- 1 名前:仕様書無しさん [05/03/06 21:31:11 ]
- YRP逃亡者様に携帯電話開発の現状を語って頂きます。
YRP逃亡者様と、そのシンパの方のみ書き込みをお願いします。
- 12 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:18:16 ]
- これが多分、軍曹殿の一番最初の書き込み。
pc5.2ch.net/test/read.cgi/prog/1087437071/ 253 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/24 21:42 俺たちは、仕様も知らされぬまま横須賀に送り込まれた。 依頼主も孫請けらしく、正確な情報はかなり伝言ゲーム的に それも口頭でしか伝えられない。 俺たちは、経験5年の軍曹1人と、経験2年の上等兵1人と、新人の2等兵3人 の小隊だった。 現地に就くなり、現場は火を噴いた有様だった。果てしないデバッグの果てに 納期を過ぎてペナルティなのか要求項目が倍増したらしいのだ。俺たちが 派遣された場所の前任者(というより部隊)は全員ウツになって戦線離脱した らしい。引継ぎも全く無いまま、というよりドキュメントらしい物も無かった。 俺たちが最初に与えられた任務は、10万行に及ぶスパゲッティ・コードを 「ちゃんと動くものにする」事であったが、仕様は何度問い合わせても、問い 合わせが上位会社へ何段も口頭で伝えられるうちに伝言が自然消滅してしまう ようだ。俺たちには真上の階層の会社の担当者しか知らされておらず、現地で 他のチームの者と口を聞く事も一切許されていなかった。 ただ、スケジュールだけは何があっても遵守せよと通達された。しかし、仕様は 何時まで経っても伝えられなかった。ただ、目の前の大盛りスパゲッティは スケジュールにとても収まりそうになかった。 俺たちと唯一連絡の取れる上位の担当者も、既に何日も寝ていないらしく、何か ちょっと込み入った質問をすると容易にハングアップしてしまう。指示内容は 1日平均5回は変更された。
- 13 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:19:54 ]
- 254 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/24 21:49
まず、仕様書が無い。 上に問い合わせてもまともな回答が帰ってくるのは1/10程度の割合だし、 問い合わせ件数が増えると回答率も著しく下がった。 仕方ないので、スパゲッティ・コードを解読してノートに機能を図示しながら 理解を進めていくが、変数名もval0, val1, val2のように取って付けたような ものが大半を占め、何をする機能なのかさっぱり分からなかった。 担当する機能の最上位関数を見つけるのに1週間かかった。その時はS上等兵が 歓喜の叫び声を上げたものだ。 ノートは1日で平均2冊が消費された。準備してきた物が10冊だったから6日目の 朝に売店に買いに行った。 ようやく関数群の体系が掴めてきた(大半がfunc001, func002のような命名) ところで、俺たちは仕様書変更レビューに呼ばれた。質問は上位会社の担当者を 通じて口頭で伝えるしか手段が無く、延々と14時間に及ぶレビューでは俺たちに 発言権は無かった。
- 14 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:20:34 ]
- 255 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/24 21:58
やはり、仕様書にはfunc001, func002のような名前の関数は初版から 存在していなかったようだ。変数に至っては、グローバル変数のあまりの 多さに、その規模を掴むので精一杯だった。 他のチームの顔色を窺うと、今回の仕様変更はミドルウェアとアプリを 根底から揺さぶるドラスティックなものであったらしい。俺たちはこの時に スパゲッティを廃棄する決断をすべきだったのかもしれない。それを上位の 担当者にきつく禁止されていたとはいえ、その決断を見送ったのが俺たちの 地獄の始まりだった。 派遣から2週間後、俺たちは本部に援軍と再見積もりの要請を連絡した。 しかし、「依頼元との連絡が極めて難しい状況なので、今はまだガマンしてくれ」 の一点張りだった。2等兵たちは祭りの意味も変わらずに闘志を燃やして興奮して いる。 3週間目には、上位会社のSE達数人が集まって、深刻そうな顔をしていた。 隣のチームがまた一つ潰れたらしい。状況を聞こうと上位SEに近付くと、厚さ 3センチに及ぶ「バグ報告書」を抱えて走り去っていくところだった。
- 15 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:20:59 ]
- 258 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/24 22:07
「お願いします。ソースを1から作らせてください」 「駄目だ。今あるものを最小限の変更で動くようにするのだ。」 「無茶です!」 「分かってくれ。他のチームとのインターフェイスをこれ以上変更できないんだ」 俺と上位担当者とのやりとりを、配下の上等兵達が心配そうに見つめていた。 インターフェイスとは、最上位関数のインターフェイスだけではないのだ。 スパゲッティの中には多くのグローバル変数が操作されている。他のチームも 度重なる仕様変更の末に、当初は整然としていたソースが俺たちの請けた物と 同じようにスパゲッティ化しているという話だった。 4週間目、俺は本部に残業代の申請をしたのだが、「もう少し待ってくれ」の 一点張りだった。 上位担当者が倒れて1週間、俺たちはプロジェクトの中で盲目となった。 隣の新しいチーム(そこの後続部隊)では、連日ローカルな仕様変更が口頭で 伝えられてくるようで、着任早々に祭りになっていた。 俺たちの担当ブロックも、何らかの仕様変更に晒されているはずだったが、 連絡は全く来ない。
- 16 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:21:19 ]
- 260 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/24 22:16
情報が途絶えてから2週間後、上位会社の担当者が突然替わった。 理由は一切知らされず、業務の引継ぎも無かったらしい。新しい上位担当者は 俺たちから情報を集めて仕事を始めた。プログラム経験は全く無いそうで、 技術的な話になると俺たちの言葉は通じなかった。 派遣開始から1ヵ月半が経ったが、業務上の連絡手段は相変わらず口頭と紙切れ メモぐらいで、メールのアカウント申請も伝言ゲームの途上で自然消滅してしま ったようだ。上位会社の担当者は俺たちに構っている暇は無くなり、現場に来て いるのかもしれないが、机にはカバンが置いてあるだけであった。 噂を立ち聞きすると、山のようなバグレポートの事務的処理に追われているよう だった。しかし、そのバグは俺たちの前任部隊の頃のもので、あれから仕様の 大幅変更が入っているはずだった。しかし、当時のバグレポートの事務処理を 終えてからでないと俺たちの版数からのバグには対応できないとの事だった。 テスト要員チームでも、テスト仕様の変更頻度が彼らの業務処理能力を大きく上 回り、前任部隊のバグによるバグレポートを尚も増殖しているところだった。 俺たちのコードはその後回しにされていた。
- 17 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:21:42 ]
- 261 名前:仕様書無しさん 投稿日:04/07/24 22:24
数日後、上位会社の担当者が仕様書を持ってきた。 俺たちの知らない内に、版数がメジャーで5つも上がっていた。 まず、グローバル変数の大幅な見直しがあった。共有データの仕様が大幅に 変更されていた。基本クラス内で使用する殆どのメンバ関数の中で、それを 参照するように仕様が変わっていた。参照だけでなく、更新もするのだ。 しかし、最上位でオブジェクト間の依存関係を説明する個所が、初期バージョンで 暫定的に抽象的にかかれていた時のままなので、今回の変更がどの程度の規模なの か分からなかった。ただ、関数の一覧リストがまた一新されていた。 スケジュールは当初の予定のまま、固定されている。この件については、上位会社の 担当者に何を問い合わせても無駄であった。
- 18 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:22:05 ]
- 263 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/24 22:32
HNを入れ忘れた。疲れが溜まっているのかもしれない。 ホテル生活が始まって2ヶ月が経った。その間、1度も群馬には帰れなかった。 土日はすべてスケジュール回復対策会議のようなものに駆り出されて、膠着 状態の会議に何時間もの間、発言権も無くただ同席させられた。 さすがに2等兵たちは週末には帰らせた。夏になると横須賀の海を楽しんで 気分転換をしてくれているようだった。「今を、その一瞬を今のうちに楽しんで おいてくれ」俺達は思った。 会議では、俺たちの担当ブロックの仕様を根底から覆すような方針が、一時的に とはいえ何度も打ち出されると、冷や汗が出た。 10万行に及んだスパゲッティは、俺たちの日夜の努力によって5万行にまで減った。 ここへ来て、コメントが普及してきた。そう、俺たちが手がけるまで、コメント なんていうものは全く無かったのだ。 今年は暑い夏だな、俺は深夜に外を歩いている時にちょっとした目まいを感じた。 睡眠時間は何とか4時間程度は確保できているが、これだってかなり無理をして 確保しているのだ。
- 19 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:22:23 ]
- 264 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/24 22:41
何時の頃からか、アプリの担当チームとドライバの担当チームが、上位会社を 通じて直に情報連絡をするようになってきた(相変わらず口頭ベース!)。 ミドルウェア部隊がバグレポートの大量発生を起こして、事務処理の為にハング アップ状態に陥ってしまったのだと聞かされた。 アプリとドライバのインターフェイスの擦り合わせが始まると、俺たちのブロックは 最上位関数からまず歪なものになっていった。バグが出たらその発生階層がトレース 出来ないという状況に陥って既に1週間が経った。 そんな状態になってから、カーネルの仕様変更にもかなり振り回されるようになり、 自分でも何が基準なのかが本当に分からなくなってきた。 何が基準、いや、何が本当の仕様なのか?それすらも確認する手立てが無くなった。 担当チーム毎に主張する「仕様」が異なり、それを調整する部門も機能していない。 現場は混乱、というより混乱の内容すら正確に把握できている者がいなかった。 少なくとも、俺たちがコミュニケーションを許されている範囲では。
- 20 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:22:41 ]
- 265 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/24 22:49
この期に及んでも、下位の関数すら1からの作り直しは許されず、 既存のコードを編集して直すようにとキツク言われていた。 修正個所では必ず元のコードをコメントアウトして残すように言われて いたが、それを口頭で伝えられた頃にはスパゲッティのサイズが既に1/2 に縮まっていた。俺はその事実を上位会社の担当者に伝えた。 数日後、伝言が口頭で伝わってきた。 俺たちが派遣されてきた当初のソースを、全てコメントアウトされた形で ソース内に復元させろ、とのお達しだった。 「そんな、無茶ですよ。ソースの可読性が損なわれます!」 「至上命題だ。戻せ。コメント形式で。」 その一言のために、俺たちは丸々1週間、ソースの復元作業に追われた。もはや 合理化した個所ですら可読性は原形すら残っていなかった。全てをやり終えたとき、 俺たちには疲れた笑いが溢れた。久々に表情筋が動いたのか、非常にぎこちなく なっていた。それでも上位会社とその更に上の者達よりはマシな顔だった。彼らは 全くの無表情、というか、強迫観念に駆られた顔であった。
- 21 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:22:55 ]
- 266 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/24 22:50
少し疲れを癒せたので、これから仕事に戻る。 今月もPHS代が高くつくなあ。
- 22 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:23:31 ]
- 292 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/27 23:04
最初に壊れたのは2等兵だった。 折角5万行程度にスッキリさせたソースに前のソースを復元させるヴァカげた 作業のお陰でソースは一気に15万行程度になってしまった。旧版をコメント行 として全て復元させられたのは初めての経験だった。 その頃から2等兵の顔つきが怪しくなってきた。 そのソースを提出した翌日、コンパイル担当の者(朝から晩までコンパイル!)から 伝言が伝わってきた。 「ダブルスラッシュなコメントは禁止だと伝わっていなかったのか?」 「は?」 丁度俺は仲間全員分の出張旅費の清算の為に群馬に戻っていた。 上等兵は別件で突っ込まれたドライバの改造作業にハマリ込み、コメント行の 話は2等兵達に直接指示が行った。彼らはそれを全て「手作業」で対処した。 俺は出張旅費の生産を終えて皆が立て替えた宿泊費(1人10数万円)を手に、YRPへ 戻ってきた。電車の中では久々に熟睡した。目覚めた時はカバンの中の現金を 何度も確認したものだった。
