ToHeart2 SS専用スレ ..
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21:名無しさんだよもん
08/02/22 02:42:55 iyQ2JQAK0
おもしろかったでーす
リアルタイムで読ませていただきました^^

作者さんに質問なんですけど
このお話って全部書くまでにどれくらい時間かかりましたか??
よろしければおしえてください><

22:名無しさんだよもん
08/02/22 02:53:33 /CYdpY+Y0

カレーの人だよね

相変わらずミルファが活き活きしていて良いが
今回はタマ姉も良いなw

そして描写も一段と良くなっている
テンポ良くさくさく読める文体と構成で好感が持てました

ところで、タマ姉とタカ坊は夜何があったのでせうか…気になるわ…

23:名無しさんだよもん
08/02/22 06:18:01 Zk12Z6lE0
乙〜。さるさん解除ならいいんだけど

文章うまいね。春夏もライバルなのはやっぱりカレー対決の影響かw
東北自動車道は(もうちょい北だけど)仕事でしょっちゅう走ってるのでなんか親近感が湧いた

タマ姉と温泉な話もいいんだけど、これってこれで完結? だとするとメイドロボチームの役割が弱いよーな
ここまで彼女らを書いたなら、いっそ皆で温泉に押しかけてくる展開(もしくはオチ)のが自然な気がしなくもなかった

24:名無しさんだよもん
08/02/22 07:21:38 /LOHa0Wr0
ミルファにとって、取るに足らないライバルって誰でしょうかね?
最強=このみ+春夏
最凶=タマ姉
最悪=イルファ&シルファ
最弱=???

愛佳?

25:郁乃専属メイド
08/02/22 08:14:39 6dL+hN/HO
初投下してみます。
何故か書き禁くらってるので携帯からですがorz
------------------------

修学旅行当日の朝。
姉を迎えに来た貴明の顔を朝から見て
不愉快な気分にこそならなかったものの、
しどろもどろに説明する二人に若干の苛立ちを覚える。

愛佳「それじゃあ郁乃、そろそろ行ってくるね」
郁乃「行くのはいいけどこのロボなんとかしてから行ってよね」

話は数分前に遡る。
今日から姉の学年は修学旅行。それ自体に何の問題もない。
両親も仕事の都合で泊りがけの出張になったのは計算外だった。
通学できるまでには回復した私だけど、まだまだ生活に不自由を感じる場面は多々ある。
でも、このみや姫百合姉妹といった友達もいるし、なんとかなるだろう。
たまには家族の目を離れ、一人暮らし気分を満喫しよう。そんな事を考えていた。
でもその密かな目論見は過保護な姉とその彼氏によって、
ものの見事に打ち砕かれた。

貴明「まぁそう言わないで。ほら、シルファさんにも失礼だろう?」
郁乃「保護者面しないで。誰が頼んだのよ」

26:郁乃専属メイド
08/02/22 08:16:43 6dL+hN/HO
お節介な姉とその彼氏は知り合いのメイドロボがいるらしく、
私の世話をシルファさんとやらにお願いしたらしい。
生活に不自由を感じるとはいえ、自立歩行が出来るようになった今の私に
そう過剰になるほどまでに必要とは思えない。

愛佳「でも、ただ学校行くだけじゃないのよ?料理だってしないといけないし…」
郁乃「あのね、世の中には便利なコンビニってものもあるのよ」
愛佳「そ、そうだけど…ずっとコンビニ弁当なんて食べてたら体に悪いよぉ」
郁乃「バッカじゃないの?一週間やそこらですぐ不健康になってたら世の中成り立ってないわよ」

出発直前にいきなりそんな話されても、こっちだって心の準備とかあるのに。
大体何よ、貴明の物陰に隠れて挨拶すらしようとしない。
メイドロボってこんな無礼なものなのかしら。最新型のクセに。

貴明「愛佳、そろそろ時間」
愛佳「あ、そ、そうだね。話の途中だけど…それじゃあ郁乃、そろそろ行ってくるね」
郁乃「行くのはいいけどこのロボなんとかしてから行ってよね」
貴明「郁乃ちゃん、いい加減に…」
シルファ「た、貴明様。いいんです、私お母さんの所に戻ります」
貴明「…どうしてもダメそうなら連絡頂戴。珊瑚ちゃんに連絡取るから」
郁乃「この後に及んでまだ…」
愛佳「お願い郁乃。お姉ちゃん達心配なのよぉ」

27:郁乃専属メイド
08/02/22 08:20:04 6dL+hN/HO
心配してくれる気持ちは嬉しいけど、
このままでは本当に遅刻するまでここで問答を続けるだろう、この姉は。

郁乃「もう、わかったわよ。でも気に入らなかったらすぐ追い返すからね」
私の言葉に安心したのか、二人は慌てて家を出て行った。

とは言ったもののこのロボは一体何ができるのだろう。
モジモジ貴明の後ろに隠れてたかと思えば、すぐ諦めのセリフを吐き、
貴明が去った後も部屋の隅っこの方でじーっと突っ立ってるし。
何がしたいのか甚だ疑問だわ。
まぁ姉の顔を立てて一応名前ぐらいは聞いてみよう。

郁乃「アンタ、名前は?」
シルファ「HMX−17C、シルファと言います…」

私の言葉に反応して名前はわかった。
でもその後も一向に動こうとしない。何なのだろう。
これは今日にでも珊瑚に電話する事になるかもね。
一抹の不安を抱えつつも私は学校へ向かうべく、家を後にした。

------------------------
とりあえずここまでですが、普通は完成してから投下するものでしょうか?

28:名無しさんだよもん
08/02/22 11:54:59 q5JvIIsUO
>>27
乙です。
いくのんとシルファ、美味しい組み合わせだしなかなか楽しみではあるけれど……
シルファの口調と時系列に若干無理があるのはやはり気になりますね。
まあ、でもそこらは自由ですから、このままがんばっていただけたらと思います。

あと、別に完成してからでなきゃいかんというコトはないと思います。
長い場合はキリのいい場所で「つづく」にするのは問題ないんじゃないですか?

29:名無しさんだよもん
08/02/22 12:00:52 q5JvIIsUO
>>21
構想10分
下調べ(高速道路の所要時間とか)1時間
執筆は……1日4時間くらい使って4日間くらいかな? 
20時間はかかってないと思いますよ〜。

30:名無しさんだよもん
08/02/22 20:55:11 L3LmYf7W0
>27
乙。この組み合わせはアイディアだな。っつーか先の予測ができんw
完成しないで投下するのは全然おkだが、完成せずに放置される作品は無数にあるからそうならんように頑張れ

31:郁乃専属メイドの中の人
08/02/22 23:14:15 6dL+hN/HO
ご指摘ありがとうございます!
まず時系列に関してはすっかり忘れてましたorz
でもこのまま行こうと思います。
シルファの口調は少し他の方のSSを見て修正しようと思ってます。
一応プロットは出来てるので、最後まで頑張りたいと思ってますが
遅筆なのはご容赦願いたいです…orz
今日は50時間ぐらい起きて仕事してるので
投下出来るかわかりませんが、明日はまったり投下して行きたいです。

32:名無しさんだよもん
08/02/22 23:24:19 cwDd0ZI70
>>27

この予測できない展開と組み合わせが、自分の感性を刺激していい感じ^^

33:名無しさんだよもん
08/02/23 00:04:15 VqC0bQ2v0
>>31
乙です。携帯からで忘れてるだけかもしれないが、一応sageとこうか。
あと作品の前書き、後書きは作中のレスに組み込まないほうが良い。
それと、「」前の名前はわりと嫌う人が多いみたいなので使わない方が無難かな。
ともあれ、初投下なのにちゃんとした文書けてるし発想も悪くないと思います。
続き期待してますね。がんがれ

34:郁乃専属メイドの中の人
08/02/23 00:48:06 T9cI69JEO
>>33
書き込み自体久しぶりなものでsageの存在を忘れてました。
気をつけます。
色々とアドバイス、ご指摘ありがとうございます。
確かに「」の前に名前が入ってる小説なんてありませんし、
文章の途中に前後書きが入ると読みづらいorz

勉強になりました。
今後に生かしていきたいと思います。

では力尽きそうなので、2レスだけ投下して今日は寝ます!

