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THE IDOLM@STER アイドルマスター part4



1 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2009/11/02(月) 09:15:48 ID:kEHWwkiu]
アイドル育成シミュレーションゲーム「アイドルマスター」のスレです。
基本的になんでもありな感じで。

前スレ
THE IDOLM@STER アイドルマスター part3
namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1246267539/

過去スレ
THE IDOLM@STER アイドルマスター part2
namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1241275941/

THE IDOLM@STER アイドルマスター
namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1221366384/


253 名前: ◆bwwrQCbtp. mailto:sage [2010/02/15(月) 17:24:07 ID:qiPoduQF]
早い、早いよ!
スレ開いて、てっきり続いて誰かが短編投稿したのかと思ったよ!
しかも長いよ!
ありがとうございますありがとうございます。

個別にレスしたいところですが、そうするとかぶるので、ちょっと全体的に。
最終話の主人公の心情は、あえて省きました。
決意に至るまでに、葛藤もあったかもしれないし、最初から決めてたのかもしれない。
また、そう決めた理由も、なんとなくなのか、譲れないものがあったのか、
Pを支援する気だったのか、略奪する気だったのか、
春香がある程度の年齢になるまでの時間稼ぎを引き受ける気だったのか、
はたまた、チーム春香の一員としての自負がそうさせたのか、
あわよくば、くらいの下心はあったのか、またそれはどの程度だったのか、
何にせよ、春香とPの裏事情を知っていたのは彼だけなので、
とにかく第三者が新たなPとなることだけは許せなかったのか…
全てひっくるめて、読む方におまかせしました。
やはりここの解釈は、人によって幅があるようで、むしろ良かったと思います。

で、ここの解釈次第で、最後の春香の行動も、当然とも取れるし、
または、Pとの繋がりを保つフラグを根元からポッキリへし折ったとも取れる。
しかし、そこで>>248の「もう恋なんてしない」は想定外でした。
そう考えると、旧チーム春香との縁を意図的に切ろうとしてるとも取れますね。
新鮮でした。

あと、この主人公、結構仕事は真面目にこなす人間なので、
今後は自分のPという社内の立場に向き合って、意外と普通にPになりそう。
そして、自分では人にヤバい意味とか説教しておきながら、美希のPになって、
中学生相手にノンストップでフルスロットル、ジェットがあるフライト、
無人島バカンス簡単にできちゃうの、とかなったら面白いなあ、とか…
…って、まるで他人事ですがw

ともあれ、とにかく感想ありがとうございます。
まだの方もぜひお願いしますw

254 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/15(月) 17:59:21 ID:UALwE98c]
>>245
本文12レスを要しながらすごく短時間の間にこれだけ言いたいこという人が
あらわれる、というのが今回の一番の特徴か

おそらく文章そのものがとても消化がよかったのであろうが、よく言えば
わかりやすい文と言えるが悪く言えば薄かったとも評することができそう。
消化が良かったことをよしとする評価についても内容的な軽さと文章的な軽さを
混同してしまいそうな点が少し気になる。

少々贅沢かもしれないがシリアスに傾きすぎずコメディとしての軽妙さは保ちつつ
もう少し出来事の羅列にならない噛みごたえのある文章を期待したい

255 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/15(月) 21:36:35 ID:fmujO6yE]
>>254
確かにこの自然発生的な感想斉射モードは何事かとw

ひとつ気になるのは「他人の感想」にケチつけてるようにとれる書き方は慎んだほうがいいかなーって。
「お前の見方は間違っている、俺の見方が正しいんだ」っていう姿勢だと誤解されたら
どっちかが土下座するまで決着つかなくなる一番ヘタクソな喧嘩になりかねないもの……

256 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/15(月) 22:25:13 ID:g3wa0bik]
>>248
さっきのでは、一番大事なことを言い忘れてました
・・・つまり、おさわりですね、お・さ・わ・り!w

>>253
じゃあ元スタッフくん現美希P(覚醒済)と元春香Pによるある夜の居酒屋とか
ちょっと見てみたい気配かも

>>255
みんな飢えてたのかなあ?
あと個人的に春香とプロデューサーの関係についてはそれぞれ一通りの考察は済んでて
土台があるとこから考えられた、というのも早さの一因だったり・・・ってのは考えすぎ?w

257 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/15(月) 22:44:19 ID:XAvR/Sw1]
読んで即レスしたけど、やっぱりまだ微妙な気分が残ったので冷静に考えてみた
春香の「絶対イヤです♪」の台詞から感じた、どうにも後味の悪いショックは
「は?それってヤバい意味じゃないよな?」を初めて聞いた時の感覚に似ている気がした

深く意味を考えれば本人の意思も含んでいるけれど、考えなければ無神経な台詞とも取れるだけに、
主人公の心情を省いて受け手次第にした→春香の心情も受け手次第になった という流れ(>>253)は、
少し勿体なかったように思う

春香本人の心情が少しでもいいから見られる部分があれば、台詞の印象も少しは違ったのになと
「は?それって(ry」の台詞に対する同じようなもどかしさが残った

258 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/16(火) 08:41:36 ID:aEitbPDH]
>「絶対イヤです♪」
俺はショックと正反対の印象もったな
お互いの感情以前にアイドルと担当Pの立場が
恋愛成就を不可能にすると身をもって知ったからこそ新たなPを断った、と読んだから。
アイドルでありたい。好きな人と結ばれたい。ふたつを叶えるためには
男性Pという同じ轍は踏んでなるものか!みたいな。
そう考えたら文末の「♪」を
「面接で宣言するほど想ってくれてるならまっすぐアタックしてくださいね、
その道(プロデューサー)は行き止まりですから♪」という、
もしかしてPルートの代わりに恋人ルート始まったんじゃね?的な
ポジティブ解釈してしまってえらくハートフルな読後感だったw

259 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/16(火) 21:28:52 ID:7X42fuxv]
>>245
今度の春香はゲームの中の存在ということに自覚的なのか

260 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/17(水) 20:27:51 ID:dKbRl0k3]
みんなに「歌がうまい」と誉め殺されるDS春香さんと
不思議な踊りでMPをガリガリ削るのに定評のあるほめ春香さんもお忘れなく

261 名前: ◆bwwrQCbtp. mailto:sage [2010/02/19(金) 00:16:41 ID:fk3bllIY]
一段落したと思われますので、あらためてお礼にあがりました。
たくさんの感想、ありがとうございます。
頭を冷やして考えてみれば、感想がたくさん、しかも早く寄せられると言うことは、
不満や要望も多いと言うことも意味していると言えるでしょう。
その点は真摯に受け止めたいと思います。って紳士に受け止めるとかどういう変換(ry

いつも、だいたいそうなのですが、今回特に淡々と軽い文を心がけました。
最大の理由は、オリジナルキャラを配した導入を受け入れられ易くするために、
軽くコミカルにするのが最もやりやすく確実と思えたからで、
そう入った以上は、全体を同様のタッチにしました。
ラストは最初から決まってたこともありますし。
一応、イメージとしては「アイドラの脚本」という感じがありました。
主人公一人称語り現在進行形の形式も、そこに根ざしています。

しかし、俺の文章からメタとギャグを抜いてしまったら、
春香からリボンを外すようなものじゃないかとw
それに、たとえどれだけ主人公の心情を描写したとしても、ラストが決まっている以上、
間違っても春香の心情を描写することは、少なくともこの作中においてはあり得ません。

ただ、そういう心理描写を細かくするのも、挑戦してみたいところではあります。
まずは、甘々春香を目指したいと思いますw


ところで、前々スレで、オリジナルキャラに関する議論がありましたが、
その中で「オリキャラメインの話を絶不調執筆中」と言ったのは俺ですw
(もう一人オリキャラメイン執筆中と発言したのは、
 次のスレで快作「ボクノメガミ」を発表したレシPかと思いますが。)
今、あらためて見てみると去年の6月、って8ヶ月前・・・
当然、書いていたのはこの話ですから、絶不調にもほどがありますって。ねえ・・・



262 名前:島原薫 ◆DqcSfilCKg mailto:sage [2010/02/19(金) 03:07:26 ID:ulZl7gQu]
前作へのご感想、まことにありがとうございました。島原薫です。
今回も投下いたします。
タイトルは『花は降り降り』。メインは真で4レス使用。若干、オリキャラが登場します。
投下後終了宣言+前作レスへのお返しです。

263 名前:花は降り降り(1/4) ◆DqcSfilCKg mailto:sage [2010/02/19(金) 03:08:12 ID:ulZl7gQu]

鼻をすする音に過剰に反応してしまうのを、真は自覚していた。
黒と白のコントラストはけして気持ちが華やぐものではないし、静々と会場を後にする人々に頭を下げるのもとうに飽きてしまっていた。
両親の目を盗むように後ろを振り返ると、ぼんやりと空を眺めている祖母が一人、椅子に座っている。
親に何度も促されたけれど、結局、彼女にかける言葉はまだ見つかっていない。

大往生でした。

親族、弔問客に向かって挨拶をする父の目は潤んでいたと真は記憶している。彼の涙を見たのはこれで二度目だった。
真が引退を決め、両親にその旨を伝えた日、最後の最後までアイドル活動に釈然としない態度を取っていた父は「よく頑張った」と涙ながらに褒めてくれたのだ。
つられて家族全員で大泣きしたのは恥ずかしくもあり、真にとって忘れられない思い出となっている。
弔問客も一段落し、葬儀屋と話し合っている両親から一人離れ、真は会場の外へ出た。
秋口にめっきり冷え込んだのが悪かったらしい。
父よりも遅く帰宅した真は、おしゃべり好きの母が聞き慣れない言葉を口にしながら電話口で体を小さくしていたのを強く覚えている。
父は寝室に引っ込んでいるのか姿が見えず、何度も頭を下げて受話器を下ろした母の顔は今まで、見たことのないものだった。

通夜の時には気づかなかったけれど、鮮やかな紅葉を垂らした木々が会場を周りを囲んでいた。
昨日の早朝から日野の山中まで車を飛ばしたのだけれど、出来ればピクニックとかでここに来たかったと真は思う。
火葬場もセットになっている会場施設の他に建物と呼べるようなものは何もなくて、立ち並ぶ煙突から煙が上がるたびに真は体を震わせる。
あの煙が何を燃やしているのかなんて、くだらない想像を首を振って隅に追いやった。
会場入り口から顔を覗かせた母が手招きしているのを見て、真は久しぶりに履いたスカートに違和感を覚えながら会場へと戻った。

受付左手に伸びる廊下を進むとすぐ、告別式の会場が見える。
外の紅葉にも負けないくらい色鮮やかな花の祭壇は、真の知り合いのデザイナーがデザインしてくれたもの。
白木の祭壇が見えないくらいに花に囲まれたそれは弔問客からの受けもよく、
「綺麗で良かったねえ」と涙ながらに祖父に話しかけるご友人が印象的だった。


264 名前:花は降り降り(2/4) ◆DqcSfilCKg mailto:sage [2010/02/19(金) 03:09:15 ID:ulZl7gQu]

