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CHEMISTRY No.273



704 名前:チて浪人の身となった侍、力丸門吉は、行き倒れたところを偶然通りかかった三の村の住人の手によって救われる。
村は貧しく、空気は重苦しかった。だが、その原因が貧困だけではないことを察した門吉は、村長に問うた。
始めは口ごもっていた村長であったが、門吉の誰よりも真っ直ぐな眼に勇気を貰ったのであろうか、やがてゆっくりと語り出した。

「ここより数里先、貫家の嫡男であらせられる晋様がビルに居を構えております。
そして晋様は、時折この村を訪れては・・・・・・」涙ぐみながら、村長は続ける。
「村中の食料にお手を付けては、自分は酒が飲めないからと言ってお帰りになってしまう。
それだけなら耐えられるのです。貴重な米も再び耕せばいいのです。しかし晋様は、村の中に気に入った男がいれば・・・・・・」

「晋様が次にお通りになるのはいつだ?」

 門吉の言葉を聞いた村長は、崩れ落ちるようにして門吉の足にすがった。

「お願いします! 晋様がいては、真にみんなの平和で楽しい人生が!」

 村長のその言葉は、それだけで死罪に値するものであった。それを聞き逃そうものなら門吉も同罪に当たろう。
しかし、元より腹を切る程の名誉すらも残っていない門吉は、この命を三の村に捧げようと決心した。
それは自身が浪人になった為では無く、自身より遙かに強き晋が、自身より遙かに弱き村人を虐げているのが、ただただ不愉快だったからだ。

「今宵、村を経つ。これより先、私とこの村とは何の関係も無い。よいな」

 門吉はそう告げると、村長の屋敷を後にした。
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