35:郁乃専属メイド
08/02/23 00:50:36 T9cI69JEO
玄関先で靴を履き、家を出る前にある事に気づいた。
家の鍵…どうしようかな。
私の後ろ、少し離れた位置に姿勢を正して立っているシルファに声をかける。

「アンタ、今日初めて会うけど家の鍵任せて大丈夫なの?」

私の問いかけに少し寂しげな表情を浮かべつつも、コクリと頷くシルファ。
まったく…。話せる口が付いてるんだから返事ぐらいしたらいいのに。
会った初日の見ず知らずとはいえ、人間じゃないシルファに鍵を預ける事にした。
最新型のメイドロボが悪事を働くとは思えない、それが理由だった。

「じゃあ鍵は預けて行くけど、変な事するんじゃないわよ」

またも頷いて返事を返すシルファにため息をつき、玄関のドアをくぐる。

「あ…」

外へ向かう私の背中に、微かな声がかかったような気もしたが
気づかないフリをしてドアを閉める。

36:郁乃専属メイド
08/02/23 00:53:24 T9cI69JEO
学校へ向かうこの通学路も、以前は姉に車椅子を押してもらい
私はただぼんやりと空を眺めていただけだった。
でもそれは少し前の話。今は自分の足で歩き、学校を目指して歩いている。
車椅子に乗っている時しか気づかなかったような事ももちろんあるが、
自分の力で歩く事によって気づく事もたくさんある。
まず、当たり前の事だけど周囲に気を遣うようになった。
交通事故に遭わないため、などもあるけど
私と同じく学校へ向かう子供や、朝の散歩をしているおばあちゃん。
どんな気持ちで同じ道を歩くのか。
そんな些細な事が気になったりもしたけど、実際私の知るところじゃない。
それと同じように、今朝会ったばかりのメイドロボが何を考えてるのか。
今日はそれだけを考えながら歩いていたら、気づけば学校の校門をくぐっていた。
いつもは新しい発見がたくさんある通学路も
メイドロボの事を考えるあまり、知らない間に通り過ぎてしまった。

「勿体ない事したなぁ…もう考えるのはやめよっと」

誰にともなく零し、頭の中にあるシルファの寂しげな顔を振り払う。
そんな事より、今は目の前にある最大の難関。
階段という大きな壁が待っているのだ。余計な事に力を使ってられない。

37:名無しさんだよもん
08/02/23 01:19:17 XP6OZMA70
>>34
>確かに「」の前に名前が入ってる小説なんてありませんし、

実はそうでもなかったりする

38:名無しさんだよもん
08/02/23 04:18:35 IqcXC8xg0
>>37
脚本風にするとか、演出の一つとしてはありだと思うけどやっぱ違和感あるような。
好みと言えばそれまでだがね。

39:名無しさんだよもん
08/02/23 12:21:32 GL79JljS0
>34
乙乙。なんだか展開が楽しみだ
1回の投下の現レス数/最大レス数と、連載なら通番はタイトルの後ろに入れた方が見やすいよ
例えば>25なら「郁乃専属メイド(1) 1/3」、>36なら「郁乃専属メイド(2) 2/2」みたいな感じで

台詞の頭に名前を入れる入れないや、段落の頭を1文字下げるかどうかは、
まあ文体やレイアウトと相談で好きなように、他のSSを参考にしてみたらいいんじゃないかな

とか、ずらずら書いたけど携帯からじゃ厳しいだろから無理しないでね。アク禁解除を祈る

40:郁乃専属メイドの中の人
08/02/23 13:51:14 T9cI69JEO
おはようございます
今書いてますが、もうすぐ携帯のソフトウェア更新が始まるらしく
投下は遅い時間になりそうです。


>>37
そうなんですか!?知らなかったorz

>>39
確かにその方がわかりやすいですね!
さっそく実践してみます。インデントに関しては、PCだと横書きなせいか
入れると違和感があるのでこのままいきます。
アドバイスありがとうございます。

41:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 1/15
08/02/23 14:07:33 nyBe6Wgl0

「少し風邪気味かもしれないけど、疲れたんじゃないかしらね」
 簡単な診察をして、保健医はそう言った。

「熱さえ下がれば問題ないと思うから、少し様子を見てあげて」
「はい」
 カスミの噂を知っていても、彼女にはそう言うしかなかったろうが、薫子はしっかりと頷く。

 浴室から洗面器に水を汲み、フェイスタオルを濡らしてカスミの額に当てた。
 ゥ…。
 診察の間もぼんやりとしていた黒髪の少女は、その冷たさに意識を戻したよう。
 ちらと薫子に視線を向け、
 ムッ……。
 弱々しい手つきでタオルを、薫子の手を払う。
「何もしませんよ」
 嫌われたものだと、しかし今の薫子には苦笑する余裕があった。
 相手の抵抗を受け流しながら、タオルを洗い直して再び額に当てる。
 何度か押し合いがあった後、観念したのか体力が尽きたのか、カスミは大人しくなった。

 スゥ、スゥ……。
 やがて、カスミは寝息を立て始める。
 薫子はちょっとホッとしながら、変わらずにタオル替えを続ける。
 ンゥ……。
 患者の寝顔は、あまり安らかそうではない。
(慣れない学園生活で、いきなりこれでは疲れますよね……。)
 半分は自業自得としても、薫子はカスミに同情した。
(何故、そんなに周囲を拒絶するの。)
 苦しそうに汗で額に張り付いた髪を払うと、ついそのまま髪を撫でる。
「お……様……」
「え?」
「……ねえ……様……どう……して……」
 呟かれた独り言に薫子は耳を傾けたが、そのままカスミは眠りに落ちていった。

42:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 2/15
08/02/23 14:09:28 nyBe6Wgl0

 お姉様、どうして死んじゃったの。

 朦朧とした意識の中で、カスミは姉の夢を見ていた。
「凄いわね、カスミは、もうこんな計算ができるの?」
 優しくて凛々しくて、いつも自信に満ちあふれた姉は、カスミの自慢だった。
 姉も歳の離れた妹に愛情を注いでいて、その限りで二人は対等だった。

 対等でなかったのは、両親からの扱われ方。
「お前は本当に優しい良い娘だねえ。私の誇りだよ」
 父は、姉を溺愛した。
「それに引き替え、この子ときたら、喋る事もロクにできやしない」
 対照的に、カスミには冷酷だった。
「でも、お父様、カスミはとても頭の良い子です。ほら、もうこんな問題が」
「お前がやってあげたんだろう、本当に、優しいねえ」
 姉が妹を庇うほど、父親は姉の評価を高め、
「全くお前はまたそんなむくれた顔をして、恥ずかしいと思わないのか!」
 妹に対しては、なお理不尽に辛く当たった。
 カスミは、不平は漏らさなかった。理由を知っていたから。

