーアは純粋にファンとしての目線で自分を見てくれている。彼女が尊敬を抱いてくれているのは、政治的なカリスマではなく、歌手としてのラクスなのである。
 ラクスとて、アイドルとしての活動が嫌いなわけではない。寧ろ、そちらの方が健全な見られ方と思う節もある。だからこそ、ミーアの単純な目線が、ラクスには一番嬉しい事だった。

「それにしても、よくラクスの変装が分かったよね。道行く人、誰もこれがラクスだって気付かなかったのに」

 キラの言うとおり、今のラクスは黒髪のショート・カットのかつらをかぶり、サングラスで目元を覆っていて、一目ではラクスだとの判別が難しい装いをしている。格好も、普段ラクスが着るような服ではないのだ。
それなのに、ミーアは何百人といる観衆の中からラクスとキラを割り出し、一瞬にして変装を見破ってしまったのだ。その業は、最早ファンとか憧れとかいった域を超えてしまっている。完全にマニアの領域である。

「それはもう! 例えどんな格好をしておられようとも、私の目には丸裸同然ですもの。少しでもお姿を拝見させていただければ、鉄仮面の上からでも見抜いて見せますとも!」
「へぇ――」

 感嘆して、その次の言葉を飲み込んだ。丸裸同然なんて、羨ましいと思ってしまったが、それは流石に口に出すのが怖い。最近、妙に頭の中がピンクっぽくなってきたな、と反省し、気を引き締めなおした。

「ところで――」
「え……?」

 まじまじと見つめるミーアの視線に、少したじろぐ。

「あなたは誰なのですか? ラクス様の護衛はダコスタ様だけだと思っていましたけど――まぁ、ダコスタ様よりは多少お奇麗なお顔立ちをしていらっしゃるようですが、フィアンセであらせられるアスラン=ザラ様よりは正直、劣りますわね」
「へ?」
「私の好みではありませんけど、あまりラクス様に馴れ馴れしくして、あらぬ誤解を招いてしまうような事態だけは避けてくださいね、護衛さん。護衛さんの役目は、ラクス様の恋人役を気取るようなものではないのですから」

162 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:37:41 ID:???]
 ぶしつけに失礼な事を言われ、流石のキラも固まった――いや、固まってはいけない。ここは否定して、と思ったが、ラクスはミーアの無遠慮な言葉を聞いて、笑っていた。何となく、反論してはいけないような空気。
 しかし、ここで退いては男が廃る。ここは一発がつんとラクスと恋人同士であることを発表して、今後、こんな失礼な事を言われないようにしなければならない。とはいえ、周りに聞こえてもいけないから少し遠慮がちに――

「僕は――」
「あらいけません! もうこんな時間!」

 木陰から覗いている柱時計を見て、ミーアは素っ頓狂に声を上げた。キラの主張は、虚しくミーアの声にかき消されてしまう。その隣では、ラクスが軽い溜息をついていた。

「すみません、ラクス様。私、次のお仕事がありますので、もう行かなければなりません。次に会わせていただく時には、是非、あの時の約束を――」
「勿論ですわ。楽しみは、先延ばしにするほど嬉しいものです。わたくしも、その時の為に頑張ります」
「それでは!」

 がしっとラクスの両手を握り、ぶんぶんと上下させてお別れの挨拶をする。そして、ミーアはまるで嵐のように去っていった。残されたのは、笑顔でミーアの後ろ姿を見送るラクスと、台詞をしゃべらせてもらえないまま無碍にされたキラ。
最後に抵抗を試みたのだろう。右腕が、少し伸びかけてそのまま止まってしまっている。

「わたくしとアスランが婚約者――ですか」

 ラクスの呟きに、ハッとして我に返るキラ。さわさわと、木立が揺れて葉が擦れる音が響き渡る。少し不安になって、ラクスの顔を見た。

「後悔……してるの?」
「いえ、今はキラが居てくださるんですもの。後悔なんて言葉、知りませんわ」

 振り返ってサングラスを掛け直し、歩き出した。その行く先に、木立の間を抜けて降り注ぐ光が、美しかった。キラはラクスの言葉に嬉しくなって、表情を綻ばせながらその後を追った。

「でも、もう少しハッキリとモノをおっしゃって下さいね」
「は、はい。猛省してます……」

 でも、やっぱりラクスには頭が上がらなかった。


 デュランダルとの共同演説を終えて、カガリはそのままメサイアに入港しているアークエンジェルへと直行した。本当は色々と雑務が存在していたのだが、それよりもユウナの事が気になっていた。
 ランチに乗ってメサイアに接舷し、道案内の兵士に連れ立たれて要塞内通路をアークエンジェルへ向かって流れる。やがて薄暗い通路を抜けると、円筒状の透明な通路に変わり、まるで宇宙ドックの中を生身で流れているような気分になる。
普段はそうそう見ることの出来ない戦艦の底面に、珍しそうに目を輝かせた。そうして通路を進んで行く内に、アークエンジェルの中へと入った。ここまで来れば、後は慣れたものである。道案内人を入り口で帰し、後はユウナが“反省”している部屋に向かっていった。
 ユウナは、先の騒ぎの懲罰を受ける形で、半ば軟禁状態で部屋の中に押し込まれていた。それも当然、彼が今暴れだしでもしたら、シャレにならない。宇宙空間とは違い、今アークエンジェルが居るのは宇宙要塞メサイアの中なのだから。

「カガリ? こっちに来ていたのか」

 ちょうど、アークエンジェルに入っていくカガリの姿を、アスランが見ていた。そういえば、お互いに色々忙しくて、一緒の場所に居るにもかかわらず、まだ顔を合わせていない。懐かしさに恋焦がれるように、アスランはカガリの後を追っていった。

 無重力の感覚は、幾分か慣れた。地球暮らしが長かったが、彼女とてかつてはゲリラで腕を鳴らした事もある。御転婆のカガリの環境適応能力は、思った以上に高い。流れるように床に足を着き、ドアの横に設置されているブザーを鳴らした。

「なぁ、ユウナ。お前、ずっと部屋に篭りっきりで、大丈夫か?」

163 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:38:25 ID:???]
 マイクに向かって話しかけるも、返事はない。少しの間返事を待ったが、どうにも返事をする気配が感じられなかった。仕方なくドアに手を当て――

「入るぞ」

 ロックを外し、開いた。電灯も点いていない、暗い部屋。奥の方から、スンスンと鼻を啜る様な鳴き声が聞こえる。カガリが手探りで電灯のスイッチを探り、明かりを点けた瞬間、カガリの目に飛び込んできたのは大量の水玉だった。
まるでファンタジーの世界の一幕であるかのように、ゆっくりと浮かぶ水玉が、部屋の中に無数に散りばめられていた。

「これは――」

 全部、ユウナの涙だ。当の本人に目をやれば、無重力の中を膝を抱えて丸くなって浮いている。部屋の中は、ユウナの癇癪で散らかっていて、とてもセイラン家の御曹司の部屋とは思えなかった。
 カガリは、一通り部屋の中の様子を見渡すと、ユウナへ向かって床を蹴った。

「少しは落ち着いたか、ユウナ?」

 肩を抱きかかえるように右手を回し、左手で背中を擦る。ほんのりと震えている様子が、感触として伝わってきた。しかし、カガリが慰めても、ユウナは塞ぎこむだけで、一向に顔を見せようともしない。
いくらウナトを失って悲しいからといっても、いい加減、カガリも叱りたい気持ちになってくる。

「いつまで泣いてたって、ウナトは帰ってこないんだぞ。塞ぎ込んでいるだけじゃ、ウナトだって天国で安心できない」

 相変わらず、ユウナは何も応えない。苛立ち、カガリは軽く突き飛ばし、壁にぶつけてユウナの腕を膝から解かせた。だらん、と手足が開かれ、ユウナはその顔を久しぶりにカガリに見せた。
 皺くちゃになったスーツと、伸びきったネクタイ。シャツの襟は片方だけ立っていて、口元には無精髭が生えていた。何日も洗っていない髪は油でギトギトになっており、癖がついて乱れに乱れている。
虚ろな瞳は、その下に隈を作り、ぼんやりとカガリを見つめていた。
 徐に、ユウナの口元の端が上がった。

「カガリ、君にこの僕の悲しみが分かるって言うのかい……?」
「何だと?」

 カガリが身を乗り出して詰め寄ろうとする仕草を見せると、喉の奥から力ない笑いを搾り出した。完全に精気が抜け切った人間の笑い声だ。まるで壊れたおもちゃの様に。

「パパは、僕の最も尊敬する人だった。そのパパが居なくなって、僕がどれだけ悲しんでいるのか、君に分かるかい? パパは、僕にとって唯一無二のヒーローだったんだ……」
「分かるさ」

 きっぱりと言い切るカガリを見て、ユウナは軽く首を横に振った。

「そうやって分かった振りをして慰める事なら、誰にでも出来るんだよ。でも、僕はそれに騙されるほどバカじゃない」
「違う、私は本当に――」
「騙されないよ」

 何を言っても無駄だろうか。カガリは諦め、別の話題を探した。ユウナは、そんなカガリを見て余裕の笑みを浮かべていた。どんな話題になっても、決して丸め込まれたりするもんか、という決意の表れだろうか。
頭の中では、カガリの口から出てくるであろう話題に反論するマニュアルが、次々と生産されていた。腐っても、カガリには口で負けるわけがないと思っているからだ。
 カガリが、思案顔をやめてユウナを見据える。さあ、どんな言葉でも言い返してやると、ユウナは卑屈に気を引き締めた。

「私には、お前の力が必要なんだ。今だって、オーブの暫定政府の樹立を宣言してきたところなんだ。お前が力になってくれなきゃ、オーブを復活させる事も出来ないじゃないか」
「ふっ、ふふふ……」

 急に笑い出すユウナ。カガリは怪訝に表情を歪め、身構えた。

164 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:38:52 ID:???]
「何がおかしい? 私達オーブの民にとって――」
「パパが居なくなった時点で、オーブの事なんてどうでもいい事になっちゃったんだよ。どうせオーブが復活したって、パパが居ないんじゃ意味がない」
「貴様…それは本気で言っているのか?」

 カガリの固く握り締められた拳が、わなわなと震えている。ユウナの目線はそれに気付かず、悠長に滑る自分の口の調子良さにかこつけて、更にカガリを攻め立てようと声を絞る。

「それに、どっちみちデュランダルの手駒にされるだけで、まともな自治権も与えてくれやしないよ。オーブは終わりだ、プラントと同盟を結んだ時点で、こうなるって事は予め決まっていたんだよ。
全て、君のせいさ。君がさっさとパパの言うとおりに大西洋連邦との同盟締結を決めなかったから――」
「バカを言うな、ユウナ!」

 デュランダル云々はどうでもいい。もし、そういう事になったとしても、カガリは実力行使に出てでも自治権を認めさせるだろう。ザフトとの戦力差とかはとりあえず考えないとしてだが――実際、今のカガリにはその程度の事しか頭に浮かばなかった。
勿論、それ以前に手荒な真似はしたくないという前提があるが、そうならない為にもユウナの力は必要だった。
 そして、何よりもオーブの政治家であるユウナがオーブを蔑ろにしようとしている事が、ショックだった。怒りよりも、寂しさの方がカガリには大きかった。何か無性に悔しくて、涙が出てきた。
 ユウナは、そんなカガリを見ても一切の変化を見せない。涙を袖で拭い、カガリは震える声でユウナに語りかけた。

「オーブがどうでもいいなんて、そんなこと言うなよ! なぁ、お前がオーブを見放してしまったら、ウナトは悲しむんじゃないか? ウナトは、オーブを愛していた。だから、オーブの未来を私とお前に託したんじゃないか! それなのに、お前は――ッ!」
「そうやって感情的になれば、僕の気持ちを動かせると思っているんだろ? けどね、僕はもう終わりなんだ。パパの助けが無けりゃ、何も出来ない情けない男なのさ。なのに、どうして君は僕に無駄な努力を強要しようとするんだ?」
「ふざけるなッ!」

 激昂するカガリは、最早感情の抑制が効かなくなっているのかもしれない。ウナトの意志も継ごうとせず、一人で拗ねてオーブを見捨てようというユウナが、許せなかった。カガリは壁を蹴ってユウナに襲い掛かり、ネクタイを掴んで顔を引き寄せ――

 その瞬間を、アスランは目撃していた。懐かしさに恋焦がれて追ってきた彼に待っていたのは、無情とも言えるカガリの裏切りだったのかもしれない。事情も状況も全く分からない――しかし、その光景だけで裏切りを知るには十分だった。
 今のアスランには、2人の顔が重なる様が黒いシルエットにしか見えない。頭の中が真っ白になり、心の中で何かが音を立てて崩れ去った。衝動的に出そうになった声を何とか喉の奥に押し込め、2人に気付かれないうちにその場を立ち去った。

「――ッぷは!」

 唇が重なっていたのは、ほんの2、3秒だっただろうか。ユウナには一瞬で、カガリには途方もなく長く感じられた。もがく様に放すと、ユウナの頬に平手を一発見舞って蹴り飛ばす。そして、ぺっと唾を吐き捨てると、袖でグイっと口元を強く拭って怒りの視線を突き刺した。

「目を覚ませユウナ! この戦争は、お前だけが苦しいんじゃない、みんなが苦しんで、それで平和を勝ち取ろうと頑張っているんじゃないか! それなのに、お前は自分だけが不幸だと思い込んで――そんなの、ずるいじゃないか!」

 感情的になって、口を突いて出てくる言葉も陳腐なものだったり、的を射て無かったりと散々だった。しかし、それでもユウナには言ってやりたかった。迸る自分の感情が、少しでも彼の気力回復に繋がればと思って――
 カガリの叫び声に、誰かがやってくる気配を感じる。カガリの後ろのドアから姿を見せたのは、遅れてやってきたキサカだった。
 キサカは即座に状況を判断して、少し身を引いて影に隠れた。そのキサカに気付かないカガリの猛攻は続く。

「お前がウナトを失って、どれだけ苦しい思いをしているか、私には分かる! けど、それを言い訳にして塞ぎ込んでばかりじゃ、誰も納得するはずがないだろ!」
「う、嘘だッ!」

 もう、何であろうと関係ない。遂に、ユウナも感情に火が点いた。声を荒げ、激しく手を振り乱す。

165 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:39:36 ID:???]
「君なんかに、僕の気持ちが分かるものか! 僕は、パパを失ったんだぞ! 父を――どれだけ苦しいのか、分かって溜まるものか!」
「馬鹿野郎ッ! 分からず屋ッ!」

 カガリは振り返って、そこにキサカが居る事に一瞬驚いたが、身体をぶつけて退けさせると、凄い勢いで通路を流れていった。キサカはカガリの背中を見送ると、部屋の中で息を切らせて佇んでいるユウナを見た。

 その頃、呆然とした表情で通路を行くアスランの足は、自然とエマの私室へと向かっていた。アークエンジェルからミネルバへの直通回廊を通り、部屋の前までやってくる。ブザーを鳴らすと、短い返事の後でドアの隙間からエマが顔を覗かせた。

「アスラン?」

 エマから見た自分の表情は、どのように映っているのだろう――果てしなく情けない表情をしているには違いないが、それでも会いたかった。ミネルバに於いて、唯一包容力を感じさせてくれる年上の女性。
カガリとユウナの光景にショックを受けていたアスランは、エマの慰めが欲しかった。

「どうしたの?」

 半開きのドアを全開にし、曇った表情のアスランを訝しがる。しかし、言葉に出せずに、アスランはただ沈黙するしか出来なかった。
 そんなアスランの様子に、何かに気付いたエマは斜めに構えてアスランの表情を覗った。少年の、こういう落ち込んだ表情をしているときは、大概女性に慰めて欲しいときなのだ。それは、カミーユもそうだった。
 こういう場合、慰めてあげるのが年上の包容力のある女性のするべき事なのだろうが、生憎エマはそういう女性ではない。加えて、カツにも注意を受けたばかりである。アスランとの変な噂が立っている以上、彼を甘やかすような行為は出来ない。
 エマは一つ溜息をつき、腕を組んで下から見上げるようにアスランを見た。

「慰めが欲しいのなら、別を当たって頂戴。あたしでは、あなたの感傷を癒してあげる事は出来ないわ」
「別に――ただ、相談に乗ってもらおうと思っただけです。あなたに慰めてもらおうなんて――」
「じゃあ、何を相談しに来たのかしら?」

 妙に挑戦的に言ってくるエマに、アスランの表情が見る見るうちに険しく変化していった。

「もういいです。エマさんがそういう人だとは、思いませんでした」

 むっつりしてそれだけ言うと、アスランは不貞腐れてエマの部屋の前から去っていった。ドアの縁に身体を預けたエマは、そんなアスランの去り行く後ろ姿を見て呟く。

「英雄だ何だといっても、まだ子供ね――男の子の気持ちが分からないわけではないのよ。でも、悪いけど、あなたを甘やかすわけには行かないっていうのが現実ね」

 アスランは、ミネルバ・パイロット達の精神的な支柱だ。その彼が、いつまでもエマに頼っているようでは駄目だ。確かに、技術的な意味では既に抜群のリーダー・シップを発揮しているかもしれない。
しかし、彼が本当のMS隊長になるためには、もっと精神的に強くならなければならない。その為には、悩み事も自分で解決できるようにならなければいけないのだ。それが、アスランを成長させる糧になると、エマは信じていた。


「何だよ…お前もどっかに行けよ」

 崩れ落ちるようにしてベッドの上に座り込むユウナを、キサカは上から見下ろしていた。大きい図体が、電灯を遮ってユウナに影を落としている。それが煩わしく思えて、ユウナは何度もキサカを追い払おうと試みているが、彼は微動たりともしなかった。
それどころか、何もしゃべろうともしない。まるで、巨大な石像か何かが立っているようだ。

「せめて、何とか言えよ」

 巨漢が無言で目の前に聳え立っている様は、気持ちのいいものではない。ユウナはキサカから目を逸らし、不平を口にする。

「あなたは、何も分かっていらっしゃらない」
「何だと?」

166 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:40:02 ID:???]
 やっと口にした言葉は、しかしユウナを悪戯に刺激するだけだった。ユウナの表情が再び険しく変化し、怒りの意をキサカにぶつける。

「僕が、何を分かってないって言うんだ」
「カガリは、あなたの気持ちが痛いほどに良く分かっている。それをあなたが分かってやらないで、どうするのです」
「あんな子供が、僕の何を分かるっていうんだ? どうせ、いつもの奇麗事だろうが。そんなものに、僕が騙されると――」

 言いかけたユウナの胸倉をキサカはその太い腕で掴みかかり、持ち上げた。その瞳に、深い怒りを込めて。

「な、何をするんだ!」
「カガリが、本当にあなたの気持ちが分かってないと思っているのか!」

 普段冷静で温厚なキサカが珍しく見せる憤怒の表情に、ユウナも慄いて次の言葉が出てこなかった。これだけの怒りを露にするキサカは、本当に珍しい。感情的なカガリのサポートをする意味でも、キサカは常に冷静な判断を繰り返してきた。
しかし、今はまるでカガリの性格が乗り移ったかのように激怒している。

「何を血迷っているんだ、お前は。僕にこんなことをしてただで済むと――」
「あなたはカガリと同じになったんだ。カガリが、何の感慨もなしにあなたの気持ちを分かろうとしたとでも思っているのか」
「ん……ッ」

 締め付けられるように胸倉を掴まれ、呼吸が苦しい。しかし、苦悶に表情を歪めるユウナの懇願を見ても、キサカはその手から力を抜こうとはしなかった。

「2年前、カガリはウズミ様を亡くされた――今のあなたと同じ様にだ。カガリは、あなたよりも遥かに幼い時に、同じ苦しみを味わい、乗り越えてきたんだ。オーブの政治家であるあなたは、誰よりもその事を知っていなければいけない。
カガリの婚約者を気取るつもりなら、カガリが言わんとしている事を察してやらなければならない。勇猛なオーブの民であるあなたが、そんな事でどうされるのです? これからオーブを再建しようとするカガリの力になれるはずのあなたがそんな事で、どうする?」
「け、けど…カガリとウズミ様は血が繋がって――」
「親子の関係は、人の数だけあります。血の繋がりだ何だとそんな些細な事はあの方々には関係ありません。あの方々は、確かにウナト様とあなたと同じ、親子だった」

 キサカは乱暴にユウナを突き放すと、背を向けた。

「カガリは強い子です。しかし、オーブの再建という大事業を成就させる為には、あなたの力がどうしても必要になってくる。ウナト様の息子で、その政(まつりごと)の才を受け継いだあなたの力が必要なのです。どうか、カガリの力になってやってください」


167 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:40:19 ID:???]
 キサカの呟き――ベッドの上に突き飛ばされ、仰向けになったままユウナは初めて他人の事を考え始めた。
 確かに、キサカの言う通りなのだ。カガリは、2年前に養父であるウズミを亡くした。カガリはウズミと直接的な血の繋がりはなかったが、カガリにとっては唯一の父親だったのだ。少し考えてみれば、分かる事――カガリの喪失感は、今の自分と同じだ。
カガリはウズミを失い、自分はウナトを失った。今まで甘えていた自分は、今、ようやくカガリと同じステージに立ったのだ。
 どうして、そんな簡単な事に気付けないでいたのだろう。しかし、それでも解せない事はある。何故、カガリと自分はこんなにも違うのか。強く、前向きに歩んでいるカガリとは対照的に、今の自分は後ろを向いて座り込んでいるだけだ。
 カガリを突き動かしているモノは、オーブの再建へと向かう強い意志だ。では、何故その強い意志を持つに至れたのか――単純な答が、ユウナの脳裏を掠めた。結局は、カガリはウズミの意志を継いでいるだけなのだ。
しかし、その単純な動機が、絶対的なものとしてカガリを強者たらしめている。つまりは、カガリの強い動機は、強固な親子愛によるものだったのだ。
 ならば、そこで決めるべきこれからの自分の身の処し方は、簡単ではないか。カガリと対等になったのなら、同じ事をすればいい。ユウナのするべき事は――

「キサカ、頼みたいんだ」

 出て行こうとするキサカの背中を見つめ、ユウナは身を起こし、口を開く。立ち止まって振り向くキサカに、ユウナはニコリと笑って続けた。

「新しいスーツを一着、持ってきてくれないか? こんな皺くちゃのスーツでは、人前に姿を晒す事なんて出来ない」
「ユウナ…様……?」

 無重力に浮かんでいるクシをヒョイと手に取り、乱れた頭髪を整える。しかし、油で汚れた髪の癖は、その程度ではびくともしなかった。少し癖の強いユウナの剛毛は、まるで融通の利かない頑固者のようだ。諦め、ぽいっとクシを放り投げた。

「駄目だね――僕はその間にシャワーを浴びて、身だしなみを整えておくよ。こんな無様な格好をしていたのでは、父上に笑われてしまうからね」

 にやり、と口の端を上げた。まだ、浮浪者のような格好をしているユウナに品格は無い。しかし、その表情には、先程とは別人のような生気に満ちていた。死んだ魚のような目だった瞳は輝きを取り戻し、頬を上げて笑う顔は、自信に満ちていた。
 ユウナの突然の変わりようにキサカは呆気に取られたが、やがて納得したように表情を綻ばせた。

「かしこまりました」

 ユウナの要求に応え、キサカが部屋を退室すると、ユウナは服を脱いで備え付けのシャワー・ルームへと鼻歌交じりで入っていった。

168 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/15(日) 16:42:55 ID:???]
別タイトル「ハート・ブレイクのアスラン」(笑)は以上です。

>>133
遅ればせながらGJ!
1年半も前に終わったSSを取り上げてもらえたのは作者冥利に尽きるの一言です。
ファはいい感じだと思うけど、カミーユがみょうちくりんに見えてしまうのは
やっぱり種キャラの作画が乙女チックだからだろうか?吹いたけどw

>>146
2コンで1コンと同じキャラを選んだ時の色ですね?わかります

>>150
確かに個人的にも続きが読みたい
のんびりとでもいいから復活して欲しいです

169 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/15(日) 20:27:45 ID:???]
束の間の休日編GJ!!

