猿脳(エンノウ)とは、中国四千年の歴史が培った世界最強の精力剤・脳の補充薬である。 その起源は定かではない、かの烏角先生こと左慈仙人が己の不老不死を保つため定期的に猿を捕らえては奇妙な難題を強い、その問題が解けた猿の頭蓋をカチ割っては食していたという記述が唐の時代には見られる。その中では猿脳のことを「食セバ忽チ倅フルヒタチ、卓持チ上ゲンバカリ也」としてあり、左慈仙人は羅貫中の三国志演義
その歴史
その後時代は清へと下り、強権を振るった西太后は自国のありとあらゆる料理の技術の粋を集めた集大成ともいえる満漢全席を料理人たちに作ることを命じた。珍品として豚のペニス、尾が脂肪によって肥大化する寒羊の尾の煮込み、馬のペニス、真っ赤な血豆腐、オットセイのペニス、宦官のペニス、ペニスペニスペニス……と西太后は女性であるが何故かありとあらゆる精力剤が用意され、その中には例の猿脳もあった。多くの料理もといペニスが煮込まれたり原型が分からないほどフニャフニャの消し炭の様になって来賓の前に出されるのとは違い、猿脳は趣向を変えて来賓をもてなした。
客たちは次の代物を見たことも無い珍品と聞いたが、食前酒までこれでもかと生臭いマムシ酒であり、皆精力剤の過剰摂取で毛細血管が破裂せんばかりの勢いに、卓は既に30センチ以上不安定に持ち上がっていた。そして「どうか次はちんこじゃありませんように」と祈りつつも半分期待していた客の前に、シラミを飛ばしながら檻に入った猿が丁重に運ばれてきたのである。
饗する 鮮度は西太后のお墨付きである。
カラカラとまるで鉄の処女のような檻に入れられ運ばれた猿は卓の真中へと納められた。頭の毛を剃られた猿はこれから起きる事態を察しているのかそうではないのか喚いている。そこに無駄に屈強な料理人が鉈を持って現れた、客たちは目の前で惨劇が起こることを想定して身を引いている。
料理人が猿に近づいた、客は皆目を背ける……
静かなことに違和感を覚え客が薄眼を開けてみると、なんと猿は料理人に酒をもてなされていた。それも白酒の中でも最高級とされる茅台酒である。客たちは自分たちが生臭い液体を飲まされているのにこれはなんだと目を見張り、猿は浮かれて檻の中でふらふらとしている。
しかし当然料理人は鉈で猿の頭をスパッと切り飛ばした、壁に吹き飛んだ頭皮がぺちゃりとへばりつく。酔った猿は脳を露出させてながらも訳がわからずボケッとしている、皆が呆気に取られている中料理人は猿の頭にストローを突き刺すと「吸って下さい」と言った。客たちは戸惑っていたが料理人から「早くしないと死んでしまいます!」という声で我に返り、一人が意を決して吸った。「ちうちう」ん?以外にイケるな……すると、何?俺にも食わせろ、俺にもと、皆スプーンを持って飛びつき、あっという間に猿の頭蓋骨の中はスッカラカンになってしまった。客たちが至極満足した様子で「いや奇妙なる珍味であった」と先程より依然高く股間で卓を持ちあげながら酒をあおると卓の真中から声が聞こえ、手が伸びてきた。
「なんだうまそうなものを食べてたじゃねぇか!俺にも食わせろ!」猿の手であった。
満足そうに客の一人が言った、「もうお前の分は無い。」
お後がよろしいようで……
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更新日時:2019年8月15日(木)08:05
取得日時:2022/06/25 19:27