 自分は、父親の子供ではない。

 本当の父は判らない。父親の事業がうまくいかなかった時期に、母親が浮気した相手の一人としか。
 だから、今は父に媚びている母にとっても、カスミの存在は負い目になっていて。
「お前なんか、居なければ居ない方が良かったのに」
 父も姉もいない時に、何度そんな愚痴を聞かされたことだろうか。

 姉さえ居れば、それでいい。両親から聞かされ続けたその類の言葉には、でも、カスミ自身も同意見。
 お父様もお母様も、友達も自分にはいらない。お姉様さえ、側に居てくれれば、それでいい。
 なのに。

 お姉様、どうして死んじゃったの……。

43:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 3/15
08/02/23 14:11:24 nyBe6Wgl0

 やや季節外れのセラミックヒーターなど持ち出して部屋を暖めたせいもあって、
 洗面器の水がだいぶぬるくなってきたから、薫子は一度部屋を出た。

(うどんでも作ってあげようかな)
 そんな事を考えながら炊事場で水を入れ替え、部屋に戻ろうとして、
「あら、薫子さん。丁度よかった」
 扉の前で、声を掛けられた。

「こんばんは、どうされました?」
 薫子が振り向くと、昼間図書館で会った先輩達。
 あの時から更に2名ほど取り巻きが加わって、都合5人。
「看病大変そうね」
「別に……何かご用でしたでしょうか?」
「貴方じゃなくて、カスミさんにお話があるの。部屋に入れてくださらない?」
 薫子は、眉をひそめる。
「彼女は今、具合が悪いので……」
 言葉の途中で、既に相手がそれに気が付いていることに気づく。
「先生から聞いてるわよ。あの子なら、多少調子が悪い方が大人しいでしょ」
「話もし易いってもんだわ」
 病人を多数で取り囲んで、どんな話をするつもりなのか。

「ご用件なら、伺っておきますけれど?」
「いいから黙って開けなさいよ」

 のらっとした薫子の言葉に、別な生徒がイラついた口調で迫った。
「それともなに、やっぱりあの子の肩を持つわけ?」
「ふーん、そういう感じなんだあ」
 複数の口から、嫌みったらしい言葉が飛んでくる。
 そんな事はない、反射的にそう誤魔化しかけて、薫子は口をつぐむ。

 いつの間にか、彼女は背中にドアを背負っていた。

44:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 4/15
08/02/23 14:13:00 nyBe6Wgl0

 姉が交通事故で世を去ってから、カスミの扱いは更に酷くなった。

「お前が代わりに死ねば良かったのに」
 そんな言葉、できるなら、一番そうしたかったのはカスミ自身だったのに。
 ただ、姉が死んで間もなく、妹の頭脳が並はずれて優秀であることに、父親が気づいた。
「ふん、お前でも少しは役に立つか」
 それで、カスミは九条院に送り込まれた。父の、コネクションづくりの為に。

(コンナトコロ、キタクナカッタ……。)
 誰ともうまく行かないのは、中学校でも同じだった。
 違うのは、全寮制の九条院では、自分の部屋でも一人になれないことくらい。
 だから追い出した。嫌われたのか、嫌わせたのか、そんなのはどうでもいい事。

 代わりにやって来た子は、少し変だった。
 嫌がらせしても平気な顔で、かえって自分に寄ってくる。
 後から来たもう一人は、その子を追ってきたみたい。仲がいい。
 休日、向こうから声を掛けてきた。
 図書館に案内してくれた、本を借りてくれた。優しく、してくれた。

「居なければ、居ない方が」
 いいんです。
 別に関係ない。気にしない。耳が飽きるほど聞いた言葉。

(ウルサイ……。)
 扉の向こうが騒がしくなって、カスミは朦朧とした意識をぼんやりと取り戻した。
 昼間も聞いた声。今のルームメイトと、前のルームメイトの声はなんとなく聞き分けられる。
「ご用件なら、伺って……」
「いいから……開けなさい……」

 入ってくるのだろうか。カスミはのろのろと起きあがった。ポケットを確かめる。
 はらっと額からタオルが落ちた。ずっと看病してくれていたのは……

45:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 5/15
08/02/23 14:15:06 nyBe6Wgl0

「なによその目つき。反抗する気?」
 上級生がムッとした声を出す。薫子は黙っていた。

「なんとか言いなさい。いつもの減らず口はどうしたのよ」
「待ちなさい」
 激昂しかかった娘を止めたのは、派閥の領袖である元部屋の主。
「ねえ、薫子さん」
 ゼロ歩の距離に近づいて、耳元に顔を寄せてくる。
「部屋に入れないということは、私たちが病人相手に騒ぐようなならず者とお考えなのかしら?」
 考えているから、答えようがない質問。
「私は、貴方のご趣味に口を出す気はありませんけれど」
 ご趣味という部分に、ネチっとしたアクセントがある。
 玲於奈と薫子の仲を揶揄する噂は、中等部の頃からあった。
「二兎を追う者は一兎をも得ず、って知ってらっしゃるわよねえ?」
 従わないなら玲於奈も只では済まないぞ、と。

 薫子は迷った。
 最後通牒を突きつけられて、今なら引き返せる。
 目の前の連中とはだいぶ関係が悪化したが、元から良好でもないし、最低限の復旧は可能だろう。
 カスミの事は、カスミに任せればいい。九条を去るのも自由だし、案外、しぶとく生き残るかも知れない。

 ただ、そこに薫子はいないだけ。

(……ごめん、玲於奈。)
 自分が損得勘定の上手い方だとは、玲於奈を親友と定めた時点で思っていないが、
それにしても高等部に入るまでの努力を水の泡にするような行動は。

「あの子は体調が悪いので、今はお取り次ぎできません」
 自分の頑なな声を、薫子は久しぶりに聞いたように思う。

 目の前で、三年生の顔が歪んだ。

46:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 6/15
08/02/23 14:16:43 nyBe6Wgl0

「ふうん、そう」
 薄皮一枚、剥がれたような声色。
 お腹の前で抱えていた洗面器に、先輩の手がかかる。

「舐めてんじゃねえよっ!」
 びしゃり。
 洗面器が跳ね上げられて、顔面に冷水が浴びせられる。
 そして、ぼやけた視界が戻るより先に、腹部に衝撃が来た。
「ぐっ!」
 膝蹴りされて、身体をくの字に折り曲げる薫子。その途中で、横から髪を掴まれる。
 ぐいと顔を引き上げられた眼に映る、彼女を取り囲む悪意に満ちた表情達。
「へっ、いい気になんじゃないわ!」
 足を払われた。倒れ込む。掴まれたままの髪が、何十本か抜ける鮮痛。
「なに勘違いしてんのかしらこのコウモリ娘」
 頭を抱えてうずくまる薫子の、腰に蹴りが入る。
 そのジャージの腰に、複数の手が掛かった。
「アンタは素直に私たちに尻尾振ってりゃいいのよ!」
 ズボンを引っ張り上げられて、白い下着と、腰から太股までの肌色が露出する。
 ちりん、とそこから小さな金属品が落ちた。
「あっ」
 薫子はそれ−部屋の鍵−に手を伸ばしたが、その手は踏みつけられた。
「痛ぅっ!」
「最初から素直に渡しときゃあいいのに」
 カスミの元同室が鍵を拾って、薫子をひとつ蹴って、扉に差し込もうとする。

