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【メンタル】『The Mental Test』【息抜きコラム】



1 名前:1 mailto:sage [2013/02/21(木) 17:45:53.99 ID:gvX0X6gn]
『The Mental Test』

強いメンタルのメカニズムを解き明かそうと、ある実験が行われました。
プロゴルファー、医者、ホラー作家、ギャンブラー、普通のサラリーマンの五人に特殊な映像を見せ、その反応を見る実験でした。ショッキングな映像を最後まで見続けた職業の方が、優れた強いメンタルを持っているという実験ルールでした。

最初に根を上げたのは医者の男でした。実験が開始されて半日ほど経過したとき、試験場所である個室のドアを勢いよく開けて飛び出してきました。

「君たち、正気か?こんなの実験と呼べる代物ではないよ!一刻も早く中止して、あのおぞましい光景をさっさと片付けるんだ!」

「おぞましい?何が見えたのですか、先生。普段あなたが外科手術で見ているものよりもっと怖いものですか?」

私は言いました。私もここで行われている実験映像の中身がどのようなものか知らなかったのです。

「愚かな……私が普段触れているものは、神の創造物であり、高貴なものなんだよ。付け加えるなら、オペのときは患者の命に集中しているんだ。気持ち悪くも何ともない!これで失礼させてもらうよ。もちろん、謝礼は結構だ」

「そうですか、それはとても残念です。ですがドクター、私はただ申しつけられてここにいるだけで、この実験の考案者ではありません。そのことだけは、どうかご理解いただけると……」

医者は唾を吐くように私に顔を向けたあと、すぐに踵を返していきました。

87 名前:1 [2013/03/11(月) 14:00:50.45 ID:Q2hnJX4O]
『The Silent』

(1)

――1880年代の誇り高き炭鉱夫たちへ。
――そして、ヘレン・アダムス・ケラー女史に捧ぐ。

少女は闇の中にいた。
彼女は生まれつき光を知らない。そればかりか草花、人や動物、あらゆる物質――そしてお金。そのどれをも見たことがない。生まれつき目が見えないのだ。

神は視力と引き換えに、彼女にたくさんの愛情を与えた。
周囲の温かい愛情に育まれ、幸福な家族の一員として彼女はすくすくと成長した。知性と機知に富んだ、はつらつとした少女になった。水晶のように透き通る肌とはちみつのようにつややかな唇。そして、生まれたての仔馬の尾のように繊細なブロンド。
しかし、開かれることない両方のまぶただけが、その美少女に不釣り合いだった。

どうやって世界を認識するのだろう? どうやって人を理解するのだろう?
彼女は、そんな大通りを行きかう衆人たちの好奇の目によどみなく答える。

「ありがとう、ご親切に。すみません、手を握らせていただけませんか? 感謝の気持ちを伝えたいので」

幼い小さな両手で、しっかりと大人たちの手を握り返す。そして手のひらに「Thanks」のスペルを丁寧になぞっていく。筆談の途中で、泣き崩れてしまう大人たちも多くいた。

健気な少女の未来を案じると、不憫でたまらなくなる。だが、肝心の当人はと言うと世界への好奇心と希望で満ち溢れていた。
だって見ることのできない世界が、そこにあるんですもの。何て不思議なんでしょう。いつか絶対に見てやるんだから――叶わぬ夢なんてないわ。

88 名前:1 [2013/03/11(月) 14:01:45.89 ID:Q2hnJX4O]
(2)

私は闇の中で育った。
と言っても、決して目が不自由なわけではない。健常な位だ。視力に事欠かない代わりに、この世の苦しさを直視せざるを得なかった。
父親の職業は、ただの酒飲みだった。この時代の新聞は、カリフォルニアに端を欲したゴールドラッシュの話題で持ちきりだった。ご多分に漏れず、父親もその熱気に当てられたひとりだった。
散財したあげく、一年かけてようやく持ち帰ったものは泥の固まりだけだった。
その間に母親は病死した。夢破れて帰郷した父親は、日がな酒を浴びることしかできなかかった。

「ちきしょう、金がなければこの世は生き地獄だ。こんなくそ野郎、とっととくたばっちまえばいいんだ」

それから半年も経たないうちに、私の願いは叶うこととなる。アル中で最後を終えた男の簡素な埋葬だけ済ませると、私は家を出た。彼の骨はすかすかで、まるで小動物の骨のようだった。
家を出た私は路地裏の生活を持ち前のずる賢さで生き抜き、気づくといっぱしのギャングと呼ばれる人間になっていた。

「へえ、世の中は未だにゴールドラッシュの話題で持ちきりかよ。けったくそ悪い、クソ親父を思い出しちまう。
次はどこだって……オーストラリア? ニュージーランド? まさかアフリカってことはないよな」

