ToHeart2 SS専用スレ 23
at LEAF
1:名無しSS作家さん
08/02/22 01:01:30 y1yweLaz0
桜が舞う、暖かな季節。
新しい出会いや恋、そして友情に笑い、悲しみ。
すべてが始まり、終わるかもしれない季節。
季節といっしょに何かがやって来る、そんな気がする――。
ToHeart2のSS専用スレです。
新人作家もどしどし募集中。
※SS投入は割り込み防止の為、出来るだけメモ帳等に書いてから一括投入。
※名前欄には作家名か作品名、もしくは通し番号、また投入が一旦終わるときは分かるように。
※書き込む前にはリロードを。
※割り込まれても泣かない。
※容量が480kを越えたあたりで次スレ立てを。
※一定のレス数を書き込むと投稿規制がかかるので、レス数の多いSSの投下に気づいた人は支援してあげて下さい。
※コテハン・作家及び作家の運営するサイトの叩きは禁止。見かけてもスルー。
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ToHeart2 SS専用スレ 22
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2:名無しSS作家さん
08/02/22 01:02:24 y1yweLaz0
AQUAPLUS『To Heart2』公式サイト
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Leaf『ToHeart2 XRATED』公式サイト URLリンク(leaf.aquaplus.co.jp)
Leaf『ToHeart2 AnotherDays』公式サイト URLリンク(leaf.aquaplus.co.jp)
ToHeart2 スレッド 過去ログ置き場(仮)
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本スレや各キャラスレはこちらから。
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3:『姉ちゃんといこう!?』1/15
08/02/22 01:33:33 y1yweLaz0
AM7:30 河野家 貴明個室
……3月ともなると、ようやく厳しかった冬の寒さは緩み、次第に気持ちのよい、春と呼ぶにふさわ
しい日が多くなってくる。
それでも、朝はまだまだ布団から出たくない季節である事に間違いはない。まして、ようやく学年末
試験も終わり、つかの間の自由を許された『もうじき受験生』にとって、この惰眠は値千金のものと言
ってもよい。……問題は、その時間は本人にとってのみ価値があり、周囲にはとんでもない怠惰にしか
見えないという事なのだが。
「貴明っ! たーかーあーきぃーっ!! 朝だよ〜〜、起きてぇ〜〜!!」
ゆさゆさ、ゆさゆさ。
ここにも、貴重な眠りの価値を理解してもらえない一人の不幸な少年がいた。
まぁ、彼の生活を知る者に『彼は不幸だそうだが』などと言えば、10人の内6人(男全員?)は殺
意を抱きそうではあるのだが……
「起きて〜〜!! 折角試験終わったのに、いつまでも寝てちゃつまんないよ〜〜!!」
ごすっ!「げふっ!!」
少女の文句とともに、何か硬いものが突き刺さる音と、腹腔内の空気を全部叩き出されたかのような
呻き声が部屋に響き渡る。
苛立ちをつのらせた赤毛の美少女ミルファが、揺すっても一向に起きない貴明に実力行使……それも
いきなりエルボードロップを喰らわせたのだ。
「起きないと肘落とすぞ〜〜!!」
「……あのなぁっ!? 落としてから言うなよ! それも鳩尾にっ! 永眠してしまうわっ!! 第一
試験明けくらいゆっくり寝かせて「やった〜! おはよ〜! 貴明ぃ〜っ♪(ぼふっ!!)」……お、
おい、重いって……」
容赦のない攻撃に思わず布団を跳ね除けて飛び起きた貴明だったが、彼の抗議は『待ってました』と
ばかりに飛び付いてきたミルファによってたちまち遮られてしまう。
4:『姉ちゃんといこう!?』2/15
08/02/22 01:35:50 y1yweLaz0
「この2週間、寂しかったよう……」
戸惑う貴明をよそに、ミルファはそう言いながら彼の胸にネコのように頬をすり寄せた。……そうい
えば彼が試験準備に入って試験終了に至るこの2週間、何も言わずともミルファは貴明の勉強の邪魔に
なる様な事は一切しなかった。普段は鬱陶しいほどに求めてくる会話やスキンシップも、貴明が求めな
い限り欲しがるそぶりも見せようとはしなかった。
(今更気が付くなんてな……)
そういえば昨夜も黙って早く寝かせてくれたっけな……ミルファの心遣いにようやく気が付いた貴明は、腕の中で至福の表情を浮かべるミルファを感謝の気持ちを込めて優しく撫で続けるのだった。
みちのく湯けむり紀行『姉ちゃんといこう!?』
AM8:30 河野家 居間
しばらくぶりにゆっくりした気持ちで朝食を済ませた貴明は、ミルファの淹れてくれたコーヒーを片
手にテレビを眺めながらくつろいでいた。
週末の朝にやっている番組にそう面白いものがあるわけではないが、今のリラックスした気分に相応
しく、テレビにはもう完全に春モードになった地方の風景が映し出されていた。いわゆる旅行物という
やつである。桃や桜、たくさんの菜の花。春の味覚。そして温泉……。
「旅行かぁ。しばらくぶりに温泉もいいよなぁ」
「温泉って、やっぱ気持ちいいの??」
ぼーっと画面を見ながら誰ともなしに呟いていると、後片付けを終えたミルファがいつのまにか貴明
の隣に座って質問してきた。
メイドロボに温泉の良さが理解出来るのだろうか……と悩みつつ、貴明はどう答えたものか首を捻っ
てしまう。どう考えても温泉の効能が効くとは思えない、というか成分そのものはむしろ有害なくらいだろうが、彼女らほどの高性能機であれば、もしかしたら『リラックスして心が癒される』などと言う
事もあるかもしれない。
5:『姉ちゃんといこう!?』3/15
08/02/22 01:38:36 y1yweLaz0
そのあたりで貴明が答えを返そうとした時の事である。
「あれ、家の前に車が駐まったみたい。誰か来たのかな??」
ミルファの耳がピクリと動いた。
テレビも点いているというのに相変わらず良い耳をしている。……もっとも、貴明にとってはむしろ
『地獄耳』という名の恐怖である場合が多いのだが。
『ピンポーン』
ミルファの言葉を裏付けるように、ほどなくインターフォンが鳴った。
ほらね?という顔をしながらミルファが受話器を取る。
「はい、どちらさまでしょうか…………あら、環さん。おはようございます」
「ん? タマ姉??」
どうやら訪問客は貴明にとって姉のような存在の幼馴染、ミルファにとっては最凶の部類に入るライ
バル(ちなみに最強ライバルはこのみ+春夏、最悪の敵はイルファ&シルファ)であるところの爆乳赤
毛猫属性お姉さま、向坂環嬢のようであった。
AM8:50 河野家 玄関前
「ほらほら、クルスガワの新しい車よ〜〜!」
環に引っ張られるようにして外に出ると、そこには彼女の言葉通り、ピカピカのハッチバック車が駐
まっていた。確かにクルスガワ自動車のCMでよく見かける、新型ハイブリット車のコンパクトSUV
である。外見は大きくないのに居住性の良さそうな広い車内、華やかな彼女に良く似合う赤いボディ。
……そしてボンネットには不似合いな若葉マーク(笑)
「うわ、初心者マークだっさ……」
「……聞こえてるわよ、ミルファ……」
貴明にくっ付いてきたミルファの暴言にこめかみの血管を痙攣させる環……。経験上このまま放って
おけば一番割を食うのは自分だと確信した貴明は『車褒め殺し作戦』に出る事にした。
