- 492 名前:文責・名無しさん mailto:sage [2016/06/03(金) 05:14:00.27 ID:DL6bGWqB0.net]
- 【産経抄】ふたりの桃源郷 6月3日
田中寅夫さんとフサコさんは、昭和13年に結婚した。 寅夫さんはまもなく出征して、終戦後南方から帰ってくる。 二人は、フサコさんの故郷に近い山口県岩国市に山を買って切り開いた。 一時大阪に転居していたものの、子供たちを育て上げると、再び山へ戻ってきた。 ▼「ふたりの桃源郷」は、地元の放送局の山口放送が、夫婦の山暮らしを25年間にわたって撮影した、ドキュメンタリー映画である。 電気も水道も通っていない。山からわき水を引き、木を切り出してマキにして、季節の野菜を作る。二人は実に楽しそうだ。 ▼何よりラブラブなのである。ある日、フサコさんは、寅夫さんの好物のマツタケを探しに山に入るが見つからない。 代わりに一輪の花を摘(つ)んで帰った。寅夫さんは、それを空きビンに挿(さ)し、にっこり笑って缶ビールを飲む。いいシーンだった。 ▼そんな二人にも、老いが訪れる。「いっしょに暮らそう」。関西に住む娘たちの申し出に感謝しながらも、山から離れられない。 ついに三女夫婦は移住して、両親の暮らしを助ける決心をする。 ▼桃源郷は、ただ望めば手に入るユートピアではない。人間が汗と涙で作り出す結晶である。 「ふたりの桃源郷」は、子育てや介護をめぐる世代間の対立とは無縁だった。 登場するのは、互いを思いやりながらもできる限り自立をめざす、誇り高き日本人ばかりである。 平成19年に寅夫さん、24年にはフサコさんが93歳の天寿を全うする。山の畑には、三女夫婦の姿があった。 なんだか両親にそっくりである。 ▼消費税の引き上げを延期する。安倍晋三首相が正式表明した日に、この映画を見た。 どうすれば次の世代にツケを回すことなく、日本を元気にできるのか。ヒントは桃源郷にある。
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