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48:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 8/15
08/02/23 14:19:44 nyBe6Wgl0

「うぎゃぐっ!」
 代わりに、頭上からカエルが潰れるような悲鳴。
 急に、静まりかえった空気。
「……?」
 ぼうっと顔を水平まで上げると、目に映る二組の足。
 うち、一組が宙に浮いている。

 そして、倒れ込んだままの薫子とカスミの頭上から、
「何を、やってらっしゃるのかしら?」
 場にそぐわない、涼やかな声が舞い降りてきた。

「うっ、ぐっ、あ、アンタはっ!?」
 女子生徒の狼狽した声。薫子は、痛みをこらえて身を起こす。
 目の前に、彼女を蹴ろうとした先輩がいる。頭が随分高い位置にあって、地に足がついていない。
 簡単に言うと、首根っこをつかんで吊り上げられている。

 そして、吊り上げているのは、同じ九条院の、制服姿の少女。
「喧嘩なさるのはご自由ですけど、五人で二人を寄ってたかってというのは、いささか趣味が悪くありませんこと?」
 学年章は二年生。にこやかな笑みを浮かべた彼女は、驚くべきことに片手で相手を持ち上げていた。
「て、てめえには関係なっ」
 ぶんっ。

 人間が宙を飛ぶ姿というものを、薫子は初めて目の当たりにした。
 投げ飛ばされた女生徒の身体は、投げ手に飛びかかろうとした少女を巻き込んで、開け放しの入口を通って廊下まで吹っ飛んだ。
 残る三人の顔が蒼白になる。二人は逃げ腰に後ずさる。
「じ、上級生に手を出して、覚えてなさぐっ!」
 残り一人、派閥のボスは震える声で捨てぜりふを吐こうとしたが、一瞬で首を掴んで引き寄せられる。
「覚えて欲しければ、覚えてあげてもよろしいですけれど?」
「っ、ぐっ、あ……ぅ……」
 
 容赦なく吊り上げられた、見慣れた先輩の顔が見慣れない紫色に染まっていくのを、薫子は呆然と見つめた。

49:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 9/15
08/02/23 14:21:56 nyBe6Wgl0

 制服の少女は、またも片手で吊り上げた相手の喉笛を、容赦なく締め上げる。
 ばたばたと藻掻く標的の動きが、徐々に弱まってゆき、それにつれて怒りの視線が恐怖に置き換わる。
(まさか……。)
 そっ。
 端で見ている薫子ですら背筋が寒くなった時、長袖の制服に、静かな手が添えられた。
「カスミ……?」
 黒髪の少女に触れられて、すっと攻撃者の視線が緩む。
「もう、いいの?」
 コクコク……。
 優しい声に、頷くカスミ。  

 それで、三年生は解放された。
「ぐはあっ、げほっ、ごほっ、こ、向坂、環ーっ、!」
 無様に床に転がりながら、制服姿に向けられる怨嗟。
「はい、何でしょうか、先輩?」
 それに冷たい目線で答えて、一歩相手に踏み出す、向坂と呼ばれた少女。
「ひっ!」
 怒熱は一瞬で冷めて、ジャージ姿の三年生は慌てて逃げ出して。

 部屋には、三人だけが残った。

「大丈夫? 怪我は?」
 部屋の壁にもたれかかった薫子に近寄って、少女が尋ねる。
「たいしたことはありません」
 体中が痛かったが、それよりも薫子は、目の前の人物を凝視した。
 あれほどの力を見せつけながら同時に女性らしい柔らかさを感じる身体は、少し高いくらいの背よりもずっと大きく見える。
 優しさと強さを兼ね備えた、真っ直ぐな瞳。豊かで美しい、少し色の薄い長髪。
 玲於奈が憧れ追い掛けている、才色兼備の名家の跡取り。
 これまで何度か、見たり会ったりした事はあるが、眼前にして初めて薫子は理解する。

 なんて、眩しい、この人が、向坂環。

50:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」10/15
08/02/23 14:23:42 nyBe6Wgl0

「……ありがとう、ござい、ます」
 こんなに素直でない声で、何を感謝しているものか。薫子は自分を恥じた。

「礼には及ばないわ、久しぶりに暴れてスカっとしたし」
 ペロっと舌を出す環は、それに気付いてか気付かずか。
「そっちの子も、カスミさん? 大丈夫かしら?」
 いっぽうカスミは、さっきは薫子より先に環を止めたカスミは、ただ呆然と立っている。 
「どこか、痛めた? はい、これ」
 環は、足元からカスミの写真立てを拾い上げて、持ち主の手に握らせた。
「……ぇさま……」
 ぐい。
「あ、あら?」
 写真を渡した手を、そのまま黒髪の少女は握りしめる。
「お姉様と、お呼びしてよろしいですかっ!」
 カスミがこんな大きな声を出すのを、薫子は初めて聞いた。

「お、おねえ、さまぁ?」
 流石の環も、これには面食らったようで若干のけぞる。
「……ダメ、ですよね……」
「あ、い、いや、えーっと、そのー、いいわよ、別に」
「ありがとうございますっ!」
 カスミの顔が、ぱあっと明るく輝く。
 環は、苦笑しながら、優しい視線で黒髪の少女を見た。
「あは、ははは……、じゃあ、そういう事で。何にしろ困った事があったら、いつでも呼んで」
「はいっ!」
 その視線に、カスミは満開の笑顔で答えた。

 あ、笑った顔。やっぱり、可愛いかった。

 薫子が見たかった、少女の笑顔。
 ようやくそれを見られたというのに、心は何故か痛くなった。

51:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」11/15
08/02/23 14:24:42 nyBe6Wgl0

 散らかった廊下の片付けも手伝って、環は自分の部屋に去った。
 ジッ……。
 その後ろ姿が見えなくなるまで見送って、カスミも室内に戻る。
 キョトン……。
 部屋の中に、先に戻った筈の薫子の姿を見つけられず、一瞬戸惑う。

 ルームメイトは、自分のベッドに横たわっていた。

 傍らに立つカスミ。薫子は、布団を被って壁を向いている。
「……だいじょうぶ?」
 黒髪の少女が、自分から薫子に声を掛けたのは、おそらく初めてだろう。
「平気です」
 薫子はカスミに背を向けたまま、消えそうな声で答える。
 ……。
 小さく首を傾げるカスミ。やがて、少し間を置いて、再び口を開く。
「……ありがとう」
 その言葉に、薫子の肩がビクッと震えた。

「……お礼は、向坂先輩に言えば十分ですわ」
 絞り出すような口調。
「私は、何もしていません」
 布団越しに見える背中の形が、ぎゅっと縮こまる。
「何も、できなかったのですから……」
 語尾が小さくなって、手で顔を覆っているのが僅かに見えた。
 カスミは、そっとベッドの横にしゃがみこんで、横たわる少女の髪に手を伸ばす。
「薫子、ありがとう」
「っ!」
 カスミが手を触れたのと、改めて対象を明らかにした謝意が示されたのと、薫子が息を飲んだのと、ほぼ同時。
 
「っ、っく、ぅう、ぅあああああーっ!」
 薫子は、堰を切ったように泣きだした。カスミは、薫子が泣きやむまで、頭を撫で続けた。

52:名無しさんだよもん
08/02/23 14:25:22 pFnlBmdvO
携帯で大変なのかもしれないが、細かくぶつ切りで連続投稿はあんま好ましくない気がする

53:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」12/15
08/02/23 14:25:52 nyBe6Wgl0

 この日を境に、薫子を取り巻く環境は大きく変化した。

 元同室の三年生達は、明確に敵意を示すようになり、それに伴って、表面上友人関係にあった多くの同級生や先輩も、いざこざを恐れて彼女から離れて行った。
 誰とでも仲良く付き合う優等生という、これまでの彼女のイメージは失われ、教師達からも、嫌われたとまでは言わずとも、当たらず触らずの要注意人物扱いといったところ。

 代わりに得たものと、変わらずに在るものは、黒髪の無口な友人と、赤髪の賑やかな友人。
 カスミはこの一件で薫子に厚い信頼を寄せるようになって、何をするにも彼女の後を付いて回るようになった。

 玲於奈はというと、
「元からあの方たちは気にくわなかったのです。いい気味ですわ」
 事情を説明した薫子に屈託のない笑顔を見せ、かえって環との距離が近づいた事を喜んだ。
 カスミに対しても、
「薫子の友達なら、私とも友達ですわね」
 カスミの方も、無邪気で天然な玲於奈には敵対心を持つ気にならないのか、薫子が拍子抜けするくらいあっさりと打ち解けた。

 薫子自身は、この境遇を後悔はしていない。
 確かに、先輩達からの細かい嫌がらせは日常茶飯事で、
「じゃあ、薫子さん、後はよろしくね」
 例えば今も、野外活動の後始末。件の派閥の上級生はニヤニヤと、巻き込まれた他の生徒達はコソコソと去って、
(後はも何も、殆ど最初からですけどね……。)
 散らかしっぱなしの用具類を眺めて溜息をつくが、大した事だとは思わない。
 環の存在が効いているのか、直接的な暴力や疎外はなかったし、

「薫子っ、ああもうまたっ、酷い連中ですわねっ!」
 カチャカチャ……。
 彼女は一人ではない。三人でいれば、大抵の事には対処ができた。
「あら、貴方たち、また押しつけられたの?」
「「お姉様っ」」
 加えて、環自身も先輩に睨みをきかすだけでなく、なにかと三人に目を掛けてくれている。

 ただ、薫子の心に影を落とすのは。

54:名無しさんだよもん
08/02/23 14:30:42 k7O1vEy1O
ここでさるさん。一時間くらい中断します。

55:名無しさんだよもん
08/02/23 14:41:34 T9cI69JEO
ソフトウェア更新終りました。
雑談は避けた方が良いとは思うのですが、知りたい事があるので書き込みます。

>>52
ここって30行の規制はないのでしょうか?何行まで大丈夫か教えて頂けると幸いです。
気をつけて編集してから投下してるのですが、逆効果でしたかorz

>>桜の群像さん
初めてリアルタイムで見ました!楽しみにしてます。

56:名無しさんだよもん
08/02/23 14:52:53 k7O1vEy1O
>55
お気になさらずに。そのための中断宣言ですから。
この板は1レス最大32行です。詳しくはSETTING.TXTで検索してみてください


57:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」13/15
08/02/23 15:00:04 nyBe6Wgl0
「台車、調達してきたわよ。さっさと終わらせて、お昼にしましょう」
 薫子や玲於奈が二人がかりで運ぶような大荷物を、軽々と持ち上げる環。
「カスミと玲於奈はそっちをお願いね」
 腕力だけでなく、仕事の段取りにしろ手際の鮮やかさにしろ、むろん学業も運動も。
(優秀というのは、こういうことを指す言葉でしょうか。)
 自分が有能だなどと自惚れていたつもりはない彼女だが、それにしても、何かにつけて環の能力を見せつけられる薫子である。

 そして、
「はいっ、お姉様!」
 ニコニコ……。
 玲於奈とカスミが環に向ける、憧憬の視線。

 自分も素直に憧れれば良いものを、薫子の心にはいつも、やるせない思いが去来する。
(私は、友人ぶって二人に頼られたいだけなんだろうか?)
 自然に慕い、自然に慕われる二人と一人に比べて、己のいかに卑小なことか。
 それでも、玲於奈が一番に愚痴をこぼす相手は引き続き自分であって欲しかったし、
(カスミ……。)
 黒髪の少女が、九条で最初に笑顔を見せたのが自分にであったら嬉しかった……

「どうしたの? 疲れた?」
 思考の泥沼に陥りつつあった薫子を、涼やかな声が救い上げた。 
「あっ、いえ、すみません」
 そしてまた、救い上げられた事に心が沈む。

「本当にいつも、ご迷惑ばかりお掛けして」
「迷惑だなんて。こんなの、なんでもないわよ」
「それは、向坂先輩は、なんでも達者でいらっしゃるから……」
 気を遣ってくれたのは分かる。分かるだけに、つい薫子の口調が尖って、また後悔する。
「なんでも、か」
 だが、環はすうっと風に言葉を流してから、小さく薄く笑って言った。

「私が九条に来た理由を、教えてあげよっか?」

58:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」14/15
08/02/23 15:00:55 nyBe6Wgl0
「私にはね、好きな男の子がいたの、ううん、いるの」
 二手に分かれて片付けを進めながら、環は薫子にだけ聞こえる声で話し始めた。
「ひとつ年下の幼馴染みで、ま、仲良かったんだけどさ」
 飄々とした言葉遣いに、初めて覗く心の空隙。
「強引に告白してフラれちゃった」
 てへっと照れたような、それにしては痛そうな笑み。
「それで、顔を合わせづらくなって、ずっと断っていた転校話に乗っちゃったのよねえ」

 薫子は、すぐには言葉を返せなかった。
「……後悔、されてます?」
 やや間を置いて発した質問に、今度は苦く笑う環。
「そうねえ、それ以来会ってないし」
「えっ? 一度も? 会っていないのですか?」
「ええ」
 軽い返事に、寂しさと後悔を少しだけ滲ませて、
「私たちには、もう一人幼馴染みがいてね、私にもその子にも、妹みたいな女の子」
 これも薫子が聞くのは初めて、環が言い淀み、そして自嘲気味に笑う。
「私はあの子に、嫉妬してるんだな」
 思わぬ言葉に目を丸くする薫子。それを見て環は、今度は優しく笑う。
「イヤよね、自分のそういう気持ちを認識するのって」
 どきりとした。
(やっぱり、私の気持ちを知ってて言ってるんだ。)

「でも、仕方ないの。それが、今の自分だから」
「だから、会わないって決めた。自分が、自分に納得できるようになるまで」
「言うなれば今は修業期間、次に会うまでに、見違えるような女性になって見せるぞ、ってね」
 環はそう言って、最後には楽しそうに笑った。

「ま、周囲が何言ってるか知らないけど、こんなもんよ、私だって」
「いえ……強いです。先輩は」
 後輩の心を知って、それで自分の傷を抉って見せてくれた。
 その優しさと力強さに、薫子は更に自分を恥じる。

59:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」15/15
08/02/23 15:02:48 nyBe6Wgl0

「そんなことないわ」
 最後の道具を台車に積み上げ、環は薫子に向き直った。
「私は今できる事と、これからしたい事を考えているだけ」
 ぱんぱんっと手をはたく。
「今はできる事だけすればいいし、したい事は、これからできるようになればいいのよ」

