[表示 : 全て 最新50 1-99 101- 201- 301- 401- 501- 601- 701- 801- 901- 1001- bbspinkのread.cgiへ] 2chのread.cgiへ]
Update time : 02/22 15:48 / Filesize : 475 KB / Number-of Response : 1002
[このスレッドの書き込みを削除する]
[+板 最近立ったスレ&熱いスレ一覧 : +板 最近立ったスレ/記者別一覧] [類似スレッド一覧]


↑キャッシュ検索、類似スレ動作を修正しました、ご迷惑をお掛けしました

井上堅二 バカとテストと召喚獣でエロパロ 4問目



1 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/03/20(土) 14:18:56 ID:aRj4bt08]
ここは、井上堅二によるライトノベル、バカとテストと召喚獣
通称「バカテス」のスレです。sage進行でお願いします。
エロの有無問わず、SS募集中。
容量が480KBを超えるか、レス数が970を超えたら次スレを立ててください。
ルールを守れない方には特別に姫路さん特製クッキーをプレゼント!
よく味わって食べてくださいね。

前スレ
yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1252984506/
2スレ目
sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1194537387/
1スレ目
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1199892599/

680 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 03:55:55 ID:xMbrk/zq]
すまん読み返したら流石に雰囲気違いすぎるからやめておく

681 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 12:53:27 ID:PLyHQDFt]
優子さんと清水が吉井を奪い合うというマイナーカップリング好きが喜ぶSSがいいなぁ

682 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 13:25:56 ID:nl/Jebwz]
マイナーカップリングと言うなら女の子同士で恋愛談義するノリで
お試ししている間に始めちゃう秀吉×美波とかが嬉しい

683 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 17:42:37 ID:S6LerTt3]
>>680
見たぜ。
なかなかよかった。

684 名前:-674 mailto:sage [2010/06/05(土) 20:45:43 ID:HQucGKHy]
「あなたに関しては調べがついていますのよ、スケベ豚」
その言葉に僕がなんのことだろうと思っていると、清水さんは懐から一冊の本を投げて寄こした。
「……こ、これはっ……ぼ、僕の秘蔵の参考書!?どうして清水さんがこれを!?」
「それだけではありませんわっ!これも、これも!これもこれもこれもっ!」
まるで魔法の壷のように、清水さんの鞄からは参考書が溢れてくる。……どれも僕が日頃勉強に使っているものと同じだ。
「あなたの模擬試験範囲についてはあなたの友人の写真屋が証言してくれましたわ」
「ムッツリーニめ……!また僕を裏切ったのか!!」
「あなたもその他大勢の豚どもと同じだったのですね。こんな胸の脂肪に目が眩んで、お姉さまを蔑ろにするなんて」
「いやそういうことじゃないでしょ!?」
「あなたに与えられた選択肢はふたつ。ひとつはこれまでの無礼を悔い改め、お姉さまに永遠の愛を誓うこと。
もうひとつは、お姉さまに今後一切手を出さぬよう、美春に従属すること。悪いお話じゃないと思いますわよ?どちらを選んでも、絶世の美少女とお近づきになれるんですもの」
「これからゆっくり、美春の責めを味わって結論を出してくださいませ」

清水さんはそう言うと、白い手袋をはめて畳に寝そべる僕に近寄ってきた。それは見紛うことなく魅力的な女子高生のはずなのに、
喉元にナイフを突きつけられたような恐怖感が拭えなかった。
ジャキッ!
「うわっ!?」
「動かないで。妙な動きをすれば欲塗れの性器を切って落とします」
(えぇ〜!?)
言葉にならない驚きを抱えている間に、清水さんは僕のズボンをすっかり解体してしまい、自由にならない両脚と下着が露になった。
途中、ひやりとする裁ち鋏の先端が大事な部分に触れて、僕はそれこそ肝の冷える思いだった。
「教えて差し上げますわ。あんな牛のような乳なんて女性の魅力のなにものも担っていないということを」
「うぇっ!?」
不意に下腹部に圧迫感を感じ、空気を吐き出す僕。
けれどその苦しさは一瞬で過ぎ去って、かわりにやわやわとそこをさするような感触が伝わってくる。
視線の先には、傲然と僕を見下ろす清水さんの姿と、すらりと伸びた脚が見える。ソックスとスカートの間に覗く白い腿が眩しかった。
「……んんっ!」
まるでくすぐられるような感触がむず痒く、もどかしい。僕はどうにもならないのを承知で激しく首を振ってしまう。
「あははっ!苦しいんですの?スケベ豚!美春に身を任せてしまえば気持ちよくなりますのに、わかりの悪い豚ですのね」
清水さんは哄笑を浴びせつつ、僕の下腹部に乗せた足を微妙に操作する。すでにぴんと張り詰めた裏筋に足の指の凸凹が絶え間ない刺激を加える。
その下の睾丸には、なだらかにカーブした土踏まずをポンプを踏む要領でリズム良く押し当てられる。
スイッチを入れたり切ったりされるような断続的な行為は、僕の心に慣れを生み出さなかった。
「うぐっ、あっ!……ぁはっ……はっ」
僕は神経からの信号を腰がすべて引き受けているような錯覚に陥っていた。圧迫感と膨張から来る痛み、性感を刺激される快感。
身体を支える背骨は長時間の無理を訴えて軋んでいる。肺は入り口が急に締まったように空気の大部分を押し返していて、お腹が引きつったように苦しい。
清水さんの足の動きは、どんな微細なものでも痛みと快感の大波となって押し寄せる。
僕は涎を撒き散らしながら身体をくねらせ、受け止めきれない信号から逃れようとする。けれど清水さんはほんの僅かに足の位置を変えるだけで、
再び僕の神経の一番敏感な部分を捉えてしまう。
「我慢は体に毒ですわよ?いくら憎い豚とは言えお姉さまへの献上品が狂ってしまっては元も子もありませんし……」
「あああああああっ!」
と、清水さんが足先に体重を乗せ、小刻みに震わせてきた!
(電気あんま!?)
「射精してしまいなさいな」
膨大な苦しみ、腰が抜けるような快感とは釣り合わない間の抜けた音の単語が頭に浮かんだのも束の間、僕は女の子の足を乗せたままびくびくと達してしまう。
息を整える間に汚物を扱うようにそろりとした白い手が伸びて、ついに下着も剥かれてしまった。
「まだここに煩悩が溜まったままのようですわね」
大量に吐き出された精子が下着から漏れてお腹に垂れる。その冷たさに頭を覚ましていると、つい、とまだ堅さを保つ性器に清水さんの指が触れる。
「とりあえず、すべて吐き出させてから真意を質すことにしましょうか」


685 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 20:51:50 ID:HQucGKHy]
日の落ちていく教室の中で、耳はどんどん鋭くなっていく。
滑らかな布地で包まれた清水さんの指が、牛の乳でも搾るようにきゅっと揃えて握られると、
その中に包まれた僕のモノは跳ねるように頭をびくんと振るわせた。
しゅ、しゅと、その手が上下に動くたび、僕の喉は言葉にならない声を上げる。
性器の先端まで性欲の塊が上り詰めるのを感じるのは何度目だろう。
それが吐き出される寸前で、清水さんはぴたりと手を止めてしまう。初めはただの疑問符しか浮かばなかったものの、
次第に目に涙が浮かび、哀願するような格好になる。
「しようのない豚ですこと」
呆れたように清水さんは言ったけれど、僕には教会の扉が開かれたような心持ちだった。
涎と涙でべとべとになった顔は笑顔を作っていたに違いない。
「ふーっ……」
(!?)
清水さんは手を離してしまうと、すっかり口を開けた僕の性器に息を吹きかけ始めた。
それはそれこそ傷口に風が触るような刺激だったけれど、僕が頼るものはほかになかった。
……清水さんは広いみかん箱のドームを後ずさりながら、ふーっと蝋燭を吹き消すように息を吐いていく。
僕はそれを少しでも受け止めたくて、ずるずると腰をたたみに這わせた。
「ああっ!!」
「ハイ、おしまい」
ほんの僅かな刺激を脳内で膨らませていると、終わりを迎えるのにそれほど時間は必要なかった。
噴水のようにびゅるびゅると精子を吹き上げながら、僕はすべてを投げ出してしまったような気分だった。

「それで、心中定まりまして?吉井明久」
「……」
清水さんが問いかけてきても、僕には遠い世界の出来事のように感じられてなんとも言いようがない。
「何も言わないということは、美春の良いようにさせていただいてよいのですわね?」
その距離を埋めるかのように、今度は耳元で囁く清水さん。なんの話をしていたんだっけ?
そうだ。清水さんのことだもの、美波のことで……
―――――
「もうやめようよ……。こんなこと」
最初から数えたら、もう何度目かわからない清水さんとの関係。
僕たちは毎日のように二人きりで会い、調教と称してセックスや、その真似事をしていた。
「あなたに拒否権はありませんわ。吉井明久」
清水さんは涼しげに言う。
「まあ別に止めても構いませんけれど、その時はここでの行為が公になることでしょうね。……それに」
「もう美春がいなくては収まりがつかないんじゃありませんの?アキ」
「うぅ……」
僕をアキ、と呼ぶ時の清水さんの声は柔らかく、優しい。
行為のときに女装をすることについても、強制なのかそうでないのか、今では曖昧になってきている。
「さ、いつものとおりにやってごらんなさいな」
そう言って清水さんはくるりとスカートを舞わせて見せる。スカートと肌の境界線はどこまで上っていっても尽きない。

「……美春、お姉さま」
ウィッグに瞼を伏せながら、僕は屈服の口上を始める。
「今日もアキは、雄豚の醜い煩悩に頭を支配されてっ、……おチンポっ、チンポがちがちにしたまま
美波お姉さまや姫路さんの傍でイヤらしいことばかり考えてました……っ」
他の誰に聞かれるものでないとわかっていても、恥ずかしいと思う心の動きを止めることは出来なかった。
「このまま、アキが欲望に負けてお姉さまたちにヒドいことをしてしまわないように、美春お姉さまに躾けていただけないでしょうか」
「そのためなら、アキはなんでも、……なんでも言うこと聞きますからっ!お願いします!今日もアキの調教してくださいっ!」
そして、僕は誰に言われるでもなくスカートを持ち上げて、スキンを被せた性器を曝け出す。
これが僕たちの始まりの合図だった。
「今日は、ここを使わせてあげますわ。アキ」
そう言って微笑む清水さんも頬を赤らめている。性器は既に濡れそぼっていて、スカートの中で探り当てるのに時間はかからなかった。
「あんっ」
挿入の瞬間、清水さんは小さく声を上げる。
「相変わらず遠慮というものがありませんのね、アキ」
黒板に背を預けたまま、清水さんはすぐいつも通りの口調に戻っていた。張り詰め、余裕をなくしてしまうのはいつも僕のほうだ。
「一度では許しませんわよ。せめて明日も一日、あなたの欲望を制御しなければいけませんもの」
清水さんはあくまで僕の上に立ち、押さえ込もうという姿勢を崩さない。
けれど、幾度となく体を重ねるうち、きっとそればかりではないだろうと思うようになった。
僕の予感は外れているだろうか。

686 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 20:52:15 ID:HQucGKHy]
今日はここまで。これで美波が乱入したらBAD ENDだな…。ほかも大差ないけど。どうするかなー。
あと684プレビューで改行整理するの忘れた。見にくかったらごめんね。

687 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 21:56:47 ID:cSztYg0x]
なかなかいける。いけるぞ。

688 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 22:56:00 ID:vK+BzNUB]
これは素晴らしい……とってもブリリアントじゃないか!
GJ!美春かわいいよ美春!



