- 1 名前:竹郷 ◆dx03TDrXVVl0 mailto:ageteoff [2016/12/11(日) 03:32:15.31 ID:E2R5CUPz.net]
- イタリア系日本人の自由帳。
- 323 名前:竹郷 mailto:sage [2017/08/25(金) 22:49:36.12 ID:AfEIBosv.net]
- とめどなく囁く
大理石を使った彫刻の写真だった。 暖かみのある薄黄色の大理石で作られていて、 表面はよく磨かれて光っている。 一枚の食パンを円(まる)く折り曲げたような柔らかな 円筒形をしているが、閉じてはいない。 彫刻の横に、黒い服を着た作者らしき髭面の男が、 腕組みをして立っていた。 それで、図らずも作品の大きさがわかる。 男の背丈ほどもある、大きな彫刻だった。 「この方が作ったんですか?」 早樹が訊ねると、長谷川が説明した。 「そうです。中神(なかがみ)さんという日とでしてね。 国際的な賞もたくさん取っています」 アイパッドを見せたが、克典(かつのり)は 作家の名前を知らないらしく、首を傾(かし)げている。 「思っていたよりも大きいですね。 こんな大きな石はどこで手に入るんでしょう」 早樹はそう言いながら、他の作品の写真も 手に取って眺めた。 もう一つは、白い大理石で作られた、 麦の穂先のように先端が尖(とが)った 塔の形をした作品だった。 こちらも大きそうだ。 「こっちの円筒形の方を、庭の真ん中に どんと置いたら迫力ありますよ」 長谷川が、テラスの先に広がる庭を 指差した。
- 324 名前:竹郷 mailto:sage [2017/08/25(金) 22:59:00.52 ID:AfEIBosv.net]
- 「そうかなあ」と、克典。
いまひとつ乗り気ではないようだ。 「何かイメージが混乱しないかな」 「いいえ、逆ですよ。 今はどっちつかずというか、 海の見えるただっ広い庭という 感じじゃないですか。 でも、アートを置くと、ちょっと不思議 な感じになると思うんですよね。 こっちの炎の方を、テラス前に設置 するといいと思うんです」 麦の穂先に見えた物は、 「炎」らしい。 早樹は、写真を手にして、 もう一度見直した。 「円筒形の方の作品のタイトルは、 『海聲聴(かいせいちょう)』 だそうです。 だから、海に向かって建てると いいと思います」 「どういう意味だろう」 怪訝な顔をする克典に、 長谷川がアイパッドを見せて 説明を始めた。 画面には、中神のホームページが 開かれている。 「海の底から響く声を聴け、 という意味だそうです。 この形は、海からのメッセージを 受け止めるための形だと書いて あります。 何か、俺はそこに感動しちゃった んですよね」 長谷川は力説をした。
|
|