間もなく、最期のお別れが始まるという。
昨日も死装束を着た祖父に末期の水を取ったりと、"お別れ"なら何度も済ませた。
葬儀スタッフが抱えたお盆いっぱいに摘まれた花を手に取り、親戚に促されて祖父のお棺の前へと歩み出る。
口内に綿でも含ませているのだろう、思ったよりもふっくらとした表情の祖父の上に花を降らせる。
菊に百合、蘭、カトレア、かすみ草。花に埋まっていく彼を、真は涙も流さずに見つめていた。
故人の手前、「しっかりしたお子さんね」と、前向きに受け取ってくれるのはありがたいけれど、正直、真はこの老人のことをあまり知らないのだ。
父の職業以外はごくごく一般的な家庭に生まれたはずだと自覚する真はただ一点、父方の祖父母とあまり面識がないのを事あるごとに不思議がっていた。
父に聞いても、上手くはぐらかされるばかり。母方の祖父母とは毎年、嫌というほど顔を合わせていた分、気になっていた。
最近になって真は知ったのだけれど、父親と祖父は仲が良くなかったらしい。
プロのドライバーなんて危険と隣合わせの仕事はおいそれと許してくれる筈もなく、強情な父のこと、勘当同然に母と一緒になったという。
当時の苦労をさも世間話のように聞かせる母を見ては、真は口に出さないながらも彼ら二人の強さと愛情を感じた。
では、親子の愛情はどうだったのか。祖父は父のことをどう思っていたのか。
喧嘩別れしたと言っても、もう十分すぎるくらい年月が経っているのも事実。
まだ年端も行かない小さな男の子が年若い父親に抱えられながら、祖父の顔の横に蘭の花を置いたのが最後で、
その間も父は神妙な顔で祖父の顔を見つめていた。


告別式を終え、焼き場へと移動するために叔父の車へ乗り込む。
父親はしきりに自分が運転すると言っていたが、すぐ歩いても行ける距離で事故に巻き込まれたくないと、
母が苦笑交じりに諌めることで場は収まった。
結局、父はスタッフが運転する車に祖母と一緒に車に乗り、真は母と一緒に叔父の車に乗った。

「お婆様とはもう話した?」
「ううん」

位牌を手にしたまま、真は頭を振る。
ただでさえ面識もあまりないのに、この場で明るく振る舞うこと自体、真には非常識に思えた。
気丈に振舞っている、という見方も出来るけれど、今、父や母のように悲しんでいるかというとそうでもなくて。
嘘をついているようで嫌だった。

「元人気アイドルにも難しいのね」
「それとこれとは話が違うよ」
「そうね」


265 名前:花は降り降り(3/4) ◆DqcSfilCKg mailto:sage [2010/02/19(金) 03:10:35 ID:ulZl7gQu]

以前、母が話してくれた中で、父と一緒になる時に両親から頭を下げられたという話を真を思い出した。
馬鹿げた夢を見ている息子を許してほしい、と。
結婚にやんわりと反対していた母の両親まで巻き込んだという騒動の顛末は母の一声だったと言う。

愛しているから。

その一言に父の両親は頭を上げ、反対していた母の両親も遂には折れた。
真の家系は女が強いと言われていたがなるほど、この母こそがその強さの証なのだと真は合点する。

『でも、真はお父さん似よね。押しに弱いし』
『うるさいなあ』

そんなやり取りまで思い出して、幾分か軽くなった気持ちを外に吐き出す。
もう車は火葬場に着き、前を走っていた車から祖母と父が出てくる。
先に出ていた霊柩車からお棺が運び出され、やけに無骨に造られた銀色のドアの先へと祖父だけが行ってしまう。
もうこれで、戻ってくるのは祖父だったもの。
扉が閉まるまで、祖母はしっかりと前を見据えて祖父を送り出していた。
火葬は大体、一時間強で終わる、と父から説明された。
その間、手持ち無沙汰とはまさにこのことで、真っ黒い集団はうろうろと待合用のロビーで時間を過ごす。

「知ってるか、真。戻ってくる時な、骨は大体、バラバラになってんだけど。あれって焼いてる最中、釜の中でかき混ぜるんだとさ」

なんでいきなりこんなことを言い出したのか分からないが、苦い顔の真に父は楽しそうだった。
先ほどまでベソをかいていたくせに、とは言わなかったけれど、いつもの父に戻っていて真は内心、安心した。
告別式から立ちっぱなしが多かったのでいい加減、座りたかったので壁に沿って置かれているソファへと移動する。
母は親戚と話に夢中で、徐々にではあるけれど日常が戻りつつあることを真は感じていた。
明日、学校に行ったらどうしよっかな。


266 名前:花は降り降り(4/4) ◆DqcSfilCKg mailto:sage [2010/02/19(金) 03:11:26 ID:ulZl7gQu]

葬儀だからとタンスから引っ張り出した黒のワンピースはこの季節には少し肌寒く、脚を擦り合わせる。
寒いか、と上着を脱ごうとする父を止め、また訪れた無言の時間。
壁の一面がガラス張りになっているホールの外は先ほど見た、山々の紅葉で染められている。
やや濁りのあるガラスなのか、少しぼやけることで鮮やかな美しさとはまた違う、交じり合った色味が何かを思い起こさせる。
まるでそう、涙でぼやけた景色のよう。
少しもどかしそうに、父から話し始めた。

「お父さん。お爺ちゃんと仲悪いの知ってるよな」
「うん」
「結局な、お互い強がっちゃって。お爺ちゃんと仲直り出来なかった」
「うん」

言葉が続かないのか、俯き、しきりに首を振る父。こんな父の姿はついぞ、見たことがない。
けれど、真の心中は驚くほど、静かだった。
お父さん、やっぱりお爺ちゃんのこと、好きだったんだ。
それだけで真の中でストンと、何かが終わった音がしてくれた。おそらくは始まるために、もう終わらせなきゃいけないこと。
真はソファから立ち上がると、父の前へと立つ。
こちらを見上げてくる父の顔はしょぼくれてて情けない、おじいちゃんの子供の顔だった。
そっと父親を抱きしめ、「父さん、大好き」と囁く。
しばらくして、胸の中で震える父の嗚咽が聞こえてくる。
いつから眺めていたのか、遠くで母も泣いていた。

「いくつんなっても泣き虫だねえ、しんちゃんは」

先ほどまで部屋の隅にいた祖母が真の前までやって来ていた。
「真ちゃんかい?」と、微笑む顔はとても若々しくてチャーミングだ。
きっと、お爺ちゃんもこの笑顔が好きだったんだろうなと、真は嬉しくなる。
はいっ、とホールには元気な声が響いた。


267 名前:島原薫 ◆DqcSfilCKg mailto:sage [2010/02/19(金) 03:12:29 ID:ulZl7gQu]
投下終了です。お読み頂き、ありがとうございます
以下、前作へのレス返しです。

>>175
春香の突拍子の無さというか、春香の中の計算式やルールを殊更、大げさに出した作品でした。
ですので、自分でもその振り幅がなかなか難しいところだったのですが、好意的に受け取って頂いたようでありがとうございます。
あと、二行の部分は完全に視点固定を忘れてました。

>>177、182、184、185、186
確かにこの手の文章は書いてる本人が一番気持ちよくて、手落ちに近いものが出来てしまうのは私もまだ勉強不足かと思います。
何度もレス、ありがとうございます。

>>179
ストライクゾーン云々は「このキャラならこのラインまでなら大丈夫かな?」という意識で持って書いていることが多いので、
その意味で拡張的に捉えていただけるのはありがたいかぎりです。ただ、今回はあまりにいろんなものをすっ飛ばしてしまったなあ、
というのは正直なところです。ちーちゃんは常にシンジくんですよね

>>180
今回は>>181様が申していたように、インパクト勝負なところもあったので、エピソード等のステップを全部すっ飛ばしてしまいました。
>>179様のように肯定的に捉えて頂けてるようでなによりですが、実際に僕の今までの作品を知らないで読んだ方にはつらいなあ、というのも
僕自身、考えております。次作以降、課題にしていこうと思います。

>>181
キャッチーな百合というとまさにそういうイチャイチャしたもので、そっちにしとけば良かったなあ、とちょっとだけ思っている次第です。
まだまだ勉強不足でございます。

>>187
今までの僕の作品、というレベルまで考えていただけるのはとてもありがたいのですが、
今回はそのあたりのフォローをすっ飛ばした手落ちの方が、すんなりすると思いますです。
貴重なご意見、ありがとうございました。

それでは次回投下の際もよろしくお願いします。

268 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/20(土) 02:40:29 ID:FeucrbP6]
>>267
なんともまたむずかしいところを・・・w
祖父が亡くなることをきっかけにしたいろいろという意味では以前の「愛の人」と同様の状況ですが
あちらが、祖父と伊織の関わりとその真意でもって祖父から伊織への想いについて語った話という印象なのに対し、
今回はもう一段緩衝を置いて「祖父と真一」を真の目から解釈させることによって「真一と真」を書こうとした
・・・というところでしょうか。
ただ気になったのが、「真が既に活動を終え、真一が一定レベルの理解を示した後」の段階での話であること
これが活動中の「夢を追う娘とそれに異を唱える親」の類型が通用する段階であれば、真一自身について
同じ立場を思い起こさせるという経緯で真の意志を考えさせる契機となったのであろう、的な
よく言えばすっきり収まった悪く言えばいかにもステレオタイプな、しかし「アイマスSSらしいアイマスSS」
となったのだろうと思います。
ところが、真一から真への意識云々については、アイドル活動という視点からのそれはもう既に一旦済んだ話と
なってしまっている。
さらに祖父が真自身にとっては心理的に縁遠い人物であると再三強調することで、作中の真の立ち位置を
おそらくは狙って当事者というよりも比較的醒めた目を持った観察者というものにしている。
つまりはこれ、メインは真でと言いつつもある意味では脇に置き、実質のメインは真一。
その上で彼を軸にした家族像的な方向を掘り下げてみたもののように思えます。

アイドルとそれを取り巻く人々というアイドルマスターの舞台装置とフォーマットは使いつつ
味付けて作り出そうという方向性はあまりアイマス的ではない・・・と言ってしまうと批判めいて聞こえますし
その辺りは自分の考え過ぎかもしれませんが、なんというかむずかしい方へむずかしい方へと攻めていくなあ、とw

物語としての読み応えと技法と情緒は堪能しつつ、そしてまた自分的にはありな方向性でもあるのですが
いろいろあり方を考えさせてみようというようにも感じられ、禅問答の如く、うーん・・・と頭を捻らされる
仕上がりになっている印象ですな。
まあ、もちろんそれはそれで面白いんですけども。

269 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/20(土) 15:54:39 ID:vgXmdaEX]
>春香からリボンを外すようなものじゃないかとw

そんなの髪をヘアピンで留めてパジャマを着ればいいじゃないw

270 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/21(日) 10:42:07 ID:T7qHIzV2]
>>267
とてもよく書けてると思うし、何が描きたかったかも伝わってきます。
ただ、何というか、寂寞感が…