カガリとユウナはチュウしたの??

170 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/15(日) 22:46:52 ID:???]
ユウナカッコイイよ!カッコイイよユウナ!

ただの「政治家のボンボン」から「1人の政治家」にランクアップだ!
今後の活躍にwktkするしかあるまい!!



171 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/15(日) 23:31:06 ID:???]
GJ アスランの髪が…非常に心配だw
しかも、蝙蝠フラグに見えて仕方ない

172 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/15(日) 23:41:53 ID:???]
>>170
しかし他のSSでもよくいる「きれいなユウナ」に落ち着くのかね。
ガチでダークサイドに覚醒するという、ありそうで案外なかったスタイルに
なるのかなとチョッピリ思ってたんだが

>>171
あ、そうか、UCでレコアが寝返ったのと似たような精神状態になりつつあるんだ。
しかしここのキラクスはまともな方だしシロッコ一家含む連合にあてもないし
独立の余地もなさそうだし蝙蝠ろうにもなあ…

173 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/16(月) 01:08:48 ID:???]
スレに戻ってきて良かった…職人に会えて
投下乙です

174 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/16(月) 01:11:46 ID:???]
俺はミーアに吹いたw
キラ頑張れw
誰に対しても言い返せないにも程がある

175 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/16(月) 02:04:58 ID:???]
アスランwwww

176 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/16(月) 18:04:37 ID:???]
カ、カガリがまともな演説をしてる……

177 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/16(月) 19:21:43 ID:???]
>>176
普通、演説の内容を書く人と読む人は別なんですが……
ザフトの人の入れ知恵って可能性が、ねぇ?

178 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/16(月) 19:45:21 ID:???]
アスランがヤバいな……
これは蝙蝠もあり得るか?

179 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/19(木) 01:39:18 ID:???]
保守

180 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/19(木) 11:44:58 ID:???]
>>178
上にもあったけど、脱走しても行くとこがないし独立旗揚げも可能性が低い。
ここはかつて似たような心境にはまって裏切って破滅した経験者であるレコアが
自分の二の舞にならないようアドバイスするべきだと思うが、今どこにいたっけ?



181 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/20(金) 15:48:35 ID:???]
凸「俺は…」
?「苦しんでいるようだな、少年」
凸「あなたは…」
?「所詮、一人の男は複数の女のエゴを抱え込めんのだ」
凸「…」
?「これを君にあげよう」
凸「これは、サングラス?」
?「これをかければ…」

「あなたは何やってんです!こんな所で!」
「世の中が自分の思い通りに動くと思うな!」
「あなたは自分に正直でありすぎたわ!」
「うん、わかった。あいつがお兄ちゃんを困らせる悪い奴なんだね」
「現実の世界にとらわれるから!」
?「ちぃ!計画通りにいかんとは!」
「貴様は犯罪を生む源だ!生かしてはおけない!」
凸「何だったんだ…」

こうしてアスランは救われ…いや堕ちずに済んだ

182 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/20(金) 22:36:55 ID:???]
議長!議長じゃないか!

183 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/21(土) 14:25:47 ID:???]
凸が脱走するかどうかは、意外とカツがキーを握ってるかもしれん
こんなやつでも頑張ってるんだ、と自分以上に空回ってるカツを見て立ち直るか
それとも眼中に無く、脱走に至るか

184 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/21(土) 21:18:59 ID:???]
シャアのピエロ振りは他キャラの追随を許さない

ギルも中の(ry

185 名前:286 mailto:sage [2008/06/23(月) 01:46:35 ID:???]
種死にハマーン様がきたらを今週に投下します。
Zキャラin種死(仮)様と適度に間隔開けないと読者様方にも邪魔になりますからね
ホントSSってバランスが難しいですね…

186 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/23(月) 01:56:17 ID:???]
>>185
期待してます。

187 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/23(月) 12:48:15 ID:???]
>>185
おお!(・∀・)

188 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/24(火) 01:17:24 ID:???]
お前は保守の渦を生み出す源だ!

189 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/24(火) 23:54:44 ID:???]
286氏が来るまで保守

190 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/25(水) 22:57:28 ID:???]
そろそろくるか?



191 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/26(木) 01:32:44 ID:???]
ちなみにピエロならトロアやクラウンガンダムが……ゴメン


192 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/26(木) 22:24:18 ID:???]
ホーシューツクツク ホーシュー

193 名前:286 mailto:sage [2008/06/27(金) 02:17:02 ID:???]
286です。
『種死にハマーン様が来たら』を投下します
取っておいた、バックアップが死んでしまいかなり遅れてしまいましたorz
とりあえず書き直せた分、誤字が減ったのでよしとします


194 名前:286 mailto:sage [2008/06/27(金) 02:17:23 ID:???]
新たな進化を運命づけられた者こそが人類を導く存在である、と男は信じている。妄信などと囀る愚か者など気にも留めずに
それを捜すことに人生を費やしてきた。途中、テロに巻き込まれ光を失っても歩みを止めようなどと欠片も思わなかった。
逆に神から試練を与えられたと解釈した男は、自分の歩む道は間違えていないのだ、正しいのだと確信をより強固なものにした。
そう、楽園は煉獄の先にあるのだ。
そして現れたのだ!救世主足りえる存在が!
預言者は救世主に道を示さなくてはならない
それこそが預言者たる己の義務なのだから
====================================
クライン邸
「混迷の世界から人々を救うには、平和への強い『想い』が必要なのです」
少しずつ白いマルキオの頬が赤く色付いていく。
「貴女の『戦争を終わらせたい』という強い想いはとても尊いものですが想いは想いでしかないのが現実です」
マルキオはゆったりと立ち上がる
「だからといって諦めてしまっては平和はさらに遠のいてしまいます」
雄弁に朗々と響き渡るきマルキオの言葉に耳を傾けるは一人の少女。
「いま世界は平和への想いなき『力』に支配されようとしています。誤った道を歩み続けない為に世界には貴女が必要なのです」
少女は問うた。わたくしにできるのだろうか、と。マルキオは柔和に見えるであろう表情を浮かべた
「貴女には平和への『想い』と力に取り憑かれることのない強い『心』、貴女の持つSEEDという人類の進化への因子に
秘められている可能性を信じるのです」
「わたくしの想い…を信じる……?」
「そうです。貴女こそが唯一世界を争いのない、真なる平和に導けるのです。そのための協力は惜しみません。
世界には貴女が必要なのです!」
マルキオが身振り手振りが過多な演説を終えたとき、少女の纏った空気が力強いものに変わっていた。
「わたくしは…ラクス・クラインは平和のため、人々のため立たねばならないのですね」
SEEDに覚醒した少女の凛とした透き通った瞳に力が篭っている。まるでオルレアンの乙女の再来だ
マルキオはその神々しさに魅せられた
マルキオは少女の背中を押した。そして少女は歴史の舞台に躍り出ることになる。
マルキオの人選は完璧といえよう。彼女にはアイドルとして市民からの人気とプラントの政治家、しかも議長の娘という立場、
なにより彼女自身の魅力も素晴らしい。少女は平和の歌姫としての一歩を踏み出した。
憎しみの連鎖という果てない戦いをはじめた世界に希望という歯止めを送り出した。自分の責務を果たせたことに
マルキオはひとまず満足した。彼女がこの戦いのあとに世界平和へ導いた女神として世界の頂点に君臨する、
その日の為に今は少しでも自分の協力者を増やさなければ。
地球に向かうシャトルのなかでマルキオは終始、上機嫌であった。
妄想に浸り、己に酔っているマルキオは気付かない。彼は他人の背を押しただけであることを。
慢心故に、単なる人間であることを忘れたマルキオは理解していない。神は人間にとって都合のよいものでは決してないことを


195 名前:286 mailto:sage [2008/06/27(金) 02:19:19 ID:???]
5月5日 デュランダル邸
「この前のコンペは残念だったね」
ザラ派の連中には全く困ったものだ。ハマーンはリビングでため息をついた。
MSはコーディネイターしか使いこなせないという根拠のない優越論を信じている。使えたとしてもザフトの猿真似など恐れるに足りない
と豪語している。おかげで実用されているものより数世代は確実に先に進んでいるといえるキュベレイに積まれたOSは
コンペディションには落ちてしまった。デュランダルが言うには研究員がプレゼンの際に言った「ナチュラルでも訓練次第で性能を
出し切れる」というくだりが気に入らなかったらしい。ファンネルをもとに造られた無線式のインコムとも言える「ドラグーン」
の方はシステムに不備が見つかり完成には至らなかった。連合が既にMSを開発したことから戦局は今より混迷の度合いを深めることに
なるだろう。このままではプラントが勝てるかどうかわからない。しかもガンダムに似た、いやガンダムそのもののMSを見たときから
嫌な予感がする。ガンダムは戦場で多くの生命(いのち)を吸い取ってきた業の深いMSだ。
「まったくだ。幾ら技術力が先行しているとはいえ、隔絶と言えるほどの差がないことくらい明らかだろう」
初めにくらべ幾らか態度が軟化してきているとはいえ美しい花には鋭い棘があるを地でいくハマーンと話すのに、
まだ苦手意識が拭えないデュランダルであった
「それなりに充実した日々を送れた。…感謝している」
ふいに漏れたハマーンの言葉に思わず目を丸くしてしまった。
「よろこ―「で、今日はどうしたんだ?お前は相変わらず回りくどいな」
なんとなくだが彼女が苦手な理由が解った気がした。彼女が相手だと自分のペースを保てないのだ。
会話の主導権はほぼハマーンが握っている。かといって奪いかえそうなどという無謀なことはしない。勝てない戦をするほどの
愚かさも血の気もない。レイが運んできてくれた紅茶に手を伸ばしてから、デュランダルはぽつぽつと話しはじめた。
「笑えないな。戦力が劣っているにも関わらず内紛とはな、戦争に負けるぞ。それと―」
目の前にはソファにゆったりと背を預け紅茶をすするデュランダル
「クライン派は殆どが拘束されるか行方を眩ませたのだろう?随分と余裕だなお前は」
デュランダルは口の端を吊り上げた。
「私は軍に頼れる友人がいるのでね。それに私はクライン派の末端もいいとこだ。小さすぎる魚は網にはかからないということさ」
デュランダルは楽しげに言葉を続ける
「君には経験を生かしてZAFTに協力して頂きたい。軍がかなり不安定な今、優秀な人材が必要なのだ」
「ふん、それが本題か」
「その通りだ、頼む」
そう言ってデュランダルは頭を下げた。ここで首を縦にふれば自分は再び戦士に戻る。かつて背負わされた責任を果たす為に、
独りになろうとも戦い続けた。それでも自ら運命を切り開きながら生きてきた。ならば今度も己の力で切り開くまでだ。
そして私は自分として生きてみせる。そして
「わかった、協力しよう」
私は自分の力をかつてとは違う方向で使おうと決めていた。調和と協調を目指してこの世界を生きてゆく
これで良いのだろう?ジュドー

196 名前:286 mailto:sage [2008/06/27(金) 02:24:55 ID:???]
かなーり短いですがとりあえずここまで書けました
今回のテーマとしてはラクスが箱入りお嬢から教祖にクラスチェンジした理由が
本編見てもようわからんかったんで怪しいオッサンと会話させてみました(笑
あとは種のクルーゼだと友達いるのもレイを生かしとくのもありえないと感じてしまったので
種死にまでつづけるためにクルーゼさんを少しばかりいい奴にしていこうと思います


197 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/27(金) 23:21:46 ID:???]
ハマーン様万歳!

198 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/27(金) 23:39:52 ID:???]
内容云々以前にちと読みにくい。
評判が高い人の書き方を参考にされては。

199 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/28(土) 03:28:29 ID:???]
オレは別に気にならなかったけど。

200 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 01:17:55 ID:???]
  『エインシャント・ブライト』


 最近、カミーユは夢の世界と現実の世界の境界線が曖昧に感じられていた。そう感じられるようになってきたのは、時々見る元の世界の夢のせいだ。それも不思議な事にグリプス戦役の時分ではなく、その後の出来事である。
 夢の中では、地球に居た。オーブに居た頃の、ついこの間の夢には、危機に瀕する少女が登場した。幼いながらもMSを動かし、アーガマの危機を救うべくガンダムMk-Uで出撃した女の子。
 まるで、穴蔵の中から外の様子を覗いているような感覚だった。夢さえも現実に感じられるほどの焦燥感を味わい、喉が枯れるほど必死に叫んでいたような気がする。波打ち際の海水が、熱を帯びた身体に心地よかった。

 暗い自室のベッドの上で、跳ねる様にカミーユは目を覚ました。メサイアには上陸せず、アークエンジェルの船室を利用していたので、目を覚ました時に身体に食い込むベルトの痛みが、それまでの出来事を夢だと認識させてくれた。

「何だ、この嫌な感じは……」

 ――本当に夢だったのだろうか。その夢の中の出来事が、余りにもリアル過ぎて、そして悲しすぎて、カミーユの瞳からは自然と涙が流れていた。体中には大量の汗。ベルトを外してシーツから出ると、外気に冷やされて、一寸寒気を覚えた。
 時計をチラリと見やる。まだ、起床時間までには時間がある。寝直すには十分な時間であったが、カミーユはもう一度ベッドに入ろうとは思えなかった。その夢が酷く陰惨で、同じ苦しみを二度と味わいたくなかったからだ。

「地球にコロニーが落ちて、たくさんの人が死んだ……?」

 見開いた瞳。ベッドに腰掛けたまま両手で顔面を覆うように包み込み、その隙間から見開いた瞳を覗かせていた。
 コロニー落しが現実に起こっていた事なのかは分からない。その上、今存在している世界がカミーユにとっての現実かどうかも定かではない。エマもカツも、皆死んでいった者の筈なのだ。その事実が、最近カミーユの自我の扉を叩いている。
本当に居るべき世界が何処なのかを――


 時間に余裕ができれば思慮の時間が生まれる。どんなに互いを思い合った仲でも、遠く離れている時間が長ければ長いほど、疑惑の生まれる余地というものはどうしても出てきてしまう。
 アスランに課せられた試練とも呼ぶべき出来事は、彼を深い懐疑の中へと落とし込んでいた。
 表には出さなかったが、カガリとの再会を楽しみにしていたアスランは、未だに彼女との面と向かっての接触を果たしていない。いや、彼の中の懐疑心が、彼に二の足を踏ませているのだ。

 アスランが素行を取り繕うようにして過ごし始めて数日――地球での連合軍とザフトの諍いが沈静化して間もない頃、未だ戦局は動き出そうとする気配は見せなかった。その分だけ、アスランにとっては不幸だったのかもしれない。
それは、何も考えずに戦いに打ち込めていたほうが気持ち的に楽だっただろうにという、粉飾的な楽観論なのかもしれないが。
 それは、朗報といえば朗報だったのかもしれないが、アスランの元に届けられた報せは幾分か気を紛らわせるきっかけになり得るような報せだった。ザフトとオーブが合同で軍事行動を取るというのだ。
とは言っても、単なる哨戒任務の一環として艦隊を組むというだけで、本格的な軍事行動とは一線を画するような内容であったのだが――とにかく、その艦隊にオーブ軍も編成されるという話だ。
その日は非番であったが、彼は偵察を兼ねた哨戒任務に進んで志願する事に決めた。

「折角の休みなのに、いいの? 張り切って見せたところで、お給料が上がるわけでもないのよ」

 仄かな驚きとともにそう問い掛けるのは、ミネルバの艦長室へと作戦参加を申し出たアスランに対するタリアである。勿論、人生に於いてアスランよりも遥かに高い経験値を積んでいる彼女だからこその驚きでもある。
アスランが、カガリに対して並みならぬ想いを抱いている事くらいは、とっくの昔に察し済みだ。だからこそ、休日を有効に使おうとしないアスランを訝しげに感じた。

「私とエマが非番の時です。万が一交戦に入った時に、MS隊を指揮する者が居なければ話になりません」

 真面目なのは結構ですけどね――アスランの言い訳のような言に溜息交じりでそう返したタリア。
 実際は、この程度の任務ならば、タリア一人でも統制は取れる。何時本格的な抗争に戻るかもしれない時に、態々エマとアスランが非番のタイミングで哨戒任務を行うのは、その時の為に十分に休息を取らせておくためだ。



201 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 01:18:52 ID:???]
「シンだって、無鉄砲だけど最近では頼りになるようになってきたわ。彼に経験を積ませるのも将来の為ではなくて?」
「そのシンです」
「え?」
「彼を言い訳にするわけではありませんが、デスティニーを受領してから少し気合抜けしているように見受けられます」
「そうかしら?」

 首を傾げ、タリアはアスランの目をジッと見つめた。考えるまでもなく、最近のシンは戦士として大きく成長した。それは、デスティニーを受領してから更に顕著になったと言っても良い。
 アスランは、タリアの見解と全く逆の見解を口にしている。それが、直ぐに彼の誤魔化しなのだとタリアは見抜いていたのだ。アスランは、取り繕うように続ける。

「私が、彼の気合を入れなおします。今の内に解決しておかなければ、この先の戦いは厳しくなるでしょう。彼は、今やザフトのエースなのですから」

 シンを言い訳に使うわけではないと口にしておきながら、実際は言い訳にしてしまっている自分が情けなく思える。アスランは表情で平静を装っているが、内心は自らの器の小ささに辟易する心を抱いていた。このままでは、彼の目指す先には辿り着けない――
 タリアは、そんなアスランの苛立ちが透けて見えているようだった。基本的に冷静で、感情の処理も比較的長けているアスランであっても、今の彼の無表情は寧ろ不自然に映る。
 ジッと見つめるタリアの視線に、少しアスランがたじろいだ。すかさず、タリアは射抜くように目に力を入れた。

「身体を動かしたいなら、素直にそうおっしゃい。少なくとも、私はあなたの事を笑ったりはしないつもりよ」
「そ、そういうわけじゃ――」

 タリアの視線から逃げるように、アスランは顔を逸らした。表情には、多少の焦燥が見受けられる。タリアの言葉に、魂胆が見抜かれているのではないかという焦りがあったからだ。
 どうやら、図星だったようだ――タリアはアスランの僅かな仕草から、女の勘といったもので全てに見切りをつけた。座っている椅子を回し、アスランに背を向ける。

「歳相応というものがあります。確かにプラントでは15を超えれば成人と見なされるけど、あなたはまだ20年も生きちゃ居ないわ。これからの長い人生、いくらでも経験すべき事がある。男女の色恋沙汰だって、そうよ」

 別段悪い事をしたわけではないのに、まるで学校の先生に叱られているような気分になるアスラン。タリアの言葉に全く返せない。ただ、押し黙ってそこに立ち尽くすのみ。拳をギュッと握り締めるだけが、彼の唯一の反抗の印か。
 そんなアスランが分かっているように、タリアは続ける。それは、自分の経験が他人に活かされる事を願っているかのように。

「ほんの少しの行き違いが、運命だなんて思わないでね。人間、諦めてしまったらそこで終わりよ。困難だって、超越して見せなくちゃ道は開かれないんだから」

 困難に道を閉ざされたタリアだから言える台詞なのかもしれない。デュランダルとの恋愛と失恋は、今も彼女の心の奥に鋭い棘となって突き刺さったままだ。その痛みと辛さを知っているから、若者に同じ道を辿らせたくないと思っている。
 そのタリアの想いが分かっているのかいないのか、アスランは相も変わらずに黙って立っているだけである。少しの間を挟んで、タリアは小さな溜息をついた。

「――あなたの作戦への参加は、許可します」

 俯き加減で聞いていたアスランが、顔を上げる。

「但し、休日を返上した事によるシフトの変更は無し。フェイスといえども、ミネルバに乗艦する以上は艦長である私の指示に従う事。それでもいいのなら、後は任せます」

 アスランの視点からでは、背を向けているタリアの表情は窺い知る事は出来ない。ただ、その声の抑揚で感情を推し量るだけだ。

「……はい、ありがとうございます」

 慎重に声の調子を選び、アスランは敬礼して回れ右をした。
 自動ドアの、空気が抜けるような音がする。タリアは椅子を回し、肩越しに退出しかけのアスランの背中を見た。少し猫背の、腑抜けした様子にもう一度溜息をつく。気合抜けしているのは、アスランの方ではないか――
せめて彼を慰められるだけの人物が居れば良いと思うが、真面目人間の彼にミネルバのクルーは恐縮している節がある。

「女性の慰めを欲しがっているように見えるけど……私みたいなおばさんがやってもね――」

 溜息が止まらない。困ったように頬杖を突くと、そのままタリアは机の上に突っ伏した。

202 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 01:19:37 ID:???]
 
