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FF・DQ千一夜物語 第五百五十二夜の2



1 名前:名前が無い@ただの名無しのようだ [2005/08/30(火) 11:29:09 ID:OHbE3Ogl]
2chにちらばるFF・DQ関係の小説やそれらの含まれるスレを収集するスレです。
小説の情報や、新作の書き込みを歓迎しています。
また、小説にまつわる ちょっとした雑談も楽しんでゆきましょう。
ギコ猫様とシャシャリデール風紀委員王の名にかけて
マターリとスレが続きますように……。

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11 名前:1 サラ姫と四人の小学生 mailto:sage [2005/09/01(木) 16:04:57 ID:6Z6Tkiuu]
闇深い封印の洞窟で、少年は姫君を発見した。少年たちは叫んだ。
「おまえは、だれだ!」
「私はサラ。サスーン王ダウの一人娘です。
 ところで『お前』なんて失礼ね。声を揃えて言わなくてもいいじゃない」
少年たちは驚いた。
「サラひめ。どうしてここに?」

「ムスリムの指輪をつけていたので、私にはジンの呪いは効かなかったの。
 城のみんなを助けるためにここまで来たけど…。それより、あなたたちこそ誰」
少年たちは口々に叫ぶ。
「ぼくたちは、ひかりのせんし!」
「ここはきけんです」
「すごく」
「サラひめは、おしろでまってて」
サラの胸までしかない子供たちが、取り巻いてきゃーきゃー騒ぐ。

「光の戦士? 訳わかんないこと言ってないで帰りなさい。ここは危ないのよ」
「こまったおひめさまだ」
「なにー!」

あの大地震でさえ、来るべき破滅の予兆にすぎない。
パルテナ山脈一帯を治めるサスーン領国も、いままた新たな脅威に晒されていた。
地震でよみがえった古き魔神ジンは、サスーンのダウ一族に恨みがあるらしく、
呪いの一声で城下を全滅させた。
亡霊の姿となった父と領民を救うべく、サラ姫・御年二十一歳、勇を鼓して立ち上がる。


12 名前:2 おしゃぶり mailto:sage [2005/09/01(木) 16:05:28 ID:6Z6Tkiuu]
「ここからじゃ仕方ない。仕方ないからついてきなさい。
 どのみちこのムスリムの指輪がなければ、ジンを封印できないのよ。知らないの?」
「なんだってー!」
何しに来たのか分からないが――たぶん探検気分なんだ――少年たちは普段着同然だった。
山地民らしい麻の粗衣に、フードつきの白いケープは猫みみが付いている。
ベルトにナイフを差してはいるが、武器らしいものを持っている子はいなかった。

サラは戦いに来た。武装している。
肌に合うレザーの上に、胸と腰を覆う軽装甲。膝までの戦闘用ブーツ。
白い腕と腿をさらす軽装だが、剣術を使うサラにはこれが合っている。
髪は高結いして輝く金の額冠で留め、戦の女神もかくやという勇ましい出で立ち。
サスーンの民は王女でも戦う。軟弱じゃない。

王女は子供たちに言い聞かせ、聞かせた。聞きなさい。
ジンを見たら隠れること。けっして声を出さない。ぜったいに戦いの邪魔をしない。
鼻息も荒く歩き出したサラの、マントの裾を握って、四人の少年がぞろぞろ続いた。

そもそもジンという怪物は、天地を駆け・神を侮り・傍若無人に暴れ回ったその昔、
魔術の王スレイマーンによって遂に捕えられ、この封印の洞窟に呪縛されたと聞く。
封印が解かれた今もこの洞窟をねぐらにしているのは、あるいは私を待っているのか…?
この対決は王家の者の宿命。
武者震えするサラ姫に、おしゃべりしながら少年らが続く。


13 名前:3 ダークネスのエナジー mailto:sage [2005/09/01(木) 16:06:05 ID:6Z6Tkiuu]
闇の洞窟のどんづまり。輝く溶岩流の上にあぐらをかいて、ジンは待っていた。
「ようこそサスーンの姫よ。噂どおり、勇ましくも美しい」
問答無用でサラ姫は指輪を掲げた。指輪に秘められたムスリムの力が、ジンを捕えた。

ところで、このムスリムの指輪というのは、サスーン領カズス市に長く伝えた宝物で、
由来は遠く、いにしえのスレイマーン王の所有物であったという。
妖魔を支配し、自在に操る力を持つ魔法の品である。あるが、

「どうした」
なにもおこらない。少年が繰り返した。
「なにもおこらないね」
サラは愕然と指輪を見つめた。
「なんてこと」
「ファファファ。増大した闇のエナジーが、おれに力を与えているのだ。
 そんなおれを、ちっぽけなガラクタで封じようなど無駄・無駄・無駄よ」

ジンは膝を叩いて飛び上がり、岩の上に仁王立ちに立った。
筋骨たくましい巨大な体躯に溢れるエナジー。指輪なぞ何のことか?
その一瞬、サラはジンのパワーに圧倒された。
サラは知らない。いまはまだ、誰も知らない。
溢れだす闇の力が、この世界を包もうとしている。


