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59 名前:名無し物書き@推敲中? mailto:sage [2010/05/25(火) 13:34:50 ]
 綺麗な足。細くて、艶やかで、むしゃぶりつきたくなる僕のカモシカ。
歩道を歩く彼女の足は、いつ見ても、優雅で繊細だった。
 夢中になって見ていると、彼女の姿を遮るように、僕の前を自転車に乗ったおばさんが通り過ぎていった。
 おばさんは気をつけろとでも言いたげな一瞥をくれると、夕飯に遅れそうなのか、彼女のおみ足とは比べ
ものにならない不格好な足でペダルをこぎ、走り去っていく。
 あの期限切れの社会的廃棄物にも若くて綺麗だった頃があるのだろうか。芸能人の今昔を見れば、それも
想像に難くはないが、僕のカモシカにもそのような時が訪れるのだろうか?
 いや、それは有り得ない。なぜなら――突然鼻腔を満たした幸せの香りが、僕を白昼夢から呼び覚ました。
久しく嗅いでいなかったその甘美な匂いに酔いしれ、全身に幸せが満ち渡っていく。快感。酩酊。ああ、至高の香りとはこのことだろうか?
 軽い酩酊感に陥った僕は、目的を思い出し、しっかりと前方を見据えた。
 思考の海から連れ戻してくれた理想の空気の持ち主、そう、やはり、目の前には彼女の後ろ姿があった。
 数人の通行人と共に、信号待ちをしながら、僕は気付かれないよう、彼女をつぶさに眺めた。
 肩まで伸びた艶やかな茶髪は緩やかに波打ち、清楚な印象を与える白いワンピースから覗く美しい足は、
まるで音楽が鳴るのを待っている踊り子のように交差している。その美しく繊細な姿は、まさに美の女神アシの現身のようだ。
 信号が変わり、彼女の足が踊りだす。僕はおろかなカルメンよろしく、距離をとり後を追う。お待ちよ、シルビア。僕の愛を受け取っておくれ。
 横断歩道を渡りしばらくすると、そこは先ほどまでの賑やかな商店街とは打って変わって、閑静な住宅街だった。
 彼女は、真新しい一軒家へと入っていく。ここか。ここが、そうなのか。うふふ、やっと見つけた、とうとう見つけた。もう離さないよ、香織。君は僕だけのもの、なんだから――






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