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FF・DQ千一夜物語 第413夜



1 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ mailto:sage [03/03/22 17:42 ID:OziE/nEL]
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881 名前: mailto:sage [04/04/20 00:09 ID:+y1VObUk]
 ――ひろい背中……。
 ベッドに裸の上半身を起こしたクリフトの背中に手のひらを滑ら
せながら、ミネアは思った。着痩せする体質なのだろうか、神官戦
士の服に身を包んでいる時には華奢なようにも見えた彼の背中は、
意外にも引き締まったしなやかな筋肉におおわれていた。肌も木目
が細やかで、うっとりするほど滑らかなさわり心地だ。
 もっとも残念なことに今、クリフトの背中は戦いによる傷跡にま
みれ、美しさよりは痛々しさを強く感じさせる。無数の傷を負って
いたが、中でも大きく目立つのが右肩から腰へかけて走る三本の裂
傷だ。
 巨大な獅子の化け物に隙をつかれたアリーナ姫をかばって負った
傷だった。
 傷に沿って指先を這わせながら、ミネアは思わず溜息をついた。
「つっ」
 クリフトが呻き声をあげる。
「ごめんなさい。痛かったですか?」
「い、いえ大丈夫です。それより本当に申し訳ありません。ミネア
さん」

882 名前: mailto:sage [04/04/20 00:10 ID:+y1VObUk]
「お気遣いは無用ですよ、クリフト様。私たちは同じパーティの仲
間なのですから。それより、やはりダメージは体の内側にも及んで
いるようです」
 言いながらミネアはゆっくりと手のひらに魔法力を集中させてゆ
く。次第に回復系呪文の白くまばゆい輝きにミネアの手が包まれて
ゆく。
「ベホイミ!」
 ミネアの唇が呪文を発する。
 手の周りの輝きがゆっくりとクリフトの体へと流れこんで背中に
あった爪痕がだんだんと細く小さく萎んでゆく。戦闘時の呪文とは
違い、しっかりと対象とする箇所を定めてのものだ。効果は高いが、
より術者の集中力を要求される。
 しかし、それでも一度の呪文では足らず、ミネアは二度、三度と
ベホイミを重ねがけする事になった。
 ミネアの魔法力がほとんどつきた頃、爪痕はもっとも深かった一
本を残して、その傷があったことすらわからなくなっていた。
 残った傷には膏薬を塗り、清潔な布を巻いて保護することにした。
「まだ、いくぶん傷は残っていますけど、内部のダメージは処置し
たのでしばらく休めば平気でしょう。とは言っても疲れは残ってい
るはずです。二、三日はゆっくりお休みください。クリフト様。そ
れと……」

883 名前: mailto:sage [04/04/20 00:12 ID:+y1VObUk]
 急に胸が苦しくなる。心がそれを言うのはやめろと訴えていた。
「クリフト様のお役目は承知しておりますが、あまり無理をなさら
ぬよう……」
 ミネアにとって長い数秒の後、クリフトが答えた。
「お気遣いありがとうございます。確かに私が傷を負えばミネアさ
んに負担をかけてしまいますね。以後、気をつけるようにします」
 そんな事が言いたいのではなかったが、ミネアは口にださなかっ
た。
「ただ、今回の事……私はたとえ役目がなくとも同じ事をしたと思
います」
 訊く前からわかっていた答えだった。
 ミネアは目を閉じてあきれたかのように溜息をついた。
「……報われないかもしれませんよ」
「私はもう充分に報われています」
「ならば、これ以上私から申し上げることはありません」
 ミネアは立ち上がってクリフトの寝室を辞した。

884 名前: mailto:sage [04/04/20 06:29 ID:+y1VObUk]
 広間に戻るとアリーナだけが寝ずにミネアを待っていた。いつも
は血色のよいその顔が、今は幾分青い。余程心配していたのだろう。
「どうだった?」
 かぶりつくようにアリーナが聞いてきた。
 安心させるために笑みを浮かべる。
「深い傷でしたけど、回復呪文を重ねがけしたのでなんとかなりま
した。クリフト様の意識もしっかりしています。少し熱は出るかも
しれませんけど、もう大丈夫でしょう」
「そう、……よかった」
 アリーナは、ほっと安堵の吐息をついた。しかし、その顔は沈ん
だままだ。
「……ねぇ、ミネア。私、クリフトに頼りすぎてたのかな?」
 自分がクリフトに庇われて傷を負った事で責任を感じているのだ
ろう。王族でプライドの高い彼女にしては、珍しい物言いだった。
「……かもしれません」
 実際、ろくな防具もつけずに敵の中へ猛進する彼女は攻撃を受け
やすい。もちろん、アリーナは攻撃の要であり、パーティ内での役
割としてはそれでいいのだが、それにしても最近の彼女は、勇気と
無謀を分かつラインから片足を踏み外すような行動が多い。そうミ
ネアは感じていた。
 彼女が冷静さを失う気持ちもわからないではない。自分も昔そう
だったのだから。ミネアにはその気持ちが痛いほどよくわかった。
しかし、その結果、攻撃要員であり、補助・回復役でもあるクリフ
トに負担がかかっている。それは動かしがたい事実だった。

885 名前: mailto:sage [04/04/20 06:30 ID:+y1VObUk]
 自責の念に駆られているのだろう、アリーナはうなだれたまま歯
を食いしばっていた。
 ああ、ここも同じか……。
 私と同じで彼の想いは、彼女に届いていない。
 ミネアは悲しくなる。
 どうして、一緒にいるのに気持ちは一方へと流れるだけで、通い
あわないのだろう?
「アリーナ様」
「……なに? ミネア」
「お聴きしたい事があります。アリーナ様は……クリフト様の事を
どうお思っていらっしゃるのでしょうか?」
 こんな事を聞くときも、落ち着いてしゃべる自分が少し疎ましい。
「私……? 私がクリフトを?」
「ええ」
「それって、どういう事?」
 アリーナがきょとんとした顔で聞き返す。
 ミネアはいくぶん目を細めた。非難の色が浮かんでなければいい
が……。
「王女と護衛の神官という関係としてではなく、一人の女として彼
に好意をいだいてらっしゃるのかどうか? という事です」






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