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司馬遼太郎著「コロニーを行く」(五)



1 名前:前スレの1 mailto:sage [03/09/03 12:00 ID:???]
私は「スレ」が単独に存在するのは、にがてである。人間を考える
場合、そのひとを成立させている歴史的条件を巨細に見、その時代
の気分を感じねば、そのひとの心も行動も動いてこないし、さらに
はそのひとの人生の価値についての値ぶみも、しようがない(古住今来・あとがきより)

司馬遼太郎著「コロニーを行く」ebi.2ch.net/shar/kako/1003/10037/1003725924.html
司馬遼太郎著「コロニーを行く)(二)comic.2ch.net/shar/kako/1036/10362/1036247225.html
司馬遼太郎著「コロニーを行く」(三)comic3.2ch.net/test/read.cgi/x3/1044112950/l50
司馬遼太郎著「コロニーを行く」(四)comic3.2ch.net/test/read.cgi/x3/1052323872/l50
HP(管理人335氏)
ttp://f12.aaacafe.ne.jp/~ryotaro/

司馬遼太郎風にガンダムを記述するスレです。


2 名前:前スレの1 mailto:sage [03/09/03 12:04 ID:???]
皆さん、お待たせしました。ようやく復活させることができました。
とりあえず今日の夜に書きたいと思います。

3 名前:一番目のパイロット(十一番目の志士(上)) mailto:sageP14 [03/09/03 18:11 ID:???]
(この子は、見込みがある)
とドクターJは、かれを初めてみたときからそう思っていた。事実、この少年
はおよそ普通の少年らしくない。
挙措、堂々としている。一切の無駄がなく、目くばりの機敏さ、面構えの不逞
な匂い、尋常でない。
(地球でもずいぶんと漢(おとこ)をみたが、これほどの男はみたことがない)
と、ドクターJはおもった。

4 名前:一番目のパイロット(十一番目の志士(上)) mailto:sageP14〜16 [03/09/03 18:21 ID:???]
シミュレーターの画面に敵がいる。連合のMS戦の模擬らしい。
「敵MSを、一撃でうてるか」(略)
「敵を、一撃に」
と、少年は小声でいった。言ったときにはすでに少年は敵に対してしずかな感作
をあたえはじめている。敵はこちらを見た。
少年を見た。宇宙の闇のなかで、敵MSのカメラアイは不必要なほどはげしく点
滅している。敵MSは編隊を組み、少年のほうに突進した。
少年は、その敵MSを見つめつつ、わがバスターライフルを向けた(中略)
その敵MSを、少年は手にかまえたバスターライフルで、

と撃った(略)
その瞬間には、少年の虚になっていた体に、魂がとび戻っている。バスターライ
フルに、濃厚な意思があった。
「ぎゃっ」
と、敵MSはパイロットの断末魔のような声を残して消えさった。
「かように。ー」
と、少年はしずかにドクターJを顧みた。
さすがのドクターJの顔が、血の気をうしなって蒼白になっていた。
「精妙じゃな」(中略)
「世に、人は居るものじゃ」
なで肩をふるわせるようにいった。

5 名前:翔びララァ(飛び加藤より) mailto:sage果心居士の幻術収録・P56 [03/09/03 18:31 ID:???]
カバスにつくと、日が暮れていた(中略)
「客人じゃ。粗略にすな」
言われた使用人が、仮面を付けた男を案内して廊下を渡ろうとしたとき、男が
動かなくなった。
闇のむこうをじっとみつめている。
視線の方角で、ラ・ラ・・・という歌声らしき音がきこえているのだが、この
男の目にはベッドに座っている者の姿がみえるらしく、見つめたまま、次第に
目を光らせた。
「なにか、お気にさわりましたか」
「あれに、私が好む女がいる」(中略)
「よい匂いがする」
「匂いが?」
むろん、案内の者の鼻には聞こえない。
「まだむすめのようなものだ。なりかたちはいままでの女たちとはちがうが体
のなかはよう熟れている。よう匂う」
「は。・・・・・・・」
案内の者は、闇の中で立っているこの男が、人ではなく化け物のたぐいではな
いかと思って、なんとなくおぞ毛が立つ思いがした。

6 名前:翔びララァ(飛び加藤より) mailto:sage果心居士の幻術収録・P58〜59 [03/09/03 18:38 ID:???]
翌朝、キグナンが起き出て、シャアのいる部屋へうかがうと、部屋のぬしは、
シャアとあつい仲になっていた。少女は、ララァ・スンという16歳の印度女
であった。
シャアは、朝食をとっている。ララァは、かれの肩にもたれかかりながら、シ
ャアの食う魚をむしっていた。キグナン・ラムザが入ってきたのをみて、ララ
ァはあわてて起きあがろうとしたが、シャアはフォークの先で少女の体をおさ
え、
「うごかずともよい。私と共に居るかぎりにはただの柱と思うがよい」
「柱とはこれはまた」
キグナンは、髪の毛のすくなくなりつつある頭をかきながら、苦笑をうかべた。
シャアはわらわず、
「昨夜、この少女に伽(とぎ)をさせた」
「して、どうでしたか?」
「うむ。いままでとはまったくちがう、そう、覚醒したような、そんな気持にな
った」
「意外な体験を」

7 名前:翔びララァ(飛び加藤より) mailto:sage果心居士の幻術収録・P59 [03/09/03 18:47 ID:???]
おそらく、昨夜、この少女の部屋で、無垢な少女に昂奮し、最後まで至ってし
まったものだろう。少女は、色が黒く、見るからになにを考えているのかわか
らない奇妙な目をしていた。
辺境の出とはいえ、キグナンは頼まれてもこんな少女に伽をさせる気は起こら
ない。
少女を引きよせて得意になっているシャアをみて、
(このお方はー)
と、キグナンなりに推量した。
(まだ軍籍を剥奪されて、日数も経っていない。以前のような栄光がつづいて
おれば、このような少女に目もくれぬはずだ)
「いいか、キグナン。このララァ・スンを連れて、再びジオンに戻るぞ」
「しかし、ザビ家が」
「こんな身に落ちたとはいえ、あれほど私の力を買っていたザビ家だ。キシリア
殿あたりらが、かならずさわぐはずだ」

8 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/04 00:44 ID:???]
がんばれよー

9 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/04 01:59 ID:???]
GJだぜ!

10 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/04 21:05 ID:???]
おおっ!復活おめでとう!
この板にも即死判定はあるのかな・・・不安なんで保守



11 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/06 19:37 ID:???]
保守

12 名前:1 mailto:sage [03/09/06 21:46 ID:???]
ocn規制で書き込めず・・・

13 名前:1 mailto:sage [03/09/06 21:48 ID:???]
皆さん、保守どうもです。
前スレは即死してしまったので、今回は最後までいけるといいなと願って。

14 名前:一番目のパイロット(十一番目の志士(上)) mailto:sageP17 [03/09/06 21:54 ID:???]
ドクターJの会話は飛躍した。
「そちゃ、すらりと命を捨てられるか」
少年は返答にこまった。が、ドクターJはその返答を待たず、「コロニー非常
のときである」といった。
「捨てられる覚悟がついたら、このわしが捨て場をさがしてやる。男として、
これほどの親切はなかろう、ではないか」

15 名前:文庫版のために(馬上少年過ぐ) mailto:sageP345 [03/09/06 22:04 ID:???]
グレミー・トトの生涯は、悪謀と橘詐(きっさ)、華やかながらも見えすいた
自己演出に満ちている。しかもグレミーの複雑さはそれらの悪が性格の暗い部
分から出ているのではなく、悪をやってみせるという一種の才華から出ており、
ぜんたいとしては陽気であかるい。かれがもしその所業にふさわしい陰気さを
印象としてひとに与える男であったならばひとびともついて来なかったろうし、
かれをつねにおさえつづけたハマーンももっと早くケリを済ませていたにちが
いない。
この集のなかの「MS少年過ぐ」(筆者注・コロニーを行く(三)に収録)は、
アクシズのAMX−107バウの詳細図を見た私の情感を核に、グレミーのそ
の作のいわば解説としての作品であった。一度、思いをあらたにしてグレミー
とはどういう人間であったかを、時間をかけて考えてみたい気がする。

16 名前:ロラン(義経(上)より) mailto:sageP161 [03/09/06 22:07 ID:???]
ロラン・セアックは親友のキース・フランと、フラットで地球に降下し、さら
にアメリア大陸に向かおうとしている。

17 名前:ロラン(義経(上)より) mailto:sageP162 [03/09/06 22:09 ID:???]
若者には、禁忌があった。月の民・ムーンレイスであるということを夢寐(むび)
にもあかせられないことである。明かせばソシエお嬢さんは若者を罵倒し、主人
ディラン・ハイムも不信を抱いて、追放するであろう。
いずれにしてもただではすまない。

18 名前:ロラン(義経(上)より) mailto:sage白河関P162 [03/09/06 22:13 ID:???]
(それにしても)
と、若者はおもう。
この地球の野のひろさはどうであろう。天は廣(ひろ)く、草は遠く、遠霞
むはてが見えぬほどに地がひろがっている。岩石だらけのなかの人工的な月
都市のはずれにそだった若者は、この世界にこれほどにすがすがしくひろび
ろとした野と大地があろうとはおもわなかった。


19 名前:エンドウシュウサク氏「鉄の楔」について(古来今来より) mailto:sageP316〜317 [03/09/06 22:21 ID:???]
双方明いている夜はホテルの二階で酒を飲む。マチス・ワーカー大尉の話も、
そういう折に何度かきいたが、私にマチスについての知識が乏しいために、い
い話相手にはならなかった。
マチスなどという人は、なにやら奇妙でもある。名前ばかりは変に著名で、そ
のわりには資料もとぼしく、先行の伝記のたぐいもほとんどない。ザンスカー
ル戦争の敗者という以外に、ひとびとの網膜(もうまく)に焼きつくには人間
として明度が不足している人物ではないかと思ったりしていた。
先行の伝記としては、F書店から刊行された「帝国地上軍を代表する軍人マチ
ス・ワーカー」という本があり、おそらくこの一冊きりではないか。

20 名前:エンドウシュウサク氏「鉄の楔」について(古来今来より) mailto:sageP317 [03/09/06 22:28 ID:???]
著者のI氏はマチスの故地であるサイド2・アメリアの小学校長をつとめてい
た。また発行人となったU氏はラゲーンの人で、マリア主義者でもあり、さら
にはマチスの末裔とされるワーカー家と縁戚にもあたっていたらしい。このこ
とはマチスを考える上で、多少の興趣がある。後世においてすら、内輪のひと
びとのドメスティックな愛情によってやっと掬(すく)いあげられる存在では
ないかと思ったりするのである。一般のひとびとの目をひかないというところ
は、やはり人間そのものへの明度が希薄なのではないか。すくなくともエンド
ウシュウサクの「鉄の楔」を読むまでは私にとってマチスとはそのような印象
をもっていた。




21 名前:エンドウシュウサク氏「鉄の楔」について(古来今来より) mailto:sageP317〜318 [03/09/06 22:33 ID:???]
歴史小説を書く動機は人によってさまざまにちがいない。私の場合ごく単純で、
気がかりな人間を書くだけのことである。日常、リニア・カーに乗っていても、
向いの座席にそういう気をおこさせる人がいる。
私どもはこの社会にーあるいは宇宙世紀史という時間的な箱の中にー同乗してい
る。ドアがひらいて乗ってきたマチス・ワーカーという乗客が、目の前にいても、
ひとびとーたとえばザンスカール戦後の作家や伝記作者たちーは気づこうとはせ
ず、たとえ気づいても、その人物が何者であるかということまでの関心はもたな
かった。


22 名前:エンドウシュウサク氏「鉄の楔」について(古来今来より) mailto:sageP318 [03/09/06 22:39 ID:???]
エンドウシュウサクの場合、そういう乗客に関心をもったということが、まず
おもしろい。端的にいえば以上のようなぐあいの乗客をあえて知りたいと思っ
たエンドウシュウサクの側に、むしろ問題の重要さがあるように思われる。つ
まりは誰に関心をもち、その誰における何を知りたいということはすべて作家
の側の課題であり、本来無心である誰の側の課題ではないのである。
私は、まずいことを書いている。右のように述べてくると、勢い、エンドウシ
ュウサク論に似た境域に踏み込まざるを得ないが(創作のエネルギーが進行中
の作家について作家論をしてしまうということは私の能力を越えている)、そ
ういう危険を避けつつ「鉄の楔」についてとりとめもなく雑感をのべたい。

23 名前:エンドウシュウサク氏「鉄の楔」について(古来今来より) mailto:sageP318〜319 [03/09/06 22:46 ID:???]
熱心なマリア信者という側面をもつマチスは、かれの信仰の深浅はともかく、マ
リア主義史上の存在であることはまぎれもない。たとえばI・H編の「新・マリ
ア主義辞典」にもその名と略伝が記載されている。同書のその項に、「カサレリ
アの一戦に破れ・・・・・白いMSに迫らんとするや、女王マリアの名を唱え、
信仰をもって死んだ。その訃報がサイド2・アメリアに伝わるや、ガチ党党首フ
ォンセ・カガチは、マチス・ワーカー大尉をマリアに殉じた偉大な殉教者である
と称え、その冥福を祈れと命じた」とある。
ただしマチスの受洗はかれ個人の思想的煩悶(はんもん)のすえのものではなく
べスパ一般の風習・義務的なものからだったろうとエンドウは見る(いかにも妥
当とおもわれる)

24 名前:エンドウシュウサク氏「鉄の楔」について(古来今来より) mailto:sageP319 [03/09/06 22:52 ID:???]
「その家族思いの誠実な軍人である彼がこの異端の宗教を心から理解したとは
どうしても私には思えぬ」と「鉄の楔」のなかでいう。
マチスは「義務的洗礼」というかたちでの受洗者であった。この義務的洗礼と
いう言葉はエンドウにとって重要で、かつても使ったかもしれず、この作のな
かでもしばしば使っており、エンドウ自身の履歴とも重なっている。エンドウ
がマチスという「乗客」にいぶかしさを感じたことのひとつは、このことであ
ろう。

25 名前:エンドウシュウサク氏「鉄の楔」について(古来今来より) mailto:sageP319〜320 [03/09/06 23:00 ID:???]
 こういう考え方はマチス・ワーカーを最初から敬虔な信仰者とみる人には反
対を受けるかもしれぬ。だがマリア主義の信仰というものは多くの場合、長い
人生の集積をさすのであって、普通考えられるように改宗、もしくは受洗した
日から一挙に心の平安や女神への確信が得られるものではあるまい。女神はそ
の人の信仰が魂の奥に根をおろすまで、陽にさらし雨をそそぎ、さまざまな人
生過程をあたえられる(中略)
マチスもその死の日までこの受洗の意味が何だったか、一度、女神を知った者
を決して離さぬことを知らなかった。

と、作者はいう。このことばは、「一度、女神とまじわった者は、女神から逃
げることはできぬ。マチスもまた、そうだったのである」ということばーこの
作品のゆるやかな主題ーと遠く対応している。

26 名前:エンドウシュウサク氏「鉄の楔」について(古来今来より) mailto:sageP323 [03/09/06 23:03 ID:???]
「鉄の楔」は、資料やら学説やらを公共的なものとして尊重しつつ、それでも
なおマチスの人間と事歴における致命的な空白を、ときに遠慮ぶかく、ときに
大胆に想像し、結局はマチス像を創造している。

27 名前:エンドウシュウサク氏「鉄の楔」について(古来今来より) mailto:sageP330〜331 [03/09/06 23:09 ID:???]
ゾロによる特攻から想像されることは、マチスの俗世への野心ということである。
この家族とともに地球の大地で暮らすという野心があるがために、かれは地球地区
への配属のほうをえらんだ。
またこの野心のために、連邦政府とザンスカール帝国との停戦協定に表向きは従う
そぶりをみせながら、面従腹背した。
「彼の本質は面従腹背であり、その面従腹背の才能が彼のただ一つの武器になるの
である」とエンドウはその作品のなかでいう(中略)
以上の事態からほんの数日後にべスパの軍人としてのマチスは戦場にZMS−08
Gゾロに乗り出撃する。
すべてを白いMS(ヤツ)を撃破することにかけたマチスが、V2の光の翼で味方
機がことごとくやられても、一人の軍人としてじつに立派であったということを、
エンドウはリガ・ミリティア側の報告文に拠って書いている。


28 名前:エンドウシュウサク氏「鉄の楔」について(古来今来より) mailto:sageP331〜332 [03/09/06 23:14 ID:???]
現世での野望がマチスに鉄の楔をうちこんでいた。それがぬかれたときにマチス
の質が本来のものになったのかどうか(中略)

女神は野望というマチスの楔を使って、最後には「彼を捕らえたもうた」からで
ある。

マチス・ワーカー大尉のような者にも恩寵が働いているという神学はエンドウの
持続した思想で、エンドウの厳格とつねに同居しているものである(中略)
他の宗教作家ならばあるいはこれほどまでに明晰にマチスのすべてをおおうとい
うまでには至らないのではないか。

29 名前: mailto:sage [03/09/06 23:16 ID:???]
チョト休憩

30 名前:少女の幻術(果心居士の幻術) mailto:sageP31〜32 [03/09/06 23:26 ID:???]
用があれば、ララァはどこからともなしに夢の中に出てきて、29歳になって
いるアムロに面会した。たいていの夢にあらわれる。ときに一言も口をひらか
ない場合もあった。アムロの望む望まぬとにかかわらず、風のようにアムロの
夢にあらわれるのである。いつの場合も、服装はかわらない。アムロがベッド
のうえで目を閉じると、そこにララァ・スンがいた。



31 名前:少女の幻術(果心居士の幻術) mailto:sageP25 [03/09/06 23:29 ID:???]
「なんの用であらわれるんだ」
「見たいからいるの。世に名の高いアムロがどんな運命になっていくかを」
「最期まで見届けるつもりなのか」
ふり払おうと思っても手が思うように動かず、体が言うことをきかなかった。

32 名前:少女の幻術(果心居士の幻術) mailto:sageP25〜26 [03/09/06 23:33 ID:???]
アムロの顔を食い入るように見つめていたが、やがてふっと笑い、
「不満なのね」
といった。
「なにが」
「大佐のことよ」
と、アムロから目をはなさない。
「なぜシャアを否定しない」
「何度も言ったはずよ。私は大佐もアムロもすきなの。ただあなたたちの側に
いたいと思っているだけなの。どうしてお互い素直になれないの」
「僕とシャアの両方を自分のものにできると思うな」

33 名前:少女の幻術(果心居士の幻術) mailto:sageP31〜32 [03/09/06 23:42 ID:???]
「ララァが。・・・・」
その名をシャアからきくと、νガンダムのコクピットにいるアムロの面上から
いつもの憂鬱そうな張りが消えて、すでに腰が浮きあがっていた(略)
アムロは虚空に出た。
そこに、きらきらと光る魂の群れがあった。
(ここはどこだ)
見当もつかない。
きょときょととあたりを見回していると、不意に目の前に人があらわれて、
「ここよ」
と笑った。ララァが、のびやかに手をひろげ、白鳥のように飛んでいる。
「なんの用だ」
「行くの。ながかったけど、もういちいちあらわれなくてもよくなったのよ」
「へぇ〜、どこへ行くんだい」
アムロは少々ほっとした。どこかで聞いた、たしかチェーンあたりが教えてく
れたことを思いだした。とり付いている霊が去るときは、かならずあいさつに
来るものだと。−アムロは自分でもたまげるほどの明るい声を出して、
「いずれに行くんだい」
「あなたも、一緒に行くのよ」
アムロが行方不明になったのは、その日3月12日である。

34 名前:少女の幻術(果心居士の幻術) mailto:sageP33 [03/09/06 23:45 ID:???]
あっというまにオーロラがアクシズと二人をつつみこんだ。アムロはあたたかい
光のなかで、シャアともども宇宙に消えた。
ーむろんララァといえども、アムロのこんな運命まで予見していたわけではなか
ろう。会いにきたのは、この少女なりの予感があったからにすぎまい。

35 名前: mailto:sage [03/09/06 23:47 ID:???]
感想を期待しつつ、寝ます。

36 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/07 01:19 ID:X3L+SnAC]
待ってたよ

37 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/07 01:21 ID:Rs+MgKr4]
>>1
早寝だねw

38 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/07 16:26 ID:X3L+SnAC]
保守

39 名前: mailto:sage [03/09/07 21:28 ID:???]
明日も早いですが、少しだけ。
>>36
アク禁で少々スレ立てに苦戦しました。

40 名前:それぞれのザンスカール戦争(時代の風音) mailto:sage日本人のありよう・P158〜159 [03/09/07 21:40 ID:???]
ホッタ「ブンゲイシュンジュウにガチ党員による、女王マリアの独自録という
のが出ましたが、私はあんなの読まない、言いわけは聞きたくないですね」
シバ「私はそうは思いません(中略)女王はエンプティである。最終責任はそ
れぞれの役職者だ。だから女王にアクションなしでした。
戦争を起こさないことに関しても、なぜ起こしたんだ、女王がノーといえばい
いじゃないか、という見方がありますが、ノーといえどもアクションですから
女王の立場では言えない、だから、独自ということになるのでしょう(中略)
私はあの女王の独自のなかでちょっとショックを受けましたのは「クロノクル
もよいが、カガチはいいやつだった」というくだりです。それはカガチはいい
やつです。たとえばだれかが買収しようと思っても、カガチは非常にきまじめ
な性格だから、ペン一つも私物化しないし、むろん買収もされない。しかしな
んとも珍妙なほどに科学者であって、一国の国家をまかせられるような人物で
はない。ともかくカガチはいいやつだからというのは、逆にいえばクロノクル
をのぞいて信用できるやつがほとんどいないということでしょう」




41 名前:歳月(江戸鎮台) mailto:sage歳月より・P146 [03/09/07 21:52 ID:???]
「おなじころがりこむなら」
と、バスクは、諸事機敏すぎるジャミトフを皮肉って、「いっそ、レビルの陣
営に属したらどうです。そのほうがより才能をふるえると思えますが」
「言うな」
ジャミトフはみるみる怒気をふくみ、吐きすてるようにいった。
「レビル派の巣窟にゆき、レビル派のディナーを食せば、もはやジャミトフ・
ハイマンにあらず、鬼畜である」という。レビル派はすでに連邦政府の中心的
存在になっている。その陣営に入ることは鬼畜に自ら堕ちてゆくほどの愚挙で
あり、ジャミトフ・ハイマンたるものの自尊心がゆるさない、という意味であ
った。
「私はなにごとも独りでやる」
と、ジャミトフはいった。「好戦派になにほどの人物がいるか。かれらは刻の
勢いにのった徒党であるにすぎないではないか」ともいった。
ジャミトフのこういう鬱懐は生来のものなのであろう。士官学校にあるときは
実業家として栄達するメラニー・ヒュー・カーバインに白眼を剥き、連邦政府
財政部門に所属すると、レビル派に対して事ごとに反感をもった。ジャミトフ
がなにものにも反感をもたなくなるときは、かれ自身がこの全宇宙の独裁者に
なるときではあるまいか。

42 名前:歳月(江戸鎮台) mailto:sage歳月より・P147 [03/09/07 21:56 ID:???]
ジャミトフはそういう連邦軍の名将レビルに対し、
(これは一種の馬鹿なのだろう)
とおもった。連邦軍成立以来、士官・将兵たちのあいだでレビルほど人気のあ
る者はなく、いまやその声望は政府全体を蓋おうとしているほどであったが、
ジャミトフという体質からみればレビルがどうにも理解できず、一個の無能者
としてしかみえず、この傾向はジャミトフの生涯にわたっての固定観念であっ
た。

43 名前:歳月(江戸鎮台) mailto:sage歳月より・P105〜106 [03/09/07 22:05 ID:???]
ゴップは、ジャミトフのために場内に席を用意し、そこにすわらせた。ゴップ
も、対座のかたちで別の席に腰をおろし、むかいあった(中略)
ジャミトフはゴップに対し、現在の戦争情勢をつぶさに語った。そのことばの
なかに、高名な宇宙軍提督の名が砂利でもまきちらすかのような無造作でとび
だし、地球連邦軍提督のゴップを驚嘆させた。ジャミトフはさらに強調した。
「このままでは連邦軍はほろびます」
という、この男のくせの、最大級の表現をつかい、すさまじい予想をいった。
「ほろびる」
ということばをきき、ゴップはその肥大化した面をひきしめ、「ジャミトフ君、
すこし口がすぎる」とひくい声でたしなめた。
が、ジャミトフはひかなかった。
ジャブローの参謀本部がレビルにすべてを一任し、対ジオン戦争において情勢
を楽観し、ソロモン陥落のあとに和平をしようとする動きが出ていることにつ
き、下士官や要人たちが激昂し、「卑劣なるジオンの連中を徹底的に叩きつぶ
そう」という意見が出ていることなどを語った。

44 名前:歳月(都の花) mailto:sage歳月より・P106 [03/09/07 22:08 ID:???]
「だから」
ゴップは、不快な顔をした。
「われらはこうして有利に戦争をすすめ、有利に終結させようとしているでは
ないか」
「いや、不徹底であります」
ジャミトフはにべもなくいった。
「今後、いや戦後は、政府として連邦軍としてよほどジオンに力をしめさぬか
ぎり、この不穏の事態は解決できませぬ」

45 名前:歳月(都の花) mailto:sage歳月より・P107 [03/09/07 22:10 ID:???]
「極端なことばをつかうな。不穏の事態とはなにを指すぞ」
「言うもおろかなり、絶対民主制に対する宇宙のゴミどもの反逆であります」
「・・・・・・」
提督は、だまった。

46 名前:‘W‘と21世紀の種の愚かさ(ある運命について) mailto:sageガンダムWのケレン味溢れる映像を見て・P34 [03/09/07 22:21 ID:???]
平成ガンダムシリーズにおける新機動戦記ガンダムWの影響というのは、ガノタ
が従来の富野ガンダムの思想と、Gガンの知識のみならずナマ身でもって新世代
ガノタと激突した本格的な体験といっていい。
じつに作品論争上惨烈な戦いになった(中略)
なんと今だに実質的な勝敗の決着はついていないのである。
製作を担当した監督・池田成はGガン路線から富野的宇宙戦争のかたちにもどす
べく奔走したが、スポンサーサイドとの軋轢で降板させられ、キャラクターデザ
インの村瀬修功もデザインのみで作画はほとんどせず、当時のサンライズ経営層
としてはきわめて条件のいい環境にありながら効果的なスタッフの用い方をせず、
ただむやみにケレン味と圧倒的すぎる強大なガンダムを表現させ、従来のシリー
ズにあったリアリズムとヒューマニズムをかなぐり捨ててしまったという作品で
ある。

47 名前:‘Wと21世紀の種の愚かさ(ある運命について) mailto:sageガンダムWのケレン味溢れる映像を見て・P35 [03/09/07 22:26 ID:???]
ガンダム、とりわけ群像劇たるアニメーションには、さまざまな人物とナマ身
にちかい演出をする以外にないということは必要不可欠のことなのだが、この
Wの演出や作劇法について池田やスタッフたちはみずから深刻に、独創的に考
えたという形跡はあまり見受けられない(むしろ、意図してこういう作品を作
っているような気配すら感じられる。池田成はWを「原作者・富野が作ってい
たら」という想定のもとにWを演出したそうだが、かれなりの一つの表現方法
であったのだろう)

48 名前:‘Wと21世紀の種の愚かさ(ある運命について) mailto:sageガンダムWのケレン味溢れる映像を見て・P37 [03/09/07 22:33 ID:???]
池田成ほど、「美」やケレンにこだわりきれる男もないように思える。かれは
高橋良輔門下の演出家だが、かれの監督作品「鎧伝サムライトルーパー」にお
ける美学は並々ならぬものがある。ファンサービスに関しても、女性ファンを
とくに意識した点において功があるし、その職人気質はどこぞのおだてられた
監督とちがって、作品できっちり表現するといういさぎよさがあり、好感のも
てる男である。
村瀬修功とは「黄金コンビ」ともいわれるほどにウマが合った(富野と安彦、
高橋と塩山といったところか)
村瀬については、筆者は「カミソリのような」するどさをもった印象をキャラ
クターからうけた。その安彦や川元利浩とはまるで異なった印象が逆に新世代
のファンに受け入れられたのは、人間が持ち合わせている暗さや悪業といった
要素をみじんも感じさせないデザインからきているのだろう。

49 名前:‘Wと21世紀の種の愚かさ(ある運命について) mailto:sageガンダムWのケレン味溢れる映像を見て・P37 [03/09/07 22:46 ID:???]
高松信司は、のちに、
「製作の事情にそぐわない命令をサンライズのひとたちがどんどん出してくる
というのが、自分にはよくわからなかった。しかしのちにプロデューサーによ
ばれてゆくにおよんで事情がわかった」
と語っているが、その事情というのは、池田を降板させた経営陣はW後半をど
う始末をつけるかも考えず、池田成の姿勢・製作状況にくらく、作り手の意図
がわからないという理由だけで降板させたことであった。
次いで後半部分はコンテチェックといった製作がすすんでおらず、まったくと
いっていいほど手つかずになっていたということであり、さらには、他に作品
をかけ持ちして製作にあたっていた高松信司にWの尻拭いをさせようとしてい
たということである。これらのことは筆者は最近になって知りえ、Wをあらた
めて考え直させる一因となったのだが、しかしあまりにもひどいのは監督が交
代したにもかかわらず、OPのクレジットは最後まで池田成の名がクレジット
されつづけたということであろう。
後半の悟りの境地に達したかのようなヒイロの多弁ぶり(やけにまともなこと
を喋るようになる)や、逆襲のシャアを想起させるホワイトファングのリーダ
ー・ミリアルドの行動は、前半部分とつながっていない、一貫していないので
はないかという疑問が筆者にはリアルタイムで見て以来あったのだが、その疑
問がこの交代劇でとけた。
高松とXのキャラクターデザイン・西村誠芳がサンライズを離れた理由がよく
わかるような気がする。
Wにおける西村とスタジオ・ダブのパワーというのは一顧だにされていない。
あの作画力を支えた集団がX・ブレンパワード・∀などの作画メンバーだった
ということは、記憶にとどめておいてもよいはずである。

50 名前:‘Wと21世紀の種の愚かさ(ある運命について) mailto:sageガンダムWのケレン味溢れる映像を見て・P38 [03/09/07 22:54 ID:???]
ガンダムWがやった方法で効果的だったのは、ストーリーのテンポのよさとビジュ
アル重視と無敵ガンダムの表現くらいのもので、逆にケレン味に徹したがゆえに、
膨大な女性ファンの獲得に成功したのであったが、それだけに旧来のファン構造と
の格差を生んでしまったこともまた事実である。
これだけのリアリズムをあえて投げ捨てた作品が、スタッフの前で検討され解剖さ
れることなく、それをむしろ正統的表現というファンダム的情景としてスタッフに
受けとめられたところにいかにも種らしい特徴があり、そのことが、昼メロのドロ
ドロ劇(本来の昼メロは昼ドラ(いわゆる「嵐シリーズ」など)的表現が一般的で
あるが、比べることは昼ドラというジャンルに失礼であろう。昼ドラのメイン視聴
者は女性で、シナリオのレベルも比較にならない)絶対的最強主人公(どうみても
ヒイロよりもはるかに矛盾しているし、Xのガロード、Vのウッソよりもコドモ的
権利を行使しすぎている)801的友情という表現(これはもはや私の理解を超え
ている)という性懲りもない愚挙をやってゆくことになったのである。



51 名前:‘Wと21世紀の種の愚かさ(ある運命について) mailto:sageガンダムWのケレン味溢れる映像を見て・P39 [03/09/07 22:59 ID:???]
むしろWの表現を一つの表現であるとみとめず、完全なドラマ表現の最高位で
あるという成功とみるような雰囲気があり、その雰囲気のなかから、W・X・
エンドレスワルツ・∀後の種スタッフの体質ができあがっていったのではない
かとさえ思えた。この体質の種スタッフとサンライズが平成14年ごろからア
二メ界を支配したとき、ガンダムそのものを懸け物にして‘ガンダムW‘へた
たきこんだというのもむりがないような気もするのである。


52 名前: mailto:sage [03/09/07 23:03 ID:???]
そろそろ切り上げます。

53 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/09 03:15 ID:???]
お疲れ様です、はっきりいって面白い。
知的なスレはいいね。

54 名前:1 mailto:sage [03/09/09 20:51 ID:???]
>>46-51は、他のW考察スレなどを参考にしました。
改めて見直すと新しい発見があるものですね。
>>53
>面白い
ありがとうございます。嬉しいです。
元の原文がいいですからね、あとはどうアレンジと解釈を加えていくかという
ことで。
>知的
種以外の全作品制覇を目指します。


55 名前:ホワイトファング(坂の上の雲(二)列強より) mailto:sageP343〜344 [03/09/09 21:06 ID:???]
指導者となったミリアルド・ピースクラフトについて、多少語っておかねばな
らない。このサンクキングダム国王・ピースクラフト王の子は、故郷をOZに
よって滅ぼされてしまったために幼少期のわずかしか帝王学の教育をうけず、
もっぱら一軍人としてーゼクス・マーキスとしてー終止した。事実かれは軍人
に適しており、それも将官級の軍人でなく、佐官級の軍人に適していた。かれ
自身、自分を、誠実なMSパイロットであるとし、トールギスをもって自ら任
じていたところ、盟友のトレーズ・クシュリナーダと袂をわかち、やがて指導
者ヒイロ・ユイの意志を継ぐものに説得され、いわくつきのガンダムタイプM
Sエピオンの見せた未来を信じるため、ホワイトファングのリーダーとなった。
「ミリアルド・ピースクラフトは個人としては政務的才能はなかったが、リー
ダーとしては立派であった」
と、指導者ヒイロ・ユイ以外ほめることの少ないカーンズは、自らそのように
評している。
ちなみにカーンズはこの時代のコロニー側にあっては傑出した作戦家・行動家
で、ミリアルドと指導者ヒイロ・ユイの両コロニー指導者を支援し、側近をつ
とめ、のち行方不明になった。どちらかといえば非コロニー的な人物で、計画
実行能力と過激思想をもち、コロニーそのものへの批判者としてもその言葉は
つねに急進的であった。

56 名前:別軍(この国のかたち(四)別国) mailto:sageP94〜95 [03/09/09 21:34 ID:???]
地球を‘占領‘したなどおだやかでない表現だが、実態は支配した、などより
はるかに深刻で、占領したというほかない(中略)
この‘30バンチ事件処理‘がティターンズ(特務部隊)の謀略によってひき
おこされたことは、いまでは細部にいたるまではっきりしている。

57 名前:別軍(この国のかたち(四)別国) mailto:sageP95〜96 [03/09/09 21:38 ID:???]
地球はおろか宇宙すら支配しようとしたことについては、ティターンズ内に、
思想的合意の文書というべき機密文書が存在した。
「統帥要領」
が、それである(中略)
編んだのは地球連邦軍の特務機関であるティターンズの本部であった。この書
物は軍の最高機密に属し、特定の将校だけが閲覧をゆるされた。

58 名前:別軍(この国のかたち(四)別国) mailto:sageP97〜98 [03/09/09 21:46 ID:???]
その本のなかに「非常大権」という項目がある。
簡単にいえば、国家(地球および政府)の変事に際しては、ティターンズが正
規軍をふくめた国家のすべてを支配しうる、というものである。以下、直訳す
る。
「軍と政治は原則としてわかれているが、戦時または国家危急の事態の場合は
特務権限(注・統帥権限のこと)を行使する機関(注・ティターンズのこと)
は、軍事上必要な限度において、直接にアースノイドを統治することができ、
かつ狂徒(注・スペースノイドをさす)どもを整理することができる(略)
この場合、軍権(注・統帥権限のこと)の行使する政務(注・政治活動のこと)
であるから連邦議会に対して責任を負うことはない」
という。このみじかい文中で特務権限と軍権という類似語がたがいに無定義に
つかわれている。特務権限も軍権もおなじ意味で、統帥権限のことである。

59 名前:別軍(この国のかたち(四)別国) mailto:sageP100〜101 [03/09/09 21:59 ID:???]
もし‘事態‘の解釈をあやまって非常大権が発動されたりすれば、いわば無法
の国家になってしまう(中略)
質問者として、コジマが登場する。
コジマは連邦陸軍出身で、一年戦争中連邦初の陸上MS大隊、極東方面軍、機
械化混成大隊(通称・コジマ大隊)隊長として活躍、巨大MAアプサラス鎮圧
に功があり、一部で‘エアコンの嫌いなガンコ親爺‘などといわれた軍人であ
る。一年戦争後は主に地方司令部で働き、生涯無派閥をつらぬいた。
ときは、宇宙世紀0084である。場所はダカールの連邦議会での特務部隊法
案の逐条審議の席上だった。コジマは、ティターンズの事態という用語にひっ
かかって、執拗に質問した。ひょっとすると、後年、この条項を悪解釈するか
もしれないという危惧をもったのかもしれなかった。
「独語で何という字にあたるか」
と、問うた。
これに答えるのは、「特務部隊権限強化」の立場で答えるのは、この時期を通
じてもっともすぐれた秀才だったアデナウアー・パラヤである。
アデナウアーは外務部門に出仕、各サイドの交渉などで地歩をきずき、のちに
は参謀次官の地位にのぼるなど、政府の典型的エリートとして功(官僚的では
あるが)があった。
そのアデナウアーが、ドイツ語の単語で答えた。
「事態ノ文字ハ独語ニテ(ファル)ト云フ」


60 名前:別軍(この国のかたち(四)別国) mailto:sageP101 [03/09/09 22:03 ID:???]
手もとの独和辞典によると、Fallは、事例・ケース・事情の意味をもち、法学
的には事件・判例、医学的には症例、beil(バイル)という語を加えると、Fa
llbeil(断頭台・ギロチン)という言葉になる。



61 名前:別軍(この国のかたち(四)別国) mailto:sageP102〜103 [03/09/09 22:09 ID:???]
アデナウアーは、さらに説明した。
「事態トハ寧(むし)ロ戦時二属シ内乱又ハ暴民ノ蜂起スル等不時ノ事態ヲ云
フモノナリ」
また、言う。
「政府ハティターンズヲ以テ之(これ)ノ鎮圧二従事シ人民ノ権利ヲ中止スル
ノ場合二云フモノナリ」
となると、‘事態‘というのは小規模なものではない。まず現下の情勢ではお
こる可能性のないほどの大きいものである。コジマは、
「いっそ戦争という言葉をつかったほうが、はっきりするのではないか」
といった。

62 名前:別軍(この国のかたち(四)別国) mailto:sageP102〜103 [03/09/09 22:17 ID:???]
この前線勤務の老練軍人は、先の宇宙世紀0079のとき、ジャブローのオフ
ィス勤務になるところをことわって軍服を着、コジマ大隊をひきいて東南アジ
アで戦った経歴をもっている。
当時連邦軍中佐だったコジマが経験した戦争は(ジオン側は独立戦争と呼んで
いる)戦場が地球圏全体にひろがり、東南アジアやアフリカなどの各地域にも
およんだ。コジマとその揮下のMS小隊が経験した一年戦争はその点、東南ア
ジア地区を中心とした局地戦だったが、戦闘の激烈さは、他の地域以上にはな
ばなしかった(巨大MAアプサラスとの戦闘で、コジマの部下である08MS
小隊長シロー・アマダは行方不明となり、かれの直属の上官イーサン・ライヤ
ー少将は戦死をとげている)非常大権が発動されるべき事態とは、当然そのよ
うなものだとコジマはおもったにちがいない。

63 名前:別軍(この国のかたち(四)別国) mailto:sageP103 [03/09/09 22:21 ID:???]
ティターンズ本部が秘(ひそ)かに編んだ「統帥要領」にあっては、それをて
こに統帥権限を正規軍に優越させ、‘統帥国家‘を考えた。つまり別軍をつく
ろうとし、げんにやりとげた。

64 名前:1 mailto:sage [03/09/09 22:27 ID:???]
これくらいで。

65 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:age [03/09/10 01:19 ID:???]
う〜ん、某スレで紹介されてるのみてきたけどイイですね。
種が嫌いみたいだけどw がんばって全制覇してください!あげときます!

66 名前: mailto:sage [03/09/10 20:10 ID:???]
種ネタはコロニーを行く(三)を参照してください(Html化されてませんが)

67 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP37 [03/09/10 20:17 ID:???]
マリアの日々は、なお少女であることがつづいている(中略)
かのじょの少女期は不幸でありすぎるようであり、むろん不幸すぎることは同
情の余地もなくはない。「父母、偏(ひとへ)二悲(いつくし)ミ、物心ツキ
シ頃、スデニコノ世二ナク」と、かのじょの晩年(若すぎるが)の談話をもと
にして編んだらしい「御光説」(ごこうせつ)にある。


68 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP57 [03/09/10 20:22 ID:???]
マリアにおけるマリア主義の中には型どおりのキリスト的ザンゲ観は淡水の塩
気ほどもない。それが無いという機敏のなかにこそイエス・キリストがはじめ
たキリスト教の伝統と異なったものがあるとみるべきであろう。
むしろ人間がなまのままで、というよりなまであればこそ、たとえば性欲をも
ったままで、というより性欲があればこそ即身で幸福になることができ、しか
も女性は子を産み、パートナーたる男性はその子を守り、育て、死んでゆくこ
とによって永遠になることができるというあたらしい体系なのである。

69 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP71 [03/09/10 20:24 ID:???]
性欲は普遍的に存在している。マリアにもある。というよりは、10代のころ
のこの人物は人一倍それが強かったにちがいなく、その衝動に堪えかねて喘ぐ
ような日もあったと考えてやらねばならない。

70 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP72〜73 [03/09/10 20:32 ID:???]
自分の皮膚をもって異性の粘膜に接したときに閃々として光彩のかがやく生命
の時間を知ったにちがいない。その時間が去ったときに不意に暗転し、底のな
い井戸に墜落してゆくような暗黒の感覚も、この少女は知ったはずであるかと
思われる。のちのマリアの思想にあってはその暗黒を他の宗教の徒のように儚
(はかな)さとも虚しさともうけとらず、のちのマリアが尊重した「理の経典」
における性交もまた真理であり、同時に、性交の時間の駆け過ぎたあとの虚脱
もまた真理であり、その結果としての出産の痛みからくる苦痛もまた真理であ
り、さらには性交が虚脱に裏打ちされているからこそ宇宙的真実たり得、逆も
そうであり、かつまたその絶対的矛盾世界の合一(ごういつ)のなかにこそ宇
宙の秘密の呼吸があると見たことは、あるいはマリアの体験がたねになってい
るかのようでもある。




71 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP73〜74 [03/09/10 20:46 ID:???]
マリアがその最初の著作として「三教示帰」(さんごうじき)を書いたという
ことはすでに触れたが、そのなかに色情にちなむ叙述が多い(中略)
この戯曲形式の思想論の登場人物のひとりがかなりの好色であるとのべ、
「肌の色が黒・黄色の男はおろか、声・パーツ(身体の一部分)の一部に特徴
のある男を見てさえ、それに対して欲情をおこすというほどに好色な女である」
と設定している。
マリアはこの登場人物に「ポンパドゥール」というおどけた名前をあたえている
が、旧世紀フランスのロココ文化を代表する貴族女性の名だけに才智と美貌は優
れている。
モデルはある。筆者のマリア自身それは自分のいとこであると書いている(もっ
ともマリアにはクロノクル以外に肉親はおらず、いとこにあたるのはマリア自身
であると推察できるが)
そのモデルもどうやら学校に通っているが、ただ遊びや売春や酒色にふけってい
る不良少女で、学業をおろそかにしている。学校へゆくと、あくびばかりしてち
ょうど悪がしこいウサギが物陰で居眠りのみしているようなありさまだ、とマリ
アは書く。マリア自身の文章では、
「学童に臨んで欠伸(けんしん)すること、還って竄兎(ざんと)の陰に垂れる
が若(ごと)し」
ということになる。

72 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP74 [03/09/10 20:53 ID:???]
それがいかに男好きであるかということを、醜男でも美男子でも見境いがない
ほどだという表現で紹介する(略)
この戯曲では、キリスト教を代表する人物として「ラスプーチン神父」という
あやしい名前の伝道師が出てくる(中略)
「ラスプーチン神父は容貌がいかつく、姿が堂々としている。うまれつき雄弁
で、キリスト教の経典に精通している」
と、この戯曲ではいう。
そのラスプーチン神父がこのポンパドゥールをキリスト教の立場から説諭する
のだが、その説諭のなかにも異性の問題が出ている。

73 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP75 [03/09/10 21:03 ID:???]
さらに高弁という仏教を代表する人物もこの戯曲に出てくる。この弁論が達者
そうな名前の僧侶は仏教のすぐれた点を説くことによってポンパドゥールを諭
す役割を演ずるのだが、この僧侶のせりふのなかに、秀麗かつ明晰な男子は悟
りの境地に達しえる存在であり、女というものは男子の求道を妨げる存在であ
ってはならない、というのがある。マリアはこの戯曲のなかで結局はラスプー
チン神父や僧高弁をからかい、否定し去るのだが、人間の生死について真理と
はなにかを戯曲の舞台で考えるうえでマリアのこの舞台上に去来する照明は、
美しくもまがまがしくもある性欲の光芒である。肉体のなまぐさい年齢のマリ
アにとってこの課題が小さかったはずはない。

74 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP83 [03/09/10 21:14 ID:???]
マリアは自分の体の中に満ちてきた性欲というこの厄介で甘美で、しかも結局
は生命そのものである自然力を、自己と同一化して懊悩したり陶酔したりする
ことなく、
「これは何」
と、自分以外の他者として観察するという奇妙な精神構造をもっていた(略)
元来、性欲とはおのれに密着したものであり、ときにおのれそのものであり、
性欲にもまたおのれの固有名詞が冠せられ、あたりまえのことながらおのれの
戸籍に属し、その性欲の動くところ、ときに人を傷つけることがあればおのれ
の所業として指弾され、ときにそれによって姦し、殺せばおのれが刑殺される。

75 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP83 [03/09/10 21:30 ID:???]
である以上、性欲はあくまでも特定のその個人に属し、その個人そのものであ
りながら、しかし性欲は普遍そのもので何人(なんびと)の性欲も性欲である
ことにおいては姿もにおいも味も成分も寸分かわりがない。それは万人に共通
している。普遍的である以上なぜ性欲という客観物として、それを一箇の物体
として万人が観察する場にほうり出せないのであろうか。
 マリアの関心と懊悩はそれであったにちがいない。

76 名前:富野世界の誘惑(歴史と風土) mailto:sage密教世界の誘惑・P154 [03/09/10 21:39 ID:???]
私は富野という人を多分にアニメーションの大家的に理解してはいるんですけ
れども、やはり彼の底にあるものはそれだけではとらえきれない。富野的世界
への共感でもって見ていかなければわからないところがあるんですよ。結局、
そういったものに共鳴してしまう部分が、私の中にもあるということなんでし
ょうね。

77 名前:富野世界の誘惑(歴史と風土) mailto:sage密教世界の誘惑・P157〜158 [03/09/10 21:55 ID:???]
でまあ、私は角川系のアニメーション・ノベライズ、小説の類いには明るいほ
うではありませんから、いろいろ読んでいきますと、どうしても富野由悠季の
ノベライズは外せないと思えましてね(略)
理解しようと思って富野の小説をおもにガンダム系を読みだしたんですが、彼
の文章は非常に理屈っぽい説明やくどさにあふれたトミノ的文体を駆使するた
めによくわからなくなってしまうんですね(略)
一応、角川スニーカー文庫の人はみんな、ああいう小説を一流としていたらし
いんです。一種、カリスマ作家が書いた!という宣伝のしやすい形態であった
わけですね。
ところが富野自身がライフワークとしていた「バイストン・ウェルの系譜」の
諸作品を得意げに書いているのだろうと考えたために、これはどうやらインチ
キな人らしいと思ってしまったんですよ。

78 名前:富野世界の誘惑(歴史と風土) mailto:sage密教世界の誘惑・P158 [03/09/10 22:00 ID:???]
富野の小説を見ましても、普通はかれが得意としている太宰治のスタイルでい
けば、それを磨きあげていって、やがては(かれ自身は暗いのを嫌がっている
ようですが)一つの純文学として残ってゆく、という具合になるでしょう。と
ころが富野という人は一生、トミノ台詞という変なものを発明していった。こ
れはやはり、動く映像とキャラクターでもって再現されなければ面白くはない
だろうと、当時はその程度にしか思わなかったんです。

79 名前:アムロをめぐる女性たち(歴史の中の日本) mailto:sage幕末を生きた新しい女・P159〜160 [03/09/10 22:09 ID:???]
アムロは、一年戦争にあってはホワイトベースを拠点として活躍したが、かれ
より2つ年上ながら、セイラ・マスが好きだったらしい。
セイラも、まるで弟に対するような態度でアムロに接した(略)
アムロは、年上のセイラをもって女性の理想像とし、ちょっと強気のある女性
が好きだったらしい。むろん恋愛関係とまでは行っていない。

80 名前:アムロをめぐる女性たち(歴史の中の日本) mailto:sage幕末を生きた新しい女・P161 [03/09/10 22:12 ID:???]
アムロはカラバに参加したころ、一人のある金髪碧眼の女性と知り合った。
ヘレン・ヘレン(石鹸)の香りに、偶然彼女が興味をもったのが接点となった、
カラバのメンバーの一人で、ヒッコリーへ案内するためにレプリカ機コメット
でアウドムラへきていた。



81 名前:アムロをめぐる女性たち(歴史の中の日本) mailto:sage幕末を生きた新しい女・P162 [03/09/10 22:16 ID:???]
白黒はっきりした強気な女性、といった型の女性が好きなアムロは、最初から
ベルトーチカに興味があったのであろう(略)
ベルトーチカ・イルマは、はっきりとしている、強気で仕事をこなせる、とい
う点でセイラ・マスを思わせるところがあったが、ただ一つ違うところがある。
自己中心的・無神経な女と一見おもわれてしまう、という点であった。料理も
へただった。この点、幼なじみのフラウにあてたアムロの手紙のなかで、
「キャリア・ウーマンには家事は出来ず」
とある。アムロは、こういうたちの女に惚れる癖があったのであろう。

82 名前:アムロをめぐる女性たち(歴史の中の日本) mailto:sage幕末を生きた新しい女・P162 [03/09/10 22:24 ID:???]
ニュータイプ・エースパイロットとしてのアムロはすでに一年戦争にあって抜
群の撃墜スコアをたたき出したほどに天才的であり、「宇宙世紀史の奇蹟」で
あったが、対女性関係についての思想までが革新的である、とはいえなかった。
かれは未亡人となっていたフラウ・コバヤシに、ロンド・ベル隊所属のころ、
こういう手紙を書いている。このニュータイプの結婚観とみていい。
「僕は正直、結婚する気はあまりない(中略)
ちかごろは同僚のチェーンにもシミュレーションや技術を教え、だいぶうまく
なりました。誠にまっすぐな子にて候へども(原文のまま)、僕の言うことを
よく聞いてくれるし(略)しかしあくまでパートナーとしてのお付き合いしか
致さないつもりです」

83 名前:アムロをめぐる女性たち(歴史の中の日本) mailto:sage幕末を生きた新しい女・P165 [03/09/10 22:30 ID:???]
では他の者は、そういうベルトーチカをどうみていたか。グリプス戦役以前か
らのジャーナリストでアムロとは一年戦争をともに戦った仲間でカイ・シデン
という男がいる。さほどのパイロットではなかったが、一年戦争後マスメディ
アの世界に身を投じ、一流のジャーナリストとして評価をうけた。その回顧録
である「カイ・シデン昔日譚」に、ベルトーチカをダカールではじめてみた、
とし、その印象をこう書いている。
「カラバ女は有名の美人なれども、善悪ともに為しかねるやう思はれたり」
これでみると、ベルトーチカは才走ったいわゆる悪女の風姿を帯びていたよう
に思われる。きらきらと人を眩惑するようなところがあり、「善人か悪人か判
定がつかぬ」と、皮肉屋のカイをして嘆ぜしめたのであろう。

84 名前: mailto:sage [03/09/10 22:32 ID:???]
これくらいにします

85 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/13 19:39 ID:reQLaSA5]
ネタを考えてみようと思う。

86 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/13 19:41 ID:5VYK00sy]
三宮

87 名前:虫プロの創始者(播磨灘物語(三)より) mailto:sage村重の楽去・P156 [03/09/13 23:19 ID:???]
手塚治虫は、自分自身の漫画やアニメーションの製作においては、可能性をひ
らくために何を仕出かすかわからないところがあったが、余人とくに自分の虫
プロスタッフに対して職人ぶりを要求するところがじつに過度であった。
その首領が、同時にリアリティの要求者であるという例は、黎明期における第
一等のスタッフに多い。
古株(虫プロとは正反対の存在である東映系列であるが)においては高畑勲が
そうであったし、杉井ギサブロー、出崎統もそうであった(略)
富野由悠季(改名前は喜幸)もそうであったが、リアリティの要求者として他
のたれよりも大げさであったのは、手塚治虫である。漫画・テレビアニメーシ
ョンに対するリアリティ要求の峻烈さは、かれのもともとの性格からくる情熱
であるともいえるが、意図的な気持もあったであろう。自分こそあたらしい時
代の作り手であると思いこんでいる気持の中に、当然、新時代のリアリティの
樹立者という意識があったはずであった。


88 名前:虫プロの創始者(播磨灘物語(三)より) mailto:sage村重の楽去・P156 [03/09/13 23:28 ID:???]
 もっとも、手塚治虫におけるリアリティ観念はかれの独創ではなく、近代百
年のあいだに自然に製作者たちのあいだで醸?(じょううん)されたもので、
内容は複雑なものではない。
心映えと製作という行動において、
「作り物・うそっぽい」
ということを憎む心であった。個人の製作や題材、もしくは表現において、
本物であることをほとんど唯一無二の感覚としている。たとえ表現者の性
格や姿勢がどうあれその作品が本物であればむしろ賞賛されることもあり
えた。

89 名前:フロンティアW物語(播磨灘物語(三)) mailto:sage村重の楽去・P160〜161 [03/09/13 23:37 ID:???]
シーブックが思案せねばならぬことは、いくつもあった。
セシリーの父である、クロスボーン・バンガード総指揮官鉄仮面のことである。
鉄仮面は、セシリーを利用しようとした男であったし、再会後、シーブックが
九死に一生を得たとはいえ、バグによって殺されそうになった原因を作った人物
である。
「美名と独立の名のもとに、機械を使って大量虐殺をしようとした奴が、よくも」
生前ビルギット・ピリヨは恨めしくそう言っていたのだが、シーブックという少年
は、人を恨むという感覚が欠如しているようなところがあった。
シーブック・アノーの一代を見ても、およそかれが人を恨んでどうこうしたという
言行が、すこしも見あたらない。
このことは、総じてシーブックという一人格をながめてみるとき、どこか物足りな
さがあることにも通じるといえるかもしれない。

90 名前:ウッソ・エヴィンーその生い立ち(宮本武蔵) mailto:sageP9〜10 [03/09/13 23:53 ID:???]
先日、にわかに思いたって、ウッソ・エヴィンの故郷へ出かけてみた。
カサレリアまでの車中、たいくつなままにウッソの筆になる
「北海」
という絵の写真版をながめていたが、やはり天才としかおもえない。みごとな
水彩絵ノ具で水辺がえがかれ、無数の魚のホネが、天をおおうかの量で描かれ
ている。そのホネの埋めつくす海岸に、子供たちと犬がいる(略)ひろがった
大地の枯れはてた姿というものが、この絵ほどみごとに表出されているものは
ないであろう。
 画家としてのウッソは、動物と大人の女性を好んだらしい。現存する絵にも、
犬・ヒツジ、背がたかくすらりとした女性、そして環境汚染を表現した風景画
がある。いずれもみごとなもので、ウッソがスペシャルでなく画家として生き
ても美術史上の巨人として十分にのこりえたにちがいなく、現に画家としての
ウッソも(その世界ではスペシャルという呼ばれ方をされているが)美術史の
世界で十分な待遇をうけている。



91 名前:ウッソ・エヴィンーその生い立ち(宮本武蔵) mailto:sageP11〜12 [03/09/14 00:01 ID:???]
まことに幸運な偶然ながら、このウーイッグで、市主催による展覧会がひらか
れていた。
「ウッソ・エヴィンとヨシカワエイジ展」という主題のもので、ヨシカワ夫人
も、きのう当地へこられていたという。翌日、この展覧会へ出かけ、前記「北
海」にも接した。旅で知人に出会ったようなおどろきをおぼえた。
 そのままこのしずかなウーイッグを離れ、ウッソの故郷のカサレリアへゆく
べくむかった。
「ウッソは天才だが、しかし天才が往々にしてもっているいやらしさがある」
と、途中の車のなかで、連れのHさんにいった。そのいやらしさというのはど
ういうことか、筆者も書きつつ考えねばならないが、いまいえることは、
「もしウッソ・エヴィンというひとがこんにち存生しているとすれば、私はこ
のようにせずしてかれのもとにたずねてゆくようなことは、決してしない」
ということであった。ウッソの人間と人生が歴史のなかで凝固し、いわば人畜
無害になっているこんにちこそ、私は安心してかれの生地へたずねてゆく。


92 名前:永遠のシンデレラ(城塞(上より) mailto:sage住吉P160 [03/09/14 00:11 ID:???]
そのうち、バスルームの気配がかわった。
(−たれが?)
と、フォウは湯船から顔をあげ、その気配の持ちぬしをさがそうとしたが、な
にぶん先ほどの実験による苦痛が癒されていないために、たれなのかよくわか
らない。
しばらくしてその人がきた感覚が感じられた。
感覚というのは心の底から落ち着きをおぼえるような、とても心地よいものだ
が、しかしその人と離ればなれになってより数ヶ月、あらためて積み重ねられ
るであろう自分とその人とのかけがえのない記憶がつくられてゆく期待のため
にフォウは体じゅうがくすぐられるような感じがした。

93 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/14 00:15 ID:TpWPf8Wr]
天才が往々にしてもっているいやらしさはシロッコ

歴史のなかで凝固し、いわば人畜無害はギレン

のような気もする


94 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sageがんがれ! [03/09/14 00:15 ID:???]
 

95 名前:永遠のシンデレラ(城塞(上より) mailto:sage住吉P162 [03/09/14 00:18 ID:???]
バスタオルに身をつつみ、すぐに服を着て部屋をとび出す。フォウははっきり
と、カミーユがきていることを確信した。確信したとき、ながいキリマンジャ
ロの廊下の途中で、むこうからやってくるカミーユを発見したのである。カミ
ーユは両肩を盛りあがらせ、必死になって駆けている(中略)
フォウは、ちょっとからかいたくなった。
「止まれ。あやしいやつ」
背後からのきき憶えのある声にカミーユも気がついた。
「動くと撃つ」
おそるおそるふり返ったカミーユに、
「バァン!」
と、ひとさし指で撃つそぶりをしてみせた。
カミーユは笑いころげているフォウを見つめ、まちがいない、これは本物だと
いう顔で、フォウの目をじっとのぞきこんでいる。その蒼い両眼にふかぶかと
光がやどっていて、フォウは自分が吸い寄せられてゆくようだった。水色の瞳
がうるみ、気がついたときにはカミーユの腕のなかに飛びこんでいた。

96 名前:永遠のシンデレラ(城塞(下)より) mailto:sage落城・P443 [03/09/14 00:24 ID:???]
地球上のティターンズの一大拠点、キリマンジャロが陥落したのは11月2日
のことであった。
フォウは、カミーユによってサイコガンダムの呪縛からはなれられそうになっ
ていたそのとき、執拗につけ狙っていたジェリドのバイアランのビームサーベ
ルによって雪の降りしきるなかで儚くなった。永遠に目をあけることはなかっ
た。

97 名前:永遠のシンデレラ(城塞(上)より) mailto:sage湖北・P199〜200 [03/09/14 00:28 ID:???]
この11月16日、ダカールへ向けて部隊が出撃した。カミーユはZガ
ンダムに乗り、先頭をすすんだ。レバーを握り、連邦議会場を見さだめ
ながら、あのときのことを思いだしていた。
(あの娘の妖しさはどうであろう)
カミーユは、ノーマルスーツにおおわれている自分の腕をみた。ふと、
フォウのぬくもりが残っているような気がした。

98 名前:永遠のシンデレラ(城塞(上)より) mailto:sage湖北・P200 [03/09/14 00:36 ID:???]
あれから、カミーユはふりむいて、フォウを抱きキスをかわした。
そのあとごく自然ななりゆきが、フォウのからだをカミーユのひざのう
えでひらかせた。沈丁の花に似た濃い匂いが部屋に満ちるのを、カミー
ユは嗅いだ。
ーフォウ。
と、カミーユはフォウの耳たぶに唇をつけて、ささやいた。が、フォウ
の反応はカミーユにとって意外で、空ろな表情のまま唇をわずかにうご
かし、いわないで、といった。いわなくても、私は永遠にカミーユのそ
ばにいるわ、というのである。
やがてフォウがベッドのうえで服のみだれをなおしたとき、カミーユは
ふと疑問におもって、
ーさっき、なぜあんなことを。
というと、フォウは急にカミーユに甘えたようにその胸に顔をうずめ、
そのくせ声音だけは別人のようなたしかさで、
「カミーユを感じられなくなったらたまんないもの」
と言い、そのあとくすくす笑った(中略)
いまおもうと、すでに出会ったときから運命に支配されていたのかもし
れない。
カミーユはレバーをぐっと左へひいた。Zガンダムが、ダカール上空を
駆けてゆく。
コクピット内部に、演説がきこえていた。

99 名前: mailto:sage [03/09/14 00:41 ID:???]
返答が遅れましたので。
>>85
新ネタ待ってます。がんがってください。
>>93
確かにシロッコは怪しいですね。
今回は、ウッソは非スペシャルだったのではないか、という仮説を立てて
考えてみますた。

それでは、このくらいで。

100 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/14 01:26 ID:???]
お疲れ様です。大変参考になるです。



101 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/14 10:10 ID:???]
乙です。
フォウの下りは泣けます。あいかわらず創作意欲をかきたてられます。

102 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/14 21:05 ID:TpWPf8Wr]
保守

103 名前: mailto:sage [03/09/15 11:30 ID:???]
>>88が失敗してました。醸繧ですね。
>>101
フォウのSSは書き手としても悲しいのです。涙なくして本編は見られません。
>>100
創作で一番難しいのは「心情と起承転結」でしょうか。


104 名前:歳月(都の花) mailto:sage歳月より・P169〜170 [03/09/15 11:41 ID:???]
メラニー・ヒュー・カーバイン、のちのアナハイム・エレクトロニクス会長で
ある。メラニーはジャミトフとおなじ士官学校出身であるだけでなく、あの派
閥重視のなかにおけるほんの少数の異端者としてたがいに風雪を凌いできた仲
であった。
もっともメラニーは立ちまわりの機敏な男であったから、ジャミトフのように
不器用・生真面目さゆえにひどい目にあったことはない(中略)
(とにかく、風変わりな男だ)
ということだけが、ジャミトフ・ハイマンの印象であった。ジャミトフとはこ
れほどの旧知でありながら、たがいに膝をまじえて、しみじみと心境を吐露し
合ったことがなかった(中略)
連邦士官学校のころは抜群の秀才として鳴らした(略)
この男の目には、よほどのさきが見えるようにできていたらしい。情報や書物
その他によって全宇宙をのぞくことができたが、その中核となるべき連邦軍人
よりも、各企業体が正規軍はおろか連邦政府そのものを支えていることを知り、
今後実業界に転身するための才能やノウハウを学ばねばならぬと思った。

105 名前:歳月(都の花) mailto:sage歳月より・P170 [03/09/15 11:49 ID:???]
後年、この男は月企業アナハイム・エレクトロニクスを随一の大企業として成
功させるにいたるのだが、その経営手腕はこのころからすでに萌(きざ)して
いた(中略)
「元来エゥーゴにやるべきMSだがティターンズにくれてやれば体面もよく巨
利も博する。企業というのはえてして営利をもとめる団体なのだから、この処
置はえてして公平だ。もしブレックスが抗議をしてきたらわし自ら了解をとり
つけてやる」ということで新型MSマラサイをティターンズに渡し、大いに利
を得た。これ以前にもGPシリーズ開発の不祥事の汚名をぬぐうための企業ア
ピールやコスト削減、流通ルート確保や他企業との提携などの手腕を発揮した。
メラニーとはそういう男であり、その企業経営家という点ではジャミトフはと
うていかれに及ばない。


106 名前:MSパイロットの心(この国のかたち(三)戦国の心) mailto:sageP15〜16 [03/09/15 11:58 ID:???]
戦争期には、変わった境遇の人もいた。
ククルス・ドアンなどはそのうちの尤(ゆう)たる存在だったろう(中略)
ドアンは公国軍人となって、MS−05ザクTを駆り、勲功も多かった。
地球降下作戦時、ガルマ・ザビ大佐指揮のもと北米大陸を攻撃したとき、ド
アンもパイロットとして戦場に出た。
かれは模範的とはいいがたいほどに軍人的で、その点いわば荒くれ者だった(中略)
あるとき都市を攻撃した。ザクマシンガンで町を焼き、61式戦車を葬った
ときに、泣きくずれている子供たちを見た。
ドアンはいたたまれなくなってザクTをとびだし、子供たちをかかえた。ふ
と横をみると、薬莢の下敷きになっている死体が血だらけになっている。子
供たちの両親だった。あきらかに自分のMSが撃ったものであった。
かれははじめて痛みというものを知った。ある日、子供たちを連れて、愛機
とともに軍を脱走した。
自分なりに罪のつぐないをするためだった。


107 名前:MSパイロットの心(この国のかたち(三)戦国の心) mailto:sageP17〜18 [03/09/15 12:03 ID:???]
のちに島にやってきたアムロは格闘戦をおこなうドアンを見て、正直に理由を
述べたかれが悪人ではないことを知った。戦闘後、ザクTを海になげ捨てたの
をドアンは好意的にうけとめ、
「あのお兄ちゃんは正しいことをしたんだよ」
と子供たちにいった(中略)
ジオンとのかかわりを、捨てることを認めることによって断ちきったのである。
こういう小気味よさは、その後にはなく、いまもほとんど例がないのではないか。

108 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/15 21:43 ID:???]
保守

109 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/16 18:35 ID:???]
乙です、と保守

110 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/16 22:24 ID:qM6NvJj4]
保守



111 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/17 18:51 ID:???]
保守

112 名前:1 mailto:sage [03/09/17 20:16 ID:???]
皆様、保守どうもです。

113 名前:ウッソ・エヴィンーその生い立ち(宮本武蔵) mailto:sageP12〜14 [03/09/17 20:30 ID:???]
ウッソがうまれたのは、

地球・東ヨーロッパ(旧ルーマニア)・カサレリア

というところである。ウーイッグの近辺にあたり、林のなかの小盆地ながら、
街道筋からは多少離れており、いわば不法居住地であった。

筆者は、カサレリアの野みちをあるきながらいろいろなことを考えていた。途
中、道がわからなくなり、むこうからきたワッパのひとにきいてみた。そのあ
と、しばらく立ちばなしをした(中略)
「いいワッパ・トラックですね」
と、私は、笑いじわいっぱいで応答してくれる村のひとに、せめてもの愛想を
いった。農民というより、果樹園経営者といった感じのひとで、その稼業がら
のせいかひどく表情があかるい。念のために名前をきかせてもらうと、
「クランスキーです」
「ははあ」
と、私はちょっと、おどろいた。クランスキーとはウッソとともに戦い暮らし
たエリシャ・マルチナ姉妹の姓である(略)
「べつに、ウッソとつながりはありませんが」
とわらったが、カサレリアはいまも三十戸程度だから、ウッソとその仲間たち
の血がこのクランスキーさんにもむろん入っているであろう。

114 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/17 20:31 ID:3QynsgYm]
燃えよ剣上巻 与平の店を七里=親衛隊、土方=シャアでリクエスト

115 名前: mailto:sage [03/09/17 20:32 ID:???]
リクエストありがとうございます。できればページも教えていただけるとあり
がたいです。

116 名前:ウッソ・エヴィンーその生い立ち(宮本武蔵) mailto:sageP14 [03/09/17 20:38 ID:???]
ついでながらいまのカサレリアでは、クランスキーやドゥカートゥスと
いった姓が多いらしい。ドゥカートゥスというのは、ウッソの養子の姓
である(中略)
「ドゥカートゥスという姓もあります。あそこにおじいさんがいるでし
ょう」
と、クランスキーさんは、指さした。ついでながらわれわれはすでにカ
サレリアを見おろす台地にのぼっており、クランスキーさんはこの台地
のちょっと横をさしている。畑があり、帽子をかぶった老人が鍬をつか
っていた。
「あのひとは、ドゥカートゥスさんです。80をこえています」
といってから、言いわすれたことをいうような調子で、
「あのY・ドゥカートゥスさんはウッソとその妻シャクティさんの養子
の子孫ですわ」
なるほど、カサレリアは世間せまく、三十戸の家々はどうやらホワイト
アークメンバーの共同体のようなすがたであるらしい。

117 名前:ウッソ・エヴィンーその生い立ち(宮本武蔵) mailto:sageP14〜15 [03/09/17 20:41 ID:???]
台地を降り、そのドゥカートゥス老人の家の庭に無断ながら入りこんで
みた(略)
敷地のなかにあるひなげしの花は、指定天然記念物になっている(略)
ウッソは当然、この花をみたであろう。このドゥカートゥス家のすぐそ
ばにウッソの不法居住していた家がある。

118 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/17 20:54 ID:3QynsgYm]
最後の2〜3ページ以降

119 名前:バー(燃えよ剣(上)114リク) mailto:sageP492〜493 [03/09/17 21:18 ID:???]
シャアは、ウイスキーを注文した。
「ウイスキーかね」
と笑ったのは、バーのマスターではない。隅の暗がりにすわっている先客であ
る(中略)
「親衛隊のものだな」
落ちついている。
この執拗なキシリア子飼いの者は、スパイでも使ってララァのいるカバスにシ
ャアがときどきゆく、というところまで突きとめているのだろう。ひょっとす
ると今日も、シャアがカバスを出るところから、親衛隊のスパイがつけていた
にちがいない。
親衛隊員自身、さきまわりしてこのバーに入り、往来を見張っていたものだろ
う。

120 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/17 21:20 ID:3QynsgYm]
山九