- 23 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:23:59 ]
- 294 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/27 23:33
(続き) ホテルに戻って出張旅費を皆に配ると、疲れが溜まって俺は眠り込んでしまった。 翌朝目が覚めてみると集合場所には上等兵しかおらず、仕方ないので残りのメンバ とは現地で落ち合うことにした。 始業時間になっても2等兵の姿が見当たらなかった。 上等兵たちもワケが分からない顔をしていた。 やがて上位会社の担当者が来ると、とにかく何でもいいから昨日頼んでおいた コメント行のダブルスラッシュ修正をやり遂げてくれ、と頼まれて俺は自作の プログラムを久々に使って変換作業を片付けた。変換済み個所が1割くらいスキップ した事は気にしていなかった。 俺は隙を見て廊下に出て、ホテルに電話を入れた。 「ヌルポさんとデスマさんは今朝早くにチェックアウトしておりますが」 ついに脱走兵が出た。脱走兵が出ると、依頼主からの厳しいペナルティが課せられる。 それからというもの、俺たちは脱走した2等兵の分まで作業ノルマをこなさなければ ならなかった。 翌日上司に電話すると、 「辞めたよ。」の一言だけ聞かされて切られた。 「2人ともですか?」という俺の声が届く前に切られた。
- 24 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:24:20 ]
- 295 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/27 23:40
折角ウィークリーマンションを確保できるように会社と交渉してきた というのに、脱走兵が出たという事で俺たちはそのままホテル暮らしを 命じられた。 毎日朝は駅前のハンバーガー屋だし、このところ体の調子も少しおかしい。 何と言うか、太ってしまった。 現場では2等兵の事を思い出す頻度が減ってきた。それぐらい忙しくなってきた。 この頃から仕様書が改版されても読まなくなってきた。どうせ数バージョン前のが 遅れて届いたんだろうし。 上等兵たちもそれぞれ版数の異なる仕様書を愛用し始めてきた。ところどころ都合の 良いように自分で赤ペンで書き換えているし。 何か、少しずつ歯車が狂い始めてきた。 そういえば、上位会社の担当者も1週間ほど顔を見なくなってきた。彼の同僚に聞くと 「変ですね。夏休みは取っていなかったはずですが」と返ってきた。
- 25 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:24:50 ]
- 296 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/27 23:47
ハード屋の方で珍しく祭りが起きていた。いや、普段から祭りのようなのだが 俺たちが気付いていなかっただけだった。 何でも、ブレッドボードの作成&評価日程がスケジュールから押し出されて、 一気にハードだけでも最終製品に仕上げてしまうとの事だった。 俺にはそれはどれほど大変な事なのか分からなかった。所詮はハードの話だ。 所詮はハード、俺たちには無関係。 そう思っていられたのは、ES製品のASIC(プロセッサ内臓)に付いているはずの JTAG-ICE端子が基板設計ミスによってボード上に繋がっていなかったと知るまでの 間だった。 「ICEが繋がらない?」 「端子にジャンパ線繋げれば出来るはずだろ?」 「それがBGA品なんです。ジャンパは不可能です。」 それを横で聞いている時には、意味が分からなかった。
- 26 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:25:07 ]
- 298 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/27 23:55
翌日から、ハード屋が職人部隊となった。あのきめ細かいボードに何やら 改造を加えて、何でもASIC実装前にジャンパ線を付けているようにも見えた のだが。 とにかく、デバッグ用に予定していた台数に全然足りないのだ。 俺たちの割り当て10台も、1台を手に入れるのが精一杯だった。それもちょっと 衝撃を受けるとICEの接続が断線してしまう有様だった。 「こんなの使えるか!」と次々にソフト屋はハード屋にケータイを叩きつけた。 彼らも数日寝ていない。暴言に無反応であった。 最後に、上位会社のその上の会社のSEが来て、デスマで疲れきったハード屋(尚も 半田付けで忙しい)の前に座り、一言。 「あんたたちさぁ、やる気あんの?」 少しだけ沈黙の間があった。 ハード屋は黙って、その上位SEの手の甲に半田コテを押し付けた。 「うぎゃぁぁぁぁああああああ!」
- 27 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:25:29 ]
- 300 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/28 00:03
それを火蓋に、ハード屋とソフト屋の乱闘が始まった。 「ざけてんじゃねーぞ。ゴルァ!」 「上等だ、コラァ!」 こんな現場を上位の上位の会社の人に見られたら…、 なんと彼らも当事者になって暴れていたのだ。 「軍曹!この場はひとまず逃げましょう」鼻血を流した上等兵が脱出を提案した。 俺も殴られている最中だったが、彼の提案に従ってその場を離れた。足にしがみ付く 奴がいて、よく分からずに蹴りを入れて逃げた。 喫煙室に行ってタバコに火をともす。よく見たら上等兵の鼻が折れているように 見えた。俺は指を差して教えた。彼は笑った。苦笑いだった。 途切れ途切れな笑い声は、次第に泣き声へと変わっていった。そしてしゃがみ込んで 嗚咽し始めた。夕日の眼にしみる喫煙室にいるのは、俺たち3人だけだった。 俺は窓際に立ち、尾崎豊の「街路樹」を歌い始めた。
- 28 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:26:11 ]
- 303 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/28 00:15
翌日、緊急会議が開かれ、俺たちを含めた開発関係者一同が大会議室に 召集された。昨日の騒動の件だった。無理も無い。 しかし、吊るし上げられたのは乱闘から離脱した俺たち3人だった。 業務時間中に現場を抜け出して喫煙室でサボッていた事を責められた。 現場に残っていたって仕事どころではなかったハズだ。 午後になって鼻の治療を終えた上等兵も合流し、俺たちは一応業務を再開した。 ここへ来てから作った20冊のノートの半分がゴミ箱の中で燃えカスとなっていた。 ケータイ端末も10個ほど砕かれて捨てられていた。 最大のダメージは、レンタル品のICEの破壊であった。誰だ?こんなコトをしたのは。 ハラワタが煮え繰り返る思いだった。 次の日になると、皆乱闘の事を嘘のように忘れてデバッグを再開した。 ハード屋は、割れたメガネを嫌味のようにそのままかけていたが。 俺たちの仕事もあの酷いスパゲッティから随分苦労してやっと動作可能な ものに仕上がってきた。後は異常系の試験だ。障害発生の半分は仕様制限で 許してもらえるので、少し気が楽になってきた。反面、再現性の極めて低い バグに遭遇すると、目まいがするものだ。
- 29 名前:1 mailto:sage [05/03/08 01:26:35 ]
- 308 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/28 00:22
次に出張旅費の清算に戻った時には、ガラクタ置き場にされていた俺の机の 引き出しに何やら包み物があった。 「?」 俺は警戒しながら封を開けてみた。 中にはワイヤレス光学マウスが1個入っていた。 手紙もあった。 「軍曹殿。この度は戦線離脱の非礼を申し訳ありませんでした。 自分にはあの地獄は耐えられませんでした。ただ、軍曹殿には 本当にお世話になりました。いつも僕たちを人間扱いしてくれたのは 軍曹殿だけでした。 これはほんの気持ちです。軍曹殿は現場でいつも朝一番にマウスの動きが 渋いって愚痴をこぼしていたので」 2等兵の1人は、夏の寸志の全額を使って俺にマウスをプレゼントしてくれた。 俺はガラクタ置き場の机の前で、暫くフリーズしていた。
- 30 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/09 18:04:18 ]
- 続きを激しく希望す
- 31 名前:YRP逃亡者 mailto:今はコンビニでレジ打ち [05/03/09 22:40:10 ]
- 「ふん!所詮は消耗品だな。」 小慰が吐き捨てるように言った。
俺は奴の前に立ちはだかった。 「何だ?お前も後を追うか?」 俺は奴の机に両手を突き、その目を凝視した。 魚の腐った目だった。 同僚が割って入る寸前に奴は目を反らした。 煮え切らぬ思いで、俺は事務所を後にして横須賀へ戻った。
- 32 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/09 22:46:27 ]
- フォーマ?
- 33 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/09 22:47:13 ]
- 助けてくださいシャア少佐!デバッグできません!シャア少佐ー!
- 34 名前:1 mailto:sage [05/03/10 00:36:15 ]
- >>31
軍曹殿、お待ちしておりました。 今後もカキコお願いいたします。 ちなみに小生は携帯の開発で 心と体を病み、一昨年戦線を離脱しました。 >>30 様の希望もありますので、 続きを書き込みます。
- 35 名前:1 mailto:sage [05/03/10 00:36:42 ]
- 310 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/28 00:46
デバッグも後半に差し掛かってきたときに、上位会社の担当から例によって 口頭の伝言が届いた。 「ミドルウェアのデバッグが完了したから、アプリも対応して修正するように」 「は?」 「そうそう、修正する時は修正前のコードを全てコメント行にして残す事を 忘れんようにな」 ミドルウェアの仕様書が手渡された。インターフェイスは跡形も無く変わっていた。 「あの、まるで別物に見えるんですが」 「ああ、今一番先端を行くミドルウェアだ。研究所で開発したばかりなんで、 分からない事があっても俺たちに聞かないで欲しい」 それから2ヶ月、ハード屋達に 「ソフトが遅れちゃ俺たちの努力も報われないよな」 と罵られながらも新ミドルウェア対応にアプリを修正し、デバッグに勤しんだ。 あれから俺には、ハード屋の手にする半田ごてが武器に見えてしまう。彼らが それを手にしている時は、臨戦体制に違いない。刺激してはならない。 新ミドルウェアに関して質問すると、情報伝達の経路が長くなったのでレスは 極めて悪い。質問への回答は2週間たって1/20の割合でしか帰ってこない。 上等兵たちはソースを読んで対処しているので、俺もそうするようになった。
- 36 名前:1 mailto:sage [05/03/10 00:37:03 ]
- 315 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/28 01:01
新ミドルウェアへ置き換えてからというもの、ケータイの操作感が著しく 重くなった。メニューの切り替わりの遅さが絶え難い。 「ちゃんとメモリ管理をやるとこうなるのだ。軽くサクサク動くケータイの メモリ管理は皆インチキだ。あれじゃあいつかハングアップするに決まってるさ」 ようやく説明に来てくれた上位の上位の上位の会社の研究所のヤツはそう言った。 ミドルウェアの立ち上げ期間中、その研究員がいてくれたのだが、言っているコトが チンプンカンプンで半分以上分からなかった。 上位会社の担当から口頭で聞かされたのだが、ASIC内のプロセッサのメモリ制御に バグがあってそれで速度が低迷していたらしい。改善されれば処理速度が2倍になるので その分ソフトも安定性の良い手法で開発できるようになったんだ、ありがたく思え、と。 しかし、情報が依然まともに伝わって来ないし行かないので、デバッグはなかなか 進まなかった。隣の部隊に届く仕様書と時間差があって、マイナーバージョンで5ぐらい 遅れているのだ。そのくせテスト時には、俺たちブロックにバグが多い事を責め立てられる。 ICEの臍の緒が切れるたびに、あの嫌味なハード屋のところへ頭を下げて直してもらいに 行く。作業中ずっと嫌味を言い続けるのだ。
- 37 名前:1 mailto:sage [05/03/10 00:37:38 ]
- 317 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/28 01:11
研究所の連中が予定を終えて引き上げる時に、言われた。 「君たちにはちょっと難しすぎたようだね。 もうちょっと勉強した方がいいんじゃないの?」 関係無いの隣のチームの奴等も笑った。机にある仕様書の版数は、俺たちの よりもメジャーで1つ先を進んでいるみたいだし。それは見なかった事にした。 翌日、上等兵たちが隣のと同じ版数の仕様書を手に入れていた。仕様書は 俺を通してでないと彼らの手には渡らないはずなのに。不思議だ。 昼食の時に上等兵が言った。 「あの嫌味ったらしい奴らの仕様書と、俺たちのとスリ替えてきましたよ。 ちゃんとコピーして数も合わせてあのチーム皆のをスリ替えたから、 誰も気付きませんよ」 それから2〜3週間の内に非難の矛先が変わっていったので、俺は会社に対する 業務進捗報告で上等兵たちを高く評価して記録した。何だか自分まで共犯者に なった気分だ。 上等兵たちは仕様書のスリ替え工作を日常的に続けた。 そして、ある日現行犯でバレた。 (今日はここまで)
- 38 名前:1 mailto:sage [05/03/10 00:38:50 ]
