- 587 名前: ◆Ex5SQWl7OizE mailto:sage [2009/10/03(土) 20:20:25 ID:bGh4I0HV]
- 仲秋、君と見る月は(長市)
―たまには市を喜ばせてやりたい。 幸い仲秋故に甘い団子でも用意すればいいのだろうか? こんな事ならもっと風流とやらを調べておくべきだった。 厨に頼んだ団子は宵には届く筈だ。 「市、開けるぞ」 返答を待たずに開けた障子の向こうには誰もいなかった。 そして夕方近くになり、やっと戻った市に怒鳴る。 「ごめんなさい…ごめんなさい…長政さま」 泣きながら抱えていたすすきや萩がばさりと落ちる。 共にいた侍女がひざまずき、お畏れながらと言葉を紡ぐ。 月見にはすすきや萩を集めるが倣いと珍しく自分から侍女に頼み込んだという。 (まるで私が悪い様ではないか)と居心地が悪くなり、立ち去る。 夕餉もとらず閉じ込もった市にどう声をかければいいものか…迷う内に団子が用意されてしまった。 (まだ、あのすすきや萩は残っているだろうか) 長政は庭に降り、探すが片付けられた後。 そのまま馬に乗り近い河原へと走る。 すすきしか見つからなかったが無いよりはマシと乱暴に摘み取り、戻る途中帰り咲きの薄紅色した百日紅が花簪の様に揺れていた。 「市、来い!」 乱暴に手を引き、団子が置かれた三方の傍に水桶に突っ込んだだけのすすきのあるそこに座らせた。 ―無言の時が流れるばかりに我ながら堪え兼ねて市の髪に百日紅を刺して告げる。 「次の仲秋は私が…その、ついて行ってやる!女だけでは悪に狙われやすいからな…」 「…はい…長政さま…」 不器用な夫の優しさに市は涙目ながらも微笑んだ。 月の光が照らす中、薄紅色の花簪が彩る髪をそっと長政は撫でながら次の仲秋にはと想いを馳せた。 お粗末様でした。
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