あれほど忌み嫌った父親と同様に、金銭に苦しめられている自分に腹が立つ。経済格差は広がる一方で、搾取の枠組みが十分にできあがっているのだろう。
しかし、そんな私にも千載一遇のチャンスがやってきた。きっかけは、この町一帯を取り仕切るマフィア――ギルティ――の若手幹部からもたらされた。

「おい、町の北に金の取引所があるの知ってるか。実は上等の混ぜ物が入ってよ。もしよかったら、お前あそこでさばいてきてくんねえか。なんならうちのマフィアに入る話、進めてやってもいいぜ」

私は自分からマフィア連中に仲間入りしたいなどと、話した事などない。どちらかと言えば、このくさい息を吹きかける連中を親父同様に、軽蔑していた。
だが、彼らの庇護があるに越した事はない。ただでさえ住みにくい町なのだ。マフィアうんぬんよりもその金取引という場所に興味があった。あいつが結局たどり着けなかった場所なのだ。

足を一歩踏み入れた途端、すぐに場違いだと思い知らされた。瀟洒な赤茶色のレンガ造りでつくられた取引所は、路地裏とは別世界だった。
足首まで埋まりそうなじゅうたんと、吹き抜けの最上部に取り付けられたシャンデリア。待合い席の下に伏せている犬の、光沢ある皮装具を見るだけでため息が出そうだった。

89 名前:1 [2013/03/11(月) 14:02:12.36 ID:Q2hnJX4O]
(3)

はじめてであっても、どこに行けばよいのかはすぐに分かった。入り口から一直線に進んだ場所にいくつかのテーブルが置かれ、それぞれに人垣ができているのだ。中でもとりわけ人数が多い集団へ足を向けた。
そこは袋の山だった。皮袋や麻袋、ありとあらゆる袋の種類が並べられ、中から黄金に輝く石粒が顔をのぞかせていた。炭鉱夫たちが人生をかけて採掘した努力の賜物であり、結晶だ。あいにく、自分の親父は何もつかめなかったのだが。

手元の混ぜ物と見比べてみる――。大きさから輝きまで、何から何まで異なるように見えた。息苦しくなった。他の袋を見渡すと、そちらはそちらでまったく違うタイプに映る。
どうやらそれぞれの石は違う表情を見せるらしく、少し安心した。それでも今持ち込んだ砂金の混ぜ物が、他と比べて一段も二段も見劣りする事に変わりはなかった。

「はい、次の方どうぞ」

心臓が止まる。

砂金と紙幣を交換する取引は、一に検査、二に検査である。私のように不純物を混ぜ込んでくる者が後を絶たない。それで商品を白日の下にさらし、計量や肉眼の鑑定により検査するのだ。あの息のくさいマフィアの台詞が脳裏に蘇る。

「検査って言っても、対した道具は開発されてないんだよ。所詮、金は天からの授かりものなんだからな。完璧に見分けられるってんなら、人の手で金ができちまうだろ。作りだすことができないってことは、人間じゃあ大して見分けがつかねえってことにならあ」

納得も釈然もしなかったが、一理あった――おそらく検査が不完全なものであろう、という読みにおいては。しかし、そんな浅はかな読みは見事に裏切られる事になる。

比較的空いている他のシマを見やると、最新型の測量器に加え、ルーペで入念にチェックしている姿が見えた。これでは手持ちの粗悪品など一発で見破られてしまう。

それでも、いいか。自暴自棄になる自分がいた。どうせここで騙せ通せたとして、得をするのはあいつらだ。それなら別に失敗に終わっても構いはしない、そう腹をくくった。

90 名前:1 [2013/03/11(月) 14:02:30.02 ID:Q2hnJX4O]
(4)

一番人気のシマは変わっていて、どこか奇妙だった。ほかのシマ同様にひととおりの検査道具はそろっているのだが、ほとんど活用していない。そればかりか、中央の商談/取引テーブルの近くに少女が立っているではないか。
うわの空のままテーブルへ進み、手持ちの二つの大小の袋を大理石の台座に置く。

自分と同じか少し若い――吸い込まれるような美少女がそこに立っている。
なぜか伏目がちにしているな、よし、そのままこっちを向いて見やがれ。

私は少女の顔を覗き込もうと、間近まで寄った。

「君、そんなに近づかないでくれ。そう、一定の距離を保って。まったく、ここははじめてかい? 早く品物をそのテーブルの上に載せて! そうしたらどちらか一方の手をその子の前にだすんだ。おい、聞いてるのか?」

いかにも取引所の人間らしい、制服姿の男がそう注意してきた。上流階級の間ではとうに廃れた、古いかたちのちょびひげをたくわえている。

言葉はろくに入ってこなかったが、言われるままに麻袋を置き、そして少女の前に右手を差し出した。

「新米、よく聞け。本来ならお前みたいなやつは足を踏み入れられないところなんだが……まあいい。その子はヘイウッド家のご令嬢様で、目が不自由な代わりに人の心が読める。
手に残る汗のかき方、流れる脈の動き、皮膚から伝わる神経のほとばしり。それらを総合した結果、ウソはすべて見抜かれるから覚悟しておけ。安っぽい混ぜ物なんて持ち込んだ日には、たちどころにな。何度もいうがお前みたいなやつは名門ヘイウッド家の……」

ちょびひげ男の講釈が続いたが、その間私の頭の中はひとつの事で埋め尽くされていた。
目が見えない? いつから? こんな端正な顔立ちの子なのに? きっと俺みたいに悪い事は何ひとつしていないだろう、それなのに?