121 名前:バー(燃えよ剣(上)114リク) mailto:sageP493〜494 [03/09/17 21:25 ID:???]
親衛隊員は立ち上がってシャアのそばへやってきた。
「やるのかね」
とシャア。
「やりはしません」
親衛隊員は、シャアのとなりに腰をおろした。前に、自分のボトル・グ
ラス、肴(さかな)の皿を、コトコトとならべながら、
「お互い、ジオンとの縁がふかすぎる仲ですが、こうして二人っきりに
なったのははじめてですね」
といった。
シャアは、だまっている。
「少佐、今夜はゆっくり語りませんか」
「ことわる」
と、シャアは顔をあげた。ウイスキーがはこばれてきた。

122 名前:バー(燃えよ剣(上)114リク) mailto:sageP493〜494 [03/09/17 21:42 ID:???]
「少佐、あなたは軍人におなりになるときに、ドズル中将に願をかけた
かは知りませんが、ずいぶんご冥加なことだ。しかしどうでしょうな。
わたしもこんな因縁めいた関係ってのは性にあいませんから、いっその
ことキシリア閣下のもとへ参上しあらたにその才能を発揮しませんか」
「私がかね」
「少佐も、赤い彗星と呼ばれたお方だ。よもやもう二度と軍には戻らぬ、
戻りたくはないとお思いになってはおられますまい」
シャアはすぐに返答せず、やけにプロパガンダぶった声がきこえているテ
レビのほうをみた。全地球規模で総帥ギレン・ザビの演説が映し出されて
いるのである。
「私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。なぜだ!?」
「坊やだからさ」
つい本音が出た。マスターの苦笑が聞こえたような気がしたが、隣にいる
親衛隊員は笑ってはいない。詳細をキシリア殿は知っているのだろうか。
おそらく知らぬであろう。であれば、ガルマを庇えなかった私に誘いの手
を伸ばすはずがないではないか。
画面上では、IQ240といわれる天才が雄弁をふるっている。いったい
どこをどうすればこれほどの美辞麗句と扇動ができるものであろうかと、
シャアは飲みながら思った。

123 名前:バー(燃えよ剣(上)114リク) mailto:sageP494〜495 [03/09/17 21:53 ID:???]
「おごらせていただきますよ。もっとも少佐、あなた様が突撃機動軍へ入られ
るという条件付きですがね」
「私は軍人だ」
シャアは、みじかくいった。軍人である。軍人たるもの戦場においてその才能
を発揮すべきであろう。
ー親衛隊員も、シャアが当然そう答えることを期待していたようにうなずき、
「あなたのジオン精神を信じるとしましょう。時は、後日を約するとおかしな
ことも起きるでしょう。いますぐ、はどうです?」(略)
「私にまかせるだろうな。受けたほうが決めるのが定法のはずだ」(略)
「いいでしょう」
「ああそうだ」
シャアは、明細書を取り出して親衛隊員に見せた。
「これは?」
「今までのツケだ。すまんが、キシリア殿に申請して払ってもらってくれ」
「都合がよろしいですな」
「こんな境遇でも、酒にいとめはつけないのが私の主義だ」




124 名前: mailto:sage [03/09/17 21:57 ID:???]
>>114
書いてみますた。いかがだったでしょうか。
これからもリクお待ちしております。

125 名前:アムロ・レイーその自立(宮本武蔵) mailto:sageP17 [03/09/18 13:30 ID:???]
「ニュータイプ伝記」
という書物を信ずるとすれば、アムロは入港したサイド6で、死んだと思われ
ていた父と再会した。そして、父のアパートにゆき根ほり葉ほり今までのいき
さつをきいた(中略)
二度目に会いに行ったとき、父テム・レイは部屋で研究にうちこんでいた。ア
ムロは父からRX−78・ガンダムに取り付けろと言われ、旧式としかおもえ
ないパワーアップパーツを渡されたあと、母さんは心配じゃないのというよう
なことをいった。
 その瞬間、テムは逆上した。机のうえに置いてあった書類を投げたところ、
アムロはかすかに顔をそらした(略)
アムロの顔が悲しみであふれている。このことが、テムをいよいよ逆上させた。
「早く行け。お前もパイロットになったんだろうが」

126 名前:アムロ・レイーその自立(宮本武蔵) mailto:sageP18 [03/09/18 13:36 ID:???]
この挿話はアムロの少年性よりも、テム・レイの狂気のほうに興味がある。テ
ムは逆上のあまり、アムロを追い払い、じつの子を自らが開発に携わったガン
ダムでさらに活躍させようとした。かつてのおだやかな、平衡感覚に富んだ人
物ではないであろう。ひたすら開発に執着する狂気をおびた人物のようにおも
える(酸素欠乏症にかかっていたという話もあるが)この執着の狂気はアムロ
にも遺伝しており、むしろこういう精神体質こそ、アムロをして生涯MSの芸
をつきつめさせたエネルギーになっていたにちがいない。

127 名前:一番目のパイロット(十一番目の志士(上)) mailto:sageP20〜21 [03/09/18 13:49 ID:???]
不意に海岸に彩(いろ)づいた翳(かげ)がさした。
目をひらくと、若い娘が立っている。前髪がやや特徴的な、色白で高貴そうな
娘だった。
「じっとしてなさい。救急隊も来てくれたから」
かん高い、響くような声で、しかし食い入るようにヒイロをみながらいった。
「見たのか」
ヒイロは手で顔をかくしながら立ちあがって、すさまじい形相で娘を見た。
見られるのは、予定ではない。ヒイロという少年はただ一つ、指示されている
任務を遂行するというたったこれだけのためにこの世に存在している。倣岸(ご
うがん)というか、ふてぶてしいというか、とにかく、ドーリアン外務次官の
娘リリーナは、うまれてこれほどのすさまじい目で異性からみつめられたこと
はかつてない。
 もともと気丈な娘のくせに、その行為をとがめるよりも、そのまえにわけが
わからず、茫然としていた。

128 名前:一番目のパイロット(十一番目の志士(上)) mailto:sageP21 [03/09/18 13:54 ID:???]
ヒイロは、救急車が到着すると、胸元についているスイッチを押して、さらに
右腕を左腕ですばやく叩いて、自爆しようとした。
(任務、失敗)
とおもった。天性、ドクターJによって渾身テロリストとして教育されてしま
っているヒイロには、娘に顔をみられさらに任務を遂行できなくなるであろう
屈辱に堪えられない(略)
自爆スイッチを起動させることによって、わずかに任務失敗の汚名をぬぐうこ
とができるはずであった。が、死ねない。
死ねないとわかるや、少年は勢いよく駆け出し、この場から逃げるべく救急隊
員を蹴散らして、リリーナの見ている前で救急車を強奪し、サイレンを鳴らし
つつ彼方へ消えた。

129 名前:一番目のパイロット(十一番目の志士(上)) mailto:sageP21 [03/09/18 13:56 ID:???]
(この子、何なの)
とおもうが、衝撃がからだから去らない。が、衝撃にたえながら、
「わたくしはりリーナ・ドーリアン。あなたは」
と、救急車のサイレンの鳴る方角へ手をむけて優雅に一人喋った。

130 名前:一番目のパイロット(十一番目の志士(上)) mailto:sageP21 [03/09/18 14:00 ID:???]
ヒイロの顔は、一点をみつめていた。聖ガブリエル学園の制服を着たリリーナ
の顔がみえる。ベージュの長い髪に、ネイルブルーの瞳がかがやいていて、ひ
どくお嬢様の色合いを感じさせる表情だった。
(この女も、いつかおれの手で殺してやる)
少年の屈辱は、それをおもうことによって癒すほかない。
「よろしく、ヒイロ君」
リリーナも、どこまでも高貴だった。ところが隣の席にすわったヒイロは返事
もせず、こちらを見ようともせぬまま、ただ沈黙をまもっている。
リリーナは不思議におもった。どこまでも変わった少年だった。



131 名前:一番目のパイロット(十一番目の志士(上)) mailto:sageP22 [03/09/18 14:08 ID:???]
リリーナはヒイロに招待状を渡した。当然、礼儀をつくしているのだから相手
もそれに応えねばならない。
ヒイロはとてもくだらないことだとおもった。
リリーナの眼前で、華麗に招待状を破り捨てた。その表情に、拒絶と殺意がに
おっている。
握りこぶしをふるわせながら、リリーナは屈辱に耐えていた。こんな仕打ちを
されたのははじめてだ。と、ヒイロの指がリリーナのうるんだ瞳をぬぐった。
その行為にリリーナは微笑みをうかべた。やっぱりわるいことをしたと思って
いたのね。
が、群青色の瞳がリリーナを見すえたとき、
「お前を殺す」
と言い放ち、ヒイロはしずかに立ち去った。
リリーナは、動揺してしまった。友達や周りからかつて殺すといわれるような
無礼をうけたことがない。
「なんなの・・・この人」
右手が強く握りしめられた。よほど感情が激しはじめているのであろう(略)
そのあと、自室にもどって独(ひと)りすわったが、いままで味わったことの
ない衝撃が、彼女を落ちつかせなかった。
(いやな子)
とおもうが、ただごとではない胸さわぎもした。むろん、色恋などというよう
なあえかな感情ではない。なにか、自分の生涯を狂わせてしまうような運命的
な予感が、このときにした。

132 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/18 19:39 ID:???]
Wの十一番目の志士がキュンとしてしまいました。

特にWが好みであったわけではありませんが、
監督降板までのWは独特のケレン味があったのもたしか。
当時見た感覚と、また違った感慨で読ませていただきました。

133 名前:1 mailto:sage [03/09/19 14:17 ID:???]
>>132
感想ありがとうございます。
もし監督が交代していなければ、それほどの矛盾はなかったでしょうね。
それも改めて見直してみてわかったことなんです。Wに関してはアンチに
入る部類だったので。
後半は好きじゃないな。

134 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sage脱亜論・私の読みかたP30〜31 [03/09/19 14:39 ID:???]
平成14年(2002年)、種ガンダムが放映を開始します。極めて異常な作
品を、サンライズとバンダイは世に送りだした。
その例が、いまスタッフの問題を考えますが、このスタッフはきわめてアニメ
屋的ですね。
作品の最高責任者は福田己津央監督でした。この人はVガンダムの絵コンテも
切ったことがあり、熟練スタッフであったはずでした。
 それがガンダムの監督になって惨懺たる結果を出してしまいます。
内容は矛盾のかたまりで中途半端になっている。肝心の視聴率も10%を越え
ない、グッズも50%オフして売り出すところも出てきてしまっている、プラ
モデル展開さえ思うようにいかない状況になってきた。
そのとき種スタッフの一人の記録を読んで、ああそうかと思ったことがあるの
ですが、デスクのそばを通ると監督がつぶやいていたそうです。
「もうこれはどうしようもない。しかしながら、ガンダムはひとつのブランド
だから、なんとかなるだろう」
こんな無責任なことを、最高責任者が言うわけであります。  

135 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sage脱亜論・私の読みかたP31 [03/09/19 14:44 ID:???]
ガンダムというジャンルは一流のブランドである(略)
スタッフのその現場での最高責任者がですね、ちょっと他人事のように、ガン
ダムはひとつのブランドだからと言う。スタッフの栄達に乗ってしまって、リ
アリズムを失ってしまったのでしょう。ガンダムの知名度や認知・ブランドの
話をサンライズやどこかで聞いた。それが甦ってきたのですね(略)
惨懺たる状況の中、頼みの綱は監督がサンライズで教えてもらったことなので
すから、もうこれは思考停止もいいところです。

136 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sage付論二・兵器のリアリズムP207 [03/09/19 14:49 ID:???]
種のMSそのものの話をします(略)
 この石垣純哉さんというメカデザイナーの方は立派な人だったようですね。
私はお会いしたことはなく、書籍やネットでしか知りません。しかし、製作中
にファンたちが石垣さんにお会いしたり、掲示板に書き込んだりして、聞いた
ことがありました。
「石垣さん、どうしてあんな0083のガーベラ・テトラそのもののデザイン
がわざわざコンテストで選ばれたのですか」

137 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sage付論二・兵器のリアリズムP207 [03/09/19 14:53 ID:???]
もっとも、従来になかったMSデザインが選ばれれば、これは結構なことであ
ります(略)
ところが、そのまんまといっていいほどガーベラ・テトラそのものでした。も
うこれが選ばれていいのかと思うぐらいで、0083に登場したMSです。新
たなMSデザインは、ガンダムというジャンルを活性化するためのものです。
新しくないとだめなのに、そのままですね。

138 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sage付論二・兵器のリアリズムP207〜208 [03/09/19 15:00 ID:???]
ですから、石垣さんというデザイナー、ガンダムシリーズではF91以来のべ
テランデザイナーに、なぜあんなガーベラ・テトラそのもののデザインが選ば
れたのですかと、ファンの何人かが聞いたのです。
すると、石垣さんはご自身のHPの掲示板で返信なされた。
サンライズ・バンダイの偉い人たちがあれでいいと言ったのだと。つまりデザ
インは新しくなくてもいい、機動戦士なのだから矛盾などない。
具体的なオーダーも基準もなにもなかった、ただ審査員が見る目をもっていな
かった。
デザイナー畑としてはもっと違うデザインが選ばれてしかるべしだと思ったが、
上があれを決めたんだと。
要するに種スタッフとその経営者は、ことMS・メカニックデザインに関する
限り、良くいえば機動戦士に忠実で、悪くいえば頑迷でした。

139 名前: mailto:sage [03/09/19 15:12 ID:???]
廉川文庫刊(番外編)
「アクシズの輪」

赤い彗星のシャアは、ザビ家との関係ふかいハマーンと情事を重ねていたが、
ある日妊娠を告げられて、はげしく動揺する。一方、ハマーンはシャアを生涯
の伴侶とし、子を産む決意だと言う。人類の革新の目的が根本から崩れていく
不安と恐怖にさいなまれるシャアは、ついにハマーンを捨てて遁走する考えを
抱きはじめるーアステロイド・ベルトに浮かぶ小惑星の地が出口のない男女の
修羅場と化す、表題作他一編。

司馬氏の著作ではないですが、松本清張氏の短編を読んで興味が湧いたので書
いてみますた。
スレ違いになりますが、書いてみてもいいでしょうか?

140 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/19 23:30 ID:???]
OKっすよ♪>1さん

そのかわりといっちゃなんだが、ギャビン・ライアルとかマイクル・ムアコックとか認めてくれないか?



141 名前:140 mailto:sage [03/09/19 23:36 ID:???]
悪い、100歩譲って、ウィリアム・ギブスンでどうだ?>1

142 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/20 04:35 ID:???]
せめて日本人だろ。

143 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/20 06:15 ID:???]
>>139
乙です。

かまわないですよ。私は松本氏は未読のものが多いですが、興味はあります。

144 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/20 07:05 ID:???]
>>140
スレ立てなされ。ギブスンって今読むと「あぁ、バブルの日本って凄かったな」とか思う。

145 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/20 23:30 ID:QruyWR4u]
保守

146 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/21 00:05 ID:1rDQluE3]
保守

147 名前: mailto:sage [03/09/21 07:55 ID:???]
賛成意見が多いようなので、書かせていただきます。

作家は日本人しか書けないですね。他は見てるだけになりそうです。
現在の構想としては、「アズナブル札」(西郷札)→松本清張氏
「リボーコロニーの冬」(ノモンハンの夏)→半藤一利氏
を考えております。
なるべく司馬氏に近い、関連性のある作家を取り上げたいのです。
(といいつつ、興味があれば書くかもしれませんが)

148 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P8〜9 [03/09/21 08:08 ID:???]
夜の11時ごろである(略)
ハマーンのほうが8つも下だが、同年代に見えなくもなかった。以前からそう
だったが、ことに、今は髪形をシャアの好みに合うようにして来ている。服の
色も柄も派手だった(中略)
「マハラジャ殿はその髪形を見てどう言ってた?」
シャアが訊くと、
「父上は何も言わないわ。それに、私の好きなようにさせてくれるから」
とハマーンは笑っていた。
マハラジャ・カーンというのが彼女の父の名だった。ザビ家とのつながりは旧
(ふる)い。
けっこうな高齢であった。
ハマーンは、短い間だったが、ほんの2、3年前まではシャアがじつの妹の扱
いをしていた少女だった。
そのザビ家残党がこもるアクシズでは3年前から幼少のミネバ・ラオ・ザビ公
女に成り代わってマハラジャが政務を代行している。自然、指導者層としてア
クシズをとり仕きる役目になったのは時勢である。デギン公の側近だった(略)
最近は病に臥せることが多いために政務はハマーンに任されたかたちとなって
いる(中略)
そういう話ぶりは、10代とはいえ指導者の娘であった。だが、シャアの腕の
中にはいると政務という大人の仕事から遁(に)げてきた少女だった。

149 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P11〜12 [03/09/21 08:14 ID:???]
エレカが2台つづいてきた。シャアはハマーンを先に乗せた。
「必ずね」
乗るときもハマーンはシャアに念を押すように強く言った(略)
ハマーンの車を見送るまで、うしろのエレカは彼を待っていた。

「スペース・ポート」
と、シャアは運転手の背中に言った。
「は?」
よく聞きとれなかったのか、運転手は問い返すように顔を横に向けた。
「スペース・ポートだ」
シャアは少し大きな声を出した。
「はい」
運転手はうなずいてアクセルを踏んだ。シャアは運転手の素直さがちょっと意
外だった。近ごろは行先を告げても返事をしないエレカが多い。乗っている間
じゅう不愉快である。運転手にも客の気分がわかるのか、始終むっつりとして
不機嫌なのだ。
 

150 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P12〜13 [03/09/21 08:18 ID:???]
女づれで乗ると運転手の様子はいっそうとげとげしくなることが多かった。何
か苛々(いらいら)したように運転が乱暴になる。
 この運転手は、客が女と別れて乗ったのを知っている。女にシャアが手を振
ったのを運転席で待っていて見ていた(略)
この運転手も不機嫌だろうと思っていたのに予想外であった。
シャアは何となく安心した気分になって座席に落ちついた。車は作られたばか
りのタウンの方角に向かって走っていた(略)
ハマーンの車も、今は宮殿に着いていることだろうか。



151 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P13〜14 [03/09/21 08:24 ID:???]
危険は考えられた(略)
ぐんぐん圧(お)してくるような女の情熱だった。これに引きずられている自
分が分かっているだけに、のっぴきならない立場に連れて行かれそうであった(中略)
政務は面白いと彼女は言った。ハマーンの性格を考えると、それはうなずけた。
果断で、才気のある女である(中略)
(わたしの立案した政策がうまく当たるの。そりゃ、気持ちがいいわ。それに、
わたしなりの着想で、ニュータイプ研究やMS開発を技術部門なんかに指示する
の。エルメスをMS化する計画だってそうよ。みんなほめてくれるわ)
そんなことをシャアに話すときのハマーンは生き生きとしていた。政務が生甲斐
だというのも誇張でなく聞いた。

152 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P15〜16 [03/09/21 08:28 ID:???]
(わたしは、あなたに教えられたのよ)
ーそれは寒い日だった。湖に二人で行った(中略)
別荘にはいると、べつべつにシャワーを浴びた。シャアは心臓が激しくうち、
苦しくて長い間浴びることができなかった。戻った部屋には、うす暗くした明
りの中にベッドが二つ置いてあった。シャアは頭の中に血が上るのをおぼえた。
 次の間で瓶のふれ合う音がしていた。ハマーンが寝化粧していることがわか
った。シャアの膝はふるえた。・・・・・・

153 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P16〜17 [03/09/21 08:37 ID:???]
おや、とシャアは前方をのぞいた(略)
「君」
シャアは運転手に急いで言った。
「スペース・ポートだよ」
運転手は速度を落とし、
「はあ」
と言った。何となく曖昧な声だった。シャアは運転手が行先を間違えていたの
かと思った。しかし、乗るときはちゃんとそれを問い返しているのだ(略)
「スペース・ポートは、こっちのほうと違いますか?」
運転手は車をとめてふり返った。
シャアはおどろいた(中略)
とぼけているのかと思ったが、この運転手の様子では、そうではなく、実際
にスペース・ポートはこの回り方で行くものと思っているらしかった。
「君、そりゃ、ここからだと途方もない遠回りだよ」
シャアは運転手の非常識を非難するように言った。
「そうですか」
「そうですかって、君。・・・・・・君はよく知らないのか?」
「はあ、どうも」
運転手は軽く頭を下げた。その態度が素直で気持ちよかった(中略)
「さらに右に折れて出たほうが近い。このルートだと大迂回になるよ」
シャアは言った。
「はあ、そうですか、どうも。では引き返しましょうか?」

154 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P18〜19 [03/09/21 08:47 ID:???]
運転手はとまどったように訊いた。
「そうしてくれ」
若い運転手は車の流れを見さだめたあと、Uターンして戻り、坂のところにき
た。
「ここを行くんですね?」
運転手は彼に訊いた。
「そう」
坂を上がった。
「これを右だ」
「はい」
「君は、モウサの地理をよく知らないの?」
シャアは訊いた。
「はい。まだ、こっちの運転手になって一ヶ月ばかりですから」(略)
近ごろはモウサの運転手の数が足りなくて、会社は新人の運転手を集めている
とは聞いていた(略)
かれも一定のルートだけしかわかっていないようであった。


155 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P19 [03/09/21 08:53 ID:???]
ーハマーンの熱い身体にシャアは圧倒された。いままでまったくそういうこと
を経験したことがないというのをハマーンはわざと見せているようであった(中略)
奇妙なことに、25になりつつあるシャアが10代の錯覚に陥り、「年下の女
の誘導」に身をゆだねた。受け身の陶酔であった。ハマーンもそうしたシャア
を自由勝手にしているような心地になってか激しく昂(たか)ぶった。

156 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P20 [03/09/21 09:02 ID:???]
3年の経過は二人とも精神や肉体の上に成熟を遂げさせた。むろんのことであ
る。
だが、この成熟の度合は、その後会うごとに女の側に肉体の比重を傾かせた(略)
恋人同士というのがハマーンにとって不満になってきた。それは急速に増して
いた。シャアにはそれが彼女の言葉だけでなく、よく分かってきていた。
 今は、まだいい。ハマーンはいずれ父より継承するであろうミネバの摂政の
地位と、政務への興味でそこにとどまっている。しかし、これ以上、肉体の爛(ただ)
れの中に彼女がはいりこむと、彼女は現在の環境を放棄しかねなかった。勝気
に溺れる女であった。

157 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P20〜21 [03/09/21 09:05 ID:???]
「あ」
と、シャアは前方に気づいて運転手に叫んだ。
車は曲がらずに、四つ角を通過して直進しようとしている。
「そっちじゃないよ。右に折れるんだ」

158 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/21 16:29 ID:q3KeAXBH]
保守

159 名前:スペースノイドの内と外(対談集) mailto:sage日本人の内と外・U・日本の性格P55 [03/09/22 18:50 ID:???]
ヤマザキ「サイド3では独立戦争それ以前の中にも、ある種の壊滅からの出発
という感覚があっただろうと思うんです。70年代軍備増強とそれに伴う連邦
宇宙軍大観艦式はそれこそ、「未曾有の艦艇で夜も眠れず」という象徴的な事
件だったのですが、あのときにジオン公国の将兵たち、あるいは当時のインテ
リたちが見たサイド3の状態は、たぶん壊滅だったろうと思います。ともかく
このままでは現実的な壊滅がくるぞ、というところからスタートしたわけで、
スタートのポイントがわりとはっきりしていましたね。
それから敗戦も非常にはっきりした事態で、この事態については、その後のイ
デオロギー上の対立を越えて共通の認識がありますね。よほど極端な例外をの
ぞいて、あの戦争に負けなかったという人はまずいないわけで、敗戦はサイド
3・スペースノイド公認の事実ですね。その評価についてはいろいろ意見は違
うにしても、負けたという事実があって、したがってこれまでの方向について
議論はあっても、ともかくそこから復興しなければならない、というところに
一致点がありましたね」


160 名前:スペースノイドの内と外(対談集) mailto:sage日本人の内と外・U・日本の性格P56 [03/09/22 18:57 ID:???]
ヤマザキ「ダカールで会ったあるエレカの運転手から聞いたことなんですが、
最近、一部のアースノイドには罪悪感がはっきりとあるようですね。スペース
ノイドが町に氾濫していることについて、さぞにがにがしい思いでいるであろ
うと思って水を向けてみたら、そうではなくて、自分たちがやったことについ
て償いをしなきゃしようがない。いまそれを償っているんだという意識を持っ
ている人も多いようですね」
シバ「それはいままで聞いていたこととずいぶん違うようで、おもしろいです
ね。アースノイドには、へっちゃらだ、サイドを搾取したことはしようがなか
ったんだという意識があるのかなと思っていたら・・・・・。」
ヤマザキ「もちろん一般化はできませんけれども、少なくともそういうことを
感じる人たちが庶民の中にすらいるということです」



161 名前:人斬り五飛(人斬り以蔵より) mailto:sageP83 [03/09/22 19:07 ID:???]
(おれは、強いんだ)
コロニー側が、その連合軍とOZの圧迫からのがれる道は和平を成立させるか、
テロの蘊奥(うんのう)をきわめてXXXG−01Sシェンロンガンダム(ナ
タク)でひたすら敵をたおす以外に手がない(中略)
(敵を斬らねば。−)
と、やたら施設を破壊し、OZ−06MSリーオーをナタクのビームグレイブ
で斬った。パイロットが驚いて飛びあがるところを空中で真っ二つにすること
ができた。

162 名前:人斬り五飛(人斬り以蔵より) mailto:sageP83 [03/09/22 19:14 ID:???]
人間も、殺した。司令塔から逃げ出そうとする瞬間、ドラゴンハングより火炎
を放射して人間の体を焼いた。五飛の任務は、そういう幾多の血なくしては達
成しえないものであった。
MSは、人を殺しマシーンを倒すものだ。
が、ガンダニュウム合金製MS・ガンダムが開発されて、従来の戦闘バランス
が大きくくずれた。五飛は旧世紀の暗殺者・テロリストのように、ひたすらに
殺人マシーンとしての能力を一族の長・竜紫鈴より叩きこまれた。いずれが正
道で、いずれが邪道なのか。
ところで、張五飛の技量はMSや人を何百殺そうと、一介のL5コロニーのテ
ロリストたることはまぬがれない。

163 名前:人斬り五飛(人斬り以蔵より) mailto:sageP85 [03/09/22 19:21 ID:???]
トレーズは、長身で、顔は自信にあふれている。眉秀で、色白く、顔立ちや目
鼻もよくいかにも端麗という言葉にふさわしかった。口数は多いほうではない。
およそ下卑たこととは無縁で、生涯、確固たる美学をつらぬきとおしたという
人物であった。
物事はおろか全ての事象を達観している男で、その友人のゼクス・マーキス特
尉から、
ートレーズはあまりにもエレガントすぎる。
とよくからかわれた(中略)
多くの若手将校がトレーズを慕い、あらそってOZ・スペシャルズに入り、こ
れがのちにトレーズ自らの立案・演出による「オペレーション・デイブレイク」
における地球掌握・地球圏統一連合軍駆逐のもとになるのである。

164 名前:人斬り五飛(人斬り以蔵より) mailto:sageP87 [03/09/22 19:30 ID:???]
張五飛は、XXXG−01Sシェンロンガンダム(愛称ナタク)のなかで、青
龍円月刀をもった。切れ味は相当いい。このときのために研いでおいた刀であ
る。
トレーズ・クシュリナーダは、破壊された客船の中央部から五飛がとび出して
くるのを、切れの長い目で見ている。
(真剣な表情をしているな)
小気味よかった。髪の生えぎわが揃っていて、黒く短い髪に、目には相手への
嘲笑がまじり、瞳もまた黒く射抜くようにするどい。少年ゆえか、やや背がひ
くくみえた。
それが、青龍円月刀をもって客室の中央にすすみ出た。自ら名乗りをあげ、構
えた。
見事な構えである。

165 名前:人斬り五飛(人斬り以蔵より) mailto:sageP90〜91 [03/09/22 19:39 ID:???]
五飛はトレーズの剣をはらって撃ちこんだ。トレーズは余裕で五飛の攻撃を払
っている。五飛は上へとんだ。天井の壁に足をかけた(略)
一瞬をとらえ、五飛は一個の弾丸になった。火を噴くように斬りおろした。が、
かわされた(略)
瞬間、トレーズの剣はさすがに一流だけに変化がきく。くるりと剣を回して五
飛の喉元に剣先をあて、とめた。
剣に、五飛の無念の表情がうつっている。
「私の勝ちだ」
言いながら、五飛を立たせた。
五飛は肩をおとしつつ、ただ一言「殺せ」といった。だがトレーズは剣をおろ
し、五飛に背をむけながら、
「よい戦いだった」
と許す姿勢をとった。五飛は信じられなかった。なぜ、敗者である自分を許そ
うとするのか。敗者には死あるのみ。それこそが戦いの結末ではないのか。
「今ここでおれを殺さなければ何度でもお前を殺しにくるぞ」
「それは楽しみだ。またお手合わせ願おう」
「くそぉ」
と、五飛は青龍刀を床に投げつけ、屈辱の思いをかかえながらシェンロンガン
ダムに飛び乗り、海に沈んでいった。その敗北の姿に、哀れなほど自分の正義
に対する自信喪失のにおいが出ていた。
五飛のトレーズに対する姿勢はこのときにきまったといっていい。

166 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P59 [03/09/22 19:44 ID:???]
ハマーンはザビ家の女である。もしものことがあれば自分はどうなるのだろう。
社会的な立場も変わり、かつてのギレンの如くならなければならなくなるかもし
れない。家庭も当然もつことになってしまうだろう。人類の革新〜ニュータイプ
への開花を目ざす道も閉ざされる。そしてアムロに嗤(わら)われるようなオー
ルドタイプの一人になるに違いない。・・・・・・


167 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P59〜60 [03/09/22 19:49 ID:???]
しかし、シャアはハマーンをかしこい女だと思っていた(中略)
彼女との関係は数年つづいているが危険は見えない。それはなかなか会えない
ということもあるが、一つは彼女が利口だからだった。性格があっさりしてい
た。情事の密度とは逆であった。シャアとこのままの状態をつづけても、彼女
だったら彼を深追いすることはない(略)
小惑星アクシズの女指導者として生活は安泰なのである。それを犠牲にするほ
ど彼女は無分別ではない。いけない、と分かったらさっさと引きさがるに違い
なかった(中略)
シャアは、そう思うと、さっき感じた暗い影も通り雲のように過ぎて行った。
再び、明るい陽がシャアの心の中に射しこんできた。何も心配することはない
のだ。

168 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P62〜63 [03/09/22 19:56 ID:???]
メイドがドアをノックした。それが細目に開いて、ハマーンの眼がのぞいた。その
視線はメイドの後ろにあるシャアの顔にすぐ移った。
 ハマーンはうすいベージュのスーツを着ていた(略)いかにも遊びにきたという
感じだった。
 メイドが去ったあと、二人は待ちかねたように唇を吸った。シャアが手を当てた
ハマーンの腰がしなった。彼女の激しい呼吸はシャアの鼻にかかった。
 離れて、べつべつの椅子に坐った。淡褐色の絨毯(じゅうたん)の上に大きなビ
ョウブが衝立(ついたて)がわりに立っていた。ビョウブにはサクラの花の扇面が
散らしてある。その蔭がベッドに違いなかった。ビョウブと、壁の版画と、大きな
花瓶とが硬い洋室の感覚を柔らげていた。
「わりといいね」
シャアは部屋のことを言った。
「そうね。グワジンの艦内生活にくらべたら、よっぽどね」
ハマーンは言った。

169 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P63 [03/09/22 19:58 ID:???]
シャアはそれに安心している。安定した生活のなかにぬくもっている限り、この
女は決してそこから飛び出してこない。迷惑をかけない女だ(略)
マハラジャ・カーンよりはじめて紹介されたときとはまるで違っていた。

170 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P64 [03/09/22 20:03 ID:???]
だが、その代わり、いまのハマーンには大人の成熟があった。熟れかけた果実
にも似たその成熟は、男に暴力的な欲望を引き出す甘酸っぱいにおいをもって
いた。
「どうして人の顔をじろじろ見ているの?」
ハマーンはシャアの視線から顔を遠ざけるようにして言った。
「きれいだと思って眺めていた」
「うそ」
「うそじゃないよ」



171 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P64〜65 [03/09/22 20:07 ID:???]
「マハラジャ殿はどう言ってた?」
「え?」
と、眼を大きく開いて、手でシャアを打つしぐさをした。
「また、そんなことを言って、きらいだわ。せっかく、いそいそと出て来たの
に・・・・・・」
「そうじゃないよ。マハラジャ殿は君が二晩泊りで出てくるのをどう言ってた、
と訊いたんだよ」
シャアは質問をはぐらかした。だが、替えた質問も大事だった。
「モウサ建設の視察。現場に来てることになってるの」
「ほう、うまいね」

172 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P66 [03/09/22 20:10 ID:???]
「それじゃ、疲れて睡(ねむ)いだろう?」
「大丈夫。あなたを待っている間に、この椅子の上でウトウトとしたから、気
分がさっぱりしたわ。ねえ?」
ハマーンが唇をつき出したとき、ドアに音がしてメイドがウーロンティーを持
ってはいってきた。
 シャアは煙草をくわえ、ライターをとり出した。

173 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P67 [03/09/22 20:14 ID:???]
ハマーンは少し憂鬱な表情になった。
「やれやれ、気苦労なことだね(略)」
「そうなの。度胸は決まっているつもりだけど、気がひけるのね。これだった
らジオン本国にでも帰還できなければのびのびできないわ」(略)
シャアは、しかし、ハマーンが度胸を決めていると言ったとき、どきりとした。
どういう決心なのか。まさか指導者の地位を降りるというのではあるまい。

174 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P69 [03/09/22 20:19 ID:???]
あくる朝、シャアは湯の音に眼をさました。ハマーンが浴室にはいっている。
窓も閉まったままだし、大きなビョウブの内側だからベッドは昏(くら)かっ
た。手を伸ばしてサイドテーブルの腕時計をとると10時に近かった。
 シャアは仰向きのまま煙草を吸った。快いけだるさが全身に行きわたってい
た。熟睡に落ちたのが朝の2時ごろだった。
 シャアが、ハマーンの居る間にいっしょにシャワーを浴びようかなと思って
いるうち、湯の音はやんだ。ハマーンは身体を拭いているらしかった。シャア
が知りつくした身体だった。彼女もまたそれを貪欲にすすめた。

175 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P69 [03/09/22 20:22 ID:???]
ハマーンがビョウブの中をのぞきにきた。煙草を吸っているシャアを見て、ラ
ウンドスリップの胸をおさえ、
「いま?」
と眼ざめをきいた。
 うす暗い中に両肩の白さが浮き上がっていた。湯上りで皮膚は艶を放ち、匂
いをもっていた。

176 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P69〜70 [03/09/22 20:24 ID:???]
 行きわたっていると思われたシャアの怠惰のなかには不十分なものが残って
いて、刺激をうけた。
「だめよ。もうすぐ、メイドが片づけにはいってくるわ」
ハマーンの重量は、シャアの手に傾いて肩から彼の横に落ちてきた。
「11時ごろまではだれもこないよ」
「大丈夫かしら?」
ハマーンはシャアの顔の下で半眼になっていた。

177 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/23 01:32 ID:HCtGVbuc]
保守


178 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/23 03:02 ID:???]
乙です。

179 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/23 21:41 ID:???]
乙保守

180 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P74 [03/09/23 22:30 ID:???]
夕食が済むと、二人は玄関に出た。
「エレカをお呼びしましょうか?」
ホテルマンが訊いた。シャアは言った。
「車よりも歩いて行きたい。街に下りるには、エレカで道をぐるぐる回って行
くよりも、この下を歩いて下りたほうが早いのだろう?」
 さっき、シャアが縁側から眺めたとき、山の急斜面を下からまっすぐに小さ
な路がついているのが見えていた。両側には段々畑もあるし、木立ちもある。



181 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P75 [03/09/23 22:36 ID:???]
縁側から見える左手にはこの山の端が突き出ていて、そこにも迂回路はあるが、
下は断崖になっていた。崖の途中にも下にも潅木のタケヤブの茂みがあった。
 ホテルマンに案内されて、ホテルの横手に回ると、下におりる道の入り口が
あった。
 そこに立って下を見た瞬間、ハマーンは声をふるわせた。外灯の光が、ほと
んど垂直に下降している長い路を照らしていた。


182 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P75〜76 [03/09/23 22:41 ID:???]
坂道の傾斜は、45度くらいはあろうか、とにかく、上に立って見おろすと、
その白い筋が垂直に感じられるくらい急であった。
「こわい」
ハマーンは脚をすくませていた。
「大丈夫だよ、私が手をとるから」
一歩先に下りたシャアは、身体を斜めにしてハマーンの手首を握った。
「いやだわ」
「大丈夫ったら」
「わたし高所恐怖症なの。こんなところに立つと、貧血を起こしそうだわ」
「下まで眺めるからいけないんだよ。足もとだけを見てれば何でもない。さ、
下りて、下りて」
 彼に手を支えられて、ハマーンはやっと脚を動かした。

183 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P76 [03/09/23 22:48 ID:???]
刻みがつけてないので、シャアの靴も滑り気味だった。いったんすべったら後
頭部をコンクリートに打ちつけ、下まで転落しそうである。道は二人やっとな
らんで歩けるくらいの狭さなので、よけいに急に見え、それに疎(まば)らな
外灯が長い間隔で闇をつくっているのも不安だった(略)
「こんなことだったら、回り道でもエレカにすればよかったわ」
10歩も下りないところでハマーンは後悔をはじめた。
「ここまで来たんだ。しようがないよ。ホテルには歩いて下りると言って来た
んだから、いまさら、上にあがってエレカを頼むなんて体裁が悪いよ」
シャアは、遅々として小刻みにしか進まないハマーンに言った。

184 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P76〜77 [03/09/23 22:53 ID:???]
「じゃ、街なんかに出ないでもいいわ。部屋に戻ればなんでもないでしょ?」
ハマーンは、そこで立ちあがった。
「そんなこと言わないで、とにかく下りよう」
「こんなところで転んでも、二人ともケガをしたらどうするの?(略)」
「そのときは、いっそ居直っていっしょになればいい」
と、男の虚勢で言った。
「いい覚悟だわ」
ハマーンははじめて低く笑い、握った彼の手を押し包むように指に力を入れた。
尖った爪がシャアの手の甲を刺した。

185 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P77〜78 [03/09/23 22:58 ID:???]
 また少し下りたところで、ハマーンは立ちどまり、
「こわいから、わたし靴を脱ぐわ」
と、上体をシャアにあずけ、脚を片方ずつうしろに折り曲げて中ヒールを脱(と)
った。
ハマーンは、それで少しは安心したらしく、脚の運びも速くなった。靴音は消えた。
女が靴下の裸足(はだし)で地面をピタピタと歩くのは妙な情感を起こさせる。
 シャアの靴が二度すべった。
「わたしが、あなたの滑りどめになるわ」
ハマーンは片手に靴を掲げたまま、シャアの手をつなぎ、うしろに身体を反らして平
衡をとった。

186 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P78〜79 [03/09/23 23:04 ID:???]
「アズナブルさまも靴を脱いだら?」
「いいよ。とにかく、手を放したほうが安全だ」
シャアはハマーンの手をふり切ったが、上体が前にのめって脚がひとりでに
走り出しそうなので、急いでしゃがみ、傍の木や草をつかんだ。
「それ、ごらんなさい。靴を脱いだほうがいいのに」
「そうもいかん。靴下が泥だらけになる」
「靴下なんか街に下りて買えばいいじゃない。わたしも脱いでるのに」
「まあ、いい。ゆっくり下りよう」
シャアは腰をかがめて進んだ。ハマーンはそのまま、うしろからついてきた。

187 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P79〜80 [03/09/23 23:10 ID:???]
両側からさし出た樹の茂みが外灯の光を遮断している下に出た。ハマーンがシ
ャアの背中をつついた。ふりむくとその暗い中に立っていた。
「ねえ」
ハマーンは顎(あご)を心もち突き出していた。それで、シャアが立ち上がっ
て唇を当てると、彼女は片手で彼の腰を締めつけ、彼の舌の先を歯の間に引き
入れた。木の葉の匂いがしていた。
「よかった」
ハマーンは唇をはなしてからシャアを見つめて言った。
「やっぱりエレカで下りなくてよかったわ。だって、こんなこと、できないん
だもの」
 下のほうで子供の声がしたので、二人は脚を動かした。

188 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P80 [03/09/23 23:17 ID:???]
 モウサの百貨店は、建設途上ではあるが、徐々にその数が立ち並びつつある。
ハマーンもそこまで泥のついた靴下のままで靴をはいていたが、気持ちが悪いと
いって急いで百貨店内の婦人洋服売場を探した。
 ハマーンが婦人洋服売場にいる間、シャアはあちこちをぶらぶらした。明るい
照明の中にきれいな店や商品がならんでいた。スーツ・食料品・飲食チェーン・
ブランド品・機械類などをのぞいてもとに戻ると、試着室内のウィンドゥごしに
ハマーンがうしろ向きになって買った靴下をはいているところが見えた。少しだ
けひらかれていたカーテンから、スカートをたくしあげて黒のガーターでとめて
いる前屈みの姿にシャアは眼をはなした(略)
「お待たせ」
ハマーンが試着室から出てきて、これで気分がすうっとなったと言って、靴をと
んとんと踏んだ。

189 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/24 06:07 ID:???]
>>1
乙です。
司馬先生とはまた違った感慨がありますね。一度原本もチェックしてみようかと。

190 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/25 06:40 ID:???]
保守



191 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/26 06:29 ID:sBdHYxkO]
保守

192 名前: mailto:sage [03/09/26 12:29 ID:???]
>>189
文庫版ならあると思いますので。

アク禁勘弁して・・・

193 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P86〜87 [03/09/26 12:35 ID:???]
シャアは服を脱ぎ、二ホンブロにはいった。
浴室はセントウ並に広く、ハマーンのいうようにこの離れ一軒で小さな世帯が
もてそうであった。
 ヒノキの湯につかっていると、ハマーンがはいってきた。2年前よりも成熟
していた(略)
 ハマーンは湯を肩にかけ、ヒノキのフロに興味しんしんで浴槽にはいってき
た。沈むと湯が溢(あふ)れ出た。彼女はあわてて身体を半分浮かせた。
「肉でもついたのか」
「いや」
眉をしかめて、
「恥ずかしいから、アズナブルさま、先に上がって」
と、タオルの胸を当てて言った。
「シャワーのときは、まったく気づかなかったが。胸も、ほら、こんなにふく
らんできて」
「悪いひと」
シャアは湯を出て、顔を洗っていた。ハマーンが上がってきて、ヒノキの桶に
蛇口からの湯と水を入れた。

194 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P87〜88 [03/09/26 12:43 ID:???]
「さ、洗ってあげるから、もっと向こうむいて」
彼女はシャアの背中に片膝(かたひざ)をついた。
「いい」
「そんなこと言わないで」
タオルを膝の上にひろげ、それにボディーソープを入念に塗りつけた。それか
ら、片手で彼の肩をつかまえ首筋から背中にかけてごしごしこすりはじめた。
ときどき、桶で湯をくんで浴びせる。
「さ、こっちの手も」
「もう、いい。あとは自分でやる」
「だめ」
 ハマーンは彼の横に回って右腕をとった。指の先まで洗い、てきぱきと左腕
と交換した。
 ハマーンに洗われているうちに、シャアは自分がずっと年下のような甘い気
持ちになった。それは、ハマーンも同じらしく、年上の女のようなふしぎな気
分に浸っているようだった。彼女の洗い方でそれが判(わか)った。

195 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P88〜89 [03/09/26 12:49 ID:???]
「いやにおとなしいのね?」
と、ハマーンが言った。
「ああ」
「気持ちがいいでしょ?」
「うん、まあな」
「今度は、胸とおなかよ。そして足」
「もういい、かんべんしてくれ」
「だめ、だめ。みんな、洗ったげる」
ハマーンは再び彼の背中にまわり、うしろから彼の両脇に手を回して、首の下
から胸にかけてこすりはじめた。
 シャアが、両膝を合わせていると、ハマーンの手がふいとやんだ。と、同時
にうしろ首の下に、こそばゆい痛さを感じた。
「よせ。そんなところ」
シャアが身体をゆすってもハマーンはしばらく顔をはなさなかった。


196 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P89〜90 [03/09/26 12:57 ID:???]
何かの音でシャアは眼をさました。隣りにハマーンの姿がなかった。ふりむく
と彼女は縁側の厚いカーテンを半分ほど開けて後ろむきに立っていた。さっき
の音はカーテンの軋(きし)りだった(略)
 シャアは腹這いになって枕元の灰皿をひき寄せた。ついでに腕時計を見ると、
6時20分だった。ライターの音にハマーンがふり返って、
「あら、お目ざめ?」
と言った(略)
「早いんだな」
「ええ・・・・・・」
ハマーンはまた向こうむきになった。

197 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P92 [03/09/26 13:00 ID:???]
シャアは、またまたその気になって、彼女の肩に手を置き、片手でカーテンを
引張った。朝の霧が閉じ、夜が部屋に戻った。
「寒い」
シャアは蒲団をかけた。ハマーンのふところを押しひろげて、自分の腕を置く
と、女の匂いをもった温(ぬく)もりに包まれてきた。

198 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P93 [03/09/26 13:04 ID:???]
ハマーンが起きて、浴室に行った。蛇口から湯の出る音が聞こえている。
「もういいわよ」
と、ハマーンの濡れた声がシャアを呼んだ。
 煙草をくわえたままシャアはハマーンの傍に沈んだ。彼女の白い肩も、成熟
した胸も興味から退いていた。
「男の人って、みんなそうなの?」
 ハマーンが見つめて訊いた。情熱を出しきったあと、背中をむけて寝息を立
てるシャアをハマーンはいつも非難していた。

199 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P94 [03/09/26 13:07 ID:???]
 ハマーンにはシャアがはじめての男であった。いまもそうである。幼少の主
君はまだあどけない子供であり、男という対象はシャア以外にはないのだ。彼
女の充実は紹介後のシャアによって行なわれ、継続されている。
いうなればシャアが実際上の夫であった。だから彼女はシャアには積極的に求
め、不満は露骨にうったえた。

200 名前: mailto:sage [03/09/26 13:09 ID:???]
一旦きりあげます



201 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/26 21:25 ID:???]
>>163
>ートレーズはあまりにもエレガントすぎる。
ワロタ。

半兵太がトレーズとは。

202 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/27 02:15 ID:???]
>>200
乙です。司馬作品もよかったですが、
ハマーン様ファンなので、「アクシズの輪」も期待してます。

203 名前: mailto:sage [03/09/27 18:21 ID:???]
私のとこは種が一週遅れなので最終回は来週・・・・(つってもまったく面白くありませんが)
懸念は種厨の旧板参入でスレ保守が危うくなることでしょうか。
皆様、よろしくお願いします。
>>201
幕末は書きやすいんですよ。思うにこれほどわかり易いキャラもいない>五飛
>>202
ありがとうございます。上手くつながるように考えてはいますけども、難しい
ですね


204 名前:財団の御令嬢(歴史と視点) mailto:sage豊後の尼御前・P92 [03/09/27 18:33 ID:???]
ドロシー・カタロニア、リリーナと同じ名家の娘。
AC195年、ヒイロたちと同世代である(略)
美人であったと書くほうが気分がいいが、しかしその点はよくわかっていない。
まだ祖父のデルマイユ公が名だたる野心家であったから、両親のいない彼女もひ
ょっとすると壮大な野望を有していたのかもしれず、そんな気配もある。

205 名前:財団の御令嬢(歴史と視点) mailto:sage豊後の尼御前・P94 [03/09/27 18:43 ID:???]
後年、デルマイユ公は、多分に財団の利と権勢を得るがためにMDシステムを
保護した。デルマイユはさらに、財団と相容れなくなりつつあったOZ総帥・
トレーズへの対抗措置として、連合によって滅亡せしめられたピースクラフト
王の娘・リリーナを擁立し、完全平和主義国家・サンクキングダムを復興させ
た。これによりリリーナ・ピースクラフトによる平和主義運動がはじまるのだ
が、次第にロームフェラ財団の覇権主義の障害になっていくのだった(中略)
こういう異様な光景を、ドロシー・カタロニアはごく身近なものとして見なれ
ていたであろう。戦争は人間にとってなくてはならぬ行為であり、それこそが
美をもたらすということを彼女は知ったはずである。戦争を望み、戦争を華麗
におこなわせることに異常な情熱をみせるのも、戦争によって両親を失い、そ
の喪失感を他人にも味あわせてやりたいという暗い心がそうさせているとみる
こともできる。


206 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P98〜99 [03/09/27 18:50 ID:???]
「昨夜といい、今日といい、わたしたち、危なっかしい道ばかり縁があるのね」
 ハマーンが煙草をとり出しているシャアに言った。シャアにもホテルの横から
街に下りる急な坂道が浮かんだ。
しかしハマーンが言っているのはそれだけではなかろう。危ない道という意味を
二人の関係に掛けているようであった。

207 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P99 [03/09/27 18:54 ID:???]
「その通りだ」
と、シャアはライターをとり出して答えた。
 ハマーンはシャアの横顔を見つめていたが、彼の口から煙草をもぎとり、左
右に素早く眼を走らせたあと、唇を寄せてきた。
「ねえ、わたしたち、どうなるかしら?」
ハマーンはアステロイド・ベルトの宇宙を見て言った。
「どうなるかって、このままだ」
シャアはハマーンの心をはかりかねて答えた。

208 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P99〜100 [03/09/27 18:58 ID:???]
「わたし、あなたとずっといっしょにいたいのよ」
「それは、私だってそうだが・・・・・・」
「ほんとうかしら?」
「気持ちはそうだが。しかし・・・・・・」
「しかし、私は独身主義だというんでしょう。それから、わたしにも大事な政
務がね」
「まあ、そうだな」
「分かってるわ。・・・・・・わたしね、指導者の地位を降りてもいいと思っ
てるの」
 シャアはおどろいてハマーンの横顔を凝視した。冗談めいた表情はなく、眼
を宇宙に投げたままだった。

209 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P100 [03/09/27 19:03 ID:???]
しかし、シャアはハマーンの言葉を信じなかった。たとえ不満はあれども彼女
の地位は安泰であった。ザビ家一門の指導者として人々の尊敬を得ている。ミ
ネバからは好かれている。マハラジャが亡くなっても、その権力は変わること
はないようだ。それは卓抜な手腕と器量を持った彼女自身が何よりも知ってい
るはずだった。地位を捨てるわけはなかった。いまの言葉は、恋人の傍にいる
あらゆる女が、その瞬間は真剣でも、情熱に駆られて吐く讒言(うわごと)で
あった。シャアはそうとっていた。

210 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P100〜101 [03/09/27 19:15 ID:???]
「わたしが、指導者の地位を降りたらどうする?」
ハマーンは訊いた。そのときだけ、眼がちょっといたずらっぽく変わった。
「困るな」
「困る?」
ハマーンが急に強(きつ)い眼になったので、
「いや、急に降りられたら困る」
と、シャアはあわてて答えた。彼女にこれまでの無責任を詰(なじ)られそう
であった。
「でも、あなたは、あの坂で言ったじゃない。あそこで転んで二人ともケガを
したらどうするの、とわたしが聞いたら、そのときは居直っていっしょになれ
ばいい、と言ったわ」
「そりゃ、言ったかもしれないが」
「言ったかもしれないじゃないわ。言ったわ」
「それはケガをして、どうにも人前でとりつくろいようがなくなった場合だ。
普通の場合は、そんなことをする必要はない」




211 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P101〜102 [03/09/27 19:20 ID:???]
「おどかさないでもらいたいな」
「ほんとよ。その覚悟はしておいて頂戴。いざというときにあわてないように
ね」
 シャアも、その事態は前からぼんやりと考えてないでもなかった。だが、最
悪の状況がそれほど早く来るとは思ってなかった。
ひとつにはハマーンの分別を信じていた(略)
かりに破綻が来ても、ずっと先の、未来の問題だと思っていた。

212 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P102〜103 [03/09/27 19:28 ID:???]
「あの坂道で、わたし、靴を脱いだわね。あなたも靴を脱いで」
「それは、どういう意味だ?」
「お互い、ハダシになるのよ」
「それはおかしいな。あのときは、君は転ぶとあぶないから靴を脱(と)った
のだろう。げんに、あのとき、君は私が坂からすべり落ちそうになるのをうし
ろから手をつかまえて滑りどめになってあげると言ったじゃないか」
「とにかく、アズナブルさまも靴でもなんでも飾りになる邪魔なものは除(と)
ってよ」
「それは、万一のときはそうなるかもしれないが、無理にでもそうすることは
ない」
「ああ、もうイヤ!」
急に、ハマーンは首を振った。

213 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/27 22:12 ID:/tQ2erbu]
保守

214 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/28 07:42 ID:???]
やっぱスレ1の77 84 96-7 100 110 137 233あたりの域には達していないね。
量より質を求む。

215 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/28 16:58 ID:ErhxZ7i9]
保守

216 名前:1 mailto:sage [03/09/28 21:35 ID:???]
>>214
レスを見て正直、はっとさせられました。
精進します。

217 名前:虫プロ系列か東映系列か(歴史の世界から) mailto:sage織田軍団か武田軍団か・P174 [03/09/28 22:08 ID:???]
アニメーション史上の例を拾ってみましょう。
アニメーション史上、非常にすぐれた見識と人材を集めた人物はまず手塚治虫
でしょう。かれの創始した虫プロダクションというのは、アニメーション製作
で、週単位のテレビアニメ製作会社として最初に登場する機能的な製作スタジ
オなんです。当時のそれこそ本流(東映動画)を外れたゲリラ的な虫プロスタ
ッフは業界で一番安月給で3K・評価も不当に低かったのですが、手塚は「鉄
腕アトム」と、初のカラーテレビアニメ「ジャングル大帝」の成功でこれを業
界きっての集団に仕上げた。才能さえあれば富野喜幸のように、あるいは鈴木
良武(おもに五武冬史のペンネームで「Gガンダム」「ザンボット3」の脚本
を書いているサンライズの重鎮)のように、一介の流れ者や貸本漫画家くずれ
まで幅広く起用しました。これが虫プロの強さの秘密です。

218 名前:虫プロ系列か東映系列か(歴史の世界から) mailto:sage織田軍団か武田軍団か・P176〜177 [03/09/28 22:15 ID:???]
ともあれこの虫プロにビジネスとプロデュースを加味した西崎義展、さらには
富野の可能性をひき出した手塚治虫、これらの人たちが当時の業界にしてはめ
ずらしい製作のセンスの持ち主だったことはたしかです。一つには彼らは正規
のアニメーション製作母体の出身ではないでしょう。もちろんこの正規集団・
東映から流れてきているスタッフもたくさんいますが、当時の東映動画という
のは「白蛇伝」や「安寿と厨子王丸」「西遊記」に代表される大型長編アニメ
ーションへの執着性がつよく、たいへん人海戦術的でディズニーの手法そのま
まなんです。

219 名前:虫プロ系列か東映系列か(歴史の世界から) mailto:sage織田軍団か武田軍団か・P176〜177 [03/09/28 22:22 ID:???]
そしてそれが当時のオーソドックスだったわけですが、たとえば手塚治虫はい
わゆる革命的漫画家ですぐれたクリエイターですから、こうした伝統的な製作
方式をリミテッド方式でやれはしないか、一本の長編アニメーションより毎週
決まった時間で流せるテレビアニメをつくれないか。その発想がよかったので
しょうね。
さらに手塚治虫の出た大阪府というところは、中世から近世にかけて物産・流
通が渦を巻いて往来しているところで、きわめて商業的な気風の濃いところだ
った。商人というのは、いつ品物を出せば儲かるとか、それもドッと出した方
がいいかチビチビ出した方がいいかとかいう投機的、利潤追求的、合理的な意
識がつよいですからね。手塚がこうした気分の中で育ち影響を受けたことも一
つの要因でしょう。

220 名前:虫プロ系列か東映系列か(歴史の世界から) mailto:sage織田軍団か武田軍団か・P177 [03/09/28 22:26 ID:???]
 これが東映系列・スタジオジブリの宮崎駿になると大分ちがう。かれはあく
までも正統アニメーター職人で、企画・絵コンテにしても何にしても職人的発
想から抜け出せなかった。



221 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/30 06:44 ID:???]
>> 1
保守。

222 名前:飛ぶが如く [03/09/30 10:39 ID:VzFRocRd]
 ハマーン・カーンの生涯というのは、ニュータイプ主義なのかザビ家主義なのか、この世で自分がどう存在していいの
か、席の定かでないところがあった。
 そのことは当然、ハマーン自身が熟知していたし、彼女の私(ひそ)かな不遇感の根だったにちがいない。
 かれは、1年戦争前の政変のもとになったマハラジャ(カーン)の娘であったが、ザビ家ではなかったとはいえ、彼女
を擁立して象徴にしようという党派が存在し、まかり間違えばそうなっていたかもしれない。
 が、権力委譲は定法どおりおこなわれた。ドズルの遺児であるミネバが独裁者となった。やがて親ザビ家の遺臣がが
ことごとく変死した。このことは共和制をあきらめないダイクン一派の策略であるとの風評があり、すくなくともマハ
ラジャ・カーンなどは終生信じていた。
 そのマハラジャ・カーンまでが、0088年、急死した。この死についても、ダイクン派による謀殺である、という風評が
あった。共和制を憎むことの甚だしかったハマーンはこの謀殺説を信じていた。
 ザビ親子の死により、次の総帥としてドズルの子のミネバが立った。ハマーンはマハラジャの遺言によってその後見者
になった。
 この後見者というだけの−総帥ではない−立場で、ハマーンは一年戦争後、アクシズや艦隊で、当主のように威を用い、
その威で命令した。小惑星隊を遊弋するその艦隊など全てハマーンはネオジオン総帥同然のように命令を下していたが、
しかし当時のアクシズの高官は、ハマーンをもって、単に、
「隊長」
 と呼んでいた。ハマーンはモビルスーツ隊の隊長で、文官職がないために、公式の場ではひとは「隊長」としか呼びよ
うがなかったのである。
 もっとも、ただの「隊長」ではまずいというので、ハマーン一派が工作して、やがて大傅、次いで摂政にすすみ、
「ハマーン様」
 という呼び方に変わったが、ザビ家当主でない者にこの敬称はどうかという異論は、その当時のアクシズにあった。

223 名前:飛ぶが如く [03/09/30 10:40 ID:VzFRocRd]
近接戦闘となると、機体の優劣が大きな差をつくった。
 連邦軍はあわれであった。機体を操作して照準を合わせると、かれらが「棄民」と扱っているジオン機は、
魔法のように機動をしてくる。モビルスーツの機動力というのは、連邦軍からすれば魔法のよぷなものであった。
 連邦軍がもっている多くの艦載機は、姿勢を変更すると、次いで噴射をかけ、しかるのちに照準を合せて発射するというもので、
この点、モビルスーツの射撃は機体にマニピュレーターが付いているために回転と照準がきわめて容易であった。
 連邦軍はつねに対空砲火の訓練不足を気にしていなければならなかった。連邦軍の多くはレーダー自動射撃を用いていた。
ミノフスキー粒子散布下では、目視による照準を用いる。砲側で座っておいて、敵の移動に予測している地点に銃弾をそそぐのだが、
この方法は第1次世界大戦以来変わらない。
 これに対し、ジオン軍の人員は事前から想定されるように訓練がミノフスキー粒子散布下でのことを想定し、さかんに正確な
弾幕射撃を行っていた。
 もっともこの訓練の十分さは連邦軍に比してのことで、ジオン軍自体としてはつねに訓練された人員が不足しているという実感から
抜け切れなかった。

224 名前:シャアがゆく [03/09/30 11:11 ID:VzFRocRd]
 ルウムでは、連邦軍の惨敗が続いている。
 この会戦に於ける連邦軍の惨めさというのは、史上例がないといってよい。
なにしろジオン軍の三倍の兵力をもちながら、ミノフスキー粒子散布下という
この一点において想定外であったがために、成す術もなく蹂躙されているのである。
モビルスーツの有無のさといってよい。多くのエースパイロットが、
この戦いで生まれることになる。
 なかでも、
「赤い彗星」
 と異名をとった男がいる。シャア・アズナブルである。彼は5隻の戦艦を
沈めたといわれ、これが彼の後々までのその神秘的なまでのパイロットとしての伝説を
確立したといってよい。これは連邦・ジオンの両軍からの証言もあり、その戦果自体は
事実とみるべきであろう。しかし通常の三倍の速さで動いたというのは、物理的に言って
無理があり、これはややおおげさな表現といえる。
 繰り返すが、シャア・アズナブルというのは、キャスバル・ダイクンの変名である。
キャスバル・ダイクンが、無きジオン・ダイクンの遺児であることは、前に述べた。
そのキャスバルが名前を変え、シャア・アズナブルと名乗り、密かにジオン軍に潜り込み、
今では少佐にまで出世している。その理由としては、デギンの末子であるガルマ・ザビの
引き立てが大きい。ガルマ・ザビというのは後にシャアによって謀殺されるに至るのであるが、
その寸前までシャアを崇拝し、兄弟以上に信頼していたと思える節がある。
それはともかくとして、今のシャアはザビ家に乗っ取られたジオンを憎む立場でありながら、
存外本気で連邦軍に対して戦闘を行っていたという奇妙さがある。この奇妙さはシャアの
一生を通じて変わらず、その死の遠因ともなったアムロ・レイとの奇妙な関係においても、
似たような現象が見られるのである。
 ついでながら、シャア・アズナブルの正体は一年戦争中にばれた。それも当の
ザビ家一族であるキシリアによってである。しかしキシリアはそれをついにたれにも
漏らさなかった。その前に自身が戦死してしまったからであるが、そのためか、後の
アクシズ内においても彼がジオンの遺児であることがばれた形跡がない。右は余談。
 モビルスーツの斬り込みのすさまじさは、単に艦載機の操縦者だけが恐怖したのではなく、
その恐怖は艦船にいる乗組員たちの間にも共有されていた。以下の事件は、進行中の
「赤い彗星」の活躍のやや後のことであるが、ジオンの三連星と異名をとるザク小隊は
ついにレビル艦隊の旗艦に取り付き、ついには司令官であるレビル自身ごと捕獲してしまうという
荒業までなしとげた。それもひとえにモビルスーツの持つ機動性のあらわれといっていい。

225 名前:飛ぶが如く [03/09/30 11:35 ID:VzFRocRd]
 以下、点景を点々と識(しる)してゆきたい。
 とはいえ、脳裏の光景は光彩茫々としてなにごとも見えにくく、
書くべきこともなさそうな気がする。
 シャアとその徒の死は、前時代からひきついできたネオジオンの
終焉であったろう。そのネオジオンというのは、ただにグリプス戦
役期だけでなく、一年戦争期期あるいはさらにジオン共和国期から
ひきつがれているなにごとかであったかもしれない。
 この前後、連邦政府はアクシズ落しの進行とその終末、さらには
シャアの死による余波についてぼう大な活字量を使って報道したが、
しかしシャアがどういう人物であったかについての知識や洞察は、
ほとんど貧困であったといわざるを得ない。同時代における代表的な
前線指揮官であるブライト・ノアでさえ、その『戦闘日誌』において
「シャアはニュータイプの要注意パイロット第1位に居り」
 と、シャアにつき、戦闘面での業績だけで評価しているにすぎない。
シャアの人物評価についてはブライトはかれ自身の意見を留保するが
ごとく、「アムロは称して誤まった方向に能力を成す」とし、ことさ
らにアムロの評価をかりている。アムロのハマーンへの評価は多分に
アムロ自身の共感や連邦に対する反感にもとずく意思からでているこ
とは、その『アムロ語録』などをみても察せられるし、ブライトもそ
の機微は知っていたに違いない。要するにシャアと同時代人はシャア
を喪いながらも、シャアがどういう人物であったかということについ
ては、ニュータイプ以外、知るところが薄かった。

226 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/09/30 11:37 ID:???]
>>225
17行目、ハマーン→シャア

227 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/09/30 16:28 ID:LYp57paM]
保守

228 名前:1 mailto:sage [03/09/30 21:40 ID:???]
>>223
これ好きです
>>222
細かいようですが、0088→0083ですね。
これも好きだなあ

229 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sage上総介・P113〜114 [03/09/30 21:56 ID:???]
喜幸はたいてい、カット袋(アニメーションを再現するための一連の画を入れ
てある)を持ってあちこちのアニメーターにわたしにゆく(中略)
はいっ、と喜幸は威勢よく演出家からカットを受け、両手いっぱいに袋をかか
えて走る。
虫プロのスタッフたちは、この新人が、大まじめな顔で製作進行をやっている
光景を、よく見た。
(富野君はよく動く)
手塚治虫は、すぐにりんたろうのしたの演出助手に喜幸がなったときそう好感
を抱いた。これでもかというほど一生懸命なのである。
(あるいは上昇欲がつよいのか)
かもしれぬ、と思った。思えば男女とわず、とことんまで追求し解明したくな
るのが、手塚治虫の生涯を通じての性癖だった。

230 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sage上総介・P120〜121 [03/09/30 22:03 ID:???]
喜幸は、「ジャングル大帝」のコンテをきって製作にもちこんだ(中略)
喜幸はこの点、天性の知恵者らしい。マンガ絵さえはっきりしていれば、虫プ
ロにはコンテを読めるほどの者はいないので必ず採用されるという計算があっ
た。
治虫にはそういうストーリー・アニメーションのコンテを読みとる力はなかっ
た(ただし、喜幸の解釈ではそうであったが、本当のところはどうなのだろう)
が、とにかく喜幸のコンテについて少々の質問をかわしてから、
(こいつ、演出にしてやればよい仕事をするかもしれんな)
と思いはじめた。喜幸という若者に意外な使いみちを見つけた思いである。



231 名前:ニュータイプの護衛者(王城の護衛者より) mailto:sageP13 [03/09/30 22:10 ID:???]
ジャミル・ニートはすぐGX−9900・ガンダムエックスのパイロットにな
った。一撃必殺のサテライトキャノン、ニュータイプパイロット対応のフラッ
シュシステム搭載の、文字どおりの連邦軍最強のMSであった(中略)
威信の象徴、といってもよかった。象徴とすれば、この15才の若いニュータ
イプパイロットほどみごとな連邦軍の象徴はなかった。

232 名前:ニュータイプの護衛者(王城の護衛者より) mailto:sageP14 [03/09/30 22:15 ID:???]
しかも教養も士官学校での優秀すぎる成績もある。その成績も、すべての分野
におよび、さらに優等生にありがちな見栄や虚飾をはることもつつしんだ(略)
「ただ律儀すぎて」
とアイムザットはほんのすこし悪口をつけ加えた。パイロットにならずに民間
企業の職についても、分限と立場を守って害を与えるようなことはあるまい、
とアイムザットはいった。

233 名前:ニュータイプの護衛者(王城の護衛者より) mailto:sageP14〜15 [03/09/30 22:25 ID:???]
 ジャミルがガンダムエックスを進めて動くみごとさ、戦線把握、敵MS撃墜
の的確さ、判断の迅速さは類がなかった(中略)
ニュータイプといえば、ジャミルの上官になったルチル・リリアントもその資
質があった。年齢は20歳で、思春期がおわりきっていない少年ジャミル・ニ
ートにとっては憧れの女性であった。
 ジャミルは、天性、純粋で優しみのある男なのであろう。愛情を抱きつつも、
実際上の告白をし遂げてしまうことを懸命に我慢した。なぜなら、彼女にはすで
に恋人がいたということを知っていたからであった。この女性とはのちに思わぬ
かたちで再会を果たすことになるが、ジャミルのそうしたいたわりに感謝してい
たようであった。
そのくせ、この少年は戦後大人になりバルチャー内での実力者となってからも片
時も彼女を忘れようとはしなかった。
 要するにこの純粋すぎるほどの少年がもし平和な時代にうまれておれば、家を
まもり可もなく不可もなく人生をつとめ了(おお)せ、ついには天に召されるだ
けの存在であったろう。
 が、風雲に際会した。


234 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P103 [03/09/30 22:40 ID:???]
「もう、ひとりでジオンを、アクシズをまとめてるのがイヤ。辛抱したくない
わ」
「・・・・・・」
「アズナブルさまは、いまの地位でいるほうがわたしに苦労がないと思ってい
るのかもしれないけれど、そんなものじゃない。あの息苦しい、あんなに小さ
な主君のお守りをしているのが堪えられなくなってきたわ。恋人のアズナブル
さまに支えてもらうのがこれまでの唯一の仕合せだったけれど、恋人同士のま
まなんて、わたし、もう我慢できなくなったわ。わたしのからだが、あなたに
馴らされてしまったの」
 ハマーンはシャアの手をとって、両の掌の中に強く揉みこんだ。
「ねえ、アズナブルさま。わたし、いつ、現在(いま)の地位を放りだすか分
からないわよ」
その声が激しかったので、シャアは気圧(けお)されて引止める言葉がすぐ出
なかった。

235 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P109 [03/09/30 22:47 ID:???]
 シャアはハマーンをもっと理性のある女かと思っていた。理性というよりも、
女性ニュータイプの合理性をもっと持っているように考えていた(略)
しかし、いまのハマーンはどうやら普通の女であった。身体の情熱にひきずり
こまれて、わが身はどうなってもかまわないという、女の一時的な精神錯乱を
多分に持っているようであった。
 これは危険な女である。これ以上の長いつき合いはできない。うかうかする
とこっちまで巻き添えをくいそうであった。つまらない独善的イデオロギーを
背負わされて革新とはほど遠いことをせねばならぬとも限らなかった。

236 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P110 [03/09/30 22:54 ID:???]
 今日のところはハマーンの言う通りに従おうとシャアは思った(略)
いまの状態では何を言ってもハマーンの耳にははいらない(略)
彼女は言葉でいうほど深刻には考えていないのだ。坂道で靴を脱いだからあな
たも靴を脱いでお互いに飾りをとってハダシになろうなどと言っていたが、要
するに彼女の言葉の遊びにすぎない。−まあ、このぶんならたいしたことはな
いとシャアは思い、ハマーンの言葉に脅かされた自分の小心さを苦笑した。