 ミネルバに虜囚として乗船してはいるが、ネオ=ロアノークの待遇は患者という側面の方が強かった。兵士としてのネオのプライドからすれば厚遇を施そうというミネルバの態度は気に入らないが、連合軍という組織に未練を残していない今となれば話は別である。
スティングとアウルは気になるが、ジェリドもライラも信用できる人物だ。恐らくは自分との記憶も消されているだろうし、その方が彼らも幸せなのかもしれないと最近では思っている。ステラも一緒にミネルバに乗船している以上、今のネオは非常に気が楽だった。
 兵士であった頃には考えられないほど暇な時間の多い生活だ。たまに思い出したように尋問を受ける事もあるが、殆どの情報は過去のもので、今更役に立つような情報は持っていない。

「余暇の過ごし方の達人でも目指すか……」

 未だ十分に動かせられない身体を、ベッドの上に定位置のように寝かされている日々。やる事といえば寝食と排泄に着替え、それと本を読む事くらいである。そういう生活が続いていて、時々身体が腐っていくような感覚に陥る事もあった。
 いつものようにネオはベッドのリクライニングを上げ、身体を起こして文庫本を片手に文字を追っていた。紙は手垢に塗れていて、それが既に何度も読まれているものだと示している。
大して面白いわけでもなく、内容も全て覚えているのだが、文字を追っていればその内眠くなる。その催眠効果に期待して、ネオは無駄にその本を読み続けているのである。
 そんな時、訪問を告げるブザーの音が鳴った。ネオはチラリと時計を見やり、少し意外そうに眉を顰めた。

「ステラが来る時間には、まだ早い――誰だ? ――どうぞ」

 ステラの訪問は、ほぼ毎日と言って良いほど行われていたが、面会時間が限られている上、時間もきっちりと決められている。監視員のレイが、まるで定規で測ったかのように厳しく時間を計測しているからだ。話の途中でも、彼の裁定は容赦が無い。
 ところが、時間の鬼のレイの監視が付いているはずなのに、いつもとは違う時間帯での訪問なのだ。これに首を傾げたくなるのは、兵士としてのネオの警戒感か。果たして、ドアが開いて足を踏み入れてきたのは全く別の女性だった。

「あんたは……」
「聞いて驚きました。生きていらっしゃったんですね……」

 ベルリンでの事を、ネオは忘れようも無い。訪れてきた女性は、丸腰の、しかも両手足を拘束されている捕虜の自分に対して、躊躇いも無く銃口を向けてきたような女なのだ。
 いや、確かにネオは彼女を怒らせるような事を口走ったのかもしれない。しかし、それが殺されるような事ではなかったはずだ。マリュー=ラミアス――彼女の死んだ男に対する執着心といったものは、尋常ではなかった。

「フッ、ベルリンのブリザードでは私は殺せんよ」
「死ぬ勇気が無いだけでございましょう?」

 ネオはその時のラミアスの執心振りを思い出して微かな身震いを覚えたが、努めて冷静に切り返した。しかし、彼女も少しはこちらの性格を分かってくれているらしく、随分な言葉で返された。小癪だとは思うが、今の立場的に見てもラミアスが優位に立つのは仕方ない。
 ネオは観念したように溜息をつき、手にしている文庫本を閉じて脇のテーブルの上に投げ置いた。

「そうかもしれんがな、死ぬわけには行かないというこちらの都合もある。ヘブンズ・ベースで尽きたつもりだったわけだが、未だこうして生きているのは何故だろうな?」
「生かして貰っていると思ってください。ここはザフトなんですよ?」
「知っているよ。けど――私がムウ=ラ=フラガかもしれないという可能性は、考えてもらいたいものだな」

 レイから放り投げられた一つの真実――いや、ネオにとっては実感の無い真実なわけだが、ラミアスはムウに拘っていた。恐らくは罵倒しにやって来たのだろうと考えれば、動揺を与える事で少しでも口の滑らかさを鈍らせる事も出来るだろう。
 ところが、ラミアスは表情一つ変えることなく目線を逸らさない。動揺の色など、微塵も表さなかった。それが意外で、ネオは訝しげに顎を引いた。

「見てくれが似ているだけで、あの人は死んだんです。あなたの様な人がムウなわけ――」
「もし、生きていたとしたら……どうする?」

 レイの証言には現実味があった。ただ、記録上は死亡扱いされている人間の存在が信じられないだけだ。後は、曖昧な記憶の謎が解けるだけでいい。ネオはラミアスにそのカギがあるのではないかと踏んでいた。

「考えた事もありません。私は、目の前で見ていたわけですから」
「そりゃあ、考える余裕も無かったでしょう。――しかし、可能性は示された」
「私は知りません」

203 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 01:20:13 ID:???]
 ラミアスの表情が曇った。やはり、彼女は感情を隠すのが苦手らしい。ちょっとこちらが自信を覗かせれば、途端に自身の態度を不安がって視線を逸らしたがる。そういう脆さがあるから、彼女はムウを忘れられないのだろう。
口では嫌悪するような素振りを見せておきながら、こうして何度も接触を求めてくる彼女の態度がそれを証明している。
 しかし、ネオとて脆さを持っている。自分の存在のあやふやさに、時々気落ちするような事もあるのだ。

「あなたのその依存癖を、私は笑うことは出来ないが――なぁ、頼みたいんだ」
「何でしょう」
「ネオ=ロアノークのセクハラは、今に始まったものではない」
「その通りですが、自分で言わないで下さい」
「そうさ。開き直りで威張れるような男なんだぜ、俺は。だから――あんたの子宮で俺を抱いてくれないか?」
「なっ――!?」

 ネオの依頼に顔を真っ赤にして驚愕するラミアス。ネオとしてはそれほど唐突な事を口にしたつもりは無いのだが、彼女のほうは唐突だったらしい。
 ネオ本人としては、至極真っ当な意見を述べたつもりだ。ラミアスと交わる事で記憶を取り戻せるのではないかと真剣に考えていた。こういう風に考えるネオは、精神的に切羽詰っている証拠だった。
 しかし、ラミアスはネオの精神状態など関知していない。最初こそ羞恥に頬を染めていたが、次第にあまりにものネオのいい加減さに怒りがこみ上げてきた。

「け、怪我人が口にする事ではないでしょう!」
「私は本気だ。あんたの身体を味わえば、俺の曖昧な部分が見つかるかもしれないっていう期待感をだな――」
「馬鹿にして――どこまでふざければ気が済むんですかッ!」
「女だって、欲求を満たそうと考えるだろう? あんただって、俺を求めたくてここに来たんじゃないのか」
「よくも――ッ!」

 スパァンという爽快な音が、部屋の中に木霊した。腰を入れ、スナップの利いた手を振り抜いたのはラミアス。一方、顔を横に向けて頬を腫らしているのはネオ。一瞬だけ、2人の時が止まった。

「死ねばよかったのよ! あなたなんか!」

 激昂する声は、それまで聞いたことも無いようなものだった。まるで野獣のような咆哮を上げると、ラミアスは踵を返し、脇目も振らずに部屋を出て行った。
 残されたのはそのままの姿勢で固まっているネオ。少しして顔を戻し、シーツの上で指を重ねている自分の手に視線を落とした。
 自らの醜態に思わず笑いがこみ上げてくる。俯けた瞳から、情けなさで自然と涙が零れた。ぽたぽたと落ちる雫は、シーツに染み込んで色を変える。

「何をやってんだろうな、私は……」

 自嘲。自分が何者なのかを知りたくて、必死になっているみっともなさがネオを精神的に追い詰めていた。そんな情けない自分に対する、自嘲。
 結局、自分はどちらになりたいのだろうか。ネオとして生きる方が楽かもしれないが、記憶に疑問の余地が生まれてしまった今、真実を知りたいという人間的な探求欲が芽生えてきている事実もある。その板挟みに晒されて、ネオの迷走は続いていく。


 メサイアの宇宙港では、艦隊の発進を見送ろうと駆けつけたカガリとソガが展望室から見守っていた。窓の下では、着々と進んでいく出撃が、カガリの目にも映っている。殆どはザフトの艦で、いくつかの艦隊の中にはオーブ艦籍の戦艦も見受けられた。

「そういえば、アレックス=ディノも今回の作戦に参加するとか――」
「今はアスランだ」
「はっ、申し訳ありません」

 ソガの間違いを指摘するだけに留めたが、カガリとしてもアスランの事が気にならないわけではない。お互いに忙しい身だが、未だに彼とは口も利けてないのだ。長い間会えなかったせいで、寂しさともどかしさを感じざるを得ない。
 どうにかして、都合を合わせて会う時間を作れないものか――そんな事を画策していると、後ろのドアが開く音がした。

「どうです、ここからの眺めは?」

 ひらりとコートを靡かせて入ってきたのは、デュランダルだった。流石に宇宙暮らしが板についているようで、無重力での体のバランスの取り方は物慣れた様子だった。優雅に足を着けると、ご挨拶と言わんばかりにいつもの柔和な笑みを浮かべた。

204 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 01:20:40 ID:???]
「まさか、こちらの要請を受けてもらえるとは思っていませんでした。地球から戻ってきたザフトの編成が終わってない状況で、微妙に人手が足りなかったものですから――駄目もとで言ってみるものですね」

 窓に張り付いて出撃の様子を見ていたカガリに、デュランダルが言葉を投げかける。カガリは顔だけ振り向けてデュランダルを見た。
 畏まってそう言うが、カガリにも少しは彼の狙いが分かっている。大規模な哨戒任務は連合に対する警戒と牽制のためという事だが、本当の狙いは別にある。こうして同じ任務に就かせる事で、オーブ軍とザフトの親和性を高める事が真の目的なのだ。
来るべき決戦の時に備えて、あり合わせの残党のようなオーブ軍との連携を強化する為に、デュランダルはこの様な事を申し出てきたのだろう。
 デュランダルは、いつも口では本当の事を話さない。そういった彼の癖が、少しずつカガリにも理解できてきていた。

「哨戒任務でいらっしゃるのでしょう? 私達は居候をさせてもらっているようなものですから、この程度の申し入れであれば、断るのは失礼というもの」
「その内、本格的な軍事行動に組み込まれる事になるでしょうからな。居候も、不平を言われる前に信頼を得ようと苦労しております」

 深く踏み込まないカガリとは反対に、かなり核心を突いた物言いでソガが付け足す。それは、カガリも言いたかった事に他ならない事で、本来ならば窘めて然るべき場面でも、カガリは特に何も言わなかった。
 それでも、デュランダルは柔和な笑みを崩さない。彼自身、懐疑の眼で見られる事には慣れてしまっているからだ。少しも嫌な感情を滲み出さないということは、それだけ自分の事を分かっている証拠だった。

「どう思われても結構ですが、私達の最終目的がブルー・コスモスの打倒と地球圏の安定であるという事をお忘れなきよう――」

 普通なら、こういった台詞とともにここで姿を消すのが常道だが、デュランダルの心臓には毛でも生えているのか、カガリと一緒になって窓から出撃の様子を眺め始めた。2人の棘のある言にも、全く意に介していない様子だ。
 これだから、今一信用しきれない。カガリは諦め、視線を宇宙港へと戻した。

 カガリの視線の先の光景の中には、クサナギとミネルバで組む艦隊の姿もあった。
 クルーがそれぞれ艦に乗り込む前に、少しの時間だが、レクリエーションが催されていた。これも、ザフトとオーブ軍の連携の強化を狙った行事の一環だ。彼らのみならず、艦隊を組む全ての兵士達は、それぞれ親交を暖めている。
 そんなレクリエーションの一幕――シンにとって小さな再会が、そこでは待っていた。

「君に同行してもらえて助かるよ、カミーユ=ビダン君」
「Ζのテストも兼ねているわけですから、こういう機会を利用させてもらうんです」
「そう言ってもらえると、助かるな」

 クサナギの艦長を務めるは、トダカ一佐。それに同乗するカミーユと握手を交わし、歓談していた。

「君のMSなら、ムラサメの隊長機が務まるだろうな」
「まだ機体バランスがちょい甘ですけどね」
「すまないな――」

 言いかけて、カミーユの肩越しから覗く一人の少年の横顔。トダカは、その少年の顔に覚えがあった。ほんの一度顔を合わせたきりの――しかし、鮮明に記憶にこびりついて離れない深い絶望を背負った少年。

「あの黒髪の少年――失礼」

 トダカはカミーユに一言断わると、人ごみを掻き分けてその少年の下へ歩み寄っていった。
 
「君!」

 シンがレクリエーションの輪の中に溶け込めないでいるのは、オーブの人々に対する遠慮があったからだ。元オーブ国民のザフトという異色の経歴を持つシンは、どちらの顔をしていればいいのかが分からなかった。
そんな彼を見かねたように、トダカが見事な体捌きで人ごみの中から姿を現した。
 誰だ――デジャヴのような感覚に襲われながらも、その中年の顔が見知った顔である事に気付くのにシンは時間が掛かった。中年と顔を合わせたのは、一度きり。それも、失意の底に沈んでいた2年前のあの頃である。
記憶が定かではない頃に出会った、しかし今の自分の居場所を決定付けるきっかけを与えてくれた人でもある。フラッシュ・バックするように、シンの記憶の中に中年の顔が突如として思い出された。

「あんたは――」
「まさか、あの時の少年がザフトに入っていたとは――それも、エース部隊として名高いミネルバに乗っていたとは驚きだよ」

205 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 01:21:51 ID:???]
 トダカは、2年前のオーブ戦で家族を失ったシンに尽くしてくれた良心的なオーブ軍人だった。こうしてプラントに籍を置くことになったのも、全てはトダカのお陰といってもいい。シンにとっては、正に恩人と言える人物である。

「――君は、オーブを憎んでいるかね?」

 少し場所を移動し、人の輪を避けるように2人はタラップに腰掛けていた。
 トダカは、実直な人だ。そして、人を裏切るような人間性ではないことは分かっている。トダカの親切がなければ、シンはプラントにやってくるような事はなかっただろう。
 トダカは、シンにオーブでの出来事を忘れさせる為にプラントへの移住を促したのかもしれない。それは、殆ど正解だが、思惑としてオーブを嫌いになって欲しくなかったという願いも込められていたのかもしれない。
 だから、訊くのだ。2年という時間が経ち、少年にとってはトダカのような中年が感じるのとは違う長い時間をプラントで過ごし、兵士となってオーブと共存する事になった今、成長した事を期待してシンがどのような事を考えているのか。
 ひょっとしたら、激しい怒りをその内に秘め、オーブとの共存を冗談じゃないと思っているのかもしれない。しかし、トダカはそれでも仕方ないと思う。シンはそれだけ酷い目に、オーブで遭ってきたからだ。
 質問したトダカは、少し後悔しているようでもあった。オーブを愛するトダカであるからこそ、シンの口から紡がれようとしているであろう言葉を、聞くに堪えないのだ。もう少し言葉を選んだ方が良かっただろうか――と考えるが、もう遅い。
気配で、シンが声を出そうとしているのが分かった。しかし、身構えているトダカには驚きを与えるような素直な言葉が飛び出してくる事になる。

「今更そんな事を俺に訊くんですか? そんなわけ、ないじゃないですか」
「どうしてだい?」

 シンの顔をまともに見る事などできなかったのに、思いもがけない言葉に思わず顔をシンに向けた。シンの横顔には、懐かしみや悲しみといった感情が交差したような複雑な表情が浮かんでいる。ただ、そこに憎しみや憤慨といった負の感情は見られなかった。

「何かおかしいですか?」
「いや……しかし、君にとっては辛い思い出がある――」
「言わないで下さい。オーブは……父さんや母さん、それにマユと過ごした大切な故郷なんです。今はプラントに慣れちゃってるけど、オーブが生まれ故郷である事には変わりないじゃないですか。生まれ故郷が嫌いになるなんて、無いですよ」

 2年前のオーブ戦では、多大なる被害が生じた。勿論、悪いのは侵攻してきたブルー・コスモスの息の掛かった連合軍であることには変わりないのだが、その戦禍から民を守り通せなかった当時の軍人として、トダカは恥じる心をずっと抱き続けていた。
当然、シンのような元オーブ国民に責められるのは覚悟の上であり、オーブが憎まれるといった事態も想定の中に入っていた事だ。しかし、それはシンによっていい意味で裏切られる。
 シンは、この2年の間にしっかりと心の整理をする事ができたのだ。それは思春期の少年の成長の早さの如く――恐らく、齢を重ねてしまった今のトダカならば、容易に越えられなかった壁であろう。若さとは、こういうものなのだとトダカは思った。

 ふと、トダカの視界の中に展望室の窓からこちらを覗いているカガリの姿が目に入った。顔を上に向ければ、他にもソガやデュランダルといった面々が見える。嬉しい気持ちに拍車を掛ける様に、トダカはシンにお願いをした。

「シン=アスカ君。オーブは――君の故郷は今、かなり厳しい立場に陥ってしまっている」

 だから、手を貸してくれないか――そう言って終わらせれば、シンも何の躊躇も抱くことなく、トダカの言葉に首を縦に振っていただろう。しかし、トダカは知らなかった。

「カガリ様は、この苦境を何とか打開しようと奮戦しておられる。だから、せめて君のような身の上の人間がカガリ様に手を振って、少しでも元気付けてあげてはくれまいか」

 そう言って立ち上がり、上方の展望室から様子を覗っているカガリを指差した。
 迂闊だったのは、シンがオーブという国とアスハ家という一族を一緒くたにして考えていないことだ。ある意味、オーブは象徴としてアスハの名前を戴いている節がある。それは、トダカも例外ではなく、一時期セイラン家が実権を握っていた時分には反感を抱いていたりもした。
 だからこそ、安易にカガリの事を口にするトダカにとって予想外だったのが、急に豹変するシンの表情である。シンは、カガリの姿を見つけるや、激しい敵意のこもった視線をぶつけたのである。

206 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 01:22:21 ID:???]
 突然気配が変わった事に気付いてトダカがシンを見ると、彼は座ったまま歯を剥き出しにしてカガリを睨み付けていた。何事か推測する事ができないトダカは、何も言う事ができない。

「……偽善者がいくら頑張ったところで、オーブが元に戻るものかよ。奇麗事をいくら吐いたって、結局は2年前と同じ事をしてたんじゃ、アスハは何も変わってないって証拠じゃないか!」
「アスカ君……!?」

 戸惑うトダカを余所にシンは立ち上がると、キッとトダカを見据えた。

「あなたを責めるつもりはありませんけど、俺はアスハを認めませんよ。2代続けて同じ事やらかして――あなたには助けられましたけど、あいつには何もしてもらっちゃ居ないんですからね」
「しかし、先日のは不可抗力だったんだ。カガリ様は、恥を忍んで――」

 実際問題、今回招いた災禍は、ある意味では必然であったとも言える。詐欺紛いの同盟締結に始まり、地球上で唯一のプラント勢力ともなれば、連合軍の侵攻は不可避であったのが実情だったのだ。先日まで国として保てていた方が、奇跡と言えるものであった。
 しかし、シンにはそこまで考える余裕は無かった。実際はウナトやユウナ、そしてそれを束ねるカガリを中心として最悪の事態だけは避けようと良く努力した方だったが、アスハという家名に対して必要以上に憎しみを募らせているシンには関係ないことだった。

「悪いですけど、俺に取っちゃアスハは家族の仇と同じなんだ。銃を向けることはあっても、暢気に手を振るなんて事、出来ませんよ」
「そんな物騒な事を言って――笑えない話じゃないか」
「今が冗談を言う時だと思いますか」

 ある意味で、シンは割り切った考えを持っている。シンにとって、以前まではオーブと名のつく存在は全て憎悪の対象だった。トダカですら、例外ではなかったはずだ。
 しかし、オーブという国とアスハという一族を切り離して考える事で、曲りなりにもシンは気持ちに整理をつけることができたのである。歪んだ思想ではあるが、確かにオーブそのものを憎む事は止めた。代わりにその矛先をカガリ一人に向けて――

「アスカ君!」

 トダカが呼び止める声も無視して、シンは立ち上がってその場から去っていった。制服のポケットに両手を突っ込んで、しかしその背中は少し寂しそうでもあった。
 そんな2人のやり取りを遠目から見つめていたルナマリア。胸中は複雑で、そんな想いが表情に感情として発露していた。


「ロザミィはいいのか、カミーユ」

 不意に声を掛けられ、振り返った先にはカツが立っていた。彼は、ルナマリアと交代で非番だったはずだ。態々、見送りに来てくれたのだろうか――いや、そういう雰囲気ではない。

「あ、あぁ――」

 ここ最近、カツの纏う雰囲気に怒気が含まれていることに、カミーユは気付いていた。元々生意気な性格だったが、それは純粋さに裏打ちされた若さから来る焦燥感のようなものだったが、こと最近のカツに関しては何処か違う。
妙に言葉に棘が含まれているのだ。普段であれば、オンとオフくらいは使い分けられるくらいに素直な少年であるはず。ところが、何の変哲も無い普通の会話ですら、挑戦的な声色で語りかけてくる。

「エマさんやミネルバのメイリンって子と一緒に、プラントに行かせてあるんだ。Mk-Uはエマさん用に調整が進んでいるし、彼女がついてきても、迷惑になるだけだろ?」
「冷たい言い方だな。カミーユは、ずっと一緒に居てやろうって思わないのか?」
「どういうことだ?」

 この調子だ。別段カツが気にすることでもないロザミアに関しても、突っかかってくるような物言いである。何がそんなに不満なのか――カツの小さな瞳にきっかけを見つけようにも、彼の目は小さすぎる。カツの場合、目は口ほどにものを言わないのである。

「それとも、ティターンズの強化人間だから、カミーユも持て余しているんじゃないかってさ」

 幾分か丸くなったつもりのカミーユでも、仏になったわけではない。カツの言い過ぎた物言いに、目の端が釣り上がる自分を実感した。
 カミーユは周囲を目で警戒し、不遜に腕を組んでいるカツの背を押して雑踏の中から抜け出した。

207 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 01:23:11 ID:???]
「何をそんなに怒っているんだ? お前、最近おかしいぞ」

 少しも悪びれる様子も無く、カツは変わらずにそっぽを向いたままである。カミーユの怒りなど、全く関知していないと言わんばかりだ。
 強情を張るカツは、それ自体が迷惑である。何度彼の無責任な暴走に付き合わされ――カミーユも人の事は言えた義理ではないのだが――苦労を被ってきたことか。一応エゥーゴの先輩として、カツの不遜は修正しておく必要がある。

「こういう非常事態じゃない時だからまだ許されるけど、その内そんな余裕は無くなるんだ。今のうちに自重することを覚えてくれよ」
「大して年齢の違わないカミーユが、僕の事を子供みたいに扱うからだろ」
「はぁ?」

 勘の鋭いカミーユでも、流石にカツの言うことは分からない。何時、カツを子供扱いしたのだろうか。そもそも、C.E.世界に迷い込んでからは、カツと行動を共にする時間なんて殆ど無かったのである。地中海では合流していたが、そもそも乗っている艦が違った。
カミーユに思い当たる節は無い。