- 350 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/31 00:07
事態を打開する為に、緊急会議が開かれた。 テスト要員を一気に5倍に増やして、人海戦術によるデバッグが賢明だと トップが判断した。トップって社長ではないのだが、俺の会社の上位の上位の・・・ に位置する本部長なので、とっても偉い。俺たちの身分から見たら、与党の政治家 並かもしれない。しかし俺たち兵士には選挙権すらないのだ。なぜなら、選挙の日は 必ずデスマ生活を送っているからだ。 そんな衆議院議員並みの政治力を持った本部長(以下、少将と呼ぶ)が決めた方針なので 誰も逆らえなかった。 すぐにも近隣の都市から派遣社員の吸い上げに入った。派遣会社も今までに無い大盛況 なので、経験の有無を問わずにフリーターまで含めて確保に走った。すぐにも現場は 雑兵で溢れ返った。開発現場では猫の手も借りたい状況なので、面接中もヘッドフォン ステレオとサングラスを外さないスキンヘッド野郎ですら雇われた。
- 39 名前:1 mailto:sage [05/03/10 00:39:05 ]
- 351 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/31 00:16
その人数に対してテスト仕様書を配布して理解してもらうのは、非常に労力を 要した。配布して説明しているそばから改版が行われるので、1日に何回も 長蛇の列になった。中には、並ぶのが面倒くさくて、ゴミ箱から「お下がり」を 拾ってきて、版数だけ上手に書き直して使っている者も少なくなかった。 俺たちでさえ最新の仕様書にあり付くのは難しく、常にメジャーで1つ以上古い 版数だった。前に他のチームの仕様書を盗難した前科があったので、その辺を 物色しているだけで嫌な目で見られるようになっていた。 奴等はまず言葉がなっていなかった。 「Hey!旦那、バグ報告書ってどう書いたらいいッスか?やっぱ、パソコン使って 書けなキャいけないッスか?…え?まじッスか?」 奴等がケータイの新機種で遊べる、という幻想から目覚めていく様はそれなりに 面白かった。徴兵制の無い日本では、こういった戦場でも体験しておく事が必要だ。
- 40 名前:1 mailto:sage [05/03/10 00:39:27 ]
- 352 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/31 00:29
奴等は本気で、ケータイで出会い系サイトにタダでアクセスし放題、という職場 環境を期待していたようだった。上位会社も奴らのタコ部屋に設置するPCを非インター ネット環境にしていたようで、その措置だけは珍しく賞賛に値した。 それでも、PHS繋いで自費でエロサイトにアクセスしまくっている者が数名いた。 バグ報告書にネタを書きまくる奴等がいたが、最初の1週間で粛清された。 テスト要員が本来の目的で稼働できるようになるまでに、およそ3週間がかかった。 上位会社が人脈を辿って体育会系の社員を要所要所に配置し、インパール作戦の 準備を手際よく進めてくれた。逃げたいヤツは早めに逃げておかないと、体育会 社員はプロジェクト完遂までタコ部屋の管理を命じられているので、非常に後悔する 事になる。 「まじッスか?」という言葉はその体制が敷かれて2日間で死語になった。 奴等が言葉を発する最初には必ず「押忍!発言させていただきます!」が付くように なり、気を付けの姿勢を取るようになった。バグ報告書が床に散乱していると、 積極的に「自分がやるであります!」と片付けや整理をしてくれた。 体育会連中が初日に施した「研修」の内容が気になったが、業務が相変わらず祭り状態 なので俺たちは気にする余裕も無かった。 ただ俺たちも、寝不足続きで寝坊による遅刻をした日には、敷地内を何キロも走らされた。 上等兵は「軍曹殿、何か不思議な感覚が宿ってきますね」と活気付いた。俺も同感だった。 そんな思いはすぐに伝わり、俺たちは間もなく彼らの手先となっていった。
- 41 名前:1 mailto:sage [05/03/10 00:39:47 ]
- 365 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/31 13:41
作業用のPCが古い。とにかく古い。 Windows98マシン(PentiumPro 200MHz)でHDDは4GBしかないのだ。 マシン自体はWindows95時代のもので、OSだけアップグレードしたものらしい。 メモリは32MBである。それでMS-Office2000がフルにインストールされている。 肥大化した各種仕様書を開くだけでも重いので、もし何か編集しようとすればたちまち フリーズしてしまう。 そんなマシンでアプリの開発をしているのだが、専用の開発ツール(一応、統合環境という事に なっているらしい)は新しいPC環境上で作られたらしく、俺たちに割り当てられたPC上では非常に 重い。デバッグ操作で動作エミュレーションができるのだが、その機能が何よりも重く、なんだ かんだとICEを使っての評価になってしまう。 上位会社と付き合いの深いソフト会社では、FULL-ICEを与えられている者もいるのだが、そういう 者に限ってソフト開発の何たるかを知らずに、ひたすらICEを駆使した力技によるデバッグで プログラムの作成を進めているのだ。信じられない事に、デバッグしながらソースを書き進めてい るのだ。
- 42 名前:1 mailto:sage [05/03/10 00:40:09 ]
- 366 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/31 13:41
俺たちは安価なJTAG-ICEのみで、それも5人に1台程度しか割り当てられていない。 言い忘れたが、FULL-ICEを使える階級の連中にはデバッグ用の評価ボード(ハード屋が信号測定を できるようにスケールアップした実験用のボード)が1人1台割り当てられていて、何も不自由なく 例のデバッグ型コーディングを進めているのだ。そんな手法でも、手下の派遣社員たち…奴等には 派遣社員も技術者レベルが与えられている!!がソース→ドキュソメント変換作業を担っているの で、上位に対しては非常に見通しの良いアウトプットができるのだ。 反面、俺たちはエミュレーションも実機評価も自分達では満足に出来ないので、最初に設計ドキュ ソメントを精密に描いて、仲間内で綿密に検討してからコーディング、正確には既存のソースの 修正なのだが、を行っている。勤務時間中にドキュソメント作成は許されておらず、深夜にホテル の部屋で眠い目をこすりながら自前のノートPCで打っている場合が多い。 上位からは仕様書の配布がいい加減なのに、俺たちの修正したプログラムに対するドキュソメント 要求のレベルは非常に高かった。書式も、技術雑誌のカラーページと比較して遜色の無いレベルで 見栄えを要求されたので、俺たちは雑誌の出版社への転職スキルが身に付くのではないかと、苦笑 いしたものだ。
- 43 名前:1 mailto:sage [05/03/10 00:40:33 ]
- 367 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/31 13:56
使用しているPCのHDDがとにかく切迫しているので、HDDの増設できればPCの入れ替えを何度か上位 会社に要求したのだが、それらは開発費として支払った中から捻出するようにと言われた。JTAG- ICEのレンタル費用すら半額はうちの会社の負担となっていて、それがそのまま俺たちのボーナスに 反映されているのだ。つまりもう俺たちのボーナスから削るものがなにも無くなってしまったので、 会社も何も用意してくれなくなった。 PC等の固定資産設備を申請するのは最上位会社ですら手続きが厳しく、申請時の機種を半年から1年 後に取得できる有様なのだ。当然、俺たちの声は伝言ゲームの中でフェードアウトしてしまう。 更に、どうやらハード部隊が大掛かりな設備申請を上位の政治力によって無理やり通してしまった らしく、そのしわ寄せが俺たちにまで及んでいるのだ。 奴等は何を買ったのか? 最上位会社での数ヶ月に及ぶ協議の結果、ハードとソフトを協調してシミュレーションできる開発 環境が必要となったそうだ。しかし、それにはUNIXマシンとHDDレイドが必要になるらしく、その 予算が予想を越えるものだったのだ。まず、UNIXマシンは社内の不要マシンをチューンナップして 使う事になったそうで、その場合HDDに最新機種を使えず、旧型の低容量の物を数多く集めて構築 するらしいのだ。 わざわざメーカーと交渉して旧機種の在庫を最新機種をはるかに上回る価格で調達したのだ。 40GB分を調達するのに俺たち兵士の月給3人分以上がかかっているらしいのだ。 ハード部隊ではCPUを含めた機能の全てをASICに入れているわけだから、ハード&ソフトの協調 シミュレーションも理論上は可能である。ハード部隊とソフト部隊の根強い対立を打開しようと、 最上位会社で何ヶ月もかけて検討したシステムらしい。そこで俺たちのソフトを完全体にして動作 できるらしのだ。祭りを収束に向かわせる画期的なシステムだと、誰もが信じた。 シミュレーションの規模も大きいので、ハード部隊主催で派遣社員をかき集めたシミュレーション チームが結成された。人海戦術&体力勝負の開発現場に改革が起こる事を期待した。
- 44 名前:1 mailto:sage [05/03/10 00:41:28 ]
- 395 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/03 02:46
(前の続き) その画期的なシミュレーション・システムが稼働して翌日の事だった。 「何?全系のシミュレーションをかけると実時間で20msまでしかテスト できないだと?」 上位の上位の会社の部長(全体の中では「少佐」に相当)が朝から叫んでいた。 20msしか再現できないとは、俺たちの部隊のデバッグしているアプリの起動 準備すら出来ていない段階であった。問題の本質はハードディスクの容量が 厳しいとの事であった。そう、シミュレーションで再現する時間の20msで ディスクが一杯になってハングアップしてしまうのだ。 その20msの再現まででも丸々1日かかるらしい。ハード屋は20msを一晩で 処理できるのは画期的だと弁解していたが、期待していた俺たちもどうかしていた。 「すぐにもディスクを増設するのだ」少佐が唱えたが、 「無理です。設備の予算申請手続きに半年以上かかります!」と大尉が返した。 今回のシステムにしても、大尉が膨大なレポートを作成して予算の申請に1年前から 取り組んだ結果なのだ。ようやく申請が通る時期になって、より安価な新型機種への 変更が許されなかったという事務処理上のハードルについては、もはや誰も口にしな かった。 俺たちは、ソフト開発部隊1個中隊のPCをリニューアルできる予算を投じたUNIXマシンを 半ば呆れ果てた顔で眺めていた。瞬きよりも短い時間をシミュレーションするのに 1日〜2日もかかるとは。 Linuxマシンにして安価な高性能システムを構築するなんて言ったら、上層部を説得する のに2〜3年は優にかかる、と少佐殿はおっしゃった。 ハード部門のシミュレーション技術開発部の中尉が、それでも可能なテストについて 必死に説明していたが、少佐の一喝で黙ってしまった。
- 45 名前:1 mailto:sage [05/03/10 00:41:57 ]
- 397 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/03 02:55
画期的なシミュレーション・システムは、半年後にハードディスクを増設して から利用する事になり、暫くの間はその存在を忘れる事ができた。 ハード部門の中尉が「半年後にはSystem-Cを使ったハード・ソフト協調設計を 是非とも提案したいと思います」と言っていたが、誰も耳を傾けなかった。 ハード屋に読めるようにC言語を歪めるつもりなのだろう、と俺は解釈した。 俺たちはICEの増設を求めていたが、半年後にUNIXマシンのハードディスクを 100GB程度増設する計画の前に、ICEのレンタル費用が早くも削減されてしまった。 長引く開発の中で、ハード部門とソフト部門の勢力争いがろくな結果をもたらさ ない。 結局、俺たちは低レベルなICEの奪い合いに明け暮れるのであった。 そして、昨年の長かった夏が過ぎ、秋を迎えた。依然、帰れる見通しは立たない。 上等兵達は半年以上も里に帰っていなかった。
- 46 名前:1 mailto:sage [05/03/11 00:03:15 ]
- 463 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/15 23:03
たまには、上位の上位の会社の観察報告でもしようと思う。 そこは最上位から1つか2つ下の、かなり高位の会社である。 俺たちは滅多な事では彼らと直接連絡を取り合う事はないのだが、つまり、 彼らは殆どデバッグルームにも実験室にも顔を出す事は無いのだが、 俺達は用があって事務所の席(いつのまにか用意されていた)に行くと、 いつもある間接部門の様子を垣間見る事ができるのだ。 不思議な世界だ。同僚とのコミュニケーションがメール主体なのだ。それも 隣り合う同僚の間でも交わされる会話は、長くても 「メール出したので読んでもらえますか?」 「分かりました。何かあったら返信します」 だけで済んでしまうのだ。その口調も棒読みで極めて事務的な口調なのだ。 休む者は決して連絡をよこさないし、居なくても誰も気付かない。たまに 用があって欠勤に気付くと、事務的にスケジュールをシフトするだけなのだ。 欠勤者は翌日に黙って年休申請をイントラネット上で処理するだけである。 彼らの上司も、その年休申請を中身も確認しないまま機械的に承認するだけなのだ。
- 47 名前:1 mailto:sage [05/03/11 00:03:34 ]
- 464 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/15 23:16
