- 117 名前:手綱 ◆JSHQKXZ7pE mailto:sage初めて投下なのに長くてスマソ [2006/02/17(金) 22:27:57 ID:9kzpoxotO]
- 外は嫌味なまでにいい天気。
「ゼシカ、出ていらっしゃい。今日の主役がそれでは皆困ってしまいますよ」 閉ざした扉の向こうからお母さんの声が聞こえる。でもそんなこと知らないわ。だってもう、 行かないって決めたんだもの。 「ゼシカお嬢様、どうかお部屋に入れてくださいまし。お仕度させてくださいまし」 メイドたちの声もするけど、知らんふり。行かないんだから仕度する必要なんてないんですも の。 がっちり閉ざした扉に私の決意の強さを分かってくれたのか、漸く静かになってくれた。けど 今度は外の方の物音が気になりだす。誰かこの村に着いたのかも。あの声はポルクとマルクか しら?え? 「ゼシカお姉ちゃんが出てこない」 ですって?嫌だわ、そんなこと大きな声で言わないでよ。 玄関が開く音がする。階段を昇ってくる足音は二つ。軽やかで華奢なものとちょっと重い、しっ かりしたもの。お母さんと何か話し合っているみたい。でも部屋からは一歩だって動かないわ。 「ゼシカ、あなたにお客様よ。出てこなくてもいいから、ご挨拶はなさい」 お母さんが静かに、でもきっぱりと言う。…仕方ないわ、お客様なら。自分の口から事情を話 して帰っていただかないと。 そう考えて閂を上げ─連れ出されそうになったらすぐ呪文を唱えて逃げる心積もりをして─扉 を開けた。 「ゼシカ、久しぶりだね」 「ゼシカさん、こんにちは。まあ、綺麗なドレス!」 エイトとミーティア姫様だった。二人ともにこにこしつつも有無を言わせず部屋に入ってくる。 「二人とも久しぶりね…ってどうしてここに?」 唖然としている私に二人は顔を見合わせ、エイトが口を開いた。 「あれ?だってそういう予定だったんじゃないの?」 「ええ。約束の物、持ってきたのよ」 隣でミーティア姫様がにっこりする。ああ、そう言えばそうだったっけ。 「トロデーンに伝わる装身具のセットよ。『何か借りた物』の」 「ああ、そうよね、そうだったわよね。どうもありがとう。…でももういいの」 持ってきてくれたことは嬉しかったんだけど、でももうそれは必要ない。私は二人の前を離れ、 部屋の奥の鏡台の前へ移動した。
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