父とは完全に分かり合えた真だけど、すでにアイドルは辞めちゃってて、
葬式の方にも事務所からは誰も顔を出した様子もなく、真が今は何をしてるか
という描写も全くないんですよね。まあ学校には行ってるようですが。
だから、彼…じゃなくて、彼女が、父と分かり合えてこの先、どんな人生を
歩むのかが、まるで展望できないことが、読む側に無力感を与える気が。
真が、我々の知らないところで知らない人生を送っていて、
そのまま我々の知らないままで人生を続けていくのだろう、という感じ。
ストーリーと相まって、この寂寞感が半端ないです。
狙ってるとすれば見事なんですが、個人的には、これはちょっとマイナスの
印象でした。もう一度読みたいと思う気が湧いてこない感じです。

271 名前:霞のかかった夢の中で(1/9) mailto:sage [2010/02/22(月) 08:28:29 ID:mLhz9CO6]
前作、「やよいの食事手帳」に沢山の反応をいただき、ありがとうございました。
今回、3ヶ月振りに書きあがったので投下させて頂きます。
タイトルは「霞のかかった夢の中で」このレスとあとがきを含めて9レス程つかわせていただきます。
内容自体は鬱モノでは無いですが、秋月涼シナリオEエンド、
いわゆるりゅんりゅんENDの内容を含むので一応ご注意下さい。



272 名前:霞のかかった夢の中で(2/9) mailto:sage [2010/02/22(月) 08:29:35 ID:mLhz9CO6]
「…なるほど、そんな事があったんだね」
「うん、とっても良い子だったから仲良くなれるといいな♪」
「それじゃあ、そろそろ時間だからここまでだね」
「来週もいっぱいお話しようね先生♪」
「うん、来週まで元気にしててね」
「はーい!」
今日は週に一度の先生とお話の日、私のアイドル活動であった出来事とか、
嬉しかった事や悲しかった事を全部先生に話す日なんだ。
二ヶ月位前に私がオーディションに連敗して倒れちゃった事があって、
アイドル活動でストレスが溜まったのが原因だから誰かに話してスッキリするようにって社長が紹介してくれたんだよ。
私の話を聞いてくれる先生はとっても美人で、私の話を何でも聞いて的確に答えを返してくれる凄い人、
いつか、私も先生みたいにキレイな女の人になれるかなぁ……?
あ、自己紹介がまだだったね、私の名前は秋月涼、今は普通の女の子だけど
いつかトップアイドルになって日本一可愛い女の子になる予定だよ、りゅんりゅん♪


「ねぇ涼、アイドル活動で何か問題は無かった?」
「ううん、とっても楽しいから何にも問題は無いよ、りゅんりゅん♪」
「そう、なら良いんだけど……」
先生と話すところから帰る車の中で私に質問してきたのは、私のいとこでトップアイドルの律子姉ちゃん。
やっぱりトップアイドルともなるとストレスが溜まるらしくて私と同じ位の時期にここに通い始めたんだって。
そして車を運転してるのは律子姉ちゃんのプロデューサーさん、
姉ちゃんに言うと真っ赤になって違うって言うけど、姉ちゃんが好きになった男の人だよ。
ちょっとだらしないところもあるけどカッコイイ男の人だし、姉ちゃんとはお似合いだと思うんだけどなぁ。
「なぁ律子、心配なのは分かるがあまり過保護にするのも良くないぞ?」
「いえ、確かにそうなんですけど、そのせいで涼が……」
「なぁに、私のお話?」
「ううん、大した事じゃ無いの、涼は気にしないで良いのよ」
「律子は涼ちゃんがまたストレスを溜めてないか心配なんだよ、大事な従妹だしね」
律子姉ちゃんは元々世話焼きさんだったけど、私が倒れてからは特に私に世話を焼いてくれるようになったんだ。
昔みたいにいっぱいお話出来るのはいいんだけど、なんだか私に悪い事をしてそれを隠そうとしてる時の態度に似てる気がする。
確かに倒れる直前の事は全然思い出せないし、それより前の事もなんだかぼんやりとしか思い出せないけど
それで生活に困った事は無いし、私はいつでも元気なんだけどなぁ……
「大丈夫だよ姉ちゃん、今回のオーディションでは友達も出来そうなんだよ」
「へぇ、どんな友達が出来たの?」
「桜井夢子ちゃんって言うの、とっても礼儀正しくて可愛い子なんだ♪」
「桜井夢子、どこかで聞いたような気がするわね……ま、友達が出来たのは良い事よね」
姉ちゃんを心配させないように明るい話を振ってみると、さっきまで曇っていた表情を元に戻して
私の話に乗ってくれる。うん、やっぱり姉ちゃんはいつもの表情の方が可愛い♪
そうして今日は姉ちゃんやプロデューサーさんとお話しながら家まで送って貰ったよ。

273 名前:霞のかかった夢の中で(3/9) mailto:sage [2010/02/22(月) 08:30:18 ID:mLhz9CO6]
「すいませんっ!秋月さん!私……何かカン違いしてたみたいで……」
「もう、夢子ちゃんはおっちょこちょいさんなんだから♪」
私はそういって夢子ちゃんの額を軽く突く、夢子ちゃんがメールで送ってくれた会場変更が勘違いだったらしくて、
危うく遅刻で不合格になるところだったんだ。でも、誰にでもミスはあるし、これでチャラだよね?
「お?…いやいや、許してくれるんですか?」
「うん、何とか合格できたしね、次は私も夢子ちゃんみたいなキュンキュンなステージやりたいな♪」
「今時キュンキュンって……」
「夢子ちゃん、どうしたの?」
「……いえ、次もお互いがんばりましょうね」
「えへへへ♪頑張ろうね」
夢子ちゃんの歌、すごい上手だったし次は完全な状態で一緒に歌いたいな♪


「……それで、遅刻しちゃったけどなんとかオーディションには合格できたんですよ♪」
「うん、不合格だったらどうしようかと思ったけど良かったね」
「でも夢子ちゃんもおっちょこちょいですよね、オーディションの場所変更を勘違いするなんて」
「あれ、桜井さんは場所を間違えた訳じゃ無いんだよね?」
「うん、勘違いに気付いたけど連絡するのを忘れちゃったんだそうです」
「それは……ううん、なんでも無い、また来週ね」
「はぁい♪」
今日の先生、最後に何か言いたそうだったけど何だったんだろう?
誰にだってミスぐらいあるし、夢子ちゃんを責めるって訳じゃ無いと思うんだけど……


「ねぇ涼、アイドル活動で何か問題は無かった?」
「ううん、全然問題ないよ、ただ……」
「ただ?」
先日のオーディションの事はなんとなく言わない方が良い気がするし、違うことを相談しようかな?
「私の胸、まだ大きくならないのかなぁ。姉ちゃん、どう思う?」
「それは……」
律子姉ちゃんが言葉に詰まるのは、やっぱり私の胸が小さすぎるからなのかな?
私自身は余り気にした事は無かったけど、アイドルデビューするときに
社長から「真っ平らはまずい」って言われてパッドをつけるように言われちゃうくらいに私って胸が無いの。
「律子姉ちゃんくらいとは言わなくても、パッドが要らなくなる位は欲しいなあ、ファンの人を騙してるみたいで悪いもん。
 それに、バレない様に他の女の子とは別に着替えるように言われちゃってるから、着替えるのも大変だし……」
一人で着替えるのは結構寂しいんだけど、愛ちゃんや絵理ちゃんにも秘密にしてるから一緒に着替えられないんだよね。
「涼ちゃん、成長には個人差がある物だし、そのうち大きくなるさ」
「プロデューサー!そんな無責任な事を言わないで下さい!」
言葉に詰まる律子姉ちゃんに代わってプロデューサーさんが答えてくれたら、姉ちゃんが急に怒鳴りだしちゃった。
昔から怒鳴る事は良くあったけど、最近は昔の怒鳴り方と何かが違う気がする、なんでだろう?
「まあ落ち着け律子。……涼ちゃん、そう言う訳で焦っても仕方ないから、間違っても豊胸エステとかサプリとかに手を出したら駄目だぞ?」
「ああ、そう言うこと……涼、あなたみたいに成長期の時期に変に大きくしようとすると悪影響の方が大きくなるから絶対に手を出しちゃだめよ?」
「そう言うものなの?」
「そう言うものよ。ま、大きくしたかったら規則正しい生活を送ることね」
「ふーん……」
雑誌でみた女性ホルモンとかを試してみようと思ったけど、姉ちゃんとプロデューサーさんに止められちゃったからやめとこっと。

274 名前:霞のかかった夢の中で(4/9) mailto:sage [2010/02/22(月) 08:31:02 ID:mLhz9CO6]
「夢子ちゃん、私、なんとか合格できたよ、りゅんりゅん♪」
「そうね……」
「それにしても、あのステージ本当にすべりやすかったね、貰ったすべり止めもほとんど効果がなかったし」
「…………」
「夢子ちゃん?」
「あなた、まだ気付かないの?」
夢子ちゃん、私が合格した後からずっと険しい表情してたけど、今度は呆れたような顔に変わっちゃった。
「なに?何の事?」
「あきれた、本当にぜんぜん気がついてないのね……」
「私、何か見落としてる事とかあった?」
「そうよ、私がニセのすべり止め渡して転ばそうとしたこととか、あなたを遅刻させる目的で違う場所を教えたこととかを見落としてるわね」
「えっ……?」
「ここまできて気付きもしないのは流石に驚いたけど、このまま良い人のフリを続けるのも面倒だし教えてあげるわ」
夢子ちゃんの言葉は聞こえて来るけど、真っ白になった頭がそれを受け付けてくれない、私、どうしちゃったんだろ?
「私があなたに近づいたのはあなたをワナにはめるため、隙だらけで面白いくらい引っかかってくれたわね」
「…………」
「私がトモダチごっこをするために近づいたとでも思ってたの?この世界はいつでも真剣勝負、油断したあなたが悪いのよ、秋月涼」
「そんな……そんな……!」
「怒った?アタマきたなら仕返しでもなんでも、してごらんなさいよ」
「ひどいよ……う、うわぁぁぁぁぁん!」
ひどいよ、信じてたのに、友達になったと思ったのに全部ウソだったなんて……
そう思うと、自然に涙が溢れてきて止まらない、私はその場で泣き崩れちゃった。
「あ、あれ?怒らないの……?」
「うわぁぁぁぁぁん!ひどいよ、ひどいよぉぉぉ!」
「どうしよう、この反応は予想外ね……」
涙で滲んで良く見えないけど、夢子ちゃんは困ったような顔をしてるように見える。
「これじゃ完全に私が悪者に見えるじゃない、実際そうなんだけど……」
「うわぁぁぁぁぁん!うわぁぁぁぁぁん!」
「桜井さん、秋月さんが泣いてるようだけど何かあったんですか?」
どうやら私の泣き声を聞いてスタッフさんの一人が駆けつけてくれたみたい。
「え、ええ、得意のダンスで実力を出せなかった事が悔しかったそうです、秋月さんには私がついてますからお気になさらずに」
「そうですか、それではお任せしてよろしいですか?」
「ええ、任せて下さい……秋月さん、ここじゃ迷惑になるから控え室に行きましょ?」
「うわぁぁぁぁぁん!」
夢子ちゃんはそう言って私に手を差し伸べてくれる、私は泣きながらその手をつかんで控え室につれていって貰った。