91 名前:1 [2013/03/11(月) 14:02:46.90 ID:Q2hnJX4O]
(5)

ひとつ分かったことがある、このシマの人気の秘密だ。彼女が認めた人間と商品には高額の対価が支払わる。一方で彼女がまがい物と判断したときには、よそのシマでも一切取引に応じてくれなくなる。絶大な信頼感と、それに見合うハイリターンが魅力だったのだ。

私の前の客は彼女に見破られていた。彼女が動きを止め首を横に振った瞬間に取引はご破算になっていた。

私の右手を小さな細い指がたどってくる。汚らしい男どもが逆上などして力を入れたらいっぺんにへし折られそうな、しなやかで細い指だった。

彼女の動きが止まった。私の心臓が、彼女の両の手に直接握られているようだった。
彼女がこのまま首を横に振ったら、きっと気を失ってしまうだろう。
自分の持ってきた砂金を改めてみやる。もうその頃には、とうてい金には見えなくなっていた。ただの泥と石ころにしか見えない――私は気が遠くなった。

ひげ男の背後から、すっともう一人の男が現れた。黒のベルベットのコートに、宝石をあしらったカフスボタン。深々と被ったシルクの帽子がその高い身分を象徴している。

「どうだい、サラ。疲れたら休憩してもいいんだよ。なあに、金は逃げやしないさ。上質な金ならね」

彼女の父親とおぼしき男はそういった。おそらく皮肉が混じっていたのだろうが、私は一切気が付かなかった。そんな余裕などなかった。彼が示したとおり、今すぐ逃げ出したかったのだ。

「お父様、今お戻りになったの? それがね、何か変なの。この方はいつもと違うの、全然違うの」

全然違う、か……万事休す。

「そうかい、お前は何て賢い子なんだ。その前にいるお客様はね、うんと若いんだ。ちょうどサラと同じくらいか、少し年長に見える。君、いくつなんだい?」

紳士が話しかける。私は、18ですと答えた。

「そうか、それならうちの子より少しだけ上だね。そんな子がここに来るなんてとても珍しいことだ。今日は親御さんのお使いかい?」

私は口ごもった。このみすぼらしいまがい物を前にして、顔から火が出そうだった。同じフェイクにしてももっとましなものをよこせと、二つの袋を渡した男と自分の運命を呪った。

92 名前:1 [2013/03/11(月) 14:03:46.01 ID:Q2hnJX4O]
(6)

「ちょっと、自分の袋を持ってみてくれる?」

少女が話しかけた。顔の角度はさっきと変わらず下向きのままだ。きっと私の顔の位置が分からないのだろう。
私は言われた通り、持ち込んだ大きな方の袋を左手につかんだ。しばらくして、小さい方の袋を持つ。それを何度か交互に繰り返した。
脇の下のびっしょりとした汗を見るだけでも、簡単に私のたくらむウソは見抜かれると思った。

「今持っている、小さい袋の方は大丈夫だわ。大きい方の袋は……"見なかったことに"しておくわ」

娘の小粋な冗談に、取引所の主役である父親は苦笑いした。

「よし、商談成立だ。この小さい袋の砂金はすべて買い取らせてもらおう。ちょっとしたひと財産になるかもな、君」

そう紳士が発すると、制服の男は苦々しい表情でこちらを見下ろす。
私は軽くお辞儀をして二十枚ほどの高額紙幣を受け取ると、その場をすぐに立ち去ろうとした。
すると後ろから呼び止められた。心臓が止まりかけるのは、本日何度目だろう。

「ああ、君。この大きな袋の方は持って帰ってくれないか。それと、ひとつお願い事があるのだが……」

私は外に出て薄汚れた路地裏の空気を吸った途端、ようやく頭が晴れていくのを感じた。本来、混ぜ物というからには、あの二つの袋の中身を混ぜなければいけなかったのだ。
粗悪品によってカサを増し、その分の紙幣をだまし取るのだ。

しかし、どうにも粗悪品の粗さが際立った。もし一緒にしてしまっていたら、すべての買い取りを拒否されたことだろう。
ワインの樽に、一滴の泥水を入れてもばれないと考えるのだろうが、今回は泥水の樽の中にグラス一杯のワインを注ぐような話なのだ。

