- 960 名前:名無しの笛の踊り [2009/11/19(木) 00:12:13 ID:GAqQ4sZQ]
- おお、ヴァン.ト。おお、ヴァン.トよ。
まるで運慶の彫刻のようにベートーヴェンの交響曲を指揮してみせるギュンター・ヴァン.トよ。 「さすがは運慶だな。眼中に我々なしだ。天下の英雄は ただ仁王と我れとあるのみと云う態度だ。天晴れだ」と 云って賞め出した。 自分はこの言葉を面白いと思った。それでちょっと若い男 の方を見ると、若い男は、すかさず、「あの鑿(のみ)と 槌(つち)の使い 方を見たまえ。大自在の妙境に達してい る」と云った。 運慶は今太い眉を一寸の高さに横へ 彫り抜いて、鑿の歯を 竪に返すや否や斜すに、上から槌を打ち下した。堅い木を一 と刻みに削って、厚い木屑が槌の声に応じて飛んだと思った ら、小鼻のおっ開いた怒り鼻の側面がたちまち浮き上がって 来た。その刀の入れ方がいかにも無遠慮であった。そうして 少しも疑念を挾んでおらんように見えた。 「よくああ無造作に鑿を使って、思うような眉(まみえ)や 鼻ができるものだな」と自分はあんまり感心したから独言の ように言った。するとさっきの若い男が、「なに、あれは眉 や鼻を鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋 っているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中 から石を掘り出すような ものだからけっして間違うはずはな い」と云った。
|

|