- 333 名前:名無しさん@十一周年 mailto:sage [2010/08/16(月) 22:47:42 ID:tVlKkM+v0]
- 「支那事変未解決の根本原因は、日本人が真の日本人に徹せざるにあり」
沢井中尉が読み終わると、間髪を入れず、若杉参謀の声が語気鋭く講堂にひびいた。 「その通り。事変未解決の根本原因は日本人が真の日本としての行動をしていないからだ。 略奪暴行を行いながら何の皇軍か。現地の一般民衆を苦しめながら聖戦とは何事か。 大陸における日本軍官民のこのような在り方で、いったい陛下の大御心にそっているとでも思っているのか」 若杉参謀の前にならぶわれわれ尉官はもとより、左右に居ならぶ総司令官以下、将官佐官、ひとしく頭を垂れ、 満堂粛として声がなかった。 若杉参謀はさらに語をついで 「わが日本軍に最も必要なことは、武器でもない、弾薬でもない。訓練でもない。これだ」 若杉参謀はくるりと後ろを向き、黒板に大書された。 ”反省、自粛” 「自らをかえりみ、自らをつつしみ、自らの一挙一動、果たして大御心にもとることなきかを自らに問うことである」 言々火のごとき若杉参謀の一語一語であった。軍の驕慢、居留民の堕落を衝いて余すところなく、今、 この時、真の日本人、全き皇軍に立ちかえることが出来ねば支那事変は永久に解決しないであろう、と斬ぜられた。 満堂、声がなかった。 私は参謀の御言葉の中に日中事変そのものの不道義性へのお怒りを感じた。 全員起立のうち、若杉参謀が退席された。 退席されるや否や、総軍高級副官が冷汗をぬぐいながら、われわれ尉官に対し、「只今のお言葉は、何ともその、 恐れ多い次第であるが、その何というか、あまり、いやまあ、なるべくだな、外部には、口外せんようにな」 汗をふきふき、しどろもどろの高級副官であった。 若杉大尉参謀は、支那派遣軍総司令部における三笠宮崇仁親王殿下の御名であった。 小川哲雄氏「日中戦争秘話」より
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