 さあ、行きましょう。
 手を差し伸べられたように見えたのは幻想か、環は台車を押して玲於奈達に号令を掛けた。

 薫子は暫し立ち尽くす。
 環の言葉ほど、簡単に心情は整理されない。
(私は非力すぎて、できることなんて。)
 いくらなりたくとも、環のような眩しい太陽に、自分がなれるとは思えない。

「薫子っ! どうしたのですかっ!」
 だけど、玲於奈の声が、薫子を探す。
 チラチラ……。
 そしてカスミが、環の後ろで薫子を振り向いている。

「……玲於奈、カスミ」
 二人が、自分を呼んでいる。自分を、待ってくれている。
「いま、行きますっ!」
 だからもう、悩むまい。薫子は、大好きな友人と、尊敬すべき先輩の下へ駆けた。

(今できる事と、これからしたい事。)
 心の中で、環の言葉を反芻し、そして対照的な二人の少女を見やって誓う。

 地上を照らす、陽になれずとも、隣に寄り添う、月ではあろう。
 そして、いつか小さくとも。

 自分で輝く、星になるように。

60:名無しさんだよもん
08/02/23 15:04:36 T9cI69JEO
>>56
ありがとうございます。
32行でしたか。
その他知っておいた方が良い事もありそうなので
SETTING.TXTは読んでおきます。

後はかなり書き溜め具合に意識の違いがありましたorz
もっと書き溜めてから投下しようと思います。

61:名無しさんだよもん
08/02/23 15:05:35 nyBe6Wgl0
以上です。
さるさん規制は微妙ですね。30分で12レスくらい?あと連投規制消えてる?

どんな話だよと自分でも思わなくもないですが、書きたかったので書きました
本編含め、読んで頂いた方には心から感謝申し上げます。ありがとうございました

三人娘もADに登場するようなので、勝手に膨んだ俺の脳内はここでリセットですね
願わくば、原作での不遇を返上して魅力たっぷりな三人娘が描かれますように……

62:名無しさんだよもん
08/02/23 18:59:56 d4S1ivzg0
>>61
乙。AD発売は喜ぶべきことなんだろうが、それで二次創作の幅が
狭くなるのは残念だな

63:61
08/02/23 22:12:14 A3B/qv1h0
サブキャラを公式が書ききってしまう事で余白は減る意味もありますが、
材料は増えるんだから幅が狭くなるってことはないんじゃないでしょうかね

自分が抱えてたイメージが消えて困るというほど傲慢ではないつもりですし、
ゲーム自体の出来は出てみないとわかりませんが、基本的には楽しみです<AD

64:名無しさんだよもん
08/02/23 23:55:24 Je3S+3HT0
>>61
環が出るとは予想してましたが、見事なまでに美味しいところをかっさらっていきましたね。
特に最後辺りの薫子との会話は、本編でその恋が成就しないのが分かっているから
なおさら健気っぷりに泣けてくるし。

とまあ、何はともあれ今まで乙かれです。ADでも創作意欲を掻き立てるような
キャラがいたらいいですね。その際には是非SS投下お願いします。

65:名無しさんだよもん
08/02/24 09:02:09 psRtQUJ40
ADでも攻略不可能な魅力的なキャラが出てくるから問題ないだろw
そして再びADAD(仮名)が発売されて無限ループに

66:名無しさんだよもん
08/02/24 09:14:27 epjwJw2I0
旅行ネタ書こうと構想練ってるんだが、タマ姉か双子が絶対ついてきて困る件について。
この三キャラ扱いやすすぎて逆に話から切り離せねぇo...rz

67:名無しさんだよもん
08/02/24 10:54:13 J2OcOWvb0
>66
書き易いキャラって思わず出しちゃうもんだし、それでいいんじゃないかい?
漏れには、その三人は扱いづらい筆頭格だから羨ましいぜ
双子は関西弁が書けないから台詞が出ないし、タマ姉はキャラが掴めなくてすぐ超人化してしまう

68:名無しさんだよもん
08/02/24 11:14:34 sf2tnRSy0
自分も「書きやすいキャラには勝手に出てきてもらう」でいいとオモ。

って言うか、少なくとも俺はおおよそのアイディア考えたらあとは筆任せ??
キャラに突っ走ってもらうからあと知らん、って感じ。
むしろ走りすぎて推敲の時に「思いっきり18禁になっちまったwこりゃ拙いだろww」ってばっさり切ったりするくらいだからなぁ。
妙に考えた作品のほうが評判悪いし、勢い作品のが自分でも好きだし、やっぱ勢いしかないようなww

69:名無しさんだよもん
08/02/24 11:38:59 njH3KTY/0
楽しく書ければそれでいいじゃない

70:名無しさんだよもん
08/02/24 11:52:06 NIU/xwZr0
>>61
タマ姉カッコいー
お姉さまって呼びたくもなる訳ですねえ

71:郁乃専用メイド3 1/4
08/02/24 14:34:45 xhmOBuLX0
まぁ最大の難関といっても、登る事がじゃない。
どれだけ平然と登れるか。他人の力は借りない。
これが最近の私の中でのルール。
気をつけないとどっかのお節介な姉が助けにくるから気をつかう。
今日は近くにいないんだから気にする事ないとも思うけど
もう習慣みたいになっていた。

教室に入ると最近よく一緒にいるこのみが近づいてくる。

「郁乃ちゃん、おはよー」
「おはよ。今日は早いのね。雨降らないかしら」
「うう、郁乃ちゃんひどいでありますよー」

心なしか元気がない。どうしたんだろう。
気になったものの、その理由はすぐに本人から語られる事はわかっていた。

「今日ね、タカくん達のお見送りしたんだ」

あぁ、そういう事ね。
お見送りしたはいいけど寂しくなってきた、という事か。
いかにもこのみらしい。
でも恋人の妹に貴明への愛情をアピールするのはどうかと思うんだけど…。

寂しがるこのみが友達を家に呼んだから私にも来いと誘う。
たまには出掛けてみるのもいいかな、今はシルファと顔合わせたくないし。

「やたー!じゃあ今日は一緒に帰るでありますよー!」

72:郁乃専用メイド3 1/4
08/02/24 14:35:16 xhmOBuLX0
「ただいまー!おかーさん、今日は友達連れてきた!」
「ちゃるちゃんとよっちちゃんでしょ?聞いてるわよ」
「今日は郁乃ちゃんもだよー」

あまり人の家に来りする事がないので、少しタイミングを見計らう。

「お邪魔します」
「いらっしゃい。貴女が郁乃ちゃんね、このみから話は聞いてるわ。ゆっくりしてってね」
「ありがとうございます」
「もー!おかーさん、変な事言わないでよ?」
「はいはい、それよりもこのみ!靴は揃えなさいって何度言わせるの!」

このみの母親は容赦なく手にしたおたまで友人の頭を叩く。
あ、いい音。

「うー、そんな思いっきり叩かなくてもいいのに」
「いいから早く手を洗ってらっしゃい。郁乃ちゃんも」
「はーい。行こ郁乃ちゃん」

くるくるとよく表情が変わる子だ。
さっきは涙目だったかと思うともう笑顔。
ずっと入院してたのもあって、こういう温かい空気が少し羨ましい。
もちろんウチが温かくない訳ではないけど、
こういう元気よさだったり、遠慮のなさみたいなものはウチにはない。
私がもう少し元気になって、今の生活に慣れてきたらこんな感じになれるのかな…