マフィアの男は頬の傷をすごませながら、烈火のごとく私を責め立てた。

「馬鹿野郎、たった"twenty"にしかならなかっただと! ちゃんとうまく混ぜたのかお前、こんなんじゃあ、お前の取り分はないぜ。元の砂金分にもなりゃしねえ」

そう言ってすべてのお金を私から取り上げると、せせら笑ってみせた。彼らの狙いは使い物にならないフェイクを渡し、こちらに負い目を感じさせることだった。
そうすれば、すべてを取り上げても文句のひとつも言えない寸法だ。まさか、私が混ぜることにすら気づかなかった間抜けとは、彼らでも思い巡るまい。

つまるところ、マフィアにとって自分はただの道具のひとつでしかないのだ。使えなければ捨てられる運命なのだ。

93 名前:1 [2013/03/11(月) 14:04:02.33 ID:Q2hnJX4O]
(7)

普段の私なら、男に襲いかかり腕をかみちぎってでも自分の分け前を主張したことだろう。その証拠に、男は警戒心をあらわにしてこちらの様子をうかがっている。私の路地裏での評判を耳にしたことがあるのだ。しかし、私は奴の予想とは異なる行動をした。

群れを追われるライオンのように、その場からよろめきながら逃げ去ったのだ。
後ろから追い打ちをかけるような、今後抵抗する気持ちを芽生えさせないようなスラングが飛んでくる。これは、私の脅威を少なからず感じている証しだろう。弱いものほど何とやら、である。

私が振り返ったら、男はさぞかし驚いたと思う。真夏の氷菓子のように溶けかかった笑みを浮かべていたのだから。

笑みの理由は二つあった。
手渡した二十枚の紙幣を、すべて贋札とすり替えてやったことがひとつ目。路地裏のブラックマーケットの品は、こんな時でも役立つのだ。
もうひとつは、あの紳士に小声で耳打ちされたこと。そこには今の泥沼の生活から抜け出すチャンスが眠っているはずだ。そう考えると、体が火照ってきた。

《君、もしよかったら今度うちに遊びにこないか。うちの娘の友達になって欲しいんだよ。この通り、この子は目が不自由な上になかなか気が強くてね。
同年代の女の子じゃ手を焼いてしまうんだ。ただの話し相手になってくれるだけでも構わない。もちろん、報酬は弾ませてもらおう》

94 名前:1 [2013/03/11(月) 14:04:18.62 ID:Q2hnJX4O]
(8)

ヘイウッド家の屋敷は、広大という表現では手に余った。ゆうに500エーカーは超えると思われるその敷地にはよく手入れされた植林が広がり、使用人専用の邸宅とその子供達向けの公園があり、さらに奥には湖も見えた。

曲がりくねった道を散策し、正門にたどりつくころには、時計の針が一周するほどだった。ドア係の使用人に要件を語ったが、私の身なりから判断したのか中に通されるまでに気の遠くなるような時間を要した。

中に入ってから、あの取引所の数倍も豪勢な屋敷のつくりに圧倒された。しかしそれも束の間で、ほどなくしてあの少女――たしか、サラと呼ばれていた――が姿を現した。数十段はあろうかという、ペルシャじゅうたんを引いた階段を、ゆっくりと歩いてこちらへ向かってくる。
大勢いると思われた使用人は、ひとりも近くにいない。きっとそういう方針なのだろう。彼女は一人で何でもできる――ハンディがあると思うことは間違っている、と。
まったく手すりにつかまらない優雅な所作の端々に、彼女の自尊心すら感じた。

「手を出してくださる?」

第一声がそれだった。私は少しためらったが、素直に応じた。今日はやましいことは何もない。

「あの取引所にいた……男の子でしょ。あの心拍音は今でも覚えているわ。まるでメトロノームの針が振り切れちゃったみたいだったのよ。カチ、カチって音が心臓から聞こえてきちゃいそうなぐらい。お父様に呼ばれたのかしら?」

まじまじと彼女の顔を見つめる。今日は、私の方へ顔を向けてくれた。その少しとがったあごの輪郭も、あらためて見るとやはり美しかった。心の戸惑いを手の平を通じて読み取られてしまいそうだった。私はすっと手を引いた。

サラは、気にも留めない様子で話を続けた。

「これまでお父様が連れてくるのは、いつも女の子ばっかりでいやんなっちゃう。私ぐらいの歳の子なんて、みんなお人形さん遊びにしか興味がないのよ。笑っちゃうでしょ、私は何も見えやしないのによ。どうかしてるわ。
そんなことより私は冒険がしたいの。心躍る冒険が。もちろん、山に登りたいとかそんなんじゃないわ。心を通わせ一緒に興奮できる、そんなスリルを味わってみたいの。お話だけなら、どこにでも自由に行けるでしょ」

それなら自分は適任だ――そう思った。
この世の裏の部分も含めて、酸いも甘いも教えてあげることができる。
でも、いささか刺激が強すぎやしないだろうか?

