- 178 名前:SS mailto:sage [2008/06/15(日) 21:51:01 ID:UVkl16/m0]
- 「あっ……、お、おはようございますっ! プロデューサー!」
「うん、おはよう雪歩」 待ち合わせ場所に着くと、既にそこ待っていたらしい雪歩はぺこんと頭を下げた。 その勢いで、日差し避けと周りから顔を隠すためを兼ねたらしい白い帽子がずり落ちかけ、 俺は慌ててその帽子をキャッチする。 「あっ、ご、ごめんなさいっ!」 帽子を頭に乗っけてやると、雪歩は恥ずかしそうにそれを深くかぶり直した。 「ううん、そんなに恐縮しなくていいから。それより、随分早くから待ってたみたいだけど」 「いえ、私の方からお休みの日なのにプロデューサーをお呼びだししたんですから……」 「気にしなくていいよ。どうせ暇だったし、そういう頼みを聞くのも俺の仕事だから」 今日は六月の第三日曜日、いわゆる父の日だ。俺は今日、雪歩にお願いされて 彼女が父の日のプレゼントを選ぶアドバイスをすることになった。 『男の人がどんな物を喜ぶのか、全然わからないから……』ってのが雪歩の弁。 気持ちを込めて選んだプレゼントならどんな物でも喜んで貰えるとは思ったけど、 やっぱり使ってもらえるものを贈りたいという意思を受けて、一緒に買いに行く事になった。 「それで、何を贈るかは決めたのか?」 「はい。えっと、ネクタイを贈ってみようかなって」 「あぁ、いいね。何本あっても困らないし」 そんなやりとりの後、共にデパートの紳士服売り場へ向かった。初めて入るらしい男性用の 洋服店に、雪歩は物珍しそうにしている。特にネクタイの種類の多さには驚いたようだ。 「いっぱいありますね。どんなのがいいのかな……。 あ、このバラの柄の何てどうでしょうか? 父の日といったらバラですし」 「バラ柄はちょっと……、派手なんじゃないかな」 「そうですか。お父さん、喜んでつけてくれそうですけど」 残念そうに物凄いデザインのネクタイを戻す雪歩。お父さん、どんなお仕事されるんだろうか。 「プロデューサーは、これみたいな柄のネクタイをよくつけてますよね」 「良く見てるね。うん、何となくそういうの選んじゃうんだよな」 「プロデューサーなら、ここにあるのからだったらどれが好みですか?」 「んー、これとこれ……、あたりかな。まぁ、値段が一番重要なポイントなんだけど」 「へぇ……」 雪歩は興味深そうに俺の話を聞いて、ネクタイを物色している。心なしかいつもの緊張も無くなって、 楽しんで選んでいるようだ。試しに俺の胸元に当ててみたりするたびに、笑みが浮かんだりしている。 「雪歩は本当に好きなんだな」 「え……、えっ!?」 「お父さんのこと」 「あっ……、はぃ、そうですね……」 微笑ましくなってそう言うと、雪歩は真っ赤になって俯いた。ご家族を大事にしてることは、 恥ずかしがるような事じゃないのに。 結局、シンプルだけど品の良いネクタイを二本選んで、プレゼント用に包んで貰った。 「今のレジの店員さん、私が買ったネクタイ、プロデューサーへのプレゼントだと思って見てましたよ」 「そうか? さすがにこの歳で雪歩の父親だと思われたらショックだなぁ」 「そんなこと……、無いと思いますけど。でも、半分は間違いじゃないです」 「え?」 店を出た所で、雪歩はそんな事を言ってから少し身体を縮こまらせて、 「これ……、受け取って下さい」 たった今買った買ったネクタイのうち片方を、俺に差し出してくれた。 「今日のお礼と、いつもお世話になってるお礼です。父の日に贈るなんて変かもですけど」 はにかむ雪歩からそのプレゼントを受け取って、この子から贈り物を貰えるなら やっぱりどんな物だって大喜びできちゃうな、なんて実感した。 後日、その後一緒にお茶を飲んでから帰った事なんかも含めて 雪歩がお父さん想いだっていう話を小鳥さんにしたら、 「くっ、その手があったか……。雪歩ちゃん、恐ろしい子……!」とか言っていた。 あんなに良い子なのにどこが恐ろしいのだろうか。
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