職場には一応先輩が居れば後輩も居るのだが、先輩は後輩に対して決して コワモテな態度は取らず、必ず敬語なのだ。先輩と後輩の間に言葉の上位/下位が 存在しないのだ。紳士的で優しい先輩たちじゃないか、と初めは思ったが、実は、 先輩は決して、決して、決・・・・・して後輩の面倒を見る事はないのだ。 新人が先輩に何か質問すると、それが少しでも技術的な内容を含むと、 「〇×さんが知っているです」と棒読みの口調で伝えるだけなのだ。自分で 直接返答できる内容と言えば、事務処理の手順ぐらいなのだ。 新人の技術教育は形だけは充実して見えるのだが、その実体は関連会社への 〇投げであって、関連会社では最前線に立つべき軍曹クラスが業務時間を 強引に空けられて、その教育セミナーに講師として駆り出されるのだ。関連 会社の軍曹レベルは、それでも業務を決して減らしてもらえる事はなく、 無い時間を工面しながら教育カリキュラムを必至に実行している。 教育カリキュラムを作成するのは遠く離れた間接部門であって、教育を受ける 側の部署の管理職レベルとは全くコミュニケーションが無いのだ。 俺は、そこに自分の常駐机を置かれてから1年間くらいその部署を観察していた のだが、先輩が後輩に何か指導している光景は一度も見たことが無かった。そして、 これは上司と部下の関係でも同じだった。紳士的で優しく見える上司や先輩は 部下や後輩を決して叱る事は無い。叱る事は無いが、何か問題が発生すると責任は 上から下へスルーして転嫁される。上は決して下をかばわない。 部下や後輩がデスマーチ状態になっても、上司や先輩は放置して帰ってしまうのだ。 だた、スケジュール要求のみをメールで通知するだけなのだ。入社3年くらいになると 要領を得てくるのだろうが、新人は途方に暮れて派遣社員に教えを請うのだ。 派遣社員は嫌々ながらも質問には答え、それでも彼等の方がよほど先輩らしく 指導をしていた。
- 48 名前:1 mailto:sage [05/03/11 00:03:54 ]
- 465 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/15 23:30
部署としてはアプリ開発のかなり広範囲について最終責任を負う立場にある らしく、ひとたび祭りが始まると新人を含めた若手社員達の顔が蒼ざめる。 いや、実は元から彼らの顔には全く表情というものが無いのだ。これは決して 誇張した表現ではなく、カフェテリアで昼食を取っている彼らの雰囲気は お通夜そのものなのだ。それでも昼食時には数名が固まってカフェテリアへ 向かうのだから不思議である。 現役選手であるはずの軍曹〜上等兵クラスの社員達は、どんなに祭りが盛り 上がっても決して事務所から出る事は無く、常にメールによる連絡か、受けた 電話の応対ぐらいである。現場を知る者は居ないのではないだろうか? 俺たちは現場に半分以上の時間入り浸るので、移動する時に頼まれ事を引き 受けたりするのだが、それは必ず口頭であった。何故なら、問題発生時に 責任の所在を示す証拠を残してはならないからである。 そう、彼らは完全な減点査定主義の元に管理されていて、賞与は管理職が 意味不明の計算をして秘密裏に分配比率を決めてしまうのだ。社員達は ただ明細を貰ってため息をつくだけなのだ。それでも、俺たちの会社の 課長クラスよりは遥かに高い賞与を彼らは貰っていると言う。それも入社 3年の時点でだ。俺の会社では課長未満は賞与なしである。 彼らは、入社3年以内に、外注の成果を根こそぎ自分達の手柄として吸い上げて、 失敗を完全に外注に被せる為のノウハウをOJT(オンザジョブトレーニング)で 習得するのである。 社員同士は上下関係、左右関係全てにおいて信頼関係というものを全く持って おらず、どんな簡単な業務でも他所に責任転嫁の足がかりを確保してからでないと 動けないのだ。おかげで、俺たちはメールアカウントを申請しても 「その内に対処します」とだけ言われ続けた。1年間に渡って。
- 49 名前:1 mailto:sage [05/03/11 00:05:02 ]
- 466 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/15 23:44
日常化したデスマーチに俺の部下の上等兵が倒れてホテルで5日間寝込んだ 事があったのだが、3日目に俺が「食事を届ける為に夕方に一度外出させて ください」と申し出たところ、 「許可を得る為の手続き業務に時間がかかるので、もう3日間待ってください」 という返答を受けたのだ。俺が上等兵の身を案じている姿が、彼らには奇妙に 映ったらしい。何故そのような余分な気を回すのかと、無表情な顔から棒読みの 口調で質問されたものだ。 何かがおかしいのだが、俺達にはその雰囲気に対して発言する権利を与えられて いなかった。 俺はたまりかねて夕方の定時後に抜け出し、上等兵の様子を見に行った。 ホテルの部屋の中で、彼はすっかり病人の色をしていた。毎朝毎晩、俺は 上等兵の様子を確認しに寄っていたのだが、いつも彼は 「私は大丈夫です。ゴホッ、ゴフッ・・・、軍曹殿は気にせずに出勤してください」 と言って、俺が病院に連れて行くのを拒んだ。病院へ行く事になれば俺も欠勤 しなければならないと気遣ってくれているのだ。そう、彼は自分の会社ではその まま欠勤処理されていたのだ。 職場を抜け出して食料と医薬品を調達してホテルに向かうと、上等兵は本当に 虫の息に見えた。バスルームには明らかに吐血したのを隠した跡があった。 「ぐ、軍曹殿。私の事は構わないで下さい。貴方の評価まで傷ついてしまう」 「何を言っているんだ!一緒に群馬に戻ろう」俺はやせ細った上等兵の肩を 抱きしめた。骨と皮じゃないか。 俺の中で何かが切れた。
- 50 名前:1 mailto:sage [05/03/11 00:05:19 ]
- 467 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/15 23:55
抵抗する上等兵を上越新幹線に押し込め、俺たちはそのまま高崎へ向かった。 上等兵はそのまま緊急入院する事になった。結核に罹っていたのだ。 上等兵の姉が入院手続きを済ませ、俺に 「コボルがこんな酷いことになっていたなんて、一体あなた方はどういう扱い をしてきたんですか!」と責め立てた。返す言葉が無かった。 病室に戻ると上等兵が 「軍曹殿、本当に申し訳ありません。私はもう大丈夫です。軍曹殿まで欠勤 処理されると思うと私の胸が痛みます。どうか、横須賀にお戻りください。 私の事は心配要りません」と、か弱い声で訴えてきた。 翌日、俺は涙を拭って会社に寄って事情を説明し、横須賀へ戻った。 職場放棄&無断欠勤の容疑を着せられ、俺は始末書を書かされた。 休んだ日は自分の会社と常駐先の両方に電話をかけた筈なのに、常駐先では 受けた人間の怠慢によりそのまま無断欠勤処理されていたのだ。勤務記録上 矛盾が起きてはならないので、結局俺の所属する会社でも改めて無断欠勤処理 をされた。 加えて、部下を過労で壊した罪も着せられて、部下の管理責任まで問われたのだ。 それから俺たちは常駐先でチームを解かれ、俺と他の上等兵2人はバラバラに 配置されて完全に派遣社員としてのルーチンワークに組み込まれてしまった。 単価も年齢からは考えられないほど安く叩かれた。
- 51 名前:1 mailto:sage [05/03/11 00:05:40 ]
- 471 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/16 00:07
俺たちはそれぞれ体育会系社員達からも徹底的にマークされ、事ある毎に 腕立て伏せの刑を受けた。他にも、フッキンやスクワットなど、無理の ありそうなものを選んで科せられた。 朝出勤すると、派遣社員が誰かしら腕立て伏せやフッキンをさせれらている 光景を見るのに、不思議にも目が慣れてしまっていた。そして、自分達の 処遇にも。 12月が来た。予想通り、賞与は無かった。 入院中の上等兵は健康を取り戻したが、そのまま退職してしまった。 俺たちがデスマで現場を離れられないと知ると、横須賀まで挨拶に来てくれた。 最後に飲み交わした。横須賀の海岸で俺たちは酔いつぶれて吐いた。 そして、夜景を見ながら目に涙を溜めて、尾崎豊の「I love you」を、声を 合わせて歌った。 上等兵に会ったのはそれが最後だった。生きてはいるだろうけど、それ以来 姿を見ていない。そんなものだ、人生とは。 年が暮れる前に、3人居た上等兵の内の2人が消えてしまった。新兵の補充は 聞かされておらず、今やそれ自体はどうでも良くなってしまっていた。居ても 互いにバラバラな派遣社員待遇なのだから。 自分の会社には何度も帰還要望を出したのだが、「代わりの仕事が無い」の 一点張りで、帰れなかった。噂によると、自社の俺の机は新人に譲られたらしい。
- 52 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/13 20:58:00 ]
- なんだかNっぽい。
なぜこの状況で契約を続けるんだか。
- 53 名前:1 mailto:sage [05/03/15 01:35:43 ]
- 532 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 16:12
YRPに常駐してから部下が減る事はあっても本部から応援が補充されるような 事は無かった。年を明けると、上等兵が1人残っているだけだった。 群馬にある自社では、忘年会にも新年会にも俺たちは呼ばれなかった。 給与待遇は請負ではなく派遣作業者としてのレベルにまで削られて、毎月の 生活も外食に頼るとすぐに赤字になる厳しいものであった。 俺の部下としてただ1人残った上等兵は、こう問い掛けた。 「軍曹殿、我々は一体どうなってしまうんでしょうか?」 「本部からの連絡が途絶えた以上、目の前の作戦活動に力を注ぐのだ。 俺からはそれしか言えない。」 こんな俺たちも、既に散らされて派遣社員の1人として扱われて、上位会社の 体育会系社員達に絞り上げられる毎日を過ごしていたのだ。体育会系社員達は 若手でも冬のボーナスを60万以上貰っていたらしい。噂で聞いただけなのだが、 胸が締め付けられる思いだった。 そういえば、この上等兵には妻子が居たはずだ。もう3ヶ月以上も会っていない らしい。そう、俺たちは年末も正月も現場を離れる事が出来なかったのだ。風邪を 引いても、インフルエンザに罹ろうとも、体育会系社員達は精神論で乗り切れと 休ませてくれないのだ。もっとも、彼らの鍛え上げられた強靭な肉体は、風邪とも インフルエンザとも無縁なようであったが。
- 54 名前:1 mailto:sage [05/03/15 01:36:01 ]
- 533 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 16:21
前に書いたが、上位の上位会社から上は官僚化が進んでおり、従業員同士の 人間的交流というものが全く無い。特徴的なのは、無表情に引きつった顔と、 早口な棒読みセリフ、そして上司は部下に仕事を〇投げしてサポートもせず、 この関係は先輩と部下の関係にも一致していた。今の事業部体制になってから 管理職に対する密告が評価されるようになったらしく、それが原因だという 説もある。人間関係が良い悪いという次元の前に、人間関係そのものが無いのだ。 一方的な指示はたとえ机が隣でもメールで行われ、上司は退社直前に「〇×の 件、明日の朝イチに報告を待つ」と部下にメールを送る事が日常的に行われていた。 当然、彼らの職場でも忘年会や新年会は一切行われなかった。社員同士でも同僚の 不正を上司に密告するのが当たり前となり、昼食時に席を外す時にはPCの電源を 切っておかないとキーロガーを仕掛けられる惧れがあった。 ある日、上等兵が深刻そうな顔で俺に相談を持ちかけてきた。
- 55 名前:1 mailto:sage [05/03/15 01:36:24 ]
- 534 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 17:05
「長い間お世話になりました。」 「どうしたんだ?」 「実は、来月から〇×株式会社(上位の上位会社)へ転職する事になったんです。」 俺は一瞬呆然となった。最後の部下まで失ってしまうのか。しかし、 「そ、そうか。故郷の奥さんやお子さんを考えれば、今の給料じゃ食わしてやれない もんナ。君の境遇を考えれば無理もない。それにしてもよく採用されたものだ。」 と激励の声をかけるのが精一杯だった。 彼の所得は一気に倍増するらしかった。今年の年間所得は明らかに俺より上になるはずだ。
- 56 名前:1 mailto:sage [05/03/15 01:36:42 ]
- 535 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 17:14
上等兵と同じ会社に所属する最後の夜、俺たちはホテルの部屋で酒を飲み交わした。 「こんなホテルに缶詰にされるのも、君は今夜限りだな。」 「軍曹殿を残して本当に申し訳ないと思っています。しかし、私にも家族がいますので…、」 「分かっている。気にするな。今まで十分に尽くしてくれたよ」 思えば、この上等兵と人間的な会話が出来たのはこれが最後だったような気がする。 上等兵は上位の上位会社へ転籍すると、家族寮と呼ばれるきれいなマンションに移った。 そして家族もそこに呼び寄せたのだった。やはり、家庭を持つには社会の階層というのも 大きなファクターになるのであろう。新居に引っ越して1週間後、俺は元上等兵に夕飯に 招待された。久々に温かい家庭の空気に触れた。奥さんはきれいだし、子供も無邪気で かわいいし。彼が長らく群馬に残してきたものの大きさを見た思いだった。 こんなきれいなマンション生活で、家賃も会社が9割まで補助してくれて、所得も倍増 とは世の中は所詮階級社会なんだな、と身近にも感じてしまった。
- 57 名前:1 mailto:sage [05/03/15 01:37:02 ]
- 537 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 17:46