「じゃあ、私の部屋に行こうよ」

わざわざ手をひいてくれるこのみに苦笑しつつもそれについて行く。

73:郁乃専用メイド3 3/4
08/02/24 14:36:00 xhmOBuLX0
このみの中学時代からの友達、吉岡さんと山田さんも合流した今の話題。

「へぇー!郁乃ちゃん今メイドロボにお世話してもらってるんだぁ」
「朝挨拶したぐらいで何も世話されてないわよ」
「それでも羨ましいっしょ!メイドロボにお世話される高校生なんてそういないし」
「同意」
「でも、タカくんもお世話されてるよ?」
「え?」

そんなの初耳だ。びっくりするのも当然だと思うんだけど。
私のあげた声に皆は意外そうな顔で覗き込んでくる。

「郁乃ちゃん知らなかったんだ。この春からタカくんちにいるんだよー」
「先輩の彼女の妹だから知ってると思ってたっしょ」
「姉の彼氏の事なんてそんな根掘り葉掘り聞いたりしないわよ。何でも知ってる訳ないでしょ」

半分嘘をついた。メイドロボの事は知らなかったけど、
大体の事はこちらか聞かなくても姉から話してくるので結構知ってたりする。

74:郁乃専用メイド3 4/4
08/02/24 14:36:21 xhmOBuLX0
気づけば陽はすっかり落ちて、夕食の時間となる。
もうこんな時間かぁ、そろそろ帰らないと。
今の話題にひと段落ついたら帰る準備をしよう、そう考えていた時

コンコン

ふいにドアがノックされ、顔を出したのはこのみのお母さんだった。

「貴女達、問題なければ今日はウチで晩ご飯食べて行きなさい」
「全然モウマンタイっす!春夏さんのご飯おいしいんすよねぇ。」
「私も問題ない」
「やたー!今日は皆で食べる晩御飯はおいしいのでありますよー!」
「キツネ、これはもうゴチになるしかないっしょ」
「うむ。親に連絡は入れておかないと」
「そうだった!春夏さん、電話お借りしていいですか?」
「いいわよ。いってらっしゃい」

ドタドタと二人は階下に降りて行った。
当たり前といえば当たり前なんだけど、この食事会の対象に私も入っていたみたいだ。

「郁乃ちゃんはどうする?」
「え、わ私?」
「あ、でもシルファさんがいるんだよね」
「それは、多分大丈夫…だと思う」
「変な遠慮はいらないわよ。あ、でも連絡はちゃんとしなさいね」
「あ、ぅ…はい」

帰らないといけない、という事はないけど柚原家の勢いに飲まれてしまったのが少し悔しい。

75:名無しさんだよもん
08/02/24 14:41:12 xhmOBuLX0
書き禁解除やったー!
と思ったら色々ミスってましたorz

>>61
乙でした。
これからですが、色々勉強させて頂きますです。

76:名無しさんだよもん
08/02/24 17:30:57 yoTxzGmD0
なんかこのみって癒されるよね。萌えるのではなく。
一家に一人はほしいよね。

77:名無しさんだよもん
08/02/24 18:07:33 d6Ub8HHH0
マスコット的可愛さって奴か

78:名無しさんだよもん
08/02/24 19:03:19 yoTxzGmD0
>>77
IDが異様にHだねw

このみ→和む、癒される可愛さ
愛佳→守りたくなる可愛さ
タマ姉→遊ばれたい可愛さ

雄二→からかいたい、いじくりたい、突っ込みたい可愛さw

79:名無しさんだよもん
08/02/24 23:24:32 wAvtUBPB0
>75
乙〜、PCからだと書きやすいせいか、改行が多くて読みやすくなってるね
階段はイベントなしか。密かに踊り場で「手をお菓子するのれす」とかシルファが待ってるのを期待していたのだがw


80:名無しさんだよもん
08/02/25 00:01:01 jmESA6E70
>>79
ありがとうございます。
改行は色々悩みますね。入れたいけど改行で行数稼いでしまって
1レスで書きたいところまで書けないとかもあるので…
残念ながら学校ではシルファ自重と思ってますw
とか言いながら早速でますがorz

では本日最後の投下します。

81:郁乃専用メイド4 1/6
08/02/25 00:01:35 jmESA6E70
柚原家での食事はそれは楽しかった。
同じ年代の友達とバカを言い合いながらのご飯がこんなにおいしいなんて
私は人生の半分を無駄にしてたんじゃないかとさえ錯覚するほどに。

食事が終わり、再びこのみの部屋へ戻り
柄にもなく恋話などをに花を咲かせる。
これまで恋愛経験のない私からすれば、皆が羨ましくもあった。
皆の話に耳を傾けているうち、外が真っ暗になっている事に気づいた。
時計を見ると夜9時。そろそろ帰らないと、何かあっても一人では対応しきれない。

「じゃあ皆、私はそろそろ帰るわ」
「あ、じゃあ私らも帰るっしょ!キツネ?」
「わかってる」

すでに帰り支度を整えた山田さんに合わせて荷物を抱え立ち上がる私。

「春夏さん、お邪魔しましたー!」
「お世話になりました」
「お邪魔しました」
「何のお構いもしませんでごめんなさいね。また遊びに来てね」
「おかーさん、私郁乃ちゃん送って行くね」

このみのその言葉に何故だかわからないけど焦る私。

「いいっ、一人で帰れる。」
「だって郁乃ちゃん…」
「大丈夫だってば、それに私の家まで来たら今度はこのみが心配になる」
「もー!郁乃ちゃんひどいよ」
「心配するなこのみ。私達が途中までだが送っていく」

いまいち納得してない様子のこのみだったが、
最終的には途中まで吉岡さんと山田さんに送ってもらう。それで納得してもらった。

82:郁乃専用メイド4 2/6
08/02/25 00:02:02 jmESA6E70
二人との分かれ道まで何事もなく辿りついた。
ここから結構近いので大丈夫だろう。

「じゃあまたね郁乃ちゃん」
「また会う日まで」
「ありがとう。こちらこそこれからよろしく」

二人と別れ、数メートル先の自宅へゆっくり向かう。
危険だという理由で夜に出歩いた事はなかったけど
夜は夜で予想通り楽しいものだった。
早く完治してのんびり出かけたいものね。

自宅前に着くとリビングに明かりが点いているのを見てシルファの存在を思い出す。
あの子、今日は何してたんだろう。
気にはなったが、今朝の通学を思い出し考えを振り払う。損はしたくないし。

当然のように玄関の鍵は開いており、難なく入る事が出来た。
柚原家を思い出し、靴をきちんと揃えて部屋にあがる。
シルファはどうしてるのかとリビングを見回すと、
片隅で正座をしていた。しかし、少し様子がおかしい。
あれは寝てるのかしら。主人じゃないけど主の帰りに気づかずに寝てるなんて。
文句のひとつでも言ってやろうと近づいたところで気がついた。
テーブルに置かれたオムライスと手紙。そしてシルファに続くパソコンの画面。
丁寧な文字で書かれた、私に宛てた手紙。
『お夕飯は何が良いかわからなかったのでオムライスにしました。
もしお嫌いでなければ召し上がって下さい。
充電が切れそうなのでスリープモードに入りますが、郁乃様のお迎えが出来ず残念です。』
そしてディスプレイ映る文字。
『スリープモード開始時刻21時。終了予定時刻6時。充電20%』