 ガチャリ。
 が、その前にドアノブが回る音がした。
「え? きゃっ!」
 急にドアが内側に開いて、目標を失った一年生がたたらを踏む。

 その娘を突き飛ばして、黒い影が部屋から飛び出した。

47:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 7/15
08/02/23 14:18:16 nyBe6Wgl0

「か、カスミっ、さん?」
 黒く見えたのは、カスミの髪の色だったらしい。
 寡黙な少女は頭から、薫子を取り囲む女子の列に突っ込んだ。

「うわっ、なに?」
 勢いに驚いて、離れる包囲の輪。
 ちゃりん。薫子の鍵が、一年生の手から再び床に落ちる。
「カスミさんっ!」
 一瞬早く我に還った薫子が、鍵を拾い、黒髪の少女を抱えるように引き戻し、自分たちの部屋に逃げ込んでドアを閉めようと。
「なにすんだてめぇっ!」
 だが、包囲網の一人が身体をドアに挟んだ。
 ばぁんと、あっという間に扉は押し開けられて、なだれ込んでくる生徒達。

 多勢に無勢で抵抗のしようもなく、薫子とカスミは床に転がった。

「やっぱりつるんでだんだねアンタら」
「つるんでたなんて言い方が悪いですわ、愛でしょ愛」
「あはは、気色悪ぅ〜」
 嘲笑されても、カスミの表情はさほど変わらない。が、
「なにこの写真、前の恋人ぉ?」
 カスミの机の上の写真立てを取り上げた二年生に、少女の目が燃えた。
 床から跳ね起きて目標に向かう、その手がパジャマのポケットに、
「それは駄目っ!」
 彼女の手に握られているものを、薫子は知っている。飛びついて押さえ込む。
「なに抱き合ってんだよっ!」
 笑い声とともに、足が飛んでくる。頭を蹴られて視界が震える。踏みつけられて肺が潰れる。
 半分朦朧とした意識のなか、薫子は床に投げつけられた写真立てを庇う。
 その眼前に、見慣れた自校の上履きが迫る。
「しばらく表に出られない顔にしてあげる!」
 
 目を閉じた。だが、予想した衝撃はやってこなかった。

48:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 8/15
08/02/23 14:19:44 nyBe6Wgl0

「うぎゃぐっ!」
 代わりに、頭上からカエルが潰れるような悲鳴。
 急に、静まりかえった空気。
「……?」
 ぼうっと顔を水平まで上げると、目に映る二組の足。
 うち、一組が宙に浮いている。

 そして、倒れ込んだままの薫子とカスミの頭上から、
「何を、やってらっしゃるのかしら?」
 場にそぐわない、涼やかな声が舞い降りてきた。

「うっ、ぐっ、あ、アンタはっ!?」
 女子生徒の狼狽した声。薫子は、痛みをこらえて身を起こす。
 目の前に、彼女を蹴ろうとした先輩がいる。頭が随分高い位置にあって、地に足がついていない。
 簡単に言うと、首根っこをつかんで吊り上げられている。

 そして、吊り上げているのは、同じ九条院の、制服姿の少女。
「喧嘩なさるのはご自由ですけど、五人で二人を寄ってたかってというのは、いささか趣味が悪くありませんこと?」
 学年章は二年生。にこやかな笑みを浮かべた彼女は、驚くべきことに片手で相手を持ち上げていた。
「て、てめえには関係なっ」
 ぶんっ。

 人間が宙を飛ぶ姿というものを、薫子は初めて目の当たりにした。
 投げ飛ばされた女生徒の身体は、投げ手に飛びかかろうとした少女を巻き込んで、開け放しの入口を通って廊下まで吹っ飛んだ。
 残る三人の顔が蒼白になる。二人は逃げ腰に後ずさる。
「じ、上級生に手を出して、覚えてなさぐっ!」
 残り一人、派閥のボスは震える声で捨てぜりふを吐こうとしたが、一瞬で首を掴んで引き寄せられる。
「覚えて欲しければ、覚えてあげてもよろしいですけれど?」
「っ、ぐっ、あ……ぅ……」
 
 容赦なく吊り上げられた、見慣れた先輩の顔が見慣れない紫色に染まっていくのを、薫子は呆然と見つめた。

49:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 9/15
08/02/23 14:21:56 nyBe6Wgl0

 制服の少女は、またも片手で吊り上げた相手の喉笛を、容赦なく締め上げる。
 ばたばたと藻掻く標的の動きが、徐々に弱まってゆき、それにつれて怒りの視線が恐怖に置き換わる。
(まさか……。)
 そっ。
 端で見ている薫子ですら背筋が寒くなった時、長袖の制服に、静かな手が添えられた。
「カスミ……?」
 黒髪の少女に触れられて、すっと攻撃者の視線が緩む。
「もう、いいの?」
 コクコク……。
 優しい声に、頷くカスミ。  

 それで、三年生は解放された。
「ぐはあっ、げほっ、ごほっ、こ、向坂、環ーっ、!」
 無様に床に転がりながら、制服姿に向けられる怨嗟。
「はい、何でしょうか、先輩?」
 それに冷たい目線で答えて、一歩相手に踏み出す、向坂と呼ばれた少女。
「ひっ!」
 怒熱は一瞬で冷めて、ジャージ姿の三年生は慌てて逃げ出して。

 部屋には、三人だけが残った。

「大丈夫? 怪我は?」
 部屋の壁にもたれかかった薫子に近寄って、少女が尋ねる。
「たいしたことはありません」
 体中が痛かったが、それよりも薫子は、目の前の人物を凝視した。
 あれほどの力を見せつけながら同時に女性らしい柔らかさを感じる身体は、少し高いくらいの背よりもずっと大きく見える。
 優しさと強さを兼ね備えた、真っ直ぐな瞳。豊かで美しい、少し色の薄い長髪。
 玲於奈が憧れ追い掛けている、才色兼備の名家の跡取り。
 これまで何度か、見たり会ったりした事はあるが、眼前にして初めて薫子は理解する。

 なんて、眩しい、この人が、向坂環。

50:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」10/15
08/02/23 14:23:42 nyBe6Wgl0

「……ありがとう、ござい、ます」
 こんなに素直でない声で、何を感謝しているものか。薫子は自分を恥じた。

「礼には及ばないわ、久しぶりに暴れてスカっとしたし」
 ペロっと舌を出す環は、それに気付いてか気付かずか。
「そっちの子も、カスミさん? 大丈夫かしら?」
 いっぽうカスミは、さっきは薫子より先に環を止めたカスミは、ただ呆然と立っている。 
「どこか、痛めた? はい、これ」
 環は、足元からカスミの写真立てを拾い上げて、持ち主の手に握らせた。
「……ぇさま……」
 ぐい。
「あ、あら?」
 写真を渡した手を、そのまま黒髪の少女は握りしめる。
「お姉様と、お呼びしてよろしいですかっ!」
 カスミがこんな大きな声を出すのを、薫子は初めて聞いた。

