- 578 名前:555 mailto:sage [2008/07/03(木) 23:19:16 ID:???]
- 潜入調査番外編(1)
−鈴鹿− 「サスはどうですか?」 蒸し暑いパドックの中、彼女は提出されたチェックリストを目で追いながら傍らの整備班長に声を掛けた。卒倒しそうな暑さだが、彼女の汗は少ない。マシンに群がって最終チェックを続けている女子高生達も同じらしい。 「サスのセッティングが出れば、ライダーの体重が軽い分、こっちに有利だから念入りにやってるよ?」 彼女達の技量ならば問題はなかろう。が、贅肉をそぎ落とせるだけそぎ落としたレーシングエンジンは脆弱だ。用心するに越したことはない。 「念をいれてください。思わぬところからトラブルが出ますから…」 整備員から声が掛かった。 「班長!エンジン試運転、最終いきます!」 「よろしい!大いにやんなさい!」 4気筒DOHCエンジンの金属成分と、爆発音の混じった轟音が周囲に響いた。 「とうとう間に合わなかったか…」 パドックで試運転を始めたCBR-600Rを見つめながら、「相田学園4耐同好会」会長代行の亜麻野敦子は小さくため息をついた。 1週間前、寄宿舎の着信専用電話に届いた、校外実習中の移動体研究会会長(2)からの「会長代行ヨロシクお願いシマス!」の電話で、訳も判らないまま、部外者の敦子が会長代行を引き受ける事になってしまった。 爆音をあげ存在を主張するマシンの傍らのロービジリティに塗装されたカウルには、某警備隊のマークと「DAI-Electronics」のロゴに少々痛いステッカー、アンダーカウルには小さく「S.S.L」のロゴとモノクロの百合のステンシルが貼り付けられている。 手早く各部のチェックを済ませた整備員達は、エンジンを止めるとカウルの組み付けに入った。全くソツのない動作だ。大まかに組み付けが終わったのを確認すると、敦子は一歩前に出た。 整備班長が、よくとおる高い声で全員に注目を強制する。 「全員、会長代行に注目!」 パドックで作業中の防女移動体研究会会員と、隣り合わせたパドックの連中が敦子に視線を投げた。チーム全員が女性の「相田学園4耐同好会」はパドック内でも注目の的だ。
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