その後は仕事が忙しくて、元上等兵と会う機会はめっきりなくなってしまった。近くには いるのだろうけど、仕事で関わる事は無かった。 ある日、俺は仕様書の内容不備について確認しようと、別のフロアへ出向いた。要件を済 ませて帰ろうとすると、近くの席に元上等兵を見付けた。 何と言うか、何かの強迫観念に駆られたような引きつった、やつれ果てた顔であった。顔 色も土色と言ったら良いのか、目も深く落ち窪んだその顔に生気は全く感じられなかった。 そして、声をかけると帰ってくる声は、裏声で早口で、そして棒読みの口調であった。辺り を見渡すと、元上等兵は移転先の従業員の1人に溶け込んでいた。何か胸の詰まるような思い だった。 その後、元上等兵が離婚したという話を聞いたのは、今年の7月に入って久々に飲みに誘っ た時であった。酔いが回って口数が増えてきてもその口調はあのままであった。傷口をさらけ 出しているにも関わらず、顔は無表情であった。 一度家族の幸せな姿を見ていただけに、俺の胸も痛んだ。離婚に至るまでの過程を聞く内に、 俺も耐え切れなくなって、途中何度かトイレに立って、吐いた。
- 58 名前:1 mailto:sage [05/03/15 01:37:25 ]
- 538 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 17:55
職場の密告制度も激しさを増し、皆が皆を信用できない状況に陥っているらしかった。長引く 開発によって予算も底を尽き、外注単価を大幅に下げるだけでは間に合わず上位会社でも従業員の ボーナスを削減するという大きな流れの結果であったようだ。 ボーナスの全体金額が決まっているので、全員に均等に割ったら全員が苦しい思いをする。そこ で、減点方式の査定に走ったらしい。上司は部下を、先輩は後輩を決して叱る事は無く、見えてい る失敗も黙ってそのまま起こさせた。そして失敗の責任は全て末端の担当者に被せられ、その者は ボーナスの査定で大幅な減点を受けるのだ。逆に、同僚の不正を上司に密告すると加点されるらし く、部署によっては隣席の同僚が昼食に出かけている隙にPCへキーロガーを仕掛けるといった 巧妙な罠まで使われたらしい。 そんな職場で、中途採用者は格好の餌食にされた。彼は周囲の人間の失敗責任をいくつも被せら れ、ボーナスは大幅な減点査定だったらしい。もっとも、入ってすぐの夏のボーナスが減点食らっ ていて尚65万というのは同情に値しないと俺は感じた。 俺はこの夏もボーナス無しだった。所属会社に掛け合っても、 「開発期間の延長による損失は従業員の責任だ」 の一点張りで、俺の形式的な上司は何も責任を取っていないらしかった。
- 59 名前:1 mailto:sage [05/03/15 01:37:45 ]
- 539 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 18:06
俺の群馬での机は、既に新人に乗っ取られていて、彼は俺が前に手がけていた 案件をPC内に整理された資料を元に引き継いで、先輩の指導の元に有力な新規案件 を手がけているらしかった。 時折事務所に電話をかけると、その新人の先輩が旧案件について質問してくる 有様だった。 会社はこの請負業務から手を引きたいようだったのだが、従業員が自ら辞めると いうアクシデントでもない限りクライアントが手放さなかったのだ。しかも、追加 見積もりはことごとく拒絶されたのだ。その為、俺の所属会社も本件では赤字状態 に陥り、経験者まで数人失う損失を被ったのだ。その金額的責任の一部が俺の所得 にも反映された。 そんな俺は、8月に入って職場を逃亡した。 群馬に勝手に帰って、久しぶりに好きな登山に明け暮れた。 自分を取り戻していけそうな気がした。 そう、俺の中で何かがはじけたのだ。 もう2つ3つ好きな山を登ったら、会社に手続きをしに行こうと思っている。 携帯電話はうるさいので、1つ目の山の頂上から思い切り投げてしまった。 携帯もこんな空気の良いところに投げ捨てられて本望であった事だろう。 故郷の山の空気は、おいしい。ああ、生きていて良かったな、と思えた。 長らく読んで頂いて、有難う。
- 60 名前:1 mailto:sage [05/03/15 01:40:15 ]
- 漏れは軍曹を自分に重ね合わせて
泣いてしまいました。 何で携帯開発はあんなに過酷なんだろう。
- 61 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/15 10:46:25 ]
- 愚行には下限が無い
- 62 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/15 22:36:28 ]
- 名作だとは思うがひとつだけ。
>>539 山にゴミを残してはいかんよ。登山家ならなおさら。
- 63 名前:仕様書無しさん [05/03/15 22:38:47 ]
- 助けてくださいシャア少佐ぁーー!バグが収束しません!シャア少佐ぁぁぁ!
- 64 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/15 22:59:06 ]
- ま、勤務状況が過酷だから、間違いなく雇用保険は給付されるだろうな。
職安にちくって、掛け合ってもらえばいい。
- 65 名前:仕様書無しさん [05/03/15 23:39:44 ]
- 俺のところにも軍曹殿のようなヒューマニストがいたら、
同僚たちの逃亡はなかったであろう。
- 66 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/16 01:43:16 ]
- >>63
君にはバグを突破する力はない、、だが無駄死にではないぞ。 多分
- 67 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/16 01:43:32 ]
- >>65
君は逃げないの?
- 68 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/16 02:23:49 ]
- >>60
>何で携帯開発はあんなに過酷なんだろう。 1年で作って、次の1年評価してやっと何とかなる様な規模のものを 半年で作ろうとして、なんともならないと解ってからはひたすら 「一刻も早く」になるからかと。
- 69 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/16 11:05:58 ]
- >>68
丸二年かかるものならば、生産ラインを四本持てば半年周期でできるはずだよなw 不充分な資源不足が原因かと
- 70 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/16 11:06:58 ]
- ああすまん。
× 不充分な資源不足 ○ 資源不足
- 71 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/16 12:25:18 ]
- いつの間に製造板に来たのかと思ってしまった
- 72 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/16 12:45:07 ]
- 軍曹殿 同じ県民でPGとしてお疲れ様でした といいたいです。
榛名・赤城・妙義を思うぞん分登ってくだされ もうみてないでしょうけど
- 73 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/16 16:08:55 ]
- >>69
資源が不足してるから、軍曹みたいなのをあちこちから かき集めてタコ部屋送りにしてるのです。
- 74 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/16 20:44:24 ]
- いい話だ。泣かせる
どっかにサイト作って保存したい・・・
- 75 名前:仕様書無しさん mailto:sage [05/03/16 21:14:00 ]
- >>74
酷い話だが、最後に軍曹が山に登るところで美談になったと・・・
- 76 名前:仕様書無しさん [05/03/16 23:19:27 ]
- 軍曹ほどではないが、俺もデスマの果てに
部下を失ったことがある。 思い返せばサインがあったんだよな。 部下を全て失った軍曹が最後に逃亡を決心した 心境は痛いほどよく分かる。
- 77 名前:仕様書無しさん [05/03/16 23:48:01 ]
- 誰か48時間耐久レビューの話をアップしてくれないかなあ。
- 78 名前:1 mailto:sage [05/03/18 02:18:37 ]
- pc5.2ch.net/test/read.cgi/prog/1094927240/
88 名前:YRP逃亡to群馬 投稿日:04/09/16 01:31:34 案の定、8月の給料は振り込まれていなかった。
- 79 名前:1 mailto:sage [05/03/18 02:19:47 ]
- 374 名前:YRP逃亡to群馬 投稿日:04/10/03 21:36:08
>ソフト担当者を呼べ! >ソフト担当者は、害虫ですでに契約が終わりましたが・・・ >なんだと、連絡を取れ! >どうやらもう辞めてしまったようなんですが・・・ 自分の事を言われているのかと、少しビクビクしてたりする。 俺はその後、3社で採用を断られた。情報が出回っているのか? 群馬県高崎市内はもうダメボ。
- 80 名前:1 mailto:sage [05/03/18 02:20:14 ]
- 399 名前:YRP逃亡to群馬 投稿日:04/10/06 01:44:16
失業者にはなりたくなかった。俺は高崎市、前橋市を中心に求人を探して その内の幾つかは面接にも行ったのだが、面接で良い雰囲気になっても 数日後に不採用の知らせが来るのだ。 1回は、確かに事務所の奥でささやく声が聞こえたのだ。 「YRP常駐だった軍曹殿がお見えだぞ」と。 同業他社の人間が皆2ちゃんねらーだとは思えないから、きっと会社間で 情報が回っているのかもしれない。辞める時に労働基準監督署の名を使って 1年分の残業代を脅し取ったのが、案外逆恨みされているのかもしれない。 他の町に行くとしたら実家パラサイトもできないので、かなりキツイ生活を 覚悟しなければならないであろう。
- 81 名前:1 mailto:sage [05/03/18 02:20:44 ]
- 468 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/13 01:17:21
残業時間が月に200時間をコンスタントに越えて4ヶ月が経とうとした頃だった。 我々の部隊の進捗管理をしていた上位会社の中尉殿が、デバッグルームに空ろな 眼差しで現れた。足取りもおぼつかなく、顔色は土色で、目は深く落ち窪み、 口元は不気味に緩んでいた。 ふらついた足取りで窓際へ近づくと、突然叫んだ。 「F○MAに栄光あれーーーーーーーーー!!!!!!」 パァーーーーーーーン! 拳銃を隠し持っていたのだ。 デスマーチプロジェクトの責任を一身に負わされての行為だったらしい。 俺達は、その場に凍りついた。しかし、数分も経たぬ内に皆敬礼の姿勢を取った。 「中尉殿、ご立派です!」 「これで3人目か」
- 82 名前:1 mailto:sage [05/03/18 02:21:03 ]
- 470 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/13 01:50:15
あれは新製品開発のための決起大会が開かれた時だった。大会議室には体育会系 兵士達(営業部隊から拝借)による盛り上げ演出が行われていた。 プロジェクトの最高責任者である本部長(通称「インパール提督」)による決起大会 挨拶が始まろうとしていた。壇の両脇にはかがり火が灯されていて、体育会兵士達が 盛り上げコールをかなり長い事続けていた。 「インパール提督バンザーーーイ!インパール提督バンザーーーイ!」 提督が片手を上げると、コールが止んで静けさが戻った。 体育会系社員達を纏める某部長が部下達に負けぬ大声で叫んだ。 「皆の者!インパール提督による精神論のご講話が始まる。心して聞くがいい」 ・・・ 「開発部隊の諸君。既に耳には入っていると思うが、今期予算の達成は非常に 厳しい状況である。しかし、これは諸君たちにとって真の愛社精神を示すまたと 無いチャンスでもある。今すぐに諸君に還元できるものは何も無いが、私が常に 口にしている精神論の意味をもう一度心に命じて欲しくて、今回の大会を開いた。」 「中には私の話の真の価値を理解できずに退屈そうに見える者もいるようだが、部下に 命じて精神論の研修も徹底するように命じてある。私の魂の声を聞くべき大会の意味を もう一度諸君に刻み込みたい。」 ・・・ その後、インパール提督による「精神論」の講話は延々と3時間以上も続いた。 話の切れ目毎に体育会兵士達による「インパール提督バンザーーーイ」のハヤシが 挿入された。空調も効いていない部屋はかがり火と人口過密による酸欠状態となり、 何人かが倒れた。倒れたものは「根性注入棒」と書かれた木刀を持った体育会兵士 達に連れられて、研修室へと運ばれていった。 俺達もかなり意識が薄れて危なかったが、互いに励まし合って何とかその講話を 耐え抜いた。体育会系兵士達は、精神論の講話に心底共鳴しているらしく、興奮して 涙を流していた。
- 83 名前:1 mailto:sage [05/03/18 02:21:22 ]
- 472 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/13 02:08:04
一向に収束しないミドルウェアのバグ問題に、俺達は焦燥し切っていた。 上位会社の許可無く他の協力会社のメンバーと口を聞く事が許されていないため、 俺は時々部下に命じて他のチームの偵察に行かせた。 「軍曹殿!例の問題はシステムコール○×のセキュリティホールを突いて対処できる ようです。そして、そのチームではセキュリティホールの事を仕様というコトバに置き 換えているようです。」 「何ということだ。ミドルウェアのライセンス料交渉が暗礁に乗り上げてサポートが 打ち切られているとは噂に聞いていたが、そんな対処方法が横行しているのか。」 「中にはミドルウェアのファンクションすら使わずに、OSのシステムコール、いや、 セキュリティホールを使った処理で実行速度を稼ごうというチームまで出ている始末です。」 「仕様書には何て書いてるんだ?連中は」 「要求仕様通りです。」 「我々の発見したセキュリティホールで利用可能なものはどのくらいある?」 「はっ、軍曹殿!今週調査した内容を報告いたします。」 情報を閉ざされていた俺達も、上等兵達の働きによって何とか他チームの手法を真似る事は できた。 そして、カーネルとミドルウェアの一斉アップデートの日は突然やってきて、現場は火を吹く ような修羅場と化した。上位会社に言えない事情で皆が皆、火達磨状態でソースの修正に 明け暮れた。修正内容はすべてコメント行にして残すようにという上位会社の徹底管理も、 ここへきて少しタガが緩んだ。CVS導入が検討されるという噂が流れ、ソースの非公開修正 があちこちで行われた。俺達も、一部のどうにもならないスパゲッティソースを一部作り直 してしまった。 しかし、セキュリティホール頼みのファンクションも予想以上に多くなっていて、その修正 作業には気が遠くなりそうだった。証拠隠滅に、他のチームでも人が倒れるくらいの忙しさに なっていた。