「お、おねえ、さまぁ?」
 流石の環も、これには面食らったようで若干のけぞる。
「……ダメ、ですよね……」
「あ、い、いや、えーっと、そのー、いいわよ、別に」
「ありがとうございますっ!」
 カスミの顔が、ぱあっと明るく輝く。
 環は、苦笑しながら、優しい視線で黒髪の少女を見た。
「あは、ははは……、じゃあ、そういう事で。何にしろ困った事があったら、いつでも呼んで」
「はいっ!」
 その視線に、カスミは満開の笑顔で答えた。

 あ、笑った顔。やっぱり、可愛いかった。

 薫子が見たかった、少女の笑顔。
 ようやくそれを見られたというのに、心は何故か痛くなった。

51:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」11/15
08/02/23 14:24:42 nyBe6Wgl0

 散らかった廊下の片付けも手伝って、環は自分の部屋に去った。
 ジッ……。
 その後ろ姿が見えなくなるまで見送って、カスミも室内に戻る。
 キョトン……。
 部屋の中に、先に戻った筈の薫子の姿を見つけられず、一瞬戸惑う。

 ルームメイトは、自分のベッドに横たわっていた。

 傍らに立つカスミ。薫子は、布団を被って壁を向いている。
「……だいじょうぶ?」
 黒髪の少女が、自分から薫子に声を掛けたのは、おそらく初めてだろう。
「平気です」
 薫子はカスミに背を向けたまま、消えそうな声で答える。
 ……。
 小さく首を傾げるカスミ。やがて、少し間を置いて、再び口を開く。
「……ありがとう」
 その言葉に、薫子の肩がビクッと震えた。

「……お礼は、向坂先輩に言えば十分ですわ」
 絞り出すような口調。
「私は、何もしていません」
 布団越しに見える背中の形が、ぎゅっと縮こまる。
「何も、できなかったのですから……」
 語尾が小さくなって、手で顔を覆っているのが僅かに見えた。
 カスミは、そっとベッドの横にしゃがみこんで、横たわる少女の髪に手を伸ばす。
「薫子、ありがとう」
「っ!」
 カスミが手を触れたのと、改めて対象を明らかにした謝意が示されたのと、薫子が息を飲んだのと、ほぼ同時。
 
「っ、っく、ぅう、ぅあああああーっ!」
 薫子は、堰を切ったように泣きだした。カスミは、薫子が泣きやむまで、頭を撫で続けた。

52:名無しさんだよもん
08/02/23 14:25:22 pFnlBmdvO
携帯で大変なのかもしれないが、細かくぶつ切りで連続投稿はあんま好ましくない気がする

53:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」12/15
08/02/23 14:25:52 nyBe6Wgl0

 この日を境に、薫子を取り巻く環境は大きく変化した。

 元同室の三年生達は、明確に敵意を示すようになり、それに伴って、表面上友人関係にあった多くの同級生や先輩も、いざこざを恐れて彼女から離れて行った。
 誰とでも仲良く付き合う優等生という、これまでの彼女のイメージは失われ、教師達からも、嫌われたとまでは言わずとも、当たらず触らずの要注意人物扱いといったところ。

 代わりに得たものと、変わらずに在るものは、黒髪の無口な友人と、赤髪の賑やかな友人。
 カスミはこの一件で薫子に厚い信頼を寄せるようになって、何をするにも彼女の後を付いて回るようになった。

 玲於奈はというと、
「元からあの方たちは気にくわなかったのです。いい気味ですわ」
 事情を説明した薫子に屈託のない笑顔を見せ、かえって環との距離が近づいた事を喜んだ。
 カスミに対しても、
「薫子の友達なら、私とも友達ですわね」
 カスミの方も、無邪気で天然な玲於奈には敵対心を持つ気にならないのか、薫子が拍子抜けするくらいあっさりと打ち解けた。

 薫子自身は、この境遇を後悔はしていない。
 確かに、先輩達からの細かい嫌がらせは日常茶飯事で、
「じゃあ、薫子さん、後はよろしくね」
 例えば今も、野外活動の後始末。件の派閥の上級生はニヤニヤと、巻き込まれた他の生徒達はコソコソと去って、
(後はも何も、殆ど最初からですけどね……。)
 散らかしっぱなしの用具類を眺めて溜息をつくが、大した事だとは思わない。
 環の存在が効いているのか、直接的な暴力や疎外はなかったし、

「薫子っ、ああもうまたっ、酷い連中ですわねっ!」
 カチャカチャ……。
 彼女は一人ではない。三人でいれば、大抵の事には対処ができた。
「あら、貴方たち、また押しつけられたの?」
「「お姉様っ」」
 加えて、環自身も先輩に睨みをきかすだけでなく、なにかと三人に目を掛けてくれている。

 ただ、薫子の心に影を落とすのは。

54:名無しさんだよもん
08/02/23 14:30:42 k7O1vEy1O
ここでさるさん。一時間くらい中断します。

55:名無しさんだよもん
08/02/23 14:41:34 T9cI69JEO
ソフトウェア更新終りました。
雑談は避けた方が良いとは思うのですが、知りたい事があるので書き込みます。

>>52
ここって30行の規制はないのでしょうか?何行まで大丈夫か教えて頂けると幸いです。
気をつけて編集してから投下してるのですが、逆効果でしたかorz

>>桜の群像さん
初めてリアルタイムで見ました!楽しみにしてます。

56:名無しさんだよもん
08/02/23 14:52:53 k7O1vEy1O
>55
お気になさらずに。そのための中断宣言ですから。
この板は1レス最大32行です。詳しくはSETTING.TXTで検索してみてください


57:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」13/15
08/02/23 15:00:04 nyBe6Wgl0
「台車、調達してきたわよ。さっさと終わらせて、お昼にしましょう」
 薫子や玲於奈が二人がかりで運ぶような大荷物を、軽々と持ち上げる環。
「カスミと玲於奈はそっちをお願いね」
 腕力だけでなく、仕事の段取りにしろ手際の鮮やかさにしろ、むろん学業も運動も。
(優秀というのは、こういうことを指す言葉でしょうか。)
 自分が有能だなどと自惚れていたつもりはない彼女だが、それにしても、何かにつけて環の能力を見せつけられる薫子である。

 そして、
「はいっ、お姉様!」
 ニコニコ……。
 玲於奈とカスミが環に向ける、憧憬の視線。

 自分も素直に憧れれば良いものを、薫子の心にはいつも、やるせない思いが去来する。
(私は、友人ぶって二人に頼られたいだけなんだろうか?)
 自然に慕い、自然に慕われる二人と一人に比べて、己のいかに卑小なことか。
 それでも、玲於奈が一番に愚痴をこぼす相手は引き続き自分であって欲しかったし、
(カスミ……。)
 黒髪の少女が、九条で最初に笑顔を見せたのが自分にであったら嬉しかった……

「どうしたの? 疲れた?」
 思考の泥沼に陥りつつあった薫子を、涼やかな声が救い上げた。 
「あっ、いえ、すみません」
 そしてまた、救い上げられた事に心が沈む。

「本当にいつも、ご迷惑ばかりお掛けして」
「迷惑だなんて。こんなの、なんでもないわよ」
「それは、向坂先輩は、なんでも達者でいらっしゃるから……」
 気を遣ってくれたのは分かる。分かるだけに、つい薫子の口調が尖って、また後悔する。
「なんでも、か」
 だが、環はすうっと風に言葉を流してから、小さく薄く笑って言った。