6:『姉ちゃんといこう!?』4/15
08/02/22 01:41:22 y1yweLaz0
「いや、でも、ほら、すごいじゃない?? これってCMでもよく見るよ。スタイルといい、カラーと
いい、内装といい、タマ姉にぴったりの車だね!!」
「……この車って微妙に私らの妹なんだよね。これの高性能バッテリーはメイドロボ用小型大容量バッ
テリーのスピンオフ技術で作られてますから〜〜」
「なんかそれを聞くとムカつくわね」
しかし貴明の努力も、先ほどからちらちらと火花を散らす二人の前に一瞬で吹き消されてしまった。
普段は結構仲が良いのだが、ミルファは試験明けの二人だけの時間を邪魔されて、環は久しぶりに貴
明に会ったのに邪魔されて、それぞれ不機嫌がつのっているのだった。
(こっ、このままじゃマズイよな……)
焦りまくる貴明だったが、所詮この手の事にトコトン不器用な彼が考えた所で、『馬鹿の考え休むに
なんとやら』の域を出はしない。
だが、なんの気まぐれか。
まだ少々頬はひくついていたが、環はそれ以上ミルファの挑発には乗らず、貴明に向かって写真入り
カード、俗に言う自動車運転免許証を突き出して自慢してきた。
「ほらほら、タカ坊、見て見て? タカ坊は学年末試験だったし、私は暇だったし、折角だから車の免
許取って来ちゃったのよ」
言われてみれば、3学期の自由登校になってから環と一緒に学園に通う機会は激減していた。
しかし今までは九条院大学受験の為だとばかり思っていたのだが、実際雄二もそう言っていたし……
それに免許だってそう短期間に取れるものではないはずである。
「あれ? 九条院の試験って、いつだっけ??」
素直に貴明がその疑問を口にすると、
「あ、AO入試で受けちゃったから。3学期入って早々に結果出てたの。九条院の他にも試しに受けて
みたんだけど、近場の私立だけだし、息抜きに行くには教習所は丁度よかったわ」
とまぁ、全国の受験生を敵に回すような種明かしをケロッとした顔で言ってのけた。
全く、困ったパーフェクトお嬢様である。
「だからちょっとドライブに付き合わない? いいわよね?ミルファ。少しの時間タカ坊借りても」
もうじき卒業なんだし、と寂しそうに微笑みながら環はそう言った。
7:『姉ちゃんといこう!?』5/15
08/02/22 01:44:22 y1yweLaz0
AM10:00 首都高速道路 汐入IC付近
「う〜〜ん、やっぱりハイブリット車って静かでいいわねぇ〜〜♪」
「……なぁ、タマ姉。ここって、どこさ。っていうかどこに向かってるのさ」
ちょっとドライブ、と言ってたような気がするんだけど……と思いつつ、貴明はあまり見る事のない
高速道路の行き先表示に、自ら現在位置や目的地を推測する努力を放棄していた。
1時間ほど前。
貴明を助手席に乗せた環は、迷わず最寄りのICから高速道路に進入、東京方面に向かって走り始め
た。いきなり高速?とその時にも不思議に思った貴明であったが、環のいかにも『してやったり』的な
横顔を見ているうち、どうやらハメられたらしいという事を今に至っては確信している。
その貴明のもっともな質問に対して、環は前方を見据えたままぽやーっと答えた。
「どこって……北の方??」
「北って……」
何故クエスチョンマーク!?と、はっきり答えない環にちょっと貴明が呆れ声を出すと、
「いいトコ??」
一瞬貴明の方に視線を向けると、環は可愛らしくペロっと舌を出して見せた。
返答にはやはりクエスチョンマークを付けて。
AM10:00 河野家 キッチン
「……なんか、遅いわね。メールでもしてみようかな……」
時計を見るとまだ貴明が環と出かけてから1時間ほどしか経っていない。
だが、なんとなくミルファの勘はキナ臭いものを感じ取っていた。
『わんわんっ!わんわんっ!』
思い立ったらいてもたってもいられずに貴明にメールを送ってみると……ダイニングテーブルの上か
らいきなり犬の鳴き声が聞こえてきた。
「って、貴明携帯持ってってないじゃないよっ!!」
8:『姉ちゃんといこう!?』6/15
08/02/22 01:47:28 y1yweLaz0
PM11:00 東北自動車道下り線 岩槻IC付近
「ねえ、タマ姉。東北自動車道って書いてるような気がするんだけど??」
「そうよ。そうでなかったら困るわ」
自宅を出発してから2時間。
全く躊躇なく、貴明に何かを聞く事もなく、快調に進撃を続ける環の車はいつの間にか東北自動車道
を北上していた。……いったい何処へ連れて行かれるものやら……いい加減貴明も不安になってくる。
色々な意味で彼は環を全面的に信用しているが、信じている項目の中には『環は凄い策士で、自分は
絶対敵わない』などというものもあるのだ。
「なあに? おトイレに行きたい? サービスエリアに入ろうか?」
ごにょごにょと落ち着かない様子の貴明に、環は『蓮田SA10km』の標識をちらりと見ながら訊ね
てみた。さすがにここまで来れば貴明が逃げ出すとは思えない。第一、あくまで『ちょっと車を見るだ
け』のつもりだった貴明は、財布も携帯も何も持っていないのだ。まともな靴を履いているのがいっそ
不思議なくらいである。
「サービスエリアにも寄りたいけど……どこに向かってるのか知りたいな〜〜、なんて??」
すると「そうだったわね」という風に環はにっこり笑って答えてくれた。
「金山温泉。タカ坊と一緒に雪景色が見たくなって」
……それはそれは、最近ちょっと目にしないくらいの『いい笑顔』であった。
PM1:30 東北自動車道下り線 安達太良SA
「あら。ミルファからいっぱいメールが来てるわね」
何を白々しい……と思わずにいられないほど、自分の携帯電話の液晶画面を眺めながら環はあっけら
かんとそう言ってのけた。
今二人がいるのは福島県の安達太良サービスエリア。
食事休憩のためにここに寄った彼女らは、レストランでそれぞれ遅めの昼食を摂っていた。
9:『姉ちゃんといこう!?』7/15
08/02/22 01:51:02 y1yweLaz0
名物の『智恵子もち(いわゆる雑煮。結構美味い)』をパクつきながら、環は行儀悪く携帯を操作し
ている。ちなみに貴明がそんな事をしていれば叱られるのは確定である。きっとミルファを出し抜いた
のが面白くてたまらないのだろう。
「なになに?『今何処ですか。全然ちょっとじゃないんですけど』うーん、捻りがないわねえ。『貴明
に電話するように言って下さい』言うわけないじゃないの。ねえ??」
ねえと申されましても……と、貴明はもう頭を抱えたい気分だった。
これはもう逃げれば死、帰っても死。まさにDEAD END。完璧チェックメイト状態である。
折角のこれも名物メニュー『牛タンわっぱ(そば付き)』であるが、ほとんど味がわからない。
そんな貴明を尻目に、環はニコニコと満面の笑みでメールを打っている。
きっとミルファの神経を思いっきり逆撫でする様なのなんだろうなぁ……と、その様子を貴明はまる
で遠い世界の出来事のようにぼんやりと見つめていた。
PM2:00 河野家 居間
『にゃお〜ん、にゃお〜ん』
「やっとメール来たわね……」
珍しくイヤーレシーバーを付け、ダイニングテーブルに置いた貴明の携帯を前にうろうろとしていた
ミルファだったが、結局鳴り響いたのは自分のレシーバーの着信音の方であった。まぁ、手打ちをサボ
ってこちらからメールを送ったのだから当然かもしれないが。
レシーバーに来るんなら着信音切っておけばよかった……と、彼女は耳元でがなり立てたレシーバー
にいらいらしながらも早速仮想ウィンドウを開いてみた。
「え〜〜っと……『出かける時言った通り、ちょっと卒業旅行に借りてくわ。ほんの1日よ。明日の夜
には戻るから、よろしく〜〜(はぁと)』って、は、はめられた〜〜〜っ!! どこがちょっとよ!