「何を言っているんだ、カツ?」
「僕にはもう分かってるんだ。しらばっくれちゃってさ――」
「お、おい!?」

 その場を立ち去ろうとするカツの袖を掴む。しかし、強引にそれを振り払われると、カツは見向きもしないで遠くに流れていった。

「一体、どういうつもりなんだ、カツ……」

 カツの態度の変化に、カミーユは見覚えがある。しかし、それはありえない事なのだ。カツが、知っているはずが無い。だとすれば、何がカツをあのように強情に変えてしまったのか――首を捻っても、答が見つかるはずも無かった。


 いよいよ出撃が始まり、クサナギとミネルバも何の問題も無く進発を終えた。目的は、連合軍の動きを牽制する事。オーブ軍とザフトの連携を見せて、少しでも連合軍に警戒感を持たせて動きを鈍らせようというのが根底にあった。

 シンは、ミネルバに乗艦してから初めてルナマリアが乗艦している事に気付いた。彼女も今日は非番であったはずだ。コア・スプレンダーのコックピットで調整を行っていたルナマリアを無理矢理に連れ出した。
 シンがルナマリアの手を取り、抵抗する彼女を引っ張って流れていく様子を、目敏いヴィーノは仕事の片手間に発見した。彼は結局エマを誘うことができなかったのである。

「何やってんだ、あいつら?」
「じゃれ合ってんだよ」
「迷惑だぜ。レイが居ないからって、俺達は居るんだぞ」
「いいじゃねぇか。男のやっかみは恥ずかしいだけだぞぉ」

 ヨウランにそう言われ、ヴィーノは鼻で息を鳴らす。

「いいよな、あいつは。女って、いい匂いするんだろうなぁ……」
「何をイカ臭い事言ってんだ。これの匂いでも嗅いでろよ」

 不意にヨウランから投げ渡されたのは、何処の部品かも分からないほどに劣化した駆動系のパーツである。磨耗した金属がオイルに塗れてヘドロのように付着しており、色は黒茶色に汚れていた。嵌めていたゴム手袋を通してでも、ぐちゃっとした不快な感触が伝わってくる。

「何でこんなもんがあるんだよ!?」
「片付け忘れてたんだ。オイルと鉄のケミカリッシュな臭いは、俺達メカマンの大好物だろ?」
「バカ言うな。誰がこんな熟れ過ぎた鉄屑――なら、お前の部屋の芳香剤にでもしとけよ」
「俺はプライベートまで仕事の事を考えたくないんだよ」

 お決まりの台詞が飛び出してくると、それ以上は言葉を交わさなかった。
 ヴィーノは思う。ヨウランのこの落ち着きようは、解せない。彼に色気のある噂話はトンと聞かない。だから、悟りの境地に達しているのではないかと思いたくもなる。

208 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 01:23:40 ID:???]
 少しはヨウランの余裕を見習った方がいいのだろうか。しかし、それでは手遅れになりそうで怖い。捨てるなら、できるだけ早い方がいいのだ。惨めな将来は、考えたくない。

「俺は嫌だからな」
「ん?」

 ポツリと呟くヴィーノ。当然、ヨウランにその意図は分かるはずもなく――

 シンはルナマリアを引っ張って格納庫の隅にやって来た。ちょうどコンテナが積み重なっていて、皆が作業している場所からはほぼ死角になっている。ルナマリアを壁際に追い込んで、シンが通せんぼをするように立ち塞がっていた。

「メイリンとコロニーでショッピングじゃなかったのかよ」
「あの子なら、エマさん達と一緒よ。あたしはカツと交替で勤務」
「何で――」
「あたしが居ちゃいけないわけ?」

 そう言って、口を尖らせるルナマリア。本来のシフトならルナマリアは非番であり、予てから都合の良い日を選んで妹のメイリンと一緒に久しぶりのプラントでのショッピングを計画していたことは、シンの耳にも入っていた。
その計画は、地球から帰還の途に就いていた時――つまり、その時にはまだ“都合のいい日”にこのような作戦が組み込まれることなど知る由も無かったのである。
 ルナマリアにとっても、メイリンと一緒に久しぶりに普通の女の子に戻れる貴重な休日であったはずだ。だからこそ、シンにはその機会を返上して任務に就こうとするルナマリアの感性が、理解できない。

「折角メイリンと遊ぶ予定だったんだろ? それを潰してまでこんな作戦に無理矢理参加しなくたって――」
「あんたが心配だからに決まってるでしょ」
「え……っ」

 意表を突く一言に、シンの口も止まった。珍しく潮らしく顔を俯けたルナマリアに、普段は意識しない心臓の鼓動が聞こえてくる。

「シン、最近何だか苛立っているわ。そういうの、あたしとしては放っておけないじゃない」
「だからって、ルナが俺のために都合を合わせなくたってさ」

 優しげな声色に、シンはどぎまぎして顔を赤らめた。痒くも無いのに、何故か鼻の頭を掻く。斜め上に向けていた視線を一瞬だけルナマリアに向けると、彼女もこちらを見ていた。

「バカ。分かってるくせに――それとも、あたしから言わせるつもり?」

 いよいよ持ってシンの顔が赤くなる。流石に赤服と同じとまではいかないが、まるで顔面に赤いマスクを被っているかのようにシンの顔は紅潮を続けた。
 少し俯いているルナマリアの視線は上目遣いで、大概の男が弱い女性の仕草でもある。シンもその例に洩れず、初めて見たかもしれないルナマリアの表情に、心臓の鼓動は加速するばかりだ。
心臓が喉を通って口から出てくるんじゃないか――そんな錯覚を抱くほどに、喉に何かが詰まっている感覚がして声が出てこない。格納庫の隅で、しかも物陰に隠れているという状況も拍車を掛けているのかもしれない。

「ねぇ、キスしよっか。そうすれば、お互いに言葉にしなくても気持ちを確かめ合うことができると思わない?」
「な、何言って――ここでか!?」

 ルナマリアの止めの一言に、遂に心臓が飛び出してしまったのではないかと思えるほどに動揺して、裏返った声が出た。
 少し物陰から移動すれば、そこでは整備士達が働いている。そんな状況でキスをすると思うと、異常な背徳感がシンの興奮を盛り立てていた。

「早く目を閉じてよ。誰かに見つかっちゃうでしょ」
「あ…あぁ……」

 コンテナが、ちょうど電灯の光の影になっていて、明暗がハッキリと分かれている。その薄暗い場所で禁断的な事をしようとしている。シンの緊張がピークに達しようとしていることは、想像に難くない。下半身がむずむずしているのは内緒だ。
 ただ、ちょっと情けないと思うのは、何故か受身に回ってしまっているということ。本来なら男である自分がルナマリアをリードして――と行きたいわけだが、流れ的にこうなってしまったのはまだまだ進歩が足らんということだろうか。
男がキスを受身で待つというのは、どうにも格好がつかない。
 そんな事を考えて妙に長い間を待っていると、フゥッと首筋に息を吹きかけられた。それが生暖かくて、微かに香るミントの匂いが余計に興奮を促進させた。今や、シンのメーターはレッド・ゾーンを振り切ろうとしている。

209 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 01:24:21 ID:???]
 いよいよか――緊張と興奮で待ちわびるシン。焦らすのは、主導権を握りたいと考えそうな強気のルナマリアらしい。ところが、期待を込めて待っていたシンに突きつけられたのは、人差し指だった。

「へへ〜、豚鼻〜!」

 ぐいっと鼻が持ち上げられる感触に気付き、シンは閉じていた目を開いた。そこには、人差し指でシンの鼻の先を突き上げているルナマリアの悪戯顔があった。シンが呆気に取られて間抜け面していると、ルナマリアは歯を見せて笑い始めた。

「あははっ! 本気でキスするなんて思った? 冗談、こんな所でするわけ無いでしょ」
「思うだろ、普通……!」

 全くの期待外れに、湧き上がってくる怒り。未だ子供の域を抜け出せないシンの心情にとって、ルナマリアの悪戯は少し過ぎた。
 このままでは済まさない――高揚した気持ちの捌け口を求めるように、シンはいきり立ってルナマリアに襲い掛かろうとした。しかし、そんなシンの行動をも予測していたように、ルナマリアはひらりと床を蹴って回避した。
襲い掛かったシンはそのまま壁に激突してしまう。振り向いたシンの額には、赤い打撲の痕が残っているはずだったが、それも怒りの紅潮のせいで目立たない。

「待てよ、ルナっ!」
「あんたはそうやって単純してればいいのよ。深刻なんて、全ッ然似合わないんだから」

 ルナマリアは、悪戯にシンを弄んだわけではない。カガリの放送を観ていたときや、先程のトダカとのやり取りも見ていた彼女は、シンの気分転換をしただけ。シンに好意を寄せていることには変わりないのだ。
それでも、シンは単にルナマリアの悪趣味に付き合わされただけという認識しか持てていなかったが――それも、ルナマリアの求めるシンの単純さでもある。ルナマリアにとって、シンがどう感じようと関係ないのだった。
 ルナマリアは笑いながら側壁を蹴ると、そのまま無重力に任せて人気のある方へと流れていった。シンは、歯噛みして悔しくその姿を目で追うしかない。地団駄を踏みたい気分だが、無重力でその様な高等テクニックは難しい。我慢して、一言呟いた。

「ルナの奴……いつかブタマリアにして喰ってやる」

 勿論、性的な意味で。


 メサイアから次々と発進していく艦隊。幾つものバーニアの尾がシュプールとなって宇宙になだらかな軌跡を描き、それぞれが任務へと旅立っていく。

「随分とご立腹だったじゃないか」

 むくれているカツを嘲笑うように、レイが無重力の中を浮かんでいた。カツがカミーユに詰め寄っている様子を見ていたレイは、勿論冗談のつもりで言っているが、カツ本人は面白くない。

「そういうレイこそ、暇なんだな」
「俺は非番だったし、用事も済ませた。ここに居ちゃ、おかしいか?」
「プラントに戻ったんだから待たせている女の子の1人や2人――レイの顔だったら居なくちゃおかしい」
「興味が無いな」

 そう言って、先を行こうとするカツを追うようにレイは突起物を手で押し、後に続いた。

「それじゃあ、レイはこっちの気があるのか?」
「何だ、それは?」

 カツがレイに対してやって見せたのは、右手の甲を左頬に添えるといった、所謂同性愛者を示すジェスチャーであった。しかし、レイは俗世間的な知識は乏しく、カツの仕草にも疑問符を浮かべるだけだった。

「男好きじゃないかってさ」

 要領を得ないレイの鈍さにカツが業を煮やし、言葉に出す。本当は知っていてワザととぼけているのではないかと思っているカツは、疑いの眼だ。レイは、納得したように一つ頷く。

210 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/29(日) 01:32:45 ID:???]
支援いたす!



211 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/29(日) 01:55:30 ID:???]
モデム云々かな。さらに支援。

212 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 02:01:23 ID:???]
「そういうことか――安心しろ。本当に興味が無いだけだ」
「へぇ、どこまで信じていいんだか」

 苛立ちが治まらないカツは、レイに対しても辛辣に言葉を浴びせる。レイはそんなカツの苛立ちは大して気にしていないが、それでも理由は気になる。

「そういうカツは、異性関係で苛立っているように見えるがな」
「そういうことだよ」
「そ、そうか」

 レイはカマをかけてみた。どうせ訊いても本当の事をしゃべりはしないだろうと思っていただけに、あっさりと認めたカツに、驚かされた。まさか、認めるとは思わなかったのだ。適当に言葉を濁して終わりだと思っていただけに、ハッキリと即答するカツが意外だった。

「それでレイは、どうしてここに来てたんだ?」
「ん……」

 思わぬカツの即答に言葉を詰まらせていると、カツから反対に質問が飛んできた。

「レクリエーションに加わってたわけでもないしさ。僕の事が見えていたなら、どこかで様子を覗ってたって事だろう?」

 時々、カツの勘が鋭いことはレイも気付いていた。最近ではジブラルタル基地での戦いがそうだろう。ミネルバがデストロイの存在を察知する前に、カツはその存在を感知していた。そのカツが、今はレイの蟠りを見据えているようで気色悪さを感じる。

「もしかして、まだキラさんの事を――」

 レクリエーションの輪の中には、プラントで休日を送る自分を申し訳無さそうにするキラの姿もあった。カツは、レイの目的が彼なのではないかと思っていた。そして、それは正解だった。

「それ以上は言うな」

 カツの口をぴしゃりとシャット・アウトするように、レイは少し語気を強めた。
 カツは、知っていた。レイが、キラを見る目に深い敵意を込めていた事に。
 結構前の話だが、あれは偶然にも宇宙から降下してきたアークエンジェルと初めて合流した時だ。交流会が開かれていた場で、レイだけが浮いていたように思う。そして、キラを見るレイの表情が、見る見るうちに憎悪に染まっていく瞬間を、カツは見ていたのだ。
 レイがキラを嫌っているという事実は、本人達以外ではデュランダルとカツくらいしか知らないだろう。レイは、出来るだけ周りに迷惑を掛けないように自分を押し殺してきた経緯があった。
 レイが立ち止まる。カツは振り向いて様子を覗ったが、長髪で隠れた表情からは感情を知る事はできない。ただ、不機嫌なオーラを纏っている事だけは分かっていたので、カツはそのまま先に進んでいった。

 レイがメサイアの宇宙港までやってきたのは、自分の気持ちを確認する為だった。キラの姿を見る事で、自分の感情がどのような反応を示すのかを確かめたかった。
 その様な行動に移ったのには、それなりの理由がある。これから一緒に戦わなければならなくなるという環境の変化と、一重に大きかったのはデュランダルと交わした会話だった。

《彼は、生まれた時から大きなハンデを抱えてしまっている。それは、完璧なコーディネイターとして生まれてきてしまった事だ》

 どうしてそれがハンデになるのか――納得できないレイは、当然の如くデュランダルに問い掛けた。ナチュラルや普通のコーディネイターから見ても羨望に値する、ましてや不完全体として悪戯に生み出されたレイにしてみれば憎しみを抱くほどに恵まれているキラ。

《だからこそだよ。羨望というものは、憎しみを生み出しやすい。過去にはジョージ=グレンのような先例もあるし、同じ結果にならないとは、誰も言えないだろう? だから、自らの身を守るためには息を殺してひっそりと生きていくしかない》

 しかし、逆に同じ結果になるとは誰も言えない。結局、先のことなど誰にも分からないのだ。それに、先例が存在していれば、歴史を学んだ人間は過ちを繰り返さないで済む。ひっそりとした隠棲生活――刺激も何もあったものではないが、レイにとっては十分に贅沢な暮らし。
それに対して嫉妬を抱かないわけが無いのだ。

《或いは、ラウはその尖兵だったのかもしれないね》

 クルーゼがキラを憎む気持ちは、彼と全く同じ存在のレイには良く分かる。レイとて、デュランダルの存在が無ければキラを殺そうと考えていただろう。レイの心の中の良心としてデュランダルが居てくれるからこそ、レイは行動を起こさないで居た。
デュランダルは、レイのストッパーの役割も果たしていた。

213 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 02:02:15 ID:???]
《ならば、お前も彼を殺すかい?》

 言葉に詰まった。それは、何度も考えてきた事だが、いざ口に出されると萎縮してしまうのは、レイがまだ精神的に幼い証拠。違う言い方をすれば、レイの心はまだ純粋な部分が残っていて、それはデュランダルの献身のお陰とも言える。
 クルーゼが不幸だったのは、デュランダルという友人と出会う前にその心を憎悪で汚してしまっていたことだ。自分を見つけてくれた時のような優しさを持ち続けてくれていれば、或いは今でもその優しげな笑みを向けていてくれたかもしれない。
 押し黙るレイに対し、デュランダルは柔和に笑みを湛えていた。

《――コーディネイターとしての能力がいくら優れていても、心まではコーディネイトする事はできなかったんだよ。争いを嫌う彼が戦争をしなければならないというのは、何とも皮肉なものだ》

 実は、そういったキラの環境を整えたのは、他でもないデュランダル本人だった。レイは、その事を知っているが、キラの参戦は結果論に過ぎない事を分かっているが故に、何も言わなかった。

《結局、キラ=ヤマトという人間は戦争の中に身を置くことでしか身の証を立てられなかったんだ。それは、全能を宿命付けられた人間の悲劇でもある。彼は万物の才能を持ちえながら、醜い戦争でしかその才能を発揮させてもらえないんだ。
なぜなら戦争は、敵を倒した分だけ自分を認めてくれる場だからね。彼自身、諍い無くアイデンティティを得る為には、自ら戦いの中に飛び込んで勝利を得るしかなかったんだ》

 それは、シンの様にですか――レイは、デュランダルが以前に口にしていたデスティニー・プランという単語を思い出していた。遺伝情報によって個人の適正を判断し、それによって社会を運営していくという究極的な管理体制の構築。
シンがインパルスを与えられた背景には、その被検体としての意味も含まれているのではないかと、レイは気付いていた。そして、それはあながち間違いではなかった。
 しかし、デュランダルはレイの問いに首を横に振った。

《デスティニー・プランの事を言っているのなら、それは違う。確かにシン=アスカは、MSパイロットの適正は高かった。私もその成長に期待し、インパルスを率先して与えたのはレイの考えているとおりだ。だが、彼はそれを知らないし、知る必要も無い》

 何故――僅かな動揺を見せた。シンはレイの僚友でもある。いくらデュランダルがかけがえの無い人でも、シンが利用されるだけの駒として扱われているならば、少なからずのショックを受ける。血も涙も無いデュランダルであるとは、考えたくない。

《デスティニー・プランは夢物語だ。いくら適正を測れようとも、それを人間に強要する術は存在しない。デスティニー・プランはただ適正を測るだけ、それ以上の力は持ち得ないんだ》

 自らの思想を自虐的に語るあたり、デスティニー・プランの実現にはほぼ見切りをつけてしまっていると見える。昔の青い思考を自嘲するデュランダルの瞳には、憂いが込められていた。そして、それをレイに向けてくる。

《――シン=アスカは、己がすべき事を理解した上でMSに乗っているよ。自分の為にな。だからレイ……お前は、誰かを憎んで生きる必要は無い。お前はお前自身の為に生きれば、それでいい。私はお前の親として、そうなってくれる事を切に願っているよ》

 ポンと頭に置かれた掌。撫でるような感触から、デュランダルの慈しみが伝わってくる。あぁ、この人が身元引受人になってくれて良かった――キラの事は抜きにして、レイは確かな安らぎを感じていた。

 ――ふと気付けば、レイは展望室の窓から宇宙港を見下ろしていた。先程までは多くの艦船がひしめき合い、その中でレクリエーションを行っているキラを見ていた。その時の事を、思い出す。

「ギル……それでも僕は――」

 頭の中が沸々とする。普段は滅多に感じることのないストレスが、キラを目にする事で感じられた。それは、生半可な決意ではキラに対する憎しみを消せないという事。
 デュランダルの願いと自分の蟠り――譲れない2つの葛藤に挟まれ、レイは弱々しく窓を拳で叩いた。


214 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 02:02:58 ID:???]
 ミネルバの艦内に鳴り響く警報――コンディション・イエローをすっ飛ばしたコンディション・レッドの発令は、連合軍の艦隊に遭遇した事によるスクランブルだった。当然、ブリーフィング・ルームで待機していたシンにとって見れば、寝耳に水である。

「索敵は何してたんだよ!」
「文句言わないの。ほら、行くわよ!」

 艦内通路を急ぎながら、シンは愚痴を零す。そんな彼を窘める様にルナマリアが背中を押している。そこに、アスランの姿は無かった。
 ロッカー・ルームで即座にパイロット・スーツに着替え、MSデッキまでやって来るのにおおよそで5分程度。それほど遅くは無いはずだ。既にMSの発進準備も整っていて、整備班との連携も上手く行っている。
 シンとルナマリアは拳を突き合わせると、それぞれに自機へと床を蹴っていった。

『出撃準備、遅いぞ!』

 そんな怒鳴り声が響いたのは、デスティニーのコックピットの縁に取り付いた時だった。声の主は、ブリーフィング・ルームでの待機中にも姿を見せなかったアスランのもの。それは叱責というよりも、ほとんど八つ当たりに近いような印象を受けた。
 確かに自分たちよりも早くジャスティスに乗り込んだアスランの危機感といったものは、高い。ただ、それでもできるだけ早く出撃準備を終えようとしたメカマン達の努力を考えれば、少し可哀想である。
 シンが怪訝に眉を顰めてコックピットの中に入り込むと、インフィニット・ジャスティスの担当を終えたヨウランが流れてきた。

「どうしたんだ、隊長?」
「あの人、パイスーのままずっとここに居たんだぜ。コンディション・レッドが発令されると、直ぐに出せってさ――ブリーフ・ルームで待機じゃなかったのかよ」
「責任感が人一倍強いのが、アスラン=ザラっていう人間の特性だものな。とはいえ――」
「おう」

 シンが顎でヨウランに促すと、手でコックピットの縁を押してヨウランが離れていった。それを確認すると、シンはハッチを閉めて起動に取り掛かる。リズム良くスイッチを順に入れていくと、一斉に眠っていた機器が光を灯し始めた。

『ジャスティス、出るぞ』

 全ての起動が終わり、シンがデスティニーをカタパルト・デッキへと移動し始めた頃には、すでにインフィニット・ジャスティスは出撃を行っている状態だった。アスランの出撃の号令が、シンの耳にも届いてくる。
 シンも遅れないようにすぐさまカタパルト・デッキに移動し、ブリッジの管制官と通信を繋げた。

「隊長、こんなに急いで敵が何処にいるのか分かってんのかよ?」
『敵は12時方向、真っ直ぐに15000ほど進んだところの暗礁宙域だ。戦艦の数は4隻、向かって右から左へゆっくりと横断中』

 カタパルトに接続すると、右上の小モニターに管制官の顔が映し出された。少し電波状況が乱れているのが気になって、シンは背を伸ばして細かく調整する。

『ミネルバとクサナギは、石っころが邪魔で援護射撃はできない。MS部隊で接触してくれ』
「了解――デスティニー、行きます!」

 ぐいっと一気に押し込んだスロットル・レバーと連動するようにカタパルトがデスティニーを運び、一瞬にしてミネルバの艦外へと押し出されると、その鮮やかな紅い光の翼を広げた。
 続けて飛び出してくるコア・スプレンダーは、連続で射出されるチェスト・パーツとレッグ・パーツとそれぞれ合体し、最後にフォース・シルエットと合体した。
 クサナギからも、Ζガンダムとムラサメが飛び出してくる。トリコロールのウェイブライダーと、3機の戦闘機の編隊は、中々勇壮だ。

「隊長は――」

 珍しくレーダーが機能している。遭遇戦のためか、ミノフスキー粒子の影響はまだ微塵も表れていない。
 シンは目視でインフィニット・ジャスティスを探すが、虚空の先にはその姿を見つける事ができなかった。レーダーによれば、インフィニット・ジャスティスの反応は既に暗礁宙域に突入寸前と出ている。