14 名前:4 光と闇のバトル mailto:sage [2005/09/01(木) 16:07:45 ID:6Z6Tkiuu]
魔神の身体が、むくむくと煙のように膨れ上がる。ジンは襲ってきた。
巨大な腕が伸びて迫り、王女をつかみ取る。
剣に手をかけたまま一瞬硬直したサラの体を、少年のひとりが突き飛ばした。
「なんだ。このガキども」
四人の少年が、さっと魔神を取り囲む。戦いは始まった。
魔神に飛びかかり殴る蹴る、2回ヒット。火炎を放射し、怪光線を放って痛めつける。
絶叫し、ジンは豪腕を振り回す。

ひらりと舞い降りた少年が、サラの腰から長剣を盗んだ。
引き抜かれた王家の宝刀、魔剣ワイトスレイヤーが白光を引いて走り、袈裟懸けにする。
たちまち魔神の身体がするするとしぼみ、ジンは弱った。
「むおー。うーむ、弱った」
「いまだ! ジンがよわってるうちに、ゆびわで!」

はっと気を取り戻し、サラは指輪を高くかざした。
「ジン、聞きなさい。指輪の王スレイマーンの名において命じます。
 お前はふたたび洞窟に封じられ、眠らされなさい」
「いやだ。この数百年、おれがどんな思いで眠っていたと思うんだ」


15 名前:5 ジンの呪い mailto:sage [2005/09/01(木) 16:08:31 ID:6Z6Tkiuu]
むかしの王スレイマーンの時代、ジンは名高い悪魔の首領サフルとつるんで、
国中で悪事をはたらいた。
捕えられ王の前に引き据えられたとき、あの忌々しい指輪を突きつけて、王は言った。
「お前は洞窟に封じられ、眠らされろ。百年、千年、未来永劫に!」
王の死後も、命令は撤回されなかった。ジンは眠りながら待った。

百年の時をジンは待った。
眠りながら思う。おれをここから出してくれる者がいたら、そいつを大金持ちにしてやろう。
黄金と宝石、一生なんでも買える財産だ。
しかし百年が過ぎても、誰も現れなかった。

百年の時をジンは待った。
眠りながら思う。おれをここから出してくれる者がいたら、三つの願いを叶えてやろう。
永遠の命でも宇宙の知識でも、なんでもだ。
しかし百年が過ぎても、誰も現れなかった。

百年の時をジンは待った。
眠りながら思う。おれをここから出してくれる者がいたら、そいつを殺してやろう。
ただし、死に方だけは選ばせてやる。
しかし百年が過ぎても、誰も現れなかった。

さらに百年をジンは待った。ジンは思う。
おれをここから出してくれる者がいたら、死ぬより辛い目を見せてやる。
生きながら死ぬ、亡霊の思いを教えてやる。
そのとき大地が揺れ、封印は解かれた。湧き上がる闇のエナジー。
ジンは初めて溌剌と、高らかに呪いの声を上げた。


16 名前:6 怨霊殺し mailto:sage [2005/09/01(木) 16:13:24 ID:OOiHkPnV]
ジンはかく語った。
「どんなに鬱屈したからといって、人を呪っていいと思ってるの?」
「そんなのは人間のご都合だ。おれの知ったことか」
ジンは傲然と言い放った。サラ姫も怒った。

「封印され、死んでも眠れ! 未来永劫、二度と覚めるな」
「くそう、呪ってやる。呪ってやるぞ」
ジンの姿が、霧のように溶けて消えていく。崩れつつ王女を指差した。
「お前は若く美しい。だがいい気になるな。
 お前は女として生きることなく、人の身の喜びを知らずに死ぬ。
 ひとつの望みも叶わず、ひとつの恋も成就しない。きっとそうなれ」

縮みながら叫ぶジンを、ワイトスレイヤーが頭頂から串刺しにした。少年が投げたのだ。
「だまれ」
ジンは黙った。呪い半ばにジンは消滅した。

少年は無言で歩いていって、岩に突き立つ魔剣を引き抜いた。
歩いてきて、無言でサラに魔剣を返した。サラは受け取って、鞘に納めた。
「…帰りましょうか」


17 名前:7 十年保証 mailto:sage [2005/09/01(木) 16:14:01 ID:OOiHkPnV]
ムスリムの指輪を聖なる泉に投じると、サスーン城の人々は人間の姿を取り戻した。
国王ダウも玉座に戻り、サラ姫もその傍らに戻った。

四人の小さな光の戦士は、巨大な闇を追って旅立っていった。
城門まで、サラは一人で見送った。
鎧も脱いで普段着になってみると、いまさらに、すこし照れた。
「あなたたちに助けられちゃったわね」
「すきになる?」
目を輝かせて少年が聞く。あとの三人が向こうで待っている。

「あなたが、もう少し大きくなったらね。
 旅が終わったらここに帰って来てね。私は待ってるから」
少年は大きくうなずいた。
駆けていって、途中で振り返って、叫んだ。
「何年経っても忘れないよ。必ず迎えにくる」
四人が並んで手を振る。歩き出すと、もう振り返らなかった。

サラは一人で見送った。
泣かせるじゃないの、マセガキ。
そのとたん、本当にじわりと涙が浮いた。







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