- 468 名前:tournesol mailto:sage [2008/11/03(月) 19:05:48 ID:cKq474rR]
- 「どうなんですか…?」
お医者さんは疲れた表情を浮かべて、苦々しく口を開く。 「無理をしすぎました。軽度ではありますが、全身に熱傷。右腕の骨は折れ、内臓の半分はダメージを負っております。 細かい傷は数え上げられないほど。正直に申しあげまして、死んでいてもおかしくはありませんでした」 「それで…治る見込みは?」 深呼吸。この一瞬で、私の人生が決まる。泣いて暮らすか、笑って暮らすか。 「重傷ですが、命に別条はございません。数か月で完治するでしょう」 それって…? 「意識も戻りました。無理はできませんが、話すくらいならできます。行ってあげてください」 ほとんど無意識で部屋に飛び込んだ。シンさんはちょっとばつの悪そうな顔を浮かべていて…。 手を握ってみた。暖かい。鼓動を感じる。生きている。生きて、私の目の前にいる。 「格好悪い姿ですまん」 「いいえ。他の誰より、輝いていますよ」 お世辞でもなんでもなく、本心。大けがをしていても顔に陰はなくて、晴れ渡っていて、輝いて見える。 「医者から聞いたが、一月は安静にしなきゃならんらしい。 もしよければ、話し相手にでもなってくれると助かる。暇を持て余すのは確定だからな」 「そんなことでいいのでしたら、いくらでも」 返ってきたのは柔らかな微笑み。ほんとに、いい表情。今まであった暗さはもう見えない。 話したいことはいっぱいある。心からの想いを込めて、精一杯楽しませてみせる。 そんなことしか、私にはできないから。 「すぅ、すー…」 「やれやれ、だな」 シェリーは懸命に話し続けて、今は寝ている。手は繋いだままで。 手から伝わる体温で、心が温かくなる。捕えていたようだったのに、捕われたのは俺か。 どうでもいいことか。愛する人間がここにいる。それだけでいい。 (あたしは…あんたが幸せなら、それでいいんだよ。惚れた男の幸せ、天上から祈ってるよ) (そんなことは言うな。ずっとそばにいてくれ!) 思い浮かぶ最後の会話。グリンの事は忘れたのか、と心が叫んだ。 忘れてはいない。ただ、思い出にしたいだけだ。どんなことをしても、もうグリンは帰ってこないのだから。 割り切るのか?あれだけ愛し、命をかけても守りたいと誓った人間を、思い出の一言で? 違う…割り切るのではないんだ。そうではないんだ。
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