237 名前:飛ぶが如く [03/10/01 05:00 ID:TNIL8qNx]
 右のように考えてくると、アムロにはひとを圧倒するような
−稀有としか言いようがない−戦闘力があったのであろう。
 その能力には、むろんアムロのニュータイプという要素が大
きかったにちがいない。しかし歴戦・武勲という伝説的要素も
大きかったし、またモビルスーツパイロットとして連邦軍の他
者を圧倒しているという現実的権威も要素に加わっていたであ
ろう。なにしろアムロはシャイアンに隠遁させられていたとき、
かれが何者であるかをまったく知らない旅行者としばしば接触
した。かれらがアムロをひと目みてニュータイプ能力を感じた
かといえば、さほどの例は遺っていないのである。何者とも知
らずにアムロを金持ちのボンボンと思い込んだエマ・シーンの
話や、またある訓練生は「ガンダムのパイロットという人が教
官になっているときいたが、それは誰なのか教えてくれ」と先
輩パイロットにきいたとき、たまたまアムロの基から帰ってき
たところだった。その人だと教えてやると、訓練生は拍子抜け
したように、「あの人ならいつも教えてもらっているからしっ
ている」と答えたという。
 いずれにせよ、シャア・カミーユ以下にしてみればアムロは
ニュータイプ能力がありすぎて図りにくかったということだけ
は確かであるといっていい。

238 名前:飛ぶが如く [03/10/01 05:16 ID:TNIL8qNx]
 ジオン軍2個艦隊の艦載機は、戦隊や分隊に欠があるために、
総数を推算しにくい。ほぼ4お0機とみるべきであろうか。
 連邦軍がジオン軍に優越しているところはいくつかある。パ
ブリクをもち、かつ火力の集中と突破援護を容易にするための
ボールをもっていた。
 また携帯火器はビームスプレー・ガンが主力を占めていて、
その性能においてジオン軍の実弾兵器(主としてザクマシンガ
ン)は比べ物にならなかったことである。このことはこの稿で
幾度かふれた。
 次いで、ニュータイプの扱いにおいてジオン軍とは比較にな
らぬほど優遇していた。
 ニュータイプの観念が病的に希薄なのはその後の地球連邦軍
にあっては体質的欠陥とされたが、この時期はやや異例といっ
てよい。このことは、ひとつは総指揮をとっている司令長官レ
ビル将軍の性格に拠っているといえるかもしれない。
 レビルは、軍人としては指揮をこまかく指示しすぎる性格の
ために指揮官先頭にはむかない男だったが、その構想力と緻密
な運営能力と、さらには物事を客観的に見る性格から考えて、
連邦軍では珍しくニュータイプへの思想と期待をもった男であ
ったかもしれなかった。

239 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/10/01 05:44 ID:aweTYZ6B]
www.shitamachi.net/ranking/cgi05/ranklink/ranklink.cgi?id=05mercur

240 名前:飛ぶが如く [03/10/03 05:11 ID:vcNXQil/]
 エマ自身はこのとき味方の艦隊の近くにある隕石にあったから、
猛攻にまきこまれた。
エマはおそらくこれを阻止しようとしたであろう。ただ、かれは、
半壊したガンダムMK-2に乗っていた。
 そのMK-2にビームが当たった。エマは驚き、隕石のくぼみに隠
れながらティターンズに向かって射ち出した。
 エマは敵を阻止しようとし、自分の防御どころではなくなった。
そのうち機体がつんのめって倒れ、エマは銃火に晒された。
 ハンムラビは、MK-2に乗っている相手があきらかに敵の指揮官
機とみたから、これを撃破するために変形をして射ってきた。
 ハンムラビが照準を合せて、転がっているMK-2に止めをさそう
としたとき、Mk-2のそばにいたラーディッシュという戦艦が、身
を挺してMK-2の上に出た。このため、ラーディッシュが沈められ
た。ラーディッシュは一撃で沈められたというから、ヤザンの攻
撃力のすさまじさが推して知るべきであろう。さらにそのハンム
ラビは、次の斉射をMK-2に向かって行おうとしたが、ゼータガン
ダムがかろうじて救援に来たため照準がつけられず、ビームはか
たわらの隕石に大きな破孔をあけた。




241 名前:飛ぶが如く [03/10/03 11:08 ID:vcNXQil/]
 連邦軍は、10月23日以来、激闘を繰り返しているが、損害が増えていくのみで、
ほとんど前進できなかった。
 総司令官のレビルはビッグ・トレーにいる。レビルはその性格にもよるが、寡
をもって衆をうつという戦術家的な(というよりも机上の空論的な)戦法を好ま
ず、敵よりも圧倒的多数の兵力を持ち、敵に対抗できるだけの兵器をもってよう
やく攻勢にとりかかるというほうであった。
 連邦軍の増援は、ベルファスト−ワルシャワ−キエフという経路でやってくる。
25日26日の間レビルが待ち望んでいたその攻勢条件がととのった。
 デブロックの大部隊も、先行試作型モビルスーツ部隊も到着して、さらにはホ
ワイトベースもあらたに着いた。
「11月に大攻勢を始めよう」
 と、レビル将軍は、エルラン中将、ワッケイン少将という二人の参謀出身の将
官に指示した。本来ならばそれだけいえばレビルの小司令官としての機能は必要
にして十分に果せるのだが、彼は指示のこまかい男で、コーカサスのジオン軍に
対しているホワイトベース部隊もオデッサ作戦に参加させよとか、その進撃路の
位置はここならどうか、などといったように、ホワイトベース部隊の実情もまだ
届いていないのに、わずらわしいほどに言った。
「それは、私どもにまかせてもらいましょう」
 と、部隊の司令官であるワッケインはいい、ワッケイン以上に用兵の権威であ
るエルランは苦笑もせず、無表情で黙っていた。
 連邦軍は11月6日の早暁をもって総攻撃の開始とし、それを目標に全力をあげて
準備にかかった。
この間、ジオン軍は準備をしようにも余力というものがなかった。マゼラトップ
を取り外して遮蔽物を背に簡易陣地のようなものを掘って砲兵陣地を作ったり、
ザクを整備したりする程度であった。
 オデッサの戦いには、晴天の日が少なかった。
 連邦軍が総攻撃をはじめるべく予定した11月6日も、早暁から道路が深くぬかる
んで、雪とも泥ともつかぬものが大地を覆い始めていた。
「今日も、泥か」
 ジオン軍のどの野戦陣地でも、うんざりしたような声がきこえた。寒気が前日
よりも厳しかった。
 この日、結局は細雨が続き、途中雪に変わって、風も強かった。
 ジオン軍には泥は敵であった。ジオン軍の防衛戦のほとんどは前線が襲われる
と後方から予備を投入して、敵の主力をはたくように殲滅したあと、同じく予備
としてまた後方に下がるのである。泥濘では、主力を迅速にこの機動を行うこと
は困難であった。
 それに、主力軍や予備隊の多くはモビルスーツであり、これは大地がぬかるむ
と両脚が大地に沈み、困難で時間がかかるだけでなく、泥が可動部分にまとわり
ついて行動に支障があった。ジオン軍が、これほどの不利な条件に耐え、かつ補
給と補充に苦しみ、なおかつ戦意と戦闘能力を衰えさせなかったのは、史上に類
のないことといっていい。

242 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/10/03 20:15 ID:???]
保守です

243 名前:飛ぶが如く [03/10/04 07:16 ID:Q0jBpp9V]
 ホワイトベースは−正式な任命を受けた兵を連邦軍の正規軍とすれば−多分
に雑軍の色彩があるといってよい。
 各要員はほぼ正規軍であったが、その下の補助人員はサイド7の避難民の志
願兵や未訓練兵も多かった。
「正規兵」
 という軍隊用語は、徴兵されてから訓練の済んだ兵卒を指すのだが、民間人
がまじっているこういう場合には、正式に志願・徴兵された者という意味とし
て使われた。
「正規兵が少ない」
 というのは、ブライトの悩みであった。正規兵でも、サイド7入港時の正規
兵は多くシャアの襲撃その他で死に、その後、民間人の志願によって、サイド
7脱出時の段階で参加したものが多い。
 それでもなお艦を防衛できたのは、アムロ・レイの操縦能力と、そのモビル
スーツに頼ってのことであったろう。天成のパイロットであったアムロは、味
方が苦戦している時はつねにその前面に自分のモビルスーツで戦う姿を見せ、
その腕で守った。

244 名前:飛ぶが如く [03/10/04 07:33 ID:Q0jBpp9V]
 右のような状況の中で、反撃をおこなうかどうかの軍議が、ホワイト
ベースの艦橋でひらかれている。幸福論を唱えるものはひとりもいない。
「戦わずに逃げ込もう」
 と、非戦案を唱えるものが一、二あった。ただし非戦案そのものは、
可能かどうかの確証をもってはいない。
「シャアに対して反撃を」
 と、リュウとハヤトがしきりにいった。
 反撃については反対が多かった。確かに気違いじみた勇気が必要であ
った。時間も必要であり、さらには万に一つの僥倖(ぎょうこう)をね
がうような天運のよさも必要とした。無謀の挙ではあったが、しかし補
給中の敵を叩けるという魅力は、えたいの知れぬ感情としてひとびとの
心の底をゆるがせていた。
(シャアに二度と襲われたくない)
 という思いは、作戦もなにも、すべての理性をはねかえすほどのつよ
い情念であったかのようである。リュウ・ホセイやハヤト・コバヤシは
シャアを叩いてムサイを沈める、といっているが、当の両人も正気でそ
う思っていないに相違いない。逃走してもまたシャアが網を張り、やが
ては補給を受けたムサイ艦があとを追って自分達を殲滅してしまうにち
がいない。それではまずかった。同じく危険をおかすにしても、この
シャア・アズナブルのような名の知られたパイロットに窮死させられるよ
りも、駄目で元々でも敵の懐へ攻め込み、その艦をおそい、その補給を
妨害することに、かれらは最後の希望をたくしたといっていい。

245 名前:飛ぶが如く [03/10/04 08:02 ID:Q0jBpp9V]
 ミライは、足を急いだ。
 ようやくセイラに追いついた。
 金髪のセイラはエレベーター近くで待っていた。黒髪のミライは
エレベーターに乗り、ボタンをおしながら、エレベーター近くのセ
イラに協力を訴えた。ミライはエレベーターのところでカイ・シデ
ンに会い、
−逃げ遅れた人を一緒に救出してほしい
 と、カイに手助けの必要があることをわかってほしかったであろ
う。カイは脱兎のごとくただわき目も振らず翔け、婦女子のごとく
他人のことを考えず、命がたかれば他はどうでもよかった。
 二人とすれ違ったカイは少しくミライの問いをきき、
「おれはみなかったぜ。あんたたちも早くにげな」
 といってエレベーターに入ろうとした。セイラは靴をならして後
を追った。セイラは近づきざま張り手をして、
「軟弱者、それでも男ですか」
 ということを、高い声でいった。カイは思わずほほを押さえて後
ずさりした。

246 名前:飛ぶが如く [03/10/04 08:32 ID:Q0jBpp9V]
 ソロモンというのは、厳密には衛星とはいえない。連邦の将官たちが、
「コンペイトウ」
 とよんでいる隕石のことである。
 ついでながら筆者は、このソロモンの地に二度行った。写真で見る印象
よりも、ずっと平坦な衛星であった。ソロモンの格納庫の一角にある出入
り口から外をのぞむと、視界の左右にできている亀裂があり、金属分が溶
けた後があって、地割れでもあったかのような形をしている。
「あれがソーラー・レイの跡です」
 と、案内の士官がいったが、軌道上にソーラー・レイが残っているわけ
ではない。
 宇宙世紀初頭の記録では、小惑星帯から連邦の宇宙軍がもってきて、一
年戦争前にこのサイド1宙域の要塞となり、以後防御が施された。その時
の名前がソロモンというのだが、おそらく主力はルナ・ツーにおいて、一
時急あった場合にのみこの要塞に艦隊を派遣して拠点とするというための
設備であったのであろう。
 もっとも一年戦争直前には、艦隊を派遣して駐留艦隊としたり、生産工
場を移したり、連携する突起の頂点に対空砲といったものも作ったようで、
いってみると、かすかにそれらしい痕跡かと思える基礎工事が、ところど
ころにある。ビーム砲はない。兵器にビームが用いられる以前の防御砲火
の施設だったかとおもえるが、よくわからない。
 一年戦争末期、オデッサでの勝利と共に連邦がにわかに反撃し、ついに
は3拠点(ソロモン、テキサス・コロニー、アバオ・クー)を奪還するに
至るのだが、その制圧に当たってこのソロモンを攻めた。ジオン軍はこの
ソロモンに拠ってよく戦い、やがて失陥した。
 その後、この隕石には防御施設は強化されていない。

247 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/10/04 11:06 ID:???]
一応、翔ぶが如くの元ネタ
>>222 島津久光は藩主の父親で、存在として中途半端で「三郎」としか呼びようがなかった
>>223 西南戦争で、政府軍は補給と補充に恵まれ、その新式銃は薩軍の旧式銃に比べて有利
>>225 西郷以下が死に、作者はその次の章を始めようとするが筆が進まない。シャア←西郷
>>237 西郷の人物描写。知らない人からは案外その人が西郷だと気づかれなかった。
>>238 山県有朋は後の日本陸軍の欠点である補給と補充の軽視と無縁だった
>>240 乃木希典があやうく薩摩兵に斬られそうになるが、危うく庇われ難を逃れる
>>241 熊本から宮崎に撤退した薩軍に対して、十分な兵力を集め山県が攻撃を企図する。
>>243 西南戦争終盤、辺見軍は「兵児」とよばれた薩摩兵以外を多く含んでいた。
>>244 西南戦争最終盤、桐野、別府は絶望的な状況ながら攻撃を企図する。
>>245 宮崎北部から鹿児島へ行く途中、結局無策であった桐野に村田が近寄る




248 名前:1 mailto:sage [03/10/04 13:54 ID:???]
お見事です
特に>>241 >>246が(・∀・)イイ!
雰囲気が出てます


249 名前:種の道に井戸を訪ねて(司馬遼太郎の世紀) mailto:sageP88 [03/10/04 14:07 ID:???]
ーキャラクターの狂と死ー(対話)

ツルミ「そのエネルギーが富野由悠季のような人間でも50になっても60に
なっても自分のなかにいくらかなだめられた力としてある(中略)
したがって革新性もよわまってきているけれども、戦後の人間、創成期を生き
てきた人間には、戦後の高度成長期・低成長期の世代ほどの退廃がなかった。
彼らの創作・思想的なエネルギーは正気の地平を越えるもので、いまの正気の
地平はまだあぶないのだ、不安定なんだ、日本アニメーションが隆盛してもた
いしたことないという不安感と反省があった。だから手塚や出崎でさえ、自分
たちがつくった正気の地平にあまんずることはなかった。

250 名前:種の道に井戸を訪ねて(司馬遼太郎の世紀) mailto:sageP88 [03/10/04 14:15 ID:???]
そのあとのブーム経験者や河森・庵野らの第一世代たちはだんだんあまんじて
いくし、結局、種のような狂気にとってかわられるわけですね。エヴァやガン
ダムWのころには、アニメ界やサンライズはいまの正気を維持することに精い
っぱいだからズルズル押されて、これらの連中を処置したりする力はもってい
るから池田みたいに降ろしたり、結果としては不完全ながらもファンや業界か
ら押しきられてブームをつくりだすけれども、最終的には種みたいなふつうの
正気からいったら駄作に決まっている作品を送り出すことに自分たちで踏みき
る。最後は自分たちで種サイコーとかキラきゅん永遠不滅とか、およそファンダム
のーファンたちがのたうちまわるような考えられないヲタ話を言い散らして、
平気で自分たちの自画自賛でガンダムの名を汚し、正統エヴァの劣化コピーと
もいえないようなストーリーとキャラの破綻と、多くのガノタやアニメーショ
ンジャンルをさんざん叩きのめしていくということになるわけですね。



251 名前:種の道に井戸を訪ねて(司馬遼太郎の世紀) mailto:sageP88 [03/10/04 14:45 ID:???]
 なぜ狂気のルールに押し負けたかというと、やはり創成期やその姿勢
に忠実たらんとしたスタッフたちと違って、種のスタッフやサンライズの経
営者は守る正気になっているんじゃないですか。その点でもいまの状況
はかなり危険です(略)
サンライズの人間が、その守る正気なんですね。ガンダムというジャンル
を富野や安彦らがつくってくれて、それをありがたいとおしいただいて20
年間守りつづけたでしょう。自分たちが社運をかけてつくったものじゃない
し、自分たちでつくるためにがんばって敗れた人は別の面をもっているわ
けです(略)
いまはそうじゃなくなっている(中略)
それがいまの秩序で、守りたいだけの正気なんじゃないかな」
シバ「ぼくは愚劣にも機動戦士の名を冠してある種は非常にきらいです。
あの異胎に迷惑をこうむったのは、われわれガノタ・・・・・・、1st世代であ
りZ世代であり、OVA・G・W・Xの世代であるわけで、その怨念が猛烈に
ある。
 それと、1stガンダムのころとは非常に条件がちがう。
1stガンダムのころというのはたくさんのファンたちが一つのかけ声、子供
向けではない、新しいジャンルを、といったようなかけ声でけっこう動きえ
たわけで、小牧雅伸というようなたいへんな富野ファンでアニメックの編集
長だった人でも新世紀宣言などのファンエネルギーのもとで動く仲間に参
加することができたし、氷川竜介なんかもそうですね。ファンエネルギーと
いうのは狂気ですから、そのエネルギーというやつを使わなければしょうが
ない状況だったんだ。ところが平成年代の状況はだいぶ違うんで、これに
ついてはまた別な話になりますから・・・・・・」

252 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P126〜127 [03/10/04 15:43 ID:???]
シャアも面白くない気持ちになって黙って火をつけた(中略)
女は、いざとなると現実に眼がさめて愕然(がくぜん)となる。ハマーンはい
ろいろなことを言っていたが、やはりアクシズのミネバの摂政という安泰な場
所に居たいのだ。ミネバを抑えているようだから、事実上の女指導者である(略)
 だが、これはいい傾向だった。ハマーンがそれを自覚するなら、これまでの
ように衝動的な無理は言わなくなる。こっちもその非理性に引きずられなくと
も済む。シャアがほっとした気持ちでいると、ハマーンの泣くような、叫ぶよ
うな声が聞こえた。

253 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P128〜129 [03/10/04 15:48 ID:???]
返事がないので、
「私とのことでそれほど困るのなら、これを機会に私と遇うのをやめたらどう
だ?君もさすがに懲りただろうから」
と言ってみた。これが少しばかり図に乗った言い方になった。
 ハマーンはふいに顔をあげて、シャアを睨(にら)んだ。その眼がギラギラ
と光っていたので、彼がはっとすると、
「いやよ。アズナブルさまと別れるなんて、絶対にイヤ」
とハマーンはヒステリックな声をあげた。
 どぎまぎしていると、
「アズナブルさまはまだ、わたしの気持ちが分かってないのね。わたしは、も
う、あなたなしには生きてゆかれなくなったわ。そういう女になったのよ。ど
んなことがあっても離れないわ」
と叫ぶようにつづけた。

254 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P129〜130 [03/10/04 15:53 ID:???]
「アズナブルさまが悪いのよ。あなたのせいで、わたしの身体がこんなふうに
なってしまったのよ」
ハマーンはシャアのうしろ頸(くび)に両手を巻いて言いつづけた。
「わたし、3年以上あなたとずっと一緒にいて、どんなにあなたが私に大事な
人かよく分かったわ。これから先、あなたなしに生きてゆかれないのを身体で
知ったわ。もう駄目なの」
「そんなことを言われても、いま、どうにもならないではないか」
シャアは狼狽をかくして言った。

255 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P130〜131 [03/10/04 15:59 ID:???]
「そんなことを言われても困る。第一、私の立場はどうなる?」
と、シャアは思わず本音を洩らした。
 そんな事態になったら、まちがいなくギレン・ザビの二の舞になるにちがい
なかった。ニュータイプへの革新を目指しているときに今が大事であった。目
下、その大事業に脂が乗りかかっている。希望も大きい。周囲はまだまだ人の
革新を信じないオールドタイプばかりであるだけに用心をしている。それなの
にこんな問題を起こすと、旧来の独裁やザビ家専制を継承するだろうから、寄
ってたかって叩かれる。亡き父の意志も、地球にいるアムロ・レイやアルテイ
シアからも、そしてララァからも冷たくされ、笑われる。−
「あなたは自分の立場ばかり言うけど、わたしのことはどうでもいいの?」
「そんなことはないが・・・・・・」
「こうなったのもあなたの責任よ」(略)
「責任は感じているが」

256 名前:飛ぶが如く [03/10/04 22:47 ID:Q0jBpp9V]
 軍使ハマーン・カーンがグワダンに戻ったのは、23日午後二時
すぎである。
(会議を急いでやらねば)
 ウォン・リーは、ハマーン・カーンが念を押した時刻がせまって
いることで、あせった。午後五時までにアクシズに返答せねば、両
軍の提携は自動的におこなわれないことになる。
 もっとも、何をどう返事せねばならぬかという内容があいまいで
あった。ハマーン・カーンがエゥーゴへもってきた話というのは、
地球圏においてネオジオンの名誉を回復したまま旧に復せよ、とい
うことである。それも、ハマーン・カーンらの条件を具体的にいう
とすれば、「ザビ家をしてジオン公国の総裁に復せしめ、スペース
ノイドの当主として十分に礼遇した上で覇権をみとめよ。というこ
とになるであろう。
 このことは、ザビ家という実像以上に巨大になっている名声をか
つぐスペースノイドたち以外に理解しがたいことであるかもしれな
い。思いあがりといえばこれほどの思いあがりはないであろう。要
するに、敵である地球連邦からすれば、ザビ家ひとつのために、何
十億という市民が死傷し、コロニー落としの地においては文字通り
地球上から消えるというべき犠牲をはらってきた。この要求は、そ
ういう地球連邦市民たちの無数のいのちなどは、ザビ家一個の威光
からすればちりあくたのようなものだという気分の上に成立してい
る。

257 名前:飛ぶが如く [03/10/04 23:03 ID:Q0jBpp9V]
 ハマーンの成功の大きさは、ほとんど奇術師の演出家と思えるほどに、
信じがたいほどのものであった。
 ハマーンが派遣した地球への降下部隊は3隻にすぎないのみか、その
過半は交戦で消耗しきっている。これに対し連邦は無傷の艦隊を月面に
持っていただけでなく、連邦軍とカラバとのあいだに連絡線をも設定し
た。連邦が断乎たる決意さえもてば、ハマーンの降下部隊をつぶすのは
容易であったに違いない。
 が、連邦はすでに国家的秩序がゆるんで、戦争に向かっての政治的結
束を望むことが不可能な政情にあるだけでなく、うかつに対ネオジオン
戦をやれば多くの内通者がでる危険性さえあった。
 連邦は折れた。連邦側の代表である首相が議会に説明した文章による
と、この交渉において連邦が折れた理由として、サイド3の民衆が望ん
でいるからだ、ということをあげている。
 さらに、アクシズ摂政のハマーンが一歩も譲らずに主張しつづけたこ
とについては、
「その間、実に言ヒ難キ隠意アルナリ」
 と、もらしている。いいがたいほどの隠意(内情)については、ハマ
ーンも連邦側に対し、買収という手段でもって行っていた。


258 名前: [03/10/05 01:19 ID:wZjctv0G]
ジャブロー。地球の南半球のアマゾン川上流に位置しているこの廃墟はuc0087年いわゆるグリプス戦役
の時に核弾頭の爆発により破壊された。その巨大な人工物はあたかも当時の人々の夢と限界を今に物語っているようである。
そもそも現代からみてなぜこのような環境破壊にもつながりかねない巨大な人工物を建造したのか当時の時代背景を含めて
考える必要がある。旧世紀といわれる人類がまだ地上のぬくもりのなかで生活していた時代
幾多もの戦乱、内戦、民族紛争を経て民主主義的手法により地球連邦政府を成立させた。それは食料不足、環境破壊、人口増加問題等の全人類的問題
解決するためにとった人類の厳しいが偉大な選択であったかにみえた。しかしそれを一挙に解決するためにとった方法は
人類の宇宙空間への移住、いわゆるコロニー移民であった。だがそのあまりにも強引な手法に
より、コロニー居住者の不満は募り、コロニーの自治権を要求する政治的思想シオニズムを生んだ。


259 名前:飛ぶが如く [03/10/05 08:50 ID:qXMfj/vD]
 グリプスの騒乱は0087年のMK-2の奪取にはじまるが、この時期から、
0088年、アクシズの帰還にいたるまでに、地球圏には党派が5つあった。

  ティターンズ
  エゥーゴ(カラバ)
  グリプス
  ジオン共和国
  アフリカ民族独立組織

 である。
 グリプスは元ジオン軍の出身者の結社だが、ジオンの出身者でも他の党
にいる場合があるから、多少の語弊を恐れずに言うとすればザビ家主義者
というべきものであろう。ザビ家はジオン軍の象徴でもあったからである。
 この党は、グリプス戦役前ではスペースノイド主義で、スペースノイド
問題についてはエゥーゴと同様、独立主義であった。
指導者というべき者は、ハマーン・カーンが、その華麗な外見の中に機略
の才を蔵しているために首領格に推されている。ハマーンはデラーズフリ
ート挙兵ぎりぎりの時期に化成付近に進出していたが、デラーズやデザー
ト・ロンメルとともに策動して反連邦の挙兵をしようとしたことがあった。
その敗残の一部とアフリカのジオン残党はグリプス戦役のときにグリプス
に投じる。彼女はデラーズフリート居へ維持には参加し損ねたが、0088年
にあっては、ザビ家の権威によって遂げ得なかった何事かを遂げようとす
る。思想的にはギレン・ザビに近いかもしれない。
 ティターンズに対抗する勢力が、エゥーゴであった。
 エゥーゴは、ティターンズの思想が単なるジャミトフの独裁におちいっ
ているのに対して興った勢力で、一年戦争時一番のエースパイロットであ
ったクワトロ・バジーナ(一年戦争ではシャア・アズナブルと名乗ってい
た)と、メラニー・ヒュー・カーバインが主唱した。
スペースノイドの自治と独立を説く。とくにメラニーの同志には資本家や
商人が多く、志向するところはアースノイドの経済的独立であり、この点、
アースノイドの自立をめざした連邦政府の方針と一致していたため、5つ
の党のなかで、連邦政府から大量の共感をえたのは、この党だけだったと
いってよい。

260 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/10/05 14:08 ID:???]
飛ぶが如く、のやつ面白いですねえ。
これからもどんどん書いてください。



261 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/10/05 18:29 ID:TjGbMadi]


262 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/10/05 21:41 ID:???]
なんだ、このスレは。

すげぇ

263 名前:飛ぶが如く [03/10/06 01:07 ID:h31YidLC]
 ともかくもエマは逃げねばならない。
「到底持久ス可ラザルヲ察シ」
 とエマは報告しているが、この時期、エマの機には一発の被弾もなかった。
損害が激増する惨烈な状況ならともかく、エマは逃げなくてもよかったのでは
なかったか。
 一種、惨烈な印象だけある。ティターンズ、とくにジェリドの機が、弾薬欠
乏のために、しきりにヒートホークをかざして突撃してくるからである。ガン
ダム世界では白兵による突撃のとき叫び声をあげてくる。ガンダムだけの特徴
とされているトミノ流の掛け声で、ファンが真似し易いような声だとされた。
この世界観は、かれの忠実な支持者であるガンダム好きたちにしかわからない
かもしれない。
操縦能力は、エマが的確に把握されていないからわからないが、ともかくもテ
ィターンズがわずか2機で、エマはこれよりやや劣る程度であったにせよ、機
体の性能優越を加算すれば、同程度と見ていい。しかしZガンダムの救援を受
け、それなりに選定した地形地物に拠っているから、エマ側のほうが有利とい
えば有利である。
 しかし戦場心理からいえば逆に不利だったともいえる。エマの機は、月面の
岩石群かそれに近いジャンクやクレーターの背後、堆土といった地物に身を伏
せて銃をかまえ、ティターンズがおそいかかるのを待っている。熟練兵なら敵
からは自機が見えにくく、自機から敵のやってくることがよく見えるというこ
とで防御の都合がよいであろう。
 未熟であるために、この有利な条件がかえって恐怖を生むもとになったはず
である。エマの機は凹凸(おうとつ)のある場所に身を寄せているが、おりか
らの地球からの反射光によってジャンクや岩肌や流星などのさまざまな物陰が
意外な形に見え、ときに向かってくるかにも見え、さらにはその想像が混乱を
生んでその影がティターンズかと思い、無用の目標を射撃したり、来もしない
敵におびえて泡を食って逃げ出したりすることがありうる。
 戦闘は、実質に二十分余つづいている。その間、損害も出ていないのに、
「とてもふせぎきれない」
 とエマが判断して退却したのは、多分に心理的なものであったであろう。そ
れがエマ自身の心理でなくとも、戦闘に元同僚達と対決してしまった転向者の
動揺を統御しきれなかったということかもしれない。そのエマの動揺の有無に
ついては、記録は残されていない。しかし被弾もないのにやたらにビームライ
フルを射ちまくったあげく逃げだしたという要素には、心理的なものが大きか
ったと思える。

 エマの隊も退却したが、同時に−というよりも時間的にはエマの隊
よりすこし早く−ティターンズも退却してしまったのである。
 この間のおかしさについては、エマの戦闘記録にはでていないが、カミーユ
はよほどおかしかったらしく、

  味方が引けば、ティターンズも退却を開始する。可笑(おか)しい事には、
双方同時に退却したのであった。

 ティターンズ(ジェリド機・カクリコン機)は、ジェリドの機の弾薬がなく
なった上に、あとから応援にきたカクリコンも、アーガマのエゥーゴ軍がどの
ていどの戦力かもわからず、諸般の事情から襲撃の効果もさほどあがらないため、
いったん後方へ退却し、増援を待とうと思った。クワトロの隊も長時間の戦闘
で疲れきっていたように、ティターンズも強行軍のはてに二十二日に月面に入り、
のっけから戦闘をかさねてきたのである。ジェリドたちは部隊の戦力が限界に
きていると見て、この日はひきあげと決めたに相違いない。ティターンズはこ
の月面をたった300kmながら南のグラナダという都市まで後退した。

264 名前:飛ぶが如く [03/10/06 01:32 ID:h31YidLC]
 マシュマー・セロ以下アクシズの幹部もまた、ともすれば恐怖(パニック)
をおこしがちなネオジオン兵に自信をもたせるために、
「ハマーン様が乗られたキュベレイが墜(お)ちるはずがない。このハマー
ン様に従って戦えばかならず戦争の女神が味方する」
 と、事あるごとに、下級将校をして兵に説かしめた。
戦後、宇宙暦0090年、エゥーゴの幹部ブライト・ノアが指揮官になり、コア
3内においてハマーンの遺体を確認する作戦を行って捜索を行ったのは、こ
のグリプス戦役において、ハマーンとそのキュベレイの力に負うところが大
きかったからに相違いない。
キュベレイの設計の見事さは、その独特のサイコミュのファンネル運用の例
をあげてよく説かれるが、機動性においても、キュベレイの設計は独創的で、
キュベレイは可動部を体内に120ヶ所持ち、それがサイコミュを通じて細
部まで使われた。どのスラスターも可動範囲が大きく、きわめて小さく、し
かもどのスラスターも出力が大きく、調整するのが大変なくらいであった。
グリプス戦役後のあるとき、アナハイム・エレクトロニクスで実験をしたと
き、テストパイロット三十人を動員し、サイコミュ増幅システムをつなぎ、
一分間に21万2千KWの出力テストをしたが、終日この作業をやって、出
力がわずか9千KW出せただけだったという。

265 名前:1 mailto:sage [03/10/06 14:35 ID:???]
>飛ぶが如くの方
凄すぎです。戦闘詳細からMS解説まで・・・
参考になります。

266 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P133 [03/10/06 14:42 ID:???]
「アズナブルさまはどうなの?わたしが摂政をやめたら困るの?」
ハマーンは激しく訊いた。
「それは、やはり困るな。それほど急だと、私だって気持ちの準備ができてい
ないからな・・・・・・」
シャアはたじたじとなって答えた。
「あなたはわたしにはほんとの愛情がないのね」
「愛情はあるさ。しかし、それとこれとはべつだ。愛情があるからといってメ
クラ滅法にどんな行動をとってもいいという法はない」(中略)
まったくいつもとは様子が違っていた(略)
こんなにもとり乱すものだろうか、とシャアはあきれた。
 だが、すぐにでも地位を下りるというハマーンの言葉の裏には、シャアに対
する欲望の執着があった。あどけない少女に因業な火をつけたのは彼ともいえ
るし、それに応えたのが彼女ともいえる。

267 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P134 [03/10/06 14:48 ID:???]
 ハマーンに地位を放り出されたら、それでおしまいだとシャアは汗の出る思
いだった。いくら負担をかけないと言っても、彼女がかれのもとにくれば、そ
こから面倒な雑事が湧(わ)くにちがいなかった。それを振り切る自信はシャ
アになかった。女のペースにまきこまれて苦しむのは分かっている。
 アルテイシアにもいずれ知られる。ことに相手がザビ家と縁のふかいハマー
ンと分かったとき、妹やアムロは何と言うだろう。
シャアは、アルテイシアやライバルのアムロたちの怒りと軽蔑の中に立たされ
たときを思うと、恥が身体じゅうを閃光のように走った。
それだけではない、この醜聞がジオン・ダイクンの意志の後継者としての命と
りになるといういつもの不安がまた強く出てきた。
 彼は絶亡のふちに立たされているような気がした。


268 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P134〜135 [03/10/06 14:54 ID:???]
シャアは、彼女がこんなふうに騒ぐのは一種の示威だと思うものの、眼の前に
思慮を失った格好で坐っている女を見ると、地位を放りだすというのが本気の
ようにも映った。前から彼にいくらか年上ぶって接しているハマーンに、そん
な錯乱があるとは思ってなかった。
 とにかく、彼女の異常さに押し切られてはならない。これが生涯の破滅につ
ながると思うと、彼はまたもや精いっぱいの説得につとめた。
「すぐに摂政をやめなければならないというほどでもないじゃないか。落ちつ
いて考えてみろ、自分のひとり合点でそう思っているだけじゃないか。あんま
り軽率な真似をすると、あとでお互いが困ることになる」
「わたしは困らないわ。それだけの覚悟ができてるんだもの。アズナブルさま
は困るの?」
ハマーンは口を尖(とが)らせて言った。
「困るときかれたら困らないとはいえないな。だしぬけだし、私にはまだ気持
ちの用意ができていないのだから」

269 名前:ニュータイプの護衛者(王城の護衛者より) mailto:sageP15 [03/10/06 14:57 ID:???]
第7次宇宙戦争、宇宙革命軍が独立を求めて来襲し、人類未曾有の大戦争が勃
発するが、この年、かれは15歳であった。

270 名前:ニュータイプの護衛者(王城の護衛者より) mailto:sageP15 [03/10/06 15:08 ID:???]
 開戦から8ヶ月、ニュータイプ専用MS・MA部隊による「ライラック作戦」
の失敗により、宇宙革命軍は最後の手段として「コロニー落とし」作戦を選択、
地球連邦に対し降伏を迫ったこのとき、かれは決戦兵器ガンダムエックスで最前
線にいた。
ちなみにジャミルだけがニュータイプ兵士としているわけではなく、同型のガン
ダムタイプ・MSは多数あり、その前身としてのMS・GW−9800・ガンダ
ムエアマスター、GT−9600・ガンダムレオパルド(この機体にもビットM
Sをコントロールするフラッシュシステムが搭載されている)も連邦軍の主力と
して存在し、それぞれにニュータイプ兵士が乗せられている。
 迫りくる宇宙革命軍に対しかれが命じられている作戦は、コロニー落とし阻止
という命令のみである。多数のビットMSと味方機の奮戦で近辺の敵を排除した
あと、ジャミルは自らのガンダムエックスのサテライトキャノンの砲口をコロニ
ーへ向けた。同時に背部のリフレクターもひらかれ、そのあざやかな光彩は、M
Aフェブラルに搭乗する宇宙革命軍大佐ランスロー・ダーウェルをおどろかせた。






271 名前:ニュータイプの護衛者(王城の護衛者より) mailto:sageP15 [03/10/06 15:15 ID:???]
 一列に勢揃いして砲口を向けているガンダムエックスの姿は、宇宙革命軍
全体に戦慄と恐怖をあたえるには充分すぎた。
 その効果はすぐにきた。
 月面より照射されたエネルギーをうけたガンダムエックス集団は、背部の
リフレクターを輝かせて、瞬時のうちに一斉にサテライトキャノンを放った。
混戦となっていた戦場に幾つかの閃光がうまれ、コロニー数基はまたたくま
に撃破された。
ジャミルもランスローも、いや戦場にいるすべてのひとびとはその力に驚嘆
した。
 が、連邦軍の意図に反して、宇宙革命軍はガンダムタイプMSの行為に過
剰に反応した。上層部の下した命令は「あくまでコロニー落としを遂行せよ」
というものであった。
「ばかな。これ以上の強行は無意味だ」
ランスローはMAフェブラルより回線をひらいて作戦の中止を具申した。も
ともとコロニー落としは単に連邦に対する恫喝手段であったはずではないか、
それなのにいたずらに強行しては、地球はおろか革命軍側にすら無用の出血
をもたらすことになる。
 ランスローは再三説得をこころみたが、結局はうけいれられなかった。

272 名前:ニュータイプの護衛者(王城の護衛者より) mailto:sageP15 [03/10/06 15:21 ID:???]
 多数のコロニーに火がつき、青き地球へ向けて落下しはじめた。ガンダムエ
ックスのジャミルはおどろいた。敵味方入り混じるなかにあえてコロニーをす
すめてくる者がいるとはどういうことであろう。
 幾多のMSや艦艇が敵味方関係なく押しつぶされ宇宙に散った。ジャミルは
その能力でガンダムエックスを駆り、コロニーを回避し、敵を撃破した。だが、
後悔が頭を去らない。自分はこのように大量虐殺をするためにパイロットにな
ったのか、この阻止作戦は敵の戦意をくじかせるのではなかったのか。
 泥沼と化した戦場は、敵はおろか多くの仲間たちの命をもうばってゆく。先
のみえない混沌のなかでジャミルは、ジャミルが載っていた母艦をオールレン
ジ攻撃で沈めたあと、まっすぐにこちらに向かってくる脚のないMAの姿を確
認した。

273 名前:ニュータイプの護衛者(王城の護衛者より) mailto:sageP20 [03/10/06 15:27 ID:???]
 時に地球は混乱している。
いや混乱というようなものではなかった。無政府状態にちかかった。
 バルチャーが跳梁し、各地で野盗まがいの行為をし、縄張りと利権をめぐっ
ては争った。
 バルチャーとは「ハゲタカ」の意味をもつ。コロニー落着によって連邦政府
はその機能を停止、通信網も沈黙し、地球・宇宙住民ともども過酷な環境下で
生活を強いられるなか、MS発掘と各地を廻って交易をする人々があらわれた。
それら地球上の交易者たちを総称した呼び名がバルチャーであったが、多分に
蔑視の色合いが濃い。
 白昼、野盗・強盗化したバルチャーは、陸で海で街を荒らし、略奪し人を撃っ
た。

274 名前:ニュータイプの護衛者(王城の護衛者より) mailto:sageP25 [03/10/06 15:31 ID:???]
 このころ当のジャミル・ニートは、持ち前の指導力と手腕で、バルチャー集
団の実力者となっていた。
 座上艦はアルプス級陸上戦艦「フリーデン」である。
 戦後かれは戦争の後遺症であるコクピット恐怖症にかかり、かつてのニュー
タイプ能力をほとんど失った。
 かれがふと気がついたときには、ガンダムエックスは地球の大地に堕ちてい
た。いままでの記憶を思いだそうとしたが、ほとんど思いだせず、かわりにす
さまじい頭痛と噴き出た血がかれを襲った。

275 名前:ニュータイプの護衛者(王城の護衛者より) mailto:sageP25 [03/10/06 15:38 ID:???]
 ほとんどのコロニーが地球に落着するのをジャミルはみた。真赤な光が、地
球のあちこちで巻き起こった。
 どちらが勝ったか、どちらが負けたか、そんなことはもはや関係がなかった。
結果として残ったものは、とり返しのつかない惨禍だけである。
 しかし、ジャミルは戦いつづけた。地球をバックに、二つの機体が激突し、彗
星のような線を宇宙にえがく。このMS戦に意味などはない。あるのは、戦うと
いう選択肢を選ぶことしかできない二人のニュータイプの悲しい性(さが)のみ
だ。
 ランスロー・ダーウェルのMAフェブラルとの戦いは、文字どおりの死闘とな
った。オールレンジ攻撃の嵐と指先に内装されたビームライフルで、ジャミルの
ガンダムエックスは左腕をうしない、何度も死のふちにおいつめられた。肉体と
精神は極限状態におかれ、ビームライフルのエネルギーもあと2発というところ
で、ガンダムエックスのビームの一撃がフェブラルの胴体を撃破したものの、フ
ェブラルのビームの反撃によりガンダムエックスはその頭部をやられ宇宙を流れ
ていった。

276 名前:ニュータイプの護衛者(王城の護衛者より) mailto:sageP25 [03/10/06 15:40 ID:???]
 両者はそれぞれ生き残ったようだ。すくなくともジャミルには、あのランス
ロー・ダーウェルが死んだなどとは夢にもおもえなかった。
 ジャミルはガンダムを降り、荒涼とした地球の大地に立った。荒れくるう暴
風はやまず、異常な天変地異が地球全体をおおっていることが感じられた。

277 名前:ニュータイプの護衛者(王城の護衛者より) mailto:sageP25 [03/10/06 15:44 ID:???]
 あのときから数年が経っていたが症状が思わしくなく、だがなおもあきらめ
ず、フリーデン専属医師テクス・ファーゼンバーグと主任メカニック・キッド・
サラサミルをシミュレータに付きそわせた。
 結果は、拒否反応である。
 ジャミルは落胆し、それだけで呼吸が荒くなった。数回コクピット内部でく
りかえしたが、やがてキッド・サラサミルをよび、
「やはりだめだ」
といった。その気がないわけではない、能力の点でもない。要は精神の拒絶で
ある。たとえいまランスロー・ダーウェルのごときニュータイプが相手になる
と言ってきても、かれの力が復活することは不可能であった。ジャミルはそれ
がわかるほどの器量をもっていた。

 

278 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/10/06 19:37 ID:???]
保守。
何やら加速してきて日々楽しみですw
Xは未見であるので、今ひとつ実感のわかないところですが。

279 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:age [03/10/06 22:32 ID:???]
sage

280 名前:飛ぶが如く [03/10/07 01:32 ID:FmzjMigQ]
 ただ一年戦争後のシャアは、自ら進んで道化になってしまった。
 悲惨なことに、その異名だけは世をおおった。シャアはエゥーゴの象徴
となり、スペースノイドの英雄とされた。
シャアはジオンの息子でありながら戦争後の青写真をもたず、しかも一年
戦争期における充実した実像は、そのまま一年戦争後の伝説の中で虚像と
なった。蓋世の虚像といってよかった。
 シャアの魅力は、自分におけるその機微をかれ自身がわかっていたこと
である。口に出して言ったことすら何度もあった。
 もっとも一年戦争後のシャアは政治については能がなかったが、能以上
の心事については聡明すぎるほどのことがあった。
 たとえば自分が作った「エゥーゴ」の正体のいかがわしさを戦列にあり
ながら痛烈にわかっていたのはかれ一人であったし、また地球連邦の民主
政治の阿呆らしさを議会で演説しながら激しい自己嫌悪とともにわかって
もいた。やがてかれが、自分自身の無能さをふくめて何もかもに嫌気がさ
し、グリプス戦争期にはこれでは道化だと口走り、それが終わると、「地
球連邦」の側で活動せず、もとの一戦士に戻っていった。
 当然ながら、「地球連邦」に対する一敵勢力をなし、全地球圏のスペー
スノイドという抑圧勢力の希望の星となり、地球圏における最後のジオン
を形成した。



281 名前:飛ぶが如く mailto:sage [03/10/07 01:42 ID:???]
>>246 西郷が最後にこもった鹿児島の城山は、元島津氏の居城だが、防御らしい施設はない
>>256 城山篭城中、山野田は薩摩出身の海軍中将の川村純義に西郷がでてきたら助命嘆願すると示唆される。
>>257 大久保は、ほとんど見込みのなかった台湾出兵で、賠償金を清からせしめるのになんとか成功した
>>259 薩摩の隣国の肥後は理屈っぽいところで、大きく5つの党が存在していた。
>>263 乃木は緒戦の植木の戦いで、損害が殆どないのに軍旗を奪われ、撤退を選択した。
>>264 熊本城篭城時、守将谷干城以下は、加藤清正の作った城に拠れば落ちないと鼓舞し、現に名城だった。
>>280 あとがきより、西郷は進んで形骸となった。西郷自身が自分の作った官のいかがわしさと自身の無能を知っていた。

282 名前:飛ぶが如く [03/10/07 08:36 ID:FmzjMigQ]
 二番機サラ・ザビアロフが−敵のプレッシャーを感じたという理由
だけで、その意味でいえばほとんど少女のような無邪気さをもって
−戦線離脱してしまったということは、彼女の未熟さを表現する行動
だったといっていい。
 彼女は極度に大人びているために、ひどく物事を考えていそうな女
のようにみられていた。しかし、彼女が公の場所で拗ねて見せたり、
嫉妬心から進言したことを集め考え直してみると、やはり物事を全体
像としてみたり、総合して考えたりすることのできない人物だったか
のように思える。パイロット適正とは総合的適合者のことをいうが、
サラは戦場において物事を総合する力を欠いていた。シロッコがこう
いう一種の未熟者を抜擢して側近にしたり、それを後にレコアとなら
んで日本の柱として重用していくことは、シロッコにおけるわからな
さの一部分である。
 サラは、自分と自分のモビルスーツ、ハイザクが勝手に撤退してし
まえば、敵中で斬り回っているジェリド・メサのガブスレイが孤軍に
おちいるということを、思わなかったのかどうか。
「プレッシャーを感じたのだからつい」
 と、サラはいうであろう。サラはニュータイプとしては多くの可能
性をもち、魅力にも富んだ女性だったが、自分自身がなすことについ
ての影響の計算において致命的なものを欠けさせていた女ではなかっ
たか、と思える。

283 名前:飛ぶが如く [03/10/07 08:52 ID:FmzjMigQ]
 雑談だが、ジオン軍が作り上げたビグザムは、ジオン兵にとって
は神秘的なまでの名機だが、防御上の欠陥がないではない。
 機体の下部に、脚部などによる死角をもつことである。もし攻撃
側にこの下部を攻撃されれば(げんに連邦軍は攻撃した)ジオン軍
側の不利は明らかだが、ジオン軍はおそらくこの時期にその対策ま
でを施すほどの余裕がなかったのであろう。
 他に、エネルギーの再充填という時期がある。内部ジェネレータ
ーの加熱に起因し、Iフィールドの一時使用不可能につながっている。
 ジオン軍はこの防御力低下の対処にも頭を悩ましたであろう。が、
これをなまじ改修すればかえって戦力として低下する形になり、ジ
オン軍としてはむしろ、戦闘の場合、逐次進退をすることによって
対処すべきと無視しておいたのかもしれない。
 司令官度ずる・ザビは、この欠点を無視した。これに付け焼刃の
対処をするにしても改造の時間がなく、改造してもわずか1機のビ
グザムでは、戦局を左右するほどの威力はなかった。
 このためスレッガー・ロウはホワイトベースの艦載機コアブース
ターに再度飛び乗ってビグザムに向かうや、この欠点に目をつけ、
ここを自らの死に場所とした。

284 名前:飛ぶが如く mailto:sage [03/10/07 08:56 ID:???]
kanarazu 1ko ha miss type ga atte moushiwake nai....

285 名前: mailto:sage [03/10/08 14:14 ID:???]
>>飛ぶが如くさん
細かいことは気にしなくてもよいかと。
ちょっとくらいミスがあっても大方意味が通じていればいいわけですし。
あえて言うなら、書き込む前に一度全体の文章を確認してから書き込んだら
どうでしょうか?
>>278
Xはただ今再見中でして。思いつくままに書いてみますた。
新しい職人さんも来てますし、自分も楽しんでます。

286 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P135〜136 [03/10/08 14:22 ID:???]
 その返事にハマーンはシャアを見すえていたが、
「じゃ、その気持ちの用意をさせてあげる」
と言うなり、ふいに彼の傍にきて耳もとに低いが熱い言葉を吐いた。
 今度はシャアがハマーンの顔を見つめる番だった。
「本当か?」
「こんなこと、嘘いえないわ」
「しかし、まだはっきりとは分からないんだろう。ひと月くらい無かったくら
いで・・・・・・」
「わたしは、ずっと順調だったのよ。この前、あなたと会って帰ったあと、す
ぐに止まったんだから」
 シャアは激しくすさぶ自分の心臓の音を聞いた。半分はハマーンのおどし文
句とも思うが、さっきからの彼女の異常な様子から思い合わせて事実のようで
もあった。

287 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P136〜137 [03/10/08 14:29 ID:???]
 シャアは嵐のなかに身をかがめる小動物みたいにうずくまって考えた。それ
から安全な逃げ道をさぐるように、ハマーンにおそるおそる訊いた。
「それは、あとひと月みないとはっきりしたことは分からないのだろう?」
「待たなくてもわたしには分かるわ。今まで、そんなことはなかったんだもの」
 ハマーンの声は逆に強かった。
「しかし、何かの都合で変調ということもある。医者だって、ひと月くらいじゃ
分からないはずだ」
「じゃ、三月(みつき)くらい経って、お医者さまがそう言ったら、あなたどう
するつもりなの?」
 ハマーンは切りこんだ。

288 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P137 [03/10/08 14:35 ID:???]
「・・・・・・」
そのときは中絶すればいい、とシャアは答えたかったが、そう言うと彼女がよ
けいに荒れそうなので口に出せなかった。相手が落ちついたころを見はからっ
て言ってもおそくはないと思った。
「そのときは、そのときさ」
「冗談じゃないわ。わたしの身になってよ。今の問題よ」
「だから、今はそれがはっきり分かってないと言っているではないか」
「いったい、あなたはどっち?わたしに赤ちゃんを生ませるの?生ませないの?」
「・・・・・・」
「卑怯なのね、アズナブルさまは。でも、わたしは赤ちゃんを生むから。これ、
ちゃんと言っておくわ。わたしはあなたの赤ちゃんが欲しいんだから。ついでに
言っておくけど、わたし、そろそろ胸にむかつきがきてるの」
 ハマーンは決定的な打撃を与えるように言った。
 それは男の胸中を察し、中絶の拒否を先回りした宣言でもあった。


289 名前:サイド政略の虚構(人間の集団について) mailto:sageーベトナムから考える・P29 [03/10/08 14:48 ID:???]
 一勢力が、自勢力の卑小さを知って、他勢力の出方をぬすみ見つつ磯で小魚
をせせる鳥のようにわずかな利益をあさっているあいだは、自他ともに勢力と
いう集団の被害はすくない。
 一勢力が自己肥大して宇宙政略をもつときに、その惨禍はおおいがたいもの
になる。たとえばティターンズは地理的あるいは歴史的条件、その他からみて
宇宙政略を持ちうる勢力ではない。
 それが、一度もった。ギレン・ザビの地球圏政策に幻惑され、逆にかれらジ
オン残党を槍玉の対象にあげることによって連邦正規軍にまで影響をおよぼし、
やがて自己肥大し、サイド管理体制構築という宇宙政略を持った。それがいか
にすさまじい虚構であったかということは、いまは骨身にこたえて知っている。

290 名前:サイド政略の虚構(人間の集団について) mailto:sageーベトナムから考える・P29〜30 [03/10/08 14:56 ID:???]
「サイド3・スペースノイドは12歳の子供だ」
と、サイド3に進駐してきた連邦軍の提督がいったが、その軍人の所属政体は
たしかにジオン公国の地球圏政策という独立精神的イデオロギーをぼう大な火
力でもってほろぼしはしたものの、そのあと、皮肉なことに提督のいう12歳
の子供になってしまった。一年戦争・デラーズ紛争のあと、地球連邦(という
よりティターンズそのものを指したほうがいいが)は「反独裁」を軸とする宇
宙政策をもってしまったのである。
 反独裁というこのふしぎな思想(思想というより魔術のようなものだが)ほ
ど、宇宙世紀の政治を混乱させてきたものはない(中略)
 ひとたび反独裁という魔術にかかる場合、視界にことごとく幼児のような幻
影が立ちあらわれ、それを退治するためにはあらゆるものを犠牲にしてもかま
わないという呪術的昂奮に駆られる。この呪術的昂奮が、一年戦争・デラーズ
紛争後の地球連邦の宇宙政略の核になり、連邦の権力者たちを夢中にさせた。



291 名前:サイド政略の虚構(人間の集団について) mailto:sageーベトナムから考える・P31〜32 [03/10/08 15:14 ID:???]
 現実化するには(現実化できたという錯覚を持つためには)強大な軍事力で
もってその虚構の外側を巻きつつむことが必要であり、さらにはその威力を地
球・スペースコロニー・宇宙に炸裂させ、人間や建物を消し飛ばしてみるとき
にはじめてつかの間ながらも現実感が生ずる。ギレン・ザビの地球圏政策を考
えれば、このことは自明であろう。もしかれがあの宇宙一のMS集団をもたな
かったならば、人はかれを単なる妄想者かホラフキとしてしか見なかったにち
がいない。だからかれはそれらを使って近隣を蹂躙する必要があった。蹂躙し
たときにはじめてかれ自身が自分の思想がホラではなかったということを確認
し、安堵し、大政略のもちぬし特有の焦燥からまぬがれ得るのである。

292 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/10/09 18:50 ID:???]
保守


293 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P137〜138 [03/10/11 22:15 ID:???]
 眼の前が昏(くら)くなる思いのなかで、彼女は嘘(うそ)を言っているか
もしれないというのがシャアの一筋の光明だった。彼はそれにすべての希望を
かけた。
「いい。それなら子どもを生んでもいい」
 それは彼の賭けだった。生むなと言えばハマーンは荒れる。あらゆる罵倒を
浴びせるだけでなく、どんな気違いじみた行動に出るか分からなかった。

294 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P138 [03/10/11 22:25 ID:???]
 果たして妊娠かどうか分からないのに、ここで生むなと言って彼女に逆らう
のは愚である。そうでなかったらばかげたことだ。かりにそうだったとしても、
そのときこそ何かの策があるだろう。ハマーンはいまでこそ思いつめているが、
さきになって思慮をとり戻したら、また気をかえるかもわからなかった。いや、
そうするだろう。
「そう?ほんとに生んでもいいの?」
 ハマーンの顔が急に輝いた。半信半疑ながら、こわばっていた表情が崩れ、
眼が細くなった。
「君がそう希望するなら、それに従うよ」
 シャアは賭けの重みが増してゆくのを覚えた。
「そりゃ、アズナブルさまの立場だって分かるけど、わたしはどうしても生み
たいの。わたしは今までそういった経験がないし、それに、あなたの子だもの」

295 名前:エースの世(国盗り物語(二)より) mailto:sage英雄の世・P376〜377 [03/10/11 22:35 ID:???]
 話は、ジオン側に移る。
移らざるをえまい。なぜならば、この突撃機動軍きってのエースとされた黒い
三連星・ガイアが、白いMS(ヤツ)であるガンダムにジェットストリームア
タックを破られ、このことが信じられないまま、生き残ったオルテガとともに、
ジオン地上軍の拠点オデッサにむかって逃げもどりつつあるからだ。
(おそるべきは、木馬とあの白いMS(ヤツ)よ)
ガイアは、ドムをふりかえらせながら、ホバーをふかして加速した。
全身、汗まみれである。

296 名前:エースの世(国盗り物語(二)より) mailto:sage英雄の世・P376〜377 [03/10/11 22:47 ID:???]
 MSが、機動駿逸(しゅんいつ)なればこそ離脱できた。ザクや、脚のおそ
いグフなら、ガイアはとっくにガンダムのビームサーベルのさびになっていた
ろう。
ガイアは、公国軍大尉。
栄光に満ちた前歴をもっている。今まで幾十回となく連邦軍とたたかってきた
が、対白いMS戦のほかは敗れたことがなかった。
とくにこの男が、天下に売り出したのは数ヶ月前の宇宙世紀0079・1月、
第二次ブリティッシュ作戦を遂行すべくルウム(サイド5)に進撃したドズル・
ザビ中将指揮下の公国軍艦隊に対し、連邦軍きっての名将レビル大将がこれを
防ごうとし、ルナツー・地球軌道・残存艦隊戦力を集結させてルウムにむかっ
て作戦行動を開始したときである。
 このルウム大会戦ではガイアは仲間のマッシュ・オルテガと黒色のMSザク
で出撃し、キシリアの命で連邦艦隊中心に乱入してたくみに戦闘し、ついに戦
場を離脱しようとしていた敵旗艦アナンケともどもレビルを捕虜とした。

297 名前:エースの世(国盗り物語(二)より) mailto:sage英雄の世・P377〜378 [03/10/11 22:54 ID:???]
 この勝利によって一介のパイロットにすぎぬガイアが一躍公国軍内における
トップエースとして認知されることとなり、突撃機動軍で、
ー黒い三連星ほどのエースはない。
と囃(はや)され、勇名は遠くジャブローの連邦本部にまでとどろいた。
 この不敗のガイアが、どういうわけか、白いMS(ヤツ)だけがおもうよう
にいかず、必勝の戦法であったジェットストリームアタックを破られ、こんど
はむなしく逃げかえるというほどの惨敗を喫している。
(白いMSめは、あれは幻戯(めくらまし)でも使いおるか)
と、敗(ま)けながらもなぜ敗けたかがどうも解せない。

298 名前:エースの世(国盗り物語(二)より) mailto:sage英雄の世・P378 [03/10/11 23:00 ID:???]
 たとえば今日の戦闘では木馬めは情報どおり支援用MSと白いMS(ヤツ)
を繰りだしてきた。戦闘爆撃機の出現にはおどろかされたが、MSにジェット
ストリームアタックをかけるぞ、とガイアがオルテガとマッシュに呼びかけ、
いざ三位一体の攻撃をしかけてみると、いつのまにか白いMSの踏み台にされ
ている。ふと二度目のジェットストリームアタックで、
ーおお、これで白いMSもおわりだ。
とおもっていると、なんとタイミングよく連邦の輸送機が白いMSをかばい、
最悪にもマッシュのドムをやられてしまった。
(わからん)
敗因はあとでしらべてみることだ、とおもった。

299 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/10/12 00:33 ID:npW2B+ql]
保守

300 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/10/12 00:50 ID:???]
このスレは俺が好きなSSスレの三本の指にはいっている。がんばれ。



301 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/10/12 21:02 ID:npW2B+ql]
定期的に保守

302 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/10/13 02:44 ID:Tj5aIXWC]
保守

303 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/10/13 15:22 ID:Tj5aIXWC]
保守


304 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/10/13 18:56 ID:???]
保守ってかかれるだけって辛いな。感想かけよ

305 名前:1 mailto:sage [03/10/13 20:05 ID:???]
多忙でカキコできませんでした。
>>300
その一言でやる気がでます
>>304
感想はホスィですね


306 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP83〜84 [03/10/13 20:17 ID:???]
 ポンパドゥールは、色情の徒である。かのじょはマリアの戯曲においては風
俗にゆけば騒ぎ、美醜の見さかいもなく異性とみればそれを追い、それがため
に弟の「赤騎士」からもてあまされ、赤騎士がこの姉のことを思いわずらった
あげく、伝道師のラスプーチン神父に説諭方を頼み入るところから戯曲の幕が
あがるのである。性欲は元来普遍的なものであるにかかわらず、しかもそれが
単にポンパドゥールにも宿っているというにすぎないのに、ポンパドゥールの
全人格がその性欲によって悪へ分類され、ポンパドゥールの冠をかぶり、ポン
パドゥールの衣服をまとい、ポンパドゥールの名を冠して歩き、その名のもと
に黒人の男性を抱き、美男子のあとを追っかけ、絶叫をあげるのである。
 そしてその普遍的な性欲の発現がことごとくポンパドゥールの責任として帰
趨(きすう)してくるというのはどういうことなのであろう。

307 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP84 [03/10/13 20:20 ID:???]
 マリアは、人間とはなにかということを考えこんだとき、たとえばそのこと
もおもったに相違なく、さらにはポンパドゥールをキリスト教学的にいわば狂
わせているこの性欲を、マリア自身も内臓していることに驚嘆の思いをもった
にちがいない。

308 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP86 [03/10/13 20:24 ID:???]
 筆者は20代のある夏、月面都市グラナダにある教会でマリアの「三教示帰」
を、べつに読むというほどの執着もなく拾い読みしてしまうという淡い機会を
もった。そのとき奇妙におもったのは、なぜ三教なのかということであった。

309 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP86 [03/10/13 20:26 ID:???]
 マリアがキリスト教、仏教、マリア主義の三教をならべてその優劣を論じた
のは当時のサイド1の現実からみてややそらぞらしく、キリスト教とマリア主
義とくらべるだけでいいのではないかと筆者はおもったりした。

310 名前:マリアの風景(空海の風景(上)より) mailto:sageP87 [03/10/13 20:29 ID:???]
「女神さまにはそういうところがあるなあ」
と、教会の伝道師は、私の質問に対し、そういう漠然とした感想を答えにした。
 仏教を入れて「三教」としたのはマリアがその美意識において均衡と装飾をよ
ろこぶ本能のようなものがすでにここにもあらわれている証拠のようにおもえる。
さらにはマリアにおける論理的なくせとしてつねに濃厚にあらわれる完全主義が、
かのじょに「仏教」を参加させたのかもしれない。



311 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P139 [03/10/13 20:34 ID:???]
 ハマーンはがらりと調子を変え、シャアの首に両手を巻いて身体ごとおしつ
けてきた。彼女の頬は泪(なみだ)とも汗ともしれぬものでべっとりと濡れて
いた。
 シャアはひとまず危機をのりこえたような気がしてほっとした(中略)
「先に二ホンブロにはいる」
「どうぞ」
 和解の成立が女にいそいそと彼の着替えを手伝わせた。その世話ぶりには一
段と情がこもっていた。
 シャアは部屋つづきの浴室にはいった。小さな湯ぶねだったが、ひとりで考
えるにはかえって適当だった。

312 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P139〜140 [03/10/13 20:45 ID:???]
 一応の危機は回避された。だが、これはあくまでも小康状態である。この中
休みのあとは前にもまして激しい嵐がくると思った。ハマーンの決心はかたい
ようだ。本気で自分といっしょになる覚悟を決めているらしい(略)
 そうすると、妊娠のこともだんだん本当らしく思えてきた。彼はそうでない
という方向に考えをもってゆこうとしたが、その希望も下から湧き上がってく
る予感で崩れがちだった。もし、そんなことになったら、どうなるだろう。彼
は深い穴をのぞいているような思いで、浴室の硝子(ガラス)窓ごしにみえる
モウサ内の山々の暮れなずむかたちを眺めていた。これから先の運命が夜に融(と)
けこもうとする山の姿と同じに見えた。
 浴室のトビラ越しにハマーンの声がした。メイドと話しているらしかった。
 部屋には食事の用意ができていた。ならべられた碗(わん)や皿が蛍光灯に
冷たく光っていた。ハマーンもニッポン古来の服装であるホテルのユカタに着
かえていた(中略)
 ハマーンは今までとは打って変わったうきうきした調子だった。ユカタの着
かたもわざと崩していた。

313 名前:歳月(江戸鎮台) mailto:sage歳月より・P148〜149 [03/10/13 20:55 ID:???]
ーこのジャミトフの立身は、あたかも旧世紀のシャルル=ド=ゴールに似てい
る。
と、この当時いわれた。
 シャルル=ド=ゴールとは、旧世紀フランスの代表的軍人兼政治家である。
北フランスのリールの人。名門サン=シール陸軍士官学校を優秀な成績で卒業、
当時大佐であったペタンの歩兵連隊に所属、第一次世界大戦で重傷を負いドイ
ツ軍の捕虜となり、戦後はペタンのもと参謀本部幕僚として才をふるったが、
第二次大戦において母国フランスはナチス・ドイツに降伏、上司ペタンはヴィ
シー政府(対独協力政府)の首班となったために敵となり、フランス国民に徹
底抗戦を呼びかけ、当時ロンドンにおいて「自由フランス国民委員会」を組織、
レジスタンス運動を展開し、ついには連合軍のノルマンディー上陸作戦とパリ
解放にともなってフランスに凱旋、1944年9月、国民議会の満場一致で彼
は臨時政府首相に選任された。

314 名前:歳月(江戸鎮台) mailto:sage歳月より・P148〜149 [03/10/13 21:05 ID:???]
 幕僚時代のド=ゴールは将来、戦車や航空機を中核とした「電撃戦」が戦争
の中心になるだろうと予測し、著書などにより説いたが、首脳部からは全く無
視された(皮肉にも、独軍がそれを採用し、実現した)
 第二次大戦後、臨時政府首相を辞任した彼は、右派のまとめ役として「フラ
ンス国民連合」を結成、植民地問題の紛糾で1958年首相就任後すぐさま大
統領権限を強化した第5共和政憲法を公布して翌年、初代フランス大統領とな
り、離れわざというべきアルジュリア独立を承認し、アメリカに先がけて中華
人民共和国をも承認した。
 国民投票を多用して政策を断行、直接選挙において大統領に再選された。
 超大国アメリカに追従しない独自の姿勢、西ドイツとの友好関係樹立、欧州
経済共同体からのイギリス勢力の排除とNATOからの離脱、対ソ外交の重視
など、大いにフランスの存在・威信を高めた。ジャミトフとド=ゴールはその
経歴・環境・右派的思考・強い政府の誇示など共通するところが多い。 

315 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/10/15 01:04 ID:???]
このスレはおもしろい。レベルがたかい。
ただし、話しがぶつぎりで終わる感じがするので、胸にすとん、とこないから、読後感がしっくりこない。
と、苦言を言ってみるテスト。

316 名前: mailto:sage [03/10/16 15:00 ID:???]
>>315
確かにぶつぎりですね。
毎回一本、きちっと終わらせるスタイルでいけばいいかな?
ネタが拡散しないようにします。

317 名前:鈴の牙城(梟の城より) mailto:sageP45〜46 [03/10/16 15:11 ID:???]
 サイド1にとって最悪の年であった宇宙世紀0085は過ぎた。故郷を散っ
て諸方に流れた反政府者たちは、この惨禍このかた、かつては思いもかけなか
ったさまざまな人生を歩んだ(中略)
 かれら反政府主義者たちは、大志をもっている。
 当然、ティターンズ総帥ジャミトフ・ハイマンを討つということであった。
 流亡の反政府者たちがジャミトフを誅殺(ちゅうさつ)しようとしたことに
ついては、他にも例があった。−デラーズ紛争が勘定(かんてい)されてのち、
ジャミトフが地球各地を巡遊してホンコン・シティに小憩したさい、たち現れ
たジオン残党らしきテロリストふたりが拳銃をかまえ、同時に火を噴き、と共
にジャミトフの周辺を固めていた数人のガードを斃(たお)した。しかしジャ
ミトフには傷をさえ与えなかった。

318 名前:鈴の牙城(梟の城より) mailto:sageP45 [03/10/16 15:17 ID:???]
 しかし反政府者たちが不幸であったことは、この復讐をかれら自身の手では
なく、もしくは他の反政府運動家のどの連中によってでもなく、かれらとは全
く無縁の、パプティマス・シロッコという男の手で遂げられたことであった。
 宇宙世紀0088・1月25日、ジャミトフはグワダン艦内で死んだ。
 30バンチ事件以来、ようやく3年が経つ時期である。
 ジャミトフ・ハイマンによって、故郷・肉親という人生の基礎を奪われ、し
かもそのジャミトフを殺すことに賭けてようやく人生に望みをもち、一転のの
ちジャミトフの死によって反政府者たちはそれらのすべてをうしなった。

319 名前:鈴の牙城(梟の城より) mailto:sageP126 [03/10/16 15:27 ID:???]
 反政府者たちが考えるジョン・バウアーは、ふしぎな運の恵まれ方をした。
立身の運のみではない。それのみならば、一介の資本家から身を起こしてジャ
ミトフのティターンズ寄りの議員になるだけが精一杯の限度であったろう。バ
ウアーは宇宙世紀0089、RGM−89ジェガンの量産を強行する前に、ジ
ムV量産を連邦政府に提言してエゥーゴの戦力強化をはかり、その物量でもっ
て間接的ではあるがジャミトフの仇ハマーンを討伐した。同時に、ジャミトフ
の系列議員や軍人、政府高官ホワイトやアデナウアーなどを差しおいて、亡き
ジャミトフ・ハイマンの地位に代わろうとした。事実上の軍閥政治屋であると
いう点、かれのロンド・ベルはジャミトフのティターンズとなんら変わらない。
しかし、亡きジャミトフ寄りの軍人・ほとんどの連邦政治家たちはティターン
ズ派の一議員であったこの連邦政府高官に対して、きゅう然と従った。いつに、
バウアーの力よりも、バウアーが握っているカネの力であったと反政府者たち
は考えている。

320 名前:鈴の牙城(梟の城より) mailto:sageP126〜127 [03/10/16 15:31 ID:???]
 ティターンズ成立以前から、バウアーはアナハイムやビック・ウェリントン
社をはじめ名だたる企業・マスメディア・コロニー公社と密接な関係をもって
いた。同時にその利潤を惜しみなく自らの派閥議員たちや関係者らに撒いた。
 もともと資本家であったころから、部下が功をたてるとボーナスとしてカネ
としかるべきポストを与えたこの男のことである。カネがどれほど人間の心を
魅惑するものであるかを熟知していた。



321 名前:鈴の牙城(梟の城より) mailto:sageP127 [03/10/16 15:37 ID:???]
 反政府者たちは、カネがバウアーに時勢をとらしめたと考えている。したが
って、この「クレジット」力が崩れるときに成り上がりのロンド・ベルの土台
も崩れさると思った。さもなければ、バウアー以上の影響力をもった男が世に
現れたとき、カネで眩惑されたいわゆる連邦の主要人物の大半はその男の側に
走るにちがいない。
 そういう男は、居るか。
(シャア・アズナブルか。−)
 考えたが、いかにシャアがジオン・ダイクンの後継者とはいえ、それほどの
財力はもつまい。ただここに重大な可能性がある。・・・・・・ルナリアン衆
の結集である。シャアの行動に対して月企業体の富力が裏付けられたとき、ひ
とびとはシャアを信用するにいたろう。反政府者たちにすれば、そのときこそ
バウアーとロンド・ベルは亡ぶ。

322 名前:鈴の牙城(梟の城より) mailto:sageP188 [03/10/16 15:43 ID:???]
 バウアーは、ハマーンがほろんでから憑(つ)かれた者のごとく、外郭新興
部隊設立の準備に熱中した。準備が進むにつれて、サイド1・ラサ・月の人の
往(ゆ)き来(き)ははげしくなり、戦いに縁のないひとびとまでが騒然たる
物情の中へ撒きこまれた。そういう宇宙世紀0089秋。
ー戦争準備に沸きたつ旧式コロニー・サイド・1ロンデニオン、「荒れた土地」
の意味をもつこのロンド・ベルの本部のあるコロニーで、反政府者たちがしず
かに、しかもたゆみなく仕事をつづけていた(略)
 この男たちは、営業マン、伝道師、マスコミ関係者、アルバイト、物乞いな
ど、あらゆる職業に身をやつして、機会をとらえては世論を反連邦に追いこむ
ことにつとめた。

323 名前:鈴の牙城(梟の城より) mailto:sageP189 [03/10/16 15:47 ID:???]
 それだけではない。
 バウアーのロンド・ベルを愚弄するために、あらゆるサイド、ウォーターア
イランド(退避コロニー・労働者を収容したベースコロニーなどの小型コロニ
ーの俗称)でテロや調査妨害をはたらきはじめたのである。エグム・NSPら
テロ組織と共謀して、各コロニーで天誅と叫びつつ活動した。

324 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/10/18 01:23 ID:???]
ガンダム本編では名前だけの存在でしかないジョン・バウアーが度々取り上げられるのが面白い。

325 名前: mailto:sage [03/10/18 14:28 ID:???]
>>324
バウアーは創作しやすいですね。SSのしがいがあります。


326 名前:歳月(彰義隊周辺) mailto:sage歳月より・P178 [03/10/18 14:39 ID:???]
 ダカールの連邦議会場でジャミトフと顔を合わせたが、この男はジャミトフ
に対し、銅像のように沈黙していた。ジャミトフも石のような表情でバウアー
に一揖(いちゆう)もせず、だまりつづけている。数日経ち、ある午後、ジャ
ミトフは長廊下でバウアーとすれちがった。ふりかえりざま、
「バウアー君」
と、その背へ声をかけた。バウアーはふりかえった。そのいかにも旧米国系ら
しい端整な貌(かお)が廊下の重みに沈んでいる。ジャミトフは、「議会はま
だ手つかずか」といった。信じられぬほどのことだが、ジオン残党鎮圧とティ
ターンズの特務権限引き上げのことについて総帥ジャミトフ・ハイマンはこの
実力派議員ジョン・バウアーとはじめて語ることになる。バウアーは冷静な表
情で、しかし低く、
「クレジット(連邦の通貨単位)をさがしています」
といった。バウアーの見積もりでは根回し・買収などの工作費は意外に大きか
った(略)
 バウアーは並みの政治家ではなく、政治費用からして心配してゆかねばなら
ぬ立場にあった。

327 名前:歳月(彰義隊周辺) mailto:sage歳月より・P179 [03/10/18 14:55 ID:???]
「それにしても」
ジャミトフは、詰め寄った。
「すこし落ちつきすぎている」
ジャミトフのいうのも、無理はなかった。数ヶ月前、アナハイム社グラナダ支
局が旧公国軍系ゲリラによって襲撃され、データバンクが深刻な被害をうけた(略)
エアーズ市近郊のバンガー工業の労使交渉が争議に発展、この騒乱に乗じてジ
オン残党が武装蜂起した。ティターンズのMS小隊が投入されたが、迅速な対
処とはいいがたかった。しかも戦時中に起きたヌブリア虐殺事件(アフリカ大
陸中西部の村で起きた虐殺事件。ジオン公国軍の手によって村民全員が虐殺さ
れた)に連邦軍が関与していたということが、民間報道機関によって暴かれる
におよんで世論は反連邦色がつよくなっている。これ以上捨てておいては連邦
政府の威信はまったく地に堕(お)ちてしまうであろう。

328 名前:歳月(彰義隊周辺) mailto:sage歳月より・P179 [03/10/18 15:06 ID:???]
「ティターンズに正規軍を上回る力がないからか」
と、ジャミトフはいった。そのとおりで、特務部隊として成立したティターンズ
もまた日が浅く練度も低く、なによりも政府要人たちの見方ではそれほどの強行
手段は必要ないのではないかという意見が大勢を占めているのである。実体は厄
介者扱いであり、超法規的な存在とは名ばかりであった。
 バウアーはかぶりをふり、やはりカネと・・・・・・少々間をおいて、アレが
必要かと、といった。
「総帥閣下」とバウアーはいった。
「カネはなんとか用意します。それと、少々荒療治をしていただけたら、ありが
たいのですが」
 バウアーのいうのは、いま欲しいのは多額のクレジットと少々の恫喝である、カ
ネをあたえ真に連邦政府のために動くティターンズの支持者をふやすことが連邦
政府を危機から救いうるのです、ということであり、それだけであった。それだ
けを言いおわるとバウアーはジャミトフに一礼し、ふたたびくるりと背をみせた。
やがて廊下のむこうへ去った。ジャミトフには一言の異論もなかった。かれを上
回るほどの政治能力と才覚をバウアーが有していることを知っており、そのバウ
アーに対し全面的な信頼をおいていたからであった。
 

329 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/10/18 22:28 ID:/tDXKuuC]
予め下書きとかするの?

