- 140 名前: ◆Y0KPA0n3C. mailto:sage [2008/12/31(水) 10:46:51 ID:FkQwQIMC]
- リンゴォはその場を動かない。対照的にその体に似つかないほどの俊敏性でタルカスは二人の距離を縮めていく。
獣のような叫び声を上げ、あっという間に零距離となったそこでスレッジハンマーを振り上げる。 手に馴染むそれを血に染め上げようと振りかぶる。自慢の怪力、そこから生み出される破壊力は正に規格外。 だが、それ故にあまりにスロウリィ。だからこそスロウリィ。 その体格、そして彼の最も誇りに思う『怪力』。筋肉を盛り上げ、質量の大きいそれを振り回しては軌道はどうしたって大降り。 避けるに特別な技量は必要としない。ただ冷静ささえあれば。 それが、縦運動ならば。 「WRYYYYYYYYYYYYYYYY!!」 構える、振りかぶる、降りぬく、再び構える。怪力である故に、その振り子のような横運動、なぎ払うように動くハンマーの早さは圧巻。 バックステップで距離をとる。ナイフの届く範囲でないならば無理に攻めに転じる必要はない。リンゴォは避ける、避ける、避ける。 踏み込み、ナイフを突き立てるよりも早くハンマーは戻ってくる。リンゴォは避ける、避ける、避ける。 テンポ良く、メトロノームのように。だからこそ隙はない。だからこそ隙はある。リンゴォは避ける、避ける、避ける。 振り子が最高位に達する。均衡を破るその一瞬、リンゴォが動いた。 電気信号が翔る。脚を抜き、腰をひねり、動きもしない右手を無理矢理動かす。ナイフは依然左手に持ちながらも。 瞳の端に帰ってくるハンマーが写る。どちらが速いか。力学的な遠心力によって生まれた速度か、人間の肉体が生んだエネルギーか。 頭部を庇うように巻かれた右手が弾け飛ぶ。脳に残るような不愉快な音が響き地面をバウンド。 そして気づく。自分が弾き飛ばされたと。天を飛んでいた劇的に宙を舞い目の前に突き刺さる。 死神、この場合は鎌ではなく鉄槌だが、が近づく。だが慌てるはずがない。指三本、不要となった右手を左手首に。 そして― タルカスの視界は依然ハンマーを振り回す自分と小刻みにステップを踏む男が。 体験したこともない、時が戻る感覚。本能が命じるままに急ブレーキを踏み敵と同様にバックステップ、距離をとる。 「『公正』に言った筈だ。オレは時を6秒だけ戻すことができると……」 「………。フン、その余裕がこの後も続くと思うなよ!さぁ、第二ラウンドと行くぞ!URYYYAAAA!」 なにも落胆することはない。否、それどころかこの心地よい緊張感でまだ過ごせる。 それが無性に嬉しかった。戦士としてのタルカスにとって。 ◆
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