275 名前:霞のかかった夢の中で(5/9) mailto:sage [2010/02/22(月) 08:31:36 ID:mLhz9CO6]
「うっ……ひっく……」
「そろそろ落ち着いた?」
「うん、なんとか……」
私達以外全員帰った控え室、一通り泣いてようやく落ち着いた私は夢子ちゃんと二人っきりになっていた。
「今までも何人かハメて来たけど、大泣きされたのは初めてだわ」
「夢子ちゃん、今までもって、他の子にも嫌がらせをして来たの?」
「そうね、何人かにしてきたわ」
「そんな、夢子ちゃんがそんな子だったなんて……」
「ま、犬に噛まれたと思って忘れなさい。探せば友達になってくれるお人よしも見つかるんじゃないかしら?」
「でも、夢子ちゃんもお人よしだよね?泣いちゃった私の事、ちゃんとなぐさめてくれたし」
「まあ、放っておいて私の事を話されても面倒だしね」
夢子ちゃんは口ではそっけないけど顔を少し赤らめて目をそらしてる。もしかして根っからの悪い子ではないのかな?
「ねぇ夢子ちゃん、そういうの、もうやめにしない?」
「本当、おめでたい頭をしてるのね、こんな目にあっても私を説得するつもり?」
今まで戸惑ったような顔だった夢子ちゃんの顔に、いじわるな笑みが戻って来たけど……
「ほら、アイドルがそんな顔しちゃダメだよ?」
「……へ?」
「そんないじわるな顔じゃなくてもっと嬉しそうに笑わないと!こんな感じでさ、りゅんりゅん♪」
「あなた、私を説得するんじゃなかったの?」
「そうだよ、アイドルは人を楽しくする仕事なんだから自分も楽しまないとだーめ、嫌がらせで勝っても楽しくないでしょ?」
そう、アイドルはとっても楽しいお仕事、自分で思いっきり楽しんで、それでファンの人たちにも楽しんでもらって
その声援を聞いて自分ももっと楽しくなれるお仕事。なのにそんないじわるな顔をしてたら楽しくなくなっちゃうよ?
「楽しい楽しくないは関係無いわ、私はどんなことをしても勝ちたいの。遠い先の目標を目指してね」
「目標?」
「そうよ、目標……せっかくだし特別に教えてあげるわ。『オールド・ホイッスル』よ」
「オールド・ホイッスル……」
「知ってるでしょう?天才プロデューサー『武田蒼一』が仕切ってる、日本最高の音楽番組よ」
「うん、私は最近見るようになったけど、武田さん、カッコイイよねぇ」
武田さんはどんなときも冷静で表情を崩さないけど、近寄りがたい感じは全然しなくて
私みたいな普通の女の子にもわかりやすい言葉で大事な事を話してくれる、とってもカッコイイ人なんだ。
「何かミーハーっぽいわね……ともかく、その『オールド・ホイッスル』に出演する事が私の目標よ」
「あれ?今までアイドルが出たのって一人だけじゃなかった?」
「ええ、アイドルが出演するのは厳しいわ……でも私はそれに出たいの!その夢をかなえるためならなんだってする!」
「アイドル活動が楽しくなくても?」
「ええ、アイドル活動は夢をかなえるための手段、楽しいも楽しくないもないわ!」
「そっか、夢子ちゃんはそんな夢をもってたんだね……」
夢子ちゃんは、夢に向かって本当に一生懸命なんだね、
嫌がらせを認める気にはなれないけど、やっぱり根っからの悪い子じゃないみたい。

276 名前:霞のかかった夢の中で(6/9) mailto:sage [2010/02/22(月) 08:32:45 ID:mLhz9CO6]
「さて、私の夢は話したし、あなたの夢も聞かせてもらおうかしら。あなたの目標は……なに?」
「私の目標?」
自分の夢を語った夢子ちゃんは翻って私の夢を聞いてくる。
でも私の目標はハッキリしてる、夢子ちゃんの夢にも負けないくらい大きな夢がある!
「まさか、なにもないわけじゃないでしょ?」
「もちろん!私の目標は……トップアイドルになって、日本一可愛い女の子になること!」
「……は?」
夢子ちゃんが力なく聞き返してくる、良く聞こえなかったのかな?
「だから、トップアイドルになって日本一可愛い女の子になることだよ?」
「ええっと……日本一可愛い女の子になることが目標なの?」
「うん!アイドルって可愛い子が集まった世界だから、その中で一番になったら日本一可愛い女の子って事になるでしょ?」
夢子ちゃんは不思議そうな顔で聞き返してくる。トップアイドルが日本一可愛い女の子って常識だと思うんだけど、私、そんなに変な事を言ってるのかな?
「まあ、その理屈はわからなくはないけど……」
「えへへへへ♪そうでしょ?」
「いまどき小学生でももっと具体的な目標をもってるんじゃないかしら……でも、出任せや冗談でいってるわけではなさそうね」
「もちろんだよ、私はみんなを楽しくさせる日本一の女の子を目指してるんだよ♪」
「で、私を説得しようとしたのも、日本一可愛い女の子になるのに必要な事なのかしら?」
「うん、周りにいるみんなを楽しく出来るくらいじゃないと、日本一可愛い女の子なんで言えないからね。りゅんりゅん♪」
そう、ステージの前だけで可愛くてもそれは本当の美少女じゃ無い、
いつでも周りのみんなを幸せにできる魅力を持ってこそ本当の日本一の美少女だって私は思う。
「……秋月涼、あなたなかなか面白い夢を持ってるのね。ロクな目標も持ってない甘ちゃんだとおもってたけど見直したわ」
「そんな、えへへへ♪」
「でも、私の夢の邪魔をするなら容赦しない、次の審査ではあなたを真正面から潰してあげる」
「えっ……」
「それが嫌ならレッスンを欠かさないことね。私は一日も怠けないわよ?」
「……うん!私も夢子ちゃんに負けないように頑張るね!」
その後、夢子ちゃんはさっさと帰っちゃって話は終わっちゃった。
夢子ちゃんは真正面から潰すって言ったけど、裏を返せば嫌がらせは使わないって事。
完全に改心したとは思えないけど、私の言葉、少しは届いたみたいで良かった♪

277 名前:霞のかかった夢の中で(7/8) mailto:sage [2010/02/22(月) 08:33:22 ID:mLhz9CO6]
「……そんな事があって、明日は夢子ちゃんと勝負する日なんですよ♪」
「そっか、そんな事があったんだね」
「私、夢子ちゃんとはいい友達になれる気がするんですよ。えへへへ♪」
「話を聞いてる限りだと、根っからの悪い子ではなさそうだし、友達になれるかもしれないね」
「はい♪ところで、夢の話をしてて思ったんですけど……」
「なにかな、話してみて?」
私は夢子ちゃんの話している内にどうしても気になった事を聞く事にした。
「私、どうして自分が今の夢を見るようになったか全然思い出せないんですよ」
「ふむ……」
「思い出そうとすると昔は全然違う夢を見ていたような気がしてきて……」
「それは無理に思い出そうとしたらダメ!」
「えっ?」
先生が強い口調で窘めてくるなんて珍しいなぁ、なんでだろ?
「思い出せない事を無理に思い出そうとすると秋月さんには刺激が強すぎるの、絶対無理はしないで」
「そうなんですか?」 
「うん、思い出す時がくれば自然に思い出せるから、今は気にしないようにしてね?」
「…………」
「そうだ、別の話をしましょう、私、学校の事も聞きたいな」
「そうですね、学校では……」
気にしないようにと言われても気になるものは気になるけど、先生と色々お話する内にあまり気にならなくなっちゃった。
はぐらかされた気もするけど、先生も時が来れば思い出すって言ってたし、大丈夫だよね?


「ねぇ涼、アイドル活動で何か問題は無かった?」
いつものように律子姉ちゃんが聞いてくる。
今週は問題があるか無いかと言われたら問題はあったと思う。
夢子ちゃんの事もそうだし、自分の夢のルーツが思い出せない事もそう。
だけど、夢子ちゃんとはきっと友達になれると思うし、ルーツが思い出せなくても夢への思いは強くなった。
夢に向かって友達と競い合いながら進める、こんなに良い環境はそうそう得られないんじゃないかな?
このまま進めば本当に日本一可愛い女の子になれるかも♪だから私はこう答えるの、
「ううん、とっても楽しいから何にも問題は無いよ、りゅんりゅん♪」

278 名前:霞のかかった夢の中で(8/8) mailto:sage [2010/02/22(月) 08:34:05 ID:mLhz9CO6]
以上です、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
発想としては例のりゅんりゅんENDでは涼がアイドルをやめた様子は無いのでEエンドの涼(以下涼りゅん)が
そのまま涼シナリオを進めていったらどんな感じになるのか、と言う発想です。
本編中での涼りゅんの精神状態はは見方によって色々変わって行くと思いますが、今作での解釈としては
「自分を完全に女だと思い込み、日本一可愛い女の子になる事が夢になってる以外は基本的に涼のまま」としています。
作中で言っている「アイドルは人を楽しませる仕事だから自分も楽しまないといけない」と言うのも実際に涼の言う台詞にあったりします。
また、意外にも涼と涼りゅんは書き言葉ベースではほとんど同じ口調だったので、違いが出せているかどうかが少々不安です。
話しがゴチャゴチャし過ぎると思ったので愛や絵理、石川社長やまなみさんは一切登場させず
「ドキドキ?キュートなライバル登場」をなぞる形で書いたのですが話として薄味になりすぎてないかと言うのも気になります。
上記の点も含め、拙い点は多々あると思いますので気付いた点が有れば遠慮なく指摘して頂ければ幸いです。
でも、はじめてだから優しくしてね……


補足説明:涼が週一で通ってる先生は要するにカウンセリングの先生です。
比較的精神は安定していてもストレスが溜まればどうなるかわからないので定期的に見てもらってる感じです。
律子も同伴してるのは自責の念から精神的に不安定になってるのでカウンセリングを受けていると言う事です(直接関わった訳では無いですが……)

279 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/22(月) 12:57:05 ID:g2TlDkcc]
>>278
整合性もよく取れてるし、キャラがよく描かれてると思います。
特に夢子の初期キャラがいい再現性で味を出してるなあ、と。
丁寧な中身の整合性にも唸らされました。

ただ、公式が、今後への不安などを全て放り出してネタとして終えた部分、
これをあえて続けるなら、なんらかの結論が欲しかったと思います。
元に戻るでもよし、日本一可愛い男の娘を目指すでもよし、それこそモロッコ(ry
現実味のある話に書けているだけに、余計に今後の不安を掻き立てられました。

もし、このままで活動を続けるエンディングにするなら、カウンセリングの先生を
「何も心配いりませんよ〜実はよくある話ですから〜」
みたいな陽気な人にしちゃうとか、読む側の不安を取り払って欲しかったですね。

※しかし、オチでその先生が「そろそろ転換手術の頃合いね」と
ボソッとつぶやいたりするのが好みなんですがw

280 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/22(月) 13:46:12 ID:EnMIdw/i]
ええいくそw 鬱祭りかw