330 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/10/19 19:11 ID:n/NIHhkW]
335氏忙しそうだな。



331 名前: mailto:sage [03/10/19 22:19 ID:???]
>>329
前(2・3スレ)ではまったく下書きせずに書いてましたが、今はADSLの関係
と多忙なために繋げる時間が少ないため、スローペースですが下書きしてます。
おかげで進行速度はカナーリ遅いです(シチュと引用ページ記録が溜まる一方で・・)
特に戦闘描写や台詞回しなどは正確さが要求されますので、本編を見つつ下書き
してまつ。
>>330
このスレ自体気づいてないかも

332 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P141 [03/10/19 22:37 ID:???]
 食事の途中、ハマーンは急に顔をしかめてナイフとフォークを措(お)いた。
「だめだわ。胸がむかついていただけないわ」
 ライスは半分も食べてなかった。ふだんはよく食べるほうなのに、料理も少し
ばかりつついただけだった。
 シャアは胸をしめつけられる思いでその様子を眺めた。
「やはり・・・・・・あれなのか?」
「そうよ。もうはじまったのね。わたしは初めてだから早いのかしら。それとも
体質かな」
 その言い方には自信めいた安定があった。
 シャアは絶望に落ちた。これで一縷(いちる)の望みも切れたと思った。目の
先がかすんできた。
 ハマーンの摂政辞任。しかるべき地位への就任と立場。家庭。出産。養育ーわ
ずらわしい場面が瞬間に暗く次々と映る。革新派・連邦・親ジオン派との争い。
アルテイシア・アムロの蔑視。風評。ララァからの言い渡し。・・・・・・
 それにしても眼前のハマーンの態度は横着げだった。もう彼といっしょになっ
たような気分で落ちつきはらっていた。相手の立場も苦しさもまったく考慮して
いないその様子は、女の自我がまる出しだった。彼は憎んだ。

333 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P141〜142 [03/10/19 22:47 ID:???]
 その晩、ハマーンは横でよく睡(ねむ)った。安心し、疲れた姿で、スヤス
ヤと寝息をたてていた。
 疲れているのは、仲直りしたあとの燃え上がりが貪婪(どんらん)だったせ
いである(略)
 シャアは、自分の行先を思い、暗い想像ばかりがかけめぐって眼はさえるば
かりだった。
 彼は、赤の他人のように何のかかわりもなく眠りこけている横の少女を呪詛
(じゅそ)した。この小娘ひとりのために私は破滅に陥っている。この小娘と
私との価値はくらべものにならない。この小娘は永遠にオールドタイプのまま
だ。私は先になればなるほどニュータイプとしての価値が出る。人類の革新の
ためにどれだけ貢献しえるか知らないのだ。自信もある。
 その少女のために一切を失うのはいかにも不合理千万であった。だれが聞い
てもその不合理を納得するにちがいない。しかし、いま、現実は理屈と無関係
に存在していた。

334 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P142〜143 [03/10/19 22:52 ID:???]
 不安は継続していた。確実に破局がくるという不安であった。シャアは喘い
だ。一生の岐(わか)れ目だった。何としてもこれに勝たねばならぬ。どんな
手段をとってでも!
 どんな手段でもーと考えついたとき、シャアはこの少女の口と行動を永久に
封じるよりほか残された方法はないと思うようになった。彼はその考えに気づ
いて自分でおどろいた。しかしそれは仮の想像だ。仮定とすればどんなことを
思案しても恐ろしくはなかった。

335 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P144 [03/10/19 22:55 ID:???]
ーこう考えてくると、シャアは或(あ)ることを実行するのに、いまが最上の
条件にあると気がついた(略)
 こういう絶妙な機会は永久にこない。
 シャアは心臓がどきどきしてきた。鼓動が高くなってきたのは、この思案が
仮定の域を脱し、現実の行為に近づいてきたことであった。

336 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P145 [03/10/19 23:05 ID:???]
 思案がしだいにかたまってくるにつれ、シャアの眼はますますさえてきた。
 傍らのハマーンが寝返りをうった。ユカタの袖(そで)がたくれ、白い腕が
つけ根まで出ている。それで落ちついたとみえ、軽い寝息が聞こえていた。彼
女の平静な寝息にくらべ彼の心臓は高鳴っていた。
 女を殺すのはいいが、かんじんなのはそのあとのことである。このままアク
シズ内にいて摂政暗殺の汚名を着せられたら一生の終わりだ。もともと、この
危機から這い上がるために女を殺すのだから、そのために身を破滅させたらな
んにもならない。まるでニッポンに古来あった浄瑠璃の心中話のようなものに
なるようなものだった。それだけの値打ちはこの小娘にはない。

337 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P147 [03/10/19 23:12 ID:???]
宇宙が最適だというわけだが、ハマーンをここから宇宙に誘うことはできない。
あまりに唐突で、不自然である。それに都合よく思い通りの艦(ふね)がチャー
ターできるかどうかも分からぬ(略)
 シャアは失望したが、ふと、ホテル横の急坂を下るとき、
(わたし、高所恐怖症よ)
と言って身をすくませていたのを思い出した。
 高所恐怖症は高い場所から直下を見おろしたとき、貧血を起こす。眼が昏(くら)
み、フラフラと脚がくずれる。この状態は、艦から宇宙に漂流するさっきの
例とまったく同じではないか。−宇宙を山に変えるだけのことである。
 一時の失望で静まっていたシャアの心臓は再び激しく動きはじめた。


338 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P150 [03/10/19 23:15 ID:???]
 だが、ハマーンは、わざわざエレカを降りてそんな山なんかにはいるのは面
倒だと言うかもしれない。それは十分に考えられるが、そうは言わせないだけ
の策略がもう彼の胸にはできていた。
ーシャアは、なおも細部にわたっていろいろと考えたが、気分がそれで落ちつ
いたためか、いつのまにか睡(ねむ)りに落ちた。

339 名前:1 mailto:sage [03/10/22 14:26 ID:???]
コソーリ保守

340 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP7 [03/10/22 14:34 ID:???]
(時代だな)
 とまでは、喜幸は大人ではないためにおもわない。しかし時代というほかな
い。
 日本映画産業は徐々に衰退の気運を呈している。太平洋戦争以後、戦後の世
も十数年を過ぎたが、日本経済は異常なほど成長し逞(たくま)しくなった。
一つの産業媒体の衰微は他の産業媒体を成長させるものらしい(中略)
 喜幸はその時代に成長した。神奈川県小田原の中学校教師の家にうまれたが、
定期的に収入のあるサラリーマンよりも、写真を通じて知った映像・フィルム
製作という仕事のほうに、喜幸は神秘性と英雄性を感じた。



341 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP9〜10 [03/10/22 14:45 ID:???]
「虫プロの人は」
 と、ある業界人がいった。
「機転がきくと言いまするが、あのスタッフをみているとまったく虫プロ者を
絵にかいたようでござりまするな」
「それだけに虫プロ者は利に敏(さと)く、損に機敏で狡猾(こうかつ)だと
もいうぞ」
 他の一人が一般に行なわれている評価をいった。
 そのとおりかもしれない。
 現今(こんにち)では虫プロ系列のサンライズは、一大プロダクション・ス
タジオジブリと並んで業界屈指の製作集団ということになっている。いまなお
ジブリとサンライズは作風・気質の相違で対立することが多いが、このアニメ
ーションの黎明期にあっては截然(せつぜん)とこの気質があった。
 スタジオ・ジブリには、宮崎駿とそのプロデューサー・アニメーター軍団の
気風で代表されるような、
「東映気質」(かたぎ)
 というものがある。極端な共産管理体制型で、クリエイターの美質と欠点を
もっている。律儀で篤実(とくじつ)で義理にあつく、製作をすれば作品では
労をおしまずひたすら動きと美術表現をすべく働く。着実ではあるが逆にいえ
ば、東映動画の大型アニメーション製作の色合いをほぼ継承しており開放的で
なく冒険心にとぼしい。印象としては作品にくらべクリエイターたちの陽気さ
がない。

342 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP10〜11 [03/10/22 15:00 ID:???]
 駿とそのスタジオ・ジブリ集団はこういう東映の人海戦術的特質をみごとな
ほどもっている。
 さらに余談だが、東映動画の一アニメーター然(ぜん)とした宮崎駿の性格、
ゆきかたは死ぬまでかわらず、その死の前に遺言して、
「スタジオ・ジブリの運営の制度は創立のころのままを踏襲してゆくように」
といった(中略)
 多少陰気で非開放的で投機を好まぬ赤旗左翼思想家の東映気質が、ジブリの
姿勢・思想としてつらぬかれている。

343 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/10/24 22:09 ID:3HaFGJal]
食わずぎらいだったが今はよくみるようになった。

344 名前:1 mailto:sage [03/10/25 13:21 ID:???]
>>343
面白いと思いますよ。幕末・明治ものがオススメでしょうか。

345 名前:種の道に井戸を訪ねて(司馬遼太郎の世紀) mailto:sageP89 [03/10/25 13:36 ID:???]
―一大狂気としての庵野―

シバ「結局、アニメーションの狂気の源泉みたいなものを具体的にあげねばな
らないとすると、やはり庵野秀明ですね。かれは偶然にも幕末の吉田松陰や2・
26事件の陸軍青年将校磯部浅一、自民党保守系統の巨魁岸信介とおなじ長州
出身なんですね。庵野が足かけ数年ていど、厳密には未完成といってもいいエ
ヴァという作品を送り出すことしかできなかったのに、なぜ角川やファンダム
が過熱したか。要するにポスト・ガンダムを、ヒット作を期待する業界が庵野
とガイナックスを、あらためて劇場版という「オチ」をイヤイヤつくらせるこ
とによって、ファンダム内で強靭なエヴァブームをつくっちゃったんですね。
ちょうどガンダムの三部作やヤマト・イデオンの劇場版のように。
 それが当時のアニメーション群にも影響するし、庵野の個人的意思と別に、
これがリアルロボットだ、ポストガンダムだといって異常に過熱せしめてしま
うように、世紀末のエヴァブームの暴走というのはガイナックスや業界、ファ
ンたちによって生まれるわけです」

346 名前:種の道に井戸を訪ねて(司馬遼太郎の世紀) mailto:sageP89 [03/10/25 13:39 ID:???]
シバ「あの狂気は庵野一人でけっこうだったんですね。ああいう大狂気がもし
五人も六人も出るとしたら、そのスタッフは精神病的体質の濃いスタッフとい
うことにならざるをえない(笑)」
ツルミ「ただ、ガイナックスというグループの精神状況に、集団狂気の場を形
成できるような、そういう傾斜はあったわけですね」
シバ「それは猛烈な傾斜です」

347 名前:種の道に井戸を訪ねて(司馬遼太郎の世紀) mailto:sageP91 [03/10/25 13:47 ID:???]
―一大狂気としての庵野―

ツルミ「壮大さのもっているばかばかしさ、非人間性は、わたしは人類の思想
としては本道と思いませんね。やはり人間の思想は真円だったらいかんですよ。
狂気の真円を目ざす、そこに問題があるんじゃないでしょうか」
シバ「庵野はその原理を確立するために、最も濃厚な富野イデオロギーをもっ
てくるわけです。ひじょうにドロドロとしたイデオン的なものとしての富野イ
デオロギーを。富野イデオロギーをどこから出してきたということで、庵野が
影響を受けた富野由悠季のVガンダムから出してきたということで、そうする
とたいへんオマージュ的になってアニメファンたるかれにはぐあいがいいんで
す(略)
 そのVガンダム的手法をTVシリーズの一点として、劇場版はイデオンと、
一大フィクションの核心として置けば、富野イデオロギーの継承者としての庵
野の思想は「気持ち悪い」というオチとともにうまく絵空事として完結するん
です。かれの思想とはそういうものだと思います」

348 名前:種の道に井戸を訪ねて(司馬遼太郎の世紀) mailto:sageP91〜92 [03/10/25 13:55 ID:???]
シバ「そうすると、エヴァ的生々しさの表現がスタンダードであるんだという
思想が次に生まれてくる。エヴァの表現がもしアニメファン全体に第一等の価
値をもつものだと言えば、アニメファンは全員右ならえというような、ひじょ
うに不思議な思想が生まれてくる。これは庵野秀明の出発点だったヤマトの作
品=リアリズムの思想とは矛盾するようなんですけれども、庵野は、ヤマトが
キャラクターこそ人間なのだ、セルのキャラも本物の人間として演出するんだ
といった思想は、これはアニメーションの一つの方法論であって、絶対的な手
法ではないんだから、いささかも矛盾しないと、むりやりに、つまり「彼氏彼
女の事情」のときでもヘリクツみたいに個人的に実写風景を映したり、バンク
の多用や無機質な生気のない空間、未完成のフィルムを流すといったように解
決して、さらにもうアニメーションはだめだ、実写を撮ろうという個人的結論
に落ち着く。そして初めて彼の思想が真円になるわけです」

349 名前:種の道に井戸を訪ねて(司馬遼太郎の世紀) mailto:sageP92 [03/10/25 13:58 ID:???]
―種イズムという虚構―

シバ「それが平成14年にあらわれてくる種イズムとなると、結局、ガンダム
という抽象的一点のために閉塞する。しかし、原作者富野がもしそういうこと
をやめとけと言うなら、富野を無視してでも行くということになってしまう。
ひじょうにおかしいところまで種イズムは展開する。ガンダムのブランドとい
うもののひじょうに困った物性です」(略)
ツルミ「それがエヴァであり、種ガンダムなんですね」

350 名前:種の道に井戸を訪ねて(司馬遼太郎の世紀) mailto:sageP92 [03/10/25 14:03 ID:???]
―アニメーション界を占領していた種―

シバ「わたしはね、虫プロ系列・スタッフの表現形態たるガンダムをひじょう
にきらびやかなものとして考えるくせがあるんです。これは動かせない。それ
は自分の体験からくるんですけれども、わたしは多感な十代のころに偶然ガン
ダムを見たのです。そのときの衝撃と面白さはいまだに私の中にあります。ち
ょうど中学のときに、書店で別冊宝島のガイドブックを発見しまして、そのと
きに原作者富野由悠季という人間に興味をもったんですね。イデオンへの興味
もこの宝島の本が大きなウェイトを占めているんですが、一時期信者になるく
らい富野作品には入れこんでおりました」



351 名前:種の道に井戸を訪ねて(司馬遼太郎の世紀) mailto:sageP92 [03/10/25 14:13 ID:???]
シバ「種ガンダムの放映前、エヴァのときにも私は経験したことがあるんです
が、種ガンダム放映中、ちょうど大学三年ですけれども、他の学部のファンと
の話のときに、今のガンダムはリアルを追求してるよ、きちんとエヴァの系譜
を継いでいるとそのファンはいうのです。私はそのとき、親友を見捨てて女に
走り、あろうことか自分が悪いと悔いる気持ちもない、さらに萌えという愛情
でそんな主人公をかばうかのようなスタイルでいる製作スタッフ、そのとんで
もない代物が今放映されている、これのどこが素晴らしいんだ?ほんとうにロ
ボット物のジャンルを、ガンダムを活性化させようとしているのか、と熱狂的
な他学部のファンにきいてみたんです。そうしたら、そのファンは初めて聞い
たというようなぎょっとした顔で考えこんで、すぐ言ったんです。これがわた
しがアニメ的思想というもの、ファンの一方的狂気というものを尊敬しなくな
った理由ですけれども、「そんなの、やられるヤツが悪いにきまってんだろ。
人の好きなものにケチをつけるなんて、ひどいヤツだなお前。だから1st好
き、過去のガンダム好きのガノタはいつまでも駄目なんだ」と言った。
 われわれは同じファンとして、同じ趣味をもつ仲間じゃないのか。それなの
に同類のガノタを叩いたり、一方的に中傷とうけ取ってなんになるんだろうと
思いますでしょう。これはエヴァブームのときにも経験したことなんですが、
一旦好きだ、イイと思い込むとそれが絶対化してしまうファンが多いのですね。
ある意味、忠実でそれに対して真摯であるということなのでしょうが、それも
作品として一流であればいいのですけれども」

352 名前:種の道に井戸を訪ねて(司馬遼太郎の世紀) mailto:sageP92 [03/10/25 14:20 ID:???]
シバ「なんともいえん強烈な印象でした。つまり、わたしをふくめた多数のガ
ノタ、ファンたちは、ガンダムという看板を掲げているサンライズ・バンダイ、
種スタッフたちに踊らされていたわけですね。それはやはり商業的背景と思想
が強烈にあるんで、集団狂気のなかからいえば、主人公マンセー、パクリ・ニ
ュータイプ表現やりほうだい、反対意見は誹謗・中傷、古いオールドタイプガ
ノタは必要ないという結論が出るわけです。ぼくは猛烈に幻滅した(中略)
 ぼくはいろんな作品を見てきましたけれども、1stから∀にいたるガンダ
ムを見たときに、これがなによりも自分がガノタでありたい、面白いという感
じがしましたですね(略)
 狂気じゃありませんけれども、そういうことを守るためなら自分は死んでも
いいという気持ちがしょっちゅうあります。むろんこの死ぬというのは日本人
の口ぐせであって、気持ちの高揚のときに言うんで、言いながらわたしは自分
を軽蔑してますけれども」(笑)

353 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/10/25 23:28 ID:aLmJZbRw]
保守

354 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/10/26 18:56 ID:BrrrCtIN]
保守

355 名前:ピースクラフトの遺児(英雄児より) mailto:sageP234〜235 [03/10/26 22:49 ID:???]
 無口な男である。
 しかしあまりにも妖しいマスクをしていたので、ノインは入学早々、自分の
名を名乗り、相手のことをききだそうとした。
「私はルクレツィア・ノインです。気軽にノインと呼んでください」
というと、その男はまじまじとノインの顔をみて、やがて笑いだした。笑うと、
齢に似あわずひどく可愛い顔になった。が、ノインには見ることができない。
「ノインか」
 わざわざ聞いてもいないのに名乗りをあげるというのがおかしかったらしい。
しかし男はそのあいさつとしっかりとした挙措が気に入ったらしく、
「私はゼクス・マーキスというんだ」
 ふと、「サンクキングダムの産、ミリアルド・ピースクラフト」といいそうに
なる自分をおさえた。初対面なのに、自分の秘密をわざわざうち明ける必要もな
かろう。

356 名前:ピースクラフトの遺児(英雄児より) mailto:sageP241〜242 [03/10/26 22:59 ID:???]
「わたしもこれまでさまざまな人物を見てきましたが、ゼクス特尉ほどの士官
はほとんどいませんでした。わたしはあの方がチェスをさしている姿を一度見
ました。あんな愉快なチェスをみたことがない」
 OZ・スペシャルズ将校ワーカーの話すところでは、ライトニング・バロン
のチェスはまるで勝敗ということがなく、しャアしャア指してゆくのだが、そ
のくせどんどん勝ってしまう、というのである。
「あれはトレーズ閣下ともども100年に一度出るか出ぬかの英雄かもしれま
せん―しかしトレーズ閣下のOZは連合の一部」
 ワーカーはちょっと考えて、
「組織が小さすぎる。小勢力であれだけのお方がいるというのは、OZの幸せ
か不幸か、こいつは天のみが知ることかもしれません」
と予言めいたことをいった。
 後年、ライトニング・カウントことミリアルド・ピースクラフトは地球圏が
くつがえるほどの大騒ぎを演ずるにいたるが、ワーカーはこの予言の当否を見
ることなく、コルシカ基地にてMSトールギスの存在をゼクスに教え、来襲し
てきたガンダム・ヘビーアームズに対しエアリーズにて出撃し、ついにはもう
一機のガンダム・サンドロックと戦い、ヒートショーテルの攻撃で撃破された。

357 名前:ピースクラフトの遺児(英雄児より) mailto:sageP247 [03/10/26 23:11 ID:???]
 ゼクスは、機内で敵機の情報を確認している。トールギス・通称プロト・リ
ーオーともよばれる機体ともども、ワーカーが命をなげうって自分に託してく
れたものである。亡くすにはあまりにも惜しい男であった。
 と、ビクトリア基地との通信がつながったとの部下の報告をきいて、ゼクス
はモニターに顔をむけた。
 女性士官が目を閉じながら敬礼をしている。そして、両手を身体のまえで組
み、呼吸を落ちつかせて、めいっぱいにモニターに顔を近づけて、
「久しぶりです、ゼクス特尉」
と、ゆっくりとした口調でいった。
 型にこだわるところはまったく変わっていない。初対面からしてそうであっ
た。これでもかというほど、このルクレツィア・ノインはゼクスに顔を近づけ
てくる。まるで仮面の下の素顔が知りたいといわんばかりに。
「ずいぶんご活躍されているそうで。ライトニング・バロンの噂は、このビク
トリアにも聞こえています」
「噂の先行は好きではない。敵には目標とされ、味方には実力以上の結果を期
待される」
 ノインは、モニターから身体をはなした。
 横目でモニター先のゼクスを見つつ、
「私の噂はどうでしょうか」
「宇宙用のパイロット育成に大きな成果をあげている。戦闘員として完成度が
高いと」
一呼吸おいてから、問うた。戦争がそう好きではなかった君が、なぜそこまで
するのだ。
 ノインは答えをかえした。含み笑いをして、ただ、
「宇宙が好きなんです」といった。
 ゼクスは満足した。あのときとまったく変わっていなかった。


358 名前:ピースクラフトの遺児(英雄児より) mailto:sageP247 [03/10/26 23:15 ID:???]
 ゼクスとノインは、ビクトリア養成所の同期で、旧知の仲である。成績はゼ
クスが一位、ノインはつねに二位であった。彼女はいつもゼクスを立てる側に
いたし、そんな自分に満足もしていた。
 部屋に飾られているぜクスの写真をみるたびに、彼女は胸の奥があつくなっ
た。真摯な愛情がそこにあった。

359 名前:ピースクラフトの遺児(英雄児より) mailto:sageP247 [03/10/26 23:23 ID:???]
 ビクトリア基地のバーで、ゼクスはグラスを片手に酒を飲んでいる。ノイン
の報告と処置に満足しながら、視線をノインのすわっているカウンターに向け
る。照明が、まぶしい。
「しかし、にぎやかな部屋だな」
「ここは遊びざかりの若い兵が多く、このくらいは必要かと」
 酔いがまわっているはずであったが、ノインの表情にはそれらしきものはで
ていない。
「あまり入れこむと別れが辛いぞ」
「ご心配ありがとうございます。ですが私の教えた兵士は決して死にはしませ
ん。無茶することは戦術にはありません。命の尊さと戦争は結びつかないと考
えております」
 ノインらしい模範的な解答だった。しかし実戦で部下の死を見てきたゼクス
にとってはあまりにも理想的な解答でしかない。その意見には反論したい。
「命をかける戦いはミスの清算でしかない。追いこまれ死んでゆく兵士は哀れ
です」
 美学を求めすぎている……とゼクスはおもった。確かに、ノインの言うこと
は正論にはちがいない。しかし、現実の戦争はそんなきれい事など通用しない。
あるのはみにくい欲望の応酬と、勝者となるか敗者となるか、ただそれだけだ。

360 名前:ピースクラフトの遺児(英雄児より) mailto:sageP247 [03/10/26 23:31 ID:???]
 しばしの沈黙のあと、呼び出し音が鳴った。
 オットーからだった。受話器をわたされ、ゼクスはオットーからトールギス
が予定よりも早く仕上がるだろうとの報をきかされた。喜色をうかべるゼクス。
と、なにかしたのほうで音がする。
 みると、背中をむけながらノインが、自分のサーベルの鞘をゼクスの鞘にあ
わせ、カチンカチンと音を鳴らしている。
 目をとじて、一定のリズムで、無言で音を鳴らしつづけていた。
 そのなつかしい動作に、ゼクスはしばらくノインのなすがままにまかせた。
(可愛らしい娘だ)
 もとめるときは、言葉ではいわず、子供のようなしぐさで表現する。自分か
らは決して言いださず、いつもゼクスからもとめるようにしむけてくる。
 ゼクスは、受話器をおいた。
(最後まで、世話になりっぱなしだな)
 そう思った。



361 名前: mailto:sage [03/10/26 23:31 ID:???]
このくらいで。

362 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/10/28 16:16 ID:???]
新作ハァハァ

363 名前: mailto:sage [03/10/29 20:59 ID:???]
>>362
あえて表現を抑えてみますた

364 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P191 [03/10/29 21:08 ID:???]
 気になる。そんな男がある。駆け出しの新人声優の川村万梨阿にとっては、
恩師富野の期待する永野護という若いスタッフが、ちょうどそれだった。
 恋ではあるまい。
(いや、恋かしら)
 とおもうこともある。が、こんなに憎々しい感情が、恋だろうか。
 第一、相手はけろりとしている。それだけに腹も立つし、恨めしくもあり、
時にばかばかしくもあった。
(なんだ、あんなロックかぶれ。―)
 ロック狂であった。それも極度に、護はイエス(ロックバンド)を信者のよ
うにあがめていた。

365 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P191 [03/10/29 21:12 ID:???]
 腹の立つことは、自分を「聖戦士ダンバイン」のチャム・ファウ役で抜擢し
てくれた恩師富野由悠季が、
「あの若者こそ天才だ」
 とほめちぎっていることだった。

366 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P192 [03/10/29 21:18 ID:???]
 富野がこの若手スタッフのことを、日本サンライズのプロデューサーや湖川
友謙に紹介した手紙の文面を、万梨阿はおぼえている。

  デザインは、当節、無双の名手に候。

(護さんは、名人ではない)
 と、万梨阿は、心中反撥した。天才とは東映演技研究所・研修生だったとき、
コメントを取るために取材した自分をおぼえていてくれた富野総監督こそそう
ではないか。
 孤高で気むずかしくて、いつもイライラしてて、仕事一途で、ずっと大人の
はずなのにキライだという態度が出てて、ついお休みをとっても、心は家庭や
奥様にはなくつねにスタジオにいる、―そんな、いったいどういう人なんだろ
う、まるで私と同じような人間だ、と万梨阿はおもっていた。
(護さんは、そうではない) 

367 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P192 [03/10/29 21:21 ID:???]
 おっそろしく才能があるのだ。
 尋常一様の才能ではない。いまからすぐロボット物のメカデザイナーがつと
まるほど如才ないし、元ロックバンドのベーシストをやっていたという前歴か
ら、それこそ他のスタッフとは一線を画していた。
 生い立ちは。―
 万梨阿もよく知らない。多少なぞめいている(中略)
「うまれは京都でございます」
 といって、すぐ護は笑顔にもどった。
「京都?」
「はい、京です」
 といった。

368 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P193 [03/10/29 21:28 ID:???]
 永野護の「歴史」は、23歳からはじまっている。23歳のとき、ふとした
ことから、日本サンライズに入社した(中略)
 護は有能だった。ファンとしても、1981年2月22日、新宿で行なわれ
た「アニメ新世紀宣言大会」にて万梨阿とともに宣言文を読みあげ(富野由悠
季の自伝「だから僕は……」には、両者はシャアとララァのコスプレをしなが
ら宣言したという記述があるが、詳しくはわからない)伝説巨人イデオンの宣
伝イベント「明るいイデオン」では、ディスコ・イデオンに自らも積極的に参
加、万梨阿もボーカルとして盛りあげた。このイベントで護は宣伝スタッフの
一人として参加していた富樫真(護自身も参加していたファンサークル・アル
カディアン京都のメインメンバー)に日本サンライズ入社をすすめられている。

369 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P195 [03/10/29 21:31 ID:???]
(バンドをやっているのもいいが、そろそろ就職しないとな)
 とおもったが、これだけの男が、一般企業へ就職したとてまともに勤められ
るかどうか。
(デザイナーはどうだろう)
 なにげなく、おもった。この思った瞬間が、ペンタゴナ・ワールドとFSS
(ファイブスター物語)出現の運命的な一瞬といっていい。

370 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P195 [03/10/29 21:42 ID:???]
 入社したてのころ、逸話がある。
 器用ばなしの一例である(中略)
「永野君は器用なお人だ。メカニックなどお手のものだろ」
 ということで、あるスタッフが銀河漂流バイファムのゲストメカデザインを
していた護にたのみにきた。
「安彦さんの作品ですか」
 護は考えこんだ。いままでメインのメカデザインをやったことがない。
「まあ、なんとかやってみましょう」
 そういうことで巨人ゴーグのメカデザインに参加した。ところがそれが評判
になり、ほうぼうのスタッフからメカニックの大手として認知された。



371 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P196〜197 [03/10/29 21:46 ID:???]
 そういうことがあったから、
(大物のもとで絵を習うか)
 とおもったのである(中略)
 ある同僚に相談すると、
「メカニックなら、当代、ロボットアニメーションを手がける富野監督の右に
出る人はないな」
 とおしえてくれた。そのスタッフへの指導力は神といっていいほどの大物演
出家だという。
 そこで自分が描いた3枚の絵をもって訪ねた(中略)
 由悠季の風貌に接するにおよんで、
(大物とはこういう人をいうのか)
 と、その仕事ぶりと不器用ながらよく語りまくる姿勢に感心してしまった。

372 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P196〜197 [03/10/29 21:55 ID:???]
 富野由悠季は、トップとしても独立精神をもたず、むしろ経営や自らプロダ
クションをもつことがきらいで、これほど業界では凄腕との定評をうけていな
がら、スポンサーの要求を満たしつつ、企画を立て、ようやくアニメ屋サラリ
ーマンとしての暮らしをなしていた。
 富野はガンダムの成功後も、生計の足しと業界やファンダムの活性化のため、
オリジナルのロボットアニメーションをつくっていた。余談だが、現今(いま)
でこそ富野といえば、ガンダムの生みの親のみの位置におかれ、それ以外の作品
は世間にはほとんど認知されていないが、当時は、安彦良和も語っているが「富
野か宮崎か」といわれるほどの存在感があった。なんといってもアニメーション
界のカリスマとしての巨大なイメージがつよかったのである。

373 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P197〜198 [03/10/29 22:00 ID:???]
 ともあれ、護は富野門下になった(中略)
 ところが、永野護の器用のうちで、ただひとつ、ストーリー構成力がまだ開
花していなかった。演出の方にはむいていなかった。




374 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P198〜199 [03/10/29 22:09 ID:???]
 護は、富野門下になってほどなく、「重戦機エルガイム」のキャラクター原
案をかいた。護、23歳である。
 そのキャラクター絵をみた富野は、
「おや、この絵は」
と、おどろいてしまった。いつのまにキャラクターのデッサン力を身につけた
のか、湖川友謙の筆法、構図、画法とまるでちがっていた。しかも素人にして
はみごとな出来で、日本サンライズでメカニックともどもこれだけのキャラク
ター絵をかけるデザイナーは二人いるか、いや一人としていない。
(これは異常児だ)
 と、由悠季は感に堪えてしまった。弟子に惚れこんだといっていい。
 万梨阿も、その絵をみた。聞くところによるとエルガイムには二役、自分が
演じる役があるらしい。
「やっぱり、ヘビーメタルのデザインのほうがいんじゃないですか」
 と、富野由悠季ほどには感心せず、どちらかといえばこのガウ・ハ・レッシ
ィの絵をみたとき護のことがやけに気になりはじめた。

375 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P199 [03/10/29 22:19 ID:???]
 よくよく絵をみると、レッシィのデザインだけやけに艶っぽいのである。そ
れにメインのヒロインであるファンネリア・アムよりもどこか悪女そうで、男
をケムにまきそうな感じだ。
(もしかして、私をモデルにしてデザインしたのかも)
 そう思える節はほかにもある。主人公の無私というか、悪くいえば天然っぽ
いようなこのダバ・マイロードはまさに永野本人そのものだ。自分はこういう
「イイ奴」である、優しさや勇敢さを十分に持ち合わせている、そんなデザイ
ナー本人の願望が忠実に反映されているではないか。もし自分の予想があたっ
ているのなら、護は自分との関係をじかにキャラクター関係で再現してみせる
―つまり、総監督がやってきた現実・リアリティの再現方法―をこのエルガイ
ムでやってみせるつもりなのではないか。そうにちがいない。あれほど総監督
に忠実な護ならきっとやるだろう。
(私はレッシィ役なのね、きっと)
 配役は万梨阿の予想どおりになった。しかももう一役のリリス・ファウには
ほどんど台詞というものがなかった。

376 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P199 [03/10/29 22:24 ID:???]
 そのうち、護は斬新なデザインと世界観でファンの心をつかんだ。まったく
新しい、今までのアニメーション界がもったことのないデザイナーが成立した
のである(略)
「護さんほどの器用な方なら、このさき、なにをしても食べてゆけるでしょう?」
 と、このころ、万梨阿が憎々しげにいってやったことがある。
「まあ、左様でしょうな」
 と、護はさからわなかった。
「こんどは、どんなデザインをするのです」
「メカニックをかきたい」
 と、護はいった(中略)
 由悠季も護を手放したがらない。
「永野は教育のしがいがある。もっとレベルアップをしなければだめだ」
 といった。

377 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P200 [03/10/29 22:26 ID:???]
 とにかくこの器用者は、「楽器を買うお金がほしい」のと個人的な趣味と富
樫の誘いで日本サンライズに入社したのである。護は後年、
―スタッフとしての待遇はよかった。スポンサーサイドとの対立がなければ、
自分はあのままサンライズの一員として一生おわったろう。
 といった。

378 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P202 [03/10/29 22:30 ID:???]
「監督」
 万梨阿は、当惑した。護にきこえるではないか(略)
 涙が噴き出るようにあふれた。元来、万梨阿は気が勝っているくせに、涙
もろい(中略)
「万梨阿」
 と、きまじめな顔でのぞきこんだ。
「惚れているのか」
 万梨阿は、無言でくびを横にふったが、富野は信じなかった。
「うそをついてはいけない。僕がうそが大きらいだということは知っているだ
ろう。やはり永野と」
「……」

379 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P204 [03/10/29 22:34 ID:???]
「女ごころとは、わからぬものだ」
 といったのは、スタジオ内にいる富野である。
 影できいている護は、ひとりうなずいて、
(やっぱり、好きなのかもしれない)
 とおもった。護は、まだ十分に若い。身近にいる万梨阿という娘に、当然、
無関心でおれぬ日常をすごしてきた。
 惚れている、といままで何度もおもったが、はっきりと言う勇気がもてずに、
ここまできてしまったという意識がある(中略)
(切り出さなくてはいけないのではないか)


380 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P205 [03/10/29 22:38 ID:???]
 名付け親だけに、この娘への哀憐の情が豊富で、
―この娘にはなんとしてでも幸せになってもらわねばならない。
 として、じつの娘以上に可愛がった。たまたま、永野護と付きあっていると
いうことを、聞いた、というわけである。
「たしかなんだな」
 と、富野がいった。
「たしか、でございます」
 と、万梨阿は、もう涙声でなくなっていた。
「業界に入るまえの二人は、よく見ていたしある程度だが知ってもいた。そう
か、確かか……なら永野護とは、結婚する気でいるんだな」



381 名前:異彩のデザイナー(天明の絵師より) mailto:sage最後の伊賀者収録・P206 [03/10/29 22:44 ID:???]
 その言葉を富野が言い終えたあと、護は勢いよく物陰から飛び出して、川村
万梨阿に向かって叫んだ。
「万梨阿!俺と結婚してくれ!」
 なんと古典的で、ありきたりで、直線的な告白だろう。
「……」
 と、万梨阿がなにかいったようであったが、とっさのことゆえ言葉にならな
かった。すかさず富野が護に言い放つ。
「永野!よくぞ言った!さっそく祝言だ!」
 日が経った。万梨阿は、富野由悠季を仲人として、永野護と結婚した。由悠
季の妻・亜阿子によれば、まるでじつの娘のような入れこみようだったという。

382 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:age [03/10/30 00:57 ID:???]
ウホッ!超大作・・!

383 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/10/30 16:41 ID:???]
ブラボー。
面白かったー

384 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/11/01 00:44 ID:SP0Rqq31]
保守

385 名前: mailto:sage [03/11/01 22:05 ID:???]
おおっ!良好な反応ありがとうございます。
前スレのように時間があればよいのですが。

386 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP11 [03/11/01 22:20 ID:???]
 が、手塚治虫の虫プロダクションはまるでちがう。
 製作集団の成立要件がちがうのである。
 当時のアニメーション製作集団といえば東映動画しかなく、それも大量の人
手と手間をアニメーションは必要としたため、東映動画ぐらいの規模でなけれ
ば製作は不可能だと考えられていた。
 戦後アメリカから数多くのアニメーションが日本に入ってきたが、そのなか
でもディズニーの「白雪姫」は、手塚と多くのアニメーション関係者に衝撃を
あたえた。このディズニーの製作スタイルを日本でやろうとしたのが、当時の
東映社長であった大川博である。

387 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP11 [03/11/01 22:28 ID:???]
 昭和30年、東洋のディズニースタジオを目指すために建設された製作スタ
ジオは、鉄筋コンクリート三階建、全館冷暖房付という当時としては破格の設
備をもっていた。この東映動画から生みだされた作品は膨大な時間と手間、動
きが表現されており、3年後の昭和33年10月に公開された「白蛇伝」はま
さに東映動画スタッフのエネルギーを結集した長編アニメ大作であった。
 余談だが、宮崎駿は学生時代、「白蛇伝」を見、この長編アニメの登場人物
白娘(パイニャン)に心ときめかされたといわれる。学習院大学卒業後、東映
動画に入社するきっかけとなるほどに影響をうけた宮崎だが、手塚治虫は逆に
違和感をおぼえた。

388 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP11 [03/11/01 22:36 ID:???]
 自然、金をかけて丁寧に作るというスタイルである。漫画家であるかれから
すれば、「作家性」が失われているとしかおもえない。
 そのうえ単にディズニーをまねただけの製作のどこにオリジナリティがある
というのであろう。それだけの時間を費やして「動き」のみを追求する東映の
姿勢が、手塚には我慢ならなかった。
 かつ、東映長編アニメ第3作「西遊記」は漫画王に連載していた自分の原作
(ぼくの孫悟空)を使ってはいるものの、映像をみれば原作者たる自分のカラ
ーはどこにもなく、単なる人間ばなれした動くフィルムと化している。
 手を貸してはみたが(のちに行きがかり上と本人は述べているのだが)それ
は手塚の目指すもの・思っていたものとはまったく違う代物であった。当然、
ムダな人海戦術的製作手法よりも自ら独自のプロダクションを設立し、ときに
常識に抗うやり方をとらざるをえない。

389 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP11〜12 [03/11/01 22:40 ID:???]
 手塚治虫の虫プロダクションは、いまでいうベンチャー企業的な気質を帯び
ているのである(略)
 この「喜幸」も映像・フィルム・表現リアリティといった面では手塚とかわ
らない。いやむしろ、優秀な履歴の手塚治虫とくらべれば他人に誇るべき点を
ほとんどもたないだけに、映像製作への感覚は血肉の色合にまでなっている。


390 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP12 [03/11/01 22:45 ID:???]
(この学生、傭(やと)うてしまおうか)
 と、虫プロの若い面接官二人は、採用段階でロクなやつがいなかったことも
あり、そう心をきめた(略)
 11月の日大・学部祭がおわったあと、喜幸のもとに虫プロからの採用通知
がきていた。
 喜幸はその通知を待っていたのだろう、あっと顔を赤くし、「これで、就職
先がきまった」と声をはずませた。



391 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP121〜122 [03/11/01 22:57 ID:???]
 お金がほしい。
 入社から半年、制作進行をするかたわら、喜幸は特別手当をもらうためコン
テを描くことにした。
 虫プロでの初任給は、三ヶ月の試用期間後は残業手当がついて1万2、3千
円。とうていやっていけない。新人の、しかも‘アニメーターにあらずんば人
にあらず‘の風潮つよい虫プロの制作進行にすぎない喜幸にとって、コンテ料
は生活の安定のためにも必要なのだ。
 進行の業務をつづけながら、休みの日や下宿に帰ってからの時間を使って、
漫画映画のコンテを描く。
 題名を「ロボット・ヒュー」とつけて、喜幸は名前をいれなければならなく
なった。が、頭をひねる必要はなかった。
 元来、大学出で漫画をやるなんて……という気恥ずかしさから、本名をつか
わず「新田修介」というペンネームをつかった。
 かれのコンテ主義ともいうべき映像原則と理念はここからはじまる。


392 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP122 [03/11/01 23:06 ID:???]
 第一、手塚治虫が喜幸のコンテをみて、
「きみ、なかなか面白いじゃないか」
 と、喜幸の肩をたたきながら、評価してくれた。そのあと、当然のように、
「このあと、どうなるのですか?」
 と、半パートとすこししかできあがっていないコンテについて問う(略)
 とてものこと、いまの喜幸にはありったけの言葉を駆使した説明が精いっ
ぱいであった。
 喜幸は、手塚治虫が自分を観察しているよりもはるかにふかぶかと手塚治
虫を観察していた。
 手塚先生(ただし、当時喜幸はかれを‘社長‘とよんでいたが)は漫画家
である。すくなくとも、漫画の将来をあかるくしようとしている。そういう
芸術家肌の属性としてひどくしわいのである。
(なかなか、おしわいわ)

393 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP121 [03/11/01 23:16 ID:???]
 喜幸に、幸運がまいこんだ。
 手塚治虫と同道し、「話がある」と二人だけで銀座の喫茶店でお茶を飲む機
会を得たのである。こんなことは、虫プロ在任中、このときだけしかない。
 手塚はお茶を一口飲んで、くつろいでいた。
 喜幸は神妙にしている。先ほど、他社の人との打ち合わせでカレーライスを
食したとき、一口一口確実に、二、三十回噛んで食べる手塚の姿を喜幸は鮮明
におぼえていて、いまだに頭からはなれない。
「ね、演出部にはいらないか」
 突然の一言に、喜幸は目をまるくした。
「え!?ほ、ほんとうですか」
「君は才能がある。あのコンテはじつによかった」
「ええ……そりゃ、もう!」
 イスから飛び上がりたい衝撃を懸命におさえていた。ただ、ひたすらうれし
かった。
 不器用ながらも、手塚に感謝する喜幸。
 3年はかかるといわれていた演出の地位にようやくつけるのである。
 虫プロの入社して一年足らずでこの身分になったのはいくら物好きな手塚の
家中(かちゅう)でもめずらしいといっていいであろう。

394 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/11/02 19:21 ID:5KQ2Uei7]
保守

395 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/11/02 19:23 ID:???]
保守ってかくだけのやつってむかつく。


396 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/11/03 13:30 ID:???]
保守ってかくだけのやつってむかつく。ってかくだけ(ry

397 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/11/03 21:54 ID:???]
おもろい。手塚先生・・ハァハァ

398 名前:1 mailto:sage [03/11/04 21:57 ID:???]
保守だけでも充分ありがたいです。
>>397
スローペースですが完結させるつもりでいます。お待ち下さい。

399 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P282 [03/11/04 22:04 ID:???]
―第七章・セシリー・フェアチャイルド―

―ベラを粗略にあつかうな。
 と、マイッツァーは大尉ザビーネ・シャルら側近たちにも言いふくめ、とく
に孫のドレルに対しては、そのことを何度も言ってきかせていた。
 マイッツァーはセシリーの性格を見ぬいていた。かのじょの自尊心をいたわ
り、そのうえでノーブル・オブリゲーションを想起させてやればよい。もしド
レルらがセシリーの自尊心を傷つけるようなあつかいをするとなれば、この孫
娘はおそらく、まちがった道をあゆんだナディアと同じような生き方をするに
ちがいない。

400 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P281〜282 [03/11/04 22:12 ID:???]
 カロッゾは、左右がいぶかしがるほどにベラに対して丁重であった(略)
 遠慮がある。
 というより、負い目があった。ベラがうまれたときあれほどドレル以上にか
わいがりながら、ナディアに連れていかれ、その後シオという中途半端な作家
かぶれの養女としてくれてしまうというかたちになってしまった。さらにロナ
家におけるアイドルとなるべき重要な存在でありながら、父である自分は情け
なくも素顔を見せることすらできない。
(ベラは恨んでいるのではないか)
 とおもい、そう思いつつときおりベラの顔色をうかがってみるのだが、この
血色のいい、美しいオレンジの髪の娘はじつの父に対して慇懃(いんぎん)で、
少々の核心をついた質問をする以外はそれほどの変化をみせないのである。



401 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P281 [03/11/04 22:15 ID:???]
(ベラは、いったいどういうつもりでいるのか)
 という点で、カロッゾはベラの意中をはかりかねた。ベラのあのナディア似
のつよい気性からいえば、この仮面をつけている自分の元にいて満足している
はずがない。それを、ベラは表にも出さずに冷静なままでいる。とすればこの
自分とナディアの血を受け継いだ娘(こ)はよほど性根のすわった女であると
見ねばならず、それだけにゆくゆくおそろしい。

402 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P282 [03/11/04 22:18 ID:???]
(しかし、人のおだてに乗るあほうではない。むしろ器量は誰よりもすぐれて
いる)
 とも、ナディアとのやりとりからマイッツァーは観察した。この点が、マイ
ッツァーにとってなによりの救いであった。

403 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P289〜290 [03/11/04 22:24 ID:???]
「XM−07ビギナ・ギナを与える。これで戦え」
 と、カロッゾはいった。この新鋭MSは、ベラを勇奮させた。ベラはこれほ
どの英気をもちあわせていながら、いまだ本格的なMS戦を経験したことがな
かった(中略)
 ベラの器質は、いまだかつて実戦でためされたことはない。
 が、教育係のザビーネは安堵して戦うようにといった(略)ザビーネのブラ
ック・バンガード隊にうってかかることは無謀というにひとしい。まさか大事
がおころうはずがない、とみていた。

404 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P290 [03/11/04 22:33 ID:???]
 ロナ家の人間としての生きかたをさだめたベラにとって不幸にも、MS戦の
渦中、事件がおこった。ブラック・バンガード隊の護衛のもと、コロニー内部
での戦闘をつづけるベラのビギナ・ギナの前に、白いMSがあらわれた。
 その白いMSに、なにやら不思議な感覚をおぼえる。これは……なにか違う。
 こちらのデータにはない機体だった。二本のビームを避け、白いMSめがけ
てビームライフルを斉射するがかすめることすらできなかった。ベラは焦りを
おぼえた。加速しつつ雲の中にかくれた白いMSを目で追う。どこだ、どこに
かくれたの。
 気がついたときには、コクピットカバーをかすめられていた。敵機のほうに
ビギナ・ギナの正面をむけたが、先手をとられたことは大きい。すぐに機体を
雲の中にかくした。だが敵の反応も素早い。ビームを一閃して視界をひろげ、
さらけだしているビギナ・ギナにむけてビームシールドを形成した部品を放り
投げつっ込んできた。
 ベラは悲鳴をあげた。死を覚悟した。とうに覚悟はできている。人の上に立
つ者が、このような大事のときに狼狽してなんになるというのか。

405 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P290 [03/11/04 22:41 ID:???]
 ところが敵のパイロットも、銃口をビギナ・ギナのコクピットにつきつけた
ものの、なぜか引き金をひけない。
 なにか、なにかを感じる。あたたかいような、どうにもはっきりしない「な
にか」を感じつつあったが、
「ベラ様ァァァ!」
 と、ブラック・バンガード隊のエース・ボブルスの漆黒のMSデナン・ゲー
がビームライフルを乱射しつつ白いMSに体当たりをかました。衝撃ではじき
飛んだが、白いMSのビームサーベルを突き入れられて撃墜されてしまった。
 そのあらましをベラはビギナ・ギナのコクピット内でみていた。そして、よ
うやく白いMSにたれが乗っているのかがわかった。
 ビギナ・ギナを白いMSに近づけ、
「その息づかい、シーブックでしょ」
 といった。相手は、反応した。まちがいない、この反応は、あの機械科の生
徒のシーブック・アノー本人だ。

406 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P290 [03/11/04 22:50 ID:???]
 ベラは昂奮して早口でまくし立てた。この昂奮はベラ・ロナとしての昂奮で
はない。セシリー・フェアチャイルドとしての昂奮だった。
 ノーブルとして、ベラ・ロナとして、髪を切りロナ家の人間として努めよう
としたのは、彼女からすれば「他にしようがないと思えたから」である。死ん
だと思っていたシーブックが生きているとわかった以上、もはやロナ家に戻る
理由はなくなったといえた。
 シーブックとともにスペース・アークへと「戻ってゆく」セシリーを責める
のはたやすい。事実彼女はこの行動で、「出奔した母ナディアと同じ道を結局
はあゆんだ。元々アイドルとなる覚悟が欠けていたのだ」と後世の史家から糾
弾された。
 だが彼女はロナ家とのつながりや責務を断ち切ってシーブックたちのもとへ
投降したのではない。セシリーには「高貴なる義務」をあくまで遂行しようと
いう意志と、自分がやらねばならぬ行動をしっかりと自覚したうえで投降した
のである。ヘビーガン24号のパイロット、ビルギット・ピリヨに問いつめら
れたとき、彼女は「高貴なる者」の立場で祖父をかばい、マイッツァーの立場
を説明している。

407 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P290 [03/11/04 22:54 ID:???]
 もし完全に母のナディアのように豹変したのなら、こういう言い方は決して
しないはずである。
 そういう意味でいけば、セシリーに完全に戻ったというよりも、ベラ・ロナ
としての意志を残したまま、セシリー・フェアチャイルドに戻ったといったほ
うが正しいかと思われる。
 そして、ベラの意識を残したままのセシリーは本当の敵は誰かということを
明確に意識し、その排除をすることが、高貴なる義務を果たす―祖父の理想―
ことになるとおもった。セシリーは一つの正しきあり方にたどりついたといえ
る。

408 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P291 [03/11/04 23:00 ID:???]
 このとき、カロッゾこと鉄仮面はクロスボーン・バンガード旗艦ザムス・ガ
ルにいた。セシリーが投降したスペース・アークに近い。コロニーの隕石部分
の制圧は完了していた。鉄仮面は殺戮兵器バグをテストすべく、このコロニー・
フロンティアTを実験場にしようとしていた(中略)
 鉄仮面にすればバグ成功をもって、月・地球の人類を抹殺できればよい。
 が、諸将にも意向がある。実験が終了するまであくまでも内密にし、主要の
連邦軍部隊との戦闘に専念させていなければならない(中略)
 すべて鉄仮面の思惑どおりになりつつある。鉄仮面は満足した。鉄仮面のそ
の後のすべての運命はこの3月30日のバグ稼動が基礎になっている、といっ
ていい。


409 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P292 [03/11/04 23:07 ID:???]
 問題は、ベラである。
 戦死ならば問題はなかろう、という解釈を、鉄仮面はたった一機でザムス・
ガルに接触してきたザビーネのXM−05ベルガ・ギロスからとった。
 鉄仮面のみるところベラはおそらく戦場では紅一点のエースであろう。も
し大功をたてると大きく賞さねばならず、そうなればベラの存在は今以上に
大きくなり、ドレルとのふりあいはおろか自分の立場もむずかしくなる。べ
ラとともに戦場で辛苦をなめるであろうクロスボーン・バンガードの将士は
ついベラを慕うようになり、人気があの戦闘技能だけが取り柄のドレルを凌
ぎ、当然、その声望はマイッツァーにならぶか、それをうわまわるにちがい
ない(略)
 このため、ベラのビギナ・ギナがいないことを確認し安堵した。名誉の戦
死であり、こうも華麗に散ってくれればあの老人に対して哀悼の意を表して
おけば事は簡単におわると思った。

410 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P292 [03/11/04 23:19 ID:???]
「少しづつでも、世界をさっぱりさせんとな」
 ザムス・ガルから、一つ、また一つと、バグがフロンティアTの内部にむけ
てころがってゆく。
 チェーンソーを猛烈な勢いで回転させながら突進していく様は、大義の名の
もとでは人間はいくらでも残酷なことができてしまうということを十分すぎる
ほどに現している。
 バグの内部には様々なセンサーと「子バグ」が搭載されている。人間の呼吸・
体温・粘膜に敏感に反応し、切りきざめるように作られているのである。旧世紀
のジェイソンでさえ真似のできない光景がこれから現出するのだ。
 コロニー内部に侵入したバグたちは、獲物をねらう猟犬以上の正確さで、シェ
ルターに避難している人々、バス・ゲリラ・ビルの人々をおそい、ある場所では
子バグを爆発させ、ある場所ではバズーカを持って立ち向かおうとした男を真っ
二つにチェーンソーのさびにした。異様な効果音をなりひびかせながら、バグは
コロニー内部をかけめぐる。
 地獄絵図である。鉄仮面の実験は成功しつつあった。かれはこの実験を行なう
ことで、旧世紀、ヒロシマ・ナガサキを業火で焼いた「リトル・ボーイとファッ
トマン」、ポル・ポト、ヒトラー、スターリンの大粛清、宇宙世紀史におけるギ
レンのサイド殲滅とティターンズのG3注入とならぶ新しいジェノサイドを提示
した。



411 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P292 [03/11/04 23:25 ID:???]
 だが、やられる側からすればたまったものではない。
 ヘビーガン24号のパイロット、ビルギット・ピリヨがそうであった。
 かれのいう「人間だけを殺す機械」はビルギットのヘビーガンに執拗にとり
つき、ビルギットに息つくひまもあたえなかった。
 ライフルを撃つ。ビームサーベルを振りまわす。しかし、バグを追い払えな
い。スピードがはやすぎるのである。
 バグにヘビーガンの腕を切断され、さらに両脚も斬られた。なおも絶叫しな
がらバグをサーベルで斬りおとそうとするビルギット。しかし運命はあまりに
も残酷だった。
 バグのめりこみでヘビーガンの頭部は消し飛び、さらにそのバグから放出さ
れた子バグがコクピットにとんできたとき、ビルギットはこの世の人ではなく
なっていた。

412 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P292 [03/11/04 23:29 ID:???]
 セシリーのビギナ・ギナは、シーブックの白いMS・F91を追いかけるよ
うにしてフロンティアTをとびだし、宇宙に出た(略)
「ザムス・ガルの船首部分……」
 と、クロスボーン・バンガード旗艦を確認するや、たてつづけにビギナ・ギ
ナのビームライフルを放った。
 命中した瞬間、核爆発並の爆発が巻きおこり、無数の岩石がビギナ・ギナと
F91をおそった。

413 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P293 [03/11/04 23:32 ID:???]
 ところがこの爆発した艦艇はザムス・ガルではなかった。異変は後方にいた
本物の旗艦にとどいていた。すぐ、調査をするようにと指示を出すジレ。
 鉄仮面はすぐ思案し、
「いや、私が調査しよう。家庭の問題だからな」
 といった。あのような身勝手な小娘に対しては、親としてのやり方がある。
ジレはおそらく意味を理解しえまい。

414 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P293 [03/11/04 23:42 ID:???]
 セシリーのビギナ・ギナが、シーブックのF91と一緒にむかってきた。
 鉄仮面は「ラフレシア・プロジェクト」で開発された巨大MA・XMA−0
1ラフレシアでわざわざ出撃しあっさりと連邦MS部隊を一掃、以外にももう
一機ひき連れてきたセシリーをラフレシアの花びらをひらきながらむかえ、根
元部分に装備されている底部拡散ビーム砲を乱射して対した。
 まるで本気で親子喧嘩をするかのような姿勢であった。
 セシリーが‘仮面を付けなければ何もできない男性‘とよんだ鉄仮面はマス
クの上から大量の光ファイバーを装着してラフレシアと一体化し、文字どおり
‘物ノ怪‘と化していた。
 その凶悪な物ノ怪に刺激されたのか、セシリーはシーブックの制止もきかず
ビギナ・ギナを突出させた。果断なく撃ちこまれてくる拡散ビームを避けつつ、
物ノ怪―ラフレシア―に近づく。五つの花びらが繰りだすビームを華麗にくる
くると回転しながら回避し、ビームライフルを撃つ。徐々に接近しようとする
が、猛烈な火力とIフィールド・バリアのためにおもうようにダメージをあた
えることができない。


415 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P293 [03/11/04 23:58 ID:???]
「離れろ!セシリー!」
 絶妙なタイミングでビギナ・ギナを後退させコロニーの残骸に身をかくすセ
シリー。
 だがシーブックとのコンビネーションが良好とまではいえなかった。セシリ
ーには、気負いがある。
 自分が鉄仮面を討たなければならないという使命であった。自分以外のたれ
にまかせることができるというのだろうか。
「セシリー、さがれ」
「でも……」
「僕にまかせりゃいい」
 シーブックのF91が、ラフレシアの正面に出た。かれには、セシリーの焦
りがよくわかる。しかし、いまのままではセシリーは撃墜されてしまうだろう。
死んでしまったら、どうにもならない。アーサーやビルギット、父さんの二の
舞はごめんだ。それに、男たるもの、このようなときに女を守れないようでは、
真の男ではない。愛するセシリーを守る、この単純だが純粋な感情が、シーブ
ックを騎士(ナイト)にした。
 コロニーの残骸にかくれながら、ビームランチャーでラフレシアに対するF
91。それにしてもあの異様さと奇怪さはどうであろう。
 ラフレシアという花自体、普通の花にくらべ、きわめて巨大で、満開の花を
見ることができるのはほんの数日、いまだ不明な点が多いというひどく特異な
花なのである。強いて目の前のMAとの共通点をあげるとすれば、強烈な匂い
を出してひきよせようとしている点だろうか。現実の花のほうはすさまじい匂
いを出して受粉させるが、このMAも感覚すべてに強烈な刺激をあたえられる
という点、現実の花以上に凶悪だった。

416 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P293 [03/11/05 00:05 ID:???]
 騎士(ナイト)の使命の一つに、女性を尊び、まもるというのがある。近代
合理主義をとうの昔に経ているこの時代には、神への奉仕や主君への忠誠とい
った観念はうすれており、もはやないといってもいい。
 このときのシーブックの意識には、このまもる意識が濃厚にあったであろう。
しかしそれ以上にセシリーもノーブルとしての意識があった。
 かのじょにすれば、ロナ家の一門として鉄仮面を自らの手で討つことは必要
不可欠なことなのである。
 シーブックにまかせるのも一つの手ではあるが、それでは自らの血縁を断ち
きることにはならない。セシリーのプライドが、高貴なる者としての精神がそ
れをゆるさないのだ。
 セシリーのビギナ・ギナの突出に、鉄仮面は即座に反応した。あのF91の
パイロットが発狂でもせぬかぎり、よほどのニュータイプでなければラフレシ
アが墜(お)とされることはまずないであろう。しかし、このベラ・ロナに対
してはそのように楽観できなかった。あくまでもこの事態はまちがった娘に対
し父親とはどういうものであるかをしめす行為であらねばならない。鉄仮面は
危機を誇張し、セシリーを挑発して隙に乗じねばならなかった。

417 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P293〜294 [03/11/05 00:10 ID:???]
 機体のあちこちをラフレシアのテンタクラーロッドで破壊されながらも、F
91のシーブックとともに戦いをつづけていたセシリーだが、ついにビギナ・
ギナの機体ごとからめとられ、ラフレシアのコクピットのまえに引きずりださ
れた。
 愛憎渦巻く親子の対面。
「お前が私の近くに来たいらしいからこうしてやった。つくづくお前は悪い娘(こ)
だ。大人のやり方に疑いをもつのはよくないな」
 電子音のような声と強化人間となり果てた異様な鉄仮面の姿に、セシリーは
恐怖した。

418 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P294 [03/11/05 00:15 ID:???]
「あなただって、強化人間にされたからって、お祖父(じい)さまに反逆をし
ています。でも、すこしでも人間らしさを残しているならば、今すぐ、こんな
ことはやめなさい」
 鉄仮面はそのセシリーの言葉に反論をかえした。
「人類の10分の9を抹殺しろと言われれば、こうもなろう!」
 と、鉄仮面はさも他人のせいにしながらいった(中略)
「機械がしゃべることか」

419 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P294 [03/11/05 00:24 ID:???]
 満身創痍のセシリーに、シーブックはF91の能力を開花させた。肩部のフ
ィンが輝きをおびながらひらき、F91の機体全体が発光をはじめる。尋常と
はおもえぬスピードで、ラフレシアのテンタクラーロッドをビームサーベルで
切断する。が、数が多く阻まれたままだ。
 その間に鉄仮面はラフレシアのテンタクラーロッドですこしづつ、なぶるよ
うにビギナ・ギナの機体部分を剥いでゆく。言うことをきかない娘ならば、お
しおきをせねばならない。
「私は機械ではない。任務遂行のためにエゴを強化したものだ」
 丁寧に、ビギナ・ギナのコクピットをこじあけるべく、機体のカバーを剥ぐ。
 サディスティックな快感を鉄仮面はどれくらい感じているのだろうか。懸命
に脱出しようとあがくセシリー。しかし、脱出ポットは起動しない。
 ついにもう一本のテンタクラーロッドがビギナ・ギナのコクピットにからみ、
セシリーの目の前にまで到達した。頃合いよしと、鉄仮面は高笑いしつつラフ
レシアのコクピットを出て宇宙に浮かび、手をビギナ・ギナのハッチにあてて
こじあけようとした。恐怖におののくセシリー。



420 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P294 [03/11/05 00:29 ID:???]
 銃をかまえ、こじあけてコクピットに侵入してきた鉄仮面にむけて放つが、
まったく効果がない。
 意にも介せず、その身体からは想像もできない力で、セシリーを片手でコク
ピットからひきずり出した。
「しかも手足を使わずにコントロールできるこのマシーンを使う私を!ナディ
アと同じように見下すとは!つくづく女というものは、御し難いな」
 青白くマスクの目をひからせながら鉄仮面は言い放った。かれの本音であっ
た。どこまでも他人に責任転嫁するような言いぐさに、
「そうさせたのは、仮面をはずせないあなたでしょう」
 セシリーが必死の思いで叫んだ。その一言に鉄仮面は、まだ言うかと、さら
におしおきをしてやろうと思ったが、F91の反応の迅速さに気をとられてセ
シリーを突きとばし、ラフレシアのコクピットにもどった。




421 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P294 [03/11/05 00:39 ID:???]
 鉄仮面の行為は、シーブックを逆上させた。
 F91は、分身のようなすばやさと、閃光のようなかがやきを放ちながらラ
フレシアの鉄仮面を翻弄した。
 鉄仮面は質量をもたぬ残像だといったが、そう錯覚しても仕方のないことで
あった。
 F91に搭載されているバイオ・コンピュータが、機体をフル稼働させるこ
とができるパイロットを判定し、可となればその判定により潜在能力といえる
モードに切り替わる。当然、より運動性は向上するために、機体が熱を帯びる
ため冷却する必要性が出てくる。
 宇宙空間では大気圏内のように放熱を行えないため、頭部などには触媒が添
加、散布される。この頭部からの放熱が行なわれる際に。フェイスガードが左
右に割れ、両頬に収納された後にエアダクトが露出、これに伴いMEPE(Metal
Peel Off Effect)が発生する。このMEPEが放熱を装甲そのものに行なわ
せる効果をもち、このMEPEが装甲の表面に対ビームコーティングのような
効果を施し、機体の動く先―機動慣性方向―に機体の輪郭とある程度の質量を
もった残像を残すのである。鉄仮面はこれに惑わされた。

422 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P295 [03/11/05 00:43 ID:???]
 戦闘は、鉄仮面の敗北におわった。
 が、セシリーは自ら手を下せず、シーブックに反応させ、討たせたかたちと
なった。
 きしくもビギナ・ギナが要となってラフレシアを大破させるきっかけをつく
りだし、シーブックのF91は、鉄仮面のラフレシアを撃破することができた。
 しかしセシリーは、宇宙にながされている。野ばなし、といえた。

423 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P295 [03/11/05 00:46 ID:???]
 ながされてゆくセシリーが目をさましたとき、目の前にいたのはシーブック
であった。F91と白ユリの花がキーとなったとシーブックは言い、強くセシ
リーを抱きしめた。騎士(ナイト)はついに、まもりきることに成功したのだ
った。
 ついでながら異母兄のドレルはMS大隊をひきいて月面からの連邦軍部隊と
接触、旧式ながら大勢力を誇るMS隊を殲滅し、翌日の3月31日コスモ・バ
ビロニアに凱旋することとなった。

424 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P296 [03/11/05 00:54 ID:???]
 幼少のころからその特徴であった天賦の威厳―というには少しするどすぎる
ようだが―は、年齢とともにいよいよ濃厚な色合いを増した。さきの宇宙世紀
0123年3月26日、フロンティアWにおいてコスモ・バビロニア建国宣言
の式典がひらかれたとき、セシリーはベラ・ロナとして参加し、マイッツァー
ほか一門重鎮も参列した。自然、多くの軍人やスペースノイドたちがつどった。
 やがて鉄仮面が演説をすべく席を立ち、同時にビームフラッグをかかげなが
らクロスボーンのMS隊がコロニー上空を翔ぶと、満場がどよめいた(中略)
 雪の舞い降りるなか、鉄仮面の演説はつづく。その演説が熱をおびてきたそ
のとき、一発の銃声が鉄仮面のマスクをかすめた。さらにもう一発撃ちこまれ
た。満場はこの事態に昂奮し、クロスボーンの軍人も総立ちになり、民衆もわ
めき、手のつけられぬさわぎになった。このとき、ベラは演壇の背後の席にい
た。スクと立ち、なおも雄弁をふるう鉄仮面の前に出た。

425 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P297 [03/11/05 00:59 ID:???]
 一言発し、屹(きつ)とまわりを見まわした。ただそれだけのことで満場は
深山のごとくに静まった。
 マイッツァーは、驚嘆した。あとで、