「ようし、甘やかされて育ったお嬢さん聞いて驚くな、俺の生まれは……」

95 名前:1 [2013/03/11(月) 14:04:53.76 ID:Q2hnJX4O]
(9)

そこからきらめくような日々が、回転木馬のように流れていった。見慣れた街並みでさえ、品薄が半年先まで続く人気の絵の具"ファーバー・カステル"で彩られたように見えた。
自分の心ひとつで世界の見え方は一変する。カラフルでダイナミックな世界がそこにあった。私は夢中になって、彼女に自分に見えている世界を説明した。

町一番の人気ベーカリー"ココ・ロッソ"で食事を取り、貿易船でごった返す運河で潮の匂いを大きく吸い込んだ。
パレードが行われている大通りに出向いてはその喧騒を感じ、赤鼻のピエロから頂戴した白い風船をサラに持たせた。同じく白いレースの服によく似合っていた。

彼女は好奇心の塊だった。

「ねえ、私ジパングと呼ばれる国に行ってみたい。黄金の国って呼ばれてるの。もし行けたのなら、あなたの言葉で世界を教えてくれる? うんと丁寧に」

「ああいいよ。お安い御用さ、お嬢さん」

「きっとよ、約束ね」

「ああ、約束だ」

やがて数か月が過ぎる頃、心地よい草原が広がる巨木の下で、お互いにはじめての体験もした。すべてが新鮮な驚きに満ち溢れ、この世界が幸福で充満している、そう思えた。

そんな私の耳に不穏なうわさが流れ伝わってきた。

《誰かがギルティの幹部に贋札をつかませたらしいぜ、メンツ丸つぶれだなそりゃ》
《今は復讐のタイミングを謀ってるらしい、そいつはきっと魚の餌になっちまうな》

有頂天だった私に、そのゴシップは冷や水を浴びせかけた。それでもこの生活を捨てる気は毛頭ない。父親から十分すぎるほどの額をもらっているのだ。
危険が迫っているにも関わらず、金欲という小さな種が私の中で確実に萌芽しはじめていた。

「なあ、サラ。俺を男にしちゃくれないか」

そんな言葉が口をついた。彼女は、草原の上で甘い声で反応した。

「どういうこと? もう十分に立派な男性じゃない」

大人の女性が言うようなジョークに、私も気をよくした。

「取引所の隣に、さらに大きな建物ができたっていうじゃないか。俺、あそこで一勝負してみたいんだ」

彼女は眉をひそめたが、私の情熱にほだされて説得に応じた。そもそも冒険したいと言いはじめたのは、彼女の方なのだ。



96 名前:1 [2013/03/11(月) 14:05:12.60 ID:Q2hnJX4O]
(10)

屋根に巨大な釣鐘をしつらえたその教会のような建物は、二人を招き入れるように吸い寄せた。中では大勢の人がひしめきあい、大声で何事かをがなりあっていた。
ローマ闘技場をほうふつとさせる、その勢いある掛け声は"Bid!"と"Ask!"と聞こえた。

隣の取引所で交換された金が加工されてのべ棒になる。ここでは、その現物を取引しているのだ。仲買人や地元の名士、さらには観光客までが金を物色する姿が見られた。

皆一様に掛け声とともに、走り書きをしたメモを立会人と呼ばれる者に渡す。
黒板に書かれた数字が手早く何度も書き直され、金の価格が吊り上っていく。
かと思えば一気に書き換えられ、そこには無残な数字が転がっている。悲鳴と感嘆が混ざり合い、絶妙な交響曲に聞こえてくる。

「サラ、ここにいる全員と握手することはできるかい?」戦いの幕が切って落とされた。
思ったよりも簡単にことは運んだ。彼女は場内をよろめきながら、手洗い所を探してるかのように彷徨った。何人もの手が差し伸べられ、中にはうかつにも注文内容を書き記したメモを、彼女の手の中に忘れてしまう者もいる始末だった。

「どうだい、子猫ちゃん。市場の空気は、買いなのかい、それとも売りなのかい」耳元でささやく。
長い沈黙が流れ、彼女が思考を織り上げていく。

「待って、ひとり大きな決断を抱えている人がいたわ。手の平が冷たい汗でびっしょりだったもの。まるで鉄の塊を持ち続けていたような、冷たい手……きっとその人の動き次第で市場が左右されるわ」