>>267
天寿でも天命でもあんまり死なさないでくださいorz なまじ読み込ませる分
悲しみ幾倍でございます。
クライマックス(4/4)中央段の切なさは胸が締め付けられますね。『父と和解
できたわが子』から『父と和解できなかった自分』へ、大好きなどと囁かれては
そら真一パパ泣くっきゃないわな、という感じです。真一本人はこの言葉に
感謝すると思いますが、ハタで見ていて少し意地悪な感じもしましたが。
本当ならこの手の『赦し』はもっと近い人物、この場合ならおばあちゃんから
為される方がしっくりすると思いますが、そうすると真の出番はなくなりますなw
あと、言葉遣いのこと。
真の誕生日CDを聴き返さねば正確には言えませんが、真一の話し言葉なら
「お父さん」「お爺ちゃん」にはならないように感じました。たぶん「俺」「オヤジ」、
ひょっとしたら「父さん」「お爺ちゃん」かも、かな。

読み返すのは少々つらいのですが、いいお話でした。ありがとうございます。



>>278
当人が明るいだけで鬱やないかw ともあれGJでした。
補足説明はここの住人レベルなら本文から読み取れるので不要かもですよ。

279で書かれている通り作品の内容自体は良質だと思います。
食事手帳の時にも文体が少し引っかかる(するすると読み進めない)感じを
受けたのですがどうやら個性のご様子、多少の工夫は要りそうですが
本作みたいなテイストのSSには向いてるかもですね。
書き手氏が目指した方向感が必ずしも明るくない、つまり主題は『涼りゅん
プラス初期夢子のシミュレーション』であって、涼や律子の変革とか救済とか、
あるいはオチを用意して笑わせようというのではないみたいなので、そういう
面では良作かと。
ただ、観察日記に終始してしまって創作的にはカタルシスが欲しいところだなあ、
というのが明るい話好きの独りよがりでした。
また読ませてくださいまし。

281 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/22(月) 14:28:25 ID:rjlkJnRi]
りゅんりゅんEDって明るく〆てるけど
要は人格崩壊EDだもんなあ




282 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/23(火) 13:03:14 ID:i9TpUoDW]
>>268の言う「むずかしいところ」「方向性はあまりアイマス的ではない」と
>>270の言う「寂寞感」「知らないままで人生を続けていくのだろう」
これらの見解はおそらくは同じ方向性を示しているのだろう

とはいえ口当たりは確かに苦いものの、丁寧に書かれた良作と思える

>>270
両親が居てなおかつ祖父母の葬儀だと事務所関係者が居なくてもそれほどはおかしくなさそう
これが両親が既に亡く祖父母に育てられた、あるいは亡くなったのが両親ならまた別と思うが

283 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/23(火) 19:01:31 ID:mdKpFySj]
>>282
事務所から誰も顔を出してないこと自体がおかしい、っていうんじゃなくて
「既に765プロと関わりのない子になってしまった真」を強く印象付けられるのが寂しい、ってことじゃないかな

「話を聞いて765プロ時代の仲間が様子見+焼香に」とかの展開を入れておけば「読者としての」寂寥感は大分薄まったんだろうけど
それをあえてやらなかったことで、この寂寥感は狙ったものなんだろうなぁ、上手いけど読者としては辛いなぁ、という。
このスレの住人の多くは「ただの読者」ってだけではなく、「765プロの同僚」として真と1年を過ごした経験がある者が大半でしょうから。


284 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/23(火) 20:54:54 ID:i9TpUoDW]
>>283
あくまでも個人の感じ方の違いだろうとは思うが

亡くなった当人自身と面識や付き合いもないのに「孫の友人や同僚」が参列する状況そのものが考えづらいので
真の活動当時でも事務所からの参列者はなくても普通。よって「既に765プロと関わりのなくなった」印象は
自分の場合はそこから感じとることではないということなのだが

これが水瀬祖父の場合だと、喪主である水瀬父の友人として高木社長が参列するのに説得力がある
あまり考えたくないが真一の場合なら娘を預かった立場として社長やPが参列するのも自然だろう
祖父ぐらいだと活動当時でも参列するので真は仕事休み、出勤してきたら「どうだった?」ぐらいが
事務所の反応として普通と感じる

285 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/24(水) 00:24:38 ID:fpRFrbRc]
>>278
文そのものは重さがなくて、「ああなった」状態を前提にした本編再構成の一部・・・という趣なのはわかるのですが
>>280の言う、シミュレーションという言い方がある意味非常にしっくり来ました。決着とか解決とか行く末は
また全然違う話だと割り切った、ということで。

ただ、やはりなんというか。状況そのものが大きく動かない先ほども言ったような文だけ読むと「重さがない」ものだけに
かえっていつか訪れる決定的な破綻の日に向かってひずみを溜め続けている、その過程を見せられているようなような
空恐ろしさを感じてしまうのは・・・まあ、仕方がないところかなと。
この状態だと、読む側の不安はむしろ作品全体の持ち味にまで転化する方向を模索した方が出来そのものは面白そうではあります
凄くきついものに仕上がってしまいそうではありますがw

とはいえ、涼くんランクA辺りには、必死に自分は男だと訴えても誰も信じてくれない状態なので性別バレで破綻は案外ないか?
・・・いや、この状態では本来発揮し得た内面からの輝きが同じようにあるとは限らないし。
うーむ。

286 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/26(金) 21:54:01 ID:r4SbUByK]
ある夜の帰り道

真「・・・まっくらですね」

俺「ああ、まっくらだな・・・」

真「・・・手・・・つないでいいですか・・・?」

俺「真、夜が怖いのか・・・まるで女の子だね」

真「あー!また男の子扱いしてますね!ボクはちゃんとした女の子ですよ!!」

俺「ははは、そうだった。・・・・・・ほら、手繋ごうか・・・」

真「・・・はい・・・・プロデューサーの手・・・とってもあったかくて優しい手です・・・・」

俺「真の手も柔らかくて、可愛くて・・・・とても愛しいよ・・・」

真「・・・・・・・・・ボク達・・・ずっとこうしていられますよね・・・・ずっと一緒にいられますよね・・・!」

俺「・・・うん!ずっと・・・・ずっと一緒だよ!どんな時でも俺、真の事離さないから!」

真「・・・ヘヘッ!ありがとうございます!・・・今日寝るときいつもより強く抱きしめてくださいね!」

俺「うん!わかった!いつもよりずっと強く抱きしめるよ!」

真「ヘヘッ!やーりぃ!そうと決まったら早く家に帰りましょう!」

俺「うわっ!真!手を繋いだままいきなり走らないでくれ!こけそうだ!!!!」       

投下終了。本スレで書いたのをそのまんま投稿。SSとか生まれて初めて書きました。なかなか楽しい物ですね。



287 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/26(金) 22:00:16 ID:DUZk85pK]
>>286
短いですが実にいいシチュエーションだと思います

前後にもうちょっと場面の描写があると、さらにジンジンと来ると思います
例えば、日中に何か真にいい事があったとか、真の白い手が差し出されるとか

288 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/26(金) 22:16:30 ID:r4SbUByK]
>>287
アドバイスありがとうございます。
機会があったらもっと構想を練って書いてみようかと思います

289 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/26(金) 22:25:51 ID:DD9D6/ii]
>>286
一瞬、本スレかと思いましたw
取りあえず、作品としての完成度云々とか「俺」丸出しで今日寝る時云々の
「自分とデキてますから」な妄想度ダダ漏れとか、そういう身も蓋もないとこは
どこまでもツッコめてしまうわけですが、それはまあ一旦置くとしてw

SSというか、シチュエーション提示としてはなかなかほんわかしたところで
こういうシーンはイイっしょ、というのは伝わってきます。
ただ、出来れば他の人が読んで楽しむ文章である、というところに配慮して
また物語的な体裁を整えてくれればもっといいかな、と

290 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/26(金) 22:32:41 ID:DD9D6/ii]
・・・なんか、IDがDD9D6/iiってすごいなw

自分の言葉を読み返してみると結構読んでの感覚がきついかな、と思うのでもう少々
シチュエーションを考えて、それを起こしてみるということをはじめてされたそうで
それについて「なかなか楽しい」と思えたことはすごくいいことです
そういうシチュエーション妄想はピヨちゃんに至っては趣味と公言しているぐらいですしw

さらに、それを膨らませてみる、という楽しみもありますよ、という意味合いも
「物語的な体裁を整えてくれればもっといい」という言葉に含めさせていただきました

291 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/26(金) 23:08:57 ID:r4SbUByK]
ID:DD9D6/ii
アドバイスありがとうございます。
確かに俺丸出しだったり、他の人が読んで楽しめる文章はまったく意識してないでオナニー感覚で書いてました。
次、作品書くときはそこも考えて作ります。真大好きです。




292 名前:陽一 mailto:sage [2010/02/27(土) 00:53:33 ID:itQLFhRm]
すごく久しぶりに投下します。陽一と申します。
以前はご意見ご感想ありがとうございました。
涼と夢子で、少し鬱要素ありかも? なSSです。
よろしければ何かご意見くださると嬉しいです。

293 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/27(土) 00:54:14 ID:itQLFhRm]
 更衣室の私のロッカーには、
 子猫の生首が入っていた。
「…………」
 よく見てみたところ、本物ではなかった。ただ、一瞬本物だと見紛う程度にはリアルで、
血糊の飛び散り具合と飛び出た眼球が実に気持ち悪い。これがロッカーにあるということ
自体が悪趣味なのは変わりなかった。
 私が手に持つ生首を見て、隣のアイドルが小さく悲鳴をあげた。
「……フン」
 近くのゴミ箱に生首を投げ捨てて、私は衣装へと着替えた。
 オーディションの前にこんなイタズラをされたら、普通のアイドルだったらテンション
が下がって、歌う気分ではなくなってしまうかもしれない。
 けれど私の精神は乱れない。もう、慣れてしまった。

 こんなイタズラをされるのは、一度目じゃないから。

* * *

『合格者――二番、東豪寺麗華さん。五番、桜井夢子さん。この二人です。あとは帰って
もらって結構です』
 私は汗を拭いながら、ふぅと息をついた。
 オーディション会場――審査が終わって、スピーカーからそんな声が流れる。
“桜井夢子”という私の名前が、ある。今日もなんとか勝つことができた。
 ……“イタズラ”をしなくなってからは、だんだんと合格するのが難しくなってきた。
それでも日々レッスンに励み、何とか実力をキープしている。

 オーディションが終了し、そのあとのテレビ収録も終えた。
 クリーム色の廊下を歩きながら、やれやれと息をつく。今日の仕事は成功と言ってもい
いだろう。とりたてて大きなミスはなかったし、うまく知名度もあげることができた。
 なのに私の気分は、まるで明るくなかった。厚い雲に包まれた空のように、暗鬱として
いた。ずぶずぶと、一歩ごとに泥土の中に沈んでいくようだった。
 と。対面から、一人の女性が歩いてきた。
 彼女は……そうだ、さっき私と一緒のテレビ番組に出た、東豪寺麗華とかいったか。ロン
グヘアーが印象的な、冷たい雰囲気の美人だ。
「お疲れ様、桜井夢子さん」
「お疲れさまです」
 透き通った、優雅な声で挨拶される。私も形ばかりの笑顔を作って返した。
「あなたの実力でオーディションに勝てるなんて……すごいわねぇ? どんな魔法を使った
の?」
「…………」
 一転して、彼女は意地の悪い笑顔になった。切れ長の目と形のいい唇を歪め、嫌らしく嘲
笑する。
 甲高い靴音を立てながら、私に歩み寄って、
「私は、」
 すれ違いざまに、耳打ちしてきた。