 今日の式典、興あるなかに、
 ベラの威厳、驚きたり

 と、左右に語った。この天賦の威厳はロナ家の立場と地位においてこそ用い
られるべきであったが、ついにその機会はかのじょを見舞うどころか、かのじ
ょ自身がコスモ貴族主義をおわらせる決断に踏みきることで終息した。 

426 名前:ロナ家の人々(豊臣家の人々より) mailto:sage第七話・結城秀康・P298 [03/11/05 01:03 ID:???]
 セシリーはベラ・ロナとなっているとき、ロナ家の人間の立場からなにごと
かをおこすかにみられた(中略)
 劇的立場をもちながら、その生涯は劇的要素をもたず、ノーブルとして何事
もおこさず、またおこす気ももたなかった。
 平凡だがこの家庭と生活を営むために生まれてきたと、セシリーはキンケド
ゥというもう一つの名をもったシーブックと地球で暮らし最後の息をひきとる
とき、ふとそうおもったにちがいない。

427 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/11/06 22:04 ID:???]
セシリー・

428 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/11/08 19:41 ID:???]
おもしろい。F91完全OVAを希望

429 名前: mailto:sage [03/11/10 17:56 ID:???]
>>428
黒本では満足できない自分・・・



430 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP126 [03/11/10 18:06 ID:???]
 演出部にあがったとたんに、喜幸は次々と鉄腕アトムの演出をやるようにな
っていった。
 というのも、会社の事情が大きく変化したのである。
 新しいシリーズである「ワンダー3」と初のカラー作品「ジャングル大帝」
の制作が発表されたために、虫プロ制作部が分割され(アトム班ひとつの体制
しかなかった)創業からの熟練スタッフがそちらの制作に流れることになった。
 喜幸、幸運なのか不幸なのか。
 先輩スタッフが流れたおかげで、便利屋としてたくさんの回を演出せねばな
らなくなった。当然、作画も外注が多くなる。演出になって日もあさいのに、
もう一流扱いであった。
 器用貧乏な喜幸、それでも仕事はきっちりこなす。外注プロとの作画打ち合
わせにゆくときも、玄人然とした態度と姿勢で、
「あ、ちょっとアトムのキャラクター違いますね。うちではそんな描き方しな
い」
 と、虫プロ代表者のような存在感をしめし、言い放つ。
 それでも、新作をつくる余裕もなくなってくるし、スケジュールも切迫して
くる有様だった。なんとかしてフィルムをつくりだし、オン・エアさせなけれ
ばならない。



431 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP126 [03/11/10 18:12 ID:???]
 のちに「富野マジック」とよばれた(かれはこのとき、‘でっちあげ‘と
いっていたが)手法をかれはこのときにする。
 といっても、以前放映した回のなかで使えるシーンや画(え)を集めて、
ラッシュ(注・撮影されてあるフィルムの断片)をつないで一本の話を構成
するという、リサイクル新作(言葉がおかしいが)というべき代物である。
 事実、喜幸はフィルム編集室にこもりつつ、やってのけてしまった。
 同じ戦闘シーンや画でも、台詞やカットをどこに入れるかで大きくかわっ
てくるし、そこに新作カットを加えれば充分新作たりうる作品になるわけで
ある。それも会社の玄人スタッフがアトムからぬけた結果のことなのだ。
 虫プロ状況のいかがわしさは、喜幸のふところをあたたかくしたし、かれ
の実力もめきめきとのびた。だが、所詮は一個人が通常の3倍以上働けども
限界があるということを喜幸は知るのである。

432 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP123 [03/11/10 18:17 ID:???]
 年のはじめ、手塚治虫は一週間で13本のシナリオを書き、一週間でコンテ
を作ると発言したということを喜幸はきいた。
 とうてい無理としかおもえない。雑誌連載をかかえた社長に一週間で絵コン
テをしあげるなど、いくら神のごとき実力と、ドラマを再現できる才能をもっ
た社長でも不可能なことであった。
(そう言わしめるほどに、アトムの制作は危機的なんだ)
 そう思った。

433 名前:新史監督記(新史太閤記(上)より) mailto:sageP91 [03/11/10 18:23 ID:???]
 虫プロ制作部に電話がかかってきた。喜幸あてだった。
 チョキという、学生時代の一年後輩の女の子からの電話であった。
 喜幸は不思議におもった。彼女には、就職の結果を報(しら)せたつもりは
なかったのに、いまごろどうして……。
 彼女は喜幸に第一声を放った。
「アトム見たよ。演出やっているんだって?」
 富野の自伝的著書「だから僕は…」には、はじめチョキの声だとはわからな
かった、とある。
 だが、チョキだとわかった瞬間、頭の中が真っ白になった。多少なりとも、
彼女には気があったからだろう。
 

434 名前:1 mailto:sage [03/11/13 22:00 ID:???]
保守

435 名前:月面都市の精神的風土(手堀り日本史より) mailto:sage上方の精神的風土・P28〜29 [03/11/13 22:12 ID:???]
 ルナリアンがもっている反権力の精神が歴史上、どんな形で現れたか

―かなり前でしたが、私がはじめてフォン・ブラウンを歩きましたとき、ジャ
ブローの地下都市とちがうな、ということをフッと、しかもかなり強い衝撃で
感じたことがあります。それは都市の雰囲気というより、ここを歩いているひ
とびとのかもし出す雰囲気なんですが、私の印象では、ちょうどそのことをあ
る雑誌に書いたのですが、地球の都市には天井があるが、月の都市には天井が
ない、ということなんです。アースノイドにはどこか頭をおさえられていると
いう感じがある。しかしルナリアンには頭をおさえるものがない、という感じ
なんです。それを天井ということばで表現したのですが、そのときもうひとつ
感じたのは、地球の都市には壁がないが月の都市には壁があるということです(略)
 非常に変な第一印象なんですが、ともかく月の都市には、ひとびとの頭をお
さえる天井がないかわりに、外部とのあいだを遮断するような壁がある。どこ
か外との関係を切ってしまうような雰囲気が感じられる。


436 名前:月面都市の精神的風土(手堀り日本史より) mailto:sage上方の精神的風土・P28〜29 [03/11/13 22:17 ID:???]
 これはあくまで私の印象にすぎないものです。ただ月面都市の風土にはやは
りそういうものがあるんじゃなかろうか、という気がしましたのでお伺いした
いのですが、私が感じました‘天井‘とか‘壁‘とかは、もしそれがわずかで
も妥当性をもっているとしたら、月のどういう歴史的風土と結びついているも
のか……



437 名前:月面都市の精神的風土(手堀り日本史より) mailto:sage上方の精神的風土・P30 [03/11/13 22:24 ID:???]
 フォン・ブラウンの歴史的特質と言えば、地球圏のなかでもっとも連邦政府
体制をより軽く経験した、ということです。問題を明快にするためにすこし極
端に言わせてもらうとすれば、フォン・ブラウンはルナリアン一階級の土地で
した(中略)
 政府筋の人数はかなりすくないわけですから、これが月都市の人口のなかに
はいれば、ほとんど割合もちいさい。そのためにルナリアンは、連邦政府の共
産体制的な色合いとか他サイドの独立意識とかに影響されずにきたものです。
 もっとも、宇宙戦国時代のころに連邦政府の中枢機構が移ってきてはいます
が、この頃は相当タガがはずれてて、かなりゆるんでおったことも要因の一つ
です。
 考え方も態度も、行儀が悪くなる。さらに政府や支配勢力を恐れなくなる。
政府の恐ろしさというのは、サイドや地球の主要都市にいないとわからない。


438 名前:月面都市の精神的風土(手堀り日本史より) mailto:sage上方の精神的風土・P31 [03/11/13 22:35 ID:???]
 たとえばフォン・ブラウンの人間が団体旅行をすると、まるでそのシャトル
全体を借り切ったように大騒ぎをする。何とおそれを知らない、行儀の悪い集
団だろうと、ルナリアンの評判が悪くなる。また、ルナリアンは戦争に行くと
弱いと言われます。‘またも負けたかルナリアン‘などと言われた。
 そうそう、軍隊のことにすこしふれておきましょう。その弱いはずのルナリ
アンの兵隊の歴史は、宇宙世紀史とのかかわりがふかいのです。
 第一次ネオジオン抗争を連邦のMS兵として戦ったのも、ルナリアンが多い
んです(略)
 シャアの叛乱に行ったのも、ルナリアンが多い。アクシズ阻止の段階には、
ネオジオンの精鋭MS部隊に、ルナリアンのMS部隊がさんざんにやられるで
しょう(略)
 そうだ、宇宙世紀0087のアポロ作戦阻止に行ったエゥーゴの部隊もルナ
リアンでした。
 フロンティアサイド動乱にも出る。どういうわけか、たいてい激戦場に出て
いるんです。それで、‘またも負けたかルナリアン‘になるわけです。まった
く一年戦争からシャアの叛乱期、フロンティアサイド動乱にかけてずいぶんル
ナリアンがかりだされた。兵としては地球圏最弱をサイド6と争うといわれる
ルナリアンが、宇宙世紀史の舞台でつねにMSで戦わされたというのは、皮肉
というか滑稽というか。 

439 名前:月面都市の精神的風土(手堀り日本史より) mailto:sage上方の精神的風土・P32〜33 [03/11/13 22:39 ID:???]
 サイド3の部隊が強い。あるいはサイド2の部隊が強い。なぜ強いか。それ
は、その地域には濃厚に専制国家的な潜在体制や意識があったからです(中略)
 戦闘惨烈の極所にいたって、この場所を死守せよ、と命令されれば、当時、
サイドの専制国家・組織度の濃い地域の出身兵ほど強かった。かならず死守し
ます。背後には専制国家という重いものが監視している。どんなに戦うことが
戦略価値からみてむだな守備地であっても、ひかない。ところがルナリアンな
ら、多少ニュアンスがちがいます。

440 名前:月面都市の精神的風土(手堀り日本史より) mailto:sage上方の精神的風土・P33〜34 [03/11/13 22:42 ID:???]
 ルナリアンの弱さとは、政府や専制組織のおそろしさを軽くしか知らないと
いう弱さなのです。軍隊における兵の強弱とは、勇敢であるかどうかというよ
り、後方から受ける恐怖の度合いではかることもできます。ここを一歩でも退
いたら国家によって家族まで殺されてしまうかもしれないという、どうにもな
らない恐怖感が、兵士をして強からしめることが多い。



441 名前:月面都市の精神的風土(手堀り日本史より) mailto:sage上方の精神的風土・P34 [03/11/13 22:44 ID:???]
 ルナリアンは律義者でないということはいえませんが、ともかくも権力とい
うものに対して伝統的になめているところがある(略)
 ともかくルナリアンというのは、地球圏のなかで特別に研究していい集団の
一つでしょうね。

442 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/11/16 01:02 ID:???]
何かずっと繋がらなかったのですが、ひさしぶりに来ることができました。
まとめて読ませていただきます。

443 名前: mailto:sage [03/11/16 11:42 ID:???]
>>442
私もOCNで繋げはじめてから、ネット環境を制限されてしまいましてなかなか
来れないです。
新居に移れれば環境も改善されるので、それからは迅速な書き込みができるか
と思います。しばらくお待ちください。
あとは、前スレがHtml化されればオッケーですね。

444 名前:富野イデオロギーというフィルター(手堀り日本史より) mailto:sageP107〜108 [03/11/16 11:48 ID:???]
―手をつけにくい厄介な時代だ、というニュアンスでおっしゃったのかもしれ
ませんが、そのことをちょっと伺いたいのです。ずっとお話になってこられた
富野イデオロギーの問題と手掘りということに関して、作家がその対象にしよ
うとするときの伝説巨神イデオン・聖戦士ダンバインとはどういう作品なのか。
いまお話しになられたショウの像というものとも密接な関係があると思います。
小説の対象になりにくいとはどういうことなのか。

445 名前:富野イデオロギーというフィルター(手堀り日本史より) mailto:sageP107〜108 [03/11/16 11:52 ID:???]
 伝説巨神イデオンおよびバイストン・ウェル・サーガ・聖戦士ダンバインと
いうのは、治乱興亡の起伏がたいへん激しく、導き手たるメシアの母カララ・
アジバから、ギジェ・ザラル、ショウ・ザマ、フォルモッサ・シェリル、さら
に反ドレイク勢力の柱となるナ国女王シーラ・ラパーナなどと、役者がそろっ
ていて、その意味ではドラマチックな時代ではありますね。そこでつい、これ
を舞台にして小説が書ける、と思ってしまう。しかし、私の感じでは、どうせ
小説にはならない。すくなくとも小説にしにくい感じなんです。

446 名前:富野イデオロギーというフィルター(手堀り日本史より) mailto:sageP108 [03/11/16 12:00 ID:???]
 なぜ小説にならないのか。自分でもまだハッキリはわかりません。断定はで
きないのですが、これまでU・Yさんの「リーインカーネーション」だとか、
ヨシカワエイジさんの「私本聖戦士記」だとか、多くのかたがこのイデオン・
ダンバインを小説に書かれています。しかし、いずれも、これを書きあげると
仕事が衰弱するか、亡くなってしまわれる。
 あるいは、作家の創作意欲というものが、体力的にも衰弱されたころに、手
を染められている、というようなこともあるのでしょうか。なにか、イデオン・
ダンバインといった富野イズム、カラーがつよい代物というのは、縁起ものの
匂いがしてくる。その作家にとって縁起ものの感じがするという点が、富野イ
デオロギー作品、イデオン・ダンバインをみるのに大事な点だとおもいます。
 イデオン・ダンバインについて書きだすと、作家はかならずくるしくなる。
なぜかというと、みな富野イズムで訓練された目でこれらを見ようとする。ヨ
シカワさんも、残念なことに、富野イズムを頼りにこのダンバインを、迫水真
次郎からショウ・ザマというかたちで見ておられます。

447 名前:富野イデオロギーというフィルター(手堀り日本史より) mailto:sageP108〜109 [03/11/16 12:06 ID:???]
 そういうわけで、イデオンにおいてはダンバインの黒騎士につながる非常に
なさけないような、ギジェ・ザラルなどという人物が登場してくる。カララを
「なぜ殺した!?カララさんの理想主義が、イデを抑えるカギだったかもしれ
ないんだ!」とコスモが叫ぶ悲劇もある。巨神起動やシェリルとカララの女同
士のいがみあい、移民星キャラルでのキッチ・キッチンとコスモの出会いもあ
る。全部悲壮美に飾られているわけです。
 ところが、その悲壮美は富野イズムを通してこそ出てくるわけで、通さなけ
ればこれは何でもない擾乱(じょうらん)なんです。

448 名前:富野イデオロギーというフィルター(手堀り日本史より) mailto:sageP109 [03/11/16 12:11 ID:???]
 何か正しい、ドレイク・ルフトの覇道に対抗したい、とは、バイストン・ウ
ェルの誰でもが思っている。そういうばくぜんたる期待から聖女たる女王シー
ラ・ラパーナが出てくるのですが、彼女は∀のディアナ・ソレルにつながる(
あるいはそれ以上に)巨大な影響力を行使して、すべてをオーラロードに還し、
悪しきオーラを浄化してしまうんですね。
 ちょっとこまったことに、この聖女たるシーラに認められた英雄であるはず
のショウには、はっきりとした主体基準を持続することができない。たとえば
第29話「ビルバイン出現」において紆余曲折のあげくショウは、正義のため、
という基準をもつことになる。なのにその基準は一瞬かれがそう思ってみたま
でのことで、結局維持することも持ちきることもできない。

449 名前:富野イデオロギーというフィルター(手堀り日本史より) mailto:sageP110 [03/11/16 12:16 ID:???]
 つまりは父権的象徴たるドレイクと、母性的象徴たるシーラの争いともとれ
るわけで、せっかく聖戦士として召還されながら、迫水のサムライ的立場とく
らべ、オレはショウ・ザマだ、「俺は人を殺さない!その怨念を殺す!」と個
々それぞれの見せ場があるだけの主人公であっただけのことなのです。

450 名前:富野イデオロギーというフィルター(手堀り日本史より) mailto:sageP110 [03/11/16 12:18 ID:???]
 シーラはしばしば戦いに敗れるわけですね。それでも地上において、英国女
王などの協力を募ると、その傘下に集まる者が多い。
 結局、彼女はよくぞこれだけ集めたと思えるほどの戦力をもって、地上で悪
しきオーラ力に毒されたドレイクの大集団を破るわけです。



451 名前:富野イデオロギーというフィルター(手堀り日本史より) mailto:sageP111 [03/11/16 12:20 ID:???]
 当時のスタッフは、それ以前の富野作品とちがい、ドラマを織りなすキャラ
クターを表現することだけを考えてはいない。バイストン・ウェルという世界
観を表現したかったことが第一です。リアルロボットというよりファンタジー
ロボット物といったほうが正確なんです。

452 名前:富野イデオロギーというフィルター(手堀り日本史より) mailto:sageP111 [03/11/16 12:26 ID:???]
 聖戦士ダンバインとは、ただそれだけのことで、そこに動いている力や台詞、
エネルギーは、すべて濃厚な富野イデオロギーにからまるものです。それに特
株なフィルターをかぶせれば、何らかの光彩を発することもありますが、やは
りそれはイリュージョンであって、現実は富野節炸裂の作品です。
 小説を書き始めると、そうした現実がわかってくるんですね。それで空しく
なって、書きづらくなる。創造的なことが出てこないために、しだいに苦しく
なり、ちょうど胃液も何も出ないのにものを消化しようとするような、そうい
う身体の状態になって、衰弱してしまうのですね。


453 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/11/21 21:03 ID:???]
とりあえず保守

454 名前:技術大尉ゼノア(歴史の中の日本) mailto:sageP178 [03/11/21 23:23 ID:???]
―‘争乱期‘の運命の一典型

 ムーンレイスには多彩な人物が多くいるが、そのなかで大尉ラルファ・ゼノ
アを上回る近代軍人は容易に見あたらない。それほどの人物が無知の狂気に圧
殺されたというか、じつにかなしい最後をとげる。

455 名前:技術大尉ゼノア(歴史の中の日本) mailto:sageP178 [03/11/21 23:33 ID:???]
 非常な技術能力をもっている男でもあり、人物も良好でしかも兵站知識の高
さはおよぶ者がない。ディアナ・カウンターではこれを抜擢して地球地区での
開発担当者にした。

456 名前:技術大尉ゼノア(歴史の中の日本) mailto:sageP179 [03/11/21 23:48 ID:???]
 このころ、戦力増強のためディアナ・カウンターはロスト・マウンテンとい
う山師なら決して触れない禁断の山を調査しており、このときに可変機構を有
するMSムットゥーを発見すると同時に、おそるべき代物を見つけ出してしま
う。
 運のわるいことに、ミリシャの「スエサイド部隊」も発掘作業をすすめてい
たゼノア隊と出くわしてしまい、あろうことかそのおそるべき代物を「戦利品」
としてうばい、持ち帰ろうとしたのである。
 

457 名前:技術大尉ゼノア(歴史の中の日本) mailto:sageP179 [03/11/22 00:05 ID:???]
 ともかく、スエサイド部隊隊長ギャバン・グーニー以下、おそるべき代物に
対する知識と戦慄的恐怖心がない。堂々と核弾頭をボルジャーノンの手でつか
み、これでもかというほど手軽に扱う有様にゼノアはなんとかその代物がどん
なにおそろしく、甚大な被害を伴うかを必死で説いた。ゼノアはムーンレイス
であるため、当然ながら原子力の運用法には長けている。停戦を提案したが、
ギャバンはうけいれなかった。
 ゼノアの感覚ではこういう無知蒙昧の輩にはなにをいっても信じてもらえず、
無駄なあがきをするだけのことだということはわかりきっていた(事実、ゼノア
の懸念どおりの結果になったが)しかもレット隊というこれまた無知な部隊が参
入してきて、戦闘はさらに激化した。


458 名前:技術大尉ゼノア(歴史の中の日本) mailto:sageP180 [03/11/22 00:19 ID:???]
(このままでは悪しき核が爆発してしまう……)
ゼノアは声を嗄(か)らしながら警告を発し続けた。かれはこのとき、敵味方
という枠をぬけでていた。事は一度ではすまない。未来永劫的に大地に傷痕を
残す代物のおそろしさを熟知しているゼノアの叫びをうけとったのは、∀のロ
ラン・セアックであった。ムーンレイスゆえに、その脅威を理解できたのだ。
 ロスト・マウンテンより両軍を撤退させようとするロラン。可能な限り、遠
くへ退避しなければならなかった。
 そして、両軍が離脱しおえたそのとき、天空を照らす光がロスト・マウンテ
ンで巻き起こった。

459 名前:技術大尉ゼノア(歴史の中の日本) mailto:sageP180 [03/11/22 00:30 ID:???]
 スエサイド部隊隊長ギャバンは、離脱かなわず核の閃光のなかで消滅した。
未曾有の悲劇は、核というおそるべき代物をまったく知らない「無知なるひと
びと」の手によってもたらされた。いや、この表現は適切ではないかもしれな
い。旧世紀、核という兵器が誕生した時点で悲劇は約束されていたのだから。
そして、今も昔もその脅威の現実を己の野望達成のために利用しようとする者
たちはあとをたたない。

460 名前:技術大尉ゼノア(歴史の中の日本) mailto:sageP180 [03/11/22 00:45 ID:???]
 その重要な要となる核をにぎるゼノアは、標的とされ、フィルの私兵といっ
てもいいポゥ少尉に引渡しを要求される。ゼノアはこのとき何度も核引渡しを
拒否した。ゼノアにすれば核というおそるべき代物がフィルの手に渡ればより
事態が悪化することは予想できるのだが、となるとたれに核を委ねればよいの
であろう。




461 名前:技術大尉ゼノア(歴史の中の日本) mailto:sageP180 [03/11/22 00:56 ID:???]
 偶然というか、幸運というか。
おそらくやむにやまれずであろうが、ロランたちと出会ったゼノアは核弾頭を
ロランたちにゆだねた。
 追いかけてきたポゥに対し、ロランとソシエがとった作戦は、薄気味わるく
ポゥに受けとめられ、撤退させた。ブラックユーモアである。
 そして、∀の胸元に核弾頭が収納!された。埋めるわけにもいかず、捨てる
わけにもいかない、ロランの苦肉の策であった。その預け人はきわめて有能で
あった。

462 名前:技術大尉ゼノア(歴史の中の日本) mailto:sageP180〜181 [03/11/22 01:19 ID:???]
 が、ディアナに停戦を直訴しにソレイユへいったとき、ディアナ・カウンタ
ーから大反撃を食った(中略)
 歴史というのは、一つの時代が過ぎてしまえばまるで夢のようではないか。
のちにディアナに心服しギンガナムと死闘を繰り広げるフィルですら、このと
き、「手荒いようだが、ゼノアは消すべきである。このことはディアナ・カウ
ンターにとって必要不可欠なことだ」という言葉を残している(略)
 ゼノアの運命は窮まった(略)
 ゼノアはともに直訴にきていたソシエたちをかばいながら、死の前、核兵器
を懸念しつつ、また黒歴史を書くことに……とつぶやいた。
 このゼノアの死後かれにとっていささか不本意すぎる遺産は、∀パイロット
ロラン・セアックによって、宇宙にて効果的な使い方を示すのだが、そのとき
は核という巨大な破壊力がむしろかれのいう「天を焼く剣」となった。ゼノア
の不幸は核という異物に縁をもってしまったことであり、ロランの功明はその
核を委ねられたためにムーンレイスを救うことができたことにある。どちらも
危険スレスレであることに変わりはない。


463 名前: mailto:sage [03/11/22 01:26 ID:???]
ここのところ多忙でつ。スローペースですが保守よろしく。

464 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/11/23 19:53 ID:gvR7WwLs]
保守

465 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/11/24 09:32 ID:???]
ターンエーは独特の味のある作風で、個人的には好きなものでした。
取り上げる題材としてゼノアという着目は面白いと思います。

466 名前: mailto:sage [03/11/24 21:09 ID:???]
>>465
富野作品の良いところは技術・補給畑の人間に見せ場を作るとこでしょうか。
近代兵器の脅威を描くだけでなく、∀の「水をくれ」というような描写も欠かさ
ない。
∀は脇役もいいです。

467 名前:「女王」の軍人(歴史と視点より) mailto:sage権力の神聖装飾・P204 [03/11/24 21:19 ID:???]
 小説シンチョウに載ったトヨダミノル氏の「女王と少尉候補生」をおもしろ
く読んだが、このなかに練習航海をおえた少尉候補生たちが恒例によって参内
し、宮廷の広間で女王に拝謁するくだりがある。べスパの正規将校の養成期間
を卒業した者に対してこういうしきたりがあったのは、「女王の軍人」である
以上、当然の名誉慣習であった(略)
 トヨダ氏の記述によると、そのとき女王はいつもどおりの宗祖の礼服をつけ
ていたという。少尉候補生たちは指導者の少佐の号令でいっせいに「最敬礼」
をした。

468 名前:「女王」の軍人(歴史と視点より) mailto:sage権力の神聖装飾・P204 [03/11/24 21:26 ID:???]
 やがて壇上の人は去った。去る前、その言葉の数々は慈愛と救済に満ち溢れ
ていた。
「これが女神と呼ばれていた頃の、サイド2・ザンスカール帝国女王の姿であ
った。いつの間にか溜まっていた息を吐きながら、Mは大きな陶酔と甘美に酔
いしれていた。未来のべスパ提督に対して、なにか、激励のみの言葉だけであ
ろうかと期待していたのであるが、それ以上のものを得られたからである」
 と、ある。 


469 名前:「女王」の軍人(歴史と視点より) mailto:sage権力の神聖装飾・P205 [03/11/24 21:35 ID:???]
 女王が壇上から消えるときの動作について、トヨダ氏の文章を無断ながら借
りると、
「その人は、はじめ、空を凝視し、その視線を同じ高さのまま、両手をゆっく
りとひろげつつ、ついで、両手を天に上げると、ゆっくりと、つまり、聖母マ
リアがわが子キリストに語りかけるような速度で、言葉を話すと、両手を、目
をとじながら合わせ、そのしぐさを終えると、足音すら響かせることなく、後
ろの部屋に消えた」
 と、ある。

470 名前: mailto:sage [03/11/24 21:38 ID:???]
チョト外します



471 名前:体制の神聖装飾(歴史と視点より) mailto:sageP200〜201 [03/11/24 22:32 ID:???]
 ジャミトフは政府のアイデンティティたる絶対民主制を形而上的理念にして
それを壮重な儀典でもって神聖化することを好んだ(中略)
 ジャミトフの場合には性格もあり、その重厚好みの国家感覚にもよるだろう
が、なによりも大事なのは、かれは地球連邦軍の軍政畑の軍人であったことは
たしかながら、一度も革命家であったことはなかったことである。つねに重要
人物の驥尾(きび)に付し、冒険を好まず、慎重な態度を持し、結局は連邦政
府においては一種の立身出世のようなかたちで戦後の世に入ってしまった人物
で、デラーズ紛争後ほどなく連邦軍中将になり、やがて連邦軍の軍政の最高の
座についた。かれの出世はシャルル・ド・ゴールの出世物語に匹敵するほどで
あろう。そういうジャミトフに立身を保証し、栄誉を与えたのは地球連邦政府
であった。とくに根幹主義たる絶対民主制であった。

472 名前:体制の神聖装飾(歴史と視点より) mailto:sageP201 [03/11/24 22:48 ID:???]
 当時各サイドでは連邦政府が人気をうしない、やがて勃発する反連邦抗議運
動の気分がスペースノイドのあいだで横溢していた。ジャミトフらはデラーズ・
フリートをたおしてようやく旧来以上の強力な連邦政府体制をティターンズを
もってつくろうとしているときであり、これをつくることが残党どもや叛乱分
子に負けない体制強化の実をあげる唯一の道だと信じて、いちはやくグリプス
建設計画を推進したのである。ところが、当のコロニーサイドはそれに対し強
硬に反撥した。軍閥政治を期待する声はアースノイドのみにその萌芽が見える
のみであり、そのことはジャミトフに衝撃をあたえた。

473 名前:体制の神聖装飾(歴史と視点より) mailto:sageP201〜202 [03/11/24 22:58 ID:???]
 ジャミトフはジャブローにいるジーン・コリニー提督に、
「サイドに共和政を望み候はゴミどもの然(しか)らしむる処(ところ)にて」
 と、時勢の現実を素直にみとめ、
「よく行きとどきたるサイド6の政体すら、今日に至りては勢威は地に堕ちぬ
までにて、歎(なげ)くべき事に御座候」
 と書き送っている。

474 名前:体制の神聖装飾(歴史と視点より) mailto:sageP202〜203 [03/11/25 00:36 ID:???]
 ティターンズの地位をいかに重厚にするかということは、かれの終生の宿題
のようなものであった。
 かれにすれば、
―連邦政府体制は、どうも軽すぎていけない。
 という感じがつねにあったが、かといって模倣すべきいい例がなかった(略)
 要するに新たなる連邦体制はティターンズをもって独創的に考えてゆく以外
になさそうであった。新軍閥体制の事実上の創(つく)り手であるジャミトフ
はかれなりにそのことはやってのけた。


475 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/11/29 19:25 ID:UtzWlALR]
保守

むかつくていわんでくれ

476 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/12/01 07:31 ID:???]
>475
 貴君のような人物が保守を続けなければこのスレはデータの
海に沈んでしまうのだよ……任務ご苦労。

477 名前: mailto:sage [03/12/05 15:33 ID:???]
私用で書き込めませんでした。
保守ありがとうございます。

478 名前:或る黒歴史の記録(世に棲む日日(二)) mailto:sageP60〜61 [03/12/05 16:01 ID:???]
「黒歴史」
 という記録は、この当時、たいていの武家の家には蔵されていた(中略)
 ギンガナムはそれをさがしだしてきて見て、とくに公国軍中将ドズル・ザビ
の場面を何度も見、自分はいかにもドズルに似ているとおもった。公国軍の部
将のなかでは、政治軍人の色合いのつよいマ・クベよりも、国防軍時代以来の
歴戦の勇士ランバ・ラル大尉の骨ぶとさと誇りのたかさがすきであった(中略)
 そのくだりに感動し、感動のあまりそれを文章にして女王ディアナの側近ミ
ラン・レックス執政官へ書き送った(略)
 要するに自分の素養がここまで進んだということを、身近な人間に知っても
らう程度の近況報告なのだが、しかし統制官僚たるミランは、この文章をみて
ギム・ギンガナムの将来がそらおそろしくなった。 

479 名前:或る黒歴史の記録(世に棲む日日(二)) mailto:sageP61 [03/12/05 16:23 ID:???]
 ギンガナムの文章は、いう。
「ドズル、ラルをして先鋒の大将たらしめんと欲す。ラル、固く辞す。(ドズ
ル)強いてのち命を受けしむ。(ラル)退いてソロモンにいたり、(ドズルの)
親衛隊員に遭う。ラルの隊に衝(あた)る(ランバ・ラル隊に衝突した)。ラ
ル、無礼を責め、ついにこれを殺す。ドズル大いに怒る。ラル、貌(かたち)
を改めていわく、是(こ)れ臣、前に命を辞する所以(ゆえん)なり。先鋒の
大将にして威なくんば、何をもって令下(れいか)するや。ドズル答えなし」
 ギンガナムが気にいったのは、ランバ・ラルが無礼の親衛隊員を撃って先鋒
の大将たる者の威の重さを示したあたりである。ラルは軍の統率がどういうも
のかを知っており、その威を、威をおそれなかった者を容赦なく撃つことによ
って示したのである。ドズルがその横暴を怒ると、「だから私はさきに辞退し
たのです。先鋒の大将たる者はそれほどの権威を持たせてくださらぬかぎり、
つとまるものではございませぬ」といったあたりはいよいよ好きであった。ギ
ンガナムはこの文章を、「ドズル無答」の五字で締めくくった。ラルの道理に
負けてむっとしているドズルの表情が、この簡潔な五つの字によくあらわれて
いるが、ミランは、それをほめる余裕などはなかった。かれは穏健な官僚で、
ギンガナムに対しても将来も穏便であってもらいたいと熱望している。

480 名前:1 mailto:sage [03/12/06 21:48 ID:???]
保守



481 名前:戦士二人(軍師二人より) mailto:sageP350〜351 [03/12/06 22:06 ID:???]
 ケリィは、ただちに完成したMA・MA−06ヴァル・ヴァロで出撃した。
ひらかれた廃港からモノアイを不気味にひからせながら、轟音とともに月面に
飛び出した。
 月面上空を飛んでゆくケリィのヴァル・ヴァロは、前方に無意味に射撃をか
ましているザクを発見した。そのマシンガンをひたすら乱射するザクに乗って
いる男は、さきにヴァル・ヴァロを引き取りにきたクルト中尉である。背がひ
くい。
 落とし前をつけるべく(かれにとってははなはだ不本意であるが)立ちふさ
がろうとするクルトであったが、ケリィにとってはこんな小物など眼中にない。
左手でレバーをひき、ヴァル・ヴァロを加速させ、あっというまにザクを真っ
二つにしてしまった。

482 名前:戦士二人(軍師二人より) mailto:sageP351 [03/12/06 22:34 ID:???]
 RX−78GP01Fb・ガンダム試作一号機(宇宙仕様)のパイロット
コウ・ウラキは、ペガサス級7番艦・強襲揚陸艦アルビオン艦内で敵MAが
こちらに接近しているということを聞いた(略)
「ケリィさんなのか・・・本当に」
 20歳のコウはつぶやいた。パイロットとしての自信をうしないかけていた
とき、ケリィ・レズナーと出会い、さらに未完成だったMAヴァル・ヴァロの
修理にたずさわったことがどれだけ自分にとって大きかっただろうか。それだ
けに、単純にわりきれない気持ちがある。

483 名前:戦士二人(軍師二人より) mailto:sageP352 [03/12/06 22:48 ID:???]
 ケリィはヴァル・ヴァロのビーム・ガンをフォン・ブラウンに放ったあと、
アルビオンに対し回線をひらいた。
「GMなどを相手にするつもりはない。ガンダムを出せ。さもなくばフォン・
ブラウンをこのヴァル・ヴァロで焼く」
 と、ケリィは、アルビオンに通達した。アルビオン艦長エイパー・シナプス
は訝(いぶか)しんだ。名指しで一騎打ちとは酔狂な敵であった。
「やむをえん。ウラキ少尉に託す」
 ガンダム試作一号機の背部がひかった。
 コウの搭乗する一号機は、ケリィのヴァル・ヴァロにむかって、加速した。

484 名前:戦士二人(軍師二人より) mailto:sageP354 [03/12/06 23:01 ID:???]
 月面というひろびろとした舞台の上に、真っ赤なカラーをしめしながらヴァ
ル・ヴァロがとんでいる。ガンダムが来たことを確認したケリィは、右手でレ
バーを押し込み、ヴァル・ヴァロを突進させた。と、敵の機体から声がきこえ
た。それはケリィにとって思いもよらない声であった。
「ウ、ウラキか!?君がガンダムを……」
 ケリィはほんの少しのあいだ考えたが、すぐ思いなおした。たとえ相手がど
んなパイロットであろうと、戦士として戦場に立ったからには死力のかぎりを
つくして戦いぬくこと、それこそが戦士の道であるはずであった。

485 名前:戦士二人(軍師二人より) mailto:sageP354〜355 [03/12/06 23:18 ID:???]
 ケリィのヴァル・ヴァロに対して、コウは一号機を月面に着陸させ、ビーム
ライフルを撃つ構えをみせながら、問いかけた。こんな戦いなんて、本当に意
味があるんですか、と。
「甘い!甘いぞウラキ!戦いに状況など選べはしない」
迷うこともない、いや、義理や迷いという感情は自らに死をもたらす可能性も
ある。コウの甘ちゃん根性を叩きのめすべく、ケリィはヴァル・ヴァロの大型
メガ粒子砲の砲門をひらき、すぐさま一号機むけて撃った。
 私情をもちこみつつ戦いに挑んだのは、連邦軍少尉コウ・ウラキの不覚であ
った。撃ちこまれてきたビームをぎりぎりで回避したが、左手に握られていた
シールドはビームの熱量に耐えきれずドロドロにとけた。
 ケリィは体勢のととのわぬガンダムにヴァル・ヴァロの110ミリバルカン
砲を浴びせ、猛烈ないきおいで一号機を吹っ飛ばした。

486 名前:戦士二人(軍師二人より) mailto:sageP355 [03/12/06 23:32 ID:???]
 宇宙に蒼き地球がそのかがやきをたたえている。コウは、狼狽した。見あげ
つつ、月面上空を飛びまわるヴァル・ヴァロにむけて、ビームライフルを撃っ
た。ところが、一発も命中しないどころか、おかえしにヴァル・ヴァロから放
たれたビームの衝撃で、月面上に一号機を叩きつけられる有様だった。
「命を……命をかけてまで戦う目的はなんなんです!」
 と、コウは、しつこくケリィに問うた。ケリィにすれば、どこまでも甘いと
しかいいようのないことだったが、
「すでにデラーズ閣下が述べられたはずだ。だが兵士は闘争本能こそが」
 言い終わる間もなくレバーのスイッチを押し、ヴァル・ヴァロに装着されて
いる特殊兵器を一号機へむけて発射した。三つの特殊兵器はひとつずつ月面に
突き刺さり、コウのガンダム一号機をトライアングル状にかこんだ。

487 名前:戦士二人(軍師二人より) mailto:sageP356 [03/12/06 23:48 ID:???]
 コウは、あわてた。一号機をかこんでいるものが不発弾のはずはない。しか
し、それにしてもなにがはじまるのが見当がつかない。
 ほどなく、三つの特殊兵器のフタがひらき、光をあげたかと思うと、衝撃が
ガンダム一号機をつつみこんだ。かつて連邦軍のエース・アムロ・レイをくる
しめたことのあるいわくつきの拘束兵器プラズマ・リーダーである。もちろん
アッザム・リーダーとおなじくらいの力はもっている。
 が、ケリィの戦運もながくはつづかない。
 コウを支援すべくRGC−83ジム・キャノンUのキースがアルビオンより
かけつけ、さらにアルビオンを飛び出したニナ・パープルトンが直接訴えかけ
てきた。
「ニナさん!?どうしてここに。―」
 ケリィが、思わず動揺してしまったのは、このときである。



488 名前:戦士二人(軍師二人より) mailto:sageP356〜357 [03/12/06 23:58 ID:???]
 が、なおも上空をヴァル・ヴァロで駆けているケリィは、盟友ガトーと関係
のあったニナを撃ってしまったという手違いはあったが、意外なほど手ごたえ
を感じていた。
(あたったではないか)
 相手が、である。これこそが、戦士の本懐というものであろう。かれが戦っ
た相手は、かれが期待した資質以上のものをもっているようだ。
(これでいい)
 これこそが、戦いというものだ。ケリィにすれば、華やかな戦士としての行
いを飾れればそれでいい。

489 名前:戦士二人(軍師二人より) mailto:sageP357 [03/12/07 00:08 ID:???]
 ケリィの右手は限界にきていたが、それでも敵のガンダム一号機をヴァル・
ヴァロの手につかむことができた。ライフルのないガンダムなど、もはやしま
いだ(略)
 が、誤算が生じた。
 ガンダムには分離機能があるのだ。かけ声とともに上半身を分離させたコウ
は背中からビームサーベルをひきぬいて、渾身の力をこめてヴァル・ヴァロに
突き入れた。
「コウ・ウラキ!聞こえるか。おれは後悔してないぞ」
 そういって、脱出装置をと叫ぶコウに対し、目をとじながらそんなものは積
みこんじゃいないと言い放った。すでに、覚悟はできていた。
 

490 名前:戦士二人(軍師二人より) mailto:sageP358 [03/12/07 00:20 ID:???]
 ケリィに参戦を要請したガトーは、茨の園にて、グラードル少佐のペール・
ギュントで、星の屑作戦の準備をすすめていた。
(ケリィ…ケリィらしい死場所をえたか)
 ガトーは、思ったにちがいない。べつに不人情でもなく、ケリィ・レズナー
というジオン精神を体現した戦士はそれにふさわしい戦場で散り、自分という
軍人もまた、その星の屑を成就させたうえで、華麗に死場所を得たい。
 そう思ったにちがいない。




491 名前:1 mailto:sage [03/12/07 20:42 ID:???]
ageるべきか悩みますが・・・

492 名前:ガンダムの足どり(歴史の交差点にて) mailto:sage―日本・中国・朝鮮・P195 [03/12/07 21:19 ID:???]
シバ「ガンダムを見ていて、いつも思うんですが、たとえば富野ガンダムでは、
少将とか、准将とか、メインの軍人は、ほとんど最前線にいますね。ガンダム
以外の作品でも、メインキャラクターは戦死・死亡の確率が高いのに、平成ガ
ンダムではまったくといっていいほど戦死しない。ずっとメインキャラ、主役
級だからということで生かされる。Gガンダムの場合には戦争というものでは
なくて「武闘」という形式ですので違う種類に入るんですが(略)
その習慣を守って、種のキャラクターは、かわりがいくらでもききそうな薄っ
ぺらい存在なのに、メインはほとんど生き残る。たとえば最終局面においても、
ラウ・ル・クルーゼは最大の敵であるはずなのにそれがかぼそくなってしまう
ほどに主人公側は過保護に優遇されすぎている。
 こんなことは、つまり本物のガノタなら、もう絶対こんな低レベルな表現し
かできない作品がガンダムなんて金輪際認めたくありませんよ。過剰なほどに
ご都合主義でなけりゃ成立しない作品などあってはならない。
 そういう作品が最先端のガンダムとして世に出ていることを見たら、ガンダ
ムというジャンルも、ずいぶん商業主義的です。つまり、そういう質の度合い
を無視した金権主義が第一にある」

493 名前:ガンダムの足どり(歴史の交差点にて) mailto:sage―日本・中国・朝鮮・P195〜196 [03/12/07 21:41 ID:???]
キム「Wでは連合・財団の、軍司令官や貴族らがそうでしたね。統率者は当然
のように有能ではないわけです。そういう例はXにもあるわけですね。
 W・Xのいわゆる高級将官・高級貴族というやつは、これは必要以上に有能
であってはいけないというお約束があるわけです。だから、ホワイトファング
が襲撃してきたときに、不自然というくらいに、宇宙にあがってきたデルマイ
ユを、もう用なしといわんばかりにさしたる抵抗もさせずに消す……」
シバ「それは、だいたい脇役クラスのキャラクターでしょう」
キム「脇役クラスです」
チン「いかにもそうやねえ。Wを見ると、オペレーション・メテオからアルテ
ミス・レボリューションまで、平成ガンダム世代のガノタは、みな言ってます
ね。少年パイロットはいいけど、美形じゃない脇役キャラはどうでもよかった、
と」
キム「平成ガンダムシリーズの場合、一つは商業的な配慮があって、商品たる
ガンダムに搭乗するキャラクターを優先的に描く、ということもあったらしい」

494 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/12/08 14:47 ID:In9r6fi/]
保守

495 名前:斬って候(酔って候より) mailto:sageP20〜21 [03/12/08 21:06 ID:???]
 装束をぬぎすてて、
「スウェッソン、来い」
 と、大尉スウェッソン・ステロの腕をとった。角力(すもう)をとろうとい
うのである。みなおどろき、閉口したが、この御大将と呼ばれている男は首を
ふってきかない。「本気でかかってこい。もし本気ならねば切腹を申しつける
ぞ」といった。みな、内心腹が立ち、
(されば取りひしいでくれよう)
 とまず巨漢のスウェッソン・ステロが立ったが、これは瞬時に投げとばされ
て背後のふすまを、芯まで叩き割って倒れた。
 あと、歩兵隊長カシム以下、ダイミョウの主だった者、ことごとく投げ出さ
れ、シッキネンのごときは二度打ちかかって行ってとっさに足をすくわれ、撓
(どう)とあおむけざまにひっくりかえった。
「どうだ、おれに及ぶ者があるか」
 と、この武家の棟梁はサムライのことごとくを征服して座敷の中央で仁王立
ちになり、奥へ入ってしまった。
 みな、ぼうぜんとした。
「お強い。――」
 と、やがて顔を見あわせ、相手の威厳に摺伏(しょうふく)するよりもまず
肉体的な畏怖感をもった。一種の統御法といえるにちがいない。

496 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/12/08 21:08 ID:???]
>>481-490
0083ネタ(・∀・)イイ!!

497 名前:斬って候(酔って候より) mailto:sageP34〜35 [03/12/08 21:23 ID:???]
 この穏健派の重鎮は、単に黒歴史通、政務を司るだけでなく、大物の風があ
る。
 酒宴になった。
 この男も大酒家だが、アグリッパの酒量もそれに劣らない。たがいに飲み、
いよいよ宴がたけなわになったとき、
「どうだ」
 と、この男は、左右をながめた。左右にはギンガナム隊ダイミョウ(注・部
隊長をさす)のほかにケイサン・ダカーイをはじめとしたメンテナー家の要人
らがずらりとならび、みな飲んでいる。
「アグリッパ・メンテナー殿もおられることゆえ、聞いていただこう。小生が
もし黒歴史の世に生まれればたれと思うか」
 といった。
(アナベル・ガトー)
 と、御大将ギム・ギンガナムはいってほしい。つねづね公国軍人アナベル・
ガトーの英姿颯爽たる風貌を愛し、みずからガトーのごとくたらんとこの男は
心掛けている。
 みな、当惑してしまった。
 この男は、くどい。「さあ、たれか。たれに擬すべきか。申せ申せ」と連呼
しながら左右の頭をずーと見渡してから、
「ケイサン殿、返答せよ」
 といった。

498 名前:斬って候(酔って候より) mailto:sageP35〜36 [03/12/08 21:43 ID:???]
 この「重鎮の秘書」はひどく当惑し杯に目をふせてしばらく考えていたが、
「シャギア・フロスト」
 とつぶやいた。
「なに、シャギア」
「左様か、と存じまする」
 と、ケイサンはいったが、この男はありありと不服の色をうかべた。シャギ
アは政府再建委員会のエージェントで復讐の野心あふれ、MSパイロットとし
てビームサーベルをふるって敵を斬りなびかせるよりも、陰謀をもって敵の内
部崩壊をはかり、しかるのちにじわりと手をのばす、という型の男である。お
よそこの男らしくないであろう。すくなくとも、子供の好む英雄ではない。
「小生は不満である」
 と、この男は杯を置き、
「きょうは、メリーベル・ガジュットが座におらぬ。メリーベルがもしおれば、
アナベル・ガトー、とこたえてくれたであろうに」
 といった。
 このとき、哄笑がおこった。相手は、穏健派頭領アグリッパ・メンテナーで
ある。
「あっははは、おにゃくい、おにゃくい、おにゃくうおわすのう」
 と、すでに酔っていた。にゃくい、とは黒歴史の舞台よりもはるか前におこ
った道徳・倫理の教え「儒学」用語で、わかい、という意味である。
「なに、にゃくいと?」
 かれはおどりあがった。席をとびこえて走り、アグリッパのそばに倒れこむ
と、
「頭領殿。なぜにゃくいと申された。されば剣舞はいかがである」
 と、袖をまくり、武芸できたえた大腕をアグリッパの顔面ににゅっと突き出
した。「ガトーだから剣技もつよい」というところを見せたかったのであろう。
「おおさ」
 と、アグリッパも大酔している。「お相手つかまつりましょうず」と腕を出
すと、ケイサンらがおどろき、アグリッパを制する一方、この男を上座につれ
もどした。

499 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/12/08 22:01 ID:In9r6fi/]
保守

500 名前:斬って候(酔って候より) mailto:sageP38 [03/12/08 22:03 ID:???]
 白の宮殿ではこの男は片隅に立たされていた(略)
 ここでかれは諸侯を睥睨(へいげい)し、というより冷笑して立っている。
(極左どもめが)
 というつらつきであった。事実そうであろう。女王ディアナ補佐の諸侯とい
っても、ボンクラ同然の者もいるし、市民階級出身のために挙措ふるまいがや
けに下賤すぎている者もいる。それからみればこの男は一流の黒歴史知識をも
ち、日本刀をにぎればそれで食うにこまらぬというほどの武芸者であり、すも
うをとればゲンガナム、ギンガナム艦隊のダイミョウがことごとくころがされ
てしまう。
(それほどの小生を、なぜディアナと極左穏健派どもは真っ当に扱わぬ)
 というのがこの男の不満であった。
 なるほど、武を司るギンガナム家は月の政治には口を出せぬ。出せぬが、―
―御大将、この問題、いかがでござる。と、かるく相談くらい持ちかけてくる
のが当然ではないか。



501 名前:斬って候(酔って候より) mailto:sageP39 [03/12/08 22:20 ID:???]
 当時、執政官筆頭はミラン・レックスである(略)
 執政官になって以来、官歴もふるく、識見もすぐれ、人物も温和で、
しかも果断に富み、政務官としては出色の人物とされていた。
 ある日、執政官ミラン・レックスが体を運びつつ廊下を渡っている
と、
「執政官殿」
 と、よぶ声がする。
 ミランはふりむいた。みるからに精悍そうな男がサムライの姿で立っ
ている。
(ああ、御大将か)
 と、胸中微苦笑がわきあがったが、ミランは顔には出さない(中略)
(おもしろい仁だ)
 ともおもっていたし、
(多少、武門の棟梁になって、無用なほどに意気込んでいるところもあ
る)
 とも、思っていた。ミランの思うところ、鼻つまみ程度の存在である
武家はべつにいきおいこむほどの稼業ではないはずである。しかし武の
棟梁・御大将ギム・ギンガナムは、棟梁になったことがうれしくどうに
もたまらぬらしい。…… 

502 名前:斬って候(酔って候より) mailto:sageP39〜40 [03/12/08 22:31 ID:???]
 とみているが、表面は世馴れた老吏らしくいんぎんに、
「これは御大将殿、ご機嫌はおよろしいようでございますな」
 と微笑した。
 男は、さっと身をただし、するするとミランのそばにやってきて、
「お耳を」
 と、笑いもせずにいった。
「ほう、お耳でございますか」
 ミランは、体をななめにした。男は、唇をその耳にあて、
「御政道を御一身に引き受けられ、ご心労さぞかしと拝察つかまつる」
 と仔細らしくいった。ミランが、「いやいや」と苦笑すると、男はさ
らに言う。
「されどかく申すは表面のこと」
「ほう」
「実は、おおぜいの愚民諸侯どもを相手のこととて、お気楽なことかと
存ずる」
「これはおたわむれを」
「しかしながら、小生ギム・ギンガナムだけは今後、ご厄介に相成りた
い」
 といって、男は廊下のむこうへするするとはなれてゆく。その姿をミ
ランは茫然と見送り、
(まったく、妙な仁だ)
 と、首をふった。 

503 名前:斬って候(酔って候より) mailto:sageP51 [03/12/08 23:05 ID:???]
 かれの黒歴史主義は、最初こそかれの教養を装飾するかがやかしい光
彩だったが、いまはそれが骨髄に固まり、一種の病根になりはじめてい
る。かれは演習艦をつくらせた。
 軍事費がすくないために製造費もやすく、自然工人が手をぬき、ほと
んどギンガナム艦隊らしい性能と容姿をもたずに竣工した。そのため、
演習対象艦としてはその役に似あわず、G−838マヒローらを駆けさ
せると演習の手順がくるい、あろうことかギンガナム旗艦「アスピーテ」
にビームが命中、かれの采配をもってしてもかなわず、ついに、配下の
ダイミョウに電文をやり、
「咄(とつ)、われを中将マクファティ・ティアンム提督にするか」
 と、書いた。隊員一同、マクファティ・ティアンムにするとは何の意や
らわからず、ほうぼうの黒歴史学者にききまわってやっと知った。一年戦
争終盤、マクファティ・ティアンムがソロモンにおいてソーラ・システム
を用い、ついにジオンの防衛線の要・宇宙要塞ソロモンに一大打撃をあた
え、MS部隊を発進させたあと旗艦タイタンを前線に進ませた。全連邦艦
隊の総指揮を採るうちにソロモンに篭城していたジオン公国軍中将ドズル
・ザビ自らが搭乗する決戦用巨大MAビグ・ザムが出撃してきて、それに
対処しようとするところをビグ・ザムの大型メガ粒子砲で旗艦ごと消滅さ
せられた。ダイミョウの一人は十日目にやっとその黒歴史の出来事を知り、
「おそれながら相わかりました」
 というと、ギンガナムは杯をふくみ、
「洒落がわかるまで十日かかっている」
 と苦笑した。「十日も小生をマクファティ・ティアンムにしていたこ
とだ」

504 名前: mailto:sage [03/12/08 23:12 ID:???]
良好な反応キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
もうちょっと書きます。



505 名前:アニメーターと漫画家(微光のなかの宇宙) mailto:sage激しさと悲しさ・P101〜102 [03/12/08 23:29 ID:???]
―安彦良和の偉業―

 安彦良和との最初の出会いは、むろん大河ロマン・民族主義的な大義の荒波
に立ち向かう少年を主体とした漫画を見たのではなく、やはり「機動戦士ガン
ダム」というアニメーションである(略)
 再放送ながらも、この一見従来のロボット物の系譜を継いでいるともみられ
る(もはや私の少年期には周りにも当然根づいていた)作品を見ることができ
たことは稀有な幸運であった。
 その当時、私は歴史、とりわけ過去の映像というものに凝っていたといえば
いえるかもしれない。私は過去の映像作品のなかでもっともその時代の風景と
人間模様を映した実写映像が一方では好きなのだが、そのこととアニメーショ
ンへの関心とはどうも私のなかで矛盾しないらしい。 

506 名前:アニメーターと漫画家(微光のなかの宇宙) mailto:sage激しさと悲しさ・P102 [03/12/08 23:49 ID:???]
 ともかくも、私は安彦良和は当初アニメーターかと思った。しかしその後資
料などを見て、かれが漫画家となっていたことを知った。明治時代、屯田兵と
して入植した家系の三代目として北海道に生まれ、少年のころから漫画家にな
りたいという願望をもち、弘前大学に入学するものの当時全国レベルで波及し
ていた全共闘運動に参加して大学側から「除籍」され、そのこともあって食う
ために上京し写植工場の職工をへて、偶然にも虫プロの見習いアニメーターの
募集に応じて虫プロ第二期生としてアニメーターとしての道を歩み出した。あ
とで触れるかもしれないが、実写映画志向や貸本漫画家といった者がアニメー
ション界へ身を投じるときにその行いが激烈になる場合が多い。あるいは制作
の情熱が高い者がアニメーションに入る場合が多いといっていいのか。ともか
くも、日本アニメーション(とくに虫プロ)における創成期には稀といってい
いほど偶然入ったという例が多い。



507 名前:アニメーターと漫画家(微光のなかの宇宙) mailto:sage激しさと悲しさ・P104 [03/12/08 23:55 ID:???]
 安彦良和の絵については、最初のころに目にした「機動戦士ガンダム」で
は、ややばらついた作画の印象が目につき、まだ当方が少年であったことも
あって、そういう作画面での観賞には関心がなく、ともかくもそのあたりで
当時の記憶が途切れているせいか、心をとらえられたというほどの印象はも
たなかった。

508 名前:1 mailto:sage [03/12/12 09:42 ID:???]
Zガンダム2004・・・チョト複雑。

509 名前:種の専門用語(対談集) mailto:sage日本語と日本人・P147〜148 [03/12/12 10:14 ID:???]
トクガワ「作り手のなさったことを批判するようですが、キャラクターたるも
の、四六時中おんなじイメージ・パターンのはずはないと思うんです。それを
強制するとすれば不自然です(中略)毎回毎回、一定の型をパターン化すると
いうのは、行き過ぎだと思いますね。続編を創り出していく苦悩の一つのあら
われかもしれませんけど」
シバ「まあ、そうでしょうね。ですけれど、種の製作者というのは、オマージ
ュと少年愛が好きですから……(中略)
 私は種を見ていて、普通、ネーミングはもう少しひねるべきなのにKellrから
「キラ」ととる。アスランは「夜明け」からとる。ラクスは「湖」。それから
もっとこっけいなものはないかなあ。そうそう、カガリは単純明快に「かがり
火」、SEEDというタイトルは後付けで、意味などないと、―
 あれは非常な低俗語ですね。劇中でナチュラルが、たとえバルトフェルドが
それらしく言ったところで、(笑)低俗語です。そして、ガンダムがだめになっ
ていったのは、どうも種がアニメーション界を占領したからだと思うんです」
トクガワ「そうかもしれませんね。しかし一方で、「お前は生きる価値のない
人間だ」と言われてもそれでも最後まで自分のカラに閉じこもったままだとい
う異常な描写を遂行するためには、異常な感性がなければできなかったとも考
えられますよ。種の政治家、パトリック・ザラやシーゲル・クラインの描かれ
方は私は、あまり好みませんけれども……」
   

510 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [03/12/12 22:00 ID:???]
保守



511 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP145 [03/12/12 22:20 ID:???]
 ディアナ・カウンターが地球帰還作戦を発動する前、ハリー・オードはギム・
ギンガナムを見かぎり、独断でギンガナム隊を脱退した。そこは一介の隊員の
身だった。この男が居ようと消えようとギンガナム隊に何の変化もない。
「ギンガナムを見限ってまいりました」
 と、ハリーが女王ディアナ・ソレルにいったとき、ディアナの固い表情がみ
るみる溶けるようにして笑顔にかわった(中略)
 この男は、あくまでもディアナに忠節を尽くしたかった。もし自分のこの資
質が試されることなく世を終えることがあっては死んでも悪逆の汚名をかぶり
つづけるのではないかと執拗に思いつづけ、その執拗さがそのままギンガナム
やスウェッソンへの憎悪になった。もっともギンガナムやスウェッソンにすれ
ば、視野からはるかに遠い男がそれほど自分を憎んでいるなど、気づきもして
いない。


512 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP9 [03/12/12 22:28 ID:???]
 ロラン・セアックをもって、市民の出身といえるかどうか。
 市民は富裕層である。この点で、ロランはそうではなかった。また市民は居
住環境が整えられており、知識層としてもほぼ幸福な生活を享受していたが、
ロランは生まれたころから相当の苦労人であった(略)
 正直と可愛さ以外にどういう力も持っていないという点では、ロランはやは
りはずれムーンレイスにちかい。

513 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP47〜48 [03/12/12 22:50 ID:???]
 ロランの人間について、
「生まれたままの主人公」
 という含蓄に富んだ表現を、古くはM博士がつかい、近くはカイズカシゲキ
博士がつかっている。
 ガンダムの長い歴史のなかで無垢と中性で存在しえたのは、ロラン以外にな
い。他にZZのジュドー・アーシタがあり、おなじく下層市民の出であったが、
しかしジュドーの場合、無垢という概念とはほど遠く、中性的性質とは言い難
い独自の個性をそなえていた。ロランという少年はそういう余計な個性ももた
ず、この月の土俗のなかからうまれ、土俗という有機質を、育ちのよさや教養
で損ねたり失ったりすることなく身につけ、文字どおり裸のまま騒乱の世間に
出た。
 ロランが、自分に従属的な属性を付加しようとしたのは、かつて触れたよう
に、ハイム家の令嬢でかつ主人といえるキエル・ソシエ姉妹を尊敬しその忠実
な使用人になろうとしたぐらいのことで、あとはただ自然に土俗的信仰として
ディアナへ思考し、ふるまい、平素、外見は女性のようにおしとやかであった。

514 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP63 [03/12/12 23:14 ID:???]
 ディアナは、ついに黒歴史の真実をあかした。
 この詳細はたちまちゲンガナムに走り、白の宮殿と市民を大混乱におとし
入れた。
 このときすでに側近のミーム・ミドガルド予備役大尉は主のアグリッパ・
メンテナーとともに、データ室で黒歴史の映像をみていたが、
(これでアグリッパ・メンテナーは不要)
 ということをたれよりも早く察し、むしろ積極的に排除することによって女
王の心証をよくしようと考えた。予備役大尉ミーム・ミドガルドはガンダムの
陰謀家史上、もっとも陰湿な腹心の一人とされる。黒幕の特性も、典型のよう
に多量にもっている。少年の悪事のように欲求にかなうものを求めることにつ
いての策謀に熱中するのである。ただその前後をかえりみる感覚に欠けており、
それだけにやることはすさまじかった。
 ともかくもミドガルドは、その生涯でもっとも多忙な数時間を送ることにな
った。

515 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP63〜64 [03/12/12 23:31 ID:???]
 まず、偽りと真実を秘匿していた穏健派の巨魁アグリッパを殺さねばならな
い。
 理由は二つあった。ひとつはいままでアグリッパの指令どおりディアナを除
くためにその穏健派の手となって動いてきたのだが、真実を知ったいま愚行を
積みかさねる必要はどこにもない。これからが問題だった。アグリッパがこれ
からも生きつづけるとすれば自分はおそらくただではすまないだろう。当然、
ディアナ排斥に失敗しつづけたミドガルドを消そうとするにちがいないが、ミ
ドガルドの側からすれば消される前にアグリッパを殺す。ミドガルドの思考は
つねに即物的で、いまひとつの理由もそれに似ていた。アグリッパを殺すこと
によって非はアグリッパ個人にあったとし、それをたねに女王ディアナに忠誠
ありとみせ、もし女王がそれでも疑惑を抱いたとするなら即座に銃で亡き者と
するのである(略)
 ミドガルドは若いころからみずから影のごとくあらんと努めていた男であっ
たが、アグリッパ派の将校だっただけに、学問はあった。しかし結局は安定し
た感情をもたないためにその発想と行動は自己保存への欲望にむかってたえず
錐(きり)のように直線的に旋回した。

516 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP71 [03/12/13 00:18 ID:???]
 アグリッパ暗殺後たまりかねたミドガルドが痩せすぎた体でみずから戦艦ジ
ャンダルムを白の宮殿に乗り入れさせてきた。スウェッソン・ステロのマヒロ
ーと激闘を繰り広げるハリーのゴールドスモーとソシエのカプル。マヒローは
撃退できたが、乗り入れてきたジャンダルムの砲門は宮殿をとらえていた。か
れの言い分では人工冬眠しているドームへは被害はおよばないというが、まず
ありえないであろう。
 本気で宮殿を破壊するつもりだとみたハリーは、専用のゴールドスモーを矢
面に立たせた。ミドガルドの号令のもと、一斉砲射とミサイルが放たれた。も
はやすべてが破壊されるかと思われたそのとき、前面に出た∀が七色の光を放
ち、バリアを形成するように壁をつくりだし、さらに渾身の力をこめてジャン
ダルムを押し返しはじめた。
 ひとびとが驚嘆したのは、∀がつくりだした光がすべての物質とエネルギー
をすさまじい勢いで吸収しつくしているということであった。これほどの力は
ハリー専用スモーにはない。スモーのIフィールド形成能力はこの光にくらべ
れば足もとにもおよばない。
 その光景に物怖じしたのはジャンダルムの乗員だけではなかった。ミドガル
ド本人が恐怖におののいていた。文明消滅の根源たる∀、あれこそまさに黒歴
史の象徴ではないか。かれはみずから月光蝶発動の要因をつくってしまったの
である。


517 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP71 [03/12/13 00:31 ID:???]
 錯乱状態になったミドガルドは艦橋を出て、一目散に駆けはじめた。ミドガ
ルド一生の不覚であった。だが気づくのが遅すぎた。この陰謀家の役目はアグ
リッパ暗殺の時点でおわっていたのかもしれない。
 ひたすら救いをもとめるべく独り言を発しながら駆け、ついに艦内部の扉を
ひらいて外へ出ようとした。ミドガルドはこの期におよんでも自己保存の行動
をしようとしていたが、ついに運がつきたようであった。ミドガルドの前に立
ったハリーはディアナにかわってミドガルドを裁くために、スモーの右手を勢
いよく振るって、ようやくこのばけもののような男を死体にすることができた。

518 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP240 [03/12/13 11:17 ID:???]
 ジョゼフ・ヨットは、口がわるかった。
――くずのようなやつだ。
 と、自分の同僚やムーンレイスのたれかれを、頭ごなしにののしることがあ
ったが、しかしロランに対するときの罵倒は好悪から出ていた。
「いやなやつだ」
 つい、口に出していってしまう。

519 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP241 [03/12/13 11:23 ID:???]
「ロランはたいしたやつだ」
 ルジャーナ・ミリシャのパイロットたちはみなほめた。
「わるいやつじゃありませんよ」
 と、たれかがかばうと、ジョゼフはあたり前だ、と大声を出し、
「あれで悪ければどうなる」
 と、いった。ジョゼフは口ぎたなく罵ったり、腹を立てたりするとき、つい
マバ族生まれのコンプレックスが出てしまう。

520 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP258 [03/12/13 11:32 ID:???]
 ディアナは、ロランに勝たせたかった。
 すくなくともギム・ギンガナムが勝てばどうなるか。
 ギンガナムはひとたび自分の軍門に降った者に対しては肉親のように愛する
が、裏切るか、あるいは無縁の者に対してはどんな残虐なことでもやった。地
球侵攻において非戦闘員問わずことごとく破壊しつくし、皆殺しにしたという
すさまじさは、平和ということとおよそ遠かった(略)
 その悪虐ぶりは騎士道という倫理感情からおよそ遠い。



521 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP258 [03/12/13 11:49 ID:???]
 ディアナにとって、こまったことがある。
(コレンは、なしがたいことをやった男だ)
 ということであった。かつて女王を亡き者にせんとして蜂起した叛乱分子8
5名を本能のおもむくままに惨殺した軍人はコレン・ナンダーであった(略)
 むろん反逆者を賊として討伐したのであるから、コレンは死刑になることな
く、かれの搭乗MS・TAF−M9イーゲルともども冷凍刑に処された。その
ために長髪だった髪は抜け落ち、解凍時のミスから顔の皮膚の一部が変質して
しまい、かつて二枚目といわれた面影はどこにもみることができない。

522 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP264 [03/12/13 12:03 ID:???]
 コレンは、出家遁世していた。
 この男は∀―かれがガンダムと呼ぶMS―打倒に執念を燃やし、イーゲルを
もって戦うも思わぬ人物の出現によって破れた(中略)
 世の無常を悟ったのか、それとも単に記憶を失っただけなのか。コレンはま
るで「ビルマの竪琴」の水島上等兵のように竪琴と杖をもち、ただひたすら、
難解なお題目を唱え彫刻を彫り続けるだけであった。

523 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP264〜265 [03/12/13 12:14 ID:???]
 コレンは戦場では黒歴史の悪魔と呼ばれた戦士たちのように強かったが、い
ざ憑き物がおちてみると、信じがたいほどに穏和になったようであった。
 そのくせ、潜在意識はのこっている。
 この男は、のちに証拠があるが、月光蝶発動をもっとも危惧していた。アグ
リッパとおなじく月光蝶の影響を知っていた者としては、サムライであるギム・
ギンガナムがいる。が、この騒乱に浮沈したほとんどのひとびとは黒歴史の知
識やことがらを多少なりとも知っている程度で、月光蝶という、地球文明を封
印しつくし、すべてを無に帰した惨禍を身をもって知っていた者は数すくなか
った。一人が、コレンであったことはまちがいない。

524 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP265〜266 [03/12/13 12:27 ID:???]
 コレンは、収穫祭の村で∀をみたとき、
(なぜガンダムちゃんを倒しておかなかったか)
 という悔いが、みるみる身体の中にひろがった(中略)
 コレンは、わざわざお嬢さん(ディアナ)を背負ってきたこの楽しむべき場
所に仇敵のようにガンダムがいるとはおもわなかった(中略)
(なんとしてもガンダムを倒さなければ)
 いつまでも自分の気は晴れはせぬ、とこの男は思っているのだが、しかしこ
の執念のただひとつの―しかも致命的な―欠点は、ガンダムを倒したという実
感をコレンがもたないかぎり、永遠におわらないということだった。


525 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP266 [03/12/13 12:37 ID:???]
 このため、結局はガンダムという悪しき記憶を断ち切らぬかぎりもとの場所
にもどってしまうのである。モビルリブで暴走し、作り物のガンダムにとびつ
いていくコレンをみて、ディアナはロランにコレンの気の済むようにさせてあ
げなさいといった。幸い(?)にもコレンは本物と作り物の区別がついていな
いようなのである。ハリーの助言でロランは一芝居うった。倒されるフリをし
たのである(中略)
 コレンは、ついにガンダムの首を斬った。
 「ガンダムよぉ、おめえはいちゃいけねぇんだ」
 白い悪魔を無事倒した、と信じているコレンは村を後にした。本懐をとげた
その表情はまことにスッキリとしたものであった。

526 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP23 [03/12/13 13:05 ID:???]
 アメリア大陸におけるディアナ・カウンターは、女王の統制から離れてしま
っている。
 事実上のディアナ・カウンター(地球駐留の軍)のぬしは、フィル・アッカ
マン大佐であった。フィルについてはかつてふれた。アジ大佐の補佐をしてい
た人物で、その後、地球降下後の和平会談の席上でアジ大佐が暗殺されてから
は、アジの宥和路線を軌道修正し、女王ディアナとは不倶戴天の敵になった。
 ディアナが月へ舞い戻る前には、独断でサンベルト共和国樹立を念願し、自
らその統領たらんとし、階級も女王の承認なくもとの少佐から二階級上の大佐
にまでなっている。
 フィルは、市民階級出身らしく個人的な関係では小気味のいい魅力もあった
が、一面、大局を決するときに思慮がまわりすぎ、果断に富まなかった。
「フィルは聡明な人だが、その知恵の多くは体面を守ることと、私欲をかため
ることにつかわれている。あれでは知恵のすくない人とかわらない」
 と、批評するムーンレイスもいる。

527 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP28〜29 [03/12/13 13:27 ID:???]
 ポゥ・エイジ中尉の名は、パイロットとして多少なりともきこえており、泣
き虫ポゥのあだ名をもっていた女性だが、フィルにだけはさからったことがな
かった。ただ、
(この人は、ハリーのおそろしさを知らない)
 と、不安におもった。ポゥはいままでの親衛隊長ハリー・オードの戦いぶり
を身にしみて知っていて、その尋常でないことを知っていたのである。
「ハリー大尉は、あなどれません」
 と、わずかにいった。
 しかしフィルが顔色を変えてしまったために、それ以上はいえなかった。
 フィルという男はこういう場合、無用に倣岸になるかたむきがあった。かれ
は何度か戦いを経験してきたが、軍令面での才能がなく、そのことが精神のな
かで赤剥(あかむ)けの皮膚になっており、ひとに知られるのを怖れた(略)
 ポゥとしてはだまらざるをえなかった。

528 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/12/14 16:47 ID:qlILlH6z]
保守

529 名前:ウッソ・エヴィン―その生い立ち(宮本武蔵) mailto:sageP15 [03/12/14 21:14 ID:???]
 ウッソは、宇宙戦国時代の真っ只(ただ)中、この地にうまれている。父は、
ハンゲルグ・エヴィンという。