『各機、聞こえているか。こちら、アスラン=ザラだ』

 これ程良好な通信状態は、久しぶりだろう。ワイヤーなどの触媒無しで開かれた通信回線に、シンは妙に懐かしい印象を受けた。

215 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 02:04:06 ID:???]
『ジャスティスはこのまま敵艦隊の側面から仕掛けて囮になる。デスティニー、インパルスの両機は敵艦隊の正面へ回りこんで艦隊の足を止めろ。Ζ以下のクサナギ部隊は後方から挟み撃ちだ』

 放り投げるように伝えられた命令に、シンは眉を顰めた。隊長自らが囮になるだなんて、聞いた事が無い。それも単独で突出してである。囮なら、デスティニーの方が向いているのではないかとシンは思った。

「隊長は、張り切ってんな」
『ジブラルタルを地球軍に追い出されたのが癪だったんでしょ。あの人も男よ』
「そんな拘り、持つかよ。隊長は軍人だぜ?」

 自尊心を持つ俗な人間像を抱いているルナマリアと、職人気質で堅気な人間像を抱くシン。アスランに対して憧れを抱いているシンは少し美化した見解となっているが、俗っぽく判断したルナマリアの見解の方が近いのかもしれない。

 ただ、どう思われていようが今のアスランにはどうでもいいことだった。彼は、唯ひたすら嫌な記憶を忘れたいが為に動いているだけ。単独で突出したのは、MSの動きに苛立ちが出てしまうのではないかという懸念があったからだ。
そういう外面を気にするだけは、アスランはまだ冷静でいるつもりだった。少なくとも、個人的な感傷で隊に迷惑を掛けたくないという判断はできている。
 尤も、彼が一番気に掛けているのは、自分の不安定さが露見することで誰かにそれを指摘されることだった。ミネルバMS隊の隊長としてこれまで指揮してきた自尊心が、自らの脆弱さを隠そうとする自衛行為に走らせた。
だから、タリアに心の内を見透かされそうになった時、心中は穏やかではなかった。暫くは、カガリの事は考えたくなくなった。

 しかし、考えてしまう。あのユウナとの行為のインパクトが強烈過ぎて、つい記憶のヴィジョンに浮かび上がってきてしまうのだ。振り落としたい記憶なのに、どうしてもこびり付いて離れない。できるものなら、この記憶は消したい。
 こんな終わり方なのか、カガリと自分は――何もかもがハッキリしない状況ではあるが、あの場面だけで彼女に対する信頼は大きく揺らいだ。いくら何でも、あんな仕打ちは無い。
 ふと、ディアッカと飲んだ時の事を思い出した。彼とミリアリア――彼らと同じ轍を、自分も踏んでいるのだろうか。理由はやはり、ハッキリと口にしなかった自分の優柔不断のせいか。

「ミノフスキー粒子が濃くなった――敵のミノフスキー・テリトリーに入ったと見える」

 思考を止めるように呟くアスラン。岩の間をすり抜けて機動するインフィニット・ジャスティス。滑らかに連合艦隊に接近を続けていると、急にレーダーが激しく乱れ始めた。どうやら、敵もこちらの存在に気付くのが遅れていたらしい。
インフィニット・ジャスティスが接近した事でその存在に気付き、慌ててミノフスキー粒子を散布し始めたようだ。しかし、もう遅い――敵艦隊の位置は、既に捕捉済みなのだ。
 アスランがヘルメットのバイザーを下ろすと、岩陰から複数のバーニア・スラスターの光が近付いてきているのが見えた。迎撃の部隊が、遅まきながら出てきたようだ。

「ようやくお出ましか」

 厳しく目を細めるアスラン。接近してきたのは、何の変哲も無いウインダムが5機。見慣れた相手だけに、インフィニット・ジャスティスに乗るアスランの敵ではない。
 フィールドは岩の多い暗礁宙域。こういう複雑に入り組んだ狭い場所では、いかに小回りを利かすかが勝負の分かれ目になる。そして、インフィニット・ジャスティスは白兵戦に優れたMSである。
 ウインダムが岩陰を利用してビームライフルによる砲撃をかましてくる。しかし、無闇な砲撃は無駄に岩を砕くだけ。インフィニット・ジャスティスは瞬間移動をするように岩の間を機動し、隠れ蓑にする事でウインダムへと肉薄していく。

「な、何ッ!?」

 ウインダムのパイロットが気付いた時には既に遅し。ワープしてきたと錯覚させるほどに素早く回り込んできたインフィニット・ジャスティスはデュアル・アイを瞬かせ、スラリと伸びるビームの刃を向けてくる。次の瞬間、ウインダムは胴体を薙ぎ切られ、爆散していた。
 暗礁宙域の中に、白球が燃え盛る。それが合図となったように、次々と連鎖的に同じ様な白球が巻き起こった。そして白球による光が収まった時、そこで佇んでいたのは紅のMS――インフィニット・ジャスティスだった。

「……くっ!」

 コックピットの中で、アスランはコントロール・レバーを固く握り締め、歯軋りをした。

216 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 02:05:04 ID:???]
 こうして戦えば、少しは苛立ちも治まるだろうと期待していた。ところが、苛立ちは治まるどころか余計に彼を苛ませる。こうして自分が任務へと出ている間にも、カガリはユウナと何か起こしているのではないかという疑いが沸き起こってくるからだ。

「これでは、逆効果じゃないか……ッ!」

 自ら志願した事とはいえ、哨戒任務に参加した自分の浅はかさを今になって思い知る。むしゃくしゃしていたからとはいえ、何と軽はずみな行動を取ってしまったのだろう。この失敗を取り戻すには、どうすればいいのか。
 思いついたのは、更なる刺激だった。敵と戦う事で、鬱憤を晴らす。それしかない。

「作戦通りに動かなければ……」

 アスランは目で周囲を索敵しながら、インフィニット・ジャスティスを機動させた。大物を仕留めれば、少しはこの苛立ちも治まるだろうか。望み薄な期待を一笑に付すように、アスランは鼻で息を鳴らした。

 岩の合間を縫うように進む3機の戦闘機の編隊。ウェイブライダーのΖガンダムを先頭に、後方から2機のムラサメが続く。カミーユ達はインフィニット・ジャスティスの進むルートを大きく迂回するように移動していた。
 1機のムラサメが、翼端を接触させて回線を繋げてくる。敵艦隊に接近した事により、ミノフスキー粒子の影響を受けている為だ。

『カミーユ、戦闘の光だ。どうやら、我々が一番最後のようだな』
「急ぎましょう馬場一尉。何か嫌な予感がするんです」
『嫌な予感――?』

 連合軍の艦隊に接近するに連れ、カミーユは妙な胸騒ぎが起こっていた。まるで、あの夢の中のコロニー落しのような嫌な予感が、止まらないのである。
 連合艦隊の姿が、ようやく視認できる範囲にまで接近してきた。光の明滅具合を確認する限り、どうやらかなり戦闘は激化しつつあるようで、それは既にアスランは当然としてシンやルナマリアも取り付いていると見てほぼ間違いないだろう。
ただ、加速を掛けても中々追いつくことができない。どうやら、艦隊の足止めはあまり上手く行っていない様だ。

 足止めが上手く行かない理由に、その艦隊に積載されていたユークリッドがあった。陽電子リフレクターを装備する防御に特化したMAの存在が、ザフトのエースであるミネルバ隊の猛攻を凌いでいたのである。
 単独で側面から仕掛けたインフィニット・ジャスティスは、ウインダムの群れに引っ掛かって戦艦に取り付けていない。正面から躍り掛かったデスティニーとインパルスも、ユークリッドの陽電子リフレクターに阻まれて艦隊のスピードを殺せないでいた。
 正面から仕掛けただけに、艦の砲撃とユークリッドの連携は、悔しいほどに噛み合わさっている。シンとルナマリアは回避運動を行いつつ、シールドも駆使してビームライフルで応戦しているが、碌に照準も合わせてもらえない上にユークリッドの鉄壁が立ちはだかっている。

「こいつら、そんなに大事なものを積んでるって言うのかよ?」

 シンの頭でもハッキリと分かる。これだけ防御を固める編成をしているという事は、つまりそれだけ大切な物資を輸送しているという事になる。つまり、この艦隊は輸送艦隊だったのだ。だから、ミネルバとクサナギの接近に対する反応も鈍かった。
 輸送艦隊ゆえに、抵抗もそれほど厳しくは無い。なのに足を止められていない現状にシンは焦りを募らせていた。高エネルギー砲を放つも、ユークリッドは何食わぬ顔でそれを受け止める。

『このままじゃ逃げられちゃう!』

 ルナマリアの悲鳴に近い焦り声が聞こえてくる。もし、この艦隊にこれからの戦局を左右しかねない重要な情報が詰まっているならば、ここで叩くなり接収するなりしなければ死活問題に関わってくるだろう。地球を諦めた以上、これ以上後手に回る事は許されない。
その責任が自分の双肩に掛かっていると自覚すればするほど、シンの焦りも自然と高まってくる。

「なら、接近戦だ! デスティニーの機動力でバリア持ちをパスして、アロンダイトで直接ぶった切ってやる!」
『出来るの!?』
「ルナが援護してくれりゃあな!」

 そう啖呵を切ると、ルナマリアの返事も待たずにシンはスロットル・レバーを目一杯奥に押し込んだ。カッと開く光の翼と、巨大な対艦レーザー刀のアロンダイトを構え、艦隊の前に立ち塞がるユークリッドの群れへと突撃を敢行する。
 ユークリッドも、デスティニーの目的が格闘武器による直接攻撃と分かっているらしく、接近をさせまいとビーム砲で応戦する。しかし、デスティニーの背後から浴びせられるビーム攻撃に、そちらへの対処にも追われた。インパルスの援護射撃だ。

「流石はルナ。分かってるじゃないか」

217 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 02:05:34 ID:???]
 射撃の腕前も、以前に比べたら随分と向上している。だからこそ、ユークリッドは艦への直撃を避けるためにインパルスの砲撃を気にしなければならず、その動きが止まった分だけデスティニーへの対処が遅れる。
 動きの鈍ったユークリッドならば、デスティニーの機動力の敵ではない。すれ違いざまにラリアットをするようなアロンダイトの薙ぎ払う一撃がユークリッドを両断し、そして先頭を行く連合輸送艦に迫った。
 狙いは一撃で戦艦の機能を潰せる箇所――つまりはブリッジだ。指揮系統さえ殺せれば、艦隊の足を止めるのは簡単だ。果たして、デスティニーのアロンダイトの斬撃が連合輸送艦のブリッジを粉砕するように叩き潰した。

「これでッ!」

 シンはデスティニーを上方に飛翔させると、そのまま高エネルギー砲を構えて連合輸送艦のバーニア・スラスターに砲撃を加えた。貫く高エネルギー砲の光が爆発を引き起こし、釣られるようにして誘爆が巻き起こる。
 連合軍の情報を得る為、出来るだけ足を止めるだけに留めようと思って攻撃をしたシン。誘爆が起こった瞬間、狙いどころを間違えたのかと疑った。まさか、撃沈する事になるとは思わなかった。

「しまっ――」

 ところが、そうではなかった。連合輸送艦の爆発の仕方が、あまりにも大き過ぎる。思わずシンはデスティニーを全速で後退させた。しかし、尚も膨張を続ける連合輸送艦の爆発。岩を消し飛ばしながら光は白く大きくなっていく。

 アスランには、その光が何の光であるのかを知っていた。それは、2年前にもこの宇宙を染め上げた禁忌の光。そして、彼の母親はその光の中に消えていったのだ。それは、核の光――

「積んで…いたのか――この艦隊に!」

 目を丸くするアスランの目の前で、後続の艦が先頭の艦の爆発に巻き込まれるような形で誘爆を開始した。そして、やはり同じ光の膨張を見せて轟沈する。
 まるで、小型の太陽を目の前にしているかのようだった。光の膨張は想像の範囲を超え、漆黒の宇宙にあって呆れるほどに白い。何もかもを跡形も無く焼き尽くす光――

 ――その光の連鎖は、カミーユの思惟の中に死の波動を送り込んできた。苦しむ間もなく死んでいく理不尽なのか、それとも一瞬でも味わう身を焼く苦しみなのかは分からない。ただ、人の命が消えていく悲鳴の波が、一斉にカミーユの思惟の中に飛び込んでくるのだ。

「う……ッ!」

 脳を手で圧迫されているような感覚を抱き、カミーユは思わず呻き声を上げた。胃の底から湧き上がって来る嘔吐感を我慢し、霞む目で輸送艦隊を見据える。

『連合は、こんなものをプラントに対して使うつもりだったのか……?』

 呼吸を乱すカミーユの耳に、馬場の震える声が聞こえてきた。馬場の正義感が、怒りに震えている。

『このまま見過ごしてしまったらオーブは――プラントも……』

 馬場の悲壮感のこもった声――最初、カミーユは純粋にその言葉に同意する気持ちを持っていた。しかし、馬場の言葉に込められた決意に気付いた時、激しい嘔吐感を根性で我慢して口を開いた。

「な、何をするつもりですか、あなたは!」
『ここで食い止めねばならん! 行くぞ!』
『ハッ!』

 嘔吐感に悶えるカミーユ。加速の鈍ったΖガンダムを尻目に、馬場機ともう1機のムラサメが韋駄天の如き加速で連合輸送艦隊に向かって行った。

218 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 02:05:49 ID:???]
 シンを襲った核の光は、思った以上にシンの視界に影響を与えていた。余りにも眩しい光に、シンは目が眩んでしまったのである。それは、恐らく虚を突かれた形になったアスランやルナマリアも同様だろう。
視界が回復するまでの暫くの間、満足に動く事は出来そうにない。
 少しして目が回復してくる。シンは、真っ先に残りの2隻の輸送艦を探した。レーダーはミノフスキー粒子のお陰で役立たず。カメラで方々を探して肉眼で捜索する。

「はっ――!」

 その時、カメラ・モニターの一つに、眩い大きな火球が華を開いた。小さなモニターからでも良く分かる。それは、紛れも無く先程の核の光だった。

「誰が――」

 一筋のバーニア・スラスターの光が、今の核の光へと突っ込むように伸びている。それを妨げようと反発するように放たれているビーム攻撃をすり抜けて、そのバーニア・スラスターの軌跡は火球の中に吸い込まれていった。
 瞬間、更にもう一つの火球が宇宙に拡がった。シンは言葉を失い、ただただ自分の目を疑うだけだった。

 ムラサメの火力では如何ともしがたいと判断した馬場達。最終手段として、彼等は自らを弾頭に見立てた特攻を行った。最初に馬場が、次にもう一人が――彼等は、オーブとプラントを守りたいという正義感と誇りと共に散っていった。
 カミーユは遂に我慢しきれず、緊急用のパックの中に吐瀉物を流し込んでいた。

219 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/06/29(日) 02:06:55 ID:???]
久しぶりにさるさんに引っ掛かった……(´д`)
もしかしたら無くても問題無かったかも知れない後付の挿入話は以上です。

しかもネオとラミアスの件も思い付きでねじ込んだ場面だったので
話の内容としてはかなり浮いています。違和感を持った人は正解です。
しかし、実は今回の中では一番楽しく書けたところだったりもします。

核でゲロッたカミーユをおかしいと思うかもしれませんが、冒頭部分との
関係もあってそうさせてもらいました。
ただ、今回のカミーユは……ゲロ吐きに出てきただけですねorz

あ、あとタイトルは木馬の艦長とは全く関係ないのであしからず

>>185
投下日は被らなければOKだと思うし、基本的に自分は予告をせずに気まぐれで
投下する人間なので個人的には投下間隔を気にする必要は無いと思います。

とゆーわけで、286氏のジュドーに影響されたっぽい新訳ハマーン様の活躍にwktkしています

220 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/29(日) 02:23:36 ID:???]
初めてリアルタイムで読んだ。
GJでした。



221 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/29(日) 02:26:02 ID:???]
シンを元気付かせるルナがかわいいw

222 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/29(日) 03:20:48 ID:???]
今回は兎に角下全開だなあ

223 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/29(日) 04:58:25 ID:???]
今回もGJ!
毎回驚くくらいZっぽいので感心しきり
今回はネwオww
シwンww
って感じだったw

224 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/29(日) 11:06:42 ID:???]
性的な意味で自重しない男性陣にフイタw
カミーユ…次こそは活躍できるよね?

225 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/30(月) 13:32:28 ID:???]
こんなルナなら欲しいよ。

226 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/06/30(月) 19:10:52 ID:???]
GJ!!
カツもニュータイプ、サラに気付かないはずが…な…い…?

227 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/03(木) 09:38:20 ID:???]
何故この俺が真面目なSSスレに?
新シャアには良く来るがさすがにこれは場違いだろう
ただでさえ今は夏コミ新刊作成中のぷにぱんのアシで忙しいというのに
それに比良坂医師に呼ばれるならば大歓迎だがカミーユには用はないぞ、俺は
む?
保守代わりか…
まあ、少し拝見していこうか

俺がシャアと同じ道化だと!
失礼な!
 俺 は 奴 の さ ら に 上 に い る !
俺の愛は全ての…
『全ての僕らのためにあるんだねトロワァァァァァァァ!』
ちっ、ホモめ…嗅ぎ付けたか
他スレに迷惑はかけるなとあれほど…
『かけるだけじゃなくてちゃんと入れてあげるよトロワァァァァァァァ!』
ちぃ、何を勘違いしてやがる
シモの話は程々にしないと大変な事になるんだぞ
言いたい事はまだあるが迂闊な長居は死に繋がる、さらばだ









アーッ!





なんだ、俺の…涙か…

228 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/03(木) 11:38:04 ID:???]
トロワスレはもう無いというのに…
お前は何度俺たちの前に立ちはだかってくるんだっ
トロワ・バートンッッ!

229 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/03(木) 16:18:08 ID:???]
やは、Tトロワじゃないか。保守乙

230 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/04(金) 00:24:58 ID:???]
>>228
おい、帰ろうと思ったが一つだけ言っておく
旧板で‘半角’で俺の名を入れるんだ…
そうすれば…

『見つけたよトロワァァァァ!』

早かったな…俺の死も…



231 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/07(月) 11:37:33 ID:???]
ほす

232 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/07(月) 11:41:06 ID:???]
ほす

233 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:age [2008/07/07(月) 18:37:07 ID:???]
浮上

234 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/08(火) 23:59:15 ID:???]
保守が着いたり消えたり

235 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/10(木) 06:27:34 ID:???]
hosyu

236 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/11(金) 00:33:15 ID:???]
保守

237 名前:通常の名無しさんの3倍 [2008/07/12(土) 13:21:25 ID:cQH2HqGU]
カツとレイの凸凹コンビっぷりが中々良いバランスだw

238 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/12(土) 13:22:24 ID:???]
あ、ごめん
あげちった

239 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/13(日) 08:36:20 ID:???]
保守

240 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/15(火) 23:59:58 ID:???]
HOS



241 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/16(水) 00:44:04 ID:???]
        _____ /       /` |
        /__    ヽ―丶、   /l  /
        || |   ̄ ̄ ̄丶`l /  |/
        ||__| /___/000|/゚'  /
       └--'    ||_00/=.ヽ/
         |------ / ̄|/.| |  _______
        | ̄ ̄ ̄/[]__ 丶ノノ /  |      \ \
        丶__/丿\/ ̄ ̄|/  |____ \_\
        /_//_\//__/。― /--- -- --   ̄./ /
     ―/⊆⊇⊂⊃     /  /      // --丶
     / ̄      /_  |  |____/ /     \
     | Ω   |    ̄| ̄|| |         |        |
     | ̄ ̄ ̄丶  .==|| └─―――――\ . 0000 |
     |    .  |  _|_||    \    / ̄|\ 000 |
     \     |  l ̄ ̄l___| ̄ ̄ ̄   |   ̄ ̄
       \___// ̄ ̄ ̄     |       |
       丶――
>>240は欠陥OSなので回収しときます

242 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/16(水) 01:16:26 ID:???]
>>241
ジェガンはCCAスレへ。

243 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/16(水) 01:18:39 ID:???]
これジェガンなの?

244 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/16(水) 04:59:52 ID:???]
パトレイバー イングラム

245 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/16(水) 11:27:31 ID:???]
やっぱレイバーだよな
こんな種類のジェガンあったかな・・レイバーだよなと悩んでしまった

246 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/16(水) 12:08:46 ID:???]
出渕デザインネタのつもりだった。

247 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/16(水) 23:16:42 ID:???]
イングラムもジェガンも出渕デザイン
パトレイバー劇場版と同時上映だったSDガンダムにはさり気なくイングラムが混じっていたりする
………ジェガンのフリして

248 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/16(水) 23:38:01 ID:???]
>>247
やべぇ、超見てぇwww

249 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/17(木) 04:05:12 ID:???]
トランスフォーマーの中にマクロスが混じってるようなもんか

250 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/17(木) 12:06:39 ID:???]
1stのテレビ版にはライディーンや鉄人28号がいることをみな知らないのか?



251 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/17(木) 17:12:41 ID:???]
スルーされるものと思っていたAAから雑談になるとは…

確かに>>250の言う事ももっともだがSDガンダムのイングラムは隠れキャラの一線を越えている
武者だから許されたのかも知れんが
‘鉄砲隊の慈絵丸(ジェガン)’のいとこの‘おかっぴきの自衛丸(イングラム)’という映画での設定まできちんとある
読みは共に じえがん→ジェガン
面倒だからと過去不明な名無しの設定の俺とはエラい違いだ
しかも慈絵丸が番傘被ってたのに自衛丸は頭部むき出しで手には十手と御用提灯と小物まで充実
まあ、俺の愛機がピエロの仮面を被っているのと同じ演出だ
昔のアニメ業界の良い意味でのヌルさを感じさせるキャラだったのさ
ガレキ化もされたしな
今、こんな無茶が出来るのはカテジナ軍曹のトコぐらいだろう

ん?ココは新シャアでZ系のクロスだと…
出渕は全く関係ない?
………
さて…、始めるか俺の自爆ショー………

252 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/18(金) 19:56:50 ID:???]
ホーシューツクツクホーシュー

253 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/20(日) 23:38:50 ID:???]
HOS

254 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/21(月) 19:30:30 ID:???]
いざ我らくだり、かしこにて彼らの言葉を乱し、互いに言葉を通ずることを得ざらしめん。



ゆえにその名は、BABELと呼ばる


255 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/21(月) 20:44:43 ID:???]
BABELBABELBABELBABELBABELBABELBABEL
BABELBABELBABELBABELBABELBABELBABEL
BABELBABELBABELBABELBABELBABELBABEL
BABELBABELBABELBABELBABELBABELBABEL
BABELBABELBABELBABELBABELBABELBABEL
BABELBABELBABELBABELBABELBABELBABEL
BABELBABELBABELBABELBABELBABELBABEL
BABELBABELBABELBABELBABELBABELBABEL


256 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/21(月) 23:30:43 ID:???]
ええい!立て続けに感染してんじゃねぇ!