 ――あなたのやったことを、知っているわ。

「さようなら」
 そんな言葉を残して、彼女は去っていった。
 私はしばらく、その場に立ち尽くしていた。

294 名前:「世界はキラキラ」 2/9 mailto:sage [2010/02/27(土) 01:01:06 ID:itQLFhRm]
* * *

「久しぶり、涼」
「うん、久しぶりだね。一ヶ月ぶりくらい?」
 午後八時。レストランで私と涼は向かい合っていた。
 涼はTシャツにジャケット、ズボンと代わり映えのない格好をしている。他に服を持って
ないのか、と突っ込みたくもなる。少し、多少、ちょっとだけ、いつもよりお洒落をしてく
る私がバカみたいじゃないか。
 彼女――もとい、彼が“オールドホイッスル”で男であることをカミングアウトしてから
しばらく経った。涼が男の格好をしているのも最近は慣れてきた。
 しかしながら、ぱっと見てそんじょそこらの女性より艶のある肌をしていうのは、実に腹
立たしい。
「なによ、その荷物」
 仕事が終わって直接来たのだろうか、涼の隣には二つ紙袋が置かれている。チラリと隙間
から見えるものは……服、だろうか?
「あ、あはは、気にしないで」
 触れられたくないのだろうか、涼は話題を逸らす。
「夢子ちゃん、仕事のほうは大丈夫?」
 まっすぐに、曇りのない眼差しで私を見つめる涼。
 一瞬、ロッカーにあった、子猫の生首がフラッシュバックする。
 東豪寺麗華の一言がリフレインする。
「大丈夫なわけ、ないわよ。結構辛いわ」
「……そう、なんだ」
 声のトーンを落として、涼は言った。
「えぇ。今までズルしてたツケ、払わなくちゃいけないからね。勝てたり勝てなかったりで、
鬱になりそうだわ」
 頭をかきながら、それでも私はにやりと笑ってみせた。
 ……人を騙すときのテクニック。嘘をつくときは、限りなく真実に近いものが一番いいの
だという。
 確かに今の私は辛い。辛いが、勝てないことが辛いのではない。
 けれど涼は鈍感だから、きっと騙されてくれる。
 こんな奴に、私のことで心配なんてさせてやるもんか。
「何か、僕にできること、ないかな」
 涼はおそるおそるといった感じで聞いてくる。上目遣いなのがいじらしい。
「あるわ」
 私は言った。伝票を持って立ち上がった。
「さ、行きましょ」
「ど、どこに?」
「いいところよ」
 冗談めかして言ってはみたが――
 涼の笑顔が曇った。
 私はそれに気づかないフリをして、彼の手を引っ張った。

* * *

 向かった先はホテル。といっても、“純粋な宿泊施設としての”ホテルではない。主に男女
が連れだって入るようなところだ。
 シンデレラ城みたいな、大仰な建物の中に、私は涼の手を引っ張りながら入ってゆく。
 ……こういった場所に来るのは、初めてではない。
 誘ったのは私からだった。なんとなく“そんな”雰囲気になったときに、“そういう”ホテ
ルがあったから、ノリで入ってみたらそのままいたしてしまった。ただそれだけの話。
 最初のときはまぁ、雰囲気もあったし悪くはなかった。私も涼も初体験だったけど、“行為”
を何とか形にできた。
 けれど、今の私たちに、そんなしあわせはなかった。

295 名前:「世界はキラキラ」 3/9 mailto:sage [2010/02/27(土) 01:01:49 ID:itQLFhRm]
 饐えた匂いがする部屋。雰囲気作りなのか、薄暗い照明の中。
 やたらスプリングがギシギシと鳴るベッドの上で、私たちは不器用に求め合う。
 震える手でお互いの服を脱がす。キスをする。手を繋ぐ。
 抱きしめ合う。
 でも、言葉は交わさない。
 ただ、無言のまま繋がり続ける。
 ――私たちは別に、恋人同士じゃない。
 私も涼も、告白し合って正式にお付き合いをしているわけじゃない。
 だからこれは、一種の火遊びのようなもの。
 男性アイドルとしてデビューし直し、人気を博している“秋月涼”が……“桜井夢子”とい
うぱっとしないアイドルと、ホテルに入っているところを激写でもされたら、大問題になるだ
ろう。
 だけど涼は黙ってついてきてくれる。そのリスクを抱えてもなお、私が望むままにしてくれ
る。
 辛そうな顔をしているけれど、とても優しく抱いてくれる。
 まるで壊れものを扱っているかのように。
 ――私は私を傷つけたくて、涼に代わりにやってもらっているだけの卑怯者なのに。
 涼のくれる温もりは、あまりにもあたたかすぎて――

「……夢子ちゃん、泣いてるの?」
 動きを止めて、涼が心配そうにこちらを見た。
 私はそれ以上言って欲しくなくて、涼の細い首を強引に抱き寄せて、唇を塞いだ。
 涼は、私を抱きしめたままでいてくれた。

* * *

 辛いのは、イタズラを受けることじゃない。

 一週間経って、私はまたオーディションを受けることになった。
 受かれば知名度をぐっとあげられる、そんな大きなオーディションだ。
 今日の空は気持ちいいくらいに晴れていたが、相変わらず私の心は曇天だった。
 オーディションが行われるテレビ局の前に着く。参加者なのだろう、入り口付近にはアイド
ルらしき女性が多数いる。
 そんな中、
「涼?」
「夢子ちゃん?」
 女性の中に紛れて、ロビーに入ろうとする涼がいた。いつも通りの私服だが、この前の二つ
の紙袋を抱えている。
「同じオーディション……なわけないわよね」
「うん。僕はバラエティ番組の収録」
 そう言う涼は、どこか憂鬱そうだった。髪をくるくる手で巻きながら、目を伏せている。
「どうかしたの?」
「ううん、別に。お互いがんばろうね」
 涼は笑顔を作って、手を振りながらテレビ局に入っていった。
「……変な奴」
 何か嫌なことでもあったのだろうか。
 まぁ、いい。私も気合いを入れ直さなければ。
 涼に会ったことで、少し気分が明るくなっていた。
 頑張ろう、と呟いた。

296 名前:「世界はキラキラ」 4/9 mailto:sage [2010/02/27(土) 01:02:49 ID:itQLFhRm]
* * *

 事件は、オーディション開始前に起こった。

「ないっ!?」
 控え室に、そんな声が響きわたった。
 一人のアイドルが控え室に入ってきて、バッグを開くやいなや、そう言ったのだ。
「私の、靴がっ!」
 靴?
 オーディションでは、当然普段履いている靴で踊るわけにはいかない。動きやすい、換えの
シューズがないと言っているのだろう。
「私が、トイレ行ってる間に……! 誰か、知らない!?」
 控え室にいる他のアイドルたちが、顔を見合わせる。
 当然私は何も知らない。控え室にはついさっき来たばかりだし、置かれていた彼女のバッグ
のほうはほとんど見なかった。
 というより、オーディション前、他人の持ち物など誰も気にしてはいないだろう。例え誰か
が盗んだとしても、分かったかどうか。
 控え室は気まずい沈黙に包まれた。靴を探しているアイドルは、焦った顔で周囲を見回して
いる。
 ――あぁ、かわいそうだな。
 そう私が思ったとき。
「そういえば」
 流麗な声が発せられた。
 声は、東豪寺麗華の声のものだった。
 彼女も、このオーディションに参加していたのか。
「あの子が、あなたのバッグの近くで何かやっていた気がしたわ」
 そう言って、彼女が指差したのは――
 私だった。
「――え?」
 一瞬訳が分からなかった。何故私が、麗華に指さされているのか。
「あなたが、やったの?」
 アイドルが、私へと詰め寄ってくる。
 その瞳に、はっきりと怒りの感情を宿して。
「どこに、やったの?」
「ちょ、ちょっと待って。何で私があなたの靴を取らなきゃいけないの?」
「返してよ……ねぇっ!?」
 風船が割れたような怒鳴り声だった。彼女は今にも私に掴みかからんばかりだ。
「私は、やってない! 勝手に決めつけないでよ! そもそも理由がないじゃない!」
「あるじゃない、桜井夢子さん」
 横から、張りつめた空気をものともしない、麗華の声。
「あなたには、あるじゃない。ねぇ?」
「……どういうこと?」
 そう聞いたのは私ではなく、私に詰め寄るアイドルだった。
「知らないの? そこの桜井夢子さんはね、ちょっとしたイタズラをして、他のアイドルを邪
魔しちゃう、困った子なの」
 麗華を見る。遙かな高みから、嘲笑するような目だった。
 ――麗華は私を知っている。私がやっていたことを、知っている。
「証拠は、……あるの」
 私の口から出た弁解は、そんな間抜けなものだった。麗華の目を見ていられなくなって、視
線を逸らしてしまった。
「ないわ。ないけど、私はあなたがバッグに近づいているのを見た。そして、あなた以外の人
は近づいていない。それで十分じゃない?」
 麗華は、白々しくそう言い放った。
「私は、やって、」
「ふざけないでよッ!」

297 名前:「世界はキラキラ」 5/9 mailto:sage [2010/02/27(土) 01:03:35 ID:itQLFhRm]
 今度こそ、私はアイドルに掴みかかられた。首を絞めかねない勢いで、襟を引っ張られる。
「返して! ねえ、返してっ!」
 彼女の瞳には怒りだけではなく、涙も浮かんでいた。
 このオーディションに、何か大切なものでもかかっているのだろうか。返して、返してとう
わ言のように繰り返す彼女は、哀れだった。
「いい加減観念したら? 見苦しいわよ、桜井夢子さん」
 口調に憤りを含ませて、麗華が言った。けれどそれは演技だろう、目の奥にはサディスティ
ックな光がある。
「私、は――」
 周りの雰囲気が、無言で私を犯人だと決めつけている。
 いっそのこと、認めてしまおうか。
 そう思った、そのとき。

「夢子ちゃんは――僕と一緒にいました」

 控え室の入り口のほうで、そんな声がした。
「……え?」
「さっきまで僕とずっと一緒でした。だから、靴なんて盗る暇はありません」
 そこに立っていたのは……
 スカートタイプのステージ衣装に身を包んだ、涼だった。
 麗華や被害者のアイドルとはまったく別の、静かな怒りを口調に込めて、そう告げた。
「……秋月涼さん。本当ですか?」
 麗華が低い声で問う。驚いているのだろうか、表情が固まってる。
「えぇ。僕とロビーでジュースを飲んでました。盗れるわけ、ないです」
 それは、嘘だ。涼と会ったのはテレビ局の入り口だけで、彼は番組の収録に向かったはずだ
った。
 しかし嘘でも、人気アイドル“秋月涼”が発した言葉の効果は絶大だった。
 芸能界は縦社会。遙か上の存在である涼の言葉は、それなりの力を持っている。
「きっと、どこかに落としちゃったんじゃないかな。僕も探すよ」
「い、いえっ! 秋月さんにそんなことしてもらうわけには……!」
 靴を盗られたアイドルがぶんぶんと首を振る。
「いいって。靴がないとオーディションでどうしようもないもんね」
 涼は微笑み、彼女へと近づくが、
「……あなたたちは、いつも一緒にいらっしゃいますね」
 麗華の冷たい声が、涼を遮った。
 まだ彼女の目は諦めていなかった。涼の隙を探すように、目を細めている。
「何か、僕と夢子ちゃんが一緒にいて悪いことでも?」
 訝しげに涼は聞き返す。
 私は嫌な予感がしていた。
「いーえ、いえいえいえ、そんなことはありません。ただ――」
「ただ?」
「秋月さんは、実は男性なんですよね? ナーバスになるオーディション開始前に、男の秋月
さんと女の桜井さんが会っている。ふふ、不思議なものですね?」
 ……そういう切り口で攻めるつもりか。
「ひょっとして、付き合ってたりするんですか?」
 それはとどめの一言だった。
 つまり。私と涼の関係を追求されたくなければ、引け、と言外に言っているのだ。
 認めてしまえば、アイドルたちしかいない控え室での発言とはいえ、噂としては広まってし
まうだろう。スキャンダルに発展しかねない。
 しかし否定してしまえば、私のアリバイが不自然なものになってしまう。
 実に狡猾な攻め口だった。
「涼――」
 もういいからやめて。
 そう言おうと、口を開きかけた、