- 84 名前:1 mailto:sage [05/03/18 02:22:00 ]
- 528 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/14 22:06:37
インパール提督(開発本部長)は「精神論」の無限の可能性を信じている。 その「精神論」を振りかざして赤字部門を黒字化しながら部門を渡り歩いて いるのだ。本人はカルロス・ゴーンより優れた指導者であると自負している から現場はたまったものではない。 俺達下っ端は接点が無いので救われているが、開発後半にスケジュールも 崩れ果てて人海戦術も疲弊し切って予算もとうに底を突いていた時期には、 毎日昼休みにはインパール提督の「精神論」演説が放送で流れたものだった。 俺達の派遣されていた事務所にはその手下の体育会社員達がその崇高な思想 を浸透させる尖兵となっていた。 壁には提督直筆(書道3段!)の「欲しがりません、勝つまでは」という額が 飾られていた。その圧力は、開発費が底を尽きてあらゆる予算申請が凍結され た時から本格化していった。 残業代の交渉に来た下請け会社の部課長を研修室に呼び込み、そこでも精神論 を武器に「この製品は確実にヒット商品となるはずだ。その栄光に授かれると いう名誉以外に何を求める気か!?」と、延々と3時間も語るのだ。すっかり洗脳 された下請け幹部は、大抵2度と交渉の再開を望まない。提督の提示した条件を 嫌が応にも飲むしかないのだ。 設備申請が凍結されたからといって、納期は決して緩めてくれない。自分が 現役の頃は3時間しか眠らなかったものだと、演説放送で何度も説く。睡眠不足 デスマーチ状態で毎日あの演説放送を1時間ずつ(テープだが)聞かされていると、 外注でもその内容を覚えてしまい、疲労困憊した頭の中には不思議な脳内麻薬が 生成されるのだ。そう、我々は1日1回インパール提督の「精神論」演説を聴かな くてはキモチが安定できない依存症にかかっていたのだ。
- 85 名前:1 mailto:sage [05/03/18 02:22:26 ]
- 530 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/14 22:16:00
事実、社内の放送設備が故障して3日間演説放送が流れなかった時には生産性が 著しく下がり、デスマーチで疲労した派遣社員たちは床に寝転び始めた。それを 上位会社の体育会兵士達が蹴り起こして、何とか業務を続けていたが、士気は 上がらなかった。3日後に放送設備が直ると、弱まった洗脳効果を元に戻すために 3日間ほど音量を上げていた。 やがてその放送は、朝、昼、夜の1日3回になった。 「軍曹殿。自分が1日にコく回数に匹敵しています。」と上等兵が報コクして きた。人間性には疑問を感じるが、提督の指導力には不思議な麻薬の味がする のだった。おそらく、デスマーチによって正常な判断が鈍ったところをうまく 突かれたのであろう。徹夜明けで動けなくなったPG達も、放送の後には夢中に なってタイピングを始めるのだ。そして、一時的にミスも減るのだ。少なくとも 金以外の何かに目的を見出していたのかもしれない。それが何であったのか、 今になってはうまく思い出せない。
- 86 名前:1 mailto:sage [05/03/18 02:22:44 ]
- 531 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/14 22:25:16
ここだけの話であるが、インパール提督の爺さんは帝国陸軍でそれなりの地位に あったという。その思想が隔世遺伝によって受け継がれているのだという。 上層部のハナシはどうでもいいのだが、その圧力は社内では物凄いらしく、上位 会社以上では誰もその政策に不満を口にする者はいなかった。俺達は小隊の仲間 内で飲み会に行く時に、悪口(ワル愚痴)で盛り上がりたくなると店ではなく、 港でドラム缶の焚き火を囲んで盛り上がった。組織の悪口を言えるのは、言って いる仲間を見る事ができるのは、その場所だけだった。ホテルの部屋でも駄目だ った。上位会社の他部署からの出張者がたまに隣の部屋に泊まったりするからだ。 自社への進捗報告出張は経費節減のために俺だけとなってしまったが、何ヶ月も 帰れない部下達に不満を貯めないように、週末は大体俺がドラム缶飲み会を自費 で開催した。彼らが人間らしい顔を見せてくれるのは、そのひと時だけであった。 書いていて、彼らへの思いが胸にこみ上げてくる。俺達は、ずっとそのまま戦友 で居続けられると、そのひと時は誰もが信じていた。
- 87 名前:1 mailto:sage [05/03/18 02:23:03 ]
- 534 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/14 22:41:45
他社の常駐社員と接触してはならないという掟だったので、俺達は小隊の単位で 昼食休みや休憩時間を共有した。そして、部下が他チームを偵察してきた報告は 昼休みの娯楽の一つでもあった。俺からは自社へ出した援軍要請が却下された、 というか無視されたという情報を定期的に彼らに伝えるぐらいしか無かった。 このプロジェクトに手を出した事を、俺達の会社の部課長はかなり後悔していた らしい。 ここで改めて述べるが、俺達は仕様も知らされずに横須賀の地に送り込まれたの だ。仕事内容も期限も責任の範囲も不明なまま送り込まれ、そして当初出した 見積もりの金額が、事もあろうに先払いされてしまったのだ。始まってすぐに 罠だと気づき、自社では援軍のハナシも一時上がったのだが、先払いされた資金 は援軍を準備する前に俺達のデスマーチで枯渇してしまったのだ。 課長は結局一度も来なかった。来ると追加見積もりのできないまま客先に援軍を 要求されるからだ。零細だと、その底なし沼で疲弊して倒れてしまうところも あると聞く。もう一度言うが、援軍が来ないまま俺達の小隊の兵士たちは一人 また一人と衰弱していった。
- 88 名前:1 mailto:sage [05/03/18 02:23:29 ]
- 559 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/16 09:58:40
俺達が派遣されて最初の2ヶ月は、仕様書もろくに無いまま、 すべての情報が口頭指示とホワイトボードの手書きコピーであった。 仕様書といえば前機種の時のものすら未完成で手書きのメモが随所に 書き込まれたものを渡された。これにしても1ヶ月経った頃だ。 仕様が決まらないまま前機種のソースを与えられ、口頭とホワイトボードの 図示によってその改良を指示されたのだ。最初に取り組んだプログラムは、 担当するファイル合計で10万行程度であった。 俺達の小隊は、軍曹1名(俺)と上等兵2名と2等兵3名であったが、機能改良 の仕様すら曖昧なまま、とにかく始めた。2等兵にはC言語の文法から指導 する必要があったが、あまりにも低レベルは話は上等兵がうまく指導して くれた。俺はその上でソフトウェアとして正しく動作するのに必要なノウ ハウを指導した。最初の3ヶ月は、勤務時間の1/3が仕様の確認、1/3が2等 兵の指導、1/3が自分自身の実務であった。時には、全体の1/2が打ち合わ せになり、数日間に渡って膠着する事も珍しくなかった。 そう、上層部でも仕様に関して3つの派閥が方針を巡って対立しており、 その勢力加減によって何度も仕様が変わってそれが末端にまで口頭の 伝言で届いてくるのだ。ドキュメント化される事はしばらく無かった。 文書化作業よりも仕様の変動速度の方がはるかに速く、要領のいいチーム は無駄な変更指示を予想して、幾つかの指示を無視するところまで出てきた。
- 89 名前:1 mailto:sage [05/03/18 02:23:49 ]
- 563 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/16 10:13:12
仕様書を書くべき者たちは、連日の不毛な"勢力争い会議"に付き合わせられて、 その場で仕方なくノートパソコンを開いて仕様書に反映させようとしていたが、 打ち合わせは決まって後半が"部門間の罵り合い"に至り、設計者達はあきらめて ノートパソコンを閉じてしまう有様だった。 そんな話を俺達は上位会社から噂で聞いていた。スケジュールの完成日は決まって いるのに、仕様が決まらぬまま最初の3ヶ月が過ぎた。その間、一応与えられた ソースの改良は済んだのだが、コンパイル担当者とソース版数管理者への連絡手続き に、5箇所の部門を中継する必要があって、その為の依頼文書作成も大変だった。 部門間を中継する依頼ルートもこちらから出して安心ではなく、中継箇所ごとに 机に埋もれていないか確認しないと進まないのだった。 俺も中継担当者達にはかなりウザがられたものだった。 仕様が流動的なものだからソースの改版も激しく、改版手続きの中継部署の担当も その煩雑な手続き業務に忙殺されていた。俺達以外の多数のチームからも変更毎に 依頼文書が殺到してくるのだ。連日の会議で思いつきで発言される機能変更が出て 来るたびにこの状態に陥った。 したがって、会議室での機能変更のハナシから、現場のブレッドボード上での デバッグまでおよそ1ヶ月の時差が生じた。会議室での仕様変更はホットなもので、 これは連日塗り替えられるのだ。開発部門間の勢力争いには、さすがのインパール 提督も強権を発動できず、ただ見守るしかなかった。彼ら全体の支持があって こその地位でもあったからだ。それらの部門すべてをバックに、インパール 提督は将来の社長への道を固めつつあったらしい。 下請けの俺達にとっては、昼休みに食堂で上位の上位会社の社員の話す噂話 はただの世間話に過ぎなかったが、機能変更の裏話を聞くと腹立たしくも 感じた。
- 90 名前:YRP逃亡者 mailto:今はコンビニでレジ打ち [05/03/18 23:01:26 ]
- その機能、次世代ヨジゲン通信を実現するために採用されたMPU「漏電スパーク777」は、
その名の通り、どこかショートでもしているんじゃないのか?と疑わても おかしくない程の電力消費を誇った。 まともに使うには競合他社の5倍のバッテリーを開発する必要があった。 勿論、バッテリーの開発部隊も精神論による圧力を受けていた。
- 91 名前:仕様書無しさん [05/03/18 23:20:06 ]
- 風の噂によると、例の離婚した元上等兵はその後暫くして休職に
入ったらしい。俺も久しぶりに奴の顔を見てみたい気がする。 いつか返り咲く日を語らい合いたいものだ。
- 92 名前:1 mailto:sage [05/03/19 00:42:49 ]
- >>91
ん?軍曹殿ですか?
- 93 名前:YRP逃亡者 mailto:今はコンビニでレジ打ち [05/03/20 21:06:11 ]
- 俺は今でも元上等兵のあの幸せそうな家庭の光景を思い出すことがある。
子供はまだ2歳で、俺にも妙になついてくれていた。 「ぐんそ、あーそーぼ!」 舌っ足らずなその声に、俺は日々のデスマーチの疲れを忘れ、元上等兵の 幸福な生活の一部の恩恵に授かったものだ。しかし、これだけ立派なマン ションを借り上げてくれて、月々2〜3万円程度の社宅料で済むとは、 上位の上位会社の福利厚生に驚かされた。 前に住んでいた古びたアパートで見かけた彼の奥さんは、生活水準が大きく 変わったためか、女性として磨きがかかって美しかった。元上等兵の奥さん が磨けばここまで美しいとは、彼の家に何度かお邪魔していた俺も想像して いなかった。 「ぐんそ、ぐんそ!待ってー」 俺に付きまとう子供も愛くるしかった。俺はこれまで他人の子供になつかれた 事は無かったのだが、 「珍しい。人見知りの激しいうちの子がよその大人になつくなんて。 今までのところは軍曹殿だけですよ。」 と元上等兵も笑顔で驚いていた。 正直、かなり羨ましかったが、それでも俺が卑屈な思いを全くする事無く 彼らの幸せを共感できたのは、共に数々のデスマを戦った戦友としての絆に 他ならなかった。過去に元上等兵を数々のデスマに同伴させた事について、 彼の奥さんにも非常に申し訳ないと俺は感じていた。 しかし、小隊内の絆は、その家族にも浸透していたようだった。奥さんも 、俺を元上等兵を激戦の中で正しい道に導いてくれた上官として、評価して くれていた。改めて礼を言われると、俺は柄にもなく照れくさい気持ちにな った。俺の内面にもまだこんな気持ちが残っていたのか、と再発見した。
- 94 名前:YRP逃亡者 mailto:今はコンビニでレジ打ち [05/03/20 21:07:00 ]
- 食事をしながら久々に、心の底から元部下の幸せに共感して笑う事ができ
た。これは、戦友達と夜に港でドラム缶の炎を囲んで交わす笑顔とは、明らかに 違う感覚であった。何か、遠い、どこか地平線のかなたに置き忘れてきた感覚 であった。元上等兵がここまで幸せな家庭を守り抜いてきたという事実に、 俺は彼を尊敬した。 帰り道に、マンションを出て道路から明るい窓を見上げて、俺は敬礼した。 元上等兵もそれに応えてくれた。二人は暫く、互いにその姿勢を保った。 「ぐんそ、あーそーぼ」 ホテルへの帰り道の間、俺の頭の中をその声が渦巻いていた。そして、元 上等兵の奥さんの笑顔を…これは必要以上に思い描かぬように努めた。
- 95 名前:仕様書無しさん [05/03/20 23:09:14 ]
- >94
そんなに幸せな描写の後には、厳しい現実があったんだっけ?