257 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/23(水) 13:33:46 ID:???]
ホーシュー

258 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/24(木) 18:13:42 ID:???]
hosyu

259 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/24(木) 21:18:41 ID:???]
HOS

260 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/25(金) 00:10:45 ID:???]
あと2週間で落ちるんだぜー



261 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/25(金) 09:50:16 ID:???]
三ヶ月ルールか
1 :通常の名無しさんの3倍:2008/05/08(木) 02:21:16 ID:???
てっことは 2008/08/08(木) 02:21:16がリミットってことだね>>260

262 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:age [2008/07/25(金) 12:14:18 ID:???]
カミーユ氏カモーン

263 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/25(金) 12:17:28 ID:???]
いあ!いあ!かみいゆ!

264 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/25(金) 23:55:37 ID:???]
宇宙が・・・落ちる・・・

265 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/27(日) 21:10:26 ID:???]
ギリギリまで保守

266 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/29(火) 19:59:10 ID:???]
星ゅの鼓動は愛

267 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/07/31(木) 23:23:43 ID:???]
ひ…光が…広がっていく…

あれは…憎しみの光だ!!

268 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 00:45:59 ID:???]
  『ラスト・レスト』


 荒れ放題だった部屋の中は、数時間後には奇麗に整頓された。キサカが手伝ってくれたお陰だ。
普段、身の回りの世話は家政婦の仕事だっただけに、ユウナは部屋の整理の仕方すら知らなかった。
力もあって、常識的な雑事を知っているキサカが手伝ってくれたのは、幸運だった。
 今、ユウナは一人で部屋の中で佇んでいる。写真立てを手に、その額縁に収められているウナトとの
写真を、ジッと見つめていた。まだ、幼い頃の写真だ。その頃は、まだウナトの髪も緑をなしていた。
 紙媒体の写真は、現在でも一般的に好まれている。データとしてメモリーさせておく事で半永久的に
遺せると分かっていても、形として遺しておかなければ人は不安になるからだ。多分の例に洩れず、
ユウナもその口だった。

「行って参ります、父上」

 一人、決意を呟くと、ユウナは写真立てをデスクの上に置いて、部屋を出て行った。


「アスランさんの元気が無い?」

 ミネルバの食堂で、ヨウラン、ヴィーノと3人でだべっていたカツは、2人からその様な話題を投げかけ
られていた。飲みかけのストローから口を離し、怪訝そうに耳を傾ける。
 2人の言う事には、こうだ。インフィニット・ジャスティスの整備を担当しているメカニックが、アスランと
共同で調整を進めていたのだが、彼の様子が明らかにいつもと違うと相談を持ちかけられたという。
会話も途切れがちで成り立たない事もしばしばあり、酷いときには完全に上の空で人の話も聞いていないというのだ。お陰で、そのメカニックの勤務時間は残業に残業を重ね、遂に発熱をしてしまったという。

「何があったのか知らないけどさ、一人でやってんじゃないんだから、しゃっきりしてもらわなきゃ困るん
だよな」

 不平を口にするのは、ヨウラン。もし、自分がインフィニット・ジャスティスの担当だったらと思うと、とても
ではないが笑い事ではない。

「あっ、もしかして、エマさんと上手く行ってないのかも!」
「中尉は関係ないだろ」

 茶化すようなヴィーノの声色が、鬱陶しく感じられる。思い立った様に声を上げるヴィーノを睨み付け、
カツは一言で黙らせた。
 しかし、困ったものである。担当メカニックである人も気の毒だが、カツの場合はもっと事態が深刻だ。
アスランは、ミネルバMS隊の統制を執る指揮官なのである。2人から聞いた話に拠れば、アスランの
精神状態は著しく不安定に陥っているようだ。もし、こんな時に連合軍の大攻勢が仕掛けられたりも
すれば――迷惑どころではない、ミネルバの死活問題にも関わってくるではないか。そんなのは、冗談
ではない。

「何とかアスランさんを元気付けられないかな……」

 ふと漏らすカツの一言に、何かを思い出したヨウランがポンと拳と掌を合わせた。

「そういえば、今メサイアにラクス=クラインがコンサートを開く為に来てるらしいぜ。だからよ、そこに
ザラ隊長を連れ出して――」

269 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 00:46:36 ID:???]
「そうか、婚約者のライブを観れば、元気出るかもしれないな!」

 顔を合わせて示し合わせるヨウランとヴィーノだが、カツにはそれが上手く行くとは思えない。何故なら、
ラクスは本物ではないし、アスランは当の昔にラクスとの婚約話を破談になってしまっているのだから。
そもそも、今プラントに2人のラクス=クラインが居ることすら知らないヨウランとヴィーノには、事情を話す
ことも出来ないが。
 とりあえず、カツは適当に話を聞いて生返事を繰り返していた。

「じゃあ、とりあえず俺とヴィーノとカツとザラ隊長の4人は決定として……後、女の子も何人か欲しいよな」
「う〜ん……考えられるのはルナとメイリンと、もう少し欲しいかな」
「ルナを連れてくなら、シンも呼ばないと後でどやされるぞ――って考えると、かなりの大人数になりそうだなぁ」
「アークエンジェルからも呼ぶか? ミリアリアって人とか、レコアさんとか――」
「だったら、エマさんも呼ぼうぜ!」
「中尉は駄目だ」

 水を差すカツの一言に、2人の会話が途切れた。ヴィーノは不満そうに、カツの顔を見る。

「何でだよ? お前、この間から少しおかしいぞ」
「ヴィーノこそいいのか? 中尉を連れてったら、アスランさんに取られちゃうかもしれないだろ」

 この際、多少の誤解は止むを得ない。カツとしては、これ以上アスランとの関係が噂にならないように、
出来るだけ2人を接触させたくは無かった。エマに好意を持っているヴィーノとしても、エマとアスランの
接触は避けたいはずだ。
 果たして、2人の利害が一致し、コンサート・ツアーのメンバーは最初からやり直しとなった。

「まぁ、何にせよザラ隊長を誘えなかったらこの作戦は元も子もないんだけどな。カツ、ザラ隊長のことは
お前に任せたぞ」
「僕が?」

 指名され、自分を指差して驚くカツ。真面目なアスランに、何と言ってコンサートに誘えばいいのやら――
唯でさえ、ディオキアのときも頑なに遠慮していた彼だ。気落ちしているアスランに、果たしてコンサートに
行くだけの気力が残っているのかどうか。

「この中で一番関わり深いのはカツだろ? こっちは残りのメンバーを集めておくから、よろしく頼むぜ」
「ってわけで、早速行動開始と行きますか」
「あぁ。今夜にも開演だからな。急がなきゃ」

 カツの同意を聞かずして、2人は席を立って食堂を出て行ってしまった。

「ったく、レクリエーションとはいえ、最近みんな気を抜きすぎじゃないのか」

 アーガマやラーディッシュに乗っていた時は、アイドルのコンサートを観に行くような余裕は無かった。
一組織内の反抗勢力としてのエゥーゴと、一国の軍隊であるザフトを比べるわけではないが、カツには
どうにも楽観的過ぎているような気がしてならなかった。ただ、そんな事を口走っても空気が読めないとか
何とか言われて、からかわれるのが落ちだ。特に、カツと同年代のヨウランやヴィーノの小ばかにした顔が
容易に想像できる。カツは、そんな彼等を相手にして無駄な力を消耗したくは無かった。
 出て行った2人の後を追うように、カツもジュースの残りを胃の中に流し込み、ゴミを片付けて席を立った。


270 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 00:47:29 ID:???]
 カガリは再び、デュランダルから呼ばれていた。アプリリウス内の邸宅から送迎用の車に乗り込み、
キサカを従えて街並みを見ながら行政府へと移動している。今回、デュランダルから召集を受けたのは
他でもない、先日接触した核兵器を輸送していた連合艦についてだ。

「ん?」

 行政府の前で車が止まり、後部座席から降りると、エントランスの前では既にユウナとソガがカガリを
待ち構えていた。その身なりは、つい先日までとは違い、きちんと整えられている。表情にも、活力が
漲っていた。

「お待ちしておりした、代表」
「ユウナ……」
「ご迷惑をお掛けしました。これからは、誠心誠意、オーブの為、代表の為に身を削っていく覚悟であります」

 これまでの醜態を詫びるように丁寧にお辞儀をする様に、ようやくカガリもユウナが立ち直った事を理解
した。しかし、妙にこそばゆいのは――

「お前にそんな風に話しかけられると、気持ち悪いな」
「そうでございましょうか? 私としては、代表の補佐官として至極当然の対応を取っているまでの事ですが――」
「駄目だ。鳥肌が立つ。いつもどおりにしろ」
「分かったよ。全く、カガリは変なところでゲリラの癖が抜けきってないんだから」

 ユウナは溜息をつき、やれやれといった感じで肩を竦めた。他方で、カガリはユウナの復活を心強く
思う。これで、デュランダルとも真っ向からぶつかり合える。ユウナの話術は戦力になるからだ。

 それから、案内人に先導されて会議室までやってきた。観音開きの扉をくぐると、そこにはデュランダル
と国防委員長の2人が、3人を迎えていた。

「ご足労いただき、申し訳ありません。しかし、事は緊急を要しますゆえ、こちらまでお越しいただきました」
「その様な挨拶の前に、仰るべき事があるのではありませんか? プラントへのリスクを危惧して散って
いった2人の勇者に対する弔辞が先でありましょう」

 ユウナの先制パンチ。協議内容を先読みした上での、一刺しだ。
 デュランダルはユウナが居る事に感心し、しかし少し顔を顰めてばつの悪そうな表情になった。

「申し訳ありません。しかし、今は1分1秒が惜しい時です。その弔辞の言葉を選んでいる時間が命取りに
なりかねません。敵は、核を持ち出してきたのですから」
「そんなわけ――」

「止せユウナ。言い争っている暇なんて無いんだぞ」

 しかし、流石はデュランダル。ユウナの攻撃を、さらりと受け流してカウンターを見舞った。そんなユウナ
を制して、カガリが前に出る。

「時間は、待ってくれません。早速、協議の方に入りましょう」



271 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 00:48:00 ID:???]
 オーブ国家元首としての風格を漂わせ、カガリは颯爽と席に就いた。ユウナの先走りは、ある種、カガリ
の毅然とした態度を効果的に見せる役割を果たした。ユウナは自らを小物として見せることで、相対的に
カガリの威厳を高めたのだ。
 デュランダルは、そんな2人の姿を見て笑みを湛えていた。そして、ゆっくりと椅子に腰掛けると、秘書に
資料の配布を指示した。


 メサイア内の重力ブロックにある巨大ホールを改造して、巨大なステージが設置されていた。熱狂する
のは、皆ザフトの兵士である。そして、特設ステージにはアイドルではなく、ピンクに可愛らしく塗装された
ザクが踊っていた。

《一見、何事だと勘違いする人もいるだろう。しかし、その踊るザクのマニピュレーターの上を見て欲しい。
そこに居るではないか、アイドルが。いつものようにサービス満点の衣装に身を包んだラクス=クライン
が、君の目に見えるだろう! 何、カメラで追っている姿が巨大スクリーンに映っているだと? 愚か者め、
真のファンであるならば、道具なんぞに頼るな。自らの眼(まなこ)でその姿に括目せよ!》

 カツの隣で乗り乗りではしゃぐヨウランとヴィーノを見ると、そんなファンの熱い魂の叫び声が聞こえて
きそうな感じがした。
 ラクスのコンサートは、プラント国民にとっては至高の安らぎでもある。一昔前のおっとりとした歌い方を
知る人は、今のラクスに違和感を覚えているにはいるようだが、ヨウラン曰く、今のように元気に弾けて
いるほうが断然イイ、との事だった。そういう風に単純でいいのかな――カツは今一乗り切れず、熱狂する
ファンの間で完全に浮いていた。

 熱狂するヨウランとヴィーノに振り回されるカツの近くには、ホーク姉妹も居た。結局、女子勢は彼女達
2人だけの参加となったが、それも必要なかったのではないかと今では思える。華として女子の参加を
求めていたヨウランとヴィーノだったが、コンサートが始まってしまえばそんな事も無かった、というのが
実情だったのである。勿論、蔑ろにされたホーク姉妹は、さぞかし怒り心頭だろう――と思ったが、それも
どうやら無駄な気苦労だったようである。
 そして、その更に近くにはシンの姿もあった。正直、彼はコンサートという乗りではなかった。しかし、
こうしてヨウラン達に誘われるがままにやってきたのには、あの光の中に消えていったバーニア・スラス
ター光の記憶を出来るだけ思い出さないようにしたかったからかもしれない。こういう、戦争とは掛け離れ
た場所に来る事で、少しでも気を楽にしようと考えたからだろう。シンは無理に心の緊張を解きほぐすよう
に、はしゃぐルナマリアとメイリンを見た。

「2人がラクス=クラインのファンだったなんて、知らなかったな」
「えっ! 何だって!」

 コンサートは、大音量で音を流す。振動を体感できるほどの大音量はすでに耳を麻痺させていて、シン
が尋ねた声も隣のルナマリアに届いていなかった。ルナマリアもメイリンも、ペンライトを片手に2人で手を
繋ぎ、飛び跳ねているというはしゃぎっぷりだ。
 シンはもう一度、今度は怒鳴るような大声で訊ねた。

「ルナもメイリンもぉ! ラクスのファンだってことを知らなかったって言ってんだよぉッ!」
「あぁ、そんなことぉ!? 大スターだもん、嫌いなわけ無いでしょぉ! あの完璧なプロポーション――
女のあたしでも惚れ惚れしちゃうんだからぁ!」
「あぁ〜ん! あたしもああなりた〜い!」

272 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 00:49:12 ID:???]
 楽しむルナマリアの横で、メイリンが身を捩じらせて悶えている。メイリンの悩みは、プロポーションの
いい姉と比べて貧相な自分のスタイルである。そのくせウエスト周りは姉の方が細いのだから、メイリンが
ラクスに憧れる動機は十分にある。ラクスの肌に吸い付くような際どい衣装は、その見事なプロポーション
を惜しげもなく披露し、弾む胸には男性のみならず女性の目をも釘付けにさせる魅力を秘めているのだ。
 しかし、嫉妬深い女性が同じ性に対して惹かれる気持ちを持てるものなのだろうか。特にスタイルだけ
ならラクスにも劣らないものを持っているルナマリアなのだから、嫉妬する事はあっても憧れる気持ちは
理解できない。それでも本人がこれだけ熱狂していれば、本当にファンなんだなと認めざるを得ない
だろう。確かに、ラクスのプロポーションは誰が見ても魅力的なのだ。
 ふと、ラクスの胸が気になって隣に居るルナマリアを見た。視線は自然と胸元に向かって行き――
そこではステージで踊るラクスと同じ様に元気良く弾む胸があった。

「う〜ん……ルナのバスト・ラインも中々――」

 頬を赤らめ、目を細めてルナマリアの弾む胸を横目で凝視するシン。顎に手を当て、まるで評論家
気取りだ。しかし、そのシンの視線がいやらしすぎたのか、ルナマリアが自分の胸元に注がれている
シンの視線に気付いた。

「ん!? こぉの、ドスケベ・シン!」

 気付かれないようにぼそっと呟いたつもりなのに、ルナマリアの耳は地獄耳なのか、公衆の面前で
頭を叩かれ、ルナマリアの臀部がシンを押し退けた。その尻圧に人ごみの中に押し込まれ、熱狂する
ファンの中で更に揉みくちゃにされた。迂闊に滑らせた口のせいでこんな災難に遭遇するとはまるで
考えられなかった。口は災いの元とは良く言ったものだ。
 これは、凄い事になったと思った。シンは生粋のプラント国民というわけではないので、ラクスの存在に
それ程ありがたみを感じているわけではない。確かにこうしてはしゃいで戦争のストレスを発散させると
いう意味ではいいのかもしれないが、先日の哨戒任務の事もあり、シンはカツ同様に乗り切れないで
居た。そもそも、この様な大々的なコンサートは、シンは性根的な部分で元々苦手なのかもしれない。

 ところで、ヨウラン・ヴィーノのラクス=クライン・コンサート・ツアーの面子の中に、アスランの姿が
無かった。そもそも、この企画自体が滅入っているアスランを激励する為のものだったわけだが、
これでは企画倒れといっても過言ではないだろうか。実際はアスランの事などそっちのけでコンサートを
楽しんでいるわけだが、それでも気にする必要は無かった。何故なら、当のアスラン本人も、この
コンサート会場の中に存在しているからである。それならば、何故一行の中に居ないのかというと――

「こんな偽者のコンサートを観て、何が楽しいって言うんだ……」

 やさぐれたアスランは、ラクス――ミーアの踊るザクのコックピットの中に居た。そう、ピンクのザクを
動かしているのは、アスランだったのである。

 事のあらましは、至極単純なことだった。ザフト兵士オンリーで行うラクス=クラインの特別公演――
特別であるからには、何かしら変わった事をしたいと考えるのが企画者としての頭である。同じく演じる
側であるミーアも、考えている事は同じであった。
 しかし、企画会議ではそれこそアイデアなど簡単に出てくるわけが無い。しかも、突然決まった公演
だけに、じっくりと練り上げる時間的余裕も無い。
 そこで、ミーアはふと思い出したのである。ラクスの婚約者には、アスランが居る。彼はザフトの英雄的
な存在でもあり、MSの操縦にも並々ならぬ天才的センスを有しているという事実は、プラント国民なら
誰でも知っている事だった。

273 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 00:50:05 ID:???]
 そこで提案されたのが、MSと一緒に踊るラクスのコンサートという事だ。しかも、観客が兵士だけと
考えれば、これ程マッチした組み合わせはほかに考えられない。果たして、突貫作業でのザクの塗装
が始められ、アスランの元にはオファーが届いた。

 最初、届けられたオファーの内容を聞いたとき、アスランは正直そんな馬鹿らしい真似をする気には
なれなかった。それも当然で、今のアスランはハート・ブレイクしている状態なのだ。そんな状態で、
浮ついたコンサートの裏方など出来るわけが無い。しかも、ミーアはラクスを騙る偽者なのである。本人
が公認しているとはいえ、とてもではないがコンサートの為に力を貸そうなどとは、到底思えなかった。
 しかし、誤算だったのは、丁度ミーアのスタッフからオファーを受け取っているときに、運悪くカツが
訪ねて来てしまったということだ。しかも、目敏(めざと)くオファーの内容を聞いてしまっていたカツは、
しきりにそのオファーを受けるべきだと進言してきた。それも、かなりしつこく。いい加減、疎ましく思えた
アスランは、ラクスが偽者であると知っている彼が何でそんなにムキになっているのかを訊ねてみた。
少しの間思考を巡らせていたカツは、やがて諦めたように真相を白状した。
 何のことはない、つまりアスランが気落ちしている事を心配したミネルバ・クルー(ヨウランとヴィーノ)
が、何とか元気を出してもらおうとしているらしいのだ。婚約者であるラクスのコンサートを観れば元気も
出るのではないかと考えているらしいが、チャンチャラおかしいとはこの事か。偽者のコンサートを観た
ところで、アスランの負った深い心の傷は決して癒える事は無く、逆にラクスの婚約者として周囲に気を
配らねばならないプレッシャーを背負う事になるだけだ。だから、アスランは本音を言えば断固として
拒否したかった。
 しかし、彼らの“思いやり”を無碍に扱って信頼を失っても困る。散々悩んだ末、遂にアスランは渋々
ザクの演出パイロットを引き受ける事になったのであった。

『ちょ、ちょっとちょっと! ザラさん、危ないですよ!』

 半ば放心状態でザクを動かすアスランの耳に、インカムからスタッフの慌てる声が聞こえてくる。何事
かと思って視線をなんとなしにミーアに向けると、マニピュレーターの上から足を踏み外しそうになって
よろけているのが見えた。彼女の踊りに合わせてバランスを取りつつザクのマニピュレーターをなるべく
水平に保つというのがアスランの命題だったのに、それを怠ってしまったのだ。会場からは、ファン全員
の歓声と悲鳴の大合唱が上がっていた。しかし、それでも微妙に傾いてバランスの悪くなった
マニピュレーターの上でも、ミーアは踊り続ける。プロとして、ハプニングさえも演出に変えてしまおうと
いうのだろうか。その姿は、違う意味でラクスとしての力強さを感じた。
 しかし、アスランの集中力が戻ることは無い。次第にコントロールが雑になっていくと、遂にミーアが
足を滑らせ、マニピュレーターの上から身を投げ出してしまった。会場は、甲高い悲鳴が割れんばかり
に響き渡り、全ての視線が滑落するミーアに集中した。
 誰もが事故を予感した、その時だった。すかさずもう片方のマニピュレーターを差し出したザクの掌の
上に、ミーアはお尻からドスン、と落っこちたのである。全員が、大きく安堵の息を吐く。そしてそれは、
コックピットでザクを動かしているアスランも同様だった。
 どよめきに会場内が不穏な空気になる。ところが、その中で一人だけ違う動きを見せる人物が居た。
他ならぬミーア本人である。

274 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 00:50:44 ID:???]
「ヘイ、カモンッ!」

 静まり返ったステージの上で、何事も無かったかのようにスッと立ち上がり、バック・バンドに合図を
送って再び元気良く歌いだしたのである。落下の衝撃で臀部は痛いはずなのに――ザクの
マニピュレーターは鋼鉄で、クッションになるようなモノは一切無い。臀部を注視してみるが、衣装で
様子は覗えないが、ただ、かなりの衝撃を受けたのは確かなのだ。それなのに、痛みを顔に出すどころ
か先程よりも更に眩しい笑顔で歌うミーア。その姿に、アスランはプロフェッショナルの心意気というもの
を見た。何が起ころうとも、ファンの前ではプロを演じなければならない。それが、ミーアがラクスを
演じる上での誓いだった。

 アスランは思う。プロであるならば、アイドルであっても兵士であっても、同じではないだろうか。活躍の
場に差はあれど、そこに誓わねばならないプロ根性というモノは、根底にある信念は同じ。
 確かに、今のアスランはカガリとユウナの関係にショックを受け、傷ついている。しかし、それを引き
摺って仕事に支障をきたすようでは、ましてや仲間に迷惑を掛けるような事など言語道断である。それで
なくとも、自分は隊長なのだ。一番しっかりしなくてはいけない人間が、こんな事でどうするのか。気合を
入れなおさなくてはいけない――