689 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/05(土) 22:59:29 ID:PLyHQDFt]
乱入して乱交すればgoodendだ

690 名前:-685 長いお(´・ω・`) [2010/06/06(日) 22:12:11 ID:kUqux5KL]
キーン、コーン、カーン……
僕はクラスの最奥からふたりの女子の背中を追うようになった。座り心地最悪の座布団にきちんと足を揃えて座る美波と姫路さん。
時折、スカートの裾を直す仕草に目が離せない。
隙間だらけの教室の窓から風が吹き込むと、鬱陶しそうに手で避けながら髪を整えるのが可愛いと思う。
けれど、そのすべてが僕の中でとても口に出せないような想像と結びついてしまうのが情けなかった。
「アキ、なんだか苦しそうだけど大丈夫?」
心配そうにうつむく僕の顔を覗き込む美波。僕は小さな唇に目を奪われてしまう。
「ご、ごめんっ!僕、用があるからっ!」
「あっ、アキ!?」
もし美波に僕のを咥えられたら……。一瞬でもそんなことを考えてしまったことが恥ずかしくて乱暴に振り切ってしまった。
Fクラス横の空き教室。人気のなくなったのを確かめて、僕はアキとしてお姉さまを出迎える準備をする。
「待たせましたわね。今日もいい子にしてまして?アキ」

「お姉さまっ!僕……僕もう我慢がっ……」
なぜだろう。最初はとてもひどいことをされたと思っていたのに、今では清水さんだけが僕を救ってくれる希望のように思えた。
清水さんは、欲情を抑えることの出来ない僕の浅ましさを聞いても、決して笑うことなく受け入れてくれる。
「そう、お姉さまがあなたのモノをね……」
こんなふうに?上目づかいに確かめながら、清水さんが僕の脚の間に顔を埋める。
「あっ…!」
痺れるような感覚に腰を浮かせながら、僕は情けない声を上げた。
口腔に熱い性器を包まれながら、ぬらぬらとそこを這う舌の動きだけがリアルだった。
血管の起伏さえ追いかけてきそうな舌先が、僕の性感を捕らえて離さない。
「くぅ……っ」
そしていつも、あと一歩のところで性戯は途絶えてしまう。僕が、彼女に頭を垂れるまでは。
「それが現実になるかどうかは、ひとえにお姉さま次第ですけど……こんなに堪え性のないようではねぇ」
くすくすと笑いながら、一緒に喘ぎそうな僕のものを指で弾く。
「お姉さまで達してごらんなさい。美春の前で、お姉さまを汚すのです」
「そ……んなぁ……」
おかしな、理不尽なことを言うと思った。だって、清水さんは美波のことが好きなのに?
「お姉さまのことが好きではありませんの?お姉さまではお嫌ですの?」
それに、……これは僕が美波や姫路さんにおかしなことをしないようにって……。
「あっ!?」
きゅうっと性器の口が根元から搾られて、僕は思わず声を上げる。
「あなたがそうするのなら美春は胸を張ってお姉さまを愛することが出来ますわ。
……できなければ、あなたを意気地なしだと思うだけです」
くすりと笑って、清水さんはすっと腰を上げた。僕を見下ろすようにして、そのまま動かない。
「……っ!」
僕は意を決して自分自身を持ち上げる。
「……美波っ、美波っ!!」
美波の脚で挟まれることを、美波の唇に触れることを、フラッシュのように思い浮かべながら、自分の性器を弄る。
それまでに刺激を受けていたこともあって、終わりはあっけなく訪れた。
ぽたぽたと白い雫を垂らすのを眺めていると、言いようなく惨めな気持ちになる。
「美春お姉さまぁ……」
僕がか細く彼女を呼ぶのと、ぐちゃぐちゃになったスキンの端を彼女が摘むのが同時だった。
怪訝そうにしていると、ぱしん、と頬が打たれてじんと熱を持つのを感じる。
清水さんは、またにっこりと笑っていた。

691 名前:ageちまった…orz mailto:sage [2010/06/06(日) 22:14:21 ID:kUqux5KL]
「いいこと?吉井明久。あなたは醜い欲望でお姉さまを汚しましたの。己の欲望を満たすためだけに、想像とは言え、
口に出すのもおぞましい痴態をお姉さまに課すような下衆野郎ですのよ?」
「!!?」
ああ、そうだ。大切な友達だったのに。美波を傷つけないようにって、清水さんにあれほど言われたのに。
僕はなにをやっているんだろう。
「お姉さまにふさわしいのは美春だけ。そうですわね?アキ」
そうだよ。美波を愛せるのも、守れるのも、僕なんかじゃなかったんだ。
そう考えると、悔しくて、悲しくて、涙が出てきた。
「そして、罪深い豚のことも美春が愛してあげますわ」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
けれど、美春お姉さまに抱きしめられて、暖かいものが僕の胸の中に戻ってくるのが、わかった。
「ゴムは使い切ってしまいましたわね」
「まあ、出涸らしの茶葉なら水と変わらないでしょう」
今日は肌と肌で繋がってみませんこと?

「あっ……!……んぅ、もぅ!アキったら本当に現金なんですからっ」
「だって!お姉さまとこんな風にするなんて……、思ってなかったから」
何度もイっていたせいで性感の巡りが遅いのか、腰を打ちつけあいながら会話をする余裕ができていた。
本当にそうだ。ほんの少し前まで、こんなことになるなんて思っても見なかったから。
「ふふっ……、他所にかけたりしたら折檻ですからね、アキ?」
「う、ぅえぇ??」
「あら?あなたの汚らしいもので私の玉の肌を汚すつもりですの?」
そ、それって、膣内にってこと?
驚いたのも束の間、捩れたように膣道が狭くなり、根本深くまで挿入していた性器が絞り上げられる。
清水さんは、正常位の姿勢から寝返りをうつように体を横たえ、泳ぐように全身を伸ばして半身になった。
まるで、繋がっている僕まで回転したかと思うような感覚があって、それは未体験の快感だった。
「イきますっ!お姉さまの膣内でイきますっ!」
ガタンッ、
合板の、薄い教室のドアが大きく揺れた。
けれど、僕の意識はそんなものではなく、今や他人の体に没している杭の方にあって、そんなことは気付かなかった。
気付いていたのは、清水さん。
「ふふっ、孕んでしまうかもしれませんわね」
「あ、あのっ!」
僕はその言葉にすっかり動揺してしまうが、清水さんはやはり小さく微笑んだきりだった。
精液を道標のように垂らしながら、ひたひたとドアへ向かい
「そうしたらどうなさいます?お姉さま」
まるで美波に言うように声を掛けて、力強くドアを開けた。
ドア越しに清水さんがそうしたのはまったく正解で、そこには、へたり込むようにして教室の壁に背中を預ける美波の姿があった。
「ここに来るまでに、人払いを確認しませんでしたの?アキ」
問い掛ける清水さんの口調はどこまでも柔らかい。どこか、この状況を楽しんでいるような感じさえある。
美波は夢うつつと言ったような状態で、清水さんに手を引かれるまま部屋の中へと入ってくる。
「どういう、こと?」
僕と清水さんの間に投げかけられた美波の問い掛けは、ややあって清水さんが答えを持たせた。
「予行演習ですわ。すべて、この時のための」
「きゃっ!」

692 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/06(日) 22:15:41 ID:kUqux5KL]
言うが早いか、清水さんは美波を押し倒し、ショーツをまさぐり始めた。
いつも僕を捻り倒している美波とは思えない弱々しい抵抗。
「やっぱり……」
目に涙を溜める美波と笑みを浮かべる清水さん。
「おひとりでしてらっしゃいましたのね。お姉さま」
その瞬間、糸が切れたように、美波の身体が床に沈んだ。
「悔しいですけど、最初は譲りますわ。アキ」
僕は、その視線からすべてを受け取って行動した。
腰に手を掛けると、今まで美波を守っていたものは力なく縮んで落ちた。
すでに赤く充血し、ひくひくと蠢くそこは、ほとんど魔的な何かを帯びて僕の目に飛び込んでくる。
「アキ!やめて!!」
痛いほど擦れ、もうどうすることもできないだろうと思っていた僕の性器は、今再び獣欲を滾らせて立ち上がっていた。

「痛い……、痛いよ、アキぃ」
美波の言葉が、僅かに残る良心に刺さる。
「ふぅ。やっぱり男ってダメダメですのね。いざとなると自分のことばかりで……」
美波の上で呆れるように言う清水さんが、もぞもぞと後ずさって視点を美波の胸の辺りに定めた。
ふりふりと揺れるお尻が可愛い。
「い、嫌ぁ…」
清水さんは美波の上着をまくり、ほとんど千切るようにブラをずり下ろすと、それまでの乱暴さが嘘のように優しく、
美波の乳首を愛撫していく。
胸の上でわずかに持ち上がる乳房をなぞるように唾液をまぶし、掌でそれを延ばすように揉み回す。
僕は体を本能に任せながら、その行為に見とれてしまう。
(綺麗だ……)
「あ……、ん……っ」
やがて美波の吐息のなかに苦悶以外のものが混ざっていく。
「ほら、吉井ももうすぐですわよ」
子供に言い聞かせるようにゆっくりと囁きながら、美波の意識を僕に向ける。
「アキ……。ひとつだけ聞かせて」
ウチのこと、好き?

693 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/06(日) 22:16:29 ID:kUqux5KL]
「ほ、ホントにやるの?」
「何言ってんのよ、今更」
「そうですわ、男らしくありませんわよ」
そう言われても、今の僕は男らしさとはかけ離れた格好をしているわけで……。
「ただいま〜」
わっ!待ってよ美波!まだ心の準備が……。
「おかえりです!お姉ちゃん。……あれ?そっちのお姉ちゃんはお友達ですか?」
「ええ、清水美春と申しますの、よろしくお願いしますわ」
「島田葉月です!よろしくお願いします!それと……」
葉月ちゃんが挙動不審の僕に向く。まずいっ!何か言わないと……。
「吉村……アキです。よろしく……」
「はじめましてですっ!恥ずかしがり家のお姉ちゃん!」
「葉月ぃ。そのコのことは『バカのお姉ちゃん』でいいわよ」
美、美波っ!なんてことを!
「え〜っ……」
言われてもう一度僕を見つめる葉月ちゃん。……ごくり。
「このお姉ちゃん、バカっぽくないです」
「あら、馬子にも衣装ですわね」
「ちょっ、さりげなくひどいこと言わないでよ!清水さん!」
「葉月。お姉ちゃんたちは大事な話があるから、お部屋は開けちゃダメよ」
「はぁ〜い」
バタン、
葉月ちゃんの元気なお返事を背に、甘い拷問の幕は開く。
「美波お姉さま、美春お姉さま。今日もアキはお股の涎が止まりません……。どうかはしたないアキを、たくさん、叱ってください」


おわった

694 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/06(日) 22:19:09 ID:kUqux5KL]
意外としんどかった。
gdgdであんまエロくないねごめんね。
またなんかあったら書くかも。
そんじゃおやすみ。

695 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/06(日) 22:34:13 ID:ncaOIfGK]
清水さん絡みのエロは貴重GJ

696 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/06(日) 23:01:49 ID:NMOuFBME]
>>694
何を仰る!エロ可愛いではないか美春!
貴重な萌えをありがとう!GJ!

697 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/06(日) 23:34:03 ID:YL82iT3a]
アキちゃんが。アキちゃんが!

698 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/07(月) 01:14:35 ID:bFgfm+LQ]
美波も随分あっさり堕ちるね。
まあとにかくGJ!



699 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/07(月) 04:53:41 ID:A31DYizo]
なかなか黒い展開でよかった。

700 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/07(月) 13:10:26 ID:JImXOFnW]
エロくて良かったぜwだが何故だ…
何故アキちゃんのアナルを犯さないんだぁぁぁぁっ!

701 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/07(月) 22:49:14 ID:xIgZe9a1]
葉月ちゃんのエロは犯罪ですか?

702 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 00:13:30 ID:du5NoNkM]
>>701
おk

703 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 00:18:18 ID:fqj+Ax7p]
バチコイ

704 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 00:43:42 ID:Xi/gfbhF]
優子主観で書いてんだけど、過去とかクラスの奴とか、勝手に設定作っちゃっても大丈夫かな?
具体的にいうと、優子のバカ嫌いは過去の〜が原因で、みたいな

705 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 00:51:27 ID:fqj+Ax7p]
注意書きでオリ設定あり、とかにすれば問題はないかと
優子さん大好きなんで期待しちゃいますよー

706 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 00:52:39 ID:GZWQ46Uk]
明秀小説が一応ひと段落ついたんだが…

・エロなし
・日本語でおk部分多数あり
・そもそも話が余りすすんでない

これでもいいなら投下するけど。

707 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 00:59:35 ID:FrQoUu5m]
ひと段落付いてるならおk
エロなしもスレないので可

708 名前:1/4 mailto:sage [2010/06/08(火) 01:04:08 ID:GZWQ46Uk]
んじゃ投下するね。
つーか今気づいたが明秀というより秀明だな、こりゃ。

文月学園 某所

「ムッツリーニ、例の物は用意できたかの?」
「………ここに。」
「うむ、恩に着るぞい。」
「………この程度、俺には造作も無い。」
「クックックック……これでやっと明久をワシのものにできるわい。」
「………明久を呼ぶときは俺も一緒に呼んでくれ。」
「構わんが、どうするのじゃ?」
「………いい絵が撮れそう。」
「……編集し終わったらワシにもダビングしてくれ。」