530 名前:ウッソ・エヴィン―その生い立ち(宮本武蔵) mailto:sageP16 [03/12/14 21:23 ID:???]
 ウッソは生涯その実父―子として誇るに足るリガ・ミリティアのリーダー・
真なるジン・ジャハナムでありながら―について語るを好まぬ様子がみえるの
は、この父子には不信しかなかったのかもしれない(略)
 ハンゲルグは、家庭をもつにはむりな性格だったのであろう。最初に結婚し
た相手と、ウッソがうまれる前に離婚し、ミューラと再婚をしている。ウッソ
はそんな事情など知らずに父にあまえ、母からナイフ投げや同年代の少年がと
うてい持ちえていないほどの教養を叩きこまれる日々を送ったらしい。



531 名前:ウッソ・エヴィン―騎士道精神(宮本武蔵) mailto:sageP66 [03/12/14 22:08 ID:???]
「ワタリー・ギラ」
 こそ異常なまでに誇りと中世的騎士道を重視する人物である。中年である。
スキンヘッドであり、ZMS−08Gゾロでリガ・ミリティアの秘密工場を空
襲しているとき、ウッソの乗るコア・ファイターの出現におどろき、今度こそ
雪辱を晴らせるとおもった。べスパの軍人としては常人以上の倫理道徳を重視
している。さきに部下の二名を落度あったとして(この理由もかれの騎士道精
神からくるものだが)自ら手をくだしていた(略)
 その技量はゴッドワルドに匹敵するというが、やはり思想はかれのほうが極
端に純度がたかい。

532 名前:ウッソ・エヴィン―騎士道精神(宮本武蔵) mailto:sageP66〜67 [03/12/14 22:23 ID:???]
 ウッソはこれまでのあいだ、ワタリー戦闘小隊については戦いをかわしたこ
とがある(略)
 が、いずれにせよ、MSとコア・ファイターの勝負というのは小型戦闘機た
るコア・ファイターのほうが不利だというのは常識であった。コア・ファイタ
ーの武装はバルカン砲しかなく、MSは火力あついビームライフルとビームサ
ーベルを装備している(略)
(でも、じっとしていたら、もっと怖い。だから、戦うんだ)
 という思考を、ウッソはこのときにしている。みんなを救うためには、己の
恐怖心をおさえこんで戦場に臨まねばならない。もっとも重要なことはLM3
12V04・Vガンダムのパーツを空中ドッキングしつつ戦うということをウ
ッソ自身それほど念頭においていなかったということであろう。 

533 名前:ウッソ・エヴィン―騎士道精神(宮本武蔵) mailto:sageP67 [03/12/14 22:33 ID:???]
 ワタリーはいままでのリガ・ミリティアとの戦闘で敵の戦い方を知っていた。
「ドッキングされれば、武装が強化されてやりにくくなる」
 ということであった。敵側は確固とした母艦というものをもたないために各
パーツをそれぞれわけてトラックで運んでいる。こちら側としてはむしろ敵を
ドッキングさせる前に応戦し、撃ち、それぞれのパーツを各個撃破する。いく
ら伝説の白いMS(ヤツ)だといっても、合体できなければたやすく撃墜する
ことができる。

534 名前:ウッソ・エヴィン―騎士道精神(宮本武蔵) mailto:sageP67〜68 [03/12/14 22:50 ID:???]
 赤い煙を合図に、トップ・リムが射出され、ウッソのコア・ファイターと合
体、重戦闘機トップ・ファイターとなった。装備はむろん、ビームライフルが
ついているためにコア・ファイターよりも格段にいい。ビームシールドで敵小
隊の攻撃をふせぎつつ、射出にあわせてブーツとのドッキングをはたそうとし
たが、ゾロのマルチバズーカの一撃で射出されたブーツは撃破されてしまった。
「そんなところからよくも」
 と、ウッソはブーツを破壊したゾロにむかってトップ・ファイターを突撃さ
せた。
 敵MSの目の前で頭部を露出させ、おどろいた敵パイロットの隙をついてビ
ームサーベルでゾロの右腕を斬りおとした。
 一同、ウッソの戦闘ぶりにおどろいたが、ウッソにとってはこれがかれの戦
法であった。どんな敵に対しても相手の意表をつくことがなによりも肝心であ
ろう。であればいっそ、MS形態でないほうが意外な戦いをすることができて
よい。敵の機体の一部分でも損傷させることができるならば勝ったといっても
過言ではないからである。

535 名前:ウッソ・エヴィン―騎士道精神(宮本武蔵) mailto:sageP68 [03/12/14 23:00 ID:???]
「持ちこたえろ」
 と、ワタリーは部下からの呼びかけに答えた。ウッソは上空にトップ・ファ
イターを飛翔させ、さらに急降下をかけた。ビームシールドを形成して、敵の
攻撃を防ぐことはわすれない。
 ウッソは、二機のゾロの間に割りこんで、その間で上半身をトップ・ファイ
ターより起こし、瞬時にビームサーベルを形成してゾロの脚部を斬った。
(ほう)
 と、ワタリーはおどろいた(略)
 敵のパイロットはよほど馴れているのか、大胆にも脚部を斬りおとしたあと、
さらにさきほど右腕を斬ったもう一機のゾロにビームサーベルの一撃をくわえ
た。常識では考えられない動きである。

536 名前:ウッソ・エヴィン―騎士道精神(宮本武蔵) mailto:sageP68 [03/12/14 23:12 ID:???]
 ウッソは、ふたたびブーツとのドッキングに挑んだ。
 ワタリー小隊は二機になったがなおも執拗にトップ・ファイターとブーツを
落とそうと攻撃をかけてくる。しかしウッソはこの苛烈な攻撃のなかにあって、
Vモード軸合わせ(注・すべてのパーツと合体してVガンダムになること)を
やってのけてしまうのである。
(ばかな)
 と、ワタリーはゾロのビームライフルを撃ちつつあざけりたくなった。つぎ
の瞬間、この中世的騎士道精神を重んじる男がもっともおどろいたことに、地
上に落下していったはずの白いMSが急加速をかけてワタリーのゾロの眼前に
現れたのである。抵抗のシンボルとしては上等すぎるほどの動きであった。V
ガンダムに蹴られゾロは吹っ飛ばされた。

537 名前:ウッソ・エヴィン―騎士道精神(宮本武蔵) mailto:sageP69 [03/12/14 23:27 ID:???]
(おのれ)
 と、ワタリーはコクピットのなかでレバーを握りしめた。この帝国軍中尉は
ウッソの天才ぶりをこのときにみた。ウッソは、Vガンダムの両脚でワタリー
のゾロを蹴り飛ばしたあと、背後からもう一機のゾロのビームサーベル(両手
でそれぞれ形成しているため威力は拡散されている)の攻撃をうけたが、攻撃
が当たる直前に背部にビームシールドを形成、ゾロの手首はビームシールドで
焼かれてしまった。ウッソにすればマニュアルどおりの戦い方というのであろ
うが、この瞬時の反応はやはり尋常ではない。頭部をうしろに回してバルカン
を撃った。妙な姿勢で背後のゾロを撃つべくビームライフルを構える。狙いは
よく定まっているはずだ(略)
 ウッソのVガンダムのビームライフルがゾロの肩部をかすめ、黒い焦げ痕を
のこし、その一撃のまえに敵のゾロ、のろのろと背をみせてひいていった。


538 名前:ウッソ・エヴィン―騎士道精神(宮本武蔵) mailto:sageP69 [03/12/14 23:39 ID:???]
 ウッソの動作はさらにつづくが、追っ払いたい気持ちがここでは濃い。
 戦闘終了後、ウッソはカテジナとオイ・ニュング伯爵が拉致されたことを知
り、Vガンダムで追撃をかけることとなった。シャクティのことが思い出され
たが、心境は複雑である。
 しばらく飛翔していると、平原にゾロが堕ちているのがみえた。ウッソはV
ガンダムを降ろし、破損しているゾロを調べた。生体反応はない。おそらくパ
イロットは脱出したのだろう。
 そのとき、ものすごい爆発が巻き起こり、ウッソはVガンダムともども衝撃
をくらった。姿勢制御で衝撃をとめたが、この機敏もかれらしい反応である。


539 名前:ウッソ・エヴィン―騎士道精神(宮本武蔵) mailto:sageP70 [03/12/14 23:55 ID:???]
 ビームライフルを構え、ゾロの爆発した痕をうかがう。黒煙が立ち昇る場所
を凝視していたようだが、このことがワタリーに先手を取らせることになった。
 Vガンダムの真下の地面がくずれ、うしろからたち現れたワタリーのゾロが
Vガンダムの肩をつかみ、地上に叩きつけた。部下を失った悔しみを晴らさね
ば、騎士としての面目など立つはずがない。
 ゾロの拳が回転した。そのまま、ゾロの拳は強烈なパンチになってVガンダ
ムのビームライフルを吹っ飛ばし、さらにサーベルを形成しようとしたウッソ
の先手をとってパンチを喰らわせた。
 燃え尽きる前の男の執念というのは、数多くの漢(おとこ)たちがフィルム
の中で演じてみせていたものである。だが、永遠に炎(ほむら)は燃えつづけ
ることはない。かならず、その灯火は消えるときがやってくる。もし、ワタリ
ーのゾロにビームライフルがあれば、ウッソの勝利はなかったであろう。紙一
重のビームサーベルの攻撃がワタリーのゾロの運命をきめた。ワタリーはあわ
ただしいなかで脱出をはかろうとした。

540 名前:ウッソ・エヴィン―騎士道精神(宮本武蔵) mailto:sageP70 [03/12/15 00:10 ID:???]
 脱出ポッドとワタリーのゾロは地上に落ちた。ウッソのVガンダムにポッド
も拘束されたのだ。コクピットを出たウッソは、銃を突きつけ、ワタリーに降
伏をせまった。
 ワタリーはまったく違うことに驚愕していた。
 かれは中世の西洋騎士・イスラム戦士と同程度の感情量をもっているとみる
べきであろう。中世という時代は、近代、そしてこんにちの宇宙世紀時代に生
きるひとびとよりも、はるかに人としての感情量が豊富なのである。起伏もま
た常人以上にはげしい。かれは自分が戦った相手が、また年端もいかぬ子供で
あったということに、はげしい慟哭の思いをもった。憎悪の感情などはとっく
に消えさっている。
 正々堂々と戦ってきたかれにとってみれば、相手もまた自分と同年代か、成
人した軍人であろうと思い込んでいたのに、現実はあまりにも残酷であった。
 かれにゲトル・デプレのように、ウッソと同年代の子供がいたのであろうか。
それともいなかったのだろうか。もしいたと仮定するなら、それはわかるよう
な気がする。父親が息子に期待するのはしごく当然のことだ。理想も仮託する
し、自分以上に立派に人生を送ってほしいと念願するのは、親としては自然の
感情である。ワタリーはウッソに息子のような感情をもった、といってもおか
しくはないだろう。



541 名前:ウッソ・エヴィン―騎士道精神(宮本武蔵) mailto:sageP70 [03/12/15 00:15 ID:???]
「離れろ。私から離れろ」
 ウッソに自分から離れるように言い、まったく……という台詞をのこして、
手にもっていた手榴弾で自爆した。ウッソは勝った。

542 名前: mailto:sage [03/12/15 00:26 ID:???]
そろそろ終了します。
532が失敗。反省しつつ。

543 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P40 [03/12/15 20:11 ID:???]
 ア・バオア・クー会戦の火ぶたは、たしかに連邦第六艦隊がきった。
 その要塞の傘の下につこうとする戦闘は長いあいだつづいたが、しかし戦闘
運動はかならずしもあざやかとはいえず、状況はつねに惨烈で、連邦宇宙軍の
あらゆる意味での疲労が顕著に出はじめているという点で、この戦争の前途が
よほど困難なものになりつつあることを象徴していた。

544 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P41 [03/12/15 20:24 ID:???]
  この31日は、閃光と爆発がこの空域にうずまき、ときには著しく視界が
悪くなるほどだった(中略)
 ジオン公国軍の防衛の要は、巨大宇宙空母ドロスにある。
 この要を主として攻めたのは、元ティアンム提督指揮下の連邦第二連合艦隊
であったが、その精鋭軍団でさえドロス級とその搭載MS部隊の頑強さにおど
ろき、ソロモンでのにがい経験から、パイロットたちは、
「まるでソロモンだ」
 というところから、「小ソロモン」という呼びかたで呼びはじめた。この精
鋭軍団は一年戦争以来の歴戦の兵だけに弱くはなかったのだが、ソロモンでの
痛烈な経験がかえって悪しき記憶になり、かれらをやや臆病にしていた。


545 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P49 [03/12/15 20:31 ID:???]
(この会戦にうまく勝ったところで、連邦宇宙軍の戦力は尽きてしまう)
 と、レビルとその主力艦隊を失った中将ダグラス・ベーダーも覚悟していた。
このためこの会戦をもってジオンとの戦争の決着が、終戦協定という外交のテ
ーブルに移されるよう、中将ダグラス(ちなみにかれはレビルと士官学校の同
期で、゛闘将゛と通称されるほど血気盛んな提督である)は大戦略としてその
ように考え、つねづね、ジャブローの将軍たちにその点でぬかりのないように
依頼していた。

546 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P50〜51 [03/12/15 20:43 ID:???]
 ともあれ、一年戦争の会戦は、ダグラスのいう、
「六分四分」
 というわずかな勝星を得つづけてこんにちまできた。が、さきの公国軍側の
ソーラ・レイで、もはや連邦軍の戦争遂行能力はぎりぎりのところまできてお
り、いま遂行しつつあるア・バオア・クー会戦というルウム・ソロモンとなら
ぶ史上空前の会戦をやりおえたあとは、連邦宇宙軍の戦力は勝つにしろ負ける
にしろ一挙に衰えてしまうにちがいない。
 そのために、ダグラスはこのア・バオア・クー会戦における流血にのみ勝利
を期待していた。
 すでに作戦計画が成った以上、あとはホワイトベース隊をふくめた実施諸部
隊に対し、いかにこの戦いが惨烈であろうともいっさい退却させず、ひた進み
に進ませて戦闘の形態を「優勢」という判定へもってゆくことだけを考えてい
た。

547 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P61 [03/12/15 20:55 ID:???]
 連邦艦隊の要塞攻撃のなかにいるフィリップ・ヒューズ少尉は、
「兵の質が落ちた」
 ということを具体的に書いている。
この元ティアンム提督指揮下の第二連合艦隊が宇宙要塞ソロモンの攻撃をやっ
ていたころは、ことごとく熟練兵をもって編成されていた。が、死傷が続出す
るにつれ、その補充として応召兵が組み入れられてきた。とくに第二連合艦隊
が、ソロモンをおとして進撃するにあたり、消耗した軍をたてなおすについて
大量に補充兵を入れた。

548 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P62 [03/12/15 21:17 ID:???]
 かれらは3ヶ月ばかりジャブローなどの後方拠点で教育をうけて戦場へひき
だされてきた速成の兵で、軍隊規律をまだ十分に身につけていなかった。
「じつにいやな連中だ」
 といわんばかりの調子で、フィリップ少尉はこの連中をみている。たとえば
敵の最新鋭MS部隊と接触する。
「連邦軍の戦い方というのは、一対一の個々戦闘を極力回避するということで
あり、この戦い方がわかっていない軍人は、たとえその技術や知識が優秀であ
ってもなんの役にも立たない」
 と、第11独立機械化混成部隊(通称・モルモット隊。EXAMに関するデ
ータ収集を目的とする部隊)と開戦当初の宇宙戦闘機乗りの経験で、フィリッ
プ中尉はおもうようになっていた。ところが、新米補充兵たちは、支援目的の
RB−79ボールに搭乗しても前へ前へと出たがるのである。密集しつつ火力
を集中させなければ危険で、うかつに単独で出れば即撃墜される。撃墜されれ
ば支援火力は薄くならざるをえず、そのぶんだけ兵力も減少する(略)
 歴戦のパイロット・フィリップ少尉はこの状態をなげき、
「今や、かかる烏合の衆に等しい三個月教育の補充兵が、我連邦軍の大半を充
たして居る」
 と、その日記のなかで、戦いの前途に対して慄然たる思いを書きつらねてい
る。

549 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P63〜64 [03/12/15 21:41 ID:???]
 ア・バオア・クー攻略作戦は、連邦軍が機先を制した。
 が、受けて立ったジオン公国軍のほうでは、すでに総帥ギレン・ザビによっ
て各部隊と要塞防衛の準備が活発におこなわれていた時期であっただけに、す
ばやく、しかもゆとりをもってこれに対応することができた。
 作戦がはじまってから彼我の砲戦・MS戦が、ものすごくなった(略)
「パブリク突撃艇の効果がうすすぎる」
 ということで、Sポイントから侵攻するホワイトベース隊でさえ、他の連邦
艦隊とMS部隊とともに強襲攻撃をしかけつつあった(略)
 連邦宇宙軍の前面にある宇宙要塞ア・バオア・クーにはソロモンを越えるビ
ーム砲座とミサイル砲座、衛星ミサイルが配備されていた。それらは最初に出
てきたパブリクを撃墜し、連邦軍の初期作戦をくじかせた。

550 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P65 [03/12/15 21:57 ID:???]
 連邦軍の突撃艇は、ぶっさいくな姿(カイ・シデン評)とよばれたもので、
この一種類しかない。
 厳密な呼称は、
「パブリク突撃艇」
 という(略)
 この妙な兵器をMSが主体となったいまでも使っている理由は数年のあいだ
の地球連邦軍のMS開発の立ち遅れという現実的苦悩からきている(略)
 いずれにしてもMS開発がジオンにくらべて著しく遅れている地球連邦は、
即座に兵器体系を一新させるということはむりであった。
 



551 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P67 [03/12/15 22:05 ID:???]
 この奇妙な、いかにも旧態じみた一年戦争以前から存在する突撃艇は、ソロ
モン攻略戦―チェンバロ作戦―においては十分に役に立った(中略)
 宇宙攻撃軍の将兵は、パブリクから撃ちだされるビーム攪乱膜の威力を大き
く評価し、
「拡散イオン攻撃」
 と称して畏怖した。

552 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P76 [03/12/15 22:24 ID:???]
 要するにMS性能においては、ジオン公国がはるかに優越していた。
 連邦軍のMS総数が4800機(RGM−79・RB−79)、ジオン公国
軍が3600機(MS−06F・MS−09R・MS−14・その他試作機・
旧式機多数)とはいえ、MS−06FザクUをのぞくMS−09Rリック・ド
ム、MS−14AゲルググがRGM−79ジムの性能をこえていることからみ
れば機体数以外の要素も加わらざるをえない。ただし連邦量産型MSには、連
邦軍のエース(白い悪魔)アムロ・レイのデータがコピーされて搭載されてお
り、また火力の点では携帯用ビーム兵器を装備しているという点で連邦軍に有
利な点もあった。もちろんRB−79ボールをふくめての数が、総計4800
機であった。

553 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P77〜78 [03/12/15 22:36 ID:???]
 宇宙要塞ア・バオア・クーは、ほとんど要塞化されていた。
 とくにSポイントから侵攻する連邦艦隊にはほとんどこれを第一級の設備と
称してもいいほどのミサイル砲座がるいるいとしてつづいていた(略)
 ビーム砲座は無数に設置され、ミサイル砲座はことごとく弾丸を放って敵弾
を無力化する効果をもち、多数の宇宙艦艇を擁し、MSをそなえ、それらの付
近には衛星ミサイルがあり、たがいに連携しあっていた。

554 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P78〜79 [03/12/15 22:58 ID:???]
 このとき、ホワイトベース隊とRX−78ー2・ガンダム、RX−77ガン
キャノン、RX−75ガンタンクのMS群、コア・ブースターはすでに出撃準
備ができていた。
 かれらは連邦軍のもっとも激戦地に位置し、その連邦軍の侵攻経路を単独で
切りひらかねばならなかった(中略)
 ガンダムのパイロット、アムロ・レイ少尉の射撃は的確で、公国軍MSやム
サイ級軽巡をつぎつぎに撃破したが、敵・火力は膨大で実際には息をつく暇も
ない。
 が、公国軍のパイロットの心胆をふるえあがらせたのは、白いMS・ガンダ
ムの神速ともいえる機動性であった。マグネット・コーティング処理によりさ
らに反応速度と性能が向上したRX−78−2・ガンダムが宇宙を駆けり去っ
てゆく壮大さは、逆に連邦軍の兵士を鼓舞し、とくに十字砲火のなかで傘の下
へ取りつかねばならぬMS隊のパイロットなどは、
「やはり第13独立艦隊戦隊はちがう」
 と狂喜した。

555 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P79〜80 [03/12/17 20:22 ID:???]
 公国軍MS・宇宙艦艇はすぐさまこれに応じて砲撃しはじめた。
ジオン公国軍は、宇宙専用MAのなかでもっとも火力性のすぐれた機体である
MA−05ビグロを多数もっていたが、これをもって連邦艦艇を撃破しようと
した。MAの攻撃は艦艇同士の砲撃戦よりも効果は大きい(中略)
 この点、公国軍MS部隊は火力支援を連邦側より期待できる点で楽であった。
しかしながらかんじんの汎用量産型MSにして秘蔵のMS・MSー14Aゲル
ググはジオン軍初の携帯式ビーム兵器を装備していたが、効果の点では、学徒
動員といった技量未熟な兵が搭乗していたためにさほどの戦果をあげることが
できなかった。

556 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P88 [03/12/17 21:04 ID:???]
 ア・バオア・クー会戦というのは、連邦・ジオン両軍にとってこれほどつら
い戦いはなかった。
 ダグラスは何度も、旗艦ヒペリオン(マゼラン級戦艦)にて、歯軋りした。
一つの閃光が起こるたびに、懸命に自軍の勝利を祈った。
「なんとか勝機をつかまねばならん」
 というのがダグラスの願いであったが、戦いの現実は勝機をつかむどころで
はなかった。
 激烈な砲撃戦、MS同士の格闘戦が見わたすかぎりの空域でくりかえされ、
要塞にこもる公国軍に対し、ジム、ボールと戦艦マゼラン、巡洋艦サラミスに
よる攻撃戦がつづき、さらにホワイトベース隊とエースパイロット部隊による
強襲突撃が反復されたが、戦況は好転せず、むしろ公国軍の押しかえしのため
に連邦艦隊の一部がくずれるという現象が類発した。

557 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P89 [03/12/17 21:13 ID:???]
(勝機、勝機)
 と、ダグラスはこの錯綜とした状況と混乱のみがつづく事態のなかにあって
敵が見せるかもしれない破綻をうかがいつづけ、それを勝機にしようとしたが、
しかし容易にみつからなかった。とはいえダグラスは巨大な勝利などをねがっ
ているのではなかった。
(なんとかこの一戦で優勢の位置をしめたい)
 というのが懸命な願望であり、戦局を優位でむすぶことによって終戦機運を
成立させようとし、かつ和平交渉を連邦側に有利に展開させうる基礎をつくろ
うとしていた。
(この一戦で連邦宇宙軍の戦力は尽きる)
 ということを知りぬいているダグラスは、終戦協定のことについてはたえず
ジャブローのゴップと連絡をしていた。

558 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P89〜90 [03/12/17 21:55 ID:???]
 Nポイントより侵攻した連邦艦隊も、作戦の初動期こそ前哨的勢力を駆逐し
て景気がよかったが、ギレンが、巨大宇宙空母ドロワとMS部隊というとほう
もない新戦力を送ったため、艦隊の前進はMS−14Sゲルググ(先行量産型)
に搭乗する゛ソロモンの悪夢゛(アナベル・ガトー大尉)ほかエース部隊の活
躍でとまってしまった。以後戦機はわずかづつしか発展せず、アムロ少尉のガ
ンダムとブライト・ノア大尉のホワイトベースが激闘しているこのときにあっ
ても、Nポイント侵攻部隊はむしろ敵の逆襲をかろうじてくいとめているのが
やっとであった。
 公国軍は、堂々たる戦勢を示していた。たとえばSポイントの戦艦ルザルと
ならんでいるホワイトベースにもっとも近接しているのが連邦正規軍のRGM
ー79SP・ジムスナイパーU(パイロットはリド・ウォルフ少佐。通称゛踊
る黒い死神゛機体カラーは黒色に塗装されている)であったが、これがSポイ
ント侵攻ルートで公国軍部隊と激戦を展開した(中略)
 公国軍はこのSフィールドに巨大宇宙空母ドロスに加えて試作MA(MA−
05Mビグロマイヤーなど)や武装強化型MS(MS−14Cゲルググキャノ
ン)を投入して侵攻してくる連邦軍に対し、痛烈な損害を強いた(略)
 連邦軍はこれに対して開進し、ただひたすらに前進した。宇宙空間に流血が
いたるところで彩られ、この混戦のなかでジムスナイパーUのパイロット、リ
ド・ウォルフ少佐はエネルギー尽き、母艦へ帰還しようとする最中(さなか)、
脚部を衛星ミサイルでやられ、機動性が落ちたところをムサイ級軽巡の艦砲射
撃が偶然にも命中し、還らぬ人となった。

559 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P90 [03/12/17 22:16 ID:???]
 シャア・アズナブル大佐はその専用MSゲルググをもって戦いに臨み、キシ
リア・ザビ少将の突撃機動軍のニュータイプ部隊の統率運用をおこなっていた
が、シャリア・ブルにつづくニュータイプ・ララァ・スン少尉の戦死により、
この時点ではキシリア直属として大型戦艦グワジンに搭乗、ア・バオア・クー
に入ろうとしている。ところが新型のゲルググはすべて出撃しているようであ
り、シャアの乗るカスタム機は残っていそうにない。
「私が使える機体はもう残ってはおりますまい」
 それに対しキシリアはいった。
「ジオングを使ってみるか?80%しか完成していないようだが」
「ジオング?」
 はじめて聞くMSである。
「エルメスを開発したときにな、あのサイコミュを部分的に取り入れたMSだ。
お前ならば使いこなせよう」
 彼女がジオングをシャアに使わせようとした理由は、
「シャアをニュータイプ専用機に搭乗させて戦果をあげ、それをもってニュー
タイプそのものに懐疑を抱いている総帥ギレンの鼻をあかしてやろう」
 というところにあった。

560 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P91 [03/12/17 22:36 ID:???]
 それにはかれに並のMSに乗らせてはならず、そのために80%しか完成し
ていないニュータイプ専用MSジオングに搭乗させる必要があった。
 ジオングの整備兵ははっきりと物をいう癖があったらしいが、名前はわから
ない。シャアとおなじぐらいの経歴(補修面での)をもっていたようであった
が、シャアの質問に対しては玄人並の返答をかえしている。
「80パーセント?冗談じゃありません!現状でジオングの性能は100%出
せます」
 シャアは下にあるジオングをみてさらにいった。
「足はついていない」
 このとき、ジオング担当の整備兵はその後数多くの整備兵やガノタたちに愛
用される伝説に残る名台詞をはいた。つくづくこの整備兵の名前が残っていな
いことが悔やまれてならない。
「あんなの飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ」
 という言葉であった。
 さらにシャアが問う。
「使い方はさっきの説明でわかるが、サイコミュな、私に使えるか?」
「大佐のニュータイプの能力は未知数です。保証できる訳ありません」
 はっきりと言い放った。その返答に不満をおぼえたのか、シャアはジオング
へと降りた。



561 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P91 [03/12/17 22:50 ID:???]
 ここにおいてこの戦争を通じて最大のニュータイプ専用MSが起動すること
となった。
 そのMSN−02ジオングは、
  頭頂高・17.3m/本体重量・151.2t/装甲材質・超高張力鋼
  武装・有線式メガ粒子砲二基(指)/メガ粒子砲(頭部)一門/(腹部)二門
 というMSであり、その性能は―未知数―である。これだけのニュータイプ
専用MSをシャアが能力をフルに発揮して運用すれば歴史にのこるMS運用例
がうまれるであろう。

562 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P91 [03/12/17 23:03 ID:???]
 が、さきにキシリアの理由で述べているように総帥ギレン・ザビの作戦頭脳
は、ニュータイプ兵器というこのきわめて革新性の高い、用兵上の飛躍に富ん
だ兵器を使いきるほどにはすぐれていなかった。ギレンも、そして親衛隊長エ
ギーユ・デラーズも、結局は戦況や従来のオールドタイプに密着した作戦をた
て、むしろニュータイプへの飛躍をおそれるところがあった。
 革新的飛躍への恐怖心は、ひとつにはオールドタイプという立場で現実を生
きているという「あたり前」のことから来ているのであろう。覚醒と相互理解
という経験をせねば、ずっとオールドタイプのままでもその窮屈さと不幸を仕
方のないことであると諦めてしまうからであり、それがあたり前のことである
という固定観念がオールドタイプをさらにオールドタイプたらしめるように仕
向けてしまうからである。

563 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P92 [03/12/17 23:30 ID:???]
 シャアはキシリアの命を受け第34MS部隊(ほとんどがリック・ドムであ
る)と共に出撃し、新たな敵艦隊にむけてすすむうち、幸い木馬とそれを中心
とした連邦艦隊と出遭った(略)
「さて問題は、私に明確なニュータイプの素養があるかどうかだが」
 と、シャアはジオングのコクピット内でいった(略)
 新手の連邦軍の艦隊(サラミス級・マゼラン級)が艦砲射撃をシャアのジオ
ングと第34MS部隊ほか公国軍MSに撃ってきた。シャアは一念し、連邦艦
隊の対空砲火をかわしながら片腕を目標のマゼラン級にむけてかまえ、放った。
 ビームはマゼラン級に命中し、つかの間をおいてマゼラン級は大爆発をおこ
し、破片と残骸が後方にいたサラミスを見舞った。艦橋に残骸が当たって撃沈
する艦や爆風の衝撃に耐えきれず爆発する艦が続出した。ジオング初戦の戦果
を華麗にあげて木馬に近づくころ、シャアにとっておそるべき敵がむかってき
た。木馬が搭載していた白いMS―RX−78−2・ガンダム―である。この
ガンダムはビームライフルではなく、ハイパーバズーカを二つ装備していた。
当然、火力面ではシャアのジオングのほうが有利であるはずだった。 

564 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P93 [03/12/17 23:50 ID:???]
 一方、シャアのジオング出撃よりも前、公国軍の親衛隊長でありザビ家一門
のみ座上をゆるされている大型戦艦グワデンにて指揮を執るエギーユ・デラー
ズ大佐は、強行偵察型・MS−06E・ザクフリッパー部隊からの報告により、
「連邦軍の新型MS部隊が、Nフィールド上をア・バオア・クーにむかって突
出してきている」
 というおどろくべき状況を知った。
 この報告でいう新型MS部隊という目分量はすこし大げさすぎたが、要する
にこの機動中の部隊というのは連邦軍第四MS小隊(不死身の第四小隊)であ
った。
 デラーズはすぐ処置しようとしたが、なにぶん公国軍全体が防戦の位置に立
たされており、それに諸方から連邦軍の新型MS部隊と艦隊がむらがり出てき
た印象で、それらに対する手当に忙殺されている最中であった。その上、混戦
で連絡がかならずしも十分でなく、どの部隊をこの「不死身の第四小隊」をふ
せぐことに当ててよいか、この冷静な親衛隊司令官でも判断にまよってしまっ
た。

565 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P95 [03/12/18 00:04 ID:???]
 アムロ少尉のガンダムはたった一機でしかない。が、その機動性と戦果は、
ア・バオア・クーのギレンを狼狽させたほどに凄まじかった(略)
 アムロはシャアのジオングを見すてて、すぐにでも本当の敵(とこの少年
は信じている)がいるア・バオア・クーにとりつこうとした(略)
 シャアのジオングに対しては、あしらえる自信があった。アムロは最強の
MSの本領をもって駿足に前進すればよい。
 

566 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/12/18 21:40 ID:EFcJEg8v]
保守

567 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P96 [03/12/20 08:14 ID:???]
「連邦の大MS軍団がきた」
 と、ブレニフ・オグス中佐は最初おもった。そのとおりであった。連邦宇宙
軍がこの宇宙においてもっているかぎりのMS部隊が、ほとんどダグラスの手
で集中されていたのである。
 しかしながらMS教導師団長ブレニフ・オグス中佐は、連邦MSというもの
をほとんど怖れてはいなかった。ただ一点、それにあたる自軍の練度不足とい
う一点をのぞいて。
 ちなみに、かれは無類のエースパイロットで、撃墜数はMS数193機、艦
船数8隻(なんと宇宙空間のみの戦績である。星一号作戦発動まで連邦軍のM
S部隊活動は地球上にほぼ限定されていたことを考えると、おどろくべき数字
である)無駄玉を撃つことを極度にきらい、常に正確無比な射撃を心がけた点
から゛ワンショット・キラー゛(一撃必殺)の愛称で呼ばれることもある。
 普段のかれはその戦闘ぶりからは想像もできないような温和な人柄で、しば
しば自分の撃墜スコアを新兵に譲ってやることもあったといわれている。
 中佐は戦後消息不明となっているが、他のエースパイロットとは異なり、独
自のカラーリングを自機に施していないために識別が難しく(つまりは一般兵
とおなじノーマルカラーの機体に搭乗していたため)そのために消息を確認す
ることが困難になってしまったのではないかとも考えられる。
 かれの戦績は連邦軍側でも高く評価され、゛白い悪魔゛アムロ・レイ少尉や、
゛ソロモンの悪夢゛アナベル・ガトーとともに戦後、連邦軍士官学校の教本に
その名を載せられている。

568 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P96〜97 [03/12/20 08:28 ID:???]
 公国軍の捕虜がいったという記録に、
「われわれは連邦のMSについてこのように教育されていた。その操縦法は拙劣
劣であり、武装の使用は巧みではない。しかもMSのなかにはボールというM
SともMAともいえない代物がまじっており、つねに弱い機体である」
 と、なっている。
 これに対し、たとえばこの要塞攻略戦の戦闘下にいるユウ・カジマ大尉の回
想文でも、
「ジオン公国の機体はザクなどよりもはるかに卓越している。大型で装備・性
能・火力すぐれ技術にも長じ、とくにエース級のパイロットが操縦する点にお
いては尊敬に値するほどの脅威をしめす。ただし、欠点もある。ゲルググの絶
対数がすくないということと、その訓練度・熟練度を充分にそなえたパイロッ
トの数が開戦当初にくらべて極度に数がすくなくなっているという点である」
 と、書かれている。MSだけでなく一般に連邦軍が公国軍にわずかの差で優
越するのは、ジムをうわまわる機体がすくないということとユウのいう練度だ
けであったかもしれない。

569 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P97 [03/12/20 09:50 ID:???]
 このガンダムとジオングとの遭遇戦は、MS戦史上、ニュータイプ同士の本
格的な激闘ということで記録的な戦闘になるのだが、当のシャアは晩年(早す
ぎる晩年ではあるが)になってもあまり語りたがらず、強いてきかれると、
「私は、一度ガンダムとアムロ・レイを見逃している」
 と、ジオンなまりでいった。


570 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P101〜102 [03/12/20 10:01 ID:???]
 シャアは、MSの襲撃を愛した。
 MSというのは元来襲撃のための兵器であり、高級司令部の用兵さえ妙を得
れば、戦機をつかみ、MAをうごかし、これとともに一大襲撃戦力たらしめ、
全般の状況を一変させることもできた。
 ―MSとは、これだ。
 というなり、シャアが傍らのガラスを拳骨(げんこつ)でぶちわり、こぶし
から血が流れるのもかまわず「わかっただろう」といい、講義をつづけたとい
う話がネオジオンで語りつたえられている。たしかに拳固でガラスを割るとい
う動作がもっともMSの本質を伝授するのに的確であった。拳(こぶし)が破
れるかわりにガラスをぶちやぶることができる。



571 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P102 [03/12/20 10:23 ID:???]
 シャアは中尉、少佐のころからMSザクを駆り、その作戦担当者としての能
力を発揮してきたが、ついにかれ自身は一年戦争という、大会戦の連続する戦
役期間を通じ、そのニュータイプ能力を必要とする専用MSというものにこの
ときまで乗ったことがなかった。
 この遭遇戦における戦闘がかれの、ニュータイプ専用MSに搭乗するかれの
初陣というべきであった。
「なんとしてでもガンダムをしとめなければならん」
 として、戦局そっちのけで白いMSのみを標的にすることに専念した。
 かれは第34MS部隊をひきはなし、独自に動き回って連携行動をとらなか
った。
 単独でもって、要塞攻撃下で血路をひらいているガンダムを倒すという方法
である。この方法は模範的MS戦闘とはいえない戦法であり、急襲と火力集中
をもってMS戦の本質と考えているシャアの戦法とはおよそ逆であった。
 が、シャアはニュータイプ専用機に不慣れなことから、単独襲撃という道を
えらんだ。かれの機体はすぐれた運動性と強烈な破壊力を示したが、敵の戦力
と味方の不活発さはつねに大きな差としてあらわれていた。さらにはかれとM
SN−02ジオングに課せられている公国軍全体のなかでの役割が、膨大な連
邦艦隊とMS集団を殲滅しなければならないということもあった。もしシャア・
アズナブルのジオングがキシリアの思惑通りの働きをすることができなければ、
公国軍のア・バオア・クーにおける戦勝は一挙にくずれさるのである。

572 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P103〜104 [03/12/20 10:39 ID:???]
 シャアはその部下のうち、ロベルトをもっとも信頼していた。
 ロベルトは歴戦のMSパイロットで、作戦指揮といったような才能はなかっ
たが、沈着でねばり強く、のちにグリプス戦役開戦の引き金となった、グリー
ンノア襲撃にクワトロ・バジーナと名を変えていたシャアとガンダムマークU
奪取に加わっていた人物である。
 こんどの会戦においても、シャアともどもロベルトも公国軍パイロットとし
て戦っている。当然ながら乗機のリック・ドムは連邦軍部隊からの激烈な攻撃
にさらされている。

573 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P117〜118 [03/12/20 11:02 ID:???]
 ア・バオア・クー会戦は、個々の正面においてはたして連邦軍が優勢であっ
たかどうかは疑問であり、むしろ逆であることが多かった。
 たとえば総帥ギレン・ザビの予期せぬ戦死によって全滅の危機から救われた
連邦軍の部隊が無数に存在した。
「奇蹟の瞬間」
 ということが、要塞攻略を担当する連邦軍のあいだで戦後よく話題になった。
「なぜあのときになって公国軍の防御力が弱くなったのだろう」
 という疑問であった。 


574 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P118 [03/12/20 11:33 ID:???]
 例のドロス級大型空母をもって代表とする公国軍の強大重厚な防御線に対し
ていどみかかった連邦艦隊の場合などとくにそうであった。
「ワガ艦隊ノ精鋭ヲモッテシテモ、MSニテ肉薄スレドツヒニコレヲ攻陥スル
ヲ得ズ。多大ノ犠牲ヲ払イタリ」
 といわれている戦闘がそれである。
 ドロワこそが、Nポイント上の要であった。
 これに対してすでにふれた連邦軍部隊とくにサウス・バニング中尉の不死身
の第四小隊とユウ・カジマ大尉のRGM−79GS・ジムコマンドとフィリッ
プ、サマナ少尉の小隊ほか主要部隊がさかんにたたきつづけたが、公国軍の防
御ラインをくずすことができず、その火力はすこしの衰えもみせなかった。
 ところが、一瞬だが公国軍の指揮系統が混乱した。
 この瞬間、型どおりエースパイロット小隊の出幕になり、艦艇群の支援のも
とに戦闘をくりかえしついに空母ドロワを沈めることができたが、効果は持続
せず、しばらくすると、このNポイント侵攻部隊がひるんだようにして攻撃が
散漫になった。
 

575 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P118〜119 [03/12/20 11:56 ID:???]
 これに対して連邦艦隊総旗艦ヒペリオンが回線がぶちきれるような怒声をあ
げた。
「なぜこの隙をつかん!」
 これに対し、艦隊参謀のジャマイカン・ダニンガン大尉が戦線を整頓しなけ
ればどうにもならぬ、というと、総旗艦からの回線相手がにわかに変わった。
 連邦軍中将ダグラス・ベーダーが回線相手になった。
「ブライトが一所懸命出ようとしとるんじゃ。なんとかホワイトベースでア・
バオア・クーへとりつこうとしとるんじゃ。Sポイント上でとにもかくにもた
どりつこうとしちょる。ところが大尉、あの瞬間のあとから敵が死にもの狂い
になってきおって、難戦もなにも話にならん。ブライトとガンダムをしてア・
バオア・クーにとりつけるかどうかがこの作戦の勝敗のわかれ目じゃ。ブライ
トの荷を軽くしてやれ。貴様の艦隊が一歩サーベルをふかく入れれば、そのぶ
んだけブライトが一歩進める。そのために連邦艦隊にどれだけの犠牲を出して
もやむをえん。ブライトがSポイント上でつぶれてしまえばア・バオア・クー
会戦はもうしまいじゃ。我が第六艦隊と第二連合艦隊が生き残っても、連邦は
ほろびるぞ」
 このダグラスの回線によって連邦艦隊――Nフィールド上の艦隊はふたたび
敵艦隊とMS部隊へ強烈な大攻撃を再開した。 

576 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P110〜111 [03/12/20 12:16 ID:???]
 ア・バオア・クーにおける連邦・ジオン決戦というのは、Nポイント部隊が
ついに傘の下にとりつくことに成功し、さらにアムロ・レイ少尉のガンダムの
奮闘でSポイント部隊もとりつきに成功したときよりスタートしたといってい
い。
 Sフィールド方面の敵に対しては、グワデン座上のエギーユ・デラーズ大佐
が総帥ギレン直々の命をうけてドロワ搭乗のエース部隊とともに移動してあた
った。この命令がギレンのデラーズに対する最後の命令となった。
 かれは座上艦グワデンほか親衛隊員指揮の艦艇群・MS部隊という公国軍中
強靭な士気と公国軍人精神を濃厚にもっている部隊を混戦のさなか集中し、ほ
ぼその展開をきめ、各部隊に対して連邦艦隊阻止の命令をくだした。
「主として攻撃の重点を要塞上陸部隊に指向する」
 というもので、この防衛戦が、ホワイトベース隊とSポイント侵攻艦隊に対
しときに苦戦の現象を呈するばかりの状況に追いこんだ。

577 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P111〜112 [03/12/20 12:34 ID:???]
 このときの要塞上陸戦におけるNフィールド部隊の潰乱ぶりというのは、一
年戦争はじまって以来のことであり、この連邦軍上陸部隊に対処すべく急行し
たキリング・J・ダニガン中将(ドズル秘蔵の将軍にして、一週間戦争ではブ
リティッシュ作戦の指揮統率をおこなったこともある)自身が、狼狽してろく
に動きもできぬMSの動きや対処ぶりの稚拙さについて、
「これが公国兵士か」
 と、かたわらのソロモン生き残りのラコック元宇宙攻撃軍参謀長をかえりみ
てつぶやいたくらいであった。公国兵士の質はすでにここまで低下していた(中略)
 中将の手もとにはわずかに護衛MSがいるだけであり、かつて宇宙攻撃軍最
強のエースにしてドズルの懐刀であったシン・マツナガ大尉はサイド3へ召還
されており手の打ちようもなかった。

578 名前:1 mailto:sage [03/12/23 17:06 ID:???]
調子悪くてつながりませんでした。

579 名前:アニメーションのイメージ装飾(歴史と視点より) mailto:sage権力の神聖装飾・P192 [03/12/23 17:29 ID:???]
 宮崎駿は富野の築きあげたジャンルとかれがおかれていた立場がいかに欠陥
があるかをよく知っていた。手塚治虫が逝去して駿が覇者の座についたとき、
かつて自分の製作スタイルとしていた創作路線(あくまでもアニメーションを
創るという意欲)を露骨にもかえて、高畑らとともに立ちあげたスタジオ・ジ
ブリという製作集団をアニメファンのみを対象にしていない、あくまで一般人
を対象としているということをアピールし、フリーランスの立場で製作をつづ
ける富野とは一線を画し、著作権・収入をあきらかにするシステムを、日本テ
レビをスポンサーにすることに成功したプロデューサー鈴木敏夫とともに確立
し、ジブリ作品をブランド化した。一般大衆へのスタジオ・ジブリの浸透度は
バブル崩壊後落ちこみ気味だったひとびとや業界(とくに知識人層やマスメデ
ィア)に深く広く浸透した。
 その秘密のひとつは軍事マニア・少女好きといった駿のマニア的要素を一般
の俳優の起用や時代のニーズ(90年代にちょっとした流行としてあった゛自
分語り゛)に合わせて隠蔽し、単純に実写映画的作り方をしてみせたところに
あるといえるかもしれない。ついでながらかれの作風・サービス精神は「魔女
の宅急便」以降変質した。あれほど一職人に徹していたかれが―しかもソ連崩
壊といったかれの信仰する赤旗左翼思想(共産主義体制)がたおれてゆくなか
にあっても―それをエコロジー思想に変えて作中で自分を語りはじめ、文化人
活動をし始めた点、「魔女の宅急便」までの漫画映画的作風は一掃されていた。

580 名前:アニメーションのイメージ装飾(歴史と視点より) mailto:sage権力の神聖装飾・P192〜193 [03/12/23 17:36 ID:???]
 鈴木敏夫がしかけたこのジブリ・ブランドは、歴戦のアニメーター職人・宮
崎駿をいかに神聖的存在として演出するかに主題がしぼられていた。たとえば、
アニメーター出身作家というのはまず絵を描いて背景とストーリー、構成を考
えてゆくのだが、製作がはじまる段階ですべての内容がきまっているわけでは
なく、たとえちがうイメージが浮かんできたり、構成が矛盾をきたすことがあ
っても、製作は進行中のため、容易に変更がきかない。そのためにテーマと展
開にズレがあったり、主人公サイドから脇役に宮崎の視点がシフトし、重要な
存在はむしろ敵役であるということもあったりした。



581 名前:アニメーションのイメージ装飾(歴史と視点より) mailto:sage権力の神聖装飾・P193 [03/12/23 17:48 ID:???]
 おそらくはほとんどの一般視聴者や観客は、宮崎の実像を知らずじまいでい
るにちがいない。駿自身が同種のアニメファン・マニアを罵倒し、自民党政治
を批判しながらその自民党体制の恩恵(三鷹市民の血税で作られた美術館を人
一倍大事にする)を十分すぎるほどに享受していたり、さらにはあれほど少女
役の声優などに入れ込んでおきながら「あれは娼婦の声だ」と罵り、前歴を覆
い隠すかのように実写の俳優を唐突に使いだし、流行が過ぎればあっさりと「
エコロジー思想」を引っ込めるのである。実像をみればそこに一人の東映動画
の系譜としての職人がいるはずだが、虚像で覆い隠されている以上、この゛天
才アニメーター作家゛はあくまでも神の存在であった。しかも神のほうからは
一般層を睥睨(へいげい)することができるのである。

582 名前: mailto:sage [03/12/24 12:06 ID:???]
CS放映中のエルガイムを書いてみようか考え中。

583 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P114 [03/12/24 12:29 ID:???]
 第13独立戦隊の少尉(ペガサス級強襲揚陸艦ホワイトベース操舵手)であ
るミライ・ヤシマは、
「連邦軍の作戦は巧緻すぎて感心しない」
 などと批判したが、しかしながらダグラスの堅牢無比な統帥力によってささ
えられた亡きレビルと幕僚たちの作戦――ほとんど芸術的といってもいいよう
な――計画は、遂行途中でおこった無数の不慮の事態にも屈することなく、い
っさい当初の計画を動揺させることなく、それを実施し、いざそれが実施され
るや、ほとんど一方的なチェスを指しすすんでキシリア・ザビを翻弄しつづけ
た。
 公国軍少将・突撃機動軍総司令キシリア・ザビは総帥ギレン・ザビを暗殺す
る段階までは威勢がよかったが、実際の戦局にのぞむと、連邦軍側が一手指し
てくるごとに、一手づつ連邦軍側の思う壷(つぼ)にはまった。この攻防戦後
期、シャア大佐のジオングへの指示をのぞいてキシリアがみずからの主導的プ
ランで作戦を決定したことはなく、会戦の期間中、連邦軍の思うままになって
右住左住した。

584 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P115 [03/12/24 12:44 ID:???]
 たしかにア・バオア・クー会戦の勝敗は、キシリア・ザビとダグラス・ベー
ダーの将帥としてのちがいが決定した。すでにふれたところとやや重複するが、
公国軍側記録を中心にキシリアの作戦をながめたい。
 まずSフィールドへ連邦軍部隊が突出してきたとき、キシリアはすぐさま公
国軍MS部隊をSフィールド上へ集結させた。
 「過早の移動」
 という表現で、のちのちまでネオジオンの士官学校で戦術教官たちが非難し
つづけた。総帥としてはいますこしその方面の諸部隊に対して連邦軍の攻撃に
耐えさせつづければ連邦軍の正体――Sポイント侵攻部隊の損耗度と限界――
というものがわかったであろう。が、元来が政治軍人な体質であるキシリアに
は戦闘指揮をやってのけてしまえる能力と意志がなかった。


585 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P121 [03/12/24 13:04 ID:???]
 すぐれた政治軍人であったキシリアは、つねに政治は軍事に優先するという
理論から要塞放棄と総指揮官たる自分の本国への脱出を考えていた。かのじょ
はア・バオア・クー会戦においては総帥ギレンほど緻密な決戦防衛計画をたて
ず、ただ公国軍の一部分たる突撃機動軍司令という立場でことにあたっていた。
ギレンの作戦計画が堅牢であったためにもしギレンが最後までア・バオア・ク
ー全軍の総指揮をとっていたら連邦軍側にとっておそるべき結果になったであ
ろうが、かれがキシリアに射殺されたことが連邦軍側に幸いした。かのじょの
その後の戦闘指揮は実施段階からすでに要塞防衛戦自体を見切り、積極戦闘を
せずという考えに一変した。白いMSと木馬の果敢な攻撃やドロス級によって
保たれていた戦線が突破されたことが大きな原因であった。

586 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P122 [03/12/24 13:34 ID:???]
 まったくこの局面をみると、キシリアはキシリア自身に敗北したとしかおも
えない。
 かのじょは連邦軍の戦力が、ソーラ・レイと総指揮官レビルの死によって弱
体化したことを知っていた。
 さらにはルウム、東ヨーロッパ、ア・バオア・クーと戦闘をかさねたかのじ
ょは、連邦軍の作戦癖といったものを知っていたはずであった。
 連邦軍の基本戦術は物量攻勢である。しかしながらこの時点の連邦宇宙軍の
予備軍の戦力はすくなく、展開された戦力は縦深性においてとぼしい。もしキ
シリアがなお決戦の意志を擁してMA部隊や衛星ミサイルを集中して一カ所に
攻撃の重点を設け、つよい意志を持続して破ることに専念すれば、ほそく長く
展開している連邦軍をやぶることは簡単であり、一方をやぶって突きぬけ、後
方にまわって包囲、挟撃をやれば、予備隊過少の連邦軍は崩壊せざるをえない。
 ただし、一点だけかのじょがそれをやれない事情があった。それは、公国軍
全体の訓練度のひくさと熟練パイロットの不足という事態である。すぐれた兵
というのは速成でできあがるものではなく、いくら天性の才能を有している者
であったとしても、それが即戦果という結果で現れるわけではない。このこと
はいくら有能な指導者でもカバーしきれるものではないということは、旧世紀
の敗戦国側の事情をみればよくわかることである。


587 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P124 [03/12/25 10:49 ID:???]
 この作戦におけるダグラスの気持ちというのは、薄氷を踏むようなものであ
った。
 ダグラスは全戦力をすべて前面に出してしまい、予備隊といえるほどの戦力
を拘置(こうち)しないという戦術的な非常識をやってのけているのである。

588 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P126 [03/12/25 11:10 ID:???]
 作戦は、連邦軍の圧倒的主導のもとにすすんでいる。
 キシリアは受け身受け身にまわり、つぎつぎに展開される連邦軍側の作戦の
意のままに右住左住しつづけているあたり、まるで連邦軍側がそのために雇っ
てきたアドミラルのようであった。
 公国軍側は、MSの数がしだいに不足しはじめた。ムサイ級軽巡・チベ級重
巡の艦長もMS小隊長も、残りすくなくなってゆく機体数と弾量にひやひやし
ながら戦闘指揮をとった(略)
 一般兵のビームスプレーガン・狙撃用ビームライフルの命中能力になると連
邦MS部隊が格段にすぐれ、一方、エースパイロット群の狙撃・白兵能力につ
いては公国軍MS部隊のほうがすぐれていた。
 連邦軍量産型MSが射撃がすぐれているのは、教育型コンピュータを搭載し
ていたからであろう。この点、ジオン公国軍側の量産型MSに搭乗する兵士た
ちの戦闘能力は一般的に個人の能力に依存せねばならぬためにおとっていた。
 

589 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P127 [03/12/25 11:17 ID:???]
 公国軍側はつねにエースという才能を必要としたが、連邦軍側には一般戦闘
能力というレベルにおいてすでに即時投入ということが可能であった。この理
由は地道な実戦データ収集の結果えられた自立学習型コンピュータのおかげで
あるかもしれなかったが、あるいは絶対民主制国家と専制国家のちがいである
かもしれなかった。

590 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P128 [03/12/25 11:26 ID:???]
「ホワイトベース、もっと出よ」
 という第13独立戦隊あての総旗艦ヒペリオンからの回線は、クルーたちの
神経を連打しつづけた。
 ホワイトベースは、ビーム砲火をおかして進んでいる。
 が、ヒペリオンにいわせるとまだ足りないという。



591 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P130〜131 [03/12/25 11:35 ID:???]
 ホワイトベース隊の進撃は、しだいにきびしくなった。
「総司令部がよくない」
 と、ホワイトベース操舵手ミライ・ヤシマ少尉はおもいつづけた(中略)
 要塞強襲がうまくゆかないからといって、途中で、
「ブライトのホワイトベースをア・バオア・クーに着底させ、要塞に白兵戦を
しかける」
 というふうに変わったのだ。白兵戦をやることになった。それらしい兵士も
充分にあたえられていないではないか。

592 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P131 [03/12/25 11:49 ID:???]
 ホワイトベースがア・バオア・クーにむかって白い両翼を張るようにして向
かおうとすると、公国軍側はそれ以上の戦力でもって艦艇群の列をつくり、ホ
ワイトベース隊に対して「足止め」をした。カイとハヤト、そしてセイラの機
体の戦闘は、立ちはだかるMS部隊との激闘であった。それがくりかえされて、
うかうかするとアムロ・レイ少尉のガンダムは際限もなくホワイトベースから
引き離されてしまうゆくおそれがあった。すでにガンダムのそばまでシャアの
ジオングがきている。

593 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P132 [03/12/25 11:56 ID:???]
 赤い彗星のMSは、さきに述べたとおり公国軍最大の――未知数ではあるが
――ニュータイプ専用MSである。機動力も戦闘力も申し分なかったが、しか
しニュータイプ能力の如何ですべてが決する以上、シャアがひきだせた部分は
まだほんの少しというところであろう(略)
(見えるぞ。私にも敵が見える)
 と、シャアは要塞を注視しつつおもった。
 まちがいなく、そこに白いMSはいる。 

594 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage会戦・P132 [03/12/25 12:02 ID:???]
 シャアは、キシリアの命令と個人的復讐心をうまく調節し、ガンダムとの一
戦におよんだ。かれは堂々と突出して、有線式オールレンジ攻撃を最初にガン
ダムにくらわせて、予想通り反応をみせ背を向けたガンダムに指先のメガ粒子
砲を放って、確実に白いMSをしとめようとした。

595 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P138 [03/12/25 12:20 ID:???]
 前面は、巨大な宇宙要塞である。要塞内部への侵入を遮ろうとなおも公国軍
部隊は奮闘している。連邦軍の白兵戦は兵士たちがあちこちから銃をもって侵
入し、内部の公国軍兵士たちとぶつかった。かれらはノーマルスーツをまとっ
てじわじわと押しよせてくる。それも決死の面持ちで大量にである。爆風が内
部で巻き起こり、静寂と狂乱が支配し、かろうじての強運だけが公国軍兵士を
一秒でも生きながらえさせてくれる程度であった。
 デン・バザーク大佐は、すぐれたエースパイロットで諜報部員でもあった。
要塞に乗り上げた連邦軍艦艇の近くまでやってきた公国軍兵士に対して、もは
や作戦もなにもない。噛みつくばかりの勢いで白兵戦闘を叱咤する以外にない。

596 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P143 [03/12/25 12:45 ID:???]
 ア・バオア・クーにある総司令官キシリア・ザビのみはその神経が堅牢でな
かった。
 かのじょは、諸報告にもとづき、
「Sフィールドノ連邦軍ハ強大ナリ」
 とみていた(略)
 ただ急報までは、キシリアは自軍の防戦力にある程度の自信をもっており、
連邦軍からの心理的圧迫感はやや軽かったようにおもえる。
 が、突如急報された報告が、かのじょを大きく動揺させた。
「ジオング撃墜。識別信号解除」
 という意外なものであった。
 この報告の実態は、シャア・アズナブル大佐のMSN−02ジオングのこと
である。シャアはジオングで白いMS――RX−78ー2ガンダム――と戦っ
ていた。しかしながらありようは、連邦軍最強のMSガンダムを相手にしてシ
ャアはジオングの性能をフルに発揮して戦うことができなかった。かれはララ
ァを殺したガンダムのパイロット・アムロと問答をかわしながら、ジオングの
腕を分離してガンダムの右腕を撃破したが、ガンダムのビームライフルで腕を
撃墜され、胸部に一撃を加えられ、一方的に離脱し要塞部分にかくれた。
 着地しながら腹部(正確には腰の部分)のメガ粒子砲のビームを向かってく
るガンダムにむけて連射したが、焦りからかガンダムを見逃してしまう。モノ
アイを動かして探そうとしているなか、ふとガンダムとアムロ・レイが来た感
覚をおぼえたが、あとの祭りだった。

597 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P143 [03/12/25 12:51 ID:???]
 立ちあらわれたガンダムのビームライフルの一撃がジオングの胴体に命中し
た。しかし、アムロにはすぐわかった。コクピットはべつの場所にあると。
 ジオングの頭部が、胴体が破壊されると同時に離れた。シャアは頭部からビ
ームを放ち、ガンダムの頭部を破壊した。メインカメラをやられたガンダムの
射撃はうまくいかない。頭部のないガンダムは、頭部だけになってしまったジ
オングを追った。相撃ちといえるのだろうか。

598 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/12/26 22:18 ID:5OBRX6yZ]
保守

599 名前:飛ぶがごとく [03/12/27 11:59 ID:MVfCJc+T]
アマゾンのジャングルにある連邦軍の戦略思想は、ひどく小さな
ものになっている。
「ジオンを蹴散らし、遠くズム・シティーまで乗り込む」
 などと地理感覚としても壮大であったかれらの構想は、ア・バオ
ア・クー攻めのわずか第一日目のコロニーレーザーだけでもって、
ほとんど忘れられたようになった。当面の現実−つまりレビル以下
の旗艦の喪失−が、かれらの思考を小さくした。
 連邦軍の思考は、目の前のア・バオア・クーにこだわらざるをえ
ず、たとえばア・バオア・クーを迂回して遠く(たとえばグラナダ
方面)へゆくという思考もできなくなった。
 さらには、コロニーレーザーの第二射の可能性という恐怖が、か
れらの意識を拘束した。28日夜、本隊の論議が分裂したためにティ
アンムが裁定して決定したのは、一部を持ってSフィールドへむか
い、一部を持ってNフィールドに展開するジオン軍を拘束するとい
うことであった。その戦略的感覚はア・バオア・クー一帯を出ず、
思考の狭小化は救いがたいほどのものになっている。
 当初、ソロモンを出るときのレビル艦隊の戦略は連邦軍がジオン
に迫るにつれて、各地のジオンの戦力(だけでなく、総予備の戦力
まで)が阻止にいそぎ、逐次撃破され、、ゆくにつれて兵力差は雪
だるまのように大きくなり、ついにはジオンを圧倒するにいたると
いうものであった。ただ、兵力は(多分に寄せ集め的要素が強かっ
たが)は、存在した。それを有機的活用せしめる戦略をもっていな
かった。兵力はいわば液体のようなものであり、それを固体化する
のが戦略であったが、レビル・ワッケインらの感覚では、連邦その
数の存在こそそのまま戦略であるとしたむきがつよかった。大兵力
さえ持ち出せば、その圧倒的戦力差(とレビルらは思っていた)に
よって、戦略の機能を十分に果たしうると思っていた。

600 名前:飛ぶがごとく [03/12/27 12:01 ID:MVfCJc+T]
 筆者の手もとにある当時の連邦兵の手記のなかに、
「ザクは強かった。特にその切り込みは物凄く、妙に太陽を背にやってきた」
 という意味のことが書かれている。太陽を背にザクがヒートホークを振りかぶり、疾風のように連邦軍艦隊に殺到
したのは、ジオン軍の主力兵器がいわゆる遠戦兵器(長距離で砲火を交えることによって戦闘を行う兵器)でなく、
ザクマシンガンのような近距離の照準をいちいち直接に照準しなけばならないミノフスキー粒子散布下の兵器だった
ためで、このため通常戦闘では射程が短かったり威力が薄れたりして打撃の威力にさしつかえた。ミノフスキー粒子
の効果が最大限に活かせるため、太陽光とともに敵艦へ飛び込むののが効果的だったのだろう。
 ザクは、たしかに強かった。
 かれらがオデッサを失ったのは、11月10日である。が、総崩れせず、わずかに後退して第二の防禦線を構成し、
ザポロジェ、ドニエプロペトロフスクあるいはハリコフあたりから洪水のように押しよせる連邦軍を頑固にしりぞけ
つづけた。このことについてはすでに触れた。
 ジオン軍の兵力は、ウクライナを中心として、四つの戦線に分散している。ウクライナの西北の沃野のこの防禦線
は、ドニエプル戦線と名づけるべきものであろう。ついでオデッサそのものを防禦している西部の戦線、さらには
ボルゴグラードの西方にせまりつつある連邦軍の迂回遊撃軍に対する防禦線、最後にコーカサスへ突出して連邦軍の
ホワイトベースを砕こうとするオルテガ・ガイア・マッシュの三連星である。
 ジオン軍としてはなけなしの兵力を分散しているため、どの戦線も極端な兵力不足におちいっていた。
 逆に連邦軍は、いよいよ増強されつつある。




601 名前:飛ぶがごとく [03/12/27 12:02 ID:MVfCJc+T]
 ハヤトと両人が雑談していたとき、エゥーゴの赤い操縦服を着た人物がやってきた。やがて身をかがめてハヤトに
耳打ちすると、ハヤトはうなずき、丁寧な口調で、よろしいでしょういいだろう、といった。
 この人物はエゥーゴの主力機百式のパイロットで、ブライトの私信をたずさえてきた。私信というのは地球上にい
るミライにあてたものであり、地球へ降りるクワトロ大尉に託した。
 この時期までのシャアにおいて、人生の側面を一種歴史の一部としてみようとする傍観者的気分が強く、その後の
シャアのにおいとは幾分かは異なっている。かれはパイロットとしてもすぐれていたが、政治家としてもグリプス戦
役期のエゥーゴのなかでは比類がないといっていい。
 シャアはジオン公国の士官学校の出身である。背中のヒートホークや主力兵器のマシンガンで装備された新兵器で
あるモビルスーツのパイロットとしてジオンの戦争中におけるエースの名声を代表した。かれはこの軍事経験を通し
てニュータイプ・パイロットの強さを身をもって知り、その経験をもってニュータイプのパイロットをエゥーゴに定
着させるべくこんにちまで至ったのだが、同時に同軍のギレン・ザビなどは共和国時代のニュータイプ論における経
験からニュータイプが軍事に近づくことをもっとも嫌った。そういう制約もあって、一年戦争末期、シャアはニュー
タイプとしての活動(ニュータイプの覚醒)をほとんどしていない。
 このことは、終生、かれのひそかな劣等意識になっていたかと思える。
−自分がニュータイプを代表する
 という実感をもつには、ニュータイプの覚醒が必要であろう。
 ところがかれには例外的な戦歴がある。宇宙暦0079年12月、ジオングのパイロット(サイコミュの能力保持者)と
してアムロ・レイとともに戦火を交えたことであった。
 この時期、ジオン軍としては、シャア、ガトーという歴戦のエースを宝石でも扱うように大切にした。ジオン軍が
今回、パイロットにおける即製訓練(結果として学徒動員)をする場合、熟練兵が率らねばならない。そのための部
隊の中核にさせるためのもので、エースパイロット代表のシャアらを鄭重に扱い、テキサス・コロニーにまでわざわ
ざ新型機をまわした。そのテキサスでの戦闘相手の一人が、いまカラバの中心であるハヤト・コバヤシであった。ま
たテキサスで探索をおこなっていた人々の中に、いまダカールで隠遁している妹セイラ・マスがおり、また連邦軍の
エゥーゴの旗揚げ直後に加入したブライト・ノアがいた。シャアは、ア・バオア・クーの外周でアムロと再会し、戦
闘したが、このときアムロから非難された「ニュータイプ」としての自分への認識をシャアは生涯珍重し、政治的自
信のよりどころにした。
 この認識を大切にすることは、アムロを大切にすることにつながり、事実、シャアは、多少のわだかまりがあった
とはいえ、アムロに対するライバル視は尋常一様ではない。

602 名前:飛ぶがごとく [03/12/27 12:04 ID:MVfCJc+T]
 シャア・アズナブルというジオン士官がいる。一年戦争でジオン軍の小部隊長をつとめ、
「赤い彗星」
 といわれた。
 シャアはジオン共和国首相のジオン・ズム・ダイクンの息子で、名前を変え、今日に至っている。シャアは若くし
て中隊長の階級である「大尉」に任ぜられ、ルウムにおける会戦やルナツー方面におけるゲリラの鎮圧などの際にき
わだった働きがあった。その後、新型戦艦とモビルスーツ隊の追撃に降下し、さらに北米大陸からベルファスト攻撃
、ジャブローの奇襲にかけてジオン兵を指揮し、当時のいわゆるホワイトベースの乗員を戦慄せしめた。
 ア・バオア・クー戦の最中にシャアは許されてジオングに乗り込んだ。四方に戦い、やがてア・バオア・クーが陥
落したとき、全てを自らの手で清算しようとしたが、庇護者のキシリア・ザビのみ敵を討て、アムロと決着はつけら
れなかった。以後、ジオン軍は逃亡を余儀なくされ、将兵はみな塗炭に苦しんだが、シャアもむろんこの運命の例外
ではなかった。
 宇宙暦0080年のアクシズほど悲惨な境涯に落ちたひとびとはいない。
当時、火星軌道外の小惑星帯などという場所は、人の住めるようなところではないとされた。地球連邦はジオンから
独立自治の権利をとりあげ、この月の裏側のサイド3を仮に独立国と設定して統治させた。敗残のかれらは脱出船に
のってつぎつぎにアクシズへ移って行ったが、まことに大集団をそのまま流浪させたにひとしい。アクシズの地で飢
寒に苦しんだ彼らが、アースノイドの肉を啖(くら)いたいほどに憎んだのもむりはないであろう。
 シャア・アズナブルも、一時、アクシズにいた。
 ほどなくフォン・ブラウンの隠れ家に潜入し、月面上で元部下たちを使ってわずかに情報を集めつつ、決起の機会
をまったくあきらめることなしにすごしていた。

603 名前:1 mailto:sage [03/12/27 13:42 ID:???]
>飛ぶが如くさん
久々の大作ですね!601がとても興味深いです。
昨日、映像の世紀を見たんで、600のロシア戦線がなんかリアルです。

来月はザブングル・グラフティがCSで放映するそうで、楽しみが多いでつ。

604 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P100 [03/12/27 13:59 ID:???]
 随想風に、アデナウアー・パラヤとジョン・バウアーのかかわりかたに触れ
ておきたい。
「アデナウアーはつねに湖のふちにいる。バウアーはつねに飛びこんで湖の中
にいる」
 と、この当時、評した者がいる。魚をつかまえねばならぬときにバウアーは
みずから体を濡らして湖の魚を追ったが、アデナウアーは濡れるのを厭い、湖
のふちから指図をしたり批判をしたりした、ということらしい。
 アデナウアーは、バウアーがにが手であった。バウアーの無私と、諸価値を
計算しぬく慎重さと、そしてその強烈な実行力を評価する点では、アデナウア
ーは決して、たとえばバウアー好きの会計監査官カムラン・ブルームなどにお
とらなかったが、しかし肩をならべて仕事をする気にはなれなかった。

605 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P100〜101 [03/12/27 14:05 ID:???]
 アデナウアーがかつてエゥーゴの高官のメッチャー・ムチャに送った書簡の
なかにも、ジョン・バウアーと自分の性格は、水と油ほどにちがう、と書いて
いる。

 元来、水油の性質の違ひ候を、強て調和して政府の偽めなどと申ことは、決
てよからず。


606 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P102 [03/12/27 14:27 ID:???]
 アデナウアーとバウアーにつき、なお触れる。
 この両人の性格が、印象としてよくあらわれているのは、宇宙世紀0089
の外郭新興部隊創設を議題とした連邦最高行政会議においてであった。
 アデナウアーと懇意の政府高官ホワイトが、この会議の最高職である議長に
なった。
 バウアーは、この会議においては政府の一高官として出席し、職としては政
府メンバーの一員にすぎない。
 以下の話は、旧連邦軍籍アクラム・ハリダの談話である。かれはデラーズ紛
争時、ペガサス級強襲揚陸艦・7番艦アルビオンの航法士としてエイパー・シ
ナプスの指揮下で働き、ときに正規軍批判をし、跳梁跋扈していたジオン残党
鎮圧に努力し、デラーズ紛争後は新たに創設されたティターンズの一員となる
がグリプス戦役で組織が崩壊するとアデナウアーにひきたてられて、軍人から
政府関係者へと転身した。もともと軍人として生涯をまっとうしようという気
持ちがうすかったからだと思われるが、この転身はかれだけが特別というわけ
ではなく、この時期の連邦政府関係の人間にはえてしてこういう境遇の人物が
多くいた。処世術のたまものということだろうか。