 アスランはザクを飛び上がらせ、派手に巨大ホールの中を舞って見せた。一見、かなり危険な
アクロバット飛行。しかし、マニピュレーターに乗るミーアに掛かる重心は、いささかもぶれていなかった。
アスランの卓抜した操縦が、危険な飛行さえもエンターテイメントに変える。それは、あたかも天使が
戯れに舞うかの如く――煌びやかに踊るミーアと相俟って、そのステージはそれまでのミーアの
コンサートの中でも伝説的な出来事となった。

 コンサートの全てが終わり、アスランはまさかこんな充実した気分になるとは、開演前には全く
予想だにしていなかった。これも全て、自分の目の前でプロ根性というものを見せてくれたミーアの
お陰だろう。スタッフに飲み物を手渡され、ストローで水分を補給していると、私服に着替えたミーアが
スタッフ・ルームに入ってきた。

「皆さん、お疲れ様でした」

「今日は最高でしたよ、ラクス様!」
「落ちたときはどうなるかと思ったけど、流石はアスラン=ザラでしたね!」

 丁寧にお辞儀をするミーアに、スタッフが次々と賞賛の言葉を送った。それを受けるミーアも、しゃなり
とした態度で奥ゆかしそうにはにかんだ笑みを湛えた。なるほど、歌の雰囲気は違っていても、普段の
素行自体はラクス本人にそっくりだ。どうして今まで誰も疑う人が居なかったのだろうとずっと疑問に
思っていたが、今のミーアの姿を見て納得した。偽者でも、ラクスの事をしっかりと尊敬してくれている
ようだ。
 一通りお礼と受け応えを済ませた後、ミーアはアスランへと歩み寄ってきた。何事だろうか、アスランは
腰掛けている椅子から立ち上がり、ミーアの顔を見た。本当に、そっくりだ――感心してはいけない事
だが、目を見張るものがある事は確かだ。

「アスラン、少しよろしいでしょうか?」
「え、えぇ――」

 言葉を向けられて、一瞬だけドキッとした。流石はラクスの偽者を演じているだけあって、感じる雰囲気
も彼女のそれに限りなく近い――とはいえ、長い間ラクスと疎遠になっていたから頭の中の印象が多少
ずれてしまっているだけなのかも知れないが。

275 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 00:51:21 ID:???]
 とにかく、ミーアに連れられてアスランはスタッフ・ルームを出た。妙にドアまでの距離が長く感じられた
のは、スタッフの羨む視線がひしひしと感じられたからだろうか。仮面婚約とはいえ、アイドルを独占する
のも悪くないと思った。

 ミーアに連れられて来たのは、人気の無い倉庫の中だった。薄暗く、雑然とした怪しい雰囲気に、
ほんのりと鼓動が高まってくるのを感じた。何かを期待するわけではないが、ミーアのスタイルは抜群に
良い。男として、そこに興味が無いわけではなかった。
 背中を向け、無言で佇むミーアの後ろ姿。沈黙の時間が倉庫の怪しい雰囲気に後押しされ、アスランは
もどかしく思う。やがて、覚悟を決めたように険しい表情をしたミーアが振り向いた。

「あの…私……ごめんなさいッ!」

 勢い良く垂れる頭。ピンクのロング・ヘアーが、美しく広がった。

「私、本当のラクス様じゃないんです! 今まで黙ってて、本当に済みませんでした!」

 急な告白に、しかしアスランは驚くといったよりもポカンとした表情をしていた。勿論、何を今更――
という意味である。どうやら、本人はまだアスランに気付かれていなかったと思っていたらしい。

「知ってた…けど……?」
「へ? はわっ!?」

 若干の遠慮がちに、アスランは言った。ミーアは驚き、下げていた頭を高速で上げた。その仕草に、
最早ラクスらしさの面影は微塵も無い。どこにでも居る、普通の女の子の動作そのものだった。

「し、知ってたって……どどどどうしてぇッ!?」
「いや、俺はオーブに居たし、ラクスもオーブで暮らしていたから、君が偽者だっていうのは、とっくの
昔に――」
「そ、そんな……じゃ、じゃあ、私がラクス様の偽者と知っていてこの仕事を引き受けてくださったん
ですか!?」
「そういう事に…なるかな」
「そ、そんなぁ……」

 羞恥のあまり顔を真っ赤に染め、しゃがみこんで両手で顔を覆い隠してしまった。ラクスの姿をしている
のに普通の女の子の仕草を取る――これほどミス・マッチな組合わせは無いが、アスランにはそれが
堪らなく面白く思えた。

「……プッ! …ククク――あっははははッ!」

 徐々にこみ上げてくる笑いに、遂に堪えきれなくなり、アスランは思わず噴き出してしまった。何か、
とんでもなくおかしくて、力の限り笑い声を上げた。アスランの笑い声は倉庫一杯に響き渡り、怪しい
雰囲気を賑やかに彩る。
 久しぶりに、こんなに声を上げて笑ったような気がする。心の底から笑う事なんて、ここ最近では考え
られなかった事だ。オーブは地球から締め出されるし、ザフトも地球では敗北を喫した。更にカガリの
ショックでアスランの心労はピークに達していたというのに、こんな笑いが出来る力が何処に残っていた
のだろうか。いや、その力を与えてくれたのは、間違いなく目の前で羞恥に塞ぎこんでいるミーアだ。
これまで奇特な目でしか見られなかったミーアが、今は堪らなくいとおしく見える。これも、自分の考え方の
変化だろうか。

276 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 00:52:33 ID:???]
「そ、そんなに笑わないで下さいよぉ……」
「あ、ゴメンゴメン。でも、君の勘違いっぷりがおかしくて――あははッ!」

 恨めしげな目線で見上げてくるミーアは、少し涙ぐんでいた。なぜ泣く必要がある――今のアスランに
は、ミーアの仕草の一つ一つがどれも面白い。
 ミーアの白けた視線を浴びながら、アスランは満足するまで笑うと、やっと笑い涙を拭いて気持ちを落ち
着けた。しかし、まだ少し余韻が残っているようで、思い出しては必死に堪えようと口を歪めるばかりだ。
 ミーアには、不満な事この上ない。自分の醜態を見て、アスランはあんな大爆笑をしたのである。笑わ
せるなら良いが、笑われるのはアイドルとしては看過できない。

「ちょっと、失礼じゃありません? 私は、仮にもラクス=クラインなんですよ。御本人にだって、ちゃんと
お許しを頂いているんですから!」
「ブフッ! そうなのか」
「こ、婚約者でいらっしゃるのだったら、少しはラクス様に敬意を払って――」

 アスランにとっては、あまり思い出したくない記憶だ。ミーアが口にした台詞を聞いた途端、アスランの
笑いがピタリと止まった。

「どうされました?」
「――俺はもうラクスの婚約者ではないんだ」
「えっ?」

 自嘲気味の、溜息交じりの呟き――唐突なアスランの告白に、ミーアは驚いて思わず立ち上がった。
 プラントの世間一般では、ラクスはアスランと婚約関係にあるというのが常識だ。それは誰もが認める
美男美女のカップルで、家柄を含めても国民総公認といった感じだった。
 その2人が、既に破談していたなんて――ミーアは、このショッキングな事実に驚きを隠せない。
アスランは、口をパクパクさせて固まってしまっているミーアを尻目に続きを話し始めた。

「俺も、色々あってね。今、ラクスと一緒なのは、キラっていう奴なんだ。俺の昔からの親友でさ――」

 ミーアはハッとして、口を開く。

「あ、それってもしかして、先日のゲリラ・ライブの時にラクス様と一緒に居た茶髪の――」
「多分そうだろう」
「ど、どうしよう……私、お二人の前でキラ様の事をラクス様の護衛と勘違いして――顔が好みじゃない
とか誤解されないようにとか、とんでもなく失礼な事を――」
「そ、そんな事を言ったのか……」

 ミーアは、中々破天荒な性格をしているようだ。そんな逸話があったとは、彼女は色々なハプニングに
縁があるのだろうな、と感じた。それと同時に、ミーアにぼろくそに言われたキラを、少し気の毒に思う。
温厚な性格の彼だから、多分そんなに気にしては居ないだろうとは思うが――

「アイツは時々しつこいところがあるからな。後で何を言われるか分からんぞ」
「そ、そうなんですか? どどどどうしよう……」

 少し意地悪を言って、ミーアを困らせてみた。ミーアは俯いて両手で頬を覆い、顔色を真っ青に染めて
いた。一々リアクションの面白い子だ。見ていて飽きない。

277 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 00:53:10 ID:???]
「フッ、嘘だよ。キラは優しい奴だから、その程度の悪口なら気にも留めてないさ」

 その言葉を聞いて、ミーアは小動物や鳥が警戒する時のような俊敏な動きで顔を上げ、信じられない
といった表情でアスランを凝視してきた。そのリアクションと表情が面白くて、アスランは笑いを堪えるの
に必死だった。全く、期待を裏切らない子である。

「嘘だったんですか! 何でそんな意地悪をするんです! あれですか、私がラクス様の偽者をやって
いたからですか! さっきザクの手の上から落としたのも、それが原因だったんですか! 私を殺す気
だったって事ですか!」
「ち、違うよ、俺はそういうつもりは――」

 早口で矢継ぎ早に捲くし立ててくる。怒りに表情を強張らせ、ひょっとしたらアイドルよりもコメディアンの
方に才能があるのではないかと思えるほどに、アスランにはミーアの一つ一つの仕草がツボだった。
 顔は同じなのに、浮世離れした透明感を持つ本人とは正反対で、ミーアはどこにでも居るような世俗
塗れの雑草的な印象を感じた。それも、一つの魅力だろうか。アスランは怒り続けるミーアを適当に
宥めながらも、彼女の魅力に惹かれていた。

「――君は、いいアイドルになるんだろうな。男心のくすぐり方を、良く知っている」
「別に、私はそんなつもりで居るわけじゃないですけど――そういえば、アスランさんは今、お付き合い
している方は居ないんですか?」

 アスランの少し意地悪な物言いに顔を顰めると、続けて思い出したようにミーアは訊ねてくる。純粋に、
素直に疑問に思ったことを口にしただけなのだろう。ミーアに悪気は無い事は十分承知しているが、
今のアスランにとっては一番痛い質問だった。
 ミーアの言葉が、傷心に何十トンもの錘を落とされたように重く響く。アスランは少し眩暈を起こし
ながらも、何とか根性で踏ん張り、努めて冷静にミーアの疑問に対する答を喉の奥から搾り出した。

「……ま、まぁ、一応そういう事になるかな」

 本当は、カガリの事を恋人だと思いたい。しかし、今のアスランにはカガリの事を信用しきれるだけの
確信と自信が無い。長期的な遠距離生活が、気持ち離れに繋がったとは思いたくないが、実際にカガリ
はユウナと――をしていたのである。夢だと思いたかったが、残念ながらそれは現実に起こったことで、
アスランには堪らなくショックだった。
 しかし、まだ完全に納得したわけでもなかった。状況証拠は挙がっているとはいえ、殆どがアスランの
早合点で憶測の域を出ていないのだ。だから、妙に曖昧な返答になる。それでも、ミーアはそんな
アスランの奥歯に物が詰まったような態度は気にならないようである。

「そうなんだ……でもでも、世間じゃラクス様とアスランさんは婚約者同士って事になっていますよね。
それって、どうするつもりなんですか? いつまでも黙っているわけには行かないと思いますけど」
「そういうものかな?」
「そうですよ。世間って、私達が考えている以上に有名人同士のカップルが気になるものみたいですよ。
私の周辺にだって、ゴシップ雑誌のカメラ小僧が徘徊しているんですもの」
「そりゃあ、君がラクス=クラインとして通っているからだろ? 当たり前じゃないか」
「あ、そっか……そうだ!」

 少しお間抜けな発言をしていたかと思うと、急に何かを閃いたかのようにミーアは声の調子を上げた。
そして、おずおずと身を悶えさせ、チラリとアスランの顔色を覗うように上目遣いの視線を投げかけてきた。

278 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 01:01:54 ID:???]
「どうした?」
「あの、これ私の考えなんですけどぉ――いっその事、私とアスランさんが恋人同士になればぁ、万事解決
なんじゃないですか……?」

 正直、もじもじと身を悶えさせて不安げに見上げてくるミーアは、可愛いと思う。アスランの心が激しく揺り
動かされたのは、想像に難くない。しかし、アスランにもプライドというものがある。世間の目を誤魔化す
為に嘘の恋人同士を演じるなどと――

「そんな俺の都合だけで君と付き合うわけには行かない。第一、君にだって恋人を選ぶ権利がある。
気を遣ってくれるのはありがたいけど、俺のことは気にしてくれなくていいから――」
「私だって、アスランさんの恋人でなければ困るんです。これは、お互いの為ではないですか?」
「確かにそうだが、しかし――」
「アスランさんは、私のことが嫌いですか?」

 潤む瞳に下がった眉尻。そんな表情でそんな事を言われたら――

「そ、そういうわけじゃないけど……」

 ミーアの熱い視線を避けるように、アスランは顔を背けた。ぐらつく自分の気持ちを何とか落ち着かせ
ようと、必死に平静を取り戻そうと努力する。

「だったら――」

 ミーアはその身体をそっくりそのままアスランの胸に投げ出した。コンサートが終わってから、シャワーを
浴びたのだろう。アスランの鼻腔をくすぐるように、ミーアの髪がシャンプーの匂いを運んできた。
 既に、アスランは陥落寸前だ。唯でさえミーアの心意気に尊崇の念を抱いていたというのに、こんな風に
して好意を寄せられたら、断わる為の成す術がなくなってしまう。我慢できなくなったアスランのとった
行動は――

「す、すまない!」

 震える腕でミーアの肩を掴み、少々乱暴に引き離す。最早、アスランはまともにミーアの顔を見る
勇気が無かった。今、彼女の顔を見てしまえば、最後の理性が吹っ飛んでしまうような気がしたからだ。

「か、考えさせてくれ!」

 そう言って、脇目も振らずにアスランは走り出した。倉庫内のバケツに躓きそうになりながら、勢い良く
ドアを開け、疾風の如く廊下を駆け抜けて行った。
 結局、アスランは決断が下しきれなかっただけの事だった。カガリの事も諦めきれないアスランは、新しく
魅力を感じるミーアの存在に混乱しているのである。真面目で優柔不断な彼だから、冷静に思案を重ねず
には決断できなかったのだ。
 そんな情けない自分だが、いつの間にかストレスの発散は出来ていた。新たな問題が出来てしまった
が、とりあえずはいい気分転換になったということだろうか。この様な機会を作るきっかけを与えてくれた
カツ達には感謝してもし切れなかった。



279 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/01(金) 01:02:04 ID:???]
支援

280 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 01:02:24 ID:???]
「じゃあ、連合軍はまだ核を隠し持っているかもしれないということですか?」

 資料を片手に、眉を顰めてカガリはデュランダルに訊ねた。同席している誰もが、神妙な面持ちで
哨戒に出た偵察部隊の報告書を見つめている。
 カガリの質問に、国防委員長が応える。

「確かにミネルバとクサナギの活躍で核の輸送艦隊を殲滅することは出来ましたが、それが全てだとは
到底思えません。核攻撃を前提として考える方が賢明であります」
「ならば、対抗策は用意されておいでか?」

 視線を紙面から上げ、ソガが口を開く。国防委員長は向き直り、首を縦に振った。

「御覧下さい」

 国防委員長が手元のスイッチを操作し、部屋を暗くすると、取り囲むテーブルの表面が巨大モニターに
早変わりした。そこに浮かび上がってきたのは、ナスカ級の戦艦の先端に、旧世紀のアナログアンテナを
くっつけたような異形だった。
 オーブからの面々は、そのナスカ級の姿を確認すると、視線を国防委員長に向けて説明を求めた。
国防委員長は頷き――

「核分裂を強制的に促進させて、こちらへ着弾する前に暴発させてしまおうというコンセプトの元、開発
されたニュートロン・スタン・ピーダーです。前大戦終結後より、万が一の事態を想定して準備が進められ
ていました。とりあえず、これを使えば確実に核攻撃の第一波は防げます」
「第一波だけですか?」
「使用は一度が限度です。効果は覿面ですがあくまで試験的な装備なので、一度使えば間違いなく自壊
します」
「それでは意味が無いのではないですか。もし、核攻撃の第二波が入れば――」
「そこで、です」

 モニターの画面が、メサイア周辺宙域に切り替わった。そこには、予想される規模の連合艦隊が光点
となって表示されている。

「メサイアまでの直線上には、部隊配置を行いません。その代わり、先程のニュートロン・スタン・ピーダー
をメサイアの直前に配置しておきます。そうすれば、真っ直ぐメサイアに狙いを定めた核武装部隊は、
ニュートロン・スタン・ピーダーの一撃で殲滅可能です。そして、次に――」

 画面に、今度はザフトの部隊が連合軍を挟み込むように表示された。

「敵は恐らく、ニュートロン・スタン・ピーダーの存在を察知していないでしょう。そこで、ニュートロン・スタン・
ピーダーの攻撃で混乱する連合軍をザフト艦隊で挟撃し、残存戦力を掃討します」
「確かに、受け手だから出来る囮作戦かもしれませんな……」

 国防委員長の説明に、ソガは顎に手を当てて感慨深そうに頷いた。

「これなら、勝てるんじゃないのか?」

 説明を聞き、カガリが声に出す。全てが思うとおりにいくとは思わないが、聞いている限りでは上手く
行きそうな予感は十分していた。しかし、デュランダルはそんなカガリの言を聞いて、首を横に振る。



281 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 01:03:04 ID:???]
「何故です?」
「連合軍の動きですが、こちらへの侵攻以外にも、不穏な動きを見せる艦隊があります。別の哨戒部隊が
察知したものですが、何やら廃棄コロニーの移動を行っているというのです」
「それは、唯単に作戦上邪魔だっただけでは――」
「そう思うにしても、連合軍がやる事とは思えません。対応に出るには不確定で、看過するにしても
不気味な気がします」
「成る程……」

 敵の目論見が見えない以上、不安になる気持ちは分かる。カガリは腕を組み、モニターを睨んで唸り
声を上げた。

「では、その調査にオーブ艦隊を使うというのはどうでしょう?」

 突然のユウナの提案。皆が顔を上げ、ユウナへの視線が集中する。

「今度の作戦、聞く限りでは、ザフトだけでも成功させる事が出来るように思います。それでしたら、オーブ
艦隊はコロニーの調査に向かわせても構わないのではないでしょうか? 両方に同時に対応する事で、
国防委員長殿の頭痛の種は無くなる――どうでしょう?」

 疲弊したオーブ軍を積極的に動かそうとするのは、あまり歓迎できる事ではない。唯でさえ、馬場達の
ような犠牲が出たばかりである。カガリもソガも、出来れば今しばらくはオーブ軍に休息の時間を与え
たかった。しかし、ユウナの提言には別の意味が込められている。
 今度の作戦は、ニュートロン・スタン・ピーダーで敵の核兵器を一度で殲滅できる事が前提にある。
裏から見れば、連合軍が核兵器を波状的に撃ち込んで来る作戦ならアウトなのである。そして、常識的
に考えれば、それが現実的だ。そうなればメサイアは陥落し、混乱するのはザフトだ。丸裸にされた
プラント・コロニー群は連合軍に侵略され、コーディネイターの国は一貫の終わり、そしてそこに身を
寄せていたオーブも終わりだ。
 非情かもしれないが、ユウナはオーブがそれに巻き込まれるのを良しとしていない。だからこその、
調査。一見、ザフトの手助けをするように見せかけて、実のところは避難である。作戦通りにザフトが
連合軍を撃退できれば良し、よしんばプラントが滅亡を迎えようとも、少なくともオーブだけは助かる。
その後で、少しずつブルー・コスモスに取り入っていけば、いつかはオーブを復活する事が出来るかも
しれない。
 分の良い賭けではないが、可能性が無いわけではないのだ。ただ、カガリにはとてもではないが告げる
ことなど出来ないが。

 ユウナは、国防委員長を見た後、じっとデュランダルを見つめた。デュランダルの視線は、圧倒的だ。
心を射抜くような鋭い視線に、ユウナの背中は汗で湿っている。しかし、表情には出さない。表情に
出れば、一瞬にして自分の考えが知られてしまうような危うさを感じたからだ。
 やがてデュランダルは深い瞬きをし、浅く頷いた。

「そうですね。お願いしましょう。オーブ艦隊には、廃棄コロニーの調査に向かっていただきます」
「はい。……代表、それでよろしいでしょうか?」

 デュランダルの言葉を受けて、ユウナはカガリに振り向いた。彼女の表情は、怒っている風ではない。
しかし、内心では不満に思っていることだろう。公の場で表情に私情を出さなくなった辺り、カガリも
随分と公人としての資質を磨いてきたものだと思った。

282 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 01:03:44 ID:???]
「お前とソガに任せる」
「かしこまりました」

 信頼関係は、大切だよ――ユウナは心の中でそんな事を呟き、そして話し合いは終わった。

 部屋の中が明るくなり、解散の空気が流れると同時に、カガリは席を立って資料を小脇に抱え、退室して
いった。誰にも分からないように溜息をつくユウナは、カガリを追うようにして椅子を引いて立ち上がろうと
した。その時――

「ユウナ君」

 公人としてではなく、私人としての呼び方で声を掛けてくるデュランダルに振り向き、怪訝に首を傾げた。
 まさか、先程の提言の真意に気付かれ、カガリがいないところでいびろうというのだろうか。そういう
底意地の悪さが彼にあるとは思えないが――長身のユウナよりも、さらに背の高いデュランダル。
ユウナは畏まり、呼び止めるデュランダルの次の言葉を待った。
 すると、デュランダルはデスクの下から何やら木箱を取り出し、それを持ってユウナの前に差し出した。
少し顎を上げ、受け取るようにと促されて手に取る。

「何でしょう?」
「前に君の父上から頂いた物だ。ウナト殿があのような事になってしまった以上、これは君が持っている
べきだと思う」

 訝しげに眉を顰め、ユウナは木箱の蓋を開けた。中に、罠でも仕掛けてあるのではないかと警戒して
いたが、そこに納められていたのは2本のボトルだった。丁寧に敷き詰められた木屑の柔らかなクッション
に包まれ、鮮やかなブラウンに煌く上質なボトルだ。
 そこに貼られているラベルを見て、ユウナはハッとした。それは、ウナトが愛飲していた高級ウイスキー
のボトルだった。