ぎりぎりまで待っててくれてたのね…。悪い事したかな。

83:郁乃専用メイド4 3/6
08/02/25 00:03:54 jmESA6E70
夕飯はこのみの家で食べたので、とても食べられそうになかった。
申し訳ない事をしたと一瞬思ったが、柚原家での食事が決まった時、
電話は繋がらなかった。そう、悪いのは私じゃない。
そう言い聞かせ、寝る為の準備に入る。
お風呂から上がった私は申し訳なさも手伝い、お腹が減っている訳でもないけど
オムライスを食べる事にした。

「なによ。意外とおいしいじゃない」

ロボットの作る料理がどんなものか興味はあった反面、
ちゃんとしたものなんて作れるはずがない。とタカをくくっていた分
この料理は少し衝撃だった。
本来なら、ペロリと食べきってしまってもおかしくないぐらいおいしかったけど
さすがに2食は食べられない。2口ほど食べたらすぐにお腹がいっぱいになってしまった。

おいしいので明日の朝ご飯にする事を心に決め、
戸締りをしてから寝床に着く。

「よく考えれば人がいたって寝てたら意味ないじゃない。無用心ね」

明日の朝はオムライスのお礼と戸締りに関する注意をしよう。
いつ電源が切れたり、ブレーカー?なんてあるのかしら。が落ちたりするかもわからないし。
でも、未だに今朝の挨拶しかしてない分、どうやって話しかけたものか。
何事もなかったように?それともメイドだってのならあくまで主的に?
シルファとの接し方について考えていたが、気がつけば深い眠りについていた。

まぁ、眠ってる事には気づいてないんだけどね。
朝にシルファに起こされてようやくその事実に気がついた。

「郁乃様そろそろお時間ですよ。起きて下さい」

84:郁乃専用メイド4 4/6
08/02/25 00:04:53 jmESA6E70
シルファに起こされた私は目をこすりながら、リビングへと向かう。
さて、どうやって話かけようかな。起こしてくれてありがとう。
うん。これが無難かな。
そんな事を考えながら、ふとテーブルに視線を泳がす。

あれ?
テーブルの上にはきっちりとした和食が並んでいた。
ご飯に味噌汁、焼き鮭にお漬物。
文句ないぐらいの和食。ちゃんと早起きして朝ごはん作ってくれたんだなぁ。
でも、昨日のオムライスを予定していた私に取ってこれは裏切りだと思ってしまった。
私の我侭だって事ぐらいわかってる。でも…。

「ちょっとシルファ!昨日のオムライスはどうしたのよ」
「あ、お口に合わなかったのかと思って捨てました」
「え、捨てた…。もったいないとは思わなかったの!?メイドロボはお金持ちの家で働く事しか想定されてない訳?だから簡単に捨てたりするって事?」
「あの、違います…そろそろこの季節は食べ物が痛むのが早く」
「言い訳は聞きたくない。少しは庶民の立場も考えなさいよね。それに寝るなら戸締りぐらいきちんとして欲しいものね。貴女がいた所で寝てたら意味ないじゃない」

違う。こんな事が言いたい訳じゃない。
しかし、一度ついた火は止まらない。

「それに誰が和食にしろって言ったのよ!?私はパンが食べたかったのに」
「申し訳ございません…私が至らないばかりに」
「本当にそうね。今日は朝ご飯いらない。学校行って来る!ちゃんと戸締りしなさいよね」

シルファの言い分もろくに聞かず
そう言い残し、ドアを荒々しく閉めて私は学校へ向かった。

85:郁乃専用メイド4 5/6
08/02/25 00:05:22 jmESA6E70
気分も優れないまま午前の授業が終わる。
今日は何を食べようかしら。お弁当もないし学食かな。
黒板を背伸びして一生懸命に消しているこのみの後ろ姿をぼーっと眺めていたけど
クラスメートの呼び声で現実に引き戻される。

「小牧さーん!シルファさんって人が来てるよー!」

シルファ?何をしに学校へ来たのだろう。
どうでもいい事だったら張り倒してやるんだから。
朝の憤りを未だに抱えた私は、少し不機嫌そうに教室の入り口を伺う。
少し不安げな顔でシルファはそこにいた。

「なに?」
「あの、お弁当をお持ちしました。今朝持って出られませんでしたので」

朝、あれだけの罵詈雑言を浴びせたのにわざわざお弁当を届けてくれたのだ。
正直、受け取る気分ではないかったがクラスメートがみているここで、
そのまま追い返す訳にも行かなかった。

「そう。ありがと」

弁当箱を受け取り、そのまま踵を返す。
スタスタと去り行く私の背中にシルファは声をかけてきた。

「あの、郁乃様!今日のお夕飯は如何致しましょう?」

学校の教室そんな事を大声で叫ぶシルファ。
ホンっトに何考えてんのかしら!?私をさらし者にしたいのかしら。

86:名無しさんだよもん
08/02/25 00:05:29 5fGePlBp0
深淵

87:郁乃専用メイド4 6/6
08/02/25 00:05:42 jmESA6E70
「何でもいいわよ!」

そう怒鳴ってそのまま席に着く。もちろんシルファの方なんかは見ない。
まだ何か言いたそうな気配はしたが、諦めたのかクラスメートにお辞儀をして帰って行った。
事の顛末を知らないこのみが日直の仕事を終えて、トテトテとこちらに歩いてきた。

「郁乃ちゃん!一緒にお昼食べよ!」
「私、今日は学食だから」

未だに尾を引いていた私は少しつっけんどんに返す。
きょとんとしたこのみの表情を見て気がついた。
しまった…このみには何の非もないのに…。
でもそんな私の気持ちを知ってか知らずか。

「でもそれ、お弁当箱だよね?」

さらにしまった!隠すのを忘れてた。私とした事が。

「私はこれ食べたくないのよ。だから今日は学食」
「でもシルファさんが作ってくれたんでしょ?」
「だからよ。さっきわざわざ持って来てくれたわ。頼んでもいないのに」
「そんな言い方ダメだよ。あ、じゃあ私がそれ食べたい!」
「はぁ?いきなり何を。それに2つもお弁当食べれるなんてどんな胃袋してんのよ」
「さすがに私でも2つは食べれないよ〜」

ニコニコと笑っているこのみ。何が言いたいのかしら。

「だから、私のとお弁当交換しようよ。そうしたら無駄にならなくて済むでしょ?」

そういう事か。その提案は悪くない、と思ったので飲む事にした。
ただ単純にこのみがシルファの弁当に興味があっただけなのは、私が知る事はなかった。

88:名無しさんだよもん
08/02/25 11:15:56 yEAIT24w0
乙。
2chの書き込み時間表示ズレてる?