607 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P102〜103 [03/12/27 14:40 ID:???]
 アクラムの談話では、高官のほとんどは現状を楽観視していて、ホワイトが
議長席についても満場の私語はおさまらず、ホワイトが何度自粛を要求しても、
しずまらなかった。
 ところで、政府の席は、バウアーの席だけ空席だった。バウアーはやや遅れ
た。やがてバウアーが席につくと、「満場水を打ったように静粛に」なったと
いう。
「おしゃべり好きの高官達も、なるべく(バウアーには)発言を遠慮し、こと
に寡黙なバウアーが簡単な説明でもしようものなら、わからぬでもわかったよ
うな顔をして引きさがったものであった」
 アクラム・ハリダは、そういう。アクラムはアデナウアーの派閥の関係者で
あり、アデナウアーにひろわれかれを恩人としている人物だったが、そのアク
ラムが語る印象だけに、多少の価値があるだろう。ジョン・バウアーには、言
いがたい威厳があったらしい。
 アデナウアーは、このバウアーをきらった。
 バウアーはアデナウアーに対して配慮がこまかく、態度も表裏なく慇懃(い
んぎん)であったが、しかしアデナウアーがバウアーに言いつづけているとこ
ろの、
――宇宙の現状を維持し、緊縮財政と不拡大方針をとる。
 という考えは、実際面ではバウアーはほとんど黙殺したにひとしい。 

608 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P121〜122 [03/12/27 15:05 ID:???]
 ジョン・バウアーのまわりにいる重要人物のなかで、もっとも長老で――年
は60代である――経歴も高かったのが、元地球連邦軍中将でデラーズ紛争時
に責任を負わされ退官処分をうけたジョン・コーウェンであった。
「コーウェンはつねに拳銃をつけていた。腕力があって、気に入らぬことでも
あればすぐ喧嘩をしかけるというような、物騒千万な男であった。しかし親切
なことも非常なもので」
 と、ストアストはその回顧録でコーウェンの性格を的確に語っている(中略)
 一年戦争以前から要職と軍歴を重ねてきた男で、戦後、コーウェンほど、戦
略観があざやかに転換した男はない。たとえば宇宙世紀0081にニュータイ
プ研究所を設立し強化人間を育成しようということをとなえる者があった。連
邦軍大佐だったジャミトフ・ハイマンと、のちのティターンズ中将でジャミト
フの補佐役ハムリンで、しかし政府に満足な財源がないため費用はサイド6に
あおぐというものだった。連邦正規軍の将帥たちはほとんどがオールドタイプ
であり、このことに反対した。ジョン・コーウェンは、その急先鋒だった。
――ジャミトフ・ハムリンのごとき者は、政府をあやまる賊である。
 と、コーウェンは引退前のゴップ提督の前で罵り、ああいう者は連邦政府か
ら追い出されよ、とせまったこともあった。 

609 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/27 15:36 ID:???]
 その地球至上主義をとなえたのちのティターンズ総帥・連邦軍統合参謀本部
長ジャミトフ・ハイマン大将にデラーズ紛争において失脚せしめられたことは、
すでにふれた。かれはこのとき、政治生命を絶たれたかにみえた。
 だが、かれの出番はまだおわったわけではなかった。
 ジャミトフの絶頂期、罷免されたかれはティターンズの監視のなか細々と田
畑を耕し生計をたてていた。名もないウォーター・アイランドで監視と貧困に
耐えるなか、あるとき、仇敵であったジャミトフ死亡の報を街頭で目にした。
(因果か)
 とかれはおもった。原因あって、結果が生じる。それはかれ自身が自ら体験
をしたことであったからだ。ガンダム開発計画を推進するために、非合法の核
武装搭載を是認してしまったことが、めぐりめぐってソロモン海におけるあの
惨事となり、シナプスの死を招いてしまった。
 ジャミトフの敗死も、そうであろう。スペースノイドを虫ケラのように殺し、
差別と強権をもって反対者をねじ伏せ、フリーメーソン信者として自らアダム・
ヴァイスハウプト(フリーメーソン組織のなかでも最も過激な組織であるイル
ミナティの創設者。かれは超エリートによる世界統一政府を構想、現存する国
家のすべてを廃絶し、その手段のためには暴力革命や陰謀・策略を厭わないと
した)の路線を宇宙世紀において再現しようとした。その悪業が、結果として
かれを無残にした。

610 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/27 15:55 ID:???]
 因果応報という言葉の意味は「人間の考えやおこないの善悪に応じて、む
くいがくること」である。ふつうは、悪い意味に使われる。
 ところが、この道理を人間はなかなか理解できず、行なうこともむずかし
くできている。正義という大義、信念という精神、自己肥大によって、より
実践できにくい環境にあるといえる。
 ジャミトフの死は、あらたな歴史の幕がひらいたという事実を現していた。
コーウェンは、かつて阻止限界点を越えて北米大陸に落着したコロニーを目に
し、こう言った。
「この一撃が、歴史を変える」
 かれはこのとき、この言葉を思い出したのであろう。歴史はつねに人の手に
よって動き、人の手によって織りなされる。一個人の布く絶対専制など、永遠
絶対的につづくものではない。
 たしかに、あのギレン・ザビの亡霊たちのおこした一撃が歴史を変えた。な
らば、ジャミトフの死によってまた新たな局面がおこる可能性もある。歴史が
流動する大河であるとすれば、その勢いはときに遅くなるにすれ、とどまるこ
とはない。その流れをとめようとする者が出てくるか、あるいは……。



611 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/27 16:08 ID:???]
 失脚後のかれは栄光と権力を追い求めていたころとはちがい、解脱したかの
ように思想が一変していた。それとともに変化したことは、酒である。
 コーウェンは酒豪であった。揮下の第三艦隊幕僚や配下のマーネリー、シナ
プスといった軍人たちはガチガチの堅物で、団塊世代らしい部分が強烈にあっ
たが、コーウェンはよく無礼講と称して宴をやった。このためシナプスは医師
から酒量を制限されることとなった。
 ところが、この時期のコーウェンはめっきり酒をやらなくなり、
「アルコールは毒だ。酩酊状態ではろくな目にあわん」
 と妻に言いつづけていた。かれはあの紛争時、よく酒を飲んでいた。そのこ
とが、かれに悪い結果をもたらした、と信じ込むことで自らをなぐさめていた。
もはや酩酊はせぬと心に誓っていたとき、ある訪問者がかれのもとを訪れた。

612 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/27 16:17 ID:???]
「閣下であらせられますな」
 なるほど、閣下にはちがいない。コーウェンは一介のスペースノイドには手
のとどかぬ中将にまでのぼりつめた男なのである。連邦軍上層部のほとんどは
地球出身者で占められ、あのホワイトベース隊が厚遇されたのも、地球出身の
ブライトと、ヤシマ家の令嬢ミライがいたからであり、現在でもその構図はま
ったく変わっていない。
 かれはしばし沈黙していた。元閣下と呼ばれぬ点に、いかがわしさを感じた
のである。こういう手合いの連中は以前にいくらでもきた。だがそのつど、か
れは誘いを拒否した。もう二度と、政府にはもどらぬと決めていた。
「帰ってくれ」
 そういって、ドアをしめようとしたが、
「シナプス大佐のこと、おぼえておられますな」
 と、訪問者はいった。コーウェンは顔色をかえた。忘れるはずもなかった。

613 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/27 16:31 ID:???]
 訪問者は、ジョン・バウアーの手の者であった。バウアーからの書簡とディ
スクを手渡し、素性を明かすとコーウェンは拳をふりあげ、怒りをあらわにし
た。
「貴様、バウアーの手のものか」
 その名は、コーウェンにとってあまり愉快ではない。
 ジョン・バウアーは、ジャミトフの支援者といってもいい人物であった。か
れは資本家の出で、連邦議員となってより支持基盤をかためるべくカネをもち
いて活動をしはじめた。平素のかれはほとんど口をひらくことはなかったが、
一旦口火をきると、その論理の明晰さと人間的魅力でつぎつぎと支持者を増や
していった。もちろん、米国系白人らしい容貌もプラスになっている。
 ときには露骨なヤミ金をながし、ジャミトフの存在を全地球圏にアピールす
るための裏工作もした。最大源の利益をひきだし、合理的にその影響力を拡大
してゆくうえで、ジャミトフの創設したティターンズに近づくことはかれにと
っては賢明な選択であったといえる。
 当然、反対者も多い。ときにテロに遭ったこともあるが、かれはひたすら自
分の栄光のときを待った。
 コーウェンがウォーター・アイランドのスペースノイドたちから聞いた言葉
がある。
「バウアーは、メラニーよりたちが悪い。なぜなら、つねに影に徹し表舞台に
はべつの人間をあがらせ、黒幕として最大源の利益を得る。おなじ火中の栗を
拾うにしても、やり方があくどすぎる」 

614 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/27 16:39 ID:???]
 華僑系スペースノイドですらそういう評価をしていることをかれはよく耳に
していた。そのために、この訪問者を殴り、外へ放り出そうとしたが、
「待ってください。そう決めつけてもらっては困ります。まずは書簡に目をと
おしてください」
 そう言ったが、コーウェンは怒りをおさえきれず、壁に自分の拳を叩きつけ
た。木の壁に、拳がめりこんだ。
「もしわしがかつての連邦将官ジョン・コーウェンであったなら、おぬしの命
はとっくの昔に消え去っておったろう。感謝するんだな」
 その一言は、十分に威厳があった。訪問者は本気でなぐられるのではないか
と思ったが、内心安堵した。バウアーの言うとおりであったからだ。

615 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/27 16:44 ID:???]
 だまって書簡を読んでいたが、しだいにおどろきをかくせなくなり、
「これは本当のことか」
 と、訪問者に問うた。コーウェンからすれば信じられぬことである。
 シナプスの遺族に、バウアーは援助と生活補助をしているというのだ。それ
も、シナプスが極刑となってからこんにちまで、ずっと絶やさずにそれをやっ
てきたという。
「本当ですよ」
「だが、なぜやつがそれをする必要がある。やつはティターンズ支持者ではな
いのか」
 普通、そう考えるのが当然であった。
「知りたいですか」
「無論だ」
 コーウェンの反応に、訪問者は調子づいたのか、かれに説明をしはじめた。

616 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/27 17:00 ID:???]
 バウアーの真意は、連邦政府体制の維持と、無能な高官たちに代わって自ら
が政府中枢にて権力を握ることであった。旧世紀以来の、それもソ連共産党幹
部のような腐敗しきった長老どもの権力を骨抜きにするにはどうすればよいか。
軍事をつかうことである。軍事力をもちいて彼ら無能な高官と将帥たちの存在
価値をなくし、新たな体制建設の第一歩とする。そのための、ティターンズ接
近であった、と訪問者はコーウェンに語った。
 なるほど、そういわれれば合点がゆく。ジャミトフ敗滅後、バウアーがとっ
た行動は、あきらかにジャミトフを支持してやってきた路線とはまったくちが
うことであったからだ。まっさきに、エゥーゴに接近し、メッチャーら高官た
ちをとりこんで、ティターンズに組みこまれて(いた)連邦正規軍をジオン征
伐勢力に編成しなおさせた。このあたりの機敏さは、いかにもかれらしい。し
かしそれにしても、あくどいことにはかわりがない。
「本心は、反ジャミトフであったわけか」
 コーウェンはイスにすわり、考えこんだ。だがすぐに納得できるほど、単純
な頭脳(あたま)でもない。偽りかもしれないが、それならば自分のもとへき
た理由がわからない。利用する肚(はら)だとしても、もはやなんの価値もな
い自分を利用してなんになるというのだ。
「最初に言ったはずです。シナプス大佐の件、無念ではありませんか、と」


617 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/27 17:12 ID:???]
 訪問者はもう一つ、手紙をコーウェンに差し出した。コーウェンは手紙を手
にとり、はっとした。差出人は、コーウェンの妻からであったからだ。
 コーウェンは、複雑な思いで、手紙をひらいた。内容は、コーウェンに対す
る、なんとも言い表すことのできない心境と、極刑を受けたシナプスの事実を
バウアーから知らされたこと、そして、シナプスの息子が父の極刑のあと連邦
軍籍を剥奪され、ジャンク屋稼業を営んでいたとき、新しい部隊を創設するか
ら参加してくれないかというバウアーからの誘いがきて、それに応じたという
ことなどが書きつらねてあった。
 コーウェンの瞳に涙がにじんだ。この筆跡はあきらかに婦人の手によるもの
であった。シナプスとかれは、家族ぐるみで付き合いがあったから、コーウェ
ンはこの独特の筆跡が、シナプスの妻直筆のものであるということがわかった
のである。真似のできない、あまりうまくない字ではあったが。
 すまないという思いとともに、かれは手紙を握りしめながら、
「侘びをしたかった」とつぶやいた。訪問者は「侘びなどいくらでもできます」
といったあとで、
「協力をしてくだされば」
 とつけ加えた。

618 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/27 17:22 ID:???]
「協力?」
「はい」
 訪問者はいった。
「あなたに、もう一度立ち上がっていただきたいのです」
「わしにか」
 コーウェンは、感傷が冷めないでいる。だがこの目の前の男の言いたいこと
はわかっている。
 わかってはいるが、どうにも頭のなかが複雑で、まとまりきれない。
 かれは政治という摩訶不思議な世界を身をもって体験しただけに、バウアー
のあの変幻自在ぶりがどうにも人間ばなれしたものにみえて仕方がないのだ。
「あだ討ち……。古い言葉ですがね、ジャミトフそしてハマーン・カーンが消
えても、いずれまたハマーン・カーンのごとき者が宇宙よりたち現れる。その
不測の事態に備えて」
「わかった。それ以上はいうな」
 制止して、
「しばらく、考える時間をくれ」
「後日、あらためて伺うことにしましょう。いい返事を期待していますよ」
 そういって、一旦帰すことにした。  

619 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/27 17:34 ID:???]
 しばらく机にむかって考えていたが、ふと一本のウイスキーが気になった。
男が置いていったものだ。
(そうそう、これを渡してくれと頼まれてたんだ。置いてきますよ)
「ウイスキーか」
 コーウェンはしばし男の持ってきてくれたウイスキーを眺めていた。
 あの頃はよく酒を酌み交わし、将来をともにシナプスと語り合ったものだっ
た。酒量を制限させられているかれは、一定量に達すると結構です、結構です
とことわっていたものだ。
 「ふたたび、酩酊するのもよいか」
 バウアーは自分を再び表舞台にひきあげようとしている。それは、かれの手
の上で踊るということになりはすまいか。
(思えば、おれの半生は踊り狂うものであった)
 各派閥を遊泳し、ときに武官として毅然たる行動をし、ときにそれをひっこ
め、叱咤激励してことにあたっていたあの頃。考えてゆくうちに、コーウェン
は自分がバウアーを責めるのは筋違いであるというように思えてきた。正道を
歩んでことが成せるならとっくにそうしている。それが現実レベルで再現でき
ないからこそ、あのような道を歩み、やつもそういう(他人からみれば変節と
とらえられかねない)道をあゆんできたのではないか。  


620 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/27 17:46 ID:???]
「では、YESということで」
「うむ」
 かれは、バウアーの招きに応じることにした。
 ディスクの内容は、元連邦軍中将が側近となる件においては問題はないと
いうことと、バウアー自身からの要請と希望が記録されていた。
 もやは、コーウェンに価値はない。だが、価値がないからこそ、新しくおこ
る出来事に価値を見出すのである。新たな第一歩といえた。
「ティターンズがほろんでよかったですな。もし今でも生存していたら、こん
なふうには閣下のもとへは近づけませんでしたよ」
「わしは閣下ではないよ。元閣下とよんでくれ」
「ははあ」
 ヘンなところにこだわるものだ、と男はおもった。強靭な精神と軍人らしい
こだわりはまだ健在らしい。
「ところで、ウイスキーはお飲みになられましたか?」
 男は話題をかえた。
「ああ、あれか」
 コーウェンはいう。
「すべてが終わったあとに、ゆっくりと飲むことにした。シナプスとな」
 なるほど、という顔を男はした。
「では、まいりましょう」



621 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/29 23:28 ID:???]
 かれはロンデニオンにてジョン・バウアーとブライト・ノア、アムロ・レイ
らと会い、これからの連邦政府の在りかたと外郭新興部隊設立の重要性を説か
れた。バウアーらとの会談でコーウェンは思想が一変し、バウアーの前で体を
折って頭をさげ、自分は未熟であった、秩序維持というものは政府の大業であ
り、この実現に自分も微力をつくしたい、と言い、事実、影ながら奔走しはじ
めた。外郭新興部隊旗艦ラー・カイラム級機動戦艦が、ヴィックウェリントン
社で、各サイド公館筋が予想していたよりもはるかに早く完成・運用されたの
は、ジョン・コーウェンの力によるところが大きい。

622 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P122 [03/12/29 23:45 ID:???]
 コーウェンには、ジョン・バウアーの外郭新興部隊――ロンド・ベル隊――
こそ連邦政府体制を推進させる唯一の装置であるという信仰があった。
 かれが外郭新興部隊設立さわぎのときにジョン・バウアーに付属し、バウア
ーの手足になってアデナウアーの特務部隊不要論を封殺してしまったあとは、
宇宙のはしばしに満ちている反政府熱というものを政府の敵であると信じた(略)
 サイド2で過激派反政府組織NSPが暴発するという風説がロンド・ベルの
根拠地ロンデニオンをさわがせているこの時期、コーウェンはかれ自身、確実
な情報をつかもうとした。
 かつてのコーウェン派情報将校の数名を、各コロニーに送りこんだ。

623 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P125 [03/12/30 00:04 ID:???]
 この情報将校たちの報告書は、アムロ・レイらの情報とともにジョン・コー
ウェンの手をへてジョン・バウアーにとどけられた。
 バウアーの手もとには、この種の口頭およびメール、書面による報告が多く
あつまっていた。かれが積極的に口に出してそれを欲したわけではなかったろ
うが、バウアーを補佐する連邦・エゥーゴ・カラバ系のひとびとが、力をつく
してそれを集めていたといっていい(略)
 バウアーは第二のハマーン・カーンたるシャア・アズナブル潜伏の可能性た
かいスウィート・ウォーター問題については、あたかもロンド・ベルの私争の
ように、他の政府関係者、議員、高官、正規軍に相談したことがなく、また雑
談で触れたことすらなかった。
 かれはロンド・ベル関係の者だけをあつめては、その意見や報告をきいてい
た。
 むろんこの件に関しては、情報部将校アリス・ミラー中佐がバウアーに対し
て緊密であった(略)
 アリス・ミラーは一年戦争以来、ジオンに対して強硬思想のもちぬしであっ
た。
 

624 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P126 [03/12/30 00:21 ID:???]
 アリス・ミラーはこの点、乾いていた。
(シャアこそ、病根ではないか)
 と、内心かのじょが思っていたらしいことは、証拠はないにせよ、傍証とし
ては多く存在する。
 スウィート・ウォーターや各サイドが、住民まるごと連邦政府に服しようと
しないのは、ダイクンの革新思想こそ本物であるという信仰や、一年戦争にお
けるサイド国家・ジオン公国の功績についての自負、また政府もその伝統も否
定するミネバ・ラオ・ザビという虚像的存在、さらには一般問題としてスペー
スノイドの失業問題と人間的価値についての精神的、経済的不満などがあげら
れるが、もしシャア・アズナブルが存在しなければ、各コロニーの反連邦組織
やジオン残党らがここまで驕慢(きょうまん)にならなかったであろう。
 かれらは、シャア・アズナブルを崇敬すること、あたかも宗教的感情のよう
である。さらには、ひとたびシャアが起ちあがれば満天下の公国系軍人・反政
府運動家・スペースノイドが風を望んでやってくるだけでなく、サイド駐留の
連邦部隊も戦わずして靡(なび)き、連邦政府はただそれだけで瓦解する、と
信じていた。ダンジダン派をはじめとするジオン残党に世界観などあるはずが
なくシャアその人が世界観であり、戦略などあるはずがなくシャアそのひとを
擁するというだけで戦略は足る(略)
 だからシャアの存在は悪であるとアリス・ミラーはおもうのである。
 

625 名前:創設者の靴音(翔ぶが如く(七)より) mailto:sage内務卿の靴音・P153 [03/12/30 00:38 ID:???]
 バウアーのロンド・ベルは新秩序を推進してゆく特別組織であるとともに、
反面スペースノイドの支持をほとんどといっていいほどうけていないために、
民主制という連邦政府の柱的基礎を濃厚にかりざるをえない。それを笠に着る
ことによって反政府主義者や旧公国系残党らを「悪」と見、絶対民主制を擁し
ている自分のほうが「正義」を奉じているとする特務組織の基本的性格がここ
にも打ち出されているといっていい。
 

626 名前:通常の名無しさんの3倍 [03/12/30 15:11 ID:thirGSMW]
ものすごい大作の連続!今年を締めくくるのにふさわしいですね

627 名前:儲けよう物語(売ろう物語より) mailto:sage人斬り以蔵収録・P384〜385 [03/12/30 23:36 ID:???]
「よい気持ちじゃなあ」
 呟いているのは口だけで、顔は別の思案をしている。折角、初のOVAガン
ダム・0080「ポケットの中の戦争」が好調な売り上げを記録したのだ。富
野監督以外のガンダムでもウケるとあれば、さらなる続編製作が必要だった。
「今西君よ」
 と、サンライズ諸作品の演出を手がけている男にいった(中略)
「どうしたものか」
「この様子では、つぎの商いは、路線を大幅に変更しなければなりませぬな。
縮小再生産という批判も社長から」
「なにをいう」
 と植田益朗は、薄くわらい、
「変更はサンライズにとってつねに使ってきた手だ。ガンダムというジャンル
も、プラモデル展開やSD路線などまだまだご利益をたたき出せる。我々の商
いはアニメーション製作に直接関わっているスタッフとおなじくらいの苦労を
ともなっておるのじゃ。ときには、利もあれば不利もある。――しかし、どう
したものか」
 と、続編の策が浮かばない。 

628 名前: mailto:sage [03/12/30 23:44 ID:???]
>>626
嬉しい反応でつ。
ここんとこ余裕できまして、書き込みが加速してます。
今気がついたんですが、明日はア・バオア・クー会戦の日になるのですね。記念
に1stネタを完結させる予定でいます。

629 名前: mailto:sage [03/12/31 00:16 ID:???]
ヤマザキ「日本サンライズや初期の製作者たちは、わりに正しく創作のリアリ
ティーの姿勢をもっていたように思えます。それがZガンダム以後どうして変
わっていってしまったのか、と考えるんですがよくわからない。一つには、先
ほどいったようにブームがきれ、新しく次のクリエイター世代が参入し、パー
ト2志向、安全パイといった安易な道を選んでいったということがあると思う。
今までの泥くさいやり方は新世代のスタッフは敬遠したし、かといって有能な
スタッフなどそうそういるもんじゃない。ところが富野には本当に親身になっ
て補佐し、ともに映像を作ろうという相手がいないという不幸があった。それ
どころか、アニメーション界のカリスマというので内から追いこまれる。オリ
ジナルを要求するファンたちにも、それでは第一次ブームのあとにどうジャン
ルを活性化させていくかというと、具体的なやり方はないんです。同じ作品の
ファン同士でも拡散しているし、もっと違うところで別のファンダムが発生し
ていたりしますから。そうすると、多様化したファンたちへペイできて、かつ
自分のやりたいことを露骨に再現するようになった新世代クリエイターが、だ
んだん閉塞したり、より深い創作にはまっていったり、これといってやりたい
こともないけれども、絵が描けるからとかコンテが書けるとかといった理由で
監督気どりをしてみせる。それに対して、また強烈な古参ファンの反応が起こ
る。そういう商業主義的・サービス精神欠如と続編重視の悪循環で種まできて
しまったのではないだろうかと思うんです」

630 名前: mailto:sage [03/12/31 00:19 ID:???]
タイトル入れ忘れました。
>>629
「リアリティの欠如」(対談集)歴史を考える・P210〜211



631 名前:リアリティの欠如(対談集) mailto:sage歴史を考える・P211〜212 [03/12/31 00:53 ID:???]
ヤマザキ「ただ、富野・高橋派と位置づけていいスタッフ、かれらはある程度
将来や創作姿勢があったと思うんだけど、経営者や製作条件の厳しさからたた
かれてしまうでしょう」
シバ「私はまったく知らなかったのだけど、佐橋俊彦という作曲家はたいへん
な劇伴の達人だったそうですね。平成11年に製作された「THEビッグオー」
という海外でも高い評価をうけたSFロボットアニメーションで、彼はオーケ
ストラとシンセを絡めたアクション音楽を提供したり作品のムードを高めるセ
ンスのいい曲を作っている。もし監督の片山一良のような単純にロボットアク
ションとドラマをやりたいというスタッフが種にいたら、彼もやはり、「SE
COND・SEASON」(ビッグオーの第二シリーズ)のメイン・テーマ曲
の書き下ろし、劇伴もおろそかにせず、スタッフとのコンディションもうまく
やり、サービス精神をなによりも欠かさなかったと思う。ところが佐橋俊彦の
――かれは特撮映像の音楽を担当していたりするんですが――せっかくの劇伴
も、うまく種に生かさずに骨抜きにしてしまう。盛り上がるべきシーンでも、
背景BGMがなかったり、やけに力のないシーンになってしまうんですね。ガ
ンダムシリーズの劇伴というのは、もうダメなのかしら。私は種以前ではGセ
イバーくらいしか劇伴はよくないなと思ったことがあるけれども」
ヤマザキ「劇伴の問題にしても、佐橋氏と福田とは種が初めてではなく「サイ
バーフォーミュラSAGA」から縁があるんですから、種としてはあんな劇伴
と音なしムダ台詞廻しのほかにいろいろなチョイスがあったと思うんです」

632 名前: mailto:sage [03/12/31 21:52 ID:???]
保守します

633 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P143〜144 [03/12/31 22:16 ID:???]
 しかしながら報告をきいた少将キシリア・ザビの神経は、常人のようには感
じなかった。
 大きく震動した。
「ア・バオア・クーは落ちる」
 と、キシリアはおもった(中略)
「シャアの活躍がなければ公国軍はもはや終(しま)いになるやも」
 とキシリアは思っていた(略)
 しかしそれはキシリアの政治的幻覚にすぎない。
 キシリアは、みずから政治の舞台をつくりだしてみずからそこへあがる人で
あった。信じがたいことであったが、かのじょはこの報告のあと、敵であるガ
ンダムのパイロットについての本音を述べたあと、突撃機動軍参謀長トワニン
グ大佐に対し、
「私の脱出後15分後にここを降伏させるがよい」と命じさらに脱出用の艦の
用意をするようにいったのである。ジオン公国の指導体制崩壊がこのときから
はじまる。  

634 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P145 [03/12/31 22:27 ID:???]
「ギレン閣下が戦死されたというのか」
 と、エギーユ・デラーズ大佐は、通信将校にしつこく問いただしたが、通信
将校はただ「無念であります」と答えるのみで、要領をえない。エギーユ・デ
ラーズ大佐は、ギレン信者であるためにキシリアに対してはげしい警戒と憎悪
の気持ちをもっていた。
「なぜ閣下が不慮の戦死を遂げられねばならぬのかが、私にはよくわからぬ。
私は命令に反抗するものではないが、それにしても不自然極まりないことであ
る。キシリアの謀略ではないのか」
 と、疑惑の思いをはき出す始末であった。

635 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P160 [03/12/31 22:52 ID:???]
 キシリアは、かのじょの総司令部においてはあくまでも専制的であり、トワ
ニング大佐以下の参謀官が存在してはいても、多分に副官的存在であり、とき
には一官僚にすぎないこともあった。トワニングは突撃機動軍的慣習に従い、
しいて反論することなく、キシリアのこの気分と新方針に同調した。トワニン
グのこのときの心境というのは見当がつかない。もっとも見当をつける必要も
ないほどかれはキシリアに密着していた。かれはジオン公国軍きっての実力者
であるキシリア・ザビにさえ密着していれば軍人としての将来は安泰であると
考えており、それによっておこるかもしれない国家の崩壊などは、ほとんど―
―どの官僚的軍人にとってもそうだが――意識のそとにあった。

636 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P161〜162 [03/12/31 23:07 ID:???]
 トワニングは、さっそく脱出用の艦艇を準備した(中略)
 キシリアはこれでもなお不安であったのは、かのじょの脱出を阻もうとする
であろう連邦軍艦隊の脅威であった(略)
 キシリアは、上陸部隊を押しかえすための兵力に、亡きギレン・ザビが虎の
子のように大切にしていた総予備隊と、要塞兵団をもってあてた。連邦軍上陸
部隊とホワイトベース部隊が、ア・バオア・クー会戦の終幕において惨戦に次
ぐ惨戦をくりかえすのはこれがためであった。

637 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P162 [03/12/31 23:17 ID:???]
 以上の個人的な計画により、キシリアは、整然たる脱出をやってみせるつも
りであった。
「連邦軍も疲れていよう」
 という計算もあった。
 たしかに連邦軍はキシリアの想像以上に疲労していただけでなく、この会戦
のために準備していた物資や兵員、エネルギー残弾はほとんど尽きようとして
いた。
 ヒペリオンにあるダグラスは、このときまさかキシリアがア・バオア・クー
よりはるか彼方のグラナダまで逃げてしまう決意をしたということを知らない。

638 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P163 [03/12/31 23:25 ID:???]
「ブライトもこまったものだ」
 という声が、総旗艦で憎悪をこめてささやかれつづけ、さらに若い幕僚まで
が、
「第13独立戦隊といいながらいつまで下手な白兵戦をするつもりか」
 と、地球での戦闘以外白兵戦闘の経験がすくないホワイトベース隊をののし
ったりした。総旗艦の幕僚のたれもが、ブライト・ノアとそのホワイトベース・
クルーがのちに世間から一年戦争での功績を一身にになうほどの象徴的存在に
なるとは、不覚にもおもっていなかった。
 総司令官ダグラス・ベーダー連邦軍中将は、強襲上陸時、参謀長をつかまえ
て、
「このままヒペリオンも着底させて白兵戦に参加してもいいか」
 と、問うた。

639 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P163〜164 [03/12/31 23:40 ID:???]
 既定の作戦ではホワイトベースを先頭にア・バオア・クーにしかけるという
ことであったが、いまの実情ではとうてい戦局転換はさらに望み薄になった。
それよりも総旗艦ヒペリオンと主力部隊を要塞に着底させてホワイトベース隊
と相重なりつつ最後の決め手をうちジオン公国を壊滅させるほうがよいのでは
ないか、とダグラスはおもったのである。
「閣下も」
 そうお思いでしたか、と参謀長が血色のわるい顔にめずらしく血の色を映え
させたのは、かれもそのことを考えていたからであり、さらにこの参謀長は相
当な自信家ではあったが、直感力においてはダグラスのほうがはるかにまさっ
ていると思っていた。かれは自分の思考に対してダグラスの直感力がそれを保
証してくれたことによろこんだのである。
(これは、いける)
 と、参謀長はダグラスを中央に導き、要塞戦闘計画を簡潔に説明した。ダグ
ラスは自ら先頭になって戦うことを望んでいる。
「いままで多くの兵たちやブライトらに苦労をかけた。今度は、総司令官たる
自分が前線に立つ番だ」

640 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P167〜168 [03/12/31 23:58 ID:???]
 生身で白兵戦をシャアと繰り広げたアムロ・レイ少尉は、負傷し、意識も朦
朧(もうろう)としはじめたとき、声がきこえてきた。
 ララァの声であった。
 彼女の声が、はっきりとかれには聞きとれた。いかにも亡霊が漂っているよ
うにも思えるほどに奇怪な光景であったが、しかしながら、刻がみえ、ニュー
タイプとしての覚醒を果たしたアムロにとって、ララァの言葉は生存という目
的を再燃させるのに十分すぎるほどの効果があった。
 ゛みんな゛の姿を、アムロはかすかながら見ることができた。やがてアムロ
はセイラ、ブライト、ミライ、フラウ、カイ、ハヤトらに脱出についての指示
をした。アムロはニュータイプらしい適確さでそれをしたあと、コア・ファイ
ターに乗ろうとした。アムロからの指示を感じたクルーたちは指示どおりに動
き、ランチを発進させて要塞から脱出をはかった(略)
 このままいけばホワイトベースはア・バオア・クーともども沈むことは確実
であるようであった。  



641 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P168 [04/01/01 00:03 ID:???]
 アムロは、結局はコア・ファイターで脱出をした(略)
 かれの機体はボロボロになりながらクルーたちのランチにたどり着き、つぎ
の瞬間にはアムロの身体は宙に浮き、生き残ったクルーたちにあたたかくむか
えられた。
 かれには、まだ帰る場所があった。おそらくララァもわかってくれるであろ
う。

642 名前:終局(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P168〜169 [04/01/01 00:12 ID:???]
 ア・バオア・クー会戦の勝敗は、この時点で決定した。
 このとき、公国軍艦隊はそれぞれが空域離脱を開始したが、すでに連邦軍の
包囲が活発になっていたために、さきのソロモン会戦のように整然とはゆかな
かった。
「全空域ことごとく連邦軍たらざるなし」
 と、公国軍の一将校が表現したように、要塞内部といい、外部といい、さら
には宇宙空間といい、連邦軍の艦艇、MSで満ち、その状態は名状しがたいも
のがあった。
 それに対して、公国軍の最後の抵抗が、白兵突撃や特攻をもって行なわれた。

643 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [04/01/01 00:21 ID:???]
明けましておめでとうございます。


644 名前: mailto:sage [04/01/01 22:26 ID:???]
>>643
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いしますね。

645 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P169 [04/01/01 22:41 ID:???]
 それに対して、連邦軍のあらゆる残存艦艇・MSが、数すくないエネルギー
残量をもって瞰射(かんしゃ)した(略)
 無数のエネルギーと砲弾が敵の突撃艇をくだき、敵MSを宇宙にとばし、こ
のため公国軍は潰乱に潰乱をかさね、パプア級補給艦、ムサイ級軽巡洋艦、チ
べ級高速重巡洋艦が破壊されたまま宇宙に残骸として残り、ついには軍隊秩序
がなくなり、デラーズのように戦線を離脱する者、集団投降する者、あるいは
大混乱の渦をつくってかけまわる集団が集団ごと一瞬で宇宙の塵と化してしま
うなど、公国軍戦史上類のない敗戦を実現した。 

646 名前:ア・バオア・クー(坂の上の雲(七)) mailto:sage退却・P170 [04/01/01 22:55 ID:???]
 キシリアは、遠く突撃機動軍司令部のある月面都市グラナダまで逃げようと
ザンジバル級機動巡洋艦で脱出をはかろうとしたが、出港直前にシャアがあら
われ、敬礼をしつつバズーカを艦橋にいるキシリアに向けて撃ち、その不意討
ちでキシリアは即死、さらにサラミス級巡洋艦の艦砲射撃がザンジバル級を撃
沈したために再起をはかるまでにはいたらなかった。ちなみに、かのじょの参
謀トワニングはキシリアの死後も要塞守備の任務をつづけ、要塞陥落後は連邦
軍に捕らえられ、地球・アイスランドで長い刑期を送ることとなった。

647 名前:終局(坂の上の雲(八)) mailto:sage雨の坂・P282 [04/01/01 23:02 ID:???]
 ア・バオア・クー会戦が、ザビ家一党独裁と戦争遂行体制崩壊を連邦側がな
しとげたとき、ジオン側ははじめて戦争を継続する意志をうしなった。という
より、ようやく和平推進派が台頭できる下地ができた。

648 名前:終局(坂の上の雲(八)) mailto:sage雨の坂・P284 [04/01/01 23:10 ID:???]
 会場は月面都市グラナダであった。年もあけぬ間にジオン側はダルシアら和
平派がジオン共和国を名乗り、サイド6・ランク政権を通じて終戦協定締結を
連邦政府に申し入れ、受諾された。連邦側も疲弊していたためである。さらに
終戦協定は宇宙世紀0080・1月1日に批准された。だが、問題がすべて解
決されたわけではない。多くの不安要素を残したままの協定は、その後数多く
の惨禍を地球圏にもたらしてゆくこととなる。

649 名前: mailto:sage [04/01/01 23:14 ID:???]
>>645ー646
このタイトルも「終局」でつ。訂正しまつ。

650 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [04/01/05 11:46 ID:???]
おお、年末年始に大作が。
GJでした>神々



651 名前:通常の名無しさんの3倍 [04/01/06 18:15 ID:DWy1+9vc]
おもしろい

652 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [04/01/06 23:29 ID:???]
普通に感動しましたが。

653 名前: mailto:sage [04/01/08 20:04 ID:???]
感想ありがとうございます。
ここんとこ二日酔いでダウソしてました。

654 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP63〜64 [04/01/08 20:30 ID:???]
「ご老体、ご老体」
 グエン・サード・ラインフォードはシド・ムンザをよび、
「すまないが、何人か連れて冬の宮殿に行ってくれないか。黒歴史のデータを
すべて吸い上げてきてほしい」
 といった。
 場所はウィルゲムの艦内である。
 シドは突然の要請に呆然としている。しばしグエンより視線をそらした。
(泥棒ではないか)
 シドが瞬時でも思わなかったとすればうそになる。が、どうにも決心がつか
ない。
(グエン卿はこんな方だったのか)
 シドはグエンの才を漠然としながら敬ってはいる。
 しかしこのときほどグエンの貴族的いやらしさを感じたことはなく、グエン
にむかって、科学者としての最低限の節度を堅持しつつ反論をこころみた。
「全地球の運命がかかっていることだとはお思いになられませんか?」
 グエンの返答はなかば強制に近いものだった。


655 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP65〜66 [04/01/08 20:48 ID:???]
 シドは、吸い出せるだけ吸い出してきた黒歴史のデータをグエンらに見せて
いる。他にいるのはミハエル・ゲルン大佐とヤーニ・オビュス軍曹。
 グエンは紅茶を飲みながら画面を見ている。三人ともシャツ一枚というラフ
な格好だ(略)
 シドはなにか、呑まれてしまっていたのであろうか。というよりも、この良
心の痛むデータ簒奪の場合、よほど冷静でないかぎりきちんとした黒歴史デー
タの説明などできるものではなかった。シドは同じ部屋のなかにいるミリシャ
の重要人物たちが近代軍事的対象としての産業革命を強引に推進しようとして
いることにうすうす気がついている。しかし一技術者にすぎないかれにはとめ
ることなど不可能であったろう。
 むろん、近代文明がおこるためには少々の闘争も仕方がないと考えられる。
近代産業への欲望がまた人を非常の行動へ突き飛ばすことがあるが、シドはよ
もや御曹司はそこまで飛躍はすまいと思っていた。 

656 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP66 [04/01/08 21:02 ID:???]
 夜が明けると、ウィルゲムにグエンらが入ってきた。ブルーノとヤコップは
これからなにがはじまるのか皆目見当がつかず、口々に言いさざめたが、グエ
ンの一喝で静かになった。
「これから地球へ帰還します。ギム・ギンガナム殿もまたギンガナム隊ととも
に同行する。それとローラも私たちとともに地球へ帰る」
 両者、口をあけた。事態が理解できず、従ってグエンが今いったことが、容
易に頭のなかに入らなかった。

657 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP67〜68 [04/01/08 21:25 ID:???]
 ギンガナムとの提携とウィルゲム、そして∀を強奪した一事はグエン一代で
の唯一といっていいあざやかな芸で、グエンの人間について考えるとき、ふし
ぎな印象がある。
 グエンは、かれ自身も自認しているところだが、元来、ノーブル階級らしい
出身からか自分でことを成すということをあまりしなかった男であった。ムー
ンレイスへの交渉においても、下々が下準備をしたうえでことを運んだ(略)
 かといって、グエンのふしぎさは、いつの場合でも敵の顔の見える前線に身
を曝(さら)し、人々の背後に隠れるということはなかったことである。
 ギンガナムに対してもそうであった。ギンガナムという狂犬に対し、自分の
持てるかぎりの餌を相手の眼前にぶらさげ、それを咬もうとするギンガナムを
たくみに自分の陣営にひきこみ最大源に利用しようとした。豪胆というよりも、
平気でそれができるところにアメリアの名門貴族らしいたくみさがあるのかも
しれない。この場合、餌の対象となる無限大の近代文明樹立と覇権、新たなる
世界秩序を阻もうとするロラン(グエンのいう゛ローラ゛)がディアナの意志
を盾にしてあらわれ、グエンに従わずに∀で押しとどめようとした(略)
 ロランと∀が新秩序樹立にやっきになっているギンガナムに戦いを挑み、破
れさってしまったというのは、グエンの持ち合わせている政治家としての才腕
がこの時点では有効に機能しえたといっていいかもしれない。

658 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP69〜70 [04/01/08 21:40 ID:???]
 ディアナにはひとつ、手だてがあった。
 老山師シドにロランへの伝言を頼むことであった(中略)
 シド・ムンザ――年齢は75歳――が山師としてマウンテンサイクルの発掘
をくりかえていたことはすでにふれた。乱世に際会(さいかい)せねばまぎれ
もなく一山師で生涯をおえたにちがいない。当時、ディアナ・カウンターはま
だ来襲していなかった。グエンはミリシャの増強と産業革命推進の準備をして
いた(略)
 シドが、
――いかにもグエン卿は技術を重視なさる。大物じゃ。
 と見て、その手助けをしはじめたのである(中略)
 シドがディアナにあたえたのはディアナの側がおどろくべきことであった。
「ロランならさっきウィルゲムで会ったばかりです。ウィルゲムで連絡つかな
かったんですか?」
 といった。ディアナは不審におもった。ロランにターンXを受け取らせなけ
れば、ギンガナムはどういう手段に出てくるかわからない。

659 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP11 [04/01/08 21:53 ID:???]
 ディアナは、いそがしかった。
 事態を収拾し、新造艦ホエールズで地球へむかった。この鯨がマーキングさ
れた艦で、すぐにギンガナムとグエンを追わねばならない。

660 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP99〜100 [04/01/08 22:04 ID:???]
 ギンガナムの小型というべき猛将がスウェッソン・ステロで、名のとおりメ
リーベルとともにギンガナム隊の竜虎というべき将である(略)
(なるほど、スウェッソンか)
 もし彼が相手だとすれば、かれの猛攻に耐えられるパイロットはロランくら
いしかいない。
(私ぐらいのものか)
 と思うが、スウェッソンはそうは認めないだろう。ハリーはかつてギンガナ
ム隊に一士官として籍を置いたが、当時、スウェッソンといえば相当の地位に
いる人物だった(略)
 おそらく、
――あの女王きちがいで、それだけのために大望を捨て去った男だ。
 と、自分に対する評価は変えてはいまい。



661 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP106 [04/01/08 22:15 ID:???]
 ギンガナムは、スウェッソンにすぐ出発させた。
「やつには特別のカスタム機をあたえよ」
 といったために、襲来してゆくスウェッソンのG−838マヒロー隊は、ギ
ンガナムの先陣部隊としては申し分なかった。
「われらサムライのすさまじさをみよ」
 と、みちみち呼号させてゆく。

662 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP109 [04/01/08 22:22 ID:???]
 スウェッソンの性格は、凶暴そのものであった。剽悍(ひょうかん)で進む
を知って退くを知らず、激しく決戦して敵を破壊しつくすということに戦いの
価値を置いている。そのフラストレーションまるだしのやり方はギンガナムそ
のままであり、みずからカッターを振りあげ、全MS部隊を火の玉のようにし
て前へ前へと駆りたててゆくという方式であった。

663 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP125〜126 [04/01/08 22:43 ID:???]
 メリーベル・ガジュット。
 彼女がギンガナムに識(し)られたのはこの時期から数年前、ギンガナムの
もっとも不満蓄積していたときであった(略)
 路傍でうずくまる少女を見た。
 ギンガナムは搭乗機をとめ、
「父親は、無いのか」
 と、問うたが、かれの言葉は武士道としての芝居がかかりすぎていて意味が
通じない。少女は商店の横のかげにいて、耳を手でふさぎながらふるえていた。
ふたつのまるい瞳が情熱をあらわすように赤かったのをギンガナムはおぼえて
いる。
「この娘に車をあたえよ」
 とダイミョウに言いすてて駆け去り、数日後に演習を了(お)えて宿所でこ
の娘をみたときは意外にも瞳がきわだってきれいで、目を構成する部分が白い
肌であざやかに浮かびあがり、あのときの印象とは別人のようであった。

664 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP126 [04/01/08 22:52 ID:???]
「おれを見よ」
 というと、白いひたいを上げた(略)
「運河人か」
 というと、少女はかぶりを振った(略)
 事情をきくと、彼女の一族は反女王派で、ギンガナム隊の演習がはじまった
とき、これと同じくして女王暗殺をはかろうとしたのが露顕し、両親ともディ
アナ・カウンターに連れ去られて処刑されてしまったらしい。
「姓は」
「ガジュット」 

665 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP127 [04/01/08 22:56 ID:???]
「ガジュットよ」
 ギンガナムはよんだ。女の場合、姓が名前として使われる時がしばしばある。
「以後、小生の片腕となれ」

666 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP130〜131 [04/01/08 23:09 ID:???]
 ギンガナムはふしぎでならない。
 ギンガナムのみるところ、ディアナは平和に執着している。黒歴史を公開し
真実をひとびとにみせたあとその人々に期待する部分多く、自然、協調と平和
という人類がなしえるであろう理想主義に執着していた。
(ディアナのあたまは、小生をもって新しい時代をきりひらくというよりもお
のれの願望を具現化することしか考えていない)
 新たなる指導者でなく、つまりはただの平和志向の女にすぎないのだ、とギ
ンガナムはみていた。ディアナもローラという小僧をはじめとした連中も蝿(
はえ)のようにさえ見えるときがある(略)
(蝿は、もはや対抗しうる術(すべ)をもたないであろう)
 とギンガナムはおかしがったが、しかし新造艦で追撃してきたディアナ一党
はしつこかった。地球にいるディアナ・カウンターですら統制外にあるという
のに、各地のミリシャ勢力らと交渉してギンガナムとグエンの勢力に対し執拗
に抵抗しつづけた。 

667 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP131 [04/01/08 23:19 ID:???]
 北アメリア大陸の諸領主を対抗勢力として連合させたり、ホエールズを緻密
な計算で巧妙に上陸させた。
 とくにギンガナムがわずらわしかったであろう存在はリリ・ボルジャーノで
あったろう。彼女のたくみな政治的手腕はディアナですら舌を巻くほどであっ
たからだ。

668 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP134 [04/01/08 23:26 ID:???]
 どうやらコレン・ナンダーは、自分の宿命について悟りきっているようであ
った。
――すでに異常気象が巻き起こっている。このイオンの匂いまじる暴風が月光
蝶を将来しディアナ様もギンガナムもすべてリセットされ、世界は、ふたたび
暗黒の歴史を紡ぐことになる。
 とおもっていたし、その証拠に、将来かならず起こるであろうその危惧すべ
き事態をふせぐべくふたたび行動を開始したのである。それがディアナにとっ
て結果的にかのじょを救いつづける活動になった。 

669 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP135 [04/01/08 23:33 ID:???]
 コレンがふたたび北アメリアの大地に現れたのは、ディアナがホエールズで
地球へ帰ってきたときである。さらにいえばギンガナムの襲撃で北アメリアの
各地域が攻められているときで、名実ともに地球侵略がおこなわれている時期
であった。女王のもとに徐々に戦力が結集し、兵たちの戦意も満ちはじめてい
た。

670 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP150 [04/01/09 15:19 ID:???]
 ギンガナムはしばしば強襲を仕掛けた。北アメリア各地のミリシャ勢力はつ
ねに弱く、そのつど退避・撤退をくりかえした。

 女王側、ギンガナム側というふたつの勢力に戦力上の優劣はないが、ただ決
定的なちがいは女王側はルジャーナ領主ボルジャーノ公を中心とする北アメリ
ア連合が娘のリリ・ボルジャーノの手びきによって女王側に加担しているとい
う政治的優勢と民意があるのに対し、ギンガナム側は政治的・軍事的にも孤軍
であるということであった。
 ギンガナムは、ディアナよりも政治的理解が貧困であるという証拠はひとつ
もない。
 ただ一点、ギンガナムのおかしさは、政治や補給という要素は二の次である
と思いこんでいたことであった。ギンガナム隊の補給は、その部署に立つもの
がやってきたが(政治においてはグエンに任せきりである)、ギンガナム自身
が頭をなやましたことはなかった。というより、大将たるものがそういうこと
に心をわずらわすのは愚だということが物の考えの底にあったといえるかもし
れない。



671 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP152〜153 [04/01/09 15:40 ID:???]
 ギンガナムの艦隊は、衰弱しはじめた。
 補給の難というのは、兵だけが餓えるのではなかった。戦力を構成しうるM
Sや艦艇の整備に必要な資材も不足しはじめたし、占領地の民衆も当然飢えと
無縁ではない。兵士たちがせまいアスピーテ級戦艦とその付近にひしめき、し
かも後方からの支援がまったく来ない以上、地球の民が保有している食糧を奪
わざるをえない(中略)
 ギンガナム側の場合、野に満ちているのはギンガナム隊とそれになびく者ば
かりという強盛を誇りつつ、食糧については平気で民のものをうばった(略)
 地下(じげ)の者の同情は、月より舞い降りた女王ディアナ・ソレルに集中
し、このためミリシャの兵士が野に降りてきてギンガナム隊の情報をさぐると
きも、ひとびとはすすんで協力するようになった。

672 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP153 [04/01/09 16:00 ID:???]
 たとえば、
「∀の量産化をグエンがはかろうとしている」
 ということを、アルマイヤー級戦艦ホエールズ搭乗のメンバーとキース・レ
ジェの工場で協議しているディアナが知ったのも、リリの手びきによる民間諜
報のおかげであった。
「グエン卿は、量産化の作業を実行段階にうつしているのでしょうか」
 とリリに問うと、そういう形跡はありませんわという。グエンとギンガナム
を支援する基盤はもろい。
(そこが、殿方)
 ディアナは、女性らしくおもった。グエンが破壊と残虐のかぎりをつくそう
としているギンガナムを炊きつけながら産業革命と近代文明開化を起こすこと
にすべてを賭けていることをディアナは知っている。地球に帰還し北アメリア
で戦国時代のごとき騒乱がディアナ・カウンターと各ミリシャ勢力のあいだで
繰り広げられている現実を目にしいよいよその「男の子的好奇心」をつよくし
た。自分自身の趣向を、子供遊びのような気軽さで、戦争と革命を成そうとし
ているようなところがあり、ディアナにとってはそれがはなはだ迷惑なことで
あった。
(グエン卿のなさることは、よほどのこと)
 とも、ディアナはウィルゲムを強奪して強引に地球に帰ってきたかれの一挙
よりそうおもっている(略)
 事実、ギンガナムはこの地球侵略をもって現在の文明を一新しようとしてい
たし、グエンはこの騒乱をもとに産業革命を北アメリアで起こそうとする決意
であった。 

673 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP267 [04/01/09 16:19 ID:???]
 はるかむこうから地響きをたてつつ、一台のトラクターがむかってきた(略)
「おれが」
 そのトラクターを運転していた僧侶はイチイチ愚痴のようにホエールズにむ
かって報告をしているジャラピィ部隊のエースを邪険にしつつ、
「コレン・ナンダー軍曹だ」
 といって、ホエールズのまえで車を降り、頭をさげつつきた(略)
「…ひゃはははっ、姫様はご健在であらせられますか」
 と、この出家者にすれば丁寧すぎるほどの声でいった。 

674 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP268 [04/01/09 16:29 ID:???]
「あなたは、どういう方でいらっしゃるんです?」
「おれか」
 コレンは、ひくい声でいった。
「おれは、徹頭徹尾女王陛下のしもべとして使える身だ」
「しかしながらあなたは今までコロコロとお変わりになられすぎている。今も
どってこられるのはどういうわけです」
 ロランは、かれにきいてみた。
「やらなくてはならない事態がきたからだ。それに変節しているわけではない。
おれは一貫して女王陛下に臣従しているんだ」
「よくわかりました」

675 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(中)より) mailto:sageP272〜273 [04/01/09 16:47 ID:???]
「コレンよ」
 ディアナはいう。
「もし軍曹がギンガナム隊に抗し、全力をあげてギンガナムにたたきつけると
しても、今の現状では、ギム・ギンガナムにとってくるぶしを仔犬(こいぬ)
に噛まれた程度の痛みしかありません。それによってあの強大なギンガナムが
亡ぶとは、このディアナは決して申し上げはしません」
「そのとおり、自分はなお微弱」
 コレンも、気持ちが素直になっていた(略)
「ただ、わたくしもコレンがいま反ギンガナムの意志をあきらかにするならギ
ム・ギンガナムの影響力は低下し、かならずや勝利はわたくしどもの側に帰す
るにちがいありません。それがわたくしがコレン・ナンダー軍曹に望むことで
ありましょう」(略)
 コレンは、ディアナの言葉に感動してしまった。片膝をたてて頭をさげつつ、
「ありがたき幸せ」
 と、返答したのである(略)
 コレンのような男の戦列参加はディアナの言葉で現実のものとなった。

676 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP227〜228 [04/01/09 17:10 ID:???]
 女王側のほうの利点は、ちょうどホエールズを出撃させれば統制外となって
いるフィル・アッカマンが掌握するディアナ・カウンターとともにギンガナム
隊を挟撃できることであった。ダイスケ艦長の采配とハリーの軍指揮があれば、
戦闘はそれほどむずかしくはないはずだった。
 ギンガナム側の不利は、その戦闘相手が多種多様になっており、女王はおろ
かミリシャと交戦中のディアナ・カウンターですらも敵にまわしていることで
あった。その目ざわりな敵が、かつて市民階級出身だった成り上がりのフィル
という男に指揮されて、それをマヒロー部隊で即刻叩いておかねばならなかっ
た。
「フィルはミランともども泡をふいて旗艦ソレイユに居すわっている」
 ギンガナムは相手の怯懦(きょうだ)をわらったが、しかしかれのギンガナ
ム隊のほうはかすかながら疲労の色が出はじめており、この現状を突破するに
は短期決戦で全ディアナ・カウンター部隊を殲滅するしかなかった。


677 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP228 [04/01/09 17:21 ID:???]
 以上のように列挙すると、ギンガナムをめぐる戦略的情勢はかんばしくない
かにみえる。
 が、たった一機のMSが圧倒的に優位を示していた。ギム・ギンガナムとい
う、勇猛さとサムライ精神にかけては黒歴史以来この地球圏にあらわれたこと
のない男に操られたターンX(型式番号Concept-X Project-6 Dicision-1 Block-2)
は、火力はあつく、耐久性は抜群で、武装・性能のはしばしにいたるまでギン
ガナムを神のごとく強くし、その強大さはうたがう余地もなかった。
   

678 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP232 [04/01/09 17:32 ID:???]
(もう、むりだろう)
 とさえ思った。フィルの置かれている現状は、さらに深刻なものがあった(略)
(私には、むりだった)
 ソレイユ千年王国を望むような器量でないことは、自分がいちばん知ってい
る。ただやたらと状況が歯がゆくて運命のままにこんにちに至ったのだが、天
が人をとりちがえたのだ、と思ったりした。
――たれか、自分に代わる者がないか。
 と、おもった。以前もこのことを思い、執政官ミランにそううちあけて一笑
に付されたのだが、いまこそミランにでも代わってもらいたかった。


679 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP253 [04/01/10 14:34 ID:???]
 ソレイユで、和解がなった。
 コレン軍曹の操縦する航空機で、女王自らディアナ・カウンター旗艦に渉(わた)
り、ギム・ギンガナム討伐を命じたのだ(略)
 かつて女王を放逐したミランとフィル以下、そのすべての将兵がようやく女
王のもと結集を完了したのである。

680 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP258〜259 [04/01/10 15:19 ID:???]
 この地球での戦況は、ギンガナムをよろこばせている。
 この挟撃戦でギンガナム隊とディアナ・カウンター・ミリシャ連合は本格的
に相対することになったが、どう考えてもギンガナム隊の攻撃能力は強大であ
った。
 戦力は、MS部隊でいえば、蛮勇を誇るマヒロー部隊をはじめとして、メリ
ーベルが指揮するバンデット(型式番号G-M1F/XM-0754 )という潜在能力を秘
めたMSもある。いわゆる多種類の機能を搭載しているMS集団を有している
もので、これに加えて凶器ともいえるターンXはギンガナムのものである。デ
ィアナの側の戦力はこの旗艦ソレイユ、アルマイヤー級戦艦ホエールズをふく
めつつ、もともとの配下であるディアナ・カウンターのMS部隊も加わる。そ
れにディアナの期待する∀とスモーはむろん入るが、あとはミリシャの機械人
形部隊になる。ボルジャーノン(型式番号MS−06)、カプル(型式番号A
MX−109)、フラット改(型式番号FLATーL06D)、そして陸上戦
闘艇ギャロップがそれで、ほかにグエン一党のウィルゲムが存在しているため
にディアナの側がどれだけ戦うことができるか、今後の情勢にまたねばならな
い。
「ギンガナムの損だよ」
 ギンガナムの傍らでメリーベルがいった。なるほどギンガナムはフィルらの
ディアナ・カウンターと相対し、いわば二正面作戦をとっているために、この
挟撃状況をぶちやぶるためには積極攻勢以外になく、そのチャンスを放棄して
しまうのは損といえば損である。
「なにをいうか」
 ギンガナムは口をあけて一笑に附(ふ)した。
「ディアナとフィルにくれてやったのは一時(いっとき)の命だ。いまわれら
の兵も艦隊も疲労しきっている。後方へさがり、部隊を休ませ食糧を腹一杯に
あたえればふたたび壮気満ち、戦果はより騰(あが)る。この撤退はただ休養
させるためのものだ」
「あとは?」
「ディアナと∀・地球を一撃にくだく」



681 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP265〜266 [04/01/10 15:53 ID:???]
 ギンガナム隊とディアナ・カウンター、ミリシャ連合という二大勢力の角逐
はとりもなおさずギンガナムとディアナの相克であったが、どこか両者に戦争
とはいえないまでも喧嘩に似たような感情があった。かつて120年前のギン
ガナムの小規模な叛乱の際にもギンガナムのディアナへの無理解さはどこかコ
ドモのようであったし、また詰問のときでは、ギンガナムが、「小麦を作るこ
としか知らない女王さんなんか」というメリーベルの女王刺殺を諌めることに
よってディアナの一命をたすけたりした。
 ディアナはギンガナムを怖れながらも、心のどこかでこの謀反人になにごと
かを感じつづけてきた。すくなくともかつて自分を裏切って勝手に独断行動を
とったアグリッパには憎悪を感じているが、謀反人のギンガナムに対してはそ
ういう感情ではなく、かえってコドモの精神のままでいるかれをみるにつれ、
ギンガナムのあの独特の無邪気さと、奇妙なほどのサムライ主義にふしぎさを
感じたりしている。
「わたくしはいままでギンガナムを甘やかしすぎた。それにかれはまだ、肉体
はともかく精神的にはオトコノコの域を脱していない。わたくしにも落度はあ
ります」
「すべては、手遅れになったのでございます」
 と、ミランがいった。いままでの段階ではそれぞれの役割がきちんと分担さ
れていた。それぞれの組織が与えられた責務を果たしていればよかったのだが、
いまはそれらのすべてが崩れてしまっていた。ディアナがロランに命じるか自
らギンガナムを葬るか、ギンガナムが日本刀をもって女王ディアナ・ソレルの
首を刎ね落とすか、どちらかしかない。
「∀そして全軍をもってターンXのギンガナムを攻撃しても勝つかどうかはわ
かりませぬ。しかし殲滅なさらねばいずれ女王陛下の御首が御大将の前に落ち
るということだけは確実でございます」
「確実ですか」
「陛下、陛下を救うのは御決心だけでございます」
「皆に指示を」
 ディアナはティーカップをもち、紅茶を喫しはじめた。決戦というこの長時
間の軍隊行動のなかでこのようなひとときがいつ摂れるかわからず、それを思
いつつしきりに運んだ。

682 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP266〜267 [04/01/10 16:17 ID:???]
 ギンガナムは部隊を後退させ、略奪した食糧を隊員たちに食わせてから夜戦
に打って出た(略)
 夜になると、急にサムライたちの様子が萎えたように見えた。いままで遊び
のように戦闘を繰り広げていたために気づかなかったが、市民軍のディアナ・
カウンター兵士たちとくらべても、疲れがみえ、消耗がはげしかった。
「女王とその徒党をほろぼせば、この世にないくらいの栄光が待っているぞ」
 と、ダイミョウは、隊員たちをそんなふうに励ました(略)
 ギンガナムの最大の失敗はあちこちに敵を作りすぎたことであった。かれら
隊員たちの多くは職業軍人といっても実戦経験はすくなく、ただ現状への不満
からギンガナムの兵としてフラストレーションを解消しているだけで、解消で
きればほかのことはどうでもいいという習性をもっていた。それが離散せずに
いままで耐えてきたのは、ひとすじに闘争本能のおもむくままに戦えるという
精神があったからだといえる。
 たしかに戦果は挙げてはいる。地上における夜戦で、ディアナ・カウンター
のウォドムやアルマイヤー級を撃破してはいるが、それも闘争本能のおかげで
あり、これが持続するかぎりはギンガナム隊はギンガナム隊らしい行動ができ
るであろう。

683 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP269 [04/01/11 17:21 ID:???]
 事態はすでにごく戦術的段階に入っている。
 敵を急追し、これを粉砕するしかない。
 しかし元来、∀をはじめとしたMSを重視してきたディアナは、この期にお
よんでもなお単純な戦闘行動に自軍を没入させることを避け、まず∀をもって
対ギンガナム隊の連合をはかろうとした。


684 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP273 [04/01/11 17:37 ID:???]
「地球人め」
 と、このときのギンガナムの怒りは、直接グエンやミハエルを斬り殺してや
ろうと思うほどすさまじかった。
 しかもディアナのソレイユの存在が、気味わるいほど静かなのである。敵の
中枢が、ノックスにて連合軍の包囲作戦を指揮している。
 ギンガナムという武家の棟梁は、自分のグエンへの不満にさらわれることな
く、すぐには提携を崩そうとはしなかった。崩すならば一歩でも地球における
自分の覇道が確立してからグエンらを消したほうがいい。おおぜいの敵をつく
るということでは、すでにフィルら市民軍に手痛い目に遭ったばかりなのであ
る。

685 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP277 [04/01/11 18:09 ID:???]
 ディアナはフィル・ミランとともに全連合軍の作戦を練る一方、ルジャーナ・
ミリシャ部隊はリリの督励のもと、仕掛けはじめた。
 やがて輸送機よりボルジャーノンがザクザクと地面をなびかせ、ギャロップ
も進撃を開始した。だが敵もなかなかしぶとい。山上からの攻撃命令をうけた
ボルジャーノン部隊はしがみつきながら山を登って攻撃を仕掛けようとしたが、
ようやく山上へ出たボルジャーノンは待ちかまえていたギンガナム隊からの攻
撃で脚部を吹き飛ばされ、ある機体は頭部が吹っ飛ばされ墜落していく機体も
出た。
 リリはマリガンに命じて陸上戦闘艇ギャロップを突出させた。弾幕を張りつ
つギャロップは前に出たが、リリはなにを思ったのか、前言を翻して「近づけ
ないで」とマリガンに言った。そのとき、ボルジャーノンの爆風がギャロップ
を見舞った。マリガンは命令の錯綜に混乱をおぼえつつ、さらに弾幕をあつく
するように命じた。それに上乗せして大量のミサイルがゆく。
 膨大なミサイル群がギャロップ隊から撃ちだされ、ギンガナム隊に叩き込ま
れたが、敵の砲門もギャロップ部隊をとらえていた。リリは後退を命じた。
 ギャロップがジェットエンジンを噴かして後退してゆくと同時に、ギンガナ
ム艦隊からの砲撃が地上を見舞った。

686 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP277〜278 [04/01/11 18:40 ID:???]
 ギンガナム艦隊旗艦アスピーテのほうでも、はげしく声が飛びかった。
 分離していたXトップが跳び、胴体と合体する。胸元のX字の切り傷がひか
った。ギンガナム御大将のターンX出撃がついにはじまったのである。そのシ
ーグリーンの機体が空を翔び、蝶のようなバリアに守られ、巨神のごとく突撃
した。そのXトップにギンガナムが乗っている。
 ルジャーナ・ミリシャのMS・ボルジャーノン部隊はターンXの右手から出
た溶断破壊マニピュレーターでつぎつぎと倒された。第二群のウォドムの対艦
隊用巨大ビーム攻撃もバリアで無力化され、それらディアナ・カウンターのM
S部隊に対しギンガナムのターンXはバズーカで反撃した。さらにギンガナム
はターンXの装備品(ビームライフル・バズーカ)を投げすててウォドムに突
進し、
「庶民は、月にいればいいのだ!!」
 叫びながらウォドムを持ち上げて、
「ディアナがそんなに好きかァァァァ!!!」
 渾身の力をこめてウォドムを破壊した。巨大な爆風と黒煙があたりをつつん
だ。
 一方グエンはウィルゲムで余裕の態度でいた。あきらかにギンガナムを見下
ろしている。 

687 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP288〜289 [04/01/12 10:16 ID:???]
 なみの人間よりも十倍も多量な血液をもっているかのようなギンガナムは、
怒れば黒歴史のドズル・ザビのようにはげしく、ときに敵や敵地の庶民を憎
めば人のなしがたいような暴虐を働き、あるいは主であるディアナやアグリ
ッパに逆らいときに殺そうとしたように粗暴、悪虐の印象をあたえがちであ
ったが、他の一面、真っ向から矛盾するように味方には優しく、さらにその
上、武人や長者には礼をもって遇した。ギンガナムが意外なほどに紳士であ
ったという印象の伝承は、この面の人格がつたえられたものであろう。
 あるいは、べつの言い方もできる。
 ギンガナムはあくまでもサムライであったということである。
 ゲンガナムやフォン・シティのムーンレイスからは多分に厄介者、異質の印
象をうけているギンガナム家の部隊のサムライは、黒歴史の公国・帝国・残党
の慣習や闘争本能、さらには黒歴史的な軍隊的閉鎖性をその気質や思考法のな
かに継承しているのか、戦争を尊ぶのである。
 いうまでもなく、この点、月のムーンレイスたちも変わらない。が、月社会
はすでに極限環境となってからの歴史がふるく、子供じみた闘争精神だけでは
社会も政治もあるいはムーンレイスの生存・繁栄もうまくゆかないことを知り
すぎていた。

688 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP289 [04/01/12 10:28 ID:???]
 ロランなどはむしろゲンガナムなどの市民階級の者に生理的なコンプレック
スを感じているのではないかと思われるほどであり、心から愛情や勇気を尊び、
さらには他人の誠実を信じた。
 ギンガナムはその逆であったために、かれの唯一の謀臣となりえる存在だっ
たハリー・オードの曽々祖父でさえその忠誠心を猜疑(さいぎ)されて冷凍刑
に処され、子孫のハリーでさえも去ったのである。以後、スウェッソンといっ
た単細胞の者ばかりが、ギンガナムの帷幕(いばく)にあつまっていた。

689 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP116 [04/01/12 10:52 ID:???]
 夜明けとともにポゥ・エイジはスモー(型式番号MRC-F20・カラーはシルバー )
をすすませ、敵にむかいハンドビームガンを撃った(略)
 スウェッソンは空中にいたが、すぐマヒロー部隊をひきいて槍の陣を布き、
地上にいるソレイユ防衛MS部隊であるポゥを衝(つ)こうとすると、伏兵
たるウォドムの頭が地中から出た。すぐに頭部の砲門をひらく。
「やれ。撃ち落せ」
 ポゥはウォドムの部隊に命じた。数本の巨大ビームがみるみるスウェッソ
ンのマヒロー部隊を乱し、マヒローのほとんどが撃破された(略)
 ディアナ・カウンターをあなどりきっていたスウェッソンは簡単に不意討
ちにかかった。

690 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP116 [04/01/12 11:01 ID:???]
「ふん」
 と、劣勢をみとめず誇った。
「おれのみたとおりだった。庶民軍の汚さはいまにはじまったことではないの
だ。おのれ」
 全力で加速してポゥのスモーを攻撃した(略)
 スウェッソンのマヒローはさらにミリシャの機械人形部隊と交戦し、コレン
軍曹搭乗のカプル(通称゛コレンカプル゛カラーリングは赤)と壮絶な激闘を
おこなった。



691 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP117 [04/01/12 11:08 ID:???]
「まだまだ!これしきのことで。このスウェッソン・ステロ様がくたばるもの
か」
 スウェッソンは匹夫の勇さながら、傷ついたマヒローでなおも戦おうとした(略)
 スウェッソンは虹色の光を放出しながら天空を飛翔しゆく御大将のターンX
を、被弾しながらみた。

692 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP160 [04/01/12 11:44 ID:???]
「貴様たちの整備のおかげで使いやすくしてくれてありがとう」
 という台詞をはきすて、ジョゼフ・ヨットが∀でとび出した。
 この男はマバ族出身で、最初みなシド爺さんの助手とみていた。いまの南
アメリア大陸に、記録的には黒歴史のころからいたとされるマバ族は、アデ
スカの民が暮らしていたマニューピチ近辺に棲んでいたとされる。かつて古
王クワウトルと新王タルカの王位継承の儀式がおこなわれた際に、ジョゼフ
は同じマバ族出身の少女マヤリトと会っているが、べつにこれといった感動
や懐かしさを感じた形跡がまったくないのはなぜなのであろう。
 今度の∀での出撃も、フランやロランの猛反対を押し切っての独断出撃で
あった。かれは明らかに統制という軍隊原理を理解できる頭をもっておらず、
また倫理感といった精神も持ち合わせていない。
 ジョゼフの毒舌にギンガナムは機体をくるりと∀の方向に向けた。なぜこう
もジョゼフの言葉は排他性がつよく憎らしいのであろうか。サムライ精神を骨
の髄から全身にしみこませているギンガナムにすれば、斬り殺しても殺したり
ないくらいの不愉快さを感じたにちがいない。
 ターンXが正面をむけると、ジョゼフは即座に攻撃をしかけた。ギンガナム
は背部のウェポンプラットホームを分離し、さらにターンXの各パーツをはな
し、攻撃にそなえた。
 当のジョゼフははたからみても傲慢さが態度でみえすぎ、このときもターン
Xがいかに恐ろしいかという認識などひとつもなく、ただこの一撃で単純にタ
ーンXを撃破できうると信じきっていた。
 