「そのウイスキーの事を、ウナト殿は大層気に入っておられた。グラスに注いで太陽の光に透かすと、
まるでオーブの色のようだと仰っておられたのを、私は今でも鮮明に思い出せるよ」
「あなたが、父上と……?」
「君の事を随分とご心配なされていた。――フフッ、君は精神的にまだ未熟で、イザという時に何を
仕出かすか分からない――とね」

 柔和に笑みを湛え、デュランダルは懐かしむように遠い目をして語る。そんな事があったとは、ユウナは
然として知らなかった。何があったのかは知らないが、決して相容れないであろうと思われたデュランダル
に、贈り物をする父が意外に思う。どんな言葉を交わして親交を深めたのか興味はあるが、それを訊ね
ようとは思わない。父にも、息子に知られたくないような事もあろう。親子の関係で故人の名誉を尊重しよう
というのは見当違いかもしれないが、ユウナにとって父は親である以前に政治家だった。ユウナは、その
部分を最大限に尊重しようとしていた。

「しかし、これは議長が父から贈られたもので――」
「父上の思い出は、大切にしたまえ。親というものは、子に思われる事が一番嬉しいものだ。君が結婚し、
子を授かるようになれば、分かるようになる」

283 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 01:04:09 ID:???]
 ポン、とユウナの肩に手を乗せ、デュランダルは会議室を出て行った。振り向いて、何かを言おうとした
が、言葉が出てこなかった。開かれた扉をくぐり、廊下へと消えていく後ろ姿を見送った後、静かに視線を
ボトルに移した。
 すれ違いざまに掛けられた言葉に、ユウナは聞き返したいことがあった。ユウナの知る限り、デュラン
ダルは独身だ。その男が、どうして親の気持ちを代弁するような事を言ったのか――言えたのか。
 答は分からない。真相を知ろうにも、そこはプライベートな部分なので流石に気が引ける。ならば、推測で
自らを納得させるしかない。
 多分、デュランダルは過去、もしくは現在進行形で親の重責というものを味わっているのだ。だから、
その責任に苦悩する部分があるからこそ、ユウナに親の気持ちを分かってもらいたくてあのような事を
言ったのではないだろうか。そう考えれば、自分の心配をしていた父と馬が合ったのも理解できる。
2人は、親の抱える普遍的で日常的な悩みを抱えていたからこそ、それを愚痴りあったから分かり合えた
のだ。そういう身近な話題は、互いの理解を深める最もシンプルで確実なものだった。

 ユウナは外で待たせてある車に乗り込み、アプリリウス内に用意してもらったホテルの仮住まいに
向かった。ホテルの前で車を降り、同行していたソガと別れて中に入ると、エレベーターに乗って割り
当てられた自室へと歩を進める。フロントで受け取った電子キーを差し込んで錠を廻し、セキュリティーが
解除されて自動で扉が開いた。
 中は、高級家具が取り揃えられたロイヤル・スイート・ルーム。一人で過ごすには些か広すぎるといった
佇まいだが、セレブとして育ったユウナには何て事は無い。部屋の数は、ざっと見たところ4部屋程度は
あろうか。その中のダイニング・ルームに木箱を抱えて入ると、それをテーブルの上に置いてネクタイを
外した。そして、棚に並んでいるグラスを一つ手に取り、椅子に腰を降ろすと木箱の蓋をそっと開ける。
片方のウイスキー・ボトルを取り出し、栓を抜くと、そこに閉じ込められていた芳醇な香りが一気に部屋の
中に広がった。
 あぁ、オーブの香りだ――目を閉じ、鼻に神経を集中し、アルコールの粘膜に沁みるような香りを肺一杯
に吸い込むと、静かに目を開く。ボトルを手に持ち、ゆっくりと傾けてグラスに注ぐ。ボトルからウイスキー
が吐き出される度に鳴る空気の音が、心地よく一人きりの静寂に響いた。
 注ぎ終えると、ボトルに再び栓をした。グラスに注がれたウイスキーの色は、少し赤み掛かった鮮やかな
ブラウン。ユウナはグラスを手に取り、照明の灯りに向かって掲げた。

「朝焼けの色――暁(あかつき)か。本当だ、オーブの色だ……」

 人工的な光では、それ程色が透けない。やはり、太陽の強い光に照らしてこそウナトの感動が味わえる
といったものだが、しかしユウナにはハッキリとその色が見えていた。
 背もたれに全体重を預けるようにもたれかかると、ユウナはグラスを口に付け、ウイスキーを喉に流し
込んだ。元々酒があまり飲めないユウナは、碌に味など分からなかったが、そのウイスキーの旨さだけ
は海の底より深く理解できた。
 酒とは、こんなに美味しいものだったのか――感慨深く、その味を実感する。これが、父の愛した味
なのだ。この味で、父は生きた。今、ユウナが手にしているそのウイスキーは、父の生きた証である。
それを、彼は生涯忘れるような事は無いだろう。

 静かに静かに、ユウナはグラスの中のウイスキーを飲む。自然と、ユウナの目尻から熱いものが
流れた。それは、父に捧げる鎮魂歌――音の無いレクイエムだった。


284 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 01:04:51 ID:???]
 プラントのコロニーは、所謂一対の円錐の頂点が向かい合ったような珍しい構造をしたものである。
その独特の形状から、ナチュラルには俗に“砂時計”と蔑称で呼ばれてきた。しかし、一般的な円筒形の
コロニーしか知らないロザミアには、プラント・コロニーは単純に美しい構造体という認識しか持って
いなかった。
 ギャプランが大きな弧を描いて旋回する。後部バーニア・スラスターが青白い火を噴き、残光となって
ギャプランの軌跡を描き出す。そこは、メサイア周辺の訓練宙域。ギャプランの修復が終わり、ロザミアは
意気揚々とそれに乗り込んでテストを行っているところだ。

 ギャプランの性能テストをする――そう言い出したのは、ザフトからギャプランの修復を依頼されたエリカ
だった。オーブとザフトにとって、初めて完成させた所謂“イレギュラー”のMS・Ζガンダム。その完成に
多大なる功績を残したエリカは、修復に苦慮するザフト技術部から、先達として協力を依頼されたのだった。

 離着陸艦としてミネルバを拝借し、ブリッジではエリカを初めとする技術者達数名と、カミーユの姿も
あった。勿論、ロザミアの様子が気になったからだ。他にも、暇を持て余していたレコアもギャプランの
動きに感嘆の吐息を漏らしていた。
 ギャプランの加速性能、制動性能、旋回性能は、何れも一般的な常識を覆しかねない驚異的なものを
誇っていた。局所的に見れば、Ζガンダムですらも凌駕するのではないかという基本性能の高さに、エリカ
は流石に開いた口が塞がらなかった。スペックで見るよりも、遥かに高い性能を見せ付けるギャプランは、
勿論ロザミアがパイロットをしているからこそ。ギャプランのパイロットを無視した性能に、強化人間である
ロザミアが組み合わさった事によって発揮できる、真価だ。ギャプランが自らの力を確認するかのように
予定プログラムに用意されているアクションを繰り出すたび、ミネルバのブリッジではどよめきが起こり、
一様にその姿を追って頭が動いた。

「こんなものを見せ付けられたのでは、Ζの再調整も考え直さなければならないわ」

 そう溜息をつくのは、エリカ。Ζガンダムを再調整するに当たって、カミーユから提案されたプランは
極端に“遊び”の少ないピーキーなものだった。必要以上に繊細なコントロール・ワークを要求されるその
操縦性は、ナチュラルでは扱いかねない代物だとエリカは判断した。
 しかし、ギャプランはカミーユのプラン以上に“遊び”の少ないセッティングで、しかもあのロザミアが見事
なまでに操って見せているではないか。想像以上に親和性が進んだカミーユたちのMSとの“付き合い”
に、エリカも考えを改める必要があった。

 ギャプランは一通りのテスト・フェイズをクリアし、エリカは弾き出された手元のデータを見比べた。
テスト前に予測した予定スペックは悉く裏切られ、そのどれもが想像以上の数値を叩き出している。
どうやら、カミーユたちの世界のMSの常識は、エリカの頭では追いつけない場所にあるらしい。技術者
としてのプライドが傷ついたのか、もう一つ深い溜息をついてマイクを手に取った。

「予定フェイズ終了。もういいわ、ロザミィ。ミネルバに帰ってらっしゃい」
『もういいの?』

 スピーカーから聞こえてくるのは、無邪気に声を弾ませる少女の声。まだ、動かし足りないとばかりに
ギャプランをロール回転させ、クルージングを楽しもうとせんばかりだ。
 カミーユは背中を丸くしてうな垂れるエリカを尻目に、ブリッジに背を向けた。

「お兄ちゃんは大変ね」
「からかわないで下さいよ」

285 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 01:05:28 ID:???]
 レコアに笑われ、カミーユは明らかに不満を表情に滲ませ、そっぽを向いてブリッジのドアをくぐった。
レコアが何の気も無しにカミーユの後に続いていく。

 MSデッキまで降りてくると、丁度ギャプランが帰還するところだった。無重力の中をゆっくりと流れ、
MS固定用のアームに支えられ、床底に静かに降ろされる。胸部のコックピット・ハッチが開き、中からは
タイトなパイロット・スーツに身を包んだロザミアが降りてきた。
 ギャプランはアームに降ろされた後、メカニック・クルーによってMS専用の巨大ハンガーに設置され、
即座に各部の整備に入っていた。何やら色々とデータを集めているようだが、それも後にエリカに検証を
依頼する為のものなのだろう。

「あんなお嬢ちゃんが、ギャプランを動かしてたってのか?」

 カミーユとレコアが下まで降りていこうとした時、不意に声を掛けられ、そちらに振り向いた。男の声は、
少女に身体を支えられた金髪の青年。それを睨みつけるように、レイが傍らに待機していた。

「あら、ロアノーク大佐じゃないの」
「皮肉のつもりかい? 今の私は、ザフトに捕らえられている連合軍の元大佐だよ」
「失礼。私も、昔は階級のある組織に所属していたものだから、偉い人を見ると、つい大佐とお呼びしたくなってしまうのよ」

 レコアの言に、苦笑で応えるネオ。
 レコアは、ネオの事をあまり好意的に見ることが出来ない。それは、敵であったということよりも、ステラ
が不憫だと感じる思いがあったからだ。彼は、果たしてステラの気持ちに応えられるような器の持ち主
なのだろうか。レコアとしては、不幸な少女の成り行きは、見たくない。ネオの何処か生き急いでいる感じ
が、レコアの女としての警戒感を呼んでいるのかもしれない。
 カミーユはそんな妙に攻撃的なレコアを横目で見つつ、レイに問いかけた。

「何でネオをここに連れて来たんだ?」
「偶然テスト中のギャプランを見かけて、興味が湧いたようです。どうしてもと言うので見るだけなら、と連れて来ましたけど――」
「それがどうして?」
「ネオは、ヘブンズ・ベースでギャプランに乗っていましたが、乗りこなせなくてシンに返り討ちに遭ったのです」
「純粋に、パイロットが気になったってわけか――なるほどね」
「カミーユたちが迷惑でしたら、直ぐにでも追い返しますけど――」

 目敏い男、ネオはカミーユとレイの会話に耳を傾けていた。ふと、聞こえてきた名前に、過去の出来事を
思い出し――いや、本当にとりとめもなく、態々確認するまでもないことなのだが、つい口が勝手に動いて
しまった。

「君が、カミーユか?」

 カミーユは振り向き――

「そうですけど」
「成る程、そういうことだったのか」

286 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 01:06:06 ID:???]
 ネオと、どこかで会った事があっただろうか。ファントム・ペインの元指揮官だっただけあり、ネオの感触
には戦場の何処かで感じたことのある、ある種の懐かしさを感じるが、こうして面と向かって対面する
ような事はなかったはずである。何かに納得したように表情を綻ばせるネオに、カミーユは首を傾げた。

 本当にどうでもいいことだったのだが、ネオにはどうしても記憶に引っ掛かる出来事があった。それは、
勿論ネオとしての記憶であり、自身の本質に迫るようなシリアスなものでは決してない。ただ、ベルリン
での決戦前のエマの放言が、今になって急に思い出されたのである。ネオは、エマの名前を間違えて
カミーユと呼んでしまった。それに対し、深い不快感を露にして、本人に殴り飛ばされろとまで言って
のけた。その理由は、当時は全くもって見当もつかなかったが、カミーユ本人を目の前にして、やっと
要領を得られた。カミーユという人物は、やや中性的な、所謂美少年といった顔立ちをしてはいるが、
やはりどう見ても男なのである。当然ながら、エマはどう見ても女性で、そんな人が男であるカミーユと
間違われたのは侮辱の極みだったのだろう。怒るのも、無理のないことだ。
 しかしながら、ネオにも言いたい事はある。カミーユなんて男とも女とも取れるような名前、間違えても
仕方ないではないか――今エマが目の前に居れば、そう言ってやりたい気分だった。

「何です? 人の顔をじろじろと見て」
「い、いや、すまない。――しっかし、あのギャプランを本当にあのお嬢ちゃんが動かしてたってのかよ?」
「そうですよ」

 この少年も、妙に神経質そうな顔をしている。ネオは誤魔化すように視線をギャプランとロザミアに向け、
改めて驚嘆の意を示した。
 ネオにとっては、少し冗談が過ぎる現実だ。連合軍のエース・パイロットとして、それこそ数多居るMS
パイロットの中でも凄腕と鳴らしていたのに、ギャプランは全く自分の言う事を聞いてくれなかったので
ある。それなのに、自分よりも遥かに若い、しかも女性にあそこまで見事に操られてしまったのでは、
ネオの立つ瀬がない。テストを見学させてもらった感じでは、デ・チューンが施されている様子もないこと
から、ロザミアが純粋にギャプランを手懐けていた事が覗えた。

「驚いたな、私ですら扱いきれなかったというのに――ステラと、どっちが上手かな?」
「ステラの方が、上手だもん」

 ネオが舌を巻いて苦笑していると、ステラがふわっと浮き上がってロザミアへと向かっていった。
それを見送るカミーユの視線――ステラに違和感を抱いている証拠だった。

「彼女、強化人間なんでしょ?」
「分かっちまうかい?」
「何となく、ロザミィに似ています。あの感じは――」
「ロザミィって言うのは――あの子のことか? じゃあ、彼女もエクステンデッド……」

 正確には違うが、本質的には同じ事。戦闘能力に特化した強化人間ならば、或いはギャプランを使い
こなせるのかもしれない。いや、寧ろその為にギャプランは設計されていると読んだ方が、正確だろうか。
イレギュラーの技術が詰まったあの化け物MSは、そう考えれば納得がいく代物だ。
 道理で、使いこなせなかったわけだ――ネオの見つめる先で、ステラがロザミアに詰め寄っているのが
見える。何やら、ギャプランを使わせろと言っているようだが――

「何よあんた! これはあたしがお兄ちゃんと一緒に戦うために使うものなんですからね!
あんたなんかに壊されでもしたら、あたしのMSが無くなっちゃうじゃないか!」
「ステラはお前なんかよりも上手に使えるもん! ネオに証明するんだもん!」

287 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 01:06:51 ID:???]
「あんたなんかに使いこなせるもんですか」
「出来るもん!」

 まるで子供の喧嘩のように言い合いをする2人。ロザミアがステラを否定すれば、ステラはロザミアを
否定する。低レベルな水掛け論の応酬に、しかし周囲のメカニック・クルーは全く興味を示していない。
子供同士の喧嘩と思われて、放って置かれているのだ。

「嘘ばっかり言ってんじゃないわよ。どうせ、出来るわけないでしょぉ!」
「なにおっ!」

 舌を出して挑発するロザミアに、遂にステラが癇癪を起こして飛び掛った。2人はもつれ合うように絡み
ながら、無重力を流れて取っ組み合いの喧嘩に発展した。ヒステリックに互いを掴み合い、髪を引っ張る
手も容赦ない。

「お止しなさい、2人とも!」

 そこへ、壁を蹴って流れてきたレコアが仲裁に入り、2人を引き剥がす。しかし、尚も臨戦態勢の2人は、
今にも掴みかかろうと息を荒くして睨み合ったままだ。

「レコアはどっちの味方なのさ!」
「レコア、ステラの方がギャプランを上手く使えるってコイツに言って!」

 ロザミアとステラに挟まれ、レコアは同時に意見を求められる。こんな下らない喧嘩をしている場合じゃ
ないって言うのに――レコアはこめかみに青筋を浮かべ、我侭な2人に対して次第に苛立ちを募らせて
いく。
 そんな時、遅れてやってきたカミーユとネオが、それぞれいがみ合う2人を宥めに取り掛かった。それを、
不思議な様子で眺めるレイは、それぞれの対応を興味深そうに見つめていた。

「そこまでにしておけ、ステラ。お前がMSを上手に動かせるって事は、私が一番良く知っているから」
「でも――」
「喧嘩は駄目だ、ステラ」

 ネオの額には、汗が滲んでいる。ベッド暮らしからは解放されたとはいえ、未だに彼の身体は全快には
程遠い。誰かに身体を支えてもらわなければ移動さえままならないのだ。
 少し痛みに顔を歪ませつつも微笑むネオに気付いたステラは、ネオを放って勝手に飛び出して行って
しまった事を後悔し、潮らしくなって小さな声で一言、ごめんなさいと呟いた。

 一方のロザミアの癇癪は、少し長引いている。それも当然だろう。いきなり誰とも知れない少女が降って
来たかと思えば、何の前触れも無しに自分のMSを使わせろと言われたのだ。生意気を言われれば、腹が
立って当たり前なのだ。尚更ロザミアとなればその怒りを鎮めるのも一苦労である。

288 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 01:07:42 ID:???]
「放してお兄ちゃん! アイツはあたしに生意気を言ったのよ! ザフトにお世話になってるくせに!」
「それを言ったら、僕やロザミィだって同じだろ? この人達に拾ってもらわなかったら、僕たちがこうして
ここに居られるわけがないんだから」
「そうだけど――でも、あたし達の方が先にここに居たんじゃないか!」

 まるで、体育会系のようなことを言う。空手部に所属していたカミーユには、先輩後輩の上下関係と
いったものの感覚は分かるつもりだが、流石にそれとは少し違う。しかし、このまままともな説得を続けて
も上手く行く気配がない。仕方無しに、奥の手を使わざるを得なかった。

「いつまでも喧嘩してるようじゃ、僕はもうロザミィを妹と思えないよ」
「そんな! どうしてお兄ちゃん、悪いのはあっちじゃない!」

 カミーユに言われ、ロザミアは泣きそうに表情を歪めた。
 分かってはいたが、少し卑怯だっただろうか。強化人間として情緒不安定な事を逆手に取り、ロザミアが
一番嫌がることを交換条件に言う事を聞かせる――正直、人間としてあまり褒められたやり方ではない。
しかし、口に出してしまった事はしょうがない。今回限りと割り切って、今はロザミアを宥める事に全力を
尽くすしかない。

「ステラと仲直りするなら、僕はロザミィを許す」
「う…分かったわよ。お兄ちゃんの意地悪……」

 渋々といった感じではあるが、何とかロザミアの癇癪を治める事に成功した。振り向けば、ネオもステラ
を説得してくれたのか、しかしやはり少し罰の悪そうな表情でこちらを覗っている姿があった。
 2人が歩み寄り、お互いに“ごめんなさい”を交わす。

「ほら、仲直りの握手――ねっ?」

 そこへレコアが入り、2人の手を掴んで強制的にではあるが、握手を交わさせた。2人は少しの間
しかめっ面をして見詰め合っていたが、やがてお互いに笑みを見せた。

289 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/01(金) 01:26:46 ID:???]
規制かな?

290 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/01(金) 01:35:15 ID:???]
支援、でなんとかなるんだっけ?



291 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/01(金) 01:40:01 ID:???]
さるさんだったら無理ぽ

292 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/01(金) 01:43:17 ID:???]
支援は力なんだ!支援は、このスレを支えているものなんだ!

293 名前:sage mailto:sage [2008/08/01(金) 01:50:22 ID:???]
支援波

294 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/01(金) 01:52:26 ID:???]
ロザミィとステラの喧嘩ワロスwww

295 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 02:01:36 ID:???]
「お互い、我侭なお嬢さんを持つと大変だな?」

 和解する2人を見守っているカミーユに、ネオが話しかけてきた。カミーユは振り向き――

「大変じゃないですよ。僕達は、彼女達が苦しまないような世界にしていなかなくちゃいけないんです。
そうでしょ?」

 カミーユの瞳が、ネオに何かを訴えかけてくるようだった。それは、互いに背負わなければならない
宿命が同じだからだろうか。
 ロザミアとステラという強化人間は、彼等に依存していかなければ生きていけないような脆弱さを孕んで
いる。それを支えていくのが、依存される側である自分達の役目なのだと、暗にカミーユは諭してきている
ような気が、ネオはしていた。

「あぁ、そうだな……」

 同意して頷くネオ。果たして、カミーユが本当に言いたい事は何なのかは分からないが、そう思うことで
自分を納得させた。
 このカミーユという少年は、不思議な感覚を持っている。言葉の中に、それ以上の意味が込められて
いるような、例えるならば仙人の様な悟りの境地に達しているような、そんな感じが垣間見られた。
 今のネオは、不確定な“ムウ”という事実との間で揺れ動く不安定な精神状態でもある。しかし、何故か
カミーユと言葉を交わしただけで、少しだけその悩みが軽くなったような気がした。

296 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/01(金) 02:02:21 ID:???]
支援

297 名前: ◆x/lz6TqR1w mailto:sage [2008/08/01(金) 02:04:15 ID:???]
最後の最後でさるさんとかどんだけー
今回は以上です

改行に少しだけ手を加えてみました
これまでが手抜きだったんですけどいかがなもんでしょう?


298 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/01(金) 02:16:46 ID:???]
個人的には今までも別段読みにくいと思った事はないので特に……>改行
参考にならなくてお母ちゃんごめんね

アスランがやはりのどっちつかずっぷりでわろたw
ユウナとデュランダルの件は今回も感動的
本質の所ではそう本編と変わってないのにどのキャラも魅力的だ
GJでした

299 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/01(金) 21:53:21 ID:???]
原作と違いアスランにとってメンタル的にかなり良い方向に物語が進んでるが
この状況下で最後まで理想的なアスランで通せるんだろうか

300 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/01(金) 23:20:03 ID:???]
やさぐれアスランわろすw



301 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/03(日) 00:25:42 ID:???]
このスレの寿命は8/8までです。
7日中には次スレを立てるか統合するかしましょう。

302 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/04(月) 18:06:09 ID:???]
とりあえず保守

303 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/05(火) 21:39:53 ID:???]
ユトナかっこい〜

304 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/06(水) 17:38:15 ID:???]
ウトナとユウナな

305 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [2008/08/06(水) 22:37:55 ID:???]
……ウナトじゃね?






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