「私が九条に来た理由を、教えてあげよっか?」

58:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」14/15
08/02/23 15:00:55 nyBe6Wgl0
「私にはね、好きな男の子がいたの、ううん、いるの」
 二手に分かれて片付けを進めながら、環は薫子にだけ聞こえる声で話し始めた。
「ひとつ年下の幼馴染みで、ま、仲良かったんだけどさ」
 飄々とした言葉遣いに、初めて覗く心の空隙。
「強引に告白してフラれちゃった」
 てへっと照れたような、それにしては痛そうな笑み。
「それで、顔を合わせづらくなって、ずっと断っていた転校話に乗っちゃったのよねえ」

 薫子は、すぐには言葉を返せなかった。
「……後悔、されてます?」
 やや間を置いて発した質問に、今度は苦く笑う環。
「そうねえ、それ以来会ってないし」
「えっ? 一度も? 会っていないのですか?」
「ええ」
 軽い返事に、寂しさと後悔を少しだけ滲ませて、
「私たちには、もう一人幼馴染みがいてね、私にもその子にも、妹みたいな女の子」
 これも薫子が聞くのは初めて、環が言い淀み、そして自嘲気味に笑う。
「私はあの子に、嫉妬してるんだな」
 思わぬ言葉に目を丸くする薫子。それを見て環は、今度は優しく笑う。
「イヤよね、自分のそういう気持ちを認識するのって」
 どきりとした。
(やっぱり、私の気持ちを知ってて言ってるんだ。)

「でも、仕方ないの。それが、今の自分だから」
「だから、会わないって決めた。自分が、自分に納得できるようになるまで」
「言うなれば今は修業期間、次に会うまでに、見違えるような女性になって見せるぞ、ってね」
 環はそう言って、最後には楽しそうに笑った。

「ま、周囲が何言ってるか知らないけど、こんなもんよ、私だって」
「いえ……強いです。先輩は」
 後輩の心を知って、それで自分の傷を抉って見せてくれた。
 その優しさと力強さに、薫子は更に自分を恥じる。

59:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」15/15
08/02/23 15:02:48 nyBe6Wgl0

「そんなことないわ」
 最後の道具を台車に積み上げ、環は薫子に向き直った。
「私は今できる事と、これからしたい事を考えているだけ」
 ぱんぱんっと手をはたく。
「今はできる事だけすればいいし、したい事は、これからできるようになればいいのよ」

 さあ、行きましょう。
 手を差し伸べられたように見えたのは幻想か、環は台車を押して玲於奈達に号令を掛けた。

 薫子は暫し立ち尽くす。
 環の言葉ほど、簡単に心情は整理されない。
(私は非力すぎて、できることなんて。)
 いくらなりたくとも、環のような眩しい太陽に、自分がなれるとは思えない。

「薫子っ! どうしたのですかっ!」
 だけど、玲於奈の声が、薫子を探す。
 チラチラ……。
 そしてカスミが、環の後ろで薫子を振り向いている。

「……玲於奈、カスミ」
 二人が、自分を呼んでいる。自分を、待ってくれている。
「いま、行きますっ!」
 だからもう、悩むまい。薫子は、大好きな友人と、尊敬すべき先輩の下へ駆けた。

(今できる事と、これからしたい事。)
 心の中で、環の言葉を反芻し、そして対照的な二人の少女を見やって誓う。

 地上を照らす、陽になれずとも、隣に寄り添う、月ではあろう。
 そして、いつか小さくとも。

 自分で輝く、星になるように。

60:名無しさんだよもん
08/02/23 15:04:36 T9cI69JEO
>>56
ありがとうございます。
32行でしたか。
その他知っておいた方が良い事もありそうなので
SETTING.TXTは読んでおきます。

後はかなり書き溜め具合に意識の違いがありましたorz
もっと書き溜めてから投下しようと思います。

61:名無しさんだよもん
08/02/23 15:05:35 nyBe6Wgl0
以上です。
さるさん規制は微妙ですね。30分で12レスくらい?あと連投規制消えてる?

どんな話だよと自分でも思わなくもないですが、書きたかったので書きました
本編含め、読んで頂いた方には心から感謝申し上げます。ありがとうございました

三人娘もADに登場するようなので、勝手に膨んだ俺の脳内はここでリセットですね
願わくば、原作での不遇を返上して魅力たっぷりな三人娘が描かれますように……

62:名無しさんだよもん
08/02/23 18:59:56 d4S1ivzg0
>>61
乙。AD発売は喜ぶべきことなんだろうが、それで二次創作の幅が
狭くなるのは残念だな

63:61
08/02/23 22:12:14 A3B/qv1h0
サブキャラを公式が書ききってしまう事で余白は減る意味もありますが、
材料は増えるんだから幅が狭くなるってことはないんじゃないでしょうかね

自分が抱えてたイメージが消えて困るというほど傲慢ではないつもりですし、
ゲーム自体の出来は出てみないとわかりませんが、基本的には楽しみです<AD

64:名無しさんだよもん
08/02/23 23:55:24 Je3S+3HT0
>>61
環が出るとは予想してましたが、見事なまでに美味しいところをかっさらっていきましたね。
特に最後辺りの薫子との会話は、本編でその恋が成就しないのが分かっているから
なおさら健気っぷりに泣けてくるし。

とまあ、何はともあれ今まで乙かれです。ADでも創作意欲を掻き立てるような
キャラがいたらいいですね。その際には是非SS投下お願いします。

65:名無しさんだよもん
08/02/24 09:02:09 psRtQUJ40
ADでも攻略不可能な魅力的なキャラが出てくるから問題ないだろw
そして再びADAD(仮名)が発売されて無限ループに

66:名無しさんだよもん
08/02/24 09:14:27 epjwJw2I0
旅行ネタ書こうと構想練ってるんだが、タマ姉か双子が絶対ついてきて困る件について。
この三キャラ扱いやすすぎて逆に話から切り離せねぇo...rz

67:名無しさんだよもん
08/02/24 10:54:13 J2OcOWvb0
>66
書き易いキャラって思わず出しちゃうもんだし、それでいいんじゃないかい?
漏れには、その三人は扱いづらい筆頭格だから羨ましいぜ
双子は関西弁が書けないから台詞が出ないし、タマ姉はキャラが掴めなくてすぐ超人化してしまう

68:名無しさんだよもん
08/02/24 11:14:34 sf2tnRSy0
自分も「書きやすいキャラには勝手に出てきてもらう」でいいとオモ。

って言うか、少なくとも俺はおおよそのアイディア考えたらあとは筆任せ??
キャラに突っ走ってもらうからあと知らん、って感じ。
むしろ走りすぎて推敲の時に「思いっきり18禁になっちまったwこりゃ拙いだろww」ってばっさり切ったりするくらいだからなぁ。
妙に考えた作品のほうが評判悪いし、勢い作品のが自分でも好きだし、やっぱ勢いしかないようなww

69:名無しさんだよもん
08/02/24 11:38:59 njH3KTY/0
楽しく書ければそれでいいじゃない

70:名無しさんだよもん
08/02/24 11:52:06 NIU/xwZr0
>>61
タマ姉カッコいー
お姉さまって呼びたくもなる訳ですねえ

71:郁乃専用メイド3 1/4
08/02/24 14:34:45 xhmOBuLX0
まぁ最大の難関といっても、登る事がじゃない。
どれだけ平然と登れるか。他人の力は借りない。
これが最近の私の中でのルール。
気をつけないとどっかのお節介な姉が助けにくるから気をつかう。
今日は近くにいないんだから気にする事ないとも思うけど
もう習慣みたいになっていた。