298 名前:「世界はキラキラ」 6/9 mailto:sage [2010/02/27(土) 01:04:17 ID:itQLFhRm]
「はい。僕と夢子ちゃんは、付き合ってます」

 前に。
 涼は、言った。
 聞き間違えのないように、一言一言、はっきりと。
「な――」
 控え室が今度こそ沈黙に包まれた。
 あまりの堂々とした発言に、麗華は唖然としている。
 けれど涼は表情を少しも崩さずに、毅然としていた。
 靴を盗られたアイドルはおろおろしている。

 私は――
「……りょ、う」
 もう、耐えきれなかった。
「……っ!」
 走った。
 走って控え室を飛び出した。
 廊下を駆け、階段を下り、
 テレビ局を飛び出した。

* * *

 ぼんやりと道路を歩く。もうオーディションには間に合わないだろう。間に合ったとしても、
どうでもいい。
 ――辛いのは、イタズラをされることでも、その罪を押しつけられることでもなくて。
 過去に同じことをしていたという、自分の罪の重さを見せつけられて、恐ろしくなることだ。
 ようやく思い出した。麗華は、私が友達面をして近づき、陥れたアイドルだ。涼と違って、彼
女は私のイタズラにくじけて、オーディションに勝つことができなかった。
 彼女にどんな心境の変化があったのか分からない。けれど今、彼女はイタズラを仕掛ける側に
回っている。
 それをけしかけてしまった、桜井夢子の罪の重さがひたすらに苦しい。
 それに。
「涼……」
 涼だけは巻き込みたくなかった。
 私の罪は、自分で受け止めなければならなかったのだ。
 私との関係を告白した涼。
 ――涼に寄りかかり、慰めを得ていた私は、そんなに彼の重荷になっていたのか。
 嫌だ。涼に迷惑はかけたくない。
 嫌だ。嫌だ。嫌だ――。
 涼は私の夢だ。私の憧れだ。私の誇りだ。
 それを、“桜井夢子”なんてモノで、汚してはいけないんだ。

 気づけば、スクランブル交差点にまで来ていた。
 駅の前にあるこの交差点は、まるで時間が早回しされているかのように、激しく車が行き交う。
 今は赤信号だった。信号を待つ人々が、続々と私の後ろに並んでゆく。
 ――ふ、っと。ある考えが頭をかすめた。
 このまま目を閉じて、横断歩道に足を踏み出してみれば。
 きっと、みんな楽になるんじゃないだろうか?
 涼は重荷から解放されて、麗華は私への復讐を果たす。
 それでいい。ハッピーエンドだ。考えれば考えるほど、名案に思えてきた。
 何を躊躇う必要がある?
 私は――
 堅く目を閉じて、
 赤信号へ、
 足を、
 踏み、
 出、

299 名前:「世界はキラキラ」 7/9 mailto:sage [2010/02/27(土) 01:04:58 ID:itQLFhRm]
「――夢子ちゃんっ!」

 せなかった。
 誰かに後ろから抱きすくめられて、動きを止められたからだ。
 通行人がたくさんいる交差点なのに、その誰かは、構わずに腕に力を込めた。
「夢子ちゃん。ダメだよ」
 涼の、声だった。
「……離し、て」
 私はもがくが、意外なほどに強い力で抱かれているので、動けない。
「離して! 離して……!」
「嫌だ」
 涼は静かにそう言う。
「私、涼のことが嫌いなの! 迷惑なの! ずっとずっと嫌だった! 遊んであげてたの、気づ
かなかったの!? バカね、本当にバカだわ!」
 何を言っても、腕の力は緩まない。
「だから、お願いだから、離し、て……」
 視界が歪んできた。何なんだろう、これは。
 まさか、泣いているんだろうか、私が?
「僕、」
 涼が言った。優しい声で。
「夢子ちゃんのこと、好きだ」
「――――――え?」
 雑踏の中。
 周囲の時間が停止して、総てが灰色になって、世界は私と涼だけになった。
「だから、離したくない」
 涼の声は震えていた。
「……なんで、私、なの」
 少しの間のあと、彼は答えた。
「さっき、僕、スカート衣装だった」
「……?」
 そういえば、そうだった。控え室に入ってきた涼は、女性アイドルとして活動していたときの
衣装だった。
「今日の番組のために、女物の服を、いっぱい持っていかされた」
 数日前に涼と会ったとき、彼は大量の紙袋を持っていた。
「……僕はまだ、“女のアイドル”として求められてる。もちろん表向きのオファーは、男性とし
ての秋月涼だけど――まだ、女性用の衣装を着させられるよ」
 涼はそんな弱音、私に一言も吐かなかった。
 今までずっと、一人で耐えてきたのだ。
「だけどね。夢子ちゃんは、僕に変わらず接してくれる。僕が男だって、認めてくれる」
「……それは、」
 違う。私はなし崩し的に涼を求めていただけで、そんな意図は、ない。
「分かってる。ちゃんと、分かってるよ」
 でもね、と涼は続ける。
「闘えるんだ。先が全然見えなくて、不安だけど――夢子ちゃんがいるから、僕は闘える」
 涼は、私を抱きしめる腕に力を込めて。
「だから、そんな哀しいこと、言わないで」
 彼の声は、はっきり分かるくらいに震えていた。
 泣いているんだろうか。
 私のために。
「バカ……涼の、バカ……」
 はたしてバカはどっちなんだろうか。
 私は体の力を抜いて、涼に身を任せた。
 そのまま、しばらく泣き続けた。

300 名前:「世界はキラキラ」 8/9 mailto:sage [2010/02/27(土) 01:05:45 ID:itQLFhRm]
* * *
 今日、テレビ局でオーディションが行われる。
 かなりハイレベルなオーディションだ。参加者は全部で十人で、合格は二枠。厳しい闘いだ。
 その、更衣室。
 電灯は消され、部屋の中は暗い。何も見えないそこに――
 きぃ、とドアが開き、誰かが入ってきた。
 誰かはロッカーの一つを開けて、ごそごそと何かをやっている。
 ――私は電灯のスイッチを入れた。
「!?」
 白く光り出した電灯が照らす人影は、
 東豪寺麗華のものだった。
「……桜井夢子」
 彼女は、さっきからずっと、壁に寄りかかっていた私を睨む。その表情に慌てたものはない。
 私は彼女がいじっていたロッカーに近づく。彼女が手に持っていたのはワセリンで、ロッカーに
入っていた靴の、底に塗っていたようだった。
「まぁ大体分かってたけど、あなただったのね」
「……それが、何か?」
 フン、と麗華は鼻を鳴らして髪をかきあげた。
「私が大声をあげて、あなたがイタズラしてるところを見た、と言ってもいいのよ? 桜井夢子さ
ん」
 なるほど。私に見つかっても実害はない。麗華らしい、狡猾な作戦だと思った。
「前科のあるあなたと、八方美人な私。みんなはどっちを信じるかしら?」
 勝ち誇ったように笑う麗華。
 しかし。
「すれば?」
「……え?」
「あなたには私にイタズラをする権利がある。だから、好きなだけするといいわ」
「……」
 淡々と認める私を不審に思ったのだろうか。麗華は目を細める。
「けどね」
 私は再びロッカーを覗きこむ。そこは私のロッカーではない。誰か別の、知らないアイドルのも
のだ。
「私以外の誰かにするのは、やめておきなさい。それはもう仕返しじゃないわ。あなたは、昔の私
に成り下がってるだけ」
「……ふざけないで」
 低い声で、麗華は言った。顔は俯き、拳を震わせながら。
「あなたに何が分かるの! 私はあなたのせいでオーディションに負けた! 負けちゃいけないオー
ディションだった! そのせいでこんなランクでくすぶってる!
 桜井夢子さん、あなたが教えてくれたことよ! オーディションで勝つために何をしてもいいっ
てね! それの何が悪いの!」
「……そうね。返す言葉もないわ。私も昔、そう思ってたから」
 けど、と私は問いかける。麗華をまっすぐ見て。
「それであなたは、何かを得られたの?」
「――――」
 麗華が口を閉ざした。
「私は得られなかった。総てを失う羽目になったわ。プライドも、アイドルを志した動機もね」
 ふぅ、と息をつく。
「……私の知り合いに、どうしようもないバカな男がいるの。あいつは“闘う”って言ってたわ」
「闘う……」
「そう。闘う。芸能界は嫌なことだらけよ。差別と偏見に満ちてる。隣を見れば足の引っ張りあい。
……でもね」
 そんな中でも、秋月涼は、いつだって輝いている。
「私は、涼の隣を歩けるようになりたいの」
 だから。
「私には、好きなだけイタズラをするといい。いくらでも耐えてみせる。……その上で、実力だけ
でのし上がってみせる。それが、私の闘いよ」
 私は麗華の顔を見ずに、踵を返す。
「イタズラして、ごめんなさい」
 最後にそれだけ言って、私は控え室を出ていった。
 背後から、麗華のすすり泣きが聞こえてきたが、きっと気のせいだろう。

301 名前:「世界はキラキラ」 9/9 mailto:sage [2010/02/27(土) 01:06:27 ID:itQLFhRm]
* * *

「……それで、その子は結局どうなったの?」
「さぁね。少なくとも、イタズラしてるって話は聞かなくなったわ。この前レッスン場で見かけた
けど、ちゃんと努力してるみたいよ」
「そっか。よかった」
 二人で会話をしながら街を歩く。
 涼は私の隣でにこにこと笑っている。

 あれから一週間後。控え室にて涼の交際カミングアウトがあったり、スクランブル交差点にて公
衆の面前で私を抱きしめたりと、マスコミが食いつきそうな事件を起こし、しばらくはその後始末
に追われていた。
 涼が所属している876プロが上手く護ってくれたらしい。“抱きつき事件”は、ドラマの撮影
ということになっているようだ。
 それから控え室での涼の爆弾発言については……特に噂になってはいないようだった。あの場に
いた全員が、口をつぐんでくれているのだろうか。
 よく分からないけれど。
 めでたしめでたし、なんだろうか?
「夢子ちゃん」
「……なによ」
 涼の前で本心を明かしたことを思い出して、恥ずかしくなった。自然と口調がぶっきらぼうにな
ってしまう。
「あの、ね」
 と、涼はどこか煮えきらない。女の子みたいに、体をもじもじさせている。
「……まだ、返事、聞かせてもらってないけど」
「え?」
 返事? 何か涼から誘われただろうか?
「何の、話?」
「え――だ、だから、僕、夢子ちゃんに、こ、告白、したんだけど……」
 顔を赤くして、涼は言った。
 ――ようやく合点がいった。
 つまるところ。この男は、
 まだ、私の気持ちに、気づいていないわけだ――!?
 呆れた。呆れ果てた。こんなに呆れたのは生まれて初めてだった。
「一生、悩んでなさいっ!」
「え、ええーっ! ひどいよぉ、今日すっごく緊張してたんだよぉ!?」
 私は涼を追い越して、早歩きで道を行く。
 彼は慌てて私を追いかけてくる。

 ――まだ、私は涼の隣を歩けないな。
 だから、手を繋ぐのはまたこんど。

 闘わないとな、と思った。
 これからも色んなことがあるだろう。過去の罪は、まだまだ私を縛るだろう。
 けれど、それでいい。私はきっと、闘ってゆける。

 それに――

「待ってよ、夢子ちゃーん!」
 こっちも、闘いだ。
 この優しい朴念仁に、私の気持ちがちゃんと伝わるまで。


 空は突き抜けていて。
 きっと、
 世界はキラキラ輝いている。



“Dazzling World” is closed.