ほんの1日なんて聞いてない〜〜〜〜っ!!!」
ミルファの大絶叫が巷に響き渡った。
……あまりの声量に、隣家から驚いた春夏とこのみが駆けつけて来たくらいである。
10:『姉ちゃんといこう!?』8/15
08/02/22 02:00:02 y1yweLaz0
PM3:30 山形自動車道 山形北IC付近
「や、山形北……って、どこ?ここ」
「山形」
「山形はわかるけど……金山温泉って山形だったんだ……」
「やあねぇ、タカ坊ったら。日本の地理をみっちり仕込んであげなきゃいけないかと思ったわよ」
車窓の外に広がるのは……初春を迎えた関東圏とは全く趣の異なる、まだ冬の気配の抜けない寂寥た
る風景であった。道路脇の雪こそ多くはないが、遠望出来る山々の多くは真っ白と言って良い。
そしてインターチェンジを降りた環の車は、『山形方面』ではなく国道13号線を『新庄方面』に向
けてさらに北上をはじめる。
「……タマ姉、まだ、北に行くんだ??」
「あら、私は『雪景色が見たい』って言ったでしょう? これくらいは雪景色って言わないわよ」
いや、十分です……というつぶやきは胸に納め、貴明は嘆息した。
どのくらいの雪があれば雪景色って言うんだろう……今はその事だけが気懸りだった。
PM4:30 山形県尾花沢市 金山温泉 共用駐車場
「さ、着いたわよ」
車を降りると、そこは雪国だった。
「さっき電話しておいたから、旅館から迎えが来るはずなんだけど……あ、来たわね」
路上にこそ積もっていないものの、道路の脇には2mはあろうかという雪の壁。
灰色の空。肺腑を突き刺す冷気。完全に雪に覆われた山肌。
これが同じ日本とは思えないような風景が広がっていた。
11:『姉ちゃんといこう!?』9/15
08/02/22 02:03:30 y1yweLaz0
「マジですか……」
長袖Tシャツ一枚にジーンズ、という命知らずなくらい軽装の身を縮こまらせて貴明はつぶやいた。
するとぱさり、と背後から厚手のコートが着せ掛けられた。さらに首にマフラーが巻きつけられる。
「こんな事もあろうかと、コートとマフラーを用意しておいたわ。よかった、ぴったりね」
思わずドキリとさせられるような優しい環の笑顔に一瞬見惚れる貴明であったが……
「こっそりコートやマフラーを用意するよりさ、最初から寒い所に行く服を着ろ、って言ったほうが良
くなかった?? ねえ、タマ姉??」
なんのことはない、偽物の温もりに騙されている事に気が付いてしまった。
その考えが正しい証拠に、環は知らん顔で迎えのマイクロバスに手を振っていた。
PM5:00 金山温泉 不二屋
「わあ、綺麗な部屋ね、タカ坊♪ 見て、外! すごい雪景色よ〜〜!」
「そ、そだね……とっても、綺麗だね……」
確かに、文句の付け様のない完璧な雪景色である。
家を出てわずか8時間でこんな場所までやってこれるなんて、さすが狭い島国とは言え南北に長細い
日本は一味違う。更に、地方にまで伸びた高速道路網もこの旅の大きな手助けになっていると考えて良
いだろう。都会にいるとなかなか実感出来ない、道路特定財源の恩恵という奴である(笑)
それはさておき。
「タマ姉、ダブルベットなんですけど……」
「ほらほらタカ坊、ここはお部屋にも温泉があるのよ。あとでちゃんと大きなお風呂の予約も取ってあ
るけど、まずはここで汗を流しましょうか」
寝室の大きなベットに二つ仲良く並んでいる枕、という貴明的にはありえないシチュエーションにび
びっていると、環はそそくさと自分と貴明のお風呂セットを浴室の前に並べている。
12:『姉ちゃんといこう!?』10/15
08/02/22 02:07:11 y1yweLaz0
いわゆる半露天の専用風呂という奴である。ちなみに、この旅館でこの設備のある部屋はたった一つ
しかない。当然、宿泊料金は一番高い。
「タマ姉、なんでもう服脱いでるんでしょう……」
「さ、早くいらっしゃい、タカ坊♪」
……聞いちゃいねえ。貴明はおもわず天を仰ぎたくなった。
そういえば環は、宿帳に『婚約者』とか書いていたような気がする。
そういえば、宿の人に『ご夫婦?ご兄弟?』とか聞かれて『婚約者です。私の卒業旅行に付き合って
くれてるんです〜〜』なんて答えていた様な気がする。
つまり。
(誰も阻止してくれる人はいない、ってコト??)
どうしたらよいか決心がつかず突っ立っている貴明に、艶然と微笑む環(装備品:バスタオルのみ)
がゆっくりと近付いていった……。
PM5:00 河野家 リビング
「あ゛〜〜〜〜んっ!! ぐやじいよぅ〜〜っ!! ねえさぁ〜〜〜んっ!!」
その頃河野家のリビングでは。
落ち込むミルファに困惑した春夏とこのみの通報を受けて駆け付けた姫百合家の面々は、泣きじゃく
るミルファをなんとか慰めようとしていた。……多分。
今のミルファはイルファの胸に縋ってわんわん泣いている。もしも涙が出るならイルファのメイド服
はきっと大変な事になっていたに違いない。その様子に、イルファはいつになく優しく妹を抱きしめ、
背中を撫でている。
「ずるいよ〜〜!! もうじき卒業だからって寂しそ〜〜うに言うから大人しく譲ったのに……そのま
ま貴明を拉致しちゃうなんて、ずるいずるいぃ〜〜!!」
延々と愚痴を言うミルファの様子を、瑠璃と春夏は苦笑いしながら見つめていた。
ちなみに、このみとシルファはミルファに同調してぷんすか怒っている。
13:『姉ちゃんといこう!?』11/15
08/02/22 02:10:50 y1yweLaz0
どうやら二人的にも環の行動はずるいらしい。
「タマお姉ちゃんったら、一人で抜け駆けなんてズルすぎるでありますっ!」
「そうれすよ。これはらん固抗議されるべきれす!!」
珊瑚はといえば、なにやらノートパソコンで調査をしているようだ。
「……わかったで〜〜。タマ姉ちゃんの携帯の電波を受信してるトコの近くにある温泉は一つや。山形
の金山温泉やぁ〜〜♪」
……どうやらなにか見てはいけない情報を探っていたらしい。
もっとも、
「金山温泉か〜〜。今から行くいうてもこんな時間からじゃどもならんなぁ。じゃあ、今日のところは
タマ姉ちゃんに譲るとして、ウチらも今度、貴明と一緒に温泉行こな♪」
探ったからといって何か実のある事をする訳でもないらしいが。
そんな企画が立ち上がった姫百合家に触発されたのか、
「あらあら、それはいいわねえ。タカくんと温泉なんて随分行ってないわ。私はお父さんと一部屋取る
から、このみはタカくんの部屋に泊めてもらう??」
「そ、そうするでありますよ、お母さ〜〜ん!!」
どうやら柚原家でも温泉計画が発動されるらしい。
春夏の提案に、鼻息も荒くこのみは賛同している。……このみ父が聞いたらなんと言うのだろう??