『秀吉の異常な愛情 または僕が如何にして抵抗するのを止めて秀吉に抱かれるようになったか』

キーンコーンカーンコーン…
「ふう…ようやく終わった。」
いつものように退屈な授業を秀吉とにゃんにゃんする妄想で
切り抜けた僕は、早速帰り支度をしていた。
いよいよ待ちに待った週末だ。姉さんもいないことだし、思いっきり遊んで過ごそう。
そんなウキウキ気分で教科書や筆箱をしまっていると、秀吉が話しかけてきた。
「明久、週末は空いておるか?」
「特に何も予定は無いけど…なんで?」
「今は両親が旅行でいなくてのう。
その上姉上も今日から出かけるらしいのじゃ。」
ってことは……
「週末、秀吉は一人ってこと?」
「うむ。そこでじゃが、週末はワシの家に泊まりに来てくれぬか?
何分一人では不便でのう…」
秀吉と二人っきり…?
しかも、誰もいない家で!?
こんなチャンス逃す手は無い!
授業中の妄想も手伝って僕のビッグマグナムは最高潮に達しつつあった。
「も、勿論行くよ!二人っきりで熱い週末を過ごそうね!」
「二人っきり…?ムッツリーニも来るのじゃが。」



709 名前:2/4 mailto:sage [2010/06/08(火) 01:06:25 ID:GZWQ46Uk]
先ほどまで本物のマグナム銃と見まごう程の大きさに達しかけていた
僕のビッグマグナムはあっという間にデリンジャー並みの大きさに縮んでしまった。
「な、何でムッツリーニまで…?」
「どうしても来たいと言って聞かぬのじゃ。
あそこまで頼まれたら…待て明久!
そのカッターで何をするつもりなのじゃ!?」
「いやあ、ちょっとムッツリーニのリストを軽くカットしてあげるだけだよ。」
「さも大したことじゃないような言い方じゃが間違いなく致命傷じゃからな!?
頼む!後生じゃから止めてくれ!」
「そこまで言うなら……」
秀吉の頼みなら止めるしかないだろう。
ムッツリーニめ、寿命が延びたのを神に感謝するんだな。
「ところで、まさか雄二まで来るなんてことは無いよね……?」
「雄二は霧島と用事があるので来れぬ、と霧島が言っておった。」
よかった…悪友を二人も手に掛けるなんて僕には絶対出来ない所業だ。
一人だったら間違いなく手に掛けていたけど。
「明久君、何の話をしてるんですか?」
「二人で何話し合ってるの?」
そんな僕らの会話が気になったのか、姫路さんと美波が話しかけてきた。
く……これはまずい。迂闊に変なことを言ったら間違いなくお仕置きだろう。
どうやって切り抜けようか。
「いやあ、その……」
「何なの?はっきりしなさいよ!」
僕の態度がはっきりしない事に何かを感じ取ったのか、美波が執拗に問い詰めてきた。
姫路さんは問い詰めこそはしなかったが表情から明らかに僕に対する疑念が見て取れる。
ど、どうしよう…そうだ!秀吉に助けてもらおう!
すかさず秀吉にアイコンタクトを取ると、秀吉は小さく頷いた。
良かった、分かってくれたみたいだ。
「明久はムッツリーニとワシとで熱い週末を過ごすのじゃ。」
………へ?

710 名前:3/4 mailto:sage [2010/06/08(火) 01:10:16 ID:GZWQ46Uk]
「ひひひひひ秀吉!?何を言ってるの!?」
まさか秀吉自らバラすなんて!怒った姫路さんと美波の怖さは秀吉も分かってるはずなのに!
「……アキ?どういうことかしら?」
「私達が納得できる説明をお願いしますね、明久君。」
その顔はどう考えても説明しても納得してくれない顔だよ!
「まさか明久君が木下君と土屋君にまで手を出していたなんて…」
「アキは坂本一筋だと思ってたのに…」
「ちょっとぉぉぉぉぉ!ホモ疑惑は否定しないの!?
二人とも一体僕をどんな目で見てるのさ!?」
二人はそんな子じゃないと信じてたのに…
「まぁまぁ、姫路も島田も落ち着くのじゃ。」
爆弾発言をかました当の本人は反省の色一つ見せずに落ち着き払っている。
流石演劇部のホープなだけあるなあ。この状況下じゃまったく褒められないけど。
「落ち着くも何も…」
「ちょっと二人に話があるのじゃが、廊下まで来てくれぬか?」
なおも二人は食い下がろうとしたが、秀吉の真剣な表情を見ると
黙って頷いて秀吉と一緒に廊下に出て行った。
しかし、あんな真剣な顔した秀吉を見るのは初めてだ。
一体どんな話なんだろう?

「ワシが明久の……に……を……する……」

「まさか……木下君が……そんな過激なことを…」

「可愛い顔してやることはとんでもないわ…」

「明久の……写真をお主らに……」

「「本当に(ですか)!?」」

711 名前:4/4 mailto:sage [2010/06/08(火) 01:14:20 ID:GZWQ46Uk]
何の話をしてるかさっぱり分からないけど
なにやら三人とも興奮している様子だ。
姫路さんと美波をそんなに興奮させるなんて
秀吉は二人に何を話したんだろうか。
しばらくすると三人は戻ってきたが
姫路さんと美波の顔は熟れたリンゴよろしく真っ赤になっていた。
うーむ……何の話だったのか気になる……
「アキ、さっきは怒ったりしてごめんね?」
「明久君……あんな酷い言ってごめんなさい。」
おまけに機嫌まで元通りだ。
「ウチ達のことはいいから木下や土屋とのんびりしたら?」
美波が僕にそんな優しい言葉を!?!どういう風の吹き回しだろうか?
「美波、一体どうしたの?なんか変だよ?」
まさか胸が肘がちぎれるぅぅぅぅぅぅぅ!」
この痛み、やっぱりいつもの美波だ。
「いちいちうるさいわね!気を使う事ぐらい
ウチにだってできるわよ!」
「美波ちゃん、落ち着いて…
とにかく明久君、週末は皆さんでゆっくりしてください。
ただでさえ最近は忙しいみたいですし。」
姫路さん……なんて優しいんだ…
「ありがとう二人とも!
僕、楽しんでくるね!」
二人も認めてくれたことだし、ようやく気兼ねなく秀吉の家に――――――

トスットスットスッ!(←僕の頬を何本ものカッターがかすめる音)

―――――― 行けなさそうだ。

TO BE CONTINUED……

712 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 01:17:54 ID:GZWQ46Uk]
この先秀吉による明久の処女略奪劇場を予定してるけど
ぶっちゃけると秀吉・ムッツリーニ・明久以外の出番はないと思う。

713 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 01:27:17 ID:FrQoUu5m]
>>712
乙。続き期待してる

714 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 02:20:18 ID:4oCnSDXM]
>>712
別に他の皆の出番はなくても問題ないぜw
期待してます

715 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 07:24:32 ID:Vkd0GY3q]
>>712
乙!!期待

716 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 22:41:26 ID:4F54qOTT]
あれ?久保君は?

717 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 23:44:23 ID:8nGn9dnE]
投下させていただきます

  ・明久×優子
  ・エロ無し
  ・優子の性格が丸め

エロ無しで申し訳ありませんがよろしくお願いします
 「勘違いから始まる恋もある」 序章 
次レスより投下します

718 名前:勘違いから始まる恋もある mailto:sage [2010/06/08(火) 23:49:48 ID:8nGn9dnE]
「はぁ……」
学校からの帰り道、ついため息がこぼれる。
今日も疲れたなぁ。特別なイベントがあったわけでもないのに何故か疲労は溜まる一方だ。
朝から僕が美波に (雄二曰く) 失礼な事を言ってしまったらしく関節をおもいっきり極められた上にかなり怒られた。
昼には姫路さんが僕のところまで来て、天使ようなの笑顔で
『明久君。お弁当作りすぎちゃったので食べてくれませんか?』
と言ってくれた。目の前のかわいらしい弁当箱の中身はどう見ても一人分で、雄二達を巻き込む事もできずに一人で死地に旅立つしかなかった。
そんなわけで今日の午後は保健室で過ごすことになったんだけど、
「これぐらいならいつものことだったんだけどなぁ……」
結局放課後まで保険室にいたら、雄二が来てくれた。
帰る前に一応体温を測っておこうと思ったんだけど、体がうまく動かなかったから雄二に頼んだ。
雄二は面倒くさそうにしてたけど、弁当の件の罪悪感があったのかしぶしぶながら体温計を脇に挟もうとしてくれたところでふとドアの方を見ると――
頬を軽く染めながらも怒りの表情を隠さない美波と、何故か恐怖を感じる笑顔を浮かべた姫路さんが立っていた。
状況だけを見れば、僕は(体温計を挟むために)シャツのボタンを二つ程外していて、雄二はベットの上に軽く乗り出して僕の胸元に手を伸ばしている状態だ。
ともすれば誤解されそうなシチュエーションだけど、僕も雄二も性別はれっきとした男だ。変な勘違いをする人はいないだろう。
『やっぱりアキは坂本のことが好きなの!? ウチは一体どうすればいいのよっ!』
『男の子同士でなんていけません! 明久君にはちゃんと女の子を好きになってもらわないと困りますっ!』
と思ったのに何故か二人から一時間以上の説教を受けて、もう僕はボロボロだ。雄二はいつの間にか逃げちゃったし……。
「はぁ……」
またため息をつく。
最近、姫路さんや美波の思考がとても悪い方向に染まっている気がする。いくら雄二とはそんな関係じゃないと説明しても分かってもらえないんだよなぁ。
なんて言うか……、癒しがほしい。なんてことを考えてたら見知った顔を見つけた。あれは……
「おーい、秀吉ー」
帰り道に秀吉に会えるなんてついてる!普段は部活のある秀吉と一緒に帰れることは少ないしね。
「あら、あなたは……」
「秀吉は今まで部活? 大変だね。よかったら一緒に帰ろうよ」
「いや、アタシは」
「そういえば聞いてよ秀吉。さっき保健室で美波と姫路さんがね……」
「だから秀吉じゃ……」
「ひどいと思わない? そんなことあるはずないのに……って秀吉?」
何故か秀吉は顔を俯けてプルプルと震えている。もしかして具合が悪いんだろうか、よく見れば耳も少し赤くなってる。
「秀吉? どこか具合が」
そこまで言ったところで右腕をつかまれた。
「ひ、秀吉? なんで腕を、ってあれ感触がいつもより柔らかいたたたたたぁぁぁ!!関節が逆に!」
「だから秀吉じゃなくて優子よ! いい加減にしなさいっ」




719 名前:勘違いから始まる恋もある mailto:sage [2010/06/08(火) 23:51:32 ID:8nGn9dnE]
ようやく腕を解放された僕は改めて木下さんに向き直る。
「ごめん。お姉さんのほうだとは思わなくて」
木下さんは息を整え、僕のほうをチラッと見てから
「分かればいいのよ」
全く……、なんて言って鞄を持ち直す。
しかし、見れば見るほど秀吉とそっくりだよなぁ。双子ってここまで似るもんなんだろうか、なんて考えていると、まだ少し機嫌悪そうに木下さんが口を開く。
「ていうか、顔見て判別しろとは言わないけど、制服が違うんだから気付きなさいよね」
確かに木下さんは普段の秀吉とは違い、(当たり前だけど)女子用の制服に身を包んでいる。
「いやぁ、秀吉ってたまに演劇の衣装のまま帰ってる時があるからさ。今日もそうなのかと思って」
と言い訳をすると、何故か木下さんは聞き逃せない事でも聞いたかのように表情を強張らせる。
「吉井君。今の話詳しく聞かせてもらえないかしら?」
口調こそ穏やかだけど、すでに右腕はロックされている。
「い、いやぁもう帰らないといけないし」
「まだ明るいし大丈夫よ。そこの喫茶店でも行きましょう」
逃げられないことを悟った僕は、仕方なく木下さんについていくことにした。

店内に入り、木下さんと向かい合って座った。
とっくに腕は放してくれているけど、帰らせてくれる気配は全くない。ウェイトレスに注文を済ませた木下さんはこちらに向き直る。
「さーて、あらいざらい話してもらいましょうか」
と言って、話を始めようとしたところで何かに気づいたようにして、問いかけてきた。
「あれ、吉井君は何も頼まないの?」
僕がメニューも見てないのを疑問に思ったようだ。だけど正直、喫茶店で飲食する余裕なんてない。
「うん、僕は水だけでいいよ」
まあ、水があるだけ十分だしね。
「ああ、そういえば吉井君は常に金欠らしいって秀吉が言ってたわね。アタシが奢るから気にしないで注文していいわよ」
「ええっ! さすがにそれは悪いよ」
「いいのよ。話が聞きたくてアタシが誘ったんだから。それに普段ろくなもの食べてないんでしょ? なんなら食べ物も頼んだら?」
いくらなんでも申し訳ないと思ったんだけど、木下さんはメニューを開いて強引に決めさせて注文してしまった。
「さーて、対価に料理が来るまできっちり話を聞かせてもらうわよ」
悪戯っぽく微笑む木下さんは本当に美人だと僕は思った。