彼女の声は耳に入ってこなかった。遠くに見覚えのある男の姿が見えるのだ。

《あいつだ、ギルティのあの野郎だ、まずいな、こっちを見てる》

蛇が獲物を狙うような目で、私をねぶりつけている。贋札の件を根に持っているのは間違いない。だがどうする? ここから逃げ出したとしてもいずれはやつらに捕まっちまう。

こんなちっぽけな国にいるのでは、遅かれ早かれ末路は変わらないのだ。
ここで一勝負して、広大な世界へ逃げ切るしかない――そう判断した。彼女にもそんな思いが伝わったようだった。強く私の手を握り返してきた。

「買い、よ」

「よし、分かった。金額は? どうする、手持ちがあるかい」

「大丈夫。私を誰の娘だと思ってるの? この取引ももちろん経験があるわ。5000枚、成買って書いてちょうだい」毅然とした王女のような口調だった。

私は耳を疑った。単位についてはよく分からないが、それが途方もない金額であることは確かだった。先ほど手の中に残っていた他人のメモには、人生のすべてである全財産を賭ける――100枚、と書いてあったからだ。

97 名前:Trader@Live! mailto:sage [2013/03/11(月) 14:57:21.52 ID:bz2TNqgv]
読んだ!
もう読んだ!

続きまだ?

>自分の心ひとつで世界の見え方は一変する

このセリフ気に入った!俺の座右銘にするわ


で、まだ?

98 名前:Trader@Live! mailto:sage [2013/03/11(月) 15:21:06.09 ID:bz2TNqgv]
>自分の心ひとつで世界の見え方は一変する

ふふーん、ジョジョぽくってやっぱいいなこのいセリフ

99 名前:1 [2013/03/11(月) 15:57:11.44 ID:Q2hnJX4O]
(11)

地獄への片道切符が手渡された。私たちの注文で一気に値が跳ね上がり、市場が高騰した。一気呵成の援軍も現れたかに見えた。私たちは手を取り合って値動きを注視し、喜び合った。しかし、三十分を過ぎたあたりで状況が一変する。

マフィアの男が立ち会い人にすり寄ったかと思うと、黒板の数字が大きく書き換えられた。桁を間違えたかと思うほどの数字がそこに書き込まれた。落胆の溜息があちこちから漏れ、急速に価格を押し下げていく。

みるみるうちに、私たちの買値まで下がり……そこを一気に下に突き破った。

「まずい、サラ。ここに敵が混じっているんだ。これ以上はいつもの予想どおりにはいかないよ。それに……」

その思いつきが口をついたとき、私はぎくりとした。冷たい手……その男の手には何が握られていたのだろう。おそらくは黒い鉄の塊、すなわち私を殺すための拳銃ではないのか。

「すまない、さっきの手が冷たい奴がいた方向を教えてくれないか」私は動揺を隠せなかった。

彼女がゆっくりと指し示した先はマフィアの少し横で、そこには不敵な笑みを浮かべるメキシコ人が突っ立っていた。テンガロンハットをかぶり、落ちくぼんだ目を不自然に隠している。観光客に見えなくもないが、おそらく……私を狙った殺し屋だろう。
マフィアはいつでも入念で、汚いことを平気で行う。自分たちの手を汚すことなく、目的を達成することができるのだ。それに弱者はいつも翻弄され、食い物にされちまう。

妄想に駆られる私に、サラが声をかける。

「大丈夫、私を信じて……必ず上がるはずだから……必ず、お願い……」彼女の口調の変化から、自信を失っているのは明らかだった。

市場の終了時刻が迫る。あと五分で十五時を迎え、今日の取引が終了する。もしそこで反対売買による決済ができなければ、現金を差し入れなければならない。当然持ち合わせがあるわけではないので、彼女の父親にばれてしまうだろう。
そのことはすなわち、二人の終焉を意味していた。

四分……三分……二……一

ゆっくりと、メキシコ人の男が近づいてきた。こちらの死期が近づいているのを見抜いているのだろう。男が死神に見えてきた。テンガロンハットの死神か、そいつはおあつらえ向きだな……そう自嘲気味につぶやいた。

男は私たちの直前でくるりと向きを変えると、立ち合い人の元へ向かいメモを手渡した。メモを読み上げる男の口が上ずってしまい、ほとんど聞き取れないほどだった。

「こ……ここに出ているもの……す、すべて……か、買いでっ!」

どっと歓声が沸き起こった。よどみを突き破る土石流のような歓声で、足を鳴らす者たちで地鳴りが起きるほどだった。

「た、助かった……」

全身の力が抜けたようになり、へなへなとその場に座り込んでしまった。

メキシコ男が、近寄ってきた。たどたどしい英語で話しかけてくる。

「こんなに安く金が買えるなんて驚きだよ。君たちが値を吊り上げた時には、もう帰ろうかと思ったんだがね。待っててよかったよ。国に帰ったらおそらくこの三倍の値段でさばけると思う。君たちもたんまりと儲けたんだろう。グッドラック」