「ウチはさんちゃんと行けるんならなんでもええけど……」
「……れは瑠璃さまはご主人様と別の部屋でもいいんれすね?? なら遠慮なくシルファが……」
「だ、誰もそんなコト……」
とまぁ、こちらもすっかりその気らしい。
「うわぁ〜〜〜んっ!! だめだめだめったらだめぇ〜〜〜っ!!」
ほうぼうで立ち上がる『貴明と温泉に行こう計画』を聞きつけ、さっきまで落ち込んでいたミルファ
は飛び上がってがーっ!!と騒ぎまくる。
「あらあらミルファちゃん、すっかり元気になっちゃって♪」
「みっちゃん、いつも貴明独り占め、カッコ悪いで〜〜」
珊瑚とイルファは、そんなミルファを(生)温かい目で見つめていた。
14:『姉ちゃんといこう!?』12/15
08/02/22 02:14:33 y1yweLaz0
PM7:00 金山温泉 不二屋
「あら、さすがに山形牛は美味しいわね〜。お刺身でいただいても全然くせがないし柔らかいわ」
「ホントだね。……もぐもぐ。山形って、山ばっかりで魚とか美味しいのないと思ってたけど、この鱈
の鍋なんか、とっても美味しいね。……むぐむぐ」
「くすっ。タカ坊、食べながらお話しなんてお行儀が悪いわよ」
夕方までの貴明のおどおどっぷりは何処へやら、夕食の時には二人の雰囲気はすっかりいつもの状態
に戻っていた。おそらくは、先だっての入浴でリラックス出来たからであろう。
風呂場に連行された時には『過剰なスキンシップ』の強制執行を恐れていた貴明だったが、予想に反
して環は決して姉と弟の垣根を越えたりはせず、目のやり場にこそ困ったものの、実に和やかなひと時
を過ごせたのだ。
そして今に至る、というワケである。
浴衣姿の二人は仲良く並んで山海のご馳走に舌鼓を打っていた。冬は比較的食材に恵まれない季節と
は言え、オールシーズンの山形牛と、旬の最後の寒鱈を中心に仕立てられた品々の味は、さすが高級旅
館の名に恥じないものだった。
ちなみに、さすがに真面目な環は泡の出るジュースや米ジュースは頼んでいないようである。
PM8:30 金山温泉 不二屋
「ねえ、タマ姉。また温泉なの??」
環に連れられて廊下を歩きながら、タオルを頭に載せた貴明が尋ねた。
すると、環は『くあっ!』と貴明の間近に顔を寄せると、人差し指を突き付けながらこう言い返して
きた。……なんだか目が座っているのは気のせいだろうか??
「温泉に来たらまずお風呂! ご飯を食べたらお風呂! 寝る前にお風呂! 起きたらお風呂! これ
が掟よっ! この旅館には温泉が5つあるの。入り倒さないで帰れるわけがないでしょう??」
15:名無しさんだよもん
08/02/22 02:16:57 qvb1ALZ70
仕組みわからんのだけど支援?
16:『姉ちゃんといこう!?』13/15
08/02/22 02:18:22 y1yweLaz0
「お、掟なんだ……」
環の言った通りのタイミングで入ると1つ余るよなー、どうするんだろうなー、などと思いつつ、貴
明は苦笑するしかなかった。それにしてもそう馬鹿みたいに大きいとは思えない旅館の何処に5つもの
浴場があるのだろう?男女の区分けはどうなって……などと思っているうちに、どうやら目的地に着い
たらしい。だが何処を見渡しても温泉旅館でお馴染みの『男湯』『女湯』の表示はない。
「入り口一つしかないみたいだけど……俺は何処に行けばいいの??」
「ここに決まってるじゃない。この旅館の温泉は常に予約制で貸し切りなんだから」
何を言っているの?という顔で環が教えてくれた。
そして彼は、また目のやり場に困る至福のひと時(?)を過ごす事になったのだった。
それはさておき、当たりの柔らかい硫黄泉は本当に芯まで温まって気持ちよかった。
環が控えめな態度を崩さなかった事もあり、貴明は再びじっくり湯の良さを堪能する事が出来た。
PM10:00 河野家 リビング
「10時ですね〜〜。環さま、そろそろ貴明さんに迫ってるかもしれませんね〜〜」
「ふ、ふええぇぇぇ〜〜ん、姉さんのイジワルぅ〜〜〜」
その日の夜。河野家では、イルファが妹イジメをしていた。
「え、ええんか? さんちゃん」
「瑠璃ちゃん、心配なん??」
「ウチは……貴明が誰と何したかて……関係あれへんもん……」
ついでに、瑠璃も余波を受けていた。
PM10:00 金山温泉 不二屋
その頃。温泉から帰ってきた貴明はダブルベットの脇で固まっていた。
17:名無しさんだよもん
08/02/22 02:20:28 /CYdpY+Y0
そういやさるさんにもかかってないっぽいね
といいつつ支援
18:『姉ちゃんといこう!?』14/15
08/02/22 02:22:52 y1yweLaz0
「どうしたの? タカ坊。それともまだ眠くならない??」
彼にとって、先ほどまでいつもの慣れ親しんだ『やんちゃなお姉さん』だった事が嘘のように、ベッ
トの上で笑う環にどうしたらいいのかわからなくなっていたからである。
別に何か格好が変わったわけではない。
浴衣は来たままで、少し乱れた白いシーツの上にぺたんと座った姿はむしろ可愛らしいくらいである。
だが長い髪を解き、座ったままで上目遣いに貴明を見つめる彼女は、可愛らしいを通り越して暴力的
に可憐だったのだ。『構って?』と目で訴えるだけの猫の可愛らしさ、アレである。
「……ねえ、貴明……きて?」
どきん。
いつもとは違うその呼び方に、貴明の胸が大きく高鳴った。
うるうると見上げる環の瞳から、濡れた唇から、目を離す事が出来ない。
「タマ……姉……」
「そろそろ、たまき、って呼んで欲しいな……」
「たま……き……」
「うん、貴明……」
◇ ◇ ◇ ◇
PM15:30 東北自動車道 川口JCT付近
「ねえ、貴明」
「なに? たま……姉」
どうやら貴明の方はまだ普通に『環』とは呼べないらしい。
もっとも環も、あえて訂正しようとはしなかった。ただくすり、と悪戯っぽく笑っただけである。
19:『姉ちゃんといこう!?』15/15
08/02/22 02:26:55 y1yweLaz0
「温泉、2つ入りそびれたわね」
「あ、あー、そうだったね……」
環のその言葉に貴明は苦笑した。彼が当初から気が付いていた事だが、がんばっても1泊で5つの温
泉風呂を回るのはちょっと辛いのである。まして金山温泉の湯は『温まり湯』なので、非常に冬向きで
はあるのだが、連続で入れば確実にのぼせてしまうのだ。
「ねえ、貴明」
「……な、なに?? タマ姉」
また一緒に行こうね、という言葉が続く事を予想した貴明だったが、環が次に口にしたのは全く違う
言葉だった。
「珊瑚ちゃんに聞いたんだけど……来栖大学を目指すんだって??」
「え゛?? まぁ、そうはっきり決めたわけじゃないんだけど……なんとなくそうなりそうな……」
しどろもどろに言う貴明に対して環はにやりと笑うとこう告げた。
「私、来栖大学も受かったから。来年はまた同じ学校ね♪」
「う゛ぇ゛?? ……そ、それは、楽しみだなぁ〜〜……」