- 96 名前:仕様書無しさん [05/03/20 23:31:03 ]
- 無職の俺を養うために嫁さんがケンタッキーでレジを始めた。
そっと覗きにいくと、ケンタッキーの制服のスカートけっこう短いのな。 若い女の子向けのデザインなんだろうな。 30代後半の嫁さんが、短いスカートはきながら一生懸命接客している姿はなんだか 痛々しくて、 心の底から申し訳ない、就職活動がんばろうと思った。 でも家に帰ると、久しぶりに1人なわけですよ。今まで嫁さんがいると、 昼間家にいるのを責めらてるような気がしてリラックスできなかった。 で、俺は久しぶりにオナニーしようと思った。しかも濃いやつ。 サラダオイルをチンコに垂らしてニュルニュルもんで、イキそうになったら手を止め て、 お尻の穴にもオイルぬってニンジンつっこんで、さすがにニンジンは痛かったけど、 レイプされてるような感じで興奮しますた。 すっかり女の気分になって「はああん、はあん」とあえぎながら、 1時間くらいチンコこすりつつニンジンをズコズコしてた。 んで「イクーっ」といって大量に射精した。そのとき俺は口内射精で飲んでみようと 思って、 できるだけ上半身を前屈させ、口を激しく前に突き出した。 精液は勢いよく顔まで飛んできたわけですが、口の中には入らなかったので、顔に塗 りたくって、 指をペロペロなめて、「ふー、良い仕事したなああ」と叫び、 シャワー浴びようと後 を振り返ったら、 嫁さんがケンタッキーの制服のまま台所に座って泣いていた。
- 97 名前:1 mailto:sage [05/03/21 00:15:55 ]
- >>96 荒らしウザイ
>>95 元部下の方が上位の上位会社にいるから、 厳しい現実の後の話では? 軍曹殿にお願いです。トリップつけて頂けないでしょうか。
- 98 名前:仕様書無しさん mailto:sage [2005/03/22(火) 17:36:09 ]
- 軍曹って、鬼女板の軍曹だよね?
女医さんかとおもてたが、PGだったんだね。 たもんのとこにはもう逝かないの?
- 99 名前:1 mailto:sage [2005/03/25(金) 00:46:54 ]
- 今日は保守です。週末にでもまた軍曹殿の
これまでの書き込みをうpします、
- 100 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:29:23 ]
- 576 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/17 00:50:57
俺達が赴任して取り組んだシゴトは、前任者チームがデスマーチ消耗の果てに 逃亡して空席となった場所だった。前機種アプリの機能アップとして任務を与え られたのだが、それは酷いスパゲッティ・ミート・ソースだった。チーズをかけ ても食えないような代物だった。 「軍曹殿。こんな酷いソースは見た事がありません。一見するとCに見えませんね。」 「単価の安いVBA厨を無理やり投入してやらせたとしか見えないな。」 俺もはじめは驚きを隠せなかった。殆どの個所でgoto文を使っているし、ローカル変数 という概念すらないようだった。1行に書ける限りの複数処理が書かれているし。 関数、というよりBASICのgosub文で書かれたサブルーチンと見えてしまう個所も酷く、 ループ文の範囲が経験者でもなかなか掴めない記述だった。プログラム設計書等は 無く、そのソースがドキュメントも兼ねていると言って渡された。
- 101 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:29:38 ]
- 577 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/17 00:51:41
変数名もval0, val1, val2と連番を振っているだけだし、コメントも全く無いのだ。 どう見てもC言語の記述らしい形でないので、部分的にコンパイルをかけてみた。 正規のコンパイル作業には膨大な依頼手続きが必要なので、自分で持ち込んでいる ノートPC内のgccで怪しそうな関数を幾つかコンパイルしてみた。 「軍曹殿!REM文によるコメント行がエラーに引っかかりました。」と上等兵が驚いていた。 上位会社の担当者に問い合わせると、 「あー、それ、一度もコンパイルにかけてないらしい。コーディング途上で居なくなっちゃ ったんだ。」 俺達は、そのコードの修正の延長が目的に届くとは到底思えず、機能を確認して1から関数を 作り直した。1000行あたりにつき、組み直したソースは200行程度に、それもコメントを 十分に入れて簡略化できた。記述途中でwhile文の'while'が'whi'まで書かれて途絶えている ファイルが最新の日時になっていた。担当者の身に何かがあったに違いない。上位会社の者は 誰一人として前任チームの事を語ってくれなかった。初めから居ないかのように。 殆どの処理は、C言語本来の記述になって見易くなり、組む人が組めば難易度はかなり低い 内容であった。見る人が見れば、外注単価をかなり引き下げられるであろう内容であった。 俺達はソースの行数で金を稼ぐ集団ではないので、自分達のルールに則ってシゴトを進めた。 関数の機能は、限りなくVBAに近い記述のC言語から設計書を起こし、そこからコーディングを 進めた。1日に1回は小隊内部で関数設計レビューを手短に行った。 そう、初めはすべてが順調だった。前任チームの能力の問題であって、シゴトの内容そのものは 楽であって短期の任務終了を確信していたのだ。仕様書が配布されるまでは。そして、与えられた 驚愕のルールを知るまでは。
- 102 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:30:08 ]
- 578 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/17 01:10:45
「何ですと?前任者のソースを全てコメント行にして復元しろと言うのですか?」 上位会社の担当からの指示に俺達は驚いた。 「そんな事をしたらソースの可読性は跡形も無くなってしまいますよ。」 「ソースの品質を保つ為だ。上が決めた事なんだ。全体のルールなのだ」 明らかにC言語というものに一度も触れた経験の無さそうな若手SEが、理由を 聞かれるのを明らかに嫌がっていた。ソースを持って機能の質問をしに行くと 露骨に顔を背けるのが俺達の上位会社の直接の担当なのだ。 前の酷いソースは行の長さも不揃いで、最長で270文字分にも達した。途中で 区切ってコメント化すると数日の内に上位担当からクレームが入った。 「不具合が出たらいつでも元に戻せるように、元ソースの行は無闇に改行して もらっては困る」「あれに戻す、…ような事があるんですか?」 俺達の手直しした一般的なCソース(決して美しい方ではないが)は、たちどころ に元のスパゲッティを大盛りにボリュームアップした記述に変貌した。いや、 その非生産的な作業にプログラミングをはるかに超える工数を要したのだ。 おかげで、俺達の手がけたソースにもかかわらず、可読性は前のものと大して 変わらなくなってしまった。 2等兵達には初めての徹夜を経験させてしまった。それでもまだその頃は若いし 体力も余っていたので、 「自分はまだ大丈夫です。この程度ならホテルに帰ればまだ3発はイケます。」 などと冗談を言っていられた。事実、毎朝フロントで有料ビデオの追加料金を 清算する姿を見た。 しかし、1日4時間睡眠で1週間も経つと、彼らの有料ビデオ清算が無くなった。 昼休みに冗談を言って皆を和ませる冗談も減り、食欲も無くなってきた。全てが 片付くまでに2週間がかかった。
- 103 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:30:28 ]
- 579 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/17 01:21:35
自分の部下を誉めるワケではないが、俺の部下の上等兵Aは非常に読み易いCソースを 書くのだ。社内でも若手に下手な参考書よりも勧められるレベルだ。 「君は失業したらC言語の教科書を執筆すればまず食いっぱぐれないだろうな」 と飲み会の席で言ったのは、俺だけではなかった。 その上等兵Aの生き生きとしたソースが、前任者のVBAもどきな記述に寄生されていく 姿を見るのは、辛かった。誰よりも、本人のプライドが一番傷ついたはずだ。 実際、俺達の過去のシゴトでは、若手が皆上等兵Aの記述スタイルを見習ってくれた おかげで、大抵のシゴトはスムーズに運んだ。 「何を言うんですか。軍曹殿の緻密な設計あっての事じゃないですか。自分はただ それを信じて、その設計が体現したがっている姿を実体化しているだけですよ。」 と謙虚な人柄も、周囲の好感を集める男だった。 コメント行の一件で経験の浅い2等兵達はやや消耗気味だったので、週末は仕様書 配布のレビューがあったのだが、俺は上等兵Bのみを連れて土曜のレビューに出席 した。まず自分が理解した上で部下達に要点を整理して伝えればいい。そう思った。 実際、そのレビューは経験の浅い若手には酷な内容だった。連れていかなくて良かった。
- 104 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:30:46 ]
- 583 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/17 01:33:37
第1回仕様書レビューが行われたのは、ソースコードの修正作業が始まってから 4ヶ月近い時期であった。その間ソースは出来上がらなかったのかというと、その 曖昧な仕様が上位会社の担当から五月雨式に口頭で伝えられてきて、程よく完成に 近づくと狙ったかのように変更の指示が入ってくるのだ。 俺達はその変更内容を予測して柔軟性のあるプログラムを組むように心がけていたが、 俺達は大抵の仕様変更にうろたえるようなレベルではなかったが、 「修正前の記述を必ずコメント行にして残すべし」というルールの前では、次第に 変更への対応が難しくなってきた。 「軍曹殿!自分はこんな糞コードを書かなくてはならない自分が悲しくなってきました。」 「その気持ちは分かる。上位会社に進言してみよう。」 しかし、C言語のソースをろくに読んだ経験も無い上位SEは、プログラムの話になると口実を 作って逃げてしまうのだ。 こうして、糞ソースにまみれて暫定版の完成すら出来ぬまま、仕様書レビューに辿り着いた。 「皮肉にも、これでようやく正常なフローに乗れそうですね」と上等兵Bが言った。彼は要求 仕様に対して、誰よりも高速なアルゴリズムでプログラムを組む事ができた。組み込みの 模範的な兵士だ。組み込み技術に関しては2等兵達にとっても良き手本であった。 レビューの土曜には大会議室が用意され、体育会兵士達の姿に嫌な予感がした。
- 105 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:31:03 ]
- 584 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/17 01:49:07
レビューの会場には、「レ・ビュー48時間」という垂れ幕が掛かっていた。 会場内には、朝・昼・晩の弁当販売所まで設けられていた。嫌な予感は的中した。 「私が第1回仕様レビューの進行を努める○×本部長だ。」インパール提督が主催するとは 予想外だった。出席者が席につくと、体育系兵士達が出入り口を固めた。 「今回は遅れたスケジュールを迅速に取り戻すべく、土日をかけて仕様レビューを敢行する」 俺達の手元には、全部で広辞苑にも匹敵する厚さの仕様書が配布された。配布する設計者の 手が冷や汗と共に震えていた。この執筆に徹夜をしていたに違いない。仕様書を執筆する連中は 提督の直轄部隊なので、おそらく一晩程度の徹夜ではないはずだった。 今にも気を失いそうな顔をした上位の上位会社のSE(階級は中尉)は、気の遠くなりそうな声で、 ゆっくりと裏声で、単調に、そして棒読みの口調で仕様書を1ページ目から読み始めた。顔色は 土色で、目は深く落ち窪み、引きつった顔に表情は一切見られない。 数十ページも読む内には、その声も途絶え、中尉殿は机に突っ伏してしまった。イビキが異常に 大きいのが少し心配だった。 「おい!」体育会兵士が小突くが動かない。イビキは更に大きくなった。 「おい!」体育会兵士が担ぎ起こしても、目を覚まさず、両腕をだらりと下げている。 「担架を持って来い!」すぐに中尉殿は片付けられた。
- 106 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:31:26 ]
- 585 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/17 02:06:53