89:名無しさんだよもん
08/02/26 12:37:36 T6jtF68+0
ADでて落ち着くまでここは鳴かず飛ばずなんだろうなぁ。

90:名無しさんだよもん
08/02/26 12:41:20 gw5xBeXv0
静かだ…ネタバレ防止にここ封印しだす奴らが出てきてるんだろうな

91:名無しさんだよもん
08/02/26 13:44:14 fWziyWwPO
書きたいけど仕事が忙しくて書けませんorz

92:名無しさんだよもん
08/02/26 13:54:09 O47qMjMSO
>>91 自宅警備も大変だな
ガンガレよ

93:名無しさんだよもん
08/02/26 19:02:54 8pF8Kc8l0
完成させずに放置してるものは何本かあるんだけどな
うち1本はADでたら多分お蔵入り…

94:名無しさんだよもん
08/02/26 20:07:59 MEMhcRpD0
ああ俺もだ
ちゃるとよっちのふたなりレズとか
まーりゃんが世界征服する話とか
タマ姉の母乳プレイとか

アイディアがあっても文章が書けないってのは結構辛い

95:名無しさんだよもん
08/02/26 21:07:54 WkCoxSfS0
んじゃあ、漏れ的AD前ラストに超短編いくのん物いきまつ

96:悪夢 1/2
08/02/26 21:09:34 WkCoxSfS0
あたしは草原に立っていた。

見渡す限りの青野の果てに、頂を白く染めた山脈が小さくもはっきりと見える。
はっきりと? あれ、おかしいな。あたしの眼が遠景を綺麗に映すわけがないのに。

歩き出す。それも変。立つのがやっとで、立ったら痛いあたしの脚が。
痛くない。走る。痛くない。跳ねる。身体が軽い。呼吸が軽い。鼓動が軽い。あたし、死んだかな。

(死んでなければ、夢ね)
嫌だなぁ可愛くない。いいじゃない、夢なら夢で。あたしは駆けだした。

景色が疾風のように流れる。あはは、夢ね。これじゃ車からの景色だわ。
でも、そのまま空を見上げて走る。陽の光が眩しくない。雲が綺麗。こんな風景、昔テレビで見たかなあ。

キキーッ。
道路もないのに車がやってきた。パパとママ。
(郁乃、病院に行くわよ)
なんだ。やっぱり。治ってないんだ。ちょっとがっかり。でも、これは凄く良い寛解じゃないかしら。

病院に着く。車を降りて、廊下を行儀悪く小走り。もう、こんなに元気なのに、診察なんて。
(検査、嫌だなあ、時間かかるし)
拗ねて見せたら、両親は顔を見合わせた。はいはい、似合わないのは分かってるわよ。
(本当に、お前は優しい子だな)
何それ。
(自分の事みたいに感じているのね。……の病気を)

えっ?

病室の扉が開く。いつものあたしの病室。あたしの、いつもの、あたしの、ベッド、あたしの、そこで、弱々しく、身を起こす、あたしの……
「あっ、郁乃、来てくれたんだ」

―お姉ちゃん。

97:悪夢 2/2
08/02/26 21:11:06 WkCoxSfS0
 
「っ!」
がばっと身を、起こす体力はなくて、せいぜい身体がビクってなったくらい?
「……夢、か」
醒めた瞬間は明瞭だった気がする意識は、寝起きで朦朧としてからもう一度覚めてくる。

「どうした。喰おうとしたうまか棒に足が生えて逃げられる夢でも見たか?」
枕元で、声がした。
「……なんでそう限定して思うのよ」
天井を向いたまま、河野貴明の軽口に呆れるあたし。
「酷い顔してるからさ」
う、レディーの寝顔を観察してるなんて不躾な奴。
「今日は、アンタ一人?」
「ふっ、たまには妹を慰めてやるのもお兄ちゃんの務めかと思ってさ」

「―、ぅ、」
あたしは無言でナースコールに手を伸ばしかけて、痛む腕に顔をしかめた。
「冗談だよ。愛佳もすぐ来るって。っつーか、大丈夫かおい?」
「良かった。腕が痛い」
「だから冗談を真に受け……なにが良かったって?」

腕が痛くて、良かった。
相変わらず病気のままで、良かった。
相変わらず病気なのがあたしのままで、お姉ちゃんじゃなくて、良かった。

そんな格好悪い事は、あたしは言わない。黙って腕を顔に被せる。
だのに、貴明はその上から髪を撫でてきて。

「本当に、どんな夢を見てたんだよ」
うるさい、年ひとつしか違わない姉の彼氏の癖に、いつも子供扱いばっかして。
「……病気が、治る夢」
それでも何故か、仏頂面で答えてしまったあたしはポツポツと、貴明に心を吐き出してゆくのだった。

98:名無しさんだよもん
08/02/26 21:13:42 WkCoxSfS0
以上こんだけで失礼。かなり前に書いたSS中で使ったネタを起こしてみました
漏れの中のいくのんは、こんな感じなんだよなぁ……これがADでどうなるかな

99:名無しさんだよもん
08/02/26 22:22:47 O47qMjMSO
>>98 看護婦とイチャイチャしてんだろなw


100:名無しさんだよもん
08/02/27 00:46:25 6LO/iK0i0
>>98氏にあやかって
俺もなげっぱだったのを仕上げてみたので投下してみる

15レス程度あるんで、途中で止まったら去るさんだと思ってちょ

101:はじめてのおつかい 1/15
08/02/27 00:47:22 6LO/iK0i0
 寒さも厳しくなり、今年も残り少なくなった12月3日の事だった。
「たかあき〜お茶が入ったよ。」
 そう言いながらキッチンから顔を覗かせたのは河野家の居候その1のミルファだった。
 手に持ったお盆には暖められたカップとティーポットとお茶請けが乗っている。
 ミルファが鼻歌交じりで貴明の待つテーブルの前へと歩いている途中、ソファの横を
通ったときにミルファとは別の、形の良い足が一本ミルファの足元へひょいと突き出された。
「わっ!」
 突き出された足に驚いたミルファがたたらを踏む。その隙を突いてミルファの手から
お盆をするりと奪い取ったのは、河野家の居候その2のシルファだった。
「…ろうぞ…なのれす。」
 お盆を奪われてむっとしたミルファのことなどそ知らぬフリで、シルファはティーカップを
貴明の前に置いてティーポットから熱いお茶を注いだ。
 そして…その一部始終を見ていた貴明は頭を抱えた。


    はじめてのおつかい


「どうして二人ともそんなに仲が悪いんだよ…」
「あたしは悪くないよ。貴明のお世話しようとするとシルファが邪魔するんだもん。」
「…ご主人様のお世話はシルファのお仕事なのれす。
 お姉ちゃんは邪魔しないれくらさい、なのれす。」
 睨むミルファと、視線をそらしたまま膨れるシルファ、そして頭を抱える貴明だった。

 そもそも二人がなぜ河野家に居ついてしまったのかというと、話は少し前に戻る。
 夏も終わり、そろそろ秋という頃に貴明は珊瑚の頼みでHMX−17姉妹の末っ子の
シルファを預かって、メイド修行の面倒を見ることになった。
 そして、それに時期をあわせるようにして現れたのが謎の転校生「河野はるみ」こと
ミルファだった。
 ミルファもまた、紆余曲折を経て自分の正体を明かし、貴明の元に身を寄せることに
なったのだが…


102:はじめてのおつかい 2/15
08/02/27 00:49:03 6LO/iK0i0
 元々貴明の元でメイドとして暮らしていたシルファと、そこに割り込んで貴明専属の
メイドを標榜するミルファとの間で利害の衝突が発生することとなり、日を追うごとに
「貴明のお世話権」を巡る争いは激化する一方だった。
 別に仲が悪いわけではない。むしろ姉妹仲はいいのだが、こと貴明のこととなると
互いに譲らないので結果的に大喧嘩になってしまうのだった。

