- 1 名前:鬼畜の和洸 ★ mailto:sage [2019/09/12(木) 03:09:15.36 ID:CAP_USER.net]
- 【二十七】『でる家』(前編)
発端は、今から約20年前の2月下旬に遡る。 当時17歳の聡さんは、下校途中に川崎市のとある私立病院に通うことが日課となっていた。 彼の父方の祖母がそこに入院しており、死期が近いことがわかっていたのである。 祖母は80歳を過ぎていて、昨年の暮れにひいた風邪から肺炎を併発し、衰弱が著しかった。 放課後、黄昏時に祖母の病室を訪れると、必ずと言っていいほど、母と5つ下の弟も見舞いに来ていた。 聡さんと5つ下の弟は、祖母にたいへん可愛がられて育った。 祖母が暮らす父の実家と聡さんたち家族の家は徒歩で5分と離れていない、俗に言う「スープの冷めない距離」にあり、兄弟が乳幼児だった頃にはほぼ毎日、祖母に預けられたり、祖母が子育ての手伝いに来たりしていたのだ。 また、祖母と母の間には世間にありがちな嫁姑の諍いもなく、家こそ別々だったが、祖父母も家族の一員だと聡さんたちは見做していた。 だから、日に日に弱っていく祖母を見るのは、聡さんと弟にとって、とても辛いことだった。 元気だった頃の祖母は、むしろ普通よりも活発な性質で、兄弟の外遊びにもつきあってくれた。それがどうだろう。今や身体の厚みが蒲団に負けていて、すでに息があるのが不思議なような血の気のない顔をして横たわっているのだ。 祖母が弱ったきっかけは、半年前に転倒して脚の骨を折ったことだったが、健やかそうに見えても元より持病もあり、いったん衰えだすと止まらなかった。 祖母の主治医が「そろそろ最悪の事態を考えてください」と言いだしてから何日か経っていた。 だから
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