302 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/27(土) 01:07:33 ID:itQLFhRm]
以上です。1レス目でレス数とタイトル書くの忘れてました、すみません。

303 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/27(土) 02:12:41 ID:XC7NfHsB]
>>302
表現に生々しいところがあったりするのに、生理的な嫌悪感を持たせないよう工夫しているんだなあ、
と思いました。書き手が何を書きたくて、何を伝えたいかがはっきり判る好編でした。

304 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/27(土) 10:46:08 ID:8ZOmAcc8]
肉体関係云々はいらなかったんじゃないかなあ

305 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/27(土) 13:48:53 ID:Yki3CFwx]
>>302
本編では軽く流された、というより武田さんに拒絶された事が裁きになっていた格好の
夢子の罪とその贖罪について真正面から取り組んだ良い作品でした。
個人的には夢子が自傷に走り過ぎかな?とも思いましたが、そこを納得させる筆力は流石だと思います。
また、影の主役と言っていい夢子の被害者であり加害者である役に麗華さんを持って来たのも上手いと思いました。

ただ、>>304氏も言っている様に肉体関係の部分は涼のキャラには合わないと感じてしまいました。
年齢的にも性格的にも愛の無い体だけの関係に納得する様には思えませんし、
夢子が自身を傷つけるために求めている事に気付いているのなら
それを受け入れる優しさよりも、それを拒絶する優しさを持つ子じゃないかと個人的には思います。

306 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/27(土) 18:29:44 ID:mykpGxr3]
>>302
鬱要素といいつつ、重さと浮かばせ方のバランスが非常によいのが印象に残ります
嫌悪感からの忌避を最低限に留める工夫がきちんと効いている、というか。

原作本編も含めた全体を通して、夢子を追い詰めたのも支えたのも実のところ涼であって
だからこそ涼の存在が夢子にとって特別だとも言えますけども、そこがきちんと一貫してるのが
全体を通しての一本筋が通って見える部分かなと思います。

で、ここで複数あがっている肉体関係の部分ですが。個人的には、ありとするのならもうちょっとその辺に関わる
状況をいじってあげないと。かなと。涼くん、良くも悪くも近世代のギャルゲー主人公属性wの持ち主ですので
基本的に優柔不断で状況には流されやすく、その代わり「断」を下してしまった場合にはまさに「断固」を貫く
タイプですから。
「“そんな”雰囲気」「ノリで入ってみたらそのまま」と夢子の側は取りあえず片付けていたとしても
最初のときの、もうその段階で涼は当然の心理として「責任、取るから」にまで突入していたと思えるわけで。
・・・多分それこそ「責任取るから」を「ナニバカなこと言ってんのよ」で夢子側としてはかわしたつもりだった
みたいな一幕でもあったのかもしれないけども、涼の側としては向こうはどうであれそういうつもりで
だからこそ、自分の心を痛めるためと知りつつも涼は引きずられていったのかな、とも思える部分ではあり。
ただ、その場合、交差点のど真ん中でやったものを涼が告白と認識してるのが微妙に違和感を覚えてしまう。
というのも、自分としては告白と認識しているモノ、が「“そんな”雰囲気」の手前にない限り、多分彼は動けないからw
その辺りのお互いの脳内涼くんとの整合の悪さが肉体関係の部分は涼のキャラには合わない的な印象につながるのかなと。

ぶっちゃけ涼くん、多分純愛の範囲内であれば、スキャンダルについてはもう無敵状態に近いですけどね。
カミングアウトの段階で身を棄てる覚悟なんてとっくの昔に完了済みな上に、「男の娘でイイ」を通過してる以上
既にファンの方も筋金入りw

麗華さんのキャスティングは個人的には完全勝利。ぶっちゃけると黒井社長よりもポリシーが明確な分
言動の不整合が少ないせいかもしれませんが、割と好きなキャラの一人なんで。
まあ、それは置いても、夢子に騙されて沈んだ時の顔と復讐に染まった顔の両方について容易に画が浮かぶし、
コミカライズであれ彼女がアイマスキャラの一人であることに代わりはなく、使い方にも沿っているので
親和性に何の問題もない。こちらでは財力背景は封印っぽいですが。
良いキャスティングだったと思います。

あとは、靴を隠された子の三人称として形容無しの「アイドル」を使われてた点は微妙に違和感が
いい言葉がなかったせいだろうけど、そこにいるのみんなアイドルだし、みたいなw

まあ、なんにしろ。もはや「涼が男前すぎて&鈍感すぎて、生きていくのがつらい」な夢っち、ごちそうさまでしたということで。

307 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/02/28(日) 15:10:30 ID:xBwYYipv]
俺は逆に、東豪寺麗華のキャスティングに違和感を覚えたクチ。
あの麗華が、現場を抑えられるリスクを侵してまで自分の手を汚すとは思えない。
彼女なら、どんな手段を使ってもいい、と解釈したら、そんな甘くはないと思う。
というより、麗華様のスケールが小さ過ぎて、うーん…というのが正直な感想。
名前使うなら他のキャラにして欲しかったなあ…

308 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/03/01(月) 00:33:30 ID:YGT1A7IB]
その辺りのスケールの差は財閥令嬢の東豪寺麗華と一般市民出身の東豪寺麗華の違いぐらいに
認識していればそうまで違和感はないかも。
失望に対し怒りと侮蔑、同種行為での復讐をもって応じるという姿勢はきちんと踏襲されてるし。
財閥設定そのものがキャラの一部であり切り離してはならないと思うならまた別だけども

309 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/03/01(月) 00:54:38 ID:9noQshVi]
それは原作にどこまで忠実に作るかという問題。
アイマスに限らず、多作のキャラの姿を借りて話を自作する場合、慎重にあたるべき操作。
書き手の意図に反する結果なら、設定の変更は失敗といえる。
そのキャラに何かを期待して読む人に、伝えたいことを伝えられるかどうか、そもそも何を伝えたかったか。

パロディかトリビュートか。

個人的には東豪寺麗華は、そもそもトリビュートとして出現し、また、水瀬伊織の幼馴染としてでもあるので
良家のお嬢様設定が活かされないのはミスキャスティングと評してしまいます。
お話そのものは好きだったけれど、アイマスキャラを使う必然が薄くなってしまっている。

310 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/03/01(月) 01:48:18 ID:YGT1A7IB]
その考え方はありだとは思うけども
同時に「過去の被害者であり復讐者」であることを読み手に伝えるべき情報とした場合
名前をあげるだけでそれが理解出来るという点において最も的確な人選であったとも思う。

この辺りは読み手側が一種のスターシステムと見なして一部の設定変更を受け入れたか
周辺設定に忠実でないことに引っ掛かりを覚えたかの違いでしかないとも思うところ。
とはいえ、他の名前では意図した効果はないのは確実そうだが。

311 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/03/01(月) 02:46:57 ID:3hDcgTvw]
名前をあげるだけでそれが理解できる、と>>310は称しているけど
「被害者であり復讐者」というキャラが麗華の全てなわけでもないのだから
何の問題もない。完全勝利。とまでは思わないかな…



SSとは離れた話題になってしまうのだが、
「けども」(AbutB)「とはいえ」(AbutB)「だけども」(AbutB)「なんにしろ」(AbutB)が
多用されているレスは正直少し読み辛い
長文氏の感想は、両方を褒めようとしながら、両方の良さを伝えきれていないようにも感じる
創作板だからあえて指摘してみたが、不快だったら済まない



312 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/03/01(月) 11:22:58 ID:hjW9h+Ec]
書き手が意図した効果を必ずしも読者に与えられるとは限らないからねぇ
麗華を持ち出したことで反応がこういう別れ方をするのは作者さんも覚悟の上だっただろうし
それでもイケると思って書いてみたけど、やっぱり反応は芳しくなかった、という

そういう意味では、あまり読者を「信頼」してはいけないのかな、と思ったりもする
積極的に書き手の側から読者を誘導し思う方向に導いていかないと・・・・・・
読者が書き手の望むように推論を働かせてくれるという期待はしないほうがいい、というかなんというか。


313 名前:307 mailto:sage [2010/03/01(月) 11:42:32 ID:1UOn8WH8]
>>308
財閥令嬢は切り離せないと思ってますが。
それ以上にそれ以前に、麗華ならやられたら3倍返し以上に徹底的にやると思えるわけで。
その辺が、スケールが小さいと評した部分なわけです。
復讐者としては、テンプレに乗せられてしまっていて、麗華的には大敗北と思えるのですよ。
少なくとも、最後のやり取りで、悪態の一つもつくくらい、それどころか、他人に口外しないと
口裏を取った以上は、それをいいことに衣装や靴をめちゃくちゃにして立ち去るくらいのキャラ、
と思ってますので。

314 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/03/01(月) 17:57:05 ID:PFiCZkd5]
>>311
この場の長文氏は自分のこと、だろうなあ
自意識過剰なら、ご容赦を。

今回の話題に関しては出遅れた感もあり、混ぜっ返しにしかなりそうにないなのでとりあえずは自分からは特には。
双方「そういう考え方、見方がある」で収めとく範囲でいいんじゃないかとは思う、というぐらいにしときます

名指しされている部分については接続詞の多用は悪癖という認識はあるのですが
特に意図がなければ思いついた部分は出来るだけ付け加えなければならないという意識を捨てきれないせいかもしれません
人の文章の良し悪しを自分の好みとはいえどうこう言っておいて自分はどうよと言われれば
返す言葉もないわけでして。少し気をつけておくとします

と言ってるこの文からして、それらを挟み込んだ方が良さそうな言い回しが直ってないようですがorz

315 名前:創る名無しに見る名無し mailto:sage [2010/03/01(月) 17:58:22 ID:PFiCZkd5]
あ、>>314>>306で。






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