教室に入ると最近よく一緒にいるこのみが近づいてくる。

「郁乃ちゃん、おはよー」
「おはよ。今日は早いのね。雨降らないかしら」
「うう、郁乃ちゃんひどいでありますよー」

心なしか元気がない。どうしたんだろう。
気になったものの、その理由はすぐに本人から語られる事はわかっていた。

「今日ね、タカくん達のお見送りしたんだ」

あぁ、そういう事ね。
お見送りしたはいいけど寂しくなってきた、という事か。
いかにもこのみらしい。
でも恋人の妹に貴明への愛情をアピールするのはどうかと思うんだけど…。

寂しがるこのみが友達を家に呼んだから私にも来いと誘う。
たまには出掛けてみるのもいいかな、今はシルファと顔合わせたくないし。

「やたー!じゃあ今日は一緒に帰るでありますよー!」

72:郁乃専用メイド3 1/4
08/02/24 14:35:16 xhmOBuLX0
「ただいまー!おかーさん、今日は友達連れてきた!」
「ちゃるちゃんとよっちちゃんでしょ?聞いてるわよ」
「今日は郁乃ちゃんもだよー」

あまり人の家に来りする事がないので、少しタイミングを見計らう。

「お邪魔します」
「いらっしゃい。貴女が郁乃ちゃんね、このみから話は聞いてるわ。ゆっくりしてってね」
「ありがとうございます」
「もー!おかーさん、変な事言わないでよ?」
「はいはい、それよりもこのみ!靴は揃えなさいって何度言わせるの!」

このみの母親は容赦なく手にしたおたまで友人の頭を叩く。
あ、いい音。

「うー、そんな思いっきり叩かなくてもいいのに」
「いいから早く手を洗ってらっしゃい。郁乃ちゃんも」
「はーい。行こ郁乃ちゃん」

くるくるとよく表情が変わる子だ。
さっきは涙目だったかと思うともう笑顔。
ずっと入院してたのもあって、こういう温かい空気が少し羨ましい。
もちろんウチが温かくない訳ではないけど、
こういう元気よさだったり、遠慮のなさみたいなものはウチにはない。
私がもう少し元気になって、今の生活に慣れてきたらこんな感じになれるのかな…

「じゃあ、私の部屋に行こうよ」

わざわざ手をひいてくれるこのみに苦笑しつつもそれについて行く。

73:郁乃専用メイド3 3/4
08/02/24 14:36:00 xhmOBuLX0
このみの中学時代からの友達、吉岡さんと山田さんも合流した今の話題。

「へぇー!郁乃ちゃん今メイドロボにお世話してもらってるんだぁ」
「朝挨拶したぐらいで何も世話されてないわよ」
「それでも羨ましいっしょ!メイドロボにお世話される高校生なんてそういないし」
「同意」
「でも、タカくんもお世話されてるよ?」
「え?」

そんなの初耳だ。びっくりするのも当然だと思うんだけど。
私のあげた声に皆は意外そうな顔で覗き込んでくる。

「郁乃ちゃん知らなかったんだ。この春からタカくんちにいるんだよー」
「先輩の彼女の妹だから知ってると思ってたっしょ」
「姉の彼氏の事なんてそんな根掘り葉掘り聞いたりしないわよ。何でも知ってる訳ないでしょ」

半分嘘をついた。メイドロボの事は知らなかったけど、
大体の事はこちらか聞かなくても姉から話してくるので結構知ってたりする。

74:郁乃専用メイド3 4/4
08/02/24 14:36:21 xhmOBuLX0
気づけば陽はすっかり落ちて、夕食の時間となる。
もうこんな時間かぁ、そろそろ帰らないと。
今の話題にひと段落ついたら帰る準備をしよう、そう考えていた時

コンコン

ふいにドアがノックされ、顔を出したのはこのみのお母さんだった。

「貴女達、問題なければ今日はウチで晩ご飯食べて行きなさい」
「全然モウマンタイっす!春夏さんのご飯おいしいんすよねぇ。」
「私も問題ない」
「やたー!今日は皆で食べる晩御飯はおいしいのでありますよー!」
「キツネ、これはもうゴチになるしかないっしょ」
「うむ。親に連絡は入れておかないと」
「そうだった!春夏さん、電話お借りしていいですか?」
「いいわよ。いってらっしゃい」

ドタドタと二人は階下に降りて行った。
当たり前といえば当たり前なんだけど、この食事会の対象に私も入っていたみたいだ。

「郁乃ちゃんはどうする?」
「え、わ私?」
「あ、でもシルファさんがいるんだよね」
「それは、多分大丈夫…だと思う」
「変な遠慮はいらないわよ。あ、でも連絡はちゃんとしなさいね」
「あ、ぅ…はい」

帰らないといけない、という事はないけど柚原家の勢いに飲まれてしまったのが少し悔しい。

75:名無しさんだよもん
08/02/24 14:41:12 xhmOBuLX0
書き禁解除やったー!
と思ったら色々ミスってましたorz

>>61
乙でした。
これからですが、色々勉強させて頂きますです。

76:名無しさんだよもん
08/02/24 17:30:57 yoTxzGmD0
なんかこのみって癒されるよね。萌えるのではなく。
一家に一人はほしいよね。

77:名無しさんだよもん
08/02/24 18:07:33 d6Ub8HHH0
マスコット的可愛さって奴か

78:名無しさんだよもん
08/02/24 19:03:19 yoTxzGmD0
>>77
IDが異様にHだねw

このみ→和む、癒される可愛さ
愛佳→守りたくなる可愛さ
タマ姉→遊ばれたい可愛さ

雄二→からかいたい、いじくりたい、突っ込みたい可愛さw

79:名無しさんだよもん
08/02/24 23:24:32 wAvtUBPB0
>75
乙〜、PCからだと書きやすいせいか、改行が多くて読みやすくなってるね
階段はイベントなしか。密かに踊り場で「手をお菓子するのれす」とかシルファが待ってるのを期待していたのだがw


80:名無しさんだよもん
08/02/25 00:01:01 jmESA6E70
>>79
ありがとうございます。
改行は色々悩みますね。入れたいけど改行で行数稼いでしまって
1レスで書きたいところまで書けないとかもあるので…
残念ながら学校ではシルファ自重と思ってますw
とか言いながら早速でますがorz

では本日最後の投下します。

81:郁乃専用メイド4 1/6
08/02/25 00:01:35 jmESA6E70
柚原家での食事はそれは楽しかった。
同じ年代の友達とバカを言い合いながらのご飯がこんなにおいしいなんて
私は人生の半分を無駄にしてたんじゃないかとさえ錯覚するほどに。

食事が終わり、再びこのみの部屋へ戻り
柄にもなく恋話などをに花を咲かせる。
これまで恋愛経験のない私からすれば、皆が羨ましくもあった。
皆の話に耳を傾けているうち、外が真っ暗になっている事に気づいた。
時計を見ると夜9時。そろそろ帰らないと、何かあっても一人では対応しきれない。

