- 607 名前:エージェント・774 [2005/08/18(木) 17:16:14 ID:/4YOEDP3]
- 「……なぁ、凛。」
「……何だ。」 「もしかして俺等……尾行されてんのと違うか?」 「されてるよ。両隣の部屋は公安外事が押さえて張り込んでるだろうな。」 「張り込みて……気付いとったんか、お前。」 「当然、ウチがこんなに表立って動いてんのに無い方がおかしい。で、だ。ジャンケンしよう。」 「「…………は?」」 「ベッドはダブル、人数は三人、誰か一人ソファで寝ないと。だからジャンケン。」 けろりとして尾行を認め、そんな事よりもベッドの配分を決める方が大事だとでも言わんばかりの私の様子に二人は顔を見合わせる。私はそんな二人を見てにやりと笑い、さらりと言って退けた。 「慣れだよ慣れ、これがウチのスタンダードだ。」 8月9日。 夕方、空はオレンジから藍色へと色を変えつつある時間、私は平和祈念公園の中央広場を見下ろす階段で膝を抱いて蹲っていた。 昼間、慰霊式典を遠巻きに眺めていた。極左の人間をからかいもした。 そして今、人並みも少なくなり始めた広場をただただ黙したまま見つめている。 「…………。」 不意に視界がぼやけた。疼く喉、むず痒い様な鼻腔、たまらずに下を向くと、ぱたりぱたり、足元のコンクリートに薄黒い染みが幾つも形作られる。 「……〜っ……」 そのまま膝の谷間に顔を埋め、込み上げる嗚咽をただ只管に堪えた。 戦争は嫌いです。 人を殺したくなんかないんです。 理解し合いたい、そう願っているんです。 けれど、知っているんです。 殺す事でしか鎮まらない怒り。 血で血を洗う事でしか癒されない悲しみ。 『誇り』は『傲慢』に、 『愛』は『残虐』に、 いとも簡単に姿を変える。 否、前者が在る以上、後者はその影、対として常に存在する。 相反するものなのに片方無くして存在し得ない。 このフィールドに立ち続ける以上私の逝く先は地獄、それは変わらないし当然の事。 けれど、平和を願う事は許されるでしょうか。 「…………。」 ふと気付くとマサがいつもの様に黙ったまま私の隣に腰を下ろしていた。 ちらりと見遣るとこちらを見るでもなく、ただ真っ直ぐに祈念像を見つめている。 ウチの連中は喋り過ぎるのが多い。こういう時にはこんな風に無口な人間がいてくれる方が有り難い。 そう思うと、くすり、小さく笑いが零れた。 「…………。」 「…………。」 もう少しだけその優しさに甘えようか、そんな風に考えて鼻を啜り、また膝に顔を埋めてみた。
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