693 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP160 [04/01/12 11:55 ID:???]
 ジョゼフの一撃はウェポンプラットホームを破壊できたが、ジョゼフはこの
爆発がターンX全体を撃破できたと確信した。どう考えても甘いとしかいいよ
うがない。
 なぜならジョゼフはさきに定期便の上に乗っかってギンガナム艦隊旗艦アス
ピーテに近づき、ビームライフルでターンXの背部を攻撃したとき、まったく
ダメージをあたえることができなかったばかりか、あまりの機動性ゆえにター
ンXに追いつけなかったという経験をしているからである。この場合、ロラン
のようにあくまでも慎重に、こちらが不利だという認識のもとに戦うべきであ
ったが、かれはどこまでも楽観していた。
「やったぜ、フラン。へへっ、へっ」
 もう勝ったつもりでいた。古来のお約束として、出陣前は女性としてはなら
ないという風習があったそうだが、ジョゼフはフランとことを成していたのだ
ろうか。もし筆者の推測が正しければ、かれは戦いの最中に生まれくる自分の
子供と生活を考えていたことになる。一体、本気になってターンXを撃破しよ
うとしていたのか、どうであろう。

694 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP160 [04/01/12 12:16 ID:???]
 分離したXトップはゆるゆるとジョゼフの∀の背後に浮かんだ(略)
 苛立ちながらギンガナムはXトップでここまできたとき、∀に乗っているぶ
ざまなジョゼフに台詞をはいた。
「兄弟よぅ、今、女の名前を叫ばなかったかい?」
 ジョゼフもさすがに平静ではいられなかったようだ。今ごろになってターン
Xが撃破されていないことに気づき、∀の機体をXトップのほうへ向けた。サ
ムライとは、庶民にはない美学と倫理というものがある。それをこの一兵卒以
下にもおとる兄弟(注・この兄弟はターンXと∀のことを指している)の機体
に乗る阿呆に教えておかねばならない。
「戦場でなあ、恋人や女房の名前を叫ぶ時というのはな、瀕死のヘイタイが甘
ったれて言うセリフなんだよ」
 まあおそらくは意味を理解しえまいし、その頭もないだろう。ギンガナムの
みるところ、この兄弟に乗っているパイロットはおそらくローラではない。そ
の証拠に自らの全身が血吹き、骨軋むほどの闘争本能に満たされていないから
だ。かわりに冷えさめてゆくむなしさと萎えていく士気がある。
(武士道とは、騎士道とは全力をもって戦いに挑み、己の真の生存と情熱をこ
めておこなう道であるはずだ。なのにこやつはかつてアナベル・ガトーが唾棄
した連邦軍人ですら口にしなかった禁句を口にし、あまつさえ戦後自分が泰平
を謳歌できうると本気で信じている)
 醜い。醜すぎる。これだから戦士きどりのパイロットはこまる。肥大化した
愚民同然のものをこそ生き残るべきではなく、月光蝶によってリセットされな
くてはならない。
 さらにもう一言口上を述べようとしたとき、これまた外道のような声がギン
ガナムの耳にひびいてきた。

695 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP117〜118 [04/01/12 12:29 ID:???]
 マヒローでむかってきたスウェッソンをターンXの分離パーツがかこみ、さ
らにスウェッソンのおれにやらせろ!という言葉に黒塗りのまぶたが反応した
とき、いままでおとなしくなっていたジョゼフの∀が、不意討ちをビームサー
ベルでしかけ、その混乱のなかでついにターンXの分離パーツがスウェッソン
のマヒローをとらえた。
「ギンガナム!おれだ!!スウェッソン・ステロだ!!!」
 スウェッソンは旧世紀の女真族のような辮髪(べんぱつ)と脂肪のみなぎっ
たふとい身体をもっていたが、ギンガナムの戦いに割って入り、ついに勘気
に触れ、これが御大将のやることか!とターンXの分離パーツの攻撃でマヒロ
ーごと四散した。
 ギンガナム隊の一方をつねに支えてきた蛮将の最期としては、みじめであっ
た(略)
 戦いではなく一方的手打ちではないかというのが実感ではなかったか。


696 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP161 [04/01/12 12:43 ID:???]
 このマバ族の青年は正々堂々というやり方はとっくに捨てていた。スウェッ
ソンのマヒローが突入してきたことを幸い、即座にビームサーベルをかまえて
Xトップに斬りこんだ。サーベル攻撃はかわされ、ギンガナムの乗るXトップ
は余裕で空中を翔(と)んでいた。
「∀の地球人、おぬしの生体反応のデータを取りつつ、神の世界への引導をわ
たしてやる」
 スウェッソンの乱入で、かれは気を変えた。要するに、スウェッソンの代わ
りになるなら、自分の道具として使ってやろうという気になったのである。
 つぎの瞬間、ジョゼフはコクピット内であわてざるをえなかった。
 ターンXの胸部パーツが、はげしく光彩を発し他のパーツが∀に噛みつくよ
うにくっ付いたのである。
 ∀内部のデータと図が、Xトップに次々と流れこんでくる。精神波の流れと
生体反応の強力さがギンガナムにもよくわかった。

697 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP161〜162 [04/01/14 21:31 ID:???]
 ジョゼフはひたすら自分の名前をフルネームで叫んだ(略)
 が、敵は容赦がなかった。
 気が溜まって渦を巻き、その装甲が炎(ほむら)のように燃えている一機体
のおそるべきなにかだった。胸部パーツがかがやき、∀が燃え、くっ付いてい
るパーツがするどく共鳴していたが、それよりもすさまじかったのは、血走っ
たギンガナムの両眼であった。両眼が嗔(いか)り、そのXトップに乗るギン
ガナムからの嗔りが数千の銃弾をジョゼフ・ヨットの身体に射注(いそそ)ぎ
こんでくるようで、ジョゼフは反撃する能力を喪った。それでもなお片手でレ
バーをにぎろうとしたとき、御大将がXトップ内で立ち上がり口上を高々と述
べた。∀は不要という口上はすさまじい殺気になってジョゼフを圧倒し、まと
っていた服がみるみる破けてしまった。ジョゼフはもはや終わりだと思われた
とき、後方からビームが放たれて∀を縛っていたターンXの各パーツを振り払
い、あとはまっさかさまに∀は地上に落ちてゆき、途中で臨戦態勢をとってい
たロラン・フランのフラット改と、ブルーノ・ヤコップのフラットに受けとめ
られた。

698 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP321 [04/01/15 20:42 ID:???]
 ギンガナムに対抗しうるパイロットはハリー以外にないというのが衆目の一
致するところであり、ハリーもそのように自負している。
 ハリーは専用のゴールドスモー(型式番号MRC-F20 )で向かっている(略)
 ハリーは、MSの用兵の名人であった。

699 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP322 [04/01/15 21:02 ID:???]
 ハリーは、ディアナ・カウンターのスモー部隊を率いて、市民軍士官のポゥ
中尉と、親衛隊員コンドラフトとともに、みずから先頭を駆けてターンXに急
接近した。ギンガナムのターンXを弱体化させるために、すぐさま5機のスモ
ーのIFR(I Field Restriction)で金縛りにしようとしていた(略)
 ロランも、戦をしたかったのだが、かつてどの戦場でも後方にいたというこ
とはなかったが、∀をジョゼフにとられていたのでどうすることもできなかっ
た。かれはつねに最前線に立ってきたが、このときもそうであった。
 ハリーのすぐそばに∀のコア・ファイター、フランとともにいた。肝心の∀
は、ジョゼフが戦闘不能になった以上すぐにでも交代せねばならなかった。

700 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP322〜323 [04/01/15 21:15 ID:???]
 これらIFR包囲が完了したのは、すぐであった。
 ハリーは、逸(はや)っていた。
 かれの名声はあまりに高く、さらにはこのギンガナム討伐にあたって寄せら
れている期待も大きい。その上、ギンガナムのターンXを倒すという空前の大
功をどうしても自分の手でにぎりたかった。
 金縛りが完了すると、かれはゴールドスモーの軍配型ヒートホーク(ヒート
ファン)をかまえ、勢いよく、
「御大将ギム・ギンガナム!刺し違えてその命、貰い受ける!」
 と、ギンガナムのターンXにせまった。
 これに対し、ターンXのギンガナムは自分が不利だとはまったく感じていな
かった。
「このターンX凄いよ!さすがは∀のお兄さん。スモーのエネルギーはすべて
貰っている。ゲンガナムの電力をいただいたようにな!わかっているのかハリ
ー・オード!!」
「ユニバース!!!」
 ハリーのゴールドスモーはターンXにつっ込んでいった。



701 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP323 [04/01/15 21:29 ID:???]
「月光蝶である!!!」
 ターンXの強さと性能は、並のMSとはおもえなかった。
 金縛りにあっていたはずのターンXから、すさまじい虹色の風が放出されて
囲んでいたスモーを吹き飛ばし、またたくまに虹色の波は地球全体を包みこむ
ように空を染めていった。
 みな、衝撃の事態におどろいたが、この虹色の波がどういうものであるのか
よくわからない者ばかりであった。ところが、この男だけはきちんと反応して
いる。
「ガ、ガ、ガンダムがァァァァ!!!!」
 コレン・ナンダーの脳裏に、悪しきガンダムが映しだされた。このガンダム
についてであるが、ガンダムヘッドの二重バインダーなどから゛ウイングゼロ゛
ではないかという説が有力である。説のなかにはデビルガンダムが見えたとい
う説もある。
 筆者個人の考えとしては、コレン=ミリアルド説はどうにも信用しがたい。
ミリアルドであるなら、マキャべりストの要素やかれ特有のケレンがなくては
ならないのだが、コレンにはおよそそのような部分はないからである。

702 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP323 [04/01/15 21:38 ID:???]
 やがてポゥのスモーが仕掛け、さらにハリーのゴールドスモーが仕掛けたが
チームワークを乱した戦い方では歯が立たず、ついにポゥは背後からターンX
をスモーで掴んで、化け物をハリーに討たせようとしたが、ハリーの軍配型ヒ
ートホークの攻撃が当たる直前に、ターンXが分離したために撃破することが
できなかった(略)
 ギンガナムが、勝った。
 ハリーのゴールドスモーとポゥのシルバースモーは墜落し、ターンXはふた
たび合体したが、どこか不調なようにギンガナムには感じられた。しっくりこ
ないのである。


703 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP163〜164 [04/01/15 21:46 ID:???]
「∀、起動しました。フランはジョゼフと後方へ」
 ∀のカメラアイに、ひかりがともった。
 ついにロランが出撃するのである。
 目的が鮮明になったかれの胸中は一点の曇りもないようだった。
 かれは猛スピードで∀を大空にすすめ、さきほどのジョゼフの操縦とはくら
べものにならないくらいの頼もしさをまわりにあたえた。人が安心して眠るた
めには、お騒がせ者をだまらせなければならない。

704 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP308 [04/01/15 21:55 ID:???]
 格闘戦になってギンガナムのターンXに勝てる者など、この世にいるはずも
なかった。
 ギンガナムはむろん、ローラが弟(注・∀のこと)に乗って追撃してくるこ
とを望んでいる。追ってくればローラを弟もろとも消滅させてあのディアナ・
ソレルという偶像がやってきた細工を一瞬で無にすることができるのである。
要するにまずローラを殺すことであった。
(すべては、弟もろとも消せばそれで済む)
 ギンガナムは、遠ざかる月を背にして∀をふり返りながらおもった。

705 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP311 [04/01/15 22:08 ID:???]
 月食がはじまっている。
 この間、ディアナは旗艦ソレイユで遠くからギンガナムのターンXとその艦
隊の動静を用心ぶかく窺っていた。ギンガナム隊はすでに天下によるべなき孤
軍になり、戦力が激減し、隊員も疲れきっているが、ギンガナムがひきいてい
るかぎり、なお油断ができないのである。
 すでにディアナのもとにハリーもコレンも、それぞれの部隊こぞって集結し
ている。それぞれが多彩だった。ディアナ・カウンター、ミリシャ、それぞれ
前歴も異なり、個性や思考もちがっている(略)
 それらはすべて親ディアナの旗をひるがえした。その戦力は帰還前にくらべ
みるみるふえ、ついには野を覆い、この大陸はじまって以来の大軍になった。

706 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP311〜312 [04/01/15 22:17 ID:???]
 ギンガナム艦隊は、ディアナ陣営という海にかこまれた小島のようにみえる。
大軍に兵法なしという。ディアナはただギンガナムへの攻撃命令をくだすだけ
でよかった。
 しかしこの期におよんでもなおディアナは決断を下せないでいた。相手はギ
ンガナムなのである。
(ギンガナムは、わたくしがたおさなければ)
 きちんとした決着にはならない。……(略)
 が、ディアナの思惑ははずれた。
 ハリー、側近のフィル・ミランの助言で、まずはギンガナム艦隊の制圧をせ
よとの進言を受けたのである。

707 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP164 [04/01/15 22:36 ID:???]
 やがてアラハマン山脈のロストマウンテンに出、かつて悪しき核の傷痕がの
こっている場所に立ち、ターンXのギム・ギンガナムとむかいあったとき、両
者の言い争いがはじまった(略)
「ギンガナム、聴け」
 ロランは、コクピットをひらいて直接向かいあった。
「世にあなたほど悪い人はいません」
 一は、女王ディアナ・ソレルの勅命にそむき、∀・ターンXを女王に返すべ
きところを返還しなかったこと、二は統制者たるアグリッパ・メンテナーと共
謀して月世界をいいように動かしていたこと、三は感情のおもむくままに被害
を拡大したこと、四はゲンガナムにあってグエン卿と共謀し、ともに野心を抱
き、侵略を開始したこと、五はディアナへの報告なくしてターンXを発掘、運
用していたこと、六はだまして北アメリアの民衆を帰還民問わず虐殺したこと、
七は自分の好む隊員を要職につけ、もともと有能な指揮官となるべきハリー・
オードを使わなかったこと、八は勝手に統制をはじめたアグリッパを諌めなか
ったこと、九はひそかに白の宮殿で黒歴史を知ったこと、十はすでに降伏した
者まで殺し、政治においても公平でないこと、等々を、あるいは低く、あるい
は高く、ときにアラハマン山脈にこだまするほどの声でとなえた。 

708 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP165 [04/01/15 22:53 ID:???]
「∀はホワイトドールとよばれて、人々に崇められてきたものなんです。その
本体が機械であれば、使い方次第ではみんなのためにだってなります」(略)
 この間、ギンガナムはロランのいい気な発言を受けとめ、ターンXの頭部に
立ち日本刀の威容をもってかまえている。この激しやすい男にとってめずらし
いことであったが、ただ武士道の体現者たるかれはこの議論に応じて反論を華
麗に展開していた。
「∀が眠っているあいだに善人になったとでもいうのか?ふざけるんじゃない」
「今の地球を破壊する必要なんてどこにもないんですよ!」
「それがあるんだよ。何も変わらぬ、ただ時が流れていくだけの暮らしに耐え
られなくなった地球人は、∀を呼び覚ましたんだ、坊や」
「そんなことありません」
「だったら、なぜディアナは地球帰還作戦を始めたのだ?」
 日本刀を振りかざして、
「なぜ地球人はそれを拒んだのだ!」
「なぜ?」
 白熱した議論は、言葉を発している当人に絶大な自信をもたせるらしい。
「今までの時代は間違っていたのだ。人類は戦いを忘れることなどできはしな
い。だから、このターンXですべてを破壊して、新しい時代をはじめる」
 ギンガナムの発言に水を指すように、メリーベルのバンデットの攻撃が上空
から降り注ぎ、両者はそれぞれ機体に飛び乗り、∀とターンXは飛翔した。

709 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP317 [04/01/15 23:02 ID:???]
 ギンガナムはロランにくらべ――というより誰に比しても――けたはずれに
強い自己を持っていた。自己という呼称の生物といってよく、なみ外れた野望
と、その強靭な肉体を動かして振り下ろす日本刀からはすさまじい力のエネル
ギーが出ていた(略)
 この野望のために、ギンガナムは他人の心というものが見えにくかった。こ
のことはギンガナムに政略や戦略という感覚を欠かせてしまったことと無縁で
はない。
 さらにこのことは、ターンXに傾斜し、その性能を過信することにもつなが
った。
 その過信ははげしすぎるというよりも、自己の延長もしくは自己そのものと
して傾斜しているようであった。
 
 

710 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP317 [04/01/15 23:05 ID:???]
 ギンガナムはつねにメリーベルをつれていた。
 かつてゲンガナムでひろったこの眼のまわりが赤い少女を片時も離さず、片
腕として遇した。



711 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP319 [04/01/15 23:12 ID:???]
 しかしこのときのギンガナムの反応は、メリーベルにはかなしくなるくらい
のものであった(略)
「さがれメリーベル!!貴様の出る幕ではない」
 怒りをあらわにして、ギンガナムがバンデットをみつつどなった。そのとき
の形相は前面に林のようにしずまっている弟よりも、メリーベルが邪魔をする
ことのほうが重大事であるようだった。
 彼女が乱入してくることは、迷惑なのである。

712 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP324 [04/01/15 23:17 ID:???]
 ギンガナムは強引にターンXを突撃させた。
 このときも、バンデットに∀をやらせはしないという心理が、少年じみた感
情が、もつれた糸玉のようにからみあっていた。

713 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP326 [04/01/15 23:22 ID:???]
 ギンガナムはこの状況下で、気狂いのなかにある。
 が、様子はそうとは見えなかった。
 かれは全能力をかたむけながら、∀へ、連続して攻撃を叩きこんだ。どうや
ら、メリーベルの挑発が功をそうしたようだ。

714 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP326 [04/01/15 23:39 ID:???]
 ギンガナムのターンXとロランの∀の戦闘は、すさまじいものであった。
 両機、取っ組みあっての殴り合いとビームサーベルの剣戟が、大地を震撼さ
せた。さらに両機の格闘戦がつづくと、両機にそれぞれ急激な変化があらわれ
た。
 コクピット内の画面に、∀・Xの文字が入り乱れ、ターンX・∀から膨大な
光が放出され、四方へ流れてゆく。そのあざやかな光景は、まさに危惧すべき
月光蝶発動の前触れだった。
 一陣の虹色の風が大空を吹きぬけてゆくようで、古来、MS同士の格闘戦の
歴史のなかでこれほどまぶしい光景はなかった。このことがかえって専用カプ
ルに乗るコレン・ナンダー軍曹を勢いづかせた。
 異常な力が、コレンにみなぎっていた。異変に気づいたメリーベルはバンデ
ットで妨害しようとしたが、コレンはミンチドリルで叩き落し、さらに飛び上
がって胸元のミサイルのありったけを∀・ターンXに叩きつけ、なおも両機の
上に飛んで、ロケットパンチをおみまいすると同時に、光につつまれて散った。
 かれは、ついに自分の役割を終えたのである。

715 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP315 [04/01/15 23:45 ID:???]
 光のなかは、妙な心地であった。
 MS同士の攻防戦のときは身体が燃えるようにあつかったのに、もはや不思
議な心境になってしまっている。ギンガナムはおなじ場所にいるロランに対し、
落ちついた声で口上を述べていた(略)
(わからぬ)
 なにか、魔術にかかって夢のなかにたたずんでいるような気もする。

716 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP315 [04/01/15 23:49 ID:???]
 ひとつだけギンガナムがわかりかけていることがあった。エネルギーを使い
きることであった。闘争本能のおもむくままに両機のエネルギーを使い尽くせ
ば、地球の文明はリセットされずにすむかもしれない。この長い戦いのなかで、
このときまでこんなことを考えたことがなかった。
 

717 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP337 [04/01/15 23:58 ID:???]
 このことはギンガナムのいわば遊びにすぎなかったが、この戦闘下のかれに
とって、これほど重要なことはなかった(略)
 要するに、ディアナにほろぼされるのではないということであった。
――月光蝶が、御大将ギム・ギンガナムを亡ぼしたのだ。
 というふうに語られることにギンガナムは執着した。かれがこの世に思いの
こすことがあるとすればこの一点だけであり、歴史にむかって、そしてロラン
にむかってこれを叫んだといっていい。この世界の文明にあっては、ひとびと
のなかでもサムライ精神を体現していたギンガナム隊、とりわけギンガナムは
後世どう語り継がれるかということで現世での言動を意識して規制する風がで
きている。ギンガナムもまたそれを意識したのである。


718 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP335 [04/01/16 00:10 ID:???]
 ギンガナムはなおも戦いをつづけた。
 月光蝶を封じるべく、ソレイユはエネルギーを両機にむけて放出している。
だが、なおも両機には潜在能力がのこっていた。
 ターンX、∀から、蝶の翼が形成されさらなる激突をくりかえした。どこま
でも強情なギンガナムに、ロランは渾身の力をこめてビームサーベルを突きい
れ、ギンガナムもシャイニング・フィンガー並の拳を∀に叩きつける。蒼い閃
光が撒き散らされ、両機とももはや限界であるということがわかった。
 怨念がましく、ギンガナムは雄叫びをあげてターンXの頭部であるXトップ
を分離させ離脱、両機は大地に落ちた。なおも両機の放出はつづいている。

719 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP338 [04/01/16 00:22 ID:???]
 以下の決闘のことは、よく知られている。
 ∀より脱出したロランが、ギム・ギンガナムより日本刀を投げられた。この
刀はいうまでもなく日ごろギンガナムが精魂こめて手入れをしていたものであ
った。さらにはギンガナムが肌身はなさずもっている刀となんの大差もない。
「……、ギム・ギンガナム?」
 と、ロランは刀をひろいつついった(略)
 ギンガナムは、さきにXトップより出でて、地に刀を突き立てて待っていた。
逃げず、この大地を決闘の場ときめた。かれはローラが自分に対しいつも正々
堂々としていることを知っていた。こういう男と命のやりとりをするためにこ
んにちまできたともいえる。
(こやつならば、自分の決闘を、躊躇せずに受けてくれるだろう)
 と、おもったのである。

720 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP339 [04/01/16 00:31 ID:???]
「剣で戦ったことはあるか?」
「一度だけあります」
「ふっ、それは結構」
 言いおわると、かれは、日本刀を抜いてロランにむかった。
 あとは一騎討ちになった。刀をかまえて、ロランと激突した(略)
 ロランとの剣戟になった。ギンガナムは刀を振りまわしてロランを翻弄した。
剣術の技能をしめすことによって自分はすべてにおいて敗北したのではなく運
なくしてやぶれるということをあくまでも実証しておきたかったからであった(略)
 ついに身に十余創を負って血みどろになったが、それでも強靭な生命力で突
っ立っていた。




721 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP340 [04/01/16 00:39 ID:???]
 ギンガナムの刀が、ロランの刀の攻撃で折れ、剣先は大地に突き刺さった。
 信じがたいほどのことがおこった。強靭なはずのギンガナムの身体に無数の
糸が虹色のかがやきを帯びてむらがり、一人でも取り込もうとして争い、つい
には騒乱の元凶自身をつつみこんだ。この意志をもった糸のためにXトップま
でが取り込まれた(略)
 おさまったときには、そのターンX・∀もろとも繭の玉でつつまれていた。

722 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP341 [04/01/16 00:56 ID:???]
 戦場の掃除は、ミリシャの兵士のしごとのひとつであった。兵士は騒乱がお
さまったあと、激闘のあとをくまなく片づけたが、ギム・ギンガナムのあかし
になるようなものは髪ひとすじも落ちていなかった。
 以後、ロストマウンテンの近郊のひとびとは、月光蝶発動寸前の騒乱のすさ
まじさについても物語ることになる。ヨシュウ・トミノフは20歳のころ、歴
史学者としての生涯の基礎となる大旅行をした。その旅のおわりにこの地に入
り、この繭の近くにもきたかと思われる。ギンガナムが封印されて70年あま
りしか経っていない頃だけに、ひとびとたちの記憶もあざやかであったろう。
かれらからギンガナムの最期をきき、さらにはホワイトドールとターンXの驚
愕すべき性能やロランたちについてもきくことを得たはずである。晩年、かれ
は「文明の相克」を書くにあたって、そのホワイトドールなどの機械人形の性
能をさりげなく書きとどめ、そのことによってMSの潜在能力という課題につ
いての部分を強調した。
 

723 名前:ギンガナムとロラン(項羽と劉邦(下)より) mailto:sageP341 [04/01/16 01:04 ID:???]
 さらにはグエンとウィルゲムの末路を記することによって、黒歴史以来の地
球騒乱のさなかにおこった事柄のひときれを象徴してみせたかのようであった。
 ディアナについての本質も、このことは象徴していないでもない。この戦闘
神に勝利をおさめたロラン・セアックに対し、ディアナはかれが思うどおりの
待遇をあたえた。数度にわたり睡眠と蘇生を繰り返してきたディアナの意図が
どういうものであったかを、このことでほのかに窺うことができる。
 ギンガナムの封印は、まるで当人が生きているかのような有様であったとい
う。ときに、御大将は表舞台から消えたのだった。

724 名前: mailto:sage [04/01/16 01:07 ID:???]
やっと完結です。あとがきに移りますが、とりあえずここで終了します。

725 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:age [04/01/16 21:49 ID:???]
保守

726 名前:最新鋭ガンダム(人間の集団について) mailto:sage重兵器・P190〜191 [04/01/17 19:37 ID:???]
 私は、アニメーションが種によって不法占領されていたころに、さまざまな
ガンダムタイプMSをみた。
「史上最高のガンダム」
 といわれたが、むろん、宣伝用のうそである。1stやCCA(逆襲のシャ
ア)の主役級MSにくらべれば三流以下のガンダムであり、性能もたかがしれ
ていた(中略)
 1st以来の歴代ガンダムシリーズのMSのすさまじさからみれば、種のガ
ンダムなど、RX−78ガンダムやRX−78GP03・ガンダム試作3号機
(愛称デンドロビウム)の段階から毛のはえた程度(いや、むしろ不要にヘン
な装備をくっ付けすぎている点では生えすぎというべきか)のもので、このぶ
ざまさをどういう形容で比較していいのか言葉が見出せないほどである。

727 名前:最新鋭ガンダム(人間の集団について) mailto:sage重兵器・P191 [04/01/17 20:01 ID:???]
 種にもわずかながらガンダム以外のMSがあった。その数は知れたもので、
たとえば本編全体を通して見てさえ、ネーミングセンスを疑うような量産型M
SやMA(これについては多少の説明がいる。全編を通して、MAと呼ばれた
機体はメビウスという連合軍側の機体のみである。しかも単なる戦闘ポッドさ
ながらのなさけない代物の、一見して弱すぎる性能しか持ち合わせていないM
Aなのである。デザインした方を責めるよりも、こんなメカデザインを発注し
た人物のセンスを疑うべきであろう)のバリエーションや活躍場面が圧倒的に
すくないことからみても、その僅少さがわかるはずである(注・種のMSはZ
ガンダムに登場したジ・オや0083のザメル、Vのドッゴーラといった重量
感・変わった形態の機体はなく、ノーマルタイプの機体がほとんどだった。そ
のきわめてノーマルなMSも、玄人ファンの水準からは量産型MSジムにも劣
る機体で、さらに悲惨なことには、武装・カラーリングとも、メカニックデザ
インの方が到底満足しえない・やる気を削ぐ効果しかないというしろものだっ
た)
 大河原邦男・山根公利といったデザインの方がわるかったわけではなく、あ
らためて新作ガンダムを製作しようとしたときに、種スタッフたちのメカニッ
クオーダーのセンスがわるかったため上手くできず、とびきりブランド価値の
たかいガンダムを、それ以外の機体を僅少として、販売手段として大事にみせ
第一にしていたという事情による。

728 名前:最新鋭ガンダム(人間の集団について) mailto:sage重兵器・P193〜194 [04/01/17 20:15 ID:???]
 ブランド根性に徹した種では、最新式のフリーダムガンダムやジャスティス
ガンダムのガレキ(ガレージキットの略)やプラモデルに一ミリのホコリでも
つけば新米スタッフは死ぬほどなぐられた。種スタッフ指導層のブランド感覚
というのは、そういうぐあいである。
 要するに富野・1stスタッフからただでいただいたガンダムだから、種で
は兵器はぞんざいにあつかわれるのかもしれないと思ったりした。

729 名前: mailto:sage [04/01/17 20:23 ID:???]
チョト外します

730 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P158〜159 [04/01/18 00:11 ID:???]
 二人を道路の上に残してエレカが走り去ったとき、シャアの生涯をかけた闘
争がはじまった。


――6年近く経った。
 シャアの立場は紆余曲折はあったがネオジオン総帥であった。新生ネオジオ
ン総帥となるまでの間、これまで組織構成のための下準備をしていたが、これ
が実をむすんだ。主として反連邦組織ぐるみの構成である(略)
 シャアは対連邦戦略の研究と新生ネオジオン軍強化に身を入れた。愛人のナ
ナイ・ミゲルやニタ研の注目株ギュネイ・ガスらにはそれが約束された将来の
栄光に対する励みのように写った。が、彼自身はハマーンの忌まわしい記憶を
少しでも忘れるために打ちこんでいたのだった。もちろんその作業が彼自身の
「ジオン・ダイクンの後継者」としての地歩固めに役立つ功利的な面を忘れは
しなかったが、戦略に没頭している間は苦悩から一時的でも脱(のが)れられ
た。  



731 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P159 [04/01/18 00:21 ID:???]
 しかし、それもあの潜伏時の間ほどではなく、近ごろは、圧迫からくる苦悩
がうすれて以前の、かつてララァと一緒にいたころの落ちつきに戻りはじめて
いた。ハマーン戦死から一年近く経過し、あのことはもはやなかったこととし
て処理されようとしていたのである。
 最初のエゥーゴ時代は夜もろくに睡(ねむ)れぬくらいだった。恐怖はハマ
ーンを殺そうとした事実よりも、記憶が反復して甦る予感からだった。彼は夜
中が怖かった。眠っている間にみる夢の中に彼女が出てくるという悪夢を何度
もみていたし、アクシズを脱出する際にも冷や汗ものの逃避行だった。


732 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P160 [04/01/18 00:27 ID:???]
 また、リック・ディアスに乗っているとき、艦内にいるときなどふいに背後
から手が伸びそうな感じがした。ことにニュータイプ的反応をしてしまうのを
いちばんおそれた(略)
 そうした絶えざる緊張もエゥーゴに参加して1年めになるころ、少しづつゆ
るんできた。彼のまわりには依然として何の兆候もなかった。まだまだジオン
の残党は健在だけれども、このぶんだと無事にゆきそうな気がしてきた。

733 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P160〜161 [04/01/18 00:31 ID:???]
 シャアは崖からハマーンを突き落とす瞬間、ハンドバッグを奪い、持ち逃げ
していた(中略)
 自分のそれと両手にさげてアクシズから脱出したが、だれもふしぎに思う者
はなかった。山から舗装道路に出てエレカを拾ったときも同じで、若い運転手
は目もくれなかった。

734 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P161〜162 [04/01/18 00:47 ID:???]
 日が経つにつれ、シャアの安心は深くなったが、不安のタネは尽きないもの
である。今度は現象に何もあらわれないということが心配になってきた。あま
りにもそれが無さすぎた。もしかすると、あれは夢の中の出来事だったのでは
なかったかと錯覚するくらいである。しかし、決して夢ではなかった。彼の手
には、断崖の上で彼女を支え、ついでハマーンの背中を強く押した感触が執拗
に残っていた。
 だが、この無事な日が過ぎてみると、シャアには奇妙な想像が起きた。
――もしかすると、ハマーンはあの谷底で生き返り、アクシズのミネバの摂政
として、指導者として辣腕を振るっているのではあるまいか。
 ばかげた空想であった。しかし、ハマーンの性格を考えると、まんざらあり
得ないことではなかった。ヒステリックに騒ぎ立てる女ほど、あとはケロリと
するものだ。ハマーンは自分を殺そうとした恐ろしい男に見切りをつけ、安泰
な場所に戻って何もなかった顔をしているのではなかろうか。妊娠にしてもや
はり狂言のようだった。今ごろハマーンは摂政としてジオン軍将兵らに毅然と
した態度で訓示をし、政務を続けているのではあるまいか。……
 シャアはある日、フォン・ブラウンに行った。公用だった。新聞を繰った。
あの日から数えて2年ほどであるが、社会面に注目すべき記事があったので彼
の眼は怯えた。アクシズのジオン残党「ミネバ・ラオ・ザビの摂政」ハマーン・
カーンが現体制を刷新し、アクシズ全体の強化をはかっているという記事だっ
た。

735 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P163 [04/01/18 00:50 ID:???]
 とにかく、これでハマーンを見事に殺しえたというナンセンスな空想は消え
た。シャアは、あらためて現実の淵(ふち)に直面した思いだった(略)
 もうこれでいい、これきり月の新聞を見にくるのはやめようと思った。

736 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P166〜167 [04/01/18 00:58 ID:???]
 シャアは、ときどき、こんなことで気苦労が重なるのを情けないと思った。
これだけの頭脳的な精力を専門のMS戦や革新戦略にふりむけたら、どれくら
い役立つか分からなかったし、またどんなに幸福かもしれなかった。
 これもハマーンと縁をもってしまった罰といえそうだが、シャアはそうは考
えたくなかった。ハマーンと一緒にいては急速に破滅がくる。殺そうとしたの
はその自衛手段だった。無価値な女に陥れられるのは社会的に不合理であった。
どのような手段にうったえても逃げなければならなかったのだ。こんなよけい
なことに神経を消耗するのが情けないと思うことはあったが、しかし、これは
危機を乗りこえるために充実した意味はあった。犯罪から脱れるためには、こ
の前ぶれの気配に気を使うのは大切であった。

737 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P174 [04/01/18 01:06 ID:???]
 シャアは雑木林の中でハマーンと最後の営みをした。それは彼女を容易に山
中を彷徨(ほうこう)させる手段であったが、その場所もわからない。
 ハマーンを15、6メートルの断崖の上につれてきて立たせ、下をのぞかせ
たものだが、そのへんの景色はシャアの眼に明瞭に残っている(略)
 高所恐怖症のハマーンが目まいを起こし、両手で顔を覆ったとき、支えてい
た彼の手が背中を強く押したのである。瞬間にハマーンが身体を前に傾けて崖
上から消えた。彼女は短い声を出したが、絶叫ではなかった。こんなとき映画
やテレビドラマでは女が大きな悲鳴をあげるが、嘘だと知った。恐怖の作用で
声など出るものではない。――

738 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P185 [04/01/18 01:12 ID:???]
 ハマーンが宇宙世紀0089・1月17日に戦死したと聞いて、シャアの足
もとはもつれた。ふだんから覚悟はしていたが、現実を耳にすると、しかも今
その彼女がひきいていたネオジオン残党をふくめて組織をつくろうとしている
ことを思うと、身体の平衡を失いそうだった。ダンジダン派といった荒くれ者
たちが、今にも背後から射撃してくるような恐怖もおぼえた。

739 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P201 [04/01/18 01:25 ID:???]
「おどろきましたな、ハマーン・カーンはファンネルやライフルといった遠距
離兵器を使わないで15になる少年に殺されたそうですな。アクシズの要塞内
部で」
 カイザス・M・バイヤーはハマーンが連邦政府を屈服させるまでの経緯と、
その後のことを詳しすぎるほど知っていた(略)
 シャアは初めて聞いたように顔におどろきをつくった。カイザスは言った。
「しかし、ハマーンが戦死したと聞いて、わたしもあの女が可哀想になりまし
たよ。もしかしたら人生に絶望して、あんな結果を招いたんだったら、さぞか
し生まれつきの悪い生涯でしかありませんしな」
 無理に結婚しようと言い出さなければ、自分は辛抱できたのだ。そうしたら
こっちも殺しをせずに、苦労せずにすんだのに、とシャアは思った。


740 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P207 [04/01/18 01:29 ID:???]
 それからさらに2年が経った。つまり、ハマーン戦死後4年目である。その
間、シャアは予定通り新生ネオジオン軍の戦備をととのえ、作戦を充実させた。



741 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P193〜194 [04/01/18 01:34 ID:???]
 作戦は順調に進んでいた。
――ここまではいい。しかし、これからが油断できないぞとシャアは心を引き
しめた。げんに、連邦政府より譲渡されたアクシズ落下を止めようとするロン
ド・ベル(アムロ・レイら)が阻止行動を起こそうとしているではないか。
 ロンド・ベルに核ミサイルが渡っていることもわかった。シャアはまたして
も自分の手落ちをおそれた(略)
 思わぬところにどういう事態が起こるかも分からないのである。

742 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P194 [04/01/18 01:38 ID:???]
 シャアはサザビーでアムロのνガンダムと戦闘中アクシズに入った。足をむ
けたのはまぎれもなく要塞化されたアクシズの内部であった。モウサはとっく
の昔に離れてしまっているが、粛清作戦のだいたいの見当はついていた。

743 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P198 [04/01/18 01:56 ID:???]
 とうとうシャアはその小惑星を地球落下軌道に乗せた。ただ半分しか落下さ
せられないという手落ちはあったが、まぎれもなく忌まわしいアクシズは地球
に落ちるようであった。無残な分裂後も、ハマーンの匂いの残っている場所も
変わりなく、容易に作戦完遂を成し遂げられるような実感があった。
 彼はνガンダムの手に握られている脱出ポッドの中にいた。ちょうどオーロ
ラの波と光が割れたアクシズを包みこみ、異様な姿をたたえている。そういう
異様さは、シャアもそうだった。作戦は成功段階にあるが、サザビーはνガン
ダムとの戦いに敗れて破壊された。
 だが、そんな情けない姿でも、ライバルであるアムロとの口論がつづく。こ
のときのシャアは本音でアムロに対していた。普通の感覚ならば怪しいとしか
思えないだろうが、この混沌ではそれもわかるまい。それよりもνガンダムに
乗るアムロともども、そしてハマーンの記憶すべてを、アクシズともども地球
にぶち込んでしまうほうが絶対に大事であった。
 シャアは本音を喋りまくった。アクシズ落下を防ごうとしていた両軍のMS
部隊がつぎつぎと離れて、分離していたアクシズはオーロラの波に乗りはじめ
た。新生ネオジオン艦隊旗艦レウルーラにいるナナイ・ミゲルの声もむなしく、
そうした異常事態がだれも信じられないままアクシズは地球から離れた。
 キュベレイのなごりも、ハマーンもついにシャアともども消えた。が、その
事実は消えてはいなかった。――

744 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P222 [04/01/18 02:00 ID:???]
 シャアとの記憶をたどることはやさしいが、ナナイのほうに決め手を欠いて
いた。
 シャアがハマーンを殺そうとしたという動機も、二人の関係もナナイには何
も分かっていないからである。しかも、相手はララァという名を寝言で口にし
ロリコンと陰口をたたかれていた「総帥」なのである。

745 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P222 [04/01/18 02:06 ID:???]
 その出逢いのあとで、ハマーンはシャアに殺されそうになったと思われる。
順序としては、スペース・ポートからエレカで二ホン風ホテルに行き、一泊し
て、エレカで山中に入ったということになる。
 ここまでは推定がついていながら、肝心のシャアとハマーンの深い関係がど
のようにしてできたかが、ナナイに読めなかった(略)
 この推定がつかない限り、シャアを究明するのに迫力がなかった。

746 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P223〜224 [04/01/18 02:17 ID:???]
 シャアを犯人とするには、確定の輪が欠けていた。ナナイ・ミゲルは「失わ
れた欠片」(ミッシング・リング)を捜しもとめた。
 それは意外なところから発見された(略)
 かつてモウサ内でエレカの運転手をしていた元ネオジオン兵は、ナナイが示
した両人の写真を見て証言したのだった。
「この二人は10年以上前に、二ホン風ホテルまでぼくのエレカで運びました
よ。さあ、二ホン風のあのホテルに訊かれても、そりゃ分からないでしょうな。
もう10年以上も前のことだし、肝心のモウサがもうないんですから、たとえ
当時のホテルマンが生きていたとしてもおぼえていないでしょう。
 どうして、ぼくがよくおぼえているかというんですか?そりゃ、あなた、こ
のお人の顔は、その二週間前にモウサでエレカに乗せて印象があったからです
よ(中略)
 何しろ出来立てのモウサの地理がよく分からないものですから、このお人に
道順が違うといって文句を言われましてね、最初のうちはおとなしく聞いてい
たんですが、あんまりうるさく指図するんで、口喧嘩になりました」

747 名前:アクシズの輪(番外編) mailto:sage松本清張・内海の輪・P224 [04/01/18 02:25 ID:???]
「それで、バックミラーに映る客の顔を睨んでいたのですからよくおぼえてい
ます。この写真のお人の顔に間違いありません(略)
 さっきも言ったように、このお人がステーションからぼくのエレカに乗って、
この写真の女性といっしょにホテルに行ったんです。あまりの偶然の出逢いに
ぼくはびっくりしましたが、なに、先方はぼくのことなどおぼえていません(略)
 あのへんの奥は連れ込みホテルが多かったですから、その一軒から出てきた
に違いありませんよ。もしかしたらこの女性、ハマーン・カーン殿とのもつれ
あいから、アクシズを使った作戦を考案したのかもしれませんね」


748 名前: mailto:sage [04/01/18 16:29 ID:???]
そろそろ新しいスレを立てないと。

749 名前:アニメーターと漫画家(微光のなかの宇宙) mailto:sage激しさと悲しさ・P104 [04/01/18 16:48 ID:???]
 あるときなにげなく知人の家でサンライズ作品の資料を見ていたとき、さほ
ど親しくもなかった知人が、
「こういうものは、いまのデザインを理解するための参考にはならないか」
 といって、一冊の画集をみせてくれた。それが、安彦良和をはじめとしたガ
ンダムスタッフたちの絵画――宇宙世紀絵画展の冊子――だった。このときの
驚きこそわすれられない。
 その勢いでガンダム・イラストレーションズワールド〜宇宙世紀絵画展〜に
行ってしまったことをおぼえている。私は愛知在住のため、名古屋地区で開催
されたイベントに行ったのだが、詳しい日時まではおぼえていない。たしか、1
999年だったかと思う。


750 名前:アニメーターと漫画家(微光のなかの宇宙) mailto:sage激しさと悲しさ・P104 [04/01/18 17:00 ID:???]
 当時高校生だった私が安彦良和の経歴を知ったのは、G20というアスキー
から出されていたムックにおいてであった。この本はちょうどガンダム・ビッ
グバンプロジェクトが進行していたときに出された本で、いかにも商業主義的
な部分が感じられるものの、Volume4における「特集・安彦良和――アニメの
終わりと物語の始まり」という回においては十分に楽しむことができた。
 その後数多くのイラスト集や特集をみたが、そのなかでも「機動戦士ガンダ
ム・企画段階におけるキャラクターデザイン画」に目をうばわれた。



751 名前:アニメーターと漫画家(微光のなかの宇宙) mailto:sage激しさと悲しさ・P105 [04/01/18 17:21 ID:???]
 アムロ・ブライト・セイラをはじめとしたホワイトベース・クルーのキャラ
クターデザインのなかで、ただ一人劇中に登場しなかったキャラが、そこには
描かれているのである。このキャラクターは八丈志麻という少女キャラで、一
見すると宇宙戦艦ヤマトの森雪に似ていなくもないキャラである。どのキャラ
クターにも、男性・女性・子供らしい骨格と個性がそこにあった。まことに書
きわけられていることはなはだしく、まだ企画段階であるため、キャラクター
のイメージもまだ確定していないころなのだが、そのキャラクターの一人に安
彦氏が一番入れ込んでいたというフラウ・ボゥがある。当然ながら短い茶髪と
連邦軍のピンク色の軍服を着ている。その15歳さながらのおさなさが出てい
るのは驚くにあたいしないにしても、あきらかにその幼なじみの系譜があって、
主人公と関わる少女キャラクターということが眺めていてありありとわかるの
である。それまでのロボット物のキャラクターデザインの表現よりも格段にう
まくまた人間らしい。

752 名前:アニメーターと漫画家(微光のなかの宇宙) mailto:sage激しさと悲しさ・P105〜106 [04/01/18 17:36 ID:???]
 人間という現実世界に生きている生物の生命と存在感が、このキャラクター
画にあってはアニメーションであってもそのキャラクター一人一人が本当に生
きて人生を送っているというリアリティがあるのである。敵側のジオンのキャ
ラにしてもそうである。赤い彗星シャア・アズナブルという、第一次アニメブ
ームのとき女性ファンから絶大な支持をうけたキャラクターにしても、すでに
マスク(企画段階では黒いマスク)を付け、執念の貴公子であるという風格が
あるのである。アムロ・レイの設定にしても、そうであろう。「眉を太く描か
ない」「ホリの深い影をつけない」「年齢を意識して作画をする」といった、
従来のロボット物の主人公の造形と一線を画したデザインを心がけている。私
はかねてキャラクターデザインの表現力に勝手な限界を設けて多少あなどると
ころがあった。よく考えてみるとアニメーションの表現の限界論議など凡庸な
アニメーターにのみ通用するもので、天才には限界すらあたらしい可能性の展
開になるということであり、安彦良和のこの魅力的なキャラクターたちは、書
きわけはさることながら、本来二次元空間で描写できない生命感・躍動感・本
物感覚までみごとに描出されている。というよりも生命感そのものをキャラク
ターで描いているだけで、二次元キャラクターについてのへんぺんたるアニメ
的表現などはけし飛んでしまっているといっていい。


753 名前:アニメーターと漫画家(微光のなかの宇宙) mailto:sage激しさと悲しさ・P106 [04/01/18 17:48 ID:???]
 キャラクターとはこういうものかと思った。このキャラクターは人形でもな
ければ、目の異様におおきい、およそ二次元キャラじみたキャラクターでもな
い。美麗とも単純にカッコイイともいえるそのデザインは、アニメーションの
なかに登場するという決定的な一点においておこなわれているため、キャラは
単にセルで描かれるキャラでしかないのに――つまり漫画のキャラといってし
まえばそれまでであるのに――キャラクターは機動戦士ガンダムという世界に
生きる実在の人間であることを思わせる。この点においても感嘆した。が、そ
のことは仕事にすぎないといえばいえる。
 ともかくも私をとらえた数年後の安彦良和は、繰りかえしいうが、キャラク
ターにみなぎっている異様なばかりのリアリティであった。漫画家になったこ
の作家について知るところがふえるにつれ、かれのキャラクター、クリンナッ
プしたメカのことごとくに、このリアリティのみなぎりがあるということを知
った。


754 名前:1 mailto:sage [04/01/21 08:10 ID:???]
早めにネタを投下

755 名前:陶磁とMSとサイド(対談集) mailto:sage日本人の顔・P121 [04/01/21 08:34 ID:???]
――産業サイドを目ざしたジオン・ダイクン――

チン「ダイクンは偉い方だということはよく聞いていたんですが、大変失礼で
すけれども、どれほどの男ぞと、時には思うこともあったんです。が、あれを
見た時、一介の壷作りにまで、こんな命がけの仕事をしなきゃならんという使
命感を持たせたということから、改めてジオン・ズム・ダイクンはただ者じゃ
なか、ということを感じました。私らは頭が悪いですから、壷という現実の物
を見ないと、分からんのです」(中略)
シバ「ダイクンという人は、殖産興業も起こして、鉱物資源衛星も引張ってき
たんでしょう」
チン「プチMSも作ったという話もあります。……。造らんのはジュピトリス
級巨大宇宙輸送艦だけだという人もいるんです(笑)。サイド3の人は、ひいき
になると、ひいきをし過ぎますが……」
 

756 名前:陶磁とMSとサイド(対談集) mailto:sage日本人の顔・P136 [04/01/21 08:43 ID:???]
――青白磁の色の秘密――

シバ「さっき拝見した青白磁は、チンさんがお作りになったものですか」
チン「はい」
シバ「北宋青白磁をたくさんは見ていませんので、はっきりとはいえませんが、
あれほど透き通るような色は少ないですね。青磁はもっとくっきりしています
ね」

757 名前: mailto:sage [04/01/21 08:48 ID:???]
さらに投下

758 名前:旧世紀の帝国主義と地球(対談集) mailto:sage日本人の顔・P103〜104 [04/01/21 09:20 ID:???]
――地球至上主義の成立――

リ「宇宙世紀にできたアースノイドの民族意識を旧世紀にまでさかのぼらした
解釈が、ゆがんだ旧世紀史像をつくったのですが、その地球至上主義を作った
のは残党殲滅組織・ティターンズではないかと思うんです。一年戦争後から、
サイド征伐論がジーン・コリニー提督らによって唱えられますが、そのサイド
征伐論の大義名分として必ず「ヴィクトリア女王のボーア征伐」が持ち出され
る。新保守派の学者もそれをいっているけれども、宇宙世紀の連邦政府の指導
層は、そういう旧世紀史像をいち早く組織化していく。その中心をなすのがテ
ィターンズでありまして、当時のアースノイド軍人を教育するための「民主兵
史」を読んでみても、必ず旧世紀史の重要なポイントとして英帝国主義のボー
ア征伐を持ち出す(中略)
 各サイドでは例の武装蜂起・スペースノイドの暴動が起きますね。一定周期
で一件落着したりまた再発したりと繰り返されるわけなんだけれども、そのと
きのてんまつを書いたものが20数種類出ています。ところが正確を期するた
めにということで、ティターンズが資料を提供しているんですよ」

759 名前:旧世紀の帝国主義と地球(対談集) mailto:sage日本人の顔・P104 [04/01/21 09:38 ID:???]
リ「そうしてアースノイドのサイド観をゆがめる上で大きな役割を果たすので
すが、その一つに宇宙世紀0084年8月に書かれたサイドをうつべきか否か
を廟議している漫画がある。ボーア戦争のヴィクトリア女王、セシル・ローズ
が登場して、その次に英陸軍将軍ロバーツ・スレイが出て、やれという。最後
にウィンストン・チャーチルがおれを忘れるな、忘れまいのう、とVサインを
している内容です。そういうものが何か偶然にだれかが考え出したものではな
くて、ティターンズから資料として提供されるのですが、その年にティターン
ズの編纂課では旧世紀における植民地支配を論じた「帝国主義考」を書いてい
ます(略)
 ですから、宇宙世紀がはじまってから数十年後には、すでに旧世紀の搾取関
系や自由主義についてはワクがはめられていたわけです」

760 名前:旧世紀の帝国主義と地球(対談集) mailto:sage日本人の顔・P104〜105 [04/01/21 10:00 ID:???]
リ「ティターンズのバッフェ中将が、一番優秀な軍人、しかもサイドに明るい
者を抜擢して、スパイとして現地におくりこみ、コロニー地誌などを作成させ
ますが、たとえばサイド4、比較的宥和関係が保たれているサイド6、サイド
2やサイド3に入るのはアメリアやズム・シティあたりでジオンなまりといっ
た口調をたっぷり勉強して潜入する。よけいなものを持って歩いて、怪しまれ
たらたいへんなことになるわけなんで、ギャリー・ロジャース中尉あたりは民
間業者に化け、ツナギと工具ぐらいしか持って歩いていない」(中略)
シバ「宇宙世紀の公国軍残党殲滅組織ティターンズが、宇宙世紀史学を、つま
りアースノイドの歴史観をつくることの母体もしくは推進役、もしくは刺激剤
の役目を果たしたというのは、私に資料がすくなくてちょっとよくわからない
のです。ただ頭の中の手持ちの事柄で考えるとジャミトフ・ハイマンなどは歴
史観には敏感だったかもしれません。彼はティターンズのつくり手であるし、
議会を掌握した人物であるし、それから後には軍と官とを全部握った大政治家
ですから」



761 名前:1 mailto:sage [04/01/23 09:28 ID:???]
今月中にスレを埋めようかと思ってます。

762 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sageP81 [04/01/23 09:57 ID:???]
 このことはもう少し説明すべきことですが、とにかくカミーユのZガンダム
は成功した。
 パプティマス・シロッコのジ・オをその台詞どおりに撃滅することができ、
カミーユ・ビダンが叫んだ数々の名台詞が、ガンダム主人公の一つの型になっ
た。

 問題なのは、「俺の身体をみんなに貸すぞ」のほうではなく、「ここからい
なくなれー!」のほうでした。
 確かにカミーユはシロッコの撃滅を決意していましたし、撃滅するだけの手
段も持っていました。
 まずZガンダムに搭載されていたバイオセンサーはカミーユのほうがシロッ
コよりもフルに発動できていました。性能的にはジ・オのほうが優秀な点が多
いが、向こうは人の一番大切な「心」がみえなかった。Zガンダムはカミーユ
がガンダムマークUとリック・ディアスを参考にして設計した可変攻撃型MS
でしたし今まで数多くの敵との戦闘経験もありますから、パイロットともども
質としても優れていた。自分自身が精神崩壊してしまうかもしれないというき
わどさにあって、「ここからいなくなれー!」とシロッコのジ・オへ挑む。

763 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sageP81 [04/01/23 10:11 ID:???]
 ところが種のころになりますと、やたらと「ここからいなくなれー!」であ
ります。実体も何もありません。
 種における地球連合、プラント、オーブらのMS・宇宙艦艇のデザイン・ネ
ーミングセンス・質は、三流以下でした(略)
 つまり、ノーマルタイプにありったけの武装をくっ付け、さらにガンダム同
士で宇宙戦争(実体は近代戦といえるようなものではなく、中世さながらの宗
教争いとともとれるものですが)をやろうとし、実際にやった。そういう本当
の意味の実質感のない状態で、コーディネイターと呼ばれる少年、浮世ばなれ
した少女たちが主導権をとります。種キャラやスタッフたちはアニメーション
界を支配したのではなくて占領していたと、かつて申しましたが、いまでも私
はその実感を捨てきれないでいます。

764 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sageP81〜82 [04/01/23 10:21 ID:???]
 そして作品としての内実が心もとないので、言葉が非常に激しくなる。その
激しくなるもとをつくったのはですね、残念なことに、「ここからいなくなれ
ー!」といったカミーユ・ビダンの台詞であったかなあと思うことがあるので
す。彼はほんとうに純粋だったのですけれども。
 戦争というものはよくないことですが、戦争はリアリズムの世界ですね。
 ところが、平成14年10月から放映された種ガンダムには、リアリティの
かけらもありません。ガノタや多くのファン・業界を引きずって、そして最後
には今までのガンダム作品と富野イズムをパクって戦争とはいえないほど愚劣
な殲滅戦をした。こんなガンダム、いやこんなアニメーションは日本アニメー
ションにも世界にもありません。

765 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sageP87〜88 [04/01/23 10:56 ID:???]
 パトリック・ザラという人は変わった人ですね。プラント連合最高評議会議
員から議長そして最高指導者の地位につきます(略)
 絶対権力を握った。
「タカ派ザラ」などと言われたそうですが、たれも偉い人だと思っていません
ね。
 たとえばオペレーション・スピットブレイクという、無茶苦茶としかいえな
いような作戦を、パトリック・ザラ議長のときにやりました(略)
 パトリック・ザラは、シャワーを浴びていたそうですね。シャワールームの
中から、
「攻撃目標をアラスカ本部に変えよう」
 と言いました。
 その他すでに決まっていることを修正するように、と五つか六つ変更を言い
出した。極右の秀才ですから、玄人きどりの態度で指示します。一旦決めた作
戦をより完璧に仕上げんがために。
 十なら十の箇条があるとしたら箇条書き通りを型どおりに聞き、副官も同じ
ことを繰り返します。
「議長の作戦です。大丈夫であります」
 本当は議会の承認も得ずに一存で変更するということは越権行為なのですよ。
当然責任問題にも発展するはずですが、スピットブレイクは失敗しフリーダム
ガンダムも盗まれてしまいました。しかしなぜか軍は作戦配備上対応できうる
はずがないのに、このオペレーション・スピットブレイクでは突然の作戦変更
でも対応できていたんですね。いったいどういう軍組織なんでしょうか。

766 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sageP109 [04/01/23 11:34 ID:???]
 ですから、新宿で行なわれたアニメ新世紀宣言に対して、それ――ニュータ
イプ思想ですね――が「幻想」であったというように表現するスタッフがサン
ライズにも現れました。
 逆に、それに対して非常に恐怖心を抱く気分も表れました。恐怖心を抱く気
分のコアに月の幼年学校組を生み出した801スタッフもいたのではないでし
ょうか(略)
 サイ・アーガイルが、キラ・ヤマトというコーディネイター・少尉に恋人で
許婚のフレイ・アルスターを寝取られ、ねじ伏せられ、暴言を吐かれるという
さんざんな目にあわされました。これは非常に悪質な中傷・侵害事件でしたが、
作り手はキラをかばい、誰からも咎められず反省もせず、最初から最後まで設
定上の大前提(能力と心がアンバランスでかつ孤独な少年で無理解な周囲に利
用されている)を崩さないでいる。やがてキラは劇中最強とされているフリー
ダムガンダムに搭乗し、本来ライバルであらねばならぬはずのアスラン・ザラ
と共同戦をしていきます。スタッフがキラ・ヤマトをかばったのは、つまりス
タッフの目標が801で、脇役は人間ではなく使い捨ての道具であったからに
ほかなりません。 

767 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sageP110 [04/01/23 11:43 ID:???]
 一部の種スタッフがいちばん恐ろしかったのは、サンライズがもう一度、大
人向けの作品を製作するという方向に転換するということでした。
 ところが、少年をメインにした新機動戦記ガンダムWがヒットしました。こ
れは種スタッフの気持ちを軽くしましたね。ああ、もうこれで団塊世代の作り
方もおしまいだと思ったのですが、その後の富野御大が盛り返してきた(中略)
 いちばん富野由悠季の復活に反応したのは、種スタッフだったのではないで
しょうか。
 仮想敵に対して、これは面白い・これこそがロボット物として優れていると
思うファンが現れた、これは危険だと考えたのでしょう。

768 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sage秀才信仰と骨董兵器・P110 [04/01/23 11:57 ID:???]
 先ほどサイ・アーガイルのことを言いましたが、サイ・アーガイルは常人を
越えるほど理解力のある青年でさらにフレイ・アルスターはかなりの問題少女
でおよそ悪女のような、普通の感覚では理解できないキャラなのであって、べ
つにサイに落度があるという風にはおもえない人なのですが、キラにすれば、
これこそ悪魔であると思って暴言をぶつける。
 スタッフもまた、極めて自己中なやり方をしているにもかかわらずキラ・ヤ
マトをかばったという中に、もう種の真実の姿が現れ始めています。
 他人の考えを嫌う、社会における思想のバラエティを嫌う軍人というものの
性癖といいますか、性向は強烈なものであります。
 幼年学校のコーディネイターはいわば一組織の人間・物語を切りひらいてゆ
くキーとなる存在なのです。一個人がどんな思想を持っていても一介のパイロ
ットであることに努めているぶんにはいい。ところが、コーディネイターや少
年たちが大人を越えてしまい、かれらの持っている思想で争いをはじめてしま
うと、とんでもないことになる。

769 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sage秀才信仰と骨董兵器・P113〜114 [04/01/23 12:18 ID:???]
 吉田健一という人は元スタジオ・ジブリの人で、熟練のアニメーターさんで
す。彼はその腕前を買われて、∀ガンダム第33話よりサンライズ作品に参加
し、富野由悠季のオーバーマン・キングゲイナーのころは、アニメーションデ
ィレクターになりました。そのときにキングゲイナーの製作部では、よく話題
になっていたことがあったそうです。
「種の中で信じがたいほど愚かなのは、一流スタッフを気取っている連中だ」
 つまり従来のアニメーションをよく知っているアニメファンたちがいちばん
威張っている。そして平均的スタッフよりはるかに頭がいいと思い込んでいる
と。また、単にブランド価値があるからガンダムを作っている人たちなのです
が、キングゲイナーのスタッフはあきれていました。
「彼らのやり方は結局全部、同人誌のようではないか」
 公共で放送される作品が同人誌なはずはないと思います。しかし種スタッフ
は、機動戦士ガンダム以来の成功したパターンで攻めてくる(略)
「どうしてあんなばかな監督やスタッフたちのいる作品が過保護に優遇されて
いるのか」
 というのがキングゲイナー・スタッフの疑問になったくらいです。


770 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sage秀才信仰と骨董兵器・P114〜115 [04/01/23 12:32 ID:???]
 話がちょっと飛び飛びになりますけれど、ガンダムシリーズには少年信仰と
いうものがありますね(中略)
 ジュドー・アーシタよりもしばらく後の主人公で、ヒイロ・ユイという人が
いました。
 この主人公も少年でしたね(中略)
 そういう少年信仰がガンダムシリーズのスタッフの中にありました。少年な
らば純粋でおよそ醜くはないから、映像作品は誤らないだろうということにな
る。
 少年が選ばれていくのは、ガンダム以前にもよくありましたが、ピンセット
で選ぶようにしてデザインを決定し、少年描写を遂行する。ふんだんに用意さ
れている制作費で、要するにスタッフたちがかれらを偉くしていく。
 しかし、乗っている兵器はいつまででもガンダムです。



771 名前:種というガンダム(昭和という国家) mailto:sage秀才信仰と骨董兵器・P115 [04/01/23 12:42 ID:???]
 その少年たちを生み出した種スタッフたちはパターン化されたガンダムを見
てどう思ったのでしょうか。
 情けないと思ったのか。これではマンネリ化してしまい、面白い作品はでき
ないと思ったのでしょうか。思っていないのですね(中略)
 玩具のようなガンダムを基礎にして、ヘリオポリスで襲撃事件が発生し、宇
宙規模で争いは泥沼に入っていった。コドモに玩具を与え、脇役キャラはグロ
テスクに殺され、ひどい扱いをうけた。

772 名前: mailto:sage [04/01/23 12:52 ID:???]
口直しにもう一つ

773 名前:リンク・オブ・ガンダム(関ヶ原(上)より) mailto:sage高宮の庵・P6 [04/01/23 13:04 ID:???]
「ゲームでなにかやれないか」
 と、由悠季がいったという。カプコンの奥で声がし、立ちあらわれたのは、
当時このゲーム会社カプコンでデザイナーをしていた安田朗である(略)
 いま、リンク・オブ・ガンダムという、とほうもない映像喜劇をかくにあた
って、どこから手をつけてよいものか、ぼんやり苦慮している(略)
 この安田朗の遭遇の話は、角川書店の「∀ガンダム・フィルムブック2」な
どに載っている。

774 名前:リンク・オブ・ガンダム(関ヶ原(上)より) mailto:sage高宮の庵・P7 [04/01/23 13:18 ID:???]
 さて、安田朗は。
 通称、あきまんといった。北海道釧路市出身で、このころカプコンの有力デ
ザイナーの一人となっていた。一書には金銭的な理由で多くの会社を退社して
いたともいい、一書には、カプコン入社のきっかけもアルバイトからだったと
もいう。
 三十代のはじめごろであった(略)
 由悠季は、朗ほか会社の数名と、中華料理屋で食事をして、気落ちのあまり、
いきなりこう言ったらしい。
「この15年間の自分は本当に死に体だった」
 と、円卓の席上言った。
 朗は心のなかで由悠季の言葉にファンモードで共感した。

775 名前:リンク・オブ・ガンダム(関ヶ原(上)より) mailto:sage高宮の庵・P8 [04/01/23 13:28 ID:???]
 やがて、恐縮しながら会話をかわした。由悠季はしずかに考えこんでいる。
「サインをいただけませんか」
 というと、由悠季はいそいでペンをとって書き、
「君のサインももらえるなら、小生はとてもうれしい」
 と朗に要求した(中略)
「よろこんで描かせていただきまする」
 と朗ひきさがり、その場ですぐにサインをするのに手間取りながらも、なん
とか春麗(かれの描いたキャラクターの中でもっとも有名な、人気のある女性
格闘キャラ)を描くことができた。
 由悠季はひと目見、さらに握手を、と求めた。この春麗のサインを見たとき
から、この男、使える、とおもって期待しはじめていたのであろう。

776 名前:リング・オブ・ガンダム(関ヶ原(上)より) mailto:sage高宮の庵・P8〜9 [04/01/23 13:41 ID:???]
 サイン交換後一ヶ月ほどしてから、朗は富野由悠季と再び会った(略)
「新作ガンダムのメカニックデザインは、コンペだからやってみないか?」
 とたずねた。しかし次に会ったときその話は飛躍していて、
「安田君にはいい話がある。キャラクターデザインをやってみんかね?」
 唐突だった。朗は目を伏せ、
「ガンダム、やります!やらせてください」
 と答えた。
(この男よし)
 と由悠季は、おもった。必ず使えるであろう。そのあと、お盆の一週間くら
いでキャラクターを5〜6体描かせてみると、デザインセンスがいい。いよい
よ気に入り、本格的に仕事のできるこの男に才能を振るわせることにした。
 

777 名前: mailto:sage [04/01/23 13:44 ID:???]
今さら気がついたけど、>>773-775は「リング・オブ・ガンダム」でつ。
訂正します。

778 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [04/01/23 21:15 ID:???]
一月ぶりくらいに来たら超大作が何本も。
個人的にはギンガナムとロランがツボ。
精力的ですなぁ>1さん

779 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:age [04/01/24 02:24 ID:???]
保守

780 名前:通常の名無しさんの3倍 mailto:sage [04/01/24 03:06 ID:???]
ヤタ!アクシズの輪キテタッ!!
職人さん乙です



781 名前: mailto:sage [04/01/24 16:28 ID:???]
書けるときに書いておこうと思いまして、日々奮闘中です。
というのも、忙しくなるとスレの維持ができなくなるのではないかと思います
ので。やるべきときにやっておくのが一番かなと。
>>778
感想ありがとうございます。嬉しいです。
∀のSSは難しかったです。戦争全体の把握が映像を見てもわかりにくいし。
あとがきも考えてますが、カナーリ長くなるので次スレになるかと思います。しば
らくお待ちください。

考えてみたのですが、曜日ごとに1st〜種と、順番にネタを書いていく方法
がいいかなと思ってます(月曜〜1st、火曜〜Zとか)
あまり対談集やエッセイに限定しても偏りすぎてしまいますし。あくまで予定
ですけど。

782 名前: mailto:sage [04/01/24 16:49 ID:???]
>>779
その保守がありがたいです。
>>780
お待たせいたしました。
書いてみて、サスペンス物はオチが難しいなと思ったり。
シャアとハマーンの関係は、火曜サスペンス劇場になっても矛盾がなさそうで
すが、そういうリアルさがいいのかな。
いずれはナナイも書いてみたいなと思ってるこのごろ・・・・

他のSSスレをちょくちょく見たりするんですが、他の作家さんの作品は読み
こなしてないと難しいなと。
書く気はあっても、理解やテクニックが上手くないとそれが読み物として成立
しにくいですし。
読み手の立場を考慮したSSが必要ですね。やはり日々の精進が肝心です。

783 名前:ジブリの家(覇王の家) mailto:sage三河かたぎ・P31 [04/01/24 17:34 ID:???]
 宮崎駿の後年の性格なり資質なりは、すでに疎開先の宇都宮市や10代のこ
ろに成立していたのであろう。これは後年、仮想敵であった手塚治虫の逝去の
瞬間と社会的栄光を得るまでは、長いものに対するこの種の巻かれかたの態度
が巧みで、そのことは巧みという技巧的なにおいはいっさいなく、天性の律儀
さから発露しているようにも他人(ひと)にはみられ、しかもひとだけでなく
自分の鋭鋒をかくすための処世的なものであったことをおもえば、これほど不
思議な人物もまず類がない。この堅牢複雑にできあがった二重性格は、その幼
少期の戦争体験と、戦後、社会に対する不信感と両親からの自立願望が自然に
つくりあげたものであろう。

784 名前:ジブリの家(覇王の家) mailto:sage三方ヶ原へ・P33〜34 [04/01/24 17:40 ID:???]
 駿という、この気味わるいばかりに皮質の厚い、いわば非攻撃型の、かとい
ってときにはたれよりもすさまじく腕をあげて攻撃へ踏みこむという一筋や二
筋の縄で理解できにくい質(たち)のややこしさをつくりあげたのは、ひとつ
にはむろん環境である。その環境というのも複雑で、しかも年ごとに、という
より刻々に変化している。

785 名前:ジブリの家(覇王の家) mailto:sage三方ヶ原へ・P38 [04/01/24 17:49 ID:???]
 かれのような人間としては、律儀さをウリとするのがもっとも安全な道であ
った。駿はずっとそうであった。後年、アニメーション界で一、二位を争う立
場になっても自分の頭上の大物――手塚治虫――に対して羊のようにおとなし
く、犬のように忠実でありつづけた。かれがアニメーション界における橘詐奸
謀(きっさかんぼう)の大親玉に変身するのは治虫の死の直後からである。か
れの律儀を猫かぶりのうそで演技にすぎないと片付けるのは容易だが、それに
してもそのうそと演技を、何十年かつづけたというのは、どういうふうに理解
すればいいのであろう。

786 名前:ジブリの家(覇王の家) mailto:sage三方ヶ原へ・P44〜45 [04/01/24 18:03 ID:???]
 どうやら駿には、高畑勲の性質と相似たところがあるらしい。たとえば駿は
手塚治虫をまねなかった(略)
 終始治虫にひきずりまわされ、それほど扱いがわるかったにもかかわらず表
面上は波風をたてなかったわりには駿はついに治虫の好みや思考法はまねず、
晩年も手塚治虫という人物についてそれを誉めあげたような談話を残していな
い。富野由悠季に対してもおなじである。駿は由悠季が栄光を獲得していると
きは自分の毒気をいささかもみせず、つねにいんぎんであった。しかしその時
期、内々の場で近藤喜文や大塚康生らにひそかに洩らす言葉は、富野由悠季の
あの右向きの戦争賛美のやり方に染まるな、ということであった。たとえばロ
ボット物のジャンルがそうであろう。治虫・由悠季の好みによってあれほど一
世を風靡したロボット物についても、かれのスタッフだけはそれに染まらず、
そういう付き合いをせず、駿の好みどおり依然として東映動画風の質朴さを守
りつづけていた。


787 名前:ジブリの家(覇王の家) mailto:sage三方ヶ原へ・P45〜46 [04/01/24 18:16 ID:???]
 高畑勲はバリバリの左翼で、面倒見のいい男であった。富野由悠季もかれに
対しては頭があがらず、また駿も「パクさん」(高畑の呼び名)とよんで敬意
を払っている(中略)
 高畑勲の趣味なり好みなりは、日本風であり日本人的な家族関係を描きだす
ところにあった。かれは駿とはちがい、機動戦士ガンダムや新世紀エヴァンゲ
リオンらについては、
「あれはよくできている」
 と、賞賛している。

788 名前:ジブリの家(覇王の家) mailto:sage三方ヶ原へ・P46 [04/01/24 18:24 ID:???]
 宗教観についてもそうであった。手塚治虫は尖鋭(せんえい)的な仏教信仰
をもっており、輪廻転生を作中で表現していた。富野由悠季は手塚からの影響
が大きいが、インド思想を(とくにガンダムから)表現するようになった。駿
はややちがっている。幻想的な社会主義・共産主義のよき信者であり、アカか
らミドリへといった思想変遷があった80年代を経ても「赤旗左翼思想」の幻
想を捨てきれなかった。

789 名前: mailto:sage [04/01/25 21:55 ID:???]
新スレ立てますた
コロニーを行く(六)
comic3.2ch.net/test/read.cgi/x3/1075035246/l50

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