なんとなくそうなりそう、どころではない。
確信した。これは絶対に合格しなければ、来年以降の人生はない。
九条院大学を受けさせられるよりはマシかもしれないが、珊瑚やイルファや環が代わる代わるやって
きて大変な事になるであろう来年度を思うと、貴明は世を儚みたくなるのであった。
「来年、貴明の卒業旅行で入りに行こうね、温泉」
なるほど、そう来るのね……と、貴明は大きな溜め息をつきながら納得した。
そして、玄関の前で仁王立ちになっているであろうもうひとりの赤毛の少女の怒りを思うと、想像だ
けで100回は気絶出来そうな不安を覚えるのであった。
……無論、彼の不安はフルコースで的中する事になる。合掌。
〜〜終〜〜
20:『姉ちゃんといこう!?』の中の人
08/02/22 02:37:21 y1yweLaz0
こんばんは。支援、ありがとうございました。
スレ立てをして引き続き投下したのでさるさんが不安だったのですが……ひっかからなかったですねぇ。
とりあえず全部晒せて一安心です。
本作は前スレ>>694の「旅行物」に触発されて書いたものです。
一応、鍋も出してみましたw ホント、一応ですけどね。
まぁ、これも勢い任せなので色々アレな面はありますが、気にしないでやって下さい。
なお、本作に登場する地名などは架空のものですw
聞き覚えのある名前がある?きっと気のせいですよ。
特に金山温泉とか不二屋などはありませんから。
銀山温泉や藤屋さんを参考にしてる、なんて事はありませんから、そこんとこよろしく。
それにしても……ToHeart2の舞台ってどこらなんですかね??
一応今回は神奈川(仮名)あたりをイメージしたのですが……。
21:名無しさんだよもん
08/02/22 02:42:55 iyQ2JQAK0
おもしろかったでーす
リアルタイムで読ませていただきました^^
作者さんに質問なんですけど
このお話って全部書くまでにどれくらい時間かかりましたか??
よろしければおしえてください><
22:名無しさんだよもん
08/02/22 02:53:33 /CYdpY+Y0
乙
カレーの人だよね
相変わらずミルファが活き活きしていて良いが
今回はタマ姉も良いなw
そして描写も一段と良くなっている
テンポ良くさくさく読める文体と構成で好感が持てました
ところで、タマ姉とタカ坊は夜何があったのでせうか…気になるわ…
23:名無しさんだよもん
08/02/22 06:18:01 Zk12Z6lE0
乙〜。さるさん解除ならいいんだけど
文章うまいね。春夏もライバルなのはやっぱりカレー対決の影響かw
東北自動車道は(もうちょい北だけど)仕事でしょっちゅう走ってるのでなんか親近感が湧いた
タマ姉と温泉な話もいいんだけど、これってこれで完結? だとするとメイドロボチームの役割が弱いよーな
ここまで彼女らを書いたなら、いっそ皆で温泉に押しかけてくる展開(もしくはオチ)のが自然な気がしなくもなかった
24:名無しさんだよもん
08/02/22 07:21:38 /LOHa0Wr0
ミルファにとって、取るに足らないライバルって誰でしょうかね?
最強=このみ+春夏
最凶=タマ姉
最悪=イルファ&シルファ
最弱=???
愛佳?
25:郁乃専属メイド
08/02/22 08:14:39 6dL+hN/HO
初投下してみます。
何故か書き禁くらってるので携帯からですがorz
------------------------
修学旅行当日の朝。
姉を迎えに来た貴明の顔を朝から見て
不愉快な気分にこそならなかったものの、
しどろもどろに説明する二人に若干の苛立ちを覚える。
愛佳「それじゃあ郁乃、そろそろ行ってくるね」
郁乃「行くのはいいけどこのロボなんとかしてから行ってよね」
話は数分前に遡る。
今日から姉の学年は修学旅行。それ自体に何の問題もない。
両親も仕事の都合で泊りがけの出張になったのは計算外だった。
通学できるまでには回復した私だけど、まだまだ生活に不自由を感じる場面は多々ある。
でも、このみや姫百合姉妹といった友達もいるし、なんとかなるだろう。
たまには家族の目を離れ、一人暮らし気分を満喫しよう。そんな事を考えていた。
でもその密かな目論見は過保護な姉とその彼氏によって、
ものの見事に打ち砕かれた。
貴明「まぁそう言わないで。ほら、シルファさんにも失礼だろう?」
郁乃「保護者面しないで。誰が頼んだのよ」
26:郁乃専属メイド
08/02/22 08:16:43 6dL+hN/HO
お節介な姉とその彼氏は知り合いのメイドロボがいるらしく、
私の世話をシルファさんとやらにお願いしたらしい。
生活に不自由を感じるとはいえ、自立歩行が出来るようになった今の私に
そう過剰になるほどまでに必要とは思えない。
愛佳「でも、ただ学校行くだけじゃないのよ?料理だってしないといけないし…」
郁乃「あのね、世の中には便利なコンビニってものもあるのよ」
愛佳「そ、そうだけど…ずっとコンビニ弁当なんて食べてたら体に悪いよぉ」
郁乃「バッカじゃないの?一週間やそこらですぐ不健康になってたら世の中成り立ってないわよ」
出発直前にいきなりそんな話されても、こっちだって心の準備とかあるのに。
大体何よ、貴明の物陰に隠れて挨拶すらしようとしない。
メイドロボってこんな無礼なものなのかしら。最新型のクセに。
貴明「愛佳、そろそろ時間」
愛佳「あ、そ、そうだね。話の途中だけど…それじゃあ郁乃、そろそろ行ってくるね」
郁乃「行くのはいいけどこのロボなんとかしてから行ってよね」
貴明「郁乃ちゃん、いい加減に…」
シルファ「た、貴明様。いいんです、私お母さんの所に戻ります」
貴明「…どうしてもダメそうなら連絡頂戴。珊瑚ちゃんに連絡取るから」
郁乃「この後に及んでまだ…」
愛佳「お願い郁乃。お姉ちゃん達心配なのよぉ」
27:郁乃専属メイド
08/02/22 08:20:04 6dL+hN/HO
心配してくれる気持ちは嬉しいけど、
このままでは本当に遅刻するまでここで問答を続けるだろう、この姉は。
郁乃「もう、わかったわよ。でも気に入らなかったらすぐ追い返すからね」
私の言葉に安心したのか、二人は慌てて家を出て行った。
とは言ったもののこのロボは一体何ができるのだろう。
モジモジ貴明の後ろに隠れてたかと思えば、すぐ諦めのセリフを吐き、
貴明が去った後も部屋の隅っこの方でじーっと突っ立ってるし。
何がしたいのか甚だ疑問だわ。
まぁ姉の顔を立てて一応名前ぐらいは聞いてみよう。
郁乃「アンタ、名前は?」
シルファ「HMX−17C、シルファと言います…」
私の言葉に反応して名前はわかった。
でもその後も一向に動こうとしない。何なのだろう。
これは今日にでも珊瑚に電話する事になるかもね。
一抹の不安を抱えつつも私は学校へ向かうべく、家を後にした。
------------------------
とりあえずここまでですが、普通は完成してから投下するものでしょうか?