レビューの雰囲気が損なわれたので、体育会兵士が場を取り繕い、彼らの仲間の体育会大尉が 仕様書の続きを読み始めた。彼はマイクのスイッチを切り、地声で読み始めた。 末席に居る俺の耳にも響くような気合の入った大声で、彼は続きを力強く読み始めた。 近くの席の者たちの中には、余りの大声に耳を押さえる者まで出てきた。 そして、朗読が止まった。 「貴様ーーーーー!仕様書を読む声が耳障りだと言うのか?この無礼者め!」 大尉殿は激怒して立ち上がり腰のサーベルを抜くかに見えたが、出て来たのはただの竹刀だった。 「やめーーい!まだ始まったばかりではないか。続けるのだ!」と提督が一喝して収まった。 大尉殿は怒りを露に、ますます大きな声で仕様書を読み進めた。途中、図示が必要な時には ホワイトボードに移動して、そこに図を書いて、それを竹刀で激しく打ちながら声に力をこめて 説明した。ホワイトボードは俺のすぐ脇にあったのだが、あまりの声の大きさに耳が痛くなった。 途中で別の大声が聞こえてきた。 「押忍!質問をさせて頂いてよろしいでしょうか?」「申せ!」 1時間ほど経ったあたりで、俺も自分の担当ブロックについてこれまで聞かされていた内容とあまり にも変更されているので質問をしなければならなかった。 「すみません、質問があります。」 「もっと大きな声で発言するのだ!」「お、押忍!質問があります!」「何だ?」 一応、正面からの質問に対しては的確に、そして力強い説明が返ってきた。俺達が納得するまで しっかりと説明してくれた。しかし、あの大声でこれだけ話し続けても声が一向に枯れる気配を 見せないのには敬服した。 一般的な技術者の質問は、「押忍!」と気合を入れて立ち上がって、両手の拳を胸前で一度交差 させてから力強く左右に払う姿勢が礼儀となっているようだった。顔色の悪そうないかにも日に 当たっていなそうなSE連中もこの時ばかりは、見かけによらず大声で立ち上がって、その姿勢を 取ってから気合を入れて質問するのだ。たとえ質問が的確であっても、気合が足りないと竹刀で 机を叩かれて、発言し直すように命じられるのだ。 レビューの進行を提督は満足そうに眺めている。
- 107 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:32:06 ]
- 623 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/18 23:21:58
48時間耐久レビューが敢行されて12時間あまりが立った。 議長を務めるインパール提督の元に、庶務担当のオネーチャンが電話を取り次いだ。 「あの、TNTイツモの○×様からお電話です」 「お世話になります。XXXXのインパールです。その節はどーも!」 「あ、建て直し中の開発スケジュールの件ですか?はい、大丈夫ですとも。 開発チームを精鋭に一新してサイキョの体制で臨んでおりますので、サイキョの 製品を当初の納期で完成させる手はずを整えてあります。はい。全てが順調です。 何も問題はありません。ノープロブレムです。はい。」 電話が終わった。 「おほん、諸君。聞いての通りだ。この3ヶ月の停滞を気力で取り返すのだ。その決意を 示す為に、今回のレビューを前倒しにして企画したのだ」 「お言葉ですが、提督殿。3ヶ月の停滞は過去形ではなく現在も尚その状況を脱しておりません。 その具体的な対策とスケジュールの見直しも今回のレビューではっきりと、…」 大声の大尉殿が慌ててインパール提督に詰め寄った。 「貴様、何を弱気な事を言っているのだ。やるしかないのだ。我々には前進突撃あるのみだ。 己の玉砕を恐れるな!貴様はそれでも男か!」 「無理です。ここにいる全員は既に大半の者が消耗しております。是非、体制の立て直しを!」 「うるさい。黙れ。今いる部隊で目標へ向かって突撃するのだ。」 「提督!お考え直しください。提督の口から申し上げにくければ、私がTNTイツモの担当者に 交渉を致します。ですから」 インパール提督は指を鳴らした。配下の体育会兵士達が大尉殿を捕まえて退場させた。 「提督!何卒私めの声にお耳を傾けてください」大尉殿はそのまま引きずられて隣の研修室に 消えていった。仕様書の朗読は、再び生気の無いSE(彼も数日寝ていない模様)が引き継いだ。 青ざめた生気の無い顔をした主任SEは、裏声で早口で、そして棒読みの口調で仕様書を読み 始めた。時折、強迫観念に引きつった顔の一部、唇の脇辺りがピクピクと痙攣する。 上位の上位会社の者は、体育会兵士を除いて誰もがそのような顔と口調なのだ。
- 108 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:32:38 ]
- 625 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/10/18 23:38:24
生気の無い裏声の棒読み口調に、提督は憤慨している様子だった。 時折、「押忍!質問があります!」とどこかの開発者が叫んで立ちあがると、 その主任SEはビクリとして、今にも気絶してしまいそうだった。体育会系は ハード開発部隊に多いようだった。 大会議室は空調が壊れているのか、その大人数を収容しているのに非常に 暑苦しかった。何人もがファイルを団扇にして扇いでいた。暑苦しいというより、 酸欠で息苦しいと言った方が正しかった。俺達も少し眩暈がしてきた。精神力では 体育会系兵士に劣っていないつもりだったが、体力では圧倒的な差があった。 上位会社の寝不足SE連中は既に何人かが床にへたれ込み、それでも熱心に仕様書に メモ書きを続けているので体育会兵士は彼らの姿勢を許した。仕様書を朗読している 主任SEも今にも倒れそうな顔をしている。脂汗をハンカチで拭きながら、必死に朗読を 続けていた。誰かが発言した。 「押忍!すみませんが、窓を空けてもよろしいでしょうか?」 「駄目だ。」とインパール提督。 「この部屋の中には、最重要機密が充満している。外には常に敵兵がいるものと思え。 我々はトップシークレットの機密を扱っているという事を忘れるんじゃない。」 「それならば、せめて廊下のドアだけでも」 「ならん。他部門にノウハウが盗まれる。それも駄目だ。」 「せめて冷房ぐらいは…」「予算削減で停止中だ。ガマンしろ」 尚も彼が請願しようとすると、 「黙れ。貴様はそれでも、やる気あるのかーーーー!!!!」と提督は一喝した。
- 109 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:35:45 ]
- 658 名前:YRP常駐from群馬 ◆a8bV4TV9Jg 投稿日:04/10/21 01:03:23
澱みきった室内の空気は熱気と共に腐臭にまみれた。というのも、体調不良を 理由に退室を申し出た出席者達はそれを少尉によって却下されたからだ。彼らの 何人かは既に限界を超えていて、体育会兵士の封鎖した扉の前でうずくまり、 嘔吐した。一人の嘔吐は次々と連鎖した。 「皆の者!聞けーーーい!これはレビューだ。今更ながらの仕様書レビューだ。 これを乗り切らなければ先は見えない。諸君は相次ぐ新機種の開発で消耗し切って いるのは重々承知だ。しかし、このレビューで諸君の意識を一つに合わせ、今後 展開する苦しい開発を乗り切るには、ここを気合と根性で乗り切る必要があるのだ。 これだけは忘れてはならない。今回の機種をスムーズに市場へ出すことができれば、 他社を大きく引き離す事ができる、と私が約束する。勝利は目前だ。」 体育会兵士達がすかさずハヤシを入れた。 「インパール提督、バンザーーーーイ!」 「インパール提督、バンザーーーーイ!」 一人、また一人とその唱和に加わった。嘔吐して精魂尽き果てたSEも口を拭って 立ち上がり、「まだです。まだまだやれます。いや、やらせてください」と目を 輝かせて提督に振り返った。それから出席者の方へ振り返り、先ほどのゾンビ状態 が嘘であったかのように熱弁を振るった。 「俺達はまだ死んじゃいない。やれるぞ、やるんだ。敵軍(他社)を蹴散らせ!」 「お、お前達…」提督の目も潤んで見えた。 「レビューに休憩は要りません。構わず続けてください。」 「レビューが完了次第、我々も直ちにプログラミング部隊を前進させます。」 室内の熱気と悪臭は衰える事が無かったが、出席者の士気は一気に上がった。その後 の白熱した仕様書朗読と質問と数々の建設的な議論によって、気温と湿度も更に上が ったが、誰一人として意志は衰えなかった。こんなに熱く有意義なレビューは初めて だった。 提督の神通力、恐るべしだった。
- 110 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:36:04 ]
- 659 名前:YRP常駐from群馬 ◆a8bV4TV9Jg 投稿日:04/10/21 01:17:11
俺達の前任部隊は長期化するデスマーチによって全滅したらしい。 その最後に力尽きた記述が、前に述べた「書きかけのwhile文」だった。 俺達は10万行を越えるソースの機能を解析して、前任者が作りたかった であろう設計ドキュメントを見事なチームワークで作成し、それを元に して各種関数を本来あるべき姿に作り直した。 十分に設計を練ってコーディングされたプログラムは、上等兵Aが腕に よりをかけてコーディングしたものであり、付き合い慣れた俺でも惚れ ボレしてしまうソースであった。俺達のチームならどんなデスマも乗り 切れると実感していた。 しかし、そこへ旧スパゲッティ・ソースを全てコメント行として復元さ せる作業の結果、元のものと同等かそれ以上に酷いソースに腐ってしまった。 上等兵Aも腐ってしまった。彼は数日間立ち直れず、勤務時間中の大半を 2ちゃんねるで過ごした。持ち込みノートPCでPHS繋いでアクセスしている とは言え、ここは携帯開発拠点だ。そんなワイヤレスアクセス等は直ちに 上位会社のサーバに盗聴されて記録されるに違いない。俺達はかなり心配 したものだった。 「ランス!頼むから今ここで2ちゃんねるは止せ!ホテルに戻ってから存分 にやればいいじゃないか。」 「いいんですよ、俺なんか。ほっといて下さい。」 腐る上等兵Aを毎朝ホテルの部屋から引きずり出して出勤させ、1日彼の2ちゃん アクセスを隠蔽するのは容易ではなかった。上位会社の担当者が来た時には、 上等兵以下と接触する事の無いように、俺が常に全ての対応をした。幸い、上位の 担当者がプログラミング現場の画面を意地でも見たくないという人間だったので、 上等兵Aの奇行は見つからずに済んだ。これには上等兵Bと3人の2等兵達の尽力 もあった。2等兵達はこれまでの上等兵Aの実力を知っていて、また指導を受けて きた恩もあるので、たとえ腐っても決して彼を見捨てなかった。
- 111 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:36:21 ]
- 660 名前:YRP常駐from群馬 ◆a8bV4TV9Jg 投稿日:04/10/21 01:31:17
二等兵達は、真剣に上等兵Aの復活を望んでいて、常に励ましていた。 上等兵Aはふてくされて、その二等兵の似顔絵をAAにして2ちゃんに 書き込んでいた。俺もさすがに上等兵の強制送還を考え始めていた。 ある日、二等兵達がコメント行を必死になって編集し、旧ソースが 入っていてもそれなりに美しく見えるように修正したのだ。 単調な作業であった。将来ある若者達をそんなつまらない事で消耗 させてはならない。俺は毎晩ホテルの部屋で自分のノートPC上で全力を 尽くしてそのコメント行の修正を進めた。 苦労の甲斐あって、旧ソースをコメント行に復元されたソースも、それ なりに…並みの派遣コーダーが作るソースよりは美しいものに仕上がった。 上等兵Aは蘇った。やはり、彼の戦力が無ければ俺達の小隊は立ち行かない。 「軍曹殿!あの残りのコメントは全て軍曹殿が…」驚く二等兵を制止し、 「気にするな。それより、XXXXの機能の実装に取りかかれ。お前達ならできる。 俺の設計書にしたがって落ち着いてコーディングするんだ。出来上がったら 一旦ローカル・レビューを行う。何か分からない事があれば、上等兵A,Bか 俺に聞け。」と指示した。 こうして、残りの機能も順調に実装されていった。思えば、俺達の小隊が 一番輝いていた時期だったのかもしれない。この頃はホテルで毎晩のように 酒盛りをやって、提督の真似事などをして腹の底から皆で笑いあったものだった。 しかし、安らぎはそう長くは続かなかった。
- 112 名前:1 mailto:sage [2005/03/26(土) 18:37:12 ]
- 661 名前:YRP常駐from群馬 ◆a8bV4TV9Jg 投稿日:04/10/21 01:48:16
「何ですと?コメント行にダブルスラッシュを使ってはならないんですか?」 「困るんだよ。コンパイラが通らないんだ。悪いけど、/* */の記述に直して くれないか?手抜きしないで各行に/* */組を入れるんだぞ。それと1行の長さは 72文字を超えぬように気を付けるのだ。」 たかがコメントだが、"//"を"/*"+"*/"に変更すると、どうしても最後に72文字を はみ出る行が出てくる。その場合には、次の行の中で同じように"/*"+"*/"で囲む という決まりになっているとの事だった。その会社の外注は誰でも知っている事 だったので、上位会社の担当は俺達に言い忘れていたそうだ。 たかがコメント表記の形を変えるだけでも、その作業は想像を絶するものだった。 同時に、リリースされて間も無い仕様書に改版が相次ぎ、プリントアウトでの配布も 大きく遅れたため、俺は小隊を代表して最新の仕様というものを求めて上位会社の 中を駆け巡らなければならなかった。本当は上位会社の担当者がやるべき事なのだが、 先の48時間耐久レビューと同様、面倒くさい話は全て俺に押し付けてきた。それも、 都合の悪そうな事は文書でなく証拠の残らない口頭指示を、しかもかなり曖昧な表現で 伝えてくるのだ。聞き直すと帰ってくる言葉は決まって「じゃ、自分で調べて回りなよ」 であった。
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