720 名前:勘違いから始まる恋もある mailto:sage [2010/06/08(火) 23:53:10 ID:8nGn9dnE]
「うん、だからね衣装を着ていたかったんじゃなくて、練習に熱中しすぎて下校時間を忘れちゃうんだって。それで着替える時間がなかったりするらしいよ」
「どれだけ演劇バカなのよ……。というか、それでも着替えくらいはしてきなさいよね。たまに、ただいまも言わないで部屋に行くのはそういうわけだったのね」
結局雑談に花が咲き、本命の会話ができたのは僕がパスタを食べ終わる頃だった。店に入る時は正直怖かったけど、いろいろ話したせいか雰囲気も悪くない。
「他にはバカなことやってたりしない? 正直Fクラスでどんな風に過ごしてるのか分かんないのよ」
「えーっと、ははは」
文化祭のチャイナドレスとかは知ってると思うけど、女の子物の水着を着ていたこととかは言ったらまずいんだろうなぁ……。
姉を持つ者として、姉に自分の学校生活がばれた時の恐ろしさは骨身にしみている。あの時秀吉は喋らないでくれたし、ここは気を強く持って
「吉井君? 隠すとあいつのためにならないし、アタシも誰かの関節を曲げたくなってきちゃうかもしれないのよねぇ」
ゴメン、秀吉。耐えきれないかもしれない……。
「なんてね、冗談よ。確かにやめてほしいことはあるけど、細かくグチグチ言うつもりはないしね」
なんて言って笑ってくれた。半分わかっていて目を瞑ってくれるんだろう、もしかしたら木下さんは結構優しい人なのかもしれない。
「ねぇ、それよりさっきの海に行った時の話とか聞かせてよ。楽しそうじゃない」
「あ、うん。そのときは僕の姉さんが車を運転してね……」

「あはははは! なによそれ、なんで吉井君達が女装するのよ!」
まさにお腹を抱えてって表現がふさわしいくらい木下さんは大笑いしている。
「だって! 仕方なかったんだよ。あの時の女子達には逆らえるような状況じゃなかったんだってば」
「だからって女装してコンテストに出るなんて……っぷぷ、ごめんやっぱり堪えられないわ。もー勘弁してよ」
僕もそろそろ勘弁してほしい。調子に乗って話し過ぎなければよかった。あの時のことを思い出して、古傷を抉られている気分だ。
「Fクラス代表の坂本君も女装したんでしょ? 写真とか残ってないの?」
「ないない! 絶対無いよ」
あの時はムッツリーニもこっち側だったから残ってないハズ……、いや、もしかして姉さんだったら……、マズイ帰ったら早急に探さなきゃ。
「あーもう、あらもうこんな時間」
ひとしきり笑って落ち着いた木下さんは、腕時計を見てそう言った。確かにもう陽もほとんど落ちている。
「そろそろ出ましょう。さすがにこれ以上遅くなるとまずいわ」
「そうだね」

721 名前:勘違いから始まる恋もある mailto:sage [2010/06/08(火) 23:55:06 ID:8nGn9dnE]
会計は約束通り木下さんが全部支払った。でもやっぱり悪い気がして、木下さんを送りながらの帰り道、それとなく切り出してみた。
「ねえ木下さん。やっぱり僕の食べた分は払うよ」
「なによ、まだ言ってるの? 私が話を聞かせてってお願いしたんだから気にしなくていいわよ」
先程と同じように軽くあしらわれる。でもやっぱり釣り合ってないと思う。
「うん。でも僕は木下さんと話してて楽しかったし、僕ばっかり得して割に合わないと思うんだ」
そう言うと、木下さんはなぜか驚いたような顔でこっちを見てすぐに目をそらした。
「そ、それは良かったじゃない。アタシも結構楽かったし……」
なにやら小さな声で喋ってるけどよく聞こえない。
そういえば美波もよくこういう状態になるんだよね。女の子特有の喋り方なのかな?
木下さんは小さく息をついて、こっちに視線を戻した。
「そうね、じゃあ代わりにひとつお願いを聞いてもらおうかしら。携帯出してくれる?」
言われたとおりにポケットから携帯電話を取り出す。でも携帯なんて何に使うんだろう……ってまさか。
「ま、待って。写真は本当に入ってないよ!?」
もしかして女装の写真を渡せって言われるんじゃないだろうか。無いものは渡せないし、そもそもあったら僕は社会的に死ぬ。
僕の慌てる姿を見て木下さんはさっきと同じように一瞬驚いたような顔をすると、今度は軽く苦笑した。
「ふふ、違うわよ。いいから貸して。」
僕の携帯を手に取り開いて操作をし始める。
「あ、同じメーカーの機種ね。これならっと……」
カチカチとボタン操作をした後、いつの間にか取り出していた木下さんのものであろう携帯と向き合わせて……ってこれは赤外線通信?
「よしっ、完了。はい、アタシの番号とアドレスちゃんと登録されてる?」
「うん、ちゃんと登録されてるよ」
って、あれ?木下さんのお願いってアドレス交換ってこと?
「じゃあ、これからたまにメールとかするからFクラスでのこととかまた教えてよ」
なるほど。つまり監視役みたいなものか。うーん、でも秀吉のことを告げ口するみたいな真似はちょっと気がひけるなぁ。
「秀吉のことを言いたくないなら、今日みたいに面白いことを話してくれれば許してあげるわよ?」
僕の考えを読んだみたいに、笑みを浮かべながら木下さんが付け足す。もしかしたら監視なんて目的じゃなく、僕らのバカな話が聞いてみたいだけなのかもしれない。
「わかったよ。なるべく面白い話を用意しておくね」
「ええ、楽しみにしてるわ。うちはもうすぐそこだから、ここまででいいわ。ありがとう」
「うん。じゃあまたね、木下さん」
「またね、吉井君」

722 名前:勘違いから始まる恋もある mailto:sage [2010/06/08(火) 23:57:09 ID:8nGn9dnE]
運動したわけでもないのに鼓動が少し速い。
玄関のドアを閉めて、ただいまと発声する前に深く深呼吸をして気持ちを落ち着ける。……顔赤くなってないわよね。
「姉上か、おかえりなのじゃ。どうかしたのかのぅ?」
ドアの音がしたのに声が聞こえてこないのを不思議に思ったのだろう。アタシと瓜二つの顔を持つ弟が玄関まで様子を見にきた。
「なんでもないわよ、ただいま秀吉」
努めて平静を装って返事を返す。なんとか普通に喋れたようだ。秀吉は特に気にもせず会話を続ける。
「姉上にしては珍しく遅かったのう。もう夕飯もできておるぞい」
「そう。着替えたらすぐ行くわ」
「今日は用事があるとは聞いていなかったのじゃが、何かあったのかの?」
「別に? ちょっと本屋に寄ってきただけよ」
「……また乙女小説なのかのぅ」
「それは通販で買ってるの知ってるでしょ。それにアタシだって普通の本も読むわ。ていうか人の趣味にいちいち口出ししないで頂戴」
口煩い弟を振り切って二階の自分の部屋に入る。鞄は椅子の上に置いて、着替えもせずにベットに倒れ込む。
今日のアタシはちょっとおかしい。吉井君からあのバカの話を聞こうとしたのはともかく、人の話にあんなに大声で笑って、帰り際には……。
スカートのポケットから携帯電話を取り出してアドレス帳を開く。あまり登録数の多くないヤ行に新しく登録された名前。
アドレス帳の中には男の子のものもあるけど、自分から男子にメールアドレス聞いたのは初めてだな……。
頬が熱を持ってる気がする。ま、まあ、弟のクラスメイトでもあるんだし仲良くしたっていいわよね。
でも……、
「楽しかったな……」
あんなに笑ったのはホントに久しぶり。別に常に優秀であろうとか、お堅く生きてきたつもりはないんだけど。
楽しそうに話す吉井君を見て少しだけ羨ましくなっちゃったのも事実。ついでにうちの馬鹿弟にまで同じ感情を持ってしまったのはちょっとくやしい。
ま、それはそれとして。
「彼に惚れちゃったら大変そうよね」
思わず笑いが零れる。海での話も何故女の子達が怒っていたのかの根本的な理由は分かっていないのだろう。
多分かなりの鈍感。その上、無自覚でああいうことを――木下さんと話してて楽しかったし、僕ばっかり得して――あ、ヤバい。今確実に顔赤い。
手に持ってる携帯の画面をもう一度見据える。アドレス交換してすぐその日にメールするのはどうなのかしらね。
ちょっと悩んだけど一通だけならと思って文章を打ち始める。意外とすらすらと言葉が出てきたことに少しだけ驚いた。
出来上がった文面をもう一度見直して、ほんの少し躊躇してから意を決して送信ボタンを押す。送信完了の画面が出てからまた内容を見直すと、ちょっとだけ恥ずかしい気がする。
返事はすぐ来るのかな。それとも……コンコンコン。
「姉上? 夕飯が冷めてしまうぞい」
「はいはい、いま行くから」
携帯はベットに置いたまま、部屋着のスウェットに手早く着替えてリビングに向かおうとドアを開けた。
ドアを閉める直前に何気なくベットの上を見ると、携帯のランプがメールの受信を知らせていた。

続く

723 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/08(火) 23:58:56 ID:8nGn9dnE]
以上です。

次回予定 「二人きりの勉強会」編
書けたらまた投下しますのでよろしくお願いします。

724 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 00:34:34 ID:4ZB4FLBO]
よくやった!GJじゃ!
はよ続きを!

725 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 00:46:41 ID:Vby/cjYU]
なんという純なストーリーだ!
続きに期待GJ!

726 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 02:12:53 ID:TSHiq9Hz]
これは期待が高まりますね
純愛さいこー

GJ!

727 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 06:54:38 ID:tittK1kE]
GJ!
続き楽しみすぎる

728 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 17:37:55 ID:lQnoC6wz]
GJです!!!



729 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 18:18:00 ID:OVREKHfP]
優子ってツンデレだよね?

730 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 18:35:49 ID:kBfCsOrY]
このまま優子と明久が付き合ってそこに秀吉が割り込んで3Pに

731 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 18:38:12 ID:H2iIP+gw]
秀吉が優子と明久を侍らせるだと・・・?

732 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 20:32:28 ID:5XCqAYjs]
>>729
ツンデレはちょっと違う気がする
暴力は振るうけど別に態度がキツいわけじゃない、というか態度はむしろいい方

733 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 22:21:06 ID:9gdc5o5v]
要するに気恥ずかしくて素直になれない女の子だよな、明久が押せば倒れる

734 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 23:44:41 ID:lW7OzD0w]
優子さんは明久には基本的に暴力を振るわない
原作にあったのは例外

せんたく板は暴力が趣味、コミュニケーション

735 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/09(水) 23:52:53 ID:aMdoqp+K]
ここからの展開が楽しみすぐるw

736 名前:717 mailto:sage [2010/06/10(木) 22:34:16 ID:Ho54L3tj]
717です。前回の明久×優子の続きを投下させていただきます。

 非エロ
 優子の性格が丸め

それと、今回から原作に対する独自解釈とオリ設定を若干含みます。
これらが苦手な方はご注意ください。
 「勘違いから始まる恋もある」
  二人きりの勉強会 前編
次レスより投下します。

737 名前:二人きりの勉強会 前編 mailto:sage [2010/06/10(木) 22:36:04 ID:Ho54L3tj]
「ねえ、さすがに酷すぎると思わない!? あのバカ河原でメイドの服着て発声練習してたのよ!?」
「あはは……、確かにそれはマズイと思うけど、今回の役はやりがいがあるって秀吉すごく張り切ってたみたいだしさ」
「それにしたって限度ってものがあるでしょう! 他人から見たらどうやっても頭が残念な子にしか見えないじゃない!」
電話口から聞こえてくる木下さんの声は興奮冷めやらぬといった感じだ。まあ、今回の件は僕でもちょっとどうかと思うしなぁ。
それとは別に、秀吉のメイド服はぜひ見てみたい。きっとものすごく似合うんだろうなあ。
「ほんとにアイツは……、アタシと同じ顔してるって自覚が足りないのよ! 私にまで変な噂が立ったらどうしてくれるつもりなのよ」
若干手遅れな気がしないでもない。そういえば一時期木下さんは下着を穿かない人らしいなんて噂があったんだけど、あれも秀吉が関係してるんだろうか。
……ちょっとだけ妄想してしまったのは健全な男子高校生なら仕方のないことだと思う。
「全く……バカって言葉が相応しいわ。熱中すると周りのこと全然見えなくなるんだから……って、聞いてる? 吉井君」
「あ、うん。聞いてる聞いてる」
危ない危ない。妄想の世界から戻れなくなるところだった。
「なんかごめんね? 一方的に喋っちゃって……」
「ううん。そんなことないよ」
喫茶店でいろいろ話したあの日から、木下さんとはよく話をしている。
とはいっても、直接会うなんてことはほとんどない。たまに学校で見かけても挨拶がてら喋るくらいだし。
会話手段はメールや電話。それも最初はメールだけだったんだけど、最近は電話も週に二、三回かかってくる。
内容も最初の頃は僕やFクラスでの話がメインだったんだけど、徐々に木下さんも自分のことなんかを話してくれるようになった。
共通の話題ってことで秀吉のこともよく話す。今日みたいに愚痴を聞かされることもあるんだけどね。
でも、最初に持っていたイメージより棘も少なく、何よりすごく楽しそうに話してくれる木下さんとの会話を、僕も楽しみにするようになっていた。
「なんかあいつの話すると愚痴ばっかりになっちゃうわね……。」
「大丈夫、そんなに気にしないでよ。でも、秀吉に直接注意したりはしないの?」
「え? もちろんしたわよ? ついでに曲がらないとこまで関節を曲げてあげたし」
その痛みを容易に想像できる自分が悲しい。
「でも反省はしてるみたいだけど、たぶん行動を改める気はないのよね……。またそのうち似たようなことで注意することになりそうだわ」
「あはは、秀吉は演技のことに関しては頑固だからねえ」
「こっちは笑い事じゃないのよもう……」
「どうにかするには秀吉を演劇から切り離すくらいしないとダメそうだよね」
冗談めかして言ってみた。
まあ、秀吉は誰に言われてもやめないだろうなぁなんて呑気に考えていると、なぜか木下さんは慌てたように口を開いた。