「はぁ…うわさ以上のえげつなさやな。」
「みっちゃんもしっちゃんも、喧嘩したらあかんよ〜」
 うわさを聞いて様子を見にやってきた姫百合姉妹は、噂の斜め上を行く有様を見てそれ
ぞれに苦言を呈して見せたが、相変わらずメイドロボ姉妹に反省の色は見られなかった。
「別に喧嘩してないよ。ただシルファがたかあきのお世話をさせてくれないから」
「…河野家の家事一切はシルファのお仕事なのれす。お姉ちゃんは学校に行ってる間らけ
 ご主人様のお世話すればいいのれす。」
「えー、あたしだってたかあきにお料理作って食べさせたりしてあげたいもん。」
「もう、いい加減にしてくれ…」
 うんざりした口調で貴明は言い争いを始めた姉妹を止めた。
「さんちゃん…どっちか家につれて帰ったほうがええんちゃう?」
「でもなぁ…二人とも、貴明のことすきすきすき〜やし。」
「そうです。あたしはここがいいんです。」
「ここはシルファの仕事場なのれす。
 …お姉ちゃんはご主人様と学校に通ってるらけなんれすから、珊瑚様のマンションに
 住めばいいのれす。」
「い・や。あたしが家のこともやればいいんだから、シルファこそ珊瑚様の所に行けば
 いいのに。珊瑚様にいつも甘えられるほうがいいでしょ。」
「あーもう!いい加減にしろ!」
 耐え切れなくなった貴明が声を上げた。
 普段極力我慢して怒鳴らない貴明が大声を上げたことにミルファとシルファ、それに
珊瑚と瑠璃もびっくりして言葉を失い、目を丸くしていた。
 貴明は電話台にあったメモ帳を手に取ると一筆筆を走らせて1枚破り取った。
「今日は罰として二人でお使いに行ってくること。俺が頼んである品物を取ってきて。
 内容はこのメモに書いてある。品物はシルファが受け取ること。ミルファはシルファの
 付き添い。」

103:はじめてのおつかい 3/15
08/02/27 00:51:03 6LO/iK0i0
 畳み掛けるように言ってメモをシルファに差し出したが、シルファはメモを受け取ろうとはしなかった。
「でも…シルファは外には…」
 シルファは河野家での生活でメイドロボとしてはかなりのスキルを発揮するように
なっていたのだが、未だに人見知りが激しく、外出することはままならなかった。
 そんな妹のことを慮って、外出の必要な用事はミルファが済ませるように自然と役割
分担がなされていたのだが…
「外に行く用事ならあたしが、」
「今回はシルファに行ってもらう。ミルファはあくまで付き添いだからな。」
 少しの間、ミルファと貴明はにらみ合っていたが、貴明が本気だと悟ったミルファは
諦めて視線をそらした。
「…わかったよ。シルファ、メモを受け取って。」
 ミルファに言われてシルファはしぶしぶメモを受け取った。
 シルファを適当に隠れさせておいて自分がひとっ走り行って用事を済ませればいいか、
とミルファは考えていた。
 だがそんなことはお見通しだったようで、貴明はしっかりと釘を刺すことを忘れなかった。
「…言っておくけど、後で店に電話して二人で来たか聞いておくから、ズルしてもわかるぞ。
 ずるした場合は家に入れないからな。」
「む〜!たかあきのいじわる〜!」
 そう言ってミルファはばたばたと暴れだしたが、貴明は青い顔をしているシルファ共々
首根っこをつかんで引きずり出し、玄関からそのまま表に放り出した。
 続けて二人の靴も放り出し、ドアを閉めて施錠してしまった。
『ああっ!ひどい!たかあき開けてよ。』
 どんどんとドアを叩く音と共にミルファが大声で文句を言ってきたが、貴明は耳を貸さなかった。
「おつかいを済ませて戻ってきたら家に入れてやる。それまではダメ。」
『たかあきのオニ!悪魔!人でなし!』
「人でなしで結構。」
 貴明はミルファの抗議を無視してリビングに戻った。

「…シルファ、おつかいに行こう。そうしないと本当に家に入れてもらえないみたい。」
 しばらくドア越しに叫んでは見たものの、無駄だと悟ったミルファは青い顔で座り込んだ
ままのシルファに手を差し出した。


104:はじめてのおつかい 4/15
08/02/27 00:53:03 6LO/iK0i0
 シルファはしばらく泣き顔でうつむいていた…涙が出るなら実際泣いていただろう…が、
一つ頷くと立ち上がって、転がっていた靴を履いた。
「さっさと行って帰ってきてたかあきに謝ろう。」
「うん…お姉ちゃん。」
 ミルファは少しでもシルファの不安感を紛らわそうと手を繋いで、そして門を出て歩き出した。

「…貴明も結構オニやなぁ。」
 貴明とリビングの窓から二人が歩いていくのを見ていた瑠璃が先ほどのやり取りを思い出して、ぼそりとつぶやいた。
「瑠璃ちゃんまでひどいなぁ…二人で話し合って欲しかっただけだよ。
 …それと、時間かせぎにもなったでしょ。」
 そう言って貴明は瑠璃に肩をすくめて見せた。そして珊瑚のほうに振り向いた。
「珊瑚ちゃん。今のうちにイルファさんに連絡を。」
「おっけーや。」
 そう言うと珊瑚は河野家の電話で姫百合家に待機しているはずのイルファへ連絡を取り始めた。
 貴明はそれを見届けると、まだミルファたちを見送っていた瑠璃のほうに振り返って話しかけた。
「瑠璃ちゃん。」
「なんや?」
「そんなに気になるなら、俺たちはあの二人に付いていってみようか。」
 貴明は家から遠ざかっていくミルファたちを指差して言った。

                   ◇

 最初のほうこそ手を繋ぐ程度だったが、しばらく歩くうちにシルファはミルファの腕に
しがみつくようにして歩く様になっていた。
 視線は泳ぎっぱなしで、歩く姿もどこか腰が引けている。
 ミルファはそんなシルファを気遣いながらゆっくりと歩いていた。
「まだ他人は怖い?」
「…うん。」
 シルファの中では、表の世界はまだ好奇心よりも恐怖心が勝っているのだ。
 ミルファはぎゅっと左腕にしがみつくシルファの手に右手でそっと触れた。
「確かに外には悪い人や怖い人もいるけど、でもいい人もいっぱいいるよ。」
 そう言って、ミルファは笑顔を見せた。

105:はじめてのおつかい 5/15
08/02/27 00:55:04 6LO/iK0i0
「あたしはたかあきと学校に通ってるけど毎日とっても楽しいんだ。
 学校でいっぱい人間の友達が出来て、友達が増える度にあたしの世界も広がって行くの。」
 楽しげ答えるミルファの顔を、シルファはまぶしそうな表情で見ていたが、
「…お姉ちゃんが羨ましいれす。シルファには、研究所とご主人様のお家らけ。」
 そう言って、シルファは視線を落とした。
 その言葉を聞いて、ミルファはふと気が付いた。
「…もしかして、あたしが家の事するの嫌がってたのって…」
「…お姉ちゃんがご主人様のお世話すると、シルファの居場所がなくなっちゃうのれす。」

 元々人見知りの強いシルファにとって、河野家は自分が「メイドロボ」としての意義を
証明できる数少ない場所だった。
 「メイドロボ」ではなく「娘」として扱われる研究所では得られないそれを奪われるのは、
自分の存在意義を左右する大問題といっても良い。
 だがミルファはそれとは違う見方を持っていた。