「じゃあ皆、私はそろそろ帰るわ」
「あ、じゃあ私らも帰るっしょ!キツネ?」
「わかってる」

すでに帰り支度を整えた山田さんに合わせて荷物を抱え立ち上がる私。

「春夏さん、お邪魔しましたー!」
「お世話になりました」
「お邪魔しました」
「何のお構いもしませんでごめんなさいね。また遊びに来てね」
「おかーさん、私郁乃ちゃん送って行くね」

このみのその言葉に何故だかわからないけど焦る私。

「いいっ、一人で帰れる。」
「だって郁乃ちゃん…」
「大丈夫だってば、それに私の家まで来たら今度はこのみが心配になる」
「もー!郁乃ちゃんひどいよ」
「心配するなこのみ。私達が途中までだが送っていく」

いまいち納得してない様子のこのみだったが、
最終的には途中まで吉岡さんと山田さんに送ってもらう。それで納得してもらった。

82:郁乃専用メイド4 2/6
08/02/25 00:02:02 jmESA6E70
二人との分かれ道まで何事もなく辿りついた。
ここから結構近いので大丈夫だろう。

「じゃあまたね郁乃ちゃん」
「また会う日まで」
「ありがとう。こちらこそこれからよろしく」

二人と別れ、数メートル先の自宅へゆっくり向かう。
危険だという理由で夜に出歩いた事はなかったけど
夜は夜で予想通り楽しいものだった。
早く完治してのんびり出かけたいものね。

自宅前に着くとリビングに明かりが点いているのを見てシルファの存在を思い出す。
あの子、今日は何してたんだろう。
気にはなったが、今朝の通学を思い出し考えを振り払う。損はしたくないし。

当然のように玄関の鍵は開いており、難なく入る事が出来た。
柚原家を思い出し、靴をきちんと揃えて部屋にあがる。
シルファはどうしてるのかとリビングを見回すと、
片隅で正座をしていた。しかし、少し様子がおかしい。
あれは寝てるのかしら。主人じゃないけど主の帰りに気づかずに寝てるなんて。
文句のひとつでも言ってやろうと近づいたところで気がついた。
テーブルに置かれたオムライスと手紙。そしてシルファに続くパソコンの画面。
丁寧な文字で書かれた、私に宛てた手紙。
『お夕飯は何が良いかわからなかったのでオムライスにしました。
もしお嫌いでなければ召し上がって下さい。
充電が切れそうなのでスリープモードに入りますが、郁乃様のお迎えが出来ず残念です。』
そしてディスプレイ映る文字。
『スリープモード開始時刻21時。終了予定時刻6時。充電20%』

ぎりぎりまで待っててくれてたのね…。悪い事したかな。

83:郁乃専用メイド4 3/6
08/02/25 00:03:54 jmESA6E70
夕飯はこのみの家で食べたので、とても食べられそうになかった。
申し訳ない事をしたと一瞬思ったが、柚原家での食事が決まった時、
電話は繋がらなかった。そう、悪いのは私じゃない。
そう言い聞かせ、寝る為の準備に入る。
お風呂から上がった私は申し訳なさも手伝い、お腹が減っている訳でもないけど
オムライスを食べる事にした。

「なによ。意外とおいしいじゃない」

ロボットの作る料理がどんなものか興味はあった反面、
ちゃんとしたものなんて作れるはずがない。とタカをくくっていた分
この料理は少し衝撃だった。
本来なら、ペロリと食べきってしまってもおかしくないぐらいおいしかったけど
さすがに2食は食べられない。2口ほど食べたらすぐにお腹がいっぱいになってしまった。

おいしいので明日の朝ご飯にする事を心に決め、
戸締りをしてから寝床に着く。

「よく考えれば人がいたって寝てたら意味ないじゃない。無用心ね」

明日の朝はオムライスのお礼と戸締りに関する注意をしよう。
いつ電源が切れたり、ブレーカー?なんてあるのかしら。が落ちたりするかもわからないし。
でも、未だに今朝の挨拶しかしてない分、どうやって話しかけたものか。
何事もなかったように?それともメイドだってのならあくまで主的に?
シルファとの接し方について考えていたが、気がつけば深い眠りについていた。

まぁ、眠ってる事には気づいてないんだけどね。
朝にシルファに起こされてようやくその事実に気がついた。

「郁乃様そろそろお時間ですよ。起きて下さい」

84:郁乃専用メイド4 4/6
08/02/25 00:04:53 jmESA6E70
シルファに起こされた私は目をこすりながら、リビングへと向かう。
さて、どうやって話かけようかな。起こしてくれてありがとう。
うん。これが無難かな。
そんな事を考えながら、ふとテーブルに視線を泳がす。

あれ?
テーブルの上にはきっちりとした和食が並んでいた。
ご飯に味噌汁、焼き鮭にお漬物。
文句ないぐらいの和食。ちゃんと早起きして朝ごはん作ってくれたんだなぁ。
でも、昨日のオムライスを予定していた私に取ってこれは裏切りだと思ってしまった。
私の我侭だって事ぐらいわかってる。でも…。

「ちょっとシルファ!昨日のオムライスはどうしたのよ」
「あ、お口に合わなかったのかと思って捨てました」
「え、捨てた…。もったいないとは思わなかったの!?メイドロボはお金持ちの家で働く事しか想定されてない訳?だから簡単に捨てたりするって事?」
「あの、違います…そろそろこの季節は食べ物が痛むのが早く」
「言い訳は聞きたくない。少しは庶民の立場も考えなさいよね。それに寝るなら戸締りぐらいきちんとして欲しいものね。貴女がいた所で寝てたら意味ないじゃない」

違う。こんな事が言いたい訳じゃない。
しかし、一度ついた火は止まらない。

「それに誰が和食にしろって言ったのよ!?私はパンが食べたかったのに」
「申し訳ございません…私が至らないばかりに」
「本当にそうね。今日は朝ご飯いらない。学校行って来る!ちゃんと戸締りしなさいよね」

シルファの言い分もろくに聞かず
そう言い残し、ドアを荒々しく閉めて私は学校へ向かった。

85:郁乃専用メイド4 5/6
08/02/25 00:05:22 jmESA6E70
気分も優れないまま午前の授業が終わる。
今日は何を食べようかしら。お弁当もないし学食かな。
黒板を背伸びして一生懸命に消しているこのみの後ろ姿をぼーっと眺めていたけど
クラスメートの呼び声で現実に引き戻される。

「小牧さーん!シルファさんって人が来てるよー!」

シルファ?何をしに学校へ来たのだろう。
どうでもいい事だったら張り倒してやるんだから。
朝の憤りを未だに抱えた私は、少し不機嫌そうに教室の入り口を伺う。
少し不安げな顔でシルファはそこにいた。

「なに?」
「あの、お弁当をお持ちしました。今朝持って出られませんでしたので」

朝、あれだけの罵詈雑言を浴びせたのにわざわざお弁当を届けてくれたのだ。
正直、受け取る気分ではないかったがクラスメートがみているここで、
そのまま追い返す訳にも行かなかった。

「そう。ありがと」

弁当箱を受け取り、そのまま踵を返す。
スタスタと去り行く私の背中にシルファは声をかけてきた。

「あの、郁乃様!今日のお夕飯は如何致しましょう?」

学校の教室そんな事を大声で叫ぶシルファ。
ホンっトに何考えてんのかしら!?私をさらし者にしたいのかしら。


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