738 名前:二人きりの勉強会 前編 mailto:sage [2010/06/10(木) 22:39:00 ID:Ho54L3tj]
「あ、いやそこまで言うつもりは無いのよ? ほ、ほら確かにバカはバカなんだけど、あれはあれで頑張ってるみたいだし」
「あ、うん」
「部活動に全力で打ち込むっていうのも高校生の特権みたいなものだしさ、だからそれはそれで悪くないっていうか……」
「そうだね。秀吉すごく頑張ってるよね」
「いや、その……そう、かもしれないわね」
木下さんも理解はあるみたいだ。迷惑を被っててもこんな風に言えるなんて……。
失礼かもしれないけど、正直意外だ。
「ちょっと意外だな。木下さんってそういうのを良く思ってないのかと思ってたよ」
「……そうね、正直ちょっと前までは勉強を疎かにしてあんなことばっかりしてるのはいただけないって思ってたんだけど」
耳が痛くなるワードが聞こえた気がするけど気にしないでおこう。
「ちょっと前にね、秀吉にお願いをしたことがあったの。自分の体裁を守るようなことに秀吉を体よく使っちゃったんだけどね」
自身の失敗談を話すみたいに、木下さんは少し恥ずかしそうにしながら話を切り出した。
「その時のあいつを見て、アタシの考えって偏屈……っていうか、すごく視野の狭いものだったんだなーって思ったの」
話に相槌を打ちながら、木下さんって透き通ったすごく綺麗な声してるんだななんてことを考えてた。
「アタシはあいつに出来ないことがたくさん出来る。でもなんてことはなくて、あいつもアタシにできないことを難なくやってのけたのよ」
散々迷惑もかけられたんだけどね。と、苦笑しながら付け足す。
「くだらないってレッテル貼ってたものに悩まされて、バカだって思ってた弟に助けられたアタシはなんなんだってね。あの時は結構恥ずかしかったわよ」
「そっか、木下さんでもそういうこともあるんだね」
「ええ、まあね。ていうかなんで話しちゃったんだろう。この話秘密にしといてね、吉井君以外には誰にも話してないんだから」
「え、う、うん。わかったよ」
「うん。お願いね」
ちょっとドキッっとした。最近少しづつ仲良くなっている気はしてたけど、こんな風に話してくれるなんて。
ちょっと言葉に詰まっちゃったけど、流してくれて助かった。
「ま、だからって勉強を疎かにしていいわけじゃないんだけどね。テストも近いわけだし、練習があるとはいえあいつにも勉強させなきゃ」
そういえば、テストまでもう一ヶ月もない。
うう……頭が痛いなぁ。ひどい点を取れば姉さんにどんなお仕置きをされることやら。



739 名前:二人きりの勉強会 前編 mailto:sage [2010/06/10(木) 22:40:44 ID:Ho54L3tj]
「吉井君はテスト大丈夫なの?」
「あはは……」
「そう、ダメそうなのね」
何故分かったんだろう。
するとなにやら木下さんは考え事をしているみたいに小さく唸った。
「うーん、じゃ、じゃあさ今度の日曜日に勉強会でもしない?」
「勉強会?」
「そ、そうよ。ほら、一人でやるより分かんないところを聞けたほうが効率いいでしょう?」
うーん、確かにそうかもしれないけど。
「でも木下さんに迷惑じゃないかな?」
Aクラスの木下さんに教えてもらえるのはありがたいけど、僕が木下さんに教えられることなんて何一つないからメリットはないだろうし。
「ううん、そんなことはないわ。教えるのって自分の勉強にもなるし、秀吉にも勉強させたいから吉井君が来てくれれば、二人きりよりあいつも勉強する気になると思うし」
うーん、せっかくの休みに勉強したいなんて思わないけど、こんな機会はそうそうないしなぁ。
前回のテストの時もみんなで勉強していろいろ教えてもらえたから、(名前のミスさえなければ)割と点を取れたわけだし。
なにより今まであまり交流のなかった木下さんが、こんな風に心配して誘ってくれたのはすごく嬉しい。だったらせっかくだし……。
「うん、じゃあ大変かもしれないけどお願いしてもいいかな」
「う、うん! まかせて。Aクラス並にしてあげるわよ!」
それは、さすがに無謀なんじゃないだろうか。
「場所はどうしようか? 秀吉が場所知ってるし、スペースもそれなりにあるから僕の家はどうかな」
今は姉さんもいないし問題はない。そうすると部屋を掃除しなきゃいけないな。
「いやっ、ちょっとそれは……その」
「? ダメかな?」
「ダ、ダメっていうかまだ早いっていうか……」ゴニョゴニョ
何て言ってるんだろう? ちょっとよく聞こえない。
「木下さん?」
「そ、そうよ! 吉井君の家には参考書とか無いでしょう? 家にならあるからうちでしましょう!?」
あ、なるほど。そんなこと全然思いつかなかった。
「確かにそうだね。じゃあお邪魔してもいい……」
あれ? ちょっと待って。僕が木下さんの家に行くってことは……。うわっどうしよう。
「よ、吉井君どうかした?」
「い、いやその……女の子二人の家に僕が一人でお邪魔してもいいのかなって」
「……ちょっと待ちなさい。どう計算しても女はアタシ一人のはずよね?」
いやいや、ただの勉強会なんだ。変な考えを持ったら誘ってくれた木下さんに失礼だ。
でも、女の子の家に一人で行くのは初めてだし……。
「吉井君? ねえ、ちょっと聞いてる? あいつは男だからね!? ねえってば!!」

740 名前:二人きりの勉強会 前編 mailto:sage [2010/06/10(木) 22:42:30 ID:Ho54L3tj]
役目を終えた携帯を充電コードに繋ぐ。
「もう……確かに双子とはいえ女の子っぽい顔してるけど」
全く同じつくりの顔はともかく、無頓着な割に綺麗な肌とかに女のアタシが嫉妬しちゃったりすることはあるんだけど……。
正直、その認識は割と本気で改めてほしい。
乙女小説を読んでる私が言えることじゃないかもしれないけど、吉井君と秀吉が万が一「そう」なったらと思うと笑えない。やっぱりあれはフィクションだからこそよね。
ちょっとだけ頭が痛くなった。そして、それ以上に頬が熱をもってきた。
「誘っちゃった……」
実は以前から計画だけはしていた。
最近、吉井君とは少しづつ仲良くなれてる。ほとんど電話はアタシからだけど、メールは吉井君からもしてくれるようになった。
吉井君と話すのは楽しい。今までだったら恥ずかしくて人には言えなかった秀吉のバカな行動も話の種にして、あんなに大声で話しちゃった。
自分のことを見直すキッカケになった出来事も、内容はぼかしたけど喋っちゃったし。
どうもアタシは吉井君に対してガードが緩いみたい。
そもそも吉井君だって悪い。バカバカ言われてるのに、話すことは面白いし、私の話はちゃんと聞いて返してくれるし、なにより優しいし……。
自分の思考のダメっぷりにさらに顔が熱くなる。なんていうかこれはもう……。
違う違う! うん、たぶんそういうことじゃないハズ。大丈夫大丈夫、落ち着け私。
まあ、せっかく仲良くなれたのになかなか直接話す機会がなかったのよね。
見かけたら挨拶くらいはするんだけど、吉井君の周りっていつも人がいるからちょっと話しかけづらいってのもあるのよ。
坂本君、土屋君、うちの愚弟もいるし、姫路さんや島田さんもよくいるわね。
あとは吉井君と話してるわけじゃないんだけど、うちのクラスの久保君と、名前は分からないけど確かDクラスの女の子もよく見かけるのよね。
はぁ……、代表みたいに気にせず行ければいいんだけどな。
ま、でも約束もできたんだし前向きにいこう。さてと、じゃあ今のうちにっと。

741 名前:二人きりの勉強会 前編 mailto:sage [2010/06/10(木) 22:43:47 ID:Ho54L3tj]
コンコンコン
「秀吉。入るわよ」
む、姉上か。いいぞい。
弟の返事を確認してドアを開ける。
「何か用かの?」
「うん、まあね。あんた今度の日曜暇よね?」
「うむ、部活もないしの。」
「じゃあ、その日開けといてね勉強するから」
「? 姉上が勉強するのと儂になんの関係あるのじゃ?」
「なに言ってんの。アンタも一緒に勉強するのよ」
「え゛っ」
どういう反応よそれ。
「なんて声出してるのよアンタ」
「い、いや儂は別にいいのじゃ」
「ふーん、そう。知らなかったわ。テストも近いけど勉強しなくても余裕なくらいアンタ頭良かったのね」
「いや、そうではなくて……」
わかりやすく狼狽してるわね。そこまで勉強したくないのかしら。
「なによ、あたしが教えてあげるんだから喜びなさいよ。どうせアンタ一人で勉強しても、たいしてはかどらないでしょうに」
「その……怒らないで聞いてくれるかの?」
そう上目遣いで聞いてくる秀吉。……無駄に可愛いわね、これってナルシストになるのかしら。
「とりあえず、言ってみなさい。怒るかどうかはそれから判断するから」
秀吉はなにやら随分言いにくそうにしながら口を開く。
「昔、姉上に勉強を教えてほしいと頼んだ時にかなりキツく言われた覚えがあるのじゃ。じゃから、少々驚いてしまっての」
……確かにそんなことがあったわね。あれは中一の頃だったかしら。
あの頃から既に学力の差は明確で、秀吉の事を見下していたような気がする。
うーん、でも……。
「それは覚えてるけど、そんなにヒドイこと言ったかしら?」
すると秀吉は胸に手を当てて、ひとつ深呼吸をした。
『ハァ? なんでアタシがあんたの勉強なんか見てあげなきゃなんないのよ。勉強できないのは自業自得でしょう。そんなことで私の手を煩わせないで』
「と、言われたのじゃ」
……うん、まあ我ながら確かにきついなぁって思うけど、いちいち声真似までしなくていいわよ。
ていうか、数年前のことをそんなに明確に覚えてるって、何気に根に持ってるのかしら?
「確かに姉上が教えてくれるなら助かるのじゃが、なぜ急に? と疑問に思っての」
「どうでもいいでしょそんなこと。もう来年は三年生になるんだからアンタがいつまでも成績悪いままじゃ父さん達も心配するでしょ」
一応理由はあるんだけどね。たとえ誰に言おうが、アンタにだけは絶対教えてあげないわよ。
「そうじゃの。ではお願いするぞい姉上、ついでにこの宿題も教えてくれると……」
「ダメよ。宿題くらい自分でやりなさい」
「姉上はケチなのじゃ……」
うるさいわね、宿題を教えてもらったら意味ないでしょうが。恨みがましい視線を向けてくるバカは無視して自室に戻る。

742 名前:二人きりの勉強会 前編 mailto:sage [2010/06/10(木) 22:44:59 ID:Ho54L3tj]
「ふう……」
ベットに腰かけて携帯をチェックする。
お、新着メール一件。送り主は……予想通りの人物。
『日曜日は10時頃お邪魔するね。なにか飲み物でも持って行くよ。』
吉井君て意外と気を遣うのよね、気にしなくてもいいのに。
自然と頬が緩む。えーと、『わかったわ、教科書とかも忘れないでね』っと、送信。
はぁ……秀吉に吉井君も来るって言えなかったな。さらっと言えれば良かったんだけど、下手に追及されたら冷静に返せなさそうだし。
まあ、その日に言えばいいわよね。それより当日の事考えなきゃね。吉井君に苦手なとことか聞いとこうかしら。
そんなことを考えながら、ふと本棚のほうに目を移して……青ざめた。
ちょ、ちょっと待って。アタシこの部屋に吉井君を呼ぶつもり!?
男の子を部屋に入れるのが恥ずかしいとか言う前に、見せられないような小説やら、つい買ってしまったグッズやら致命傷クラスの危険物がたくさんある。
マズイ、これだけは見られたくない。特に吉井君には絶対に。押入れに全部入れられるかしら。
いっそ、秀吉の部屋でやるべきかな。でも、あいつの部屋にも参考書なんて全然置いてないし……。
しょうがない、ダンボールに入れて押入れに隠しておくしかないわ。入りきるかしらねコレ……。
結局この日は夜遅くまで部屋の整理をしなければならなかった。