「ねえ、シルファ…たかあきは私たちの事、ロボットじゃなくって普通の女の子と同じ
 ように見てくれてるってわかってるよね。珊瑚様だって、私たちの事をメイドロボ
 としてじゃなくて、友達や家族になって欲しいから心を与えてくれたんだし。」
 メイドロボとして自分の存在意義を見出そうとしていたシルファに、ミルファは自分の
思いを話し始めた。
「私はね、そんなたかあきの気持ちが嬉しいんだ。
 …メイドロボとしてじゃなくて、女の子としてたかあきの事が好きだから。
 だから、あたしはメイドロボとしてじゃなくて、たかあきが一緒にいたいと思ってくれる
 女の子になりたいの。」
 そう語るミルファの横顔は笑顔だったが、同時に少し寂しげだった。
「…お姉ちゃんは、ご主人様の恋人になりたいのれすか?」
「うーん…なれるならなりたいけど、でも私たちはやっぱり人間じゃないから
 …私たちがいくら人間と同じ心を持ってても、本物の人間にしか出来ない事ってあるし。」
 シルファの疑問にミルファは苦いものを含んだ笑みを浮かべながら答えた。
「…シルファには、お姉ちゃんの気持ちは解らないのれす…れも・・・」
 シルファはあまり豊かとは言えないボキャブラリーを総動員して必死に慰め始めた。


106:はじめてのおつかい 6/15
08/02/27 00:56:06 6LO/iK0i0
「れも、さっきお姉ちゃんが言ったのれす。ご主人様はシルファたちの事普通の女の子と
 同じように見てくれるっれ…それなら…少しは期待してもいいと思うのれす。」
「シルファ…」
 少し照れながらも一生懸命な言葉に、ミルファは感極まってシルファをその胸に抱きしめた。
「もうっ、シルファってばかわいい〜〜」
「お、お姉ちゃん、苦しいれすぅ!」

「あの二人…道の真ん中で恥ずかしいことを…」
 こっそりとミルファたちの後をつけていた貴明は、道の真ん中で抱き合ってはしゃぐ
二人を見て、頭を抱えた。
 一方、一緒に二人をつけてきていた瑠璃のほうは複雑な面持ちだった。
「…どうしたの、瑠璃ちゃん。」
「…ウチには、シルファの気持ちがなんとなくわかるねん。うちもイルファが来た時は、
 同じ事思うとったから。」
「あ…」
 瑠璃が家出して河野家にやってきたときのことを思い出して、貴明は思わず声を漏らした。
 それは解決した過去のこととはいえ、今でもデリケートな事柄には違いなかった。
「えっと…」
「ウチとイルファは今は上手くやっとる。貴明のおかげでな。…貴明がおらんかったら、
 イルファは研究所に戻って、ウチはさんちゃんにも合わせる顔がのうなって、今頃
 どうなっとったかわからへん。」
 そう言ってから、ちょっと頬を赤らめて瑠璃は言った。
「…うちらにとって、貴明は恩人…ううん、大事な人やねん。そやから、」
「そやから?」
「ミルファとシルファのことも任せられるねん。あの二人にはウチにも責任あるからな。」
 そう言う瑠璃の眼差しは母親のそれだった。
 イルファたち3人を生み出した母は珊瑚だが、3人を日向へと連れ出した瑠璃もまた
イルファたちにとって母親なのだから。
「そやから、あの二人泣かしたりしたらしばく。」
 だがしかし、最後にいつもどおりの一言も忘れなかった。
「解ってるさ。俺も二人のことは大事に思ってるからね…でもできればちょっと失敗しても
 蹴ったりしないでくれると良いな…あ、商店街に着いたよ。」

107:はじめてのおつかい 7/15
08/02/27 00:58:04 6LO/iK0i0
 貴明が指差した先では、ミルファとシルファが夕方の賑わいはじめた商店街のアーケードの
中へと消えていくところだった。

                   ◇

 シルファは買い物客が横を通り過ぎるたびにびくびくしていたが、ミルファは慣れたもので、
顔見知りの買い物客とすれ違うと笑って答えていた。
「あら、ミルファちゃん。今日もお買い物?」
「あ、こんにちは。今日は妹の付き添いなんだ。これが妹のシルファ。」
「…こ、こんにちわ、なのれす。」
 おずおずと挨拶すると、そのおばさんはくしゃくしゃの笑顔で答えた。
「はじめまして、シルファちゃん。今日はあなたがお買い物?がんばってね。」
「は、はい。」
 おばさんはシルファの頭を撫でて去っていった。
「…お姉ちゃん、あの人は誰れすか?」
「名前とかはしらない。でもお買い物に来ると良く会うんだ。いい人でしょ?」
「やさしそうな人なのれす…でも、良く知らない人と知り合いになれるなんて、シルファ
 には想像も付かないのれす。」
 感心したようなシルファの言葉を、ミルファは首を振って否定した。
「ううん。あった瞬間に仲良くなれるわけじゃないよ。何度もお買い物に来るうちにどんな
 人かわかって自然に仲良くなっただけ。まるっきり知らない人と仲良くしてるわけじゃないもん。
 難しいことをしてるわけじゃないよ。シルファだって、ちょっと勇気出せばきっと友達に
 なってくれる人はいるよ。」
「勇気…」
 そう呟きながらシルファは考え込んだ。
 果たして、それが自分にもできるのだろうか、と。
「あ、1件目は金物屋さんじゃなかったっけ?金物屋さんはここだよ。」
 そう言って、ぶつぶつと呟きながら歩いていたシルファの手を引いていたミルファが
立ち止まった。
 顔を上げるとそこは貴明に貰ったメモの1件目の金物屋の前だった。


108:はじめてのおつかい 8/15
08/02/27 01:00:04 6LO/iK0i0
「おう、ミルファちゃんいらっしゃい。」
 二人が店に入ると、人のよさそうな店番のおじいさんが声をかけてきた。
「こんにちわ〜…ほら、シルファ。」
「は、はい、なのれす。」
 おずおずとミルファの後ろから前に出ると、シルファはおじいさんに声をかけようとして、
でもなかなか最初の一言が切り出せなかった。
「…あんたがシルファちゃんだね。」
「ろうしてシルファの名前を知っているのれすか…」
「さっき河野さんとこから電話があったからね。この間頼んでいったものを取りにお使い
 に来たんじゃろ?」
 そう言うとおじいさんはレジの下の棚から手のひらサイズの平べったい箱を一つ取り出した。
「ほい、ご注文の品物。お代は先にいただいとるから要らないよ。」
「は、はい…あ、あの…」
「なんじゃね?」
 シルファは喉元で消えそうになる言葉を、勇気を振り絞って口に出した。
「あ、ありがとう、ございます、なのれす。」
 詰まりながらもそう言って、深々と頭を下げた。
「そんなにかしこまらなくても良いんじゃよ。こっちもこれが商売だからね。」
「そ、そうなんれすか…?」
 人と触れる事を恐れ、避け続けていたシルファにはどうもさじ加減が解りかねた。
「シルファはあんまり人付き合いしたこと無いから、ちょっと大げさなの。
 ごめんねおじいちゃん。」
「いやいや。」
 ミルファのフォローにおじいさんもからからと笑って答えた。
「でも、たかあき一体何頼んだのかな?」
「ああ、そうじゃった。」
 ミルファの一言で店主は思い出したのか、ぽんと一つ手を打って言った。
「中身を教えちゃイカンと言われたんじゃった。もちろん、見てもいかんそうじゃ。」
「え〜〜…ちぇっ。たかあきのけちんぼ。」
 この場にいない貴明に一つ文句を言って、ミルファはきびすを返した。
「じゃ、シルファ、次に行こう。おじいちゃん、また来るね。」
「ああ、毎度。」


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