屈託のない笑顔で、そう言った。チャンピオンベルトのように大きな金属製のバックルをやたらと気にしながら。きっとメキシコではボクシングをモチーフにしたファッションが流行しているのだろう。

すると遠方でマフィアの男が、別の男たちに両側から抱えられていく姿が見えた。理由はどうあれ、組織に甚大な損害を与えたのだ。おそらくはただでは済むまい。

100 名前:1 [2013/03/11(月) 15:57:39.76 ID:Q2hnJX4O]
(12)

現実のものとは思えない場所から外へでて、安堵の声を漏らした。気が大きくなったせいか、私は饒舌だった。

「そうだ、何か欲しいものはないかい? 金ならたんまりあるんだ」

いつも冗談を返す彼女には、うってつけの台詞だった。彼女は笑った。そして、

「言っても笑わない?」

「もちろんさ、言ってごらん」

どうせ、お前の親父さんの金で買うんだから、ちっとも困らないんだよ。
この時の私は、まだそんな醜い気持ちを持ち合わせていた。路地裏で育った性格は、そう簡単には直りそうもなかった。

「実はね、口紅を買ってみたいの。でも、お父様に言っても笑われそうで。あれ? もしかして笑ってるでしょ」

両の手で私のほっぺたを確認しながら、彼女が言う。
私はおかしさよりも疑問符の方が先行した。

《普通、口紅なんて綺麗になる自分を見た上で楽しむものだろう。この子は、自分でその美しくなった姿を見ることなどできない。そればかりか、生まれてこの方、自分の姿を見たことがないのだ。こんなに愛らしい姿をしているのに》

そうか自分のためにするのではなく、見てもらうためにするのだ――その人のため。つまり私のためか……私はそんな健気な発想をする彼女を、思わず抱きしめたくなった。
だが、あまりにも無防備な感情に触れたせいで、さきほどの自分の心の狭さに引け目を感じ、より意地悪な思い首をもたげた。

「お前には似合わないよ、まだ子供なんだから」

その日はそれっきり、会話が弾むことはなかった。

101 名前:1 [2013/03/11(月) 15:58:44.84 ID:Q2hnJX4O]
(13)

あくる日――ヘイウッド家の近くの広場に呼び出された。サラの父親に、だ。
今日の彼には毎月の報酬を渡してくれる時に垣間見える、にこやかさのかけらも見当たらなかった。

「私の言いたいことは分かるな、君。金取引所での一件は昨日のうちに私の耳に届いているよ。この町で、ヘイウッド家の者を知らない者はいないのだからな。
言い訳は無用。もう娘に近づかないで欲しい。娘を楽しませてくれとは言ったが、危険な目に遭わせてくれとは言っていないし、私利私欲のために娘の感受性を使っていいとも言っていない」

自分だって取引所で利用していたじゃないか、そう言葉が出かかったが、私は別の言葉に取り直した。

「すみません、でも、お嬢さんを愛しているんです。それだけは信じてほしいんです」

彼は私の言葉に背を向けると、札束を放り投げた。そして、執事とおぼしき連中と共に私の前から姿を消した。
私はその札束そのままをヘイウッド家に送り付けてやった。少しばかりの贈り物を添えて。
彼女とはそれっきりだった。

102 名前:1 [2013/03/11(月) 15:59:07.10 ID:Q2hnJX4O]
(14)

あの夢のような若き青春の日々から、どの位の年月が過ぎたのだろう。
あの後、私はオーストラリア、ニュージーランド、カナダと海を渡り、文字通り世界を目の当たりにした。金の熱に当てられた私は、採掘者や炭鉱夫の手助けを行う事業に投資した。あの日彼女と儲けたお金は何百倍、何千倍にも膨れ上がっていった。

鉄道や石炭事業あるいは銀行業などに投資し、高度成長の渦の中で私は莫大な財を成した。その名声は海を越えてあの屋敷の者たち達にも届いているのだろうか。
今となってはもう知る由もない、遠い昔の話だ。
いくつかの戦争をまたぎながら、私のよわいも九十を数えるようになった。
これまで何とか生き抜いてこれたのは、すべて天運のおかげだろう。

暖炉の前でお気に入りの安楽椅子に深く座り、私は使用人に呼びかけた。

「あの手紙を持ってきてくれるかい。ほら、金庫にしまいこんだあの二通の手紙だよ」

声を出すのもすでに億劫だった。路地裏の怪物と畏怖された若かりし日々が懐かしい。
二通の手紙は何度もすり切れるほど読んだ。それでも返事は書かなかった。正確に言えば、返事をする相手がいなかったということになる。

安楽椅子でバーボンの香りをたしなんでいると、ほどなくして使用人が手紙を持ってきた。すっかり日に焼けた便箋だったが、文字を読むのに不都合はなかった。
一通目を手に取った。父親からの手紙だった。