「はぁふ……、眠いわね」
本日は日曜日。現在時刻は八時半、朝食も食べ終えたし身だしなみも整えた。時間には十分余裕がある。
昨日も確認のためのメールしたんだけど……、その後あまりよく眠れなかったのよね。
なんていうか遠足前の小学生じゃないんだから。と、自分自身にツッコミを入れたくなる。
父さんと母さんは朝早くから出かけて行った。帰りも遅いらしいしちょうどよかったわね。
「はあ……、なんか緊張するな」
男の子を家に呼ぶのは初めてだし。まあ、勉強が目的だし秀吉もいるから二人きりってわけじゃないし大丈夫よね!
唐突に誰かが階段を慌ただしく降りてくる。秀吉のやつ何をしているのかしら、足音を辿って洗面所へ向かう。
「あれ? アンタなんで制服着てるわけ?」
秀吉は休みなのに制服に身を包んで、身だしなみを整えるためにせわしなく動いている。
「おお、姉上。すまぬ! 実は急に部活の召集がかかってしまったのじゃ。勉強はまた今度にしてくれぬか」
「ハァ!? なに言ってんのよ! 日曜は開けとけって言ったでしょうが!」
「だからすまぬと言っておる。演劇部の外部コーチが今日になって都合がついたらしいのじゃ。先ほど電話があっての」
「だからって……先に約束してたじゃない! 今日くらい休みなさいよ!」
「それは無理な話なのじゃ。コーチは多忙じゃから今日を逃せばいつ練習を見てもらえるか分からん。電話でも全員必ず出席と言われたのじゃ」
言い争ってる間に準備を終えた秀吉はバッグを持って玄関に向かう。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。秀吉!」
「すまぬ。お説教は帰ったら聞くのじゃ。夕方には帰るからの」
止める間もなく脱兎の如く飛び出して行った秀吉を見て、アタシはしばらく呆然としていた。
現在時刻は九時五分。吉井君が来るまで一時間を切っていた。

743 名前:717 mailto:sage [2010/06/10(木) 22:47:41 ID:Ho54L3tj]
以上です。
勉強会してない……前編というより導入編ですね。

次回予定 「二人きりの勉強会」 後編
明日か遅くとも明後日には投下したいと思います。

744 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 23:10:38 ID:TRhQ3ewC]
なんだこれ……なんだよこの素晴らし過ぎるSSはっ!
優子さん可愛すぎるだろJK!
GJなんだよ!後編にも期待なんだよ!!

745 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/10(木) 23:11:40 ID:uq+vLqUy]
GJ!続きが楽しみすぎる

746 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 00:33:07 ID:QIzuFr/v]
秀吉空気よんだな

しかし、夕方の優子と明久のラブラブを見て嫉妬するんですね

747 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/11(金) 22:49:20 ID:iNC+5SRh]
性的なことをしている最中に帰ってくるんだろう

748 名前:717 mailto:sage [2010/06/11(金) 23:43:47 ID:0fmSAMAG]
717です。二人きりの勉強会 後編 を投下させていただきます。

次レスより投下します



749 名前:717 mailto:sage [2010/06/11(金) 23:45:12 ID:0fmSAMAG]
えーっと、教えてもらった住所では確かこの辺だよね。途中のスーパーで買った飲み物とお菓子を持って、僕は木下家を目指していた。
「あ、ここかな」
表札に木下の文字。白を基調としたごく一般的な二階建ての住居、ここが秀吉と木下さんの家らしい。
さっそく玄関まで行ってインターフォンを鳴らす。
「はい」
「あ、えっと、秀吉君の友人の」
「あ、吉井君ね。ちょっと待って」
出たのは木下さんだったみたいだ。そういえば木下さんの家の両親とかはいるのだろうか。少し緊張するなぁ。
ガチャッと目の前のドアが開いて木下さんが出迎えてくれた。
「こんにちは。木下さん」
「いらっしゃい。どうぞ上がって」
「うん、お邪魔します」
玄関で靴を脱いで上がらせてもらう。休みだから当然だけど木下さん私服だ。
短めのスカートに素足でいるから、ふとももからスリッパを履いている足首まで露出していてすごく眩しくみえる。
「これ、飲み物とか買ってきたから」
「うん、ありがとう。あ、チョコレートも入ってる」
「勉強するなら甘いものがあってもいいかなって思って」
「そうね。でもなんか気を遣わせちゃってごめんね?」
「ううん、こっちこそ今日はお世話になります」
「ふふ、任せて。じゃあコップとか持って行くから部屋に行っててくれる? 階段上がって奥が私の部屋だから」
言われた通り階段を上がって行くと、二階には部屋が二つあった。正面にあるのが木下さんの部屋ってことは、こっちは秀吉の部屋なのか。
うーん、やっぱり女の子の部屋に入るのは緊張するなぁ。そういえば秀吉はどこにいるんだろう?
ドアノブを回してドアを開けると、女の子特有のいい香りが漂ってくる。木下さんの部屋は綺麗に整頓されていて落ち着いた感じの部屋だ。
いかにも女の子って感じのアイテムはあまりないけど、カーテンの色だったり、大きめのチェストが女の子の部屋ってことを意識させる。
部屋の真ん中にはガラステーブルと周りにクッションが置いてある。ここで勉強するのかな。
座ろうかどうか迷っていると後ろのドアが開いて、コップとお皿に乗ったお菓子をお盆に載せて持ってきた木下さんが入ってきた。
「あ、その辺に適当に座っていいわよ」
「うん。木下さんの部屋すごく綺麗だね」
「あはは、昨日頑張って掃除した甲斐があったわ」
なんて言ってお盆をテーブルの上に置く。オレンジジュースのふたを開けてコップに注いでいる。
「そういえば木下さんの親は今日は……」
「今日は二人とも出かけているわ。だから気にしなくて大丈夫よ」
「そうなんだ。ところで秀吉を見ないね」
と言うと、何故か木下さんが引きつったような笑顔になった。
「えーと、実はあのバカね今日になって急に部活の予定が入ったって言って、さっき学校に行っちゃったのよ」
そうだったのか、道理でさっきから見ないはずだ。
「そっか、秀吉も大変だね。日曜日なのに」
ってことは秀吉は今日参加できないのか、残念だなぁ……。つまりこの家には今、僕と木下さんと……あれ?
「二人だけ?」
つ、つまり僕はこれから木下さんと二人きりで勉強することになるの?
「そ、そうなるわね……」
テーブルの向かいに座ってる木下さんは顔を赤くして俯いている。多分僕も同じような表情になっていると思う。
うわぁ……どうしよう、こんな展開は予想してなかった。顔を赤くしてる木下さんもかわいいなじゃなくて! とりあえずこの空気を打破しなきゃ!
「あの、吉井君。もし嫌だったら……」
「じゃあ今日はいっぱい教えてもらえるね! 改めてよろしく木下さん」
「あ……うん! ビシビシ叩き込んでやるわ!」
こうして二人きりの勉強会は始まった。

750 名前:717 mailto:sage [2010/06/11(金) 23:46:13 ID:0fmSAMAG]
「じゃあまずは、数学ね。テスト範囲になりそうな辺りの問題をコピーしておいたから、まずはこれを解いてみて。隣に書いてある時間を目安にしてね」
「うん、わかったよ」
A4サイズのコピー用紙を数枚重ねてホチキスで閉じてある物を渡された。
「分からない問題はとりあえず飛ばして解いて。後でまとめて教えるから」
シャープペンを持って問題に立ち向かう。
さて、一問目……うーんこれはちょっと難しいな、パスしよう。
二問目……この問題は見たことがあるぞ、確か……ちょっと思い出せないな、パスしとこう。
三問目……うわ、グラフが出てる。これ苦手なんだよね、パスしよう。
一枚目は終わりか。じゃあ二枚目に……。
「ちょ、ちょっと待って。解ける問題ないの?」
木下さんが焦ったように問いかけてくる。
「うん、一枚目の問題は難しすぎて」
ちょっと最初から難易度が高すぎる気がする。もう少し簡単な問題から始めないとね。
「一枚目は基礎部分で簡単な問題で、二枚目以降徐々に難しくなっていくんだけど……」
あれ?じゃあ表裏間違ったのかな。プリントの束を裏返してみた。
……おかしい、日本語で書かれているはずなのに何一つ理解できない。もしかして暗号になってるんじゃないだろうか。
「かなり基礎的な部分からやらないといけないみたいね……」
「すいません……」
「ま、覚悟はしてたからいいわ。じゃあ教科書も開いておいて。えーっとこれはね」
そう言いながら身を乗り出して、プリントを覗き込んできた。
距離がかなり近くなる。シャンプーの香りかな?木下さんからはすごくいい匂いがする。
いかんいかん、せっかく教えてもらってるんだから真面目にやらなきゃ。――ってうわぁ!!
「ん? どうかしたの吉井君」
きょとんとして聞いてくる木下さんの今の姿勢は前かがみになっている。するとシャツの間に隙間ができて……み、見ちゃだめだ。
木下さんは僕の視線に気づいて、自分の胸元に目をやって……
「きゃあ!!」
と、甲高い声を上げて後ずさる。
「……見た?」
「見てないですっ!」
少ししか。
「そ、そう。ならいいわ。隣少し空けてくれる? そっちにいくから」
そう言って僕の隣に腰を下ろす。確かにこれならさっきのようなことはないだろうけど、距離がさっきよりずっと近くなってドキドキする。
「ふぅー、さて続けるわよ」
結局、午前の間ずっとこの距離感に翻弄されることになった。

751 名前:717 mailto:sage [2010/06/11(金) 23:47:23 ID:0fmSAMAG]
「さて、作り始めようかしら」
今アタシはキッチンに立っている。目的はもちろんご飯を作ること。
勉強に一段落ついたところで、丁度お昼時になったので昼食をとることにした。
最初こそ、頭を抱えたくなるような状況だったけど、勉強は思ったよりはかどっていた。
吉井君は確かに理解はあまり速くないし、お世辞にも優秀とは言えないけどその分、見栄を張らずに分からないことはちゃんと聞いてくるから教えやすい。
それに意外と集中力もあるみたい。うん、決して落ちこぼれなんかじゃない。世界史や日本史は結構点数取れてるみたいだし、努力し続ければAクラスにだって―
ってさすがにそれは言い過ぎかな。でももしそうなれば……ふふっ、ほんとにどうかしてるわね。
ちょっとしたハプニングもあったけどね。でも本当に見えてなかったのかしら、それはそれで勿体なかったような……。
バカなことを考えながら料理に使う食材を用意する。えっと、ネギと卵と焼豚で良かったわよね……あ、あと調味料とご飯か。
メニューはシンプルに炒飯を作ることにした。そもそも料理なんて全然しないアタシが凝ったものを作れるわけがないしね。
一応、レシピは見たし大丈夫なはず。というか炒飯くらい失敗しようがないわよね。
なんて私の考えは甘すぎる程に甘かった。
「むう、均等に切れないわね。ここを切ればいいかな……って、ひゃっ!!」
あぶな……指切るとこだったわ。
「よし、鍋温まったわね。えーと、卵なんてすぐ焼けるしご飯を先に炒めた方がいいわよね」
「やば、焼豚切るの忘れてたわ。うーん、なかなか小さく切れないわね。もっとこう………………うん! これならいいわ」
「ってご飯ご飯。あれ!? 焦げてる! あっ、油を引くの忘れてた! 油ってどこだっけ!? あーもう卵も入れなきゃ!」
「木下さん!? なんか大変そうだけど大丈夫!? 木下さん!?」