28:名無しさんだよもん
08/02/22 11:54:59 q5JvIIsUO
>>27
乙です。
いくのんとシルファ、美味しい組み合わせだしなかなか楽しみではあるけれど……
シルファの口調と時系列に若干無理があるのはやはり気になりますね。
まあ、でもそこらは自由ですから、このままがんばっていただけたらと思います。
あと、別に完成してからでなきゃいかんというコトはないと思います。
長い場合はキリのいい場所で「つづく」にするのは問題ないんじゃないですか?
29:名無しさんだよもん
08/02/22 12:00:52 q5JvIIsUO
>>21
構想10分
下調べ(高速道路の所要時間とか)1時間
執筆は……1日4時間くらい使って4日間くらいかな?
20時間はかかってないと思いますよ〜。
30:名無しさんだよもん
08/02/22 20:55:11 L3LmYf7W0
>27
乙。この組み合わせはアイディアだな。っつーか先の予測ができんw
完成しないで投下するのは全然おkだが、完成せずに放置される作品は無数にあるからそうならんように頑張れ
31:郁乃専属メイドの中の人
08/02/22 23:14:15 6dL+hN/HO
ご指摘ありがとうございます!
まず時系列に関してはすっかり忘れてましたorz
でもこのまま行こうと思います。
シルファの口調は少し他の方のSSを見て修正しようと思ってます。
一応プロットは出来てるので、最後まで頑張りたいと思ってますが
遅筆なのはご容赦願いたいです…orz
今日は50時間ぐらい起きて仕事してるので
投下出来るかわかりませんが、明日はまったり投下して行きたいです。
32:名無しさんだよもん
08/02/22 23:24:19 cwDd0ZI70
>>27
この予測できない展開と組み合わせが、自分の感性を刺激していい感じ^^
33:名無しさんだよもん
08/02/23 00:04:15 VqC0bQ2v0
>>31
乙です。携帯からで忘れてるだけかもしれないが、一応sageとこうか。
あと作品の前書き、後書きは作中のレスに組み込まないほうが良い。
それと、「」前の名前はわりと嫌う人が多いみたいなので使わない方が無難かな。
ともあれ、初投下なのにちゃんとした文書けてるし発想も悪くないと思います。
続き期待してますね。がんがれ
34:郁乃専属メイドの中の人
08/02/23 00:48:06 T9cI69JEO
>>33
書き込み自体久しぶりなものでsageの存在を忘れてました。
気をつけます。
色々とアドバイス、ご指摘ありがとうございます。
確かに「」の前に名前が入ってる小説なんてありませんし、
文章の途中に前後書きが入ると読みづらいorz
勉強になりました。
今後に生かしていきたいと思います。
では力尽きそうなので、2レスだけ投下して今日は寝ます!
35:郁乃専属メイド
08/02/23 00:50:36 T9cI69JEO
玄関先で靴を履き、家を出る前にある事に気づいた。
家の鍵…どうしようかな。
私の後ろ、少し離れた位置に姿勢を正して立っているシルファに声をかける。
「アンタ、今日初めて会うけど家の鍵任せて大丈夫なの?」
私の問いかけに少し寂しげな表情を浮かべつつも、コクリと頷くシルファ。
まったく…。話せる口が付いてるんだから返事ぐらいしたらいいのに。
会った初日の見ず知らずとはいえ、人間じゃないシルファに鍵を預ける事にした。
最新型のメイドロボが悪事を働くとは思えない、それが理由だった。
「じゃあ鍵は預けて行くけど、変な事するんじゃないわよ」
またも頷いて返事を返すシルファにため息をつき、玄関のドアをくぐる。
「あ…」
外へ向かう私の背中に、微かな声がかかったような気もしたが
気づかないフリをしてドアを閉める。
36:郁乃専属メイド
08/02/23 00:53:24 T9cI69JEO
学校へ向かうこの通学路も、以前は姉に車椅子を押してもらい
私はただぼんやりと空を眺めていただけだった。
でもそれは少し前の話。今は自分の足で歩き、学校を目指して歩いている。
車椅子に乗っている時しか気づかなかったような事ももちろんあるが、
自分の力で歩く事によって気づく事もたくさんある。
まず、当たり前の事だけど周囲に気を遣うようになった。
交通事故に遭わないため、などもあるけど
私と同じく学校へ向かう子供や、朝の散歩をしているおばあちゃん。
どんな気持ちで同じ道を歩くのか。
そんな些細な事が気になったりもしたけど、実際私の知るところじゃない。
それと同じように、今朝会ったばかりのメイドロボが何を考えてるのか。
今日はそれだけを考えながら歩いていたら、気づけば学校の校門をくぐっていた。
いつもは新しい発見がたくさんある通学路も
メイドロボの事を考えるあまり、知らない間に通り過ぎてしまった。
「勿体ない事したなぁ…もう考えるのはやめよっと」
誰にともなく零し、頭の中にあるシルファの寂しげな顔を振り払う。
そんな事より、今は目の前にある最大の難関。
階段という大きな壁が待っているのだ。余計な事に力を使ってられない。
37:名無しさんだよもん
08/02/23 01:19:17 XP6OZMA70
>>34
>確かに「」の前に名前が入ってる小説なんてありませんし、
実はそうでもなかったりする
38:名無しさんだよもん
08/02/23 04:18:35 IqcXC8xg0
>>37
脚本風にするとか、演出の一つとしてはありだと思うけどやっぱ違和感あるような。
好みと言えばそれまでだがね。
39:名無しさんだよもん
08/02/23 12:21:32 GL79JljS0
>34
乙乙。なんだか展開が楽しみだ
1回の投下の現レス数/最大レス数と、連載なら通番はタイトルの後ろに入れた方が見やすいよ
例えば>25なら「郁乃専属メイド(1) 1/3」、>36なら「郁乃専属メイド(2) 2/2」みたいな感じで
台詞の頭に名前を入れる入れないや、段落の頭を1文字下げるかどうかは、
まあ文体やレイアウトと相談で好きなように、他のSSを参考にしてみたらいいんじゃないかな
とか、ずらずら書いたけど携帯からじゃ厳しいだろから無理しないでね。アク禁解除を祈る
40:郁乃専属メイドの中の人
08/02/23 13:51:14 T9cI69JEO
おはようございます
今書いてますが、もうすぐ携帯のソフトウェア更新が始まるらしく
投下は遅い時間になりそうです。
>>37
そうなんですか!?知らなかったorz
>>39
確かにその方がわかりやすいですね!