『愛する息子へ

出来の悪い親ですまない。お前には本当に迷惑をかけたな。これからも苦労をかけることだろう。私は、すっかり金探しに夢中になってしまい、家を空けてしまった。母さんの危篤を知らされたのは、手持ちのお金が尽きたのと同じだった。

言い訳がましく聞こえるかもしれないが、母さんを愛していたし、全力で駆け付けたつもりだ。だが間に合わず、私もお前も互いに大切なものを失った。

私は弱い人間だ。お前にはそうなって欲しくない。弱さのあまり酒に溺れた。どうしても断ち切ることができなかった。

私が死んでも、お前は悲しむ必要はない。ただ、これだけは分かって欲しい。
私も母さんもお前を愛していたことを。 ――父より』


同封されていたモノクロームの写真には、私を胸に抱く母と、そっと肩に手を回す若々しい父の姿があった。子を見る優しさに満ち溢れたその眼差しを見ると、気持ちがあふれ出す。

一言でいいから、父に謝りたかった。私は運がよかっただけで、あなたと同じ道を歩んだ。軽蔑する気持ちを持ったことは確かだが、何事も運命の歯車に翻弄されたゆえのことなのかもしれない。彼の手紙を読んだおかげで、私はここまで頑張れたのだ。
どんな苦難に遭っても、歯をくいしばってこれたのは、ひとえにこの手紙のおかげなのだ。

チップが香るバーボンを一口含み、口をしめらせると目頭をふいた。
もう一通の手紙は、ヘイウッド家からだった。こちらも相当色あせていたが、父親の手紙よりは新しかった。

103 名前:1 [2013/03/11(月) 16:03:18.76 ID:Q2hnJX4O]
(15)

『親愛なる君へ

本当にすまないことをした。君を失ってしまった数か月後に、サラは他界してしまった。すっと息を引き取るように、何事もなかったかのように逝ってしまった。
こんな数奇な運命だったのかと思うと、君と引き離してしまった私の選択が過ちだったと心から思う。謝っても許されることだとは思わないが、心よりお詫びしたい。

ときに新聞で、君の活躍を目にする機会が増えてきたよ。調子がよさそうで何よりだ。
こちらはというと、君と同様に、カリフォルニアの奥地で鉱山発掘の事業に手を染めたのだが、爆発事故を起こしてしまってね。

もちろん、遺族への贖罪を行いすべての責任を被るつもりだ。何年かかろうとも。
ヘイウッド家の財産は、それで全部なくなってしまうことになるが、それもいいだろう。社会の敵になってまで、家系を存続させようという気はない。サラの名を汚したくないからね。君に失礼のないようにしたい。

さて、念のために記すが決して金の無心で手紙を書いたわけではない。誤解しないでほしい。ただ、娘の最後の写真を君に贈りたいと思ったのだ。受け取って欲しい。

色々とこちらのわがままばかり書き連ねてしまったが、どうか許して欲しい。
そして、君もどうか娘のことを気にせず幸せをつかんでほしい。それでは。

――アーサー・ヘイウッド』


私は、ほんのりと色味が残っているカラー写真を手に取った。保存状態には自信があった。
だいぶ弱くなった視力を頼りに目を細めると、記憶がそれを補ってくれる。
そう"ファーバー・カステル"の絵の具で彩ったように。

写真の中の彼女は両手を後ろに組み、少し小首を前に突き出していた。そして唇を上向きにして、遠くの誰かに見せている仕草をしている。
彼女は、私が送ったローズマリーの口紅をつけていた。誰に向けたわけでもない、私だけのために――。

私は答えた。

《よく見えるよ、大丈夫。こんな年寄になった私にもきちんと見えているよ。
ありがとう、私を愛してくれて。君は私の青春そのものだったよ。今でも時々思い出すんだ。はじめて会った、あの日の驚きのこと、そして、手に汗握る取引で大逆転した日のことを。
でも、すまない。君にもっと世界を見せてあげたかった。それだけが心残りだ》

目頭が熱くなり、これ以上は見続けるのが困難だった。最後に、写真の彼女に向かってそっと口づけをした。

使用人を声をかけようとしたが、ろれつがうまく回らず、独り言のようになった。

《私が、財産を寄付すると決めたあの女性の方は、何て名前だったかな……何度聞いても忘れてしまってな……ええと、サリバン、たしかそんな名前で、女性の先生だったかな。
熱心な先生で、今は全盲の少女へ尽力しているそうだ。サラのように、きっと可愛らしい少女なのだろう。彼女は幸せになる権利がある。そして、世界を見知る権利も。
きっと、私とサラが行けなかったジパングへも代わりに行ってくれることだろう……よし、うまく思い出せた。もう思い残すことは……》

私は、ゆっくりと目を閉じた。スローモーションの回転木馬にふたりで乗っている。
漆黒の闇が広がり、静かで長い沈黙に――吸い込まれていった。


Fin






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