「…………」
「…………」
アタシ達の前にはとても炒飯とは呼べない物があった。料理は見た目より味って言ったって半分以上ご飯が焦げてれば食べなくても不味い事くらいわかる。
バカだなぁアタシ。変に見栄張らずに弁当でも買ってくればよかったのに。みっともないったらありゃしないわ。
よくよく考えれば、調理実習とかを除けば初めての料理なのよね。はは、妥当なんじゃない?この焦げご飯が。
「ごめんごめん。アタシ料理全然できないのよ、というかこれが初めて。ちょっと見栄張っちゃった。今お弁当買ってくるから待っててくれる?」
アタシがエプロンを外してキッチンから出ようとすると、吉井君はなぜか近くにあったスプーンを手にとって――目の前の焦げご飯を食べ始めた。
「ちょ、ちょっと吉井君!? なにしてるのよ!」
吉井君はアタシの言葉なんか聞こえてないみたいに次々とご飯を口に運んでいく。
「そんなことしなくていいってば! お腹壊すわよ!?」
ヒトの制止も無視して食べ続けている。力ずくで止めようとしたけどこっちに背中を向けてお皿を隠し、振り向いた時には既に全部食べきってしまっていた。
「もう! なんでこんなこと……」
こっちの言葉なんて意にも介さず、吉井君はアタシの方を見て、
「ごちそうさま。すごくおいしかったよ」
なんて笑顔で言ってのけた。
「ば、バッカじゃないの!? おいしいわけないでしょ!」
「そうかな? 食べてみたら全然いけたよ」
「全部失敗して、あんなに焦げてたじゃないの……」
「でも、食べても失神することもないしさ」
「なによそれ……全然フォローになってないじゃないバカぁ……」

752 名前:717 mailto:sage [2010/06/11(金) 23:48:44 ID:0fmSAMAG]
『木下さんの分も食べちゃったから僕が新しく作ってもいいかな?』
その提案を了承して、今はキッチンに吉井君が立っていてアタシは後ろから見ている。
泣いちゃった……。涙を流したのなんていつ以来だろう。
吉井君はやっぱりバカ。あんなこと今時ベタな恋愛映画でもやらないっていうのに……。そんな風にしてくれるなんて反則じゃないのよ、もう……。
キッチンに立つ吉井君は手際よく準備を整えていく。包丁さばきもアタシの危なっかしい手つきとは段違い。
「吉井君は料理上手なのね……」
「それなりにね。料理は家庭内で一番立場の低い人がやるもんだって教え込まれたんだよね」
「あはは、なにそれ。吉井君のお母さんは作ってくれなかったの?」
「うちの家庭は母さんの独裁……いや、姉さんもいるから独裁じゃなくて……」
冗談かどうか分からないことをぶつぶつ言いながらも手は止まらない。
「電子レンジ使ってもいいかな?」
「え、うん。いいけど……ご飯温かいのに使うの?」
「うん、水分を飛ばすために少し使うといいんだ」
へぇー、そんなこと知らなかった。
「あとは、炒める前に卵をご飯に絡めてっと」
勉強は苦手みたいだけど、料理はAクラス並みたい。
なんてね。そしたらアタシは間違いなくFクラスだわ。
吉井君の作った炒飯はお店で出てくる物と比べても遜色ない出来だった。もちろんアタシは本心から言えた。
「ごちそうさま。すごくおいしかったわ」

ちょっとだけ慌ただしかったお昼ご飯を終えて、また木下さんの部屋で勉強を再開していた。
木下さんが料理できないのは意外だったな。でも、なんでも完璧にできる人なんてそうそういるもんじゃないよね。
料理を作ったのが初めてだって言葉を聞いて昔を思い出した。僕も昔はじめて料理した時は同じように失敗したっけな。
でもその時、母さんも姉さんも父さんもみんなおいしいって言ってくれてすごく嬉しかった。
そのおかげで、料理を作らされる機会は多かったけど、料理自体は結構好きになれたんだっけ。
隣で自分の勉強をしている木下さんをチラッと盗み見る。
泣かれちゃった時は正直すごく焦った。とりあえず土下座はしておいたんだけど、あやまらないでほしいって言ってくれた。
その時の木下さんは見惚れてしまうような優しい笑顔をしていて、その……すごく驚いた。
美人なのは分かってたけど、普段のしっかりした雰囲気とは違うところを見れて、それを思い出すと……胸がドキドキする。
僕の視線に気づいたのか木下さんがこっちを振り向いた。
「あ、終わったの?」
「うん、一応できたよ」
僕の解いたプリントに視線を運んで、一通り読み終わると笑顔になってくれた。
「うん、解けるようになってきたわね。答えも合ってるし」
「ホント!? 良かった」
木下さんの教えのおかげだよね。すごく教えるの上手だし、理解が遅い僕にもきちんと分かるまで説明してくれる。
そのおかげで、自分でも問題が解けるようになったのを実感できる。今日はホントに来てよかったなぁ。
「さて、それじゃもう時間もあんまり無いし、最後にこのプリントやってみて。今日の復習になってるから。時間は……40分くらいを目安にね」
「うん、わかった。やってみるよ」

753 名前:717 mailto:sage [2010/06/11(金) 23:49:40 ID:0fmSAMAG]
「っと、よし。できた」
最後の一問を解き終わった。時間は……うわ、ぎりぎりだ。
でも、最初は全然解けなかったこのプリントも、今は空欄の一つもない。ちょっと自慢したくなってしまう。
「木下さん、出来た―」
声をかけながら隣に視線を向けると、木下さんはベットを背もたれにして寝ていた。
そりゃあ疲れるよね。出来の悪い僕に教えながら、合間には自分の勉強もしっかりやってたんだもん。
静かに寝息を立てる木下さんを見ながら最近のことを思い出す。
こんな風に、同じ部屋で二人きりで一緒に勉強したりするようになるなんて全然考えたこともなかった。
Aクラスで真面目で優秀な木下さんは、自分とは違う存在なんだって勝手に思ってた。
でも全然そんなことはなくて、普通に笑って、怒って、失敗して……こんな風に居眠りしたりもする。
最初に持ってたイメージとは違って、そして、そんな木下さんはすごく――
「うぅん……」
少し身じろぎしたけど、そのまま眠り続けている。
それにしても……やっぱり美人だよなぁ。寝てるのをいいことに木下さんの顔をまじまじと観察する。
肌もすごくきれいだし……うわぁ、まつげがすごく長い。それに、少し茶色が混ざった瞳は水晶のように澄んでいて……あれ、木下さん起きて――
「よ…しい くん?」
あ、僕いつの間にこんなに近づいて…、すぐに離れないと……はなれないと、いけないのに……
「きのした…さん」
「…………ん」
木下さんはまた目蓋を閉じて、僕はそのまま唇を……。
プルルルルルル!
うわぁ! この音は……携帯?
「あっ、え? あれ?」
木下さんは一瞬困惑したかと思うと、たちまち真っ赤になって携帯を握りしめてドアから出て行ってしまった。
あああ!! ぼ、僕はなんてことをしようとしてたんだ!
よりによってキ……うわぁぁぁ!
結局その後目一杯、自分の行為に身悶えしなければならなかった。

754 名前:717 mailto:sage [2010/06/11(金) 23:50:44 ID:0fmSAMAG]
弟の関節を曲がらない方向に思いっきり曲げてやろう。そう固く決意したのは三十分程前のこと。
あの最悪にタイミングの悪い電話は秀吉からのものだった。内容はというと。
『今日の夕食は儂らしかおらんからのう、弁当を買って帰るつもりなのじゃがなにがいいかのう』
しかも、わざわざ公衆電話から。もう盛大に力が抜けた。
ちなみに吉井君はもう帰っている。まあ、あんなことがあったわけだし。電話を終えて部屋に戻ったら、なんかすごく悶えてたっけ。
なんでもないようにされるよりはよかったかな。二人とも意識しちゃって大変だったけどね。
結局会話も続かず、プリントの答え合わせだけしてお開きにしちゃった。あの雰囲気じゃしょうがないわよね。
吉井君……あれはやっぱりキス……しようとしてたのよね?
あのとき電話が無かったら……しちゃってたのかな。
付き合ってるわけでもないのにな。でも……全然いやじゃなかった。ううん、むしろ……。
頭がボーっとする。鼓動はずっと速いままだ。
「アタシは……吉井君が、好き、なの、かな……?」
マズイ。口に出しただけで心臓がバクバクいってる。こんなんじゃ……もうごまかしようもないわよね……。
今日は吉井君のいろんな面に触れた。情けないとこ、真剣なとこ、凄いとこ、そしてなにより……とんでもなくお人好しでやさしいところ。
「アタシは、吉井君が、好き」
ふふっ、こんなにあっさり好きになっちゃうものなのね。アタシ惚れっぽいのかな?
違うよね。たぶん吉井君だから……うん、きっとそう。
よし、そうと決まったら早速メールでも送ろう。いつまでも気まずいまんまじゃイヤだしね。
と、思ったら携帯にメールの着信音。この前個別に設定した吉井君用の。
あたしより、吉井君のほうが早かったみたいね。携帯を操作してメールの内容を見る。
『今日はホントにありがとう! それで、もし迷惑じゃなかったらまた勉強教えてくれないかな? 僕も頑張りたいんだ』
渡りに船ってやつね。アタシも同じこと提案しようと思ってたわ。早速返信を打ち始める。
『迷惑なんかじゃないわ、もちろんいいわよ。そのかわりに今度お料理を教えてほしいな。いいかな?』
送信っと。うん、アタシも頑張ろう。勉強も、料理も、そして……恋愛も。
「ただいまなのじゃー」
いいとこに帰って来たわね。今ならお姉さまは気分がいいから右腕だけで許してあげるわ。

 続く

755 名前:717 mailto:sage [2010/06/11(金) 23:52:36 ID:0fmSAMAG]
名前欄にタイトル入れるの忘れてた……。
とりあえず以上です。
ベタなイベント満載の 「二人きりの勉強会」編 終了です。
次回予定 タイトル未定ですが おそらく完結編になります。ただ若干難航気味……
また、前、後編に分けての投下になりそうです。
それではまた。

756 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 00:31:51 ID:Plr3jZuy]
優子りんの可愛さにここまで悶えたのは初めてだよ。
本当に良い仕事してますな。
さあ、早く完結編とやらの執筆に戻るんだ!

757 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 00:37:00 ID:62FxrdyH]
なんというクオリティ・・・。
>>717・・・恐ろしい子・・・!

758 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 04:24:50 ID:4Qi8CgjI]
優子お姉ちゃんハァハァ……テラモエス……GJ……




759 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 13:19:22 ID:MPPXPiAY]
こんなの書ける人いるんだ
超GJ!!!

760 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 13:32:55 ID:vfy6/XgC]
GJ!優子さんかわいすぎるわ

761 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 15:01:19 ID:0KUkew/J]
gj!

762 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/12(土) 15:13:22 ID:UoXiE6Ws]
続きを楽しみに待とうじゃないか

763 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/14(月) 12:32:38 ID:cIetY06+]
遅くなったけどGJ!
続きが楽しみだ

764 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/15(火) 10:37:24 ID:2W2eCgx1]
これは…
GJと言わざるをえない

純愛っていいね!

765 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/15(火) 22:51:47 ID:n6Wnb4yR]
女性陣はともかく、明久はセックルについての知識はあるのかな?
てかまずその言葉自体知ってるのか?

766 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/15(火) 23:20:00 ID:LPebv6M4]
知ってるだろ

秀吉の為に

767 名前:名無しさん@ピンキー [2010/06/16(水) 02:25:38 ID:Rz9hpiRj]
そりゃ知ってるでしょ
参考書たくさん有るみたいだし

768 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 03:13:06 ID:FtKdXJRc]
わっふるわっふる



769 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 03:45:19 ID:KTi46KKI]
逆に保健以外を知らないんじゃ

770 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 22:01:06 ID:7igSO45J]
ところでさ
明久達って知り合ってまだ一年ちょっとしか経ってないんだよね
なのに何であんなにコンビネーションが優れてるんだ?
特にアイコンタクトの性能が異常なんだが

771 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 22:38:06 ID:SeLUfsdb]
馬鹿同志馬が合うんだろ

772 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 22:50:48 ID:CSfbmhN/]
学校は長時間クラスメイトと同じ教室に拘束されるからな
一年つっても一緒にいるのはかなり長い時間になる

773 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/16(水) 23:02:53 ID:1M9WHsei]
高校までなら一年間は結構長い
他のクラスとあんまり交流がないなら必然的にクラスメイトとの仲も深くなる

774 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/17(木) 12:39:43 ID:IzTaugcS]
しかし
それでもトランプのカード(ダウト)で
お互いが何を持ってないとかまで分かるって凄くね?