さっそく実践してみます。インデントに関しては、PCだと横書きなせいか
入れると違和感があるのでこのままいきます。
アドバイスありがとうございます。
41:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 1/15
08/02/23 14:07:33 nyBe6Wgl0
「少し風邪気味かもしれないけど、疲れたんじゃないかしらね」
簡単な診察をして、保健医はそう言った。
「熱さえ下がれば問題ないと思うから、少し様子を見てあげて」
「はい」
カスミの噂を知っていても、彼女にはそう言うしかなかったろうが、薫子はしっかりと頷く。
浴室から洗面器に水を汲み、フェイスタオルを濡らしてカスミの額に当てた。
ゥ…。
診察の間もぼんやりとしていた黒髪の少女は、その冷たさに意識を戻したよう。
ちらと薫子に視線を向け、
ムッ……。
弱々しい手つきでタオルを、薫子の手を払う。
「何もしませんよ」
嫌われたものだと、しかし今の薫子には苦笑する余裕があった。
相手の抵抗を受け流しながら、タオルを洗い直して再び額に当てる。
何度か押し合いがあった後、観念したのか体力が尽きたのか、カスミは大人しくなった。
スゥ、スゥ……。
やがて、カスミは寝息を立て始める。
薫子はちょっとホッとしながら、変わらずにタオル替えを続ける。
ンゥ……。
患者の寝顔は、あまり安らかそうではない。
(慣れない学園生活で、いきなりこれでは疲れますよね……。)
半分は自業自得としても、薫子はカスミに同情した。
(何故、そんなに周囲を拒絶するの。)
苦しそうに汗で額に張り付いた髪を払うと、ついそのまま髪を撫でる。
「お……様……」
「え?」
「……ねえ……様……どう……して……」
呟かれた独り言に薫子は耳を傾けたが、そのままカスミは眠りに落ちていった。
42:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 2/15
08/02/23 14:09:28 nyBe6Wgl0
お姉様、どうして死んじゃったの。
朦朧とした意識の中で、カスミは姉の夢を見ていた。
「凄いわね、カスミは、もうこんな計算ができるの?」
優しくて凛々しくて、いつも自信に満ちあふれた姉は、カスミの自慢だった。
姉も歳の離れた妹に愛情を注いでいて、その限りで二人は対等だった。
対等でなかったのは、両親からの扱われ方。
「お前は本当に優しい良い娘だねえ。私の誇りだよ」
父は、姉を溺愛した。
「それに引き替え、この子ときたら、喋る事もロクにできやしない」
対照的に、カスミには冷酷だった。
「でも、お父様、カスミはとても頭の良い子です。ほら、もうこんな問題が」
「お前がやってあげたんだろう、本当に、優しいねえ」
姉が妹を庇うほど、父親は姉の評価を高め、
「全くお前はまたそんなむくれた顔をして、恥ずかしいと思わないのか!」
妹に対しては、なお理不尽に辛く当たった。
カスミは、不平は漏らさなかった。理由を知っていたから。
自分は、父親の子供ではない。
本当の父は判らない。父親の事業がうまくいかなかった時期に、母親が浮気した相手の一人としか。
だから、今は父に媚びている母にとっても、カスミの存在は負い目になっていて。
「お前なんか、居なければ居ない方が良かったのに」
父も姉もいない時に、何度そんな愚痴を聞かされたことだろうか。
姉さえ居れば、それでいい。両親から聞かされ続けたその類の言葉には、でも、カスミ自身も同意見。
お父様もお母様も、友達も自分にはいらない。お姉様さえ、側に居てくれれば、それでいい。
なのに。
お姉様、どうして死んじゃったの……。
43:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 3/15
08/02/23 14:11:24 nyBe6Wgl0
やや季節外れのセラミックヒーターなど持ち出して部屋を暖めたせいもあって、
洗面器の水がだいぶぬるくなってきたから、薫子は一度部屋を出た。
(うどんでも作ってあげようかな)
そんな事を考えながら炊事場で水を入れ替え、部屋に戻ろうとして、
「あら、薫子さん。丁度よかった」
扉の前で、声を掛けられた。
「こんばんは、どうされました?」
薫子が振り向くと、昼間図書館で会った先輩達。
あの時から更に2名ほど取り巻きが加わって、都合5人。
「看病大変そうね」
「別に……何かご用でしたでしょうか?」
「貴方じゃなくて、カスミさんにお話があるの。部屋に入れてくださらない?」
薫子は、眉をひそめる。
「彼女は今、具合が悪いので……」
言葉の途中で、既に相手がそれに気が付いていることに気づく。
「先生から聞いてるわよ。あの子なら、多少調子が悪い方が大人しいでしょ」
「話もし易いってもんだわ」
病人を多数で取り囲んで、どんな話をするつもりなのか。
「ご用件なら、伺っておきますけれど?」
「いいから黙って開けなさいよ」
のらっとした薫子の言葉に、別な生徒がイラついた口調で迫った。
「それともなに、やっぱりあの子の肩を持つわけ?」
「ふーん、そういう感じなんだあ」
複数の口から、嫌みったらしい言葉が飛んでくる。
そんな事はない、反射的にそう誤魔化しかけて、薫子は口をつぐむ。
いつの間にか、彼女は背中にドアを背負っていた。
44:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 4/15
08/02/23 14:13:00 nyBe6Wgl0
姉が交通事故で世を去ってから、カスミの扱いは更に酷くなった。
「お前が代わりに死ねば良かったのに」
そんな言葉、できるなら、一番そうしたかったのはカスミ自身だったのに。
ただ、姉が死んで間もなく、妹の頭脳が並はずれて優秀であることに、父親が気づいた。
「ふん、お前でも少しは役に立つか」
それで、カスミは九条院に送り込まれた。父の、コネクションづくりの為に。
(コンナトコロ、キタクナカッタ……。)
誰ともうまく行かないのは、中学校でも同じだった。
違うのは、全寮制の九条院では、自分の部屋でも一人になれないことくらい。
だから追い出した。嫌われたのか、嫌わせたのか、そんなのはどうでもいい事。
代わりにやって来た子は、少し変だった。
嫌がらせしても平気な顔で、かえって自分に寄ってくる。
後から来たもう一人は、その子を追ってきたみたい。仲がいい。
休日、向こうから声を掛けてきた。
図書館に案内してくれた、本を借りてくれた。優しく、してくれた。
「居なければ、居ない方が」
いいんです。
別に関係ない。気にしない。耳が飽きるほど聞いた言葉。
(ウルサイ……。)
扉の向こうが騒がしくなって、カスミは朦朧とした意識をぼんやりと取り戻した。
昼間も聞いた声。今のルームメイトと、前のルームメイトの声はなんとなく聞き分けられる。
「ご用件なら、伺って……」
「いいから……開けなさい……」
入ってくるのだろうか。カスミはのろのろと起きあがった。ポケットを確かめる。
はらっと額からタオルが落ちた。ずっと看病してくれていたのは……
45:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 5/15
08/02/23 14:15:06 nyBe6Wgl0
「なによその目つき。反抗する気?」
上級生がムッとした声を出す。薫子は黙っていた。
「なんとか言いなさい。いつもの減らず口はどうしたのよ」
「待ちなさい」
激昂しかかった娘を止めたのは、派閥の領袖である元部屋の主。
「ねえ、薫子さん」
ゼロ歩の距離に近づいて、耳元に顔を寄せてくる。
「部屋に入れないということは、私たちが病人相手に騒ぐようなならず者とお考えなのかしら?」
考えているから、答えようがない質問。
「私は、貴方のご趣味に口を出す気はありませんけれど」
ご趣味という部分に、ネチっとしたアクセントがある。
玲於奈と薫子の仲を揶揄する噂は、中等部の頃からあった。
「二兎を追う者は一兎をも得ず、って知ってらっしゃるわよねえ?」
従わないなら玲於奈も只では済まないぞ、と。
薫子は迷った。
最後通牒を突きつけられて、今なら引き返せる。
目の前の連中とはだいぶ関係が悪化したが、元から良好でもないし、最低限の復旧は可能だろう。
カスミの事は、カスミに任せればいい。九条を去るのも自由だし、案外、しぶとく生き残るかも知れない。
ただ、そこに薫子はいないだけ。
(……ごめん、玲於奈。)
自分が損得勘定の上手い方だとは、玲於奈を親友と定めた時点で思っていないが、
それにしても高等部に入るまでの努力を水の泡にするような行動は。
「あの子は体調が悪いので、今はお取り次ぎできません」
自分の頑なな声を、薫子は久しぶりに聞いたように思う。
目の前で、三年生の顔が歪んだ。
46:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 6/15
08/02/23 14:16:43 nyBe6Wgl0
「ふうん、そう」
薄皮一枚、剥がれたような声色。
お腹の前で抱えていた洗面器に、先輩の手がかかる。
「舐めてんじゃねえよっ!」
びしゃり。
洗面器が跳ね上げられて、顔面に冷水が浴びせられる。
そして、ぼやけた視界が戻るより先に、腹部に衝撃が来た。
「ぐっ!」
膝蹴りされて、身体をくの字に折り曲げる薫子。その途中で、横から髪を掴まれる。
ぐいと顔を引き上げられた眼に映る、彼女を取り囲む悪意に満ちた表情達。
「へっ、いい気になんじゃないわ!」
足を払われた。倒れ込む。掴まれたままの髪が、何十本か抜ける鮮痛。
「なに勘違いしてんのかしらこのコウモリ娘」
頭を抱えてうずくまる薫子の、腰に蹴りが入る。
そのジャージの腰に、複数の手が掛かった。
「アンタは素直に私たちに尻尾振ってりゃいいのよ!」
ズボンを引っ張り上げられて、白い下着と、腰から太股までの肌色が露出する。
ちりん、とそこから小さな金属品が落ちた。
「あっ」
薫子はそれ−部屋の鍵−に手を伸ばしたが、その手は踏みつけられた。
「痛ぅっ!」
「最初から素直に渡しときゃあいいのに」
カスミの元同室が鍵を拾って、薫子をひとつ蹴って、扉に差し込もうとする。
ガチャリ。
が、その前にドアノブが回る音がした。
「え? きゃっ!」
急にドアが内側に開いて、目標を失った一年生がたたらを踏む。
その娘を突き飛ばして、黒い影が部屋から飛び出した。
47:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 7/15
08/02/23 14:18:16 nyBe6Wgl0
「か、カスミっ、さん?」
黒く見えたのは、カスミの髪の色だったらしい。
寡黙な少女は頭から、薫子を取り囲む女子の列に突っ込んだ。
「うわっ、なに?」
勢いに驚いて、離れる包囲の輪。
ちゃりん。薫子の鍵が、一年生の手から再び床に落ちる。
「カスミさんっ!」
一瞬早く我に還った薫子が、鍵を拾い、黒髪の少女を抱えるように引き戻し、自分たちの部屋に逃げ込んでドアを閉めようと。
「なにすんだてめぇっ!」
だが、包囲網の一人が身体をドアに挟んだ。
ばぁんと、あっという間に扉は押し開けられて、なだれ込んでくる生徒達。
多勢に無勢で抵抗のしようもなく、薫子とカスミは床に転がった。
「やっぱりつるんでだんだねアンタら」
「つるんでたなんて言い方が悪いですわ、愛でしょ愛」
「あはは、気色悪ぅ〜」
嘲笑されても、カスミの表情はさほど変わらない。が、
「なにこの写真、前の恋人ぉ?」
カスミの机の上の写真立てを取り上げた二年生に、少女の目が燃えた。
床から跳ね起きて目標に向かう、その手がパジャマのポケットに、
「それは駄目っ!」
彼女の手に握られているものを、薫子は知っている。飛びついて押さえ込む。
「なに抱き合ってんだよっ!」
笑い声とともに、足が飛んでくる。頭を蹴られて視界が震える。踏みつけられて肺が潰れる。
半分朦朧とした意識のなか、薫子は床に投げつけられた写真立てを庇う。
その眼前に、見慣れた自校の上履きが迫る。
「しばらく表に出られない顔にしてあげる!」
目を閉じた。だが、予想した衝撃はやってこなかった。
48:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 8/15
08/02/23 14:19:44 nyBe6Wgl0
「うぎゃぐっ!」
代わりに、頭上からカエルが潰れるような悲鳴。
急に、静まりかえった空気。
「……?」
ぼうっと顔を水平まで上げると、目に映る二組の足。
うち、一組が宙に浮いている。
そして、倒れ込んだままの薫子とカスミの頭上から、
「何を、やってらっしゃるのかしら?」
場にそぐわない、涼やかな声が舞い降りてきた。
「うっ、ぐっ、あ、アンタはっ!?」
女子生徒の狼狽した声。薫子は、痛みをこらえて身を起こす。
目の前に、彼女を蹴ろうとした先輩がいる。頭が随分高い位置にあって、地に足がついていない。
簡単に言うと、首根っこをつかんで吊り上げられている。
そして、吊り上げているのは、同じ九条院の、制服姿の少女。
「喧嘩なさるのはご自由ですけど、五人で二人を寄ってたかってというのは、いささか趣味が悪くありませんこと?」
学年章は二年生。にこやかな笑みを浮かべた彼女は、驚くべきことに片手で相手を持ち上げていた。
「て、てめえには関係なっ」
ぶんっ。
人間が宙を飛ぶ姿というものを、薫子は初めて目の当たりにした。
投げ飛ばされた女生徒の身体は、投げ手に飛びかかろうとした少女を巻き込んで、開け放しの入口を通って廊下まで吹っ飛んだ。
残る三人の顔が蒼白になる。二人は逃げ腰に後ずさる。
「じ、上級生に手を出して、覚えてなさぐっ!」
残り一人、派閥のボスは震える声で捨てぜりふを吐こうとしたが、一瞬で首を掴んで引き寄せられる。
「覚えて欲しければ、覚えてあげてもよろしいですけれど?」
「っ、ぐっ、あ……ぅ……」
容赦なく吊り上げられた、見慣れた先輩の顔が見慣れない紫色に染まっていくのを、薫子は呆然と見つめた。
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