775 名前:名無しさん@ピンキー mailto:sage [2010/06/17(木) 13:18:53 ID:KRLibia0]
セットを4等分して且つ自分の手が見えるから、どこが薄くてどこが厚いかくらいはすぐわかるだろ。
アイコンタクトの性能はニュータイプレベルだと思うが(カードどころか会話してるし)

776 名前:717 mailto:sage [2010/06/17(木) 22:34:44 ID:hwKmo1fb]
717です。続きが書けたので投下させていただきます。
   ・明久×優子
   ・エロ無し
   ・オリ設定などを少々含む

相変わらずのエロ無しですがよろしくお願いします。
「勘違いから始まる恋もある」 終章 前編になります。
次レスより投下します。

777 名前:終章 前編 mailto:sage [2010/06/17(木) 22:36:22 ID:hwKmo1fb]
「明久。帰ろうぜ」
「……」
テストまであと一週間となったとある日の放課後。雄二とムッツリーニが僕の席まで来た。
「ゴメン、今日はちょっと用事があるんだ」
「なんだ、またかよ」
「……付き合いが悪い」
「あはは、もう行かなきゃ。二人ともまた明日!」
遅れたら悪いし、急がなきゃ!
「なあ、ムッツリーニ」
「……怪しい」
「火曜日と木曜日か? あいつの付き合いが悪くなるの。」
「……土曜日も」
「しかもどんな用事か聞いてもバレバレの嘘でごまかしやがる。なんか情報掴んでないのか?」
「……決定的な証拠はまだ。ただ、町外れの図書館で目撃情報がある」
「図書館とは……また似合わねえ場所だ。しかも、駅前の市立図書館じゃなくてわざわざあっちに行ってんのか」
「……これから証拠を掴みに行く。どうする?」
「そうだな……隠し事してんのは気にくわねーし、何してんのか暴いてやるか」

「じゃ、ここでいいわ。いつも送ってくれてありがとね」
いつも通り木下さんを家の近くまで送る。もう道筋まですっかり覚えてしまっている。
「今日はちょっと遅くなっちゃったわね、吉井君大丈夫?」
「そういえば見たいテレビがあったんだよね、急いで帰らなきゃ」
「ふふ、テレビもいいけど今日渡したプリントもちゃんとやらなきゃダメよ?」
「うん、ちゃんとやるよ。じゃあまたね木下さん」
「うん、またね」
来た道を戻って家を目指す。なんとなく振り向いたら木下さんがこっちを見てたから大きく手を振ってみたら、笑顔で手を振り返してくれた。
木下さんの家にお邪魔した日に、これからも勉強を見てほしいというお願いをしてみたら、快く了承してくれた。
とりあえず、テストが終わるまで週に三回、火、木、土の三日をその日に設定した。
火曜と木曜は図書館で。人が少なく、少しくらい喋ってもいいのが利点ということで駅前のじゃなく、町外れにある方にした。
土曜日は僕の家でやっている。勉強との交換条件の料理を木下さんと一緒に作ったり、ちょっと早く切り上げてゲームしたりもする。
木下さんは結構負けず嫌いみたいで、対戦系だと僕に勝てないのがくやしいのか何度も挑戦してくる。
たまに木下さんが勝つとすごくはしゃいで喜ぶのがすごくかわいいんだよね。普段は落ち着いた性格だから余計にね。
勉強の方もかなりはかどっている。数学と英語を重点的に教えてもらい成果を発揮できるようになった。
この前の数学の小テストで満点をとったら何故か学園長直々に『……体調は大丈夫かい?』なんて失礼なことを言われたりもしたけど。
週に三日の勉強。あとは、宿題として木下さんが作ってくれるプリント。毎日勉強してることになるけど全然苦にならないんだよね。
むしろ、勉強会をするのが楽しみで、テストが終わったらこれも無くなっちゃうのかなって考えると、すごくイヤなんだよなぁ。
でも、テストが終わっても勉強見てほしいなんて、厚かましくて言えないよね……。

778 名前:終章 前編 mailto:sage [2010/06/17(木) 22:37:18 ID:hwKmo1fb]
はぁ……。
ちょっとだけ落ち込みながら歩いてると、二つの人影が近づいてきて……って、なんで!?
「よーう、明久」
「……奇遇」
「雄二!? ムッツリーニまで! こんなとこで何してんのさ」
「誰かさんが誘いを断るから二人で遊んでたんだよ。秀吉は部活だからな」
「……」コクコク
「それよりお前こそ何の用事だったんだ? この辺には滅多に来ないんだが何かあんのか?」
「え、いやー、えーと、あの、その」
「答えにくいなら質問を変えよう。いつの間に木下姉と親しくなったんだ? 接点なんて無かっただろうに」
「な、なんで木下さんが出てくるのさ!」
ポンポンと肩をたたかれ目の前に出されたのは……写真!? しかも僕と木下さんが二人で写ってる!
「……明久。言い逃れはできない」
「さって、詳しく話してもらおうか」

「ほー、なるほど。二人で勉強をねぇ」
「……妬ましい」
二人がかりの尋問に耐えきれずこれまでの経緯を話してしまった。
「しっかし木下姉と二人で勉強なんてよく続いてるな。あのお堅そうなのと居て楽しいのか?」
む、なんだよその言い方は。
「楽しいよ! 木下さんすごく教え方うまくて勉強も辛くないし、堅くなんて全然なくて、話をしてると時間忘れちゃうくらい―」
「こりゃあ随分とまあ……」
「聞いてんの!? だいたい木下さんのことよく知らないで……」
「そうだな、悪りぃ。知りもしないで勝手なこと言っちまった」
全くだよ! 木下さんってすごく優しくていい人なんだからね!
「そういや秀吉は知ってんのか? お前と姉が仲良くしてんの」
「え、うーん、どうなんだろう」
秀吉は最近部活動で忙しそうにしてるしあまり話せてないんだよね。あの時以来、木下家には行ってないし知らない……と思う。
「そういや、あいつ部活忙しいんだっけな。…………しっかし、大変だなこりゃ」
「そうだね。テスト前なのに大変だよね」
「そっちじゃねえ……ま、いいか」
「何が?」
「なんでもねえよ。お前に言っても分からん話だ」
なんかムカつく言いかただな。あれ? そういえばムッツリーニは何して……。
「ムッツリーニ、何してるの?」
なにか写真をまとめてるみたいだけど……。
「……明日、異端審問会に提出する写真を選んでいる」
「やめてよ! そんな写真をFクラスの連中に見られたら僕死んじゃうよ!」
「……裏切り者は死ねばいい」
くそっ、友達のはずなのに本気にしか聞こえない。こうなったら……背に腹は代えられない。
「ムッツリーニ、僕の秘蔵コレクション五冊とその写真交換してくれないかな」
「……そんなものには釣られない」ボタボタ
よし、明らかにあと一歩だ。
「じゃあ七冊にするから」
「……しつこい」ダラダラ
「やれやれ……」



779 名前:終章 前編 mailto:sage [2010/06/17(木) 22:38:17 ID:hwKmo1fb]
さてと、明後日は数学の日だから……あ、この問題集は使えそうね。明日の内にコピーしておかなきゃ。
後は、こっちの本から宿題用に使えそうなところを探して……と。
「よし。これで準備はオッケーね」
用意したものをクリアファイルに挟んで鞄に入れておく。
部屋にかかっているカレンダーに目を向ける。テストまであと七日かぁ……早いよ。
最近は一日一日が過ぎるのがとても速い。吉井君の勉強を見てあげるようになってから特にそう感じる。
吉井君は順調に進歩してる。この前なんか小テストで満点とったって聞いてアタシのほうがはしゃいじゃった。
木下さんのおかげだよ、なんて笑顔で言ってくれたし……アタシが教えたのが役に立てたのなら嬉しくてしかたなかった。
でも、その反面……その、別のほうの「進歩」はあんまりしてないのよねぇ。
あ、でも吉井君の家にはお邪魔したのよ! 吉井君がうちに来た時の何倍も緊張したわ。一人暮らしだってわかってたし。
でも、その時も普通に勉強してちょっとだけ遊んで……うん、健全な友達との付き合いよね。
あの時のキス未遂から、それらしいことは一回もない。まあ、特別な関係ってわけじゃないから当たり前かな。
でも、アタシ自身なにもアプローチ出来ないでいるのよね……。好きなんだって分かったのに。
今日こそは、って意気込んでも吉井君と一緒にいるとそれだけで満足しちゃうし。
進展させたいけど、このままで居るのもいいなんて都合のいい考えを持っちゃうのよね。
それに……、自覚しちゃったからこそ臆病になってるところもあるのかな……。
「だって……、しょうがないじゃない」
週に二回の勉強会の時は、吉井君がアタシを家まで送ってくれる。電話なんかも含めたらほぼ毎日話をしてる。
それで、休みの日には吉井君の家で一緒に過ごして……他人から見れば勘違いされてもおかしくはないくらい仲良くなれてると思う。
でもだからこそ、この関係を失うのが怖い。アタシと違って吉井君にはそんな気は全然無かったらと思うと……考えたくもない。
ただ、この関係を続けられる時間も残り少ない。テストが終わってしまえば、勉強会を続ける口実も無くなっちゃうし……。
終わりを迎える前にキチンと決着をつけなきゃいけないってことは分かっていても、どうしても勇気が出ない。
「テストの日が……来なきゃいいのに」
叶わない願いを口にしても状況は何一つ変わらないのに……ね。
コンコンコン
「姉上。ちょっといいかのう」
あれ、秀吉? なんだろ。
「いいわよ、入んなさい」
「失礼するのじゃ」
制服姿のままの秀吉が部屋に入ってくる。ちゃんと着替えなさいよね。
「何か用?」
「うむ、ちょっと聞きたいことがあっての」
聞きたいこと? 何だろ。まさか吉井君のことだったり……
「姉上は明久と交際しておるのかの?」
「な、なな、なんで……」
「何で、と言われてものう。違うのかの?」
「い、いや、なんでそんなこと……」
「姉上、正直バレバレなのじゃ。電話の声がたまに聞こえるし、家の近くまで送ってもらってるところなど見れば当たり前の発想じゃろう?」
予想外の攻撃に身を縮こまらせる。そっか、その辺の行動全部ばれてたのね。でも……。
「しかし、姉上が明久を選んだのも驚きじゃが、あの明久を陥落させるとは……」
「付き合ってない……」
「む? いまなんと」
「まだ付き合ってないって言ってんのよこのバカ!!」
「あ、姉上…その関節はそっちには曲がらなっ…………」

780 名前:終章 前編 mailto:sage [2010/06/17(木) 22:39:21 ID:hwKmo1fb]
「ひどい目にあったのじゃ……」
右腕を擦りながら恨むような目線を向けてくる。
「あ、アンタが変なこと言うから……」
「しかし姉上までもが明久とはのう。心中察するぞい」
「何を察するってのよ」
「大方、明久の鈍感さに悩まされておるのじゃろう? あやつは優しいが人の好意には鈍いからのう」
まあ、アタシがあんまり行動できてないってのもあるんだけど……でも、部屋で女の子と二人きりなのに意識してないっぽいしねぇ。
「確かにそういうところもあるわね……。ちなみにそれってアンタの体験談?」
「? どういう……な、何を言っておるのじゃ! 儂も明久も男なんじゃぞ!?」
「ふーん、なんにもないんだ。でもさっき機嫌悪そうだったわよね? 吉井君に彼女できると嫌なの?」
「いや、それはなんというか、その、釈然とせんというか、儂がどうこうという話ではなくてじゃな、た、多分友人に彼女ができた時の」
「もういいわよ、落ち着きなさい」
機嫌悪かったのは否定しないわけね。全く、どこまでこいつの言う事を信じていいのやら、でも彼氏を作るのに弟をライバルにするのはかなり嫌ね。
「い、今は姉上の話じゃろうに。コホン、それで明久のことが好きじゃと」
「……そうよ」
「できれば付き合いたいと」
「…………そうね」
「しかし中々うまくいかな」
「もういいでしょう! なんでアンタに全部言わなきゃなんないのよ!」
一体なにが目的なのよ!
「いや、姉上が後悔せぬようにと思っての」
「な、なによソレ」
「先ほど言ったように、明久に好意を寄せている者は他にもおる。しかもそ奴らはおそらく姉上よりずっと前からじゃろう」
「…………」
「ともすれば明日にでも何か起こるかもしれん。実際今迄にも近いことはあったからのう」
「…………」
「あまり躊躇しておるとその内……」
「出てって」
「む? なにか」
「今すぐ! ここから出て行きなさい!」
ドアを開けて体ごと押しやって、廊下に突き出したあとドアを閉めて鍵をかけた。
イライラがおさまらず、手近にあったクッションを投げつける。
「分かってる……わかってるわよ! そんなこと!」
なんなのよ! 勝手なこと言って! それが出来りゃ苦労してないってのよ!
「人の気持ちも知らずに……」
わかってるのよ……一歩踏み出さなきゃ何も始まらないことくらい……。
でも、それでも……怖いのよ……。






[ 続きを読む ] / [ 携帯版 ]

前100 次100 最新50 [ このスレをブックマーク! 携帯に送る ] 2chのread.cgiへ
[+板 最近立ったスレ&熱いスレ一覧 : +板 最近立ったスレ/記者別一覧](;´∀`)<475KB

read.cgi ver5.27 [feat.BBS2 +1.6] / e.0.2 (02/09/03) / eucaly.net products.
担当:undef